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特開2024-128627絶縁電線、コイル、回転電機及び電気・電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128627
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】絶縁電線、コイル、回転電機及び電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240913BHJP
   H02G 1/12 20060101ALI20240913BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20240913BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20240913BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H02G1/12 080
H02K3/34 Z
H02K15/12 D
H01F5/06 H
H01F5/06 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037704
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】原 奈摘子
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 恵一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】松本 諒也
(72)【発明者】
【氏名】菅 紗世
【テーマコード(参考)】
5G309
5G353
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5G309MA02
5G309MA03
5G309MA17
5G353BA03
5G353CA05
5H604AA08
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604DA21
5H604DA22
5H604PB01
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP12
5H615RR07
5H615SS33
5H615TT35
5H615TT39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁皮膜に遷移金属酸化物粒子等の異物を配合しない場合であっても、レーザー光照射による絶縁皮膜の剥離性に優れる絶縁電線、当該絶縁電線を用いたコイル、当該コイルを有する回転電機及び電気・電子機器、並びに当該回転電機及び電気・電子機器の製造方法を提供する。
【解決手段】導体10と、導体10の外周を覆う絶縁皮膜20と、を有する絶縁電線1であって、絶縁皮膜20が、導体10の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、絶縁皮膜20の厚さに対し、多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周を覆う絶縁皮膜とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、
前記絶縁皮膜の厚さに対し、前記多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、
前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である、絶縁電線。
【請求項2】
前記多層絶縁層の層数が25以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁皮膜の波長450nmに対する透過率が50%以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁皮膜がポリイミド及び/又はポリアミドイミドを含む、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁電線が、端部絶縁皮膜をレーザー剥離して用いるためのものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項5に記載の絶縁電線を用いたコイル。
【請求項7】
請求項6に記載のコイルを有する回転電機。
【請求項8】
請求項6に記載のコイルを有する電気・電子機器。
【請求項9】
導体の外周を覆う、レーザー剥離用絶縁皮膜であって、
前記絶縁皮膜が、導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、
前記絶縁皮膜の厚さに対し、前記多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、
