(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127735
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ギ酸製造用触媒、ギ酸製造用触媒の製造方法、及びギ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20240912BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240912BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240912BHJP
B01J 23/50 20060101ALI20240912BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20240912BHJP
C07C 53/02 20060101ALI20240912BHJP
C07C 51/00 20060101ALI20240912BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B01J23/89 Z
B01J37/10
B01J37/16
B01J23/50 Z
B01J23/75 Z
C07C53/02
C07C51/00
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212549
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023035054
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月8日 日本化学会第103春季年会予稿集にて公開 令和5年3月22日 日本化学会第103春季年会にて公開 令和5年5月30日 公益社団法人石油学会 第65回年会にて公開 令和5年9月5日 日本金属学会第173回秋期講演大会予稿集にて公開 令和5年9月20日 日本金属学会第173回秋期講演大会にて公開 令和5年10月30日 9th Asia-Pacific Congress on Catalysis(APCAT-9)予稿集にて公開 令和5年11月1日 9th Asia-Pacific Congress on Catalysis(APCAT-9)にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 悠也
(72)【発明者】
【氏名】山根 典之
(72)【発明者】
【氏名】中尾 憲治
(72)【発明者】
【氏名】森 浩亮
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘巳
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC50A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB02
4G169CB74
4G169DA08
4G169EC02Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EE09
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB10
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB45
4G169FC08
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC46
4H006BA05
4H006BA10
4H006BA25
4H006BA30
4H006BB31
4H006BC13
4H006BC32
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA65
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解性に優れたギ酸製造用触媒の提供。
【解決手段】パラジウム成分及び銀成分がチタンを主成分とする触媒担体に担持されたPd系触媒体と、四酸化三コバルトを含むCo系触媒体と、を含む、ギ酸製造用触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム成分及び銀成分がチタンを主成分とする触媒担体に担持されたPd系触媒体と、
四酸化三コバルトを含むCo系触媒体と、を含む、ギ酸製造用触媒。
【請求項2】
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0010以上0.030以下である、請求項1に記載のギ酸製造用触媒。
【請求項3】
