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特開2024-129261製造支援方法、セメントクリンカの製造方法、及び、セメントクリンカの製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129261
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】製造支援方法、セメントクリンカの製造方法、及び、セメントクリンカの製造システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20240919BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038345
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】泉 達郎
(72)【発明者】
【氏名】末益 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤永 祐太
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることを可能にする。
【解決手段】セメントクリンカの製造装置による製造を支援する方法であって、前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含み、前記構築工程では、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルが構築される、製造支援方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカの製造装置による製造を支援する方法であって、
前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、
前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含み、
前記構築工程では、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルが構築される、製造支援方法。
【請求項2】
前記複数の状態パラメータの中には、前記対象状態についての前記基準時刻での状態を表す第1パラメータと、前記対象状態についての前記基準時刻よりも前の過去の状態を表す第2パラメータとが含まれている、請求項1に記載の製造支援方法。
【請求項3】
前記予測値を算出する時点を前記基準時刻とした場合での前記第1パラメータ及び前記第2パラメータそれぞれの値と、前記予測値の算出結果とに基づいて、前記製造装置の状態を診断する診断工程を更に含む、請求項2に記載の製造支援方法。
【請求項4】
前記複数の状態パラメータの中には、前記製造装置における1以上の状態についての実測可能な計測パラメータから、シミュレーション演算により得られる理論パラメータが含まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造支援方法。
【請求項5】
セメントクリンカの製造装置により、セメント原料を焼成してセメントクリンカを得る焼成工程と、
前記製造装置における製造を支援する支援工程と、を含み、
前記支援工程は、
前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、
前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含み、
前記構築工程では、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルが構築される、セメントクリンカの製造方法。
【請求項6】
セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する製造装置と、
前記製造装置における製造を支援する支援装置と、を備え、
前記支援装置は、
前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、
前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を実行し、
前記支援装置は、前記構築工程において、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルを構築する、セメントクリンカの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製造支援方法、セメントクリンカの製造方法、及び、セメントクリンカの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラントにおけるプロセス管理の支援装置が開示されている。この支援装置は、ニューラルネットワークを用いたクラシファイアを用いて、取得されたプロセスデータに対して、将来において適した操作端の設定値を特定する操作特定部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-33951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることが可能な製造支援方法、セメントクリンカの製造方法、及び、セメントクリンカの製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]セメントクリンカの製造装置による製造を支援する方法であって、前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含み、前記構築工程では、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルが構築される、製造支援方法。
【0006】
[2]前記複数の状態パラメータの中には、前記対象状態についての前記基準時刻での状態を表す第1パラメータと、前記対象状態についての前記基準時刻よりも前の過去の状態を表す第2パラメータとが含まれている、上記[1]に記載の製造支援方法。
【0007】
[3]前記予測値を算出する時点を前記基準時刻とした場合での前記第1パラメータ及び前記第2パラメータそれぞれの値と、前記予測値の算出結果とに基づいて、前記製造装置の状態を診断する診断工程を更に含む、上記[2]に記載の製造支援方法。
【0008】
[4]前記複数の状態パラメータの中には、前記製造装置における1以上の状態についての実測可能な計測パラメータから、シミュレーション演算により得られる理論パラメータが含まれている、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の製造支援方法。
【0009】
