IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 古河マグネットワイヤ株式会社の特許一覧

特開2024-128628撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス
<>
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図1
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図2
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図3
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図4
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図5
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図6
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図7
  • 特開-撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128628
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】撚り線、絶縁電線、コイル及びトランス
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/00 20060101AFI20240913BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240913BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240913BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
H01F5/00 F
H01F5/06 H
H01F27/28 123
H01F30/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037705
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】折戸 博
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AB05
5E043AB09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高周波電流の通電時の交流抵抗をより小さくすることができ、結果、コイルないしトランスの損失をより抑えることができる撚り線、この撚り線を用いた絶縁電線及びこれらの撚り線又は絶縁電線を用いたコイル及びこのコイルを有するトランスを提供する。
【解決手段】導体と該導体周囲を覆う被覆層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線10Aであって、その断面において、最も外側に位置する素線1の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線1aの数の割合が80%以上であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が25%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体周囲を覆う被覆層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線であって、
前記撚り線の断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が80%以上であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が25%以下である、撚り線。
【請求項2】
前記の被覆層に磁性体層を有する素線における該磁性体層の厚さが、磁性体材料の表皮深さの0.005~0.3倍である、請求項1に記載の撚り線。
【請求項3】
前記磁性体がニッケル、ニッケル合金、鉄又は鉄合金である、請求項1に記載の撚り線。
【請求項4】
20kHz~3MHzの高周波電流を通電するために用いる、請求項1に記載の撚り線。
【請求項5】
請求項1に記載の撚り線と、該撚り線の周囲を覆う撚り線絶縁層とを有する、絶縁電線。
【請求項6】
請求項2に記載の撚り線と、該撚り線の周囲を覆う撚り線絶縁層とを有する、絶縁電線。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の撚り線、又は請求項5又は6に記載の絶縁電線を用いたコイル。
【請求項8】
請求項7に記載のコイルを有するトランス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚り線、絶縁電線、コイル及びトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器においては、通常、インバータとトランス(変圧器)とを備えたスイッチング電源が用いられる。例えば、日本における商用電源は、50Hz又は60Hzの低周波電源である。このような低周波電源の周波数を変更せずに変圧する場合、所要の出力を得るために大型トランスが必要になる。そこで、トランスでの変圧前に、スイッチング素子を用いて、商用電源の周波数を数十kHz以上に高周波化することで、実用的なサイズにまで小型化したスイッチング電源が汎用される。
スイッチング電源に搭載されるトランスは、高周波数の交流電圧を変圧する場合には、表皮効果による抵抗の上昇が生じ、コイルによる伝送損失(導体損失)が大きくなる。この伝送損失を抑えるために、高周波で使用されるトランスは一般に、周波数によって決まる表皮深さよりも小さな導体半径の素線を撚り合わせ、この撚り線が芯に巻回されたコイルを備えている。
【0003】
