(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128968
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】グレリン分泌促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20240913BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240913BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20240913BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240913BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240913BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240913BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240913BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240913BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20240913BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P25/00
A61P5/00
A61P1/00
A61P1/18
A61P9/00
A61P43/00 105
C12N1/20 E
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035748
(22)【出願日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2023037161
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 愛生
(72)【発明者】
【氏名】山田 成臣
(72)【発明者】
【氏名】府川 明佳
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018ME02
4B018ME03
4B018ME11
4B018ME14
4B065AA49X
4B065AC14
4B065BA22
4B065CA42
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC61
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA36
4C087ZA66
4C087ZB21
4C087ZC03
(57)【要約】
【課題】グレリン分泌促進のために有効な、新たな食品素材を提供する。
【解決手段】ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌を含有する、グレリン分泌促進用組成物、及びStreptococcus属に属する菌を含有する、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのための、組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌を含有する、グレリン分泌促進用組成物。
【請求項2】
Streptococcus属に属する菌が、配列番号5の配列からなるポリヌクレオチド又はそのオーソログ(ortholog)、配列番号7の配列からなるポリヌクレオチド又はそのortholog、及び配列番号9の配列からなるポリヌクレオチド又はそのorthologから選択されるいずれかを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Streptococcus属に属する菌を含有する、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進又は体重減少抑制、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのための、組成物。
【請求項4】
自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかが、グレリン分泌促進によるものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
Streptococcus属に属する菌が、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S. thermophilus)に属するものである、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
Streptococcus属に属する菌が、S. thermophilus NCIMB 8510T、S. thermophilus 1131、S. thermophilus NITE BP-00077、及びS. thermophilus NITE BP-01696からなる群より選択されるいずれかである、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
Streptococcus属に属する菌を、1.3×1010個/日以上で投与するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
