(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129292
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法及びシステム、並びにそれに使用するための金属/金属酸化物材料
(51)【国際特許分類】
C22B 5/12 20060101AFI20240919BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240919BHJP
C22B 26/20 20060101ALI20240919BHJP
C22B 34/36 20060101ALI20240919BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20240919BHJP
C22B 34/32 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C22B5/12
C22B47/00
C22B26/20
C22B34/36
C22B59/00
C22B34/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023038399
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケラー マーティン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA08
4K001AA17
4K001AA29
4K001AA36
4K001AA39
4K001BA06
4K001DA05
4K001GA19
4K001HA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法及びシステム、並びにそれに使用するための金属/金属酸化物材料を提供する。
【解決手段】方法は、1)第1の反応器内において、H2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、H2の連続流を金属/金属酸化物材料と接触させてH2Oを生成し、2)第1の反応器からH2Oを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、3)第2の反応器内において、CO2の流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、CO2の連続流を材料と接触させてCOを生成し、4)第2の反応器からCOを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、5)工程1)~4)を連続して繰り返す、ことを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法であって、
1)第1の反応器内において、H2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、前記H2ガスの連続流を酸化状態の前記金属/金属酸化物材料と接触させて、前記金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oを生成し、
2)前記第1の反応器からH2Oを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の前記金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)前記第2の反応器内において、CO2ガスの流れ方向と反対の方向に前記金属/金属酸化物材料を移動させることで、前記CO2ガスの連続流を還元状態の前記金属/金属酸化物材料と接触させて、前記金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながらCOガスを生成し、
4)前記第2の反応器から、COガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の前記金属/金属酸化物材料を前記第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記第1の反応器及び前記第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ前記金属/金属酸化物材料が前記移動床反応器の移動床である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属/金属酸化物材料が、酸化タングステン、又はランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属/金属酸化物材料が、下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるLSCrMnである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を実施するためのシステムであって、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、H2ガスを供給するためのガス入口と、H2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する、第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、CO2ガスを供給するためのガス入口と、COガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する、第2の反応器
を含み、
前記金属/金属酸化物材料が前記第1の反応器及び前記第2の反応器の内部に配置されており、
前記第1の反応器の前記第1の金属/金属酸化物材料出口が前記第2の反応器の前記第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、前記第2の反応器の前記第2の金属/金属酸化物材料出口が前記第1の反応器の前記第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより前記第1の反応器と前記第2の反応器との間の前記金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
前記第1の反応器内において前記金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、H2ガスを供給するための前記ガス入口及びH2Oを含む前記ガス状生成物を抜き取るための前記ガス出口が設置されており、
前記第2の反応器内において前記金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、CO2ガスを供給するための前記ガス入口及びCOガスを含む前記ガス状生成物を抜き取るための前記ガス出口が設置されている、システム。
【請求項6】