近年、スイッチング電源のさらなる小型化の要請があり、これに応えるためにスイッチング素子による更なる高周波化が進展しつつある。したがって、高周波トランスに用いられる撚り線には、コイルとしたときに、高周波電流の通電時の交流抵抗がより小さく、これによりコイルないしはトランスの伝送損失をより低減できる性能が求められる。この伝送損失の低減には、撚り線の素線径を細くし、素線数を増やすことが効果的である。素線径を細くすると、通電時の表皮効果を抑えられ、また、撚り合わせる素線数を多くすれば撚り線全体として導体断面積も確保できる。しかし、素線の細径化には限界がある。また、交流抵抗に対して表皮効果よりも近接効果が支配的になる線径においては、細径化しても、交流抵抗を十分に低減することができない問題がある。
【0004】
上記の問題に対処する技術が提案されている。例えば特許文献1には、銅線の線径が0.05~0.5mmの素線を複数本撚り合わせてなる撚り線と、前記複数の素線を被覆する押出被覆層とを有する巻線(絶縁電線)であって、前記素線の少なくとも1本が前記銅線の外周に磁性体層を有し、前記押出被覆層の厚みが40~400μmである巻線が記載されている。特許文献1記載の技術によれば、銅線の線径と押出被覆層の厚みとを上記特定の範囲に設定した巻線において、撚り線が磁性素線を含んでいることにより、この巻線をコイルとしたときに近傍に存在する他の銅線又は巻線への磁束の侵入を抑制でき、渦電流の発生を抑制でき、その結果、直流抵抗増大と、表皮効果及び近接効果による交流抵抗増大とをバランスよく抑制でき、交流抵抗の低減が可能になるとされる。特許文献1には、上記の目的を達成した具体的な巻線の形態として、磁性焼付被覆素線を中心として、その周囲に同じ磁性焼付被覆素線6本を配置した撚り線を作製し、この撚り線の周囲に押出被覆層を形成した巻線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-195350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高周波電流の通電時の交流抵抗をより小さくすることができ、結果、コイルないしトランスの損失をより抑えることができる撚り線、この撚り線を用いた絶縁電線、これらの撚り線又は絶縁電線を用いたコイル、及びこのコイルを有するトランスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
〔1〕
導体と該導体周囲を覆う被覆層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線であって、
前記撚り線の断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が80%以上であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が25%以下である、撚り線。
〔2〕
前記の被覆層に磁性体層を有する素線における該磁性体層の厚さが、磁性体材料の表皮深さの0.005~0.3倍である、〔1〕に記載の撚り線。
〔3〕
前記磁性体がニッケル、ニッケル合金、鉄又は鉄合金である、〔1〕又は〔2〕に記載の撚り線。
〔4〕
20kHz~3MHzの高周波電流を通電するために用いる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の撚り線。
〔5〕
〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の撚り線と、該撚り線の周囲を覆う撚り線絶縁層とを有する、絶縁電線。
〔6〕
〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の撚り線、又は〔5〕に記載の絶縁電線を用いたコイル。
〔7〕
〔6〕に記載のコイルを有するトランス。
【0008】
本発明及び本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の撚り線ないし絶縁電線は、高周波電流の通電時の交流抵抗をより小さくすることができ、結果、コイルないしトランスの伝送損失をより抑えることができる。また、本発明のコイル及びトランスは、高周波電流の通電時の交流抵抗をより小さくすることができ、結果、伝送損失をより抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の撚り線の好ましい一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の撚り線の別の好ましい一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の撚り線のさらに別の好ましい一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の撚り線のさらに別の好ましい一例を示す概略断面図である。
図5】本発明の撚り線のさらに別の好ましい一例を示す概略断面図である。
図6】比較例1の撚り線を示す概略断面図である。
図7】比較例2の撚り線を示す概略断面図である。
図8】比較例3の撚り線を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の撚り線は、導体(素線導体)と、当該導体を覆う被覆層とを有する素線が複数本撚り合わされた撚り線である。上記「被覆層」は、エナメル層(樹脂ワニスの塗布・焼付けにより形成される絶縁層)、又は、磁性体層とエナメル層との積層体である。「被覆層」が磁性体層とエナメル層との積層体である場合、素線導体側に磁性体層が配される。ここで、「磁性体層」は通常、導体としても機能するものであるが、本発明では、発明の理解を容易にするために、便宜上、「磁性体層」を「導体」の周囲を覆う「被覆層」の構成の一部として位置付けている。したがって、本発明において「被覆層に磁性体層を含む素線」とは、磁性体層を導体の一部として把握すれば、「表面に磁性体層を有する導体と該導体周囲を覆うエナメル層からなる素線」と同義である。
本発明の撚り線は、撚り線の断面(撚り線の長手方向に垂直な断面)において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合(「割合a」ともいう)が80%以上であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合(「割合b」ともいう)が25%以下である。割合aは80~100%が好ましく、82~100%がより好ましい。また、割合bは0~25%が好ましく、0~22%がより好ましく、0~20%がさらに好ましい。
