(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127475
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240912BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240912BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240912BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240912BHJP
【FI】
C23C14/24 G
H10K71/16
H10K59/10
H10K50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036652
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅津 琢治
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG33
3K107GG36
4K029AA02
4K029AA09
4K029AA11
4K029BA62
4K029BB03
4K029CA01
4K029DA12
4K029DB23
4K029HA01
4K029HA02
4K029HA03
4K029JA05
(57)【要約】
【課題】蒸着物質の蒸着量を高精度に制御するのに有利な技術を提供する
【解決手段】マスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、前記基板に付着させる蒸着物質を放出する蒸着源と、前記マスクに対する前記蒸着源から放出される前記蒸着物質の入射領域を制限する制限部と、を有し、前記制限部は、前記蒸着源を囲むように前記基板の成膜面の法線の方向に沿って配列された複数の制限板と、前記複数の制限板の前記マスクの側に設けられ、前記蒸着源から放出される前記蒸着物質が通過する開口を含む開口部材と、を含み、前記複数の制限板のそれぞれは、前記蒸着源の側の内側端部が前記蒸着源から離れる側の外側端部よりも前記マスクに近くなるように傾斜して設けられ、前記複数の制限板のそれぞれの前記蒸着源の側の面に沿って前記マスクに向けて延長した仮想線は、前記開口を通らずに、前記開口部材又は前記複数の制限板のいずれかと交差する、ことを特徴とする成膜装置を提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記基板に付着させる蒸着物質を放出する蒸着源と、
前記マスクに対する前記蒸着源から放出される前記蒸着物質の入射領域を制限する制限部と、
を有し、
前記制限部は、
前記蒸着源を囲むように前記基板の成膜面の法線の方向に沿って配列された複数の制限板と、
前記複数の制限板の前記マスクの側に設けられ、前記蒸着源から放出される前記蒸着物質が通過する開口を含む開口部材と、
を含み、
前記複数の制限板のそれぞれは、前記蒸着源の側の内側端部が前記蒸着源から離れる側の外側端部よりも前記マスクに近くなるように傾斜して設けられ、
前記複数の制限板のそれぞれの前記蒸着源の側の面に沿って前記マスクに向けて延長した仮想線は、前記開口を通らずに、前記開口部材又は前記複数の制限板のいずれかと交差する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記複数の制限板のうちの少なくとも2つの制限板は、ルーバー状に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記マスク及び前記基板に対して前記蒸着源を相対的に駆動する駆動部を更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記駆動部は、前記蒸着源と前記制限部との位置関係を維持した状態で前記蒸着源とともに前記制限部を駆動する、ことを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記開口部材は、前記複数の制限板のうち最も前記マスクの側の制限板と前記マスクとの間に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記複数の制限板は、前記法線の方向における前記マスクからの距離に応じて傾斜が異なるように設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記複数の制限板は、前記法線の方向における前記マスクからの距離が長くなるほど傾斜が強くなるように設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の成膜装置を用いて、マスクを介して基板に成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイに加えて、VR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)などにも適用されてきている。特に、VRやHMDに用いられる表示装置には、ユーザの目眩などを低減するために、画素パターンを高精細に形成することが求められており、更なる高解像度化が必要とされている。