ラクトバチラス・パラガセリに属する菌を含まない発酵乳の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
Streptococcus属に属する菌を含有する組成物を対象に摂取させる工程を含む、グレリンの分泌を促進する方法(医療行為を除く。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グレリン分泌促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グレリンは、主に胃内で分泌されるペプチドホルモンであり、摂食亢進作用や消化管運動の調節作用、成長ホルモン促進、エネルギー代謝の調節作用、心機能亢進作用、抗糖尿病作用等が報告されている。これらは、グレリンによる交感神経抑制・副交感神経亢進といった自律神経系の調節を介しており、グレリンは生命のホメオスタシス維持に非常に重要である。
【0003】
グレリンに関し、特許文献1及び2には、脱脂乳又は脱脂粉乳を有効成分とするホルモン分泌促進剤が記載されており、これらでいうホルモンが、グレリン又は成長ホルモンであることが記載されている。また特許文献3には、タンパク質としてホエイタンパク質加水分解物及び発酵乳タンパク質;脂質として中鎖脂肪酸、乳リン脂質及び魚油;並びに糖質としてパラチノース(登録商標)を含有する、グレリン分泌促進剤が記載され、特許文献4には、ラクトバチラス・ガセリOLL2716(FERM BP-6999)(最近、ラクトバチラス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)に分類されなおした。)を有効成分として含有する食欲不振改善剤が記載され、この食欲不振改善が、グレリンの分泌促進作用によるものであることが記載されている。さらに特許文献5には、精製した米胚乳タンパク質のズブチリシン消化物に由来する、4~12アミノ酸長の特定の配列を有するペプチドが記載され、これらのペプチドが、グレリン分泌の低下によってもたらされる食欲不振の治療に有効である旨が記載されている。また非特許文献1は、グレリンの心臓を保護する作用に関し、グレリンの有益な効果は、心疾患後に過緊張した交感神経活性を抑制することであると述べている。
【0004】
一方、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus、S. thermophilus)は、発酵乳のスターターとして用いられることがある乳酸菌の一種である(例えば、前掲特許文献3、特許文献6)。またS. thermophilusに関し、特許文献7には、迷走神経活性化作用を有する乳酸菌の菌体及び/又は乳酸菌の処理物を有効成分として含有する迷走神経活性化剤が記載され、乳酸菌の例として、S. thermophilusが挙げられている。特許文献8には、有効量のストレプトコッカス・サーモフィルスST4株を含む、化学療法剤の副作用を軽減するための補助剤組成物が記載されている。さらにStreptococcus属の乳酸菌に関し、特許文献9には、特定の化合物を有効成分とする、自律神経調節作用を有する、医薬組成物又は飲食物が記載され、有効成分としては、式(I)の化合物の生産能を有する微生物又はその加工品、又は化合物の生産能を有する微生物の培養上清でもよいこと、またそのような微生物は乳酸菌でもよく、乳酸菌の例として、Streptococcus属に属する乳酸菌が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-205829
【特許文献2】特開2015-205830
【特許文献3】特許第6657084号公報(国際公開WO2015/199192)
【特許文献4】特許第6813974号公報(特開2018-8901号公報)
【特許文献5】国際公開WO2020/218450
【特許文献6】国際公開WO2022/191093
【特許文献7】特開2012-17282号公報
【特許文献8】特開2021-20896号公報
【特許文献9】国際公開WO2008/120713
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Expert Rev Endocrinol Metab,, 4:283-289, 2014. https://doi.org/10.1586/eem.09.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グレリン分泌促進のために有効な、新たな食品素材があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1] ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌を含有する、グレリン分泌促進用組成物。
[2] Streptococcus属に属する菌が、配列番号5の配列からなるポリヌクレオチド又はそのオーソログ(ortholog)、配列番号7の配列からなるポリヌクレオチド又はそのortholog、及び9の配列からなるポリヌクレオチド又はそのorthologから選択されるいずれかを有する、1に記載の組成物。
[3] Streptococcus属に属する菌を含有する、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進又は体重減少抑制、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのための、組成物。