前記第1の反応器及び前記第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ前記金属/金属酸化物材料が前記移動床反応器の移動床である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記金属/金属酸化物材料が、酸化タングステン、又はランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)である、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記金属/金属酸化物材料が、下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるLSCrMnである、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるランタン・ストロンチウム・クロム・マンガン化合物である、逆水性ガスシフト反応のための金属/金属酸化物材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法及びシステム、並びにそれに使用するための金属/金属酸化物材料に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ガスシフト反応(以下、屡々、「FWGS」と略記する)及び逆水性ガスシフト(以下、屡々、「RWGS」と略記する)は、世界中で工業的に重要な反応である。FWGS反応は、一酸化炭素(CO)及び水(H2O)を反応させて、二酸化炭素(CO2)及び水素(H2)を形成する反応(反応(A))であり、RWGS反応は、CO2及びH2を反応させて、一酸化炭素CO及びH2Oを形成する反応(反応(B))である。FWGS反応及びRWGS反応は共に、以下に示す2つの別個の半反応(FWGSについては反応(A1)及び(A2)、RWGSについては反応(B1)及び(B2))として実施することができる:
CO+H2O→CO2+H2 (A)
CO+[O]→CO2 (A1)、及び
H2O→H2+[O] (A2)。
CO2+H2→CO+H2O (B)
H2+[O]→H2O (B1)、及び
CO2→CO+[O] (B2)。
【0003】
FWGS反応又はRWGS反応が2つの別個の半反応として実施されるとき、半反応は互いに空間的又は時間的に引き離されており、2つの半反応間では、金属材料又は金属酸化物材料の格子酸素として酸素が運搬される。このような手法は、化学ループ法と呼ばれることが多い。
【0004】
石油又は天然ガスの化石炭素を原料とする代わりに、CO2から化学物質及び燃料を生成するニーズにより、RWGS反応の工業的重要性が一層高まっている。例えば、特許出願に係る文献(以下、「特許文献」と略記する)である特許文献1は、CO2をCOへと熱化学的転化するための触媒複合体及び方法を開示する。この方法の第1の工程では、触媒複合体をH2と接触させて触媒複合体を還元し、H2を酸化することによってH2Oを生成し、次に、第2の工程では、還元された触媒複合体をCO2と接触させて触媒複合体を酸化し、CO2を還元することによってCOを生成する。第1の工程及び第2の工程は、一定の量のCOが生成されるまで連続して繰り返される。特許文献1で使用する触媒は、ペロブスカイト型酸化物、例えばランタン、ストロンチウム及び鉄(LSF)を含有する材料である。
【0005】
特許文献2は、CO2を還元するための触媒、方法及び装置を開示する。特許文献2の方法も、触媒を還元するための工程及びCO2を還元するための工程を含む。CO2を還元するための装置は、触媒が充填された反応器、CO2供給原、H2供給原、及び反応器に供給されるガスを切り替えるための切り替えシステムから構成される。供給ガスは、CO2の還元と、H2による触媒の還元のために交互に変更される。特許文献2は、CO2還元のための第1の反応器と、触媒還元のための第2の反応器と、触媒を2つの反応器間で循環させる触媒循環通路とを含む、触媒循環型還元装置も記載されている。この装置では、触媒の酸化及びCO2の還元を第1の反応器で行い、酸化された触媒を第2の反応器に搬送し、触媒の還元を第2の反応器で行い、その後、還元した触媒を第1の反応器に搬送する。特許文献2には、触媒循環型還元装置に関する実施例は存在せず、反応器内に充填された触媒を反応器間で搬送する方法や、供給ガスの流れ方向といったこのシステムの詳細についての説明もない。特許文献2で使用する触媒は、金属化合物に担持された遷移金属酸化物を含有する、二酸化炭素を吸着することが可能な化合物、例えば、酸化鉄(Fe2O3)単独又は酸化鉄と酸化セリウム((Fe2O3-CeO2)が担体に担持されたものである。
【0006】
特許文献3は、触媒として非化学量論的材料を充填した単一の固定床反応器を用いたFWGS反応のための方法を開示する。この方法は、反応器の第1の端部からCOを供給し、反応器の反対側の第2の端部から生成物(CO2)を抜き取る工程と、供給ガスを切り替え、供給ガスの流れ方向を変更する工程と、反応器の第2の端部からH2Oを供給し、反応器の反対側の第1の端部から生成物(H2)を抜き取る工程とを含む。換言すると、CO2及びH2は、互いに向流方向に供給される。触媒として、ランタン、ストロンチウム、鉄及び酸素(LSF)を含む非化学量論的材料がこの方法に好適であることが示されている。
【0007】
特許文献3の出願人による特許文献以外の文献(以下、「非特許文献」と略記する)である非特許文献1は、RWGS反応のための、ランタン、ストロンチウム、鉄及び酸素(LSF)を含む非化学量論的材料の使用を開示する。
【0008】
さらに、非特許文献2は、単一の固定床反応器を使用し、ガスの切り替えを行い、RWGS反応を実施するための化学ループ法を開示する。具体的には、特許文献3にあるように、固定床反応器にCO2とH2を交互に、互いに向流になるように供給する。この反応で使用する触媒は、二酸化セリウム(CeO2)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0139351号明細書
【特許文献2】米国特許第11,305,261号明細書
【特許文献3】米国特許第10,843,157号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I. S. Metcalfe et al. Nature Chemistry 11, 638-643 (2019)
【非特許文献2】B. Bulfin et al.“Intensification of the Reverse Water-Gas Shift Process using a Countercurrent Chemical Looping Regenerative Reactor”Chem. Eng. J.に提出されたプレプリント、https://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4263664から入手可能
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
RWGS反応は、吸熱反応であり、達成可能な生成物収率は、熱力学的平衡によって制限される。固体触媒が充填された固定床反応器内でH2とCO2とが同じ方向に供給される、特許文献1及び2に記載の方法では、平衡の制約のため、生成物収率が低い。
【0012】
