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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129398
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20240919BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H05H1/46 B
H01Q1/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038575
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 太朗
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英紀
【テーマコード(参考)】
2G084
5J046
【Fターム(参考)】
2G084BB02
2G084BB05
2G084BB14
2G084BB26
2G084CC14
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD19
2G084DD38
2G084DD42
2G084DD55
2G084DD62
5J046AB01
5J046AB08
5J046UA02
(57)【要約】
【課題】プラズマ処理装置内に電磁波を供給する複数の電磁波供給部間の干渉を抑制する。
【解決手段】プラズマ処理装置は、上部に開口を有する処理容器と、前記開口を塞ぐように設けられ、前記処理容器の内部空間と外部空間とを仕切る誘電体天板と、前記誘電体天板の上に設けられ、電磁波を前記処理容器内に供給するように構成される複数の電磁波供給部と、を備え、前記誘電体天板は、複数の前記電磁波供給部の間に空洞部を有し、前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面又は前記誘電体天板の内部に形成されている、プラズマ処理装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口を有する処理容器と、
前記開口を塞ぐように設けられ、前記処理容器の内部空間と外部空間とを仕切る誘電体天板と、
前記誘電体天板の上に設けられ、電磁波を前記処理容器内に供給するように構成される複数の電磁波供給部と、を備え、
前記誘電体天板は、複数の前記電磁波供給部の間に空洞部を有し、
前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面又は前記誘電体天板の内部に形成されている、プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記複数の電磁波供給部は、内側供給部と、前記内側供給部よりも外側に配置された外側供給部とを有し、
前記空洞部は、前記内側供給部と前記外側供給部との間に形成されている、
請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面に形成された溝である、
請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記溝は、リング状、円弧状、直線状又はスター状である、
請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記溝の幅は、1mm以上である、
請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記溝の深さは、前記誘電体天板の厚さの1/2以上であり、
前記内部空間に接する前記誘電体天板の面から前記溝の底部までの長さは、1mm以上であって前記誘電体天板が破損しない厚さに形成されている、
請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面に形成された筒状の凹部である、
請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記凹部の径は、λ/(24√ε)~λ/(4√ε)であり、
λを前記空洞部における電磁波の波長、λを真空における電磁波の波長、εを前記空洞部の比誘電率としたとき、λ=λ/√εが成り立つ、
請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記筒状の凹部は、複数設けられ、
隣り合う前記凹部の外縁同士の距離は、λ/2以下である、
請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記凹部の深さは、前記誘電体天板の厚さの1/2以上であり、