[4] 自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかが、グレリン分泌促進によるものである、3に記載の組成物。
[5] Streptococcus属に属する菌が、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S. thermophilus)に属するものである、1から4のいずれか1項に記載の使用。
[6] Streptococcus属に属する菌が、S. thermophilus NCIMB 8510T、S. thermophilus 1131、S. thermophilus NITE BP-00077、及びS. thermophilus NITE BP-01696からなる群より選択されるいずれかである、1から4のいずれか1項に記載の組成物。
[7] Streptococcus属に属する菌を、1.3×1010個/日以上で投与するためのものである、1に記載の組成物。
[8] ラクトバチラス・パラガセリに属する菌を含まない発酵乳の形態である、1に記載の組成物。
[9] Streptococcus属に属する菌を含有する組成物を対象に摂取させる工程を含む、グレリンの分泌を促進する方法(医療行為を除く。)。
【0009】
[1] ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌を含有する、グレリン分泌促進用組成物。
[2] Streptococcus属に属する菌が、配列番号5の配列からなるポリヌクレオチド又はそのオーソログ(ortholog)、配列番号7の配列からなるポリヌクレオチド又はそのortholog、及び9の配列からなるポリヌクレオチド又はそのorthologから選択されるいずれかを有する、請求項1に記載の使用。
[3] Streptococcus属に属する菌を含有する、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのための、組成物。
[4] グレリン分泌促進によるものである、3に記載の組成物。
[5] Streptococcus属に属する菌が、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S. thermophilus)に属するものである、1から4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] Streptococcus属に属する菌が、S. thermophilus OLS3289(NCIMB 8510T)、S. thermophilus 1131、S. thermophilus OLS3294(受託番号:NITE BP-00077)、及びS. thermophilus OLS3615(受託番号:NITE BP-01696)からなる群より選択されるいずれかである、1から5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] Streptococcus属に属する菌を、1.3×1010個/日以上で投与するための、1から6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] ラクトバチラス・パラガセリに属する菌を含まない発酵乳の形態である、1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
安全性の高い成分により、グレリンの分泌を促進することができる。
【0011】
安全性の高い食品成分由来の素材、又は安全性が確認された素材を、グレリン分泌促進剤として提供することで、自律神経のバランスが崩れて生じる体調の不調を予防又は改善し、未病の人々の健康維持・改善や仕事の効率化をサポートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】S. thermophilus菌はグレリンmRNA発現量を有意に増加させる。Means ± SE n=3, *p<0.05 vs. control (by Dunnett test)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、特定の菌を含む組成物に関する。より詳細には、特定の菌を有効成分とする、グレリン分泌促進等のための組成物に関する。なお、本発明に関し、いずれかというときは、数及び種類が任意であることを指す。
【0014】
[有効成分]
(Streptococcus属に属する菌)
本発明の組成物は、有効成分として、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する菌を含む。Streptococcus属に属する菌は、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus(あるいは、Streptococcus salivarius subsp. thermophilusということもある。)に属する菌であることが好ましい。組成物においては、Streptococcus thermophilusに属する菌であれば、特定の菌株に限らず、種々のものを有効成分として用いることができる。
【0015】
Streptococcus thermophilusに属する菌株の例として、OLS3289(NCIMB8510T)、1131、OLS3294(受託番号:NITE BP-00077)、OLS3615(受託番号:NITE BP-01696)、及びこれらと分類学的に同等の菌株が用いられる。
【0016】