前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である、レーザー剥離用絶縁皮膜。
【請求項10】
請求項5に記載の絶縁電線のセグメントの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記の端部絶縁皮膜が除去されたセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の絶縁電線のセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記のステータコアのスロットに組み込まれた前記セグメントコイルの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線、コイル、回転電機及び電気・電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター等の回転電機に用いられるコイルは、例えば、絶縁電線を短尺化(セグメント化)した後にヘアピン状に加工してセグメントコイルとし、このセグメントコイルをステータ(固定子)コアのスロットに差し込み、ステータコアから突出したセグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続して製造される。この溶接を行うためには、セグメントコイルの端部を覆う絶縁皮膜(端部絶縁皮膜)を除去して導体を露出させる必要がある。この端部皮膜の除去には、従来プレス加工などによって機械的に切削除去する方法が採用されてきた。しかし、この方法では、絶縁皮膜だけでなく導体部分の表層も削り取られてしまうため、導体断面積が減少してしまうという問題があった。また、金属導体の削り屑の処理を要したり、プレス加工に用いる金型に摩耗が生じたりして、製造効率面の問題も生じていた。
上記のような端部皮膜の機械的な除去方法に代えて、レーザー光を用いて端部皮膜を燃焼して除去する技術が提案されている。例えば特許文献1には、絶縁電線を絶縁電機子に巻付けた回転機器を製造するに当たり、この絶縁電線の絶縁皮膜にレーザー光を吸収して発熱する遷移金属酸化物の粒子を含有させることにより、当該絶縁電線の末端部分の絶縁皮膜をレーザー光照射により容易に除去できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-15907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の技術では、絶縁皮膜の形成に先立ち、比較的多量の遷移金属酸化物粒子を樹脂ワニス中に均一分散させたスラリーを調製する必要があり、作業効率の向上には制約がある。また、絶縁皮膜中に絶縁性樹脂とは異質な物性を示す遷移金属酸化物粒子を多量に含ませた場合、絶縁皮膜と導体との密着性や、絶縁皮膜を構成する層間の密着性が低下することも懸念される。
【0005】
本発明は、絶縁皮膜に上記の遷移金属酸化物粒子等の異物を配合しない場合であっても、レーザー光照射による絶縁皮膜の剥離性に優れる絶縁電線を提供することを課題とする。また、本発明は、この絶縁電線を用いたコイル、このコイルを有する回転電機及び電気・電子機器、並びにこれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は下記手段により解決される。
[1]
導体と、該導体の外周を覆う絶縁皮膜とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁皮膜が、導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、
前記絶縁皮膜の厚さに対し、前記多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、
前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である、絶縁電線。
[2]
前記多層絶縁層の層数が25以下である、前記[1]に記載の絶縁電線。
[3]
前記絶縁皮膜の波長450nmに対する透過率が50%以下である、前記[1]又は[2]に記載の絶縁電線。
[4]
前記絶縁皮膜がポリイミド及び/又はポリアミドイミドを含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の絶縁電線。
[5]
前記絶縁電線が、端部絶縁皮膜をレーザー剥離して用いるためのものである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の絶縁電線。
[6]
前記[1]~[5]のいずれかに記載の絶縁電線を用いたコイル。
[7]
前記[6]に記載のコイルを有する回転電機。
[8]
前記[6]に記載のコイルを有する電気・電子機器。
[9]
導体の外周を覆う、レーザー剥離用絶縁皮膜であって、
