(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128049
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】人工遺伝子及び遺伝子変異方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240912BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240912BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N15/11 Z
C12N15/12
C12N15/29
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N15/10 200Z
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024109543
(22)【出願日】2024-07-08
(62)【分割の表示】P 2021539287の分割
【原出願日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019147468
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「低CO2と低環境負荷を実現する微細藻バイオリファイナリーの創出に関する国立研究開発法人産業技術総合研究所による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】岩田 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】富田 かな子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 石根
(72)【発明者】
【氏名】森岡 諒
(72)【発明者】
【氏名】楊 天景
(57)【要約】
【課題】遺伝子組み換え規制の対象とならず、かつ標的遺伝子に局在的な変異を導入し、変異導入時にその変異を定量化することができる人工遺伝子及び遺伝子変異方法を提供する。
【解決手段】人工遺伝子は、少なくとも一部のDNAの塩基における
15Nの存在比が自然の存在比を越えている。また、遺伝子変異方法は、
15Nが生体細胞内の特定DNAに偏在する状況を作成する第1ステップと、
15Nが共鳴核反応を生じるエネルギーで陽子線を照射する第2ステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部のDNAの塩基における15Nの存在比が自然の存在比を越えている、
人工遺伝子。
【請求項2】
15N非標識のプライマー配列と、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとを含む、
請求項1に記載の人工遺伝子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の人工遺伝子と、
前記人工遺伝子に結合されたベクターと、
を含む、人工遺伝子。
【請求項4】
複数の生体分子結合部位を有し、前記複数の生体分子結合部位のうち少なくとも一部において、遺伝子配列が変異している、
請求項1又は2に記載の人工遺伝子。
【請求項5】
前記生体分子がタンパク質である、請求項4に記載の人工遺伝子。
【請求項6】
15N非標識の人工遺伝子であって、
複数の生体分子結合部位を有し、
前記複数の生体分子結合部位のうち少なくとも一部は遺伝子配列が変異しており、
前記複数の生体分子結合部位のいずれかに、15N標識された生体分子が結合可能である、
人工遺伝子。
【請求項7】
前記複数の生体分子結合部位のうち遺伝子配列が変異していない部位に前記15N標識された生体分子が結合可能である、請求項6に記載の人工遺伝子。
【請求項8】
前記生体分子がタンパク質である、請求項7に記載の人工遺伝子。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の人工遺伝子と、
前記複数の生体分子結合部位のいずれかに結合可能な15N標識された生体分子と、
を備えるキット。
【請求項10】
DNAを15Nで標識することと、
15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを有する陽子線を前記DNAに照射することと、
を含む、遺伝子を変異させる方法。
【請求項11】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAのNを15Nで置換することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAの近傍を15Nで標識することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAに15Nで標識された生体分子を結合させることを含む、請求項10又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記生体分子がタンパク質である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
生体細胞内で前記DNAを15Nで標識する、請求項10から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記生体細胞内の前記DNA以外の細胞成分における15Nを自然存在比に保ち、前記DNAにおける15Nの存在比を自然存在比より大きくする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとグルタミン合成酵素の阻害剤を前記生体細胞に与えることを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチド還元酵素の阻害剤を前記生体細胞に与えることを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N非標識のグルタミンを前記生体細胞に与えることをさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記共鳴核反応を検出することをさらに含む、請求項10から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記検出することにおいて、4.43 MeVのγ線量の計測する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
