(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129293
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】アンモニア分解及び一酸化炭素生成を連続的に実施するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
B01J 8/12 20060101AFI20240919BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20240919BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20240919BHJP
【FI】
B01J8/12 311
C01B3/04 B
C01B32/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023038400
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケラー マーティン
【テーマコード(参考)】
4G070
4G146
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB06
4G070BB21
4G070CB07
4G070CB08
4G070CB18
4G070CC01
4G070DA21
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】NH3の分解及びCOの生成を連続的に実施するための方法及びシステムを提供する。
【解決手段】方法は、1)第1の反応器内において、NH3ガスの流れ方向と反対方向に金属/金属酸化物材料を移動させ、NH3ガスの連続流を酸化された金属/金属酸化物材料と接触させて還元し、2)第1の反応器からH2OとN2とを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元された金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、3)第2の反応器内において、酸化されたガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、CO2を含有する酸化されたガスの連続流を還元された金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化し、4)第2の反応器からCOを含有するガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化された材料を第1の反応器に連続的に移動させ、5)工程1)~4)を連続して繰り返す、ことを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア分解及び一酸化炭素生成を連続的に実施するための方法であって、
1)第1の反応器内において、NH3ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、前記NH3ガスの連続流を酸化状態の前記金属/金属酸化物材料と接触させて、前記金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oガス及びN2ガスを生成し、
2)前記第1の反応器から、H2OガスとN2ガスとを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の前記金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)前記第2の反応器内において、酸化されたガスの流れ方向と反対の方向に前記金属/金属酸化物材料を移動させることで、前記酸化されたガスの連続流を還元状態の前記金属/金属酸化物材料と接触させて、前記金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながら、還元されたガスを生成し、前記酸化されたガスがCO2ガス又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、前記還元されたガスがCOガス又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
4)前記第2の反応器から、前記還元されたガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の前記金属/金属酸化物材料を前記第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記第1の反応器及び前記第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ前記金属/金属酸化物材料が前記移動床反応器の移動床である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の反応器の反応温度が共に700℃~750℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を実施するためのシステムであって、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、NH3ガスを供給するためのガス入口と、H2O及びN2ガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、酸化されたガスを供給するためのガス入口と、還元されたガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第2の反応器
を含み、
前記酸化されたガスが、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、前記還元されたガスが、COガス又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
前記金属/金属酸化物材料が前記第1の反応器及び前記第2の反応器の内部に配置されており、