【0003】
有機EL表示装置の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子:OLED)を形成する際に、成膜装置が用いられる。成膜装置は、蒸発源(成膜源)から放出された蒸着物質(成膜材料)を、画素パターンに対応するパターンが形成されたマスクを介して、基板に付着(成膜)させることで、有機物膜や金属膜を形成する。
【0004】
このような成膜装置の一例として、蒸発源から基板への蒸着物質の入射を制限する制限板を備えた成膜装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、制限板からマスクや基板に入射する輻射熱量(2次輻射)を抑制するために、制限板を蒸発源に向けて傾斜させて設置し、蒸発源からの蒸着物質を制限板に付着させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、制限板に付着した蒸着物質が2次蒸発源となり、かかる蒸着物質が基板に入射(付着)する可能性がある。このような場合、基板に付着させる蒸着物質の量(蒸着量)を高精度に制御することが困難となり、基板に形成される膜の品質を低下させることにつながる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、蒸着物質の蒸着量を高精度に制御するのに有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての成膜装置は、マスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、前記基板に付着させる蒸着物質を放出する蒸着源と、前記マスクに対する前記蒸着源から放出される前記蒸着物質の入射領域を制限する制限部と、を有し、前記制限部は、前記蒸着源を囲むように前記基板の成膜面の法線の方向に沿って配列された複数の制限板と、前記複数の制限板の前記マスクの側に設けられ、前記蒸着源から放出される前記蒸着物質が通過する開口を含む開口部材と、を含み、前記複数の制限板のそれぞれは、前記蒸着源の側の内側端部が前記蒸着源から離れる側の外側端部よりも前記マスクに近くなるように傾斜して設けられ、前記複数の制限板のそれぞれの前記蒸着源の側の面に沿って前記マスクに向けて延長した仮想線は、前記開口を通らずに、前記開口部材又は前記複数の制限板のいずれかと交差する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、蒸着物質の蒸着量を高精度に制御するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一側面としての成膜装置を有する成膜システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の一側面としての成膜装置の構成を模式的に示す正面図である。
【
図3】成膜装置の制限部の構成を模式的に示す図である。
【
図4】制限部の複数の制限板の配置の最適化を説明するための図である。
【
図5】電子デバイスとしての有機EL表示装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一側面としての成膜装置1を有する成膜システムSYの構成を模式的に示す平面図である。成膜システムSYは、搬入される基板に対して成膜処理を行い、成膜処理が行われた基板を搬出するシステムである。例えば、複数の成膜システムSYを並べて設置することで、電子デバイスの製造ラインが構成される。成膜システムSY(成膜装置1)は、特に、OLEDなどの有機発光素子、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子を製造するシステムとして好適である。電子デバイスとしては、例えば、発光素子、光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。本実施形態において、電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば、有機EL表示装置)や照明装置(例えば、有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば、有機COMSイメージセンサ)などを含む。
【0014】
成膜システムSYは、本実施形態では、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネル、或いは、VR HMD用の有機EL表示装置の表示パネルを製造するシステムとして具現化される。スマートフォン用の表示パネルを製造する場合、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズの基板(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズの基板(約1500mm×約925mm)が用いられる。このような基板に、有機EL素子を形成するための成膜を行い、かかる基板を切り抜いて複数の小さいサイズのパネルを製造する。また、VR HMD用の表示パネルを製造する場合、所定のサイズのシリコンウエハ(例えば、300mm)が用いられる。このようなシリコンウエハに、有機EL素子を形成するための成膜を行い、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿ってシリコンウエハを切り抜いて複数の小さいサイズのパネルを製造する。但し、基板のサイズや種類は、特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。
