(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128554
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】フッ素含有環状オレフィン(共)重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 210/00 20060101AFI20240913BHJP
C08F 4/42 20060101ALI20240913BHJP
C08F 4/80 20060101ALI20240913BHJP
C08F 4/76 20060101ALI20240913BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20240913BHJP
C08F 4/64 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
C08F210/00
C08F4/42
C08F4/80
C08F4/76
C08F4/70
C08F4/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037571
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
(72)【発明者】
【氏名】宮城 雄
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】半田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J015DA07
4J015DA09
4J015DA37
4J100AA02Q
4J100AR09P
4J100BB07P
4J100BB18P
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA25
4J100FA10
4J100FA28
4J100FA29
4J100GA06
4J100JA32
4J128AA01
4J128AC10
4J128AC20
4J128AC48
4J128AD02
4J128AD16
4J128AF02
4J128BA00A
4J128BA01B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC25B
4J128EA01
4J128EB02
4J128EB03
4J128EB26
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA01
4J128GA26
4J128GB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フッ素化ノルボルネンの含有量が高いフッ素含有環状オレフィン(共)重合体を提供する。
【解決手段】特定構造を有するフッ素化ノルボルネン構成単位と、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位とを含み、前記特定構造を有するフッ素化ノルボルネン構成単位の含有量が40モル%超であり、α-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%以上60モル%未満である、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位と、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位とを含み、
前記一般式(1)で表される構成単位の含有量が40モル%超であり、前記炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%以上60モル%未満である、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R
9~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
9~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【請求項2】
非晶性である、請求項1に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【請求項3】
JIS K7121に記載の方法に従って、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で示差走査熱量計による測定を行って得られたDSC曲線が、25~350℃の範囲内に融点のピークを有しない、請求項1又は2に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【請求項4】
少なくとも、下記一般式(2)で表される単量体及び炭素原子数2~10のα-オレフィンを含むモノマーと、触媒と、溶媒とを重合容器内に仕込む仕込み工程と、
前記重合容器内の前記モノマーを、前記触媒の存在下に重合させる重合工程と、を含み、
前記仕込み工程において、前記一般式(2)で表される単量体の仕込み量を40モル%超とし、前記炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量を0モル%以上60モル%未満とし、かつ、前記一般式(2)で表される単量体を溶媒としても用い、前記溶媒中における、前記一般式(2)で表される単量体の仕込み量を50質量%超とする、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【化2】
[一般式(2)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
1~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【請求項5】
前記触媒の少なくとも1つが、周期律表第10族の金属元素を含む触媒又は周期律表第4族の金属元素を含む触媒である、請求項4に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【請求項6】
前記触媒の少なくとも1つが周期律表第10族の金属元素を含む触媒である場合、前記触媒にはアルミノキサンを含まない、請求項5に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒の少なくとも1つが周期律表第10族の金属元素を含む触媒である場合、前記触媒には有機ホウ素化合物を含まない、請求項5に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン(共)重合体は、高耐熱性、高透明性及び低誘電性等の特性を有し、光ディスク基板、光学フィルム、光学ファイバー等の光学材料の分野をはじめ、金属張積層板(プリント基板等)における樹脂層など、様々な用途に使用されている。代表的な環状オレフィン共重合体として、透明樹脂として広く使用される、環状オレフィンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0003】
