(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127785
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】アニオン性薬物放出性コンタクトレンズ用組成物、シリコーンハイドロゲル、及びコンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20240912BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240912BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240912BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240912BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240912BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240912BHJP
C08F 220/54 20060101ALI20240912BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20240912BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20240912BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240912BHJP
A61F 9/013 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G02C7/04
A61K31/7088
A61K45/00
A61K9/06
A61K47/32
A61K47/34
C08F220/54
C08F220/34
C08F220/36
C08F290/06
A61F9/013 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022433
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023036343
(32)【優先日】2023-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 大樹
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大樹
【テーマコード(参考)】
2H006
4C076
4C084
4C086
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
2H006BB03
2H006BB05
2H006BB08
2H006BB09
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4J127EA13
4J127FA26
(57)【要約】
【課題】薬物担持量及び放出量を高くするためにカチオン性モノマーの配合量を多くしても含水率の上昇を抑制でき、薬物の担持及び放出に伴う形状変化を抑制でき、透明性にも優れるアニオン性薬物放出性コンタクトレンズを製造できるシリコーンハイドロゲルが得られる組成物の提供。
【解決手段】アニオン性薬物放出性コンタクトレンズ用組成物であって、アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)とを含有する、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性薬物放出性コンタクトレンズ用組成物であって、
アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)とを含有する、組成物。
【請求項2】
前記アンモニウム塩含有モノマー(B)が、アンモニウム塩含有カチオン性モノマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アンモニウム塩含有モノマー(B)が、エチレン性不飽和結合と、アラルキル基とを有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アンモニウム塩含有モノマー(B)の含有割合が、前記組成物の総量の3~30質量%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記シリコーンモノマー(C)の含有割合が、前記組成物の総量の5~60質量%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記シリコーンモノマー(C)の総量のうち、親水性基を有するシリコーンモノマー(C)の割合が25質量%以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記アニオン性薬物が、核酸医薬である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記アニオン性薬物が、アニオン性低分子薬である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させたときの収縮率が、3%以下となる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルの薬物担持量が、乾燥質量100質量%に対して1質量%以上となる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させた後、前記シリコーンハイドロゲルを緩衝液に浸漬させたとき、24時間後の薬物放出量が、薬物担持量100質量%に対して70質量%以上となる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られる、シリコーンハイドロゲル。
【請求項13】
請求項12に記載のシリコーンハイドロゲルを有する、コンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性薬物放出性コンタクトレンズ用組成物、シリコーンハイドロゲル、及びコンタクトレンズに関する。本発明はより詳細には、アニオン性薬物を放出するためのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであって、薬物担持量及び放出量が十分であり、透明性、形状維持性に優れるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを製造するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障やドライアイ等の眼疾患に対する治療法としては、点眼が一般的である。しかしながら点眼による治療は、簡便である反面、薬物が涙液によって速やかに希釈され、そのほとんどが排出されてしまう。そのため十分な薬物投与のためには、薬物濃度の増加や数時間おきの点眼が必要となるが、これには副作用のリスクや点眼の忘れが懸念される。