前記内部空間に接する前記誘電体天板の面から前記凹部の底部までの長さは、1mm以上であって前記誘電体天板が破損しない厚さに形成されている、
請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記空洞部には、前記誘電体天板の比誘電率よりも低い比誘電率を有する誘電体が充填されている、
請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
上部に開口を有する処理容器と、
前記開口を塞ぐように設けられ、前記処理容器の内部空間と外部空間とを仕切る誘電体天板と、
前記誘電体天板の上に設けられ、スロットアンテナを有し、電磁波を前記スロットアンテナのスロットに通して前記処理容器内に供給するように構成される複数の電磁波供給部と、を備え、
前記誘電体天板は、平面視で前記スロットアンテナのスロット下に少なくとも一部が重なる位置に空洞部を有し、
前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面又は前記誘電体天板の内部に形成されている、プラズマ処理装置。
【請求項13】
前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面に形成された筒状の凹部である、
請求項12に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、処理容器内に導入したマイクロ波により処理ガスからプラズマを生成し、基板をプラズマ処理するマイクロ波導入装置を提案する。処理容器の天井部には、天壁を構成する導電性部材が配置されている。導電性部材は複数の開口部を有し、複数の開口部には複数の誘電体窓が嵌合し、誘電体窓から処理容器内にマイクロ波を導入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-216745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、プラズマ処理装置内に電磁波を供給する複数の電磁波供給部間の干渉を抑制することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、プラズマ処理装置は、上部に開口を有する処理容器と、前記開口を塞ぐように設けられ、前記処理容器の内部空間と外部空間とを仕切る誘電体天板と、前記誘電体天板の上に設けられ、電磁波を前記処理容器内に供給するように構成される複数の電磁波供給部と、を備え、前記誘電体天板は、複数の前記電磁波供給部の間に空洞部を有し、前記空洞部は、前記外部空間に接する前記誘電体天板の面又は前記誘電体天板の内部に形成されている、プラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、プラズマ処理装置内に電磁波を供給する複数の電磁波供給部間の干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図。
図2】実施形態に係る誘電体天板の空洞部とスロットアンテナの配置の一例を示す図。
図3】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の効果を説明するための図。
図4】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の断面例を示す図。
図5】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の有無とスロットアンテナ間の干渉に関するシミュレーションを説明するための図。
図6】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の配置領域の一例を示す図。
図7】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の間隔とシミュレーション結果の一例を示す図。
図8】実施形態に係る誘電体天板の空洞部の他の例を示す図。
図9】実施形態に係るスロットアンテナのスロット下の空洞部を配置した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[プラズマ処理装置]
