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特開2024-129495人工衛星システム、人工衛星システム群、並びにその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129495
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】人工衛星システム、人工衛星システム群、並びにその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/10 20060101AFI20240919BHJP
   B64G 1/28 20060101ALI20240919BHJP
   B64G 1/26 20060101ALI20240919BHJP
   B64G 1/24 20060101ALI20240919BHJP
   B64G 3/00 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
B64G1/10 600
B64G1/28 F
B64G1/26 B
B64G1/24 A
B64G3/00
B64G1/24 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038735
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舟根 司
(72)【発明者】
【氏名】田部 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】木村 寿利
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康一
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 真一
(57)【要約】
【課題】目標位置に対して安定的にフォーメーションを維持することが可能となる人工衛星システム、人工衛星システム群、並びにその制御方法を提供する。
【解決手段】多角形の柔軟構造物の端部が人工衛星により支持されて、太陽光を受電しマイクロ波ビームを送信する人工衛星システムであって、人工衛星システムは、人工衛星の存在位置を検出するための位置検出装置と、人工衛星の軌道又は移動方向を決定する軌道計画装置と、軌道又は移動方向における人工衛星の存在位置を算出し、位置検出装置で検出された存在位置と算出された存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かの判定及び前記人工衛星の平面性、もしくは振動モード、もしくは剛体モード、もしくは固有振動数、もしくは回転角速度の少なくとも一つを含む人工衛星システムの状態の判定を行う演算装置と、演算装置の判定結果に基づき、人工衛星の軌道を制御する制御装置を含んで構成されていることを特徴とする人工衛星システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物が人工衛星により支持されている人工衛星システムであって、
前記人工衛星システムは、前記人工衛星の存在位置を検出するための位置検出装置と、前記人工衛星の軌道又は移動方向を決定する軌道計画装置と、前記軌道又は移動方向における前記人工衛星の存在位置を算出し、前記位置検出装置で検出された前記存在位置と算出された前記存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かの判定、及び前記人工衛星システムの平面性、もしくは振動モード、もしくは剛体モード、もしくは固有振動数、もしくは回転角速度の少なくとも一つを含む人工衛星システムの状態の判定を行う演算装置と、前記演算装置の判定結果に基づき、前記人工衛星の軌道を制御する制御装置を含んで構成され、
前記演算装置は、前記判定結果に基づき、前記人工衛星の軌道を制御する方向を決定し、かつ、前記制御装置が制御することができる方向との角度差があらかじめ設定した閾値の範囲内の場合に、前記制御装置を使用することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項2】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
前記軌道計画装置は、前記人工衛星の軌道又は移動方向を、所定軸周りの所定の角速度による回転運動の軌道により決定することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項3】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
前記人工衛星システムは、張力を測定する張力測定装置又は遠心力を算出する遠心力算出装置を有し、
前記演算装置は、前記張力測定装置で測定した張力、又は、前記遠心力算出装置で算出した遠心力があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定し、前記人工衛星の軌道を制御する方向を決定することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項4】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
前記人工衛星システムの状態の判定を行う前記演算装置は、
前記人工衛星の存在位置から前記人工衛星システムの状態の判定を行う、
又は、
前記張力測定装置から得られる張力又は前記遠心力算出装置から得られる遠心力から前記人工衛星システムの状態の判定を行う、
ことを特徴とする人工衛星システム。
【請求項5】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
