(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127278
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】デバイス及びデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/20 20060101AFI20240912BHJP
G01R 15/20 20060101ALI20240912BHJP
G01R 33/06 20060101ALI20240912BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240912BHJP
H10N 52/80 20230101ALI20240912BHJP
【FI】
G01R33/20 101
G01R15/20 Z
G01R33/06
H01L29/82 Z
H10N52/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036316
(22)【出願日】2023-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先導研究プログラム未踏チャレンジ2050」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】村田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 邦博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】増山 雄太
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AC07
2G017AD58
2G017AD61
2G017AD63
2G025AA01
2G025AB01
5F092AB01
5F092AC21
5F092BD15
5F092BE02
5F092CA02
5F092CA11
5F092CA25
5F092CA40
5F092EA06
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、校正無しに精度よく電流を測定できるデバイス及びデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】SiCを有する基材と、前記基材上に設けられる回路素子と、前記基材上に設けられ、SiC単結晶を有し、かつ前記SiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥により磁場を計測することで、前記回路素子に流れる電流を計測できる、量子磁気センサと、を備えることを特徴とするデバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCを有する基材と、
前記基材上に設けられる回路素子と、
前記基材上に設けられ、SiC単結晶を有し、かつ前記SiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥により磁場を計測することで、前記回路素子に流れる電流を計測できる、量子磁気センサと、を備える
ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記回路素子の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に隣接して配置され、かつSiCよりも透磁率が大きい磁性体を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に電磁波を照射する照射装置を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記SiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥は、空孔欠陥又は不純物イオンである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項6】
さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に励起光を照射する光源装置を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記光源装置は、光ファイバーを介して前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に励起光を照射する
ことを特徴とする請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記回路素子は、半導体素子である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項9】
前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記半導体素子の終端部に設けられる
ことを特徴とする請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のデバイスの製造方法であって、
前記SiCを有する基材上に、前記回路素子を設ける工程と、
前記バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程と、を備える
ことを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項11】