一方、特許文献3、非特許文献1及び2に開示される方法では、供給ガスの切り替えと、さらに供給ガスの流れ方向の変更がある。これらの方法は、より良好な生成物収率を達成し、副生成物を回避するのに有利である。しかしながら、これらの方法は、移動床の酸素貯蔵容量がかなり少ないことによって制限され、供給ガス流及びガスの流れ方向の非常に頻繁な切り替えが反応を続けるために必要になる。さらに、供給ガスの流れ方向の切り替えは、技術的に困難である。
【0013】
加えて、上記の先行技術の方法のいずれも、連続的なガス生成が可能ではない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を鑑み、本発明の第1の形態は、連続的な逆水性ガスシフト反応のための以下の方法である。
[1]連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法であって、
1)第1の反応器内において、H2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、H2ガスの連続流を酸化状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oを生成し、
2)第1の反応器から、H2Oを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)第2の反応器内において、CO2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、CO2ガスの連続流を還元状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながらCOガスを生成し、
4)第2の反応器から、COガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、ことを含む方法。
[2]第1の反応器及び第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ金属/金属酸化物材料が移動床反応器の移動床である、上記[1]に記載の方法。
[3]金属/金属酸化物材料が、酸化タングステン、又はランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)である、上記[1]に記載の方法。
[4]金属/金属酸化物材料が、下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるLSCrMnである、上記[3]に記載の方法。
【0015】
本発明の第2の形態は、連続的な逆水性ガスシフト反応のための上記方法を実施するための、以下のシステムである。
[5]上記[1]に記載の方法を実施するためのシステムであって、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、H2ガスを供給するためのガス入口と、H2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する、第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、CO2ガスを供給するためのガス入口と、COガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する、第2の反応器を含み、
金属/金属酸化物材料が第1の反応器及び第2の反応器の内部に配置されており、
第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料出口が第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料出口が第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより第1の反応器と第2の反応器との間の金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
第1の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、H2ガスを供給するためのガス入口及びH2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されており、
第2の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、CO2ガスを供給するための前記ガス入口及びCOガスを含む前記ガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されている、システム。
[6]第1の反応器及び第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ金属/金属酸化物材料が移動床反応器の移動床である、上記[5]に記載のシステム。
[7]金属/金属酸化物材料が、酸化タングステン、又はランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)である、上記[5]に記載のシステム。
[8]金属/金属酸化物材料が、下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるLSCrMnである、上記[7]に記載のシステム。
【0016】
本発明の第3の形態は、逆水性ガスシフト反応を実施するための以下の金属/金属酸化物材料である。
[9]下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるランタン・ストロンチウム・クロム・マンガン化合物である、逆水性ガスシフト反応のための金属/金属酸化物材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、逆水性ガスシフト反応を連続的に実施し、平衡の制約を克服することによって、高いガス生成収率を達成するための方法、システム及び金属/金属酸化物材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】連続的な逆水性ガスシフト反応を実施するための代表的なシステムを示す概略図である。
【
図2】金属/金属酸化物材料として酸化鉄を用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図3】金属/金属酸化物材料として酸化タングステンを用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図4】金属/金属酸化物材料として酸化セリウム(CeO
2-δ)を用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図5】金属/金属酸化物材料としてLa
0.6Sr
0.4FeO
3-δ(LSF)を用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図6】金属/金属酸化物材料としてLa
0.7Sr
0.3CrO
3-δ(LSCr)を用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図7】金属/金属酸化物材料としてLa
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δ(LSCrMn)を用い、750℃で実施する、本発明の連続的なRWGS方法の設計線図である。
【
