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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127922
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塗布装置および塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20240912BHJP
   B05C 1/02 20060101ALN20240912BHJP
   B05C 11/10 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B05D1/28
B05C1/02 101
B05C11/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106813
(22)【出願日】2024-07-02
(62)【分割の表示】P 2019166320の分割
【原出願日】2019-09-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「三次元生体組織(LbL3D組織)の全自動製造システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】赤木 隆美
(72)【発明者】
【氏名】小田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】近江 ▲祥▼平
(57)【要約】
【課題】非ニュートン流体を塗布するのに要する時間が長くならないようにすることができる塗布装置および塗布方法を提供する。
【解決手段】塗布装置は、対象物に剪断により粘度が変化する塗布材料を塗布するための塗布針24と、塗布針24を昇降させるための駆動部90と、駆動部90を制御することによって、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径とに応じた剪断速度で塗布材料が剪断されるように塗布針を移動させる制御装置とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に剪断により粘度が変化する塗布材料を塗布するための塗布針と、前記塗布材料を保持し、前記対象物と対向する底部に前記塗布針を突出させる貫通孔を有する容器とを備えた塗布装置の塗布方法であって、
塗布材料の種類と、目標塗布量または塗布膜の厚さが一定の時の目標塗布径と、前記塗布針が前記貫通孔を突出するときの前記塗布針と前記貫通孔の外壁との間隔とに対する前記塗布針の鉛直下方向への移動速度を定めたテーブルを参照して、前記塗布針の鉛直下方向への移動速度を決定するステップと、
前記塗布針が前記貫通孔を通過するときの速度を前記決定した移動速度に制御するステップとを備え、
前記塗布材料の前記種類は、ヒアルロン酸溶液に細胞を含有させた細胞含有溶液であり、
前記テーブルは、前記塗布針と前記貫通孔の外壁との間隔が同一の場合には、前記目標塗布量または前記塗布膜の厚さが一定の時の前記目標塗布径が大きいほど、前記移動速度が小さくなるように定められている、塗布装置の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置および塗布方法に関し、特に、塗布針を用いて被塗布物に液体材料を塗布する塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identifier)タグなどの微細な回路を印刷(塗布)方式で描画して形成するプリンテッドエレクトロニクス技術が急速に発展してきている。微細な回路のパターンまたは電極パターンを形成する方式としては、インクジェット方式、ディスペンサ方式などが一般的であるが、塗布針を用いた方式は、広範囲の粘度の材料を用いて微細な塗布が可能な点で、注目されている。
【0003】
特許文献1には、塗布ユニットを用いて液体材料の微細な塗布を行なう方法が記載されている。このような塗布ユニットは、微細パターンの欠陥を修正することを目的とするもので、広範囲な粘度の塗布材料を用いて微細な塗布を行なうことが可能である。塗布動作の際、塗布材料を保持する塗布材料容器の底部に形成された貫通孔から、1本の塗布針を突出させる。塗布針は、先端に付着している塗布材料を被塗布物に接触させて塗布を行なう。
【0004】