前記第1の反応器の前記第1の金属/金属酸化物材料出口が前記第2の反応器の前記第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、前記第2の反応器の前記第2の金属/金属酸化物材料出口が前記第1の反応器の前記第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより前記第1の反応器と前記第2の反応器との間の前記金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
前記第1の反応器内において前記金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、NH3ガスを供給するための前記ガス入口及びH2OとN2ガスとを含む前記ガス状生成物を抜き取るための前記ガス出口が設置されており、
前記第2の反応器内において前記金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、前記酸化されたガスを供給するための前記ガス入口及び前記還元されたガスを含む前記ガス状生成物を抜き取るための前記ガス出口が設置されている、システム。
【請求項6】
前記第1の反応器及び前記第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ前記金属/金属酸化物材料が前記移動床反応器の移動床である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1及び第2の反応器の反応温度が共に700℃~750℃である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を連続的に実施するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
H2は、二酸化炭素(CO2)からの化学物質及び燃料の生成、例えばメタノール合成やフィッシャー・トロプシュプロセス、において重要な中間体である合成ガス(水素ガスと一酸化炭素ガスとの混合物)の構成成分である。アンモニア(NH3)は、既存のインフラを用いてより容易に液化、輸送及び貯蔵することができるため、エネルギーベクターとして水素分子を上回る利点を提供する。従来、NH3は、消費地でH2及びN2に分解されている。このような分解は、下記の反応(A)に示す触媒反応である。
NH3→0.5N2+1.5H2 (A)
この反応は、未転化NH3と、H2及びN2との混合物をもたらす。NH3ガス及びN2ガスからのH2ガスの分離は、高いエネルギー消費を伴う複雑なプロセスを必要とする。
【0003】
特許出願に係る文献(以下、「特許文献」と略記する)である特許文献1は、担体に担持された金属酸化物を用いて、アンモニアなどの燃料を転化するためのシステム及び方法を開示する。このシステム及び方法では、第1の反応器内で一次金属酸化物を還元して、還元された金属又は還元された金属酸化物を生成するために第1の反応器を用い、第1の反応器から移動した、還元された金属又は還元された金属酸化物の少なくとも一部を酸化して一次金属酸化物を再生するために、第2の反応器を用いる。燃料がNH3である場合、アンモニア分解反応だけでなく、NH3から生成されるH2による金属酸化物の還元も起こり、N2、H2及びH2Oの混合物が第1の反応器内で生成される。その後、第2の反応器において、還元された金属酸化物を用いてH2Oから純粋なH2を生成する。これにより、未転化のNH3と、H2及びN2とを含有する1つの混合流を形成する従来使用されているアンモニア熱分解よりも、N2とH2とを分離するためのエネルギー損失が減少する。
【0004】
水素源としてNH3を用いて合成ガスを生成するためには、NH3の分解に続いて、N2ガスを含まない所望のH2生成物を生成するための一連のガス分離プロセスを実施し、次に、H2生成物及びCO2は、一酸化炭素(CO)及びH2Oを生成するための逆水性ガスシフト(以下、屡々、「RWGS」と略記する)反応(反応(B))に供される。
CO2+H2→CO+H2O (B)
したがって、NH3を用いる合成ガスの生成は、NH3の分解及びRWGS反応を含む複数のプロセスを必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示するシステムでは、H2ガスのみが第2の反応器内で生成される。したがって、合成ガスを生成するためには、COガスを生成するためのRWGS反応をアンモニア分解反応とは別に行われなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明の第1の形態は、アンモニア分解及び一酸化炭素生成を連続的に実施するための以下の方法である。
[1]アンモニア分解及び一酸化炭素生成を連続的に実施するための方法であって、
1)第1の反応器内において、NH3ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、NH3ガスの連続流を酸化状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oガス及びN2ガスを生成し、
2)第1の反応器から、H2OガスとN2ガスとを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)第2の反応器内において、酸化されたガスの流れ方向と反対の方向に前記金属/金属酸化物材料を移動させることで、酸化されたガスの連続流を還元状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながら、還元されたガスを生成し、酸化されたガスがCO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、還元されたガスがCOガス、又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
4)第2の反応器から、還元されたガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、
ことを含む方法。