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0015以上0.025以下である、請求項2に記載のギ酸製造用触媒。
【請求項4】
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0010以上0.010以下である、請求項2に記載のギ酸製造用触媒。
【請求項5】
前記四酸化三コバルトが、立方晶、六方晶、八面体晶、又は正方晶の結晶構造を有する、請求項1に記載のギ酸製造用触媒。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のギ酸製造用触媒を製造する方法であって、
パラジウム成分及び銀成分を、チタンを主成分とする触媒担体に担持させる第一工程と、前記触媒担体に担持された前記パラジウム成分及び銀成分に対し還元により活性金属を発生させる第二工程と、を経てPd系触媒体を得る工程と、
水熱合成法によって四酸化三コバルトを調製してCo系触媒体を得る工程と、
を有する、ギ酸製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のギ酸製造用触媒を含む非塩基性の溶媒中にて、二酸化炭素及び水素を加圧条件下で反応させてギ酸を製造するギ酸反応工程を有する、ギ酸の製造方法。
【請求項8】
前記非塩基性の溶媒が水である、請求項7に記載のギ酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸製造用触媒、ギ酸製造用触媒の製造方法、及びギ酸の製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への関心が高まり、温室効果ガス排出削減等の国際的枠組みを協議する気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties; COP)では、世界共通の長期目標として産業革命前からの平均気温の上昇を2℃よりも十分下方に保持することを目的とし、排出ピークをできるだけ早期に抑え、最新の科学に従って急激に削減することを目標とされている。COP21パリ協定では、全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するように努めるべきとされている。欧州グリーンディールでは、2050年のカーボンニュートラル化、中間時点での削減目標の引き上げ等、法制化して施策を強固に推進する動きもある。我が国においても、政府が2050年カーボンニュートラルを宣言した。これらの動きを受け、二酸化炭素削減のための対策技術開発が各所で精力的に行われている。対策技術の一つとして、排出された二酸化炭素を有用物に変換する幾つかの試みが提案されているが、二酸化炭素を別の物質に変換させるためには大きなエネルギーが必要であり、反応を促進させるための有効な触媒の開発が望まれている。
【0003】
また、二酸化炭素削減に資する技術とするためには、需要の多い有用物を製造する必要がある。ギ酸(HCOOH)は二酸化炭素(CO2)及び水素(H2)を原料として製造可能な有用物であり、二酸化炭素削減のための対策技術として位置付けられる。
【0004】
化学反応によってギ酸を製造する技術としては、下記文献に記載の技術が挙げられる。例えば、特許文献1には、担体に担持された金属ルテニウムと塩基性有機化合物の存在下、超臨界状態にある二酸化炭素と水素とを反応させることを特徴とするギ酸の製造方法、が開示されている。
また、特許文献2には、還元剤、触媒、極性溶媒および塩基の存在下でHCOOR(RはHまたはNa)を合成する合成方法、が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、第三級アミン(I)、ジアミン(II)、極性溶媒および金を含む触媒の存在下、圧力0.2~30MPaおよび温度100℃での二酸化炭素の水素化によるギ酸の製造方法、が開示されている。
また、特許文献4には、層状複水酸化物の表面に、水素解離可能な金属原子が単原子で担持されている水素化触媒を用いて、二酸化炭素を水素化してギ酸を製造する水素キャリア物質の製造方法、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-288137号公報
【特許文献2】国際公開第2016/024293号
【特許文献3】国際公開第2013/186156号
【特許文献4】特開2018-103158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二酸化炭素(CO2)及び水素(H2)を原料とするギ酸(HCOOH)の製造においては、CO2の水への溶解度が小さいことが難点として挙げられる。そのためCO2は純水中では活性が低く、これを改善させるために塩基性水溶液中で反応を行うことが一般的な方法である。しかし、塩基性水溶液中でギ酸を生成させた場合にはギ酸と塩基とがギ酸塩を形成し、このギ酸塩からギ酸を取り出す際にギ酸塩からギ酸への変換工程が必要となり、つまり余分な工程及び余分なコストを要する。
