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特開2024-12933落雷の傾斜状況推定システム、及び、落雷の傾斜状況推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012933
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】落雷の傾斜状況推定システム、及び、落雷の傾斜状況推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/16 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
G01W1/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114774
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幹久
(72)【発明者】
【氏名】工藤 亜美
(57)【要約】
【課題】落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定する。
【解決手段】複数の電波計測手段2の計測結果に基づいて電界の分布を形成し、電界の分布に基づいて雷放電路(雷道)3の傾斜状況(傾斜方向、傾斜角度)を導き出し、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、落雷における雷放電路(雷道)3の傾斜の状況を的確に推定する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雷の電波を観測する複数の電波観測手段と、
複数の前記電波観測手段で観測された電波の分布を形成する分布形成手段と、
前記分布形成手段により形成された電波の分布に基づいて雷放電路の傾斜状況を導出する傾斜導出手段とを備えた
ことを特徴とする落雷の傾斜状況推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、
前記分布形成手段は、
平面状態での電波の強さの範囲を、向き及び量のパラメータを用いて電界範囲として形成する
ことを特徴とする落雷の傾斜状況推定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、
前記傾斜導出手段は、
前記分布形成手段で形成された電界範囲の向きに基づいて雷放電路の傾斜方向を導出する
ことを特徴とする落雷の傾斜状況推定システム。
【請求項4】
請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、
前記傾斜導出手段は、
前記分布形成手段で形成された電界範囲の大きさに基づいて雷放電路の傾斜角度を導出する
ことを特徴とする落雷の傾斜状況推定システム。
【請求項5】
請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、
前記傾斜導出手段は、
前記分布形成手段で形成された電界範囲の向きに基づいて雷放電路の傾斜方向を導出すると共に、前記分布形成手段で形成された電界範囲の大きさに基づいて雷放電路の傾斜角度を導出する
ことを特徴とする落雷の傾斜状況推定システム。
【請求項6】
複数個所で雷の電波を計測し、平面状態での電波の範囲の向き及び大きさに基づいて雷放電路の傾斜方向及び傾斜角度を推定することを特徴とする落雷の傾斜状況推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の雷の状況に応じて落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を推定することができる落雷の傾斜状況推定システム、及び、落雷の傾斜状況推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雷発生時の落雷電荷量や位置を推定する技術として、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)が使用されている(例えば、特許文献1)。LLSは、落雷に伴う電界や磁界の時間変化などを測定し、落雷の位置や時刻を抽出する技術となっている。LLSを用いて落雷の地域ごとの雷パラメータ(ピーク電流、電流峻度、電荷量、電流波尾長などの落雷の電流)を取得することが従来から行われている。
【0003】
雷の被害につながる雷パラメータの一つとして、落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況(傾きの方向や角度など)が挙げられる。雷道の傾斜状況により、近隣の機器において、雷による損傷機器の特定や損傷具合の推定を行うことができると考えられ、雷道の傾斜状況をメンテナンスの指標として用いることが考えられる。また、雷道の傾斜状況によっては、鉄塔における架空地線以外に落雷してしまい、送電線に雷が落ちる虞が考えられる。
【0004】
このため、雷パラメータとして、雷道の傾斜の状況を推定することが重要であり、雷道の傾斜の状況を推定する技術が望まれているのが現状である。雷の状況を撮影して雷道の傾斜を観測することも考えられるが、落雷はいつ発生するのか特定することが困難であり、また、複数方向から撮影しないと雷道の傾斜の状況を観測することはできない。
【0005】
