(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127235
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20240912BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240912BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20240912BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240912BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240912BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20240912BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P1/02
A61K8/35
A61Q11/00
A61K8/9789
A61K31/122
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036244
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】青木 美紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敦子
(72)【発明者】
【氏名】山田 良一
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC211
4C083AC212
4C083CC41
4C083EE32
4C083EE33
4C083EE34
4C083EE36
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4C206AA01
4C206AA02
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4C206MA01
4C206MA04
4C206MA77
4C206NA14
4C206ZA67
4C206ZB35
(57)【要約】
【課題】本発明は、歯周病菌やう蝕関連菌の増殖を抑制するのに有効であり、特有の臭気や異味が低減されたホップ抽出物含む口腔ケア用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を含む、口腔ケア用組成物。
【請求項2】
前記ホップ抽出物が、超臨界CO2抽出物である、請求項1に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項3】
前記ホップ抽出物を、β酸の量にして1ppm以上含む、請求項1又は2に記載の口腔ケア用組成物。
【請求項4】
歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖を抑制するために用いられる、請求項1又は2に記載の口腔ケア用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β酸を比較的高い割合で含むホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、う蝕(虫歯)や歯周病及び口臭等の口腔内の悩みを抱える人々が増加している。また、歯周病が慢性化することで歯周病菌を原因とした呼吸器疾患、心疾患、糖尿病、早産等といった感染症を引き起こすことが明らかになってきており、日常的な口腔ケアへの意識が高まりつつある。口腔ケア製品には、グルコン酸クロルヘキシジンなど化学物質を抗菌成分として含有する洗口液等が市販されている。しかし、グルコン酸クロルヘキシジンは高い抗菌性を有することが知られている一方で、長期間使用することで口腔粘膜への好ましくない副作用および歯と舌の変色が認められたとする研究結果もある(非特許文献1)。そこで、日常的な使用においても人体にとって安全であり、且つ、効果的な口腔ケア用抗菌剤の探索が課題となっている。
【0003】
そのため、ビール等の製造に従来用いられており、食経験があり安全性の高い、ホップの抽出物を有効成分とする口腔ケア用抗菌剤が開発・報告されている。
【0004】
非特許文献2には、ホップの超臨界二酸化炭素抽出物による歯周病菌やう蝕関連菌に対する増殖抑制効果が示されており、当該抽出物には主成分であるα酸と共にβ酸が含まれることが示されている(α酸の割合が46.9、又は55.2(w/w)であり、β酸の割合が22.9、又は18.3(w/w))。
【0005】
特許文献1には、ホップの水及び有機溶媒を用いた抽出物による歯周病菌やう蝕関連菌に対する増殖抑制効果が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Scandinavian Journal of Dental Research (1971), 79(2), 119-25, "Side effects of chlorhexidine mouth washes"
【非特許文献2】Fitoterapia (2015), 105, 260-268, "In vitro growth-inhibitory effect of ethanol GRAS plant and supercritical CO2 hop extracts on planktonic cultures of oral pathogenic microorganisms"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ホップ抽出物は特有の臭気や、苦味やえぐ味等の異味を有することから、ホップ抽出物を配合した製品からは同様の臭気や異味が感じられる場合があり、その使用は制限を余儀なくされていた。