[5]セメントクリンカの製造装置により、セメント原料を焼成してセメントクリンカを得る焼成工程と、前記製造装置における製造を支援する支援工程と、を含み、前記支援工程は、前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含み、前記構築工程では、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルが構築される、セメントクリンカの製造方法。
【0010】
[6]セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する製造装置と、前記製造装置における製造を支援する支援装置と、を備え、前記支援装置は、前記製造装置における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、前記製造装置における1つの対象状態について、前記基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルを機械学習により構築する構築工程と、前記予測モデルを用いて、前記対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を実行し、前記支援装置は、前記構築工程において、前記複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、前記対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、前記予測モデルを構築する、セメントクリンカの製造システム。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることが可能な製造支援方法、セメントクリンカの製造方法、及び、セメントクリンカの製造システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、セメントクリンカの製造システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、予測モデルの一例を説明するための図である。
図5図5は、予測モデルの一例を説明するための図である。
図6図6(a)は、学習フェーズでの一連の処理の一例を示すフローチャートである。図6(b)は、評価フェーズでの一連の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
[セメントクリンカの製造システム]
図1には、一実施形態に係るセメントクリンカの製造システムが模式的に示されている。図1に示される製造システム1(セメントクリンカの製造システム)は、セメントクリンカを製造するシステムである。製造システム1により製造されるセメントクリンカは、セメントの中間製品である。セメントは、セメントクリンカと石膏とを混合する工程を経て製造される。製造システム1は、セメントクリンカを製造する工程と、その製造を支援する工程とを実行する。製造システム1は、製造装置10と、制御装置60とを備える。
【0015】
(セメントクリンカの製造装置)
製造装置10は、セメントクリンカ用の原料(以下、「セメント原料」という。)を焼成して、セメントクリンカを製造する装置である。製造装置10は、例えば、プレヒータ20と、セメントキルン40と、クリンカクーラ50と、を備える。
【0016】
プレヒータ20は、セメント原料の予熱及び仮焼を行う装置である。プレヒータ20は、例えば、サイクロンC1~C4と、原料供給部22と、仮焼炉24と、を有する。サイクロンC1~C4は、多段サイクロンを構成しており、ダクトを介して互いに直列に接続されている。サイクロンC1~C4は、下からこの順で配置されている。
【0017】
原料供給部22は、サイクロンC1~C4にセメント原料を供給する。原料供給部22は、例えば、サイクロンC3及びサイクロンC4を互いに接続するダクトに対して、セメント原料を供給する。プレヒータ20では、原料供給部22から投入されたセメント原料が、順次下方のサイクロンへ落下して、徐々に高温となるように予熱される。仮焼炉24は、仮焼バーナを用いてセメント原料を仮焼する。
【0018】
原料供給部22から供給されるセメント原料は、例えば、ミルを使用して以下の原料を粉砕するとともに混合することによって得られる。セメント原料としては、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、ハイドロケーキ、及び鉄源等が挙げられる。石炭灰は、石炭火力発電所等から発生するものであり、石炭灰として、シンダアッシュ、フライアッシュ、クリンカアッシュ、及びボトムアッシュが挙げられる。建設発生土としては、建設工事の施工に伴い副次的に発生する残土、泥土、及び廃土等が挙げられる。下水汚泥としては、汚泥のほか、これに石灰石を加えて乾粉化したもの、及び焼却残渣等が挙げられる。鉄源としては、銅からみ、及び高炉ダスト等が挙げられる。
【0019】
セメントキルン40は、プレヒータ20から供給されたセメント原料を焼成する装置である。セメントキルン40は、例えばロータリーキルン(回転窯)であり、横長の円筒状に形成されている。セメントキルン40は、水平面に対して僅かに勾配を付けて配置されている。製造装置10は、セメントキルン40内を加熱するためのキルンバーナ42を備える。キルンバーナ42は、セメントキルン40の一端側(相対的に低い側)に設けられている。
【0020】
セメントキルン40は、キルンバーナ42から供給される熱エネルギー(燃料)を用いてセメント原料の焼成を行う。具体的には、キルンバーナ42から熱エネルギーと酸素(例えば、空気)とがセメントキルン40内に供給され、この熱エネルギーが燃焼することによってセメント原料が焼成される。熱エネルギーは、気体、液体、又は固体のいずれの形態の熱エネルギーであってもよい。熱エネルギーは、アンモニア又は炭素含有の熱エネルギーであってもよい。熱エネルギーは、化石エネルギー、廃棄物、又はバイオマス等であってもよい。
【0021】
製造装置10は、入口フッド44、及びライジングダクト46を備える。入口フッド44は、セメントキルン40の他端側(相対的に高い側。いわゆる窯尻)に設けられている。入口フッド44は、プレヒータ20によって予熱及び仮焼されたセメント原料の受入れ通路として機能するとともに、セメントキルン40からの高温の排ガスの通路としても機能する。ライジングダクト46は、入口フッド44の上端部に設けられ、入口フッド44と仮焼炉24とを接続する。ライジングダクト46は、セメントキルン40からの高温の排ガスを、仮焼炉24を介してプレヒータ20に供給する。
【0022】
クリンカクーラ50は、セメントキルン40から排出されたセメントクリンカを冷却する装置である。クリンカクーラ50は、例えば高温のセメントクリンカを空気によって冷却し、冷却によって発生した高温ガスを仮焼炉24に供給する。
【0023】
以上に説明した製造装置10は一例であって、セメントクリンカの製造装置は、セメントクリンカを製造できれば、どのように構成されていてもよい。製造装置10は、仮焼炉24を有していなくてもよい。プレヒータ20は、3段以下又は5段以上のサイクロンを有してもよい。製造装置10は、ライジングダクト46等から高温の排ガスの一部を抽気して、塩素分等の揮発成分を回収する塩素バイパス設備を備えてもよい。
