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特開2024-129473レーザ照射装置、レーザ照射方法及びシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129473
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】レーザ照射装置、レーザ照射方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/08 20140101AFI20240919BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240919BHJP
   B29C 59/16 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B23K26/08 D
B23K26/082
B29C59/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038703
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊茂
【テーマコード(参考)】
4E168
4F209
【Fターム(参考)】
4E168AA01
4E168CB04
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA06
4E168DA13
4E168DA28
4E168DA32
4E168DA46
4E168EA13
4E168EA15
4E168EA16
4E168JA17
4F209AA24
4F209AF01
4F209AG05
4F209AG07
4F209AG26
4F209AH55
4F209PA15
4F209PB01
4F209PN03
4F209PN13
(57)【要約】
【課題】曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物へのレーザ照射精度を向上させる。
【解決手段】曲線状の搬送経路20に沿って搬送される対象物1に対してレーザLを照射するレーザ照射装置であって、対象物1の搬送方向Fにおける対象物1上の下流側の位置からレーザLを照射し、続いて、対象物1上の上流側の位置に対してレーザLを照射することを特徴とするレーザ照射装置。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置であって、
前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射することを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記対象物上のレーザ照射開始点から前記対象物の搬送方向とは交差する方向へレーザを照射し、続いて、レーザ照射位置を前記対象物の搬送方向の上流側へずらして、前記対象物の搬送方向とは交差する方向へレーザを照射する請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
レーザを発振するレーザ発振源と、
前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、
を備え、
前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、
前記対象物に対してレーザ照射が開始されたときの前記対象物の中心位置をA、前記搬送経路円の中心をO、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置をBとしたときの角AOBをθ1とし、
前記対象物上のレーザ照射開始点をa1、前記対象物の中心をA、前記対象物の正面位置をc1としたときの角a1‐A‐c1をθ2とし、
前記搬送経路円の半径をRとし、
前記対象物の半径をrとし、
レーザの焦点深度をDoFとすると、
R(1-cosθ1)+r(1-cos(θ2-θ1))<2×DoFの関係を満たす請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
レーザを発振するレーザ発振源と、
前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、
を備え、
前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、
前記搬送経路円の中心と、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の正面位置とを通る直線方向をY軸方向とすると、
前記対象物に対してレーザ照射が開始されたときの前記対象物上のレーザ照射開始点と、前記対象物が前記射出点に対して最も近づいたときの前記対象物の正面位置との間の前記Y軸方向の中間位置が、レーザのベストフォーカス位置となるように設定される請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
レーザを発振するレーザ発振源と、
前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、
を備え、
前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、
前記偏向部からレーザが射出される射出点は、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置と前記搬送経路円の中心とを通る直線上に配置される請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
レーザを発振するレーザ発振源と、
前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、
を備え、
前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、
前記偏向部からレーザが射出される射出点は、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置と前記搬送経路円の中心とを通る直線を基準に、前記対象物が前記射出点に対して最も近づいたときの前記対象物の中心位置を中心とする円周方向に±5°未満の範囲内に配置される請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
複数のレーザ発振源を備え、
前記複数のレーザ発振源から発振されるレーザは、前記対象物上の前記対象物の搬送方向に対して交差する方向に分割された異なるレーザ照射領域に対してそれぞれ照射される請求項1又は2に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
前記分割された異なるレーザ照射領域のうち、上側の前記レーザ照射領域から順にレーザが照射される請求項7に記載のレーザ照射装置。
【請求項9】
前記対象物上のレーザ照射領域に気流を発生させる気流発生部を備える請求項8に記載のレーザ照射装置。
【請求項10】
前記気流発生部は、上方へ向かって気流を発生させる請求項9に記載のレーザ照射装置。
【請求項11】
曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射方法であって、
前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射することを特徴とするレーザ照射方法。
【請求項12】
曲線状の搬送経路に沿って対象物を搬送する搬送装置と、
前記搬送経路に沿って搬送される前記対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置と、
を含むシステムであって、
前記レーザ照射装置は、前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射することを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射装置、レーザ照射方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトコンベアなどの搬送装置によって搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2021-37685号公報)においては、回転する円筒ロールの外周面に保持される対象物に対してレーザを照射して加工を施すレーザ照射装置の構成が開示されている。
【0004】
このように、対象物が円筒ロールの外周面に保持される場合など、対象物が曲線状の搬送経路に沿って搬送される場合は、対象物が直線状の搬送経路に沿って搬送される場合に比べて、レーザ照射精度が低下する虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明においては、曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物へのレーザ照射精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置であって、前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物へのレーザ照射精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態に係るレーザ照射装置が搭載されるシステムの側面図である
図2】本発明の第一実施形態に係るシステムの平面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る制御部の機能構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る収容器の性状変化を示す図である。
図6】本発明の第一実施形態に係る収容器が曲線状の搬送経路に沿って搬送される場合と、収容器が直線状の搬送経路に沿って搬送される場合との、収容器上のレーザ照射領域と有効な焦点範囲との位置関係を示す平面図である。
図7】本発明の第一実施形態に係る搬送方向の下流側の位置から順にレーザ照射を行うシステムの平面図である。
図8】搬送方向の上流側の位置から順にレーザ照射を行うシステムの平面図である。
図9】レーザのビーム径と焦点深度との関係を示す図である。
図10】パターンの視認性値とデフォーカス量との関係を示す図である。
図11】本発明の第一実施形態に係る収容器のレーザ照射領域を示す側面図である。
図12】本発明の第二実施形態に係るレーザ照射装置を含むシステムの構成を示す平面図である。
図13】本発明の一実施形態に係るレーザ照射点を説明するための図である。
図14】パターンの長さと生産性との関係を示す図である。
図15】本発明の第三実施形態に係るレーザ照射装置を含むシステムの構成を示す平面図である。
図16】本発明の第三実施形態において用いられる収容器の側面図である。
図17】偏向部の射出点が最適な位置からずれて配置された場合のパターンの視認性を示す図である。