計測されたγ線量に基づいて、前記DNAで生じた変異数を算出することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記算出することにおいて、15N原子数が既知の標準試料で起きる共鳴核反応で生じるγ線量を参照する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを変化させることをさらに含む、請求項10から23のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工遺伝子及び遺伝子変異方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物多様性に関わる該生物の機能、取り分けオイル、多糖、及び色素などの自然産物を高密度で生産する藻類の生産代謝機能は、エネルギー、飲食物、栄養食品、化粧品、及び製薬など幅広い分野で注目されている。藻類の高生産性をもつ株の創製には、生産に関わる目的とする遺伝子(標的遺伝子)を改変するゲノム編集が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人は野生の生物をさまざまな目的に応じて利用する過程で、その目的により合致した表現型をもつ株を選別し、交配・育種して、その目的達成に有利な性質を持つ生物を利用してきた。近年それら生物のゲノムDNA配列が比較的容易に解析できるようになり、その遺伝子情報を理解することで、それら生物が有益な表現型を持つ原因を明らかにできるようになった。また、ゲノム編集技術の発達により、特定の遺伝子・DNA領域を任意に改変することも可能である。しかしながら、細胞核へDNAやゲノム編集手段を導入・挿入する技術が確立していない生物も多数あり、全ての生物で遺伝子組換え・ゲノム編集の技術が確立されているわけではない。かつゲノムDNA上の機能が解明されている遺伝子領域は全体の一部であるため、どんな有益な生物でも望み通りに改変できる訳ではない。またゲノム編集技術が、遺伝子組み換え生物に対する規制であるカルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書、2000年1月、生物多様性条約特別締約国会議再開会合にて採択)と同じ取り扱い規制を受ける判決が欧州司法裁判所で下され、各国で取扱いの議論が続いている。
【0005】
そこで今日でも、遺伝子組換えとみなされない、γ線や重イオンビーム照射やDNA修飾試薬などを用いた突然変異導入による育種は、産業利用において不可欠である(例えば特許文献1参照)。しかし、従来の突然変異育種法は、どの程度DNAに損傷を与えたかを直接評価する定量的手法を持たない。そのため、致死率や色素形成など容易に判別可能な表現型の変化を間接的な変異効率の指標として、照射線量や処理量が決められている。さらに照射によってランダムに導入される突然変異では、目的の表現型を有する株を膨大な個体数の処理群から労力と時間を掛けてスクリーニングする必要がある。しかし、スクリーニング結果が得られるまでは、目的とする遺伝子変異が生じているか否かも不明である。
【0006】
そこで、本発明は、遺伝子組み換え規制の対象とならず、かつ標的遺伝子に局在的な変異を導入し、変異導入時にその変異を定量化することができる人工遺伝子及び遺伝子変異方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
後に
図5を参照して詳細に説明するように、
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応における、12.9686 MeV準位の
16O
*がα粒子を放出して
12C
*の第1励起準位11.6007 MeVに脱励起する(p,α
1γ)反応チャネルにおいて、陽子線に比べて高い電離作用をもつα(
4He原子核)と、
12Cと、が、反応二次粒子として放出される。また、反応ごとに
12C
*の第1励起準位から基底状態に脱励起して4.43 MeVのγ線が放出される。本発明者らは、鋭意研究の末、高い電離作用をもつ反応二次粒子の放出は、
15NがDNA内部、もしくはその近傍にある場合には、
15N近傍の生体分子に対して、局所的に高い電離作用を及ぼし、DNAに目的とする遺伝子変異を生じせしめる確率が高くなることを見出した。また、本発明者らは、核反応ごとに放出される4.43 MeVのγ線は容易に計数が可能であり、かつ当該γ線は陽子線照射によって生じるDNAの遺伝子変異量を反映しているため、ビーム照射時に4.43 MeVのγ線を計数することにより、DNAの遺伝子変異量を定量可能であることを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、15N標識したDNA試料、もしくは15N_DNAを含む生体細胞などの生体試料への陽子線照射において、陽子線のエネルギーを共鳴エネルギーから共鳴エネルギーを越える高いエネルギーまで、例えば一定のエネルギー刻み幅で変化させて設定することにより、標的試料内で、表面から内部に亙り分布する15Nに対して、くまなく15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応を生じさせることが可能になり得ることを見出した。
【0009】
本発明者らの上記知見の少なくとも一部に基づく本発明の一態様に係る人工遺伝子は、少なくとも一部のDNAの塩基における15Nの存在比が自然の存在比を越えている。15Nの存在比は、例えば、90 %以上、91 %以上、92 %以上、93 %以上、94 %以上、95 %以上、96 %以上、97 %以上、あるいは98 %以上である。
【0010】
上記態様において、15N非標識のプライマー配列と、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとを含んでもよい。
【0011】
上記態様において、上記態様に記載の人工遺伝子と、他の人工遺伝子とを結紮して形成されていてもよい。他の人工遺伝子はベクターであってもよい。
【0012】
上記態様において、複数の生体分子結合部位を有し、複数の生体分子結合部位のうち少なくとも一部において、遺伝子配列が変異していてもよい。生体分子はタンパク質であってもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る人工遺伝子は、15N非標識の人工遺伝子であって、複数の生体分子結合部位を有し、複数の生体分子結合部位のうち少なくとも一部は遺伝子配列が変異しており、複数の生体分子結合部位のいずれかに、15N標識された生体分子が結合可能である。15Nで標識された生体分子はタンパク質であってもよい。複数の生体分子結合部位のうち遺伝子配列が変異していない部位に15N標識された生体分子が結合可能であってもよい。
【0014】
本発明の一態様に係るキットは、上記の15N非標識の人工遺伝子と、複数の生体分子結合部位のいずれかに結合可能な15N標識された生体分子と、を備える。
【0015】
本発明の一態様に係る遺伝子を変異させる方法は、DNAを15Nで標識することと、15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを有する陽子線をDNAに照射することと、を含む。
【0016】
上記態様において、DNAを15Nで標識することが、DNAのNを15Nで置換することを含んでいてもよい。あるいは、DNAを15Nで標識することが、DNAの近傍を15Nで標識することを含んでいてもよい。DNAを15Nで標識することが、DNAに15Nで標識された生体分子を結合させることを含んでいてもよい。15Nで標識された生体分子がタンパク質であってもよい。
【0017】
上記態様において、生体細胞内のDNAを15Nで標識してもよい。
【0018】
上記態様において、生体細胞内のDNA以外の細胞成分における15Nを自然存在比に保ち、DNAにおける15Nの存在比を自然存在比より大きくしてもよい。
【0019】
上記態様において、生体細胞内でDNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとグルタミン合成酵素の阻害剤を生体細胞に与えることを含んでいてもよい。
【0020】
上記態様において、生体細胞内でDNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチド還元酵素の阻害剤を生体細胞に与えることを含んでいてもよい。
【0021】
上記態様において、生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N非標識のグルタミンを生体細胞に与えることをさらに含んでいてもよい。