特許文献2には、塗布針方式を用いた非ニュートン流体の塗布方法が記載されている。具体的には、特許文献2には、非ニュートン流体である接着剤の粘度変化に対して定量塗布を行なう場合は、塗布用ピンの沈み深さを変えることが記載されている。特許文献2には、塗布量の増減を行うときは、塗布針が接着剤中に浸液している時間、被着体上で塗布針が転写塗布している時間、または塗布針の直径を変えることが記載されている。また、特許文献2には、接着剤の初期粘度及び経時粘度変化を計測し、塗布針の浸液深さ、転写時間、および浸液時間に反映させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-268353号公報
【特許文献2】特開平4-35857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、塗布針による非ニュートン流体の塗布における塗布量の調整について開示されているが、調整塗布針の拭き取り工程が含まれているため、作業時間が長くなる。また、浸液時間および転写時間を制御するので、さらに塗布時間が長くなるおそれがある。これにより、接着剤では表面乾燥が発生する。また、塗布針径を変更することによる段取り替えが発生する。
【0007】
それゆえに、本発明の目的は、非ニュートン流体を塗布するのに要する時間が長くならないようにすることができる塗布装置および塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗布装置は、対象物に剪断により粘度が変化する塗布材料を塗布するための塗布針と、塗布針を昇降させるための駆動部と、駆動部を制御することによって、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径とに応じた剪断速度で塗布材料が剪断されるように塗布針を移動させる制御装置とを備える。
【0009】
好ましくは、塗布材料を保持し、対象物と対向する底部に塗布針を突出させる貫通孔を有する容器を備える。制御装置は、駆動部を制御することによって、塗布針が貫通孔を通過するときに、剪断速度で塗布材料が剪断されるように塗布針を移動させる。
【0010】
好ましくは、制御装置は、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径に基づいて、塗布針の鉛直下方向への移動速度を決定し、塗布針が貫通孔を通過するときの速度を決定した移動速度に制御する。
【0011】
好ましくは、制御装置は、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径と、塗布針が貫通孔を突出するときの塗布針と貫通孔の外壁との間隔とに基づいて、塗布針の鉛直下方向への移動速度を決定し、塗布針が貫通孔を通過するときの速度を決定した移動速度に制御する。
【0012】
好ましくは、制御装置は、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径と、間隔とに対する移動速度を定めたテーブルを有し、テーブルを参照して、移動速度を決定する。
【0013】
好ましくは、塗布材料は、擬塑性流体、ダイラタント流体、およびビンガム流体のうちのいずれかである。
【0014】
好ましくは、テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類が擬塑性流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。
【0015】
好ましくは、テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類がダイラタント流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が大きくなるように定める。
【0016】
好ましくは、テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類がビンガム流体の場合には、目標塗布量が所定値以下のときに、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定め、目標塗布量が所定値を超えるときに、目標塗布量に係わらず、移動速度が一定となるように定める。
【0017】
好ましくは、テーブルは、塗布材料の種類と目標塗布量とが同一の場合に、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。
【0018】
好ましくは、塗布材料は、細胞含有溶液である。
【0019】
好ましくは、テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。
【0020】