図18】最適な位置に対する射出点のずれ量を示す平面図である。
図19】本発明の一実施形態に係るレーザ照射順の一例を示す側面図である。
図20】本発明の一実施形態に係る気流発生部を備えるシステムの側面図である。
図21】レーザ照射の順番と気流の向きの関係を示す図である。
図22】本発明の一実施形態に係る収容器の撮影システムの一例を示す図である。
図23】本発明の一実施形態に係る収容器の撮影システムに白色拡散面を設置した状態を示す図である。
図24】本発明の一実施形態に係る撮像システムで撮影した収容器の像と像以外の部分を示す概略図である。
図25】G信号と三次元多項式から換算した明度との関係を示すグラフである。
図26】像の明度(L )と主観評価点との関係を示すグラフである。
図27】像の明度と像以外の部分の明度との差(ΔL)と主観評価点との関係を示すグラフである。
図28】数式:Y=1-exp(-x)におけるxとYとの関係を示すグラフである。
図29】主観評価点と視認性値との関係を示すグラフである。
図30】評価ランクと視認性値との関係を示すグラフである。
図31】レーザ照射装置が搬送経路に対してその中心よりも内側に配置されるシステムの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るレーザ照射装置の実施形態について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材及び構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の第一実施形態に係るレーザ照射装置が搭載されるシステムの側面図、図2は、本発明の第一実施形態に係るシステムの平面図である。
【0011】
図1のシステム1000は、レーザ照射装置100と、搬送装置200と、制御部400を備えている。図2は、図1に対し、搬送検知装置300がさらに図示される。
【0012】
<レーザ照射装置の構成>
レーザ照射装置100は、搬送装置200によって搬送される対象物に対してレーザ(レーザ光)Lを照射する装置である。本実施形態においては、対象物を、PET(Poly Ethylene Terephthalate)ボトルなどの収容器1としている。レーザ照射装置100から収容器1に対してレーザLが照射されることにより、収容器1の性状が変化して、収容器1の表面にパターンが形成される。収容器1に形成されるパターンは、文字、バーコードなどのコード、図形、画像などを含み、例えば、収容器1に収容される収容物の名称、識別番号、製造業者、製造日時などの情報が形成される。収容器1にパターンが形成される位置は、収容器1の外面であってもよいし、収容器1の内面であってもよい。
【0013】
以下、本発明に係るレーザ照射装置の第一実施形態について、レーザ照射によって収容器の表面にパターンを形成する場合を例に説明するが、本発明に係るレーザ照射装置は、収容器以外の対象物の表面にパターンを形成する場合にも適用可能である。
【0014】
<レーザ照射装置の構成>
レーザ照射装置100は、レーザ発振源11と、光学系12と、偏向部13と、集光部14と、を有するレーザ照射手段5を備えている。
【0015】
<レーザ発振源>
レーザ発振源11は、レーザLを発振する手段である。本実施形態においては、レーザ発振源11として、パルスレーザ発振装置10が用いられている。パルスレーザ発振装置10は、短い時間間隔で点滅を繰り返すことにより、レーザLを照射する。レーザ発振源11として、パルスレーザ発振装置10に代えて、連続発振レーザ(CWレーザ)装置を用いてもよい。連続発振レーザ装置は、レーザを連続して発振するレーザ発振源である。
【0016】
パルスレーザ発振装置10は、略平行のパルス状のレーザビームを発振する。また、パルスレーザ発振装置10は、収容器1に形成されるパターンのデータに基づき、発振(オン)と非発振(オフ)を切替え可能に構成されている。パルスレーザ発振装置10の一例としては、発振波長が1064nmの基本波と、発振波長が532nmの第2次高調波と、発振波長が355nmの第3次高調波の3つの発振波長のレーザ光を切り替えて発振可能なものが挙げられる。例えば、ファイバーレーザをベースにしたコヒーレント社製のTalisker Ultra355-4のパルスレーザ発振装置などを適用可能である。どの発振波長においてもレーザのパルス幅は15ピコ秒以下である。レーザの繰り返し周波数は、シングルショットから200kHzまでの範囲で適宜選択できる。また、レーザのビーム径は、基本波で略2.0mm、第2次高調波で略1.4mm、第3次高調波で略1.3mmである。
【0017】
<光学系>
光学系12は、レーザ発振源11から発振されたレーザLのビーム径を調整する手段である。本実施形態においては、光学系12として、ビームエキスパンダ9が用いられている。ビームエキスパンダ9は、レーザ発振源11としてパルスレーザ発振装置10を用いた場合、レーザLのビーム径を所定の拡大倍率で拡大し、略平行のレーザビームとして射出する。
【0018】
<偏向部>
偏向部13は、光学系12でビーム径が調整されたレーザLを偏向する。偏向部13は、例えば、第一ガルバノミラー15、第二ガルバノミラー16を有している。2つガルバノミラーのうち、どちらか一方をポリゴンミラーとしてもよい。第一ガルバノミラー15は、光学系12でビーム径が調整されたレーザLを第二ガルバノミラー16に向かって偏向する。また、第二ガルバノミラー16は、第一ガルバノミラー15で偏向されたレーザLを集光部14に向かって偏向する。
【0019】
第一ガルバノミラー15は、レーザLの光軸上流側に配置される。第一ガルバノミラー15は、レーザLを入射方向とは直交する方向(図1におけるZ軸正方向)に向けて偏向する。また、第一ガルバノミラー15は、モータなどの駆動源によって図2における矢印E方向に揺動可能に構成されている。第一ガルバノミラー15が揺動することにより、ビームエキスパンダ9からのレーザLが対象物の搬送方向(図2における矢印F方向)に走査される。このため、第一ガルバノミラー15による走査の制御は、収容器1の搬送速度を考慮した上で決定される。
【0020】
一方、第二ガルバノミラー16は、レーザLの光軸下流側に配置される。第二ガルバノミラー16は、レーザLを第一ガルバノミラー15による走査方向とは交差する方向(図1における矢印G方向)に走査する。
【0021】
(集光部)
集光部14は、偏向部13で偏向されたレーザLを収容器1に集光する。より具体的には、集光部14は、収容器1にレーザLを照射したい所定の位置に、レーザLを集光させる。集光部14は、例えば、fθレンズ17を有している。fθレンズ17は、周辺部及び中心部を通過したレーザLの走査速度が略一定になるように設計及び製作されたレンズである。偏向部13からfθレンズ17へ入射したレーザLは、fθレンズ17によって集光され、収容器1に向けて照射される。fθレンズ17は、1つのレンズで構成されたものでもよく、複数のレンズを組合せて構成されてもよい。また、ミラーなどのレンズ以外の光学素子を含む構成によりfθレンズ17の機能を実現してもよい。
【0022】
<搬送装置の構成>
続いて、搬送装置200の構成について説明する。
【0023】
搬送装置200は、収容器1を搬送する装置で、ベルトコンベアなどである。図2に示されるように、本実施形態に係る搬送装置200が、曲線状の搬送経路20を有する。この場合、収容器1は、曲線状の搬送経路20として円弧に沿って順次搬送される。収容器1は搬送装置200によって搬送されながら、レーザ照射装置100は、収容器1の搬送方向F(以下、単に「搬送方向」という。)における収容器1上の下流側の位置からレーザLを照射する。続いて、レーザ照射装置100は、収容器1上の上流側に位置に対してレーザLを照射する。
【0024】
<搬送検知装置の構成>
続いて、搬送検知装置300の構成について説明する。
【0025】
搬送検知装置300は、搬送経路20上のレーザ照射位置に搬送された収容器1を検知する装置である。搬送検知装置300は、レーザ照射位置よりも搬送方向Fの上流側に配置される。具体的に、本実施形態に係る搬送検知装置300は、発光素子31と、受光素子32と、を備える光学センサによって構成されている。発光素子31及び受光素子32は、搬送経路20上のレーザ照射位置よりも搬送方向Fの上流側において搬送経路20を挟むように配置されている。
【0026】
収容器1が発光素子31と受光素子32との間を通過すると、発光素子31から受光素子32に向かって照射される光が収容器1によって遮断されることにより、収容器1が検知される。搬送検知装置300は収容器1を検知して、検知した時間などを含む検知情報を取得する。そして、検知情報に基づいて、収容器1からレーザ照射位置までの搬送距離、及び、搬送速度が算出される。搬送距離及び搬送速度に基づいて、収容器1がレーザ照射位置に進入する時間が算出される。
【0027】
<制御部の構成>
続いて、制御部400の構成について説明する。制御部400は、システム1000を制御する。
【0028】
図3は、本発明の第一実施形態に係る制御部400のハードウェア構成を示すブロック図である。制御部400は、コンピュータ又はコンピュータに準ずる構成により構築されている。
【0029】
図3に示されるように、制御部400は、CPU(Central Processing Unit)401と、ROM(Read Only Memory)402と、RAM(Random Access Memory)403と、HD(Hard Disk)404と、HDD(Hard Disk Drive)コントローラ405と、ディスプレイ406と、を備えている。また、制御部400は、外部機器接続I/F(Interface)408と、ネットワークI/F409と、バスライン410と、キーボード411と、ポインティングデバイス412と、DVD-RW(Digital Versatile Disk Rewritable)ドライブ414と、メディアI/F416と、を備えている。
【0030】
CPU401はプロセッサであり、制御部400全体の動作を制御する。ROM402は、IPL(Initial Program Loader)などのCPU401の駆動に用いられるプログラムを記憶するメモリである。
【0031】
RAM403は、CPU401のワークエリアとして使用されるメモリである。HD404は、プログラムなどの各種データを記憶するメモリである。HDDコントローラ405は、CPU401の制御に従ってHD404に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。
【0032】
ディスプレイ406は、カーソル、メニュー、ウィンドウ、文字又は画像などの各種情報を表示する。外部機器接続I/F408は、各種の外部機器を接続するためのインターフェースである。この場合の外部機器は、レーザ発振源11(パルスレーザ発振装置10)、偏向部13(ガルバノミラー15,16)、搬送検知装置300などである。ただし、他にUSB(Universal Serial Bus)メモリやプリンタなどを接続することもできる。
【0033】