【0003】
コンタクトレンズ装用者への点眼による薬物の投与は、コンタクトレンズに対して歪みや変質等の悪影響を与える可能性がある。市販されている点眼薬の多くに添加されている防腐剤がコンタクトレンズ内部に取り込まれることにより、アレルギーを引き起こすこともある。したがって、点眼による薬物治療は、コンタクトレンズ装用者には適していない。
【0004】
そこで、薬物を長い時間患部に作用させることができ、かつコンタクトレンズ装用者にも適した薬物放出性コンタクトレンズが提案されている。
治療用薬物を含有するコンタクトレンズに適用可能なハイドロゲルとして、特許文献1には、カチオン性モノマーを配合したハイドロゲルにアニオン性薬物を吸着保持するハイドロゲルが提案されている。また、特許文献2には、ハイドロゲルの構成成分であるアニオン性モノマーとカチオン性モノマーとのモル比を所定の範囲内とすることで、余剰のカチオン性モノマーにアニオン性薬物がイオン結合するハイドロゲルが提案されている。
【0005】
一方、近年ではコンタクトレンズにおける酸素透過性が着目されている。コンタクトレンズ装用時の角膜への酸素供給が不十分であると、角膜細胞の分裂が抑制されるため、新陳代謝が悪くなる。結果、角膜の障害、細菌感染への抵抗力の低下を引き起こすことがある。
シロキサン単位を繰り返し単位とするシロキサン主鎖を有するシリコーンポリマーは、酸素透過性に優れている。コンタクトレンズを始めとする各種の眼用レンズ用材料として、種々のシリコーンポリマーが使用されている。しかし、一般にシリコーンポリマーは疎水性であるため、コンタクトレンズ表面の疎水化や、添加量の制限に課題がある。
そこで特許文献3には、親水性の置換基を有し、かつシリコーン含量の多いシリコーンモノマーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-145456号公報
【特許文献2】特開2004-307574号公報
【特許文献3】国際公報第2013/098966号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2にそれぞれ記載のハイドロゲルにおいては、カチオン性モノマーとのイオン結合によりアニオン性薬物を捕捉することができる。ハイドロゲルへの薬物担持量を増加させるためには、カチオン性モノマーの配合量を増加させればよい。
しかし、一般的なカチオン性モノマーは極めて高い極性を有している。そのため、カチオン性モノマーの配合量を増やすと、ハイドロゲルの含水率が上昇する。結果、ゲルの強度が低下する。
【0008】
また、ハイドロゲルは薬物の担持や放出によってその形状が大きく変化することがある。ハイドロゲルと薬物との相互作用の影響があるためである。
特許文献2に記載のハイドロゲルは、カチオン性モノマー及びアニオン性モノマーを含有する。しかし、アニオン性薬物の担持量の増加のために、カチオン性モノマーの配合比を大きくすると、薬物の放出後に形状が大きく変化する可能性がある。配合できるカチオン性モノマー量には制限があるため、アニオン性薬物の担持量及び放出量も制限される。
特許文献3に記載のシリコーンモノマーでは、親水性が改善されているものの、1分子当たりのシリコーン含有量が多い。イオン性モノマー等の極めて極性の高い分子を添加したとき、配合液が白濁し得る。そのため、コンタクトレンズの透明性が損なわれる可能性がある。
【0009】
本発明は、薬物担持量及び放出量を高くするためにカチオン性モノマーの配合量を多くしても含水率の上昇を抑制でき、薬物の担持及び放出に伴う形状変化を抑制でき、透明性にも優れるアニオン性薬物放出性コンタクトレンズを製造できるシリコーンハイドロゲルが得られる組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題のうち、薬物担持放出前後のハイドロゲルの形状変化を抑制するためには、アニオン性薬物がハイドロゲル中のカチオン性基に吸着された際に、薬物がその近傍の高分子鎖と強い相互作用を形成せず、凝集を引き起こさないことが重要であると考えた。また、その相互作用を制御するためには、薬物近傍の親水性及び疎水性の条件、酸性及び塩基性の条件、立体障害等のバランスを整える必要性がある、という考えに至り鋭意研究した。その結果、比較的親水性が高く、弱い塩基性条件を与えるアミド基含有モノマーと、比較的疎水性であり、立体障害の大きいアンモニウム塩含有モノマーとを配合することで、薬物の担持及び放出に伴うハイドロゲルの形状変化を抑制できることを見出した。
【0011】
ところが、上記ハイドロゲルの薬物担持量及び放出量を十分とするためにアンモニウム塩含有モノマーの配合量を多くすると、含水率が大きく上昇するため、機械的強度が十分とならない場合がある。そこで本発明者らは、アミド基含有モノマー及びアンモニウム塩含有モノマーに加えて、疎水性が高く、柔軟性のあるシリコーンモノマーをさらに配合することを想到した。
通常、含水率を十分抑制しつつ、薬物担持量及び放出量も十分とするために、カチオン性モノマーとシリコーンモノマーを必要量配合すると、イオンゆえの高い親水性と、シリコーンゆえの高い疎水性のために、非相溶化してしまい、組成物あるいはシリコーンハイドロゲルが白濁することがある。しかしながら、比較的疎水性で立体障害の大きいアンモニウム塩含有モノマーを使用することで、アミド基含有モノマー及びシリコーンモノマーとの相溶性を改善でき、透明なシリコーンハイドロゲルが得られることを見出した。
【0012】
上述の通り、本発明者らは、アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)と、を配合することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明は以下の態様を有する。
[1]アニオン性薬物放出性コンタクトレンズ用組成物であって、
アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)とを含有する、組成物。
[2]前記アンモニウム塩含有モノマー(B)が、アンモニウム塩含有カチオン性モノマーである、[1]に記載の組成物。
