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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127251
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036277
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 剛拓
(72)【発明者】
【氏名】寺田 崇秀
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD21
4C601EE09
4C601EE22
4C601JB31
4C601JB35
4C601JB50
4C601JB51
4C601JB53
(57)【要約】
【課題】超音波画像の質感を維持し又は大きく変えずに、被検者に対してバンドパスフィルタの通過帯域特性を適合させる。
【解決手段】観測点(受信焦点)の深さに応じてBPFの通過帯域特性が動的に変更される。通過帯域特性は凸形態46,48,50を有し、凸形態46,48,50は、利得軸方向の最高点としてのピーク46a,48a,50a及び周波数軸方向の幅w1を有する。幅w1の上限及び下限が実質的に維持されつつ、幅w1に対してピーク位置が相対的に変更される。これに伴って凸形態46,48,50が低周波数側又は高周波数側へ傾く。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者内へ超音波を送信し前記被検者内からの反射波を受信する超音波振動子と、
前記超音波振動子から出力された受信信号が通過するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタから出力された受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
前記被検者内の観測点深さの増大に応じて前記バンドパスフィルタの通過帯域特性を変更する制御部と、
を含み、
前記通過帯域特性は凸形態を有し、前記凸形態は利得軸方向の最高点としてのピーク及び周波数軸方向の幅を有し、
前記制御部は、少なくとも1つの観測点深さにおいて、前記被検者に応じて前記幅に対するピーク位置を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記周波数軸方向の幅は前記ピークを基準として定められる一定の利得での幅である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記幅に対する前記ピーク位置の変更に際して、前記幅の上限及び下限が実質的に維持される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記ピーク位置の低周波数側への変更に伴って、前記凸形態が前記低周波数側へ偏りながら変形し、
前記ピーク位置の高周波数側への変更に伴って、前記凸形態が前記高周波数側へ偏りながら変形する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、
前記超音波振動子から出力された受信信号に基づいて実測減衰特性を取得し、
前記実測減衰特性に基づいて前記幅に対する前記ピーク位置を決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記制御部は、前記実測減衰特性を基準減衰特性と比較し、その比較結果に基づいて前記幅に対する前記ピーク位置を決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項5記載の超音波診断装置において、
当該超音波診断装置は準備工程及び検査工程を順次実行し、
前記準備工程では、前記超音波振動子から出力された第1受信信号に基づいて前記実測減衰特性が取得され、
前記検査工程では、前記実測減衰特性に基づいて、前記超音波振動子から出力された第2受信信号が通過する前記バンドパスフィルタの通過帯域特性が変更される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は超音波診断装置に関し、特に、受信信号を処理するバンドパスフィルタの通過帯域特性の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の超音波検査では超音波診断装置が用いられる。超音波診断装置は、超音波プローブ、送信部、受信部、バンドパスフィルタ、画像形成部等を有する(例えば、特許文献1を参照)。生体内に放射された超音波及び生体内で生じた反射波は、生体内での進行に伴って減衰する。その際、低周波数成分よりも高周波数成分の方がより大きく減衰する。その現象は、周波数依存減衰と呼ばれる。周波数依存減衰に従って受信信号中の不要成分を除去するのが上記バンドパスフィルタである。
