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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128958
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】マイクロキャリア微粒子
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240913BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034164
(22)【出願日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2023037796
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】桑原 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】村田 貴朗
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC13
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】優れた抗菌・抗ウイルス活性を有するとともに、従来に比べて培養効率を向上することができる、細胞培養用のマイクロキャリア微粒子の提供。
【解決手段】表面に複数の細孔が形成されており、前記複数の細孔は隣接する細孔間の平均間隔が10~400nmである、マイクロキャリア微粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の細孔が形成されており、前記複数の細孔は隣接する細孔間の平均間隔が10~400nmである、マイクロキャリア微粒子。
【請求項2】
表面に金属酸化物層を有する、請求項1に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物層はアニオンを含み、前記金属酸化物層の表面における全原子に対する、前記アニオンに由来するイオウ原子、リン原子及び炭素原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子の存在比率の合計をX線光電子分光法で測定した値が1.0atm%以上である、請求項2に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項4】
前記アニオンに由来する原子がイオウ原子または炭素原子である、請求項3に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項5】
前記金属酸化物層はバルブ金属の酸化物層である、請求項2に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項6】
前記金属酸化物層は前記バルブ金属の周囲に形成されている、請求項5に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項7】
中空である、請求項5又は6に記載のマイクロキャリア微粒子。
【請求項8】
前記バルブ金属がアルミニウムである、請求項5又は6に記載のマイクロキャリア微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロキャリア微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物に由来する細胞は、造血細胞株およびその他少数の細胞株を除き、その大部分が足場依存性である。そのため、再生医療などの目的で細胞を体外で培養する場合、足場となる人工物への細胞の接着が必要となる。しかし、大きな培養装置を用いて細胞を培養しても、壁面・底面など容器の表面でしか細胞は増殖しないため、再生医療向けの細胞培養を行うにしても、大量の細胞を培養することが難しい。
【0003】
特許文献1には、空隙を有し、少なく半分の前記空隙が球状、及び/又は少なく半分の前記空隙が平均空隙直径に対して-30%~+30%の直径を有する、ゼラチン多孔質マイクロキャリアが記載され、さらに、前記マイクロキャリアは、少なくとも5μmの平均径を有する表面孔を有すること、及び平均粒子径が20~800μmであることも記載されている。また、前記ゼラチン多孔質マイクロキャリアは、市販で入手可能なマイクロ粒子と比較して特に優れた細胞増殖活性を有することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、閉気孔と、複数の球状の気孔が全体にわたって連通した開気孔とを備えていることを特徴とする多孔体が記載され、さらに、前記多孔体の骨格を構成する粒子の10重量%以上がセラミックス又はガラスの中空粒子であること、前記中空粒子は粒径400μm以下であること、前記多孔体は、気孔率が50%以上98%以下であり、全体にわたって連通した球状の気孔の平均孔径が20μm以上1000μm以下であること、リン酸カルシウム系セラミックス、アルミナ、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリカ、アルミナ-シリカ及びムライトのうちの少なくともいずれか1種からなること、及びマイクロキャリア培養用であることも記載されている。また、前記多孔体をマイクロキャリア培養用の担体として用いることにより、細胞が担体内部に存在することができるため、担体同士の高頻度の衝突によっても、細胞は損傷をほとんど受けず、効率的な安定した細胞増殖が可能になることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、シリカ系多孔材料上に蛋白質を吸着及び不溶化させることによりコーティングしたことを特徴とする細胞培養担体が記載され、さらに、前記シリカ系多孔材料がシリカゲル又は多孔性ガラスであること、前記シリカ系多孔材料の細孔径が100nm以下の光透過性を有するものであり、顕微鏡観察可能な担体が得られるものであること、前記シリカ系多孔材料が球状であること、及び前記蛋白質がゼラチンであることも記載されている。また、前記細胞培養担体は、付着依存性細胞の培養に適していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/063935号