図8】実施例1で検証した、金属/金属酸化物材料の達成可能な気体転化率を示すグラフである。気体転化率は、反応器に供給するCO
2及びH
2の量に対する、生成されたCO及びH
2Oの総量の比として定義される。
【
図9】金属/金属酸化物材料を用いる本発明の連続的なRWGS方法における第1の反応器の設計線図に重ね合わされた、750℃における金属/金属酸化物材料LSCrMnの実験的に得られたサンプル重量を示す図である。H
2O/(H
2+H
2O)=1の完全に酸化されたサンプルに対して、異なるガス混合物中でサンプルを平衡化した。
【
図10A】金属/金属酸化物材料としてLSCrMnを使用し、750℃で実施する、本発明の方法によるH
2Oの生成を示すグラフである。LSCrMnの還元をH
2O/(H
2+H
2O)=0.06、5.3%の湿潤H
2中において行い、酸化を4.5%の乾燥CO
2中で行った。
【
図10B】金属/金属酸化物材料としてLSCrMnを使用し、750℃で実施する、本発明の方法によるCO生成を示すグラフである。LSCrMnの還元をH
2O/(H
2+H
2O)=0.06、5.3%の湿潤H
2中において行い、酸化を4.5%の乾燥CO
2中で行った。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を、添付の図面に参照して詳細に説明する。
【0020】
1.連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法
本発明の第1の実施形態は、連続的な逆水性ガスシフト反応のための方法であって、
1)第1の反応器内において、H2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、H2ガスの連続流を酸化状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oを生成し、
2)第1の反応器から、H2Oを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)第2の反応器内において、CO2ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、CO2ガスの連続流を還元状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながらCOガスを生成し、
4)第2の反応器から、COガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、
ことを含む方法である。
【0021】
上記で説明したように、逆水性ガスシフト反応(RWGS)は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)が反応して、一酸化炭素(CO)と水(H2O)を形成する酸化還元反応である:
CO2+H2→CO+H2O (B)。
この反応は、以下の2つの別個の半反応からなる酸化還元反応である:
H2+[O]→H2O (B1)、及び
CO2→CO+[O] (B2)。
【0022】
反応(B1)及び(B2)は、2つの半反応間で酸素を運搬する金属/金属酸化物材料の存在下で行われる。換言すると、H2ガスの酸化(式(B1)の反応)には、金属/金属酸化物材料の還元が伴い、CO2ガスの還元(式(B2)の反応)には、金属/金属酸化物材料の酸化が伴う。
【0023】
本発明の方法の工程1)では、H2ガスの連続流を金属/金属酸化物材料と接触させることによって、H2ガスの酸化及び金属/金属酸化物材料の還元を第1の反応器内で実施する。これは、H2Oの生成及び金属/金属酸化物材料の還元状態への転化をもたらす。
【0024】
この工程では、供給H2ガスは、金属/金属酸化物材料(固体)の移動方向と反対の方向で、反応器に供給される。換言すると、気体(H2ガス)を固体流(金属/金属酸化物材料)に対して向流方向に供給する、固気向流となる。供給H2ガスのこのような固気向流は、反応器出口においてより高いガスと固体の転化率をもたらす。
【0025】
H2ガスの酸化(及び金属/金属酸化物材料の還元)のための反応条件は、使用する金属/金属酸化物材料及び反応器、生成速度などに応じて変化し得るが、一般にRWGSのための従来の化学ループ法でH2をH2Oに転化するための反応条件と同じである。例えば、工程1)の温度は、450℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃の範囲内である。
【0026】
本発明の方法の工程2)では、第1の反応器からH2Oを含有するガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させる。第1の反応器から抜き取られたガス状生成物は、生成されたH2Oと共に未反応H2ガスを含有し得る。
【0027】
本発明の方法の工程3)では、第2の反応器内でCO2ガスの連続流を金属/金属酸化物材料と接触させることによって、CO2ガスの還元及び還元状態の金属/金属酸化物材料の酸化を実施する。これは、COガスの生成及び金属/金属酸化物材料の元の酸化状態への転化をもたらす。第2の反応器内で酸化された金属/金属酸化物材料は、この時点において、第1の反応器内でH2ガスを酸化することが可能である。
【0028】
この工程では、供給CO2ガスは、金属/金属酸化物材料(固体)の移動と反対の方向に反応器に供給される。換言すると、気体(CO2ガス)を固体流(金属/金属酸化物材料)に対して向流方向に供給する、固気向流となる。供給CO2ガスのこのような固気向流は、それぞれの反応器出口におけるより高いガスと固体の転化率をもたらす。
【0029】
CO2ガスの還元(及び金属/金属酸化物材料の酸化)のための反応条件は、使用する金属/金属酸化物材料及び反応器、生成速度などに応じて変化し得るが、一般にRWGSのための従来の化学ループ法におけるCO2をCOに転化するための反応条件と同じである。例えば、工程3)の温度は、450℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃の範囲内である。さらに、工程3)の反応条件は、工程1)の反応条件と同じであっても異なってもよい。
【0030】
本発明の方法の工程4)では、第2の反応器から、COガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させる。第2の反応器から抜き取られたガス状生成物は、生成されたCOと一緒に未反応CO2ガスを含有し得る。
【0031】
工程5)では、工程1)~4)を連続して繰り返す。工程1)~4)を繰り返す回数に関して、特に制限はない。工程1)~4)は、所望の量の生成物が得られるまで又は金属/金属酸化物材料が不活性化するまで繰り返され得る。
【0032】
上記の工程1)~4)から明らかであるように、金属/金属酸化物材料は、酸化状態から還元状態に及びその逆に転化されながら、第1の反応器と第2の反応器との間で循環される。金属/金属酸化物材料のこのような循環は、金属/金属酸化物材料を不活性化させずに長期間使用することを可能にし、十分な酸素を反応系に供給する。さらに、本発明の方法は、平衡転化率を向上させ、ガス状生成物の連続流を生成することにより、ガス生成収率を増加させる。
【0033】