本発明は、対象物に剪断により粘度が変化する塗布材料を塗布するための塗布針と、塗布材料を保持し、対象物と対向する底部に塗布針を突出させる貫通孔を有する容器とを備えた塗布装置の塗布方法であって、塗布材料の種類と、目標塗布量または目標塗布径と、塗布針が貫通孔を突出するときの塗布針と貫通孔の外壁との間隔に基づいて、塗布針の鉛直下方向への移動速度を決定するステップと、塗布針が貫通孔を通過するときの速度を決定した移動速度に制御するステップとを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非ニュートン流体を塗布するのに要する時間が長くならないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の塗布装置の模式図である。
図2図1に示した塗布装置の塗布機構4を示す模式図である。
図3図2に示した塗布機構4のカム部材を説明するための模式図である。
図4図2に示した塗布機構4における塗布針24の動作を説明するための模式図である。
図5図2に示した塗布機構4における塗布針24の動作を説明するためのグラフである。
図6】流体の種類ごとの、剪断力と、剪断粘度との関係の概略を表わす図である。
図7】塗布材料が高分子の水溶液の場合の剪断速度に対する剪断粘度の測定結果を表わす図である。
図8】塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度に対する塗布針24の先端に付着した液滴の厚さの測定結果を表わす図である。
図9】(a)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が大きいときの塗布材料70を表わす図である。(b)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が中間ぐらいのときの塗布材料70を表わす図である。(c)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が小さいときの塗布材料70を表わす図である。
図10】第1の実施形態の速度テーブルの例を表わす図である。
図11】第1の実施の形態の塗布針24の駆動制御の手順を表わすフローチャートである。
図12】塗布針24が貫通孔72から突出するときの塗布針24の状態を表わす図である。
図13】第2の実施形態の速度テーブルの例を表わす図である。
図14】第2の実施の形態の塗布針24の駆動制御の手順を表わすフローチャートである。
図15】変形例1の速度テーブルの例を表わす図である。
図16】変形例2の速度テーブルの例を表わす図である。
図17】塗布材料がヒアルロン酸溶液に細胞を含有させた細胞含有溶液の場合の塗布速度に対する塗布径の測定結果を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0024】
[第1の実施形態]
(塗布装置の全体構成)
図1は、実施形態の塗布装置の模式図である。図1を参照して、塗布装置は、処理室と、処理室の内部に配置されたY軸テーブル2と、X軸テーブル1と、Z軸テーブル3と、塗布機構4と、観察光学系6と、観察光学系6に接続されたCCDカメラ7と、制御装置80とを備える。制御装置80は、モニタ9と、制御用コンピュータ10と、操作パネル8とを含む。
【0025】
処理室の内部においては、処理室の底部上にY軸テーブル2が設置されている。Y軸テーブル2は、Y軸方向に移動可能に構成される。具体的には、Y軸テーブル2の下面にガイド部が設置されている。ガイド部は、処理室の底面に設置されたガイドレールに摺動可能に接続されている。Y軸テーブル2の下面にはボールねじが接続されている。ボールねじをモータなどの駆動部材により動作させることにより、Y軸テーブル2はガイドレールに沿って(Y軸方向に)移動可能に構成される。Y軸テーブル2の上部表面上は、処理対象材である基板5を搭載する搭載面を形成する。
【0026】
Y軸テーブル2上には、X軸テーブル1が設置される。X軸テーブル1は、Y軸テーブル2をX軸方向に跨ぐように設置された構造体上に配置される。X軸テーブル1には、Z軸テーブル3が接続された移動体がX軸方向に移動可能に設置される。移動体は、たとえばボールねじを用いてX軸方向に移動可能に構成される。なお、X軸テーブル1は上記構造体を介して処理室の底面に固定されている。そのため、上述したY軸テーブル2は、X軸テーブル1に対してY軸方向に移動可能に構成される。
【0027】
X軸テーブル1に接続された移動体には、上述のようにZ軸テーブル3が設置されている。Z軸テーブル3には、観察光学系6および塗布機構4が接続されている。観察光学系6は、塗布対象の基板5の塗布位置を観察するためのものである。CCDカメラ7は、観察した画像を電気信号に変換する。Z軸テーブル3は、これらの観察光学系6および塗布機構4をZ軸方向に移動可能に保持する。
【0028】
