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特開2024-127813樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレット
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  • 特開-樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127813
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレット
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240912BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L67/02
C08L25/12
C08L25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024030205
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023034901
(32)【優先日】2023-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC06X
4J002BC10Y
4J002CF00W
4J002CF03W
4J002CF06W
4J002CF07W
4J002GF00
4J002GG01
4J002GH00
4J002GJ02
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 他部材との接着性に優れた樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレットの提供。
【解決手段】 固有粘度が0.40~0.80dL/gであるポリエステル樹脂(A)と、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含有し、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比が30/70~70/30であり、樹脂組成物中の酸の含有量が0.5質量%以上である樹脂組成物。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.40~0.80dL/gであるポリエステル樹脂(A)と、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含有し、
前記ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比が30/70~70/30であり、
樹脂組成物中の酸の含有量が0.5質量%以上である樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、酸変性重合体(C)を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸変性重合体(C)は、無水マレイン酸変性重合体を含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸変性重合体(C)は、スチレンー無水マレイン酸共重合体を含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A)の含有量が50質量部以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)の50質量%以上がポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の250℃、荷重5kgfにおけるメルトボリュームレート(MVR)が0.5~60cm/10分である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
他部材との接着用に用いられる、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記酸変性重合体(C)は、スチレンー無水マレイン酸共重合体を含み、
ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A)の含有量が50質量部以上であり、
前記ポリエステル樹脂(A)の50質量%以上がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、
前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の250℃、荷重5kgfにおけるメルトボリュームレート(MVR)が0.5~60cm/10分である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1、2または9に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項11】
請求項10に記載の成形品と、直接に、または、少なくとも接着剤を介して貼り合わされている他部材とを有する多層体。
【請求項12】
請求項1、2または9に記載の樹脂組成物のペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレットに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂は、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、保香性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気・電子部品、精密機器部品などの多くの用途に用いられている。
具体的には、特許文献1および特許文献2に記載の樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-007058号公報
【特許文献2】特開2020-186293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ポリエステル樹脂から形成された成形品を、他の樹脂部材等の他部材と接着剤を用いて接着することが広く行われている。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、他部材との接着性に優れた樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、固有粘度が0.40~0.80dL/gであるポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を所定の割合でブレンドし、かつ、樹脂組成物中の酸の含有量を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>固有粘度が0.40~0.80dL/gであるポリエステル樹脂(A)と、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含有し、前記ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比が30/70~70/30であり、樹脂組成物中の酸の含有量が0.5質量%以上である樹脂組成物。
<2>さらに、酸変性重合体(C)を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記酸変性重合体(C)は、無水マレイン酸変性重合体を含む、<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記酸変性重合体(C)は、スチレンー無水マレイン酸共重合体を含む、<2>または<3>に記載の樹脂組成物。
<5>ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A)の含有量が50質量部以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記ポリエステル樹脂(A)の50質量%以上がポリブチレンテレフタレート樹脂である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の250℃、荷重5kgfにおけるメルトボリュームレート(MVR)が0.5~60cm/10分である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>他部材との接着用に用いられる、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記酸変性重合体(C)は、スチレンー無水マレイン酸共重合体を含み、
ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、ポリエステル樹脂(A)の含有量が50質量部以上であり、
前記ポリエステル樹脂(A)の50質量%以上がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、
前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の250℃、荷重5kgfにおけるメルトボリュームレート(MVR)が0.5~60cm/10分である、<2>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10><1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<11><10>に記載の成形品と、直接に、または、少なくとも接着剤を介して貼り合わされている他部材とを有する多層体。
<12><1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物のペレット。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、他部材との接着性に優れた樹脂組成物、成形品、多層体、および、ペレットを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例における接着強度を測定する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0009】
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、東ソー社製HLC-8320GPC EcoSECを使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてShodex KF-G,KF-805L×3,KF-800Dを使用し、カラム温度40℃で流量1.2mL/minでGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定し、検出波長254nmにて検出したポリスチレン換算値である。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1は、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、固有粘度が0.40~0.80dL/gであるポリエステル樹脂(A)と、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含有し、前記ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比が30/70~70/30であり、樹脂組成物中の酸の含有量が0.5質量%以上であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、他部材との接着性に優れた成形品を提供可能になる。また、得られる成形品の反りを効果的に抑制できる。また、高い荷重たわみ温度を達成できる。