前記バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける前記工程は、SiC単結晶に欠陥を設ける工程、SiC単結晶をエピタキシャル成長させる工程、又はSiC単結晶にイオン注入する工程、を備える
ことを特徴とする請求項10に記載のデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける前記工程で、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記回路素子の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置される
ことを特徴とする請求項10に記載のデバイスの製造方法。
【請求項13】
さらに、SiCよりも透磁率が大きい磁性体を前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に隣接して設ける工程を備える
ことを特徴とする請求項10に記載のデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記回路素子は、半導体素子である
ことを特徴とする請求項10に記載のデバイスの製造方法。
【請求項15】
前記バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程で、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶を、前記半導体素子の終端部に設ける
ことを特徴とする請求項14に記載のデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス及びデバイスの製造方法に関し、特にSiCデバイス及びSiCデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウエハが用いられるようになっている。
【0003】
特許文献1には、測定量を検出するセンサエレメントと、それぞれ1つの測定回路及びエネルギー源を有する少なくとも2つの制御装置とを備えた車両用センサ装置であって、前記センサエレメントの第1の端子は、前記少なくとも2つの制御装置の第1の制御装置のエネルギー源に接続されており、前記センサエレメントの第2の端子は、前記少なくとも2つの制御装置の第2の制御装置の測定回路を介してグラウンド端子に接続されており、前記センサエレメントを通って流れるセンサ電流は、検出された測定量に関する情報によって変調されており、前記第1の制御装置の測定回路は、前記エネルギー源と前記センサエレメントとの間のハイサイド路において検出されたセンサ電流を評価し、同時に、前記第2の制御装置の第2の測定回路は、前記センサエレメントと前記グラウンド端子との間のローサイド路において検出されたセンサ電流を評価し、第1の非常時保護回路が、前記ローサイド路に対して並列に配置されていて、前記センサエレメントの前記第2の端子における電圧降下を監視し、前記電圧降下が設定されたブレークオーバ電圧値に到達した場合、前記第1の非常時保護回路は、前記センサエレメントのための代替のローサイド路を形成してセンサ電流を記録し、これにより、少なくとも前記第1の測定回路が、検出されたセンサ電流をさらに評価することが可能であり、前記第1の非常時保護回路は、付加的に、前記電圧降下を、前記ブレークオーバ電圧値より低いホールド電圧値へ低下させる、センサ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電流センサは、ダイオード構造やトランジスタ等のデバイス、又は抵抗素子を使用している。そのため、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等で、センサを構成する材料の特性が変化して、電流を精度よく測定することが難しい。そのため、ダイオード構造を構成する材料の特性が変化するような場合において、特許文献1に記載の電流センサは校正を必要とするという問題があった。もしくは、材料の特性が変化しない環境下での使用を想定している。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、電流を測定できる機能を有し、校正無しに精度よく電流を測定できるデバイス及びデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係るデバイスの一様態は、SiCを有する基材と、
前記基材上に設けられる回路素子と、
前記基材上に設けられ、SiC単結晶を有し、かつ前記SiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥により磁場を計測することで、前記回路素子に流れる電流を計測できる、量子磁気センサと、を備える
ことを特徴とする。
(2)前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記回路素子の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置される
ことを特徴とする(1)に記載のデバイス。
(3)さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に隣接して配置され、かつSiCよりも透磁率が大きい磁性体を備える
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のデバイス。
(4)さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に電磁波を照射する照射装置を備える
