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特開2024-127396フラックス、その製造方法および溶湯処理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127396
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】フラックス、その製造方法および溶湯処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/10 20060101AFI20240912BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C22B9/10 101
C22B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036525
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 詩織
(72)【発明者】
【氏名】古川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】中野 悟志
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA23
4K001EA04
4K001EA07
4K001GA19
4K001KA05
4K001KA08
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】アルミニウム基溶湯からMgを効率的に除去できる新たなフラックスを提供する。
【解決手段】本発明は、酸化鉄と塩化物を含み、アルミニウム基溶湯に含まれるMgをMgOにして除去できるフラックスである。酸化鉄は、例えば、フラックス全体に対して10~90質量%含まれる。酸化鉄は、FeO、FeおよびFeの一種以上であればよい。フラックス中の酸化鉄は、Feの酸化数を減少させてMgをMgOにし、また酸素に接触してFeの酸化数を増加させて回復する。アルミニウム基溶湯上のフラックス(溶融塩)の厚さは、例えば0.05~5mmとするとよい。本発明によれば、フラックスの使用量抑制、溶湯処理時に発生する廃棄物の低減等を図りつつ、アルミニウム基溶湯からMgを持続的に効率よく除去できる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄と塩化物を含むフラックスであって、
該酸化鉄は、該フラックス全体に対して10~90質量%含まれ、
アルミニウム基溶湯に含まれるMgをMgOにして除去できるフラックス。
【請求項2】
前記酸化鉄は、FeO、FeおよびFeの一種以上である請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記酸化鉄は、少なくともFeを含む請求項1に記載のフラックス。
【請求項4】
酸化鉄と塩化物とを混在させて請求項1~3のいずれかに記載のフラックスを得る製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のフラックスを用いて、前記アルミニウム基溶湯からMgを除去する溶湯処理方法。
【請求項6】
前記フラックスが酸素に接する雰囲気中でなされる請求項5に記載の溶湯処理方法。
【請求項7】
前記酸化鉄は、Feの酸化数を減少させてMgをMgOにする請求項5に記載の溶湯処理方法。
【請求項8】
前記酸化鉄は、酸素に接触してFeの酸化数を増加させる請求項6に記載の溶湯処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基溶湯に用いるフラックス等に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識等の高揚に伴い、軽量なアルミニウム系部材が様々な分野で用いられている。新規に精錬されたアルミニウムを用いるよりもスクラップを再利用すれば、省エネルギ化、環境負荷低減、脱炭素化等を図りつつ、アルミニウム系部材の利用を促進できる。
【0003】