[2]第1の反応器及び第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ金属/金属酸化物材料が移動床反応器の移動床である、上記[1]に記載の方法。
[3]金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である、上記[1]に記載の方法。
[4]第1及び第2の反応器の反応温度が共に700℃~750℃である、上記[3]に記載の方法。
【0008】
本発明の第2の形態は、連続的なアンモニア分解及び一酸化炭素生成のための上記の方法を実施するための以下のシステムである。
[5]上記[1]に記載の方法を実施するためのシステムであって、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、NH3ガスを供給するためのガス入口と、H2OとN2ガスとを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、酸化されたガスを供給するためのガス入口と、還元されたガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第2の反応器を含み、
酸化されたガスが、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、還元されたガスがCOガス、又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
金属/金属酸化物材料が第1の反応器及び第2の反応器の内部に配置されており、
第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料出口が第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、及び第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料出口が第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより第1の反応器と第2の反応器との間の金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
第1の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、NH3ガスを供給するためのガス入口及びH2OとN2ガスとを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されており、
第2の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、酸化されたガスを供給するためのガス入口及び還元されたガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されている、システム。
[6]第1の反応器及び第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ金属/金属酸化物材料が移動床反応器の移動床である、上記[5]に記載のシステム。
[7]金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である、上記[5]に記載のシステム。
[8]第1及び第2の反応器の反応温度が共に700℃~750℃である、上記[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、NH3の分解をRWGS反応に統合する方法及びシステムを提供する。本発明は、単一のシステムを用いて、NH3からのH2ガス生成及びCO2からのCOガス生成を連続的に実施することを可能にして、さらなるプロセスの強化をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を連続的に行うための代表的なシステムを示す概略図である。
【
図2】熱力学的平衡における温度及び生成ガス酸化の関数として、分解されたガス中の残留NH
3濃度を示すグラフである。
【
図3】金属/金属酸化物材料としてFe-O化合物を用い、750℃の温度で実施した、本発明の方法の設計線図である。
【
図4】He中の6.95%のNH
3と共にある粒状Fe/MgAl
2O
4の還元動力学を示すグラフである。
【
図5】He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4の還元動力学についてのアレニウスプロットである。
【
図6】He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4の還元度Xに対する、NH
3分解の依存性を示すグラフである。
【
図7】He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4に対する分解動力学のアレニウスプロットである。
【
図8】He中の6.95%のNH
3と共にある粉状Fe/MgAl
2O
4サンプルの、窒化物形成による重量変化を温度の関数として示すグラフである。
【
図9】He中の5%のCO
2と共にある粉状Fe/MgAl
2O
4の酸化動力学を示すグラフである。
【
図10】He中の5%のCO
2と共にあるFe/MgAl
2O
4の酸化動力学のアレニウスプロットである。
【
図11】温度720℃、酸化工程ではHe中の5%のCO
2の存在下、還元工程では6.95%のNH
3の存在下の、Fe/MgAl
2O
4のサイクル安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
1.アンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を連続的に実施するための方法
本発明の第1の実施形態は、アンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を連続的に実施するための方法であって、