ネットワークI/F409は、通信ネットワークを利用してデータ通信をするためのインターフェースである。バスライン410は、CPU401などの各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバス又はデータバスなどである。
【0034】
キーボード411は、文字、数値、各種指示などを入力するための複数のキーを備える入力手段の一種である。ポインティングデバイス412は、各種指示の選択、実行、処理対象の選択、カーソルの移動などを行う入力手段の一種である。
【0035】
DVD-RWドライブ414は、着脱可能な記録媒体の一例としてのDVD-RW413に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。なお、記憶媒体はDVD-RWに限らない。メディアI/F416は、フラッシュメモリ等の記録メディア415に対するデータの読み出し又は書き込み(記憶)を制御する。
【0036】
これら制御部400を構成する各ハードウェアは、必ずしも全て備えていなくてもよい。レーザ照射装置100を利用する形態によって、具備しないハードウェアがあってもよい。また、制御部400のハードウェア及び機能構成の全てをレーザ照射装置100が備えてもよいし、一部のハードウェア及び機能構成をレーザ照射装置100の外に接続してもよい。
【0037】
続いて、図4に基づき、制御部400の機能構成について説明する。
【0038】
図4に示されるように、制御部400は、照射データ入力部41、プロファイルデータ指定部42、格納部43と、制御データ生成部44と、レーザ照射制御部45と、レーザ走査制御部46と、を備えている。
【0039】
制御データ生成部44、レーザ照射制御部45、レーザ走査制御部46のそれぞれの機能はCPU401が所定のプログラムを実行し、外部機器接続I/F408を介して制御信号を出力することなどにより実現される。ただし、制御部400のハードウェア構成にASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの電子回路又は電気回路を追加し、各構成部の機能の一部又は全部を電子回路又は電気回路で実現してもよい。格納部43の機能は、HD404などにより実現される。
【0040】
照射データ入力部41は、レーザ照射装置100が収容器1に照射する照射データが入力される。照射データは、収容器1に形成されるパターンに関するデータを含む。照射データは、パターン以外のデータを含んでもよい。
【0041】
照射データは、例えば、PC(Personal Computer)又はスキャナーなどの外部装置に記録してもよい。このほか照射データは、ユーザが制御部400のキーボード411又はポインティングデバイス412を用いて入力してもよい。
【0042】
照射データ入力部41は、入力された照射データを制御データ生成部44及びプロファイルデータ指定部42のそれぞれに出力する。照射データ入力部41から入力された照射データは、格納部43に一時的に記憶するようにしてもよい。収容器1の形状などによっても照射データは異なるため、収容器1の種類に対応した照射データを事前に格納部43へ格納してもよい。
【0043】
プロファイルデータ指定部42は、格納部43からプロファイルデータを指定する。プロファイルデータは、レーザを照射する際の照射領域、非照射領域を決めたものである。また、プロファイルデータは、レーザ照射装置100が動作する速度を加速する際の加速度、加速又は減速させる期間、等速期間を決めたものである。
【0044】
また、プロファイルデータは格納部43に記憶されている。プロファイルデータ記憶するタイミングは事前でもいいし、走査及び照射する際に一時的な記憶手段としてもよい。
【0045】
制御データ生成部44は、照射データ入力部41からの照射データと、プロファイルデータ指定部42のプロファイルデータとに基づいて、制御データを生成する。制御データは、レーザ照射装置100を制御するデータである。より具体的には、制御データは、レーザ発振源11及び偏向部13などを制御するデータが含まれる。
【0046】
また、制御データ生成部44は、レーザ照射制御部45及びレーザ走査制御部46に対し、生成した制御データを出力する。
【0047】
レーザ照射制御部45は、制御データに基づき、レーザ発振源11から発振されるレーザLの照射を制御する。また、レーザ走査制御部46は、搬送検知装置300で検知した検知情報に基づき、偏向部13を制御する。
【0048】
レーザ発振源11が複数のパルスレーザ発振装置10により構成される場合は、レーザ照射制御部45が複数のパルスレーザ毎に独立して制御を行う。
【0049】
レーザ照射制御部45は、さらに光強度制御部451と、パルス制御部452とを備える。光強度制御部451はレーザLの光強度を制御する。パルス制御部452はレーザLのパルス幅及び照射タイミングを制御する。
【0050】
レーザ走査制御部46は、制御条件データに基づき、偏向部13によるレーザLの偏向を制御する。具体的には、ガルバノミラー15,16の駆動のオン又はオフの制御などを行う。
【0051】
本実施形態に係るシステム1000においては、収容器1が搬送経路20に沿って搬送されると、レーザ照射位置よりも搬送方向の上流側に配置される搬送検知装置300によって収容器1が検知される。そして、搬送検知装置300が収容器1を検知したことに基づき、制御部400がレーザ照射装置100からレーザLを照射するタイミングを決定する。そして、収容器1がレーザ照射位置に達すると、制御部400の制御によりレーザ照射装置100から収容器1に対してレーザLが照射され、収容器1の表面にパターンが形成される。
【0052】
<収容器の性状変化>
次に、レーザ照射による収容器1の性状変化について説明する。図5は、本発明の第一実施形態に係る収容器1の性状変化を示す図である。収容器1は、レーザ照射によって図5(a)、(b)、(c)、(d)の順に性状が変化する。これによって、収容器1にパターンが形成される。
【0053】
図5(a)は、収容器1の表面が蒸散して形成された凹部形状2を示す。図5(b)は、収容器1の表面が溶融して形成された凹部形状2を示す。図5(b)の場合、図5(a)に対して凹部形状2の周縁部が盛り上がった形状になる。
【0054】
また、図5(c)は、収容器1の表面が結晶化した状態変化を示す。図5(d)は、収容器1の内部が発泡した状態変化を示す。レーザLの波長が355nm乃至1064nmのCWレーザを照射することにより、収容器1を溶融させて凹部を形成することも可能である。また、収容器1が溶融した後も、レーザLを照射し続けると、収容器1の内部及び表面が発泡し、白濁化させることができる。
【0055】
結晶化状態を変化させるためには、収容器1を、例えばPETとし、レーザLの波長が355nm乃至1064nmのCWレーザを照射して、収容器1の温度を一気に上げる。その後、レーザLの出力を弱くしていくなどにより徐冷していくことにより、収容器1を結晶化状態にし、白濁化させる。なお、温度を上げたあと、レーザLを消灯するなどにより急冷すると、PETは非晶質状態になり、透明になる。
【0056】
収容器1の性状の変化は、図5に示されるものに限定されない。樹脂の種類をPETから変えて、黄変、酸化反応、表面改質などにより収容器1の性状を変化させてもよい。また、収容器1を構成する樹脂の色及び材質については特に限定はなく、レーザLによりパターンを形成できればよい。また、収容器1に対してレーザ照射する場合、収容器1は収容物を収容した状態でも、収容していない状態であってもい。また、収容器1内に収容される収容物の種類又は色も特に限定されない。
【0057】
<曲線搬送におけるレーザ照射の問題点>
ここで、対象物(収容器1)が曲線状の搬送経路に沿って搬送される場合のレーザ照射の問題点について説明する。
【0058】
図6(a)に、収容器1が曲線状の搬送経路20に沿って搬送される場合を示す。図6(a)には、位置(1)、(2)、(3)と、角度α、焦点範囲Hが示される。
【0059】
位置(1)、(2)、(3)は、収容器1が曲線状の搬送経路20に沿って搬送される場合の収容器1の各位置を示す。収容器1は曲線状の搬送経路20に沿って搬送位置(1)、(2)、(3)の順に搬送され、レーザ照射開始点a1からレーザ照射終了点b3までレーザ照射される。位置(1)は収容器1に対してレーザ照射が開始されたときの収容器1の位置である。位置(2)は偏向部13からレーザが射出される射出点Qに対して収容器1が最も近づいたときの収容器1の位置である。位置(3)は収容器1に対してレーザ照射が終了したときの収容器1の位置である。なお、この場合の偏向部13の射出点Qは、レーザLの光軸上流側に配置される第一ガルバノミラー15の射出点ではなく、光軸下流側に配置される第二ガルバノミラー16の射出点を意味する。
【0060】
図6(b)に、収容器1が直線状の搬送経路21に沿って搬送される場合を示す。図6(b)には、位置(1)’、(2)’、(3)’と、角度α、焦点範囲Hが示される。位置(1)’、(2)’、(3)’は、収容器1が直線状の搬送経路21に沿って搬送される場合の収容器1の各位置を示す。収容器1は、直線状の搬送経路21に沿って搬送位置(1)’、(2)’、(3)’の順に搬送され順次レーザ照射される。位置(1)’は収容器1に対してレーザ照射が開始されたときの収容器1の位置である。位置(2)’は偏向部13の射出点Qに対して収容器1が最も近づいたときの収容器1の位置である。位置(3)’は収容器1に対してレーザ照射が終了したときの収容器1の位置である。
【0061】
また、角度αは、レーザ照射開始点a1からレーザ照射終了点b3までのレーザ照射領域Jの角度を示す。角度αは、収容器1が曲線状の搬送経路20に沿って搬送される場合と、直線状の搬送経路21に沿って搬送される場合とで、同じである。また、収容器1が曲線状の搬送経路20に沿って搬送される場合と、直線状の搬送経路21に沿って搬送される場合のいずれも場合も、レーザ照射は、搬送方向におけるレーザ照射領域Jの上流側のレーザ照射開始点a1から順に行われる。
【0062】
また、焦点範囲Hは、レーザ照射装置100が照射される有効な焦点範囲である。レーザLが焦点範囲H内で照射されると、良好な視認性のパターンが収容器1に形成される。なお、この場合、集光部14としてfθレンズ17が用いられ、焦点範囲Hは、レーザ照射装置100のレーザ射出方向に対して交差する方向(図6におけるX軸方向に伸びる)範囲となる。
【0063】
レーザのビーム径は、焦点位置が焦点範囲Hの中央位置(ベストフォーカス位置)Nからずれるほど広がっていき、焦点位置が焦点範囲Hから外れると、レーザの照射精度が低下する。従って、収容器1が曲線状の搬送経路20に沿って搬送される場合、レーザ照射が開始されるときの収容器1上のレーザ照射開始点a1と、レーザ照射が終了するときの収容器1上のレーザ照射終了点b3とが、焦点範囲Hから外れているため、レーザ照射開始点a1とレーザ照射終了点b3、及びこれらの近傍におけるレーザ照射精度が低下する虞がある。
【0064】
これに対して、収容器1が直線状の搬送経路21に沿って搬送される場合は、収容器1がどの位置にあっても収容器1上のレーザ照射領域Jが焦点範囲Hから外れることが無い。
【0065】