【0015】
成膜システムSYは、
図1に示すように、基板Wに対する処理(例えば、成膜)を行う成膜装置1と、搬入室60と、基板搬送室62と、搬出室64と、マスクストック室66と、を有する。なお、成膜装置1の構成については、後で詳細に説明する。
【0016】
搬入室60には、成膜装置1において成膜処理が行われる基板SBが外部から搬入される。基板搬送室62には、基板SBやマスクMSを搬送する搬送ロボット70が設けられている。搬送ロボット70は、搬入室60に搬入された基板SBを成膜装置1に搬送する。また、搬送ロボット70は、成膜装置1において成膜処理が行われた基板SBを搬出室64に搬送する。搬送ロボット70によって搬出室64に搬送された基板SBは、搬出室64から成膜システムSYの外部に搬出される。なお、複数の成膜システムSYが並べて設置されている場合には、上流側の成膜システムSYの搬出室64が下流側の成膜システムSYの基板搬送室62を兼ねていてもよい。マスクストック室66には、成膜装置1における成膜処理に用いられるマスクMSがストックされる。マスクMSには、基板SBに形成するパターン、例えば、画素パターンに対応するパターン(開口)が形成されている。マスクストック室66にストックされているマスクMSは、搬送ロボット70によって成膜装置1に搬送される。
【0017】
成膜システムSYを構成する成膜装置1及び各室の内部は、真空ポンプなどの排気機構によって真空状態に維持される。なお、本実施形態において、「真空状態」とは、大気圧よりも低い圧力の気体で満たされた状態、即ち、減圧状態を意味する。
【0018】
図2は、本発明の一側面としての成膜装置1の構成を模式的に示す正面図である。なお、以下の図において、矢印X及びYは、互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは、垂直方向(鉛直方向)を示す。
【0019】
成膜装置1は、蒸着源から放出される蒸着物質を、マスクMSを介して基板SBに付着(蒸着)させることで、基板SBに膜(薄膜)を形成する成膜処理を行う(即ち、マスクMSを介して基板SBに成膜する)装置である。成膜装置1は、上述したように、複数台を並べて設置することで、製造ラインを構成する。成膜装置1で成膜処理が行われる基板SBの材質としては、ガラス、樹脂、金属などを適宜選択可能であり、特に、ガラス上にポリイミドなどの樹脂層が形成されたものが好適である。蒸着物質としては、有機材料や無機材料(例えば、金属、金属酸化物)などが用いられる。
【0020】
本実施形態では、成膜装置1は、基板SBの成膜面が鉛直方向(Z方向)において下向きになる状態で成膜処理が行われる、所謂、上向き蒸着方式(デポアップ)の構成を有しているが、これに限定されるものではない。例えば、成膜装置1は、基板SBの成膜面が重力の方向と平行になる状態で成膜が行われる構成を採用してもよい。
【0021】
成膜装置1は、
図2に示すように、蒸着源ユニット10と、駆動部20と、成膜ステージ30A及び30Bと、を有する。蒸着源ユニット10、駆動部20、及び、成膜ステージ30A及び30Bは、成膜処理時(使用時)に真空状態に維持されるチャンバの内部に配置される。本実施形態では、成膜ステージ30A及び30Bは、チャンバの内部においてY方向に離間して設けられ、その下方には、蒸着源ユニット10が設けられている。また、チャンバには、基板SBを搬入及び搬出するための複数の搬入出口(不図示)が設けられている。
【0022】
成膜装置1は、成膜装置1の各構成要素(の動作)を制御する制御部CUを更に有する。制御部CUは、例えば、CPUに代表されるプロセッサ、RAM、ROMなどのメモリ及び各種インタフェースを含むコンピュータ(情報処理装置)で構成される。制御部CUは、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することで、成膜装置1における各種の動作や処理を実現する。なお、制御部CUに代えて、成膜システムSYを統括的に制御するホストコンピュータなどで成膜装置1の各構成要素を直接制御することも可能である。
【0023】
成膜ステージ30Aは、基板SBaに対して成膜処理を行うためのステージである。成膜ステージ30Aは、基板SBa及びマスクMSaを保持(支持)するとともに、基板保持部32Aと、マスク保持部34Aと、アライメント機構36Aと、を含む。
【0024】