[3]前記アンモニウム塩含有モノマー(B)が、エチレン性不飽和結合と、アラルキル基とを有する、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記アンモニウム塩含有モノマー(B)の含有割合が、前記組成物の総量の3~30質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記シリコーンモノマー(C)の含有割合が、前記組成物の総量の5~60質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記シリコーンモノマー(C)の総量のうち、親水性基を有するシリコーンモノマー(C)の割合が25質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記アニオン性薬物が、核酸医薬である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記アニオン性薬物が、アニオン性低分子薬である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させたときの収縮率が、3%以下となる、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルの薬物担持量が、乾燥質量100質量%に対して1質量%以上となる、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]前記組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られるシリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させた後、前記シリコーンハイドロゲルを緩衝液に浸漬させたとき、24時間後の薬物放出量が、薬物担持量100質量%に対して70質量%以上となる、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12][1]~[11]のいずれかに記載の組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで得られる、シリコーンハイドロゲル。
[13][12]に記載のシリコーンハイドロゲルを有する、コンタクトレンズ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薬物担持量及び放出量を高くするためにカチオン性モノマーの配合量を多くしても含水率の上昇を抑制でき、薬物の担持及び放出に伴う形状変化を抑制でき、透明性にも優れるアニオン性薬物放出性コンタクトレンズを製造できるシリコーンハイドロゲルが得られる組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、いくつかの実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
【0016】
用語の意味は以下の通りである。
「1分子中に炭素原子を10個以上有する」とは、アンモニウム塩含有モノマー(B)を分子式で表した際の「C」の右隣に記載される数字が10以上であるということであり、エチレン性不飽和結合やカルボニル基の炭素原子も含めた、分子中の総炭素原子数を示すこととする。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。本明細書に開示の数値範囲は、その下限値及び上限値を任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0017】
<組成物>
本発明の組成物(以下、「本組成物」と記す。)は、アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)とを含有する。
本組成物は、アニオン性薬物放出性コンタクトレンズを製造するためのものである。本組成物の硬化物と水とを接触させることで、アニオン性薬物放出性コンタクトレンズの製造に適したシリコーンハイドロゲルが得られる。
【0018】
本組成物によれば、アニオン性薬物のドラッグデリバリーシステム担体として十分量の薬物の担持及び放出を可能とするハイドロゲルであって、含水率の上昇に伴うゲル強度の低下や、薬物の担持及び放出に伴う形状変化を抑制でき、シリコーンを含有するにもかかわらず透明性に優れたシリコーンハイドロゲルが得られる。
以下、アミド基含有モノマー(A)、アンモニウム塩含有モノマー(B)、シリコーンモノマー(C)について順に説明した後、組成物を構成し得る各成分について説明する。
【0019】
(アミド基含有モノマー(A))
アミド基含有モノマー(A)は、親水性、アンモニウム塩含有モノマー(B)やシリコーンモノマー(C)との相溶性、アニオン性薬物を吸着した状態でのハイドロゲルの形状維持性に寄与する。
親水性が高いことや弱い塩基性条件を付与すること等から、アニオン性薬物がシリコーンハイドロゲルのカチオンに吸着された際に、分子間の凝集を抑制できると考えられる。
【0020】
アミド基含有モノマー(A)は、モノマー、マクロモノマー、プレポリマーのいずれでもよい。例えば、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルアセトアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、モルフォリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0021】
アミド基含有モノマー(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のうち、親水性、入手の容易さの理由からN,N-ジメチルアクリルアミドを含むことが好ましい。
【0022】
(アンモニウム塩含有モノマー(B))
アンモニウム塩含有モノマー(B)は、1分子中に炭素原子を10個以上有する。アンモニウム塩含有モノマー(B)は、アニオン性薬物の担持放出特性、シリコーンモノマー(C)との相溶性、アニオン性薬物を吸着した状態でのシリコーンハイドロゲルの収縮抑制に寄与する成分である。
【0023】
アンモニウム塩含有モノマー(B)としては、アニオン性薬剤に対する相互作用が強いアンモニウム塩含有カチオン性モノマーが好ましい。アンモニウム塩含有カチオン性モノマーとは、アンモニウム塩を含有し、且つ全体としての性質がカチオン性に寄っているモノマーである。
【0024】
アンモニウム塩含有モノマー(B)の1分子中の炭素原子数は10以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上がさらに好ましい。該炭素原子数が前記下限値以上であるため、アンモニウム塩含有モノマー(B)の疎水性が十分となる。よって、シリコーンモノマー(C)との溶解性に優れ、シリコーンハイドロゲルの透明性を良好にすることができる。アンモニウム塩含有モノマー(B)の1分子中の炭素原子数の上限値は特に限定されるものではないが、50以下、40以下、30以下等であり得る。
【0025】
アンモニウム塩含有モノマー(B)は置換基を有することが好ましく、アラルキル基を有することがより好ましい。アンモニウム塩含有モノマー(B)が置換基を有することで、立体障害により、薬物を吸着した状態でのシリコーンハイドロゲルの形状維持性が良好となる。アンモニウム塩含有モノマー(B)としては、エチレン性不飽和結合と、アラルキル基とを有するモノマーが好ましい。エチレン性不飽和結合を有することによって、他のビニル系モノマーとの共重合性が高くなる。