搬送経路が直線状の搬送経路21である場合は、収容器1上のレーザ照射領域Jが焦点範囲H内に含まれやすくなるため、レーザ照射は、収容器1が直線状の搬送経路21に沿って搬送される位置において行われることが好ましい。しかしながら、実際の生産ラインにおいては、直線状の搬送経路21の付近にレーザ照射装置100を設置するためのスペースを確保できないことがある。その場合、曲線状の搬送経路20の付近にレーザ照射装置100を設置しなければならなくなり、レーザ照射精度が低下するという課題が発生する。
【0066】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、収容器1が曲線状の搬送経路に沿って搬送される際、レーザ照射領域Jに対して搬送方向の下流側から順にレーザ照射を行った場合と、上流側から順にレーザ照射を行った場合とでは、ベストフォーカス位置Nに対するレーザ照射位置の焦点幅方向(図6におけるY軸方向)のずれ量に違いがあることが分かった。以下、ベストフォーカス位置Nに対するレーザ照射位置の焦点幅方向のずれ量を「デフォーカス量」と称し、それぞれの場合におけるデフォーカス量の違いについて説明する。
【0067】
<デフォーカス量の違い>
まず、収容器1のレーザ照射領域Jに対して搬送方向の下流側から順にレーザLを照射する場合のデフォーカス量について説明する。
【0068】
図7は、本発明の第一実施形態に係る搬送方向の下流側の位置から順にレーザ照射を行うシステムの平面図である。
【0069】
収容器1上のレーザ照射開始点a1,a2,a3は、それぞれレーザ照射終了点b1,b2,b3よりも搬送方向Fの下流側に設定されている。従って、収容器1が搬送経路20上のレーザ照射開始位置(1)に到達すると、下流側のレーザ照射開始点a1に対してレーザ照射が開始される。そして、収容器1が位置(2)に搬送されるに従い、レーザ照射位置を搬送方向Fの上流側へずらしながらレーザ照射が継続される。最終的には、収容器1が位置(3)に到達し、レーザ照射終了点b3にて、レーザ照射が終了する。
【0070】
ここで、レーザ照射が開始されたときの位置(1)における収容器1を代表的に取り上げて説明する。収容器1に対するレーザ照射は、レーザ照射開始点a1と、収容器1の中心Aと、レーザ照射終了点b1との3点を結ぶ角a1‐A‐b1にて表される角度αの範囲(レーザ照射領域J)内において行われる。収容器1の(1)、(2)、(3)の位置における円形断面の中心をそれぞれ中心A,B,Cとしている。なお、収容器1の断面形状は、円形である場合に限らず、多角形などであってもよい。収容器1の断面形状が多角形である場合は、その多角形に外接する外接円の中心を収容器1の中心とする。
【0071】
搬送経路20に沿って配置される円K(以下、「搬送経路円)という。)を含む平面に対して直交する方向から見た状態において、収容器1は、その正面位置c1,c2,c3が常に搬送経路円Kの半径方向外側を向くように搬送される。この場合、位置(1)、(2)、(3)における各正面位置c1,c2,c3は、各位置(1)、(2)、(3)におけるレーザ照射開始点a1,a2,a3とレーザ照射終了点b1,b2,b3との中間位置(レーザ照射領域Jの二等分位置)に相当する。
【0072】
ここで、例えば、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の正面位置c2をベストフォーカス位置とした場合レーザ照射の開始から収容器1が偏向部13の射出点Qに最も近づくまでの間における最大のデフォーカス量D1について説明する。最大のデフォーカス量D1は、レーザ照射開始点a1の位置と、正面位置c2との間のY軸方向の距離(a1’とc2’との間の距離)となる。なお、ここでいう「Y軸方向」とは、搬送経路円Kの中心Oと、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の正面位置c2とを通る直線方向を意味する。
【0073】
また、最大のデフォーカス量D1は、下記式(1)により表される。
【0074】
【数1】
【0075】
Rは、搬送経路円Kの半径である。
角度θ1は、収容器1の中心位置Aと、搬送経路円の中心Oと、収容器1の中心位置Bとの3点を結ぶ角度である。
rは、収容器1の半径である。
角度θ2は、レーザ照射開始点a1と、中心Aと、正面位置c1との3点を結ぶ角度である。
なお、ここでは、角度θ2を、レーザ照射が開始されたときの位置(1)における収容器1の角度を代表的に取り上げて説明しているが、レーザ照射開始点と、収容器1の中心と、収容器1の正面位置との3点を結ぶ角度θ2は、いずれの位置(他の位置(2)、(3))においても同じである。従って、角度θ2は、位置(1)における収容器1の角a1‐A‐c1だけを意味するものではなく、位置(2)における角a2‐B‐c2であってもよいし、位置(3)における角a3‐C‐c3であってもよい。
【0076】
次に、収容器1のレーザ照射領域Jに対して搬送方向の上流側から順にレーザLを照射する場合のデフォーカス量について説明する。
【0077】
図8に示されるように、搬送方向の上流側から順にレーザLが照射される場合は、図7に対し、レーザ照射開始点a1,a2,a3がレーザ照射終了点b1,b2,b3よりも搬送方向Fの上流側に設定される。従って、収容器1が搬送経路20上のレーザ照射開始位置(1)に到達すると、上流側のレーザ照射開始点a1に対してレーザ照射が開始される。そして、収容器1が位置(2)に搬送されるに従い、レーザ照射位置を搬送方向の下流側へずらしながらレーザ照射が継続される。最終的には、収容器1が位置(3)に到達し、レーザ照射終了点b3にて、レーザ照射が終了する。それ以外は、図7に示される場合と同じである。
【0078】
レーザ照射の開始から収容器1が偏向部13の射出点Qに最も近づくまでの間における最大のデフォーカス量D2について説明する。最大のデフォーカス量D2は、レーザ照射開始点a1の位置と、正面位置c2との間のY軸方向の距離(a1”とc2”との間の距離)となる。
【0079】
また、最大のデフォーカス量D2は、下記式(2)により表される。
【0080】
【数2】
【0081】
Rは、搬送経路円Kの半径である。
角度θ1は、収容器1の中心位置Aと、搬送経路円Kの中心Oと、収容器1の中心位置Bとの3点を結ぶ角度である。
rは、収容器1の半径である。
角度θ3は、レーザ照射開始位置a1と、中心Aと、正面位置c1との3点を結ぶ角度である。 なお、ここでは、角度θ3を、レーザ照射が開始されたときの位置(1)における収容器1における角度を代表的に取り上げて説明しているが、レーザ照射開始点と、収容器1の中心と、収容器1の正面位置との3点を結ぶ角度θ3は、いずれの位置(他の位置(2)、(3))においても同じである。従って、角度θ3は、位置(1)における収容器1の角a1‐A‐c1だけを意味するものではなく、位置(2)における角a2‐B‐c2であってもよいし、位置(3)における角a3‐C‐c3であってもよい。
【0082】
このように、搬送方向の下流側から順にレーザ照射を行った場合と、上流側から順にレーザ照射を行った場合とでは、式(1)及び式(2)に示されるデフォーカス量D1,D2の違いが生じる。また、上流側から順にレーザ照射を行った場合(図8)は、下流側から順にレーザ照射を行った場合(図7)に比べて、ベストフォーカス位置(位置(2)における正面位置c)に対して遠い位置からレーザ照射を開始するため、デフォーカス量が大きくなる(D2>D1)。
【0083】
デフォーカス量が大きくなると、焦点位置が焦点範囲Hの中央位置(ベストフォーカス位置)から大きくずれ、レーザのビーム径が広がっていくため、レーザ照射精度が低下する。従って、デフォーカス量を焦点範囲H内に留め、デフォーカス量が小さくなるように下流側から順にレーザ照射を行う。
【0084】
<有効な焦点範囲とデフォーカス量との関係>
レーザのビーム径は、焦点位置が焦点範囲Hの中央位置(ベストフォーカス位置)からずれるほど広がっていき、焦点位置が焦点範囲Hから外れると、レーザ照射精度が低下する。
【0085】
ここで、レーザのビーム径とベストフォーカス位置からの焦点深度(DoF)との関係を調べる試験を行ったところ、例えば、出力が30W以上70W以下のレーザを収容器に対して照射した場合、レーザのビーム径が90μmまではレーザ照射精度を良好に維持できた。そのときのレーザのビーム径と焦点深度(DoF)との関係を図9に示す。
【0086】
本試験においては、焦点距離が580mmのfθレンズを用い、ビーム径をビームプロファイラにより1/eとして測定した。X及びYにてプロットされた点は、ビーム径の互いに直交するX方向及びY方向の直径(ビーム径)を示している。なお、fθレンズの焦点距離は、要求されるパターンのサイズ、パターン精度、生産性などに応じて適宜設定される値である。焦点距離が長い場合は、ビーム径が大きく、高品質な製品には不向きとなるが、ビームエキスパンダを用いたり、複数パルス入射したりすることにより、ビーム径が大きい課題を改善できる。一方、焦点距離が短い場合は、レーザ照射精度は向上するが、必要なドット数が増えるので、生産性は低くなる。
【0087】
焦点深度が「0」の位置から正の方向又は負の方向に大きくなると、次第にビーム径が大きくなるので、精度の良いレーザ照射を行うには不利となる。ここで、レーザの出力を例えば30W以上70W以下の範囲に設定し、収容器に対してレーザを照射したところ、ビーム径が90μmまでは良好なレーザ照射精度を維持できた。このような良好な照射精度のレーザのビーム径の値(90μm以下)となるには、図9の結果から、焦点深度(DoF)がおよそ±8mmの範囲内に設定されることが好ましい。この場合、焦点範囲Hは、焦点深度(DoF)の2倍の16mmとなる。また、焦点距離が920mmのfθレンズを用いた場合も図9に示される結果とほぼ同じ結果となった。
【0088】
そして、焦点範囲Hが上記のような範囲(16mm)である場合において、収容器を次のような条件にて搬送しながら、下流側から順にレーザ照射を行った場合(図7)と、上流側から順にレーザ照射を行った場合(図8)の、それぞれの場合におけるデフォーカス量D1,D2を算出した。
【0089】
収容器の搬送速度を1000mm/sとし、収容器同士の中心間距離(搬送ピッチ)を120mmとして、収容器上の幅40mmの領域にレーザを照射してパターン形成を行った。この場合、1分間に約500本の収容器に対してパターン形成が行われるため、1秒あたりでは、約8.3本の収容器に対してパターン形成が行われることになる。また、有効パターン形成時間率を0.9とすると、1本の収容器あたりのパターン形成時間(レーザ照射時間)は、0.108(=1/8.3×0.9)となる。さらに、この場合、パターン形成中(レーザ照射中)の収容器の移動距離は、108mm(=0.108×1000mm)となる。
【0090】
また、搬送経路円の半径Rを200mm、収容器の半径rを36mmとすると、幅40mmの領域にレーザを照射してパターン形成を行う場合、角度θ2及び角度θ3は、いずれも31.4°となる。また、レーザ照射の開始から収容器が偏向部13の射出点Qに最も近づくまでの間の収容器の移動距離は、パターン形成中の収容器の全移動距離である108mmの半分になるので、54mmとなる。この場合、角度θ1は15.5°となる。