雷道の傾斜の状況を推定することができれば、地域に応じた雷道の傾斜状況の分布などを蓄積することができ、機器のメンテナンスや、送電線のメンテナンスの労力やコストを大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-197017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定できる落雷の傾斜状況推定システムを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定できる落雷の傾斜状況推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、落雷の電波を複数個所で観測し、複数個所での電波の強さの状況に基づいて、例えば、電界が高くなる計測位置(方向)、電界の値に基づいて、雷放電路(雷道)の傾斜方向、傾斜角度を推定する技術である。
【0010】
例えば、複数の電波観測手段での計測結果に基づいて、電界強度の方位の分布、即ち、電界の強度の平面状態での範囲(電界範囲)を形成し、電界範囲を評価することで、電界範囲の形に基づいて傾斜方向を導出し、電界範囲の広さに基づいて傾斜角度を導出する。
【0011】
電界範囲の評価は、予めデータ化して作成したマップなどと比較して、傾斜方向、傾斜角度を評価することが可能である。また、計測の都度、電界の範囲を定量化する演算を行い、傾斜方向、傾斜角度を評価することが可能である。
【0012】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、雷の電波を観測する複数の電波観測手段と、複数の前記電波観測手段で観測された電波の分布を形成する分布形成手段と、前記分布形成手段により形成された電波の分布に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜状況を導出する傾斜導出手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項1に係る本発明では、複数の電波観測手段により雷の電波を計測し、分布形成手段により電波の分布を形成し、傾斜導出手段により電波の分布に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜状況を導出する。
【0014】
したがって、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定することができる。
【0015】
そして、請求項2に係る本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、請求項1に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、前記分布形成手段は、平面状態での電波の強さの範囲を、向き及び量のパラメータを用いて電界範囲として形成することを特徴とする。
【0016】
請求項2に係る本発明では、平面状態での電波の強さの範囲を、向き及び量のパラメータを用いて電界範囲(レーダーチャート)として形成し、電界範囲に基づいて雷放電路の傾斜状況(傾斜方向、傾斜角度)を導き出すことができる。
【0017】
また、請求項3に係る本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、前記傾斜導出手段は、前記分布形成手段で形成された電界範囲の向きに基づいて雷放電路(雷道)の傾斜方向を導出することを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る本発明では、分布形成手段で形成された電界範囲(レーダーチャート)の向き(平面内での面積が大きい方向)に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜方向を導出する。
【0019】
また、請求項4に係る本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、前記傾斜導出手段は、前記分布形成手段で形成された電界範囲の大きさに基づいて雷放電路(雷道)の傾斜角度を導出することを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る本発明では、分布形成手段で形成された電界範囲(レーダーチャート)の大きさ(平面内での面積の大きさ)に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜角度を導出する。
【0021】
また、請求項5に係る本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、請求項2に記載の落雷の傾斜状況推定システムにおいて、前記傾斜導出手段は、前記分布形成手段で形成された電界範囲の向きに基づいて雷放電路(雷道)の傾斜方向を導出すると共に、前記分布形成手段で形成された電界範囲の大きさに基づいて雷放電路(雷道)の傾斜角度を導出することを特徴とする。
【0022】
請求項5に係る本発明では、分布形成手段で形成された電界範囲(レーダーチャート)の向き(平面内での面積が大きい方向)に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜方向を導出すると共に、電界範囲(レーダーチャート)の大きさ(平面内での面積の大きさ)に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜角度を導出する。
【0023】
