(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127237
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036247
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 彬
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA00
5F057AA52
5F057BA19
5F057BB03
5F057CA14
5F057CA16
5F057DA22
5F057DA31
5F057FA15
(57)【要約】
【課題】ウエーハを損傷させることなく、効率的に面取り部を除去可能であるウエーハの加工方法を提供する。
【解決手段】ウエーハの加工方法は、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBの集光点FPを第一のウエーハ4の裏面4bから第一のウエーハ4の内部に位置づけてレーザー光線LBを第一のウエーハ4に照射して改質層72を形成するとともに、改質層72から伸展し接合層8に沿って外周に延びるクラック74を形成する改質層形成工程と、第一のウエーハ4の裏面4bを研削して薄化する研削工程とを含む。改質層形成工程において、ウエーハ2の外周から内側に向けてウエーハ2の面に対して平行に2以上の改質層72を形成し、接合層8に沿ってクラック74を外周に向けて8接合層8に伸展させ面取り部22を除去する起点を形成する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが形成されたデバイス領域と該デバイス領域を囲繞する面取り部が形成された外周余剰領域とを表面に備えた第一のウエーハの該表面と第二のウエーハとを接合層によって貼り合わせたウエーハの加工方法であって、
該第一のウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該第一のウエーハの裏面から該第一のウエーハの内部に位置づけて該レーザー光線を該第一のウエーハに照射して改質層を形成するとともに、該改質層から伸展し該接合層に沿って外周に延びるクラックを形成する改質層形成工程と、
該第二のウエーハ側をチャックテーブルで保持し、該第一のウエーハの裏面を研削して薄化する研削工程と、を含み、
該改質層形成工程において、ウエーハの外周から内側に向けてウエーハの面に対して平行に2以上の該改質層を形成し、該接合層に沿ってクラックを外周に向けて該接合層に伸展させ該面取り部を除去する起点を形成するウエーハの加工方法。
【請求項2】
2以上の該改質層の間隔は、ウエーハの面方向に450~800μmの範囲に設定する請求項1記載のウエーハの加工方法。
【請求項3】
該レーザー光線の集光点を多焦点で構成し、該多焦点によって該改質層を形成する請求項1記載のウエーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが形成されたデバイス領域とデバイス領域を囲繞する面取り部が形成された外周余剰領域とを表面に備えた第一のウエーハの表面と第二のウエーハとを接合層によって貼り合わせたウエーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、ダイシング装置によって個々のデバイスチップに分割され、分割された各デバイスチップは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、デバイスの性能を向上させるために、表面活性化法等によってパターンが形成されたウエーハを貼り合わせ、一方のウエーハを研削して薄化する場合がある。
【0004】
ところが、一方のウエーハの裏面を研削して薄化するとウエーハの外周に形成された面取り部がナイフエッジのように鋭利な形状となり、オペレータのケガを誘発したり、ナイフエッジからクラックがウエーハの内部に伸展してデバイスチップを損傷させるという問題がある。
【0005】
そこで、裏面を研削するウエーハの外周に切削ブレードまたは研削砥石を位置づけて面取り部を除去し、ナイフエッジの発生を抑制する技術が提案されている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-225976号公報
【特許文献2】特開2016-096295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、切削ブレードや研削砥石による面取り部の除去には相当の時間がかかり、生産性が悪いという問題がある。
【0008】