【0026】
アンモニウム塩含有モノマー(B)は、モノマー、マクロモノマー、プレポリマーのいずれでもよい。また、アンモニウム塩含有モノマー(B)は、アンモニウム塩を2個以上含んでもよく、アンモニウム以外の他のイオンを同時にさらに含んでもよい。
【0027】
アンモニウム塩含有モノマー(B)としては、例えば、ビニルベンジルジメチルベンジルアンモニウム塩、ビニルベンジルジメチルn-ブチルアンモニウム塩、(メタ)アクリルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルベンジルトリエチルアンモニウム塩、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、2-(メタ)アクリロキシエチルジメチルn-ペンチルアンモニウム塩等(特にアンモニウムクロライド)が挙げられる。上記のうち、疎水性、シリコーンハイドロゲルの形状維持性、入手の容易さの観点から、(メタ)アクリルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドが特に好ましい。
アンモニウム塩含有モノマー(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(シリコーンモノマー(C))
シリコーンモノマーは、シリコーンハイドロゲルの酸素透過性、機械的強度、含水率等に寄与する。シリコーンモノマー(C)を配合することで、含水率の増大を抑制しつつ、柔軟性と酸素透過性を付与することができる。
シリコーンモノマー(C)は、モノマー、マクロモノマー、プレポリマーのいずれであってもよい。また、シリコーンモノマー(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
シリコーンモノマー(C)としては、例えば、トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキシプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、(3-(メタ)アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、O-((メタ)アクリルオキシ)―3―[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピルカルバメート、(メタ)アクリルオキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)シラノール、O-(メタ)アクリルオキシ(ポリエチレンオキシ)トリメチルシラン等が挙げられる。
【0030】
アミド基含有モノマー(A)及びアンモニウム塩含有モノマー(B)との相溶性の向上のためには、非イオン性の親水性基を有するシリコーンモノマー(C)を少なくとも1種用いることが好ましい。シリコーンモノマー(C)の総量のうち、親水性基を有するシリコーンモノマー(C)の割合は25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0031】
シリコーンモノマー(C)の親水性基としては、例えば、水酸基、アミド基、ポリエチレングルコール基、オリゴエチレングルコール基、アミノ基等が挙げられる。例えば上記に挙げたシリコーンモノマー(C)のうち、(3-(メタ)アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、O-((メタ)アクリルオキシ)-3-[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル]プロピルカルバメート、(メタ)アクリルオキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)シラノール、O-(メタ)アクリルオキシ(ポリエチレンオキシ)トリメチルシランは親水基を有する。
親水性及びシリコーン含有量、入手の容易さの観点から、(3-(メタ)アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランが特に好ましい。
【0032】
シリコーンモノマー(C)としては、柔軟性向上、酸素透過性付与の観点から、シリコーンマクロマー、すなわちエチレン性不飽和結合末端を有するオルガノシロキサンも好ましい。例えば、下記式(1)で表される構造のシリコーンモノマー(C)が挙げられる。
【0033】
【0034】
式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2~R7はそれぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシ基又はアルコキシアルキル基を表す。jは1~10の自然数であり、kは1~30の自然数であり、lは1~3の自然数である。lが1のとき、複数のR2は同じでも異なってもよく、lが2以上のとき、複数のR3~R7は同じでも異なってもよい。また、kが2以上のとき、複数のR3及びR4は同じでも異なってもよい。
【0035】
R1としては、入手が容易であることから、メチル基が好ましい。
【0036】
R2~R7におけるアルキル基としては、炭素数1~22の分岐状又は直鎖状のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、ペンチル基(アミル基)、i-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、i-オクチル基、ノニル基、i-ノニル基、デシル基、i-デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、i-オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ドコシル基が挙げられる。
【0037】
R2~R7のアルコキシ基としては、炭素数1~22の分岐状又は直鎖状のアルコキシ基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
R2~R7のアルコキシアルキル基としては、炭素数1~22の分岐状又は直鎖状のアルコキシアルキル基が挙げられる。例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、プロポキシメチル基、プロポキシエチル基、プロポキシプロピル基、プロポキシブチル基、ブトキシメチル基、ブトキシエチル基、ブトキシプロピル基、ブトキシブチル基が挙げられる。
【0038】
R2~R7はハロゲン化アルキル基であってもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
なかでも、R2は非置換の又は置換基を有するアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