上記目的を達成するための請求項6に係る本発明の落雷の傾斜状況推定方法は、複数個所で雷の電波を計測し、平面状態での電波の範囲の向き及び大きさに基づいて雷放電路の傾斜方向及び傾斜角度を推定することを特徴とする。
【0024】
請求項6に係る本発明では、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の落雷の傾斜状況推定システムは、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定することが可能になる。
【0026】
本発明の落雷の傾斜状況推定方法は、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施例に係る落雷の傾斜状況推定システムの全体構成を説明する概念図である。
図2】本発明の一実施例に係る落雷の傾斜状況推定システムの全体構成を説明する概念図である。
図3】制御手段のブロック構成図である。
図4】雷放電路(雷道)の概念図である。
図5】電界強度の経時変化を表すグラフである。
図6】電界強度の分布を表す説明図(レーダーチャート)である。
図7】電界強度の経時変化を表すグラフである。
図8】電界強度の分布を表す説明図(レーダーチャート)である。
図9】電界強度の経時変化を表すグラフである。
図10】電界強度の分布を表す説明図(レーダーチャート)である。
図11】送電線の鉄塔に対する落雷の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1図2に基づいて落雷の傾斜推定システムの全体の構成を説明する。図1には本発明の一実施例に係る落雷の傾斜推定システムの全体の構成を説明するための側面視状態の概念、図2には本発明の一実施例に係る落雷の傾斜推定システムの全体の構成を説明するための平面視状態の概念を示してある。
【0029】
図に示すように、落雷の傾斜推定システムは、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)を備えている。即ち、設備機器1a、1b、1cの周囲には複数の電波計測手段2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h(複数の電波計測手段2)が配されている。
【0030】
落雷における雷道(雷放電路)3の電波が電波計測手段2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2hで計測され、計測情報は制御手段4に入力される。制御手段4では、複数の電波計測手段2の計測結果に基づいて電界の分布が形成され、電界の分布に基づいて雷放電路3の傾斜状況(傾斜方向、傾斜角度θ:鉛直方向に対する傾き)が導き出される。
【0031】
雷放電路3の傾斜の状況を推定することで、雷放電路3の傾斜方向、傾斜角度に基づいた機器の損傷の程度、送電線への影響の虞などを類推することができる。このため、雷放電路3の傾斜に基づく地域に応じた雷道の傾斜状況の分布などを蓄積することができ、雷放電路3の傾斜に基づく各種の影響に応じた機器のメンテナンスや、送電線のメンテナンスの労力やコストを大幅に低減することができる。
【0032】
図3から図10に基づいて落雷の傾斜状況の具体的な評価(制御手段4での制御)について説明する。
【0033】
図3に基づいて制御手段4のブロック構成を説明する。
【0034】
制御手段4には、複数の電波計測手段2の計測結果が入力される電界強度検出手段5が備えられている。電界強度検出手段5で検出された電界強度の情報は電界範囲形成手段6(分布形成手段)に送られる。電界範囲形成手段6では、平面状態での電波の強さの範囲が、向き及び量のパラメータを用いて電界範囲(レーダーチャート)として形成される。
【0035】
電界範囲形成手段6で形成された電界範囲(レーダーチャート)の情報は、形・面積評価手段7に送られ、電界範囲(レーダーチャート)の状態が評価される。傾斜方向導出手段8(傾斜導出手段)では、電界範囲(レーダーチャート)の状態により傾斜方向が導出され、傾斜角度導出手段9(傾斜導出手段)では、電界範囲(レーダーチャート)の状態により傾斜角度が導出される。
【0036】
傾斜方向導出手段8で把握された傾斜方向の情報、傾斜角度導出手段9で把握された傾斜角度の情報は、雷道評価手段10に送られ、雷道評価手段10では雷道(落雷)の向きと角度が評価され、雷道傾斜情報として出力される。
【0037】
図4から図10に基づいて制御手段4における雷道傾斜情報を得る過程での具体的な状況を説明する。
【0038】
図4には雷放電路(雷道)の具体例を示した概念を示してある。
【0039】
図に示すように、落雷として、電波計測手段2aの方向に傾斜する雷道A、電波計測手段2c、電波計測手段2dの間の方向に傾斜する雷道B、電波計測手段2f、電波計測手段2gの間の方向に傾斜する雷道Cが想定されている。
【0040】
図5には雷道Aにおける電界強度の経時変化を表すグラフ、図6には雷道Aにおける電界強度の分布(電界範囲)の状況(レーダーチャート)を示してあり、それぞれ(a)は雷道Aの傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合、(b)は雷道Aの傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合である。
【0041】
