(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128059
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】基板処理装置及び基板処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01L21/30 563
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111481
(22)【出願日】2024-07-11
(62)【分割の表示】P 2023506940の分割
【原出願日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2021041053
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小玉 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】松永 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岩坂 英昭
(57)【要約】
【課題】基板裏面への摩擦低減膜を形成するにあたり、基板表面への回り込みを抑制する。
【解決手段】
基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱する加熱部と、前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、前記処理空間の雰囲気を、前記処理容器内の前記基板の周囲又は下方から排気する排気部と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、
前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、
前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱する加熱部と、
前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、
前記処理空間の雰囲気を、前記処理容器内の前記基板の周囲又は下方から排気する排気部と、
を備える、基板処理装置。
【請求項2】
処理容器内の基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理方法であって、
前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱しながら、当該裏面に向けて前記摩擦低減膜を形成する材料を供給すると共に、前記基板の周辺部から排気し、
前記基板の上方から前記基板の周縁部と中心部に向けて、各々不活性ガスを供給し、
周縁部と中心部に向けて供給する不活性ガスを、各々独立して制御する、基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理装置及び基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板の表面に塗布液を塗布し、基板の表面上の露光された塗布膜を現像する基板処理装置であって、露光処理前において、前記基板の裏面と、露光処理時に前記基板の裏面を保持する保持面との摩擦を低減する摩擦低減膜を、当該基板の裏面に形成する膜形成部を備えた基板処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2019-121683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示にかかる技術は、基板裏面への摩擦低減膜を形成するにあたり、基板表面への回り込みを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱する加熱部と、前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、前記処理空間の雰囲気を、前記処理容器内の前記基板の周囲又は下方から排気する排気部と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、本開示にかかる技術は、基板裏面への摩擦低減膜を形成するにあたり、基板表面への回り込みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態にかかる基板処理装置の構成の概略を模式的に示した側面の断面図である。
【
図2】
図1の基板処理装置における天井部を下面側からみた説明図である。
【
図3】
図2の天井部に形成されている第1吐出孔の様子を示す、
図2の一部拡大説明図である。
【
図4】
図1の基板処理装置においてウェハがギャップピンに支持されて処理されている様子を示す説明図である。
【
図5】第1吐出孔が斜めに形成されている基板処理装置によってウェハが処理されている様子を示す説明図である。
【
図6】第3吐出孔を有する基板処理装置によってウェハが処理されている様子を示す説明図である。
【
