(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129197
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】電子機器、ベッドセンサー、及び棚用センサー
(51)【国際特許分類】
G01L 1/16 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G01L1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038231
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 至
(57)【要約】
【課題】ロードセルよりも安価なピエゾ素子型センサー1つで静的情報も取得できる電子機器、並びに当該電子機器を備えるベッドセンサー及び棚用センサーを提供する。
【解決手段】電子機器1は、印加される圧力に応じた電圧を出力するピエゾ素子型センサーであるセンサー10と、センサー10の静電容量からセンサー10に印加される継続的な圧力を検出する第1検出回路20と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加される圧力に応じた電圧を出力するピエゾ素子型センサーと、
前記ピエゾ素子型センサーの静電容量から前記ピエゾ素子型センサーに印加される継続的な圧力を検出する第1検出回路と、
を備える、電子機器。
【請求項2】
前記第1検出回路に直列接続され、前記第1検出回路の検出結果を微分することで前記ピエゾ素子型センサーに印加される圧力の変化を検出する微分回路を更に備える請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記ピエゾ素子型センサーの出力電圧から前記ピエゾ素子型センサーに印加される圧力の変化を検出する第2検出回路を更に備える請求項1記載の電子機器。
【請求項4】
前記ピエゾ素子型センサーに対し、前記第1検出回路を接続するのか、前記第2検出回路を接続するのかを切り替える切替回路を有する、請求項3記載の電子機器。
【請求項5】
前記ピエゾ素子型センサーは、エレクトレットフィルムを備える、請求項1記載の電子機器。
【請求項6】
前記エレクトレットフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項5記載の電子機器。
【請求項7】
前記エレクトレットフィルムの圧縮弾性率は、1MPa以上20MPa以下である、請求項5記載の電子機器。
【請求項8】
前記エレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮率が40%以上80%以下である、請求項5記載の電子機器。
【請求項9】
前記エレクトレットフィルムに4.5Nの荷重をかけたときの静電容量の変化量が1pF以上である、請求項5記載の電子機器。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の電子機器を備えるベッドセンサー。
【請求項11】
請求項1から請求項9の何れか一項に記載の電子機器を備える棚用センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、ベッドセンサー、及び棚用センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力に関する情報を電気信号に変換する、いわゆる圧力センサーの種類は多岐に渡っており、光、磁歪、弦振動、静電容量、インダクタンス等の物理量を用いて、さまざまなセンシングを行うことが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3では、PVDFフィルム、多孔性ポリプロピレンエレクトレットフィルム等の圧電フィルムを用いて、呼吸や脈拍、体動等を検出する技術が提案されている。
PVDFフィルム、多孔性ポリプロピレンエレクトレットフィルム等の圧電フィルムを用いたセンサーはピエゾ素子型センサーとも呼ばれ、センサーにかかる圧力によって生じた電圧を検出するものである。ピエゾ素子型センサーは一般に圧力変化が起きるタイミングでパルス状の信号を出力するため、圧力や荷重が変化するような刺激に関する情報(以下「動的情報」ともいう)を得ることができるが、一定の圧力や荷重がかかり続ける刺激に関する情報(以下「静的情報」ともいう)を得ることは難しいと考えられていた。
【0004】
一方、特許文献4では、静加速度センサーを用いて体位を測定する技術が提案されており、当該静加速度センサーとしてピエゾ抵抗型センサーが例示されている。
ピエゾ抵抗型センサーは、圧力によるセンサー内部の抵抗変化を検出するものであり、静的情報を取得して圧力や荷重を定量化することができるが、動的情報を取得したり、瞬間的な圧力変化もしくは荷重変化に精度よく応答したりすることは難しかった。
【0005】
また、圧力や荷重を定量化する技術として、特許文献5では、ベッドに加わる荷重の変化をロードセルによって検出する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-187030号公報
【特許文献2】特開2008-93395号公報
【特許文献3】特開2010-51588号公報
【特許文献4】特開2006-271501号公報
【特許文献5】国際公開第2015/008677号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ヘルスケア分野、ロボティクス分野、及びハプティクス分野向けのセンサーにおいては、動的情報と静的情報の両方が要求される場合がある。例えば、ヘルスケア分野向けのセンサーでは、呼吸や脈拍、体動等の動的情報と、睡眠時の姿勢、寝ている位置等の静的情報の両方を取得することが求められる。
【0008】
従来、動的情報と静的情報の両方を取得するためには、動的情報が得られるピエゾ素子型センサーと、静的情報が得られるピエゾ抵抗型センサーを組み合わせたり、ロードセルを用いたりするなど、取得したい信号に応じてセンサーを配置する必要があった。