図5に示すように、落雷が雷道Aの状態であった場合、主に、電波計測手段2a、2b、2hの計測情報が得られ、電波計測手段2aで計測された結果(a:細実線の状態)、電波計測手段2bで計測された結果(b:細一点鎖線の状態)、電波計測手段2hで計測された結果(h:太点線の状態)のグラフが得られる。
【0042】
そして、図5(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界強度の値に比べ、図5(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界強度の値が高くなっている。
【0043】
図6に示すように、落雷が雷道Aの状態であった場合、主に、電波計測手段2a、2b、2hの方向で囲まれる平面視の領域の範囲に電界の分布が示される。そして、図6(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積に比べ、図6(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積が広くなっている。
【0044】
したがって、図5で示した電界強度の経時変化の状態、及び、図6で示した電界の分布の範囲の面積の状態(形状、広さ)に基づいて、落雷が雷道Aの状態であり、傾斜角度が、30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)、もしくは、45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)であると評価することができる。
【0045】
図7には雷道Bにおける電界強度の経時変化を表すグラフ、図8には雷道Bにおける電界強度の分布(電界範囲)の状況(レーダーチャート)を示してあり、それぞれ(a)は雷道Bの傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合、(b)は雷道Bの傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合である。
【0046】
図7に示すように、落雷が雷道Bの状態であった場合、主に、電波計測手段2c、2d、2eの計測情報が得られ、電波計測手段2cで計測された結果(c:細二点鎖線の状態)、電波計測手段2bで計測された結果(d:細点線の状態)、電波計測手段2eで計測された結果(e:太実線の状態)のグラフが得られる。
【0047】
そして、図7(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界強度の値に比べ、図7(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界強度の値が高くなっている。
【0048】
図8に示すように、落雷が雷道Bの状態であった場合、主に、電波計測手段2c、2d、2eの方向で囲まれる平面視の領域の範囲に電界の分布が示される。そして、図8(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積に比べ、図8(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積が広くなっている。
【0049】
したがって、図7で示した電界強度の経時変化の状態、及び、図8で示した電界の分布の範囲の面積の状態(形状、広さ)に基づいて、落雷が雷道Bの状態であり、傾斜角度が、30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)、もしくは、45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)であると評価することができる。
【0050】
図9には雷道Cにおける電界強度の経時変化を表すグラフ、図10には雷道Cにおける電界強度の分布(電界範囲)の状況(レーダーチャート)を示してあり、それぞれ(a)は雷道Cの傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合、(b)は雷道Cの傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合である。
【0051】
図9に示すように、落雷が雷道Cの状態であった場合、主に、電波計測手段2e、2f、2gの計測情報が得られ、電波計測手段2eで計測された結果(e:太実線の状態)、電波計測手段2fで計測された結果(f:太一点鎖線の状態)、電波計測手段2gで計測された結果(g:太二点鎖線の状態)のグラフが得られる。
【0052】
そして、図9(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界強度の値に比べ、図9(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界強度の値が高くなっている。
【0053】
図10に示すように、落雷が雷道Cの状態であった場合、主に、電波計測手段2e、2f、2gの方向で囲まれる平面視の領域の範囲に電界の分布が示される。そして、図10(a)の傾斜角度が30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積に比べ、図10(b)の傾斜角度が45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)の場合の電界の分布の範囲の面積が広くなっている。
【0054】