Y軸テーブル2、X軸テーブル1、Z軸テーブル3、観察光学系6および塗布機構4を制御するための制御用コンピュータ10および操作パネル8、さらに制御用コンピュータに付随するモニタ9は、処理室の外部に設置されている。モニタ9は、上述したCCDカメラ7で変換された画像データ、および制御用コンピュータ10からの出力データを表示する。操作パネル8は、制御用コンピュータ10への指令を入力するために用いられる。制御用コンピュータ10は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを備える。CPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することによって、各種の制御を実行することができる。
【0029】
(塗布機構4の構成)
上述した塗布機構4に関して、図2および図3を参照してより詳しく説明する。図1に示したZ軸テーブル3に固定された塗布機構4は、サーボモータ41と、カム43と、軸受44と、カム連結板45と、可動部46と、塗布針ホルダ20と、塗布針ホルダ20に保持された塗布針24と、塗布材料容器21と、駆動部90とを備える。駆動部90は、サーボモータ41、カム43、軸受44、カム連結板45、および可動部46を備える。
【0030】
サーボモータ41は、図1に示したZ軸方向に沿った方向に回転軸が延びるように設置されている。サーボモータ41の回転軸にはカム43が接続されている。カム43は、サーボモータ41の回転軸を中心として回転可能に構成される。
【0031】
カム43は、サーボモータ41の回転軸に接続された中心部と、当該中心部の一方端部に接続されたフランジ部とを含む。図3(A)に示すように、フランジ部の上部表面(サーボモータ41側の表面)はカム面61となっている。カム面61は、中心部の外周に沿って円環状に形成されているとともに、フランジ部の底面からの距離が変動するようにスロープ状に形成されている。具体的には、図3(B)に示すように、カム面61はフランジ部の底面からの距離が最も大きくなっている上端フラット領域62と、上端フラット領域62から間隔を隔てて配置され、フランジ部の底面からの距離が最も小さい下端フラット領域63と、上端フラット領域62と下端フラット領域63との間を接続するスロープ部とを含む。ここで、図3(B)は、中心部を囲むように環状に配置されたカム面61を含むフランジ部を側面から見た展開図である。
【0032】
カム43のカム面61に接するように軸受44が配置されている。軸受44は、図2(A)に示すようにカム43から見て特定の方向(サーボモータ41の右側)に配置されており、サーボモータ41の回転軸が回転することでカム43が回転したとき、カム面61に接触した状態を保つ。この軸受44にカム連結板45が接続されている。カム連結板45において、軸受44と接続された一方端部と反対側の他方端部は可動部46に固定されている。可動部46には、塗布針ホルダ固定部47および塗布針ホルダ収納部48が接続されている。この塗布針ホルダ収納部48に塗布針ホルダ20が収納されている。
【0033】
塗布針ホルダ20は、塗布針24を含む。塗布針24は、塗布針ホルダ20の下面(サーボモータ41が位置する側と反対側である下側)において塗布針ホルダ20から突出するように配置されている。塗布針ホルダ20下には塗布材料容器21が配置されている。塗布材料容器21に塗布針24は挿入された状態で保持されている。
【0034】
可動部46には固定ピン52が設置されている。また、サーボモータ41を保持している架台には他方の固定ピン51が設置されている。この固定ピン51、52の間を繋ぐようにバネ50が設置されている。バネ50により、可動部46は塗布材料容器21側に向けた引張り力を受けた状態になっている。このバネ50による引張り力は、可動部46およびカム連結板45を介して軸受44に作用する。バネ50の引張り力によって、軸受44はカム43のカム面61に押圧された状態を維持している。
【0035】
可動部46、塗布針ホルダ固定部47、塗布針ホルダ収納部48は、上記架台に設置されたリニアガイド49に接続されている。リニアガイド49は、Z軸方向に延びるように配置されている。そのため、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、および塗布針ホルダ収納部48はZ軸方向に沿って移動可能に構成される。
【0036】
(塗布機構の動作)
次に、上述した塗布機構4の動作について説明する。上述した塗布機構4においては、サーボモータ41を駆動することにより、サーボモータ41の回転軸を回転させてカム43を回転させる。この結果、カム43のカム面61は、Z軸方向における高さが変化するため、図2(A)におけるカム43の右側においてカム面61に接触している軸受44のZ軸方向における位置もサーボモータ41の駆動軸の回転に応じて変動する。軸受44のZ軸方向での位置変動に応じて、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、および塗布針ホルダ収納部48がZ軸方向に移動する。この結果、塗布針ホルダ収納部48に保持されている塗布針ホルダ20もZ軸方向に移動するので、当該塗布針ホルダ20に設置されている塗布針24のZ軸方向における位置を変化させることができる。