複数のスラスタを含む前記制御装置は、スラスタ配置と軌道制御方向に応じてスラスタの出力を決定し制御することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項6】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
複数のスラスタを含む前記制御装置は、スラスタ配置とスラスタの選択条件と軌道制御方向に応じて選択されたスラスタの出力を決定し制御することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項7】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
ジンバル機構により出力調整方向が可変となる複数のスラスタを含む前記制御装置は、スラスタ配置と軌道制御方向に応じてスラスタの出力を決定し制御することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項8】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
太陽輻射圧を利用することにより前記人工衛星システムの姿勢または軌道を制御可能とする機構を含む前記制御装置は、前記人工衛星システムの複数の箇所における太陽輻射圧トルクを制御することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項9】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、複数のアンテナ素子からなるフェーズドアレイアンテナを備え、前記演算装置は、前記フェーズドアレイアンテナにより送信及び受信する信号の各々のアンテナ素子における位相情報を利用して、前記人工衛星の運動の状態を判定し、前記制御装置により前記人工衛星の姿勢及び軌道を制御することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項10】
請求項1に記載の人工衛星システムであって、
前記人工衛星の位置情報、質量情報、又は速度の情報を、前記人工衛星の間で通信する送受信機を備え、前記軌道計画装置は、前記送受信機により通信された情報に基づき、前記人工衛星の軌道又は移動方向を決定することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項11】
請求項1に記載の人工衛星システムを面的に複数配置した人工衛星システムであって、
目標存在位置への制御に加え、任意の位置における遠心力を算出し、遠心力が所定範囲に収まるように前記制御装置を駆動することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項12】
請求項11に記載の人工衛星システムを面的に複数配置した人工衛星システムであって、
半径検出装置、角速度検出装置を用いて遠心力を推定することを特徴とする人工衛星システム。
【請求項13】
請求項11に記載の人工衛星システムを面的に複数配置した人工衛星システム群であって、
面的に複数配置した人工衛星システムの構成が変更されたときに、重心位置を再計算し、遠心力及び全体の角運動量を算出し、遠心力の大きさ、及びまたは角運動量によるスピン安定の観点から、面的に複数配置した人工衛星システムに対する角運動量を制御することを特徴とする人工衛星システム群。
【請求項14】
多角形の柔軟構造物の端部が人工衛星により支持されて、太陽光を受電しマイクロ波ビームを送信する人工衛星システムの制御方法であって、
前記人工衛星の存在位置を検出し、前記人工衛星の軌道又は移動方向を決定し、前記軌道又は移動方向における前記人工衛星の存在位置を算出し、前記存在位置と算出された前記存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かの判定、及び前記人工衛星システムの平面性、もしくは振動モード、もしくは剛体モード、もしくは固有振動数、もしくは回転角速度の少なくとも一つを含む人工衛星システムの状態の判定を行い、前記判定結果に基づき、前記人工衛星の軌道を制御する方向を決定し、かつ、前記制御装置が制御することができる方向との角度差があらかじめ設定した閾値の範囲内の場合に、前記制御を行うことを特徴とする人工衛星システムの制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載の人工衛星システムの制御方法を適用する人工衛星システムが面的に複数配置されて人工衛星システム群を構成するときの人工衛星システム群の制御方法であって、
目標存在位置への制御に加え、任意の位置における遠心力を算出し、遠心力が所定範囲に収まるように前記制御を行うことを特徴とする人工衛星システム群の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星システム、人工衛星システム群、並びにその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙太陽光発送電システム(Space Solar Power Systems: SSPS)においては、静止軌道上に設置された太陽電池で発電したエネルギーをマイクロ波で地上に送電する。
【0003】
マイクロ波を地上の直径数kmの領域に収斂させるためには、例えば静止軌道高度ではアンテナサイズがkmオーダである必要があるという物理学的制約があるため、軌道上での大型構造物の建造・維持が必要である。然しながら、従来のトラスビームによる構造の展開及び維持方式では、重量増大(打上コスト大)のため大型化が難しく、軽量化を実現する膜展開方式のコンセプトが提案されている。
【0004】