【0024】
(制御装置)
制御装置60は、製造装置10の動作を制御する装置である。図2には、制御装置60のハードウェア構成が示されている。制御装置60は、例えば、本体62と、モニタ64と、入力デバイス66と、を有する。本体62は、1以上のコンピュータによって構成される。本体62は、回路70を有する。回路70は、1以上のプロセッサ72と、メモリ74と、ストレージ76と、入出力ポート78と、タイマー79と、を含む。
【0025】
ストレージ76は、本体62の後述する各機能モジュールを構成するためのプログラムを記録する。ストレージ76は、ハードディスク、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、又は光ディスク等の、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。メモリ74は、ストレージ76からロードされたプログラム、及び、プロセッサ72の演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ72は、メモリ74と協働してプログラムを実行することで、各機能モジュールを構成する。入出力ポート78は、プロセッサ72からの指令に応じ、モニタ64、入力デバイス66、及び製造装置10の間で電気信号の入出力を行う。タイマー79は、例えば一定周期の基準パルスをカウントすることで経過時間を計測する。
【0026】
モニタ64は、本体62から出力された情報を表示するための装置である。モニタ64は、情報の表示が可能なものであれば、いかなるものであってもよく、その具体例としては液晶パネルが挙げられる。入力デバイス66は、本体62に情報を入力するための装置である。入力デバイス66は、所望の情報を入力可能であれば、いかなるものであってもよく、その具体例としてはキーパッド、及びマウスが挙げられる。モニタ64及び入力デバイス66は、タッチパネルとして一体化されていてもよい。例えばタブレットコンピュータのように、本体62、モニタ64、及び入力デバイス66が一体化されていてもよい。
【0027】
制御装置60は、例えば、オペレータからの指示を示す入力情報に基づく運転条件に従って、製造装置10の動作を制御する。制御装置60は、製造装置10の複数の状態(複数の運転状態)を示す各種の情報を、製造装置10から取得してもよい。製造装置10には、複数の運転状態を示す情報を検出するための複数のセンサが設けられてもよい。製造装置10の状態(運転状態)を示す情報としては、例えば、各サイクロンのガス出口でのガス温度、各サイクロンのガス出口での圧力、各サイクロンのガス出口での特定成分の濃度(例えば、酸素濃度)、各サイクロンの原料出口での原料温度、セメントキルン40の窯尻でのガス温度、窯尻での圧力、窯尻でのガス内の特定成分の濃度、及び、セメントキルン40から排出されたセメントクリンカの温度が挙げられる。
【0028】
オペレータは、製造装置10から得られる各種の情報の少なくとも一部を監視しながら、制御装置60に対して指示を入力してもよい。一例では、オペレータは、製造装置10の運転が正常状態に維持されるように、製造装置10から得られる各種の情報を見て、制御装置60に対して上記運転条件に係る指示を入力してもよい。オペレータからの上記運転条件に係る指示には、原料供給部22からのセメント原料の供給量、セメント原料を焼成するための熱エネルギー(例えば、微粉炭)の供給量、又は、キルンバーナ42からの燃焼用空気の導入量が含まれてもよい。熱エネルギーの供給量等の運転条件に係る指示を表す指令値も、製造装置10の状態(運転状態)を示す情報に含まれ得る。
【0029】
制御装置60は、製造装置10の動作を制御する機能に加えて、製造装置10によるセメントクリンカの製造を支援する機能を有してもよい。この場合、制御装置60が、支援装置を構成する。制御装置60が実行する製造支援の一例として、製造装置10における特定の運転状態についての将来の予測値を、オペレータに提示することが挙げられる。
【0030】
図3には、制御装置60の機能構成が示されている。制御装置60は、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、例えば、条件設定部82と、製造制御部84と、データ取得部86と、データ蓄積部88と、モデル構築部92と、予測演算部94と、結果出力部96と、を有する。これらの機能モジュールが実行する処理は、制御装置60が実行する処理に相当する。
【0031】
条件設定部82は、製造装置10の運転条件を設定する機能モジュールである。条件設定部82は、オペレータからの指示を示す入力情報に基づいて、製造装置10の運転条件の少なくとも一部を設定してもよい。製造制御部84は、条件設定部82により設定された運転条件に従って、製造装置10を制御する機能モジュールである。
【0032】
データ取得部86は、製造装置10における複数の状態を示す各種の情報を、製造装置10から取得する機能モジュールである。データ取得部86は、製造装置10に設けられた各種のセンサから、所定の計測周期で、製造装置10における複数の状態を示す各種情報を取得してもよい。製造装置10における複数の状態を示す各種情報が、製造装置10に対する制御に利用されてもよく、オペレータによる製造装置10の監視に利用されてもよい。データ取得部86は、所定の計測周期で、運転条件に係る指示を表す指令値を取得してもよい。
【0033】
データ蓄積部88は、データ取得部86により取得された上記各種情報を蓄積する機能モジュールである。データ蓄積部88は、各種情報が得られた計測周期(時刻)に対応付けて、これらの各種情報を蓄積してもよい。これにより、製造装置10における1つの状態を示す情報に着目した場合、その情報に関して時系列データが得られる。すなわち、複数の状態それぞれについて、時間に対する状態の変化を表す時系列データが得られる。
【0034】
モデル構築部92は、データ蓄積部88により蓄積された各種情報に係る時系列データから、機械学習により予測モデルを構築する機能モジュールである。以下、モデル構築部92により構築される予測モデルを「予測モデルM」と表記する。予測モデルMは、製造装置10における複数の状態のうち任意に選択された1つの状態(以下、「対象状態」という。)について、将来の状態を予測するためのモデルである。どの状態が対象状態であるかは、予測モデルMを構築する前に、オペレータにより任意に設定される。
【0035】
モデル構築部92は、複数の状態パラメータと対象パラメータとの関係を示す予測モデルMを機械学習により構築する。複数の状態パラメータは、製造装置10における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数のパラメータである。状態パラメータは、説明変数とも称することができる。対象パラメータは、製造装置10における1つの対象状態について、上記基準時刻よりも後の将来の状態を表すパラメータである。対象パラメータは、目的変数とも称することができる。予測モデルMは、基準時刻での複数の状態(例えば、ガス温度、圧力等)を表す2以上の状態パラメータの値と、基準時刻よりも前での複数の状態を表す2以上の状態パラメータの値との入力に対して、対象パラメータの値を出力可能なモデルである。