図1を参照しながら、実施形態に係るプラズマ処理装置の構成について説明する。図1は、実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図である。プラズマ処理装置1は、例えば半導体ウェハを一例とする基板Wを収容する処理容器2と誘電体天板11とを有する。処理容器2は、例えば略円筒形状をなし、上部が開口している。処理容器2は、例えばアルミニウムおよびその合金等の金属材料により形成されている。誘電体天板11は、処理容器2の上部開口を塞ぐように設けられ、処理容器2の内部空間と外部空間とを仕切る。誘電体天板11により仕切られた処理容器2の内部空間は真空側であり、外部空間は大気側である。誘電体天板11は、アルミナ(Al)等の誘電体により形成されている。なお、誘電体天板11の表面のうち外部空間に接する面は、図示しない金属で覆われている。
【0010】
更にプラズマ処理装置1は、処理容器2内に処理ガスを供給するガス供給部31と、処理容器2内を排気する排気装置4と、処理容器2内に電磁波の一例であるマイクロ波を導入する電磁波供給部5とを有する。
【0011】
電磁波供給部5は、誘電体天板11上に複数設けられている。電磁波供給部5は、内側供給部5aと、内側供給部5aよりも外側に配置された外側供給部5bとを有する。誘電体天板11は、複数の電磁波供給部5の間に空洞部41を有する。空洞部41は、外部空間に接する誘電体天板11の面に形成されてもよいし、誘電体天板11の内部に形成されてもよい。例えば、空洞部41は、図1に示すように、内側供給部5aと外側供給部5bとの間の外部空間に接する誘電体天板11の面に形成される。
【0012】
マイクロ波出力部50は、分配器(図示せず)を有し、分配器によりマイクロ波を分配し、マイクロ波導入モジュール61を介してマイクロ波を内側供給部5aと外側供給部5bとに導入する。内側供給部5aは、誘電体天板11の直上にスロットアンテナ63aを有する。同様に、外側供給部5bは、誘電体天板11の直上にスロットアンテナ63bを有する。スロットアンテナ63a、63bにはスロットSが形成されている。
【0013】
内側供給部5aは、マイクロ波伝送路となる同軸導波管構造を有し、マイクロ波をスロットアンテナ63aのスロットSに通して処理容器2内に供給する。同様に、外側供給部5bは、マイクロ波伝送路となる同軸導波管構造を有し、マイクロ波をスロットアンテナ63bのスロットSに通して処理容器2内に供給する。スロットアンテナ63a、63bは金属で形成されている。スロットアンテナ63a、63bの直上には誘電体板で形成された遅波板64が配置されている。
【0014】
処理容器2の内部には載置台21が配置されている。載置台21は、載置面21aを有し、載置面21aに基板Wを載置する。載置台21は、支持部材22により支持され、支持部材22と処理容器2との間に設けられた絶縁部材23より絶縁されている。
【0015】
処理容器2の底部には、複数(図1では2つ)の排気口13aが形成されている。排気口13aには、排気管14を介して排気装置4が接続される。排気装置4は、処理容器2の内部を所望の圧力(真空)に減圧する。処理容器2の側壁には、基板W等を搬送するための搬送口12aが形成され、搬送口12aはゲートバルブGにより開閉する。
【0016】
高周波バイアス電源25は整合器24を介して載置台21に接続されている。高周波バイアス電源25は、基板Wにイオンを引き込むために載置台21に高周波電力を供給する。
【0017】
ガス供給部31は、複数のガス供給管32を介して複数のガスノズル16に接続される。ガスノズル16は、誘電体天板11を貫通し、先端にガス孔16aを有する。ガス供給部31から供給された処理ガスは、ガス供給管32、複数のガスノズル16を通り、ガス孔16aから処理容器2内に供給される。
【0018】
制御装置8は、本開示において述べられる種々のプラズマ処理装置1の動作を実行させるコンピュータ実行可能な命令を処理する。一実施形態において、制御装置8の一部又は全てがプラズマ処理装置1に含まれてもよい。一実施形態において、制御装置8は、プラズマ処理装置1と別体であり、プラズマ処理装置1と通信可能に接続されてもよい。制御装置8は、処理部、記憶部及び通信インターフェースを含んでもよい。制御装置8は、例えばコンピュータにより実現される。処理部は、記憶部からプログラムを読み出し、読み出されたプログラムを実行することにより種々の制御動作を行うように構成され得る。このプログラムは、予め記憶部に格納されていてもよく、必要なときに、媒体を介して取得されてもよい。取得されたプログラムは、記憶部に格納され、処理部によって記憶部から読み出されて実行される。媒体は、コンピュータに読み取り可能な種々の記憶媒体であってもよく、通信インターフェースに接続されている通信回線であってもよい。処理部は、CPU(Central Processing Unit)であってもよい。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェースは、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置1との間で通信してもよい。