また、R3~R7はアルキル基又はハロゲン化アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1-トリフルオロメチルエチル基がより好ましい。
【0039】
アミド基含有モノマー(A)との相溶性に優れることや、シリコーンハイドロゲルの酸素透過性が向上することから、R3~R7のうち少なくとも1つがハロゲン化アルキル基であることが好ましく、フッ化アルキル基であることがより好ましい。
【0040】
jは1~10の自然数であり、1~5が好ましい。
kは1~30の自然数であり、1~20が好ましい。また、kが異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
lは1~3の自然数であり、1又は2が好ましい。
【0041】
シリコーンモノマー(C)としては、下記の化合物のうち少なくとも1種が好ましい。
・式(1)のR1~R6がメチル基であり、R7がn-ブチル基であり、jが3であり、lが1である化合物(JNC社製「サイラプレーン(登録商標)FM-0711」、「サイラプレーン(登録商標)FM-0721」及び「サイラプレーン(登録商標)FM-0725」、Gelest社製「MCR-M07」及び「MCR-M11」)
・式(1)のR1、R2、R4及びR6がメチル基であり、R3及びR5が3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、R7がn-ブチル基であり、jが3であり、lが1である化合物(Gelest社製「MFR-M15」)
【0042】
アミド基含有モノマー(A)との相溶性に優れることやシリコーンハイドロゲルの酸素透過性が向上することから、フッ化アルキル基を有するMFR-M15が上記の中でも特に好ましい。
【0043】
シリコーンモノマー(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アミド基含有モノマー(A)及びアンモニウム塩含有モノマー(B)との相溶性や、シリコーンハイドロゲルの含水率、透明性及び柔軟性が好適となることから、2種以上を併用することが好ましい。
【0044】
(架橋剤)
本組成物は、シリコーンハイドロゲルの耐溶剤性を高めるために、架橋剤をさらに含有してもよい。架橋剤は、上述したアミド基含有モノマー(A)、アンモニウム塩含有モノマー(B)及びシリコーンモノマー(C)の重合反応時の架橋剤として働く化合物であれば、特に限定されない。
【0045】
架橋剤としては、2つ以上の重合性不飽和基を有するものが好ましい。例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(重合開始剤)
本組成物は、重合反応を効果的に行うために、重合開始剤をさらに含有することが好ましい。重合開始剤としては、光重合開始剤、熱重合開始剤が挙げられる。
光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、α-ヒドロキシアセトフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類、アシルホスフィンオキサイド類、オキシムエステル化合物等が挙げられる。中でも、α-ヒドロキシアルキルフェノン類は硬化時に黄変を起こしにくく、透明な硬化物が得られる点で好ましい。
熱重合開始剤としては、上記ラジカル重合開始剤で例示した有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。
重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(他のモノマー成分)
本組成物は、上記成分に加え、本発明の目的を阻害しない範囲で、含水率及び機械物性の調節や、紫外線吸収及び着色等の目的で他のモノマー成分をさらに含有してもよい。
【0048】
(組成)
アミド基含有モノマー(A)の含有割合は、組成物の総量の10~92質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。アミド基含有モノマー(A)の含有割合が前記数値範囲内であると、親水性及びアンモニウム塩含有モノマー(B)やシリコーンモノマー(C)との相溶性が良好となる。
【0049】
アンモニウム塩含有モノマー(B)の含有割合は、組成物の総量の3~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、7~16質量%がさらに好ましい。アンモニウム塩含有モノマー(B)の含有割合が前記数値範囲内であると、薬物担持量及び放出量が十分となり、また、シリコーンハイドロゲルの含水率が好適な範囲となる。
【0050】
シリコーンモノマー(C)の含有割合は、組成物の総量の5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、15~40質量%がさらに好ましい。シリコーンモノマー(C)の含有割合が前記数値範囲内であると、シリコーンハイドロゲルの含水率と柔軟性、透明性が好適な範囲となる。
【0051】
本組成物中の架橋剤の含有割合は、組成物の総量の0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。架橋剤の含有割合が前記数値範囲内であると、成形体及びシリコーンハイドロゲルの成形性及び耐溶剤性が良好となる。
【0052】
重合開始剤の含有割合は、組成物中のモノマー成分の合計を100質量部に対して、0.1~3質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましく、0.2~1質量部がさらに好ましい。重合開始剤の含有割合が前記数値範囲内であれば、重合率が高くなり、重合開始剤由来の分解物等が残存しにくい。
【0053】
(組成物の製造方法)
本組成物は、例えば、各成分を任意の順又は一括して撹拌装置(又は混合装置)に投入し、10℃~50℃の温度で、均一になるまで撹拌(又は混合)することにより製造できる。ただし、この製造方法はあくまで一例であり、本組成物の製造方法は、この例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
<用途>
本組成物から得られるシリコーンハイドロゲルは、アニオン性薬物に対するドラッグデリバリーシステム担体として優れた薬物担持能、薬物放出能に加えて、透明性、機械的強度、形状維持性を示す。そのため、本組成物から得られるシリコーンハイドロゲルは、アニオン性薬物を放出すするための眼用デバイスに特に有用である。眼用デバイスとは、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜等であり得る。
【0055】
アニオン性薬物は、アニオン性基を有し、水中で負電荷を示す薬剤である。
アニオン性薬物としては、特に限定されるものではないが、核酸、ペミロラストカリウム、トラニラスト、アシタザノラスト水和物、クロモグリク酸ナトリウム、グルタチオン、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