ある菌株(以下、菌株Sと記載)と分類学的に同等の菌株とは、例えば、下記のいずれかをいう。
・菌株Sと同じ属に属する菌株であって、その16S rRNA遺伝子の配列の全部又は特徴のある一部(V1領域、V2領域、又はV1領域及びV2領域の全部又は一部、又はV1領域及びV2領域を含む一部、等)が、菌株Sの配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは98.5%以上、さらに好ましくは98.7%より高く、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%の配列同一性を有する菌株;
・菌株Sと同一の菌学的性質を有する菌株。
【0017】
なお、16S rRNA遺伝子配列に基づく種の異同の判断基準に関し、当業者はStackebrandt E, Ebers J. Taxonomic parameters revisited: tarnished gold standards. Microbiol Today 2006;33:152-155を参考にすることができる。
【0018】
(S. thermophilus NCIMB8510T)
S. thermophilus NCIMB8510Tは、NCIMB研究所(The National Collections of Industrial of Industrial, Food and Marine Bacteria, Ltd., Ferguson Building, Craibstone Estate, Bucksburn, Aberdeen, AB21 9YA, Scotland, UK)より購入できる。
【0019】
NCIMB8510Tは、Streptococcus thermophilusの基準株である。基準株とは、命名基準となるタイプから系統を引きついだ生育能力のある株をいう。
【0020】
NCIMB8510
Tの16S rRNA遺伝子のV1~V3領域の配列(rRNA遺伝子の全長配列において27~520番目相当)を、
図2、及び配列表に配列番号2として示す。
【0021】
(S. thermophilus 1131)
S. thermophilus 1131は、明治ブルガリアヨーグルトLB81(株式会社明治)より単離することができる。
【0022】
1131の菌学的性質を以下に示す。
形態:連鎖球菌、グルコースよりガス産生せず、グラム陽性、カタラーゼ陰性、乳酸旋光性L型、45℃で生育する、グルコース、ラクトース、フルクトース等を資化して酸を生成する、胞子非形成、運動性無し。
【0023】
1131の16S rRNA遺伝子の配列の一部を、
図2、及び配列表に配列番号1として示す。
【0024】
(S. thermophilus OLS3294)
S. thermophilus OLS3294(受託番号:NITE BP-00077)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 (千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号 NITE BP-00077の下で寄託されている(寄託者:株式会社 明治、国内寄託日:2005年2月10日、ブタペスト条約に基づく国際寄託への移管請求の受領日:2022年3月2日)。
【0025】
OLS3294の菌学的性質を以下に示す。
グラム陽性、通性嫌気性球菌
糖資化性:Arabinose -, Galactose -, G1ucose +, Salicin -, Sucrose +, Cellobiose -, Starch -, Maltose -, Mannitol -, Mannose -, Lactose +, Raffinose -, Ribose -
運動性 -, 胞子の有無 -, ガス産生 -, カタラーゼ ‐, 硝酸塩還元 -, インドールの生成 -, 硫化水素の生成 -, 生成乳酸の旋光性 L体, 15℃での発育 -
【0026】
OLS3294の16S rRNA遺伝子のV1~V3領域の配列(rRNA遺伝子の全長配列において27~520番目相当)を、
図2、及び配列表に配列番号3として示す。
【0027】
(S. thermophilus OLS3615)
S. thermophilus OLS3615(受託番号:NITE BP-01696)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 (千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号 NITE BP-01696の下で国際寄託されている(寄託者:株式会社 明治、ブタペスト条約に基づく国際寄託の原寄託日:2013年8月23日)。
【0028】
OLS3615の菌学的性質を以下に示す。
培地(M17 Agar, BD)上のコロニー性状: 円形、白色(半透明)、Smooth型、半球状
菌形態:球菌、グラム染色:陽性、乳酸発酵形式:ホモ乳酸発酵、好気的発育:+
【0029】
OLS3615の16S rRNA遺伝子の配列の一部を、
図2、及び配列表に配列番号4として示す。
【0030】