1)第1の反応器内において、NH3ガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、NH3ガスの連続流を酸化状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を還元状態に転化しながらH2Oガス及びN2ガスを生成し、
2)第1の反応器から、H2OガスとN2ガスとを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させ、
3)第2の反応器内において、酸化されたガスの流れ方向と反対の方向に金属/金属酸化物材料を移動させることで、酸化されたガスの連続流を還元状態の金属/金属酸化物材料と接触させて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻しながら、還元されたガスを生成し、酸化されたガスがCO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、還元されたガスがCOガス、又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
4)第2の反応器から、還元されたガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させ、
5)工程1)~4)を連続して繰り返す、ことを含む方法である。
【0013】
本発明の方法の工程1)では、NH3の分解及び金属/金属酸化物材料の還元は、第1の反応器内でNH3ガスの連続流を金属/金属酸化物材料と接触させることによって行われる。ここで、供給NH3ガスは、金属/金属酸化物材料(固体)の移動方向と反対の方向に反応器に供給される。換言すると、ガス(NH3ガス)を固体流(金属/金属酸化物材料)に対して向流方向に供給する、固気向流となる。供給NH3ガスのこのような固気向流は、反応器出口におけるより高いガスと固体の転化率をもたらす。
【0014】
第1の反応器では、NH3が以下の反応(A1)に従ってN2とH2とに分解される。酸素の非存在下では、この反応による気体転化率は、熱力学的平衡によって制限される。第1の反応器では、NH3から生成されたH2は、下記の反応(A2)により、第1の反応器内で金属/金属酸化物材料から放出される格子酸素によってH2Oに酸化される。
NH3→0.5N2+1.5H2 (A1)
1.5H2+1.5MeO→1.5Me+1.5H2O (A2)
(上記の反応では、「Me」は、金属/金属酸化物材料の還元型を示し、「MeO」は、金属/金属酸化物材料の酸化型を示す)。
【0015】
反応(A2)は、反応(A1)によるNH
3の転化率を向上させる。
図2では、(1バールにおける)熱力学的平衡時のNH
3の転化率を、気体の酸化度の関数として示す。
図2は、分解されたガス中の残留NH
3濃度を、100%のNH
3が反応器に供給されたときの、熱力学的平衡における温度と生成ガスの酸化との関数として示す。
図2は、本発明に必要な高いガス酸化度及び高温において、残留NH
3濃度が100ppmをはるかに下回ることが予想され得ることを示す。結果として、第1及び第2の反応器における気体転化率は、還元剤としてのH
2と、酸化剤としてのCO
2及び/又はH
2Oとの酸化還元反応の熱力学によって決定されることになる。次に、このシステムにおける気体及び固体の転化率は、
図3でFe-O化合物について示したような設計線図によって決定され得る。
【0016】
NH3ガスの酸化(及び金属/金属酸化物材料の還元)のための反応条件は、使用する金属/金属酸化物材料及び反応器、生成速度などに応じて変化し得るが、一般に従来のNH3分解反応のための反応条件と同じである。例えば、工程1)の温度は、450℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃の範囲である。下記の実施例の項で詳細に説明するように、気体状生成物中の未反応NH3の量を減少させ、且つN2と金属/金属酸化物材料との間の反応による窒化物の生成をさらに防止するためには、高温が好ましい。
【0017】
本発明の方法の工程2)では、H2O及びN2を含有するガス状生成物を第1の反応器から連続的に抜き取りながら、還元状態の金属/金属酸化物材料を第2の反応器に連続的に移動させる。第1の反応器から抜き取られたガス状生成物は、ごく少量の未反応NH3を含有し得る。
【0018】
本発明の方法の工程3)では、酸化されたガスの連続流を金属/金属酸化物材料と接触させることによって、酸化されたガスの還元及び還元状態の金属/金属酸化物材料の酸化を第2の反応器内で行う。酸化されたガスは、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物のいずれかである。第2の反応器に供給されたCO2ガスは、下記反応(B1)に従ってCOガスに転化され、第2の反応器に供給されたH2Oは、下記反応(B2)に従ってH2ガスに転化される。
CO2→CO+[O] (B1)。
H2O→H2+[O] (B2)。
この工程では、CO2及び/又はH2Oからの酸素を用いて、金属/金属酸化物材料を酸化状態に転化して元に戻す。第2の反応器内で酸化された金属/金属酸化物材料は、この時点で第1の反応器内におけるNH3の分解が可能である。
【0019】
この工程では、供給CO2及び/又はH2Oガスは、金属/金属酸化物材料(固体)の移動方向と反対の方向で、反応器に供給される。換言すると、ガス(CO2/H2O)を固体流(金属/金属酸化物材料)に対して向流方向に供給する、固気向流となる。供給CO2/H2Oのこのような固気向流は、それぞれの反応器出口におけるより高いガス及び固体転化率をもたらす。
【0020】
第2の反応器に供給される酸化されたガスは、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物のいずれかである。酸化されたガスとしてCO2ガス単独を使用すると、COガスである還元されたガスの生成をもたらす。
【0021】
CO2ガスとH2Oガスとの混合物を酸化されたガスとして使用すると、還元されたガスとしてCOガスとH2ガスとの混合物、すなわち合成ガス、の生成をもたらす。例えば、H2OとCO2を2:1のモル比で使用した場合、得られるガスは、およそ2:1の比率でH2とCOとを含有することになり、これは、メタノールの下流の合成に有用である。