一方、PTFE(Polytetrafluoroethylene)やETFE(Ethylene tetrafluoroethylene)に代表されるフッ素樹脂は、高耐熱性、耐薬品性、低誘電性、撥水性、離型性、低摩擦性、高絶縁性等、種々の優れた特性を有する。そのため、それぞれの特性を活かし様々な用途に使用されている。しかし、フッ素樹脂は成形が容易ではなく、成形品を得るのが困難である。逆に、環状オレフィン(共)重合体は、一般に成形が容易であることから、環状オレフィン(共)重合体にフッ素樹脂の利点を付与できれば、フッ素樹脂の代替となり、しかも成形が容易な新材料となり得る。
【0004】
そこで、ノルボルネンをフッ素化して単独重合又はα-オレフィンと共重合することで、フッ素リッチな環状オレフィン(共)重合体が得られ、環状オレフィン(共)重合体の特性と、フッ素樹脂の特性とを併せ持つ材料が得られることが期待される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のフッ素含有環状オレフィン系共重合体は、フッ素含有環状オレフィンの含有量が20モル%以上40モル%以下と低く、フッ素樹脂と同等の特性を有することは期待できない。フッ素含有環状オレフィンの含有量を高めることができれば、その問題は解決し得るが、フッ素化したノルボルネン(以下、「フッ素化ノルボルネン」と呼ぶ。)は反応率が低く重合が困難であり、フッ素含有環状オレフィンの含有量を高めることは容易ではない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、フッ素化ノルボルネンの含有量が高いフッ素含有環状オレフィン(共)重合体を提供することにある。
また、本発明の別の課題は、フッ素化ノルボルネンの含有量が高いフッ素含有環状オレフィン(共)重合体を製造することが可能な、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、フッ素化ノルボルネンをモノマーとして用いる環状オレフィン(共)重合体の重合において、フッ素化ノルボルネンをモノマーとしてのみならず、溶媒としても使用することでフッ素化ノルボルネンの含有量を向上可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)下記一般式(1)で表される構成単位と、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位とを含み、
前記一般式(1)で表される構成単位の含有量が40モル%超であり、前記炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%以上60モル%未満である、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【0010】
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R
9~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
9~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【0011】
(2)非晶性である、前記(1)に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【0012】
(3)JIS K7121に記載の方法に従って、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で示差走査熱量計による測定を行って得られたDSC曲線が、25~350℃の範囲内に融点のピークを有しない、前記(1)又は(2)に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体。
【0013】
(4)少なくとも、下記一般式(2)で表される単量体及び炭素原子数2~10のα-オレフィンを含むモノマーと、触媒と、溶媒とを重合容器内に仕込む仕込み工程と、
前記重合容器内の前記モノマーを、前記触媒の存在下に重合させる重合工程と、を含み、
前記仕込み工程において、前記一般式(2)で表される単量体の仕込み量を40モル%超とし、前記炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量を0モル%以上60モル%未満とし、かつ、前記一般式(2)で表される単量体を溶媒としても用い、前記溶媒中における、前記一般式(2)で表される単量体の仕込み量を50質量%超とする、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【0014】
【化2】
[一般式(2)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
1~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【0015】
(5)前記触媒の少なくとも1つが、周期律表第10族の金属元素を含む触媒又は周期律表第4族の金属元素を含む触媒である、前記(4)に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【0016】
(6)前記触媒の少なくとも1つが周期律表第10族の金属元素を含む触媒である場合、前記触媒にはアルミノキサンを含まない、前記(5)に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【0017】
(7)前記触媒の少なくとも1つが周期律表第10族の金属元素を含む触媒である場合、前記触媒には有機ホウ素化合物を含まない、前記(5)に記載のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フッ素化ノルボルネンの含有量が高いフッ素含有環状オレフィン(共)重合体を提供することができる。
また、フッ素化ノルボルネンの含有量が高いフッ素含有環状オレフィン(共)重合体を製造することが可能な、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<フッ素含有環状オレフィン(共)重合体>
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、下記一般式(1)で表される構成単位と、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位とを含む。そして、 一般式(1)で表される構成単位の含有量が40モル%超であり、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%以上60モル%未満である。