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のデバイス。
(5)前記SiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥は、空孔欠陥又は不純物イオンである
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のデバイス。
(6)さらに、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に励起光を照射する光源装置を備える
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のデバイス。
(7)前記光源装置は、光ファイバーを介して前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に励起光を照射する
ことを特徴とする(6)に記載のデバイス。
(8)前記回路素子は、半導体素子である
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のデバイス。
(9)前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記半導体素子の終端部に設けられる
ことを特徴とする(8)に記載のデバイス。
(10)本発明に係るデバイスの製造方法の一様態は、
(1)又は(2)に記載のデバイスの製造方法であって、
SiCを有する基材上に、回路素子を設ける工程と、
バンドギャップ中に孤立した準位を生成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程と、を備える
ことを特徴とする。
(11)バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける前記工程は、SiC単結晶に欠陥を設ける工程、SiC単結晶をエピタキシャル成長させる工程、又はSiC単結晶にイオン注入する工程、を備える
ことを特徴とする(10)に記載のデバイスの製造方法。
(12)バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける前記工程で、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶は、前記回路素子の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置される
ことを特徴とする(10)に記載のデバイスの製造方法。
(13)さらに、SiCよりも透磁率が大きい磁性体を前記量子磁気センサの前記SiC単結晶に隣接して設ける工程を備える
ことを特徴とする(10)に記載のデバイスの製造方法。
(14)前記回路素子は、半導体素子である
ことを特徴とする(10)に記載のデバイスの製造方法。
(15)バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程で、前記量子磁気センサの前記SiC単結晶を、前記半導体素子の終端部に設ける
ことを特徴とする(14)に記載のデバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一様態によれば、電流を測定できる機能を有し、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、校正無しに精度よく電流を測定できるデバイス及びデバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るデバイスの模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るデバイスの断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係るデバイスの模式図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るデバイスの断面図である。
【
図5】本発明の変形例に係るデバイスの模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明の一形態は、以下の説明に限定されず、本発明の趣旨その範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明の一形態は、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
以下に示される複数の実施の形態は適宜組み合わせることが可能である。また1の実施の形態中に、複数の構成例(作製方法例、動作方法例等も含む。)が示される場合は、互い構成例を適宜組み合わせること、及び他の実施の形態に記載された1又は複数の構成例と適宜組み合わせることも可能である。
【0012】
図面において、同一の要素又は同様な機能を有する要素、同一の材質の要素、あるいは同時に形成される要素等には同一の符号を付す場合があり、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0013】
なお、本明細書中において、数値の下限値から数値の上限値までの数値範囲を表す記載表現として「~」を用いた説明箇所あるが、この説明箇所における数値範囲は、下限値自体及び上限値自体を含む下限値以上、上限値以下として特定される数値範囲である。
【0014】
<デバイス>