図7】天井部に形成されている第1吐出孔が、円環状のスリット孔である天井部を下面側からみた説明図である。
【
図8】天井部に形成されている第1吐出孔が、円弧状のスリット孔である天井部を下面側からみた説明図である。
【
図9】天井部に形成されている第2吐出孔が、中心から偏心して設けられている天井部を下面側からみた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例えば多層配線構造の半導体デバイスの製造工程では、基板としての例えば半導体ウェハ(以下、単に「ウェハ」ということがある)上にレジストパターンを形成するフォトリソグラフィー工程が複数回行われる。フォトリソグラフィー工程では、ウェハ上にレジスト液を塗布してレジスト膜を形成するレジスト塗布処理、レジスト膜に所定のパターンを露光する露光処理、露光されたレジスト膜を現像する現像処理などが行われ、ウェハ上に所定のレジストパターンが形成される。
【0009】
各フォトリソグラフィー工程間では、ウェハの同じ領域にショットが行われるように露光処理がなされる。そして、近年の半導体デバイスのさらなる高集積化に伴うレジストパターンの微細化により、先のフォトリソグラフィー工程でショットが行われる領域と、後のフォトリソグラフィー工程でショットが行われる領域との位置合わせの精度、すなわちオーバーレイ(重ね合わせ)の精度を高くすることが求められている。
【0010】
そのため、特許文献1に開示されているように、ウェハ裏面に摩擦低減膜をコーティングする事で、露光機のステージにウェハがチャッキングされる際の吸着歪みを緩和して、オーバーレイを改善することが提案されている。
【0011】
摩擦低減膜をウェハの裏面にコーティングする際には、処理容器内に収容されたウェハの周辺部等から処理容器内を排気しつつ、ウェハの裏面中央に対して原料ガスや蒸気が供給される。
【0012】
この場合、ウェハの裏面側に供給された原料ガスや蒸気が、ウェハの周縁部から表面へと回り込むことがある。特にコーティング効率を高めるためにウェハの裏面と原料ガスや蒸気との間の距離が狭くなるとその傾向がある。この種の摩擦低減膜、例えばフッ素系樹脂膜の原材料が、ウェハの周縁部から表面へと回り込むと、ウェハ表面の塗布膜(例えばSOCやレジスト膜)の濡れ性に影響を与え、またEBR処理にも影響を与える可能性がある。
【0013】
そこで、本開示にかかる技術は、処理容器内に収容されたウェハの周辺部や下方から処理容器内を排気しつつ、ウェハの裏面に摩擦低減膜の材料となる蒸気やガスを供給しても、ウェハの周縁部から表面へとこれらの材料が回り込むことを抑える。
【0014】
以下、本実施形態にかかる基板理装置の構成について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる基板処理装置1の構成の概略を模式的に示した側面図であり、基板処理装置1は、処理容器Cを構成する下部材2と、上部材3とを有している。下部材2は、基板であるウェハWの半径よりも大きい半径を有する円板状の熱板20と、熱板20の上面以外を囲む扁平な円筒状の外装部21とを備えている。
【0016】
熱板20内には、加熱部をなす抵抗発熱体からなるヒータ22が設けられている。ヒータ22は、例えば熱板20の中心を中心とする同心円状に複数分割され、熱板20の表面を高い均熱性をもって加熱できるように構成されている。なお
図1ではヒータ22は、図示の都合上2つに分割されているように描図している。
【0017】
熱板20の表面には、熱板20の中心を中心とし、ウェハWの半径よりも短い半径の円に沿って複数、例えば8本のギャップピン23が設けられている。各ギャップピン23の高さは、例えば熱板20の表面から1mmに設定されている。なお図示の都合上、
図1では、2つのギャップピン23のみを示している。
【0018】
熱板20におけるギャップピン23よりも中央寄りには、熱板20の中心を中心とする円に沿って、周方向に3本の昇降ピン24が当該熱板20を貫通して設けられている。3本の昇降ピン24は昇降部材25を介して、例えばエアシリンダにより構成される昇降機構26に接続されている。なお図示の都合上、
図1では2本の昇降ピン24のみを示している。
【0019】
熱板20の中心部には後述の蒸着用の材料が流れる流路31が貫通して形成されている。流路31の先端側は熱板20の中心部に開口する吐出口32構成している。即ち、流路31の出口が吐出口32となり、供給部を構成している。また流路31の基端側は、外装部21の中心部を貫通し、原料供給管33に接続されている。原料供給管33は、バルブV1、流量調整器34、バルブV2を介して原料供給源35に接続されている。原料供給源35には、例えばHMDSの蒸気、ミストが用意される。当該HMDSの蒸気、ミストは、キャリアガス、例えば窒素ガスによって原料供給管33内を通流していく。なおHMDSの蒸気、ミストは、HMDSの液体を気化器によって気化させたり、バブリング等の公知の技術によって生成されるので、詳述は省略する。本開示にかかる摩擦低減膜の材料としては、その他PTFEをはじめとするフッ素系樹脂材料を使用することができる。
【0020】