【0019】
[誘電体天板]
従来のプラズマ処理装置の天壁には、誘電体天板11の替わりに導電性部材が配置される場合がある。導電性部材は、複数の開口部を有し、各開口部には誘電体窓が嵌合し、誘電体窓から処理容器内にマイクロ波を導入する。
【0020】
係る構成では、誘電体窓下でプラズマが局所的に生成される。このため、基板上に均一にプラズマを供給するためには、誘電体窓から載置台21までの距離(ギャップ)を大きくして、この間の空間にてプラズマを拡散することにより、基板上に均一にプラズマを供給する必要がある。このため、距離(ギャップ)はある程度大きくならざるを得ず、装置の小型化を妨げる。また、係る構成では導電性部材と誘電体窓との間に隙間が生じ、パーティクルが発生する場合がある。
【0021】
これに対して、本実施形態に係るプラズマ処理装置1では、処理容器2の天壁は一枚の誘電体天板11により構成される。これにより、パーティクルの発生を防止することができる。また、一枚の誘電体天板11の全面から処理容器2内にマイクロ波を供給することができる。これにより、距離(ギャップ)を小さくしても基板上に均一にプラズマを供給することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0022】
他方、本実施形態に係るプラズマ処理装置1では、プラズマ密度の分布を調整するために複数の電磁波供給部5が使用される。この場合、すべての電磁波供給部5においてインピーダンスを整合させる必要がある。
【0023】
一枚の誘電体天板11上に複数の電磁波供給部5を搭載して使用している場合、電磁波供給部5同士の干渉が起こる。本明細書において「干渉」とは、電磁波供給部5間で電磁波が相互に入射して各電磁波供給部5においてインピーダンスの整合を乱すことをいう。干渉が起こると、一つの電磁波供給部5から出力されたマイクロ波が、他の電磁波供給部5に入射してインピーダンスの整合が取れなくなる場合がある。この場合、他の電磁波供給部5に効率的にマイクロ波電力を投入できなくなる。
【0024】
[空洞部]
そこで、誘電体天板11の面に空洞部41を設ける。図2は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部41と、内側供給部5aのスロットアンテナ63a及び外側供給部5bのスロットアンテナ63bとの配置の一例を示す図である。誘電体天板11の空洞部41を設ける面は、図2(a)~(c)に示す内側供給部5aのスロットアンテナ63aと、外側供給部5bのスロットアンテナ63bとの間であって外部空間(大気側)に接する面11aである。なお、図1に示すように、面11aは、誘電体天板11の処理容器2の内部空間に接する面11bの反対面である。図2(a)は隣接する空洞部41の間隔(ピッチ)が最も狭く、図2(b)、図2(c)の順に間隔が広くなる。図2(a)~(c)の例では、空洞部41は等間隔に配置される。空洞部41がスロットアンテナ63aとスロットアンテナ63bとの間に配置されるとは、複数の外側供給部5bの最外縁を通る円よりも内側に空洞部41が配置されていればよい。空洞部41の凹部は、不均等に配置されてもよい。空洞部41は、図2に示すように、誘電体天板11の中心に対して対称性を有する位置に配置されることに限らない。
【0025】
誘電体天板11に空洞部41が形成されていると、マイクロ波が誘電体天板11を伝播するとき、空洞部41にてマイクロ波の散乱が起こる。これにより、マイクロ波を供給する複数の電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。なお、図2の例では、誘電体天板11の上部中央に1つの内側供給部5a(スロットアンテナ63a)が設けられている。また、誘電体天板11の上部であって内側供給部5aよりも外周に3つの外側供給部5b(スロットアンテナ63b)が設けられている。ただし、電磁波供給部5の個数及び配置はこれに限らない。
【0026】
図3は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部41の効果を説明するための図である。内側供給部5a及び外側供給部5bからそれぞれ供給され、誘電体天板11を伝わるマイクロ波Rは空洞部41にて散乱を起こす。この散乱には、マイクロ波の屈折や反射も含まれる。これにより、一つの電磁波供給部5から出たマイクロ波が他の電磁波供給部5に入射する割合を低下させることができ、電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。この結果、電磁波供給部5のそれぞれに効率的にマイクロ波電力を投入できる。マイクロ波は、一枚の誘電体天板11全体から処理容器2内に供給されるため、誘電体天板11と載置台21との距離(ギャップ)が小さくても均一なプラズマP1を基板Wに供給することができる。