【0011】
樹脂組成物中の酸成分の含有量を0.5質量%以上となるように調整することにより、他部材との接着性を高めることができる。酸成分は、例えば、後述する酸変性重合体(C)を用いてもよいし、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を酸変性したものを用いてもよい。
さらに、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を用いることにより、他部材との接着性を高めることができる。
また、本実施形態の樹脂組成物は、荷重たわみ温度を高くすることができる。これは、ポリエステル樹脂(A)中で、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)が、いわゆる海島構造の島のような形態を取りやすいことに基づくと推測される。さらに、固有粘度が低いポリエステル樹脂(A)を用いることにより、より海島構造の形態を取りやすいと推測される。なお、本実施形態においては、ポリエステル樹脂(A)中で、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)が、いわゆる海島構造の島となっていることを必須とするものではないことは言うまでもない。実際、後述する一部の実施例、特に、ポリエステル樹脂(A)よりも、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の配合割合が多い処方においては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)が海島構造の島となっていないと推測される。
以下、本実施形態の詳細について説明する。
【0012】
<ポリエステル樹脂(A)>
本実施形態で用いるポリエステル樹脂(A)は、固有粘度が0.40~0.80dL/gである。固有粘度を前記上限値以下とすることにより、荷重たわみ温度が高くなる傾向にあり、耐熱性がより向上する傾向にあり、接着性が高くなる傾向にある。また、固有粘度を前記下限値以上とすることにより、引張強度、曲げ強度等の機械物性がより向上する傾向にある。
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、0.50dL/g以上であることが好ましく、0.60dL/g以上であることがより好ましく、0.65dL/g以上であることがさらに好ましい。前記固有粘度は、0.80dL/g以下であることが好ましく、0.78dL/g以下であることがより好ましく、0.75dL/g以下であることがさらに好ましく、0.73dL/g以下であることが一層好ましい。
【0013】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は以下の方法で測定される。
フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中に、ポリブチレンテレフタレート樹脂ペレットを、濃度が1.00g/dLとなるように110℃で1時間攪拌して溶解させる。その後、30℃まで冷却する。全自動溶液粘度計にて、30℃で試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、式により固有粘度を算出する。
固有粘度=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
【0014】
ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
本実施形態で用いるポリエステル樹脂(A)は、ポリアルキレンテレフタレート樹脂であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリブチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることがさらに好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-tert-フェニレン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0016】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0018】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
ポリエステル樹脂(A)としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、すなわち、ポリエステル樹脂(A)全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0019】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレート樹脂である。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分および1,4-ブタンジオールまたはエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)は、また、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されているものも好ましい。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリアルキレンテレフタレートの全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものが例示される。
【0021】
本実施形態で用いるポリエステル樹脂(A)は、リサイクル品を含んでいてもよい。
リサイクルポリエステル樹脂としては、成形品の端材や不合格品、回収された使用済ポリエステル樹脂成形体を粉砕、洗浄して再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたもの等が挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度は、1~23eq/tonであることが好ましく、7~20eq/tonであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂(A)を含む場合、ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度は、混合物の末端カルボキシル基濃度とする。
末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリエステル樹脂(A)0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求めることができる。
【0023】
本実施形態のポリエステル樹脂(A)のブレンド形態の一例は、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことである。第一の実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の質量比率は、ポリエステル樹脂(A)100質量%中、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、52質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることがさらに一層好ましく、95質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、荷重たわみ温度がより高くなり、また、成形性がより良好になる傾向にある。第一の実施形態におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の質量比率は、樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂(A)100質量%中、100質量%であってもよいし、用途等に応じては、90質量%以下、70質量%以下、60質量%以下であってもよい。
上記ブレンド形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
上記ブレンド形態において、特に好ましくは、ポリエステル樹脂(A)100質量%中、ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量%以上(好ましくは50質量%以上)含み、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量は0質量%であってもよい)の合計がポリエステル樹脂(A)100質量%中、90質量%以上(好ましくは95質量%以上)を占めることである。ポリエチレンテレフタレート樹脂を配合することにより、得られる成形品の反りをより効果的に抑制できる傾向にある。
【0024】
本実施形態における樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を、樹脂組成物100質量%中、20質量%以上の割合で含むことが好ましく、25質量%以上の割合で含むことがより好ましく、30質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、また、50質量%以下の割合で含むことが好ましく、45質量%以下で含むことがより好ましく、40質量%以下の割合で含むことがさらに好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
<アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含む。アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)とは、アクリロニトリル単位と、スチレン系単位を含む共重合体である。本実施形態で用いるアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、全構成単位100質量%中、アクリロニトリル単位とスチレン系単位の合計量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、さらには、97質量%以上、98質量%以上、99質量%以上であってもよい。アクリロニトリル単位とスチレン系単位の合計量の上限は100質量%である。
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のうち、アクリロニトリル単位の割合は、全構成単位中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが一層好ましく、25質量%以上であることがより一層好ましく、27質量%以上であることがさらに一層好ましく、また、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、45質量%以下であることが一層好ましく、40質量%以下であることがより一層好ましく、35質量%以下であることがさらに一層好ましい