【0091】
そして、上記条件のもとで収容器が搬送される場合の各デフォーカス量D1,D2を、式(1)及び(2)に基づき算出すると、下流側から順にレーザ照射を行う場合のデフォーカス量D1は8.7mmとなり、上流側から順にレーザ照射を行う場合のデフォーカス量D2は18.8mmとなった。すなわち、下流側から順にレーザ照射を行う場合は、焦点範囲Hである16mmよりも小さいデフォーカス量D1(8.7mm)となったが、上流側から順にレーザ照射を行う場合は、焦点範囲H(16mm)を超えるデフォーカス量D2(18.8mm)となった。この結果からも、デフォーカス量を焦点範囲H内に留めるには、上流側よりも下流側から順にレーザ照射を行った方がよいことが示された。
【0092】
<本発明の一実施形態に係るレーザ照射方法>
以上のことから、本発明の第一実施形態に係るレーザ照射装置100においては、搬送方向Fにおける収容器1上の下流側の位置(レーザ照射開始点a1)からレーザLの照射を開始し、続いて、収容器1上の上流側の位置にレーザLを照射するようにしている。
【0093】
このように、下流側から順にレーザ照射を行うことにより、上流側から順にレーザ照射を行う場合に比べて、ベストフォーカス位置に対して近い位置からレーザ照射を開始できるようになるため、最大のデフォーカス量D1を小さくすることができる。これにより、デフォーカス量D1を焦点範囲H内に留めることができるようになり、レーザLの照射精度が向上する。
【0094】
また、搬送経路円Kの中心Oと、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の正面位置c2とを通る直線方向をY軸方向とすると、ベストフォーカス位置Nは、収容器1に対してレーザ照射が開始されたときの収容器1上のレーザ照射開始点a1と、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の正面位置c2との間のY軸方向の中間位置に設定されることが好ましい。すなわち、ベストフォーカス位置Nは、デフォーカス量D1のY軸方向の中間位置に設定されることが好ましい。このような位置にベストフォーカス位置Nが設定されることにより、収容器1上のレーザ照射領域Jが焦点範囲H内に含まれやすくなる。
【0095】
ところで、デフォーカス量は、収容器の搬送速度が速くなるほど、大きくなる傾向にある。例えば、収容器の搬送速度が1000mm/sである場合のパターン形成速度(レーザ走査速度)がレーザ照射装置の能力限界値である場合、収容器の搬送速度を2倍の2000mm/sにすると、パターン形成速度は変わらない。従って、角度θ1が15.5°から31°へと大きくなる。すなわち、レーザ照射中に搬送される収容器1の移動距離が長くなる。その場合、式(1)に基づき、下流側から順にレーザ照射を行う場合のデフォーカス量D1を算出すると、デフォーカス量D1は28.6mmとなり、搬送速度が2分の1である場合の上記デフォーカス量(8.7mm)よりも大きくなる。
【0096】
このように、速い搬送速度によって収容器が搬送される場合、下流側から順にレーザ照射を行っても、デフォーカス量D1が大きくなり、焦点範囲H(焦点深度DoFの2倍)を超える虞がある。
【0097】
従って、下流側から順にレーザ照射を行うことに加えて、デフォーカス量D1が焦点範囲H内に留まるように下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
【0098】
【数3】
【0099】
式(3)中の角度θ1、角度θ2、R、rは、式(1)中の角度θ1、角度θ2、R、rと同じである。また、式(3)中のDoFは、焦点深度である。つまり、「2×DoF」は、焦点深度の2倍である焦点範囲Hを示す。
【0100】
ここで、図10において、パターンの視認性値(レーザの照射精度)とデフォーカス量D1との関係を示す。
【0101】
本試験においては、搬送経路(搬送経路円K)の半径Rを、現実的に最も小さいと考えられる200mmとし、収容器の半径rを、一般的に最も多く製造されているPETボトルの半径である36mmとし、角度θ1及び角度θ2の値を変えて、収容器に対するパターン形成を行った。本試験において、搬送経路の半径Rを200mmとしたのは、搬送経路があまりにも大きい場合、搬送経路が直線状に近い状態となり、デフォーカス量の大きさに起因する課題が生じにくくなるからである。また、レーザ照射装置の出力を30W以上70W以下の範囲の値とし、レーザの周波数を500kHz以上3000kHz以下の最適な値とした。また、fθレンズとしては、上述の例と同じ焦点距離が580mmのものを用いた。斯かる条件のもと、収容器に対してレーザを照射し、得られるパターンの視認性について評価した。視認性値の評価方法については後述するが、この場合「7.0」以上の視認性値を、市場に流通する商品として許容される合格値として判断した。なお、視認性値が良好であると判断される条件は、収容器の構造、収容器内の収容物の種類などによって変化するので、本試験における合格視認性値はあくまでも一例として挙げた値である。また、その他の評価基準に基づいてパターンの品質を判断してもよい。
【0102】
図10に示される結果によれば、デフォーカス量D1が焦点範囲Hである焦点深度の2倍(2×DoF)よりも小さい場合に、良好な視認性値が得られた。すなわち、式(3)の関係を満たす場合に、良好な視認性値が得られることを確認できた。
【0103】
式(3)の関係を満たすようにする対策としては、例えば、図7に示される収容器1上のレーザ照射領域Jが小さくなるように、レーザ照射開始点a1及びレーザ照射終了点b3の各位置を調整することが考えられる。これにより、式(3)中の角度θ1及び角度θ2の値を適正な値に設定することができる。角度θ1の値は、搬送速度のほか搬送経路の半径Rによって変化する値であるが、角度θ1が大きすぎるとデフォーカス量D1が大きくなる。このため、角度θ1は、2°以上25°以下であることが好ましく、さらに10°以上20°以下であることがより好ましい。また、角度θ2は、収容器の大きさのほかレーザ照射領域Jの大きさによって変化する値であるが、角度θ2も大きすぎるとデフォーカス量が大きくなる。このため、角度θ2は、20°以上40°以下であることが好ましく、さらに25°以上35°以下であることがより好ましい。
【0104】
<レーザ照射装置によるパターン形成の生産性>
続いて、1台のレーザ照射装置100によるパターン形成の生産性について説明する。
【0105】
レーザ発振源としては、パルスレーザ発振装置以外に、連続発振レーザ(CWレーザ)装置であってもよい。しかし、パルスレーザ発振装置は短い時間間隔で点滅を繰り返すレーザであるため、生産性はパルスレーザの繰り返し周波数に依存する。以下、レーザ発振源として、パルスレーザ発振装置を用いる場合を例に、生産性について説明する。
【0106】
収容器の断面直径をW[mm]、搬送方向における複数の収容器間の距離をd[mm]とし、パターン形成の生産性をX[個/分]とすると、収容器の搬送速度V[mm/s]は下記式(4)により算出される。
【0107】
【数4】
【0108】
また、画素密度をa[dpi]とし、生産性Xを確保するために、第二ガルバノミラー16による1回の走査あたりに許容される時間Tは下記式(5)により算出される(インチをmm換算している)。
【0109】
【数5】
【0110】
さらに、搬送方向Fに対して交差するレーザ走査方向(図1における矢印G方向)における収容器上のパターン形成領域の横幅をLz[mm](図11参照)とすると、生産性Xを確保するために、レーザ走査方向における1ドットあたりに許容される時間Δt[s]は、下記式(6)により算出される。
【0111】
【数6】
【0112】
次に、レーザのフルエンスについて説明する。
【0113】
レーザのフルエンスFは次のように表すことができる。
【0114】
P=E・ν
F=E/S
【0115】
ここで、P[W]はパルスレーザの平均出力(光強度)を表し、E[J]は1パルスあたりのパルスエネルギーを表し、ν[Hz]はパルスレーザの繰り返し周波数を表す。F[J/cm]はフルエンスを表し、S[cm]はレーザビームスポットの面積を表す。
【0116】
フルエンスFは、パルスエネルギーをレーザビームスポットの面積で除算した値に対応する。収容器を構成する基材におけるフルエンスは、パルスレーザ発振装置の射出するレーザのパルスエネルギーを、収容器を構成する基材上でのレーザビームスポットの面積で除算した値になる。
【0117】
レーザとして、パルス幅がナノ秒スケールのレーザが用いられる場合は、収容器の吸光スペクトルに応じた熱変性によりパターンが形成される。一方、レーザとして、パルス幅がピコ秒スケールのレーザが用いられる場合は、吸光スペクトル及び多光子吸収のそれぞれに応じた熱変性によりパターンが形成される。
【0118】
なお、多光子吸収とは、レーザが照射されることにより、レーザの発振波長の1/2又は1/3に対応する波長の光で励起されたような状態になり、複数の光子が吸収されることにより電子及び原子の状態が高いエネルギー準位に遷移する非線形現象をいう。パルス幅がピコ秒スケールのレーザを用いると、固体の状態から溶融状態を経ることなく収容器を昇華し、基材に加工痕を形成できる。
【0119】
このとき、要求されるフルエンスが、1パルスで1ドットのパターン形成が可能なパルスレーザ発振装置を選定した場合、パターン形成周波数は繰り返し周波数であるν[Hz]となる。
【0120】
一方、レーザ照射装置のフルエンスが小さく、1ドットのパターン形成にNパルスが必要になる場合には、パターン形成周波数がν/N[Hz]となるため、1ドットのパターン形成に必要な時間は、N/ν[s]となる。
【0121】
この場合には、ΔtはN/ν[s]より大きい値しか許容されず、1回の走査によるパターン形成に許容される速度より速い速度で収容器を搬送させることができない。つまり、1ドットのパターン形成に許容される時間が生産性の律速になる。
【0122】
図11は、本発明の第一実施形態に係る収容器のレーザ照射領域を示す側面図である。収容器1は、パルスレーザ発振装置を用いてレーザが縦方向へ照射される。収容器1の表面は、複数のライン状パターン3が形成される。この場合、照射領域Jは、パターン3が形成される形成領域となる。照射領域Jの横幅Lxは、搬送方向Fと同じ方向の幅であり、照射領域Jの縦幅Lzは、搬送方向Fに対して交差する方向の幅である。照射領域Jの横幅Lxを40mmとし、解像度を300DPIとすると、収容器1の縦方向に形成されるパターン3同士間の横方向ピッチは0.084mm(=25.4/300)となり、横幅Lxである40mmの中に479本のパターン3が形成される。
【0123】
また、レーザ照射中の収容器の搬送距離が108mmであるとすると、搬送距離中に479本のパターン3を形成しなければならない場合、収容器が0.22mm移動する間に1本のパターン3を形成する必要がある。従って、高速で搬送される収容器に対して1台のレーザ照射装置を用いてパターン形成を行う場合は、高出力のレーザを高速で走査する必要がある。
【0124】