前記絶縁皮膜が、導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、
前記絶縁皮膜の厚さに対し、前記多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、
前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である、レーザー剥離用絶縁皮膜。
[10]
[1]~[5]のいずれかに記載の絶縁電線のセグメントの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記の端部絶縁皮膜が除去されたセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。
[11]
[1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁電線のセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記のステータコアのスロットに組み込まれた前記セグメントコイルの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の絶縁電線は、絶縁皮膜に上記の遷移金属酸化物粒子等の異物を配合しない場合であっても、レーザー光照射による絶縁皮膜の剥離性に優れる。したがって、本発明の絶縁電線を用いたコイル、回転電機ないし電気・電子機器は、それらの製造における絶縁電線同士の溶接に当たり、端部絶縁皮膜をレーザー光照射によって素早く除去することができ、製造効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の構成例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のコイルの製造工程を模式的に説明する説明図である。
図3】本発明の電気・電子機器に用いられるステータの好ましい形態を示す概略斜視図である。
図4】本発明の電気・電子機器に用いられるステータの好ましい形態を示す概略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明ないし本明細書において、単に「絶縁層」という場合、樹脂ワニスの塗布・焼付けを1回行って形成される層(エナメル層)を意味する。本発明では、同一の樹脂ワニスの塗布・焼付けを複数回繰り返して形成した絶縁層は複層の絶縁層(多層絶縁層)として捉える。つまり、樹脂ワニスが同一でも異なっていても、1回の塗布・焼付けで形成される層を絶縁層1層とカウントする。換言すれば、塗布・焼付けを繰り返したとき、当該繰り返し数と同じ数の絶縁層が積層された多層絶縁層が形成される。
本発明では、絶縁電線における絶縁皮膜は上記の通り、樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層を含むことを特定事項として有しているが、これは単に絶縁皮膜の状態を示す(すなわち、絶縁皮膜が特定のエナメル層を含むことを示す)ものであり、これにより絶縁皮膜の構造ないし特性を明らかにするものである。
本明細書では、絶縁電線の長手方向と直交する断面形状で、導体および絶縁皮膜を含めた絶縁電線の形状を、単に断面形状と称する場合がある。本発明における断面形状は、単に切断面のみが特定の形状をしているのでなく、絶縁電線全体の長手方向に、この断面形状が連続してつながっており、特段の断りがない限り、絶縁電線の長手方向のいずれの部分に対しても、この方向と直交する断面形状は実質的に同じであることを意味する。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、濃度の単位として記載する「ppm」は質量基準である。
【0010】
[絶縁電線]
本発明の絶縁電線は、導体と、該導体の外周を覆う絶縁皮膜とを有する。この絶縁皮膜は、樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層(多層エナメル層)である。
本発明の絶縁電線の断面形状は、導体と相似形であることが好ましく、なかでも、絶縁皮膜全体の形状、すなわち、絶縁皮膜の、導体とは反対側の最外面における断面形状が、導体と相似形であることが特に好ましい。なお、相似形とは完全な相似形に限定されるものではなく、略相似形であればよい。
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本発明は、本発明で規定すること以外は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、下記の図面を参照して説明する導体、絶縁皮膜、及び絶縁層の説明は、下記の図面に示された形態に限らず、本発明の構成ないし発明特定事項の説明として適用されるものである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線1の構成例を模式的に示す断面図である。絶縁電線1は、導体10と、導体10に接し、導体10の周面を被覆する絶縁皮膜20とを有する。図1において、導体10は長手方向と直交する断面形状が円形の導体である。絶縁皮膜20は、樹脂ワニスの塗布・焼付けにより形成される絶縁層21が複数積層した多層絶縁層である。なお、図1において、絶縁層21同士の境界の一部を省略して示している。