まず、本発明の実施形態に係るデバイスについて説明する。本発明の一実施形態に係るデバイス100は、SiCを有する基材150と、基材150上に設けられる回路素子110と、基材150上に設けられ、SiC単結晶を有し、かつSiC単結晶のバンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥により磁場を計測することで、回路素子110に流れる電流を計測できる、量子磁気センサ130と、を備えることを特徴とする。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るデバイス100の模式図である。
図1に示すように、デバイス100は、回路素子110と、量子磁気センサ130とを備える。
図2は、本発明の実施形態に係るデバイス100の断面図である。
図2の左側の図はデバイス100の一断面図であり、
図2の右側の図は左側の図とは異なる断面の断面図である。
図2に示すように、回路素子110及び量子磁気センサ130は基材150上に設けられている。
【0016】
(基材)
本実施形態において、基材150はSiCを有する。基材150はSiC単結晶を有することが好ましい。基材150はSiC半導体であってもよい。
図1に示すように、基材150はn型SiC半導体であってもよい。基材150がn型SiC半導体である場合、回路素子110及び磁気量子センサをモノリシックに集積しやすくなる。ここで、SiC単結晶とは、成分がSiCであり、単結晶である材料、を意味する。ここで、SiC半導体とは、成分がSiCであり、ドーピングにより半導体の性質を有する材料、を意味する。
【0017】
SiCの結晶構造は特に限定されず、例えば4Hであってもよい。回路素子110及び磁気量子センサを集積できれば、基材150の形状及び厚みは特に限定されず、例えば板状の基材であってもよい。
【0018】
基材150はSiCに加えて、SiC以外の材料をさらに有してもよい。SiC以外の材料を有する基材150として、例えば絶縁体基材、半導体基材、及び導電体基材等が挙げられる。
【0019】
絶縁体基材としては、例えば、ガラス基材、石英基材、サファイア基材、安定化ジルコニア基材、樹脂基材等が挙げられる。
【0020】
半導体基材としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体基材、又はシリコンゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムからなる化合物半導体基材等が挙げられる。さらに、前述の半導体基材内部に絶縁体領域を有する半導体基材、例えばSOI(Silicon On Insulator)基材等が挙げられる。
【0021】
導電体基材としては、黒鉛基材、金属基材、合金基材、導電性樹脂基材等が挙げられる。又は、金属の窒化物を有する基材、金属の酸化物を有する基材等が挙げられる。さらに、絶縁体基材に導電体又は半導体が設けられた基材、半導体基材に導電体又は絶縁体が設けられた基材、導電体基材に半導体又は絶縁体が設けられた基材等が挙げられる。
【0022】
(回路素子)
本実施形態において、回路素子110は回路220を構成する素子である。ここで言う、回路220を構成する素子には導線も含まれる。回路素子110は、能動素子、及び受動素子であってもよい。回路素子110は、半導体素子であってもよい。回路素子110は、パワーデバイスであってもよい。
【0023】
図2に示すように、回路素子110は、基材150上に設けられている。回路素子110が、基材150上に設けられているとは、回路素子110が基材150に接するように、直接基材150上に設けられる場合のみではなく、回路素子110と基材150との間に他の物が存在してもよい。
【0024】
図2に示す回路素子110は、MOSFETである。
図2の左側の図に示すように、基材150上にはn-層が設けられている。n-層の上にはp+が設けられている。p+の上には、p++が設けられている。p++に接するようにn++が設けられている。p++及びn++と電気的に接続するように、金属のNiが設けられている。n++の上にはSiO
2が設けられている。金属のNiとSiO
2とが直接接しないように、バリア層であるTiNが設けられている。
図2の右側の図に示すように、n-層の上にはp(JTE1:Junction Termination Extension)及びp-(JTE2)が設けられている。また、n-層の上にはp(JTE1)及びp-(JTE2)とは離間して、チャネルストッパー(CS)が設けられている。
【0025】
(量子磁気センサ)
図1に示すように、量子磁気センサ130は、回路素子110に流れる電流によって生じる磁場を計測できるように回路素子110に隣接して配置される。量子磁気センサ130は、基材150上に設けられる。ここで、量子磁気センサ130が、基材150上に設けられるとは、量子磁気センサ130が基材150に接するように、直接基材150上に設けられる場合のみではなく、量子磁気センサ130と基材150との間に他の物が存在してもよい。
【0026】
本実施形態において、量子磁気センサ130は、量子磁気センサ130により電流が測定される回路素子110と一体に形成されている。すなわち、量子磁気センサ130と量子磁気センサ130により電流が測定される回路素子110とが、基材150から取り外しできないように設けられている。
【0027】
量子磁気センサ130は、SiC単結晶を備える。量子磁気センサ130のSiC単結晶は、バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備える。バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥は、例えば、空孔欠陥、及び不純物イオンが挙げられる。空孔欠陥は例えばシリコン空孔である。不純物イオンは例えば、バナジウムである。以下、これらをスピン欠陥と総称する。