したがって、図9で示した電界強度の経時変化の状態、及び、図10で示した電界の分布の範囲の面積の状態(形状、広さ)に基づいて、落雷が雷道Cの状態であり、傾斜角度が、30度(鉛直に対して傾きが小さい角度)、もしくは、45度(鉛直に対して傾きが大きい角度)であると評価することができる。
【0055】
上述したように、複数の電波計測手段2で計測された電波の状況により、雷道の電界強度の経時変化、雷道の電界強度の分布(電界範囲)の状況(向きや平面の面積)を把握することができ、落雷の向き、傾斜角度など(例えば、雷道A、雷道B、雷道Cのいずれか)を評価することができる。
【0056】
図4から図10に示した状況に関し、落雷の電波を計測する都度、演算処理などにより雷道の電界強度の経時変化、雷道の電界強度の分布(電界範囲)を把握し、落雷の向きや傾斜角度などを評価することができる。
【0057】
落雷(雷道)の向きや傾斜角度などを評価することで、向きや傾斜角度に基づいた機器への影響の大きさ(損傷の程度)、送電線への影響の虞などを類推することができる。例えば、地域ごとに雷の発生状況を把握してデータを蓄積することで、地域に応じた雷の影響を予測したり、雷に対する地域独自の対処を実施したりすることができる。
【0058】
これにより、雷の傾斜に基づく影響に応じた機器のメンテナンスや、送電線のメンテナンス(影響を受けにくい状態への変更)を適切に行うことができ、機器などのメンテナンスの労力やコストを的確に低減することができる。
【0059】
上述した説明では、雷道の電界強度の経時変化、雷道の電界強度の分布(電界範囲)の状況(向きや平面の面積)を検出情報に応じて演算などにより導き出し、落雷の向き、傾斜角度など(例えば、雷道A、雷道B、雷道Cのいずれか)を評価した例を説明したが、予め、任意の電波の状況に応じて、多数の雷道A、雷道B、雷道C・・・・の電界強度の経時変化、雷道の電界強度の分布(電界範囲)の状況をマップ化などにより記憶しておき、検出情報の電波の状況と、予め記憶された電波の状況とを比較し、近似するデータに応じて落雷の向き、傾斜角度などを評価することも可能である。
【0060】
図11に基づいて、落雷の向き、傾斜角度などによる影響の具体例を説明する。図11には、電力線に対する落雷の影響について説明するための鉄塔の外観状況を示してある。
【0061】
図に示すように、鉄塔21には、電気を送る送電線22が支持されている、そして、鉄塔21の頂部には、落雷に備えて架空地線23が支持されている。
【0062】
雷25の傾斜角度θが所定の角度よりも小さい場合(鉛直に対して傾きが小さい角度の場合)、雷25は架空地線23に落ちて、送電線22への落雷が防止される(図中実線で示してある)。雷25の傾斜角度θが所定の角度以上になる場合(鉛直に対して傾きが大きい角度の場合)、雷25は架空地線23に落ちることなく、架空地線23以外に落雷してしまい、送電線22に雷が落ちる虞がある(図中点線で示してある)。
【0063】
鉄塔21が建てられている地域での落雷(雷道)の向きや傾斜角度などを評価することで、架空地線23への落雷の状況を推定することができ、送電線22への落雷の影響(雷25が落ちたか、落ちる恐れが高いかなど)を推測して送電線22の破損状況を予測することができる。
【0064】
このため、停電などが生じる前に、送電線22の保守の計画をたてたり、停電などが起きた場合における破損した送電線22の特定をしたりすることが容易に行える。例えば、雷25の向きや傾斜角度などを評価することで、停電などの不具合が生じる前に、破損の虞が高い送電線22の保守を行って、停電の発生を防止することができる。また、落雷による停電などの不具合が発生した際に、送電線22の破損状況を速やかに把握し、普及作業を効率よく迅速に行うことができる。
【0065】
また、鉄塔21を管理する管理者において、地域ごとに落雷の傾斜角度や向きの統計を把握し、落雷の傾斜角度や向きの統計をデータ化しておくことで、地域ごとにその地域に応じた落雷対策を講じることができる。例えば、架空地線23以外に落雷する虞がある傾斜角度や向きの雷が多い地域の鉄塔21の場合、架空地線23を増やしたり、架空地線23の支持位置を傾斜の状態に合わせて設定したりすることができる。
【0066】
上述した落雷の傾斜状況推定システムは、複数の電波計測手段2の計測結果に基づいて電界の分布を形成し、電界の分布に基づいて雷放電路(雷道)の傾斜状況(傾斜方向、傾斜角度)を導き出すことができる。このため、例えば、落雷位置標定システム(Lightning Location Systems:LLS)で観測された雷の電波に基づいて、落雷における雷放電路(雷道)の傾斜の状況を的確に推定することが可能になる。
【0067】
このため、雷の傾斜に基づく影響に応じた機器のメンテナンスや、鉄塔(送電線)のメンテナンス(影響を受けにくい状態への変更)を適切に行うことができ、機器などのメンテナンスの労力やコストを的確に低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、落雷の傾斜状況を推定して情報を提供するシステムの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 設備機器
2 電波計測手段
3 雷道(雷放電路)
4 制御手段
5 電界強度検出手段
6 電界範囲形成手段
7 形・面積評価手段
8 傾斜方向導出手段
9 傾斜角度導出手段
10 雷道評価手段
21 鉄塔
22 送電線
23 架空地線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11