上記の4株のうちのいずれかを有効成分として含む組成物は、目的の効果が特に優れるという点で好ましい。本発明者らの検討によると、これらの4株の共通の特徴の一つは、配列表に配列番号5、7、及び9として記載する配列のポリヌクレオチド又はそのorthologを有することである。これらのポリヌクレオチドがコードするタンパク質(順に、acyl-CoA thioesterase、site-specific DNA-methyltransferase、及びhistidine phosphatase family protein)のアミノ酸配列を、順に、配列表に配列番号6、8、及び10として記載する。したがって、好ましい態様では、組成物は、有効成分として、配列表に配列番号5、7、及び9の配列からなるポリヌクレオチド又はそのorthologのいずれか、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくはすべてを有するStreptococcus thermophilusに属する菌を含みうる。また別の好ましい態様では、組成物は、有効成分として、配列表に配列番号6、8、及び10の配列からなるタンパク質又はそのorthologのいずれか、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくはすべてを有するStreptococcus thermophilusに属する菌を含みうる。また別の好ましい態様では、組成物は、有効成分として、配列表に配列番号6、8、及び10の配列からなるタンパク質又はそのorthologのいずれか、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくはすべてを含みうる。
【0031】
本発明に関し、orthologとは、共通の祖先遺伝子から種分岐に伴って派生した遺伝子間の対応関係、又はそのような対応関係にある遺伝子群を指す。orthologは、Orthofinder(http://www.stevekellylab.com/software/orthofinder)で同一のオルソグループにまとめられる。
【0032】
配列番号5、7、又は9の配列からなるポリヌクレオチドとそのorthologは、具体的には下記である。
(A)配列番号5、7、又は9の配列からなるポリヌクレオチド;
(B)配列番号5、7、又は9の配列と高い配列同一性を有する配列からなり、かつ対応する配列番号6、8、又は10の配列からなるタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号5、7、又は9の配列において1若しくは複数個のヌクレオチドを置換、欠失、挿入、及び/又は付加した配列からなり、かつ対応する配列番号6、8、又は10の配列からなるタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
配列番号7の配列からなるポリヌクレオチドのorthologは、下記を含む。
(A)配列番号11、又は13の配列からなるポリヌクレオチド;
(B)配列番号11、又は13の配列と高い配列同一性を有する配列からなり、かつ対応する配列番号12、又は14の配列からなるタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号11、又は13の配列において1若しくは複数個のヌクレオチドを置換、欠失、挿入、及び/又は付加した配列からなり、かつ対応する配列番号12、又は14の配列からなるタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
配列番号5、7、9、11、13に記載の配列からなるポリヌクレオチドには、それぞれ順に配列番号6、8、10、12、14配列からなるタンパク質に対応する。
【0033】
本発明に関し、高い配列同一性(homology)とは、同一性の値が、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上であることをいう。
【0034】
本発明に関し、同一性(homology)というときは、特に記載した場合を除き、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で一致するヌクレオチドの個数の百分率を意味する。配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム、例えば、GENETIX(登録商標) ver.14(株式会社ゼネティックス)、BLASTN、BLASTP、BLASTX、ClustalWにより行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメーターは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0035】
なお、組成物は、目的とする機能を損なわない限り、Streptococcus属に属する菌以外の乳酸菌を含んでいてもよい。また、組成物は、目的とする乳酸菌以外の酵母等の微生物を含みうる。好ましい態様では、組成物は、1種又は複数種の乳酸菌を含むが、それ以外の微生物、例えば酵母を含まない。また別の好ましい態様では、組成物はラクトバチラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、及びラクトバチラス・パラガセリ(Lactobacillus paragasseri)のいずれか一方、又は双方を含まない。また別の好ましい態様では、組成物はStreptococcus属に属する菌以外の乳酸菌を含まない。また別の好ましい態様では、組成物はStreptococcus属に属する菌以外の、グレリン分泌を促進する成分を含まない。
【0036】
組成物に含まれる有効成分である乳酸菌(有効菌)は、培養により製造することができる。培養条件としては、目的の効果が奏される限り特に限定されない。
【0037】