【特許文献2】特開2008-195595号公報
【特許文献3】特開昭61-195687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたゼラチン多孔質マイクロキャリアを細胞培養に用いた場合、細胞の量及び率の観点で良好な細胞増殖を伴う細胞培養を提供できるが、培養した細胞をマイクロキャリアから分離して回収することが困難である。
特許文献2に記載された多孔体をマイクロキャリア培養用の担体として用いた場合、細胞が担体内部に存在することができるため、担体同士の高頻度の衝突によっても、細胞は損傷をほとんど受けず、効率的な安定した細胞増殖が可能になるが、培養した細胞を多孔体の内部から回収することが困難である。
特許文献3に記載された細胞培養担体は、付着依存性細胞との親和性が良く付着しやすく、付着した細胞を顕微鏡で直接、観察できるが、培養した細胞を担体から分離、回収することが困難である。
また、特許文献1~3に記載されたマイクロキャリアを用いて細胞培養を行う場合、微生物による汚染を抑制するため、培養液中に抗生物質を添加することが必須であるが、抗生物質により細胞の増殖を阻害するおそれがあった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、優れた抗菌・抗ウイルス活性を有するとともに、従来に比べて培養効率を向上することができる、細胞培養用のマイクロキャリア微粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、陽極酸化アルミニウム等の金属酸化物は非常に強い抗菌・抗ウイルス活性を発現するにも関わらず、従来の有機系合成抗菌性材料や無機系抗菌性材料と異なり細胞の増殖を阻害しにくいことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
【0010】
[1] 表面に複数の細孔が形成されており、前記複数の細孔は隣接する細孔間の平均間隔が10~400nmである、マイクロキャリア微粒子。
[2] 表面に金属酸化物層を有する、[1]に記載のマイクロキャリア微粒子。
[3] 前記金属酸化物層はアニオンを含み、前記金属酸化物層の表面における全原子に対する、前記アニオンに由来するイオウ原子、リン原子及び炭素原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子の存在比率の合計をX線光電子分光法で測定した値が1.0atm%以上である、[2]に記載のマイクロキャリア微粒子。
[4] 前記アニオンに由来する原子がイオウ原子または炭素原子である、[3]に記載のマイクロキャリア微粒子。
[5] 前記金属酸化物層はバルブ金属の酸化物層である、[2]~[4]のいずれかに記載のマイクロキャリア微粒子。
[6] 前記金属酸化物層は前記バルブ金属の周囲に形成されている、[5]に記載のマイクロキャリア微粒子。
[7] 中空である、[5]又は[6]に記載のマイクロキャリア微粒子。
[8] 前記バルブ金属がアルミニウムである、[5]~[7]のいずれかに記載のマイクロキャリア微粒子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた抗菌・抗ウイルス活性を有するとともに、従来に比べて培養効率を向上することができる、細胞培養用のマイクロキャリア微粒子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るマイクロキャリア微粒子の一実施形態を挙げ、詳述する。
なお、「~」を用いて表される数値範囲には、その両端の数値を含むものとする。
「菌」とは、細菌、菌類等を意味する。
前記細菌としては、黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌、乳酸菌、緑膿菌、レンサ球菌、マイコプラズマ等が挙げられる。
前記菌類としては、糸状菌(カビ、キノコ等)、酵母(サッカロマイセス、シゾサッカロマイセス、クリプトコッカス、カンジタ等)等が挙げられる。
「XPS」は、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy)の略称である。
【0013】
[マイクロキャリア微粒子]
本発明のマイクロキャリア微粒子は、表面に複数の細孔が形成されており、前記複数の細孔は隣接する細孔間の平均間隔が10~400nmである、マイクロキャリア微粒子である。
【0014】
前記複数の細孔間の平均間隔は、10~400nmの範囲内であれば特に限定されないが、20~400nmが好ましく、20~300nmがより好ましく、20~200nmがさらに好ましく、50~200nmが特に好ましい。
なお、平均間隔は、任意の隣接する2つの細孔間の間隔の算術平均であり、電子顕微鏡観察によって、細孔の中心間の距離を50点測定し、これらの値を平均した値である。