【0022】
上記態様において、共鳴核反応を検出することをさらに含んでもよい。
【0023】
上記態様において、検出することにおいて、4.43 MeVのγ線量を計測してもよい。
【0024】
上記態様において、計測されたγ線量に基づいて、DNAで生じた変異数を算出することをさらに含んでもよい。
【0025】
上記態様において、算出することにおいて、15N原子数が既知の標準試料で起きる共鳴核反応で生じるγ線量を参照してもよい。
【0026】
上記態様において、15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを変化させてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、遺伝子組み換え規制の対象とならず、且つ標的遺伝子に局在的な変異を導入し、変異導入時にその変異を定量化することができる人工遺伝子及び遺伝子変異方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る遺伝子変異方法において、それぞれの塩基対に存在するNを
15Nで置換したDNA分子を表す図である。
【
図2】DNA分子において共鳴核反応が生じる様子を示す図である。
【
図3】従来技術である重イオンビーム照射による遺伝子変異法を用いる場合を示す図である。
【
図4】84個の塩基対で構成される人工DNA標準試料を示す図である。
【
図5】
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応を示す図である。
【
図6】DNA切断の有無を判別する手法の概略図である。
【
図7】DNA鎖のうち一方の鎖にどれだけ切断が起こったかを識別する方法の概要を示す図である。
【
図8】細胞内における含窒素有機化合物の合成を示す図である。
【
図9】MSX及び
15N非標識したグルタミンを投与した場合に細胞内において核酸のみを
15N標識する新たな手法を説明する図である。
【
図10】核酸合成経路において、DNAのみを
15Nで標識する手法を説明する図である。
【
図11】標的遺伝子又はその近傍のみを
15N標識する新たな手法について説明する図である
【
図12】pUC4-KIXX環状プラスミドの遺伝子構造を示す図である。
【
図13】
15N_pUC4-KIXXプラスミド試料の
15N(p,α
1γ)
12C共鳴核反応の共鳴曲線を示すグラフである。
【
図14】プラスミドへの陽子線照射量と、遺伝子の損傷との関係を示すグラフである。陽子線照射されたプラスミドは大腸菌に導入され、大腸菌はアンピシリンを添加した培地で培養された。
【
図15】プラスミドへの陽子線照射量と、遺伝子の損傷との関係を示すグラフである。陽子線照射されたプラスミドは大腸菌に導入され、大腸菌はカナマイシンを添加した培地で培養された。
【
図16】プラスミドへの陽子線照射量と、遺伝子の損傷との関係を示すグラフである。陽子線照射されたプラスミドは大腸菌に導入され、大腸菌はアンピシリンとカナマイシンを添加した培地で培養された。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0030】
生体内の窒素元素Nは、酵素などのタンパク質はじめ、DNAに至る細胞成分内に散在している。本実施形態に係る遺伝子変異方法では、その内自然存在比0.364 %で存在する15N同位体が標的遺伝子に濃縮して偏在する状況を作製し、15Nと1Hが15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応を起こすエネルギーで陽子線を標的遺伝子に照射することで、標的遺伝子に大きな変異を生じさせる。
【0031】
遺伝子を構成するDNA2本鎖において、アデニン(A)には5個の窒素原子がプリン環及びアミノ基として結合し、チミン(T)にはピリミジン環に2個の窒素原子が結合して、DNA2本鎖のアデニン-チミン対(AT対)では窒素原子が7個存在する。同様にグアニン(G)には5個の窒素原子が結合し、シトシン(C)には3個結合して、DNA2本鎖のグアニン-シトシン対(GC対)では8個の窒素原子が存在する。
【0032】
図1は、それぞれの塩基対に存在するNを
15Nで置換したDNA分子を表し、自然に
15Nが存在する同位体比率を275.5倍に濃縮して
15Nに標識した状態を示している。なお、自然界における
15Nの存在比は0.364 %である。
【0033】
図2は、DNA分子において共鳴核反応が生じる様子を示す。
15N標識DNA内の1個の
15N原子核と陽子が
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応を起こすと、
15Nは消失して、反応前の
15N原子の結合位置を中心に
4Heと
12C原子核が互いに反対方向にほぼ等方的に放出され、直ぐに電子を捕獲してイオンとして物質内を通過する。そのイオン飛跡に沿った近傍原子では、高密度の電子励起が生じる。
【0034】
電子励起を受ける確率は、反応中心からの距離の二乗に反比例して減少し、反応中心から遠方に在る原子ほど小さい。すなわち、15Nが共鳴核反応を起こす場合、15N原子の結合位置の近傍原子が局所的に高い確率で電子励起を受けることになり、15N原子の結合位置近傍のDNAに局所的な変異が生じ易くなる。
【0035】
図3は、従来技術である重イオンビーム照射による遺伝子変異法を用いる場合を示す。従来技術である重イオンビーム照射による遺伝子変異法では、重イオンがDNAの外部からDNA全域に亘り一定密度で入射するため、重イオンの飛跡に沿ったDNA近傍原子が電子励起を受け、変異が生じる確率は、DNA全域に亘りほぼ同じである。
【0036】
これに対して、本実施形態の方法では、標的遺伝子又は標的遺伝子近傍における15N同位体比率を高め、高い確率で、15N原子の結合位置近傍のDNAに局所的な変異を生じさせることができる。
【0037】
本実施形態において、標的遺伝子又はその近傍で15N同位体比率を高め、濃縮する技法は、本来自然界に0.364 %で存在し、生体細胞内にも同比率で存在する15Nをそのまま利用する技術である。また、そのDNA中の15Nに陽子線を照射して生じせしめる15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応は、宇宙線の地表付近のハドロン成分中で最も多く存在する陽子線が地表生物にランダムに降り注ぎ、そのDNA中に存在する15N原子核と衝突して生じる核反応と同じであり、生体細胞への同様な効果がもたらされる。
【0038】
すなわち、標的遺伝子又はその近傍で15N同位体比率を高め、濃縮する技法、その技法によって15N標識された生体細胞へ陽子線を照射して15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応を生じせしめて標的遺伝子の変異確率を高めることは、地球上で生命誕生以来、生命が自然にさらされその遺伝子情報の変異を受けて来た過程を加速させる手法に過ぎず、従来の放射線(UV、X線、γ線、重イオン)照射による突然変異株を作出する手法と、基本的メカニズムの原理は何ら変わるものではない。したがって本実施形態に係る遺伝子変異方法は、遺伝子組み換え技術とは根本的に原理が異なるものであり、遺伝子組み換え技術に対する規制の対象にはならずに、標的遺伝子に大きな変異導入を可能にする優れた特徴をもった手法である。
【0039】
生体細胞内の標的遺伝子又は標的遺伝子近傍における15N同位体比率を高めたDNA試料に対して陽子線を照射することで生じるDNA変異の定量化には、15N原子数が明確に規定された15N標識DNA標準試料の構築が必要である。
【0040】