本発明の組成物において、有効菌は、目的の効果を発揮できる限り、どのような状態で含まれていてもよい。例えば、有効菌は、有効菌菌体そのものである場合のほか、有効菌の培養物(有効菌菌体と培養上清とからなる。)である場合がある。菌体は、目的の効果を発揮できる限り、生きた状態(生菌体)であってもよく、死んだ状態(死菌体)であってもよい。
【0038】
有効菌は、組成物に死菌体として含まれていてもよい。死菌体は有効菌を殺菌処理することにより得ることができる。殺菌処理は、目的の効果を発揮できる限り、特に限定されず、加熱、殺菌灯(UV)、オゾン、薬剤、高浸透圧等に拠ることができる。
【0039】
死菌体は、生菌体を加熱処理することにより得られる加熱処理死菌体であることが好ましい。加熱処理死菌体を得るための加熱処理は、目的の効果が奏される限り特に限定されず、用いる有効菌を死滅させるために十分な温度及び時間で実施される。このような条件は、用いる有効菌にもよるが、加熱処理温度は、例えば55℃以上であり、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは65℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上であり、80℃以上としてもよく、90℃以上としてもよい。加熱処理温度の上限は、適宜とすることができ、例えば121℃以下であり、100℃以下としてもよく、90℃以下、80℃以下としてもよい。また加熱処理温度に応じて、加熱処理時間は1分間以上とすることができ、3分間以上としてもよく、10分間以上、15分間以上、30分間以上、45分間以上としてもよい。加熱処理時間の上限は、例えば120分間以下とすることができ、100分間以下であってもよく、90分間以下であってもよく、80分間以下であってもよい。
【0040】
組成物に含有させるための有効菌は、生菌体であるか死菌体であるかに関わらず、乾燥物、懸濁物、ペースト状、ゲル状等の形態として調製することができる。
【0041】
[用途]
一態様では、組成物は、グレリン分泌促進のために用いることができる。グレリンは、主に胃内で分泌されるペプチドホルモンである。
【0042】
グレリンは、自律神経調節(非特許文献1)、成長ホルモン分泌促進(特許文献1、2)、食欲不振改善(特許文献4)、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護(特許文献3)等の作用が知られている。したがって、一態様では、組成物は、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのために用いることができる。
【0043】
ある成分が、グレリン分泌を促進するか否かは、当業者であれば種々の方法で確認できる。例えば、MKN45細胞(ヒト胃がん由来細胞株)等のヒトの胃由来の細胞に対して、その成分を添加し、適切な時間経過後のその細胞におけるグレリン遺伝子の発現量を測定することにより、評価することができる。グレリン遺伝子の発現量は、具体的には、mRNAの発現量として測定することができる。構成的に発現している遺伝子、例えばβアクチン(β-actin)の発現量による補正を行うことが好ましい。
【0044】
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物又は医薬組成物とすることができる。食品及び医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0045】
(対象)
一態様では、組成物は、グレリンの分泌を促進することが必要な、又は望ましい対象に摂取させるのに適している。また一態様では、組成物は、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかを行うことが必要な、又は望ましい対象に、摂取させるのに適している。対象は、健常(例えば、胃が健康である、治療すべき疾患を有しない、治療のための薬、例えば化学療法剤の投与を受けていない者)であってもよい。
【0046】
上記のような対象には、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上(世界保健機関 (WHO)の定義より))、病中病後の者、妊婦、産婦、乳幼児、子どもが含まれる。また本発明の組成物は、有効成分が食経験の長い菌であるため、長期間の摂取に適しているため、日常生活におけるグレリンの分泌を促進したい対象に、特に適している。
【0047】
(投与経路)
本発明の組成物は、それを非経口的に、例えば経管的(胃瘻、腸瘻)に投与してもよいし、経鼻的に投与してもよいし、経口的に投与してもよいが、経口的に投与することが好ましい。
【0048】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、有効菌の含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、摂取・投与する対象の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、有効菌の含有量を適宜設定することができる。組成物の1単位は、1日又は1回あたり(一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば3回の投与としてもよい。)に摂取・投与する量とすることができる。
【0049】