基板保持部32Aは、基板SBaを保持する。基板保持部32Aは、例えば、静電チャック又は粘着チャックなどで基板SBaを吸着することで基板SBaを保持する。基板保持部32Aは、基板搬送室62に設けられた搬送ロボット70を介して、成膜システムSYに搬入された基板SBaを受け取る。また、基板保持部32Aには、基板保持部32Aを昇降可能にする昇降機構(不図示)が設けられ、搬送ロボット70から受け取った基板SBaをマスク保持部34Aに保持されたマスクMSaの上に重ね合わせることができる。かかる昇降機構には、ボールねじ機構などの当業界で周知の技術を適用することが可能である。
【0025】
マスク保持部34Aは、マスクMSaを保持する。本実施形態では、マスク保持部34Aには、開口(不図示)が設けられ、かかる開口を介して、マスクMSaと重ね合わされた基板SBaの成膜面(膜を形成する面)に対して蒸着物質が付着(入射)する。
【0026】
アライメント機構36Aは、基板SBaとマスクMSaとの相対的な位置を調整するアライメント(位置合わせ)を行う。アライメント機構36Aは、基板保持部32Aとマスク保持部34Aとの水平方向における相対位置を調整することで、基板保持部32Aに保持された基板SBaとマスク保持部34Aに保持されたマスクMSaとのアライメントを行う。基板SBaとマスクMSaとのアライメントには、当業界で周知の技術を適用することが可能である。例えば、まず、アライメント機構36Aは、基板SBa及びマスクMSaのそれぞれに形成されたアライメント用のマークをカメラ(不図示)で検知する。そして、アライメント機構36Aは、これらのマークを検知することで得られる基板SBaの位置とマスクMSaの位置との関係が、所定の条件を満たすように、基板SBaとマスクMSaとの位置関係を調整する。具体的には、基板SBaに形成されたマークと、マスクMSaに形成されたマークとを重ね合わせ、それらのマークのずれ量をカメラで検知し、所定の条件を満たすように(許容範囲に収まるように)、基板SBaの位置を調整する。
【0027】
アライメント機構36Aによって基板SBaとマスクMSaとのアライメントが行われると、基板保持部32Aは、保持している基板SBaをマスクMSaの上に重ね合わせる。基板SBaとマスクMSaとが重ね合わせられた状態において、基板SBaに対して、蒸着源ユニット10による成膜処理が行われる。
【0028】
成膜ステージ30Bは、成膜ステージ30Aと同様な構成を含む。成膜ステージ30Bは、基板保持部32Bと、マスク保持部34Bと、アライメント機構36Bと、を含む。基板保持部32B、マスク保持部34B及びアライメント機構36Bは、それぞれ、基板保持部32A、マスク保持部34A及びアライメント機構36Aに対応する。
【0029】
本実施形態において、成膜装置1は、複数の成膜ステージ30A及び30Bを有し、所謂、デュアルステージの成膜装置として具現化されている。従って、成膜ステージ30Aにおいて、基板SBaに対する成膜処理(蒸着など)が行われる間に、成膜ステージ30Bにおいて、基板SBbとマスクMSbとのアライメントを行うことが可能であり、成膜処理を効率的に行うことができる。但し、成膜装置1は、1つの成膜ステージを有するシングルステージの成膜装置として構成されていてもよい。
【0030】
蒸着源ユニット10は、基板SBに対する成膜処理を行うためのユニットである。蒸着源ユニット10は、蒸着物質(原材料)を収容する収容容器(坩堝)と、かかる収容容器を加熱するヒータなどの加熱部と、を含む。収容容器は、例えば、その上部(上部)に、材料容器の内部で蒸発又は昇華した蒸着物質を、材料容器の外部に放出するための放出口(開口)が設けられている。加熱部は、例えば、材料容器の全体を覆うように設けられ、材料容器に収容された蒸着物質を加熱して蒸発又は昇華させる。このように、収容容器や加熱部は、基板SBに付着させる蒸着物質を放出する蒸着源として機能する。
【0031】
駆動部20は、マスクMS及び基板SBに対して蒸着源ユニット10を相対的に駆動する。駆動部20は、本実施形態では、蒸着源ユニット10を、成膜ステージ30A及び30Bが並ぶ方向(Y方向)に往復駆動する。駆動部20には、当業界で周知の技術を適用することが可能である。例えば、駆動部20は、アクチュエータやボールねじ機構などの駆動源によって、蒸着源ユニット10を、成膜装置1の床に設けられた一対の固定レール35に沿って駆動する。本実施形態では、駆動部20によって、蒸着源ユニット10をマスクMS及び基板SBに対して駆動しながら、蒸着源ユニット10から放出される蒸着物質を基板SBに付着(蒸着)させることで基板SBに蒸着物質の膜(層)を形成する成膜処理を行う。
【0032】
また、成膜装置1は、蒸着源ユニット10と成膜ステージ30A及び30Bのそれぞれとの間に、蒸着源ユニット10から放出される蒸着物質の基板SBへの入射(飛散)を制御するためのシャッタを有していてもよい。シャッタは、蒸着源ユニット10から放出される蒸着物質の基板SBへの入射を遮断する遮断位置と、かかる蒸着物質の基板SBへの入射を許容する許容位置との間で駆動可能に設けられる。
【0033】
また、成膜装置1は、
図3に示すように、上述したシャッタとは別に、成膜装置1のチャンバの内部に配置され、マスクMS及び基板SBに対して蒸着源ユニット10の蒸着源ESから放出される蒸着物質の放出範囲ERを規定するための制限部100を有する。