【0013】
本発明の絶縁電線1は、絶縁皮膜20の厚さに対する、絶縁皮膜20(多層絶縁層)を構成する各絶縁層21の厚さの平均が3.0%以上となるように制御されている。したがって、例えば絶縁皮膜20が、絶縁層a1、絶縁層a2、絶縁層a3、・・・、絶縁層a23、絶縁層a24、及び絶縁層a25からなる25層の多層絶縁層の場合には、絶縁層a1の厚さ、絶縁層a2の厚さ、絶縁層a3の厚さ、・・・、絶縁層a23の厚さ、絶縁層a24の厚さ、及び絶縁層a25の厚さの合計を、層数25で除した値が、各絶縁層21の厚さの平均となり、この平均値が、絶縁皮膜20の厚さに対して3.0%以上となる(100×当該平均値/絶縁皮膜の厚さ≧3.0となる)。すなわち、「絶縁皮膜(多層絶縁層)を構成する各絶縁層の厚さの平均」とは、各絶縁層の厚さを測定し、得られた各測定値の算術平均値として決定することができる。また、絶縁皮膜20の厚さを、絶縁皮膜20を構成する絶縁層21の層数で除することにより算出される値も、「絶縁皮膜(多層絶縁層)を構成する各絶縁層の厚さの平均」と実質的に同義である。なお、この絶縁層21の層数は、絶縁皮膜20の断面をエッジング後、光学顕微鏡またはマイクロスコープで観察することにより決定できる。
なお、絶縁皮膜20を構成する各絶縁層21の厚さ(一層あたりの厚さ)は、16点測定による。16点測定は、本分野では常用されている測定方法であって、具体的な測定方法は、国際公開第2013/073397号パンフレットに記載されている。
【0014】
また、本発明の絶縁電線1は、後述する方法で測定される絶縁層21間の層間密着力(すなわち多層絶縁層の層間密着力)が0.04N/mm以上となるように制御されている。
以下、本発明の絶縁電線1の好ましい形態を説明する。
【0015】
<導体>
本発明の絶縁電線に用いる導体としては、従来から絶縁電線の導体として用いられているものを使用することができる。例えば、銅線、アルミニウム線等の金属導体が挙げられる。
【0016】
本発明の絶縁電線で使用する導体の長手方向と直交する断面形状は特に限定されるものではない。例えば、円形または矩形(平角形状)の断面形状の導体が挙げられる。本発明では、断面形状が矩形の導体、すなわち平角導体が好ましい。断面形状が矩形の導体は、断面形状が円形の導体と比較し、ステータコアのスロットに対する占積率が高くなる。このため、一定の狭い空間に多くの絶縁電線を組み込むような用途に好ましい。
断面形状が矩形の導体は、コーナー部(角部)からの部分放電を抑制する点において、4隅にR面取り(曲率半径r)を設けた形状であることが好ましい。曲率半径rは、0.6mm以下が好ましく、0.2~0.4mmがより好ましい。
導体の大きさは、特に限定されないが、平角導体の場合、矩形の断面形状において、幅(長辺)は1.0~10.0mmが好ましく、1.0~5.0mmがより好ましく、1.4~4.0mmがさらに好ましく、厚み(短辺)は0.4~3.0mmが好ましく、0.5~2.5mmがより好ましい。幅(長辺)と厚み(短辺)の長さの比(厚み:幅)は、1:1~1:20が好ましく、1:1~1:4がより好ましい。一方、断面形状が円形の導体の場合、直径は0.3~3.0mmが好ましく、0.4~2.7mmがより好ましい。
【0017】
<絶縁皮膜>
本発明の絶縁電線おいて、前記絶縁皮膜は樹脂ワニスの塗布・焼付けにより形成される絶縁層が複数積層された多層絶縁層である。
前記絶縁皮膜の厚さ(多層絶縁層全体の厚さ)は、20μm以上200μm以下であることが好ましく、30μm以上170μm以下であることがより好ましく、40μm以上140μm以下であることがさらに好ましい。
【0018】
(絶縁層)
前記絶縁層は、絶縁性樹脂(絶縁性ポリマー)を含む樹脂ワニスを導体上に塗布し、焼き付けて形成したエナメル層である。このエナメル層の形成には、熱硬化性樹脂やポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂を硬化してなるエナメル層が好ましい。エナメル層の形成に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリウレタン、熱硬化性ポリエステル(PEst)、H種ポリエステル(HPE)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエステルイミド(PEsI)、メラミン樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、ポリイミド(PI)及び/又はポリアミドイミド(PAI)が好ましく、ポリイミド(PI)がより好ましい。
【0019】