【0003】
超音波診断装置においては、通常、観測点(受信焦点)の深さの増大に従って、バンドパスフィルタの通過帯域特性が動的に変更される。具体的には、観測点の深さの増大に伴って、通過帯域特性の中心が低周波数側へシフトされ且つ通過帯域特性の幅が縮小される。通過帯域特性の幅の変更は、通過帯域の上限(場合によっては上限及び下限)の変化を伴うものである。
【0004】
従来、通過帯域特性の変更に際して、通過帯域特性の形態は基本的に維持される。すなわち、相似形を維持したまま、通過帯域特性を示す関数の位置及び幅が周波数軸方向に変更される。なお、上記の特許文献1には、通過帯域特性の変形については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-212542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被検者の体格(特に脂肪量)によって、被検者内での超音波の伝搬(具体的には減衰特性)が変化する。よって、観測点深さごとに、バンドパスフィルタの通過帯域特性を組織性状に適合させることが望まれる。その際、通過帯域特性の上限(場合によっては上限及び下限)を単にシフトさせると、超音波画像の質感が大きく変化してユーザーに違和感を生じさせてしまうおそれが生じる。
【0007】
本開示の目的は、超音波画像の質感を維持し又は大きく変えずに、被検者に対してバンドパスフィルタの通過帯域特性を適合させることにある。あるいは、本開示の目的は、バンドパスフィルタの通過帯域特性を変更する新たな方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る超音波診断装置は、被検者内へ超音波を送信し前記被検者内からの反射波を受信する超音波振動子と、前記超音波振動子から出力された受信信号が通過するバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタから出力された受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、前記被検者内の観測点深さの増大に応じて前記バンドパスフィルタの通過帯域特性を変更する制御部と、を含み、前記通過帯域特性は凸形態を有し、前記凸形態は利得軸方向の最高点としてのピーク及び周波数軸方向の幅を有し、前記制御部は、少なくとも1つの観測点深さにおいて、前記被検者に応じて前記幅に対するピーク位置を変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、超音波画像の質感を維持し又は大きく変えずに、被検者に対してバンドパスフィルタの通過帯域特性を適合できる。あるいは、本開示によれば、バンドパスフィルタの通過帯域特性を変更する新たな方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2】基準減衰特性及び実測減衰特性を示す図である。
図3】シフト量決定関数の一例を示す図である。
図4】低周波数側への凸形態の変形を示す図である。
図5】高周波数側への凸形態の変形を示す図である。
図6】準備工程及び検査工程を示す図である。
図7】基準減衰特性テーブルの一例を示す図である。
図8】準備工程での送信方法を示す図である。
図9】係数列の生成方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、超音波振動子、バンドパスフィルタ、画像形成部、及び、制御部を有する。超音波振動子は、被検者内へ超音波を送信し被検者内からの反射波を受信する。超音波振動子から出力された受信信号がバンドパスフィルタを通過する。画像形成部は、バンドパスフィルタから出力された受信信号に基づいて超音波画像を形成する。制御部は、被検者内の観測点深さの増大に応じてバンドパスフィルタの通過帯域特性を変更する。実施形態において、通過帯域特性は凸形態を有し、凸形態は利得軸方向の最高点としてのピーク及び周波数軸方向の幅を有する。制御部は、少なくとも1つの観測点深さにおいて、被検者に応じて幅に対するピーク位置を変更する。
【0013】