なお、ギ酸塩を生じさせずにギ酸を製造する方法としては、上記のように溶媒として水を用いる方法が挙げられ、さらに水に替えて他の非塩基性の溶媒を用いる方法も挙げられる。
【0008】
これらに鑑み、本開示は、二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解性に優れたギ酸製造用触媒、該ギ酸製造用触媒の製造方法、及びギ酸塩を形成することなくギ酸を製造することができるギ酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、二酸化炭素(CO2)の非塩基性の溶媒(例えば水など)への溶解性に優れたギ酸製造用触媒について検討したところ、以下の知見を得た。二酸化炭素及び水素からギ酸を製造する機能を有する触媒であるパラジウム成分及び銀成分が触媒担体に担持されたPd系触媒体と、二酸化炭素を水和させる機能を有する触媒である四酸化三コバルトを含むCo系触媒体と、を合わせて用いることで、ギ酸製造用触媒に対し二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解性を与えられることを見出した。そして、非塩基性の溶媒中での二酸化炭素と水素との反応において高い触媒性能を発揮でき、ギ酸塩を形成することなくギ酸を製造することができるギ酸製造用触媒を見出した。
【0010】
つまり、本開示に係るギ酸製造用触媒、ギ酸製造用触媒の製造方法、及びギ酸の製造方法は、以下に示すものである。
【0011】
<1>
パラジウム成分及び銀成分がチタンを主成分とする触媒担体に担持されたPd系触媒体と、
四酸化三コバルトを含むCo系触媒体と、を含む、ギ酸製造用触媒。
<2>
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0010以上0.030以下である、<1>に記載のギ酸製造用触媒。
<3>
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0015以上0.025以下である、<2>に記載のギ酸製造用触媒。
<4>
パラジウムとコバルトとのモル比(Pd/Co)が0.0010以上0.010以下である、<2>に記載のギ酸製造用触媒。
<5>
前記四酸化三コバルトが、立方晶、六方晶、八面体晶、又は正方晶の結晶構造を有する、<1>に記載のギ酸製造用触媒。
<6>
<1>~<5>のいずれか1項に記載のギ酸製造用触媒を製造する方法であって、
パラジウム成分及び銀成分を、チタンを主成分とする触媒担体に担持させる第一工程と、前記触媒担体に担持された前記パラジウム成分及び銀成分に対し還元により活性金属を発生させる第二工程と、を経てPd系触媒体を得る工程と、
水熱合成法によって四酸化三コバルトを調製してCo系触媒体を得る工程と、
を有する、ギ酸製造用触媒の製造方法。
<7>
<1>~<5>のいずれか1項に記載のギ酸製造用触媒を含む非塩基性の溶媒中にて、二酸化炭素及び水素を加圧条件下で反応させてギ酸を製造する、ギ酸の製造方法。
<8>
前記非塩基性の溶媒が水である、<7>に記載のギ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解性に優れたギ酸製造用触媒、該ギ酸製造用触媒の製造方法、及びギ酸塩を形成することなくギ酸を製造することができるギ酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値に「超」及び「未満」が付されていない場合は、これらの数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これらの数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、含有量について「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
含有量(%)として「0~」は、その成分は任意成分であり、含有しなくてもよいことを意味する。
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
<ギ酸製造用触媒>
本開示の実施形態に係るギ酸製造用触媒は、パラジウム成分及び銀成分がチタンを主成分とする触媒担体(以下単に「Ti触媒担体」とも称す。)に担持されたPd系触媒体と、四酸化三コバルトを含むCo系触媒体と、を含む。
【0015】
なお、本開示の実施形態に係るギ酸製造用触媒は、非塩基性の溶媒(例えば水など)中にて、二酸化炭素及び水素を反応させてギ酸を製造ギ酸の製造方法に用いる。
【0016】
(Pd系触媒体)
Pd系触媒体は、パラジウム成分及び銀成分がTi触媒担体に担持されている。