しかし、各分野においてセンサーの低コスト化及び省スペース化が要求されており、複数のセンサーによるハイブリッド化は避けられる傾向にあるため、ロードセルよりも安価で、かつ、複数種類のセンサーを使用しなくても、動的情報と静的情報の両方を取得できる技術が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、ロードセルよりも安価なピエゾ素子型センサー1つで静的情報も取得できる電子機器、並びに当該電子機器を備えるベッドセンサー及び棚用センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、ピエゾ素子型センサーの検出回路を工夫することで、ピエゾ素子型センサーを用いて静的情報を取得できることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 印加される圧力に応じた電圧を出力するピエゾ素子型センサーと、
前記ピエゾ素子型センサーの静電容量から前記ピエゾ素子型センサーに印加される継続的な圧力を検出する第1検出回路と、
を備える、電子機器。
[2] 前記第1検出回路に直列接続され、前記第1検出回路の検出結果を微分することで前記ピエゾ素子型センサーに印加される圧力の変化を検出する微分回路を更に備える[1]記載の電子機器。
[3] 前記ピエゾ素子型センサーの出力電圧から前記ピエゾ素子型センサーに印加される圧力の変化を検出する第2検出回路を更に備える[1]記載の電子機器。
[4] 前記ピエゾ素子型センサーに対し、前記第1検出回路を接続するのか、前記第2検出回路を接続するのかを切り替える切替回路を有する、[3]記載の電子機器。
[5] 前記ピエゾ素子型センサーは、エレクトレットフィルムを備える、[1]から[4]の何れかに記載の電子機器。
[6] 前記エレクトレットフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含有する、[5]記載の電子機器。
[7] 前記エレクトレットフィルムの圧縮弾性率は、1MPa以上20MPa以下である、[5]又は[6]記載の電子機器。
[8] 前記エレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮率が40%以上80%以下である、[5]から[7]の何れかに記載の電子機器。
[9] 前記エレクトレットフィルムに4.5Nの荷重をかけたときの静電容量の変化量が1pF以上である、[5]から[8]の何れかに記載の電子機器。
[10] [1]から[9]の何れかに記載の電子機器を備えるベッドセンサー。
[11] [1]から[9]の何れかに記載の電子機器を備える棚用センサー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロードセルよりも安価なピエゾ素子型センサー1つで静的情報も取得できるため、センサーの低コスト化及び省スペース化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態で用いられるセンサーの基本構成を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の第2実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の第3実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第4実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。
【
図6】実施例1のセンサー及び実施例2のセンサーにそれぞれ接続された第1検出回路で取得された出力電圧の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0014】
〔第1実施形態〕
〈電子機器〉
図1は、本発明の第1実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の電子機器1は、センサー10と第1検出回路20とを備えており、センサー10に印加される静的情報を検出する。ここで、静的情報は、一定の圧力や荷重がかかり続ける刺激に関する情報である。この静的情報は、センサー10に印加される継続的な圧力を示す情報ということもできる。ここで、継続的な圧力とは、時間に対して変化しない圧力や荷重、又は時間に対しての変化が微小な圧力や荷重とも言える。つまり、時間に対する変化率がゼロ、又はゼロと見なせる圧力や荷重とも言える。
【0015】
センサー10は、印加される圧力に応じた電圧を出力するセンサーである。このセンサー10は、ピエゾ素子型センサーであり、圧力変化が起きるタイミングでパルス状の信号を出力する。センサー10は、2つの出力端T11,T12を備える。出力端T11は、第1検出回路20に接続されており、出力端T12は、接地されている。センサー10は、圧力が印加された場合に、上記のパルス状の信号を出力端T11から出力する。なお、センサー10の詳細については後述する。
【0016】
第1検出回路20は、センサー10の静電容量からセンサー10に印加される静的情報を検出する。第1検出回路20としては、静電容量を検出することができる既存のもの(回路、機器、装置)を用いることができる。例えば、第1検出回路20として、LCRメータ又はCVコンバータを用いることができる。LCRメータは、L(インダクタンス)、C(キャパシタンス)、R(レジスタンス)等、主に受動部品の特性値を測定する装置である。CVコンバータは、被測定物の静電容量に比例した電圧を出力する機器である。第1検出回路20は、アナログ回路であってもよく、ディジタル回路であってもよい。第1検出回路20の出力端T20からは、センサー10に印加される静的情報を示す信号が出力される。
【0017】
〈センサー〉
センサー10は、前述の通り、ピエゾ素子型センサーである。このピエゾ素子型センサーは、センサーにかかる圧力によって生じた電圧を検出できるセンサーであれば特に限定されないが、例えば、セラミックス系又は有機ポリマー系の圧電材料を含むものが挙げられる。