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のうち、スチレン系単位(好ましくはスチレン単位)の割合は、全構成単位中、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、55質量%以上であることが一層好ましく、60質量%以上であることがより一層好ましく、65質量%以下であることがさらに一層好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが一層好ましく、75質量%以下であることがより一層好ましく、73質量%以下であることがさらに一層好ましい。
スチレン系単位とは、スチレン単位および置換基を有するスチレン単位を意味する。スチレンおよび置換基を有するスチレンとしては、スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、tert-ブチルスチレン等が挙げられる。
【0026】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、アクリロニトリル単位とスチレン系単位以外の構成単位を含んでいてもよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、アクリル酸エステルが例示される。
【0027】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のISO1133規格に従った250℃、荷重5kgfにおけるメルトボリュームレート(MVR)は、0.5cm/10min以上であることが好ましく、1cm/10min以上であることがより好ましく、2cm/10min以上であることがさらに好ましく、3cm/10min以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が向上し、表面外観が改善する傾向にある。また、前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のメルトボリュームレート(MVR)は、は、60cm/10min以下であることが好ましく、40cm/10min以下であることがより好ましく、10cm/10min以下であることが一層好ましく、7cm/10min以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の低反り性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を2種以上含む場合、混合物のMVRとする。
【0028】
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、80,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、180,000以上であることが一層好ましく、200,000以上であることがより一層好ましく、250, 000以上であることがより一層好ましく、300,000以上であることが最も好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の低反り性がより向上する傾向にある。また、前記アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の重量平均分子量は、500,000以下であることが好ましく、450,000以下であることがさらに好ましく、400,000以下であることが一層好ましく、350,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品表面への酸変性重合体、ひいては、酸(酸基)の存在確率が高くなり、樹脂組成物の他部材との接着性がより向上する傾向にあり、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が向上し、表面外観が改善する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を2種以上含む場合、混合物の重量平均分子量とする。
【0029】
本実施形態で用いるアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)は、リサイクル品を含含んでいてもよい。
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)としては、成形品の端材や不合格品、回収された使用済ポリエステル樹脂成形体を粉砕、洗浄して再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたもの等が挙げられる。
【0030】
<ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比>
本実施形態の樹脂組成物においては、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の質量比が30/70~70/30である。より具体的には、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、ポリエステル樹脂(A)の含有量が40質量部以上であることが好ましく、45質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部超であることが一層好ましく、52質量部以上であることがより一層好ましく、また、65質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、58質量部以下であることがさらに好ましい。
【0031】
<樹脂組成物中の酸の含有量>
本実施形態の樹脂組成物は、酸の含有量が0.5質量%以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の他部材への優れた接着性を達成することができる。前記樹脂組成物中の酸の含有量は、0.55質量%以上であることが好ましく、0.60質量%以上であることがより好ましく、0.70質量%以上であることがより一層好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましく、1.4質量%以上であることがさらに一層好ましい。また、樹脂組成物中の酸の含有量の上限は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以下であることが一層好ましく、2.5質量%以下であることがより一層好ましく、2.2質量%以下であることがさらにより一層好ましく、さらには、2.0質量%以下、1.9質量%以下、1.8質量%以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形品の基礎物性、耐熱性、表面外観がより向上する傾向にある。
樹脂組成物中の酸の含有量は、酸変性重合体(C)およびその他の酸含有成分中の酸の含有量が測定等で判っている場合は、樹脂組成物100質量部中の酸変性重合体(C)およびその他の酸含有成分中の酸の含有量にそれぞれの酸含有率を掛けることで算出することができる。
また、酸変性重合体(C)およびその他の酸含有成分中の酸の含有量が不明な場合は、樹脂組成物を可溶な溶媒に溶かして得られた溶液から溶媒を蒸発させ、残った物質(残存物)をNMR測定用の重溶媒に溶かし、NMR測定により酸基の量が測定されることから酸含有量を算出する。NMR測定にて酸基が確認出来ない場合には、残存物を可溶な溶媒に溶かし、指示薬を加えて塩基性溶媒にて滴定して酸基の量を算出することも出来る。
【0032】
上記酸の量は、任意の成分で調整可能であるが、酸変性重合体(C)を配合して調整すること、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)として酸変性したものを用いること等が例示される。
本実施形態においては、樹脂組成物が酸変性重合体(C)を含むことが好ましい。
【0033】
<<酸変性重合体(C)>>
酸変性重合体(C)は結晶性樹脂であっても、非晶性樹脂であってもよいが、非晶性樹脂が好ましい。非晶性樹脂を用いることにより、低反り性を効果的に達成することができる。また、酸変性重合体(C)は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0034】
酸変性重合体(C)は、酸基含有単量体単位のみからなっていてもよいが、酸基含有単量体単位に加えて、他の単量体単位を含んでいることが好ましく、酸基含有単量体単位(好ましくは無水マレイン酸基含有単量体単位)に加え、芳香族ビニル基含有単量体単位およびオレフィン基含有単量体単位の少なくとも1種を含むことが好ましく、酸変性基含有単量体単位に加え、スチレン基含有単量体単位およびオレフィン基含有単量体単位の少なくとも1種を含むことがより好ましく、酸変性基含有単量体単位に加え、スチレン基含有単量体単位を含むことがさらに好ましい。酸変性単量体単位に加え、スチレン単量体単位を含むことにより、接着性に加え、低反り性について、顕著に向上する傾向にある。
【0035】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム等のスチレンスルホン酸塩;スチレンスルホン酸エチル等のスチレンスルホン酸エステル;t-ブトキシスチレン等のスチレンアルキルエーテル;アセトキシスチレン、ビニル安息香酸等のスチレン誘導体;α-メチルスチレンおよびα-メチルスチレン誘導体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
オレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンが例示される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
芳香族ビニル単量体単位および/またはオレフィン単量体の含有量は、酸変性重合体中、2質量%以上であることが好ましく、また、98質量%以下であることが好ましい。
【0036】
酸変性重合体(C)は、上記に加え、さらに他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体としては、アクリル系単量体やマレイミド系単量体が好ましい。アクリル系単量体としては、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどが例示される。マレイミド系単量体としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられる。また、アクリロニトリルも例示される。
酸変性重合体(C)の酸変性は、酸および/または酸無水物によって行われることが好ましく、酸無水物によって行われることがより好ましい。酸変性重合体は、具体的には、有機酸およびその酸無水物類によって行われることが好ましく、カルボン酸類および無水カルボン酸類によって行われることがより好ましく、フタル酸および無水フタル酸、コハク酸および無水コハク酸、安息香酸および無水安息香酸、マレイン酸および無水マレイン酸によって行われることがさらに好ましく、マレイン酸および無水マレイン酸によって行われることが一層好ましく、無水マレイン酸によって行われることがより一層好ましい。
【0037】
本実施形態で用いられる酸変性重合体(C)は、無水マレイン酸変性重合体を含むことが好ましく、スチレンー無水マレイン酸共重合体、スチレンーN-フェニルマレイミドー無水マレイン酸共重合体、および、α-オレフィンー無水マレイン酸共重合体の少なくとも1種であることがさらに好ましく、スチレンー無水マレイン酸共重合体であることが一層好ましい。