上部材3は、下部材2の上方空間を覆うように扁平な円筒状の蓋部41を備え、蓋部41における周壁部42の下面は、外装部21の上面に重なり合うように形成されている。蓋部41は、昇降機構4により下部材2に重なり合う位置と、外部の基板搬送機構(図示せず)と昇降ピン24との間でウェハWの受け渡しが行われる位置と、の間で昇降できるように構成される。そして蓋部41の周壁部42の外寄りの下面、すなわち後述する排気路5よりも外側の下面と外装部21の上面とが密着することで、蓋部41と外装部21との間に、処理空間Sが形成される。蓋部41内の上面は、天井部41aを構成する。
【0021】
蓋部41の天井部41aの中心部にはガス流路43が貫通して形成され、蓋部41と外装部21との間に形成される処理空間Sに開口している。ガス流路43の上端はパージガス供給管44に接続され、パージガス供給管44には、バルブV3、流量調整部45、パージガス供給源46が下流側からこの順に接続されている。パージガスとしてこの例では不活性ガス、例えば窒素ガスが使用される。ガス流路43は、第2ガス供給部を構成し、ガス流路43の下端開口は、第2吐出孔43aを構成する。
【0022】
蓋部41の天井部41aの周辺部には、処理容器C内に収容されるウェハWの周縁部に向けて、パージガスを供給するための複数のガス流路51が設けられている。ガス流路51は、第1ガス供給部を構成する。ガス流路51は、処理空間Sに開口し、その下端開口は、第1吐出孔51aを構成する。
【0023】
図2に示したように、第1吐出孔51aは、天井部41aの周辺部に円環状に設けられている。すなわち、ギャップピン23に載置されて処理容器C内に収容されたウェハWの周方向に沿って本実施の形態では、360個の第1吐出孔51aが設けられている。また第1吐出孔51aの直径は例えば3mmに設定されている。さらにまた、
図3に示したように、隣り合う第1吐出孔51a相互間の間隔dは、例えば3mmに設定されている。
【0024】
各ガス流路51上端部は、ヘッダ部52に連通している。ヘッダ部52には、パージガス供給管53が接続されている。パージガス供給管53には、バルブV4、流量調整部54が設けられ、パージガス供給源46と接続されている。ヘッダ部52は、蓋部41内に設けてもよい。
【0025】
蓋部41の周壁部42の内部には、
図1に示すように各々上下に貫通する複数の排気路5が蓋部41の周方向に沿って配置されている。周壁部42における排気路5よりも外側の下面は、既述したように外装部21の上面と密着するが、周壁部42における排気路5よりも内側の下面は、外装部21の上面とは密着しない。すなわち周壁部42における排気路5よりも内側の下面は、外側の下面よりも高さ位置が高い。これによって、周壁部42における排気路5よりも内側の下面と、外装部21の上面との間には、排気路5に通ずる環状の排気口6が形成される。排気口6は、排気部を構成している。
【0026】
そして蓋部41の上面の周縁部には周方向に沿って環状に形成された排気室7が設けられ、排気路5はこの排気室7に連通している。排気室7には、周方向に沿って複数の排気管8が接続されており、排気管8の下流端は例えば工場内の各セクションの排気路が共通に接続される排気ダクト(図示せず)に接続されている。
【0027】
以上の構成を有する基板処理装置1は、制御部100によって制御される。制御部100は、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータにより構成され、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、基板処理装置1における各種処理を制御するプログラムが格納されている。例えばバルブV1~V4の開閉、昇降機構4、26、流量調整部45、54は当該プログラムに基づいて制御部100によって制御される。なお当該プログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体Hに記録されていたものであって、当該記憶媒体Hから制御部100にインストールされたものであってもよい。また当該プログラムは、ネットワークを介してインストールされたものであってもよい。記憶媒体Hは、一時的なものであっても非一時的なものであってもよい。
【0028】
次に以上の構成にかかる基板処理装置1を用いてウェハWの裏面に摩擦低減膜を形成するプロセスについて説明する。先ず蓋部41を上昇させて処理容器Cを開放した状態とし、表面側に半導体装置が形成されるウェハWを基板搬送機構(図示せず)によって熱板20の上方領域に搬送し、当該基板搬送機構から昇降ピン24に受け渡す。基板搬送機構が処理容器Cの外に退避した後、蓋部41を下降させて処理容器Cを閉鎖した状態(
図1に示す状態)とする。
【0029】
ウェハWは、ウェハWの裏面と熱板20の表面との距離が、例えば2mmに設定された状態で昇降ピン24に支持されている。このときウェハWの中心が所定の許容範囲内で熱板20の中心、即ち第2吐出孔43aの中心に一致するように、ウェハWは昇降ピン24上に支持されている。
【0030】