【0037】
具体的には、図3および図4を参照して、軸受44がカム43のカム面61における上端フラット領域62に接している場合には、図4(A)に示すように塗布針24はその上端位置(サーボモータ41に最も近い位置)に配置されることになる。このとき、塗布針24の先端部は、塗布材料容器21内に保持されている塗布材料70内に浸漬された状態にある。塗布材料容器21は、対象物である基板5と対向する底部に塗布針24を突出させる貫通孔72を有する。
【0038】
次に、サーボモータ41が回転軸を回転させることにより、カム43が回転し、軸受44がカム面61の下端フラット領域63が軸受44に接する位置に来た場合には、図4(B)に示すように塗布針24は、塗布材料容器21の底部に形成された貫通孔72を通り、塗布材料容器21の底面から下向きに突出した状態になる。このとき、塗布材料容器21の底面から突出した塗布針24の表面には塗布材料70の一部が付着した状態となる。Z軸テーブル3(図1参照)が塗布機構4を基板5側に移動させることにより、基板5の表面に塗布針24の先端部が接触して、塗布材料70を基板5の表面に塗布することができる。なお、Z軸テーブル3の移動を先に行なってからサーボモータ41を駆動させてもよいし、Z軸テーブル3とサーボモータ41との動作をほぼ同時に実施してもよい。
【0039】
塗布機構4では、サーボモータ41の回転運動を塗布針24のZ軸方向における運動(上下運動)に変換することができる。このような構成とすることにより、塗布針24を迅速かつ正確にZ軸方向において移動させることができる。
【0040】
塗布針24による塗布材料70の塗布工程における精度をより高めるために、塗布針24の動作速度が以下のように制御される。
【0041】
具体的には、図5に示すように、塗布針24の位置に応じて、塗布針24の移動速度が変更される。ここで、図5の横軸は塗布針24の先端位置を示し、縦軸は塗布針移動速度を示す。
【0042】
図4(A)に示すように塗布針24が上端位置にあるとき(図5における位置P1)から、サーボモータ41を駆動することにより、カム43が回転して軸受44がカム面61の上端フラット領域62以外の領域と接触する。この結果、塗布針24は基板5側へと移動する。そして、図5の横軸における位置P2になるまで、塗布針24の移動速度を増加させる。具体的には、サーボモータ41の回転速度を高めることによって、塗布針24の移動速度を大きくすることができる。
【0043】
そして、所定の移動速度V2になった後(位置P2に到達した後)、所定の移動速度V2を維持したまま、塗布針24を移動させる。これは、サーボモータ41の回転速度を一定にすることで実現できる。そして、図5の位置P3に到達したときには、塗布針24の移動速度を低下させる。具体的には、サーボモータ41の回転速度を徐々に低下させる。その結果、軸受44が下端フラット領域63(図3参照)に到達する前の所定の位置P4まで、塗布針24の移動速度を十分に低下させる。
【0044】
そして、図5の位置P4から塗布針24が図4(B)に示す下端位置(位置P5)に到達するまで、所定の低速な移動速度V1で塗布針24を移動させる。この場合も、サーボモータ41の回転速度を所定の速度に保つことになる。このような制御を行なうことにより、塗布針24が基板5に接触するときには塗布針24の移動速度が十分小さくなっているので、塗布針24が基板5に対して接触するときの衝撃を小さくすることができるとともに、当該衝撃により塗布針24が基板5の表面に塗布材料70を塗布するときの位置精度が劣化することを防止できる。
【0045】
さて、塗布材料として使用可能な液体は大きく分類すると、ニュートン流体と非ニュートン流体に分類される。非ニュートン流体は、擬塑性流体、ビンガム流体、およびダイラタント流体のうちのいずれかに分類される。ニュートン流には、水、およびシリコンオイルなどが含まれる。擬塑性流体には、ケチャップ、高分子液体、および塗料などが含まれる。ビンガム流体には、歯磨き粉、およびバターなどが含まれる。ダイラタント流体には、水溶き片栗粉、および水際の砂浜などが含まれる。
【0046】
図6は、流体の種類ごとの、剪断力と、剪断粘度との関係の概略を表わす図である。横軸は、流体に与える剪断力を表し、縦軸は、流体の剪断粘度を表わす。なお、同一種類の流体の間でも、剪断密度の具体的な大きさは、相違する。図6は、流体の種類ごとの代表的な流体の剪断粘度を示す。