また、ウエーハの貼り合わせ面(接合層)の外周にボイドが存在すると、面取り部を除去する際、または研削の際に、ウエーハが損傷するという問題がある。
【0009】
本発明の課題は、ウエーハを損傷させることなく、効率的に面取り部を除去可能であるウエーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記課題を解決する以下のウエーハの加工方法が提供される。すなわち、
「複数のデバイスが形成されたデバイス領域と該デバイス領域を囲繞する面取り部が形成された外周余剰領域とを表面に備えた第一のウエーハの該表面と第二のウエーハとを接合層によって貼り合わせたウエーハの加工方法であって、
該第一のウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該第一のウエーハの裏面から該第一のウエーハの内部に位置づけて該レーザー光線を該第一のウエーハに照射して改質層を形成するとともに、該改質層から伸展し該接合層に沿って外周に延びるクラックを形成する改質層形成工程と、
該第二のウエーハ側をチャックテーブルで保持し、該第一のウエーハの裏面を研削して薄化する研削工程と、を含み、
該改質層形成工程において、ウエーハの外周から内側に向けてウエーハの面に対して平行に2以上の該改質層を形成し、該接合層に沿ってクラックを外周に向けて該接合層に伸展させ該面取り部を除去する起点を形成するウエーハの加工方法」が提供される。
【0011】
好適には、2以上の該改質層の間隔は、ウエーハの面方向に450~800μmの範囲に設定する。該レーザー光線の集光点を多焦点で構成し、該多焦点によって該改質層を形成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のウエーハの加工方法は、
複数のデバイスが形成されたデバイス領域と該デバイス領域を囲繞する面取り部が形成された外周余剰領域とを表面に備えた第一のウエーハの該表面と第二のウエーハとを接合層によって貼り合わせたウエーハの加工方法であって、
該第一のウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該第一のウエーハの裏面から該第一のウエーハの内部に位置づけて該レーザー光線を該第一のウエーハに照射して改質層を形成するとともに、該改質層から伸展し該接合層に沿って外周に延びるクラックを形成する改質層形成工程と、
該第二のウエーハ側をチャックテーブルで保持し、該第一のウエーハの裏面を研削して薄化する研削工程と、を含み、
該改質層形成工程において、ウエーハの外周から内側に向けてウエーハの面に対して平行に2以上の該改質層を形成し、該接合層に沿ってクラックを外周に向けて該接合層に伸展させ該面取り部を除去する起点を形成するので、従来の方法と比較して、効率的に面取り部を除去可能である。
【0013】
また、本発明によれば、ウエーハの貼り合わせ面にボイドが存在しても、面取り部と一緒にボイドを除去することができるので、ウエーハを損傷させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)ウエーハの斜視図、(b)(a)に示すウエーハの側面図。
【
図6】改質層を形成する際のウエーハの模式的断面図。
【
図7】ウエーハの外周から内側に向けてウエーハの面に対して平行に2以上の改質層を形成する際のウエーハの模式的断面図。
【
図9】2以上形成される改質層の間隔と、面取り部の除去割合との関係を示すグラフ。
【
図10】ウエーハの外周から内側に向けて厚さ方向に2以上の改質層を形成する際のウエーハの模式的断面図。
【
図12】レーザー光線の集光点を多焦点で構成する場合の模式図。
【
図13】第二のウエーハに保護テープを貼り付ける際の模式図。
【
図14】研削装置のチャックテーブルにウエーハを保持させる際の模式図。
【
図16】(a)第一のウエーハの面取り部が除去されたウエーハの斜視図、(b)(a)に示すウエーハの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るウエーハの加工方法の好適実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(ウエーハ2)
図1には、本発明のウエーハの加工方法によって加工が施され得るウエーハ2が示されている。ウエーハ2は、第一のウエーハ4と第二のウエーハ6とが接合層8(
図1(b)参照)によって貼り合わせられたものである。
【0017】
円板状の第一のウエーハ4は、厚さが700μm程度であり、シリコン等の適宜の半導体材料から形成され得る。