【0022】
代わりに、第2の反応器に供給される酸化されたガスは、H2O単独であり得る。H2Oのみを第2の反応器に供給する場合、正味の反応はNH3の分解である。それでもこの方法は、H2ガスを含有するガス状生成物がN2ガスとは別個に得られるため、従来のNH3の分解を上回る利点を有する。
【0023】
CO2/H2Oの還元(及び金属/金属酸化物材料の酸化)のための反応条件は、使用する金属/金属酸化物材料及び反応器、生成速度などに応じて変化し得るが、一般にRWGSのための従来の化学ループ法でCO2をCOに転化するための反応条件と同じである。RWGSのための化学ループ法は、RWGS反応を2つの別個の半反応、すなわちH2からH2Oへの転化及びCO2からCOへの転化によって行う手法であり、酸素は、2つの半反応間で金属又は金属酸化物材料の格子酸素として運搬される。例えば、工程3)の温度は、450℃~1000℃、好ましくは600℃~900℃、より好ましくは700℃~800℃の範囲内である。さらに、工程3)の反応条件は、工程1)の反応条件と同じであるか又は異なり得る。
【0024】
本発明の方法の工程4)では、第2の反応器から、還元されたガスを含むガス状生成物を連続的に抜き取りながら、酸化状態の金属/金属酸化物材料を第1の反応器に連続的に移動させる。第2の反応器から抜き取られたガス状生成物は、生成されたCO及び/又はH2と共に未反応のCO2及び/又はH2Oを含有し得る。
【0025】
工程5)では、工程1)~4)を連続して繰り返す。工程1)~4)を繰り返す回数に関して、特に制限はない。工程1)~4)は、所望の量の生成物が得られるまで又は金属/金属酸化物材料が不活性化するまで繰り返され得る。
【0026】
上記の工程1)~4)から明らかであるように、金属/金属酸化物材料は、酸化状態から還元状態に及びその逆に転化されながら、第1の反応器と第2の反応器との間で循環される。金属/金属酸化物材料のこのような循環は、金属/金属酸化物材料を不活性化させずに長期間使用することを可能にし、十分な酸素を反応系に供給する。さらに、本発明の方法は、平衡転化率を向上させ、ガス状生成物の連続流を生成することにより、ガス生成収率を増加させる。
【0027】
本発明で使用する反応器は、向流状態にある固気流を実現可能な移動床反応器、又は向流状態に近い固気流を達成することが可能な多段流動床反応器であり得る。工程1)で使用する反応器及び工程3)で使用する反応器は、同じであっても、異なっていてもよいが、2つの移動床反応器の使用が生成物ガスの連続流を生成する上で好ましい。本発明の方法を実施するために使用する反応器については、本発明のシステムに関連して以下でより詳細に説明する。
【0028】
本発明の方法で使用する金属/金属酸化物材料は、NH3の分解の触媒として使用され得る任意の金属含有材料又は金属酸化物含有材料(又は金属若しくは金属酸化物自体)である。
【0029】
本発明の方法で使用する金属/金属酸化物材料は、設計線図を用いて選択され得る。例として、
図3に、750℃の温度におけるFe-O化合物の設計線図を示す。異なる候補金属/金属酸化物材料のために同様の設計線図を作成し、本発明の方法で使用するための金属/金属酸化物材料を選択するために用いることができる。設計線図の使用についての詳細は、本発明のシステムに関連して詳細に説明する。
【0030】
金属/金属酸化物材料は、担体材料と組み合わせた金属又は金属酸化物であり得る。担体材料は、金属/金属酸化物材料の使用中の焼結及び活性の段階的な低下を防止するために使用される。例えば、後述する実施例では、Feを、担体材料としてのMgAl2O4と組み合わせている。
【0031】
本発明者は、金属/金属酸化物材料としてFe/MgAl
2O
4を用いて実験を行い、Fe/MgAl
2O
4の還元動力学(
図4及び
図5)、分解動力学(
図6及び
図7)、窒化物形成(
図8)、CO生成(
図9及び
図10)及びサイクル安定性(
図11)について検証した。検証の結果として、この材料を用いる方法は、第1の反応器(すなわちNH
3の分解及びH
2の酸化)及び第2の反応器(すなわちRWGSによるCOの生成)の両方における高い気体転化率を達成しながら、永続的なガス分離なしでN
2フリーガスの生成を達成することが可能であることが判明した。
【0032】
さらに、本発明者は、工程1)における窒化物形成の防止が本方法の優れた性能を達成するために重要であることを見出した。本発明の方法の工程1)では、N2がNH3の分解によって生成され、生成されたN2が反応器内で金属/金属酸化物材料と反応して窒化物を形成し得る。このような窒化物は、原子状窒素を第1の反応器から第2の反応器に運び、この窒素が、第2の反応器から得られるガス状生成物を汚染し得るため、プロセスの性能にとって有害である。
【0033】
本発明では、窒化物の形成を、金属/金属酸化物材料の重量減少を用いて観察した。具体的には、NH3中の材料の還元が完了したときに、反応ガスがNH3/He混合物からHeのみに切り替わると、NH3への曝露中に形成され得る窒化物が自然に分解して、重量減少を生じる。したがって、温度の関数としてのこの重量減少は、反応中に形成される窒化物の量を表す。
【0034】
金属/金属酸化物材料がFeである場合、鉄窒化物であるFe
xNは、第1の反応器内で形成され、第2の反応器に運ばれ得る。
図8に示すように、約540℃では、材料中のほぼ全ての鉄がFe
2Nの形態であるが、一方、700℃を超える温度では、望ましくない窒化物の形成がかなりの程度まで抑制される。したがって、本発明では、金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である場合、反応温度は、700℃~750℃の範囲内が好ましくは、750℃が最も好ましい。
【0035】
2.連続的な逆水性ガスシフト反応のためのシステム
本発明の第2の実施形態は、アンモニア分解及び一酸化炭素生成を連続的に実施する本発明の方法を実施するためのシステムである。当該システムは、
金属/金属酸化物材料、