【0047】
図6に示すように、ニュートン流体は、剪断力が変化しても、剪断粘度は変化しない。擬塑性流体は、剪断力が大きくなるにつれて剪断粘度が低下する。ビンガム流体は、剪断力がある一定値以上にならないと流動性を示さない。ダイラタント流体は、剪断力が大きくなるにつれて、剪断粘度が増加する。
【0048】
本願の発明者は、擬塑性流体の代表例である高分子の水溶液を用いて、剪断速度の変化による剪断粘度の変化について調べた。
【0049】
以下のように測定条件を設定した。高分子を水に溶解させ、0、0.5、1、1.2、1.5、2(w/v%)の溶液をそれぞれ調製しした。温度を25度に維持し、調整した各種溶液の剪断速度の変化に対して剪断粘度の変化を測定した。測定を3回繰り返して、測定値の平均値を求めた。
【0050】
図7は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の剪断速度に対する剪断粘度の測定結果を表わす図である。図7に示すように、塗布材料が高分子の水溶液の場合には、剪断速度が大きいほど剪断粘度は小さくなる。また、高分子の溶液の濃度が大きいほど、溶液の剪断粘度は大きくなる。
【0051】
さらに、本願の発明者は、以下の塗布試験を行った。
【0052】
測定条件を以下のように設定した。高分子を水に溶解させ、0、0.5、1、1.2、1.5 (w/v%)の溶液をそれぞれ調製した。調整した各種溶液を塗布材料容器に入れ、塗布針24の移動速度を変化させて塗布針24を突出させ、塗布針24の先端に付着した液滴の厚さを計測した。厚さによって付着量を間接的に表わすことができる。測定を3回繰り返して、測定値の平均値を求めた。
【0053】
図8は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度に対する塗布針24の先端に付着した液滴の厚さの測定結果を表わす図である。塗布針24の移動速度は、図5の移動速度V2に対応し、塗布針24の先端部分が貫通孔72から突出するときの塗布針24の鉛直下方向の速度である。
【0054】
図8に示すように、塗布材料が高分子の水溶液の場合には、塗布針24の移動速度が増加するにつれて、塗布針24の針先への液滴の付着量は減少する。
【0055】
塗布針24の移動速度と、塗布材料の剪断速度は比例すると考えられるので、図7および図8の結果より、塗布材料が高分子の水溶液の場合には、塗布材料の移動速度および塗布材料の剪断速度が大きくなると、塗布材料の剪断粘度が減少すること、塗布材料の剪断粘度が減少することによって、塗布針24の先端から塗布材料が上方へ引き上げられる速度が速くなり、塗布量が減少することが予想される。
【0056】
図9(a)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が大きいときの塗布材料70を表わす図である。図9(b)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が中間ぐらいのときの塗布材料70を表わす図である。図9(c)は、塗布材料が高分子の水溶液の場合の塗布針24の移動速度が小さいときの塗布材料70を表わす図である。これらの図に示すように、塗布材料が高分子の水溶液の場合には、塗布針24の移動速度が大きくなると、塗布材料の塗布量が減少することがわかる。
【0057】
したがって、本願の発明者は、塗布材料70の種類および目標塗布量に応じて、塗布針24の移動速度を変えることによって、目標塗布量で塗布することができることに想到することができた。
【0058】
上記を実現するために、制御用コンピュータ10は、駆動部90を制御することによって、塗布材料の種類と、目標塗布量とに応じた剪断速度で塗布材料70が剪断されるように塗布針24を移動させる。すなわち、制御用コンピュータ10は、駆動部90を制御することによって、塗布針24が貫通孔72を通過するときに、塗布材料の種類と、目標塗布量とに応じた剪断速度で塗布材料が剪断されるように塗布針24を移動させる。
【0059】
より具体的には、制御用コンピュータ10は、速度テーブルを記憶する。
【0060】
図10は、第1の実施形態の速度テーブルの例を表わす図である。図10に示すように、速度テーブルは、塗布材料の種類aiおよび目標塗布量bjに対応する移動速度vkを定める。
【0061】
速度テーブルは、塗布材料の種類が擬塑性流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。速度テーブルは、塗布材料の種類がダイララント流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が大きくなるように定める。速度テーブルは、塗布材料の種類がビンガム流体の場合には、目標塗布量が所定値以下の場合に、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定め、目標塗布量が所定値を超える場合に、目標塗布量に係わらず、移動速度が一定となるように定める。