本実施形態で用いる酸変性重合体(C)は、酸基単量体単位と芳香族ビニル基含有単量体単位と、必要に応じ配合されるその他の単量体単位の合計が末端基を除く全構成単位の合計の100質量%を占めるように構成されることが好ましい。
【0038】
酸変性重合体(C)は、酸変性衝撃改質剤でもよい。
本実施形態で用いることができる酸変性衝撃改質剤は、酸変性されたオレフィン系エラストマーおよび酸変性されたスチレン系エラストマー(アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)に該当するものを除く)からなる少なくとも1種の酸変性エラストマーである。
【0039】
オレフィン系エラストマーとしては、軟質相にポリオレフィン部があればよく、EPR、EPDM等のエチレンプロピレンゴム等が好ましく使用できる。
【0040】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン成分とエラストマー成分からなり、スチレン成分を通常5~80質量%、好ましくは10~50質量%、特に15~30質量%の割合で含有するものが好ましい。この際のエラストマー成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン系炭化水素が挙げられ、スチレン系エラストマーとしてはより具体的にはスチレンとブタジエンとの共重合体(SBS)エラストマー、スチレンとイソプレンとの共重合体(SIS)エラストマー等が挙げられる。
【0041】
本実施形態における酸変性衝撃改質剤の酸変性は、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水コハク酸等の環状酸無水物などで共重合体側鎖に環状無水物やカルボン酸基を導入することを指す。
酸変性を導入する方法は、通常行われる方法、例えばグラフト共重合、ランダム共重合などで導入することができる。
このような酸変性の衝撃改質剤としては、例えば、旭化成社製の「タフテックM1913」、アルケマ社製の「ロタダー4613」、三井化学社製「タフマーMP0610」などが挙げられる。
【0042】
酸変性重合体(C)における酸変性の割合(酸の割合)は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることが好ましい。また、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
樹脂組成物中の酸変性重合体(C)における酸の含有量は、樹脂組成物を可溶な溶媒に溶かして得られた溶液から溶媒を蒸発させ、残った物質(残存物)をNMR測定用の重溶媒に溶かし、NMR測定により酸基の量が測定されることから酸含有量を算出することが出来る。NMR測定にて酸基が確認出来ない場合には、残存物を可溶な溶媒に溶かし、指示薬を加えて塩基性溶媒にて滴定して酸基の量を算出することも出来る。
前記可溶な溶媒およびNMR測定に使用する溶媒は、組成物中の樹脂成分が可溶な溶媒であることが好ましく、ジクロロメタン、メタノール、クロロホルム等が挙げられるが、その限りではない。
【0043】
酸変性重合体(C)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、80,000以上であることがより好ましく、90,000以上であることがさらに好ましく、100,000以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、引張強度、曲げ強度等の機械物性が向上する傾向にある。また、前記酸変性重合体(C)の重量平均分子量は、500,000以下であることが好ましく、400,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることが一層好ましく、200,000以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品表面への酸変性重合体、ひいては、酸(酸基)の存在確率が高くなり、樹脂組成物の他部材との接着性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が、酸変性重合体(C)を2種以上含む場合、混合物の重量平均分子量とする。
【0044】
本実施形態における酸変性重合体(C)の酸価は、0mgKOH/g超であり、0.5mgKOH/g以上であることが好ましく、2mgKOH/g以上であることがより好ましく、5mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以上であることが一層好ましく、用途に応じては、15mgKOH/g以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、ポリエステル樹脂(A)の分解をより効果的に抑制することができる。また、前記酸変性重合体(C)の酸価の上限は、100mgKOH/g以下であることが好ましく、90mgKOH/g以下であることがより好ましく、80mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、用途に応じては、70mgKOH/g以下、60mgKOH/g以下、50mgKOH/g以下、40mgKOH/g以下、35mgKOH/g以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、成形品の械的物性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物が酸変性重合体(C)を2種以上含む場合、前記酸価は、混合物の酸価とする。
【0045】
本実施形態における樹脂組成物における酸変性重合体(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、6質量部以上であってもよく、8質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形品表面への酸の存在確率が高くなり、得られる成形品の他部材への接着性がより向上する傾向にある。また、前記酸変性重合体(C)の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、28質量部以下であることがさらに好ましく、25質量部以下であることが一層好ましく、20質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の耐熱性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、酸変性重合体(C)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0046】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、強化材(ガラス繊維等)、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
各種樹脂添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、安定剤、離型剤、反応性化合物、着色剤(顔料、染料)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)、ならびに、選択的に配合される他の成分の合計が100質量%となるように調整される。本実施形態の樹脂組成物の一例は、ポリエステル樹脂(A)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)、酸性重合体(C)、および、強化材の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることである。また、本実施形態の樹脂組成物の他の一例は、ポリエステル樹脂(A)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)、酸性重合体(C)、強化材、難燃剤、離型剤、安定剤、反応性化合物、着色剤の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占めることである。
【0047】
<<強化材>>
本実施形態の樹脂組成物は、強化材を含んでいてもよい。強化材を含むことにより、得られる成形品の機械的強度を高くすることができる。
強化材は、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の強化材を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の強化材;ガラスフレーク、グラファイト等の鱗片状の強化材を用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の強化材、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Dガラス、Mガラス、Rガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)がポリブチレンテレフタレート樹脂に悪影響を及ぼさないので好ましい。
繊維とは、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状、楕円状、または、多角形状等であって、断面に比して長さが十分に長い、繊維状外観を呈するものが例示される。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよいが、チョップドストランドが好ましい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0049】
また、本実施形態ではガラス繊維として、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。かかる扁平ガラスについては、特開2011-195820号公報の段落番号0065~0072の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物が強化材(好ましくはガラス繊維)を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、35質量部以上であることがさらに好ましく、40質量部以上であることが一層好ましく、45質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。前記強化材の含有量の上限は、ポリエステル樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましく、60質量部以下であることが一層好ましく、55質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形品の表面外観が良好になる傾向にある。
【0051】
また、本実施形態の樹脂組成物が強化材(好ましくはガラス繊維)を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる吸収樹脂部材の機械的硬度がより向上する傾向にある。前記強化材の含有量の上限は、樹脂組成物中、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、引張強度、曲げ強度等の機械物性や耐熱性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は強化材を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0052】