前記ポリイミド(PI)の種類は特に限定されず、全芳香族ポリイミドまたは熱硬化性芳香族ポリイミドなど、絶縁皮膜の材料として通常のポリイミドを用いることができる。また、常法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸溶液を用い、焼付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得られるものを用いることができる。
商業的に入手可能なポリイミド(PI)としては、例えば、Uイミド(商品名、ユニチカ社製)、U-ワニス(商品名、宇部興産社製)等が挙げられる。
【0020】
-樹脂ワニス-
前記樹脂ワニスに含まれる樹脂としては、前述した樹脂を適用することができる。
前記樹脂ワニスに含まれる、樹脂をワニス化させるための有機溶媒(有機溶剤)としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、N,N-ジメチルエチレンウレア、N,N-ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-カプロラクトン等のラクトン系溶媒、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。中でも、樹脂との水素結合によるワニス安定性の観点から、前記有機溶剤は非プロトン性溶媒が好ましく、DMAc及び/又はNMPを含むことが好ましく、DMAc及び/又はNMPであることがより好ましい。
また上記有機溶剤等は、1種のみが単独で使用されていてもよく、2種以上が併用して使用されていてもよい。
【0021】
本発明の絶縁電線は、前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上となるように制御される。当該層間密着力は、例えば絶縁皮膜中(各絶縁層中)の残留溶剤量等を調整することによっても制御することができる。例えば、多層絶縁層の層間密着力を向上させる観点から、絶縁皮膜中の残留溶剤量は500~20000ppmであることが好ましく、1000~10000ppmであることがより好ましく、2000~5000ppmであることがさらに好ましい。
前記残留溶剤量は、例えば樹脂ワニスの溶剤種の変更や、樹脂ワニスを塗布後、焼付け条件を変更することにより目的の残留溶剤量となる絶縁皮膜を得ることができる。なお、当該残留溶剤量は常法により測定することができ、例えば絶縁電線から絶縁皮膜を剥離し、ガスクロマトグラフ(型式:GC-2010 Plus、島津社製、キャリアガス:窒素)を用いて測定することもできる。
【0022】
前記樹脂ワニスは、必要により、密着助剤、気泡形成用発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤およびエラストマーなどの各種添加剤を含有してもよい。また、前記樹脂ワニスは、特性に影響を及ぼさない範囲で、無機微粒子を含有してもよい。このような無機微粒子としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0023】
前記絶縁皮膜を形成するための前記樹脂ワニスの塗布・焼付けの繰り返し数は特に限定されず、本発明の規定を満たすように適宜設定することができる。なお、本発明において「塗布・焼付けの繰り返し数」とは、多層絶縁層の層数と同義である。例えば、塗布・焼付けの繰り返し数を10回以上とすることもでき、12回以上とすることもでき、15回以上とすることもできる。また、当該繰り返し数を35回以下とすることもでき、30回以下とすることもでき、25回以下とすることもできる。当該繰り返し数を好ましい範囲として示せば、10~35回であり、より好ましくは12~30回、さらに好ましくは15~25回である。
同様に、前記絶縁皮膜を構成する絶縁層の層数を、10以上とすることもでき、12以上とすることもでき、15以上とすることもできる。また、当該層数を35以下とすることもでき、30以下とすることもでき、25以下とすることもできる。当該層数を好ましい範囲として示せば、10~35であり、より好ましくは12~30、さらに好ましくは15~25である。
【0024】
前記絶縁皮膜を構成する各絶縁層の厚さの平均は、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることがさらに好ましい。また、当該厚さの平均は、7μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。当該厚さの平均を好ましい範囲として示すと、2~7μmであり、より好ましくは3~6μm、さらに好ましくは4~5μmである。
【0025】