しかしながら、レーザ出力が50W以上となると、レーザ照射装置サイズが大型になる。また、大型のレーザ照射装置は、冷却のための冷却装置も大型なるため、コストが増大する課題がある。また、レーザ照射を高速で行う場合、レーザ照射装置が消耗しやすく、品交換などによるメンテナンス費用も発生する。
【0125】
一方で、レーザ出力が50Wより小さく、小型のレーザ照射装置は、焦点調整の応答性及び精度が低いため、高速で搬送される収容器に対して精度良くレーザ照射することが難しい。従って、小型のレーザ照射装置を用いて精度良くレーザ照射するためには、収容器の搬送速度を遅くする必要があり、その結果、生産性が低下する課題がある。
【0126】
そこで、上記のような生産性の課題を検討するために、1つのレーザ照射装置を用いてパターン形成を行った場合の生産性について調べた。
【0127】
図12に、本発明の第二実施形態に係るレーザ照射装置100’を含むシステム1000’の構成を示す。
【0128】
レーザ照射装置100’のfθレンズ17としては、焦点距離が580mmのものを用いた。曲線状の搬送経路20に沿って搬送される収容器1に対して、レーザ照射開始点a1からレーザ照射終了点b3まで連続してレーザLを照射した。そのほか、システム1000’は、図1などに示されるシステム1000と同じ構成としている。
【0129】
また、本試験において、レーザ照射領域Jの横幅Lxを30mm、縦幅Lzを45mmとした。また、レーザ出力を30W以上70W以下の範囲の値とし、レーザ周波数を500kHz以上3000kHz以下の範囲で最適な値に設定した。
【0130】
ここで、システ1000’を用いて、レーザ照射するパターンを図13に示す。図13は、本発明の一実施形態に係るレーザ照射点を説明するための図である。レーザ照射されたレーザ照射点4が円として示され、複数の円からなるパターン3が示される。パターン3は、ピッチP1をもって複数配列される。また、レーザ照射点4はそれぞれ領域P2で重複している。例えば、重畳P2が1.5である場合は、レーザ照射点4を互いに接するように(重ならないように)10個並べた範囲に、レーザ照射点4が15個含まれるように重なり合う状態を示す。
レーザ照射点4の直径を幅dとしている
ここで、加工率Uは、下記式で示される。
U=d/P1
同じレーザ出力条件であっても、重畳する数を増やしたり、加工率Uを上げたりすれば、パターンの精度が向上し、視認性値を上げることができる。しかしながら、限られた時間内でパターン形成することが難しくなるため、生産性は低下する。
【0131】
本試験においては、重畳を1.5、加工率を70%とした。そして、縦方向のライン状パターンを5mmずつ長くした場合に、長さに応じて生産性がどのように変化するかを調べた。その結果を、図14に示す。
【0132】
図14は、パターンの長さと生産性との関係を示す。パターンの視認性値が7.0以上となる場合の生産性を縦軸に示し、ライン状パターンの長さを横軸に示す。ここでは、ライン状パターンの長さが最も短い5mmの場合の生産性を1とし、これを基準にライン状パターンが5mmずつ長くなっていった場合の生産性を相対値として示している。
【0133】
ライン状パターンが長くなるほど、生産性が低くなることが分かる。この場合、ライン状パターンの長さが最大の45mmになると、生産性の相対値が0.28まで低下した。従って、パターンが縦方向に長くなると、1台のレーザ照射装置100では、高い生産性を保ちつつ、パターンを視認性良く形成することが難しくなるといえる。
【0134】
反対に、1台のレーザ照射装置100によって形成されるパターンが縦方向に短くなると、高い生産性を保ちつつ、パターンを視認性良く形成することができるようになるといえる。そこで、斯かる点に着目し、次に説明する本発明の他の実施形態においては、レーザ照射装置100が複数のレーザ発振源11を備え、1つのレーザ発振源11によって形成されるパターンを縦方向に短くしている。以下、本発明の他の実施形態の構成について説明する。
【0135】
<本発明の他の実施形態>
図15は、本発明の第三実施形態に係るレーザ照射装置100Aを含むシステム1000Aの構成を示す平面図である。
【0136】
本実施形態に係るレーザ照射装置100Aは、レーザ照射手段としてのレーザ手段5A,5B,5Cを備えている。レーザ手段5A,5B,5Cは、レーザ照射装置100と同じように、レーザ発振源11のほか、光学系12と、偏向部13と、集光部14と、を有している。
【0137】
レーザ手段5A,5B,5Cは、曲線状の搬送経路20に沿って配置されている。ここで、搬送方向の上流側から順に、第一レーザ手段5A、第二レーザ手段5B、第三レーザ手段5Cと称すると、搬送される収容器1に対して、第一レーザ手段5A、第二レーザ手段5B、第三レーザ手段5Cの順にレーザが照射される。
【0138】
図16は、本発明の第三実施形態において用いられる収容器1の側面図である。
【0139】
本実施形態においては、収容器1上のレーザ照射領域Jが、複数の領域J1,J2,J3によって区画されている。領域J1,J2,J3は、収容器1のキャップから底面の縦方向に向かって分割されている。この場合、レーザ照射領域Jは、搬送方向Fに対して交差する方向(縦方向)に分割された異なるレーザ照射領域J1,J2,J3によって構成されている。なお、複数のレーザ照射領域J1,J2,J3は、目視可能な線などによって区画された領域ではなく、あくまでも概念的に区画された領域である。
【0140】
このように、収容器1上のレーザ照射領域Jが縦方向に分割されることにより、1つのレーザ照射領域J1,J2,J3あたりの縦方向の長さが短くなる。そして、本実施形態においては、このような縦方向に短い各レーザ照射領域J1,J2,J3に対して、別個のレーザ手段5A,5B,5Cを用いてパターンを形成する。すなわち、収容器1が搬送されると、まず、第一レーザ手段5Aが1つのレーザ照射領域に対してレーザ照射を行い、次いで、第二レーザ手段5Bが別のレーザ照射領域に対してレーザ照射を行い、最後に、第三レーザ手段5Cが残りのレーザ照射領域に対してレーザ照射を行う。このとき、各レーザ手段5A,5B,5Cによるレーザ照射は、各レーザ照射領域J1,J2,J3の搬送方向Fの下流側から順に行う。各レーザ照射領域J1,J2,J3同士の間に間隔を設けてレーザ照射領域ごとパターンを形成してもよい。もしくは、隙間をなくし、パターンを途切れないように形成してもよい。
【0141】
以上のように、本発明の第三実施形態においては、レーザ照射装置100が複数のレーザ手段5A,5B,5Cを備え、各レーザ手段5A,5B,5Cが、縦方向に分割された異なるレーザ照射領域J1,J2,J3に対してレーザLを照射することにより、1つのレーザ照射手段あたりのレーザ照射時間を短くすることができる。すなわち、複数のレーザ手段5A,5B,5Cが、縦方向に分割された異なるレーザ照射領域J1,J2,J3に対してレーザLを照射することにより、1つのレーザ照射手段によってレーザ照射領域J全体をレーザ照射する場合に比べて、1つのレーザ照射手段が照射するレーザ照射領域の縦方向の長さが短くなるため、1つのレーザ照射手段あたりのレーザ照射時間も短くなる。これにより、収容器の搬送速度を速くしても、精度良くレーザ照射を行うことができるようになり、生産性の向上とレーザ照射精度の向上の両立を実現できるようになる。
【0142】
例えば、縦方向の長さが45mmのレーザ照射領域Jを縦方向に三分割した場合、分割された1つのレーザ照射領域J1,J2,J3の縦方向の長さを15mmとすることができる。この場合、図14に示される試験結果を参照すると、縦方向長さが45mmのライン状パターンを形成する場合の生産性の相対値が0.28であるのに対し、レーザ照射領域Jを縦方向に三等分し、ライン状パターンの縦方向長さを15mmにすると、生産性の相対値が0.61に向上する。このように、レーザ照射領域Jを縦方向に分割して1つのレーザ照射領域J1,J2,J3の縦方向長さを短くし、各レーザ照射領域J1,J2,J3に対して異なるレーザ照射手段を用いてレーザ照射を行うことにより、高い生産性を保ちつつ、精度良くレーザ照射することができるようになる。従って、本実施形態に係る構成によれば、小型のレーザ照射装置を用いても、曲線搬送経路上を高速搬送される対象物に対して生産性を低下させることなく精度良くレーザ照射できるようになる。
【0143】
レーザ照射領域Jの縦方向の分割数及びレーザ照射手段の設置数は、3つに限らず、2つ又は4つ以上であってもよい。レーザ照射装置の設置スペース及びコストに余裕があれば、レーザ照射領域Jの分割数を多くし、レーザ照射手段の数も増やすことにより、生産性及び品質をより向上させることができる。
【0144】
また、各レーザ手段5A,5B,5Cにおいて、偏向部13からレーザが射出される射出点Qは、収容器1が各レーザ手段5A,5B,5Cの偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときのそれぞれの収容器1の中心位置A,B,Cと搬送経路円Kの中心Oとを通る直線M1,M2,M3上に配置されることが好ましい。なお、この場合の偏向部13の射出点Qも、上述の射出点Qと同じように、レーザLの光軸上流側に配置される第一ガルバノミラー15の射出点ではなく、光軸下流側に配置される第二ガルバノミラー16の射出点を意味する。偏向部13の射出点Qが上記のような直線M1,M2,M3上に配置されることにより、横方向(搬送方向)の広い範囲に渡って短い時間でレーザ照射を精度良く行えるようになる。
【0145】
また、図17に、偏向部13の射出点Qが最適な位置からずれて配置された場合のパターンの視認性を示す。
【0146】
図17において、実線は、偏向部13の射出点Qが上記直線M1,M2,M3上にある場合の、パターンの中心からのレーザ照射位置のずれ量(距離)と視認性値との関係を示す。一方、同図中の一点鎖線及び二点鎖線は、偏向部13の射出点Qが上記直線M1,M2,M3を基準に図18に示される角度βだけずれて配置された場合の、パターンの中心からのレーザ照射位置のずれ量(距離)と視認性値との関係を示す。図18に示される角度βは、上記直線M1,M2,M3を基準に収容器1が各レーザ手段5A,5B,5Cの偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときのそれぞれの収容器1の中心位置A,B,Cを中心とする円周方向のずれ量である。図17に示される一点鎖線は、そのずれ量(角度β)が±5°である場合の例を示し、二点鎖線は、そのずれ量(角度β)が±10°である場合の例を示す。
【0147】
レーザ照射位置がパターンの中心から横方向へずれるにつれて、パターンの視認性値が少しずつ低下する。特に、ずれ量(角度β)が±5°及び±10°である場合は、レーザ照射位置がパターンの中心から+15mm離れると、市場に流通する商品として許容される視認性値の「7.0」を下回る結果となった。これに対して、ずれ量(角度β)が±5°未満の場合(図17においては、ずれ量が0°の場合の例のみを示す。)は、レーザ照射位置がパターンの中心から横方向へずれても7.0以上の視認性値が得られた。
【0148】