Pd系触媒体におけるパラジウムと銀とのモル比(Pd/Ag)は、0.25以上4.0以下が好ましく、0.25以上1.0以下がより好ましく、0.3以上0.5以下がさらに好ましい。モル比(Pd/Ag)が0.25以上であることで、活性金属であるPdの触媒質量当たりの量が十分に得られ、触媒使用量を低減できる。一方、モル比(Pd/Ag)が4.0以下であることで、Pdが十分に活性化され高い触媒活性が得られる。
【0017】
Pd系触媒体中の銀(Ag)の定量方法は、後述のPdの定量方法と同様に、ICP-AES法にて測定することができる。
【0018】
ここで、パラジウム成分、及び銀成分は、触媒体の製造工程において、焼成処理した状態のもの(未還元のもの)は、主に酸化物として存在するが、還元処理したものは、主として金属状態として存在する。また、製造条件、使用条件、及び保管状態等によって、金属と酸化物が混在しその割合も変化する。本開示における触媒体は、パラジウム成分、及び銀成分が、酸化物として存在している場合でも、反応時の還元雰囲気によって、反応中に還元されて金属化し、必要な触媒機能を奏するため、金属状態のみで存在しなくても構わない。なお、触媒体中に原料(前駆体)が微量残留する場合もある。
【0019】
Pd系触媒体は、比表面積が10m2/g以上1000m2/g以下であることが好ましく、50m2/g以上500m2/g以下がより好ましく、100m2/g以上200m2/g以下がさらに好ましい。比表面積が10m2/g以上であることで、反応場が十分に確保され高い触媒活性が得られる。比表面積が1000m2/g以下であることで、触媒強度を高く保つことができる。
触媒体の比表面積は、ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0020】
Pd系触媒体の形状は、特に制限されないが、粉体、又は粉体が凝集して形成された成型体であることが好ましい。
【0021】
・触媒担体
パラジウム成分及び銀成分は、Ti触媒担体に担持される。Ti触媒担体を用いることで、活性金属を分散させ、反応場である触媒表面積を増加させることができ、触媒活性を向上させられる。
【0022】
パラジウムのTi触媒担体に対する質量比(Pd/Ti触媒担体)は、0.001以上1以下が好ましく、0.005以上0.2以下がより好ましく、0.01以上0.1以下がさらに好ましい。モル比(Pd/Ti触媒担体)が0.001以上であることで、活性金属であるPdの触媒質量当たりの量が十分に得られ、触媒使用量を低減できる。一方、モル比(Pd/Ti触媒担体)が1以下であることで、Pdが過剰とならず、触媒体の表面積が高く保たれ、高い触媒活性が得られる。
【0023】
・チタンを主成分とする触媒担体(Ti触媒担体)
チタンを主成分とする触媒担体とは、触媒担体に対してチタン酸化物の含有量が70質量%以上のものであり、チタン以外に触媒担体の製造工程において含有する不純物を含んでもよい。この含有比率は、不純物とチタン酸化物の合計質量に対する、チタン酸化物の質量である。
Ti触媒担体中のチタン酸化物の含有量の測定方法は、酸分解、アルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法とする。また、触媒体を分析してチタンを主成分とする触媒担体中のチタン酸化物の含有量を測定するためには、触媒体粒子の断面を、エネルギー分散型X線分析装置付属走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)、又はエネルギー分散型X線分析装置付属透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)を用いて成分分析する方法が有効である。SEM、TEMにおける視野の局所的な分析になることから一定のバラつきがあるが、Ti触媒担体中のチタン酸化物含有量は、10点の成分分析値の平均値を採用する。
【0024】
チタンを主成分とする触媒担体は、硫酸法、塩素法といった、通常の製法で製造することができる。また、市販品を用いてもよい。結晶型についても、アナタース型、ルチル型、いずれも用いることができ、形態についても、粉状に限らず使用できる。
【0025】
・Pd系触媒体の製造
Pd系触媒体は、例えば、パラジウム成分及び銀成分をTi触媒担体に担持させる第一工程と、Ti触媒担体に担持されたパラジウム成分及び銀成分に対し還元により活性金属を発生させる第二工程と、を経ることで得られる。
【0026】
Ti触媒担体へパラジウム成分及び銀成分を担持する方法について説明する。担持方法としては、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよいが、担持量の制御が容易な含浸法が好ましい。
【0027】
担持の反応条件は、特に制限されないが、例えばTi触媒担体を分散させた水溶液中に原料のPd化合物およびAg化合物を加え、室温(例えば20℃)で攪拌(例えば1時間攪拌)したのちに、減圧下で水分を除去し、乾燥(例えば24時間乾燥)することで得ることができる。