15N標識DNA標準試料を構築することで、15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応で放出される4.43 MeVのγ線量と、DNA内の15N濃度との較正データを取得することが可能になる。4.43 MeVのγ線の線量較正値を取得することで、15N標識した生体細胞に対して陽子線照射と同時に共鳴核反応で放出される4.43 MeVのγ線量を計測し、較正値と比較して、生体細胞内のDNAに生じた変異数が定量可能になる。
【0041】
本実施形態に係る遺伝子変異方法では、15N標識された塩基対で構成されるDNAをポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction)によって人工的に合成した標準試料を構築した。構築された人工DNAの標準試料は、分子生物学、生化学、生体機能的に重要な塩基配列で構成されることが望ましい。
【0042】
図4は、84個の塩基対で構成される人工DNA標準試料を示す図である。人工DNA標準試料は、例えば、以下の方法で作製される。5’末端に
15N非標識、すなわち
14Nを自然存在比99.636 %で含むTACGTTAAATC配列構造のプライマーOR_primer_Fと、
15N標識、すなわち
15Nを存在比98 %以上で含むデオキシヌクレオシド三リン酸
15N-labeled dNTPs (deoxyribonucleoside 5’-triphosphates)73個とから、ポリメラーゼ連鎖反応法によってオリゴヌクレオチドOR_WT_Fが合成される。また、5’末端に
15N非標識のTGCAACCATT配列構造をもつプライマーOR_primer_Rと、
15N標識デオキシヌクレオシド三リン酸
15N-labeled dNTPs74個とから、ポリメラーゼ連鎖反応法によってオリゴヌクレオチドOR_WT_Rが合成される。さらに、OR_WT_FとOR_WT_Rとが水素結合によって互いに塩基対を形成して、
15N標識オリゴヌクレオチド2本鎖DNA
15N-labeled OR_DNAが形成される。これを標準試料とする。
【0043】
15N標識OR_DNAは、15N非標識プライマーOR_primer_F/_Rと、15N標識デオキシリボヌクレオチド15N-labeled dNMPs (Deoxyribonucleotide 5’-monophosphates)と、を合わせて84個のDNA塩基対(84 bps)で構成される。その塩基配列の内訳は、プライマーを除くOR_WT_Fの73 bpsにおいて、15N-labeled dAMP:19個、15N-labeled dTMP:22個、15N-labeled dGMP:17個、15N-labeled dCMP:15個である。また、プライマーを除くOR_WT_Rの74 bpsにおいて、15N-labeled dAMP:23個、15N-labeled dTMP:20個、15N-labeled dGMP:16個、15N-labeled dCMP:15個である。これらを下記表1にまとめた。
【0044】
【0045】
15N標識OR_DNA全体に含まれるN(14N+15N)の総数は623個である。15N標識の標準的な純度は98 %以上であり、その純度に従って14Nと15Nの同位体存在比率が変わる。15N標識純度が98 %の場合、OR_DNA全体の15Nは538.29個である。理想的に15N標識純度100 %では、OR_DNA全体の15Nは最大個数549.27個であり、全窒素原子数の88.17 %にあたる(表1参照)。15N標識OR_DNAの分子量は、同じく15N標識純度に依存して、52,467 g/mol以上、最大で52,477.95 g/molである。
【0046】
図5は、
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応を示す。
15Nで標識した生体試料に対して陽子線を照射する場合、
15N原子核と陽子の重心系における両者の原子核の結合エネルギー12.1277 MeVと、
16O
*複合原子核の第2励起準位12.9686 MeVとのエネルギー差である0.8409 MeV(実験室系の陽子エネルギーに換算して0.987 MeV)で両者の原子核が衝突すると、共鳴的に両者が結合して
16O
*複合原子核が形成される。12.9686 MeV準位の
16O
*は直ぐに、α粒子を放出して
12C
*の第1励起準位11.6007 MeVに脱励起する第1の反応チャネルと、α粒子を放出して
12Cの基底状態7.1616 MeVに脱励起する第2の反応チャネルと、γ線のみを放出して
16Oの基底状態0 MeVに脱励起する第3の反応チャネルとの、3種類の反応チャネルが生じる。それぞれ(p,α
1γ)、(p,α
0)、(p,γ
0)と核反応式で表記する。
【0047】
本実施形態で利用する(p,α1γ)反応チャネルの特徴は、陽子線に比べて高い電離作用をもつα(4He原子核)と、12Cと、が、反応二次粒子として放出されることと、反応ごとに12C*の第1励起準位から基底状態に脱励起して4.43 MeVのγ線が放出されることと、である。(p,α0)反応チャネルでは、γ線の放出はなく、また(p,γ0)反応チャネルでは、高い電離作用をもつ反応二次粒子の放出がない。高い電離作用をもつ反応二次粒子の放出は、15NがDNA内部、もしくはその近傍にある場合には、15N近傍の生体分子に対して、局所的に高い電離作用を及ぼし、DNAに目的とする遺伝子変異を生じせしめる確率が高くなるという効果を奏する。さらに、核反応ごとに放出される4.43 MeVのγ線は容易に計数が可能であり、かつ当該γ線は陽子線照射によって生じるDNAの遺伝子変異量を反映している。そのため、ビーム照射時に4.43 MeVのγ線を計数することにより、DNAの遺伝子変異量を定量可能であるという効果を奏する。
【0048】
16O*第2励起準位との共鳴エネルギーは、両者の原子核衝突におけるクーロン障壁ポテンシャルより遥かに低い。そのため、両者の原子核衝突エネルギーが、16O*複合原子核の第2励起準位幅として規定される共鳴エネルギー幅300 eVを越え、共鳴エネルギーから外れると、急激に反応断面積が低下する。すなわち、15N標識OR_DNAに対して共鳴エネルギーで入射する陽子線は、入射エネルギーのゆらぎが共鳴エネルギー幅に収まる範囲内でのみ15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応を生じせしめる。
【0049】
実際の陽子線照射では、共鳴エネルギー幅と陽子ビームのエネルギー拡がり、典型的には1 keV程度とのたたみ込み積分演算によって共鳴エネルギー幅が決まり、陽子が物質中を通過する際のエネルギー損失分を共鳴エネルギーに加算して陽子線照射エネルギーを決定する。すなわち
15N標識したDNA試料、もしくは
15N_DNAを含む生体細胞などの生体試料への陽子線照射において、陽子線のエネルギーを共鳴エネルギーから共鳴エネルギーを越える高いエネルギーまで、例えば一定のエネルギー刻み幅で変化させて設定することにより、標的試料内で、表面から内部に亙り分布する
15Nに対して、くまなく
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応を生じさせることが可能になり得る。エネルギーの変化幅と刻み幅は、標的とする試料に応じて選定すればよく、
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応の共鳴曲線を取得して、これを決定してもよい。例えば、
図13を参照。
【0050】