【0027】
例えば、誘電体天板11が比誘電率10のアルミナ(Al)、空洞部41が比誘電率1の空気とする。誘電体天板11内のマイクロ波が、比誘電率の高いアルミナから比誘電率の低い空洞部41内に入射する際、反射され、一定角度以下で空洞部41内に入射するときは全反射される。この結果、比誘電率が異なる空洞部41で仕切られた先にはマイクロ波が到達し難くなる。このため、電磁波供給部5間に配置された誘電体天板11内を比誘電率が異なる空洞部41で分けることにより、電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。また、空洞部41が筒状の凹部の場合、凹部の円周外縁で生じる円周上のマイクロ波強度分布を平準化することができる。
【0028】
図4は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部41の一部の断面を模式的に示す図である。空洞部41は、処理容器2の外部空間に接する誘電体天板11の面11a(上面)に形成された筒状の凹部である。
【0029】
図4(a)に示す空洞部41の凹部の直径Aは、λ/(24√ε)~λ/(4√ε)であってよい。このとき、λを空洞部41における電磁波(マイクロ波)の波長、λを真空における電磁波(マイクロ波)の波長、εを空洞部41の比誘電率としたとき、λ=λ/√εが成り立つ。
【0030】
また、空洞部41の凹部の深さBは、誘電体天板11の厚さの1/2以上であり、処理容器2の内部空間に接する誘電体天板11の面11bから凹部の底部までの厚さCは1mm以上であって誘電体天板11が破損しない厚さに形成される。直径A、深さB、厚さCはすべての空洞部41において同一寸法でもよいし、異なる寸法でもよい。
【0031】
このように、空洞部41の凹部は、誘電体天板11の上部が開口するように誘電体天板11に彫り込まれており、誘電体で覆われ、凹部の深さBはλ/4に限らず、それ以外の深さでも良い。一方、処理容器2の天壁に誘電体天板11の替わりに導電性部材を配置したプラズマ処理装置1では、導電性部材の下面に深さがλ/4の凹部を設ける。これにより、導電性部材を伝播するマイクロ波が凹部にて弱め合い、凹部から先へマイクロ波が伝播することを抑制する。しかし、本実施形態の誘電体天板11に形成される凹部は、導電性部材を配置したプラズマ処理装置1におけるチョークと構成及び機能が異なる。
【0032】
図4(b)に示すように、誘電体天板11は、その内部に空洞部41aを形成してもよい。このとき、空洞部41aは筒状であり、誘電体天板11の面11a、11bに開口していない。この場合にも、空洞部41aの直径A'は、λ/(24√ε)~λ/(4√ε)であってよい。また、空洞部41aの深さB'は、誘電体天板11の厚さの1/2以上であり、処理容器2の内部空間に接する誘電体天板11の面11bから凹部の底部までの厚さC'は1mm以上であって誘電体天板11が破損しない厚さに形成される。直径A'、深さB'、厚さC'はすべての空洞部41aにおいて同一寸法でもよいし、異なる寸法でもよい。
【0033】
なお、空洞部41、41aは、図4(a)及び(b)に示すように処理容器2の内部空間に接する誘電体天板11の面11b(下面)には形成されていない。つまり、誘電体天板11の面11bは平面である。誘電体天板11の面11bに空洞部41、41aを設けると、空洞部41内にてプラズマが集中して生成され、誘電体天板11の面11b付近でプラズマに濃淡が生じてしまう。また、誘電体天板11の下面に空洞部41、41aを設けることにより、パーティクルの発生源となる可能性がある。これらの理由から、誘電体天板11の面11bは平面とし、これにより、プラズマ密度を均一に制御し、パーティクルの発生を防止することができる。
【0034】
[シミュレーション結果]
図5を参照し、誘電体天板11に空洞部41の凹部を設ける効果について電磁界シミュレーションの結果を示しながら説明する。図5は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部41の有無とスロットアンテナ63a、63b間の干渉に関するシミュレーションを説明するための図である。
【0035】
図5(a)は、空洞部41がない誘電体天板11を使用した場合、内側のスロットアンテナ63aから出力されたマイクロ波が外側のスロットアンテナ63bに入射する割合、つまり、入力値/出力値の絶対値をシミュレーションにより算出する。
【0036】