【0036】
基準時刻より前の過去の状態には、2以上の過去の時点での状態が含まれてもよい。一例では、基準時刻よりも前の過去の状態には、基準時刻よりも30分前の状態と、基準時刻よりも60分前の状態とが含まれる。基準時刻よりも後の将来の状態は、基準時刻よりも1分~60分のうちの任意に設定された時間の後の状態であってもよい。一例では、基準時刻よりも後の将来の状態は、5分後、10分後、15分後、30分後、又は60分後の状態である。
【0037】
複数の状態パラメータの中には、対象状態についての基準時刻での状態を表す第1パラメータと、対象状態についての基準時刻よりも前の過去の状態を表す第2パラメータとが含まれてよい。一例では、対象状態が、セメントキルン40の窯尻のガス温度(以下、単に「窯尻ガス温度」という。)に設定されている場合、予測モデルMは、窯尻ガス温度の30分後の予測値を出力する。そして、予測モデルMを構築する際に利用する複数の状態パラメータには、30分前の窯尻ガス温度と、60分前の窯尻ガス温度とが含まれる。
【0038】
ここで、製造装置10における各種の状態を、「x1」、「x2」、・・・、「xK」(Kは、2以上の整数)のように表記する。そして、m分前の状態を、「xk(-m)」(mは、1以上の整数、kは、1~Kのいずれかの整数)のように表記し、基準時刻の状態を「xk(0)」のように表記し、m分後の状態を、「xk(+m)」のように表記する。以下の表1には、複数の状態パラメータ及び対象パラメータの一例が示されている。なお、表1に示される各種パラメータは、本開示の内容の理解を容易にするために例示するものである。
【0039】
【表1】
【0040】
上記表1に示されるように、本開示で説明する複数のパラメータでは、同じ物理量(例えば、同じ計測値)であっても、基準時刻からの時間が異なっているものは、異なるパラメータとして取り扱う。例えば、窯尻ガス温度に着目した場合、基準時刻での窯尻ガス温度[x1(0)]、30分前の窯尻ガス温度[x1(-30)]、60分前の窯尻ガス温度[x1(-60)]、及び30分後の窯尻ガス温度[x1(+30)]は、異なるパラメータ(変数)である。
【0041】
表1に示される例を用いると、予測モデルMは、x1(0)~x10(0)、x1(-30)~x10(-30)、及びx1(-60)~x10(-60)と、x1(+30)との関係を示すモデルである。この場合、モデル構築部92は、x1(0)~x10(0)、x1(-30)~x10(-30)、及びx1(-60)~x10(-60)の入力に対して、x1(+30)の出力が可能となるように機械学習により予測モデルMを構築する。
【0042】
機械学習とは、機械(コンピュータ)が与えられた情報に基づいて反復的に学習することで、法則又はルールを自律的に見つけ出す手法をいう。予測モデルMは、アルゴリズム及びデータ構造を用いて構築することができる。予測モデルMは、木構造(ツリー図)によりデータを分析する手法である決定木(decision tree)を用いて実現される。予測モデルMは、与えられた入力データに対して、順次条件を設けて、想定される結果へと分岐していくことで、予測値を出力する。
【0043】
予測モデルMでは、複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、対象パラメータとが、決定木(決定木アルゴリズム)を用いて関連付けられる。予測モデルMにおいて対象パラメータとの関連付けに利用される1以上のパラメータは、複数の状態パラメータの中から機械学習により選択される。決定木アルゴリズムとして、LightGBM(Light Gradient Boosting Machine)が用いられてもよい。なお、決定木アルゴリズムとして、LightGBMに代えて、XGBoost(eXtreme Gradient Boosting)又はRandomForestが用いられてもよい。
【0044】
モデル構築部92は、機械学習の入力として与えられるデータと、機械学習の出力に関する正解データ(対象パラメータの正解値)とを用いて機械学習を行うことで、上記対象状態についての将来の状態を予測するための予測モデルMを自律的に構築してもよい。機械学習の学習用データにおける入力は、複数の状態パラメータの種々のデータセットである。機械学習の学習用データにおける入力に係る種々のデータセットでは、各パラメータの値を得た際の基準時刻が異なっている。機械学習の学習用データにおける出力は、対象パラメータを示すデータ(数値)である。
【0045】
モデル構築部92は、例えば、複数の状態パラメータそれぞれの値と状態パラメータの正解値とからなるデータセットを複数用意する。そして、モデル構築部92は、その複数のデータセットを用いて、対象パラメータが未知の複数の状態パラメータから、対象パラメータの値を得ることが可能なモデルを反復的に学習する。予測モデルMを自律的に構築する段階は、学習フェーズに相当する。学習フェーズが、製造装置10によりセメントクリンカが製造される生産フェーズの初期段階で行われてもよい。
【0046】
図4及び図5には、予測モデルMにおける分析過程の一例を可視化して表すツリー図が示されている。図4及び図5では、紙面の都合上、2つに分けられているが、1つの分析過程が2枚の図面により示されており、一部の分析過程が省略されている。決定木を用いたアルゴリズムでは、ある条件に従って、1つのデータ群が2つのデータ群に段階ごとに分割されるが、各段階のことを、上位から順に「第1段階」、「第2段階」、及び「第3段階」のように称する。また、条件により分割又は分岐を行う箇所を「ノード(条件ノード)」と称する。
【0047】
以下、図4及び図5に示される予測モデルMの一例について説明する。図4及び図5において、「G1」等の「G」と数値との組み合わせは、データ群の名称を表し、Nは、データ群に含まれるデータセットの数を表す。また、「Th1」等の「Th」と数値との組み合わせは閾値を表し、「<Th1」等は閾値よりも小さいことを表し、「≧Th1」等は閾値以上であることを表す。
【0048】
対象状態は、30分後の窯尻ガス温度であるx1(+30)に設定されている。そして、複数の状態パラメータとして、表1に示されるx1(0)~x10(0)、x1(-30)~x10(-30)、及びx1(-60)~x10(-60)が用いられている。最初に、モデル構築部92は、基準時刻が互いに異なる50個の学習用のデータセットを準備する。例えば、モデル構築部92は、基準時刻を10分単位でずらしながら、50個のデータセットを準備する。50個のデータセットに含まれる各データセットは、x1(+30)の正解値と、その正解値を得た際のx1(0)~x10(0)、x1(-30)~x10(-30)、及びx1(-60)~x10(-60)それぞれの値とからなる。
【0049】