【0028】
還元の反応条件は、特に制限されないが、上記乾燥後の触媒体を水溶液中で還元剤を用いて還元し、得られた固体を純水で数回洗浄することで、Pd系触媒体を得ることができる。
【0029】
使用する原料(前駆体)であるPd化合物およびAg化合物としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限はないが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが、製造コストの低減や製造作業環境の安全性向上の観点で好ましい。
【0030】
(Co系触媒体)
Co系触媒体は、四酸化三コバルト(Co3O4)を含む。Co系触媒体に含まれるCoの価数は、X線回折法(XRD)、X線光電子分光法(XPS)によって確認することができる。
【0031】
四酸化三コバルトの結晶構造は、特に限定されないが、立方晶、六方晶、八面体晶、又は正方晶の結晶構造を有することが、二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解性を向上させる観点で、好ましい。中でも、立方晶、六方晶、又は正方晶の結晶構造がより好ましく、正方晶の結晶構造がさらに好ましい。なお、結晶構造はSEM、TEM等の電子顕微鏡を用いて確認することができる。四酸化三コバルトの結晶構造は、公知の方法により制御することができる。
【0032】
四酸化三コバルトは、市販品を用いてもよいが、水熱合成法で調製されたものが均一な結晶構造をもつ観点で好ましい。
【0033】
・Co系触媒体の製造
Co系触媒体は、例えば水熱合成法によって四酸化三コバルトを調製することで得ることができる。なお、四酸化三コバルトは、共沈法や均一沈殿法等の通常の方法で得ることもできるが、均一な結晶構造が形成される観点で水熱合成法により得ることが好ましい。
【0034】
例えば、水熱合成法によってCo沈殿物を生成させる工程、及び生成した沈殿物を焼成する工程、を経ることで四酸化三コバルトを調製することができる。
焼成の温度は、例えば200℃以上1200℃以下が好ましい。焼成温度が200℃以上であることで、焼結が良好に進行し、高い触媒活性が得られる。一方、焼成温度が1200℃以下であることで、焼結が進み過ぎることが抑制され、触媒の比表面積が確保でき、高い触媒活性が得られる。
【0035】
四酸化三コバルトの調製に使用する原料であるCo化合物としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限はないが、調製の際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが、製造コストの低減や製造作業環境の安全性を高める観点から好ましい。
【0036】
(パラジウムとコバルトとのモル比)
Pd系触媒体に含まれるパラジウムと、Co系触媒体に含まれるコバルトとのモル比(Pd/Co)は、0.0010以上0.030以下であることが好ましい。モル比(Pd/Co)が、0.0010以上であることで活性金属であるPdの触媒質量当たりの量が十分に確保され、触媒使用量を低減できる。一方、モル比(Pd/Co)が0.030以下ギ酸製造時の二酸化炭素の非塩基性の溶媒への溶解量が十分に高められ、高い触媒活性が得られる。
モル比(Pd/Co)は、触媒使用量の低減及び高い触媒活性の観点から、下限は、0.0015以上がより好ましく、上限は、0.025以下がより好ましく、0.010以下が更に好ましい。
なお、モル比(Pd/Co)におけるCoモル量は、Co3O4由来のものとし、ICP-AES法によって確認出来る。ただし、CoOなどのCo3O4由来以外のCoが含まれる場合は、Co系触媒体に含まれる総Co量と、XRDの測定データをリートベルト解析することで確認出来るCo3O4の存在比からCo3O4由来のCoのモル量を求めることができる。
【0037】
Pd系触媒体中のパラジウム(Pd)の定量方法は、酸分解、アルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法を用いる。触媒体組成の均一性が高くない場合には、1g程度の少量を測定すると再現性が低い可能性を否定できないため、1g程度の少量であれば3回測定する。10g以上で測定できる場合には、均一性を担保できるため1回の測定でよい。含有量(質量%)を求める際、分母は触媒体の総質量、分子はパラジウムの質量であり、ICP-AES法により求めたパラジウムの質量%の値とする。
【0038】
同様に、Co系触媒体中のコバルト(Co)の定量方法は、酸分解、アルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法を用いる。触媒体組成の均一性が高くない場合1g程度の少量であれば3回測定し、10g以上で測定できる場合には1回の測定でよい。含有量(質量%)を求める際、分母は触媒体の総質量、分子はコバルトの質量であり、ICP-AES法により求めたコバルトの質量%の値とする。