図5(b)は、所定間隔(ピッチ)で空洞部41の凹部を設けた誘電体天板11を使用した場合、内側のスロットアンテナ63aから出力されたマイクロ波が外側のスロットアンテナ63bに入射する割合をシミュレーションにより算出する。
【0037】
この結果、図5(a)に示す空洞部41の凹部がない誘電体天板11を使用した場合、内側のスロットアンテナ63aから出力されたマイクロ波が外側のスロットアンテナ63bに入射する割合は、約0.0647であった。
【0038】
これに対して、図5(b)に示す空洞部41の凹部がある誘電体天板11を使用した場合、内側のスロットアンテナ63aから出力されたマイクロ波が外側のスロットアンテナ63bに入射する割合は、約0.0256であった。つまり、内側のスロットアンテナ63aと外側のスロットアンテナ63bとの間の誘電体天板11に空洞部41の凹部を設けることにより、スロットアンテナ63aからスロットアンテナ63bに入射するマイクロ波電力を1/3に減少させることができる。つまり、空洞部41の凹部によりスロットアンテナ63a、63b間の干渉を抑制することができていることがわかる。
【0039】
[空洞部の配置領域]
空洞部41の配置領域について、図6を参照しながら説明する。図6は、空洞部41の配置領域が6角格子である場合を示す。図6の例では、最外周の空洞部41が略6角形になるように配置される。ただし、空洞部41の配置領域は、6角格子に限らず、正方格子であってもよい。空洞部41の配置領域が正方格子の場合、最外周の空洞部41が略正方形になるように配置される。
【0040】
[空洞部の間隔]
空洞部41の間隔(ピッチ)について、図7を参照しながら説明する。図7は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部41の間隔の一例を示す図である。図7(a)は、空洞部41の凹部がない誘電体天板11を使用した場合に、1つの内側供給部5a及び3つの外側供給部5bのスロットアンテナ63a、63bからマイクロ波を供給したときの誘電体天板11における電界強度分布のシミュレーション結果例を示す。図7(b)~(e)は、空洞部41の凹部がある誘電体天板11を使用した場合であり、空洞部41の間隔を変えたときに、スロットアンテナ63a、63bからマイクロ波を供給したときの誘電体天板11における電界強度分布のシミュレーション結果例を示す。空洞部41の間隔は、隣り合う空洞部41の凹部の外縁同士の距離である。本シミュレーションでは、空洞部41の凹部の直径は20mm、深さは18mmとする。
【0041】
図7(b)に示す空洞部41の間隔は最も小さく25mmであり、図7(c)、(d)、(e)の順に徐々に間隔が大きくなり、図7(e)に示す空洞部41の間隔は最も大きく100mmである。
【0042】
図7(b)~(e)のいずれの誘電体天板11における電界強度分布も、図7(a)の空洞部41がない誘電体天板11を使用した場合の誘電体天板11の電界強度分布と異なっている。また、シミュレーションの結果、空洞部41の間隔は25mm~100mmのいずれもマイクロ波の伝播抑制効果を有することがわかった。
【0043】
空洞部41の間隔は、隣接する凹部と凹部の間をマイクロ波が通ってしまわないように、マイクロ波が通りにくい幅がよく、λ/2以下であれば凹部と凹部の間をマイクロ波が透過しにくい。よって、隣り合う空洞部41の凹部の外縁同士の距離は、λ/2以下であればよい。これにより、マイクロ波の伝播を抑制して電磁波供給部5間の干渉を抑制し、かつ、筒状の凹部の外縁で生じる円周上の電界強度分布を平準化できる。
【0044】
[空洞部の他の例]
空洞部の他の形状の一例について、図8を参照しながら説明する。図8(a)~(c)は、実施形態に係る誘電体天板11の空洞部の他の例を示す図である。図8(a)では、内側供給部5aのスロットアンテナ63aと外側供給部5bのスロットアンテナ63bとの間にリング状の溝の空洞部41bを有する。空洞部41bは、外部空間(大気側)に接する誘電体天板11の面11aに形成される。
【0045】
空洞部41bのリング状の溝は、1つに限られず、同心円状に複数設けてもよい。内側供給部5a及び外側供給部5bからそれぞれ供給され、誘電体天板11を伝わるマイクロ波は、内側供給部5aと外側供給部5bとの間のリング状の溝にて散乱を起こす。これにより、電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。この結果、各電磁波供給部5に効率的にマイクロ波電力を投入できる。なお、リング状の溝を複数設ける場合、溝間は必ずしも等間隔でなくてもよい。
【0046】
空洞部41bの溝は、リング状に限らず、円弧状、直線状、スター状のいずれでもよく、これらの1つ以上の組み合わせであってもよい。
【0047】