本発明の方法は、向流状態にある固気流を実現するか又はそれに近い状態を達成する、少なくとも2つの気固反応器を用いて実施される。RWGS反応(及びさらにFWGS反応)のための従来のプロセスでは、プロセスの機械的設計を簡素化するために1つの反応器のみが用いられている。しかしながら、単一の気固反応器の使用は、平衡の制約を克服するためにガスの切り替えが必要である、連続的なガス流の生成が不可能であるといった欠点を有している。本発明は、別個の反応器内で半反応を行うことによってこれらの欠点を解決した。
【0034】
例えば、本発明で使用する反応器は、向流状態にある固気流を実現可能な移動床反応器、又は向流状態に近い固気流を達成することが可能な多段流動床反応器であり得る。工程1)で使用する反応器及び工程3)で使用する反応器は、同じであっても異なっていてもよいが、2つの移動床反応器の使用が生成物ガスの連続流を生成する上で好ましい。本発明の方法を実施するために使用する反応器については、RWGS反応のためのシステムに関連して以下でより詳細に説明する。
【0035】
本発明の方法で使用する金属/金属酸化物材料は、FWGS反応又はRWGS反応で触媒として使用し得る、任意の金属含有材料又は金属酸化物含有材料(又は金属若しくは金属酸化物自体)である。従来の化学ループ法で使用する触媒、例えば、結晶相変化材料(酸化鉄並びに酸化タングステンなど)及び非化学量論的材料[酸化セリウム(CeO2-δ)、ランタン、ストロンチウム及び鉄を含有するペロブスカイト型酸化物(LSF、La0.6Sr0.4FeO3-δ)、ランタン、ストロンチウム及びクロムを含有するペロブスカイト型酸化物(LSCr、La0.7Sr0.3CrO3-δ)及びランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含有するペロブスカイト型酸化物(LSCrMn、La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ)など]を、本発明の方法において金属/金属酸化物材料として使用し得る。
【0036】
本発明において「δ」は、非化学量論的材料の酸素欠乏を表す。金属/金属酸化物材料は、固体転化率(固体金属/金属酸化物材料の酸化及び還元)若しくは気体転化率(H
2ガスの酸化及びCO
2ガスの還元)又は両方の所望の程度に基づいて選択され得る。高い固体転化率は、反応器間で循環させる固体金属/金属酸化物材料の量を少なくする上で有利である。高い固体転化率を達成することが可能な金属/金属酸化物材料の例は、結晶相変化材料である酸化鉄及び酸化タングステンであり、酸化タングステンが好ましい(
図2及び
図3を参照)。一方、高い気体転化率は、COの高い生成収率のために有利である。上述した非化学量論的材料、特にランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)は、結晶相変化材料より高い気体転化率を達成することが可能である(
図4~
図6を参照)。
【0037】
長期間にわたって連続的にRWGS反応を実施するために理想的な金属/金属酸化物材料は、固体転化率及び気体転化率の両方が同時に向上したものであるべきである。この観点から、式La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δによって表される本発明の金属/金属酸化物材料が、本発明の方法における使用に好ましい。この材料については、以下で詳細に説明する。
【0038】
本発明の方法は、連続的な逆水性ガスシフト(RWGS)反応のための方法であるが、本発明の方法は、供給ガスを変更することによって連続的な水性ガスシフト(FWGS)反応に適合され得る。具体的には、連続的なFWGS反応のための方法は、
1)第1の反応器内において、COガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、COガスの連続流を酸化状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、それにより金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらCO2を生成し、
2)第1の反応器から、CO2を含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)第2の反応器内において、H2Oガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、H2Oガスの連続流を還元状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながらH2ガスを生成し、
4)第2の反応器から、H2ガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返すことを含む。
【0039】
2.連続的な逆水性ガスシフト反応のためのシステム
本発明の第2の実施形態は、本発明の方法を実施するためのシステムであって、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、H2ガスを供給するためのガス入口と、H2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、CO2ガスを供給するためのガス入口と、COガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第2の反応器を含み、
金属/金属酸化物材料が第1の反応器及び第2の反応器の内部に配置されており、
第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料出口が第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料出口が第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより第1の反応器と第2の反応器との間の金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
第1の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、H2ガスを供給するためのガス入口及びH2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されており、
第2の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、CO2ガスを供給するためのガス入口及びCOガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されている、システムである。
【0040】
連続的な逆水性ガスシフト反応を実施するための代表的なシステムを示す概略図である
図1を参照して、本発明のシステムを次に説明する。
【0041】
本発明のシステムは、H2ガスの酸化(及び金属/金属酸化物材料の還元)のための第1の反応器10と、CO2ガスの還元(及び金属/金属酸化物材料の酸化)のための第2の反応器20とを含む。向流状態の固気流を実現するか又はそれに近い状態を達成する任意の固気反応器が本発明のシステムで使用され得る。例えば、反応器は、向流状態にある固気流を実現可能な移動床反応器、又は向流状態に近い状態を達成することが可能な段階流動床反応器であり得る。第1の反応器10及び第2の反応器20は、同じであっても、異なってもよいが、2つの移動床反応器の使用が生成物ガスの連続流を生成するのに好ましい。