15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応で生成された12C*とαは互いに反対方向に放出され、陽子線の入射方向と同じ方向に放出されたとき運動エネルギーが最大値E(max)となり、12C*とαそれぞれにEC(max)=0.6252 MeV、EHe(max)=1.2806 MeVとなる。また、12C*とαが陽子線の入射方向と反対方向に放出されたとき運動エネルギーは最小値E(min)となり、EC(min)=0.1437 MeV、EHe(min)=0.7991 MeVとなる。12C*とαは放出後すぐに電子を捕獲して12C、4Heイオンとなり、物質中を進行する。
【0051】
12Cと4Heイオンは、常にこれらのエネルギー範囲の値をもって、15N標識OR_DNA試料を通過する。その飛程に沿った近傍原子、とりわけ半径5 nm以上10 nm以下の近傍原子を電子励起する。標的試料が、15N標識OR_DNA試料ではなく、真核単細胞藻類など細胞壁や細胞内器官をもつ生体試料であり、細胞壁や細胞内器官などを陽子が通過する際のエネルギー損失を予め考慮して、共鳴エネルギーより高いエネルギーで陽子線照射を行う場合においても、陽子線と15N標識DNA又はDNA近傍の15N標識試料との15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応では、陽子線の照射エネルギーに関わらず、12Cと4He反応生成イオンは一定エネルギーで放出され、その飛跡に沿った近傍原子を一定強度で励起することが本手法の特徴である。
【0052】
さらに、12Cと4He反応生成イオンの電子励起は線エネルギー付与(linear energy transfer, LET(MeVcm2/g))で与えられ、12Cと4He反応生成イオンが放出されるエネルギー範囲にわたって変化し、標的試料の構成元素の一つである炭素CへのLETは、12C反応生成イオンで2.51×103 MeVcm2/g以上、最大で4.70×103 MeVcm2/gとなり、4He反応生成イオンでは、1.73×103 MeVcm2/g以上、最大で1.99×103 MeVcm2/gである。この値は、陽子が共鳴エネルギーで15N標識OR_DNA試料を通過する際のLETと比較して17.2倍以上、最大で27.1倍高い。したがって、本手法では、15N標識OR_DNA試料はじめ生体試料に対して、15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応の生成イオンによる電子励起が陽子線照射による電子励起より圧倒的に高いという特徴を示し、標的遺伝子を15N標識することで、選択的に大きな変異を導入することを可能にしている。
【0053】
12Cと4He反応生成イオンのLETの値は、典型的な重イオン照射(例えば320 MeVのCイオン照射におけるCへのLETである0.58×103 MeVcm2/g)と比較して4.3倍以上、最大で8.1倍高い。さらには、DNA内部又はDNA近傍から12Cと4He反応生成イオンが放出されることから、15N標識OR_DNA試料及びDNA又はDNA近傍で15N標識された生体細胞において、1回の15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応によって15N近傍遺伝子に高い確率で変異が生じる。したがって、本手法は、反応生成核12Cの第1励起準位から放出される4.43 MeVγ線を計測することにより、15N近傍に生じる遺伝子変異数を直接定量することが可能である。
【0054】
陽子線照射によって15N標識OR_DNA試料に生じた変異は、DNAの修復機能を有する生体試料とは異なり、DNAの修復は行われない。したがって、15N標識OR_DNA試料の変異を調べることで、陽子線照射による純粋な物理的な変異状況が明らかになる。15N標識OR_DNA試料に生じた変異を調べる手法の一つは、細菌などの細胞質内に存在する環状形状をもつDNA、環状プラスミドベクターを利用してDNA切断の有無を判別する手法である。
【0055】
図6は、
図4に示す人工遺伝子を別の人工遺伝子に結紮した人工遺伝子と、DNA切断の有無を判別する手法の概略を示す。感染症の治療に用いられるβ-ラクタム系抗生物質であるアンピシリン(Ampicillin)に耐性を示す大腸菌遺伝子を組み入れて人工的に合成された線形プラスミド(T-vector pMD19、2,692塩基対)に
15N標識OR_DNAを結紮して環状にしたプラスミドベクターを大腸菌の培地に投入する。環状にしたプラスミドベクターは大腸菌に摂り込まれ、アンピシリンに耐性のある大腸菌が増殖する。
15N標識OR_DNAが予め陽子線照射によって切断されている場合、プラスミドベクターは環状にならず、大腸菌の細胞内で分解されて安定した遺伝子にならないため、大腸菌はアンピシリンに耐性が無く死滅する。
15N標識OR_DNAを結紮した環状プラスミドベクターにおいて、切断された
15N標識OR_DNAが多く含まれるほど、大腸菌の増殖は遅くなる。
15N標識OR_DNA試料、
15N非標識OR_DNA試料、
15N標識OR_DNA試料で陽子線未照射の各試料をT-vector pMD19に結紮し、それぞれをアンピシリン含有培地に投入して大腸菌コロニー数を比較した。
15N標識OR_DNA試料は、
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応と陽子ビームによりDNA変異が生じる。
15N非標識OR_DNA試料は、陽子ビームのみによりDNA変異が生じる。陽子線未照射試料は、DNA変異が生じない。この評価手法により、
15N標識OR_DNAへの陽子線照射によるDNA変異の相対的導入頻度が明らかになる。
【0056】
15N標識OR_DNAが陽子線照射によって切断された状態をより直接的に調べる方法として、32P放射性同位元素を含有するリン酸基を付与し、電気泳動により1塩基の分解能で断片を分離する手法がある。この手法により、DNA鎖のうち一方の鎖にどれだけ切断が起こったかが識別可能になる。
【0057】
図7は、DNA鎖のうち一方の鎖にどれだけ切断が起こったかを識別する方法の概要を示す。まず、
15N標識OR_DNAのPCR試料合成前に、OR_primer_F又はOR_primer_Rのどちらか一方のプライマーをATPでリン酸化しておき、PCR試料合成時に一方のDNA鎖の5’末端にのみリン酸基のついたDNA断片を合成する。陽子ビーム照射後、[γ?
32P]-ATPを用いてリン酸基のついていない方のDNA鎖のみ
32Pで標識する。塩濃度が低く尿素を含み且つ薄いゲルで高電圧により電気泳動することで、熱がかかり1本鎖の状態(変性状態)でDNAを分離すると、1塩基の違いでDNAを区別可能になる。1塩基の違いをゲル電気泳動で区別できるため、ランダムに切断が可能なのか、ある特定の塩基の近傍のみが切断を受けやすいのかを識別可能である。
【0058】
生体細胞内のDNAを15Nで標識する場合、生体細胞を構成するDNA以外の窒素元素を含有する細胞内分子、例えば細胞の形成や代謝機能を制御する酵素などのタンパク質に存在する窒素原子、あるいはリボソームを形成するribosomal RNA、アミノ酸を運搬するtransfer RNA、及びリボソーム上でアミノ酸配列を規定するmessenger RNAなど細胞内で多様な機能をもつRNAに存在する窒素元素と、DNAを構成する窒素元素とを区別し、DNAのみを15N標識する。
【0059】
細胞内で窒素は、アミノ酸、ヌクレオチド、タンパク質、核酸(DNA、RNA)、一部のリン脂質など多様な含窒素有機化合物に利用されている。それらの含窒素有機化合物はいずれも無機窒素のアンモニウムイオンNH4