上記構成は、凸形態の偏り度合いを変更することにより、通過帯域特性を変更するものである。よって、超音波画像の質感の大幅な変化を回避しながら、高周波数成分量と低周波数成分量の比率を変化させることが可能となる。ピーク位置の変更に伴って凸形態の幅が変更されてもよいが、望ましくは、ピーク位置の変更に伴って凸形態の幅が維持される。
【0014】
実施形態において、制御部は、観測点深さの増大に伴って、被検者に応じてピーク位置を動的に変更する。例えば、やせ気味の被検者又は脂肪量の少ない被検者の場合、各観測点深さにおいてピーク位置が高周波数側へシフトされる。一方、太り気味の被検者又は脂肪量の多い被検者の場合、各観測点深さにおいてピーク位置が低周波数側へシフトされる。実施形態において、周波数軸方向の幅は、ピークを基準として定められる一定の利得での幅である。例えば、バンドパスフィルタの設計時において、一定の利得が定められてもよい。
【0015】
実施形態において、幅に対するピーク位置の変更に際して、幅の上限及び下限が実質的に維持される。例えば、各観測点深さにおいて、基準減衰特性に従って通過帯域特性の幅(具体的には上限及び下限)が決定される。その幅が固定された上で、被検体に応じてピーク位置が低周波数側又は高周波数側へ変更される。ピーク位置の低周波数側への変更に伴って、凸形態が低周波数側へ偏りながら変形する。ピーク位置の高周波数側への変更に伴って、凸形態が高周波数側へ偏りながら変形する。
【0016】
実施形態において、制御部は、超音波振動子から出力された受信信号に基づいて実測減衰特性を取得し、実測減衰特性に基づいて幅に対するピーク位置を決定する。この構成によれば、被検者の実際の組織性状に基づいて通過帯域特性が変更される。
【0017】
実施形態において、制御部は、実測減衰特性を基準減衰特性と比較し、その比較結果に基づいて幅に対するピーク位置を決定する。基準減衰特性は超音波診断装置に事前に登録される。複数の超音波プローブに対応する複数の基準減衰特性、あるいは、複数の送信周波数に対応する複数の基準減衰特性、あるいは、複数の被検者タイプに対応する複数の基準減衰特性が事前に登録されてもよい。基本となる基準減衰特性を被検者に応じて修正した上で、修正後の基準減衰特性を利用してもよい。
【0018】
実施形態において、超音波診断装置は準備工程及び検査工程を順次実行する。準備工程では、超音波振動子から出力された第1受信信号に基づいて実測減衰特性が取得される。検査工程では、実測減衰特性に基づいて、超音波振動子から出力された第2受信信号が通過するバンドパスフィルタの通過帯域特性が変更される。
【0019】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置が示されている。この超音波診断装置は、医療機関等に設置され、被検者の超音波検査で使用されるものである。
【0020】
超音波プローブ10は、超音波振動子を有し、より詳しくは、複数の超音波振動素子からなる振動素子アレイを有する。振動素子アレイによって、超音波ビームが形成され、その超音波ビームが電子走査される。これにより被検者内にビーム走査面が形成される。ビーム走査面は二次元のエコーデータ取込領域である。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。超音波プローブ10内に二次元振動素子アレイを設けてもよい。
【0021】
送信部12は、送信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。送信時において、送信部12は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより、送信ビームが形成される。受信部14は、受信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。受信時において、受信部14は、振動素子アレイから並列的に出力された複数の受信信号に対して整相加算を適用する。これにより受信ビームデータ(整相加算後の受信信号)が生成される。受信部14は、複数のアンプ、複数のA/D変換器、複数の遅延器、加算器等を有する。
【0022】
超音波ビームの電子走査の繰り返しに伴って、受信部14から受信フレームデータ列が出力される。受信フレームデータ列は、時間軸上に並ぶ複数のフレームデータにより構成される。各受信フレームデータは、電子走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータにより構成される。各受信ビームデータは、深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。