図1(a)に示すとおり、第一のウエーハ4の表面4aは、IC、LSI等の複数のデバイス10が格子状の分割予定ライン12によって区画されたデバイス領域14と、デバイス領域14を囲繞する外周余剰領域16とを備える。
図1(a)では、便宜的にデバイス領域14と外周余剰領域16との環状の境界18を二点鎖線で示しているが、実際には境界18を示す線は存在しない。
【0018】
第一のウエーハ4の外周余剰領域16には、結晶方位を示すノッチ20が形成されている。また、
図1(b)に示すように、第一のウエーハ4の外周余剰領域16には面取りが施されており、曲面状の面取り部22が設けられている。
【0019】
第二のウエーハ6については、第一のウエーハ4と同一の構成でよいため、説明を省略する。
【0020】
ウエーハ2を形成する際は、第一のウエーハ4の表面4aと、第二のウエーハ6の表面6aとを適宜の接着剤による接合層8によって貼り合わせる。このとき、第一のウエーハ4のノッチ20と、第二のウエーハ6のノッチ20とを整合させ、第一・第二のウエーハ4、6の結晶方位を一致させて貼り合わせる。このようにして、本発明のウエーハの加工方法によって加工を施すべきウエーハ2を形成する。
【0021】
なお、本発明のウエーハの加工方法によって加工が施されるウエーハは、上記ウエーハ2に限定されない。たとえば、第一のウエーハ4の表面4aと、第二のウエーハ6の裏面6bとを接合層8によって貼り合わせたウエーハでもよい。
【0022】
(改質層形成工程)
図示の実施形態では、まず、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を第一のウエーハ4の裏面4bから第一のウエーハ4の内部に位置づけてレーザー光線を第一のウエーハ4に照射して改質層を形成するとともに、改質層から伸展し接合層8に沿って外周に延びるクラックを形成する改質層形成工程を実施する。
【0023】
(レーザー加工装置24)
改質層形成工程は、たとえば
図2に示すレーザー加工装置24を用いて実施することができる。レーザー加工装置24は、ウエーハ2を保持する保持手段26と、保持手段26に保持されたウエーハ2にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段28と、保持手段26とレーザー光線照射手段28とを相対的に移動させる送り手段30とを備える。
【0024】
(保持手段26)
保持手段26は、X軸方向に移動自在に基台32の上面に支持されたX軸可動板34と、Y軸方向に移動自在にX軸可動板34の上面に支持されたY軸可動板36と、Y軸可動板36の上面に固定された支柱38と、支柱38の上端に固定されたカバー板40と、を含む。
【0025】
なお、X軸方向は
図2に矢印Xで示す方向であり、Y軸方向は
図2に矢印Yで示す方向であってX軸方向に直交する方向である。X軸方向およびY軸方向が規定するXY平面は実質上水平である。
【0026】
カバー板40にはY軸方向に延びる長穴40aが形成され、長穴40aを通って上方に延びるチャックテーブル42が支柱38の上端に回転自在に装着されている。チャックテーブル42の上端部分には、吸引手段(図示していない。)に接続された多孔質の円形状の吸着チャック44が配置されている。
【0027】
保持手段26においては、吸引手段で吸着チャック44の上面に吸引力を生成し、チャックテーブル42の上面に載せられたウエーハ2を吸引保持する。また、チャックテーブル42は、支柱38に内蔵されたチャックテーブル用モータ(図示していない。)によって回転されるようになっている。
【0028】
(レーザー光線照射手段28)
レーザー光線照射手段28は、基台32の上面から上方に延び、次いで実質上水平に延びるハウジング46を含む。
図2とともに
図6を参照して説明すると、ハウジング46には、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを発振する発振器(図示していない。)と、発振器が発振したパルスレーザー光線LBを分岐して複数の集光点に集光させる多焦点形成手段48(
図6参照)とが設けられている。
【0029】
多焦点形成手段48は、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)などから構成され得る空間光位相変調器50(
図6参照)と、ハウジング46の先端下面に装着された集光器52(
図2および
図6参照)とを有する。空間光位相変調器50は、レーザー光線LBの空間的な位相変調を行うものである。集光器52は、空間光位相変調器50を通過したレーザー光線LBを集光する。なお、
図6においては、集光器52を集光レンズの形態で模式的に示している。
【0030】