第1段階では、50個のデータセットであるデータ群G1が、機械学習により選択された1つの状態パラメータによって、2個のデータ群であるデータ群G21及びデータ群G22に分けられる。第1段階では、x3(0)が閾値Th1よりも小さいか、又は閾値Th1以上であるかの条件によって、データ群G1が、2つのデータ群に分けられる。閾値Th1についても、機械学習により自律的に設定される。
【0050】
図4において、第1段階で、x3(0)の閾値Th1によってデータ群G1が分けられる様子が模式的に示されている。データ群G1に関して、横軸がx3(0)であり、縦軸がx1(+30)である散布図が示されており、データ群G1に含まれる各データセットでの値がプロットされている。第1段階では、分割(分岐)の基準としてx3(0)が用いられているため、「x3(0)-x1(+30)」の散布図が示されているが、各データセットは、x3(0)以外の状態パラメータの値も有している。
【0051】
第1段階で分けられるデータ群G21は、データ群G1のうちのx3(0)が閾値Th1よりも小さい複数のデータセットからなり、データ群G22は、データ群G1のうちのx3(0)が閾値Th1以上である複数のデータセットからなる。データ群G21のデータセットの個数と、データ群G22のデータセットの個数とは、互いに同じであってもよく、互いに異なってもよい。閾値Th1の設定によって、データ群G21及びデータ群G22の個数同士の関係は異なる。
【0052】
第2段階では、データ群G21及びデータ群G22のそれぞれが、第1段階と同様に、機械学習よりに選択された状態パラメータと閾値とによって、2つのデータ群に分けられる。第2段階で選択された状態パラメータは、第1段階で選択された状態パラメータと異なっていてもよく、同じであってもよい。データ群G21及びデータ群G22の間で、それらのデータ群を2つに分けるために選択される状態パラメータが互いに異なっていてもよく、同じであってもよい。図4に示される例では、データ群G21を2つに分けるためにx3(0)が選択され、データ群G22を2つに分けるためにx3(0)が選択されている。
【0053】
第2段階において、データ群G21が、データ群G31とデータ群G32とに分けられ、データ群G22が、データ群G33とデータ群G34とに分けられる。第3段階でも、第1段階及び第2段階と同様にデータ群が2つに分けられるため、詳細な説明は省略する。第3段階では、第1段階及び第2段階と異なり、データ群G31を2つに分けるためにx1(-30)が用いられている。そのため、第2段階で示すデータ群G21の散布図での閾値Th21の左側における分布と、第3段階で示すデータ群G31の散布図との間で、各データセットでのプロットの位置が異なっている。
【0054】
図5には、データ群G31及びデータ群G32についての第4段階以降での分岐が示されている。なお、データ群G33及びデータ群G34についての第4段階以降での分岐は、省略されている。第3段階でデータ群G31を分けることによって、データ群G41とデータ群G42とが生成されている。第3段階でデータ群G32を分けることによって、データ群G43とデータ群G44とが生成されている。第4段階において、データ群G41については2つのデータ群に分けられていない。すなわち、データ群G41は、決定木アルゴリズムにおける「葉」又は「終点ノード」に相当する。
【0055】
第4段階では、葉に相当するデータ群以外のデータ群に関して、前の段階と同様に、選択された状態パラメータと閾値とによって2つのデータ群に分けられている。第4段階での分岐によって、葉に相当するデータ群G51,G53,G54,G55,G56が生成されている。第5段階では、データ群G52が、x3(-60)の閾値Th52によって、葉に相当するデータ群G61とデータ群G62とに分けられている。以上のように、葉が生成される段階(深さ)が、葉によって異なっていてもよい。
【0056】
葉に相当するデータ群ごとに、そのデータ群に含まれるx1(+30)の1以上の値によって、x1(+30)の予測値を定めることができる。葉に相当するデータ群に含まれるx1(+30)の1以上の値の算術平均が、その葉における予測値に設定されてもよい。例えば、データ群G41には3個のデータセットが含まれており、これら3個のデータセットでのx1(+30)の値の算術平均が、データ群G41に対応する葉における予測値に設定される。
【0057】
モデル構築部92は、どのような条件に従って、対象パラメータとの関連付けを行う状態パラメータの選択及び閾値の設定を行って、葉に相当するデータ群までの分割(分岐)を行ってもよい。モデル構築部92は、例えば、葉の数が最も多くなるように、状態パラメータの選択及び閾値の設定を行って、葉に相当するデータ群までの分割(分岐)を行ってもよい。複数の葉の間では、その葉が表すx1(+30)の予測値が異なっている。
【0058】
学習フェーズでは、学習用のデータセットが、段階ごとの条件に従って、2つのデータ群に分けられている。予測モデルMを用いてx1(+30)の予測値を得る評価フェーズでは、与えられた入力データ(複数の状態パラメータ)が、段階ごとの条件に従って、どの葉に分類されるかが評価される。各葉はx1(+30)の予測値を有しているので、複数の状態パラメータそれぞれの値に応じて、x1(+30)の予測値を得ることができる。なお、予測モデルMでは、複数の状態パラメータの中の選択された一部のパラメータが、対象パラメータと関連付けられている。しかしながら、対象パラメータと関連付けられる1以上のパラメータは、複数の状態パラメータ(候補のパラメータ群)の中から選択されるので、予測モデルMが、複数の状態パラメータと対象パラメータとの関係を示すものには変わりがない。
【0059】
図3に戻り、予測演算部94は、予測モデルMを利用して、上記対象状態についての将来の状態を予測する機能モジュールである。予測演算部94は、評価時点で得られている製造装置10の各種状態を示す情報と、予測モデルMとに基づいて、対象状態についての将来の予測値を算出する。予測演算部94が、予測モデルMを用いて対象状態についての将来の予測値を算出する段階は、評価フェーズに相当する。
【0060】
評価時点で得られている製造装置10の各種状態を示す情報について、学習フェーズで得られる情報と区別するために、「評価用の複数の入力パラメータ」と称する。評価用の複数の入力パラメータは、学習フェーズで用いた複数の状態パラメータに対応する。一例では、評価用の複数の入力パラメータの値は、x1(0)~x10(0)、x1(-30)~x10(-30)、及びx1(-60)~x10(-60)の評価時点での値である。評価用の複数の入力パラメータの値では、評価時点が基準時刻となる。この場合、例えば、x1(-30)の評価時点での値は、評価時点よりも30分前のx1の値である。
【0061】
図4及び図5に示される予測モデルMが構築される場合を例に、予測演算部94による予測を説明する。予測演算部94は、最初に、評価用の複数の入力パラメータのうち、x3(0)の評価時点での値と閾値Th1とを比較する。仮に、x3(0)の評価時点での値が閾値Th1よりも小さい場合、演算ステップが、データ群G21に対応するノードに進み、予測演算部94は、x3(0)の評価時点での値と閾値Th21とを比較する。仮に、x3(0)の評価時点での値が閾値Th21以上である場合、演算ステップが、データ群G32に対応するノードに進み、予測演算部94は、x1(0)の評価時点での値と閾値Th32とを比較する。
