(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129425
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】ポリアセタール共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 2/10 20060101AFI20240919BHJP
C08G 2/06 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
C08G2/10
C08G2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038633
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】増田 栄次
(72)【発明者】
【氏名】宇野 希勇
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032AA05
4J032AA32
4J032AA34
4J032AB06
4J032AC02
4J032AC13
4J032AC23
4J032AD44
4J032AE02
4J032AF08
(57)【要約】
【課題】プロトン酸を重合触媒として使用してポリアセタール共重合体を製造する場合であっても、色相及び熱安定性に優れるポリアセタール共重合体が得られる、ポリアセタール共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)としてトリオキサンと共重合し得る化合物とを、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合し、粗ポリアセタール共重合体を得る工程、粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る工程、及び混合物に、重合触媒(c)の失活剤(e)を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う工程、を含み、塩基性化合物(d)の溶液が、窒素又はリンを含む有機化合物を、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液である、ポリアセタール共重合体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)として前記トリオキサンと共重合し得る化合物とを、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合し、粗ポリアセタール共重合体を得る工程、
前記粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る工程、及び
前記混合物に、前記重合触媒(c)の失活剤(e)として、アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩、又は10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う工程、を含み、
前記塩基性化合物(d)の溶液が、窒素又はリンを含む有機化合物を、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液である、ポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合触媒(c)として、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸を使用する、請求項1に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M1はP、Si、B及びGeより選択される元素からなる中心元素を表す。M2はW、Mo及びVより選択される1種以上の配位元素を表す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を表し、zは10以上100以下の整数を表し、mは1以上の整数を表し、nは0以上50以下の整数を表す。〕
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸が、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、及びケイモリブドタングストバナジン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物が、アルカリ金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記コモノマー(b)が、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、及びエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール共重合体は、機械的性質、耐薬品性、摺動性等のバランスに優れ、かつ、その加工が容易であることにより、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品、自動車部品その他の各種機械部品を中心として広く利用されている。
【0003】
ポリアセタール共重合体は、トリオキサンを主モノマーとし、該トリオキサンと共重合し得る化合物をコモノマーとして共重合する共重合体(コポリマー)である。そして、ポリアセタール共重合体(コポリマー)の製造方法として、トリオキサンを主モノマーとし、少なくとも一つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマーとするカチオン共重合が知られている。共重合に用いるカチオン活性触媒としては、中でも三フッ化ホウ素、又は三フッ化ホウ素と有機化合物、例えばエーテル類との配位化合物は、トリオキサンを主モノマーとする重合触媒として最も一般的であり、工業的にも広く用いられている。