セラミックス系の圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)等が挙げられる。
有機ポリマー系の圧電材料としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TrFE))、フッ化ビニリデンと四フッ化エチレン共重合体(P(VDF-TFE))、ポリ乳酸(PLA)等の永久双極子型材料、及びポリオレフィン系樹脂等からなるフィルムを帯電させたエレクトレットフィルム等が挙げられる。
中でも、圧電特性及びセンサーのフレキシブル性の観点から、有機ポリマー系の圧電材料が好ましく、エレクトレットフィルムがより好ましい。
【0018】
(1-1)エレクトレットフィルム
エレクトレットフィルムの種類は、圧電特性を有するものであれば特に限定されないが、圧電特性をより高める点から、多孔エレクトレットフィルムであることが好ましい。また、エレクトレットフィルムは、多孔フィルムを帯電させたものを使用することがより好ましい。
多孔エレクトレットフィルムを用いる場合、フィルムの多孔化方法は特に限定されないが、例えば、化学的又は物理的な発泡、延伸による多孔化が挙げられる。中でも、緻密な多孔構造が得られ、孔の形状も制御しやすい点から、延伸による多孔化が好ましい。
【0019】
エレクトレットフィルムの材料としては、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられるが、環境負荷が小さく、帯電処理を行いやすいという点で、ポリオレフィン系樹脂が好適に用いられる。
【0020】
(1-1-1)ポリオレフィン系樹脂
本実施形態におけるエレクトレットフィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましく、中でもポリプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。
なお、本発明において「主成分」とは、エレクトレットフィルムにおける含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であることをいう。含有量の上限は特に限定されず、100質量%以下であればよい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0022】
また、ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が好ましくは80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上、また、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下、さらに好ましくは97%以下である。
アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルでさらに規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0023】
また、ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、また、好ましくは10.0以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。
Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。
Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって、ポリスチレン換算値として測定される。
【0024】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは1.0g/10分以上、また、好ましくは15g/10分以下、より好ましくは10g/10分以下である。
MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。
なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0025】
なお、ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に好適に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」「WAYMAX」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル)など市販されている商品が挙げられる。
【0027】
[β晶活性]
本実施形態におけるエレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含有する場合、当該エレクトレットフィルムは、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることが好ましい。β晶を多く含むポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる無孔膜状物はそのものでも帯電処理後に優れた圧電性を示すが、延伸し多孔構造とすることでも、より優れた圧電性が得られる。β晶を利用した多孔構造形成は、延伸過程においてポリプロピレン系樹脂中のβ晶がα晶に転移する過程で多孔化が生じるため、多孔構造は緻密であり、従来公知である無機フィラーや非相溶性有機物の添加による多孔化と比較し、粒径や分散径に依存しないことから、多孔構造の調製に有利である。
【0028】
β晶を利用して多孔化されたフィルムは、多孔構造が緻密であり、空孔の表面積が大きくなるため、帯電処理においてより多くの電荷がトラップされやすくなる。多孔エレクトレットフィルムは空孔とマトリクスとの界面にトラップされた電荷によって圧電性を発現するため、フィルムの多孔構造が緻密であると圧電特性も良好になりやすい。また、多孔構造が緻密であると、空孔同士の距離が非常に短くなり、トラップされた電荷が相互のクーロン力によって固定されやすくなる。これにより、トラップされた電荷が放電しにくくなり、エレクトレットフィルムとしての特性も低下しにくくなる。