+がグルタミン合成酵素によりグルタミン酸と反応し、グルタミンとして有機化合物に固定されることで、最初の有機含窒素化合物が作られる(アンモニア同化)。グルタミン酸合成酵素により、グルタミンから2-オキソグルタル酸にアミノ基が転移されて、2分子のグルタミン酸が生じる。このようにして作られるグルタミン、グルタミン酸がそのまま変形することにより、あるいは、アミノ基転移反応により、数々の含窒素有機化合物が合成される。
【0060】
図8は、細胞内における含窒素有機化合物の合成経路を示す。含窒素化合物は、細胞内で再びアンモニアに分解されてリサイクルされている。アミノ酸は様々な用途で構造タンパク質、酵素、核酸、及び脂質の合成に用いられている。一方、DNAは、デオキシリボヌクレオチドから遺伝子情報の継体伝搬によってDNA合成が進む。人工的に合成された
15N標識デオキシリボヌクレオチドを培地に投与すると、それが細胞内に摂り込まれ、一部は分解されてアンモニウムイオンが合成され、タンパク質合成が始まる。DNAのみを
15N標識するためには、そのプロセスを阻害して
15N標識のタンパク質が合成されないように、グルタミン合成酵素の阻害剤であるMSX(Methionine sulfoximine)を投与する。
【0061】
図9は、MSX及び
15N非標識したグルタミンを投与した場合に細胞内において核酸のみを
15N標識する新たな手法を示す。グルタミン合成酵素の活性部位にグルタミン酸とアミノ基としてのアンモニアが結合してグルタミンを合成して、グルタミン合成酵素からグルタミンが遊離する。ところが、MSXの構造式にはHN=S=O構造があり、それがグルタミンの構造式H
2N-CH=Oに類似している。また、MSXには強い活性部位があり、グルタミン酸とアンモニアが結合するとMSXから離脱できずにグルタミン合成が停止する。すなわちグルタミンからグルタミン酸合成酵素によりグルタミン酸が合成される回路が断たれて、
15N標識タンパク質は合成されなくなる。しかし多様な目的で必要とされるタンパク質の合成が断たれないように、
15N非標識のグルタミンを培地に投与する。それによって
14N存在比が99.637 %の構造タンパク質、酵素、一部のDNA・RNAが合成される。細胞内に摂り込まれた
15N標識デオキシリボヌクレオチドの内、アンモニア合成に預からない残りの
15N標識デオキシリボヌクレオチドによってDNAが合成されるため、細胞内で
15N標識が成されるのはDNAのみに限定されることになる。
【0062】
さらに、細胞内の核酸合成経路において、DNAのみを
15Nで標識する過程を
図10により詳細に示す。先ず
15Nで標識したDNAを合成するため、(1)4種類の塩基をそれぞれ
15Nで標識したデオキシリボヌクレオチドを培地に加えて細胞を培養する。次に、細胞内では、DNAを合成するデオキシリボヌクレオチドは、リボヌクレオチド還元酵素(RNR)によってリボヌクレオチドからのみ合成されるため、(2)RNRの阻害剤(i-RNR)を投与して、
15Nで標識されていないデオキシリボヌクレオチドが細胞内で合成されることが無い条件を形成する。細胞内ではさらに、(3)デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとの間で塩基が転位され、細胞外から投入されたデオキシリボヌクレオチドの
15N標識塩基が、細胞内でリボヌクレオチドの塩基に転位し、そのまま
15N_RNAが合成され得る。また逆にリボヌクレオチドの
15Nで標識されていない塩基がデオキシリボヌクレオチドの塩基に転位することもある。しかし、(4)細胞内の
14N_アミノ酸などから代謝される
14N_リボヌクレオチドの量が、(2)のRNRが阻害されることで多くなり、
15N_デオキシリボヌクレオチドからリボヌクレオチドへの塩基転位量は抑制され得る。なお、(1)で
15N_DNA合成に必要な量を越えて、過剰に
15N_デオキシリボヌクレオチドを培地に投入すると、(3)において
15N_塩基がデオキシリボヌクレオチドからリボヌクレオチドに転位される可能性が生じ得る。したがって、
15N_DNAの合成効率が高く、
15N_RNAの合成が抑えられるように、培地への
15N_デオキシリボヌクレオチドの投入量は適宜調整することが可能である。
【0063】
図11は、標的遺伝子又はその近傍のみを
15N標識する新たな手法を示す。
図4に示す
15N標識OR_DNAの塩基配列は、大腸菌を宿主として寄生するウイルスのラムダ(λ)ファージの遺伝子の一部であり、λファージが宿主の大腸菌を死滅させることなく寄生するために、自ら増殖を抑止するための制御遺伝子である。
15N標識OR_DNAは3カ所のCroタンパク質結合部位をもち、Croタンパク質がどれか一カ所の部位に結合すると、制御遺伝子が活性化する。3カ所の結合部位の内、遺伝子配列が変異した箇所を導入すると、制御遺伝子が活性化する頻度が制御される。
図4の説明では、ポリメラーゼ連鎖反応法で
15N標識OR_DNAを作製する方法を説明した。これに対し、84塩基対のOR_DNAを
15N非標識で合成した後、培地に投入することによって、制御遺伝子に摂り込んだ大腸菌に、
15N標識したCroタンパク質を投与すると、
15N標識Croタンパク質は大腸菌の制御遺伝子に結合する。その状態で陽子線照射を行うことで、
15N標識Croタンパク質が結合している特定遺伝子近傍で
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応が起きる。この手法により、特定遺伝子に高い確率で変異を生じさせることが可能になる。
【0064】
[実施例1:15N標識OR_DNA試料への陽子線照射結果]
(1)15N標識OR_DNA試料の作成
[OR_primer_Rのリン酸化]
陽子線照射後のDNA破断評価を想定したリン酸化過程について説明する。ATP(10 mM=mmol/L):16 μL、OR_primer_R(100 μM):10 μL、10倍希釈バッファー液:16 μL、T4PNK:8 μL、滅菌水:110 μLを37 ℃で35分間反応させた後、72 ℃に昇温して反応を停止し、PCI抽出(Phenol Chloroform Isoamylalcohol (25:24:1) extraction)によってタンパク質、脂質を除去したのち、エタノール固定して抽出した。
【0065】
[PCR法による15N標識OR_DNAの合成]
また、リン酸化したプライマーの有り無の2種類を合成した。耐熱性DNA合成酵素(PrimeSTAR):0.5 μL、5倍希釈バッファー液:10 μL、15N標識(15N純度98 %以上)dNTP:6 μL、OR_primer_F(10 μM):2.5 μL、OR_primer_RP(リン酸化プライマー10 μM):7.5 μL、テンプレート:1 μL、滅菌水:22.5 μL、耐熱性DNA合成酵素(Prime STAR):0.5 μL、5倍希釈バッファー液:10 μL、15N標識(15N純度98 %以上)dNTP:6 μL、OR_primer_F(10 μM):2.5 μL、OR_primer_R(リン酸化なしプライマー10 μM):2.5 μL、テンプレート:1 μL、滅菌水:27.5 μL、をそれぞれPCR35サイクル(98 ℃-10分、31 ℃-20分、72 ℃-30分)行って終了した。電気泳動法にて84塩基対DNAが合成されていることを確認した。
【0066】
(2)陽子線照射