図3は、制限部100の構成を模式的に示す図である。制限部100は、複数の制限板120と、開口部材140と、を含み、マスクMS及び基板SBに対する蒸着源ESから放出される蒸着物質の入射領域を制限する機能を有する。制限部100を設けることで、マスクMS及び基板SBに対して蒸着物質を入射させる入射領域、即ち、蒸着物質を付着させて成膜する領域を任意の領域に設定することが可能となる。なお、制限部100は、蒸着源ESから放出される蒸着物質のうち、マスクMS及び基板SBに向かう方向以外の方向に飛散する蒸着材料が、マスクMSや基板SBを除く他の部品などに付着することを防止する部材としても機能する。
【0034】
複数の制限板120は、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板部材で構成される。複数の制限板120は、蒸着源ユニット10の蒸着源ESを囲むように、基板SBの成膜面の法線の方向(Z方向)に沿って配列されている。特に、本実施形態では、
図3に示すように、複数の制限板120のそれぞれを羽板で構成し、複数の制限板120の全てを互いに離間して(隙間を空けて)ルーバー状に設けている。但し、複数の制限板120の全てをルーバー状に設ける必要はなく、複数の制限板120のうちの少なくとも2つの制限板120がルーバー状に設けられていればよい。
【0035】
また、本実施形態において、複数の制限板120は、成膜装置1のチャンバの内部において傾斜して設けられている。具体的には、複数の制限板120は、それぞれ、蒸着源ユニット10の蒸着源ESの側の内側端部122が蒸着源ESから離れる側(外側)の外側端部124よりもマスクMS及び基板SBに近くなるように傾斜して設けられている。例えば、複数の制限板120は、4つの柱状部材(不図示)のうちの2つの柱状部材に対して回転可能に備えられ得る。
【0036】
開口部材140は、制限板120と同様に、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板部材で構成される。開口部材140には、蒸着源ユニット10の蒸着源ES(に設けられている放出口)に対応する上方の部分に、蒸着源ES(放出口)から放出される蒸着物質が通過する開口142が形成されている。
【0037】
開口部材140は、複数の制限板120のマスクMSの側、詳細には、複数の制限板120のうち最もマスクMSの側に配列されている制限板120とマスクMSとの間に設けられている。これにより、複数の制限板120及び開口部材140を含む制限部100を簡易に構成することが可能となる。但し、複数の制限板120の間に開口部材140を設けてもよい。
【0038】
このような構成を有する複数の制限板120及び開口部材140(制限部100)が、本実施形態では、蒸着源ユニット10の蒸着源ESの周囲(側方や上方)に設けられている。従って、蒸着源ESから放出される蒸着物質のうち、開口部材140の開口142を通過する蒸着物質のみがマスクMSを介して基板SBに付着することになる。一方、蒸着源ESから放出される蒸着物質のうち、開口部材140の開口142を通過しない蒸着物質は、複数の制限板120(の蒸着源ESの側の面)や開口部材140(の開口142を除く部分)に付着する。
【0039】
成膜装置1において、制限部100の制限板120に付着した蒸着物質は、蒸着源ESからの輻射熱によって制限板120の温度が上昇することで、制限板120から離脱して基板SBに入射(再付着)する可能性がある。換言すれば、制限板120に付着した蒸着物質は、2次蒸発源となる場合がある。このような場合、基板SBに付着させる蒸着物質の量を高精度に制御することが困難となり、基板SBに形成される膜の品質を低下させることになる。
【0040】
そこで、本実施形態では、制限部100の制限板120に付着した蒸着物質が基板SBに入射して再付着することを抑制するために、以下で説明するように、複数の制限板120の配置を最適化する。
【0041】
本実施形態において、複数の制限板120は、上述したように、成膜装置1のチャンバの内部において傾斜して設けられている。ここで、
図4に示すように、複数の制限板120のそれぞれと、基板SBの成膜面の法線NLに直交する方向(水平方向(X方向))とのなす角を傾斜角θとし、複数の制限板120の配置の最適化として、制限板120のそれぞれの傾斜角θを規定する。
【0042】