【0028】
本実施形態において、量子磁気センサ130を有することにより、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、量子磁気センサ130を構成する材料の特性の変化を受けにくい。そのため、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、校正無しに精度よく回路素子110の電流を測定できる。
【0029】
スピン欠陥が空孔欠陥である場合、スピン欠陥の密度は1×1011~1×1018cm-3であることが好ましい。スピン欠陥が不純物イオンである場合、不純物イオンは、遷移金属元素であることが好ましい。遷移金属元素の密度が1×1011~1×1017cm-3であることが好ましい。信号強度を増強させる場合においてスピン欠陥の密度は1×1014cm-3以上であることがより好ましく、1×1015cm-3以上であることがより好ましい。これにより、量子磁気センサ130の室温を超える温度での測定精度が更に向上する。
【0030】
遷移金属元素は、バナジウム、チタン、クロム及びモリブデンからなる群の中の少なくとも一種以上であることがさらに好ましい。これにより、量子磁気センサ130の室温を超える温度での長期安定性が更に向上する。
【0031】
量子磁気センサ130のSiC単結晶は欠陥として、炭素空孔を有する場合がある。量子磁気センサ130のSiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、1×1013cm-3以下であることが好ましい。ここで、炭素空孔は、SiC単結晶を構成する炭素原子の欠損である。SiC単結晶中の炭素空孔は、バンドギャップ中に欠陥準位を形成し、キャリアトラップや再結合中心として作用する。炭素空孔密度の増加に伴い、炭化珪素のキャリア寿命が低下することが知られている。例えば、非特許文献 Katsunori Danno, Daisuke Nakamura and Tsunenobu Kimoto, Applied Physics Letters 90, 202109 (2007)にキャリア寿命と炭素空孔密度の関係が示されている。
【0032】
すなわち、炭素空孔はスピン欠陥起因の発光強度や電気信号強度の低下を引き起こし、量子磁気センサ130の検出感度や測定精度を低下させる要因となる。したがって、炭素空孔密度を低減させることで、量子磁気センサ130の室温を超える温度での測定精度が向上する。量子磁気センサ130が有するSiC単結晶中の炭素空孔の格子欠陥密度は、スピン欠陥密度よりも低いことが好ましく、例えば、1×1011cm-3以下であることがより好ましい。また格子間炭素起因の点欠陥は、例えば、SiC単結晶中に含まれなくてもよい。
【0033】
格子間炭素起因の点欠陥とは、格子の隙間に存在する炭素に起因した欠陥である。格子間炭素起因の点欠陥は、例えば、EH1センター、EH3センター、RD3センター、ON1センター、ON2センターである。EH1センター、EH3センター、RD3センターのそれぞれの密度が1×1011cm-3以下であることが好ましく、ON1センター、ON2センターのそれぞれの密度は1×1011cm-3以下であることが好ましい。これにより、量子磁気センサ130の室温を超える温度での検出感度や測定精度がさらに向上する。
【0034】
図1に示すように、量子磁気センサ130のSiC単結晶は、回路素子110の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置されてもよい。これにより、回路素子110に流れる電流をさらに精度よく測定することができる。また、量子磁気センサ130のSiC単結晶は、半導体素子の終端部に設けられてもよい。これにより、回路素子110は量子磁気センサ130の影響をより受けにくくなる。さらに、量子磁気センサ130と回路素子110とを同じ基材上に集積させても、製造プロセスが複雑にならない。その結果、量子磁気センサ130と回路素子110とを同じ基材上に簡単に集積させることができる。量子磁気センサ130を複数以上デバイス100に設けられてもよい。
【0035】
(磁性体)
本発明の他の実施形態に係るデバイス100Bの模式図である。
図3に示すように、本実施形態において、デバイス100Bは、量子磁気センサ130のSiC単結晶に隣接して配置され、かつSiCよりも透磁率が大きい磁性体170を備えてもよい。これにより、電流の測定精度が更に向上する。
図3に示すように、量子磁気センサ130に光を照射できるように、磁性体170にはギャップGが設けられてもよい。
【0036】
図4は、本発明の他の実施形態に係るデバイス100Bの断面図である。
図4に示すように、磁性体170は回路素子110の終端部に設けられてもよい。これにより、回路素子110の耐圧特性に影響を与えにくくなる。また、デバイス100Bの大きさを変更せずに、回路素子110、量子磁気センサ130、及び磁性体170を同じ基材上に集積させることができる。
【0037】
磁性体170の種類は、SiCよりも透磁率が大きければ特に限定されない。本実施形態において、磁性体170は金属のNiである。
図4では、磁性体170であるNiとSiO
2が反応することを防ぐために、NiとSiO
2との間にバリアメタル175であるTiNが設けられている。
【0038】
(照射装置)