第1の金属/金属酸化物材料入口と、第1の金属/金属酸化物材料出口と、NH3ガスを供給するためのガス入口と、H2OガスとN2ガスとを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第1の反応器、及び
第2の金属/金属酸化物材料入口と、第2の金属/金属酸化物材料出口と、酸化されたガスを供給するためのガス入口と、還元されたガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口とを有する第2の反応器を含み、
酸化されたガスが、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物であり、還元されたガスが、COガス、又はCOガスとH2ガスとの混合物であり、
金属/金属酸化物材料が第1の反応器及び第2の反応器の内部に配置されており、
第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料出口が第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、及び第2の反応器の第2の金属/金属酸化物材料出口が第1の反応器の第1の金属/金属酸化物材料入口に接続されており、それにより第1の反応器と第2の反応器との間の金属/金属酸化物材料の循環を可能にする回路が形成されており、
第1の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、NH3ガスを供給するためのガス入口及びH2OとN2ガスとを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されており、
第2の反応器内において金属/金属酸化物材料が移動する方向と反対の方向にガスが流れることを可能にする位置に、酸化されたガスを供給するためのガス入口及び還元されたガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口が設置されている、システムである。
【0036】
アンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を連続的に実施するための代表的なシステムを示す概略図である
図1を参照して、本発明のシステムを次に説明する。
【0037】
本発明のシステムは、NH3の分解(及び金属/金属酸化物材料の還元)のための第1の反応器10と、COの生成(及びまた金属/金属酸化物材料の酸化)のための第2の反応器20とを含む。向流状態の固気流を実現するか又はそれに近い状態を達成する任意の気固反応器が本発明のシステムで使用され得る。例えば、反応器は、向流状態にある固気流を実現可能な移動床反応器、又は向流状態に近い状態を達成することが可能な段階流動床反応器であり得る。第1の反応器10及び第2の反応器20は、同じであるか又は異なるが、2つの移動床反応器の使用が生成物ガスの連続流を生成するのに好ましい。
【0038】
第1の反応器10は、第1の金属/金属酸化物材料入口11と、第1の金属/金属酸化物材料出口12と、NH3ガスを供給するためのガス入口13と、H2O及びN2ガスを含むガス状生成物を抜き取るためのガス出口14とを有する。金属/金属酸化物材料30は、反応器内で移動床を形成する。反応器内で固気流の向流状態又はそれに近い状態を実現するために、供給ガスの流れ方向は、移動床の移動方向と反対である。したがって、典型的なシステムでは、ガス入口13は、金属/金属酸化物材料出口12の近くに設置され、ガス出口14は、金属/金属酸化物材料入口11の近くに設置される。ガス入口13は、NH3ガスを反応器に供給するためのアンモニアガス供給源に接続される。ガス出口14は、N2ガス、H2Oガス及び未反応NH3ガスを含有するガス状生成物を貯蔵するための貯蔵容器に接続され得る。代わりに、ガス状生成物は、N2、H2O及びNH3を分離するための装置に供給され得る。分離されたNH3ガスは、アンモニアガス供給源に戻され、次にガス入口13から第1の反応器10に供給され得る。
【0039】
第2の反応器20は、第2の金属/金属酸化物材料入口21と、第2の金属/金属酸化物材料出口22と、酸化されたガスを供給するためのガス入口23と、還元されたガスを含有するガス状生成物を抜き取るためのガス出口24とを有する。金属/金属酸化物材料30は、反応器内で移動床を形成する。反応器内で固気流の向流状態又はそれに近い状態を実現するために、供給ガスの流れ方向は、移動床の移動方向と反対である。したがって、典型的なシステムでは、ガス入口23は、金属/金属酸化物材料出口22の近くに設置され、ガス出口24は、金属/金属酸化物材料入口21の近くに設置される。
【0040】
本発明では、第2の反応器に供給される酸化されたガスは、CO2ガス、又はCO2ガスとH2Oガスとの混合物のいずれかである。酸化されたガスとしてCO2ガス単独を使用すると、還元されたガスとしてCOガスが生成され、酸化されたガスとしてのCO2ガスとH2Oガスとの混合物を使用すると、還元されたガスとして、COガスとH2ガスとの混合物、すなわち合成ガスが生成される。代わりに、第2の反応器に供給される酸化されたガスをH2O単独とすることもできる。H2Oのみを第2の反応器に供給する場合、正味の反応はNH3の分解である。それでもこの方法は、H2ガスを含有するガス状生成物がN2ガスとは別個に得られるため、従来のNH3の分解を上回る利点を有する。
【0041】
ガス入口23は、CO2及び/又はH2Oを反応器に供給するためのガス供給源に接続され、第2の反応器20に供給されるガスは、CO2及び/又はH2Oを含有する。ガス出口24は、CO及び/又はH2と、未反応のCO2及び/又はH2Oとを含有するガス状生成物を貯蔵するための貯蔵容器に接続し得る。代わりに、ガス状生成物を、未反応のCO2及び/又はH2Oを分離するための装置に供給し、分離されたCO2ガスを酸化されたガスの供給源に戻し、次にガス入口23から第2の反応器20に供給し得る。
【0042】