【0029】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムのβ晶活性は、延伸前の無孔膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の無孔膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細かつ均一な孔が多く形成されるため、機械特性に優れ、微細かつ均一な孔形成により優れた耐電圧性を得ることができる。
【0030】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、エレクトレットフィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断される。
具体的には、示差走査型熱量計で積層多孔性フィルムを40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に200℃から40℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、さらに40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断される。
【0031】
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施したエレクトレットフィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170~190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成及び成長させたエレクトレットフィルムについてX線回折測定を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°~16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性があると判断される。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643-652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361-404(1991)、Macromol.Symp.89,499-511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
【0032】
前述したポリプロピレン系樹脂のβ晶活性を得る方法としては、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及びβ晶核剤を添加する方法などが挙げられるが、本実施形態においては、β晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有するエレクトレットフィルムを得ることができる。
【0033】
前記β晶活性の程度については、β晶生成能を測定することで定量化ができる。エレクトレットフィルムに含まれるポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。
ポリプロピレン系樹脂のβ晶生成能が上記下限以上であることで、好適な圧電性を発揮することができる。上限については特に制限はないが通常100%以下である。
なお、β晶生成能は後述の方法により算出される。
【0034】
(1-1-2)β晶核剤
本実施形態におけるエレクトレットフィルムがポリプロピレン系樹脂を主成分として含有する場合、当該エレクトレットフィルムには、優れた圧電性を得るために、β晶核剤が含まれていることが好ましい。エレクトレットフィルムにβ晶核剤が含まれていることによって、β晶活性を得ることができる。本実施形態で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられる。β晶核剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0035】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二塩基カルボン酸又は三塩基カルボン酸のジエステル類又はトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期表第2族金属の酸化物、水酸化物又は塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物;などが挙げられる。
【0036】
これらのβ晶核剤の中でも、アミド化合物が好ましい。アミド化合物をエレクトレットフィルムにおいて使用することで圧電特性を高めることができる。アミド化合物としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド、N,N’-ジフェニルヘキサンジアミド等が挙げられ、中でもN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミドが好ましい。アミド化合物は極性が高いアミド基を有するため、結晶構造中に電荷を局在化させることができ、高い圧電特性を有すると考えられる。
一方で、アミド化合物のように極性が高い化合物は、極性が低いポリプロピレン系樹脂とは静電的な相互作用により分散性が悪く、凝集しやすいという問題がある。しかしながら、一般的なβ晶核剤は、一定の温度域ではポリプロピレン系樹脂に溶解するという特性を有している。この特性により、ポリプロピレン系樹脂にβ晶核剤が均一に分散され、β晶核剤由来の結晶が均一に析出されやすくなる。よって、極性が低いポリプロピレン系樹脂中に極性の高いアミド化合物の結晶が均一に分散され、高い圧電特性を有することができると考えられる。