【0023】
受信部14の後段に設けられたフィルタ16には、フレームデータ列を構成する一連の受信ビームデータが順次入力される。フィルタ16は、バンドパスフィルタ(BPF)であり、生体組織内での超音波の周波数依存減衰に従って、有効な信号成分を抽出し且つ不要な信号成分を除去するものである。フィルタ16は、受信ダイナミックフィルタとも呼ばれる。実際には、フィルタ16はFIR型フィルタ又はIIR型フィルタであり、フィルタ16に対しては、複数の観測点深さに対応した複数のフィルタ係数列が与えられる。個々のフィルタ係数列によってフィルタ16の通過帯域特性が規定される。
【0024】
データ処理部18は、フィルタ16から出力された各受信ビームデータを処理するものである。データ処理部18には、包絡線検波器、対数変換器、等が含まれる。
【0025】
画像形成部20は、入力される受信フレームデータ列に基づいて表示フレームデータ列を生成する電子回路である。画像形成部20は、例えば、デジタルスキャンコンバータ(DSC)を有する。DSCは、座標変換機能、画素補間機能、等を有する。表示フレームデータ列は、例えば、動画像としてのBモード断層画像である。画像形成部20において、他の超音波画像が形成されてもよい。他の超音波画像として、例えば、血流画像が挙げられる。
【0026】
表示部22には、超音波画像が表示される。表示部22は、例えば有機EL表示デバイス、液晶表示器等により構成される。例えば、フィルタ16、データ処理部18及び画像形成部20は、単一のプロセッサ又は複数のプロセッサにより構成され得る。
【0027】
演算制御部24は、各種の演算機能及び各種の制御機能を有している。演算制御部24は、例えば、プログラムを実行するCPUにより構成される。CPUを上記のフィルタ16、データ処理部18及び画像形成部20として機能させてもよい。
【0028】
実施形態に係る演算制御部24は、計測部26及びフィルタ制御部28を有している。計測部26は、準備工程で機能するものであり、1又は複数の受信ビームデータ(つまり受信信号)に基づいて実測減衰特性を計測するものである。換言すれば、計測部26によって実測減衰特性が取得される。実測減衰特性は、被検者の組織性状を表す特性であり、観測点深さごとの超音波減衰度合い又は超音波減衰係数を表すものである。
【0029】
フィルタ制御部28は、フィルタ16の動作を制御するものである。具体的には、フィルタ制御部28は、上記のように取得された実測減衰特性を、記憶部30に事前に登録されている基準減衰特性と比較することにより、観測点深さごとにフィルタ係数列を演算する。これにより生成された複数のフィルタ係数列がフィルタ16に与えられる。フィルタ16においては、観測点深さごとにフィルタ係数列が設定される。これにより観測点深さの増大に伴って通過帯域特性が動的に変更される。
【0030】
準備工程において複数のフィルタ係数列が事前に計算され、検査工程に先立って、それらのフィルタ係数列がフィルタ16に与えられてもよい。フィルタ16から画像形成部20までの構成は、準備工程後の検査工程で機能する。但し、当該構成を準備工程において機能させてもよい。後述するように、記憶部30に複数の基準減衰特性を登録しておいてもよい。
【0031】
演算制御部24には、操作パネル32が接続されている。操作パネル32は、複数のスイッチ、複数のつまみ、トラックボール、キーボード等を備えている。実施形態においては、操作パネル32が通過帯域特性のチューニング時に操作されるボタン33を有している。ボタン33がタッチパネルに表示される仮想的なボタンであってもよい。
【0032】
図2には、基準減衰特性34及び実測減衰特性36が示されている。横軸は深さ軸であり、それは観測点深さを示している。縦軸は受信信号の振幅を示している。生体組織内を超音波が伝搬する過程で超音波が減衰する。基準減衰特性34は、標準的な超音波減衰特性を示すものである。被検者に応じて実際の超音波の減衰度合いが変化する。例えば、脂肪量の多い被検者の場合、その体内での超音波の減衰は比較的に大きい。脂肪量の少ない被検者の場合、その体内での超音波の減衰は比較的に小さい。
【0033】
符号36は実測減衰特性を示している。例えば、1つの超音波ビームに対応する1つのビームデータから実測減衰特性を取得でき、あるいは、超音波ビームの電子走査によって生成される1つの受信フレームデータから実測減衰特性を取得できる。後者の場合、観測点深さごとにデータが積算又は平均化される。
【0034】