前記核酸としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス核酸とも称され、標的遺伝子の転写産物又は標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現又は標的転写産物の発現のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
【0057】
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される標的遺伝子又は標的転写産物は特に限定されないが、例えば、核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加している遺伝子が挙げられる。また、標的遺伝子の転写産物は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。標的転写産物は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、転写産物は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、標的転写産物は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lungadenocarcinoma transcript 1、malat1)ノンコーディングRNA、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1) mRNA、又はDMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAであってもよい。遺伝子および転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。
【0058】
上記の例以外でも、眼科疾患に適用される薬物、例えば、抗感染症剤(抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤等)、血管新生抑制剤(抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)剤等)、抗炎症剤、眼圧降下剤、抗悪性腫瘍剤、麻酔剤、自律神経剤、ステロイド(コルチコステロイド等)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞安定化剤、免疫抑制剤、有糸分裂阻害剤等から選択される、アニオン性の薬物であれば、本発明において使用できる。
アニオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0059】
(成形体)
本組成物をモールドに充填して重合反応を行うことで、本組成物の硬化物からなる成形体を得ることができる。ただし、この製造方法はあくまで一例であり、成形体の製造方法は、この例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
重合反応は、活性エネルギー線を照射すること、又は、組成物を加熱することで行うことができる。
活性エネルギー線によって重合反応させる場合、活性エネルギー線としては、紫外線、電子線等が挙げられる。紫外線源としては、例えば高圧水銀灯が挙げられる。紫外線エネルギー量は、0.1~10J/cm2程度であることが好ましい。
加熱によって重合反応させる場合、温度及び加熱時間は特に限定されないが、60~140℃の温度で0.1~12時間以下とするのが好ましい。
【0061】
重合反応は大気中で行ってもよいが、モノマーの重合率を向上させる目的で、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合、重合系内の圧力は1kgf/cm2以下とするのが好ましい。
【0062】
重合反応後、モールドの変形により、成形体を乾燥状態で取り出すことができる。また、成形体をモールドと共に溶媒中に浸漬し、成形体(硬化物)のみを膨潤させ、自然にモールドから脱離させてもよい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。
溶媒を使用せず、成形体(硬化物)を乾燥状態で取り出すことも好ましい。
【0063】
(シリコーンハイドロゲル)
本組成物を硬化させた成形体と水とを接触させることで、ハイドロゲル化することができ、シリコーンハイドロゲルが得られる。ただし、この製造方法はあくまで一例であり、シリコーンハイドロゲルの製造方法は、この例によって何ら限定されるものではない。
成形体と水の接触は、10℃~90℃の温度で、成形体を水又は生理食塩水に10分間以上浸漬して実施するとよい。
【0064】
シリコーンハイドロゲルは、未反応のモノマー成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物等との混合物となる場合があるため、新たな溶媒で繰り返し置換する等の操作で洗浄してもよい。洗浄に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。
シリコーンハイドロゲルは、高温高圧下で滅菌してもよい。例えば、オートクレーブにて、121℃、2気圧の条件下で20分間処理をするとよい。
【0065】
シリコーンハイドロゲルには、アニオン性薬物を担持させることができる。例えば、アニオン性薬物含有水溶液にシリコーンゲルを浸漬することで、アニオン性薬物を担持させることができる。ただし、この手法はあくまで一例であり、担持方法は、この例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
形状維持性の点から、アニオン性薬物を担持させたときのシリコーンハイドロゲルの収縮率は3%以下となることが好ましく、2%以下となることがより好ましく、1%以下となることがさらに好ましい。該収縮率は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0067】
シリコーンハイドロゲルの薬物担持量は、乾燥質量100質量%に対して1質量%以上となることが好ましく、3%以上となることがより好ましく、5%以上となることがさらに好ましい。該薬物担持量は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0068】
シリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させた後、該シリコーンハイドロゲルを緩衝液に浸漬させたとき、24時間後の薬物放出量は、薬物担持量100質量%に対して70質量%以上となることが好ましく、80%以上となることがより好ましく、90%以上となることがさらに好ましい。該薬物放出量は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0069】