【0039】
なお、ギ酸製造用触媒におけるPd系触媒体とCo系触媒体との質量比(Pd系触媒体/Co系触媒体)は、0.2以上3以下が好ましく、0.3以上2以下がより好ましく、0.5以上1以下がさらに好ましい。
【0040】
<ギ酸製造用触媒の製造方法>
ギ酸製造用触媒は、Pd系触媒体を得る工程と、Co系触媒体を得る工程と、をそれぞれ行うことにより製造することができる。なお、それぞれの工程で得られたPd系触媒体及びCo系触媒体は、ギ酸製造の際に溶媒中にそれぞれの触媒体を添加して該溶媒中で混合させてもよく、Pd系触媒体とCo系触媒体とをギ酸製造に用いる前に予め混合しておいてもよい。
【0041】
Pd系触媒体を得る工程は、パラジウム及び銀をTi触媒担体に担持させる第一工程と、前記Ti触媒担体に担持された前記パラジウム及び銀に対し還元により活性金属を発生させる第二工程と、を経ることで行われる。各工程については、既に説明した通りである。
Co系触媒体を得る工程は、水熱合成法によって四酸化三コバルトを調製することで行われる。該調製については、既に説明した通りである。
【0042】
また、Pd系触媒体とCo系触媒体とをギ酸製造の前に溶媒に混合して用いてもよく、二酸化炭素と水素との反応中にPd系触媒体とCo系触媒体とを加えて用いてもよい。Pd系触媒体とCo系触媒体は、溶媒中に同時に加えてもよく、順に加えてもよく、加える順番はいずれが先であってもよい。
【0043】
ギ酸製造用触媒は、上述したPd系触媒体とCo系触媒体だけで構成されることに限定されず、それ以外に、製造工程で混入する不純物やギ酸製造効果を阻害しない成分が含まれていても構わない。その際、ギ酸製造用触媒中には、上述したPd系触媒体とCo系触媒体が合計で90質量%以上含まれることが好ましい。
【0044】
<ギ酸の製造方法>
本開示の実施形態に係るギ酸の製造方法は、本開示の実施形態に係るギ酸製造用触媒を含む非塩基性の溶媒中にて、二酸化炭素及び水素を加圧条件下で反応させてギ酸を製造するギ酸反応工程を有する。
【0045】
本開示では、ギ酸の原料ガスとして二酸化炭素(CO2)及び水素(H2)を用いる。二酸化炭素と水素との圧比(CO2/H2)は、0.2以上5以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましい。圧比(CO2/H2)が0.2以上であることで水素の存在量が十分に確保され水素化反応が進行しやすい。一方、圧比(CO2/H2)5を上回以下であることで、触媒活性を高く維持できる。
【0046】
溶媒(反応溶液)としては、非塩基性の溶媒が用いられ、例えばメタノールに代表されるアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)に代表されるエーテル系溶媒、アセトン、及び水等を用いることができる。溶媒としては、ギ酸塩を形成せず且つ環境負荷が小さいとの観点から、水(特に純水)が好ましい。
ギ酸製造用触媒の量に対する溶媒の量については、特に限定されないが、ギ酸製造用触媒と溶媒との質量比(ギ酸製造用触媒の質量/溶媒の質量)が、1~10の範囲が好ましい。
また、溶媒中に本実施形態に係るギ酸製造触媒以外のものが含まれていても、ギ酸製造効果を阻害しない限り構わない。
【0047】
ギ酸の製造における反応温度は、特に制限されないが、20℃以上200℃以下であることが好ましく、40℃以上140℃以下がより好ましい。反応温度が20℃以上であることで、十分な触媒活性が得られる。一方、反応温度が200℃以下であることで、非塩基性の溶媒への二酸化炭素の溶解性が高められる。
【0048】
ギ酸の製造における反応時の圧力は、特に制限されないが、0.1MPa超10MPa以下であることが好ましく、1MPa以上5MPa以下であることがより好ましい。圧力が0.1MPaを上回ることで、十分な触媒活性が得られる。圧力が10MPa以下であることで、プラントの耐圧設計が高過ぎる設定とならず設備費を抑制できる。
【0049】
また、CO2からのギ酸の合成では均一触媒と不均一触媒とがそれぞれ開発されているが、工業化を考えた場合、均一触媒は反応物と触媒が均一に混ざり合い生成物と触媒の分離が困難である一方で、本開示の実施形態に係るギ酸製造用触媒を含む不均一触媒は、物理的な分離等によって容易に生成物と触媒を分離でき、工業化に有利である。
【0050】
また、本開示の実施形態に係るギ酸の製造方法を行った後に、溶媒(反応溶液)中に未反応の原料ガス(未反応の二酸化炭素及び水素)が残存している場合には、未反応の原料ガスを回収して、本開示の実施形態に係るギ酸の製造方法における原料ガスとして再度用いてもよい。