【0004】
しかし、三フッ化ホウ素系化合物等の一般に使用される重合触媒では、重合に比較的多量(例えば全モノマーに対し40ppm又はそれ以上)の触媒を必要とする。そのため、重合後の触媒失活処理を十分に行い難く、また、失活化させたとしても触媒に由来する物質が共重合体中に残存し、共重合体の分解が促進される等の問題が生じる場合がある。また、重合収率は低く未反応モノマーが数%から数十%残っている。そのため触媒の失活はトリエチルアミン等の塩基性化合物を含む多量の高温水溶液中で処理するのが一般的であり、その際に未反応のモノマーは処理液中に溶出する。触媒失活後に共重合体を未反応モノマーが溶解した処理液と分離洗浄した後に乾燥する工程等、煩雑な工程を必要とするものであり、経済的にも課題を含むものであった。
【0005】
一方、上記のようにして失活した後の重合生成物には、熱的に不安定な末端が存在する。そのため、トリエチルアミン水溶液などを用いた末端の不安定部分を加水分解することによる精製安定化処理が必要であり、その分、工数が増え、コスト増加の原因にもなる。
【0006】
そこで、上記のような問題を解決するため、重合触媒としてヘテロポリ酸又はその酸性塩を使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、重合触媒としてヘテロポリ酸等のプロトン酸又はその酸性塩を使用してポリアセタール共重合体を製造することにより、上記諸問題を解決することができ、一定の成果が得られた。しかし、上記重合触媒を失活する失活剤としては、固体のものを添加しており、その結果、重合触媒に対して失活剤が十分に分散されなかった。重合触媒を十分に失活させるには失活剤を増量する必要があり、そうすると得られるポリアセタール共重合体が変色することがあった。変色を抑えるには、失活剤の使用量を減らすことが考えられるが、そうすると重合触媒の一部が失活せずに残存するためポリアセタール共重合体の品質が低下する。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、プロトン酸を重合触媒として使用してポリアセタール共重合体を製造する場合であっても、色相及び熱安定性に優れるポリアセタール共重合体が得られる、ポリアセタール共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、共重合後の粗ポリアセタール共重合体に塩基性化合物溶液を混合し、さらに、失活剤を添加して溶融混練することで、重合触媒を十分に失活できることを見出し、本発明を完成するに至った。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
【0011】
(1)主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)として前記トリオキサンと共重合し得る化合物とを、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合し、粗ポリアセタール共重合体を得る工程、
前記粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る工程、及び
前記混合物に、前記重合触媒(c)の失活剤(e)として、アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩、又は10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う工程、を含み、
前記塩基性化合物(d)の溶液が、窒素又はリンを含む有機化合物を、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液である、ポリアセタール共重合体の製造方法。
【0012】
(2)前記重合触媒(c)として、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸を使用する、前記(1)に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M1はP、Si、B及びGeより選択される元素からなる中心元素を表す。M2はW、Mo及びVより選択される1種以上の配位元素を表す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を表し、zは10以上100以下の整数を表し、mは1以上の整数を表し、nは0以上50以下の整数を表す。〕
【0013】
(3)前記ヘテロポリ酸が、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、及びケイモリブドタングストバナジン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、前記(2)に記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0014】
(4)前記アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物が、アルカリ金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【0015】