【0042】
第1の反応器10は、第1の金属/金属酸化物材料入口11と、第1の金属/金属酸化物材料出口12と、H2ガスを供給するためのガス入口13と、H2Oを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口14とを有する。金属/金属酸化物材料30は、反応器内で移動床を形成する。反応器内で固気流の向流状態又はそれに近い状態を実現するために、供給ガスの流れ方向は、移動床の移動方向の反対である。したがって、典型的なシステムでは、ガス入口13は、金属/金属酸化物材料出口12の近くに設置され、ガス出口14は、金属/金属酸化物材料入口11の近くに設置される。ガス入口13は、H2ガスを反応器に供給するための水素ガス供給源に接続される。第1の反応器10に供給されるガスは、水素ガスを含有する。ガス出口14は、H2Oと未反応H2ガスとを含有するガス状生成物を貯蔵するための貯蔵容器に接続され得る。代わりに、ガス状生成物は、H2OからH2を分離するための装置に供給され得、分離されたH2ガスは、水素ガス供給源に戻され、次にガス入口13から第1の反応器10に供給され得る。
【0043】
第2の反応器20は、第2の金属/金属酸化物材料入口21と、第2の金属/金属酸化物材料出口22と、CO2ガスを供給するためのガス入口23と、COガスを含有するガス状生成物を抜き取るためのガス出口24とを有する。金属/金属酸化物材料30は、反応器内で移動床を形成する。反応器内で固気流の向流状態又はそれに近い状態を実現するために、供給ガスの流れ方向は、移動床の移動方向の反対である。したがって、典型的なシステムでは、ガス入口23は、金属/金属酸化物材料出口22の近くに設置され、ガス出口24は、金属/金属酸化物材料入口21の近くに設置される。ガス入口23は、CO2ガスを反応器に供給するための二酸化炭素ガス供給源に接続される。第2の反応器20に供給されるガスは、二酸化炭素ガスを含有する。ガス出口24は、COガスと未反応CO2ガスとを含有するガス状生成物を貯蔵するための貯蔵容器に接続され得る。代わりに、ガス状生成物は、COからCO2を分離するための装置に供給され得、分離されたCO2ガスは、二酸化炭素ガス供給源に戻され、次にガス入口23から第2の反応器20に供給され得る。
【0044】
第1の反応器10及び第2の反応器20は、互いに接続されて回路を形成する。具体的には、第1の反応器10の第1の金属/金属酸化物材料出口12は、第2の反応器20の第2の金属/金属酸化物材料入口21に接続され、第2の反応器20の第2の金属/金属酸化物材料出口22は、第1の反応器10の第1の金属/金属酸化物材料入口11に接続され、反応器内の金属/金属酸化物材料30、すなわち移動床は、2つの反応器間で循環される。
【0045】
反応器内で移動床を形成する金属/金属酸化物材料30は、RWGS反応で使用され得る任意の金属/金属酸化物材料であり得る。従来の化学ループ法で使用される触媒、例えば結晶相変化材料(酸化鉄や酸化タングステンなど)及び非化学量論的材料[酸化セリウム(CeO2-δ)、ランタン、ストロンチウム及び鉄を含有するペロブスカイト型酸化物(LSF、La0.6Sr0.4FeO3-δ)、ランタン、ストロンチウム及びクロムを含有するペロブスカイト型酸化物(LSCr、La0.7Sr0.3CrO3-δ)及びランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含有するペロブスカイト型酸化物(LSCrMn、La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δなど)が、本発明のシステムにおいて金属/金属酸化物材料として使用され得る。
【0046】
金属/金属酸化物材料は、固体転化率(固体金属/金属酸化物材料の酸化及び還元)若しくは気体転化率(H
2ガスの酸化及びCO
2ガスの還元)又は両方の所望の程度に基づいて選択され得る。高い固体転化率は、反応器間で循環させる固体金属/金属酸化物材料の量を少なくする上で有利である。高い固体転化率を達成することが可能な金属/金属酸化物材料の例は、結晶相変化材料である酸化鉄及び酸化タングステンであり、酸化タングステンが好ましい(
図2及び
図3を参照)。一方、高い気体転化率は、COの高い生成収率を得る上で有利である。上述した非化学量論的材料、特にランタン、ストロンチウム、クロム及びマンガンを含む酸化物材料(LSCrMn)は、結晶相変化材料より高い気体転化率を達成することが可能である(
図4~
図6を参照)。
【0047】
長期間にわたって連続的にRWGS反応を実施するために、理想的な金属/金属酸化物材料は、固体転化率及び気体転化率の両方を同時に向上させるべきである。この観点から、式La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δによって表される本発明の金属/金属酸化物材料が、本発明の方法における使用に好ましい。この材料については、下記で詳細に説明する。
【0048】
図1に示す本発明のシステムは、2つの反応器、すなわち、H
2ガスの酸化(及び金属/金属酸化物材料の還元)のための第1の反応器10と、CO
2ガスの還元(及び金属/金属酸化物材料の酸化)のための第2の反応器20とを含む。しかしながら、システムは、3つ以上の反応器から構成され得る。例えば、システムは、第1の反応器と第2の反応器とが交互になる順序で結合された、2組以上の第1及び第2の反応器を含み得る。
【0049】
本発明のシステムは、逆水性ガスシフト(RWGS)反応のためのシステムであるが、本発明のシステムは、供給ガスを変更することによって連続的な水性ガスシフト(FWGS)反応のために適合され得る。具体的には、連続的なFWGS反応のためのシステムは、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、COガスを供給するためのガス入口と、CO2を含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、H2Oガスを供給するためのガス入口と、H2ガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第2の反応器を含み、
金属/金属酸化物材料が第1の反応器及び第2の反応器の内部に配置されており、
第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料出口が第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料出口が第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより第1の反応器と第2の反応器との間の金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
第1の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、COガスを供給するためのガス入口及びCO2を含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されており、