【0009】
そこで本発明は、歯周病菌やう蝕関連菌の増殖を抑制するのに有効であり、特有の臭気や異味が低減されたホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ホップ抽出物に含まれるβ酸の割合を高めることによって、臭気や異味を低減できると共に、歯周病菌やう蝕関連菌の増殖を抑制するのに有効であることを見出した。ホップ抽出物に含まれるβ酸が、歯周病菌やう蝕関連菌の増殖抑制に有効であることは、従来知られていなかった。
【0011】
本発明は、このような新規知見に基づいて達成されたものであり、以下の発明を包含する。
[1] β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を含む、口腔ケア用組成物。
[2] 前記ホップ抽出物が、超臨界CO2抽出物である、[1]の口腔ケア用組成物。
[3] 前記ホップ抽出物を、β酸の量にして1ppm以上含む、[1]又は[2]の口腔ケア用組成物。
[4] 歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖を抑制するために用いられる、[1]~[3]のいずれかの口腔ケア用組成物。
【0012】
[5] 口腔内における歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖を抑制するための方法であって、β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を口腔内に適用することを含む、方法。
[6] 前記ホップ抽出物が、超臨界CO2抽出物である、[5]の方法。
[7] 前記ホップ抽出物を、β酸の量にして1ppm以上の量で適用する、[5]又は[6]の方法。
[8] 前記ホップ抽出物が、口腔ケア用組成物の形態を有する、[5]~[7]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯周病菌やう蝕関連菌の増殖を抑制するのに有効であり、特有の臭気や異味が低減されたホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を含む口腔ケア用組成物に関する。
【0015】
本発明において「β酸」とは、ルプロン、コルプロン、アドルプロン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される一又は複数の化合物を意味する。「誘導体」としては、異性化形態、異性化/還元形態、水素添加形態、異性化/水素添加形態、酸化形態、塩形態等が挙げられ、具体的には、ヘキサヒドロルプロン、ヘキサヒドロコルプロン、ヘキサヒドロアドルプロン、テトラヒドロルプロン、テトラヒドロアドルプロン、テトラヒドロコルプロンヘキサヒドロルプロン、ヘキサヒドロコルプロン、ヘキサヒドロアドルプロン、フルポン等が挙げられる。
【0016】
本発明において「ホップ抽出物」とは、ホップ(Humulus lupulus;品種は特に限定されない)の雌株に生じる「毬花」の抽出物であり、前記β酸を30質量%以上の量で含むものである限り、如何なる方法で調製されたものであっても良い。一般的には、前記毬花を乾燥した後、裁断、粉砕、又は粉末化して調製したものを抽出溶媒と合わせて抽出することにより行うことができる。「抽出溶媒」としては、超臨界もしくは液体の二酸化炭素、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,3,5-ペンタントリオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、フェノール、トルエン、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、アンモニア等を用いることができる(これらに限定はされない)。抽出溶媒は、いずれか単独で用いてもよいし、異なる抽出溶媒を組み合わせて用いてもよい。「抽出方法」としては、浸軟、浸出、再浸出、対向流抽出、タービン抽出、二酸化炭素超臨界(温度/圧力)抽出等の方法を用いて行うことができる。
【0017】
好ましくは、本発明におけるホップ抽出物は、抽出溶媒として超臨界もしくは液体の二酸化炭素を用いた二酸化炭素超臨界(温度/圧力)抽出により得られた超臨界二酸化炭素(CO2)抽出物である。超臨界もしくは液体の二酸化炭素を用いた抽出法によれば、複雑、煩雑、及び/又は長時間の操作を要することなく、β酸を30質量%以上の量で含むホップ抽出物を簡便な操作で、効率的に得ることができる。また、本抽出方法によれば、抽出溶媒として有機溶媒、酸、アルカリ等を使用することがないため、それらのホップ抽出物への残留や、用いた抽出溶媒に基づく臭気や異味の発生を回避することができる。また、本抽出方法によれば、水、有機溶媒、酸、アルカリを抽出溶媒として用いた場合に抽出される異味や臭気の原因成分が抽出物に混入するのを回避、又は低減することができ、異味や臭気が抑制、又は消失したホップ抽出物を得ることができる。異味や臭気の原因成分の一つとしてはα酸が挙げられ、本発明におけるホップ抽出物はα酸が、40質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下の量で含み、α酸に起因する異味や臭気の発生を抑制することができる。なお、本発明において「α酸」とは、トリクロサン、フムロン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される一又は複数の化合物を意味する。「誘導体」としては、異性化形態、異性化/還元形態、水素添加形態、異性化/水素添加形態、酸化形態、塩形態等が挙げられ、具体的には、ロイソフムロン、ロイソコフムロン、ロアドフムロン、テトラヒドロイソフムロン、テトラヒドロイソコフムロン、テトラヒドロアドフムロン、ヘキサヒドロイソフムロン、ヘキサヒドロイソコフムロン及びヘキサヒドロアドフムロン等が挙げられる。