【0015】
前記複数の細孔は、任意の隣接する2つの細孔間の間隔の標準偏差(又は分散)が小さいほど好ましい。
【0016】
前記複数の細孔の平均深さは、特に限定されないが、10nm~50μmが好ましく、20nm~30μmがより好ましく、30nm~20μmがさらに好ましい。
なお、平均深さは、前記複数の細孔から無作為に抽出した細孔の深さの算術平均であり、細孔の断面を電子顕微鏡で観察し、細孔の最頂部と最底部との高低差を50点測定し、これらの値を平均した値である。
【0017】
前記マイクロキャリア微粒子は、表面に金属酸化物層を有することが好ましい。
前記金属酸化物層はアニオンを含むことが好ましい。
前記アニオンとしては、硫酸イオン(SO 2-)、リン酸イオン(PO 3-)、シュウ酸イオン(C 2-)、マロン酸イオン(C 2-)、リンゴ酸イオン(C 2-)、クエン酸イオン(C 3-)等が挙げられる。これらの中でも、強い抗菌性を発揮できる観点から、硫酸イオン、シュウ酸イオン、リン酸イオンがより好ましく、硫酸イオンがさらに好ましい。これらアニオンは、前記金属酸化物層に1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0018】
前記金属酸化物層において、前記金属酸化物層の表面における全原子に対する、前記アニオンに由来する原子(例えば、イオウ原子、リン原子、炭素原子、酸素原子等)のうち、イオウ原子、リン原子及び炭素原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子の存在比率の合計はXPS(X線光電子分光)法で分析したときに1.0atm%以上であることが好ましく、2.5atm%以上であることがより好ましく、3.0atm%以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、通常、10atm%以下である。前記原子の存在比率の合計が前記下限値以上であれば、抗菌・抗ウイルス活性がより高まる。
【0019】
なお、本発明において「元素比率」とは、前記金属酸化物層に含まれる全ての原子に対する特定の原子の割合を意味する。XPSにおいては、ワイドスペクトルのピーク強度から、各元素の表面における存在比率(atm%)を求めることができる。
XPSによる前述の各原子の存在比率、及び後述の各原子と金属の存在比率の分析方法及び分析条件としては、以下を用いることができる。
・X線光電子分光分析装置:アルバック・ファイ株式会社製、製品名「Quantum-2000」
・X線源:Monochromated-Al-Kα線(出力16kV 34W)
・取り出し角度:45°
・測定エリア:300μm
【0020】
前記金属酸化物層は、酸化皮膜の抗菌・抗ウイルス活性がより強くなる観点から、少なくともアニオンに由来する原子としてイオウ原子または炭素原子を含むことが好ましい。この場合において、前記金属酸化物層における酸素原子の存在比率はXPSで分析したときに45atm%以上であることが好ましく、55atm%以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、通常、60atm%以下である。酸素原子の存在比率が前記下限値以上であれば、より多くのアニオン由来の元素を酸化皮膜中に固定化し、抗菌・抗ウイルス活性をいっそう高めることができる。
【0021】
前記金属酸化物層はバルブ金属の酸化物層であることが好ましい。
前記バルブ金属は、酸化力のある酸との接触又は陽極酸化処理等の酸化処理により表面に不働態の酸化皮膜を生じる金属である。
前記バルブ金属は、特に限定されないが、例えばアルミニウム、クロム、チタン及びこれらのうち2種以上の合金等が挙げられる。これらの中でも、加工性が良好であり、安価であることから、アルミニウムが好ましい。
前記バルブ金属は1種単独でもよいし、2種以上が組み合わされていてもよい。
【0022】
前記金属酸化物層は、さらに金属を含んでいてもよく、例えば、バルブ金属、バルブ金属以外の金属(以下、「非バルブ金属」ともいう。)が挙げられる。
前記非バルブ金属は、特に限定されないが、例えば銀、銅、チタン、ゲルマニウム及びこれらのうち2種以上の合金等が挙げられる。
前記バルブ金属及び前記非バルブ金属は、それぞれ、前記金属酸化物層に1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0023】
また、前記金属酸化物層は、ハロゲン原子を含んでいてもよい。
前記ハロゲン原子は、特に限定されないが、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がさらに好ましい。
これらハロゲン原子は、前記金属酸化物層に1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0024】
前記金属酸化物層に含まれるバルブ金属の存在比率の合計はXPSで分析したときに10atm%以上であることが好ましく、15atm%以上であることがより好ましく、20atm%以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、通常、40atm%以下である。バルブ金属の存在比率の合計が前記下限値以上であれば、電解液由来のアニオンをより多く酸化皮膜中に固定することができる。
【0025】