コンタクトレンズとしてのシリコーンハイドロゲルにアニオン性薬物を担持させた後、動物試験にて眼球に装着させたとき、8時間後の薬物放出量が1時間後の薬物放出量に対して、10%以上1000%以下となることが好ましく、15%以上500%以下となることがより好ましく、20%以上300%以下となることがさらに好ましい。動物試験における薬物放出量の測定条件及び測定方法の詳細は、後述の実施例に記載の通りである。
【0070】
眼用デバイスとして用いる場合、シリコーンハイドロゲルの膜厚は0.01~4mmが好ましく、0.01~3mmがより好ましく、0.02~2mmがさらに好ましく、0.03~1mmがよりさらに好ましい。シリコーンハイドロゲルの膜厚は、実施例に記載の方法によって求められる。
【0071】
シリコーンハイドロゲルの全光線透過率は90%以上が好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましい。全光線透過率は高いほど好ましく、上限は100%以下であればよい。シリコーンハイドロゲルの全光線透過率は、実施例に記載の方法によって求められる。
【実施例0072】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0073】
<略称>
実施例及び比較例中の略記の意味は以下の通りである。
DMA:N,N-ジメチルアクリルアミド
HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MOEBAC:メタクリルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
AAPTAC:(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド
SIGMA:(3-(メタ)アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン
MFR-M15:Gelest社製「MFS-M15」(モノメタクリルオキシプロピル(ポリ(3,3,3トリフルオロプロピル)メチルシロキサン))
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
Darocur-1173:2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン
【0074】
Malat1 ASO:下式(2)で示す修飾オリゴヌクレオチドからなるMalat1アンチセンス。
MmsTmsAmsGdsTdsTdsCdsAdsCdsTdsGdsAdsAdsTmsGmsMm (2)
【0075】
式(2)中、Aはアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、Cはシトシンである。Mは、修飾塩基であり、5-メチルシトシンである。dは2’-デオキシリボースである。
ヌクレオシド間の結合はsで示され、sはホスホロチオエートである。mは糖部分であり、以下に化学構造を示すALNA[Ms]である。
【0076】
【0077】
アニオン性低分子薬:クロモグリク酸ナトリウム
【0078】
<実施例1~5、比較例1~8>
(組成物の調製)
表1に示す組成となるように各化合物を混合した。室温で攪拌することで、各例の組成物を得た。
【0079】
(組成物の硬化)
各例の組成物をコンタクトレンズ形状の汎用ポリプロピレン製の型に流し込んだ。その後、UV照射機(ウシオ電機製、UVC-501/10S4A)を用い、積算照射量が2.7J/cm2となるよう複数回UV照射することで組成物を硬化して成形体を得た。また、全光線透過率測定用に、平坦な汎用ポリプロピレン製の型に流し込み、透明な離型PETフィルムで蓋をし、同様の条件で硬化させることでも成形体を得た。
また、得られた成形体を十分な量の純水に一晩以上浸漬した後、シリコーンハイドロゲルを得た。
【0080】
(シリコーンハイドロゲルの洗浄)
シリコーンハイドロゲルに残留した界面活性剤の除去のため、硬化物の乾燥質量に対して少なくとも1000倍量の蒸留水に90℃で30分間浸漬した。この洗浄操作を合計5回実施した。
【0081】
(滅菌処理)
シリコーンハイドロゲルを純水中に浸漬し、オートクレーブにて121℃(2気圧)で20分、高温高圧で処理することで滅菌した。
【0082】
<測定方法>
(含水率)
コンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲルを25℃の水中で十分静置して膨潤させた。そのシリコーンハイドロゲルに薬物を担持させた後、質量を測定し、湿潤質量とした。湿潤質量を測定したシリコーンハイドロゲルを60℃で一晩真空乾燥させ、取り出してすぐに質量を測定して乾燥質量とした。湿潤質量と乾燥質量の差を湿潤質量で除することで含水率を算出した。
【0083】
(全光線透過率)
ヘーズメーター NDH-7000II(日本電色工業社製)を用いて、JIS K7136(2000年)に基づいて、全光線透過率測定用に作製した膜厚0.8mmのシリコーンハイドロゲルの全光線透過率を測定した。膜厚は、1/1000mmのダイヤルゲージにて、ゲル表面内で無作為に選んだ3箇所測定しその平均を厚みとした。
【0084】
(収縮率)
コンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲルを25℃の水中で十分静置して膨潤させた。薬物担持前のシリコーンハイドロゲルの外径と、そのシリコーンハイドロゲルに薬物を担持させた後の外径を測定した。外径の差を薬物担持前のシリコーンハイドロゲルの外径で除することで収縮率を測定した。
コンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲルの外径については、1/10mmのデジタルノギスにて、シリコーンハイドロゲルを水中から取り出した直後に測定した。
【0085】
(薬物担持量)
コンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲル1枚を、1mg/mLの薬物含有水溶液2mL中に浸漬させ、25℃で静置した。24時間後、液中からシリコーンハイドロゲルを取り出し、薬物担持シリコーンハイドロゲルを得た。また、分光光度計 U-3900H(日立ハイテク社製)を用いて、JIS K0115(2020年)に基づいて、残った薬物水溶液の濃度を定量し、シリコーンハイドロゲル浸漬前の濃度との濃度差から薬物担持量(μg)を算出した。その後、乾燥質量に対する薬物担持量(質量%)を算出した。ここでの乾燥質量は、薬物を担持する前のコンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲルについて測定した値である。
【0086】
(薬物放出量)