第1の反応器10及び第2の反応器20は、互いに接続されて回路を形成する。具体的には、第1の反応器10の第1の金属/金属酸化物材料出口12は、第2の反応器20の第2の金属/金属酸化物材料入口21に接続され、第2の反応器20の第2の金属/金属酸化物材料出口22は、第1の反応器10の第1の金属/金属酸化物材料入口11に接続され、反応器内の金属/金属酸化物材料30、すなわち移動床は、2つの反応器間で循環される。
【0043】
本発明の方法で使用する金属/金属酸化物材料は、NH3の分解において触媒として使用し得る任意の金属含有材料又は金属酸化物含有材料(又は金属若しくは金属酸化物自体)である。
【0044】
本発明の方法で使用するための金属/金属酸化物材料は、反応系の設備を考慮に入れて、設計線図を用いて選択され得る。例として、
図3に、750℃の温度におけるFe-O化合物の設計線図を示す。
図3では、「還元装置」は、本発明の第1の反応器であり、「酸化装置」は、本発明の第2の反応器である。
図3は、本発明の方法で使用する反応系が以下の制限を受けることを示す。
1)固体(金属/金属酸化物材料)が第1の反応器から第2の反応器に供給されるため、第1の反応器の下部における固体転化率は、第2の反応器の上部における固体転化率と同一である必要がある。
2)逆に、第2の反応器の上部における固体転化率は、第1の反応器の下部における固体転化率と同一である必要がある。
3)システムの操作中のいずれの時点でも、操業線は、熱力学的に許容されない領域に及ぶべきではない。
4)第1及び第2の反応器における操業線の傾きは、対応する固気流れの比率が調整可能であるため、独立して選択され得る。
【0045】
どのような操業線が最適であると考えられるかは、プロセス要件に依存する。最適化の対象は、第1若しくは第2の反応器のいずれか又は両方におけるガス転化率及びさらに固体転化率であり得る。より高い固体転化率は、反応器間で循環しなければならない固体の量を減少させる。望ましい操業線は、一連の経験則又は厳密な数値最適化によって、図表から決定され得る。ここで示す操業線は、両方の反応器における気体転化率を最適化することによって得られたものである。
【0046】
金属/金属酸化物材料は、担体材料と組み合わされた金属又は金属酸化物であり得る。担体材料は、金属/金属酸化物材料の使用中の焼結及び活性の段階的な低下を防止するために使用される。例えば、以下の実施例では、Feを、担体材料としてのMgAl2O4と組み合わせる。
【0047】
金属/金属酸化物材料としてFe/MgAl
2O
4を用いる実験により、本発明者は、この材料を用いる本発明のシステムが、第1の反応器(すなわちNH
3の分解)及び第2の反応器(すなわちRWGSによるCOの生成)の両方における高い気体転化率、及び永続的なガス分離なしでのN
2フリーガスの生成を達成することが可能であることを見出した。さらに、本発明者は、金属/金属酸化物材料の重量減少を測定することにより、第1の反応器における窒化物形成を防止するのに好適な反応条件を決定した(
図8)。したがって、本発明では、金属/金属酸化物材料が酸化鉄材料である場合、反応温度は、700℃~750℃の範囲内が好ましく、750℃が最も好ましい。
【0048】
次に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明を限定すると解釈されるものではない。
【実施例0049】
実施例1
金属/金属酸化物材料としてFe-O化合物を用いるアンモニアの分解及び一酸化炭素の生成
【0050】
(1)金属/金属酸化物材料の調製
Fe-O化合物を金属/金属酸化物材料として使用するために調製した。
【0051】
Fe2O3(50重量%、米国、Sigma-Aldrich社)及びMgAl2O4(50重量%、フランス国、Baikowski社)の微粉末から、粒状Fe/MgAl2O4を製造した。初めに、粉末をEirich EL1高せん断ミキサーで十分に混合した。次に、脱イオン水を、粒状材料を構築するためのバインダーとして混合物に徐々に加えた。得られた粒状材料に機械的安定性を付与するために、乾燥させて、3時間にわたって1250℃で焼成した。最後に、焼成した顆粒を250~500μmのサイズ範囲にふるい分けした。酸化還元サイクル中の、材料の焼結による初期不活性化の影響をなくすために、H2中での完全な還元、及び続くCO2中での完全な酸化を3サイクル実施した。次に、得られた材料を、そのままの状態(「粒状」と称する)で、又は乳棒と乳鉢で微粉砕した後の状態(「粉状」と称する)で、NH3とともに実験に使用した。
【0052】
実験は、熱重量分析/四重極型質量分析の組み合わせ(TG/QMS法)のための設備で行った。これは、NH3分解動力学をQMSシグナルから、酸化還元動力学をTGシグナルから同時に決定するためである。TGシグナルに対するガスの切り替え及び浮力の影響を最小限に抑えるために、示差型天秤(STA2500、ドイツ国、Netzsch社)を使用した。定量的QMSデータを、純ガスを用いたQMS(403 Aeolos Quadro、ドイツ国、Netzsch社)の慎重な校正によって得た。るつぼの縁まで不活性ZrO2球で充填し、サンプルをその上に設置し、高い流量(400mlN/分)及び約8mgの小さいサンプルサイズで操作することにより、動力学的測定に対する物質移動制限の影響を最小限に抑えた。
【0053】
(2)還元動力学
Fe3O4からFeへの還元は、直接又は間接的に進行する。直接経路では、ガス状生成物としてH2O及びN2が得られる(式(1))。
NH3+0.375Fe3O4→0.5N2+1.5H2O+1.125Fe (1)
【0054】
このFe
3O
4の還元は、間接的にも起こり得、最初にガス状のH
2がNH
3の分解によって生成され、その後、固体酸化鉄の格子酸素によってH
2が酸化される。この研究で行われた実験から経路を認識することはできない。還元速度は、一次反応モデルによって十分に説明することが可能である。
図4は、He中の6.95%のNH
3と共にある粒状Fe/MgAl
2O
4の還元動力学を示し、実線は、下記式(2)から得られるモデル結果を示す。
【0055】
NH3による還元反応の速度方程式は、固体転化率又は還元度への依存を表す因子X、反応物濃度CNH3及び反応温度Tを含む。X=0は、サンプルがNH3によって還元される前の完全に酸化された状態を示し、X=1は、サンプルがNH3に曝された後の還元状態を示す。