本発明の撚り線は、そのままコイルの巻き線として用いることができる。また、本発明の撚り線は、その周囲に絶縁層(撚り線絶縁層)が形成された絶縁電線(本発明の絶縁電線)として、コイルの巻き線として用いることもできる。例えば、本発明の撚り線又は絶縁電線を、ボビンの周りに巻回してコイルないしトランスを作製することができる。本発明の撚り線の周囲に形成する絶縁層は、通常は押出被覆層である。
【0012】
本発明の撚り線の好ましい形態の一例を、図面を参照して説明する。各図面は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの実施形態に限定されない。図面において、素線導体の被覆層の輪郭形状を輪環状に図示したが、この被覆層は、撚り線の間隙を充填していてもよい。本発明において、素線の輪郭形状は、本発明の効果を損なわない範囲で、円形に限定されない。
【0013】
[撚り線]
本発明の好ましい撚り線10Aは、図1に示されるように、素線を37本撚り合わせてなる。撚り線10Aは、その断面において、最も外側に位置する素線1のすべてが、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有している。他方、撚り線10Aは、その断面において、最も外側に位置する素線1以外の素線2のすべてが、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有している。したがって、撚り線10Aは、その断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が100%であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が0%である。
【0014】
本発明において、撚り線の断面において「最も外側に位置する素線」とは、撚り線の外接円の円周上のすべての点を出発点として、当該外接円の中心まで直線を引いたとき、当該直線が最初にぶつかる素線を意味する。換言すれば、当該外接円の円周上のすべての点から当該外接円の中心に向けて、直線光を照射すると仮定したとき、当該直線光によって直接照らされる素線を意味する。なお、当該外接円に接する素線は、最も外側に位置する素線である。
したがって、撚り線の断面において「最も外側に位置する素線の数X」とは、撚り線の外接円の円周上のすべての点を出発点として、当該外接円の中心まで直線を引いたとき、当該直線が最初にぶつかる素線の総数を意味する。
ここで、撚り線断面において、隣り合う2本の素線同士の間に、上記直線(直線光)が通過する隙間があるとき、当該隙間を形成する隣り合う2本の素線の断面において、各素線断面の最大径(素線断面の周囲上のある点から別の点までの距離が最大になる当該距離を意味する。素線断面が真円であれば最大径は直径である。)の算術平均値を算出し、当該隙間の端から端までの最短距離が、この算術平均値の20%以下の場合(当該隙間が、{[当該算術平均値]×20/100}以下の場合)には、上記直線(直線光)は当該隙間を通過しないものとする。すなわち、当該隙間を直線(直線光)が通過すれば、通過した当該直線(直線光)が最初にぶつかる素線は、最も外側に位置する素線となるところ、本発明では、このような隙間を通過した直線(直線光)がぶつかる素線は、最も外側に位置する素線ではないものとする。
上述した図1に示す撚り線1Aは最密充填構造を採るため、隣り合う素線同士の間に隙間は存在しない。したがって、直線(直線光)が通過し得る隙間の存在を考慮する必要はなく、「最も外側に位置する素線の数X」は18本であり、「最も外側に位置する素線以外の素線の数Y」は19本である。
【0015】
本発明の好ましい撚り線10Bは、図2に示されるように、素線を19本撚り合わせてなる。撚り線10Bは、その断面において、最も外側に位置する素線1のすべてが、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有している。他方、撚り線10Bは、その断面において、最も外側に位置する素線1以外の素線2のすべてが、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有している。したがって、撚り線10Bは、その断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が100%であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が0%である。
図2に示す撚り線1Bは最密充填構造を採るため、隣り合う素線同士の間に隙間は存在しない。したがって、直線(直線光)が通過し得る隙間の存在を考慮する必要はなく、「最も外側に位置する素線の数X」は12本であり、「最も外側に位置する素線以外の素線の数Y」は7本である。
【0016】
本発明の好ましい撚り線10Cは、図3に示されるように、素線を69本撚り合わせてなる。撚り線10Cは、その断面において、最も外側に位置する素線1の29本のうち、25本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有しており(1a)、4本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有している(1b)。他方、撚り線10Cは、その断面において、最も外側に位置する素線1以外の素線2の40本のうち、39本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有しており(2a)、1本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有している(2b)。したがって、撚り線10Cは、その断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が86%であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が2.5%である。