15N標識OR_DNA試料、15N非標識OR_DNA試料をAu基板に滴下して照射試料を作成した。OR_DNA溶液濃度は31.2 ng/μL、滴下量13 μL、滴下面積0.23 cm2の滴下試料中には、4.7×1012DNAが含まれ、それぞれのDNAには538個以上の15N原子が結合している。試料面積当たりに換算して、1.1×1016 cm-2であった。陽子ビーム照射は、国立研究開発法人産業技術総合研究所つくばセンターの4MVペレトロン静電加速器及び国立大学法人筑波大学研究基盤総合センターの1MVタンデム型静電加速器を利用して行った。ビーム電流は0.1 nA~5 nA、ビーム照射面積は0.071 cm2であった。15N(1H,α1γ)12C共鳴核反応で放出される4.43 MeVのγ線は、原子番号83のBiを含む高エネルギーγ線では最も検出効率の高いBGO(Bi4Ge3O12結晶シンチレーター、比重7.3 gcm-3、直径76.2 mm×長さ79.2 mm)検出器を照射試料から24 mmの距離の真空外に設置して検出を行った。検出器の検出可能な立体角は全方位角の10 %である。4.43 MeVのγ線に対する検出感度を最大0.1とすると、4.43 MeVのγ線に対する検出効率は最大1 %程度である。15N標識OR_DNA試料に対して一定エネルギーで陽子線照射を行った場合に4.43 MeVγ線の計数4,000counts、エネルギーを8 keVにわたり8点照射した全計数は25,000 countsであった。検出効率を考慮すると、少なくとも2.5×106の15N標識OR_DNAで15N共鳴核反応による変異が生じたことになる。
【0067】
(3)15N標識OR_DNAの線形プラスミドベクターへの結紮:
[15N標識OR_DNAへのA突出末端の作成]
陽子線照射した15N標識OR_DNA(9 ng/μL):6.9 μL、バッファー液(Ex taq)1 μL、Ex taq 0.1 μL、dATP(10 mM)2 μL、未照射試料OR_DNA(8 ng/μL):6.9 μL、10倍希釈バッファー液(Ex taq)1 μL、Ex taq 0.1 μL、dATP(10 mM)2 μL、ネガティブインサートDNA試料:6.9 μL、10倍希釈バッファー液(Ex_taq)1 μL、Ex_taq 0.1 μL、dATP(10 mM)2 μL、コントロールインサートCI試料(10 ng/μL):6.9 μL、10倍希釈バッファー液(Ex_taq)1 μL、Ex_taq 0.1 μL、dATP(10 mM)2μLの4種類の混合溶液を準備し、72 ℃で1時間反応させた。
【0068】
[線形プラスミドベクターとの結紮]
線形プラスミドベクター(T-Vector pMD 19、2,692塩基対)に、氷上で上記4種類の混合溶液を混合させて30分間放置後、42 ℃で30秒温熱ショックを与えて形質転換効率を高めた。
【0069】
[アンピシリン耐性大腸菌培養]
M9培地で温度37 ℃、180 rpmの振騰培養した大腸菌(JM109)を、4種類の環状プラスミドベクターを投与したアンピシリン含有培地に植え付け、JM109のコロニー形成を比較した。ビーム未照射試料を結紮した環状プラスミドベクターを投与した培地では、コロニー数46個/11 ngDNAであったのに対し、ビーム照射した15N標識OR_DNAを結紮した環状プラスミドベクターを投与した培地では、コロニー数13個/11 ngDNAと1/3以下に減少した。
【0070】
[実施例2:大腸菌生体試料への陽子線照射結果]
陽子ビーム照射は基本的には真空中で行うため、まず大腸菌(JM109)をフリーズドライ状態にし、その耐性を調べた。JM109大腸菌溶液10 μLをエッペンチューブに入れ、一旦液体窒素温度で氷結した試料と、液体窒素で氷結しない試料に分け、それぞれを-20 ℃で真空乾燥機に入れて4時間放置した後、取り出して4 ℃の状態でさらに24時間放置し、フリーズドライ試料を作成した。この時点におけるJM109大腸菌の生存率は、液体窒素で氷結した試料で26.8 %、液体窒素で氷結しない試料では39.1 %であった。
【0071】
JM109大腸菌は5億1400万の塩基対DNAをもち、このDNAを2種類の方法で15N標識を行った。一つは、15N標識したアンモニウムイオンを投入した培地で、グルタミン合成酵素の阻害剤であるMSXを投与せずに培養したJM109大腸菌で、タンパク質、核酸始め細部内の全ての窒素が15N標識されている(試料F)。もう一方は、15N標識したデオキシヌクレオチドを投入した培地で、MSXと15N非標識のグルタミンを投与して培養したJM109大腸菌で、DNAとRNAのみが15N標識された生体試料である(試料D)。
【0072】
2種類の15N標識したJM109大腸菌と15N非標識のJM109大腸菌(試料E)の3種類の溶液を準備して、陽子線照射試料を作成した。それぞれの照射試料の大腸菌濃度、溶液滴下量、滴下面積、滴下した細胞数、細胞数の面積密度、15N面積密度は以下の通りである。
【0073】
[試料D]
大腸菌濃度:3.17×108 cells/mL、溶液滴下量:10 μL、滴下面積:1.26 cm2、滴下した細胞数:3.17×106 cells、細胞数の面積密度:2.52×106 cells/cm2、15N面積密度:9.50×1013 cm-2。
【0074】
[試料E]
大腸菌濃度:3.17×108 cells/mL、溶液滴下量:10 μL、滴下面積:1.20 cm2、滴下した細胞数:3.17×106 cells、細胞数の面積密度:2.64×106 cells/cm2、15N面積密度:3.66×1011 cm-2。
【0075】
[試料F]
大腸菌濃度:8.62×107 cells/mL、溶液滴下量:20 μL、滴下面積:1.56 cm2、滴下した細胞数:1.72×106 cells、細胞数の面積密度:1.11×106 cells/cm2、15N面積密度:4.18×1013 cm-2。
【0076】
陽子線照射と同時に計測した4.43 MeVのγ線量から、D試料のDNA及びRNAのみが15N標識された15N量は、F試料の細胞内全域の窒素が15Nで標識された場合の44.6分の1であることが明らかになった。
【0077】
[実施例3:
15N標識薬剤耐性遺伝子プラスミド試料への陽子線照射結果]
(1)pUC4-KIXXプラスミド及びその作成方法
図12は、pUC4-KIXXプラスミド(plasmid DNA)の遺伝子構造を示す。当該プラスミドはアンピシリン耐性遺伝子(Ampicillin-R)とOriを持つ遺伝子pUC4(2605 bps(塩基対))にカナマイシン耐性遺伝子(Kanamycin-R、1248 bps)が挿入された環状プラスミド(3853 bps)である。2種類の薬剤耐性遺伝子のプロモーターと転写領域が占める遺伝子サイズは、アンピシリン耐性遺伝子が934 bps、カナマイシン耐性遺伝子が953 bps、プラスミドの複製に必要な領域Oriでは621 bpsである。それぞれの遺伝子領域ごとの塩基対の種類と
15N数(置換率100 %)を表2に示す。
【表2】
【0078】
以下の方法により、15Nを自然存在比で含有するプラスミドと、15Nを98 %以上含有するプラスミドを生成した。15Nを自然存在比(0.364 %)で含有するNH4Clを窒素源とするM9最少培地を250 mL作製した。また、15Nを98 %以上に含有する15NH4Clを窒素源とするM9最少培地を250 mL作製した。具体的には、それぞれのM9最少培地は、Na2HPO4(15 g)、KH2PO4(7.5 g)、NaCl(1.25 g)、NH4Cl(2.5 g)、1M(mol/L)MgSO4(250 μL)、20 %(w/v)glucose2.5 mL、及び1M CaCl2(25 μL)を250 mLの超純水に溶解し、オートクレーブした後、室温まで冷ましてから1 %Thiamine-HClを250 μL添加して作製した。それぞれの培地で、pUC4-KIXXプラスミドを持つ大腸菌(JM109)を培養した。具体的には、M9最小培地へ大腸菌を25 μL加えて、2日間、37 ℃、200 rpmで振とう培養した。その後、大腸菌を回収し、プラスミド抽出キットPlasmid Midi kit(Qiagen社)を利用してプラスミドを精製した。プラスミドを滅菌水に溶解し、蛍光光度計NanoDrop(Thermo Fisher Scinence)でDNA濃度を定量して115 ng/μLに濃度を調整した。以上の手法によって、15Nを自然存在比で含有するプラスミドである14N_pUC4-KIXXと、15Nを98 %以上含有するプラスミドである15N_pUC4-KIXXを生成した。