【0062】
制御用コンピュータ10は、図10の速度テーブルを参照して、塗布針24の鉛直下方向への移動速度を決定する。
【0063】
図11は、第1の実施の形態の塗布針24の駆動制御の手順を表わすフローチャートである。
【0064】
図11を参照して、ステップS101において、制御用コンピュータ10は、塗布材料および目標塗布量の情報を取得する。この情報は、ユーザの入力によって取得されるものであってもよいし、制御用コンピュータ10が通信によって自動的に取得するものであってもよい。
【0065】
ステップS102において、制御用コンピュータ10は、図10に示す速度テーブルを参照して、塗布材料および目標塗布量に対応する塗布針24の鉛直下方向への移動速度を決定する。
【0066】
ステップS103において、制御用コンピュータ10は、塗布針24が貫通孔72を通過するときの速度が決定した移動速度となるように塗布針24の移動を制御することによって、塗布材料70の基板5への塗布を実行する。
【0067】
以上のように、従来において、非ニュートン流体の微細塗布において、塗布量を調整しながら塗布を行うと時間を要するという問題があったが、本実施の形態では、目標塗布量および塗布材料の種類に応じて塗布針の鉛直下方向への移動速度を制御することによって、実質的に一般的な塗布作業と同等の所要時間で、塗布量の調整が可能になる。
【0068】
[第2の実施形態]
図12は、塗布針24が貫通孔72から突出するときの塗布針24の状態を表わす図である。
【0069】
塗布針24の先端部が貫通孔72から突出するときに、塗布針24と貫通孔72の外壁との間に隙間が存在する。図12に示すように、先端部が先になるほど細くなっている形状を有する場合などでは、隙間の間隔dは、先端部の箇所によって相違する。図12では、先端部の1つの箇所での間隔d1が示されている。
【0070】
塗布針24と貫通孔72の外壁との間隔が大きくなるほど、剪断力が小さくなるので、剪断粘度が低下する。したがって、間隔が大きくなると、塗布材料の剪断粘度が減少すること、塗布材料の剪断粘度が減少することによって、塗布針24の先端から塗布材料が上方へ引き上げられる速度が速くなり、塗布量が減少することが予想される。
【0071】
本実施の形態では、制御用コンピュータ10は、駆動部90を制御することによって、塗布材料の種類と、目標塗布量と、塗布針24と貫通孔72の外壁との間隔に応じた剪断速度で塗布材料70が剪断されるように塗布針24を移動させる。ここで、塗布針24と貫通孔72の外壁との間隔は、先端部の各箇所における間隔の最小値、最大値、または平均値などを利用することができる。すなわち、制御用コンピュータ10は、駆動部90を制御することによって、塗布針24が貫通孔72を通過するときに、塗布材料の種類と、目標塗布量と、塗布針24と貫通孔72の外壁との間隔とに応じた剪断速度で塗布材料が剪断されるように塗布針24を移動させる。
【0072】
図13は、第2の実施形態の速度テーブルの例を表わす図である。図13に示すように、速度テーブルは、塗布材料の種類ai、目標塗布量bj、および塗布針と貫通孔の外壁との間隔clに対応する移動速度vkを定める。
【0073】
速度テーブルは、塗布材料の種類と、目標塗布量とが同一の場合に、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。
【0074】
速度テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類が擬塑性流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定める。速度テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類がダイララント流体の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が大きくなるように定める。速度テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類がビンガム流体の場合には、目標塗布量が所定値以下の場合に、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定め、目標塗布量が所定値を超える場合に、目標塗布量に係わらず、移動速度が一定となるように定める。
【0075】