前記金属酸化物層に含まれる非バルブ金属及びハロゲン原子の存在比率の合計はXPSで分析したときに1.0atm%以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常、0.0atm%以上である。前記非バルブ金属及び前記ハロゲン原子の存在比率の合計が前記上限値以下であれば、後述の陽極酸化の際に非バルブ金属及びハロゲン原子が脱落して表面にマクロな凹凸が形成され、表面が白濁することを抑制することができる。
【0026】
前記金属酸化物層の全光線透過率は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、通常、95%以下である。前記金属酸化物層の全光線透過率が前記下限値以上であれば、マイクロキャリア微粒子に付着した培養細胞をより目視しやすくなる。
ここで、前記金属酸化物層の全光線透過率は、JIS K 7136:2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に記載の方法で測定できる。
【0027】
前記金属酸化物層の厚みの下限は、特に限定されないが、50nm以上、または55nm以上、または60nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。前記金属酸化物層の厚みの上限は、特に限定されないが、50μm以下、または30μm以下、または20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。前記金属酸化物層の厚みが前記範囲内であると、後述する陽極酸化処理の時間が長くなることを抑制しながら、中空粒子の強度を保つことができる。
前記金属酸化物層の厚みは、断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することで求められる。
【0028】
前記金属酸化物層は、培地と接触する側の最表面に複数の凸部を有してもよい。この場合において、隣接する凸部間の平均間隔は、特に限定されないが、20~600nmの範囲内とすることが好ましい。前記金属酸化物層の最表面に凹凸構造を設けることにより、親水性や撥水性等の機能をさらに付与することができる。
前記凸部は、培養する細胞の付着性が向上する観点から、針状突起が好ましい。
【0029】
本発明のマイクロキャリア微粒子は、中空であることが好ましい。この場合において、前記マイクロキャリア微粒子は、前記金属酸化物層のみからなるものでもよいし、前記金属酸化物層と金属層の層構造を有していてもよい。前記金属層に含まれる金属は、前記金属酸化物層に含まれる金属と同様であってもよい。
【0030】
[細胞の培養方法]
細胞の培養は、上述した本発明のマイクロキャリア微粒子を用い、そのマイクロキャリア微粒子を含む培地を撹拌して浮遊状に培養する、マイクロキャリア培養により行う。
本発明のマイクロキャリア微粒子を用いて培養できる細胞の種類としては、特に限定されないが、付着性細胞が好ましい。前記付着性細胞は、血球系の細胞を除き、ほとんどの体性幹細胞がこれに該当する。
細胞の培養環境(培養条件)は培養する細胞の種類に応じて適宜選択が可能である。
また、培養時間についても用いられる細胞種、細胞数によって任意に選択することが可能である。
培養温度についても目的とする細胞種に適した条件であればよい。
【0031】
[マイクロキャリア微粒子の製造方法]
本発明のマイクロキャリア微粒子の製造方法は、特に限定されないが、例えば金属基材の表面に形成した多孔質の金属酸化物被膜を剥離して粉砕する方法、金属微粒子の表面に多孔質の金属酸化物被膜を形成する方法等が挙げられる。
【0032】
金属基材の表面に多孔質の金属酸化物被膜を形成する方法としては、Yanagishitaら(Yanagishita, T., 外1名, "High-Throughput Fabrication Process for Highly Ordered Through-Hole Porous Alumina Membranes Using Two-Layer Anodization", Electrochimica Acta, 2015年12月1日, 第184巻, p.80-85)の方法が好ましい。具体的には、例えば標準的な条件下で、まず酸溶液中でアルミニウムを陽極酸化し、その後濃硫酸で陽極酸化することによって形成される2層構造の陽極酸化多孔質バルブ金属をウェットエッチングすることによって、規則正しく配列した穴を有する多孔質アルミナ薄膜を得る。この際、適切な酸溶液でエッチングすることにより、多孔質アルミナ薄膜の剥離とスルーホールを同時に達成することができる。これは、濃硫酸中で形成された酸化膜は、標準の酸溶液中で形成された酸化膜よりも溶解しやすいためである。多孔質アルミナ薄膜の剥離後、残留したアルミニウム基板は、規則正しく配列した孔を有する多孔質アルミナ薄膜の作製に繰り返し使用することができる。得られる多孔質アルミナ薄膜を粉砕して微粒子化することにより、マイクロキャリア微粒子を得る。
多孔質アルミナ薄膜の細孔(スルーホール)の間隔は、陽極酸化処理の条件を適宜設定することで調整できる。
【0033】
金属微粒子の表面に多孔質の金属酸化物被膜を形成する方法としては、例えばYanagishitaら(Yanagishita, T., 外3名, "Fabrication of Hollow Spheres with Porous Structures by Anodization of Small Al Particles", Applied Physics Express, 2008年, 第1巻, 第8号, No. 084001)の方法が好ましい。具体的には、アルミニウム微粒子を陽極酸化することにより、表面に多孔質構造を有する中空球体を作製する。閉じたアルミニウム微粒子を酸性溶液中で陽極酸化することにより、表面に垂直な方向に均一な大きさの孔を有する多孔質アルミナ層が得られ、その後、エッチング液中で残留Alを溶出することにより、内部に空洞を有する、中空の多孔質アルミナ微粒子が生成される。