【0079】
(2)pUC4-KIXXプラスミドへの陽子線照射
2種類のプラスミド試料はSiウエハー基板に1 μL滴下して乾燥させた後、真空槽に設置し、試料に対して陽子ビームを照射した。陽子ビーム照射は国立大学法人筑波大学研究基盤総合センターの1MVタンデム型静電加速器を利用して行った。陽子線照射の条件は、実施例2の(2)と同様である。
図13に、
15N_pUC4-KIXXプラスミド試料の
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応の共鳴曲線を示す。参考として、
15N標識デオキシリボヌクレオチド
15N標識-dGTPに対して取得した共鳴曲線も示す。陽子線照射は陽子エネルギーを890 keV~906 keVまで4 keV毎に変えて3種類の線量に分けて照射を行った。3種類の照射量を表3に示す。
【表3】
【0080】
(3)陽子線照射したプラスミドの形質転換
1×1010 cells/mLの大腸菌50 μLに陽子線照射プラスミドを8.6 ng加え、電気穿孔法(electroporation)によってプラスミドを大腸菌の細胞内に導入した。電気穿孔過程では、直流電場を電圧1500 V、電気抵抗200 Ω,静電容量25μFで3.5~3.7 ms間通電を行った。1mLのLB培地を加えて、一時間浸透培養を行った(37 ℃、200 rpm)。この培養過程で、陽子線照射でプラスミドが損傷して環状が切断されて線形になったプラスミドは大腸菌の細胞内で複製されないため、陽子線照射したプラスミドの内、環状を維持したプラスミドのみが増幅されて形質転換される。
【0081】
(4)薬剤耐性遺伝子の損傷程度評価
2種類の薬剤を加えた3種類の培養プレートを準備した。(a)アンピシリン100 μg/mL、(b)カナマイシン50 μg/mL、(c)アンピシリン100 μg/mL+カナマイシン50 μg/mLのそれぞれの培養プレートに、陽子線照射したプラスミドを形質転換した大腸菌を100 μLずつ蒔いて、コロニーの形成数を調べた。コントロール試料として、未照射のプラスミドも同様に薬剤を投入した3種類の培養プレートに100 μLずつ蒔いた。
図14、
図15、及び
図16に、薬剤を加えた3種類の培養プレートにおけるコロニー発現数を示す。縦軸はコントロール試料のコロニー発現数(=1.0)で規格化した量を表し、3回の測定の平均値を示す。誤差は3回の測定結果の上限と下限を示す。いずれの図の10 μCにおけるコロニーの発現数は0であったが、検出限界の値を図にプロットした。縦軸は、陽子線照射によって、プラスミドの2種類の薬剤耐性遺伝子が損傷することなく正常に機能する割合を示している。総照射量2.5 μCでは、
15N_pUC4-KIXXプラスミドが誤差を越えてより照射損傷を受けたことを表している。この結果は、
15N(
1H,α
1γ)
12C共鳴核反応が陽子線の電離作用を越えて遺伝子に大きな損傷を与えることを示している。なお、
図14では総照射量が概ね5.0 μC以上になると、遺伝子は非特異的な損傷を受けているものと考えられる。
【0082】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAを15Nで標識することと、
15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを有する陽子線を前記DNAに照射することと、
を含む、遺伝子を変異させる方法。
【請求項2】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAのNを15Nで置換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAの近傍を15Nで標識することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記DNAを15Nで標識することが、前記DNAに15Nで標識された生体分子を結合させることを含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記生体分子がタンパク質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生体細胞内で前記DNAを15Nで標識する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記生体細胞内の前記DNA以外の細胞成分における15Nを自然存在比に保ち、前記DNAにおける15Nの存在比を自然存在比より大きくする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとグルタミン合成酵素の阻害剤を前記生体細胞に与えることを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N標識のデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチド還元酵素の阻害剤を前記生体細胞に与えることを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記生体細胞内で前記DNAを15Nで標識することが、15N非標識のグルタミンを前記生体細胞に与えることをさらに含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記共鳴核反応を検出することをさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記検出することにおいて、4.43 MeVのγ線量の計測する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
計測されたγ線量に基づいて、前記DNAで生じた変異数を算出することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記算出することにおいて、15N原子数が既知の標準試料で起きる共鳴核反応で生じるγ線量を参照する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記15Nが共鳴核反応を起こすエネルギーを変化させることをさらに含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
15N非標識の人工遺伝子であって、
複数の生体分子結合部位を有し、
前記複数の生体分子結合部位のうち少なくとも一部は遺伝子配列が変異しており、
前記複数の生体分子結合部位のいずれかに、15N標識された生体分子が結合可能である、
人工遺伝子。
【請求項17】
前記複数の生体分子結合部位のうち遺伝子配列が変異していない部位に前記15N標識された生体分子が結合可能である、請求項16に記載の人工遺伝子。
【請求項18】
前記生体分子がタンパク質である、請求項17に記載の人工遺伝子。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか1項に記載の人工遺伝子と、
前記複数の生体分子結合部位のいずれかに結合可能な15N標識された生体分子と、
を備えるキット。