(5)前記コモノマー(b)が、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、及びエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のポリアセタール共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プロトン酸を重合触媒として使用してポリアセタール共重合体を製造する場合であっても、色相及び熱安定性に優れるポリアセタール共重合体が得られる、ポリアセタール共重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法は、主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)としてトリオキサンと共重合し得る化合物とを、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合し、粗ポリアセタール共重合体を得る工程(以下、「工程A」とも呼ぶ。)、粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る工程(以下、「工程B」とも呼ぶ。)、及び混合物に、重合触媒(c)の失活剤(e)として、アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩、又は10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う工程(以下、「工程C」とも呼ぶ。)、を含む。そして、塩基性化合物(d)の溶液が、窒素又はリンを含む有機化合物を、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液である。
【0018】
本実施形態の製造方法においては、主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)としてトリオキサンと共重合し得る化合物とを共重合する工程において、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合反応を行う。そして、共重合により得られた粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る。この工程により、重合触媒(c)はある程度は失活する。次いで、混合物に、重合触媒(c)の失活剤(e)として所定の化合物を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う。そのようにすることで、重合触媒(c)を十分に失活させることができ、ひいては、色相に優れたペレットが得られる。
一方、工程Bにおいて、塩基性化合物(d)の溶液の溶媒として活性水素を持つ溶剤を添加した場合、重合活性末端が失活する反応と並行して連鎖移動による分子量低下が起こる。しかし、本実施形態においては、活性水素を持たない有機溶媒を使用しているため、そのような分子量低下を低減することができる。
以下、各工程について説明する。
【0019】
[工程A]
工程Aにおいては、主モノマー(a)としてトリオキサンと、コモノマー(b)としてトリオキサンと共重合し得る化合物とを、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用して共重合し、粗ポリアセタール共重合体を得る。
【0020】
主モノマー(a)としてのトリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノールなどの不純物を極力低減させたものが好ましい。
【0021】
コモノマー(b)は、トリオキサンと共重合し得る化合物が使用される。コモノマー(b)としては、例えば、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールが挙げられる。コモノマー(b)として使用する化合物の代表的な例としては、例えば、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。中でも、重合の安定性から考慮して、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、及びエチレンオキシドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
更に、得られるポリアセタール共重合体の性能を大幅に低下させないような範囲ならば、主モノマー(a)及びコモノマー(b)に加えて、第三のコモノマー成分として、分岐剤などの公知の変性剤コモノマーを併用添加しても差し支えない。
【0022】
本実施形態において、コモノマー(b)として用いる、環状エーテル及び/又は環状ホルマールから選ばれる化合物の量は、全モノマー(主モノマー(a)とコモノマー(b)の合計量)中の割合として0.1~20モル%であることが好ましく、0.2~10モル%であることがより好ましい。コモノマー(b)の量が0.1モル%未満であると、重合によって生成するポリアセタール共重合体の不安定末端部が増加して安定性が悪くなることがある。コモノマー(b)の量が20モル%を超えると、生成共重合体が軟質となり融点の低下を生じることがある。
【0023】
本実施形態の製造方法においては、重合触媒(c)としてプロトン酸を使用する。プロトン酸としては、ヘテロポリ酸、イソポリ酸、パーフルオロアルカン酸等が挙げられる。中でも、プロトン酸としては、下記一般式(1)で表されるヘテロポリ酸を使用することが好ましい。
【0024】
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M1はP、Si、B及びGeより選択される元素からなる中心元素を表す。M2はW、Mo及びVより選択される1種以上の配位元素を表す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を表し、zは10以上100以下の整数を表し、mは1以上の整数を表し、nは0以上50以下の整数を表す。〕