スクラップを利用する場合、Al以外の様々な元素が溶湯中に混在し得る。不要または過剰な元素は、スクラップを溶解した原料溶湯(Al基溶湯)から除去する必要がある。その一例として、Mgの除去に関連する記載が下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US4097270A
【特許文献2】特開2007-154268
【特許文献3】特開2008-50637
【特許文献4】特開2011-168830
【特許文献5】特開2021-110025
【特許文献6】特開2021-110026
【特許文献7】特開2007-154268
【特許文献8】特開2008-50637
【特許文献9】特開2011-168830
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】軽金属33(1983)243-248
【非特許文献2】軽金属54(2004)75-81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、Mgを含むAl基溶湯とシリカ(SiO)を反応させて(2Mg+SiO→2MgO+Si)、MgをMgOとして除去する方法(金属酸化物処理法の一種)に関する記載がある。
【0007】
特許文献2は、Mgを含むAl基溶湯へ、ホウ酸アルミニウム(9Al・2B)を含むペレットを添加し、Mgをそのペレット上に付着させ、反応生成物(MgAl)として除去する方法を提案している。
【0008】
特許文献3、4は、使用済みの乾電池を焙焼して得た粉末状の電池滓を、Mgを含むAl基溶湯へ添加して、Mgを除去する方法を提案している。電池滓の主成分はZnO、MnOであり、Mgはそれら酸化物との反応物(MgO、MgMnまたはMgMnO)として除去される。電池滓に含まれる塩化物は、それら酸化物とAl基溶湯の濡れ性を高め、反応物の生成を促進する。塩化物量がマンガン乾電池より少ないアルカリ乾電池の電池滓を用いる場合、塩化物(KClとNaClの混合塩)が補充される。
【0009】
特許文献5、6では、アルミニウム基溶湯上に十分に厚く形成した溶融塩へCuOを加えて、そのアルミニウム基溶湯に含まれるMgをその厚い溶融塩へ取り込んで除去している。この場合、除去されるMg量は、溶融塩に加えたCuO量に依存するため、Mgの持続的な除去には、CuOの継続的な補充が必要となる。
【0010】
特許文献7は、セラミックス製骨材(MnO2:45wt%、ZnO:40wt%、Fe2O3:15wt%)とホウ酸アルミニウムの混合焼成体に、Mgを吸着させて除去する旨を提案している。
【0011】
特許文献8は、使用済乾電池を焙焼した粉末(電池滓)をAl基溶湯へ添加し、Al基溶湯に含まれるMgを除去することを提案している。電池滓には、FeやKClも含まれるが、その主成分はMnOとZnOである。特許文献8には、鉄はアルミニウムの回収材料として有効ではなく、酸化鉄はMgと反応せずMgを吸着除去する骨材となる旨が記載されている([0010]、[0020]等)。
【0012】
特許文献9は、アルミニウム合金溶湯のマグネシウム濃度調整剤として、電池滓に塩化ナトリウムと塩化カリウムを加えた混合塩を提案している。電池滓の主成分であるMnOとZnOがマグネシウム濃度低減に寄与している。なお、電池滓には、Feが3.1質量%含まれているが([0016]、表1)、酸化鉄(Fe)等に関する記載は特許文献9に全くない。
【0013】
非特許文献1、2には、塩素ガス処理法とフラックス処理法に関する記載がある。その塩素ガス処理法では、Al基溶湯中へ吹き込まれた塩素、六塩化エタン、四塩化炭素等のガスと反応したMgが、MgClとして除去される(Mg+Cl→MgCl)。そのフラックス処理法では、Al基溶湯中へ添加されたフッ化物(AlF、NaAlF、KAlF等)と反応したMgが、MgFとして除去される(例えば、3Mg+2AlF→3MgF+2Al)。このような処理法では、多くのAlがドロス等にトラップされてロスになると共に、作業環境の悪化や有害廃棄物の発生等を招く。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、アルミニウム基溶湯に用いる新たなフラックス等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミニウム基溶湯に含まれるMgの除去に酸化鉄が有効であることを発見し、新たなフラックスを着想して具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0016】