ここで、図3に示す撚り線10Cは、隣り合う素線同士の間に、上記直線(直線光)が通過する隙間が存在する部分があり、かつ、当該隙間は、上述した各素線断面の最大径の算術平均値の20%を越えている(図3の隙間I、隙間II)。したがって、「最も外側に位置する素線の数X」の決定に当たり、直線(直線光)(図3中の一点破線で示した直線)が通過する隙間I及び隙間IIの存在を考慮すると、「最も外側に位置する素線の数X」は1aと1bの合計29本であり、「最も外側に位置する素線以外の素線の数Y」は2aと2bの合計40本である。
【0017】
本発明の好ましい撚り線10Dは、図4に示されるように、素線を37本撚り合わせてなる。撚り線10Dは、その断面において、最も外側に位置する素線1の18本のうち、15本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有しており(1a)、3本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有している(1b)。他方、撚り線10Dは、その断面において、最も外側に位置する素線以外の素線2の19本のうち、16本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有しており(2a)、3本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有している(2b)。したがって、撚り線10Dは、その断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が83%であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が16%である。
図4に示す撚り線10Dは最密充填構造を採るため、隣り合う素線同士の間に隙間は存在しない。したがって、直線(直線光)が通過し得る隙間の存在を考慮する必要はなく、「最も外側に位置する素線の数X」は18本であり、「最も外側に位置する素線以外の素線の数Y」は19本である。
【0018】
本発明の好ましい撚り線10Eは、図5に示されるように、素線を69本撚り合わせてなる。撚り線10Eは、その断面において、最も外側に位置する素線1の28本のうち、23本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有しており(1a)、5本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有している(1b)。他方、撚り線10Eは、その断面において、最も外側に位置する素線以外の素線2の41本のうち、32本が、エナメル層からなる被覆層(磁性体層を有しない被覆層)を、素線導体の周囲に有しており(2a)、9本が、磁性体層とエナメル層との積層体からなる被覆層を、素線導体の周囲に有している(2b)。したがって、撚り線10Eは、その断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が82%であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が22%である。
図5に示す撚り線10Eは、隣り合う素線同士の間に上記直線(直線光)が通過する隙間が存在する部分があるが、当該隙間はいずれも、上述した各素線断面の最大径の算術平均値の20%以下である。したがって、直線(直線光)が通過し得る隙間の存在を考慮する必要はなく、「最も外側に位置する素線の数X」は28本であり、「最も外側に位置する素線以外の素線の数Y」は41本である。
【0019】
本発明の撚り線は、素線の整列性を考えると、1本の中心素線(心線)の周囲に複数の素線(側線)を撚り合わせた構造が好ましい。
撚り合わせる素線数は7本以上が好ましく、交流抵抗と実用的な加工性を考えると100本以下が好ましい。撚り合わせる素線数は、より好ましくは7~100本であり、さらに好ましくは7~80本であり、特に好ましくは19~69本である。
素線を撚り合わせる際の、素線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、目的、用途等に応じて、適宜に設定できる。典型的には、撚り線を構成する各素線が互いに接するように最密充填状に配されることが好ましい。ここで、「最密充填状」とは、例えば図1に示すように、すべての素線を、隣り合う素線の素線導体間の距離が、被覆層の厚さの2倍となるように配することを意味する。換言すれば、隣り合う素線の素線導体間の距離が、被覆層の厚さによって確定されることを意味する。
【0020】
本発明の撚り線の導体断面積率は、被覆層の厚みが厚くなることでコイルないしトランスが大型化することを抑制する観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。上記の導体断面積率とは、撚り線の断面形状(平面視)において、撚り線に外接する外接円(図面の外接円C)の面積(S1)に対する、各導体の断面積の合計値(S2)の百分率((S2/S1)×100)である。
【0021】
(素線)
本発明の撚り線を構成する素線は、導体(素線導体)と、この導体周囲を覆う被覆層とを有する。被覆層の構成は上述の通り、エナメル層からなる場合と、磁性体層とエナメル層からなる積層構造の場合がある。当該素線を用いて撚り線とする際には、前記撚り線の断面において、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が80%以上であり、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が25%以下となるようにする。
【0022】
素線導体としては、従来、コイル用等の巻線で用いられているものを広く使用することができる。例えば、銅線、アルミニウム線等の金属導体が挙げられる。
上記素線導体の断面の直径(素線導体の断面が円形でない場合には円相当直径)は、例えば、0.03~0.50mmとすることができ、0.05~0.45mmとすることがより好ましく、0.05~0.40mmとすることがさらに好ましく、0.05~0.35mmとすることがさらに好ましい。
【0023】
-エナメル層-