そしてバルブV3、V4を開いてパージガス供給源46からパージガスとしての窒素ガスを処理容器C内に供給する。そうすると、ウェハWと対向している蓋部41の天井部41aに設けられている複数の第1吐出孔51aからウェハWの周縁部に対してパージガスが供給され、第1吐出孔51aよりも中心側に位置している第2吐出孔43aからウェハWの中心部に対してパージガスが供給される。一方、排気口6からは処理空間Sの雰囲気がウェハWの周辺部から排気される。
【0031】
この状態で、昇降ピン24を下降させ、
図4に示したようにウェハWをギャップピン23上に支持させると、ウェハWの裏面にHMDSが蒸着されていく。ギャップピン23の高さは、既述したように熱板20の表面から1mmに設定されているので、ウェハWの裏面と熱板20との間の空間は狭小であり、効率よくウェハWの裏面にHMDSが蒸着されていく。
【0032】
しかしながらウェハWの裏面と熱板20との間の空間が狭小であると、ウェハWの周縁部から、HMDSの蒸気がウェハWの表面に回り込んでしまう。しかしながら、実施の形態では複数の第1吐出孔51aからウェハWの周縁部に対してパージガスが供給され、第1吐出孔51aよりも中心側に位置している第2吐出孔43aからウェハWの中心部に対してパージガスが供給されるので、そのようなHMDSの蒸気の回り込みを抑えることができる。
【0033】
すなわち本実施の形態では、第1吐出孔51aからウェハWの周縁部にパージガスを供給するだけではなく、第2吐出孔43aからウェハWの中心部に対してもパージガスを供給しているので、そのような回り込みを効果的に抑えることが可能である。詳述すると、第1吐出孔51aからのパージガスの供給により、周縁部からの回り込みを抑えても、その供給流量によっては、表面への回り込みが若干量発生する可能性も否定できない。しかしながら、ウェハWの中心部に対してもパージガスを供給しているので、中心側から周縁部へのパージガスの気流をウェハWの表面に形成することができるので、中心側に侵入しようとするHMDSの蒸気を当該気流によって周縁部へと押し戻すことが可能である。
【0034】
その際の第1吐出孔51aからの供給流量と第2吐出孔43aからの供給流量の大小については、例えば本実施の形態のように、複数の第1吐出孔の間隔dが3mmの場合には第2吐出孔43aからの供給流量は、第1吐出孔51aからの供給流量よりも少なくてよい。その理由については、次の通りである。すなわち第1吐出孔51aの相互の間隔dが3mm以下の「密」の場合には、各第1吐出孔51aからのパージガスの流れによって、ウェハWの周縁部に、一種のエアカーテンが形成されて表面への回り込みを強力に抑えることできる。そのためHMDSの蒸気が回り込んでウェハWの中心側へと侵入しようとしても、その量は極めて微量であるからである。
【0035】
一方で、第1吐出孔51aの相互の間隔dが3mm超、例えば4mmの場合など、「疎」の場合には、第1吐出孔51aからの供給されるパージガスの間隙からHMDSの蒸気がウェハW表面の中心部側へと回り込む量が増加すると考えられるので、第2吐出孔43aからの供給流量を、第1吐出孔51aからの供給流量よりも大きくすれば、適切に対処することができる。
【0036】
本実施の形態では、このような第1吐出孔51aからの供給流量と第2吐出孔43aからの供給流量とは、各々独立した供給系を通じて個別に制御できる。そしてこのことを利用することで、さらに意図的にHMDSのウェハWの周縁部から中心側への回り込みを制御することも可能である。
【0037】
すなわち、第1吐出孔51aからの供給流量と第2吐出孔43aからの供給流量を制御することで、例えば積極的にHMDSのウェハWの周縁部へと回り込ませ、周縁部から所望の範囲にHMDSを蒸着することで、その後のウェハWの処理に応じた摩擦低減膜を、ウェハWの表面周縁部へと形成することが可能である。
【0038】
実際に発明者らが実施の形態にかかる基板処理装置1を用いて検証した結果を説明する。検証にあたっては、HMDSが蒸着した領域では疎水性があることから、水を供給してそのときの周縁部の水弾き幅を測定することで、これをHMDSの蒸着幅とした。そして第1吐出孔51aからの供給流量を6~10[L/min]の範囲で1[L/min]毎に順次変更し、第2吐出孔43aからの供給流量についても1~5[L/min]の範囲で1[L/min]毎に順次変更した。
【0039】
その結果、第1吐出孔51aからの供給流量、第2吐出孔43aからの供給流量が共に最も小さいときが、最も蒸着幅が大きく、第2吐出孔43aからの供給流量を最小にしたまま、第1吐出孔51aからの供給流量を増加していくと、それに伴って、蒸着幅が小さくなって行くことが確認できた。また第1吐出孔51aからの供給流量を最小にしたまま、第2吐出孔43aからの供給流量を増加していくと、それに伴って蒸着幅が小さくなって行くことも確認できた。また各々の流量の組み合わせによって、蒸着幅が微妙に違うことも確認できた。これらのことから、第1吐出孔51aからの供給流量と第2吐出孔43aからの供給流量とを制御することで、ウェハWの周縁部からHMDSの回り込むウェハWの径方向の長さ(蒸着幅)を調整することが可能であることが確かめられた。
【0040】