この点に関し特許文献1は、「宇宙太陽光発電ステーションであって、宇宙空間内に所定の軌道アレーフォーメーションで非接続に配置される複数の可縮衛星モジュールを備え、各可縮衛星モジュールが、互いに可動接続され、前記衛星モジュールの少なくとも一軸方向における寸法を縮小可能とする複数の構造素子並びに、前記複数の可動素子上にそれぞれ配置された複数の発電タイルを備え、各発電タイルが、少なくとも1つの太陽光発電セル、及び、該太陽光発電セル上に配列された少なくとも1つの電力トランスミッタを有し、前記少なくとも1つの太陽光発電セル及び前記少なくとも1つの電力トランスミッタは、互いに信号接続され、前記少なくとも1つの太陽光発電セルで太陽放射を捕集して発生させた電流により、前記少なくとも1つの電力トランスミッタに電力を供給するように構成され、前記少なくとも1つの電力トランスミッタの各々がアンテナ及び該アンテナに給電されるラジオ周波電力信号の位相を制御し、前記電力トランスミッタを他の発電タイルにおける電力トランスミッタと連携させてフェーズドアレイを形成する制御エレクトロニクスを備え;各衛星モジュールが直線エッジ状の幾何学的形状を画定するよう、前記衛星モジュールの外形状が直線エッジ部を有する、宇宙太陽光発電ステーション。」のように構成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-525265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
宇宙空間において大面積の太陽光パネルを、太陽光指向に維持することは、全体の送電容量を大きく維持するために重要であるが、単一衛星と異なり、膜状の衛星システムの姿勢及び軌道を、軽量性を維持しながら安定的に維持・制御することが課題となっている。
【0007】
この課題は、より具体的に述べると、形状・重心が変化し得る宇宙構造物の全体形状・軌道を維持することが困難である点、遠心力・推進力による張力で複合構造物の姿勢を安定させる際、張力による縮退、または破壊されることのないよう制御が必要となる点、重力傾斜トルク等の外乱による影響を補正することが必要となる点などである。
【0008】
これに対し、特許文献1には、複数の独立した衛星モジュールを軌道アレーフォーメーションにおける適当な軌道軌跡に投入し、各衛星モジュールは位置決めセンサからデータ等を用いてスラスタにより姿勢や方向制御することが開示されている。
【0009】
しかしながら特許文献1においても、目標位置に対して安定的にフォーメーションを維持する方法については開示していない。これは、位置検出装置で検出された存在位置と算出された存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定する方法が明らかにされていないということである。
【0010】
以上のことから本発明においては、目標位置に対して安定的にフォーメーションを維持することが可能となる人工衛星システム、人工衛星システム群、並びにその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のことから本発明においては、「多角形の柔軟構造物の端部が人工衛星により支持されて、太陽光を受電しマイクロ波のビームを送信する人工衛星システムであって、人工衛星システムは、人工衛星の存在位置を検出するための位置検出装置と、人工衛星の軌道又は移動方向を決定する軌道計画装置と、軌道又は移動方向における人工衛星の存在位置を算出し、位置検出装置で検出された存在位置と算出された存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定する演算装置と、演算装置の判定結果に基づき、人工衛星の軌道を制御する制御装置を含んで構成されていることを特徴とする人工衛星システム」としたものである。
【0012】
また本発明においては、「人工衛星システムを面的に複数配置した人工衛星システム群であって、面的に複数配置した人工衛星システムの構成が変更されたときに、重心位置を再計算し、遠心力及び全体の角運動量を算出し、遠心力の大きさ、及びまたは角運動量によるスピン安定の観点から、面的に複数配置した人工衛星システムに対する角運動量を制御することを特徴とする人工衛星システム群」としたものである。
【0013】
また本発明においては、「多角形の柔軟構造物の端部が人工衛星により支持されて、太陽光を受電しマイクロ波のビームを送信する人工衛星システムの制御方法であって、人工衛星の存在位置を検出し、人工衛星の軌道又は移動方向を決定し、軌道又は移動方向における人工衛星の存在位置を算出し、存在位置と算出された存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定し、判定結果に基づき、人工衛星の軌道を制御することを特徴とする人工衛星システムの制御方法」としたものである。
【0014】
また本発明においては、「人工衛星システムの制御方法を適用する人工衛星システムが面的に複数配置されて人工衛星システム群を構成するときの人工衛星システム群の制御方法であって、目標存在位置への制御に加え、任意の位置における遠心力を算出し、遠心力が所定範囲に収まるように前記制御を行うことを特徴とする人工衛星システム群の制御方法」としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、目標位置に対して安定的にフォーメーションを維持することが可能となる。さらに、スラスタなどの制御装置の個数を低減でき製作コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1に係る人工衛星システムの構成例を示す図。
図2】人工衛星システムを構成する柔軟構造物および人工衛星の構成例を示す図。