【実施例0051】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0052】
(Pd系触媒体の製造:チタンを主成分とする触媒担体)
パラジウム成分(テトラアンミンパラジウム(II)クロリド一水和物、アルドリッチ社製、品番:323438)及び銀成分(硝酸銀、ナカライテスク株式会社製、品番:31018-72)を、市販のチタンを主成分とする触媒担体(日本アエロジル社製、品番:二酸化チタンP25、触媒担体に対するチタン酸化物の含有量:70質量%以上)を分散させた水溶液中に添加し、室温(20℃)で1時間撹拌し、その後減圧下で水分を除去し、24時間乾燥した。
次いで、乾燥後の固体を水溶液中で還元剤(NaBH4)を用いて還元し、得られた固体を純水で数回洗浄することで、Pd系触媒体(PdAg/TiO2)を得た。
得られたPd系触媒体では、パラジウムと銀とのモル比(Pd/Ag)が1.0、パラジウムの触媒担体に対する質量比(Pd/触媒担体)が0.01、比表面積が100m2/gであった。
【0053】
(Co系触媒体の製造)
・立方晶のCo系触媒体
Co(NO3)2・6H2O:3.5g、NaOH:0.12g、及び水(H2O):12mLを混合し、水熱合成法によって180℃、10時間の条件で反応させCo沈殿物を生成させた。その後、遠心分離を行った後、生成した沈殿物に対し500℃、3時間の条件で焼成を行い、四酸化三コバルト(Co3O4)を得た。電子顕微鏡で観察を行ったところ、結晶構造は立方晶であった。
【0054】
・六方晶のCo系触媒体
Co(NO3)2・6H2O:291mL、及び水(H2O):20mLを混合し、さらにオレイルアミン:4mL、及びエタノール:10mLを加えて攪拌した。その後、水熱合成法によって180℃、12時間の条件で反応させCo沈殿物を生成させた。次いで、遠心分離を行った後、生成した沈殿物に対し350℃、3時間の条件で焼成を行い、四酸化三コバルト(Co3O4)を得た。電子顕微鏡で観察を行ったところ、結晶構造は六方晶であった。
【0055】
・八面体晶のCo系触媒体
Co(NO3)2・6H2O:17.5g、NaOH:0.8g、及び水(H2O):12mLを混合し、水熱合成法によって180℃、10時間の条件で反応させCo沈殿物を生成させた。その後、遠心分離を行った後、生成した沈殿物に対し500℃、3時間の条件で焼成を行い、四酸化三コバルト(Co3O4)を得た。電子顕微鏡で観察を行ったところ、結晶構造は八面体晶であった。
【0056】
・正方晶のCo系触媒体
Co(OAc)2・6H2O:250mL、及びエチレングリコール:18mLを混合し、水熱合成法によって200℃、18時間の条件で反応させCo沈殿物を生成させた。次いで、遠心分離を行った後、生成した沈殿物に対し350℃、3時間の条件で焼成を行い、四酸化三コバルト(Co3O4)を得た。電子顕微鏡で観察を行ったところ、結晶構造は正方晶であった。
【0057】
<実施例1~18、比較例1~3>
反応ガスとして、二酸化炭素:1MPa、及び水素:1MPaを用い、用いる触媒1、触媒2、触媒比(質量比)、反応温度、全圧力、反応時間を、表1に記載の条件として、ギ酸の製造を実施した。また、溶媒は水を15mL使用し、触媒1は30mg使用し、触媒2は、記載の触媒比(質量比)になるように使用した。
【0058】
【0059】
なお、市販のCo系触媒体(Co3O4)としては(富士フイルム和光純薬(株)製、品番:033-08795、球状)を用い、市販のCoOとしては(三津和化学薬品(株)製、品番:55932)を用いた。
【0060】
触媒比に関し、実施例1~7と比較例1との対比により、Co系触媒体を用いることで優れたギ酸生成量が達成されており、さらにCo系触媒体をPd系触媒体に対して1/2倍用いている実施例3においてより優れたギ酸生成量が達成されていることが分かる。
Co系触媒体の結晶構造に関し、実施例8~11の対比により、正方晶のCo系触媒体を用いている実施例11においてより優れたギ酸生成量が達成されていることが分かる。
反応温度に関し、実施例8及び12~15の対比により、100℃の反応温度である実施例8においてより優れたギ酸生成量が達成されていることが分かる。
全圧力に関し、実施例8及び16~17の対比により、4MPaの全圧力である実施例17においてより優れたギ酸生成量が達成されていることが分かる。
【0061】
以上より、本実施例では、比較例に比べて、ギ酸塩を形成することなくギ酸を製造することができるギ酸の製造方法を提供できることが分かる。
【0062】
また、触媒2として用いているCo3O4に関し、結晶構造毎、つまり市販品(実施例4)、立方晶(実施例8)、六方晶(実施例9)、八面体晶(実施例10)、及び正方晶(実施例11)毎に、表面積当たりの触媒活性(ギ酸生成量)を求めた結果を表2に示す。表面積当たりの触媒活性としては、立方晶において触媒活性が高い傾向にあることが判った。
【0063】