<<難燃剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、難燃剤を含んでいてもよい。難燃剤を含むことにより、得られる成形品の難燃性を達成できる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤(ホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン等)、窒素系難燃剤(シアヌル酸メラミン等)、金属水酸化物(水酸化マグネシウム等)等があるが、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤が好ましい。リン系難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩がより好ましい。ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤がより好ましい。
【0053】
難燃剤として臭素系難燃剤を用いる場合、その種類は特に定めるものではないが、臭素化フタルイミド、臭素化ポリ(メタ)アクリレート、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ、および、臭素化ポリスチレンが好ましく、臭素化フタルイミドがより好ましい。
【0054】
臭素化フタルイミドとしては、式(1)で表されるものが好ましい。
【化1】
(式(1)中、Dは、アルキレン基、アリーレン基、-S(=O)-、-C(=O)-、および、-O-の2つ以上の組み合わせからなる基を表す。iは1~4の整数である。)
【0055】
式(1)において、Dは、アルキレン基、アリーレン基、-S(=O)-、-C(=O)-、および、-O-の2つ以上の組み合わせからなる基を表し、アルキレン基またはアリーレン基と、-S(=O)-、-C(=O)-、および、-O-の少なくとも1つとの組み合わせからなる基が好ましく、アルキレン基またはアリーレン基と、-S(=O)-、-C(=O)-、および、-O-の1つとの組み合わせからなる基がより好ましく、アルキレン基がさらに好ましい。
アルキレン基と-O-との組み合わせからなる基としては、例えば、2つのアルキレン基と1つの-O-といった組み合わせも含む趣旨である(他の組み合わせについても同じ。)。
Dとしてのアルキレン基は、炭素数1~6のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基がより好ましい。アリーレン基は、フェニレン基が好ましい。
iは1~4の整数であり、4であることが好ましい。
【0056】
式(1)で示される臭素化フタルイミドとしては、例えば、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)エタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)プロパン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ブタン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジエチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジプロピルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジブチルエーテル、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルスルフォン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルケトン、N,N’-(ビステトラブロモフタルイミド)ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0057】
臭素化フタルイミドとしては、式(1)は、式(2)で表される臭素化フタルイミドであることが好ましい。
【化2】
(式(2)中、iは1~4の整数である。)
iは1~4の整数であり、4であることが好ましい。
【0058】
臭素化ポリ(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、または2種以上を共重合、あるいは、他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましく、臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1~5個、中でも4~5個付加したものであることが好ましい。
【0059】
臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、ペンタブロムベンジルアクリレート、テトラブロムベンジルアクリレート、トリブロムベンジルアクリレート、またはそれらの混合物等が挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0060】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類;スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸またはその無水物;酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0061】
これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下が用いることが好ましい。
【0062】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロムキシレンジアクリレート、テトラブロムキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン等を使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下が使用できる。
【0063】
臭素化ポリ(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有する(メタ)アクリレートモノマー、特にベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、または2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましい。また、臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1~5個、中でも4~5個付加したものであることが好ましい。
【0064】
臭素化ポリ(メタ)アクリレートとしては、ペンタブロモベンジルポリ(メタ)アクリレートが、高臭素含有量であることから好ましい。
【0065】
臭素化ポリ(メタ)アクリレートの分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、重量平均分子量(Mw)で、3,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、15,000以上であることがさらに好ましく、20,000以上であることが一層好ましく、25,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、より高い機械的強度を有する成形品が得られる傾向にある。また、前記重量平均分子量(Mw)の上限は、100,000以下であることが好ましく、80,000以下であることがより好ましく、60,000以下であることがさらに好ましく、50,000以下であることが一層好ましく、35,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
【0066】
臭素化ポリカーボネートは、遊離臭素含有量が0.05質量%以上であることが好ましく、また、0.20質量%以下であることが好ましい。このような範囲とすることにより、樹脂組成物の耐熱安定性がより向上する傾向にある。臭素化ポリカーボネートは、また、塩素原子含有量が0.001質量%以上であることが好ましく、また、0.20質量%以下であることが好ましい。このような範囲とすることにより、成形の際の耐金型腐食性がより向上する傾向にある。
臭素化ポリカーボネートとしては、具体的には例えば、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0067】
臭素化ポリカーボネートにおける、カーボネート構成単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、2~30であることが好ましく、3~15であることがより好ましく、3~10であることがさらに好ましい。
【0068】
臭素化ポリカーボネートの分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1,000~20,000、中でも2,000~10,000であることがより好ましい。
【0069】
上記臭素化ビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネートは、例えば、臭素化ビスフェノールとホスゲンとを反応させる通常の方法で得ることができる。末端封鎖剤としては芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられ、これはハロゲンまたは有機基で置換されていてもよい。
【0070】
臭素化エポキシとしては、具体的には、テトラブロモビスフェノールAエポキシ化合物や、グリシジル臭素化ビスフェノールAエポキシ化合物に代表されるビスフェノールA型ブロモ化エポキシ化合物が好ましく挙げられる。
【0071】
臭素化エポキシ化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、重量平均分子量(Mw)で、3,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、13,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、18,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、より高い機械的強度を有する成形品が得られる傾向にある。また、前記重量平均分子量(Mw)の上限は、100,000以下であることが好ましく、80,000以下であることがより好ましく、78,000以下であることがさらに好ましく、75,000以下であることが一層好ましく、70,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
臭素化エポキシ化合物は、そのエポキシ当量が3,000~40,000g/eqであることが好ましく、中でも4,000~35,000g/eqが好ましく、特に10,000~30,000g/eqであることが好ましい。
【0072】
また、臭素化エポキシとして臭素化エポキシオリゴマーを併用することもできる。この際、例えばMwが5,000以下のオリゴマーを50質量%程度以下の割合で用いることで、難燃性、離型性および流動性を適宜調整することができる。臭素化エポキシ化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、その上限は60質量%、中でも55質量%以下であることが好ましい。
【0073】
臭素化ポリスチレンとしては、好ましくは、式(3)で示される構成単位を含有する臭素化ポリスチレンが挙げられる。
【化3】
(式(3)中、tは1~5の整数であり、nは構成単位の数である。)
【0074】