【0020】
【化3】
[一般式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R
9~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
9~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【0021】
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、一般式(1)で表される構成単位の含有量、すなわちフッ素化ノルボルネンの含有量が40モル%超と多いためフッ素含有量が多く、フッ素樹脂の特性(高耐熱性、耐薬品性、低誘電性、撥水性、低摩擦性、高絶縁性等)を一定の程度享受し得る。従って、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、フッ素樹脂やナフィオン等のアイオノマーの代替となり得る。しかも、環状オレフィン(共)重合体の成形が容易であるといった性質も併せ持つ。よって、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、環状オレフィン(共)重合体の特性と、フッ素樹脂の特性とを持つ新材料として期待される。
なお、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%の場合は、上記一般式(1)で表される構成単位のみを含む単独重合体である。また、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量が0モル%超の場合は、上記一般式(1)で表される構成単位と、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位とを含む共重合体である。すなわち、「フッ素含有環状オレフィン(共)重合体」の語は、フッ素含有環状オレフィン重合体と、フッ素含有環状オレフィン共重合体とを含むことを意味する。
以下、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の各構成単位について説明する。
【0022】
[一般式(1)で表される構成単位]
一般式(1)で表される構成単位は、上記の通り、フッ素化ノルボルネン由来の構成単位である。そして、本実施形態においては、一般式(1)で表される構成単位の含有量が40モル%超であるため、フッ素リッチな環状オレフィン(共)重合体となる。
【0023】
一般式(1)中、R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。一般式(1)におけるR1~R8は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0024】
R1~R8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;炭素原子数1~20のアルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0025】
R9~R12は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR13若しくは-OCOR13で表される置換基を表し、R9~R12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
R13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
【0026】
一般式(1)中のR9~R12が表す置換又は無置換のアルキル基としては、炭素原子数1~30が好ましく、炭素原子数1~20であることがより好ましい。当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
置換アルキル基としては、例えば、アラルキル基、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシエチル基)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基)等が挙げられる。
アラルキル基は、炭素原子数7~30が好ましく、炭素原子数7~20であることがより好ましい。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
置換アルキル基のその他の置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)等が挙げられる。
上記R9~R12が表すフッ素原子を含有するアルキル基としては、例えば、炭素原子数1~30の含フッ素アルキル基を挙げることができ、炭素原子数1~10のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素原子数1~4のパーフルオロアルキル基がより好ましい。
上記R9~R12が表すフッ素原子を含有するアルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1~30のフッ素原子を含有するアルコキシ基を挙げることができ、炭素原子数1~10のパーフルオロアルコキシ基が好ましい。
上記R9~R12が表すフッ素原子を含有するエーテル結合含有アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~30のフッ素原子を含有するアルコキシ基を挙げることができ、炭素原子数1~10のパーフルオロアルコキシ基が好ましい。
上記R9~R12において、-COOR13又は-OCOR13も好ましく、R13は、置換または無置換のアルキル基、あるいは、フッ素原子を含有するアルキル基であり、フッ素原子を含有するアルキル基であることがより好ましい。また、-COOR13及び-OCOR13のうち、-COOR13の方が好ましい。ここで、R13における置換又は無置換のアルキル基、およびフッ素原子を含有するアルキル基の例としては、上記R9~R12において挙げた例と同様のものを挙げることができる。
【0027】
上記R9~R12は、フッ素原子、フッ素原子を含有するアルキル基、フッ素原子を含有するアルコキシ基であることが好ましく、フッ素原子、フッ素原子を含有するアルキル基であることがより好ましい。
上記R9~R12の少なくとも2つは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。環構造は単環であっても多環であってもよい。例えば、R9~R12の2つが互いに結合してアルキレン基を形成する場合などを例示することができ、さらには、R9及びR10のいずれかと、R11及びR12のいずれかとが、互いに結合してアルキレン基を形成する場合を例示することができる。