《フラックス》
本発明は、酸化鉄と塩化物を含むフラックスであって、該酸化鉄は、該フラックス全体に対して10~90質量%含まれ、アルミニウム基溶湯に含まれるMgをMgOにして除去できるフラックスである。
【0017】
本発明のフラックスを用いれば、アルミニウム基溶湯(Al基溶湯)からMgを除去することができる。
【0018】
また本発明のフラックスを用いると、例えば、フラックスの使用量の低減、フラックスの使用後にできる廃棄物(ドロス等)の低減、有害廃棄物の発生や作業環境の悪化の抑制回避等を図ることも可能になる。つまり、フラックスや廃棄等に要するコストの削減、環境負荷の低減等、ひいてはAl基溶湯の処理費用抑制等を図ることが可能になる。このような優れた効果が得られる機序は、次のように考えられる。
【0019】
本発明のフラックスをAl基溶湯に加えると、Al基溶湯上に溶融塩(溶融塩化物)ができる。溶融塩中の酸化鉄は、自身の還元(Feの酸化数(価数)の変化:+III→+II/+II→0)と引き換えに、Al基溶湯から溶融塩へ取り込まれたMgを酸化(Mg→MgO)させる。Feの酸化数(単に「酸化数」または「価数」という。)が減少した酸化鉄は、酸素が供給され得る状況下(例えば大気雰囲気中)で、酸化数を増加させる。酸化数が回復した酸化鉄は、上述したようにMgを酸化(MgO生成)させ、自身の酸化数を再び減少させる。
【0020】
このように、酸化鉄は、酸化数の減少(還元)と酸化数の増加(酸化)を溶融塩中で繰り返す。これにより、Al基溶湯上に形成した溶融塩へ酸化鉄を外部から補充し続けなくても、Al基溶湯に含まれるMgの持続的な除去が可能となり、上述した効果が得られる。
【0021】
ちなみに、酸化鉄がFeの酸化数を変化させる上述した反応とMgの酸化(MgO生成)反応は、全体(合計)として発熱反応となるため、本発明のフラックスを用いると、溶融塩の凝固抑制、加熱量削減による省エネルギー化等も図られる。また、上述の説明から明らかなように、本発明のフラックスを用いた溶湯処理なら、有害なガスや廃棄物の大量発生、作業環境の悪化等も回避される。
【0022】
《フラックスの製造方法》
本発明は、フラックスの製造方法としても把握される。フラックスは、例えば、酸化鉄と塩化物とを混在(原材料(粉末等)の混合、溶融混合等)させて得られる。塩化物は、溶融塩でも固形塩(塊状、粒子状、粉末状等)でもよい。
【0023】
フラックスは、酸化数が異なる酸化鉄を含んでもよい。つまり、フラックスに含まれる酸化鉄は、単種でも複数種でもよい。酸化鉄には一般的に、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe)および四酸化三鉄(Fe)がある。フラックスは、それらの一種以上を含めばよい。なお、フラックスに含まれる酸化鉄の少なくとも一部は、使用中(溶湯処理中)のみならず、製造中、保管中、搬送中等に酸化数が変化してもよい。
【0024】
《溶湯処理方法》
本発明は、上述したフラックスを用いて、Al基溶湯からMgを除去する溶湯処理方法としても把握される。溶湯処理は、フラックス(特に酸化鉄)が酸素に接する雰囲気(例えば大気雰囲気)中でなされるとよい。Al基溶湯上におけるフラックスの形態は問わない。例えば、フラックスまたは溶融塩がAl基溶湯上で所定厚さの層状であると、酸化鉄と酸素の接触が促進され得る。その際、酸素を含む気体(空気等)が積極的に圧送、循環等されてもよい。
【0025】
酸化鉄は酸化数の変化を繰り返してAl基溶湯からMgを除去するため、処理対象であるAl基溶湯の補充や入れ替えがなされても、本発明のフラックスは連続利用または繰返し利用が可能である。溶湯処理中に塩化物(溶融塩)が蒸発や坩堝への染み込等により減少するときは、塩化物(液相でも固相でもよい。)を補充してもよい。これにより、溶融塩またはフラックスが適量に維持され、溶湯処理の安定的な継続が可能となる。
【0026】
《Al基合金》
本発明は、溶湯処理後(精製後)のAl基溶湯(半溶融状態を含む)またはその凝固物(インゴット等)からなるAl基合金として把握されてもよい。