なお、yは、M2の個数を表すが、M2が単一の場合はその個数を表し、M2が複数種からなる場合はそれら複数種の元素の合計を表す。
【0025】
M1はP、Si、B及びGeより選択される元素からなる中心元素を表すが、P又はSiが好ましい。
【0026】
重合触媒(c)たる一般式(1)で表されるヘテロポリ酸としては、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、及びケイモリブドタングストバナジン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、重合触媒(c)として、一般式(1)で表されるヘテロポリ酸に加え、当該ヘテロポリ酸のHmの一部又は全部が各種金属に置き換わった構造の酸性塩を併用してもよい。
【0028】
重合触媒(c)を溶液とする場合、溶媒としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数1~10の低分子量カルボン酸と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-へキサノール等の炭素数1~10の低分子量のアルコールが縮合して得られるエステル;アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルケトン等の炭素数1~10の低分子量のケトン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。工業的な入手しやすさ等も勘案すると、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン等が最も好適である。重合触媒(c)は、上記不活性な溶媒に、好適には濃度0.1~30質量/質量%で溶解されるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本実施形態の製造方法においては、重合触媒(c)の使用量を少なくしても、高い収率で共重合体が得られる。具体的には、主モノマー(a)及びコモノマー(b)の合計量に対する重合触媒(c)の使用量は1.0~20.0質量ppmとすることができ、1.5~10.0質量ppmとすることが好ましい。そして、このような少量の重合触媒(c)でも共重合が可能なことは、重合触媒による重合体の主鎖分解、解重合等の好ましくない反応を僅少に留め、不安定なホルメート末端基(-O-CH=O)、ヘミアセタール末端基(-O-CH2-OH)等の生成を抑制するのに効果的であり、また、経済的にも有利である。
【0030】
工程Aにおいては、主モノマー(a)と、コモノマー(b)と、重合触媒(c)とを重合反応装置に投入して共重合反応を行う。この際、主モノマー(a)、コモノマー(b)、及び重合触媒(c)のうち、主モノマー(a)とコモノマー(b)とを混合した後に、重合触媒(c)を加えるか、あるいは主モノマー(a)又はコモノマー(b)に重合触媒(c)を混合した後に、コモノマー(b)又は主モノマー(a)と混合する。また、重合反応は主モノマー(a)を融液としたバルク重合で行うことが好ましく、通常、65℃以上114℃以下で開始させる。ポリアセタール共重合体は主モノマー(a)に不溶であるので析出するが、岩塊状とならないように高速で強力な撹拌を行い、反応生成物の粉砕を行う。持続的な反応を得るためには65℃以上に保つ必要があるが解重合反応が起こらないよう130℃以下に保つことが好ましい。より好ましくは70~125℃である。
【0031】
重合時間は、触媒濃度、コモノマー濃度、反応温度に依存し、特に限定できないが、一般には0.5~10分の重合時間が選ばれる。
【0032】
以上のように共重合反応を行うことで、粗ポリアセタール共重合体が高い収率で得られる。この粗ポリアセタール共重合体は未反応モノマーがほとんど残存しておらず、熱水で洗浄を行う除去工程が不要となる。
【0033】
本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法においては、工程Aにおいて、必要に応じて分子量調整剤を使用してもよい。分子量調整剤としては、線状ホルマール化合物が用いることができる。線状ホルマール化合物としては、メチラール、エチラール、ジブトキシメタン、ビス(メトキシメチル)エーテル、ビス(エトキシメチル)エーテル、ビス(ブトキシメチル)エーテル等が例示される。その中でも、メチラール、エチラール、及びジブトキシメタンからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0034】
更に、本実施形態のポリアセタール共重合体の製造方法においては、工程Aにおいて、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。
【0035】
[工程B]
工程Bにおいては、粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る。また、塩基性化合物(d)の溶液は、窒素又はリンを含む有機化合物を、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液である。
【0036】
工程Bにおいては、工程Aで得られた粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の溶液とを混合して混合物を得る。塩基性化合物(d)は、重合触媒(c)に対して、ある程度活性を失わせることができる。