【0018】
超臨界もしくは液体の二酸化炭素を用いた抽出法は、それ自体既知の方法であり、その詳細は、特開昭61-1374号公報や特開平6-240288号公報等に記載されており、本発明においてもこれらの方法に基づいて実施することができる。
【0019】
本発明におけるホップ抽出物は、抽出工程後、必要に応じてさらに、精製工程に付しても良い。精製は一般的な手法を用いて行うことができ、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親水性吸着クロマトグラフィー、疎水性吸着クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、配位子交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、濾過等を挙げることができ、いずれか単独で行っても良いし、異なる精製手段を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ホップ抽出物の調製において、抽出工程及び/又は精製工程は複数回繰り返してもよく、複数回繰り返す場合に、それぞれの工程は同一の手法で行って良いし、異なる手法で行っても良い。
【0021】
得られたホップ抽出物は、適当な溶媒に加えて、溶液又は懸濁液の形態としてもよいし、あるいは乾燥手段に付して乾燥体としてもよい。乾燥手段としては、例えば、凍結乾燥、加熱乾燥、風乾、噴霧乾燥、ドラム乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、これらに限定はされない。得られた乾燥体は、必要に応じて、裁断、粉砕、又は粉末化してもよい。
【0022】
本発明におけるホップ抽出物は、β酸を30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上の量で含むことを特徴とする(残部はホップ樹脂やホップ精油である)。なお、本明細書において、ホップ抽出物におけるβ酸の量、及び上記α酸の量は、ホップ抽出物の乾燥重量を100質量%とする当該抽出物における割合の量を示す。本発明におけるホップ抽出物が、β酸を30質量%以上の量で含むことにより、歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖抑制において高い効果を発揮することができ好ましい。また、本発明におけるホップ抽出物が、β酸を30質量%以上の量で含むことにより、当該ホップ抽出物全体の使用量を減じることが可能であり、当該ホップ抽出物に由来する異味、臭気の原因成分の最終製品への持ち込みを減らすことができ、異味、臭気が抑制された最終製品を得ることができ好ましい。
【0023】
なお、ホップ抽出物におけるβ酸及びα酸の量は、高速液体クロマトグラフィーにより定量することができる。
【0024】
本発明におけるホップ抽出物としては、上述のとおり、ホップの毬花より抽出して調製されたものを用いても良いし、あるいは市販品を用いても良い。このような市販品としては、例えば、ステイナー社(S. S. Steiner Inc.)製の臨界二酸化炭素(CO2)抽出物が挙げられる。
【0025】
本発明の口腔ケア用組成物は、上述のホップ抽出物を口腔内の歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖を抑制することが可能な任意の量で含むことができる。例えば、本発明の口腔ケア用組成物は、上述のホップ抽出物を、当該抽出物に含まれるβ酸の量にして(乾燥重量に基づいて)、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、特に好ましくは100ppm以上、最も好ましくは200ppm以上となる量にて含めることができ、その上限は特に限定されないが、例えば、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは600ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは400ppm以下となる量にて含めることができる。本発明の口腔ケア用組成物における前記ホップ抽出物の含有量が、当該抽出物に含まれるβ酸の量にして多いことにより、口腔内の歯周病菌、又はう蝕関連菌に対する増殖抑制の効果を十分に得やすくなる。一方、本発明の口腔ケア用組成物における前記ホップ抽出物の含有量が、当該抽出物に含まれるβ酸の量にして少ないほど、経済性に優れ、またホップ抽出物に由来する異味、臭気を感じ難くなる。
【0026】
本発明の口腔ケア用組成物には、さらにシソ科植物抽出物を含むことが好ましい。シソ科植物としては、例えば、シソ、アオジソ、セージ、タイム、オレガノ、チリメンジソ、ローズマリー(マンネンロウ)等が挙げられ(これらに限定はされない)、好ましくはローズマリー(マンネンロウ)である。本発明において「シソ科植物抽出物」とは、シソ科植物の油溶性抽出物、又は非油溶性抽出物を意味する。本発明において「油溶性抽出物」とは、水に不溶である成分を含む抽出物を意味し、一般的には、抽出溶媒として有機溶剤を用いた抽出法により得ることができる。有機溶剤としては、例えば、ヘキサン(n-ヘキサン、シクロヘキサンなど)、トルエン、ジメチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、酢酸エチル等の無極性溶媒;アセトン等の極性非プロトン性溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等の極性プロトン性溶媒等が挙げられるが、これらに限定はされない。また、本発明において「非油溶性抽出物」とは、水溶性成分を含む抽出物を意味し、一般的には、抽出溶媒として水、又は水と有機溶剤の混合液(例えば、含水エタノール等)を用いた抽出法により得ることができる。含水エタノールとしては含水率40~60質量%のものが好適に使用される。得られたシソ科植物抽出物は、抽出工程後、必要に応じてさらに、精製工程に付しても良い。精製は上記した一般的な手法の一又は複数を用いて行うことができる。シソ科植物抽出物の調製において、抽出工程及び/又は精製工程は複数回繰り返してもよく、複数回繰り返す場合に、それぞれの工程は同一の手法で行って良いし、異なる手法で行っても良い。