制御用コンピュータ10は、図13の速度テーブルを参照して、塗布針24の鉛直下方向への移動速度を決定する。
【0076】
図14は、第2の実施の形態の塗布針24の駆動制御の手順を表わすフローチャートである。
【0077】
図14を参照して、ステップS201において、制御用コンピュータ10は、塗布材料、塗布針24と貫通孔72の外壁との距離および目標塗布量の情報を取得する。この情報は、ユーザの入力によって取得されるものであってもよいし、制御用コンピュータ10が通信によって自動的に取得するものであってもよい。
【0078】
ステップS202において、制御用コンピュータ10は、図13に示す速度テーブルを参照して、塗布材料および目標塗布量に対応する塗布針24の鉛直下方向への移動速度を決定する。
【0079】
ステップS203において、制御用コンピュータ10は、塗布針24が貫通孔72を通過するときの速度が決定した移動速度となるように塗布針24の移動を制御することによって、塗布材料70の基板5への塗布を実行する。
【0080】
本実施の形態では、目標塗布量、塗布針と貫通孔の外壁との距離、および塗布材料の種類に応じて塗布針の鉛直下方向への移動速度を制御することによって、実質的に一般的な塗布作業と同等の所要時間で、塗布量の調整が可能になる。
【0081】
(実施の形態1および2の変形例)
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、たとえば、以下のような変形例も含む。
(1)塗布径
塗布量は、塗布膜のサイズを表わす塗布径、および塗布膜の厚さで表される。塗布膜の厚さが一定とみなせる場合には、塗布径と塗布量とは比例するので、塗布量の代わりに塗布径を用いてもよい。
【0082】
図15は、変形例1の速度テーブルの例を表わす図である。図15に示すように、速度テーブルは、塗布材料の種類ai、および目標塗布径ejに対応する移動速度vkを定める。
【0083】
図16は、変形例2の速度テーブルの例を表わす図である。図16に示すように、速度テーブルは、塗布材料の種類ai、目標塗布径ej、および塗布針と貫通孔の外壁との間の間隔clに対応する移動速度vkを定める。
(2)移動速度の保存
制御装置は、稼働中に塗布速度を変更するために、決定した移動速度の値を保持するものとしてもよい。
【0084】
[第3の実施形態]
本実施の形態の塗布装置は、塗布材料として細胞を含む溶液(以下、細胞含有溶液)を用いる。細胞含有溶液も、第1および第2の実施形態で説明したビンガム流体、擬塑性流体、およびダイラタント流体と同様に、非ニュートン流体である。
【0085】
本願の発明者は、塗布材料としてヒアルロン酸溶液に細胞を含有させた細胞含有溶液を用いて、塗布速度の変化に対する塗布量の変化を調べた。
【0086】
図17は、塗布材料がヒアルロン酸溶液に細胞を含有させた細胞含有溶液の場合の塗布速度に対する塗布径の測定結果を表わす図である。
【0087】
図17に示すように、塗布材料がヒアルロン酸溶液に細胞を含有させた細胞含有溶液の場合には、塗布速度を大きくなると、塗布量である塗布径が小さくなる。よって、本実施の形態の塗布装置を用いれば、細胞含有溶液中の細胞濃度を一定とした場合に、塗布速度によって、塗布される細胞の数を変化させることができる。
【0088】
第1の実施の形態において説明した図10の速度テーブルは、塗布材料として細胞含有溶液を含むことができる。図10の速度テーブルは、塗布材料の種類が細胞含有溶液の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定めることができる。
【0089】
第2の実施形態において説明した図13の速度テーブルは、塗布材料として細胞含有溶液を含むことができる。図13の速度テーブルは、塗布針と貫通孔の外壁との間隔が同一であって、塗布材料の種類が細胞含有溶液の場合には、目標塗布量が大きいほど、移動速度が小さくなるように定めることができる。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 X軸テーブル、2 Y軸テーブル、3 Z軸テーブル、4 塗布機構、5 基板、6 観察光学系、7 CCDカメラ、8 操作パネル、9 モニタ、10 制御用コンピュータ、20 塗布針ホルダ、21 塗布材料容器、24 塗布針、41 サーボモータ、43 カム、44 軸受、45 カム連結板、46 可動部、47 塗布針ホルダ固定部、48 塗布針ホルダ収納部、49 リニアガイド、50 バネ、51,52 固定ピン、61 カム面、62 上端フラット領域、63 下端フラット領域、70 塗布材料、72 貫通孔、80 制御装置、90 駆動部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17