薬物担持シリコーンハイドロゲル1枚を、塩化ナトリウムを添加したリン酸緩衝液(塩化ナトリウム2質量%)2mL中に浸漬させ、37℃で静置した。24時間後、液中からシリコーンハイドロゲルを取り出し、薬物が放出された溶液を得た。これを、分光光度計 U-3900H(日立ハイテク社製)でJIS K0115(2020年)に基づいて濃度定量し、薬物放出量(μg)を算出した。その後、薬物担持量に対する薬物放出量(質量%)を算出した。
【0087】
<結果>
各例の測定結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
実施例1~5では、含水率、全光線透過率、薬物担持量及び薬物放出量が高く、薬剤担持前後の収縮率は低い。この結果より、アミド基含有モノマー(A)と、1分子中に炭素原子を10個以上有するアンモニウム塩含有モノマー(B)と、シリコーンモノマー(C)とを配合することで、シリコーンハイドロゲルのアニオン性薬物の担持放出性及び透明性、形状維持性が良くなることが確認された。
【0090】
対して比較例1は炭素原子数が10未満のアンモニウム塩含有モノマー(B’)を用いているため、シリコーンと相溶せず、溶液が白濁した。
比較例2、3では、アミド基含有モノマー(A)の代わりにHPMAやHEMAを配合した。薬物担持前後のゲルの収縮率が3%以上と高くなり、形状維持性が良くない。また核酸医薬の場合、薬剤放出量が不十分であった。
比較例4、5では、実施例2と同量のシリコーンモノマー(C)を配合した。また、アミド基含有モノマー(A)の代わりにHPMAやHEMAを配合した。シリコーンモノマー(C)及びアンモニウム塩含有モノマー(B)との相溶性が低下し、組成物が白濁した。
比較例6では、実施例6と同量のシリコーンモノマー(C)を配合した。アミド基含有モノマー(A)の代わりにHEMAを配合した。薬物担持前後のゲルの収縮率が3%以上となり、形状維持性が良くない。
比較例7では比較例1の組成において、シリコーン配合量を少なくした。シリコーンモノマー(C)及びアンモニウム塩含有モノマー(B)との相溶性は改善せず、組成物が白濁した。
比較例8では、比較例7の組成において、さらにアンモニウム塩含有モノマー(B)の配合量を少なくした。各成分は互いに相溶し、透明なゲルが得られた。しかし、薬物担持前後のゲルの収縮率が3%以上であり、形状維持性が良くない。
【0091】
<動物試験>
1.プロトコル
15~16週齢のウサギ(日本白色種(Kbl:JW))を用い、コンタクトレンズ形状のシリコーンハイドロゲルからの核酸医薬徐放効果について試験を実施した。コンタクトレンズとしては実施例1、実施例3のコンタクトレンズを用いた。またコントロールとして点眼群を設けた。核酸医薬としては、antisense oligonucleotide(ASO 配列1)(G(s)^T(s)^5(s)^a^t^a^a^c^c^t^g^g^t^T(s)^5(s)^A(s),小文字:DNA,大文字:ALNA[Ms],^:PS結合)を材料に用いて、核酸医薬品の1mg/mLの水溶液2mLに24時間浸漬して薬剤含有コンタクトレンズを得た。コンタクトレンズ装用群においては、装用当日(Day 1)、ウサギの左右眼の上下眼瞼を軽くつまみ上げ、ピンセット等を用いて被験物質を含むコンタクトレンズを眼瞼と眼球の間の空間に入れ、眼球に接触させた。装用開始から8時間までの間継続して装用状態を観察し、1時間ごとに状態を記録した。装用8時間後の観察終了後、全動物の被験物質を除去した。点眼群においては,核酸医薬濃度15mg/mLの点眼液50μLを、左右眼に1日2回、5日間(投与1日~投与5日)の反復点眼投与を行った。投与後は被験物質の漏出を防ぐために、上下の眼瞼を穏やかに合わせて約1秒間保持した。
【0092】
涙液採取について、コンタクトレンズ装用群では、全動物の左眼について、装用3分後、装用15分後、装用1時間後、装用3時間後、装用8時間後及び装用24時間後にシルマー試験紙を用いて涙液を採取した。点眼群では、全動物の左眼について、1回目点眼時の点眼3分後、点眼15分後、点眼1時間後及び点眼3時間後にシルマー試験紙を用いて涙液を採取した。採取した涙液は、サンプルカップに移し、-80℃の冷凍庫に保存した。
【0093】
2.涙液中の核酸医薬品含有量の測定法
涙液サンプルを含むシルマー試験紙にグアニジン塩酸塩含有バッファーを添加し、ジルコニアビーズを加えた上でミキサーミルにて破砕を行った。破砕液は室温にて遠心分離し、室温にて30分間振盪してホモジネートを調製した。得られたホモジネートを4℃にて遠心分離し、上清をサンプルチューブに採取した上、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール 25:24:1と混合した.更に5%アンモニア水溶液を添加して混合し、室温静置の上、4℃にて遠心分離した。この上清を窒素乾固し、乾固後にDEPC(diethylpyrocarbonate)処理水で再溶解を行った。得られた溶解液は使用時まで-80℃の冷凍庫に保存した。
【0094】
涙液サンプルの濃度測定はHybridization―ELISA法にて行った。涙液サンプルと、ジゴキシゲニン・ビオチン標識したASO配列1に相補的なDNA配列(Template DNA)溶液を混合して37℃で1時間攪拌し、ハイブリダイズを行った。これにS1 nuclease溶液を添加して37℃で2時間攪拌し、ハイブリダイズしていない核酸を切断した。反応液をストレプトアビジンプレートに添加して洗浄し、アルカリフォスファターゼ修飾抗ジゴキシゲニン抗体溶液を加えて37℃で30分間反応させた。洗浄後にAttoPhos AP Fluorescent Substrate(プロメガ)を添加してプレートリーダー(励起:440nm、蛍光:535nm)で蛍光強度を測定した。
得られた蛍光強度からブランクサンプルにおける蛍光強度を差し引いた上、検量線サンプルについて、解析ソフトウェア(Fusion Data Analysis Software/PerkinElmer)を用いて4-parameter logistic curveにて非線形回帰を行った。検量線の回帰式から、サンプルに含まれるASO配列1に濃度を逆算した。さらに、逆算されたASO配列1濃度にホモジネートの希釈率を乗じることで、各サンプル中の濃度を算出した。
【0095】
3.動物試験結果
各例の測定結果を表2に示す。
【0096】
【0097】
動物試験の結果、実施例1、実施例3のコンタクトレンズ装用群では,点眼群に比べて,いずれも涙液中への薬剤放出速度の減弱(徐放)が認められた。すなわち、コンタクトレンズを用いた薬剤徐放により、薬物暴露量およびその持続が認められ,眼科医薬品の効果増強に有用な技術であることを示した。
本発明によれば、薬物担持量及び放出量を高くするためにカチオン性モノマーの配合量を多くしても含水率の上昇を抑制でき、薬物の担持及び放出に伴う形状変化を抑制でき、透明性にも優れるアニオン性薬物放出性コンタクトレンズを製造できる。
本発明によれば、該アニオン性薬物放出性コンタクトレンズの製造に適したシリコーンハイドロゲルが得られる。
本発明によれば、該シリコーンハイドロゲルが得られる組成物が提供される。