図3】本発明の実施例1に係る演算処理内容を示すフロー。
図4a】十分な数のスラスタが使用可能なときの制御装置35におけるフローを示す図。
図4b】ジンバル機構が無いときの制御装置35におけるフローを示す図。
図5】ジンバル機構があるときの制御装置35におけるフローを示す図。
図6】本発明の実施例3に係る演算処理内容を示すフロー。
図7】本発明の実施例1に係る人工衛星システムの構成例を示す図。
図8】n×m台による編隊人工衛星システム群構成とするときの処理フローを示す図。
図9】編隊人工衛星システム群構成における重心と遠心力の関係を示す図。
図10】編隊人工衛星システム群構成とするときに全体の角速度を制御する処理フローを示す図。
図11】本発明の実施例6に係る人工衛星システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0018】
図1は、本発明の実施例1に係る人工衛星システムの構成例を示す図である。この図に示すように薄膜などの柔軟構造物2の例えば四隅を人工衛星3(3A、3B、3C、3D:なお以下において特に区別する必要がない場合には単に人工衛星3として説明する。)により支持することで、全体として人工衛星システム1を形成している。なお、一般的には、多角形の柔軟構造物2の各隅を人工衛星により支持するものであればよい。
【0019】
ここでは、複数の人工衛星3A、3B、3C、3Dによる編隊飛行により、結合した薄膜などの柔軟構造物2をスピンフォーメーションフライングしている。このとき柔軟構造物2を各々の人工衛星3A、3B、3C、3Dで形状保持することで薄膜を維持する際、各人工衛星3A、3B、3C、3Dは、各々の推進装置で目標位置へ制御する必要がある。このため、スピン軌道で目標位置を算出する必要がある。
【0020】
図2は、人工衛星システム1を構成する柔軟構造物2および人工衛星3の構成例を示す図である。柔軟構造物2は、太陽光20を受光して発電する太陽光パネル21、太陽光20が発電した電力を変換する電力変換装置22、並びに発電電力Pの一部P2をマイクロ波ビーム24として送信するマイクロ波ビーム送信機23としての機能を備えている。
【0021】
また発電電力Pの他の一部P1は、人工衛星3A、3B、3C、3Dに供給される。人工衛星3A、3B、3C、3Dは柔軟構造物2から供給された電力を動力源として、柔軟構造物2を太陽の方向に向けるとともに、地球上の受電点に効率よく電力送電するための姿勢制御などを行う。
【0022】
人工衛星3A、3B、3C、3Dは、基本的に同じ構成とされているので、以下においては、特に必要がない限り人工衛星3Aを人工衛星3の代表事例として説明する。人工衛星3は、位置検出装置31、軌道計画装置32、演算装置33、張力測定装置34、制御装置35、送受信機36、遠心力算出装置37を含んで構成されている。
【0023】
これらの装置は、通信の機能と、演算/制御処理の機能と、演算/制御で用いるデータの計測/算出の機能に分けて把握することができる。このうち通信の機能として送受信機36を備えている。送受信機36は、人工衛星3A、3B、3C、3D間で互いに情報をやりとりし、あるいは地上局と交信するための通信機(無線機、Software-defined radioを含む)を含んで構成されている。
【0024】
演算/制御で用いるデータの計測/算出の機能としては、位置検出装置31、軌道計画装置32、張力測定装置34、遠心力算出装置37を備えるが、これらについては特許文献1や、物理法則などですでによく知られた事項である。このため以下では、詳細処理内容を割愛して、これらの入力並びに出力が何であるかを主体的に説明するものとする。
【0025】
位置検出装置31は、GPS(Global Positioning System)信号またはGNSS(Global Navigation Satellite System)信号を入力として、人工衛星1の位置、或は個別の人工衛星3の位置を3次元座標として出力する。これらの3次元座標は、緯度・経度・高度によるもの、あるいは地球重心を原点にしたx、y、z、座標によるものなどのいずれによるものであってもよい。
【0026】
軌道計画装置32は、現在座標と目標座標を入力し、軌道及び移動方向を出力する。このための方法を簡便に述べるならば、軌道力学及び運動方程式による計算(地球周回であること、重心位置情報、重心に対する運動の状況から、「重心座標の運動」+「重心に対する運動」により求めることができる。なお現在座標は、位置検出装置31から得ることができ、目標座標は地上から指示され、或は計画値を用いることができる。これは人工衛星の軌道又は移動方向を、所定軸周りの所定の角速度による回転運動の軌道により決定したものである。さらに、太陽方向を考慮した上で、前記所定軸を太陽方向に近づけるような軌道を計画するように構成しても良い。それにより、人工衛星姿勢の安定化と同時に、太陽指向とすることで、人工衛星に搭載された太陽光パネルの発電効率を上げる効果が期待できる。
【0027】
張力測定装置34は、例えばひずみゲージ、フォースセンサであり、柔軟構造物2に設置された各部位での張力を検知する。遠心力算出装置37では、遠心力(単位:(N)または(kg×m/s))を求める。このための処理として、例えば質量m(kg)、半径r(m)、角速度・角周波数ω(rad/s)を用いて、遠心力(=mrω)を算出する。
【0028】
演算/制御処理の機能としては、演算装置33と制御装置35を備える。演算装置33は、軌道及び移動方向の算出値を入力し、制御すべき方向を制御装置35に出力する。演算装置33の具体的な処理方法は、図3を用いて後述するが、例えば軌道及び移動方向における目標の存在位置を算出(例えば、所定の制御周期(例:1秒)後の存在位置を目標位置に設定しても良いし、あるべき軌道を別途設定し、目標位置に設定しても良い)し、目標座標と現在座標との差を算出する。このとき、同じ時刻での比較を行う必要があり、現在の座標からシミュレーションされる1秒後の位置と、1秒後の目標座標を比較する。