アルミニウム微粒子の陽極酸化の際には、アルミニウム微粒子を樹脂製ホルダーに充填し、電解液中で陽極酸化処理を行うことが好ましい。前記樹脂製ホルダーを電解液から引き揚げ、陽極酸化アルミニウム微粒子を再分散させることによって、所望の多孔質アルミナ微粒子が得られる。
アルミナ微粒子の表面の細孔の間隔及び深さは、陽極酸化処理の条件を適宜設定することで調整できる。
【0034】
[作用効果]
本発明のマイクロキャリア微粒子は、表面に複数の細孔が特定範囲内の平均間隔で形成されている。
特に、マイクロキャリア微粒子が表面に多孔質の金属酸化物層を有する場合、特に多孔質の酸化アルミニウム層を有する場合、非常に強い抗菌・抗ウイルス活性を有することを本発明者らは見出した。しかも、本発明のマイクロキャリア微粒子は細胞毒性が低い。 よって、本発明のマイクロキャリア微粒子は、抗生物質を使用することなく、優れた抗菌・抗ウイルス効果を発揮し、細胞毒性が低い。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特段の断りがない限り、「%」は、「質量%」を表すものとする。モル濃度(mol/L)は記号「M」を用いて表す。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
1.マイクロキャリア微粒子の作製
以下の手順によりアルミニウム板から陽極酸化アルミニウムからなるマイクロキャリア微粒子を作製した。
アルミニウム板として、純度99.99%アルミニウムの板を使用した。
【0037】
工程(a):
0℃に冷却した12M硫酸水溶液中に、陰極板として直流電源の陰極に接続したアルミニウム板を浸漬した。
続いて前記アルミニウム板を直流電源の陽極に接続し、陰極板に対向させて浸漬した。 その後、電圧を25V一定で通電し、アルミニウム板上に酸に対する溶解性が比較的低い皮膜を形成した。得られた皮膜の厚みは約20μmであった。
通電後は陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム板を硫酸から引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。
【0038】
工程(b):
0℃に冷却した16M硫酸水溶液中に、陰極板として直流電源の陰極に接続したアルミニウム板を浸漬した。
続いて工程(a)で得られた、陽極酸化皮膜を表面に有するアルミニウム板を直流電源の陽極に接続し、陰極板に対向させて浸漬した。
その後、電圧を25V一定で30分間通電し、アルミニウム板と工程(a)で得られた陽極酸化皮膜との間に、酸に対する溶解性が比較的高い酸化皮膜を形成した。
通電後は2層の陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム板を硫酸から引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。
【0039】
工程(c):
30℃に加温した5%リン酸水溶液中に、工程(b)で得た、2層の陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を2分間浸漬することで、酸への溶解性が比較的高い酸化皮膜を溶解した。
その後、イオン交換水で十分に洗浄して室温で風乾させ、はがれてきた陽極酸化皮膜を回収した。
【0040】
工程(d):
回収した皮膜をボトルに入れて水を添加し、ホモジナイザー(T25 digital ULTRA-TURRAX(IKA社))により粉砕して、マイクロキャリア微粒子を得た。
【0041】
2.マイクロキャリア微粒子の粒径、細孔間の平均間隔、及び細孔の深さの測定
得られたマイクロキャリア微粒子の粒径は、約100μmであった。また、マイクロキャリア微粒子の隣接する細孔間の平均間隔は、約65nmであり、細孔の深さは約10μmであった。
【0042】
3.XPS分析
得られたマイクロキャリア微粒子の表面について、以下の条件で、各原子の存在比率を測定した。
X線光電子分光分析装置:KRATOS AXIS SUPRA
X線源:単色化Al-Kα、出力15kV 225W(15mA)
取り出し角:45°
測定領域:300μm×700μm
表1に、実施例1で得られたマイクロキャリア微粒の表面の各原子の存在比率を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
4.抗菌性試験
JIS Z 2801:2010(対応国際規格ISO 22196:2007)の内容を一部改変し、PETフィルム、アルミニウム板及び実施例1で得られたマイクロキャリア微粒子について抗菌性試験を行った。具体的には、菌液調製の際、菌体を均一に分散する普通ブイヨン培地の濃度を、JIS規格よりも50倍濃い1/10とした。また、培養する菌体としては、大腸菌(NBRC3972)を用いた。
また、実施例1で得られたマイクロキャリア微粒子は粉体であるため、本抗菌性試験の実施にあたっては、以下の手順でPETフィルム上に簡易的に固定した。
【0045】
まず実施例1で得られたマイクロキャリ微粒子50mgを量り取り、65vol%エタノール0.5mLと混合した後、5cm角のPETフィルム上にまんべんなく塗り広げ、これを風乾させることでマイクロキャリ微粒子を表面に有する試験片を得た。
各々2個の試験片から得られた生菌数の平均値を求めた。