臭素化ポリスチレンとしては、ポリスチレンを臭素化するか、または、臭素化スチレンモノマーを重合することによって製造するかのいずれであってもよいが、臭素化スチレンを重合したものは遊離の臭素(原子)の量が少ないので好ましい。なお、式(3)において、臭素化ベンゼンが結合したCH基はメチル基で置換されていてもよい。また、臭素化ポリスチレンは、他のビニル系モノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニル系モノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、ブタジエンおよび酢酸ビニル等が挙げられる。また、臭素化ポリスチレンは単一物あるいは構造の異なる2種以上の混合物として用いてもよく、単一分子鎖中に臭素数の異なるスチレンモノマー由来の単位を含有していてもよい。
【0075】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4-ブロモスチレン)、ポリ(2-ブロモスチレン)、ポリ(3-ブロモスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモスチレン)、ポリ(2,6-ジブロモスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモスチレン)、ポリ(3,5-ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5-トリブロモスチレン)、ポリ(4-ブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモ-α-メチルスチレン)およびポリ(2,4,5-トリブロモ-α-メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)および平均2~3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0076】
臭素化ポリスチレンは、式(3)における構成単位の数n(平均重合度)が30~1,500であることが好ましく、より好ましくは150~1,000、特に300~800のものが好適である。平均重合度が30未満ではブルーミングが発生しやすく、一方、1,500を超えると、分散不良を生じやすく、機械的性質が低下しやすい。また、臭素化ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)としては、5,000~500,000であることが好ましく、10,000~500,000であることがより好ましく、10,000~300,000であることがさらに好ましく、10,000~100,000であることが一層好ましく、10,000~70,000であることがより一層好ましい。特に、上記したポリスチレンの臭素化物の場合は、重量平均分子量(Mw)は50,000~70,000であることが好ましく、重合法による臭素化ポリスチレンの場合は、重量平均分子量(Mw)は10,000~30,000程度であることが好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、GPC測定による標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0077】
臭素系難燃剤における臭素濃度は45質量%以上であることが好ましく、48質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、成形品の難燃性が効果的に向上する傾向にある。前記臭素濃度の上限値は、75質量%以下であることが好ましく、73質量%以下であることがより好ましく、71質量%以下であることがさらに好ましい。
【0078】
難燃剤としてホスフィン酸金属塩を用いる場合、その種類は特に定めるものではないが、ホスフィン酸金属塩とは、アニオン部分が式(4)または(5)で表され、カチオン部分の金属イオンがカルシウム、マグネシウム、アルミニウムまたは亜鉛のいずれかであることが好ましい。
【0079】
【化4】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、Rは炭素数1~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、またはこれらの組み合わせからなる基を表し、R同士は同一でも異なっていてもよく、nは0~2の整数を表す。)
置換基を有していてもよいアリール基は、置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。置換基を有する場合、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。また、無置換であることも好ましい。
前記置換基を有していてもよいアリーレン基は、置換基を有していてもよいフェニレン基であることが好ましい。前記置換基を有していてもよいアリーレン基は、無置換であるか、置換基として炭素数1~3のアルキル基(好ましくはメチル基)を有することが好ましい。
本実施形態では、式(5)で表されるホスフィン酸金属塩が好ましい。また、本実施形態では、ホスフィン酸アルミニウムが好ましい。
【0080】
ホスフィン酸金属塩としての具体例は、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。
ホスフィン酸金属塩の詳細は、国際公開第2010/010669号の段落0052~0058の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0081】
本実施形態の樹脂組成物が難燃剤を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、下限値が1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、7質量部以上であることが一層好ましく、10質量部以上であることがより一層好ましく、15質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の難燃性がより向上する傾向にある。前記難燃剤の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、に対し、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、45質量部以下であることが一層好ましく、40質量部以下であることがより一層好ましく、30質量部以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度の低下をより効果的に抑制できる。
本実施形態の樹脂組成物は、難燃剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0082】
<<難燃助剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、難燃助剤を含んでいてもよい。難燃助剤を含むことにより、成形品の難燃性をより向上させることができる。難燃助剤は、ハロゲン系難燃剤を含む場合に特に好ましく用いられる。本実施形態で用いる難燃助剤は、アンチモン化合物が例示され、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。特に、耐衝撃性の点から酸化アンチモン、特に、三酸化アンチモンが好ましい。
難燃助剤を配合する場合、マスターバッチとして配合してもよい。マスターバッチ中のアンチモン化合物の含有量は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは40~85質量%、さらに好ましくは50~85質量%である。
本実施形態の樹脂組成物が、難燃助剤(例えば、アンチモン化合物)を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、難燃性がより効果的に発揮される傾向にある。また、前記アンチモン化合物の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の離型性や耐衝撃性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、難燃助剤(例えば、アンチモン化合物)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0083】
<<滴下防止剤>>
本実施形態における樹脂組成物は、滴下防止剤を含んでいてもよい。滴下防止剤としては、フルオロポリマーが好ましい。
フルオロポリマーとしては、フッ素を有する公知のポリマーを任意に選択して使用できるが、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。
フルオロオレフィン樹脂としては、例えば、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が挙げられる。その具体例を挙げると、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましい。このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が好ましい。
フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフ
ロロケミカル社製、テフロン(登録商標)6J、ダイキン工業社製、ポリフロン(登録商 標)F201L、ポリフロンF103等が挙げられる。
【0084】
また、フルオロエチレン樹脂の水性分散液として、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン工業社製フルオンD-1、M12、住友スリーエム社製TF1750等も挙げられる。さらに、ビニル系単量体を重合してなる多層構造
を有するフルオロエチレン重合体も、フルオロポリマーとして使用することができる。そ の具体例を挙げると、三菱レイヨン社製メタブレン(登録商標)A-3800等が挙げられる。
【0085】
本実施形態における樹脂組成物が滴下防止剤を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.2質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成された成形品の燃焼性がより向上する傾向にある。上限値としては、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から形成された成形品の接着性がより向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、滴下防止剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0086】
<<安定剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、ヒンダードフェノール系化合物が好ましい。また、ヒンダードフェノール系化合物とリン系化合物を併用することも好ましい。
安定剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0087】
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤をポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましく、0.08質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記安定剤の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0088】