【0029】
制御装置35は、演算装置33から制御すべき方向の指示を受けて個別の人工衛星3の位置を制御する。
【0030】
なお、複数の人工衛星3A、3B、3C、3Dに演算装置33を配置するにあたり、いずれかの演算装置33が主体的に作動して他の演算装置33が従属的に作動するシステム構成、或は個別の演算装置33が自律分散的に作動するシステム構成が考えられるが、本発明はこれらのいずれであってもよい。主にシステムの信頼度の観点から決定されればよい。図2は、自律分散システムとしたものである。
【0031】
図3は、本発明の実施例1に係る演算処理内容を示すフローである。このフローは、構造物の姿勢・軌道制御時のフローチャートであり、目標位置との差から衛星軌道を制御する処理を示すものである。なお、このフローは、人工衛星システム1の全体として行うべき処理の流れを示しているが、複数の人工衛星3A、3B、3C、3Dの個々が実行する内容としてみることもできる。
【0032】
このフローではまず、処理ステップS101において、位置検出装置31が人工衛星の現在の存在位置を検出する。例えば、GPS(またはGNSS)、もしくは地上からの通信による位置情報取得により、存在位置(緯度、経度、高度、または、x、y、z)を検出する。
【0033】
処理ステップS102では、軌道計画装置32が人工衛星の軌道及び移動方向を算出する。具体的には例えば、取るべき軌道(編隊衛星群全体(重心が地球周回する)の軌道周りの相対的なスピン軌道など)から、進むべき軌道及び移動方向を算出する。重心軌道の位置XG、重心に対する相対位置XRとすると、XG+XRに移動する。なおXGは軌道力学に従い地球周回する軌道、XRは必要なスピン角速度を実現するために、張力と遠心力を釣り合わせながら重心周りを回転する軌道、を示している。
【0034】
処理ステップS103では、演算装置33が目標の存在位置を算出し、現在の存在位置との差を算出する。ここでは現在の存在位置を(x0、y0、z0)とし、目標の存在位置を(x1、y1、z1)として、その差ベクトルdを(1)により、差ベクトルの大きさを(2)式のように算出する。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
処理ステップS104では、演算装置33が現在及び目標の存在位置の差が所定の閾値より大きいか、否かを判断し、小さければ(No)処理を終了し、大きければ(Yes)処理ステップS105の処理に移る。
【0038】
差が大きいときに処理ステップS105では、現在の存在位置の時系列データを用いて、モード解析及び主成分分析などを実施し、人工衛星の状態を判定する。現在の存在位置の時系列データから算出できる人工衛星の速度及び人工衛星の軌道6要素(軌道長半径、軌道離心率、軌道傾斜角、昇交点経度、近点引数、近点通過時刻)を利用しても良い。また、張力測定装置34により算出される張力、及び遠心力算出装置37により算出される遠心力の時系列変化から人工衛星システムの状態を判定しても良い。ここでの人工衛星の状態には、人工衛星システムの平面性、振動が発生していない正常状態、種々の自由度に対応した、弾性変形を伴う振動モード、弾性変形を伴わない剛体モード、固有振動数、人工衛星システムの重心周りの回転角速度を含む。編隊衛星群の建造途中においては、各々の人工衛星はランデブー及びドッキングを行うため、編隊衛星群全体の重心位置や、固有振動数は変動し得る。さらに、編隊衛星群全体としては柔軟構造物と見なす場合、運動の自由度は大きく、種々の振動モードを生成し得る。振動モードには、自由振動、強制振動を含む。さらに、運動モードが所定の閾値以上の大きさの振動及び変形を伴う場合には、振動及び変動を抑制するように、演算装置33が人工衛星の軌道を制御する方向を決定する。なお、演算装置33が算出及び決定する人工衛星の軌道の制御方向は、例えば、(1)式の差ベクトルdの方向でよい。または、利用可能なスラスタにより得られる推力ベクトルをNとするとき実数kに対して|N-kd|が最も小さくなるようにNの各要素の大きさを決めてもよい。
【0039】
処理ステップS106では、制御装置35が人工衛星の軌道又は姿勢を制御する。ここでは、説明のために仮に、+x、+y、+z、-x、-y、-z方向に推力を発生させるスラスタがそれぞれ重心に対して点対称位置に2つずつ搭載されている場合を想定する。この時に、それぞれの発生推力を調整することで、x、y、zの各軸に発生させる推力(方向含む)をNx、Ny、Nzとすると、x1-x0:y1-y0:z1-z0=Nx:Ny:Nzとなるように推力を発生させるよう、人工衛星の軌道または姿勢を制御する。姿勢センサをさらに有することで、最初に姿勢を所定姿勢に直したのち、軌道を修正する。姿勢の修正は許容範囲内であれば必須ではない。
【0040】
軌道修正のための制御量の大きさは一般的な制御方法を用いて算出すれば良い。例えば、目標との偏差に比例した制御入力(P制御)、及び前記偏差の時間微分に比例した制御入力(D制御)、所定の積分時間での偏差の積分値に比例した制御入力(I制御)、を組み合わせて制御すれば良い。例えば、偏差及び偏差の微分値を用いたPD制御、さらには積分値を用いたPID制御を用いても良い。
【0041】
図3の処理フローに従って制御装置35はスラスタを用いた位置制御を実行するが、この場合にスラスタにより得られる推力は有限であることから、利用可能なスラスタを適切に運用することが重要になる。図4a、図4bは、スラスタ側の事情に応じて位置制御を行う考え方の例を示すフローである。
【0042】