【0027】
得られた油溶性抽出物は、適当な溶媒に加えて、溶液又は懸濁液の形態としてもよいし、あるいは乾燥手段に付して乾燥体としてもよい。乾燥は、上記した一般的な乾燥手段を用いて行うことができ、得られた乾燥体は、必要に応じて、裁断、粉砕、又は粉末化してもよい。
【0028】
本発明の口腔ケア用組成物に、シソ科植物抽出物を含めることによって、ホップ抽出物に由来する異味や臭気を抑制することができる。本発明の口腔ケア用組成物がシソ科植物抽出物を含む場合、ホップ抽出物に対して以下の割合(質量比)にて含めることが好ましい。ホップ抽出物:シソ科植物抽出物=通常99:1~1:99、好ましくは99:1~20:80、より好ましくは95:5~50:50、特に好ましくは90:10~70:30。なお、ホップ抽出物とシソ科植物抽出物との質量比は、いずれも乾燥重量に基づく。ホップ抽出物に対して、シソ科植物抽出物の割合が多いと、ホップ抽出物に由来する異味や臭気に対する抑制効果を得やすい。
【0029】
本発明の口腔ケア用組成物には、必要に応じてさらに、口腔ケア用組成物の目的の利用形態(例えば、所定の製品形態)の製造において通常用いられている成分を、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の利用形態に応じた任意の量にて適宜配合することができる。このようなその他の成分としては、例えば、賦形剤・増量剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、懸濁化剤、増粘剤、保存剤、抗菌剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、色素、潤滑剤、可塑剤、溶剤、溶解補助剤、等張化剤、矯味矯臭剤、ビタミン類、香料、界面活性剤、pH調整剤、キレート剤、乳化剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0030】
本発明の口腔ケア用組成物は、目的の利用形態に応じた任意の形態をとることができ、例えば、粉体、顆粒、フレーク、チュアブル錠、シート、フィルムなどの固体、チューイングガム、乳液などの液体、半固体/半液体(ゲル、ゾル、クリーム、ペースト、ムース等)、軟カプセル等の形態が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
本発明の口腔ケア用組成物は、口腔ケア製品として従来公知の一般的な利用形態、例えば、洗口剤、洗口液、マウスウォッシュ、液状歯磨き剤、練り歯磨き剤、粉末状歯磨き剤、ジェル、フィルム、チューインガム、チュアブル錠、タブレット、カプセル剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、スプレー剤、液剤等の形態を含む、医薬品、医薬部外品、飲食品として提供することができる。
【0032】
本発明の口腔ケア用組成物は、対象の口腔内における歯周病菌、又はう蝕関連菌の増殖を抑制するための用途・方法において用いることができる。
【0033】
本発明において「対象」とは、特に限定されるものではなく任意の動物であってよいが、好ましくは哺乳動物であり、例えば、ヒト、家畜動物(ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ、ウサギ、ハムスター、モルモット等)が挙げられるが(これらに限定はされない)、より好ましくはヒトである。
【0034】
本発明において「歯周病菌」とは、一般的に歯周病の原因となる細菌を意味し、例えば、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、タンネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、アクチノミセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)等が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明において「う蝕関連菌」とは、一般的にう蝕(虫歯)の原因となる細菌を意味し、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ラクトバチルス(Lactobacillus)等が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくは、本発明の口腔ケア用組成物は、歯周病菌の増殖を抑制するための用途・方法において用いられる。
【0035】
本発明の口腔ケア用組成物の使用態様は、対象の口腔内に適用されたホップ抽出物が歯周病菌、又はう蝕関連菌と接触できればよく、当該組成物の利用形態(例えば、口腔ケア製品の形態)に応じて、当該形態を有する従来公知の口腔ケア製品と同様に用いることができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0036】