このことを利用すれば、露光前に摩擦低減膜を形成して露光時のオーバーレイの精度を高めるという目的だけではなく、例えばレジスト液塗布処理前に蒸着幅を制御して摩擦低減膜を形成することで、その後のレジスト膜の形成処理についても、EBR等を考慮した適切な基板処理を実現することができる。
【0041】
前記した実施の形態では、第1吐出孔51aはいずれも鉛直方向に吐出させてウェハWの周縁部にパージガスを供給するようにしたが、
図5に示したように、流路を斜めにして、第1吐出孔51aから供給されるパージガスが、ウェハWの周縁部に対して、中心から斜め外方に向けて吐出するようにしてもよい。
【0042】
さらにまた前記した実施の形態では、ウェハWの周縁部にパージガスを供給する第1吐出孔51aよりも中心部側に第2吐出孔43aを設けていたが、
図6に示したように、第1吐出孔51aと第2吐出孔43aとの間に、さらに第3吐出孔61を設けて、ウェハWの周縁部と中心部との間の領域にパージガスを供給するようにしてもよい。かかる場合、第3吐出孔61からの供給流量は、第1吐出孔51aと第2吐出孔43aからの供給流量よりも少なく設定することがよい。
【0043】
前記した実施の形態では、第1吐出孔51aは、円形の孔として、これを環状に多数設けた構成であったが、エアカーテンを形成して表面への回り込みを抑えるという観点からは、例えば
図7に示したように、円環状の第1吐出孔51bとしてもよい。この場合は、エアカーテンとしての機能は前記実施の形態よりも優れているので、第2吐出孔43aからの供給流量は、第1吐出孔51bよりも少ないものでよい。
【0044】
また
図8に示したように、円弧状のスリット形状とした第1吐出孔51cとしてもよい。この場合も、第1吐出孔51c相互の間隔を狭くすることで、エアカーテンとしての機能は前記実施の形態よりも優れている。したがって、第2吐出孔43aからの供給流量は、第1吐出孔51cよりも少ないものでよい。
【0045】
さらに、前記した例は、いずれも第2吐出孔43aをウェハWと対向する天井部41aの中心に設け、すなわちウェハWの中心部に向けてパージガスを供給するようにしていたが、
図9に示したように、天井部41aの中心からずれていた位置に第2吐出孔43aを設け、ウェハWの中心から偏心した位置にパージガスを供給するようにしてもよい。この場合も、第1吐出孔51aよりも中心部側にパージガスを供給するので、中心部へと侵入するHMDSの蒸気を、外周側へと押し戻すことが可能である。
【0046】
このように第1吐出孔51aよりも中心部側にパージガスを供給するという目的から、第2吐出孔43aの数は1つに限る必要はなく、2以上設けてもよい。
【0047】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
なお、以下のような構成は本開示の技術的範囲に属する。
(1)基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、
前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、
前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱する加熱部と、
前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、
前記処理空間の雰囲気を、前記処理容器内の前記基板の周囲又は下方から排気する排気部と、
を備える、基板処理装置。
(2)前記第1ガス供給部は、複数の第1吐出孔を有し、
前記複数の第1吐出孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、(1)に記載の基板処理装置。
(3)前記第1ガス供給部は、1または2以上のスリット孔を有し、
前記スリット孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、(1)に記載の基板処理装置。
(4)前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm以下であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部の供給流量より少ない、(2)に記載の基板処理装置。
(5)前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm超であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部からの供給流量よりも多い、(2)に記載の基板処理装置。
(6)前記第2ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部からの供給流量より少ない、(3)に記載の基板処理装置。