まず図4aは、十分な数のスラスタが使用可能なときの制御装置35におけるフローを示している。十分な数のスラスタが使用可能なとき、制御装置35の図4aのフローでは、まず処理ステップS201においてスラスタの配置を受け付け、処理ステップS202において演算装置33により算出された軌道制御方向を受け付ける。
【0043】
処理ステップS203では、軌道制御方向ベクトルと、各スラスタの出力方向の合成ベクトルが略平行になるように(平行に近くなるように、各々のスラスタの出力量を調整)、各スラスタの出力を決定する。その後に処理ステップS204において、制御装置35が、各スラスタの出力を制御することで、人工衛星の軌道又は姿勢を制御する。
【0044】
図4bは、スラスタの数が限られ(そもそも衛星に少数しか設置されていない場合含む)、ジンバル機構も無い場合におけるフローを示している。このフローが図4aと相違するのは、処理ステップS205の追加と、記号Aを付した処理ステップS201AとS204Aの一部機能変更である。
【0045】
この場合は最初に処理ステップS201Aにおいてスラスタの配置、選択条件を受け付け、また処理ステップS202において演算装置33により算出された軌道制御方向を受け付ける。
【0046】
なおこの場合に、選択条件の例を述べると、例えば軌道制御方向と所定角度(例:60度)以内の方向に出せるスラスタのみ使用するということである。或は他の例では、出力比の寄与の累積が所定割合(例:60%)を超えるまでのスラスタを利用するということである。具体的には、スラスタAの出力比が50%、スラスタBの出力比が30%、スラスタCの出力比が20%であり、計100%になるよう正規化されているとするとき、スラスタA、Bのみで60%を超えるので、スラスタCは利用しないと決定するということである。
【0047】
処理ステップS203では、軌道制御方向ベクトルと、各スラスタの出力方向の合成ベクトルが略平行になるように(平行に近くなるように、各々のスラスタの出力量を調整)、各スラスタの出力を決定する。その後に処理ステップS205において選択条件に応じてクラスタを選択する。処理ステップS204Aでは、制御装置35が、選択された各スラスタの出力を制御することで、人工衛星の軌道又は姿勢を制御する。
【0048】
上記した実施例1に係る人工衛星システムと人工衛星システムの制御方法によれば、人工衛星システムにおいて軌道又は移動における目標の存在位置と、前記検出された現在の存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定し、制御することにより、目標位置に対して安定的にフォーメーションを維持することが可能となる。
【0049】
以上説明した実施例1の人工衛星システム1は、複数の人工衛星3A、3B、3C、3Dと、薄膜などの柔軟構造物2と、複数の人工衛星3A、3B、3C、3Dの存在位置を検出するための複数の位置検出装置31(=GNSS、GPS等)と、位置検出装置31の出力結果に基づき人工衛星の軌道又は移動方向を決定する軌道計画装置32と、人工衛星3A、3B、3C、3Dにおいて軌道又は移動における目標の存在位置と、検出された現在の存在位置との差があらかじめ設定した閾値の範囲内かを判定する演算装置33(プロセッサ)と、判定結果に基づき、各人工衛星3A、3B、3C、3Dの軌道を制御する制御装置(=推進装置、スラスタ)を有する人工衛星システムである。
【0050】
ここでは各々の存在位置は、所定軸周りの所定角速度による回転運動の軌道から算出(スピン編隊による姿勢安定化)され、人工衛星の位置情報、質量情報、又はあるべき速度の情報が相互に共有され、これらの情報に基づき、各々が存在するべき位置を算出する。
【0051】
本実施例では、制御装置としてスラスタの例を述べたが、柔軟構造物2また人工衛星に作用する太陽輻射圧または太陽放射圧を制御することにより、太陽輻射圧トルクもしくは太陽放射圧トルクを利用して、人工衛星、柔軟構造物、人工衛星システムの姿勢及び軌道を制御する構成としても良い。つまり、本実施例のスラスタを太陽輻射圧制御装置で置き換えても良い。太陽輻射圧制御装置は例えば、太陽光の反射率を可変できるパネル、もしくはエレクトロクロミック素子、もしくは太陽光反射パネルの角度を変化させるモーターなどであれば良い。
【実施例0052】
実施例2では、人工衛星の限られた推力を節約することについて説明する。実施例1の図4bの方式でも節約は可能であるが、実施例2では、ジンバル機構(スラスタの噴射方向を変える機構)を有する場合を想定している。
【0053】
図5は、ジンバル機構を有する場合におけるフローを示している。このフローが図4aと相違するのは、記号Aを付した処理ステップS203AとS204Aの一部機能変更である。この場合は最初に処理ステップS201においてスラスタの配置を受け付け、また処理ステップS202において演算装置33により算出された軌道制御方向を受け付ける。
【0054】
処理ステップS203では、軌道制御方向ベクトルと、ジンバル機構による出力方向調整範囲内の各スラスタの出力方向の合成ベクトルが略平行になるように(平行に近くなるように、各々のスラスタの出力量を調整)、各スラスタの出力及び方向を決定する。この場合に、各スラスタの方向及び出力等のパラメータ決定方法は、例えば、ベイズ最適化などの手法で決定すればよい。その後に処理ステップS204では、制御装置35が、選択された各スラスタの出力及び方向を制御することで、人工衛星3の軌道又は姿勢を制御する。
【0055】
実施例2によれば、判定結果に基づき、人工衛星の軌道を制御する方向を決定し、さらに、制御装置が制御することができる方向との角度差があらかじめ設定した閾値の範囲内の場合に、制御装置を使用する。これにより推進装置が少なくて済み、重量・コスト削減が可能になる。
【0056】