ここで、粗ポリアセタール共重合体と、塩基性化合物(d)の水溶液との混合物を得るには、一般に使用される混合機を使用することができる。その一方で、塩基性化合物(d)を十分に分散させるには、連続的に供給される液体に粉体を分散当接させると共に回転混合盤を介して粉体と液体との均一な混合流体を得るように構成された粉体及び液体の連続混合装置を用いることが好ましい。そのような連続混合装置を用いることで、粗ポリアセタール共重合体たる粉末と、塩基性化合物(d)の水溶液たる液体とが均一な混合流体となり、塩基性化合物(d)の溶液は、粗ポリアセタール共重合体に対して均一に分散される。その結果、塩基性化合物(d)の使用量を少なくしても、その機能は保持される。そのような連続混合装置としては、例えば、特開2002-248330号公報、特開2004-168055号公報等に詳細が記載されている。
【0037】
本実施形態において、塩基性化合物(d)としては、窒素又はリンを含む有機化合物であり、例えば、アルキルアミン類、芳香族アミン類、アミジン類、ピぺリジン類、モルホリン類、ピリジン類、アミド類、ニトリル類等の既知の含窒素化合物が挙げられる。また、アルキルホスフィン類、アルキルホスファイト類などの含リン化合物が挙げられる。
含窒素化合物の例としてはトリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N,N′,N′-テトラメチルエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロウンデセン、ジメチルホルムアミド、セバシン酸ビス(2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジニル)(BASFジャパン(株)製 Tinuvin(登録商標)770)などが挙げられる。含リン化合物としてはトリフェニルホスフィン、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)(BASFジャパン(株)製 Irgafos(登録商標)168)などが挙げられる。
【0038】
塩基性化合物(d)は、活性水素を持たない有機溶媒に溶解した溶液として使用される。活性水素を持たない有機溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸エチル、ベンゼン、1,3-ジオキソラン、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。中でも、ベンゼン、1,3-ジオキソランが好ましい。塩基性化合物(d)の溶媒として、活性水素を持たない有機溶媒を使用することで、上述の通り、重合活性末端が失活する反応と並行して連鎖移動による分子量低下を低減することができる。
【0039】
塩基性化合物(d)の溶液において、塩基性化合物(d)の濃度は、工程Bにおいて重合触媒(c)をある程度失活させる観点から、粗ポリアセタール共重合体に対して0.001~0.02質量%とすることが好ましく、0.002~0.01質量%とすることがより好ましい。
【0040】
さらには、塩基性化合物(d)を使用した場合に、最終的に得られる組成物において、そのホルムアルデヒド発生量は特に低い値となり、より好ましい。
【0041】
本実施形態において、上記の塩基性化合物(d)は、1種類であってもよいし、2種以上を併用してもよく、それらの水和物や混合物、複塩等の状態であっても構わない。
【0042】
[工程C]
工程Cにおいては、工程Bで得られた混合物に、重合触媒(c)の失活剤(e)として、アルカリ金属元素又は第2族元素(Beを除く。)の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩、又は10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物を添加しつつ、押出機に投入して溶融混練を行う。重合触媒(c)は、工程Bにおける塩基性化合物(d)により、ある程度活性が失われているが、工程Cにおける失活剤(e)によりさらに活性が失われる。すなわち、工程B及び工程Cにより、重合触媒(c)は、十分に失活される。ひいては、得られるポリアセタール共重合体の変色防止及び熱安定性の改善を図ることができる。
【0043】
工程Cにおいて、失活剤(e)としては、アルカリ金属又は第2族元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物、又は10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物を用いる。アルカリ金属又は第2族元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物としては、トリエチルアミン、水酸化コリン、トリメチルアミン、エタノールアミン等のアミン化合物等が挙げられる。中でも、アルカリ金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物であることが好ましい。なお、10g/L水溶液のpHが10以上の窒素含有有機化合物におけるpHとは25℃におけるpHである。
失活剤(e)は、固体(粉末)のまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。
【0044】
失活は均一な溶融樹脂中で行われるため、従来のように、粗ポリアセタール共重合体を粉砕した粉末を失活剤の水溶液に浸漬し、固液不均一な状態で長時間処理することなく、重合触媒(c)を失活することができる。そのため、失活剤の水溶液に浸漬してから乾燥するまでの工程を省略することができる。さらに、失活剤(e)の水溶液に長時間浸漬することで生成する、熱的に不安定な末端の生成を抑制することができるため、安定化処理を必要としない。熱的に不安定な末端としては、-CH2CH2O-(CH2O)n-CH2OHや-CH2CH2O-(CH2O)n-CH2O-CHOが挙げられる。上記不安定な末端を示す基の中のnはゼロ又は任意の正の整数を示す。さらには、従来は塩基性溶液に浸漬することで粗共重合体中の触媒を失活させていた際に水溶液中に抽出されていた未反応モノマーも回収が可能となり、モノマーの損失が抑制可能となる。