例えば、基準減衰特性34は深さd1において振幅Xを有し、実測減衰特性36は深さd1において振幅X1を有する。それらの差(振幅差)がxである。xに従ってフィルタの通過帯域特性が変更される。そのような制御が観測点深さごとに実施される。ちなみに、符号42は、他の実測減衰特性を示している。
【0035】
フィルタの通過帯域特性は、周波数軸と利得軸とで定義される二次元座標系において、凸形態(上に凸の形態)を有する。凸形態にはガウス分布状の形態の他、台形状の形態が含まれ得る。凸形態は、一定の利得で周波数軸方向の幅を有する。一定の利得は例えばピークを基準(0dB)として-30dBである。
【0036】
実施形態においては、後に図4を用いて詳述するように、各観測点深さにおいて、凸形態の幅が固定されつつ、その幅に対するピーク位置が変更される。これにより通過帯域特性が変更される。より詳しくは、幅の上限及び下限が固定されつつ、ピーク位置が低周波数側又は高周波数側へ変更される。これに伴って凸形態が低周波数側又は高周波数側へ偏ることになる。凸形態が低周波数側又は高周波数側へ変形するといってもよい。幅の上限及び下限を固定してピーク位置を変更することにより、超音波画像の質感が大きく変化してユーザーに違和感を生じさせてしまうという問題が生じ難くなる。
【0037】
図3には、シフト量決定関数が模式的に例示されている。横軸は振幅差(実測減衰特性と基準減衰特性の差)を示しており、縦軸はピーク位置のシフト量を示している。例えば、振幅差がxである場合、シフト量決定関数44に従って、シフト量fxが決定される。シフト量fxに従って凸形態のピーク位置が変更される。
【0038】
符号44Aは他のシフト量決定関数を示しており、符号44Bは更に他のシフト量決定関数を示している。例えば、複数のシフト量決定関数の中から、観測点深さに応じて、使用するシフト量決定関数が選択されてもよい。図3には、線形のシフト量決定関数が示されていたが、それは一例であって、非線形のシフト量決定関数が用いられてもよい。
【0039】
図4には、ピーク位置の変更例が示されている。(A)は比較的に浅い深さ位置でのピーク位置の変更例を示しており、(B)は中間的な深さ位置でのピーク位置の変更例を示しており、(C)は比較的に深い深さ位置でのピーク位置の変更例を示している。各変更例は、いずれも、低周波数側へのピーク位置の変更を示すものである。
【0040】
比較的に浅い深さ位置において、シフト量がゼロの場合における中心周波数がf1で示されている。その場合、周波数軸上において、ピーク46aの位置はf1に一致している。シフト量の増大に従って、ピーク位置が低周波数側へ移動する(符号48a及び符号50aを参照)。通過帯域特性を示す凸形態は、符号46、符号48及び符号50が示すように、低周波数側へ偏りつまり変形する。例えば、シフト量がfxの場合、通過帯域特性として凸形態50が設定される。その場合、f1-fxにより、ピーク位置50aが定められる。
【0041】
ピーク位置が変化しても、凸形態46,48,50における幅w1の位置及びサイズは維持される。つまり、幅w1の上限fhigh1及び下限flow1は固定される。幅w1は、利得軸上の最高点(つまりピークレベル)から-ZdB下がった位置での幅である。-ZdBは例えば-30dBdである。ピークレベルの利得がy0で示されており、そこから-ZdB下がった利得がy1で示されている。ピーク位置の変化に伴って凸形態の変形量が増大する。
【0042】
中間的な深さ位置において、シフト量がゼロの場合における中心周波数がf2で示されている。シフト量の増大に伴って、ピーク位置が低周波数側へ移動しており、それに伴って凸形態が低周波数側へ偏っている(符号52,54,56を参照)。上限fhigh2及び下限flow2は固定されており、つまり幅w2の位置及びサイズが固定されている。
【0043】
比較的に深い深さ位置において、シフト量がゼロの場合における中心周波数がf3で示されている。シフト量の増大に伴って、ピーク位置が低周波数側へ移動しており、それに伴って凸形態が低周波数側へ偏っている(符号58,60,62を参照)。上限fhigh3及び下限flow3は固定されており、つまり幅w2の位置及びサイズが固定されている。
【0044】
実施形態においては、観測点の深さの増大に伴って幅が小さくなっている。具体的には、幅の変更に伴って上限が変化しているが、下限は固定されている。もちろん、下限を変化させてもよい。なお、図4に示されているすべての通過帯域特性は、基本的に、超音波プローブの通過帯域特性に包摂される。
【0045】