例えば、図8(b)では、直線状の溝を繋ぎ合わせた空洞部41b1が、内側供給部5aのスロットアンテナ63aと外側供給部5bのスロットアンテナ63bと間に設けられている。図8(b)の例では、溝の繋ぎ目である頂点が3つの略三角形である。このような形状の溝は、外側供給部5bの数がnの場合、頂点がnの略n角形状に形成される。
【0048】
図8(c)では、スター状に配置された直線状の溝で示される空洞部41b2が、3つの外側供給部5bのスロットアンテナ63b間に設けられている。また、内側供給部5aのスロットアンテナ63aと3つの外側供給部5bのスロットアンテナ63bと間にリング状の溝で示される空洞部41bが設けられている。リング状の溝で示される空洞部41bと3本の直線状の溝で示される空洞部41b2とは連結している。
【0049】
以上に説明した空洞部41b、41b1、41b2の溝の幅は、1mm以上である。これにより、誘電体天板11を伝わるマイクロ波が溝にて散乱を起こし、電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。
【0050】
空洞部41b、41b1、41b2の溝の深さは、誘電体天板11の厚さの1/2以上であり、処理容器2の内部空間に接する誘電体天板11の面11b(下面)から溝の底部までの長さは、1mm以上であって前記誘電体天板が破損しない厚さに形成されている。
【0051】
[スロット下の空洞部]
誘電体天板11は、平面視でスロットアンテナ63a、63bのスロットS下に少なくとも一部が重なる位置に空洞部41を設けてもよい。
【0052】
空洞部41の凹部が、スロットアンテナ63a、63bのスロットSと少なくとも一部で重なっている場合について、図9を参照しながら説明する。図9は、実施形態に係るスロットアンテナのスロットS下に空洞部41を配置した一例を示す。
【0053】
図9(a)は、スロットアンテナ63bのスロットS下の上下方向に2つ空洞部41を有する。この場合、図9(a)の例では、電界強度が強い領域はスロットS下の上下方向になっている。
【0054】
これに対して、図9(b)の例では、スロットアンテナ63bのスロットS下の中央に空洞部41を有する。この場合、電界強度が強い領域はスロットS下の上下方向と左右方向になっている。これにより、誘電体天板11内の電界強度分布を均一化したり、調整したりすることができ、プラズマの生成を均一化することができる。スロットアンテナ63a、63bのスロットSの直下に設ける空洞部41は、筒状の凹部に限らず溝であってもよい。
【0055】
[その他]
図1では、スロットアンテナ63a、63bを挙げて説明したが、これに限らず、スロットアンテナ63a、63bの替わりにモノポールアンテナを用いてもよい。
【0056】
空洞部41、41a、41b、41b1、41b2には、誘電体天板11の比誘電率よりも低い比誘電率の誘電体が充填されてもよい。マイクロ波が誘電率が低い媒質から高い媒質に入射する場合、一定の角度以上で全反射が起こる。この場合、低誘電率の媒質に入射したマイクロ波が内部で全反射を繰り返し、ランダムな方位の高誘電率媒質戻ってくるため、マイクロ波を散乱させることができる。よって、誘電体天板11に、誘電体天板11の比誘電率のより低い比誘電率の空洞部41を設けることにより、空洞部41と誘電体天板11との境界にてよりマイクロ波の散乱が起こり、一つの電磁波供給部5から出力された電磁波が他の電磁波供給部5へ入射する割合を減らすことができる。
【0057】
空洞部41、41a、41b、41b1、41b2に導体を埋め込むと、マイクロ波により導体が加熱され、マイクロ波の損失を生じさせる。このため、空洞部41、41a、41b、41b1、41b2に埋め込む材質は、誘電体が好ましい。
【0058】
空洞部41、41a、41b、41b1、41b2は、誘電体天板11の厚さ方向に貫通しない。誘電体天板11により大気側と処理容器の内部空間(真空側)とを仕切るためである。
【0059】
以上、本実施形態のプラズマ処理装置によれば、誘電体天板11に比誘電率の異なる領域を設けることにより、電磁波(マイクロ波)の散乱が起こり、一つの電磁波供給部5から出力された電磁波が他の電磁波供給部5へ入射する割合を減らすことができる。これにより、プラズマ処理装置内に電磁波を供給する複数の電磁波供給部5間の干渉を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 プラズマ処理装置
2 処理容器
31 ガス供給部
4 排気装置
5 電磁波供給部
5a 内側供給部
5b 外側供給部
8 制御装置
11 誘電体天板
41 空洞部
50 マイクロ波出力部
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9