【0027】
《その他》
(1)本明細書でいう「フラックス」は液相(酸化鉄を含む溶融塩)でも固相(酸化鉄を含む固形塩)でもよい。適宜、液相のフラックスを「溶融フラックス」、固相のフラックスを「固形フラックス」という。固形フラックスは、フラックス原料(固相)の混在物(例えば混合粉末状)でもよいし、溶融フラックスの凝固物でもよい。本明細書でいう「フラックス」は、Al基溶湯に含まれるMgの除去(濃度低減)ができる限り、再生数(再利用回数)等をとわない。
【0028】
元素名(例えばマグネシウム)または元素記号(例えばMg)のみで示すものは、特に断らない限り、その状態(単体、化合物、イオン等)を問わない。本明細書でいう濃度や組成は、特に断らない限り、対象物(溶湯、組成物等)の全体に対する質量割合(質量%)であり、単に「%」で示す。
【0029】
(2)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】Al基溶湯中のMg濃度、Fe濃度とAl基溶湯の処理時間との関係を示すグラフである。
図2A】溶湯処理中のフラックス(Fe)上面の時間変化を示す写真である。
図2B】溶湯処理中のフラックス(Fe)上面の時間変化を示す写真である。
図2C】溶湯処理中のフラックス(FeO)上面の時間変化を示す写真である。
図3A】処理後フラックス(Fe)のXRDプロファイルである。
図3B】処理後フラックス(Fe)のXRDプロファイルである。
図3C】処理後フラックス(FeO)のXRDプロファイルである。
図3D】それらのXRDプロファイル(2θ=44°~46°)を重畳させた拡大図である。
図4A】水洗した処理後フラックス(Fe)のSEM像とEDX像である。
図4B】原料(Fe)のSEM像である。
図5】フラックスによりAl基溶湯中のMgが除去される機序を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。方法的な構成要素であっても物(例えばフラックス(Mg除去剤)、Al合金(溶湯)等)に関する構成要素ともなり得る。
【0032】
《Mg除去原理》
Al基溶湯からMgが除去される原理は次のように考えられる。
【0033】
(1)基本反応
Al基溶湯中のMgは次のように酸化され得る。
アノード反応:Mg → Mg2+ +2e- (a)
【0034】
酸化鉄を構成するFeは次のように反応して、価数(酸化数)を変化させる。
カソード反応:Fe3+ + e- → Fe2+ (b1)
Fe2+ +2e- → Fe (b2)
アノード反応:Fe2+ → Fe3+ + e- (c)
【0035】
Mgと酸化鉄の酸化還元反応は次のいずれかと考えられる。
3Fe+Mg →2Fe+MgO (1)
Fe+Mg →3FeO +MgO (2)
FeO +Mg → Fe +MgO (3)
【0036】
(2)鉄または酸化鉄の酸化
鉄または酸化鉄は、酸素と接触して次のように酸化数を回復させると考えられる。
Fe + 1/2O → FeO (0 → +II) (4)
3FeO + 1/2O → Fe(+II → +II,+III) (5)
2Fe+ 1/2O →3Fe(+II,+III → +III) (6)
【0037】
反応式(1)~反応式(6)に示すように、酸化鉄によってAl基溶湯のMgがMgOとしてフラックスに取り込まれて除去される様子と、その酸化鉄が変化する様子と図5に模式的に示した。通常、反応式(a)、(b1)、(c)または反応式(1)、(6)に示すように、FeとFeの間の反応(循環)が主に生じていると考えられる。
【0038】
ちなみに、酸化鉄の還元反応(反応式(b1)、(b2)または反応式(4)~(6)の逆反応)は吸熱反応であり、金属Mgの酸化反応(Mg+1/2O→MgO)は発熱反応である。但し、酸化鉄の還元反応に伴う吸熱量よりも、金属Mgの酸化反応に伴う発熱量が十分に大きい。このため、酸化鉄が還元されて金属Mgが酸化される反応(反応式(1)~(3))は、全体として観れば発熱反応となる。このとき得られる反応熱(発熱量)が、塩化物の溶融維持に寄与し得る。
【0039】
《塩化物》
(1)塩化物は、金属元素とClからなる金属塩化物である。金属元素は、例えば、K、Na、Caが代表的である。それ以外に、例えば、アルカリ金属(Li等)Mアルカリ土類金属(Ba等))を金属元素として含んでもよい。また、溶融塩またはフラックスは、塩化物以外のハロゲン化物(例えば臭化物)を含んでもよい。