【0045】
工程Cは、例えば、(1)工程Bで得られた混合物をそのまま溶融混練して失活安定化を行ってポリアセタール共重合体を得る方法、(2)工程Bで得られた混合物に他の添加剤を加えて溶融混錬して失活安定化を行って樹脂組成物を得る方法等を採用できる。当該(2)おいては、添加剤は、混合物と一緒に押出機の主フィード部に投入する場合と、押出機のサイドフィード部から単独で添加する場合とが挙げられる。また、上記(1)及び(2)のいずれも、押出機の吐出口から吐出された樹脂を冷却したものをストランドカッターでカットするなど、押出機の吐出口から吐出されるポリアセタール共重合体又は樹脂組成物を公知の方法でペレット化することができる。
【実施例0046】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1~11、比較例1~4]
(工程A)
重合反応装置として連続式二軸重合機を用いた。この重合機は、外側に加熱用又は冷却用の媒体を通すためのジャケットを備え、その内部には撹拌、推進及び粉砕用の多数のバドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。そして、パドル先端の回転周速度が0.5m/秒になるように重合機の2本の回転軸を一定の速度で回転させながら、主モノマー(a)(トリオキサン)及び表1~2に示すコモノマー(b)を表1~2に示す割合で加えて混合し、得られた混合物に、さらに表1~2に示す重合触媒(c)(2g/Lのギ酸メチル溶液にして、全モノマーに対して5ppm)を加えた。ここで、表1~2において、添加物(塩基性化合物(d)及び失活剤(e))の添加量は主モノマー(a)及びコモノマー(b)の合計量に対する質量割合である。次いで、分子量調整剤としてメチラールを、得られた共重合体のメルトフローレートが9g/10minとなるように供給した。以上の状態で塊状重合を行い、粉砕されて重合機から排出された粉末状の粗ポリアセタール共重合体を得た。
なお、表1~2において、コモノマーは略号で示しているが、具体的には以下の通りである。
DO:1,3-ジオキソラン
BDF:1,4-ブタンジオールホルマール
さらに、表1~2において、重合触媒C1及びC2は以下の通りである。
重合触媒C1:リンタングステン酸(H3PW12O40)
重合触媒C2:リンモリブデン酸(H3PMo12O40)
【0048】
(工程B)
重合反応装置から連続的に排出される粉末状の粗ポリアセタール共重合体重合物と、表1~2に記載の塩基性化合物(d)を表1~2に記載の溶媒に溶解させた1g/Lの溶液とを、塩基性化合物(d)の添加量が表1~2の比率になる流量で連続混合装置(フロージェットミキサー連続噴射混合機 100型、(株)粉研パウテックス製)に導入し、塩基性化合物(d)と粗ポリアセタール共重合体の混合物を得た。このとき、フロージェットミキサーシステムは、回転混合盤外周周速2.5m/sとなるようにして混合した。
なお、表1~2において、塩基性化合物D1~D4は以下の通りである。
塩基性化合物D1:トリエチルアミン
塩基性化合物D2:トリフェニルホスフィン
塩基性化合物D3:BASFジャパン(株)製、Tinuvin(登録商標)770
塩基性化合物D4:BASFジャパン(株)製、Irgafos(登録商標)168
また、溶媒S1~S4は以下の通りである。
溶媒S1:1,3-ジオキソラン
溶媒S2:ギ酸メチル
溶媒S3:ベンゼン
溶媒S4:酢酸エチル
さらに、表1~2において、「粗POM共重合体」は、粗ポリアセタール共重合体を示す。
【0049】
(工程C)
その後、得られた粗ポリアセタール共重合体と塩基性化合物の混合物に、表1~2に示す失活剤(e)を15ppmとIrganox1010を0.3質量%及びメラミンを0.1質量%添加して添加して二軸押出機へ投入して溶融混練(シリンダー温度:200℃)し、重合触媒(c)を失活させ、ポリアセタール共重合体のペレットを得た
なお、表1~2において、失活剤E1~E5は以下の通りである。
E1:炭酸ナトリウム
E2:炭酸カリウム
E3:炭酸水素ナトリウム
E4: ステアリン酸ナトリウム
E5:トリエチルアミン
E6:メラミン
【0050】
<評価>
[ペレットにおける色相の評価]
色差計SE-2000(日本電色工業(株)製)を用いて、ペレット測定用のセル(丸セル)にペレットを所定量入れ、試料台に置き、カバーを被せ、測定した時に表示されるb値を読み取った。読み取った結果を表1に示す。
【0051】
[熱安定性(溶融体からのホルムアルデヒド発生量)]
得られたポリアセタール共重合体のペレット5gを秤量し、200℃に保ったシリンダーに充填して、5分間で溶融後、溶融物を密閉容器内に押し出した。この密閉容器に窒素ガスを流し、出てきた窒素ガスに含まれるホルムアルデヒドを水中に捕集した。この水中のホルムアルデヒド濃度をJISK0102 29.1(2013)により測定することにより、溶融物からのホルムアルデヒドの質量を求めた。この質量を用いたポリアセタール共重合体の質量で除してホルムアルデヒド発生量(単位ppm)とした。本方法によるホルムアルデヒド発生量は70ppm以下であることが実用上好ましい。
【0052】
【0053】
【0054】
表1より、実施例1~15はいずれも、色相評価におけるb値がマイナスの数値であり、黄変していないことが分かる。また、実施例1~15はいずれも、ホルムアルデヒド発生量が少なく、熱安定性に優れることが分かる。
これに対して、塩基性化合物(d)を使用しなかった比較例1及び2は、色相評価におけるb値が大きく、黄変が見られた。また、失活剤(e)を使用しなかった比較例3、塩基性化合物(d)を使用せず、かつ、失活剤(e)としてメラミンを使用した比較例4はいずれも、ホルムアルデヒド発生量が多く熱安定性に劣ることが分かる。