また、前記絶縁皮膜を構成する各絶縁層の一層あたりの厚さは、1μm以上とすることができ、2μm以上であってもよく、3μm以上であってもよく、4μm以上であってもよい。また当該平均厚さは、10μm以下とすることができ、9μm以下であってもよく、8μm以下であってもよく、7μm以下であってもよく、6μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。当該平均厚さを好ましい範囲として示すと、1~10μmであり、より好ましくは2~9μm、さらに好ましくは2~8μm、さらに好ましくは3~7μm、さらに好ましくは3~6μm、さらに好ましくは4~5μmである。
【0026】
本発明の絶縁電線において、前記絶縁皮膜の厚さに対する、前記絶縁皮膜(多層絶縁層)を構成する各絶縁層の厚さの平均は、上記の通り3.0%以上であり、前記絶縁皮膜のレーザー剥離性をより向上させる観点から、3.5%以上であることがより好ましく、4.0%以上であることがさらに好ましい。また、前記絶縁皮膜の厚さに対する、前記絶縁皮膜を構成する各絶縁層の厚さの平均は、通常は10.0%以下であり、9.0%以下であってもよく、8.0%以下とすることもできる。
【0027】
また、本発明の絶縁電線において、前記多層絶縁層の層間密着力は、上記の通り0.04N/mm以上である。絶縁性の維持と被覆剥離性の両立の観点から、当該密着力は0.05~0.15N/mmであることが好ましく、0.06~0.12N/mmであることがより好ましく、0.07~0.10N/mmであることがさらに好ましく、0.08~0.10N/mmであることがさらに好ましい。
なお、当該層間密着力は、例えば実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
本発明の絶縁電線は、端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去して用いるためのものであることが好ましい。例えば、絶縁電線の端部同士を溶接して電気的に接続するに当たり、端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去して用いるためのものであることが好ましい。換言すると、本発明の一側面によれば次のレーザー剥離用絶縁皮膜が提供される。
【0029】
導体の外周を覆う、レーザー剥離用絶縁皮膜であって、
前記絶縁皮膜が、導体の外周に樹脂ワニスの塗布・焼付けを繰り返して形成された多層絶縁層であり、
前記絶縁皮膜の厚さに対し、前記多層絶縁層を構成する各絶縁層の厚さの平均が3.0%以上であり、
前記多層絶縁層の層間密着力が0.04N/mm以上である、レーザー剥離用絶縁皮膜。
【0030】
また、前記絶縁皮膜がレーザー光のエネルギーを効率よく吸収し、レーザー剥離性をより向上させる観点から、前記絶縁皮膜の波長450nmに対する透過率(T450、%)が60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、13%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
前記波長450nmに対する透過率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
[絶縁電線の製造方法]
本発明の絶縁電線は、導体の外周に、樹脂ワニスを塗布して焼付ける操作を複数回繰り返す塗布・焼付け工程により多層絶縁層を形成して得ることができる。なお、塗布・焼付けに用いる樹脂ワニスは、全ての絶縁層に同一の樹脂ワニスを用いてもよく、絶縁層ごとに異なる種類の樹脂ワニスを用いることもできる。当該樹脂ワニスとしては、上記で説明した樹脂ワニスを用いることができる。
【0032】
前記樹脂ワニスを導体上に塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法や、導体断面形状が矩形である場合、井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いることができる。
【0033】
前記樹脂ワニスを塗布した導体は、常法にて、焼付炉で焼付けされる。具体的な焼付け条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ10mの自然対流式の竪型炉であれば、炉内温度400~650℃にて通過時間を10~90秒に設定することにより、達成することができる。
なお、本発明の絶縁電線の絶縁皮膜が樹脂としてポリイミド及び/又はポリアミドイミドを含む場合、当該樹脂のイミド化率が高いほど前記波長450nmにおける透過率が減少する。そのため、前記樹脂のイミド化率がある程度高くなるように、焼付け条件を適宜設定することができる。また、多層絶縁層の層間密着力が低下しないように、絶縁皮膜に含まれる残留溶剤量が上記で説明した好ましい範囲内となるように、焼付け条件を適宜設定することもできる。
【0034】
[コイル、回転電機および電気・電子機器]
本発明の絶縁電線は、コイルとして、回転電機、各種電気・電子機器など、電気特性(耐電圧性)と耐熱性を必要とする分野に利用可能である。例えば、本発明の絶縁電線はモーターやトランス等に用いられ、高性能の回転電機、電気・電子機器を構成できる。特にハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の駆動モーター用の巻線として好適に用いられる。