【0062】
そして、仮に、x1(0)の評価時点での値が、閾値Th32よりも小さい場合、演算ステップが、データ群G43に対応するノードに進み、予測演算部94は、x5(0)の評価時点での値と閾値T43とを比較する。仮に、x5(0)の評価時点での値が、閾値Th43よりも小さい場合、予測演算部94は、データ群G53に対応する葉(終点ノード)が有するx1(+30)の算術平均を、x1(+30)の予測値として取得する。以上のように、評価用の複数の入力パラメータの値から、予測モデルMを利用して、対象パラメータ(例えば、x1(+30))の予測値を得ることができる。
【0063】
予測演算部94は、複数の状態パラメータの少なくとも一部に関して、評価用の値を得てもよい。予測演算部94は、複数の状態パラメータの中から、予測モデルMにおいてノードでの判定に利用されている1以上の状態パラメータに関して、評価用の値を取得してもよい。なお、予測モデルMに利用される状態パラメータの種類に関係なく、評価フェーズにおいて、制御装置60は、複数の状態パラメータの全てについて、所定の周期で計測値等を得ていてもよい。
【0064】
結果出力部96は、予測演算部94による予測結果を出力する機能モジュールである。結果出力部96は、例えば、予測演算部94による予測結果をモニタ64に出力する。これにより、予測演算部94による予測結果がモニタ64に表示されるので、オペレータは、製造装置10における複数の状態の現在値及び過去値に加えて、対象状態について将来の予測値を確認することができる。
【0065】
[セメントクリンカの製造方法]
続いて、セメントクリンカの製造方法の一例として、製造システム1において実行される製造方法について説明する。この製造方法には、製造装置10においてセメントクリンカを製造する工程(以下、「製造工程」という。)と、制御装置60により製造装置10における製造を支援する工程(以下、「支援工程」という。)とが含まれる。
【0066】
(製造工程)
製造工程は、例えば、予熱仮焼工程と、焼成工程と、冷却工程と、を含む。これらの工程は、少なくとも部分的に重複した期間においてそれぞれ実行される。予熱仮焼工程は、プレヒータ20において、セメント原料を予熱及び仮焼する工程である。予熱仮焼工程では、サイクロンC1~C4において、セメントキルン40からの排ガス等を含む高温のガスにより、セメント原料が予熱される。また、予熱仮焼工程では、仮焼炉24において、セメントキルン40からの排ガスと、仮焼炉24の内部に供給される1種以上の熱エネルギーとによって、セメント原料が仮焼される。
【0067】
焼成工程は、セメントキルン40において、キルンバーナ42からの燃焼ガスにより、セメント原料の焼成を行う工程である。焼成工程において、セメント原料が焼成されることで、セメントクリンカが生成される。セメントキルン40で生成されたセメントクリンカは、クリンカクーラ50に排出される。冷却工程は、クリンカクーラ50において、セメントクリンカを冷却する工程である。
【0068】
(支援工程)
支援工程(製造支援方法)は、構築工程と、予測工程と、を含む。構築工程は、学習フェーズにおいて実行され、予測工程は、評価フェーズにおいて実行される。支援工程では、制御装置60が、構築工程と予測工程とを実行してもよい。
【0069】
構築工程は、予測モデルMを機械学習により構築する工程である。構築工程では、製造装置10における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、製造装置10における1つの対象状態について、基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルMが構築される。また、構築工程では、複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、予測モデルMが構築される。
【0070】
構築工程において予測モデルMを構築する際に、複数の状態パラメータの中には、対象状態についての基準時刻での状態を表す第1パラメータと、対象状態についての基準時刻よりも前の過去の状態を表す第2パラメータとが含まれてもよい。この場合、予測モデルMによっては、条件ノードにおいて、対象状態自身の現在値及び過去値を表す第1パラメータと第2パラメータとの少なくとも一方が用いられる。
【0071】
予測工程は、予測モデルMを用いて、対象状態の将来の予測値を算出する工程である。予測工程では、複数の状態パラメータに対応する評価用の複数の入力パラメータの取得結果と、予測モデルMとに基づいて、対象状態の将来の予測値が算出される。予測工程では、複数の入力パラメータのうちの、予測モデルMにおけるノードでの条件に利用されている1以上のパラメータの評価時点での値が、予測モデルMに入力されることで、対象状態の予測値が得られてもよい。
【0072】
支援工程は、診断工程を含んでもよい。診断工程は、対象状態の予測値を算出する時点(評価時点)を基準時刻とした場合での上記第1パラメータ及び上記第2パラメータそれぞれの値と、予測値の算出結果とに基づいて、製造装置10の状態を診断する工程である。制御装置60の予測演算部94が、診断工程を実行してもよい。診断工程では、例えば、対象状態の評価時点での状態を表す値(第1パラメータの値)、対象状態の評価時点よりも過去の状態を表す値(第2パラメータの値)、及び、予測工程で求めた予測値とに基づいて、時間変化に対する対象状態の値の変化を表す直線の傾きが算出される。
【0073】
そして、診断工程では、傾きの算出値と所定値との比較結果に基づき、製造装置10の状態の診断が行われてもよい。一例では、傾きが所定値よりも小さい場合に、製造装置10の状態が安定していると判定されてもよく、傾きが所定値以上である場合に、製造装置10の状態が注意すべき状態であると判定されてもよく、又は、危険な状態であると判定されてもよい。
【0074】
支援工程は、出力工程を含んでもよい。出力工程は、予測工程での対象状態についての予測値の算出結果を出力する工程である。出力工程では、予測値に加えて、診断工程での診断結果が出力されてもよい。出力工程では、例えば、予測値の算出結果等を示す情報が、モニタ64に出力される。
【0075】
続いて、図6(a)及び図6(b)を参照しながら、支援工程の一例について更に説明する。図6(a)は、学習フェーズにおいて制御装置60が実行する一連の処理を示すフローチャートである。この一連の処理が開始される時点において、製造装置10の運転は開始されている。
【0076】
図6(a)に示されるように、最初に、制御装置60が、ステップS11を実行する。ステップS11では、例えば、データ取得部86が、製造装置10における複数の状態それぞれについて、センサによる計測値、及び指令値の取得を開始する。そして、例えば、データ蓄積部88が、取得された計測値及び指令値を、取得した時刻を示す情報に対応付けたうえで蓄積(記憶)することを開始する。