表2に、抗菌性試験の結果を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示す通り、マイクロキャリア微粒子を表面に有さないPETフィルムが1.1×10CFU/cm、陽極酸化を行っていないアルミニウム板が6.1×10CFU/cm、実施例1で得られたマイクロキャリア微粒子を表面に有する試験片が0.63CFU/cm未満の検出下限以下であり、JIS Z 2801:2010(対応国際規格ISO 22196:2007)よりも細菌が増殖しやすい環境下で行った試験であっても、実施例1で得られたマイクロキャリ微粒子を表面に有する試験片は大腸菌の増殖を強く抑制できた。
【0048】
[参考例1]
1.陽極酸化皮膜付きアルミニウム板の作製
純度99.99%のアルミニウム板を、羽布研磨及び過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し鏡面化した。
電解研磨したアルミニウム板について、12M硫酸中で、直流25V、温度0℃の条件で陽極酸化を行い、陽極酸化被膜付きアルミニウム板を得た。
【0049】
2.陽極酸化皮膜の細孔間の平均間隔及び細孔の深さの測定
得られた陽極酸化被膜付きアルミニウム板上の隣接する細孔間の平均間隔は、約65nmであり、細孔の深さは約100nmであった。
【0050】
3.XPS分析
実施例1と同様に、得られた陽極酸化皮膜付きアルミニウム板の表面について、各原子の存在比率を測定した。
表3に、参考例1で得られた陽極酸化皮膜付きアルミニウム板の表面の各原子の存在比率を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
4.細胞毒性試験
(1)供試品の作製
得られた陽極酸化被膜付きアルミニウム板をポリエチレン板に貼り付けて、積層体(供試品)を作製した。
【0053】
(2)試験方法
作製した供試品について、「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方についての改正について」令和2年薬生機審発0106第1号の別添「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス」及びISO 10993 5:2009、Biological evaluation of medicaldevices Part 5: Tests for in vitro cytotoxicitに従い、V79細胞を用いて細胞毒性試験 抽出法によるコロニー形成法を行った。
【0054】
2.1)試験液の調製
供試品を約2mm×15mmの大きさに細切した。その後、55℃、2時間エチレンオキサイドガスによる滅菌を行った。この検体の表面積60cmに対しM05培地を10mLの割合で加えて、37℃の5%COインキュベーター中で24時間振とう抽出を行った。
抽出終了後の抽出液に、変色、混濁及び浮遊物は認められなかった。この抽出液を試験原液(100%)とし、M05培地を用いて以下のように希釈し、計6濃度の検体試験液を調製した。
検体試験液:6.25、12.5、25、50、75及び100%
【0055】
陰性対照材料(ポリエチレンフィルム)及び陽性対照材料(約2mm×15mmの形状)について、55℃、2時間エチレンオキサイドガスによる滅菌を行い、それぞれ表面積60cmに対しM05培地を10mLの割合で加えて検体と同様に振とう抽出を行った。その抽出液を陰性対照材料試験原液(100%)及び陽性対照材料試験原液(100%)とした。M05培地を用いて陽性対照材料試験原液を適宜希釈し、以下の濃度の試験液を調製した。
陽性対照材料A(0.1%ジエチルジチオカルバミド酸亜鉛(ZDEC)含有ポリウレタンフィルム)
試験液 0.5、1.6及び4.8%
陽性対照材料B(0.25%ジエチルジチオカルバミド酸亜鉛(ZDEC)含有ポリウレタンフィルム)
試験液 25、50及び100%
また、検体試験区及び陽性対照材料試験区のブランクコントロールとして、M05培地のみについて検体と同様の処理を行った空抽出液を使用した。
抽出終了後の各対照材料抽出液及びブランクコントロールに、変色、混濁及び浮遊物は認められなかった。
【0056】
陽性対照物質は、ジメチルスルホキシドを用いて1000μg/mLの濃度に溶解し、陽性対照物質調製液とした。M05培地を用いて陽性対照物質調製液を適宜希釈し、以下の濃度の試験液を調製した。
陽性対照物質試験液:0.5、1及び2μg/mL
また、陰性対照試験液として、M05培地に5μL/mLとなるようジメチルスルホキシドを添加したものを、ブランクコントロールとしてM05培地を用いた。
【0057】
2.2)試験操作法
単層に増殖したV79細胞を0.05%トリプシン処理によりはく離し、M05培地を用いて100個/mLの細胞浮遊液を調製した。この細胞浮遊液を組織培養用プラスチックプレートの各ウェルに0.5mLずつ播種し、37℃の5%COインキュベーター中で約6時間培養した。
培養後、細胞がウェルの底面に接着していることを確認してから培地を除き、検体試験区については各濃度の試験液をそれぞれ4個のウェルに0.5mLずつ加え、37℃の5%COインキュベーター中で6日間培養した。陽性対照材料試験区及び陽性対照物質試験区については各濃度の試験液をそれぞれ3個のウェルに0.5mLずつ加え、同様に培養した。
培養終了後、10%中性緩衝ホルマリン液で細胞を固定し、0.1%メチレンブルー溶液で染色して、細胞数50個以上のコロニー数を計測した。
【0058】
2.3)細胞毒性の評価
試験原液(100%)におけるコロニー形成率と検体のコロニー形成阻害濃度(IC)又は50%コロニー形成阻害濃度(IC50)をもとに、表4に示す基準に従い細胞毒性を評価した。