【0035】
[コイル]
本発明のコイルは、本発明の絶縁電線をコイル加工して形成したもの、本発明の絶縁電線を曲げ加工した後に所定の部分を電気的に接続してなるもの等が挙げられる。
本発明の絶縁電線をコイル加工して形成したコイルとしては、特に限定されず、長尺の絶縁電線を螺旋状に巻き回したものが挙げられる。このようなコイルにおいて、絶縁電線の巻線数等は特に限定されない。通常、絶縁電線を巻き回す際には鉄芯等が用いられる。
本発明の絶縁電線を曲げ加工した後に所定の部分を電気的に接続してなるものとしては、回転電機等のステータに用いられるコイルが挙げられる。このようなコイルは、例えば、図2に示されるように、本発明の絶縁電線1を所定の長さに切断して短尺化(セグメント化)し、得られたセグメントの絶縁皮膜20(端部絶縁被膜)をレーザー光照射により燃焼(熱分解)して除去し、導体10を露出させ(導体露出部34b)、U字形状等に曲げ加工して複数のセグメントコイル(セグメントコンダクター)34とした後に、各セグメントコイル34のU字形状等の2つの開放端部(末端)34aの導体露出部34bを溶接して互い違いとなるように電気的に接続して得られたコイルが挙げられる。なお、前記レーザー光照射による端部絶縁皮膜の除去は、図2に示されるように絶縁電線1を短尺化した後に行うこともでき、また絶縁電線1をセグメントコイル34としてステータコア31のスロット32に組み込んだ後に行うこともできる。
【0036】
レーザー光照射による端部絶縁皮膜の除去方法については、例えば、特開平6-38330号公報、特開2001-309521号公報、及び特開2005-285755公報に開示されている。前記レーザー光照射による端部絶縁皮膜の除去は、レーザー装置により行われてもよい。このレーザー装置は、例えば、レーザー発振器を有し、数kWのパワーのレーザー光を出力可能に構成されてもよい。あるいは、例えば、内部に複数の半導体レーザー素子を有し、当該複数の半導体レーザー素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザー光を出力可能に構成されてもよい。なお、前記レーザー光の波長は800~1200nmとすることもでき、1000~1200nmとすることもできる。
また、上記レーザー装置は、ファイバレーザー、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザー、及びディスクレーザー等の種々のレーザー光源を有してもよい。上記レーザー装置はレーザー光の連続波を出力してもよいし、レーザー光のパルスを出力してもよい。
【0037】
本発明の絶縁電線は上記の通り、絶縁皮膜の厚さに対する各絶縁層の厚さの平均が特定の値以下となるように制御されており、かつ多層絶縁層の層間密着力が特定の値以上となるように制御されている。これにより、レーザー光照射による絶縁皮膜の除去を、短時間に、十分に行うことが可能となる。また、これまでの機械的な切削方法において問題となっていた、導体の表層が過剰に削り取られることによる導体断面積の減少が抑制される。また、導体の削り屑が生じず、また、プレス加工に用いる金型に摩耗を懸念する必要もなくなる。したがって、本発明の絶縁電線を用いたコイル、回転電機ないし電気・電子機器の性能、製造効率を効果的に高めることが可能となる。
【0038】
[回転電機、電気・電子機器]
本発明のコイルを有する電気・電子機器としては、特に限定されない。このような電気・電子機器の好ましい一態様として、トランスが挙げられる。また、例えば、図3に示されるステータ30を備えた回転電機(特にHV及びEVの駆動モーター)が挙げられる。この回転電機は、ステータ30を備えていること以外は、従来の回転電機と同様の構成とすることができる。
ステータ30は、セグメントコイル34が本発明の絶縁電線で形成されていること以外は従来のステータと同様の構成とすることができる。すなわち、ステータ30は、ステータコア31と、例えば図4に示されるように本発明の絶縁電線からなるセグメントコイル34がステータコア31のスロット32に組み込まれ、開放端部34aが電気的に接続されてなるコイル33とを有している。ここで、セグメントコイル34は、スロット32に1本で組み込まれてもよいが、好ましくは図4に示されるように2本1組として組み込まれる。このステータ30は、上記のように曲げ加工したセグメントコイル34を、その2つの末端である開放端部34aを互い違いに接続してなるコイル33が、ステータコア31のスロット32に収納されている。このとき、セグメントコイル34の開放端部34aを接続してからスロット32に収納してもよく、また、セグメントコイル34をスロット32に収納した後に、セグメントコイル34の開放端部34aを折り曲げ加工して接続してもよい。
【0039】
[回転電機、電気・電子機器の製造方法]