一態様では、組成物の1単位あたりの有効菌の含有量は、例えば、1×105個以上とすることができ、1×106個以上とすることができ、1×107個以上とすることができ、1×108個以上、5×108個以上、5.7×108個以上、6×108個以上、7×108個以上、8×108個以上、9×108個以上、1×109個以上、5×109個以上としてもよく、1×1010個以上とすることが好ましく、1×1011個以上とすることがより好ましく、2×1011個以上とすることがさらに好ましい。上限値は適宜とすることができ、下限値がいずれの場合であっても、例えば、1×1014個以下としてもよく、1×1013個以下としてもよく、1×1012個以下としてもよい。
【0050】
一態様では、有効菌の摂取量は、1×105個/日以上とすることができ、1×106個/日以上とすることができ、1×107個/日以上とすることができ、1×108個/日以上、5×108個/日以上、5.7×108個/日以上、6×108個/日以上、7×108個/日以上、8×108個/日以上、9×108個/日以上、1×109個/日以上、5×109個/日以上としてもよく、1×1010個/日以上とすることが好ましく、1.3×1010個/日以上とすることがより好ましく、2×1010個/日以上、1×1011個/日以上、2×1011個/日以上とすることがさらに好ましい。上限値は適宜とすることができ、下限値がいずれの場合であっても、例えば、1×1014個/日以下としてもよく、1×1013個/日以下としてもよく、1×1012個/日以下としてもよい。
【0051】
なお市販のヨーグルトには、5×106個/g程度のS. thermophilusが含まれていることがあり、1製品当たり5~5.6×108個のS. thermophilusが含まれていると計算される。
【0052】
なお特許文献3の試験例2でマウスに投与された、発酵乳タンパク質を有効成分とするグレリン分泌促進剤の粉末中のS. thermophilusの量は、6.6×1010個/16 gと計算され、またマウスのS. thermophilusの摂取量は1.24×1010個/日と計算される。
【0053】
また有効菌の含有量を上述のようにする場合は、いずれの場合も、1単位は、例えば0.5g以上とすることができ、1g以上、5g以上、10g以上、20g以上、30g以上とすることができる。組成物を発酵乳のような食品の形態にする場合、1単位は食品として1回で摂取しやすい量、例えば50g以上とすることができ、60g以上、70g以上、80g以上、90g以上、100g以上とすることができる。上限値は適宜とすることができ、下限値がいずれの場合であっても、500g以下とすることができ、400g以下、300g以下、200g以下、150g以下、125g以下とすることができる。
【0054】
組成物は、食経験豊富な有効菌を有効成分としている。そのため、本発明の組成物は、繰り返し、又は長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは15日以上、さらに好ましくは3週間以上、4週間以上、1カ月以上、連続して摂取・投与することができる。
【0055】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品又は医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0056】
また組成物は、食品又は医薬品として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0057】
(剤型・形態)
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、発酵乳、乳酸菌飲料、乳性飲料、乳飲料、清涼飲料、アイスクリーム、タブレット、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。発酵乳とは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下「乳等省令」と略する。)」で定義された発酵乳及び乳酸菌飲料である。乳等省令における発酵乳は、乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状もしくは液状にしたもの又はこれらを凍結したものである。
【0058】
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。
【0059】
(その他)
本発明の組成物の製造において、有効菌の配合の段階は、適宜選択することができる。有効菌の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、乳と乳製品と水を混合し、必要に応じ均質化し、殺菌し、有効菌を接種し、発酵させることにより、十分な量の有効菌を含む発酵乳として、組成物を製造することができる。原料とする乳及び乳製品は、発酵に用いる有効菌に合わせて適宜選択することができる。好ましい態様においては、原料とする乳及び乳製品は、動物由来のものを含む。また原料とする乳及び乳製品は、植物性の乳、例えば豆乳、アーモンド乳、オーツ乳、ココナッツ乳、ライス乳、ヘンプ乳を含まなくてもよい。
【0060】
組成物には、使用目的(用途)を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0061】
食品である組成物に表示する用途・機能の例として、グレリン分泌促進、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護等が挙げられる。
【実施例0062】
[実施例1]
MKN45細胞を抗生剤無しRPMI-1640培地にて24wellプレート上で24時間培養した。
下表に示すS. thermophilus種の菌株を1%ラクトースを含むM17培地で、20時間の賦活培養と本培養を行った。
【0063】