第2の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、H2Oガスを供給するためのガス入口及びH2ガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されている、システムである。
【0050】
3.逆水性ガスシフト反応のための金属/金属酸化物材料
本発明の第3の実施形態は、下記式:
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ
によって表されるランタン・ストロンチウム・クロム・マンガン化合物である、逆水性ガスシフト反応のための金属/金属酸化物材料である。
【0051】
上記で詳細に説明したように、本発明の方法は、気体転化(H2ガスの酸化及びCO2ガスの還元)及び固体転化(固体金属/金属酸化物材料の酸化及び還元)を伴う。長期間にわたって連続的にRWGS反応を実施するために、理想的な金属/金属酸化物材料は、気体転化率及び固体転化率の両方を同時に向上させるべきである。
【0052】
本発明者は、本発明の方法で使用するための理想的な金属/金属酸化物材料を開発するために、高炉操業で用いられるリスト線図から導き出される熱力学的プロセス計算を適用した。格子酸素によって反応ガスを酸化する向流の固気流を有する単一の移動床反応器の最も顕著な工業事例は、鉄鉱石を還元する高炉である。気体転化率及び固体転化率を2次元グラフにプロットする場合、移動床反応器は、直線の操業線に沿って動作し、傾きは、固体流対ガス流の比率によって求められ、これは、調整可能である。このような図面は、製鋼においてリスト線図として知られるものである。操作限界は、熱力学的に許容される領域(固相及び気相が共存し得る領域)によって決定される。この原理は、Fan et al., 2010(Aiche Journal, Vol. 56, Issue 8, pp. 2186-2199)により、化学ループ燃焼のために適合されている。具体的には、この原理を、本発明のシステム、すなわち向流状態にある2つの移動床を含むシステムの操作に拡張させた。熱力学的プロセス計算を、以下の実施例の項に示し、得られる設計線図を
図2~
図7に示した。
【0053】
熱力学的プロセス計算の結果として、本発明者は、下記式:
La
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δ
によって表されるランタン・ストロンチウム・クロム・マンガン化合物が、
図7~
図9に示されるように、気体転化率と固体転化率との最も高いバランスを示すことを見出した。この化合物は、特許文献3に開示されるLa
0.6Sr
0.4FeO
3-δと同様にペロブスカイト材料であるが、Cr及びMnをFeの代わりに使用している。本発明者は、化合物La
0.7Sr
0.3CrO
3-δ、すなわちMnを含まない化合物についても検討した。この化合物は、利用可能なδがより大きく、したがって固体転化率がLa
0.6Sr
0.4FeO
3-δ系より約2~3倍高いため、La
0.6Sr
0.4FeO
3-δより優れていた。しかしながら、還元性は、750℃で過度に低くなり得、
図6に示される操作線図は、1000℃を超える温度で得られる測定から推定される熱力学的データを用いて描かれた。
【0054】
より好ましい動力学を有する金属/金属酸化物材料を得るために、ペロブスカイト構造のB部位においていくつかのCrをMnで置換し、それにより式La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δによって表される化合物を得た。B部位におけるMnは、還元性を向上させた。一方、Crは、化合物を安定させるため、B部位にMnのみを有する材料に対して予想され得る、RWGS条件下におけるペロブスカイト分解を防止した。この化合物は、本発明者が検証した非化学量論的化合物の中でも最も高い固体転化率を示した。
【0055】
本発明のランタン・ストロンチウム・クロム・マンガン化合物は、本発明の方法及びシステムだけでなく、RWGS反応のための他の方法及びシステムでも使用され得る。さらに、この化合物は、FWGS反応でも使用され得る。
【0056】
次に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明を限定すると解釈されるものではない。
【実施例0057】
実施例1
異なる金属/金属酸化物材料を用いる熱力学的プロセス計算
、向流の固気流をそれぞれが有する2つの移動床反応器を含み、750℃で種々の金属/金属酸化物材料を使用する反応系について、気体転化率(H2ガスの酸化又はCO2ガスの還元)を固体転化率(固体金属/金属酸化物材料の酸化又は還元)に対してプロットした2次元グラフであるリスト線図を作成した。この実施例では、以下の金属/金属酸化物材料を使用した。
a)酸化鉄(Fe2O3)、
b)酸化タングステン(WO3)、
c)酸化セリウム(CeO2-δ)、
d)La0.6Sr0.4FeO3-δ(LSF)、
e)La0.7Sr0.3CrO3-δ(LSCr)、
f)La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δ(LSCrMn)。
【0058】
本発明の方法は、2つの別個の反応を伴うため、許容される操作範囲は、
図2~
図7に示されるように、2つの隣接する図に示すことができる。
図2~
図7では、「還元装置」は、本発明の第1の反応器であり、「酸化装置」は、本発明の第2の反応器である。
【0059】
図2~
図7は、反応系が以下の制限を受けることを示す。
1)固体(金属/金属酸化物材料)が第1の反応器から第2の反応器に供給されるため、第1の反応器の下部における固体転化率は、第2の反応器の上部における固体転化率と同一である必要がある。
2)逆に、第2の反応器の上部における固体転化率は、第1の反応器の下部における固体転化率と同一である必要がある。
3)システムの操作中のいずれの時点でも、操業線は、熱力学的に許容されない領域に及ぶべきではない。
4)第1及び第2の反応器における操業線の傾きは、対応する固気流の比率が調整可能であるため、独立して選択され得る。
【0060】
どのような操業線が最適であると考えられるかは、プロセス要件に依存する。最適化の対象は、第1若しくは第2の反応器の一方又は両方における気体転化率及びさらに固体転化率であり得る。より高い固体転化率は、反応器間で循環しなければならない固体の量を減少させる。望ましい操業線は、一連の経験則又は厳密な数値最適化によって、図表から決定され得る。ここで示す操業線は、両方の反応器における気体転化率を最適化することによって得られたものである。
【0061】
a)酸化鉄(Fe
2O
3)
金属/金属酸化物材料として酸化鉄を使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図2に示す。酸化鉄は、反応を触媒するために結晶相変化を利用し、これは、図中の熱力学的に許容されない領域の鋭い縁部として現れる。気体転化率は低いが、固体転化率は、酸素運搬が11.4重量%と高かった。
【0062】
b)酸化タングステン(WO
3)