スピン編隊飛行及び推進系による面方向制御性能をシミュレーションした結果、目標の推力方向と推進系の推力方向が所定範囲内のみで制御するという制限を入れても、スピン編隊2質点の姿勢を太陽光垂直方向に制御できることを確認した。したがって、推進剤や最大推力が若干増えてしまうが、スラスタの数やジンバル機構を単純化しトータルの質量や製作コストを減らせるという効果が期待できる。
【0057】
また実施例2によれば、太陽光発電衛星の際、太陽光パネルを常に太陽に向けるのに有効であり、送電アンテナは、大規模アクティブフェーズドアレイにより、地球方向に向けることが可能になる。
【実施例0058】
実施例3では、実施例1の図3に示す全体処理フローの中に張力、遠心力による処理を組み入れて図6のように処理することについて説明する。図6のフローを図3のフローと比較すると、処理ステップS107が追加され、記号Aを付した処理ステップS105Aの処理に、張力、遠心力による処理変更が加味されている。図6の処理の流れは以下のようである。
【0059】
この図6のフローではまず、処理ステップS101において、位置検出装置31が人工衛星の現在の存在位置を検出する。例えば、GPS(GNSS)、もしくは地上からの通信による位置情報取得により、存在位置(緯度、経度、高度、または、x、y、z)を検出する。
【0060】
処理ステップS102では、軌道計画装置32が人工衛星の軌道及び移動方向を算出する。具体的には例えば、取るべき軌道(編隊衛星群全体(重心が地球周回する)の軌道周りの相対的なスピン軌道など)から、進むべき軌道及び移動方向を算出する。重心軌道の位置XG、重心に対する相対位置XRとすると、XG+XRに移動する。なおXGは軌道力学に従い地球周回する軌道、XRは必要なスピン角速度を実現するために、張力と遠心力を釣り合わせながら重心周りを回転する軌道、を示している。
【0061】
処理ステップS103では、演算装置33が目標の存在位置を算出し、現在の存在位置との差を算出する。ここでは現在の存在位置を(x0、y0、z0)とし、目標の存在位置を(x1、y1、z1)として、その差ベクトルdを前述の(1)により、差ベクトルの大きさを前述の(2)式のように算出する。
【0062】
処理ステップS104では、演算装置33が現在及び目標の存在位置の差が所定の閾値より大きいか、否かを判断し、小さければ(No)処理を終了し、大きければ(Yes)処理ステップS105の処理に移る。
【0063】
差が大きいときに処理ステップS107では、張力、または遠心力を算出する。このうち張力は、張力を測定する張力測定装置34として膜面もしくは梁上に設置されるひずみセンサ又はばね式張力測定装置(テンションメータ)により測定するのがよく、また遠心力は、遠心力を算出する遠心力算出装置37において(カメラもしくはGNSSで位置を同定することで推定するのがよい。
【0064】
ついで処理ステップS105Aでは、演算装置33が現在及び目標の存在位置の差、並びに張力又は遠心力が所定の閾値内かを判定して人工衛星の軌道を制御する方向を決定する。なお、演算装置33が算出及び決定する人工衛星の軌道の制御方向は、(1)式の差ベクトルdの方向でよい。または、利用可能なスラスタにより得られる推力ベクトルをNとするとき実数kに対して|N-kd|が最も小さくなるようにNの各要素の大きさを決めてもよい。
【0065】
なお遠心力算出装置37で算出した遠心力があらかじめ設定した閾値(例えば引張強度の50%(安全率2.0)等)の範囲内かどうかを判定することで、過大強度による破壊を防ぐができる。
【0066】
処理ステップS106では、制御装置35が人工衛星の軌道又は姿勢を制御する。ここでは、説明のために仮に、+x、+y、+z、-x、-y、-z方向に推力を発生させるスラスタがそれぞれ重心に対して点対称位置に2つずつ搭載されている場合を想定する。この時に、それぞれの発生推力を調整することで、x、y、zの各軸に発生させる推力(方向含む)をNx、Ny、Nzとすると、x1-x0:y1-y0:z1-z0=Nx:Ny:Nzとなるように推力を発生させるよう、人工衛星の軌道または姿勢を制御する。姿勢センサをさらに有することで、最初に姿勢を所定姿勢に直したのち、軌道を修正する。姿勢の修正は許容範囲内であれば必須ではない。
【0067】
実施例3によれば、薄膜などの柔軟構造物2に加えられる力を、張力または遠心力として把握し、人工衛星の軌道または姿勢制御に反映したものであり、現在及び目標の存在位置の差に加えて張力または遠心力の要素を加味することで、より高精度、或はより早期時点での対応が可能である。
【0068】
なお張力と遠心力は互いに反力の関係にあることから、いずれかの要因を、極性を考慮の上で人工衛星の軌道または姿勢制御に反映するものであってもよい。
【実施例0069】
図1の実施例1では、薄膜などの柔軟構造物2をh台(この場合にはh=4)の人工衛星3により支持する編隊構成の人工衛星システム1について説明したが、図7ではこの編隊構成の人工衛星システム1を縦横にドッキングしてn×m台による編隊人工衛星システム群構成としたことを示している。これによりさらに大電力送電が可能となる。但し図7の構成とするには、全体の重心が常に変化し、張力が変化する、あるいは各々の編隊人工衛星としての速度が変化するという問題がある。
【0070】
この点に関して本発明の実施例4では、目標存在位置への制御に加え、任意の位置における遠心力を算出し、所定範囲に収まるように制御装置を駆動することで、上記課題を解決することができる。具体的には、モジュール構成の衛星を順次組み立てる方式であっても安定的に建設が可能である。この結果、太陽光発電衛星や大規模フェーズドアレイ構築時、他者との共同での構築に有効である。
【0071】
図8は、n×m台による編隊人工衛星システム群構成とするときの処理フローを示す図である。この場合には、最初の処理ステップS301においてn×m台による編隊人工衛星システム群の構成が、例えば軌道変更や一部の人工衛星システムの離脱やドッキングなどにより変更されたことを検知する。