図5には、ある深さ位置において、高周波数側へピーク位置を変更する場合における通過帯域特性の変化つまり凸形態の変化が示されている。正のシフト量の増大に伴ってピーク位置が高周波数側へ移動する(符号64a及び符号66aを参照)。それに伴って凸形態に偏りが生じる(符号64及び符号66を参照)。一定の利得での幅は固定されている。つまり、上限fhigh4及び下限flow4は固定されている。
【0046】
図6には、実施形態に係る超音波診断装置の動作例が示されている。操作パネルにおける所定のボタンの操作により図6に示されている動作の実行が開始される。S20は、調査工程を示しており、S22は調査工程後の検査工程を示している。
【0047】
S12では、被検者の組織性状を実測するために調査用送受信が実行される。この場合においては、1つの超音波ビームが形成されてもよいし、超音波ビームが電子走査されてもよいし、平面波が送信されてもよい。S14では、調査用送受信により得られた第1受信信号に基づいて実測減衰特性が演算及び取得される。S16では、実測減衰特性を基準減衰特性と比較することにより、観測点深さごとに振幅差が演算される。S18では、観測点深さごとに、最適な通過帯域特性を実現するために、フィルタ係数列が演算される。調査工程後、S18において、検査用の送受信が実行される。これにより得られた第2受信信号がバンドパスフィルタで処理される。バンドパスフィルタから出力された第2受信信号に基づいて超音波画像が形成及び表示される。バンドパスフィルタには、観測点深さに従って動的に選択されたフィルタ係数列が設定される。これにより観測点深さに応じた所望の通過帯域特性が設定される。
【0048】
深さ方向の全部ではなくその一部に対して実施形態に係る通過帯域特性の制御を適用してもよい。例えば、関心領域内に限って、実施形態に係る通過帯域特性の制御を適用してもよい。その場合、関心領域内において深さ方向への質感の変化を抑制できるという利点を得られる。
【0049】
図7には、基準減衰特性テーブル68が示されている。基準減衰特性テーブル68は、複数のプローブ70に対応する複数の基準減衰特性72を有している。使用されたプローブ70に対応する基準減衰特性が選択的に利用される。送信中心周波数ごとに基準減衰特性を登録しておいてもよい。単一の基準減衰特性を状況に応じて修正し、修正された基準減衰特性を使用してもよい。
【0050】
図8には、準備工程での送受信が示されている。符号74はビーム走査面を示している。例えば、符号76で示されているように、ビーム走査面74の中央位置において、単一の超音波ビーム(送信ビーム及び受信ビーム)が形成されてもよい。あるいは、符号78で示されるように複数の方向に対して複数の送信ビームが順次に又は同時に形成されてもよい。その場合に超音波ビームが電子走査されてもよい。あるいは、平面波が送信されてもよい。それぞれの場合において、複数回の送受信を行ってそれにより得られる複数の受信信号を平均化してもよい。実測減衰特性の取得に当たって特定深さの情報を除外してもよい。その後、実測減衰特性の内挿により欠落部分を補ってもよい。
【0051】
図9には、バンドパスフィルタ(BPF)用係数列86の生成方法が示されている。ローパスフィルタ(LPF)用係数列80及びハイパスフィルタ(HPF)用係数列82の合成(具体的には畳み込み)84によりBPF用係数列86が生成される。合成84に先立って、LPF用係数列80に対しては第1窓関数が乗算される。HPF用係数列82に対しては第2窓関数が乗算される。
【0052】
実施形態においては、振幅差xに従って第1窓関数が変更され(符号88を参照)、且つ、振幅差xに従って第2窓関数が変更される(符号90を参照)。第1窓関数及び第2窓関数の変更により、結果として、BPFの所望の通過帯域特性が実現される。すなわち、第1窓関数及び第2窓関数の変更により、ピーク位置の移動つまり凸形態の変形が実現されている。
【0053】
上記実施形態では、図3に示したように、シフト量決定関数に従って振幅差からシフト量が決定されていたが、数値演算により振幅差からシフト量が決定されてもよい。凸形態が台形状の形態である場合であってその頂部が周波数軸方向に広がりを有している場合、頂部の中心をピークとみなしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 超音波プローブ、16 フィルタ(BPF)、20 画像形成部、26 計測部、28 フィルタ制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9