【0037】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」などが挙げられる。
【0038】
本実施形態におけるエレクトレットフィルム中のβ晶核剤の含有量は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することができるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上、また、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以下である。β晶核剤の含有量がポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、多孔質フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保できる。そのため、多孔質フィルムに帯電処理することで所望の圧電性を有する多孔エレクトレットフィルムが得られる。一方、β晶核剤の含有量がポリプロピレン系樹脂100質量部に対して5.0質量部以下であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0039】
(1-1-3)その他の成分
本発明のエレクトレットフィルムが多孔質フィルムである場合、上記β晶核剤に替えて、又はβ晶核剤に加えて、発泡剤又は充填剤等を含んでいてもよい。
例えば、本発明のエレクトレットフィルムとして、化学的又は物理的な発泡によって多孔化されたフィルムを用いる場合は、主成分となる樹脂に対して、化学発泡剤、物理発泡剤、超臨界流体、熱膨張性マイクロカプセルなどを添加することが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明のエレクトレットフィルムとして、延伸によって多孔化されたフィルムを用いる場合は、主成分となる樹脂に対して非相溶である樹脂、又は無機充填剤を添加することも好ましい。無機充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、クレイ、カオリナイト、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0040】
また、本実施形態におけるエレクトレットフィルムには、その性質を損なわない程度に添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、滑剤、難燃剤、導電剤、エラストマーなどの各種添加剤が適宜含まれていてもよい。
【0041】
(1-1-4)エレクトレットフィルムの物性
本実施形態におけるエレクトレットフィルムの空孔率は、通常0%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、また、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、よりさらに好ましくは30%以下である。
エレクトレットフィルムの空孔率が上記上限以下であることにより、空孔がつぶれにくくなり、耐圧性が良好となる。また、エレクトレットフィルムの空孔率が上記下限以上であることにより、圧電特性をより高めることができる。なお、エレクトレットフィルムの空孔率は、後述の方法により算出される。
【0042】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、また、好ましくは1000μm以下、より好ましくは750μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
エレクトレットフィルムの厚さが上記下限以上であることにより、センサーに圧力が印加されたときのフィルムの厚み変化量の絶対値が大きくなるので、静的情報への感度が良好となる。また、エレクトレットフィルムの厚さが上記上限以下であることにより、センサーに圧力が印加されたときのフィルムの圧縮率が十分に担保されるので、静的情報への感度が良好となる。
エレクトレットフィルムの厚さを上記範囲内とすることで、圧電センサーを必要以上に厚くすることなく、圧電特性が良好となる。なお、エレクトレットフィルムの厚さは、後述の方法により測定される。
【0043】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムの圧縮弾性率は、好ましくは1MPa以上20MPa以下、より好ましくは2MPa以上16MPa以下、さらに好ましくは、3MPa以上12MPa以下、よりさらに好ましくは、4MPa以上8MPa以下である。
エレクトレットフィルムの圧縮弾性率が上記下限値以上であると、センサーのノイズを抑制することができ、ノイズに起因するセンサーの誤作動も生じにくくなる。また、エレクトレットフィルムの圧縮弾性率が上記上限値以下であると、センサーに圧力が印加されたときの静電容量の変化が大きくなるので、静的情報への感度が良好となる。
なお、エレクトレットフィルムの圧縮弾性率は、JIS K 7181に定める方法で算出できる。
【0044】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮率は、好ましくは40%以上80%以下、より好ましくは45%以上75%以下、さらに好ましくは、50%以上70%以下、よりさらに好ましくは、55%以上65%以下である。
エレクトレットフィルムの圧縮率が上記下限値以上であると、センサーに圧力が印加されたときの静電容量の変化が大きくなるので、静的情報への感度が良好となる。また、エレクトレットフィルムの圧縮率が上記上限値以下であると、エレクトレットフィルムを構成するマトリクス樹脂が圧縮によって座屈しにくくなる。
なお、エレクトレットフィルムの圧縮率は、エレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮量を、エレクトレットフィルムの厚みで割った値である。