<<離型剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、公知の離型剤を広く用いることができ、脂肪族カルボン酸のエステル化物、パラフィンワックス、ポリスチレンワックス、ポリオレフィンワックスが好ましく、ポリエチレンワックスがより好ましい。
離型剤としては、具体的には、特開2013-007058号公報の段落0115~0120の記載、特開2018-070722号公報の段落0063~0077の記載、特開2019-123809号公報の段落0090~0098の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0089】
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤をポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.1質量部以上含むことがより好ましく、0.5質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記離型剤の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0090】
<<反応性化合物>>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、反応性化合物(好ましくは、エポキシ化合物)を含んでいてもよい。反応性化合物を含むことにより、接着性がより向上する傾向にある。
反応性化合物は、ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するカルボキシ基やヒドロキシ基と化学反応し、架橋反応や鎖長延長が生じ得る化合物が好ましい。反応性化合物としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基(環)を有する化合物、オキサジン基(環)を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物、およびアミド基を有する化合物からなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましく、エポキシ化合物およびカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、エポキシ化合物を含むことがさらに好ましい。特に、本実施形態の樹脂組成物は、反応性化合物の90質量%以上、さらには95質量%以上、特には99質量%以上がエポキシ化合物であることが好ましい。
エポキシ化合物は、一分子中に一個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に定めるものではなく、公知のエポキシ化合物を広く採用することができる。
【0091】
エポキシ化合物としては、グリシジル化合物、芳香族環を有するエポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物が挙げられ、芳香族環を有するエポキシ化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0092】
エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテルを含む)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(ビスフェノールFジグリシジルエーテルを含む)、ビフェニル型エポキシ化合物(ビス(グリシジルオキシ)ビフェニルを含む)、レゾルシン型エポキシ化合物(レゾルシノールジグリシジルエーテルを含む)、ノボラック型エポキシ化合物、安息香酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステルなどの芳香族環を有するエポキシ化合物、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルなどの(ジ)グリシジルエーテル類、ソルビン酸グリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油などのパラフィン系(例えば飽和脂肪酸系)またはオレフィン系(例えば不飽和脂肪酸系)の(ジ)グリシジルエステル類、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環式エポキシ化合物類が挙げられる。
中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物等が好ましく、特にオルソクレゾール/ノボラック型エポキシ樹脂(O-クレゾール・ホルムアルデヒド重縮合物のポリグリシジルエーテル化合物)がより好ましい。
市販のものとしては、「Joncryl ADR4368C」(商品名:BASF社製)、エピコート1003(商品名:三菱ケミカル社製)、YDCN-704(日鉄ケミカル&マテリアル社製)などが挙げられる。
【0093】
エポキシ化合物は、重量平均分子量が15000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。下限値については、特に定めるものではないが、重量平均分子量が100以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本実施形態の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0094】
エポキシ化合物は、エポキシ当量が100g/eq以上または100g/mol以上であることが好ましく、より好ましくは150g/eq以上または150g/mol以上である。また、エポキシ化合物は、エポキシ当量が1500g/eqまたは1500g/mol以下であることが好ましく、900g/eq以下または900g/mol以下であることがより好ましく、800g/eq以下または800g/mol以下であることがさらに好ましい。
エポキシ当量を上記下限値以上とすることにより、流動性が高くなり樹脂組成物を成形しやすくなる傾向にある。上記上限値以下とすることにより、他部材との接着性がより高くなる傾向にある。
【0095】
本実施形態の樹脂組成物が、反応性化合物(好ましくは、エポキシ化合物)を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、接着強度が高くなる傾向にあり、機械的強度が高くなる傾向にある。また、前記反応性化合物の含有量の上限値は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対して、18質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが一層好ましく、3質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、流動性がより高くなり成形性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、反応性化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0096】
<<着色剤>>
本発明の成形品は、着色剤を含んでいてもよい。着色剤は、顔料であっても染料であってもよいが、顔料が好ましい。
本実施形態で用いうる着色剤としては、カーボンブラックが例示される。カーボンブラックの詳細は、特開2011-57977号公報の段落0021の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。また、本実施形態の樹脂組成物にカーボンブラック等の着色剤を配合する場合、マスターバッチを形成してから、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)と混練することが好ましい。マスターバッチには、ポリエステル樹脂を用いることが好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物が着色剤を含む場合、その含有量は、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、着色剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0097】
<樹脂組成物の他の物性>
本実施形態における樹脂組成物は、直径100mm、厚み1.6mmの円板に成形したときの円板反り(平均値)が、5mm未満であることが好ましく、3mm未満であることがより好ましい。前記反りの下限値は0mmが理想であるが、0.01mm以上が実際的である。
前記反りは、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
また、本実施形態の樹脂組成物は、他部材との接着性が高いことが好ましく、他部材との接着用に好ましく用いられる。これらの詳細は後述する。
【0098】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態における樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリエステル樹脂(A)およびアクリロニトリル-スチレン共重合体(B)、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220~320℃の範囲である。
【0099】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本実施形態の成形品は、上述の通り、本実施形態における樹脂組成物ないしペレットから成形される。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。中でも、フィルム状、枠状、パネル状、ボタン状のものが好ましく、厚さは例えば、枠状、パネル状の場合1mm~5mm程度である。
【0100】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態における樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。なお、射出成形等、金型成形する際の金型温度は、40~130℃であることが好ましい。金型の温度が低いと算術平均高さが高くなり、接着強度は向上する傾向にあるが外観が悪化する。金型温度が高いと、算術平均高さは低くなり外観は向上するものの、接着強度は低下する傾向にある。金型の温度は60~100℃程度が好ましく、この範囲であれば接着強度と外観を効果的に向上させることができる。しかしながら、本実施形態における樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0101】
<多層体>
本実施形態の多層体は、本実施形態の成形品(本実施形態の樹脂組成物ないしペレットから成形された成形品)と、直接に、または、少なくとも接着剤を介して貼り合わされている他部材とを有する。
樹脂組成物中の酸の量を調整することにより、前記樹脂組成物から得られる成形品と他部材との接着性に優れた多層体が得られると推測される。