金属/金属酸化物材料として酸化タングステンを使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図3に示す。酸化タングステンも、反応を触媒するために結晶相変化を利用し、これは、図中の熱力学的に許容されない領域の鋭い縁部として現れる。固体転化率は、酸素運搬が11.1重量%と高く、気体転化率は、酸化鉄よりも高かった。
【0063】
c)酸化セリウム(CeO
2-δ)
金属/金属酸化物材料として酸化セリウムを使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図4に示す。酸化セリウムは、非特許文献2で金属/金属酸化物材料として使用する非化学量論的材料である。この系の熱力学は、Lindemer et al.(Calphad, Vol. 10, Issue 2, 1986, pp. 129-136)によって十分に説明されている。
図4から明らかであるように、気体転化率は、特に第1の反応器でかなり高いが、一方、達成可能な固体転化率は、0.1未満であった。
【0064】
d)La
0.6Sr
0.4FeO
3-δ(LSF)
金属/金属酸化物材料としてLa
0.6Sr
0.4FeO
3-δ(LSF)を使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図5に示す。別の非化学量論的材料であるLSFは、特許文献3で金属/金属酸化物材料として使用するペロブスカイト材料である。
図5から明らかなように、達成可能な気体転化率は、酸化セリウムと比べて特に第2の反応器で高いが、固体転化率は依然として低い。これは、RWGS反応に関連する酸素ポテンシャルにおいて不定比性δの利用可能な差が小さく、ペロブスカイト分解も起こるためである。
【0065】
e)La
0.7Sr
0.3CrO
3-δ(LSCr)
金属/金属酸化物材料としてLa
0.7Sr
0.3CrO
3-δ(LSCr)を使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図6に示す。LSCrは、LSFよりRWGS反応に適している。これは、利用可能なδがより大きく、したがって、固体転化率が、金属/金属酸化物材料としてLSFを使用する系よりも約2~3倍大きいためである。しかしながら、還元性は、750℃で過度に低くなり得る。
図6に示す操作線図は、1000℃より高い温度で得られる測定から推定される熱力学的データを用いて描かれた。
【0066】
f)La
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δ(LSCrMn)
金属/金属酸化物材料としてLa
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δ(LSCrMn)を使用する連続的なRWGS反応の設計線図を
図7に示す。この化合物では、ペロブスカイト構造のB部位においていくつかのCrがMnで置換されている。B部位におけるMnは、金属/金属酸化物材料の還元性を向上させる。一方、Crは、化合物を安定させるため、B部位にMnのみを有する材料で予想され得る、RWGS条件下におけるペロブスカイト分解を防止する。利用可能なδは、調べた非化学量論的材料の中で最も高く、したがって固体転化率が最も高かった。
【0067】
調べた材料及び達成可能な気体転化率(供給するCO
2及びH
2の量に基づき生成されるCO及びH
2Oの量として定義)のまとめを
図8に示す。
【0068】
図8では、従来の接触RWGSについての気体転化率を対照として示す。このデータは、金属/金属酸化物材料が固定床を形成し、CO
2とH
2を入口から一緒に供給する単一の接触固定床反応器を用いた反応から得られる。ここに示すデータは熱力学的平衡にあるため、気体転化率曲線は、全ての金属/金属酸化物材料について同じになる。
【0069】
実施例1の結果は、2つの固体床反応器と、検証した金属/金属酸化物材料のいずれかを使用する本発明の方法が、従来のプロセスと比較して、気体転化率を有意に増加させることを示す。具体的には、結晶相変化材料である酸化鉄及び酸化タングステンは、低い気体転化率を示すが、非常に高い固体転化率、すなわち750℃の温度でそれぞれ11.4重量%及び11.1重量%の酸素運搬を示す。非化学量論的材料の場合、固体転化率が低いが、気体転化率が非常に高かった。具体的には、750℃の温度における酸素運搬は、CeO2、LSF、LSCr及びLSCrMnのそれぞれについて0.06重量%、0.15重量%、0.42重量%及び0.53重量%であった。LSCrMnは、検証した他の非化学量論的材料よりも高い酸素運搬とともに、気体転化率について優れた性能を示した。
【0070】
実施例2
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δの熱重量測定
La0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δを高純度前駆体(日本国、共立マテリアル株式会社製)から固体合成によって合成した。
【0071】
合成した材料の酸素不定比性を熱重量測定で決定した。約55mgのサンプルを示差熱天秤(ドイツ国、Netzsch GmbH製のSTA2500)中に挿入した。不活性Heガスの画分を22℃でガラスビーズを含む気泡水浴に通すことによってH
2/H
2O/Heガス混合物を調製し、H
2と組み合わせた。総ガス流量を470ml/分に保持し、様々なH
2O/(H
2+H
2O)比を有するガス混合物を、質量流量制御装置を用いて流量を変化させることによって調製した。サンプルをH
2O/He混合物中で750℃に加熱した。次に、サンプルを種々のH
2O/(H
2+H
2O)比に曝し、平衡に達した後のサンプル重量を記録することによって、酸素不定比性を決定した。完全に酸化されたサンプルに対する重量変化を、
図9に示す相図に重ね合わせた。
【0072】
図9は、750℃の温度におけるLa
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δの設計線図を示す。H
2O/(H
2+H
2O)=1において完全に酸化されたサンプルを基準とし、実施例2で実験的に得られたサンプル重量を異なるガス混合物中で平衡化した。
【0073】
La
0.75Sr
0.25Cr
0.5Mn
0.5O
3-δ材料を湿潤H
2及びCO
2に交互に曝すことによって、T=750℃におけるH
2O生成速度及びCO生成速度を得た。酸化還元サイクルの関数としてのH
2O生成及びCO生成の観察した速度を、それぞれ
図10A及び
図10Bに示す。生成速度は、サイクル1からサイクル5まで安定したままであり、還元時の酸素放出も0.8重量%で安定していた。LSCrMnの還元を5.3%の湿潤H
2中、H
2O/(H
2+H
2O)=0.06で行い、酸化を4.5%の乾燥CO
2中で行った。
【0074】
実験的に観察された相安定性、酸素不定比性、及び高いH2O生成速度とCO生成速度は、本発明の連続的なRWGS方法におけるLa0.75Sr0.25Cr0.5Mn0.5O3-δの使用可能性を裏付けた。
本発明は、逆水性ガスシフト反応を連続的に実施し、平衡の制約を克服することによって高いガス生成収率を達成するための方法、システム及び金属/金属酸化物材料を提供する。本発明の方法は、二酸化炭素ガスから一酸化炭素ガスを生成するために工業規模で実施され得る。