【0059】
【表4】
【0060】
細胞毒性の評価結果を、表5~表7に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
陰性対照材料試験液(表5及び表6)及び検体試験液(表7)におけるコロニー形成率は、ブランクコントロールに対して特に低下が見られなかった。
以上の結果から、本試験条件下において、陽極酸化被膜を表面に有する供試品は細胞毒性を示さないことが明らかとなった。
【0065】
[参考例2]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)の表面に、スパッタリング法により厚み50nm、純度99.999%のアルミニウム層を成膜し、アルミニウム積層ポリスチレンフィルムを得た。
得られたアルミニウム積層ポリスチレンフィルムを、直流25V、温度0℃の条件で陽極酸化し、表面に陽極酸化被膜を有する積層体(供試品)を作製した。電解液には12M硫酸を用いた。得られた積層体は、アルミニウム層が完全に陽極酸化されており、透光性であった。この供試品の隣接する細孔間の平均間隔は、約65nmであった。この供試品を直径15mmの円形に細断し、UVを30分照射し滅菌処理を行った。その後、24穴ウェルプレート(コーニング社製Falcon 351147、コーティング無)のそれぞれのウェル底部に細断した供試品を配置した。
【0066】
2.細胞培養試験
単層に増殖した線維芽細胞(NIH/3T3細胞、ATCC CRL-1658)を剥離し、DMEM細胞培養培地を用いて50000個/mLの細胞浮遊液を調整した。この細胞浮遊液を各ウェルに1mLずつ接種し、37℃の5%COインキュベーター中で培養した。培養開始から6時間後、24時間後、4日後、7日後に明視野顕微鏡観察を行い、細胞の増殖を確認した。その結果、培養7日後にウェル底部が増殖細胞で覆いつくされた状態(100%コンフルエント)が達成されたことが確認された。また、培養開始から6時間後、24時間後、4日後、7日にアラマーブルー法により蛍光強度(RFU)を測定し、細胞の増殖を測定した。測定結果を表8に示す。なお、RFUは、6個の測定結果の平均値である。
【0067】
[参考例3]
1.供試品の作製
陽極酸化した供試品の代わりにポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)を用いた以外は参考例2と同様に供試品を作製した。
【0068】
2.細胞培養試験
参考例2と同様にして、細胞培養試験を行い、細胞の増殖を測定した。測定結果を表8に示す。また、明視野顕微鏡観察の結果、培養7日後においても100%コンフルエントは達成されなかった。なお、表8中のNAは、100%コンフルエントが達成されなかったことを意味する。
【0069】
【表8】
【0070】
表8に示す細胞培養試験の結果から明らかなように、参考例2で作製した陽極酸化皮膜の表面では、参考例3と比較して、細胞を大幅に増殖することができた。
【0071】
[参考例4]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)の表面に、スパッタリング法により厚み100nm、純度99.999%のアルミニウム層を成膜し、アルミニウム積層ポリスチレンフィルムを得た。
得られたアルミニウム積層ポリスチレンフィルムを、直流25V、温度0℃の条件で陽極酸化し、表面に陽極酸化被膜を有する積層体(供試品)を作製した。電解液には12M硫酸を用いた。得られた積層体は、アルミニウム層が完全に陽極酸化されており、透光性であった。この供試品の隣接する細孔間の平均間隔は、約65nmであった。この供試品を直径15mmの円形に細断した。
【0072】
2.細胞培養試験
細胞はPromoCell社の脂肪組織由来ヒト間葉系幹細胞(カタログ番号:C-12977)を用いた。培地は1%Antibiotic-Antimycoticを添加したMesenchymal Stem Cell Growth Medium 2を使用した。
細胞培養前に、供試品をUV照射により1時間殺菌して前処理した。殺菌後、浮遊細胞用24穴ウェルプレート(SUMILON社製MS-8024R)に敷き、培養した。脂肪組織由来ヒト間葉系幹細胞は培地を用いてCOインキュベーター(37℃、5%CO、湿潤、以下同様)で培養した。70%コンフルエントに到達した時点(4日間培養)で細胞剥離液(Accutase solution)を用いて細胞を剥離した。その後、培地で中和、遠心(220xg、室温、3分)し、新たな培地に懸濁し、24-wellプレートに8,000cells/1mL/ウェルで播種し、COインキュベーターで培養した。24時間後、DPBSで1度洗浄し、新しい培地を1mL加え、さらに培養した。
培養後、培養した培地を除き、新しい培地を0.5mLずつ添加し、CellTiter-Glo 2.0 Assay Kit付属のCellTiter-Glo 2.0 Reagentを0.5mLずつ添加し、プレートシェーカーで2分振とうした。その後、室温で10分静置し、96-well white plateに100μL移し、発光光度計で測定した。各ウェルの発光量から培地のみのウェルの発光量を引き、相対発光量(RLU: Relative light unit)を算出した。(n時間培養後のRLU値/24時間培養後のRLU値)×100の値から、細胞増殖率を算出した。また、24時間培養後のRLU値から、コントロールと比較した各足場材サンプルの接着率を算出した。結果を表9に示す。
【0073】