上記の実施形態に関し、本発明はさらに以下の回転電機、電気・電子機器の製造方法を提供するものである。
【0040】
本発明の絶縁電線のセグメントの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記の端部絶縁皮膜が除去されたセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。
【0041】
本発明の絶縁電線のセグメントをコイル状に加工してセグメントコイルとし、ステータコアのスロットに組み込む工程と、
前記のステータコアのスロットに組み込まれた前記セグメントコイルの端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去する工程と、
前記セグメントコイルの端部同士を溶接して電気的に接続する工程と
を含む、回転電機、電気・電子機器の製造方法。
【実施例0042】
本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[絶縁電線の作製]
<実施例1>
導体として、断面円形(断面の外径1mm)の導体(酸素含有量15ppmの銅)を用いた。
導体に接する最も内側の絶縁層の断面の外形の形状が導体断面形状と相似形となるダイスを使用して、各絶縁層の厚さ(乾燥後の厚さ)の平均が下記表1に記載の厚さとなるように、ポリイミド樹脂ワニス(商品名:Uイミド、ユニチカ社製)を導体の表面に塗布し、520℃に設定した炉長10mの焼付け炉内を通過時間10~20秒となる速度で通過させた。この塗布・焼付けを計25回行い、25層のポリイミド絶縁層からなる絶縁皮膜(厚さ:100μm)を形成した。このようにして実施例1の絶縁電線を得た。なお、各絶縁層の一層あたりの厚さは、いずれも同じ厚さであった。
【0044】
<実施例2~5、比較例1~4>
絶縁皮膜の厚さ、各絶縁層の厚さの平均、絶縁層の層数、及び焼付炉の通過時間を下記表1に記載の条件とした以外は、実施例1と同様にして実施例2~5及び比較例1~4の絶縁電線を得た。
【0045】
[評価方法]
得られた実施例1~5及び比較例1~4の絶縁電線について、絶縁皮膜の物性及び性状を、下記試験により評価した。結果を下記表1に併せて示す。
【0046】
<透過率の測定>
上記実施例1~5及び比較例1~4の各絶縁電線から絶縁皮膜を剥離し、当該絶縁皮膜に対する波長450nmの光の透過率(T450、%)を、紫外可視近赤外分光光度計(型番:V-630、日本分光社製)を用いて測定した。なお、測定した波長範囲は200~800nm、測定方法は透過法、光源切替は340nmとした。
【0047】
<層間密着力の測定>
層間密着力の測定は、日本工業規格:JIS Z 0237(2009)に一部準拠して行った。
上記で製造した絶縁電線に対して、カッターを使用し、絶縁電線の一端から長手方向に、1mm幅で2本、長さ50mm以上の切れ込み(2本の切れ込み)を入れた。なお、この切れ込みの深さは、カッターの刃が入り込む深さをマイクロメータで制御することにより、絶縁皮膜表面から絶縁皮膜の厚さの半分までの位置とし、切れ込みが導体まで到達しないようにした。絶縁電線の上記一端において、絶縁皮膜表面から切れ込み深さまでの厚さの絶縁皮膜を、切れ込み幅1mm分だけ剥がし、引張試験機(株式会社島津製作所製、装置名「オートグラフAGS-J」)を用いて、4mm/分の速度で切れ込みに沿って長手方向に180°剥離試験を実施した。50mmの長さのピール強度の平均値(凹凸平均値)を密着強度(層間密着力)とした。
【0048】
<レーザー剥離試験>
実施例及び比較例に係る絶縁電線を長さ70mmのセグメントとし、その端部を被覆する絶縁皮膜を波長1070nmの赤外レーザー光(出力:300W、速度:1500mm/s)を照射することにより除去した。絶縁電線の末端から10mmまでの間の絶縁皮膜が完全に除去されるまでの所要時間を測定した。
【0049】
【表1】
【0050】
絶縁皮膜の厚さに対する絶縁層の厚さの平均の比の値([B]/[A]×100)が3.0%未満である比較例1及び2の絶縁電線は、当該絶縁電線の端部絶縁皮膜をレーザー光照射により除去するのに1.0秒以上の時間を要し、また絶縁層間の層間密着力にも劣っていた。また、比較例3の絶縁電線は、前記比の値が3.0%以上であるものの、絶縁層間の層間密着力(絶縁層全体の一体性)に劣り、結果としてレーザー剥離性に劣っていた。さらに、比較例4の絶縁電線は絶縁層間の層間密着力に優れるものの、前記比の値が3.0%未満であり、レーザー剥離性に劣っていた。
これに対し、実施例1~5の絶縁電線は、いずれも前記比の値が3.0%以上であり、絶縁層間の層間密着力にも優れ、結果、レーザー剥離性に優れていた(レーザー光照射による絶縁皮膜の剥離時間が短かった)。
【符号の説明】
【0051】
1 絶縁電線
10 導体
20 絶縁皮膜
21 絶縁層
30 ステータ
31 ステータコア
32 スロット
33 コイル
34 セグメントコイル
34a 開放端部
34b 導体露出部
35 樹脂キャップ

図1
図2
図3
図4