従って、パターン形成を精度良く行えるようにするには、直線M1,M2,M3に対するずれ量(角度β)が5°未満となるように、偏向部13の射出点Qを配置することが好ましい。なお、このような偏向部13の配置は、複数のレーザ手段5A,5B,5Cを備える構成に限らず、1つのレーザ照射手段5を備える構成にも適用可能である。
【0149】
また、分割された各レーザ照射領域J1,J2,J3に対するレーザ照射の順番及びレーザ走査方向について次のような検討を行った。
【0150】
各レーザ照射領域J1,J2,J3上においてレーザを走査する方向としては、レーザ照射開始点a1から搬送方向上流側(横方向)に向かってレーザを走査する場合と、レーザ照射開始点a1から搬送方向とは交差する方向(縦方向)に向かってレーザを走査する場合とがある。いずれの場合も、搬送方向下流側のレーザ照射開始点a1からレーザ照射を開始することにより、上述のデフォーカス量を小さくでき、精度の良いレーザ照射を行いやすくなる。しかしながら、レーザ照射開始点a1から搬送方向上流側(横方向)に向かってレーザを走査すると、レーザ照射位置がレーザ照射手段に対して相対的に離れる方向に移動するため、レーザ照射位置がレーザ照射手段のベストフォーカス位置から遠くなる可能性がある。従って、精度良くレーザ照射を行うには、レーザ照射開始点a1から搬送方向上流側(横方向)に向かってレーザを走査するよりは、レーザ照射開始点a1から搬送方向とは交差する方向(縦方向)に向かってレーザを走査することが好ましい。
【0151】
例えば、図19に示される例のように、レーザ照射開始点a1から搬送方向Fとは交差する方向(図19における下方)へレーザを照射し、続いて、レーザ照射位置を搬送方向Fの上流側へずらして、搬送方向Fとは交差する方向(図19における上方)へレーザを照射する。これを繰り返し、レーザ照射終了点b3までレーザを照射する。
【0152】
このように、レーザ照射開始点a1からのレーザ走査方向を、搬送方向とは交差する方向(縦方向)とすることにより、レーザ走査方向を搬送方向(横方向)とする場合に比べて、デフォーカス量(ベストフォーカス位置に対するレーザ照射位置のずれ量)をより一層小さくすることができる。このため、レーザ照射精度がより一層向上する。また、このようなレーザの走査方向は、図19に示されるような分割された複数のレーザ照射領域J1,J2,J3を有する収容器1に限らず、1つのレーザ照射領域Jを有する収容器1にも適用可能である。
【0153】
また、収容器にレーザを照射した際に、収容器の性状が変化すると、スモークが発生することがある。このスモークは、収容器の性状が変化する際に飛散した水分、ベンゼン、アルデヒド及びプラズマ、アブレーションにより散らばった低分子及び高分子などである。また、スモークが発生すると上方へ移動する傾向がある。このため、各レーザ照射領域J1,J2,J3に対するレーザ照射の順番によっては、スモークがレーザ照射位置に重なり、レーザ照射の精度が低下する虞がある。すなわち、レーザ照射位置を下側から上側へ移動させてレーザ照射を行うと、下側において生じたスモークが上側へ移動し、上側のレーザ照射位置におけるレーザ照射の精度が低下する虞がある。
【0154】
このことから、レーザ照射を行う順番は、各レーザ照射J1,J2,J3のうち、上側のレーザ照射領域J1から順に(J1、J2、J3の順に)行うことが好ましい。レーザ照射を、上側のレーザ照射領域J1から順に行うことにより、下側のレーザ照射時においてレーザ照射がスモークの影響を受けなくなる。
【0155】
また、図20に示される例のように、レーザ照射領域Jに気流を発生させる気流発生部35を配置してもよい。気流発生部35としては、ファン、サーキュレータなどの送風装置のほか、空気を吸引して排気する吸排気システムでもよい。これにより、レーザ照射領域Jにおいて発生したスモーク50を気流によって強制的にレーザ照射領域J外へ移動させることができ、レーザ照射がスモークの影響を受けるのを回避できるようになる。ただし、気流の向きは、レーザ照射位置の移動方向とは反対方向となるようにすること好ましい。気流の向きがレーザ照射位置の移動方向と同じ方向であると、気流によって移動させられたスモークがレーザ照射の精度が低下する可能性があるからである。
【0156】
以上の観点を踏まえ、レーザ照射の順番と気流の向きとの好ましい組み合わせについて調べる試験を行なった。レーザ照射の順番と気流の向きの関係を図21に示す。
【0157】
本試験においては、各レーザ照射領域J1,J2,J3に対するレーザ照射の順番、各レーザ照射領域J1,J2,J3に対する気流の有無とその向き、及び、搬送の有無の各条件を異ならせ、得られるパターンの視認性について調べた。
【0158】
また、本試験においては、各レーザ手段5A,5B,5Cの出力を30W以上70W以下の範囲に設定し、レーザの周波数を500kHz以上3000kHz以下の最適な値とした。また、焦点距離が580mmのfθレンズを用い、走査速度を54m/s、走査周期を12000ms、周波数を1250kHzとした。また、レーザの重畳を1.5とし、加工率を70%とした。
【0159】
このような条件のもと、各レーザ照射領域J1,J2,J3に対して、搬送方向の下流側から順にレーザ照射を行った。また、収容器の搬送を行う場合は、実際の生産ラインを想定し、20本の収容器を曲線状の搬送経路に沿って1000mmm/sの速度で搬送しながら、収容器に対するレーザ照射を行った。また、パターンの視認性の評価は、最もスモークの影響を受けやすい上側(最上位)のレーザ照射領域J1において形成されるパターンについて行った。
【0160】
試験1の場合は、収容器の搬送を行わず、レーザ照射を上側から順に行ったため、下側でのレーザ照射時においてスモークの影響を受けにくく、良好な視認性値が得られた。一方、試験2の場合は、試験1と同じく、収容器の搬送を行わなかったが、レーザ照射を下側から順に行ったため、上側でのレーザ照射時において下側から移動してきたスモークの影響を受け、視認性値が大きく低下した。
【0161】
試験3の場合は、収容器の搬送を行いながら、レーザ照射を行った。この場合、スモークの影響が及びにくいように、上側から順にレーザ照射を行ったが、20本の収容器に対してレーザ照射を行う間にスモークが充満し、また、高速搬送であったため、試験1よりも視認性が低下した。試験4の場合は、収容器の搬送を行いながら、レーザ照射を下側から順に行ったため、試験3よりもさらに視認性値が低下した。ただし、試験4の場合、搬送を行わなかった試験2と比べて、視認性が向上した。これは、搬送を行ったことにより、レーザ照射領域付近におけるスモークの滞留が低減されたからと考えられる。
【0162】
試験5の場合は、収容器1の搬送を行いながら、レーザ照射を上側から順に行い、さらに、レーザ照射領域に対して上側から下側へ向かって気流を発生させた。これにより、気流を発生させなかった試験3に比べて、視認性が向上した。さらに、試験6の場合は、気流の向きを試験5とは反対に下側から上側へしたことにより、視認性がより向上した。これは、上述のように、気流の向きを、レーザ照射位置の移動方向とは反対方向にすることによって、レーザの照射がスモークを受けにくくなったからと考えられる。
【0163】
以上、図21に示される試験結果からすると、上下方向に分割される複数のレーザ照射領域J1,J2,J3に対してレーザ照射を行う場合は、上側(最上位)のレーザ照射領域から順にレーザ照射を行うことが好ましく、さらに、下方から上方へ向かって気流を発生させることが好ましい。これにより、レーザ照射がスモークの影響を受けにくくなるため、精度の良いレーザ照射を行えるようになる。
【0164】
また、上記のようなスモークによるレーザ照射精度低下の課題は、複数のレーザ照射領域J1,J2,J3に対してレーザ照射を行う場合に限らず、図11に示されるような(分割されていない)1つのレーザ照射領域Jに対してレーザ照射を行う場合も生じ得る。従って、1つのレーザ照射Jに対してレーザ照射を行う場合も同じように、レーザ照射領域Jに対して気流を発生させる気流発生部35を設け、スモークによる影響を低減できるようにしてもよい。
【0165】
<視認性値の評価方法>
続いて、パターンの視認性の評価方法について説明する。
【0166】
視認性の評価は、収容器を撮影し、視認可能な像(パターン)と、像以外の部分から計測されるそれぞれの明度から測定して行う。
【0167】
図22乃至24を用いて、収容器の撮影システムについて説明する。図22は、本発明の一実施形態に係る収容器1の撮影システムの一例を示す図である。図23は、本発明の一実施形態に係る収容器1の撮影システムに白色拡散面54を設置した状態を示す図である。図24は、本発明の一実施形態に係る撮影システムで撮影した収容器1の像60と像以外の部分61を示す概略図である。撮影システムは、収容器1、光源51、暗室52、カメラ53、白色拡散面54を含む。収容器1に光を照射しながらカメラ53で撮影する。カメラ53の撮影に不要な像を排除するために、暗室52の環境下で行う。
【0168】
また、図23に示されるように、光源51は、収容器1の表面の正反射成分が撮影されないようにフラット光源を所定の角度で配置される。また、光源51は、拡散照明する位置に配置される。例えば、光源51が設置される位置は、収容器1に対し斜め上方などの照射面での正反射成分がカメラ53によって検知されない位置としてもよいし、斜め下方又は側面などでもよい。白色拡散面54は、収容器1の収容物の影響を撮影画像に反映するために、収容器1の側面に設置すされる。これにより、周囲からの透過光も考慮できる。
【0169】
<視認性の評価方法における撮影条件>
撮影条件は白色の読み取り値が飽和しないように設定した。また、光源51は、LEDトレーサーを用いた。カメラ53は、Basler社製エリアスキャンカメラ acA3088-57μm、カメラ53のレンズはRicoh Lens FL-CC2514-2M(F1.4 f25mm 2/3”)と以下の撮影条件に設定して撮影した。
-撮影条件-
・絞り:F1.4
・露光時間:20,000(μs)
・撮影距離:500mm
【0170】
撮影システムで撮影した画像から像及び像以外の部分の明度を計測した。そして、図24に示される像60と像以外の部分61の出力値から明度を換算する。カメラ53の出力値は、バラツキを考慮して数mm~数十mm程度のエリアの平均値を使用することが好ましい。
【0171】
明度の換算は、まず、明度(L*)が既知であるチャート(グレイチャート)をカメラ53によって撮影する。次に、カメラ53で撮影した画像からG信号と既知の明度を用いて明度を換算する。
【0172】
-G信号と明度換算-
・カメラ53で撮影した画像をn次多項式で近似する。一例として以下に示す三次多項式にてG信号を明度に換算する。
L*=Lab_1st×G1+Lab_2nd×G2+Lab_3rd×G3+Lab_const
Lab_1st=0.461535
Lab_2nd=-0.000281
Lab_3rd=0.000000
Lab_const=1.211053
【0173】
なお、図25は、G信号と三次元多項式から換算した明度との関係を示すグラフである。G信号と明度とが明確な相関関係となっており、寄与率r2=0.997のため、完全に比例関係が成り立つ。
【0174】
-主観評価-