素線導体の周囲を覆うエナメル層は、樹脂ワニスを素線導体の周囲に塗布、焼付けして形成される素線絶縁層である。このエナメル層は熱可塑性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層でもよく、熱硬化性樹脂層であることが好ましい。エナメル層の形成に用いる樹脂は特に限定されない。例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリエステルイミド(PEsI)などのイミド結合を有する熱硬化性樹脂、ポリウレタン(PU)、熱硬化性ポリエステル(PEst)、H種ポリエステル(HPE)、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル、ポリヒダントイン、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記エナメル層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0025】
上記エナメル層の厚みは、素線導体径との関係で適宜に調整される。例えば、2.0~10.0μmとすることができ、3.0~8.0μmとすることが好ましい。上記エナメル層の厚みは、素線断面において、エナメル層について無作為に20箇所の厚さ(素線導体の表面とエナメル層の素線導体とは反対側の表面との最短距離)を測定し、20個の測定値の相加平均とする。なお、撚り線絶縁層の厚さも同様にして決定することができる。
【0026】
上記エナメル層の形成方法は、通常の方法を適用することができる。例えば、導体等の外周に、熱硬化性樹脂等の樹脂成分のワニスを塗布して焼付けする方法が好ましい。塗布・焼付けの繰り返し数によってエナメル層の厚さを調整することができる。このワニスは樹脂成分と、溶媒と、必要により、樹脂成分の硬化剤又は各種の添加剤とを含有する。溶媒は、有機溶媒が好ましく、樹脂成分を溶解又は分散できるものが適宜に選択される。
ワニスの塗布方法は、通常の方法を選択することができ、例えば、導体の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有するワニス塗布用ダイスを用いる方法等が挙げられる。ワニスの焼付けは、通常、焼付炉で行われる。このときの条件は、樹脂成分又は溶媒の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、炉内温度400~650℃にて通過時間を10~90秒の条件が挙げられる。
【0027】
-磁性体層-
磁性体層は、磁性体材料からなる層である。磁性体材料としては、強磁性を有する物質であればよく、例えば、ニッケル、ニッケル合金(例えば、Ni-Fe合金)、鉄、鉄合金(電磁軟鉄、ケイ素鋼等)、パーマロイ合金、フェライト化合物(Mn-Znフェライト等)が挙げられる。磁性体材料としては、電気めっきに適したものが好ましく、例えば、ニッケル、ニッケル合金、鉄又は鉄合金がより好ましい。
磁性体層は、例えば、電気めっきで形成することができる。めっき液及びめっき条件は特に限定されない。本発明において「被覆層に磁性体層を含む素線」は、素線導体の周囲に磁性体層を形成した磁性素線を作製し、この磁性素線の周囲に上記エナメル層を形成して得ることができる。
【0028】
上記磁性体層は、その厚さが、磁性体材料の表皮深さの0.005~0.3倍であることが好ましい。このような厚さに制御することによって、交流抵抗をより効果的に抑え得ることができる。
磁性体材料の「表皮深さ」とは、電流密度が表面の1/e(約0.37倍)となる表面からの深さを意味し、次式で表される。
δ=√(ρ/(π・f・μ0・μr))
δ:表皮深さ [m]
ρ:抵抗率 [Ω・m]
f:周波数 [Hz]
μ0:真空の透磁率 [H/m]
μr:比透磁率 [-]
【0029】
本発明の撚り線は、20kHz~3MHz、より好ましくは50kHz~2.5MHz、さらに好ましくは100kHz~2.5MHz、さらに好ましくは200kHz~2.3MHzの高周波電流を通電するために用いる絶縁電線ないしその構成要素として好適である。
【0030】
[絶縁電線]
本発明の絶縁電線は、本発明の撚り線と、該撚り線の周囲を覆う撚り線絶縁層とを有する。撚り線絶縁層は、本発明の撚り線を被覆する絶縁層であればよく、樹脂成分として後述する熱可塑性樹脂を含有する層が好ましい。撚り線絶縁層の厚さは特に限定されず、例えば、50~300μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。
撚り線絶縁層は、撚り線を被覆することができれば、撚り線の被覆態様等は特に限定されない。この絶縁層は、例えば、押出成形(押出被覆)することにより形成された層(押出被覆層)とすることができる。
【0031】
撚り線絶縁層は、単層でもよく、2層以上の積層構造とすることもできる。撚り線絶縁層は、好ましくは3層以上、より好ましくは3~5層の積層構造とすることができる。3層以上の積層構造とすると、コイルやトランス等を構成する巻線として用いたときに、絶縁電線の十分な沿面距離を確保できるので、通常、絶縁性を確保するために用いられる絶縁テープを省略することができる。これにより、コイルないしトランスの小型化にも効果的である。
撚り線絶縁層が積層構造を有する場合、各層の厚さは特に限定されない。例えば、各層の厚さは、10~100μmが好ましく、15~50μmがより好ましい。各層の厚さは同じでもよく、それぞれが異なっていてもよい。
【0032】
撚り線絶縁層は、樹脂成分として、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する。熱可塑性樹脂としては、絶縁電線の絶縁層として通常用いられる熱可塑性樹脂であれば特に限定されることなく用いることができる。熱可塑性樹脂は結晶性であってもよく、非晶性であってもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA、ナイロン)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE、変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、又は超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチック;
ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、変性PEEKを含む)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、熱可塑性ポリアミドイミド(TPAI)、又は液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック;
ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートをベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、又はポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の上記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイ;が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種又は2種以上含有していてもよい。
【0033】
撚り線絶縁層が積層構造を有する場合、各層に含まれる樹脂成分は、互いに、同じでも異なるものでもよい。
【0034】
撚り線絶縁層は、電線で通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。この場合、添加剤の含有量としては、特に限定されないが、樹脂成分100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0035】
撚り線絶縁層は、撚り線の外周に、熱可塑性樹脂をベースとして含有する樹脂組成物を押出成形することにより、形成することが好ましい。樹脂組成物は、上述の樹脂成分と、必要により各種の添加剤とを含有する。押出方法は、樹脂成分の種類等に応じて一義的に決定できないが、例えば、撚り線の断面形状と相似形若しくは略相似形の開口を有する押出ダイスを用いて、樹脂成分の溶融温度以上の温度で押出す方法が挙げられる。
撚り線絶縁層は、押出成形に限定されず、上述の熱可塑性樹脂と溶媒等と必要により各種の添加剤とを含有するワニスを用いて、上記エナメル層と同様にして塗布、焼付けにより形成することもできる。
【0036】
[コイル及びトランス]
<コイル>
本発明のコイルは、上述の、本発明の撚り線又は本発明の絶縁電線を用いたものである。具体的には、例えば、強磁性若しくはフェリ磁性の素材からなる鉄芯、又は、空気を芯として、その周りに本発明の撚り線又は本発明の絶縁電線を巻回したものである。
本発明において、鉄芯等の芯について、サイズは、用途等に応じて適宜に選択される。また、絶縁電線の巻き方、巻数(2巻以上)、ピッチ等についても、目的、用途等に応じて適宜に選択される。
本発明のコイルは、トランスを構成する1次側(入力側)コイルや2次側(出力側)コイルとして用いることができる。より詳細には、トランスを構成する低圧大電流側コイルとして用いることができ、また、高圧小電流側コイルとして用いることもできる。本発明において、低圧大電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、低圧大電流値の電流が流れるコイルを意味し、高圧小電流側コイルとは、2つのコイルのうち相対的に、高圧小電流値の電流が流れるコイルを意味する。コイルそれ自体は公知であり、例えば、特開2018-190980号公報等の記載を参照することができる。
【0037】
<トランス>
本発明のトランスは、本発明のコイルを有していれば、その構造又はサイズ等は特に限定されない。例えば、入力側のコイル(一次コイル)と出力側のコイル(二次コイル)を含む複数のコイルを備えている。トランスは、一次コイルと二次コイルの巻き数比に応じて、交流の電圧を変換することができる。
本発明のトランスは、2つ以上、好ましくは2つのコイルを備え、そのうちの少なくとも一方が低圧大電流側コイルとして本発明のコイルを備えている。さらに好ましくは、低圧大電流側コイルが本発明のコイルであり、高圧小電流側コイルも本発明のコイルである。
本発明のトランスは、互いに別の芯の周りに絶縁電線を巻回した一次コイル及び二次コイルを有するものでもよく、同一の芯の周りに直接又は絶縁テープ等を介して一次コイルの絶縁電線及び二次コイルの絶縁電線をそれぞれ巻回したものでもよい。トランスそれ自体は公知であり、例えば、特開2018-190980号公報等の記載を参照することができる。
【0038】
本発明のコイル及びトランスは、それぞれ、電源用、特にスイッチング電源用として好ましく用いられる。電源とは、ある特定の電圧・電流を供給する装置をいう。
本発明のコイル及びトランスは、スイッチング電源用として好ましく用いられ、特に、交流の商用電源を変圧して整流し、電気・電子機器に適した電圧の直流に変換する、交流(AC)/直流(DC)コンバータ用として、好ましく用いられる。
【実施例0039】
本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0040】
[コイルの作製]
<実施例1-1>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面に、ニッケルを電気めっきして、厚み2.0μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Aを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、素線Bを得た。
次に、上記で得られた磁性素線A及び素線Bを複数本撚り合わせることにより、図1に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例1-1のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0041】
<実施例1-2>
ニッケル磁性体層の厚みを0.8μmとしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-2のコイルを作製した。
【0042】
<実施例2>