多焦点形成手段48においては、回析を利用してレーザー光線LBを複数のレーザー光線LBに分岐させ、
図12に示すように、分岐させた複数のレーザー光線LBのそれぞれを任意の位置に集光させることで複数個の集光点FP(多焦点)を形成可能である。図示の実施形態の多焦点形成手段48は、上下方向および水平方向に間隔をおいて階段状に複数個(たとえば8個)の集光点FPを形成することができる。なお、多焦点形成手段48は、1個の集光点FPを形成することもできる。
【0031】
図2に示すとおり、ハウジング46の先端下面には、集光器52と間隔をおいて撮像手段54が装着され、ハウジング46の上面には、撮像手段54によって撮像した画像を表示するモニタ56が設置されている。
【0032】
図示していないが、撮像手段54は、可視光線によりウエーハ2を撮像する通常の撮像素子(CCD)と、ウエーハ2を透過する赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段により照射された赤外線を捕らえる光学系と、光学系が捕らえた赤外線に対応する電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)とを含むのがよい。
【0033】
(送り手段30)
図2に示すように、図示の実施形態の送り手段30は、チャックテーブル42をX軸方向に移動させるX軸送り手段58と、チャックテーブル42をY軸方向に移動させるY軸送り手段60とを含む。
【0034】
X軸送り手段58は、X軸可動板34に連結されX軸方向に延びるボールねじ62と、ボールねじ62を回転させるモータ64とを有する。X軸送り手段58においては、ボールねじ62によりモータ64の回転運動を直線運動に変換してX軸可動板34に伝達し、基台32上の一対の案内レール32aに沿ってX軸可動板34をX軸方向に移動させる。これによって、チャックテーブル42がX軸方向に移動する。
【0035】
Y軸送り手段60は、Y軸可動板36に連結されY軸方向に延びるボールねじ66と、ボールねじ66を回転させるモータ68とを有する。そして、Y軸送り手段60は、ボールねじ66によりモータ68の回転運動を直線運動に変換してY軸可動板36に伝達し、X軸可動板34上の一対の案内レール34aに沿ってY軸可動板36をY軸方向に移動させる。これによって、チャックテーブル42がY軸方向に移動する。
【0036】
改質層形成工程においては、まず、
図3に示すとおり、第一のウエーハ4の裏面4bを上に向けて、チャックテーブル42の上面にウエーハ2を載せる。次いで、吸引手段を作動して吸着チャック44の上面に吸引力を生成し、チャックテーブル42でウエーハ2を吸引保持する。
【0037】
次いで、送り手段30を作動して撮像手段54の直下にウエーハ2を位置づけ、撮像手段54によってウエーハ2を撮像する。次いで、ウエーハ2の画像に基づいて、集光器52とウエーハ2との位置関係を調整し、レーザー光線LBの集光点FPを第一のウエーハ4の外周側内部に位置づける。具体的には、第一のウエーハ4の外周余剰領域16の内部であって、ノッチ20および面取り部22よりも径方向内側に集光点FPを位置づける。
【0038】
この際、ウエーハ2の貼り合わせ面の外周縁から径方向内側に2~3mm程度の環状領域には、貼り合わせ不良であるボイドが存在することがあるため、上記環状領域よりも径方向内側に集光点FPを位置づけるのが好ましい。
【0039】
なお、図示の実施形態のように撮像手段54が赤外線CCDを含む場合には、集光器52とウエーハ2との位置関係を調整する前に、ボイド検出工程を実施してもよい。
【0040】
ボイド検出工程では、
図4に示すように、ウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル42を矢印R1で示す方向に回転させながら、ウエーハ2の外周余剰領域16を赤外線CCDにより撮像し、ボイド70の位置を検出する。ボイド70の位置を検出することで、ボイド70よりも径方向内側に集光点FPを確実に位置づけることができる。
【0041】
集光点FPを位置づけたら、
図5に示すとおり、矢印R2で示す方向にチャックテーブル42を所定の回転速度で回転させながら、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBを第一のウエーハ4に照射する。
【0042】
レーザー光線LBを照射する際には、チャックテーブル42を1周(360度)回転させればよいが、2周以上回転させてもよい。つまり、同じ箇所へのレーザー光線LBの照射は1回でもよいが、2回以上であってもよい。
【0043】
このようにしてレーザー光線LBを照射すると、