収容器1内へのレーザ照射の条件を変えた収容器に対し、収容物6を変えて主観評価を行った。評価する収容器をシャッフェの一対比較法にて統計的な主観評価点を求める。
【0175】
・収容器:加工条件を変えた6種
・収容物:水、コーヒー、茶
・主観評価方法:シャッフェの一対比較法
・評価者:3名(評価は各2回実施)
・評価1回目:全収容器に水
・評価2回目:水(2本)、コーヒー(2本)、茶(2本)
・評価3回目:水(1本)、コーヒー(3本)、茶(2本)
・評価環境:オフィス居室内
【0176】
図26に、像の明度(L )と主観評価点との関係を示す。図27に、像の明度と像以外の部分の明度との差(ΔL)と主観評価点との関係を示す。シャッフェの一対比較法にて評価された主観評価点は数値が大きいほど主観評価にて視認性が良いといえる。図26及び図27において点線で囲んだ領域のように、相関性の悪い収容器がある。これらは像の明度(L )が著しく低い、明度差(ΔL)が少ない、又はこれらの両方の状態の収容器である。
【0177】
このような収容器についても相関性の高い数式とするため、像の明度L に(1-exp(ΔL))を乗じた下記式(7)を導出した。図28に示されるように、Y=(1-exp(-x))はxが小さくなるとY=0に近づくことから、式(7)は明度差(ΔL)が小さくなると視認性が悪くなる傾向を表現している。
【0178】
従って、視認性値は、下記式(7)により表される。
【0179】
【数7】
【0180】
ただし、上記式(7)中、L は像の明度、ΔLは像の明度と像以外の部分の明度との差を表す。
は正の実数であり、0.2前後であることが好ましい。
は負の実数であり、-0.2前後であることが好ましい。
式(7)により表される視認性値は、像の明度が高いほど視認性が高く、像以外の部分との明度差がなくなると視認性が無くなるという特徴を表している。
【0181】
ここで、b=0.195、b=-0.193として算出した式(7)により表される視認性値は、図29に示されるように、加工条件及び収容器1内に収容される収容物6を変えた場合の主観評価点(一対比較法)と非常に高い相関関係(R2=0.943)を有することがわかる。このように算出された視認性値によって評価される。
【0182】
<主観評価方法>
以下の条件で像(文字)をレーザ加工した収容器について、像の主観評価を行い、見やすさを5段階で評価した。評価ランクと視認性値との関係を図30に示す。
-評価条件-
・判定者:30名
・収容器:レーザ加工条件を可変して5.5pt文字を形成した収容器として収容物(水、茶など)も収容器毎に可変した計10種
・評価環境:一般オフィス居室内
・判定方法:判定ランクは下記の5段階とし、判定者による主観評価を実施する。
[評価ランク]
1:読めない
2:あまり読めない
3:薄い像
4:よく読める
5:市販品として問題ないはっきりとした像
【0183】
図30の結果から、主観評価であるため、ややばらつきが生じているが、平均値では視認性値が2以上において文字が可読できる評価ランク3以上となった。また、視認性値が7.0以上ではいずれの判定者において評価ランク5(市販品として問題ないはっきりとした像)であることがわかった。
【0184】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0185】
上記実施形態においては、レーザ照射装置100が曲線状の搬送経路20(搬送経路円K)に対してその中心Oよりも外側(中心O側とは反対側)に配置される場合を例に説明した。しかしながら、本発明は、曲線状の搬送経路20に対してこのような位置関係にあるレーザ照射装置100に限らず、図31に示されるような、搬送経路20に対してその中心Oよりも内側(中心O側)に配置されるレーザ照射装置100Bを含むシステム1000Bにも適用可能である。
【0186】
図31に示されるような例においても、搬送方向における収容器1上の下流側の位置(レーザ照射開始点a1)から順にレーザLを照射し、続いて、収容器1上の上流側の位置に対してレーザを照射することにより、上記実施形態と同じように、収容器1に対するレーザ照射精度を向上させることができる。
【0187】
また、この場合も、偏向部13からレーザが射出される射出点Qの位置は、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の中心位置B(位置(2)における中心の位置)と搬送経路円Kの中心Oとを通る直線M上、あるいは、その直線Mを基準に、収容器1が偏向部13の射出点Qに対して最も近づいたときの収容器1の中心位置Bを中心とする円周方向に±5°未満(角度β)の範囲内であることが好ましい。
【0188】
また、本発明に係るレーザ照射装置は、対象物(収容器1)が円形の搬送経路20に沿って搬送される場合に限らず、楕円形など、円形以外の曲線状の搬送経路に沿って対象物が搬送される場合にも適用可能である。
【0189】
以上説明した本発明の態様をまとめると、本発明には、少なくとも下記の構成を備える乾燥装置、乾燥方法及び造形システムが含まれる。
【0190】
[第1の構成]
第1の構成は、曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置であって、前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射するレーザ照射装置である。
【0191】
[第2の構成]
第2の構成は、前記第1の構成において、前記対象物上のレーザ照射開始点から前記対象物の搬送方向とは交差する方向へレーザを照射し、続いて、レーザ照射位置を前記対象物の搬送方向の上流側へずらして、前記対象物の搬送方向とは交差する方向へレーザを照射するレーザ照射装置である。
【0192】
[第3の構成]
第3の構成は、前記第1又は第2の構成において、レーザを発振するレーザ発振源と、前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、を備え、前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、前記対象物に対してレーザ照射が開始されたときの前記対象物の中心位置をA、前記搬送経路円の中心をO、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置をBとしたときの角AOBをθ1とし、前記対象物上のレーザ照射開始点をa1、前記対象物の中心をA、前記対象物の正面位置をc1としたときの角a1‐A‐c1をθ2とし、前記搬送経路円の半径をRとし、前記対象物の半径をrとし、レーザの焦点深度をDoFとすると、R(1-cosθ1)+r(1-cos(θ2-θ1))<2×DoFの関係を満たすレーザ照射装置である。
【0193】
[第4の構成]
第4の構成は、前記第1から第3のいずれか1つの構成において、レーザを発振するレーザ発振源と、前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、を備え、前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、前記搬送経路円の中心と、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の正面位置とを通る直線方向をY軸方向とすると、前記対象物に対してレーザ照射が開始されたときの前記対象物上のレーザ照射開始点と、前記対象物が前記射出点に対して最も近づいたときの前記対象物の正面位置との間の前記Y軸方向の中間位置が、レーザのベストフォーカス位置となるように設定されるレーザ照射装置である。
【0194】
[第5の構成]
第5の構成は、前記第1から第4のいずれか1つの構成において、レーザを発振するレーザ発振源と、前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、を備え、前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、前記偏向部からレーザが射出される射出点は、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置と前記搬送経路円の中心とを通る直線上に配置されるレーザ照射装置である。
【0195】
[第6の構成]
第6の構成は、前記第1から第4のいずれか1つの構成において、レーザを発振するレーザ発振源と、前記レーザ発振源によって発振されたレーザを偏向する偏向部と、を備え、前記搬送経路に沿って配置される搬送経路円を含む平面に対して直交する方向から見て、前記偏向部からレーザが射出される射出点は、前記偏向部からレーザが射出される射出点に対して前記対象物が最も近づいたときの前記対象物の中心位置と前記搬送経路円の中心とを通る直線を基準に、前記対象物が前記射出点に対して最も近づいたときの前記対象物の中心位置を中心とする円周方向に±5°未満の範囲内に配置されるレーザ照射装置である。
【0196】
[第7の構成]
第7の構成は、前記第1から第6のいずれか1つの構成において、複数のレーザ発振源を備え、前記複数のレーザ発振源から発振されるレーザは、前記対象物上の前記対象物の搬送方向に対して交差する方向に分割された異なるレーザ照射領域に対してそれぞれ照射されるレーザ照射装置である。
【0197】
[第8の構成]
第8の構成は、前記第7の構成において、前記分割された異なるレーザ照射領域のうち、上側の前記レーザ照射領域から順にレーザが照射されるレーザ照射装置である。
【0198】
[第9の構成]
第9の構成は、前記第1から第8のいずれか1つの構成において、前記体対象物上のレーザ照射領域に気流を発生させる気流発生部を備えるレーザ照射装置である。
【0199】
[第10の構成]
第10の構成は、前記第9の構成において、前記気流発生部は、上方へ向かって気流を発生させるレーザ照射装置である。
【0200】
[第11の構成]
第11の構成は、曲線状の搬送経路に沿って搬送される対象物に対してレーザを照射するレーザ照射方法であって、前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射するレーザ照射方法である。
【0201】
[第12の構成]
第12の構成は、曲線状の搬送経路に沿って対象物を搬送する搬送装置と、前記搬送経路に沿って搬送される前記対象物に対してレーザを照射するレーザ照射装置と、を含むシステムであって、前記レーザ照射装置は、前記対象物の搬送方向における前記対象物上の下流側の位置からレーザを照射し、続いて、前記対象物上の上流側の位置に対してレーザを照射するシステムである。
【符号の説明】
【0202】
1 収容器(対象物)
11 レーザ発振源
13 偏向部
20 搬送経路
35 気流発生部
100 レーザ照射装置
200 搬送装置
1000 システム
a1 レーザ照射開始点
b3 レーザ照射終了点
F 搬送方向(対象物の搬送方向)
K 搬送経路円
N ベストフォーカス位置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0203】
【特許文献1】特開2021-37685号公報
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