ニッケル磁性体層の厚みを1.0μmとしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例2のコイルを作製した。
【0043】
<実施例3>
ニッケル磁性体層の厚みを0.5μmとしたこと以外は、実施例1-1と同様にして、実施例3のコイルを作製した。
【0044】
<実施例4-1>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.3mmの素線導体の表面に、ニッケルを電気めっきして、厚み3.0μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ6.8μmのエナメル層を形成し、磁性素線Cを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.3mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ6.8μmのエナメル層を形成し、素線Dを得た。
次に、上記で得られた磁性素線C及び素線Dを複数本撚り合わせることで、図2に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例4-1のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0045】
<実施例4-2>
ニッケル磁性体層の厚みを1.0μmとしたこと以外は、実施例4-1と同様にして、実施例4-2のコイルを作製した。
【0046】
<実施例5>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.05mmの素線導体の表面にニッケルを電気めっきして、厚み1.5μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ3.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Eを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.05mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ3.4μmのエナメル層を形成し、素線Fを得た。
次に、上記で得られた磁性素線E及び素線Fを複数本撚り合わせることで、図3に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例5のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0047】
<実施例6>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.15mmの素線導体の表面に鉄を電気めっきして、厚み1.8μmの鉄磁性体層を形成した。次いで、鉄磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Gを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.15mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、素線Hを得た。
次に、上記で得られた磁性素線G及び素線Hを複数本撚り合わせることで、図4に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例6のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0048】
<実施例7>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.05mmの素線導体の表面に鉄を電気めっきして、厚み0.05μmの鉄磁性体層を形成した。次いで、鉄磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ3.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Iを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.05mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ3.4μmのエナメル層を形成し、素線Jを得た。
次に、上記で得られた磁性素線I及び素線Jを複数本撚り合わせることで、図5に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例7のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0049】
<実施例8>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.15mmの素線導体の表面にニッケルを電気めっきして、厚み0.03μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Kを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.15mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、素線Lを得た。
次に、上記で得られた磁性素線K及び素線Lを複数本撚り合わせることで、図1に示す断面形状の撚り線を得た。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、実施例8のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0050】
<実施例9>
ニッケル磁性体層の厚みを4.0μmとしたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9のコイルを作製した。
【0051】
<比較例1>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面にニッケルを電気めっきして、厚み4.0μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Mを得た。