1.ホップ抽出物
本発明において、ホップ抽出物は市販ホップエキス製品を用いてもよく、具体的にはステイナー社の超臨界抽出ホップエキス(商品名:ベータ・アロマ・エクストラクト)を好適に使用でき、これには当該抽出物の乾燥重量に基づいて、β酸が約40~50質量%程度の濃度で含まれる。
【0037】
本実施例においては、この抽出物をさらに精製した後に利用した。精製法は当該抽出物を水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液でβ酸を溶解した後浮遊する油分を除去し、その後、塩酸等で中和して行った。この精製により、当該抽出物のβ酸濃度(当該抽出物の乾燥重量に基づく)を約70質量%程度まで高めることができる。一方、当該抽出物におけるα酸濃度(当該抽出物の乾燥重量に基づく)は約3質量%程度であり、α酸の含有量が少ないことで、異味や臭気が弱く感じられた。
以下の実験では、このようにして得られたβ酸を70質量%程度の量で含むホップ抽出物を用いた。
【0038】
2.歯周病菌及びう蝕関連菌
測定方法はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)(Performance standards for antimicrobial susceptibility testing (CLSI M100, 30th edition, 2020); Methods for antimicrobial susceptibility testing of anaerobic bacteria (CLSI M11, 9th edition, 2018); Methods for dilution antimicrobial susceptibility tests for bacteria that grow aerobically (CLSI M07, 11th edition, 2018))に準じた寒天平板希釈法を採用した。測定検体は滅菌精製水に溶解させ供した。
【0039】
対象菌としてPorphylomonas gingivalis(ATCC No. 33277)、Fusobacterium nucleatum(ATCC No. 25586)、及びActinomyces viscosus(ATCC No.15987 )の嫌気性細菌、ならびに、Streptococcus gordonii(ATCC No.10558)、及びStreptococcus mutans(ATCC No.2517)の好気性細菌を用い、各菌をアネロコロンビアRS血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いて、35℃にて、24時間~5日間、嫌気条件又は好気条件下で前培養した。
【0040】
測定培地:Supplemented Brucella agar(Brucella agar+5%ヒツジ溶血液+5μg/mLヘミン+1μg/mLビタミンK1)に、ホップ抽出物を乾燥重量に基づいて、800、400、200、100、50、25、12.5、6.25、3.13、1.56、0.78、0.39ppmの各種濃度となるように添加した後、嫌気性細菌については、105CFU/spotとなるように接種し、嫌気条件下、36℃で42から48時間培養した。一方、好気性細菌については、104CFU/spotとなるように接種し、好気条件下にて同様に培養した。対照は、測定培地にホップ抽出物が添加されていないこと以外は、同様に操作されたものを用いた。それぞれの培養について、対照において、菌の発育が確認されたところで培養を終了した。
【0041】
培養終了後、各対象菌の発育が認められなかった最小濃度のホップ抽出物に含まれるβ酸の換算量を、最小発育阻止濃度(ppm)として求めた。
【0042】
各対象菌に対する最小発育阻止濃度(ppm)及びそれに対応するホップ抽出物の添加量を、以下の表1に示す。
【0043】
【0044】
以上の結果より、β酸を70質量%程度の量で含むホップ抽出物を作用させることにより、歯周病菌及びう蝕関連菌の増殖を抑制できることが確認された。特に、歯周病菌であるPorphylomonas gingivalisに対する増殖抑制効果は高く、少ない量のホップ抽出物を作用させるだけで効果が得られることが確認された(β酸の最小発育阻止濃度が8.75ppm;ホップ抽出物の添加量が12.5ppm)。
【0045】
β酸を70質量%程度の量で含むホップ抽出物は、従来知られている超臨界CO2抽出ホップ抽出物によるPorphylomonas gingivalisに対する増殖抑制効果よりも高いことを示すことが確認され(非特許文献2(上掲)では、最小発育阻止を生じるホップ抽出物の添加量が32ppmとされる)、β酸がより高く濃縮されたホップ抽出物の有利な特徴の一つを示す。
【0046】
Porphylomonas gingivalisは、歯周炎の組織における絶対量は少ないものの、口腔のフローラを質的に変化させることにより炎症などの免疫の破綻をひき起こすことが示唆されており、歯周病をひき起こすkeystone細菌として重要な役割を果たしていると考えられる(Tomoki Maekawa et al., "Porphyromonas gingivalis manipulates complement and TLR signaling to uncouple bacterial clearance from inflammation and promote dysbiosis" Cell Host Microbe. 2014 Jun 11; 15(6): 768-778.)。β酸がより高く濃縮されたホップ抽出物は、当該菌に対して特に高い効果を有するものであるから、歯周病の予防や処置に特に有効であることが示唆される。