【0056】
【0057】
He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4の還元動力学についてのアレニウスプロットを
図5に示す。
図5は、約560~600℃で観察可能な明瞭なメカニズムの変化を伴う温度依存性を示す。より低い温度では、約91kJ mol-1及び82kJ mol-1の高い活性化エネルギーが粒状材料及び粉状材料のそれぞれについて観察され、これは、動力学的制御を示す。より高い温度では、約13kJ mol-1及び6kJ mol-1の非常に低い活性化エネルギーが粒状材料及び粉状材料のそれぞれについて観察された。完全な動力学的パラメータが
図5によって提供される。
【0058】
反応次数nは、T=520℃及びT=680℃における粒状材料を用いた濃度変化実験から決定し、より低い温度範囲についてはn=0.44、より高い温度範囲についてはn=0.77が得られた。
【0059】
(3)分解動力学
還元動力学と同様に、NH
3分解反応についての速度方程式は、以下の式(3)に示されるように定式化され得る。
【数2】
【0060】
この分解速度は、材料の還元度Xに依存する。これは、金属鉄がNH
3分解のための活性相であるためである。同時に行うTG-QMS測定から、良好な一次近似は、還元度Xに対する分解速度の線形依存性である。これは、
図6に示され、
図6は、He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4の還元度Xに対するNH
3分解速度の依存性を示す。Xは、重量測定による重量変化、及び同時のQMS測定で得られる分解速度から決定される。
【0061】
反応速度定数k
crack,0は、還元が完了した、NH
3曝露の最後の10分間(X≒1)から決定した。He中の6.95%のNH
3と共にあるFe/MgAl
2O
4に対する分解動力学に関するアレニウスプロットを
図7に示す。
【0062】
図7では、メカニズムの明瞭な変化を約520~560℃で観察可能である。より低い温度では、約91kJ mol-1及び125kJ mol-1の高い活性化エネルギーが粒状材料及び粉状材料のそれぞれについて観察され、これは動力学的制御を示す。より高い温度では、約27kJ mol-1のより低い活性化エネルギーが観察された。完全な動力学的パラメータを
図7で提供する。
【0063】
反応次数nは、T=520℃及びT=680℃で粒状材料を用いた濃度変化実験から決定し、より低い温度範囲についてはn=0.43、より高い温度範囲についてはn=0.89が得られた。
【0064】
(4)窒化物の形成
鉄窒化物であるFexNが形成されると、これは原子状窒素を第1の反応器(「還元装置」)から第2の反応器(「酸化装置」)に運び、所望の窒素フリーの生成ガスを汚染し得るため、プロセス性能にとって有害である。
【0065】
NH
3中の金属/金属酸化物材料の還元の完了後、反応ガスがNH
3/He混合物からHeのみに切り替わると、NH
3への曝露中に形成され得る窒化物が自然に分解して、重量減少を生じる。
図8は、He中の6.95%のNH
3と共にある粉状Fe/MgAl
2O
4サンプルの、窒化物形成による重量変化を温度の関数として示す。約540℃では、材料中のほぼ全ての鉄がFe
2Nの形態である。これは、NH
3/Heに曝露した後、NH
3/He中でクエンチングして、窒化物の自然な分解を防止することによって得られたサンプルのXRDパターンから確認した。
【0066】
この望ましくない窒化物形成を回避するために、プロセスは、700℃超、好ましくは約750℃の温度で操作されるべきである。
【0067】
(5)COの生成
鉄の酸化によるCO
2からのCOの生成について、還元反応(式(4))と同様に速度方程式も定式化され得る。
【数3】
【0068】
還元動力学と同様に、酸化動力学は、一次動力学モデルによって十分に説明することができる。
図9は、He中の5%のCO
2と共にある粉状Fe/MgAl
2O
4の酸化動力学を示す。実線は、上記の式(4)から得たモデル結果を示す。
【0069】
対応するアレニウスプロットを
図10に示す。粉状サンプルの見掛けの活性化エネルギーは、55.8kJ mol-1であった。一方、粒状材料の見掛けの活性化エネルギーは、32.5kJ mol-1であり、粉状サンプルよりも著しく低かった。これは、ある程度の粒子内物質移動抵抗の存在を示し、プロセス及び材料の設計において考慮する必要がある。
【0070】
(6)サイクル安定性
NH
3中における分解並びに還元、及びその後のCO
2中における酸化からなるサイクル実験を15回行って、材料のサイクル安定性を決定した。実験にはFe/MgAl
2O
4を用い、酸化工程はHe中の5%のCO
2と、還元工程は6.95%のNH
3とともに、いずれも温度720℃で実施した。15サイクルの相対速度を
図10に示す。識別可能な活性化傾向は
図10から観察されず、したがって反応が安定していた。
【0071】
(7)結果のまとめ
永続的なガス分離なしにN2フリーガスの生成が実現可能であり、Fe/MgAl2O4の好適な操作温度が約700℃~750℃の範囲内であることが分かった。この温度範囲では、高いガス転化率が達成され、鉄窒化物の有害な形成が防止された。
【0072】
実施例2
第2の反応器におけるH2OガスとCO2ガスとの混合物の使用
CO2ガスの代わりに、H2OとCO2とのモル比が2:1の混合物を酸化されたガスとして使用する以外は、実施例1と実質的に同様にアンモニアの分解及び一酸化炭素の生成を実施した。
【0073】
H2OガスとCO2ガスの混合物を酸化されたガスとして使用した場合、第2の反応器内で生成される還元されたガスは、H2ガスとCOガスとの混合物であった。酸化されたガス中のH2OガスとCO2ガスとのモル比が2:1であるため、還元されたガス中のH2及びCOのモル比は約2:1であった。このようにして生成された還元ガスは、メタノールの下流の合成に有用であった。
前記第1の反応器及び前記第2の反応器のそれぞれが移動床反応器であり、且つ前記金属/金属酸化物材料が前記移動床反応器の移動床である、請求項5に記載のシステム。