【0045】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけた後の復元率は、好ましくは40%以上100%以下、より好ましくは50%以上95%以下である。
エレクトレットフィルムの復元率が上記範囲内であると、エレクトレットフィルムの耐圧性が良好となり、センサーの耐久性に優れる。
なお、エレクトレットフィルムの復元率は、エレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮量と、除荷して10分静置した後の厚みの増加量(復元量)とから、下記式で求められる。
復元率=(復元量/圧縮量)×100
【0046】
本実施形態におけるエレクトレットフィルムに4.5Nの荷重をかけたときの静電容量の変化量は大きいほど好ましく、好ましくは1pF以上、より好ましくは2pF以上である。
エレクトレットフィルムの静電容量の変化量が上記下限値以上であると、センサーに圧力が印加されたときの静電容量の変化が大きくなるので、静的情報への感度が良好となる。
【0047】
(1-2)電極
図2は、本発明の第1実施形態で用いられるセンサーの基本構成を示す分解斜視図である。
図2に示す通り、センサー10は、エレクトレットフィルム11と、少なくとも1対の電極12a,12bとを備えることが好ましい。
図2に示す通り、1対の電極12a,12bは、エレクトレットフィルム11を挟むように設けられることが好ましい。1対の電極12a,12bには、それぞれ、電極12a,12bから信号(電圧)を出力する信号取り出し線13a,13bが設けられる。この信号取り出し線13a,13bは、
図1に示す出力端T11,T12としてそれぞれ機能する。
【0048】
電極12a,12bは、導電性を有していればよく、アルミニウム箔、銅箔、銀箔、金箔、ニッケル箔、スズ箔、カーボンシートなどが好適に用いられる。
信号取り出し線13a,13bの種類は、特に限定されないが、導電性のワイヤーを絶縁材によって被覆したものが好ましい。導電性のワイヤーは、銅、アルミ等の導体からなるものが好ましい。絶縁材の材料としては、塩化ビニル、架橋ポリエチレン等が挙げられる。また、信号取り出し線13a,13bの径及び長さも、特に限定されず、センサー10のサイズ、電極12a,12bの種類等に応じて適宜選択することができる。
【0049】
電極12a,12bの厚みは、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
電極12a,12bの厚みが2μm以上であることで、電極12a,12bとして導電安定性を発現できる。一方で、電極12a,12bの厚みが100μm以下であることで、センサー10のフレキシブル性を高めることができる。
【0050】
また、センサー10の静電容量を調整する観点から、電極12aとエレクトレットフィルム11との間、及び、電極12bとエレクトレットフィルム11との間に空隙(エアーギャップ)が設けられているのが好ましい。空隙を設ける手段としては、電極とエレクトレットフィルムとを完全に接着せず、部分的に接着する方法や、電極とエレクトレットフィルムとの間に部分的にスペーサを設ける方法等が挙げられる。
【0051】
以上の通り、本実施形態では、ピエゾ素子型センサーであるセンサー10と、センサー10の静電容量から、センサー10に印加される継続的な圧力を検出する第1検出回路20と、を備えている。センサー10に設けられた電極12a,12bの間隔は、センサー10に印加される継続的な圧力によって変化し、電極12a,12bの間隔の変化に応じてセンサー10の静電容量も変化する。よって、第1検出回路20において、センサー10の静電容量を検出することで、センサー10に印加される継続的な圧力を検出することができる。このようにして、ロードセルよりも安価なピエゾ素子型センサー1つで静的情報を取得することができる。
【0052】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。なお、
図3においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図3に示す通り、本実施形態の電子機器2は、
図1に示す電子機器1に微分回路30を追加した構成である。このような電子機器2は、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報に加えて動的情報も取得するようにしたものである。
【0053】
微分回路30は、第1検出回路20の出力端T20に接続されている。つまり、微分回路30は、第1検出回路20に直列接続されている。微分回路30は、第1検出回路20の出力端T20から出力される信号を微分することで、センサー10に印加される圧力の変化を検出する回路である。つまり、微分回路30は、第1検出回路20の検出結果(静的情報)から動的情報を得るものである。微分回路30は、その検出結果を出力端T30から出力する。微分回路30は、周知である任意の微分回路を用いることができる。微分回路30は、アナログ回路であってもよく、ディジタル回路であってもよい。
【0054】
ここで、第1検出回路20の出力端T20から出力される信号は、センサー10から出力されるパルス状の信号を、いわば積分した信号(静的信号)である。これに対し、微分回路30の出力端T30から出力される信号は、第1検出回路20の出力端T20から出力される信号を微分した信号(動的信号)である。このため、本実施形態では、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報と動的情報とを取得することができる。
【0055】
以上の通り、本実施形態では、センサー10及び第1検出回路20に加えて、第1検出回路20に直列接続され、第1検出回路20の検出結果を微分することでセンサー10に印加される圧力の変化を検出する微分回路30を備えている。このため、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報と動的情報とを取得することができる。
【0056】
〔第3実施形態〕