R9とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0028】
R9又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
上記R9~R12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、上記R9~R12中に3つ以上のフッ素原子を含むことが好ましく、上記R9~R12中に少なくとも1つのトリフルオロメチル基(-CF3基)を含むことがさらに好ましい。
【0029】
一般式(1)中のmは0または1を表し、1であることが好ましい。また、一般式(1)において、mが1であり、かつ、R9~R12のうちの少なくとも3つがフッ素原子であることがより好ましい。また、一般式(1)において、mが1であり、上記R9~R12のうちの3つがフッ素原子であり、上記R9~R12のうちの1つがトリフルオロメチル基(-CF3基)であることが特に好ましい。
【0030】
一般式(1)で示される構成単位の由来となるモノマーの具体例を示す。ただし、以下の例は、フッ素置換される前の化合物であり、実際には、一般式(1)におけるR9~R12の相当する原子又は原子団の少なくとも1つがフッ素原子又はフッ素原子を有する置換基に置換された化合物である。5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンといった3環の環状オレフィン;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンといった4環の環状オレフィン;
8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0031】
中でも、アルキル置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキル基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)、アルキリデン置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキリデン基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン)が好ましく、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:5-エチリデン-2-ノルボルネン、又は、単にエチリデンノルボルネン)が特に好ましい。
【0032】
一般式(1)で示される構成単位の由来となるモノマーの具体例を以下に2例示す。ただし、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は以下の2例に限定されるものではない。
【0033】
【0034】
以上の一般式(1)で示される構成単位の含有率は、40モル%超であり、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。当該構成単位が40モル%未満であると、撥水性、低誘電性等のフッ素樹脂の特性を享受しにくくなる。
【0035】
[炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位]
炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位に由来する炭素原子数2~10のα-オレフィンは特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセン等が挙げられる。中でも、エチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが好ましい。
【0036】
炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量は、0モル%以上60モル%未満である。上述の通り、当該構成単位が0モル%の場合は、一般式(1)で示される構成単位のみの単独重合体であり、0モル%を超える場合は、当該構成単位と、一般式(1)で示される構成単位との共重合体である。共重合体の場合、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の含有量は、5~59モル%が好ましく、10~50モル%がより好ましく、20~40モル%がさらに好ましい。
【0037】
上述の通り、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、環状オレフィン(共)重合体の成形が容易であるといった性質を併せ持つ。そして、環状オレフィン共重合体の方が、環状オレフィン単独重合体に比べてさらに成形が容易である。
【0038】
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、非晶性であることが好ましい。非晶性であることで透明となり、透明であることが必要な成形品に適用することができる。別の表現で言うと、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、JIS K7121に記載の方法に従って、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で示差走査熱量計による測定を行って得られたDSC曲線が、25~350℃の範囲内に融点のピークを有しないことが好ましい。すなわち、そのようなDSC曲線が、25~350℃の範囲内に融点のピークを有しないということは、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体が透明であることを意味する。
【0039】
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、上述の通り、フッ素樹脂の特性を一定の程度享受している。そのため、離型性、低誘電性を活かして燃料電池の離型フィルム、低誘電性の特性を活かし高周波アンテナ用基板、アンテナ、プリント基板、燃料電池膜用の薄膜やコーティング、触媒コーティング、センサー、耐熱工業フィルム等に適用することができる。
【0040】
以上の本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体は、以下に示す、本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法により製造することができる。
【0041】
<フッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法>