本発明の実施形態で、デバイス100Bはさらに照射部120(図示しない)を有してもよい。照射部120は量子磁気センサ130に電磁波を照射してもよい。照射部120が量子磁気センサ130に照射する電磁波は、例えば、超短波(VHF:Very High Frequency)からマイクロ波(SHF:Super High Frequency)の領域の電磁波であってもよい。これにより、量子磁気センサ130の検出精度がさらに向上する。照射部120は、例えば共振器であってもよい。本発明の実施形態では、量子磁気センサ130からの発光強度の電磁波周波数依存性を評価し、共鳴ピーク周波数の値もしくはシフト量から環境の磁場を定量的に評価することができる。
【0039】
本発明の実施形態で、デバイス100Bはさらに、量子磁気センサ130のSiC単結晶に励起光を照射する光源装置140を備えてもよい。また、光源装置140は、光ファイバーを介して量子磁気センサ130のSiC単結晶に励起光を照射してもよい。
【0040】
(変形例)
続いて本発明の変形例に係るデバイス100Cを図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0041】
図5は、本発明の変形例に係るデバイス100Cの模式図である。
図5に示すように、本発明の変形例に係るデバイス100Cは、量子磁気センサ130と光源装置140と検出部160とケーブル180とを有する。光源装置140と検出部とが一体として設けられている。
【0042】
(ケーブル)
ケーブル180は、量子磁気センサ130に接続している。ケーブル180は、量子磁気センサ130で発生する電磁波を媒介する。また、ケーブル180は、光源装置140及び検出部に接続している。ケーブルは、光源装置140から発せられる電磁波を媒介する。つまり、ケーブル180は、光源装置140から発せられる電磁波を回路素子110へ送信し、また回路素子110から発せられる電磁波を検出部へ送信する。これにより、送信又は受信される電磁波が外部環境に影響を受けるのを防ぐことができる。その結果、デバイス100Cの検出精度が更に向上させることができる。電磁波が可視光又は赤外線等の光である場合、ケーブル180は、例えば光ファイバーであってもよい。
【0043】
(変形例)
続いて本発明の変形例に係るデバイス100Dを説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0044】
本発明の変形例に係るデバイス100Dは、量子磁気センサ130と、光源装置140と、検出部160と、ケーブル180と、照射部120と、信号線200(図示しない)とを有してもよい。本発明の変形例では、光源装置140と検出部とが一体として設けられていてもよい。
【0045】
本発明の変形例に係るデバイス100Dによれば、量子磁気センサ130が、光源装置140、検出部及び照射部と離れている。これにより、デバイス100Dの量子磁気センサ130のみを測定したい箇所に近づけて測定することができる。その結果、本発明の変形例に係るデバイス100Dは、光源装置140、検出部及び照射部の動作に影響を及ぼす高温環境でも高い検出精度を有することができる。
【0046】
(変形例)
続いて本発明の変形例に係るデバイス100Eを説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0047】
本発明の変形例に係るデバイス100Eは、量子磁気センサ130と、光源装置140と、検出部160と、ケーブル180と、照射部120と、信号線200と、回路220とを有してもよい。本発明の変形例では、光源装置140と検出部とが一体として設けられている。
【0048】
スピン欠陥の密度は、電子スピン共鳴(Electron Paramagnetic Resonance;EPR、Electron Spin Resonance、;ESR)や光検出磁気共鳴法(Optically Detected Magnetic Resonance、;ODMR)、もしくは半導体中深い準位評価法(Deep Level Transient Spectroscopy;DLTS)を利用して測定することができる。
【0049】
シリコン空孔及び炭素空孔の密度は、半導体中深い準位評価法(Deep Level Transient Spectroscopy;DLTS)を利用して測定することができる。
【0050】
SiC単結晶の組成は、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry;SIMS)で測定することができる。
【0051】
<デバイスの製造方法>
本発明者は、下記の方法で本発明の実施形態に係るデバイスを製造できることを確認しているが、本発明に係るデバイスの製造方法は下記の方法に限定されない。
【0052】
本発明の実施形態において、デバイスの製造方法は、SiCを有する基材上に、回路素子を設ける工程と、バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程と、を備える。
【0053】
また、バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程は、SiC単結晶に欠陥を設ける工程、SiC単結晶をエピタキシャル成長させる工程、又はSiC単結晶にイオン注入する工程、を備えてもよい。欠陥は、点欠陥であってもよい。点欠陥は、空孔欠陥又は不純物、ならびに複合欠陥であってもよい。欠陥は具体的に、シリコン空孔であってもよい。
【0054】
また、バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程で、量子磁気センサのSiC単結晶は、回路素子の少なくとも一部を周状に取り囲むように配置されてもよい。
【0055】
本発明の実施形態において、デバイスの製造方法は、さらに、SiCよりも透磁率が大きい磁性体を量子磁気センサのSiC単結晶に隣接して設ける工程を備えてもよい。
【0056】