【0077】
次に、制御装置60は、ステップS12を実行する。ステップS12では、例えば、制御装置60が、ステップS11の実行開始から、所定時間が経過するまで待機する。所定時間は、予め設定されており、予測モデルMを構築するための学習用のデータが準備できる程度の期間に設定されている。所定時間は、数時間であってもよく、1日であってもよく、数日であってもよい。ステップS12の実行により、製造装置10における複数の状態に関する計測値及び指令値の取得が継続される。データ取得部86は、所定周期(例えば、1分~数分単位で)、計測値等の取得を繰り返してもよい。
【0078】
次に、制御装置60は、ステップS13を実行する。ステップS13では、例えば、モデル構築部92が、予測モデルMを構築するための学習用のデータを準備する。モデル構築部92は、基準時刻が互いに異なる複数のデータセット(例えば、100個~1000個のデータセット)を準備してもよい。複数のデータセットにおける各データセットは、上記複数の状態パラメータそれぞれの値と、上記対象パラメータの正解値とからなる。
【0079】
次に、制御装置60は、ステップS14を実行する。ステップS14では、例えば、モデル構築部92が、ステップS13で準備した複数のデータセットに基づいて、複数の状態パラメータと対象パラメータとの関係を示す予測モデルMを構築する。構築された予測モデルMは、制御装置60において記憶される。以上により、学習フェーズでの一連の処理が終了する。
【0080】
図6(b)は、評価フェーズにおいて制御装置60が実行する一連の処理を示すフローチャートである。この一連の処理が実行される際に、製造装置10の運転は継続されており、製造装置10における複数の状態についての計測値及び指令値の取得は、継続して行われている。
【0081】
この一連の処理では、最初に、制御装置60が、ステップS21を実行する。ステップS21では、例えば、データ取得部86が、評価用の1以上のパラメータを取得する。データ取得部86は、予測モデルMに含まれる条件ノードで用いられている1以上の状態パラメータに関して、現時点を基準時刻とした場合での値を取得してもよい。
【0082】
次に、制御装置60は、ステップS22,S23を実行する。ステップS22では、例えば、予測演算部94が、ステップS21で得られた1以上のパラメータの取得結果と、学習フェーズで構築された予測モデルMとに基づいて、対象状態についての予測値を算出する。ステップS23では、例えば、予測演算部94が、対象状態についての現時点よりも前の過去の状態を表す値、現時点での状態を表す値、及び、ステップS22で得られた予測値と、に基づいて、製造装置10の状態を診断する。
【0083】
次に、制御装置60は、ステップS24を実行する。ステップS24では、例えば、結果出力部96が、ステップS22で算出された予測値、及び、ステップS23での診断結果を示す情報をモニタ64に出力する。オペレータは、モニタ64に表示された予測値及び診断結果を見て、入力デバイス66を介して、製造装置10の運転に係る指示を制御装置60に入力してもよい。制御装置60は、所定の評価周期(例えば、5分~30分単位)で、ステップS21~S24の一連の処理を繰り返してもよい。
【0084】
[変形例]
図6(a)及び図6(b)それぞれに示される一連の処理は一例であり、適宜変更可能である。上記一連の処理において、制御装置60は、1つのステップと次のステップとを並列に実行してもよく、上述した例とは異なる順序で各ステップを実行してもよい。制御装置60は、上述した例とは異なる内容のステップを実行してもよい。
【0085】
上述の例では、予測モデルMに対する入力の候補(ノードでの条件の候補)に対応する複数の状態パラメータには、製造装置10の状態に関する計測値又は指令値を表すパラメータが含まれる。複数の状態パラメータの中には、製造装置10における1以上の状態についての実測可能な計測パラメータから、シミュレーション演算により得られる理論パラメータが含まれてもよい。理論パラメータによって表される状態は、例えば、製造装置10において計測し難い状態、又は計測精度が低い状態である。
【0086】
一例として、理論パラメータは、f.CaO、セメントキルン40の窯尻部分のガス温度、及び、クリンカクーラ50で冷却に用いられた後の空気(二次空気)の温度から成る群から選択された1種以上のパラメータである。理論パラメータを算出する際に、「KilnSimu」(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd製)が用いられてもよい。モデル構築部92は、理論パラメータを含む複数の状態パラメータを、予測モデルMのノードでの条件の候補として用いて、予測モデルMを構築してもよい。
【0087】
対象状態が、窯尻でのガス温度に設定されている場合を例に説明したが、対象状態は、セメントキルン40から排出されたセメントクリンカの温度、窯尻でのガス内のNOx濃度、窯尻でのガス内のO濃度、プレヒータ20から排出されるガス内のNOx濃度、又は、セメントキルン40を回転させるための電力であってもよい。2以上の対象状態が設定されたうえで、2以上の対象状態それぞれについて、予測モデルMが構築されてもよい。そして、2以上の対象状態それぞれについて、評価用の複数の入力パラメータそれぞれの値と、対応する予測モデルMとが用いられて、予測値が算出されてもよい。
【0088】
上述の例では、製造装置10を制御する制御装置60が支援装置を構成するが、制御装置60とは別の装置(コンピュータ)が、支援装置を構成してもよい。すなわち、制御装置60が、条件設定部82及び製造制御部84を備え、別の装置が、データ取得部86、データ蓄積部88、モデル構築部92、予測演算部94、及び結果出力部96を備えてもよい。支援装置は、2以上のコンピュータによって構成されてもよい。例えば、上記支援工程を実行する複数の機能モジュールが、複数のコンピュータに分散されてもよい。
【0089】
支援装置(制御装置60)のハードウェア構成は、プログラムの実行により各機能モジュールを実現する態様に限定されない。例えば、支援装置が備える複数の機能モジュールの少なくとも一部は、その機能に特化した論理回路により構成されていてもよく、当該論理回路を集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成されてもよい。
【0090】
コンピュータ内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」及び「よりも大きい」という二つの基準のうちのどちらを用いてもよく、「以下」及び「未満」という二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。以上に説明した種々の例のうちの1つの例において、他の例で説明した事項の少なくとも一部が組み合わされてもよい。
【0091】
[決定木の選択理由]