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法は、少なくとも、下記一般式(2)で表される単量体及び炭素原子数2~10のα-オレフィンを含むモノマーと、触媒と、溶媒とを重合容器内に仕込む仕込み工程と、重合容器内のモノマーを、触媒の存在下に重合させる重合工程と、を含む。そして、仕込み工程において、一般式(2)で表される単量体の仕込み量を40モル%超とし、炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量を0モル%以上60モル%未満とし、かつ、一般式(2)で表される単量体を溶媒としても用い、溶媒中における、一般式(2)で表される単量体の仕込み量を50質量%超とすることを特徴としている。
【0042】
【化5】
[一般式(2)中、R
1~R
12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、置換若しくは無置換のアルキル基、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアルコキシ基、フッ素原子を有するエーテル結合含有アルキル基、又は、-COOR
13若しくは-OCOR
13で表される置換基を表し、R
1~R
12中に少なくとも1つのフッ素原子を含み、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
R
13は置換若しくは無置換のアルキル基、又は、フッ素原子を有するアルキル基である。
また、mは、0又は正の整数を示し、mが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。m=0の場合、R
1~R
4及びR
9~R
12の少なくとも1つは、水素原子ではない。]
【0043】
本実施形態のフッ素含有環状オレフィン(共)重合体の製造方法においては、仕込み工程において、一般式(2)で表される単量体を、単量体としてのみならず、溶媒としても仕込む。すなわち、重合工程ではバルク重合により重合する。そのため、他の溶媒を用いるよりも、一般式(2)で表される単量体の反応率が高まり、フッ素含有環状オレフィン(共)重合体中の一般式(2)で表される単量体由来の構成単位の含有量を高めることができる。その結果、フッ素リッチとなりフッ素樹脂の特性を一定の程度享受し得る。
【0044】
一般式(2)で表される単量体は、上記一般式(1)で表される構成単位の由来となる単量体である。従って、R1~R8の説明及びR9~R12の説明は、上述の一般式(1)で表される構成単位についてした説明がそのまま当てはまり、具体例及び好ましい態様又は例も同様である。従って、一般式(2)で表される単量体の説明は省略する。
同様に、炭素原子数2~10のα-オレフィンを含むモノマーは、炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位の由来となるモノマーである。従って、炭素原子数2~10のα-オレフィンの説明は、上述の炭素原子数2~10のα-オレフィン由来の構成単位ついてした説明がそのまま当てはまり、具体例及び好ましい態様又は例も同様である。従って、炭素原子数2~10のα-オレフィンの説明は省略する。
以下、各工程について説明する。
【0045】
[仕込み工程]
仕込み工程においては、少なくとも、上記一般式(2)で表される単量体及び炭素原子数2~10のα-オレフィンを含むモノマーと、触媒と、溶媒とを重合容器内に仕込む。そして、仕込み工程において、一般式(2)で表される単量体の仕込み量を40モル%超とし、炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量を0モル%以上60モル%未満とする。併せて、一般式(2)で表される単量体を溶媒としても用い、溶媒中における、一般式(2)で表される単量体の仕込み量を50質量%超とする。
【0046】
一般式(2)で表される単量体の仕込み量は40モル%超とし、炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量は0モル%以上60モル%未満として重合容器内に仕込む。上述の通り、単独重合体なら炭素原子数2~10のα-オレフィンの仕込み量を0モル%である。その場合、当然ながら一般式(2)で表される単量体は100モル%である。
一般式(2)で表される単量体の仕込み量を40モル%超となるように仕込むことで、結果物のフッ素含有環状オレフィン共重合体におけるフッ素化ノルボルネンの含有量が増え、フッ素リッチとなり、上述の通り、フッ素樹脂の特性を享受することができる。
【0047】
(触媒)
触媒としては、周期律表第10族の金属元素を含む触媒、周期律表第4族の金属元素を含む触媒等を用いることができる。周期律表第10族の金属元素を含む触媒及び/又は周期律表第4族の金属元素を含む触媒を使用することで、一般式(2)で表される単量体を単量体としてのみならず、溶媒として用いることと相まって、一般式(2)で表される単量体の反応率をより高めることができる。周期律表第10族の金属元素としては、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、及び白金(Pt)等が挙げられるが、特に、パラジウムが好ましい。また、周期律表第4族の金属元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びハフニウム(Hf)等が挙げられるが、特に、Tiが好ましい。
また、周期律表第10族の金属元素を含む触媒としては、当該金属元素の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、錯体、アルキル体等が挙げられる。周期律表第4族の金属元素を含む触媒としては、当該金属元素の塩化物、錯体、アルキル体等が挙げられる。
以上、周期律表第10族の金属元素を含む触媒及び周期律表第4族の金属元素を含む触媒について説明したが、触媒活性の点で、前者の方が後者よりも好ましい。
【0048】
触媒の使用量は、一般式(1)で表される単量体1モルに対し、0.000001~0.001モルが好ましく、0.00001~0.0001モルがより好ましい。
【0049】
一方、触媒として、上記のような周期律表第10族の金属元素を含む触媒を使用する場合、一般にアルミノキサンや、有機ホウ素化合物は必ずしも使用する必要はない。すなわち、本実施形態においては、触媒として、アルミノキサン又は有機ホウ素化合物を含まない態様とすることができる。
アルミノキサンは、従来より種々のオレフィンの重合において助触媒等として使用されている種々のアルミノキサンであり、典型的には、アルミノキサンは有機アルミノキサンである。有機アルミノキサンとしては、メチルアルミノキサン及びメチルアルミノキサンのメチル基の一部を他のアルキル基で置換した修飾メチルアルミノキサンが挙げられる。