【0040】
塩化物は、単塩(例えば、KCl、NaCl、CaCl)でも、それらの複合塩でもよい。複合塩を用いると、融点、密度(比重)、濡れ性、蒸気圧、吸湿性等の調整やコスト低減が可能になる。例えば、塩化物の融点を低下させるKClが、塩化物全体に対して30~70質量%(単に「%」という。)または40~65%含まれてもよい。NaClなら、塩化物全体に対して30~60%または35~47%含まれてもよい。MgClは、塩化物全体に対して、例えば、1~20%または3~10%含まれてもよい。MgClは塩化物の融点を低下させる機能・作用を果たし得る。
【0041】
塩化物は、複数種の原料塩の混合物(混合塩)でも、原料塩全体を溶融させて固化(凝固)させた溶製塩でも、鉱物や鉱物から得られた鉱物由来塩化物(例えばカーナライト無水物:KMgCl)等でもよい。
【0042】
(2)塩化物は、フラックス全体に対して、例えば、30~80%、40~70%または45~65%含まれる。塩化物に対する酸化鉄の配合比(質量比)なら、例えば、0.5~1.5、0.8~1.2でもよい。塩化物が過少でも過多でも、Mgの除去効率が低下し得る。
【0043】
《酸化鉄》
酸化鉄は、塩化物(特に溶融塩)中に保持される形態であればよい。酸化鉄は、例えば、粒子状(粉末状)でも、塊状でもよい。酸化鉄のサイズは問わないが、例えば、最大長が1~100μm、3~30μm、5~10μmであってもよい。なお、本明細書でいうサイズは、例えば、視野(横:50~500μm×縦50~500μm)に現れたそれぞれの最大長の算術平均値で特定される。なお、酸化鉄は、溶湯処理前後(Al基溶湯への添加前後)さらには溶湯処理中に、形態(形状、大きさ)を変化させてもよい。
【0044】
《フラックス》
Al基溶湯上で溶融する限り、フラックス自体は液体状態でも固体状態でもよい。Al基溶湯への投入前のフラックスは、原料の混在物(混合粉末等)でもよいし、その混在物を溶解凝固させた固形物(溶製物)でもよい。固形物は、例えば、塊状でも粒状(砕粉状、顆粒状、粉末状等)でもよい。
【0045】
フラックスには、酸化マグネシウムが含まれていてもよい。酸化マグネシウムは、溶湯処理中に形成されたものでもよい。ポーラス状の酸化マグネシウムは、フラックスの密度(比重)低減、酸化還元反応の促進等に寄与し得る。
【0046】
《溶湯処理》
フラックス(または溶融塩)は、Al基溶湯上で必ずしも層状でなくてもよい。Al基溶湯上におけるフラックスの厚さは、例えば、0.05~5mm、0.1~4mm、0.5~3mmまたは1~2.5mmであるとよい。フラックスの厚さを所望範囲に管理することにより、フラックス中の酸化鉄とその上空側にある酸素との反応が促進される。そこで溶湯処理は、例えば、少なくともフラックスが酸素に接する雰囲気中でなされるとよい。そのような酸素含有雰囲気は、大気雰囲気でもよいし、酸素濃度(酸素圧)が制御された雰囲気でもよい。
【0047】
Al基溶湯の補充や入れ替え等を行なうときでも、フラックスの継続利用または再利用が可能である。フラックス中の塩化物(溶融塩)が減少するとき、適宜、その補充を行なうとよい。このような補充は、例えば、Al基溶湯上のフラックス(溶融塩)の厚さに基づいて管理されてもよい。
【0048】
フラックスは、Al基溶湯の湯面の一部を覆うだけでもよい。Al基溶湯の湯面全体を覆うことにより、Mgの除去効率の向上、Alの酸化抑制等が図られる。
【0049】
処理時間を長くするほど、Al基溶湯中のMg濃度を低減できる。もっとも、スクラップ等を再生する場合、そのMg濃度が所望範囲内になれば十分なことも多い。一回あたりの処理時間は、例えば、0.1~3時間、0.3~2時間または0.5~1時間である。Mgを除去する溶湯処理を繰り返して、Al基溶湯中のMg濃度を順次低減させてもよい。
【実施例0050】
フラックスによるAl基溶湯中のMg除去に関する具体例を示しつつ、本発明をより詳しく説明する。
【0051】
[全体概要]
特に断らない限り、以下に示す条件下で種々の実験を行なった。
【0052】
(1)原料