具体的には、複数の制限板120のそれぞれの蒸着源ESの側の面126に沿って、マスクMSに向けて延長した仮想線VLが開口部材140の開口142を通らないように、複数の制限板120を設ける。更に、仮想線VLが開口部材140又は複数の制限板120のいずれかと交差するように、複数の制限板120を設ける。換言すれば、仮想線VLが開口部材140の開口142を通らず、且つ、開口部材140又は複数の制限板120のいずれかと交差するように、成膜装置1のチャンバの内部において傾斜して設けられている各制限板120の傾斜角θを規定する。これにより、制限板120に付着した蒸着物質が制限板120から離脱したとしても、かかる蒸着物質は、開口部材140の開口142を通過することができずに、他の制限板120のいずれかに付着(再付着)する。なお、制限板120から離脱した蒸着物質が複数の制限板120の間を通過する可能性はある。但し、上述したように、制限板120は、内側端部122が外側端部124よりもマスクMS及び基板SBに近くなるように傾斜して設けられているため、制限板120から離脱した蒸着物質がマスクMSや基板SBに到達することはない。従って、本実施形態では、制限板120に付着した蒸着物質が基板SBに入射して再付着すること(即ち、開口部材140の開口142を通過すること)を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態において、複数の制限板120は、マスクMSとの相対位置、即ち、法線NLの方向(Z方向)におけるマスクMSからの距離に応じて傾斜角θ(傾斜)が異なるように設けられている。具体的には、法線NLの方向におけるマスクMSからの距離が長く(遠く)なるほど、傾斜角θが大きくなる(傾斜が強くなる)ように、複数の制限板120が設けられている。例えば、マスクMSの側に配置された制限板120の傾斜角をθ1、マスクMSと蒸着源ESとの間の中間点に配置された制限板120の傾斜角をθ2、蒸着源ESの側に配置された制限板120の傾斜角をθ3とすると、θ1<θ2<θ3となる。このように、マスクMSからの距離に応じて傾斜角θが異なるように複数の制限板120を設けることで、仮想線VLが開口部材140の開口142を通らず、且つ、開口部材140又は複数の制限板120のいずれかと交差する条件を実現することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、上述したように、駆動部20によって、マスクMS及び基板SBに対して、蒸着源ユニット10、即ち、蒸着源ESを相対的に駆動可能に構成している。従って、蒸着源ESの周囲に設けられる制限部100についても、蒸着源ESの駆動に同期して駆動可能に構成することが好ましい。従って、制限部100は、
図3に示すように、蒸着源ESと複数の制限板120及び開口部材140との位置関係を維持した状態で、駆動部20によって、蒸着源ESとともに駆動されるように構成されている。これにより、成膜処理を行う際に、蒸着源ユニット10を駆動しても、蒸着源ESと制限部100との位置関係が維持されているため、制限板120に付着した蒸着物質が基板SBに入射して再付着することを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、複数の制限板120のそれぞれの傾斜角θは、例えば、成膜装置1の組み立て時(立ち上げ時)やメンテンナス時に設定され、それ以降、一定に維持する(固定される)ことを想定しているが、これに限定されるものではない。例えば、成膜装置1の使用条件(成膜条件など)や蒸着源ESの交換などに応じて各制限板120の傾斜角θを変更可能にするために、複数の制限板120のそれぞれの傾斜角θを可変にする駆動機構を設けてもよい。
【0046】
このように、本実施形態における成膜装置1では、チャンバの内部に制限部100を設け、制限部100が含む複数の制限板120の配置、即ち、各制限板120の傾斜角θを最適化している。これにより、制限板120に付着した蒸着物質が基板SBに入射して再付着することが抑制される。従って、成膜装置1によれば、基板SBに付着させる蒸着物質の量を高精度に制御することが可能となり、基板SBに形成される膜の品質の低下を抑えて高品質に維持することができる。
【0047】
次に、本実施形態における成膜装置1(を有する成膜システムSY)を用いて、電子デバイスを製造する製造方法について説明する。ここでは、電子デバイスとして、有機EL表示装置を例に説明する。
【0048】
まず、有機EL表示装置について説明する。
図5(a)は、有機EL表示装置600の全体的な構成を示す図である。
図5(b)は、有機EL表示装置600の1つの画素の断面構造を示す図である。
【0049】
図5(a)に示すように、有機EL表示装置600は、複数の発光素子を含む画素620がマトリクス状に配置された表示領域610を有する。後述するように、複数の発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有する。なお、本実施形態において、画素とは、表示領域610において所定の色の表示を可能とする最小単位を意味するものとする。例えば、有機EL表示装置600では、互いに異なる色の表示を可能とする第1発光素子620R、第2発光素子620G及び第3発光素子620Bの組み合わせによって、画素620が構成されている。画素620は、一般的には、赤色発光素子、緑色発光素子及び青色発光素子の組み合わせで構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、黄色発光素子、シアン発光素子及び白色発光素子の組み合わせで構成されてもよく、少なくとも1色以上の発光素子で構成されていればよい。
【0050】
図5(b)は、