(7)前記第2ガス供給部は、前記基板の中心部に向けた1または2以上の第2吐出孔を、前記処理容器内の天井部に有している、(1)~(6)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(8)前記第1ガス供給部からの供給流量と前記第2ガス供給部からの供給流量は、個別に制御される、(1)~(7)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(9)前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、他のガス供給部は設けられていない、(1)~(8)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(10)前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、前記基板に不活性ガスを供給する第3ガス供給部が設けられている、(1)~(8)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(11)前記第3ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部及び前記第2ガス供給部からの供給流量より少ない、(10)に記載の基板処理装置。
(12)前記第1ガス供給部から供給される不活性ガスは、前記基板の周縁部に対して中心側から外側方向に向けて斜めに吐出される、(1)~(11)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(13)処理容器内の基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理方法であって、
前記処理容器内の前記基板の裏面を加熱しながら、当該裏面に向けて前記摩擦低減膜を形成する材料を供給すると共に、前記基板の周辺部から排気し、
前記基板の上方から前記基板の周縁部と中心部に向けて、各々不活性ガスを供給し、
周縁部と中心部に向けて供給する不活性ガスを、各々独立して制御する、基板処理方法。
【符号の説明】
【0048】
1 基板処理装置
2 下部材
3 上部材
5 排気路
6 排気口
20 熱板
22 ヒータ
41 蓋部
41a 天井部
43a 第2吐出孔
44、53 パージガス供給管
45、54 流量調整部
46 パージガス供給源
51a 第1吐出孔
100 制御部
C 処理容器
S 処理空間
V1~V4 バルブ
W ウェハ
【手続補正書】
【提出日】2024-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、
前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、
前記処理容器内の前記基板を加熱する加熱部と、
前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、
前記処理容器の一部である周壁部に設けられて、前記処理空間の雰囲気を排気する排気口を備える、基板処理装置。
【請求項2】
前記第1ガス供給部は、複数の第1吐出孔を有し、
前記複数の第1吐出孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記第1ガス供給部は、1または2以上のスリット孔を有し、
前記スリット孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm以下であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部の供給流量より少ない、請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm超であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部からの供給流量よりも多い、請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記第2ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部からの供給流量より少ない、請求項3に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記第2ガス供給部は、前記基板の中心部に向けた1または2以上の第2吐出孔を、前記処理容器内の天井部に有している、請求項1~6のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記第1ガス供給部からの供給流量と前記第2ガス供給部からの供給流量は、個別に制御される、請求項1~7のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、他のガス供給部は設けられていない、請求項1~8のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、前記基板に不活性ガスを供給する第3ガス供給部が設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記第3ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部及び前記第2ガス供給部からの供給流量より少ない、請求項10に記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記第1ガス供給部から供給される不活性ガスは、前記基板の周縁部に対して中心側から外側方向に向けて斜めに吐出される、請求項1~11のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項13】