市販の純Al(純度99.7%)とAl-20%Mg合金(純度99.7%)を黒鉛坩堝内で溶解して、Al-1.0%Mg溶湯(710℃±20℃)を調製した。濃度(%)は、特に断らない限り、質量割合(質量%)である。なお、この初期溶湯の濃度を後述のXRF分析で確認したところ、0.1%程度のFe(不純物)が含まれていた。
【0053】
塩化物には、市販の試薬を配合して溶製した混合塩(KCl-41%NaCl-5%MgCl)を用いた。混合塩は、溶融凝固させた固形塩を約3mm程度の粒子に粉砕して用いた。混合塩の密度(比重)は2.4g/cm以下であり、その溶融塩はAl基溶湯と二相分離してAl基溶湯上に形成される。なお、固形塩(粒子状等)に替えて、原料塩の混合物(粉末状等)をそのまま塩化物として用いてもよい。
【0054】
酸化鉄には、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe)または四酸化三鉄(Fe)の粉末(市販の試薬)を用いた。
【0055】
(2)溶湯処理
溶湯処理は、特に断らない限り、大気開放雰囲気中で行なった。溶湯処理中、Al基溶湯を710℃±20℃に保持して、撹拌等は特に行なわなかった。
【0056】
(3)濃度分析
Al基溶湯の化学成分(Mg濃度等)は次のように分析した。先ず、坩堝の略中央付近から採取したAl基溶湯を、金型(ステンレス製分析型)へ注入し、大気中で自然凝固させた。得られたAl合金鋳物(試料)の化学成分(Mg濃度、Fe濃度)を、蛍光X線分析装置(XRF:株式会社リガク製ZSX Primus II)で測定した。
【0057】
(4)観察・分析
Al基溶湯上のフラックスの外観を観察した。また、走査型電子顕微鏡(SEM/株式会社日立ハイテクノロジーズ製SU3500形)でもフラックスを観察した。さらに、その顕微鏡に付属しているエネルギー分散型X線分光装置(EDX)で、フラックスの元素分析も行なった。
【0058】
さらに、溶湯処理後に採取したフラックスの凝固物を乳鉢で粉砕した粒子を、X線回折装置(Bruker製D8ADVANCE/Fe-Kα線、2θ:30~85°)で分析して化合物の同定を行なった。比較のため、酸化鉄の原料粉末についてもX線回折分析(XRD)を行なった。
【0059】
[実施例1](Mg除去)
《フラックス調製》
各酸化鉄(9g)と混合塩(9g)をビーカー内でそれぞれ混合したフラックス(配合比率:1)を調製した。こうして、酸化鉄が異なる3種類のフラックス(18g)を用意した。
【0060】
《溶湯処理》
各フラックスをAl基溶湯の湯面全体に均一的に添加して静置した。このとき、Al基溶湯の湯面からフラックスの上面までの高さ(厚さ)は約3mmであった。厚さはスケールで測定した。
【0061】
《測定・観察》
(1)濃度
フラックスの添加後から所定時間経過する毎に、Al基溶湯に含まれるMg濃度とFe濃度を上述した方法で測定した。得られた結果を図1に併せて示した。Al基溶湯の初期濃度は処理時間0minに示した。
【0062】
図1中の理論値は、反応式(1)~(3)に基づいて、フラックスに配合した各酸化鉄だけでAl基溶湯のMgが最大限除去されると仮定したときのMg濃度である。具体的にいうと、Feなら反応式(1)→反応式(2)→反応式(3)が、Feなら反応式(2)→反応式(3)が、FeOなら反応式(3)がそれぞれ生じたと仮定して算出されるMg濃度である。
【0063】
(2)外観
フラックスをAl基溶湯に添加した直後と所定時間(15分間と30分間)の経過後に、Al基溶湯上にあるフラックスの外観を観察した。それらの外観写真を図2A図2C(これらを併せて「図2」という。)に示した。なお、本実施例では、特に断らない限り、配合した酸化鉄(原料)の併記により、各フラックスを区別して示した(以下同様)。
【0064】
(3)XRD
120分間の溶湯処理後に採取したフラックス(「処理後フラックス」という。)のXRDプロファイルを図3A図3Cに示した。各図には、フラックスの調製に用いた酸化鉄(原料)のXRDプロファイルも併せて示した。各処理後フラックスのXRDプロファイルを重畳した部分拡大図(2θ=44°~46°)も図3Dに示した。図3A図3Dを併せて「図3」という。
【0065】
(4)SEM-EDX