上述したように、予測モデルMは、決定木アルゴリズムを用いた機械学習により構築される。決定木を採用した際には、決定木以外の種々のアルゴリズムを用いた他の予測モデルを構築したうえで、状態パラメータの過去値の設定方法を変更しながら、各種アルゴリズムでの予測モデルの予測精度を評価した。評価結果の分析から、決定木を用いた予測モデルMの予測精度が、上位に位置するとの知見が得られた。予測精度の評価では、決定木以外のアルゴリズムとして、サポートベクトルマシン、K近傍法、ニューラルブースティング(ニューラルネットワーク)、最小2乗法によるあてはめ、Lasso回帰、PLS回帰、及びステップワイズ法を用いた。
【0092】
予測精度の評価では、対象パラメーラが既知の複数のデータセットを準備して、対象パラメータの正解値と予測モデルでの予測値との関係をプロットした散布図において、決定係数(R2乗)を算出した。決定係数(R2乗)の値が大きいほど、正解値と予測値との相関関係が強いと評価して、予測精度が高いと判定した。また、回帰分析による手法と同様に、決定木を用いたモデルでは、解釈性(又は、説明性)が高い。解釈性が高いとは、判断の要因(すなわち、対象状態の予測結果に寄与する状態パラメータ)が理解しやすいことを意味する。
【0093】
さらに、各手法を用いた場合での、寄与度が高い上位の状態パラメータを確認したところ、PLS回帰等の回帰分析の手法では、線形的な解釈が可能なパラメータが上位を占めていた。一方、決定木を用いた手法では、相互作用的に変動する状態パラメータが上位に入っていた。そのため、非線形モデルである決定木を用いることで、複雑な現象が生じる製造装置10での製造プロセスを柔軟に表現できる状態パラメータの選択が可能であると考えられる。以上の予測精度、解釈性、及び、製造プロセスに合う状態パラメータが選択可能であることを考慮して、本発明者らは、予測モデルのアルゴリズムとして決定木を選択した。
【0094】
[本開示のまとめ]
以上に説明した製造支援方法は、製造装置10による製造を支援する方法である。この方法は、製造装置10における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、製造装置10における1つの対象状態について、基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルMを機械学習により構築する構築工程と、予測モデルMを用いて、対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含む。構築工程では、複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、予測モデルMが構築される。
【0095】
上述したように、決定木を用いた機械学習を行うことで、予測精度及び解釈性が高く、かつ、セメントクリンカの製造プロセスに合う状態パラメータを選択可能な予測モデルが構築される。従って、上記製造支援方法では、セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることが可能である。
【0096】
以上に説明した製造支援方法において、複数の状態パラメータの中には、対象状態についての基準時刻での状態を表す第1パラメータと、対象状態についての基準時刻よりも前の過去の状態を表す第2パラメータとが含まれていてもよい。対象状態によっては、自身の現在又は過去の状態が、将来の状態に強く相関する場合がある。上記方法では、対象状態自身の現在又は過去の状態が、予測モデルMで選択され得る候補のパラメータに含まれることで、予測精度が向上し得る。
【0097】
以上に説明した製造支援方法は、予測値を算出する時点を基準時刻とした場合での第1パラメータ及び第2パラメータそれぞれの値と、予測値の算出結果とに基づいて、製造装置10の状態を診断する診断工程を更に含んでもよい。この場合、過去の値及び現在の値だけでなく、将来の予測値も考慮されて、製造装置10の状態が診断される。そのため、過去の値及び現在の値だけを用いて診断する場合に比べて、高い精度で製造装置10の状態を診断することが可能である。
【0098】
以上に説明した製造支援方法において、複数の状態パラメータの中には、製造装置10における1以上の状態についての実測可能な計測パラメータから、シミュレーション演算により得られる理論パラメータが含まれていてもよい。対象状態によっては、実測し難い、又は実測値の精度が低いパラメータが、将来の状態に強く相関する場合がある。上記方法では、理論パラメータが、予測モデルMで選択され得る候補のパラメータに含まれることで、予測精度が向上し得る。
【0099】
以上に説明したセメントクリンカの製造方法は、製造装置10により、セメント原料を焼成してセメントクリンカを得る焼成工程と、製造装置10における製造を支援する支援工程と、を含む。支援工程は、製造装置10における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、製造装置10における1つの対象状態について、基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルMを機械学習により構築する構築工程と、予測モデルMを用いて、対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を含む。構築工程では、複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、予測モデルMが構築される。この製造方法では、上記製造支援方法と同様に、セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることが可能である。
【0100】
以上に説明した製造システム1は、セメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する製造装置10と、製造装置10における製造を支援する支援装置(制御装置60)と、を備える。支援装置は、製造装置10における複数の状態について、基準時刻、及び当該基準時刻より前の過去の状態を表す複数の状態パラメータと、製造装置10における1つの対象状態について、基準時刻よりも後の将来の状態を表す対象パラメータと、の関係を示す予測モデルMを機械学習により構築する構築工程と、予測モデルMを用いて、対象状態の将来の予測値を算出する予測工程と、を実行する。支援装置は、構築工程において、複数の状態パラメータのうちの選択された1以上のパラメータと、対象パラメータとが、決定木を用いて関連付けられるように、予測モデルMを構築する。この製造システム1では、上記製造支援方法と同様に、セメントクリンカの製造装置に適した予測モデルを利用して将来の予測値を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…セメントクリンカの製造システム、10…セメントクリンカの製造装置、20…プレヒータ、40…セメントキルン、60…制御装置、92…モデル構築部、94…予測演算部、M…予測モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6