図4は、本発明の第3実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。なお、
図4においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図4に示す通り、本実施形態の電子機器3は、
図1に示す電子機器1に第2検出回路40を追加した構成である。このような電子機器3は、
図3に示す電子機器2と同様に、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報に加えて動的情報も取得するようにしたものである。
【0057】
第2検出回路40は、抵抗41を備える回路であり、センサー10の出力電圧から、センサー10に印加される圧力の変化を検出する。つまり、第2検出回路40は、センサー10の出力電圧から動的情報を検出するものである。第2検出回路40は、第1検出回路20と同様に、センサー10の出力端T11に接続されている。つまり、第1検出回路20と第2検出回路40とは並列接続されている。
【0058】
第2検出回路40の抵抗41は、センサー10に並列接続されている。具体的に、抵抗41は、一端がセンサー10の出力端T11に接続され、他端が接地されている。抵抗41の一端(センサー10の出力端T11に接続された端部)が、第2検出回路40の出力端T40に接続されている。第2検出回路40は、その検出結果を出力端T40から出力する。第2検出回路40の入力インピーダンスは、例えば、0.1MΩ以上10MΩ以下である。
【0059】
ここで、第1検出回路20の出力端T20から出力される信号は、センサー10から出力されるパルス状の信号を、いわば積分した信号(静的信号)である。これに対し、第2検出回路40から出力される信号は、センサー10から出力されるパルス状の信号と同様の信号(動的信号)である。このため、本実施形態では、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報と動的情報とを取得することができる。
【0060】
以上の通り、本実施形態では、センサー10及び第1検出回路20に加えて、センサー10の出力電圧から、センサー10に印加される圧力の変化を検出する第2検出回路40を備えている。このため、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報と動的情報とを取得することができる。
【0061】
〔第4実施形態〕
図5は、本発明の第4実施形態による電子機器の要部構成を示すブロック図である。なお、
図5においては、
図4に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図5に示す通り、本実施形態の電子機器4は、
図4に示す電子機器3に切替回路50を追加した構成である。このような電子機器4は、
図4に示す電子機器3と同様に、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報に加えて動的情報も取得するようにしたものであるが、静的情報と動的情報とを選択的に取得するようにしたものである。
【0062】
切替回路50は、1つの入力端T50と2つの出力端T51,T52とを備え、入力端T50を出力端T51又は出力端T52に接続する回路である。切替回路50の入力端T50は、センサー10の出力端T11に接続されており、出力端T51は、第1検出回路20に接続されており、出力端T52は、第2検出回路40に接続されている。切替回路50によって、センサー10に第1検出回路20を接続させて静的情報を取得したり、センサー10に第2検出回路40を接続させて動的情報を取得したりすることができる。
【0063】
以上の通り、本実施形態では、センサー10、第1検出回路20、及び第2検出回路40に加えて、センサー10に対し、第1検出回路20を接続するのか、第2検出回路40を接続するのかを切り替える切替回路50を備えている。このため、ピエゾ素子型センサー1つで静的情報と動的情報とを選択的に取得することができる。
【0064】
以上説明した電子機器は、ベッドセンサー又は棚用センサーとして用いることができる。ベッドセンサーとして用いる場合は、例えば、フィルム状のセンサー10を、ベッドのマットレスの下側に配置することで、静的情報である常時圧と、動的情報である被験者のバイタルデータ(動的情報呼吸、脈初、体動等)を計測することが可能になる。また、棚用センサーとして用いる場合には、例えば、フィルム状のセンサー10を、棚上に配置することで、棚に載置されている物品の重量(静的情報)と、物品の重量変化(動的情報)とを計測することが可能になる。
【実施例0065】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の電子機器についてさらに詳しく説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0066】
<実施例1:多孔エレクトレットフィルム>
ポリオレフィン系樹脂としてホモポリプロピレン(「ノバテックPP FY6HA」、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)100質量部、β晶核剤としてN,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(「NU-100」、新日本理化(株)製)0.2質量部、酸化防止剤としてトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(「IRGANOX-B225」、BASF社製)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することでエレクトレットフィルム用樹脂組成物を得た。リップ開度1mmのTダイに繋がれた押出機に前記エレクトレットフィルム用樹脂組成物を投入して成形を行い、キャストロールに導かれて厚みが300μmの無孔膜状物を得た。その後、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、延伸温度100℃で横方向に7倍延伸し、多孔フィルムを得た。