次に、上記で得られた磁性素線Mを複数本撚り合わせることで、図6に示す断面形状の撚り線を得た。この撚り線は、その断面において、最も外側に位置する素線のすべて(100%)が磁性素線であり、最も外側に位置する素線以外の素線のすべて(100%)が磁性素線である。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、比較例1のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0052】
<比較例2>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面にニッケルを電気めっきして、厚み4.0μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、磁性素線Nを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ4.4μmのエナメル層を形成し、素線Oを得た。
次に、上記で得られた磁性素線N及び素線Oを複数本撚り合わせることで、図7に示す断面形状の撚り線を得た。この撚り線は、最も外側に位置する素線のすべて(100%)が磁性素線であり、かつ、最も外側に位置する素線以外の素線については、19本中6本(32%)が磁性素線である。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、比較例2のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0053】
<比較例3>
断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.3mmの素線導体の表面にニッケルを電気めっきして、厚み4.0μmのニッケル磁性体層を形成した。次いで、ニッケル磁性体層の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ6.8μmのエナメル層を形成し、磁性素線Pを得た。
また、断面が円形(真円)で、この円形の直径が0.12mmの素線導体の表面に、ポリアミドイミド樹脂ワニスを塗布し、焼付けて、厚さ6.8μmのエナメル層を形成し、素線Qを得た。
次に、上記で得られた磁性素線P及び素線Qを複数本撚り合わせることで、図8に示す断面形状の撚り線を得た。この撚り線は、最も外側に位置する素線12本のうち6本(50%)が磁性素線であり、最も外側に位置する素線以外の素線7本はいずれも磁性素線ではない(0%)。
次に、作製した撚り線を、ボビンの外周面に、撚り線同士が接するように10ターン巻き回して(5ターンからなる一列を2列(並列数2)分、隙間なく形成して)、比較例2のコイルを作製した。このボビンは、撚り線を巻き回す外周の直径が11.1mm、軸線長さが10.45mmであった。
【0054】
[コイルの性能評価]
上記実施例及び従来例に係るコイルの交流抵抗を、下記R/Rdcを指標にして評価した。
LCRメータ(商品名:E4980A、Agilent社製)を用いて、下表に示す所定の周波数の交流電流を通電したときの抵抗値(R)を測定した。当該抵抗値を直流抵抗(Rdc)で除算することによりR/Rdcを算出し、この値を交流抵抗の指標Raとした。
また、各実施例及び比較例における撚り線と同一の撚り構成(同一線径、同一撚り本数)で、撚り線を構成する素線がすべてエナメル層のみからなる撚り線(例えば実施例1-1では素線Bのみで図1の断面形状とした撚り線)を作製し、それらの抵抗値を測定して上記と同様にしてR/Rdcを算出し、交流抵抗の指標Rbとした。
次に、各実施例及び比較例においてRa/Rbを算出し、下記評価基準に当てはめ評価した。Ra/Rbの値は低い方が好ましい形態である。
-評価基準-
◎:Ra/Rb<0.90
○:0.90≦Ra/Rb<0.98
△:0.98≦Ra/Rb<1.00
×:1.00≦Ra/Rb

表1に、周波数300kHzにおける、実施例1-1、2、3、4-1、5~9、比較例1~3の各コイルの特性を示す。
表2に、周波数50kHzにおける、実施例1-1、4-1、6、8、比較例1の各コイルの特性を示す。
表3に、周波数2MHzにおける、実施例1-2、4-2、6、8、比較例1の各コイルの特性を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1~3に示されるように、撚り線を構成する素線のすべてが磁性体層を有する構造の比較例1の撚り線では、50kHz、300kHz、2MHzのいずれの周波数の電流の通電時においても、比較例1の撚り構造において素線のすべてを磁性体層を有しないものとした撚り線に対して、交流抵抗が同じか又は高まる結果となった。
また、最も外側に位置する素線以外の素線の数Yに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が、本発明で規定するよりも高い比較例2の撚り線や、最も外側に位置する素線の数Xに占める、被覆層に磁性体層を含む素線の数の割合が、本発明で規定するよりも低い比較例3の撚り線でも、各比較例の撚り構造において素線のすべてを磁性体層を有しないものとした撚り線に対して、交流抵抗が同じか又は高まる結果となった。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1-1~実施例9の撚り線はいずれも、各実施例の撚り構造において素線のすべてを磁性体層を有しないものとした撚り線に対して、交流抵抗を効果的に低減できることがわかった。
上記の結果から、本発明の撚り線、ないしは、この撚り線にさらに被覆層(撚り線絶縁層)を設けた本発明の絶縁電線が、高周波電流の通電時の交流抵抗をより小さくすることができ、その結果、コイルないしトランスの伝送損失がより抑えられることがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10A~10H 撚り線
C 仮想外接円
1 最も外側に位置する素線
1a 磁性素線
1b 磁性体層を有しない素線
2 最も外側に位置する素線以外の素線
2a 磁性体層を有しない素線
2b 磁性素線
I、II 隣り合う2本の素線同士の間の隙間


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8