同様に、有機ホウ素化合物は、従来より種々のオレフィンの重合において助触媒等として使用されている種々の有機ホウ素化合物であり、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)トリチルボレート、ジメチルフェニルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、及びN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0050】
(溶媒)
本実施形態においては、一般式(2)で表される単量体を溶媒としても用いる。すなわち、一般式(2)で表される単量体は溶媒を兼ねる。ただし、溶媒のすべてを一般式(2)で表される単量体とすることに制限されるものではなく、他の触媒を溶解するなど、必要に応じて他の溶媒を使用してもよい。そのため、溶媒中における、一般式(2)で表される単量体の仕込み量を50質量%超とする。
溶媒としての一般式(2)で表される単量体は、全溶媒中、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。他の溶媒を使用する必要がないのであれば、溶媒としての一般式(2)で表される単量体は100質量%とすることが好ましい。
【0051】
一般式(2)で表される単量体以外の溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、イソドデカン、ミネラルオイル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の炭化水素溶媒や、クロロホルム、メチレンクロライド、ジクロロメタン、ジクロロエタン、及びクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒が挙げられる。
【0052】
(他の成分)
仕込み工程において、他の成分を仕込むことができる。他の成分としては、環状オレフィン(共)重合体の分子量を調整する連鎖移動剤(水素又は有機金属化合物)等が挙げられる。
【0053】
[重合工程]
重合工程においては、重合容器内のモノマーを、触媒の存在下に重合させる。
重合時の温度は特に限定されず、例えば、0~200℃とすることができる。環状オレフィン(共)重合体の収率が良好であることなどから、重合時の温度は、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、60℃以上がさらにより好ましく、70℃以上が特に好ましい。重合時の温度は80℃以上であってもよく、85℃以上とすることもできる。
重合時の温度の上限は特に限定されない、重合時の温度の上限は、例えば190℃以下であってよく、180℃以下であってもよく、160℃以下であってもよい。
【0054】
重合時間は特に限定されず、所望する収率に達するか、重合体の分子量が所望する程度に上昇するまで重合が行われる。
重合時間は、温度や、触媒の組成や、単量体組成によっても異なるが、典型的には0.01時間~120時間であり、0.1時間~80時間が好ましく、0.2時間~10時間がより好ましい。
重合条件は、所望する物性の環状オレフィン(共)重合体が得られる条件であれば、特に限定されず、公知の条件を用いることができる。
【0055】
以上の本実施形態の製造方法により製造される環状オレフィン(共)重合体は、上述した本実施形態の環状オレフィン(共)重合体に相当する。そして、上述のように、環状オレフィン(共)重合体の特性と、フッ素樹脂の特性とを併せ持つ新材料として、種々の分野に適用することができる。
【実施例0056】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
《モノマー(1)(フッ素化ノルボルネン)の合成》
まず、実施例・比較例で使用するモノマー(1)(フッ素化ノルボルネン)として、以下に示す構造のモノマーA及びBを合成した。
(モノマーAの合成)
3,3,3-トリフルオロペンテンとシクロペンタジエンを1:1物質量で混合し、オートクレーブ内で135℃に加熱しながら84時間撹拌することで、モノマーAを得た。
(モノマーBの合成)
シクロペンタジエンとヘキサフルオロプロペンを1:1物質量で混合し、オートクレーブ内で220℃に加熱しながら72時間撹拌することで、モノマーBを得た。
【0058】
【0059】
[実施例1~5、比較例1~3]
各実施例・比較例において、窒素雰囲気下、十分に窒素置換した30mLのガラス製ナスフラスコに、表1に示すモノマー(1)としてフッ素化ノルボルネン2.2mLを添加した。次いで、ナスフラスコ内にモノマー(2)としてエチレンを流通させ、飽和させた(ただし、実施例5においてはこの操作をせず、次の操作を引き続き実行した。)。その後、ナスフラスコを90℃に昇温させ、ナスフラスコ内の温度が十分に安定化したのを確認後、表1に示す触媒(1)及び触媒(2)を、表1に記載の量だけ添加した。60分間反応させた後、ナスフラスコ内に2-プロパノールを添加して重合を停止させた。以上のようにして環状オレフィン(共)重合体を得た。実施例5のみ環状オレフィン単独重合体であり、それ以外は環状オレフィン共重合体である。なお、実施例1~5においては、溶媒を別途添加することなく、モノマー(1)を溶媒として使用した。また、比較例1~3においては、溶媒としてトルエンを使用した。
【0060】
また、用いた触媒(1)のうち、Ti触媒及びNi触媒の構造は以下の通りである。さらに、Pd
2(dba)
3は、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムを示す。さらに、触媒(2)としてのMMAO-3Aは、6.5質量%(Al原子の含有量として)MMAO-3Aトルエン溶液([(CH
3)
0.7(iso-C
4H
9)
0.3AlO]
nで表されるメチルイソブチルアルミノキサンの溶液、東ソー・ファインケム(株)製、なお全Alに対して6mol%のトリメチルアルミニウムを含有する)を示す。
【化7】
[Ti触媒の構造式中、R
1はtert-Bu基を示し、R
2は水素を示す。]
【0061】
【0062】
一方、各実施例・比較例で得られた環状オレフィン(共)重合体の、触媒量に対する収量、環状オレフィンの含有量、及びガラス転移温度Tgを表2に示す。なお、環状オレフィンの含有量は、モノマーA及び/又はモノマーB由来の構成単位の割合であり、当該含有量が多い程、フッ素の割合が高いこととなる。
【0063】
【0064】
表2より、実施例1~5においては、いずれも環状オレフィンの含有量が40mol%超であり、フッ素リッチな環状オレフィン(共)重合体が得られたことが分かる。これに対して、溶媒としてトルエンを用いた比較例1~3においては、いずれも環状オレフィンの含有量が40mol%以下であり、フッ素リッチな環状オレフィン(共)重合体が得られなかった。すなわち、フッ素化ノルボルネン(一般式(2)で表される単量体)を溶媒としても用いることでフッ素化ノルボルネンの含有量を増大させることができたと推察される。