処理後フラックス(Fe)を乳鉢で粉砕したものを水洗した。その残留物を観察したSEM像およびEDX像(元素分布)を図4Aに示した。また、原料として用いた酸化鉄(Fe)のSEM像を図4Bに示した。両図を併せて図4という。
【0066】
《評価》
(1)濃度
図1から明らかなように、いずれの酸化鉄を含むフラックスを用いても、処理時間にほぼ比例して、Al基溶湯中のMg濃度が低減されることがわかった。また、そのMg濃度は、30~60分間程度で理論値に到達し、その後、理論値を越えて低減し続けた。
【0067】
一方、Al基溶湯中のFe濃度は、殆ど溶湯処理中に変化しなかった。溶湯処理中、酸化鉄または析出したFeはAl基溶湯に殆ど溶解しなかったと考えられる。
【0068】
さらに、フラックス(FeO)を用いたとき、Mg濃度は当初殆ど低下しなかった。しかし、その後は処理時間の経過と共にMg濃度は順調に低下した。FeOが酸化されて、FeまたはFeが生じたためと考えられる(反応式(5)、(6))。換言すれば、酸化数が+IIから+IIIへ変化したFeが増加したためと考えられる。
【0069】
(2)外観
図2から明らかなように、いずれのフラックスを用いた場合でも、時間経過と共に白色部(MgO)が増加する様子が確認された。
【0070】
図2Aからわかるように、添加直後のフラックス(Fe)は赤茶色であったが、その一部は時間経過により黒色へ変化した。処理後フラックスに永久磁石を近づけて確認したところ、その黒色部は強磁性を示した。弱磁性(または反強磁性)であるFe(赤茶色部)が溶湯処理中にFe(黒色)、FeO(黒色)またはFeへ変化したためと考えられる。
【0071】
図2Bからわかるように、添加直後のフラックス(Fe)は黒色であったが、その一部は時間経過により赤茶色へ変化した。Feが溶湯処理中にFeへ変化したと考えられる。なお、各フラックス(FeO、Fe、Fe)の添加直後には、発熱による赤熱が観られた。
【0072】
図2Cからわかるように、フラックス(FeO)は、黒色部や赤茶色部が他のフラックスよりも少なく、添加直後から30分間にかけて白色部が増加した。
【0073】
(3)XRD
図3Aからわかるように、処理後フラックス(Fe)には、原料である塩化物(NaCl、KCl)以外に、除去したMgの酸化物(MgO)が多く含まれていた。さらに、原料に用いた酸化鉄(Fe)とは異なる酸化鉄(Fe)や鉄(Fe)も含まれていた。
【0074】
図3Bからわかるように、処理後フラックス(Fe)にも、原料である塩化物(NaCl、KCl)以外に、除去したMgの酸化物(MgO)が多く含まれていた。また、原料に用いた酸化鉄(Fe)とは異なる酸化鉄(Fe)や鉄も含まれていた。
【0075】
図3Cからわかるように、処理後フラックス(FeO)にも、原料である塩化物(NaCl、KCl)以外に、除去したMgの酸化物(MgO)が多く含まれていた。また、原料に用いた酸化鉄(FeO)とは異なる酸化鉄(Fe)や鉄も含まれていた。
【0076】
処理後フラックス(FeO)には、他の処理後フラックスよりも、鉄が多く観られた。ちなみに、原料に用いた酸化鉄(FeO)は試薬級であったが、FeO以外にFeも多く含んでいた。
【0077】
このように、酸化鉄と塩化物からなるフラックスを用いると、Al基溶湯中のMgがMgOとして効率的に除去されることが確認された。処理後フラックス中には、Feの酸化数(価数)が原料と異なる別な酸化鉄や鉄が出現することも確認された。
【0078】
図1図3に示したように、理論値を越えたMg除去量と、原料より酸化数の大きい酸化鉄の出現とを併せて考慮すると、溶湯処理中のフラックス(酸化鉄)へ外部から酸素が供給されたと考えられる。
【0079】
(4)SEM-EDX
図4Aから明らかなように、水洗して塩化物を除去した残留物は、主にMgOと酸化鉄(Fe、Fe)であった。MgOは、例えば、粒径3μm超の粒状または長さ10μm超の粗大な棒状であった。
【0080】
また、図4A図4Bの比較からわかるように、処理後フラックス中の酸化鉄は、原料(Fe)と同等な形態(最大長5μm以下程度)であった。
【0081】
以上から、本発明によれば、フラックスの使用量や溶湯処理時の廃棄物等を低減しつつ、Al基溶湯からMgを効率的に除去できることが確認された。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5