培養した菌体はPBSで洗浄後に培地でOD660=5となるように懸濁し、最終濃度1%で生菌をプレートに添加した。4時間、6時間のインキュベート後、細胞をPBSで3回洗浄しMaxwell RSC simplyRNA Cells Kit(Promega)の試薬T/E solution 200 μL, Lysis Buffer 200 μLを加え細胞を回収した。その後、RNA抽出およびcDNA化を行い、qPCR(SYBR Greenによるインターカレート法)にてグレリン遺伝子発現量を測定した。βアクチン(β-actin)でノーマライズを行い、比較定量法であるΔΔCt法で解析を行った。
【0064】
【0065】
結果を
図1に示す。生菌を添加していないコントロール群と比較して、生菌を添加した群では、添加6時間後に、OLS3289群, 1131群, OLS3294群、OLS3615群の全てにおいて、グレリンmRNA発現量が有意に増加することを確認した。なお、これらのS. thermophilusの4菌株によるグレリンmRNA発現量の増加効果は、同じ条件で試験を行ったLactobacillus paragasseriの効果よりも高かった。
【0066】
このように、S. thermophilusに属する4つの菌株がすべて、グレリン遺伝子の発現を促進したことから、Streptococcus属に属する菌、より特定するとS. thermophilusに属する菌は、グレリンの分泌促進のために用いることができるといえる。また、グレリンは、自律神経調節(非特許文献1)、成長ホルモン分泌促進(特許文献1、2)、食欲不振改善(特許文献4)、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護(特許文献3)等の作用が知られている。したがって、Streptococcus属に属する乳酸菌、より特定するとS. thermophilusに属する菌は、自律神経調節、成長ホルモン分泌促進、食欲不振改善、脂肪蓄積促進 (体重減少抑制)、インスリン分泌抑制、褐色脂肪組織の機能抑制、消化管運動促進、胃酸分泌亢進、膵外分泌亢進、交感神経系抑制、血管拡張、心収縮力増大、及び心筋細胞の保護からなる群より選択されるいずれかのために用いることができるといえる。
【0067】
[遺伝子解析]
グレリン分泌促進効果を有する菌株に共通して有する遺伝子配列を、共通配列を解析することで抽出した。
【0068】
詳細には、NCIMB 8510TはNCBIのデータベースから、その他の株はドラフトゲノム解析を行い、各菌株の全ゲノム配列を、FASTAファイル(全ゲノム配列が記載されたファイル)として入手した。各菌株の全ゲノム配列が記載されたFASTAファイルをDFAST(https://dfast.ddbj.nig.ac.jp/)を用いてアノテーションし、塩基配列とアミノ酸配列が記載されたファイルを用意した。グレリン分泌促進効果を有する菌株のアミノ酸配列情報からorthologを抽出し、そこからグレリン分泌促進効果を有しない乳酸菌株の少なくとも一つの株が持つアミノ酸配列を除いたものを「活性あり株のみが持つ共通遺伝子」と決定した。共通遺伝子に関し、OLS3294から得た塩基配列を配列番号5、7、及び9、それぞれに対応するアミノ酸配列を配列番号6、8、10として配列表に示す。また配列番号7に対応する、1131から得た塩基配列を配列番号11、OLS3615から得た塩基配列を配列番号13、ぞれぞれに対応するアミノ酸配列を配列番号12、14として配列表に示す。なお、orthologは、Orthofinder(http://www.stevekellylab.com/software/orthofinder)で同一のオルソグループにまとめられる。
【0069】
また、OLS3294株以外の各株から得られた塩基配列とそれに対応するアミノ酸配列の、OLS3294株の配列に対する同一性%を下表に示す。
【0070】
【0071】
[製造例1:発酵乳]
牛乳と乳製品(牛乳由来)と水を最終製品の無脂乳固形分が9.5%、乳脂肪分が3.0%となるように混合して、ヨーグルトベースミックスを調製する。調製したヨーグルトベースミックスを均質化後、95℃、5分間加熱殺菌し、その後、約40℃まで冷却する。この殺菌済ヨーグルトベースミックスに、Lactobacillus属の菌、及びS. thermophilus 1131(S. thermophilus OLS3615)の混合スターターを接種し、各S. thermophilus が100gあたり5×109個以上となるまで発酵させ、グレリン分泌促進のためのヨーグルトを製造する。
【0072】
[製造例2:サプリメント]
脱脂粉乳培地で、S. thermophilus OLS3615を対数増殖期の後期まで培養し、培養液を25倍濃縮後に60℃で、10分間加熱する。得られた濃縮加熱菌液を噴霧乾燥して粉末化した後、デキストリンに3.9%の添加率で配合して完全に均一になるまで混合する。この混合物を1g/包となるようにスティック充填し、グレリン分泌促進のための健康食品を製造する。1g中のS. thermophilus OLS3615菌数は、2×1010個以上である。
本発明は、安全性の高い食品成分由来の素材、又は安全性が確認された素材を、グレリン分泌促進等のため提供することにより、自律神経のバランスが崩れて生じる体調の不調を予防又は改善し、未病の人々の健康維持・改善、仕事の効率化をサポートする。本発明によれば、人々の健康維持・改善、仕事の効率化をサポートする食品組成物と、食品の製造方法を提供することができる。また本発明により、様々な人々の栄養の改善が実現され、健康的な生活が確保され、福祉が促進されうる。