得られた多孔フィルムをアース板に乗せ、ワイヤー電極を使用し、電極間距離20mmで-11kVの電圧をかけ帯電処理を行うことで、多孔エレクトレットフィルムを得た。
【0067】
得られた多孔エレクトレットフィルムの厚さは80μmであり、空孔率は18%であり、β晶生成能は80%であった。
なお、厚さは、1/1000mmのダイアルゲージを用いて無作為に10点測定して、平均値を求めた。
また、空孔率は、多孔エレクトレットフィルムを幅100mm×長さ100mmに切り出したものを測定用サンプルとし、測定用サンプルの実質量W1と、エレクトレットフィルム用樹脂組成物の密度に基づいて計算した空孔率が0%の場合の質量W0から、下記式に基づいて算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
β晶生成能は、以下に示す方法で行った多孔エレクトレットフィルムの示差走査熱量測定(DSC)より求めた。試験装置には、NETZSCH社製「DSC 204F1」を用いた。まず、窒素雰囲気下で40℃から200℃まで10℃/分で昇温し、1分間保持した後、40℃まで10℃/分で冷却した。1分保持後、再度10℃/分で昇温した際に観測される融解ピークについて、145~157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとし、以下の式により算出した。
β晶生成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ)〕×100
【0068】
また、上記多孔エレクトレットフィルムの圧縮弾性率は6MPaであり、多孔エレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮率は62%であり、復元率は55%であった。
なお、圧縮弾性率は、JIS K 7181に定める方法で算出した。
また、圧縮率は、試験温度23℃、圧縮速度207mN/secでエレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたときにおけるエレクトレットフィルムの圧縮変形量を測定して、エレクトレットフィルムの元の厚みで除すことで算出した。また、復元率は試験温度23℃、圧縮速度207mN/secでエレクトレットフィルムに4.9Nの荷重をかけたあと、同荷重で60秒間保持したあと除荷して10分間放置したあとのエレクトレットフィルム厚みを、エレクトレットフィルムの元の厚みで除すことで算出した。
【0069】
上記で得られた多孔エレクトレットフィルムを用いて、下記の方法によりピエゾ素子型センサーを作製した。
片面に接着層を有する導電性銅箔粘着テープ「E20CU」(DIC社製、電極厚み19μm、接着層厚み21μm)を5mm角に切り出し、接着層を介して銅箔を10mm角の保護フィルム(カプトンテープ、厚み50μm)の中央部に貼り付けることで電極付き保護フィルムを得た。この電極付き保護フィルム2枚を、2つの電極が互いに向かい合うように配置し、さらに6mm角に切り出した多孔エレクトレットフィルムを2つの電極の間に配置した。このとき、多孔エレクトレットフィルムが保護フィルムからはみ出さないようにした。また、前記保護フィルムと前記導電性銅箔粘着テープの接着層との間には、線幅0.56mmの信号取り出し電線(潤工社製、ラッピングワイヤー電線ジュンフロン)を各1本ずつ挟みこんだ。続いて、ヒートシーラーを用いて保護フィルムの端部同士を熱融着することで、実施例1のセンサーを得た。
【0070】
<実施例2:ポリフッ化ビニリデンフィルム>
圧電材料として厚さ80μmのポリフッ化ビニリデンフィルム(クレハKFピエゾフィルム、クレハ(株)製)を用いて、実施例1と同様の方法によりピエゾ素子型センサーを作製した。
ポリフッ化ビニリデンフィルムの圧縮弾性率は13.5MPaであり、ポリフッ化ビニリデンフィルムに4.9Nの荷重をかけたときの圧縮率は47%であり、復元率は96%であった。
【0071】
[試験:静的刺激]
実施例1及び実施例2のセンサーをロードセルの上に重ねて設置し、その上からロボットで4.5Nの加圧を行った。そして、実施例1のセンサーに接続された第1検出回路20の出力電圧の波形と、実施例2のセンサーに接続された第1検出回路20の出力電圧の波形とを取得した。ここで、ロードセルは、センサーに加わる荷重を測定するためのものである。第1検出回路20として、バンドー化学社製「C-STRETCHキット」を用いた。
【0072】
図6は、実施例1のセンサー及び実施例2のセンサーにそれぞれ接続された第1検出回路で取得された出力電圧の波形を示す図である。
図6に示すグラフでは、横軸に時間[sec]をとり、紙面左側の縦軸に静電容量[pF]をとり、紙面右側の縦軸に荷重(センサーに加わる荷重)[N]をとってある。
【0073】
図6において、符号WF1が付された波形は、実施例1のセンサーに接続された第1検出回路20で取得された出力電圧の波形であり、符号WF2が付された波形は、実施例2のセンサーに接続された第1検出回路20で取得された出力電圧の波形である。また、
図6において、符号WF0が付された波形は、ロボットによる加圧の状態を示すロードセルの出力波形である。
【0074】
図6を参照すると、実施例2のセンサーの静電容量よりも実施例1のセンサーの静電容量が大きいことが分かる。また、実施例1のセンサー及び実施例2のセンサーの何れも、4.5Nの荷重をかけたときの静電容量の変化量が1pF以上となっている。これにより、センサーの静電容量を測定することで、センサーに圧力がどの程度の時間加わり続けているのか(静的刺激)が確認できる。
【0075】
以上の結果より、従来の方法で圧電フィルムセンサーの出力電圧をモニタリングすることで動的情報が得られ、同時にセンサーの静電容量をモニタリングすることで静的情報が得られることが確認された。静的情報の感度はロードセルには劣るが、圧電フィルム、特に多孔エレクトレットフィルムの空孔率や厚み等のパラメータを変化させることで感度を改善することが可能になると考えられる。