ここで、前記成形品と他部材は、直接に貼り合わされていてもよいし、少なくとも接着剤を介して貼り合わされていてもよい。すなわち、前記成形品は、接着性に優れているため、接着剤なしに他部材そのものと貼り合わせることもできる。また、前記成形品と他部材を、少なくとも接着剤を介して貼り合わせる場合についても、例えば、下塗り層を設けずとも十分に貼り合わせることができる等の利点がある。すなわち、成形品と他部材を接着剤のみを介して貼り合わせてもよい。もちろん、成形品と他部材を下塗り層と接着剤を介して貼り合わせてもよい。
本実施形態の第一の実施形態は、成形品と他部材が、一部において、直接に貼り合わされている多層体である。例えば、他部材が、エポキシ樹脂、シリコーンゴムなどの封止剤やコーティング剤(塗料、塗装剤を含む)の場合などである。より具体的には、第一の実施形態の多層体は、成形品の表面にエポキシ樹脂、シリコーンゴムなどの封止剤を設けた多層体や、成形品の表面にコーティング剤(塗料、塗装を含む)を設けた多層体などが挙げられる。また、本実施形態における多層体は、金型モールド法による成形品であってもよく、その中でも、コンプレッション成形、トランスファー成形であってもよく、さらに、溶接法による成形品であってもよく、成形品表面に複数の液体を塗布して反応させ、硬化することによって出来る多層体や成形品であってもよい。
本実施形態の第二の実施形態は、多層体が、さらに、接着剤を含み、成形品と他部材とが、少なくとも接着剤を介して貼り合わされている多層体である。例えば、本実施形態における樹脂組成物から形成された成形品と、金属から形成された部材とを接着剤で貼り合わせた多層体や、本実施形態における樹脂組成物から形成された成形品と、ガラスから形成された部材とを接着剤で貼り合わせた多層体や、本実施形態における樹脂組成物から形成された成形品と、本実施形態における樹脂組成物、または、他の樹脂組成物から形成された部材とを接着剤で貼り合わせた多層体が例示される。さらには、本実施形態における樹脂組成物から形成された成形品と他部材とを下塗り層と接着剤で貼り合わせた多層体であってもよい。
【0102】
本実施形態における成形品、多層体ないし成形体は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器、ディスプレイ等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、車輌部品に好ましく用いられる。なお、本実施形態における成形体とは、多層体を含むものであり、部品であっても完成品であってもよい。
本実施形態における成形品は、上述の通り、接着剤や封止剤、加飾、コーティング剤(塗料、塗装剤を含む)、その他の部材との接着性に優れている。従って、成形品と他部材と接着剤を用いて貼り合わせる多層体や、封止剤、加飾、コーティング剤等を用いて成形品の封止や加飾、コーティングを行う用途に好ましく用いられる。
なお、他部材とは、上述の通り、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、ガラス等から形成された部材を指す。
具体的には、イグニッションケース、センサーハウジング、ECUハウジング、フューエルキャップ、ウィンドレギュレーター、自動車用コネクター、リレーケース、モーターケース、ブラケット、各種ケース、各種チューブなどに好ましく用いられる。
【0103】
接着剤とは、2つのものを貼り合わせる物質をいい、通常は、熱可塑性ではない物質である。接着剤は、層状(接着剤層)を形成していることが好ましい。接着剤層の厚さは、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、10000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましい。
上記接着剤としては、シリコーン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着等が例示される。接着剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0104】
下塗り層は、接着剤と、成形品または他部材との接着性をさらに向上させるための層であり、接着剤と成形品または他部材との間に下塗り層を設けてもよい。下塗り層を形成する物質としては、特開2022-123848号公報に記載のものを参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0105】
また、上記封止剤としては、特開2021-080363号公報、特開2014-062224号公報、特開平10-305444号公報、特開2011-018859号公報、特開2001-247746号公報、特開2009-029842号公報に記載の封止剤、封止用組成物または封止方法を好適に使用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0106】
以下に本実施形態の多層体の好ましい構成の具体例を示す。本実施形態の多層体がこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
(1)樹脂組成物から形成された成形品、および、他の部材を有し、前記成形品と前記他の部材が一部において直接に貼り合わされている多層体。
(2)樹脂組成物から形成された成形品、接着剤、および、他の部材を有し、前記成形品と前記他の部材が、接着剤を介して貼り合わされている多層体
(3)樹脂組成物から形成された成形品、下塗り層、接着剤、および、他の部材を有し、前記成形品の少なくとも一部の表面に下塗り層が設けられており、前記下塗り層と他の部材が接着剤を介して貼り合わされている、多層体。
(4)樹脂組成物から形成された成形品、接着剤、下塗り層、および、他の部材を有し、前記他の部材の少なくとも一部の表面に下塗り層が設けられており、前記下塗り層と成形品が接着剤を介して貼り合わされている、多層体。
【0107】
なお、本実施形態の多層体は、必ずしも、各層が平板状、シート層状等である必要性はなく、例えば、本実施形態における樹脂組成物から形成された射出成形品と、他の部材としての射出成形品を接着剤で貼り合わせたものなども含むことは言うまでもない。
【実施例0108】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0109】
1.原料
以下の原料を用いた。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
2.実施例1~12、比較例1~4
<コンパウンド>
上記表1または表2に示した各成分のうち、ガラス繊維を除いた各成分を表3~表6に示す割合(全て質量部)にて、タンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」、L/D=42)を使用し、ガラス繊維はサイドフィーダーより供給し、シリンダー設定温度260℃、吐出量40kg/h、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練した樹脂組成物を、水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0113】
<アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のMVR>
アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)のMVRは、ISO1133規格に従い、250℃、荷重5kgfの条件で測定した。
測定には、タカラ工業社製のメルトインデクサーを用いた。
【0114】
<樹脂組成物中の酸の含有量の測定方法>
樹脂組成物中の酸の含有量は、原料(例えば、無水マレイン酸重合体)中の酸(例えば、無水マレイン酸)の含有量から算出した。具体的には、全ての添加物を含んだ樹脂組成物100質量%中、酸変性重合体含有量に重合体中の酸含有率を掛けることで算出した。単位は、質量%で示した。
【0115】
<荷重たわみ温度(DTUL)>
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼社製射出成形機(型締め力85T)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
得られたISO多目的試験片(4mm厚)を用い、ISO75-1及びISO75-2に準拠して、荷重1.8MPaの条件で、荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
【0116】
<接着試験>
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼社製射出成形機(型締め力85T)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。上記ISO多目的試験片(4mm厚)を2枚作製した。図1に示すように、その一方のISO多目的試験片1のチャック部分に、フッ素系樹脂テープ2(Nitto社製、NITOFLON粘着テープ、0.18×10×10mm)を貼った。次に、接着剤3の塗布範囲が20mm×20mm×0.18mm厚となるように、接着剤3(変性シリコーン系接着剤(変性シリコーンポリマーを主成分とする一液・常温硬化型接着剤))を塗布し、もう一方のISO多目的試験片4(4mm厚)と接着した後、バインダークリップで固定し、その接着剤に規定の硬化条件にて処理を行い、接着させた。
ISO多目的試験片1・4は、テンシロン1tにて、図1に示す矢印の方向に5mm/minにて引張り、引張試験を行った。なお、引張試験の際は、試験片が垂直になるよう、スペーサーを使用した。
接着強度は、3回測定した平均値とし、その単位はNで示した。
また、接着後の界面状態を確認し、以下の通り記載した。
試験後に接着剤の破壊が起きている場合:凝集破壊
試験後に接着剤と樹脂界面での剥離が起きている場合:界面剥離
【0117】
<円盤反り>
上記樹脂組成物を用い、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、直径100mm、厚み1.6mmの円盤をサイドゲート金型により充填時間1.0秒、保圧はピーク圧の5割で成形し、成形後23℃50%RH環境下で1晩放置後、キーエンス社製三次元測定機(VLシリーズ)を用いて円盤の反り量(単位:mm)を求めた。
【0118】
<アニール処理後円盤反り>
上記で成形した円盤を120℃で3時間処理した後、23℃50%RH環境下で1晩放置した後、キーエンス社製三次元測定機(VLシリーズ)を用いて円盤の反り量(単位:mm)を求めた。なお、アニール前後の円盤反り量の差は、アニール後の円盤反り量からアニール前の円盤反り量を引くことで算出した。
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
上記結果から明らかなとおり、実施例の樹脂組成物は、他部材との接着性に優れていた(実施例1~12)。さらに、ポリエステル樹脂(A)の含有割合を、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の含有割合よりも多くすることにより、荷重たわみ温度を高くすることができた(実施例1~6、12)。
これに対し、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)を含まない場合(比較例1、2)、酸変性重合体(C)の含有量が少ない場合(比較例3)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(B)の含有量が少ない場合(比較例4)、接着性が劣っていた。
【符号の説明】
【0124】
1 ISO多目的試験片
2 フッ素系樹脂テープ
3 接着剤
4 ISO多目的試験片
図1