本発明の実施形態において、回路素子は、半導体素子であってもよい。
【0057】
バンドギャップ中に孤立した準位を形成する欠陥を備えるSiC単結晶を設ける工程で、量子磁気センサのSiC単結晶を、半導体素子の終端部に設けてもよい。
【0058】
以下に、回路素子がMOSFETである場合のデバイスの製造方法の例を示す。
【0059】
外周部に量子磁気センサを集積させた構造(I)
(S1)n型SiC単結晶上に、CVDエピタキシャル成長法を用いてn-層を形成
(S2)多段のリソグラフィ・マスク形成工程により、p層(JTE2)、p層(JTE1)、p+層の順にイオン注入法を用いてアルミニウムを注入
(S3)同様に、CS層を窒素イオン注入法により形成
(S4)リソグラフィ・マスク形成、ソースコンタクトのp++層をアルミイオン注入により形成
(S5)リソグラフィ・マスク形成、ソースコンタクト横のn++層を窒素注入により形成
(S6)高温活性化アニール処理により、注入した不純物を活性化
(S7)リソグラフィ・マスク形成、高エネルギー粒子線照射(例えば、電子線照射)により、スピン欠陥(シリコン空孔)を形成。もしくは、イオン注入を用いて、スピン欠陥(不純物)を形成
(S8)CVD酸化により、SiO2層を形成
(S9)リソグラフィ、エッチングにより、SiO2にコンタクトホールを形成
(S10)スパッタ等により、バリアメタルTiN層を堆積
(S11)スパッタ等により、Ni電極を形成
(S12)スパッタ等を用いて下側にAl電極を堆積
(S13)コンタクトアニール
(S14)スパッタ等により、Alパッドを形成
(S15)スピンコートを用いてポリイミド保護膜を形成
具体的な様態は
図7に示した。
図6は、従来のデバイスの製造方法を示す図である。
【0060】
外周部に量子磁気センサを集積させた構造(II)
(U1)n型SiC単結晶上に、CVDエピタキシャル成長法を用いてn-層を形成
(U2)CVDエピタキシャル成長法により、n-層上に半絶縁層(例えば、バナジウム添加)を形成
(U3)リソグラフィによりマスク形成、外周部(スピン欠陥生成領域)以外の領域をn-層までドライエッチングにより除去
以下、外周部に量子磁気センサを集積させた構造(I)と同じ
この構造の場合、半絶縁層の形成時にスピン欠陥(バナジウム)を形成するため、イオン注入は不要である。
具体的な様態は
図8、
図9に示した。
【0061】
磁気回路を集積させた構造(I)
(V1)n型SiC単結晶上に、CVDエピタキシャル成長法を用いてn-層を形成
(V2)多段のリソグラフィ・マスク形成工程により、p層(JTE2)、p層(JTE1)、p+層の順にイオン注入法を用いてアルミニウムを注入
(V3)リソグラフィによりマスク形成、CS層をイオン注入法を用いて窒素を注入
ただし、スピン欠陥を形成する領域のみ、窒素を注入しない
(V4)リソグラフィによりマスク形成、p++層をアルミイオン注入により形成
(V5)リソグラフィによりマスク形成、n++層を窒素注入により形成
(V6)活性化アニール処理により、注入した不純物を活性化
(V7)リソグラフィによりマスクを形成、高エネルギー粒子線照射(例えば、電子線照射)により、スピン欠陥(シリコン空孔)を形成
もしくは、リソグラフィによりマスクを形成、イオン注入を用いて、スピン欠陥(不純物)を形成、(3)で注入しなかった領域のみをリソグラフィであける
(V8)CVD酸化により、SiO2層を形成
(V9)リソグラフィ、エッチングにより、SiO2にコンタクトホールを形成
(V10)スパッタ等により、バリアメタルTiN層を堆積、(7)でスピン欠陥を導入した領域には、堆積しない
(V11)スパッタ等により、Ni電極を形成、(7)でスピン欠陥を導入した領域には、堆積しない
*(10),(11)の工程について、外周部の磁性体を別の工程で堆積する場合、TiN/Niである必要はなし
(V12)コンタクトアニール
(V13)スパッタ等により、Alパッドを形成
(V14)スピンコートを用いてポリイミド保護膜を形成
具体的な様態は
図10に示した。
【0062】
磁気回路を集積させた構造(II)
(W1)n型SiC単結晶上に、エピタキシャル成長によりn-層を形成
(W2)エピタキシャル成長により、n-層上に半絶縁層(例えば、バナジウム添加)を形成
(W3)リソグラフィによりマスク形成、外周部(スピン欠陥生成領域)以外の領域をn-層までドライエッチングにより除去
以下、外周部に量子磁気センサを集積させた構造(I)と同じ
この構造の場合、半絶縁層の形成時にスピン欠陥(バナジウム)を形成するため、イオン注入は不要
【0063】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0064】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェア又はソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0065】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、上記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のことから、本発明によれば、電流を測定できる機能を有し、過酷な環境で使用される場合や長時間使用される場合等でも、校正無しに精度よく電流を測定できるデバイス及びデバイスの製造方法を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0067】
100 デバイス
100B デバイス
100C デバイス
110 回路素子
130 量子磁気センサ
140 光源装置
150 基材
170 磁性体
220 回路