図6に示すとおり、ウエーハ2の外周に沿って、第一のウエーハ4の内部に環状の改質層72を形成することができるとともに、環状の改質層72から伸展し接合層8に沿って外周に延びる環状のクラック74を形成することができる。
【0044】
図示の実施形態では、ウエーハ2の外周から内側に向けてウエーハ2の面に対して平行に2以上の改質層72を形成し、接合層8に沿ってクラック74を外周に向けて接合層8に伸展させ面取り部22を除去する起点を形成するのが重要である。
【0045】
図7および
図8を参照して説明すると、上記のとおりにして、第一のウエーハ4の内部に環状の改質層72を形成したら、送り手段30を作動して集光器52とウエーハ2との位置関係を調整する。
【0046】
このとき、先に形成した改質層72よりも径方向内側にレーザー光線LBの集光点FPを位置づける。具体的には、
図8に示すとおり、先に形成した改質層72(1番目の改質層72a)から延びるクラック74によって、次に照射するレーザー光線LBが乱反射することのない程度に、先に形成した改質層72から離れた位置に、レーザー光線LBの集光点FPを位置づける。
【0047】
ただし、先に形成した改質層72から集光点FPの位置が離れすぎていると、ウエーハ2の面に対して平行に2以上の改質層72を形成することの効果が弱まってしまうので注意が必要である。
【0048】
このため、改質層72同士の間隔D1は、ウエーハ2の面方向に450~800μmの範囲に設定するのが好適である(450μm≦D1≦800μm)。なお、集光点FPの上下方向位置(ウエーハ2の厚さ方向の位置)は、先に形成した改質層72の上下方向位置と同一でよい。
【0049】
集光点FPを位置づけたら、チャックテーブル42を所定の回転速度で回転させながら、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBを第一のウエーハ4に照射する。これによって、先に形成した改質層72(1番目の改質層72a)よりも径方向内側に、次の改質層72(2番目の改質層72b)を形成することができるとともに、2番目の改質層72bから伸展し接合層8に沿って外周に延びる環状のクラック74を形成することができる。
【0050】
図7および
図8に示すように、2番目の改質層72bから接合層8に向かって外周側に傾斜して(斜め下方に)クラック74が延びるとともに、接合層8に沿ってクラック74がウエーハ2の外周に向かって伸展する。
【0051】
そして、2番目の改質層72bに伴って生じた接合層8上のクラック74は、1番目の改質層72aに伴って生じた接合層8上のクラック74と連結する。これによって、接合層8上のクラック74がウエーハ2の外周側に延伸するため、接合層8上のクラック74が一層適正な除去起点となり得る。
【0052】
ここで、改質層72同士の間隔D1は、ウエーハ2の面方向に450~800μmの範囲に設定することが好ましい点について説明する。
図9には、ウエーハ2の面の方向に対して平行に2個の改質層72を形成した場合において、改質層72同士の間隔D1と、面取り部22の除去割合との実験結果が示されている。実験条件については、以下のとおりである。
パルスレーザー光線の波長 :1342nm
繰り返し周波数 :60kHz
平均出力 :2.4W
集光点の数 :1個(単焦点)
1番目の集光点の位置 :ウエーハの外周から径方向内側に3mm
レーザー光線の照射回数 :同じ位置に2回
チャックテーブルの回転速度 :107.3deg/s(周速度280mm/s)
第一・第二のウエーハの直径 :300mm
第一・第二のウエーハの材料 :シリコン
【0053】
図9に示すように、改質層72同士の間隔D1が450~800μmの範囲では、後述の研削工程を実施することにより、大部分(80%以上)の面取り部22を除去可能であった。これは、2番目の改質層72bを形成した際に、接合層8上のクラック74の延伸効果が十分に発揮されるためと考えられる。
【0054】
図9には示していないが、改質層72同士の間隔D1が450μmよりも小さい場合には、1番目の改質層72aから延びるクラック74によって、次に照射するレーザー光線LBが乱反射してしまい、2番目の改質層72bを適正に形成することができなかった。
【0055】
改質層72同士の間隔D1が800μmよりも大きいと、面取り部22の除去割合が大幅に低下した(D1が1000μmの場合に、除去割合10%以下)。これについては、D1が800μmよりも大きいと、2番目の改質層72bを形成した際に接合層8上のクラック74を延伸させる効果が十分に発揮されないためと考えられる。
【0056】
したがって、改質層72同士の間隔D1は、ウエーハ2の面方向に450~800μmの範囲に設定することが好ましい。なお、
図7および