【0072】
これを受けて処理ステップS302では編隊人工衛星システム群の質量の位置分布から、重心位置を再計算し、処理ステップS303では重心に対する回転速度情報から、遠心力を算出する。
【0073】
処理ステップS304では、遠心力が所定の範囲内にあるか、否かを判断し、範囲内である場合には格別の制御を行わないが、範囲外であるときには処理ステップS305に移動して制御装置35を用いて各々の人工衛星の軌道及び姿勢を制御する。処理ステップS305の繰り返し処理は、遠心力が所定範囲内になるまで実行される。
【0074】
図7の構成を採用する場合に、図8の制御を適用することによって、全体の重心が常に変化し、張力が変化する、あるいは各々の編隊人工衛星としての速度が変化するという問題に対応することができる。
【実施例0075】
実施例5では、実施例4におけるn×m台による編隊人工衛星システム群構成でのさらなる課題について対応する。
【0076】
図9は、編隊人工衛星システム群構成における重心と遠心力の関係を示す図である。この図では、編隊人工衛星システム群の各位置における遠心力は重心からの距離に比例すること、また遠心力は柔軟構造物2の材料である薄膜の引張強度以下とする必要があることを示している。また各部における速度、遠心力、質量、角速度の関係を示している。
【0077】
実施例5では、薄膜の引張強度の条件を確保するための提案として、さらに、半径検出装置、角速度検出装置を有することで、遠心力を推定するものである。さらに、安定性を確保する角運動量を得るために、目標遠心力(張力)もしくは目標角速度を算出し、目標角速度となるように衛星群の角速度を制御するものである。
【0078】
図10は、編隊人工衛星システム群構成とするときに全体の角速度を制御する処理フローを示す図である。図10のフローは、図8のフローの処理ステップS303、S304、S305に角運動量の要素を加味した改変を行ったものである。
【0079】
この場合には、最初の処理ステップS301においてn×m台による編隊人工衛星システム群の構成が、例えば軌道変更や一部の人工衛星システムの離脱やドッキングなどにより変更されたことを検知する。
【0080】
これを受けて処理ステップS302では編隊人工衛星システム群の質量の位置分布から、重心位置を再計算し、処理ステップS303では重心に対する回転速度情報から、遠心力、及び編隊衛星全体の角運動量を算出する。
【0081】
処理ステップS304では、遠心力が所定の範囲内にあるか、否か、また角運動量がスピン安定に十分かを判断し、範囲内であり、十分である場合には格別の制御を行わないが、範囲外であり、或は不十分であるときには処理ステップS305に移動して制御装置35を用いて各々の人工衛星の編隊衛星全体重心に対する角運動量を制御する。処理ステップS305の繰り返し処理は、遠心力が所定範囲内になり、かつ角運動量がスピン安定に十分になるまで実行される。
【0082】
実施例5によれば、目標遠心力及び張力に制御可能で、必要なスピン安定性を達成できるという効果がある。
【実施例0083】
実施例6では、実施例1から5における人工衛星システム、編隊衛星群、編隊人工衛星システム群の姿勢及び軌道の制御において、フェーズドアレイアンテナ41を備える構成について説明する。図11に示すように、フェーズドアレイアンテナ41は、例えば、柔軟構造物または人工衛星システムの表面上に配置される。フェーズドアレイアンテナ41は、例えば所定の間隔で配置されるアンテナエレメントを有し、各々のアンテナエレメントに対する位相変調器及び位相検出器を有する。地上からの所定の周波数で送信されたパイロット信号をフェーズドアレイアンテナ41により受信し、各々のアンテナエレメントで信号の位相を検出する際、柔軟構造物または人工衛星システムの平面性が高いとき、つまりアンテナエレメントが同じ平面状に配置していると見なせるとき、あるアンテナエレメントを基準として、当該アンテナエレメントからの距離に応じて比例的にもしくは周期的に位相が変化して検出される。たとえば、この場合の基準エレメントからの距離と、信号の各々の位置における位相のずれ(特に、位相差が2π以内の領域)との間の相関係数を算出すれば、相関係数の大小により、柔軟構造物または人工衛星システムの平面性を判定することができる。この解析は柔軟構造物または人工衛星システムにおける一部の領域を対象として実施しても良く、平面性が低下している場合には、平面性を高める方向に、前記制御装置により前記人工衛星の姿勢及び軌道を制御することができる。具体的には、例えば、位置による位相の変化量が、比例的な変化よりも大きい場合(つまり距離が長くなる)と小さい場合(つまり距離が短くなる)で、位相が比例的な変化よりも大きくまたは小さく変化した後の位置において、それぞれパイロット信号側に近づける方向、パイロット信号側から遠ざける方向にアンテナエレメントが移動するように制御する。
【0084】
実施例6によれば、位置情報とは異なる情報で実施する処理であるため、位置情報と合わせて解析することにより、衛星システム及び編隊衛星システム群の平面性をより高い精度で検出することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0085】
1:人工衛星システム
2:薄膜などの柔軟構造物
3A、3B、3C、3D:人工衛星
20:太陽光
21:太陽光パネル
22:電力変換装置
23:マイクロ波ビーム送信機
31:位置検出装置
32:軌道計画装置
33:演算装置
34:張力測定装置
35:制御装置
36:送受信機
37:遠心力算出装置
41:フェーズドアレイアンテナ
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11