図5(a)に示すA-B線における部分断面図である。画素620は、基板630の上に、陽極640と、正孔輸送層650と、発光層660R、660G及び660Bのいずれかと、電子輸送層670と、陰極680と、を有する有機EL素子からなる。これらのうち、正孔輸送層650、発光層660R、660G及び660B、及び、電子輸送層670が有機層に相当する。また、本実施形態において、発光層660Rは、赤色を発する有機EL層であり、発光層660Gは、緑色を発する有機EL層であり、発光層660Bは、青色を発する有機EL層である。発光層660R、660G及び660Bは、それぞれ、赤色、緑色及び青色を発する発光素子(有機EL素子と記載する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極640は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層650、電子輸送層670及び陰極680は、複数の発光層660R、660G及び660Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。なお、陽極640と陰極680とが異物によってショートすることを抑制するために、陽極間には絶縁層690が設けられている。更に、有機EL層は、水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層700が設けられている。
【0051】
図5(b)では、正孔輸送層650や電子輸送層670が1つの層として示されているが、有機EL素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されていてもよい。また、陽極640と正孔輸送層650との間には、陽極640から正孔輸送層650への正孔の注入が円滑に行われるようにするためのエネルギーバンド構造を有する正孔注入層が形成されていてもよい。同様に、陰極680と電子輸送層670との間には、電子注入層が形成されていてもよい。
【0052】
以下、有機EL表示装置の製造方法を説明する。
【0053】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び陽極640が形成された基板630を準備する。
【0054】
次いで、陽極640が形成された基板630の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、リソグラフィ法によって、アクリル樹脂の陽極640が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングして絶縁層690を形成する。かかる開口は、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0055】
絶縁層690がパターニングされた基板630を、成膜システムSYの成膜装置1(第1成膜装置)に搬入し、基板保持部(チャックなど)で保持し、表示領域610の陽極640の上に、正孔輸送層650を共通する層として成膜する。正孔輸送層650は、例えば、真空蒸着によって成膜される。正孔輸送層650は、実際には、表示領域610よりも大きさサイズで形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0056】
次いで、正孔輸送層650までが形成された基板630を、成膜装置1(第2成膜装置)に搬入し、基板保持部で保持する。基板630とマスクとのアライメントを行い、基板630とマスクとを重ね合わせ、基板630の赤色を発する発光素子を形成する部分に、赤色を発する発光層660Rを成膜する。
【0057】
発光層660Rの成膜と同様に、成膜装置1(第3成膜装置)において、緑色を発する発光層660Gを成膜し、更に、成膜装置1(第4成膜装置)において、青色を発する発光層660Bを成膜する。発光層660R、660G及び660Bを成膜したら、成膜装置1(第5成膜装置)において、表示領域610の全体に電子輸送層670を成膜する。電子輸送層670は、3つの発光層660R、660G及び660Bに共通する層として形成される。
【0058】
次いで、電子輸送層670まで形成された基板630を、成膜装置1(金属製蒸着材料成膜装置)に搬入し、陰極680を成膜する。
【0059】
そして、陰極680まで形成された基板630を、プラズマCVD装置に搬入し、保護層700を成膜して、有機EL表示装置600が完成する。
【0060】
なお、絶縁層690がパターニングされた基板630を成膜装置1に搬入してから保護層700を成膜するまでの間に、かかる基板630が水分や酸素を含む雰囲気に晒されると、有機EL材料からなる発光層が劣化してしまう可能性がある。従って、成膜装置間における基板630の搬入や搬出は、真空雰囲気下、或いは、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0061】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0062】
1:成膜装置 10:蒸発源ユニット 100:制限部 120:制限板 140:開口部材 142:開口 SB、SBa、SBb:基板 MS、MSa、MSb:マスク ES:蒸着源