図8には、ウエーハ2の外周から内側に向けてウエーハ2の面方向に2個の改質層72を形成する例を示しているが、ウエーハ2の外周から内側に向けてウエーハ2の面方向に3個以上の改質層72を形成してもよい。
【0057】
(ウエーハ2の厚さ方向に2以上の改質層72を形成)
改質層形成工程においては、ウエーハの2の外周から内側に向けて厚さ方向に2以上の改質層72を形成し、2以上の改質層72をクラック74で連結するようにしてもよい。
【0058】
厚さ方向に2以上の改質層72を2以上形成する場合について、
図10および
図11を参照して説明する。1・2番目の改質層72a、72bを形成したら、送り手段30を作動して集光器52とウエーハ2との位置関係を調整する。
【0059】
このとき、1番目の改質層72aよりも径方向内側かつ上方に、レーザー光線LBの集光点FPを位置づける。具体的には、
図11に示すとおり、1番目の改質層72aと、3番目の改質層72cとを結ぶ線L1が、ウエーハ2の外周に向かって30~80度の俯角θを成すように(30°≦θ≦80°)、レーザー光線LBの集光点FPの位置を調整するのが好ましい。
【0060】
集光点FPを位置づけたら、チャックテーブル42を所定の回転速度で回転させながら、第一のウエーハ4に対して透過性を有する波長のレーザー光線LBを第一のウエーハ4に照射する。これによって、1番目の改質層72aよりも径方向内側かつ上方に、3番目の環状の改質層72cを形成することができるとともに、3番目の改質層72cからクラック74が伸展する。
【0061】
3番目の改質層72cの下端側のクラック74は、1番目の改質層72aに向かって外周側に傾斜して(斜め下方に)伸展するので、1番目の改質層72aと3番目の改質層72cとがクラック74によって連結される。
【0062】
また、3番目の改質層72cの形成に起因して、接合層8におけるクラック74がウエーハ2の外周側に延伸する。したがって、3番目の改質層72cの形成によって、接合層8上のクラック74が一層適正な除去起点となり得る。
【0063】
接合層8上のクラック74の延伸効果を十分に発揮させる観点から、上記のとおり俯角θを30~80度に調整するのが好適である。また、1番目の改質層72aと3番目の改質層72cとをクラック74によって確実に連結させるため、1番目の改質層72aと3番目の改質層72cとの間隔D2は、ウエーハ2の厚さ方向において10~380μmの範囲に設定するのが好適である(10μm≦D2≦380μm)。
【0064】
3番目の改質層72cを形成したら、
図10および
図11に示すように、2番目の改質層72bよりも径方向内側かつ上方に4番目の改質層72dを形成し、2番目の改質層72bと4番目の改質層72dとをクラック74で連結するのが望ましい。
【0065】
この際は、2番目の改質層72bと4番目の改質層72dを結ぶ線L1’がウエーハ2の外周に向かって30~80度の俯角θを成すように調整するのが好ましい。4番目の改質層を形成する際の集光点FPの上下方向位置(ウエーハ2の厚さ方向の位置)は、3番目の改質層72cの上下方向位置と同一でよい。4番目の改質層72dを形成することにより、接合層8上のクラック74がウエーハ2の外周側に更に延伸することになる。
【0066】
(レーザー光線LBの集光点FPを多焦点で構成)
これまで、単一の集光点FPによって改質層72を形成する例を説明してきたが、改質層形成工程においては、
図12に示すように、レーザー光線LBの集光点FPを多焦点(複数の集光点FP)で構成し、多焦点によって扁平の改質層72を形成してもよい。
【0067】
レーザー光線LBの集光点FPを多焦点で構成する場合、多焦点の位置関係については、ウエーハ2の中心側から外周側に向かって、接合層8との距離が次第に短くなるように調整するのが好都合である。具体的には、
図12に示すとおり、複数個の集光点FP(多焦点)を結ぶ線L3が、ウエーハ2の外周に向かって15~50度の俯角θ’を成すように調整するとよい(15°≦θ’≦50°)。
【0068】
俯角θ’が15度よりも小さいと、ウエーハ2の面に対して平行な方向(横方向)にクラック74が延びやすくなり、改質層72の下端側から延びるクラック74が接合層8まで到達しない場合がある。
【0069】
他方、俯角θ’が50度よりも大きいと、ウエーハ2の厚さ方向(縦方向)にクラック74が延びやすくなり、接合層8を通り越して第二のウエーハ6までクラック74が伸展し、第二のウエーハ6が損傷するおそれがある。
【0070】
したがって、複数個の集光点FP(多焦点)を結ぶ線L3が、ウエーハ2の外周に向かって15~50度の俯角θ’を成すように調整するのが望ましい。なお、隣り合う集光点FP同士の間隔は、ウエーハ2の面に対して平行な方向において10μm程度でよい。また、集光点FPの数量については、たとえば8個以上にすることができる。なお、集光点FP同士はクラック74でつながっている。