処理容器内の基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理方法であって、
前記処理容器内の前記基板を加熱しながら、当該裏面に向けて前記摩擦低減膜を形成する材料を供給すると共に、前記基板の周辺部から排気し、
前記基板の上方から前記基板の周縁部と中心部に向けて、各々不活性ガスを供給する、基板処理方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本開示の一態様は、基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、前記処理容器内の前記基板を加熱する加熱部と、前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、前記処理容器の一部である周壁部に設けられて、前記処理空間の雰囲気を排気する排気口を備えている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
なお、以下のような構成は本開示の技術的範囲に属する。
(1)基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理装置であって、
前記基板を収容し、密閉された処理空間を形成する処理容器と、
前記処理容器内の前記基板を加熱する加熱部と、
前記処理容器内の前記基板の裏面に向けて、前記摩擦低減膜を形成する材料を供給する供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から前記基板の周縁部に不活性ガスを供給する第1ガス供給部と、
前記処理容器内の前記基板の上方から、前記第1ガス供給部よりも前記基板の中心側に不活性ガスを供給する第2ガス供給部と、
前記処理容器の一部である周壁部に設けられて、前記処理空間の雰囲気を排気する排気口を備える、基板処理装置。
(2)前記第1ガス供給部は、複数の第1吐出孔を有し、
前記複数の第1吐出孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、(1)に記載の基板処理装置。
(3)前記第1ガス供給部は、1または2以上のスリット孔を有し、
前記スリット孔は、前記基板の周方向に沿って前記処理容器内の天井部に設けられている、(1)に記載の基板処理装置。
(4)前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm以下であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部の供給流量より少ない、(2)に記載の基板処理装置。
(5)前記第1ガス供給部の複数の第1吐出孔の間隔は3mm超であり、前記第2ガス供給部からの供給流量は前記第1ガス供給部からの供給流量よりも多い、(2)に記載の基板処理装置。
(6)前記第2ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部からの供給流量より少ない、(3)に記載の基板処理装置。
(7)前記第2ガス供給部は、前記基板の中心部に向けた1または2以上の第2吐出孔を、前記処理容器内の天井部に有している、(1)~(6)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(8)前記第1ガス供給部からの供給流量と前記第2ガス供給部からの供給流量は、個別に制御される、(1)~(7)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(9)前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、他のガス供給部は設けられていない、(1)~(8)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(10)前記第1ガス供給部と第2ガス供給部の間には、前記基板に不活性ガスを供給する第3ガス供給部が設けられている、(1)~(8)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(11)前記第3ガス供給部からの供給流量は、前記第1ガス供給部及び前記第2ガス供給部からの供給流量より少ない、(10)に記載の基板処理装置。
(12)前記第1ガス供給部から供給される不活性ガスは、前記基板の周縁部に対して中心側から外側方向に向けて斜めに吐出される、(1)~(11)のいずれか1つに記載の基板処理装置。
(13)処理容器内の基板の裏面に摩擦低減膜を形成する基板処理方法であって、前記処理容器内の前記基板を加熱しながら、当該裏面に向けて前記摩擦低減膜を形成する材料を供給すると共に、前記基板の周辺部から排気し、
前記基板の上方から前記基板の周縁部と中心部に向けて、各々不活性ガスを供給する、基板処理方法。