[参考例5]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)の表面に、スパッタリング法により厚み100nm、純度99.999%のアルミニウム層を成膜し、アルミニウム積層ポリスチレンフィルムを得た。
得られたアルミニウム積層ポリスチレンフィルムを、直流12V、温度0℃の条件で陽極酸化し、表面に陽極酸化被膜を有する積層体(供試品)を作製した。電解液には12M硫酸を用いた。得られた積層体は、アルミニウム層が完全に陽極酸化されており、透光性であった。この供試品の隣接する細孔間の平均間隔は、約40nmであった。この供試品を直径15mmの円形に細断した。
【0074】
2.細胞培養試験
参考例4と同様にして、細胞培養試験を行い、細胞の増殖を測定した。測定結果を表9に示す。
【0075】
[参考例6]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)の表面に、スパッタリング法により厚み100nm、純度99.999%のアルミニウム層を成膜し、アルミニウム積層ポリスチレンフィルムを得た。
得られたアルミニウム積層ポリスチレンフィルムを、直流6V、温度0℃の条件で陽極酸化し、表面に陽極酸化被膜を有する積層体(供試品)を作製した。電解液には12M硫酸を用いた。得られた積層体は、アルミニウム層が完全に陽極酸化されており、透光性であった。この供試品の隣接する細孔間の平均間隔は、約20nmであった。この供試品を直径15mmの円形に細断した。
【0076】
2.細胞培養試験
参考例4と同様にして、細胞培養試験を行い、細胞の増殖を測定した。測定結果を表9に示す。
【0077】
[参考例7]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)を用いたこと以外は参考例4と同様に供試品を作製した。
【0078】
2.細胞培養試験
参考例4と同様にして、細胞培養試験を行い、細胞の増殖を測定した。測定結果を表9に示す。
【0079】
【表9】
【0080】
表9に示す細胞培養試験の結果から明らかなように、参考例4~6で作製した陽極酸化皮膜の表面では、参考例7と比較して、細胞を大幅に増殖することができた。
【0081】
[参考例8]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)の表面に、スパッタリング法により厚み100nm、純度99.999%のアルミニウム層を成膜し、アルミニウム積層ポリスチレンフィルムを得た。
得られたアルミニウム積層ポリスチレンフィルムを、直流40V、温度4℃の条件で陽極酸化し、表面に陽極酸化被膜を有する積層体(供試品)を作製した。電解液には0.3Mシュウ酸を用いた。得られた積層体は、アルミニウム層が完全に陽極酸化されており、透光性であった。この供試品の隣接する細孔間の平均間隔は、約100nmであった。この供試品を直径15mmの円形に細断した。
【0082】
2.細胞培養試験
細胞はPromoCell社の脂肪組織由来ヒト間葉系幹細胞(カタログ番号:C-12977)を用いた。培地は1%Antibiotic-Antimycoticを添加したMesenchymal Stem Cell Growth Medium XFを使用した。
細胞培養前に、未処理ポリスチレン24穴ウェルプレート(Corning社のFALCON #351147)に貼り付けた後、供試品をUV照射により1時間殺菌して前処理した。T-75フラスコは、5mLの10μg/mLフィブロネクチンを室温で1時間コーティングし、細胞の起眠に用いた。脂肪組織由来ヒト間葉系幹細胞は培地を用いてT75フラスコに起眠し、COインキュベーターで培養した。70%コンフルエントに到達した時点(96時間培養)で細胞剥離液(Accutase solution)を用いて細胞を剥離し、培地で中和、遠心(220xg、室温、3分)した。その後、新たな培地に懸濁し、セルカウントした。24-wellプレートに8,000cells/0.5mL/ウェルで播種し、COインキュベーターで培養した。24時間後、DPBSで1度洗浄し、新しい培地を0.5mL加えさらに培養した。
培養後、CellTiter-Glo 2.0 Assay Kit 付属のCellTiter-Glo 2.0 Reagentを0.5mLずつ添加し、プレートシェーカーで2分振とうした。その後、室温で10分静置し、96-well black plateに100μL移し、発光光度計で測定した。各ウェルの発光量から培地のみのウェルの発光量を引き、RLUを算出した。(n時間培養後のRLU値/24時間培養後のRLU値)×100の値から、細胞増殖率を算出した。また、24時間培養後のRLU値から、コントロールと比較した各足場材サンプルの接着率を算出した。
【0083】
[参考例9]
1.供試品の作製
厚さ0.2mmのポリスチレン基材(三菱ケミカル社製二軸延伸ポリスチレンシート)を用いた以外は参考例4と同様に供試品を作製した。
【0084】
2.細胞培養試験
参考例8と同様にして、細胞培養試験を行い、細胞の増殖を測定した。測定結果を表10に示す。
【0085】
【表10】
【0086】
表10に示す細胞培養試験の結果から明らかなように、参考例8で作製した陽極酸化皮膜の表面では、参考例9と比較して、細胞を大幅に増殖することができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のマイクロキャリア微粒子は、表面に強い抗菌・抗ウイルス活性を発現するが、細胞毒性を示さず、細胞の増殖を促進する酸化皮膜が微生物の増殖を抑制する部分に設けられているため、意図せずに混入した微生物の増殖を抑制しつつ、目的の細胞を培養できる細胞培養用のマイクロキャリア微粒子として有用である。