【0071】
(研削工程)
改質層形成工程を実施した後、第二のウエーハ6側をチャックテーブルで保持し、第一のウエーハ4の裏面4bを研削して薄化する研削工程を実施する。
【0072】
薄化工程は、
図14および
図15に示す研削装置78を用いて実施することができる。
研削装置78は、ウエーハ2を吸引保持するチャックテーブル80(
図14および
図15参照)と、チャックテーブル80に吸引保持されたウエーハ2を研削する研削手段82(
図15参照)とを備える。
【0073】
図14に示すとおり、チャックテーブル80の上端部分には、吸引手段(図示していない。)に接続された多孔質の円形状の吸着チャック84が配置されている。チャックテーブル80は、吸引手段で吸着チャック84の上面に吸引力を生成し、チャックテーブル80の上面に載せられたウエーハ2を吸引保持する。また、チャックテーブル80は、チャックテーブル用モータ(図示していない。)によって回転されるようになっている。
【0074】
図15に示すとおり、研削手段82は、上下方向に延びるスピンドル86と、スピンドル86の下端に固定された円板状のホイールマウント88とを含む。ホイールマウント88の下面にはボルト90によって環状の研削ホイール92が締結されている。研削ホイール92の下面の外周縁には、周方向に間隔をおいて環状に配置された複数の研削砥石94が固定されている。
【0075】
研削工程では、まず、
図13に示すとおり、第二のウエーハ6の露出面(図示の実施形態では裏面6b)に保護テープ76を貼り付けるのが好ましい。ただし、第二のウエーハ6の露出面が裏面6bである場合には、保護テープ76を貼り付けても貼り付けなくてもよい。
【0076】
次いで、第一のウエーハ4の裏面4bを上に向け、第二のウエーハ6側をチャックテーブル80の上面で吸引保持する(
図14参照)。次いで、
図15に示すように、矢印R3で示す方向に所定の回転速度(たとえば300rpm)でチャックテーブル80を回転させる。また、矢印R4で示す方向に所定の回転速度(たとえば6000rpm)でスピンドル86を回転させる。
【0077】
次いで、スピンドル86を下降させ、第一のウエーハ4の裏面4bに研削砥石94を接触させるとともに、研削砥石94を接触させる部分に研削水を供給する。その後、所定の研削送り速度(たとえば1.0μm/s)でスピンドル86を下降させ、第一のウエーハ4の裏面4bを所定量研削する。
【0078】
この結果、
図16に示すとおり、第一のウエーハ4を所望の厚さ(たとえば、30~50μm程度)に薄化することができるとともに、除去起点(改質層72およびクラック74)よりも外周側部分を除去することができる。すなわち、第一のウエーハ4の面取り部22を除去することができる。
【0079】
以上のとおりであり、図示の実施形態のウエーハの加工方法においては、ウエーハ2の外周から内側に向けてウエーハ2の面に対して平行に2以上の改質層72を形成し、接合層8に沿ってクラック74を外周に向けて接合層8に伸展させ面取り部22を除去する起点を形成する。
【0080】
そして、このような除去起点を形成したウエーハ2に対し、上記研削工程を実施することにより、除去起点よりも外周側に位置する第一のウエーハ4の面取り部22を除去することができる。したがって、図示の実施形態のウエーハの加工方法によれば、従来の方法と比較して効率的に、面取り部22を除去可能である。
【0081】
また、図示の実施形態では、ボイド70よりも径方向内側に集光点FPを位置づけて、第一のウエーハ4にレーザー光線LBを照射し面取り部22の除去起点を形成している。このため、改質層形成工程および研削工程を実施することにより、改質層72およびクラック74を除去起点として、面取り部22とともにボイド70を除去することができる。したがって、ボイド70の残存に起因する不具合(たとえば、ウエーハ2の損傷や、ダイシングの際におけるチッピングの発生)を防止することができる。
【符号の説明】
【0082】
2:ウエーハ
4:第一のウエーハ
4a:第一のウエーハの表面
4b:第一のウエーハの裏面
6:第二のウエーハ
6a:第二のウエーハの表面
6b:第二のウエーハの裏面
8:接合層
10:デバイス
14:デバイス領域
16:外周余剰領域
22:面取り部
70:ボイド
72:改質層
74:クラック
LB:レーザー光線
FP:集光点(多焦点)
θ:改質層を結ぶ線の俯角
θ’:多焦点を結ぶ線の俯角
L1:改質層を結ぶ線
L2:ウエーハの面に対して平行な線
L3:多焦点を結ぶ線