(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129590
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】エッチング方法及びエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/302 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038904
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】鄭 雄鉉
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョンチャ
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA09
5F004BA19
5F004BB25
5F004BB26
5F004BB28
5F004CA04
5F004CA08
5F004DA00
5F004DA18
5F004DA20
5F004DA25
5F004DA29
5F004DB03
5F004EA28
(57)【要約】
【課題】基板の表面におけるエッチング分布を制御すること。
【解決手段】本開示のエッチング方法は、第1ガス供給源から第1エッチングガスを第1ガス供給路に供給し、第1ガス供給路に設けられる第1貯留部に貯留して、当該第1貯留部の内部を昇圧させる第1貯留工程と、第2ガス供給源から第2エッチングガスを第2ガス供給路に供給し、第2ガス供給路に設けられる第2貯留部に貯留して、当該第2貯留部の内部を昇圧させる第2貯留工程と、第1貯留部から処理容器内に、第1期間において第1エッチングガスを供給する第1供給工程と、当該第1エッチングガス及び当該第2エッチングガスのうちの一方のみが処理容器内に供給される期間が形成されるように、第1期間とは始点及び終点のうちの少なくとも一方が異なる第2期間において第2貯留部から処理容器内に第2エッチングガスを供給する第2供給工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エッチングガス、第2エッチングガスの両方が供給されることで反応が生じて表面のエッチングがなされる基板を処理容器内に格納する工程と、
第1ガス供給源から前記第1エッチングガスを第1ガス供給路に供給し、前記第1ガス供給路に設けられる第1貯留部に貯留して、当該第1貯留部の内部を昇圧させる第1貯留工程と、
第2ガス供給源から前記第2エッチングガスを第2ガス供給路に供給し、前記第2ガス供給路に設けられる第2貯留部に貯留して、当該第2貯留部の内部を昇圧させる第2貯留工程と、
前記第1貯留部から前記処理容器内に、第1期間において前記第1エッチングガスを供給する第1供給工程と、
当該第1エッチングガス及び当該第2エッチングガスのうちの一方のみが前記処理容器内に供給される期間が形成されるように、前記第1期間とは始点及び終点のうちの少なくとも一方が異なる第2期間において前記第2貯留部から前記処理容器内に前記第2エッチングガスを供給する第2供給工程と、
を備えるエッチング方法。
【請求項2】
前記第1期間及び前記第2期間は1秒以下である請求項1記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記第1期間と前記第2期間とが重なる重複期間が形成される請求項2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記第1期間及び前記第2期間のうちの一方の始点は他方の始点よりも早く、
且つ、前記第1期間及び前記第2期間のうちの一方の終了時点は他方の終点よりも早い請求項3記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記第1期間の長さと前記第2期間の長さとが同じである請求項4記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記基板の表面を繰り返しエッチングするために、前記第1供給工程及び前記第2供給工程が繰り返し行われ、
前記第1供給工程及び前記第2供給工程が行われた後、次に前記第1供給工程及び前記第2供給工程が行われるまでに前記処理容器内を排気する工程を含む請求項1記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記第1エッチングガスはハロゲン含有ガスであり、前記第2エッチングガスは塩基性ガスであり、エッチングされる前記基板の表面はシリコン含有膜により構成される請求項1記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記シリコン含有膜は、酸化シリコンである請求項7記載のエッチング方法。
【請求項9】
第1エッチングガス、第2エッチングガスの両方が供給されることで反応が生じて表面のエッチングがなされる基板を格納するための処理容器と、
第1ガス供給源から前記第1エッチングガスが供給される第1ガス供給路と、
前記第1ガス供給路に設けられ、前記第1エッチングガスを貯留して内部が昇圧する第1貯留部と、
第2ガス供給源から前記第2エッチングガスが供給される第2ガス供給路と、
前記第2ガス供給路に設けられ、前記第2エッチングガスを貯留して内部が昇圧する第2貯留部と、
前記第1ガス供給路の前記第1貯留部の下流側に設けられ、前記第1貯留部から前記処理容器内に、第1期間において前記第1エッチングガスが供給されるように開く第1バルブと、
前記第2ガス供給路の前記第2貯留部の下流側に設けられ前記第2貯留部から当該処理容器内に、前記第1エッチングガス及び前記第2エッチングガスのうちの一方のみが前記処理容器内に供給される期間が形成され、前記第1期間とは始点及び終点のうちの少なくとも一方が異なる第2期間において前記第2エッチングガスが供給されるように開く第2バルブと、
を備えるエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法及びエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)などの基板を処理に対して、タンクに一旦貯留したガスを処理容器内に放出して処理を行う場合が有る。特許文献1では、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造用の基板に対して、そのようにタンクに貯留されたHe、HCl、SF6の各ガスを放出してエッチング処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板の表面におけるエッチング分布を制御することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のエッチング方法は、第1エッチングガス、第2エッチングガスの両方が供給されることで反応が生じて表面のエッチングがなされる基板を処理容器内に格納する工程と、
第1ガス供給源から前記第1エッチングガスを第1ガス供給路に供給し、前記第1ガス供給路に設けられる第1貯留部に貯留して、当該第1貯留部の内部を昇圧させる第1貯留工程と、
第2ガス供給源から前記第2エッチングガスを第2ガス供給路に供給し、前記第2ガス供給路に設けられる第2貯留部に貯留して、当該第2貯留部の内部を昇圧させる第2貯留工程と、
前記第1貯留部から前記処理容器内に、第1期間において前記第1エッチングガスを供給する第1供給工程と、
当該第1エッチングガス及び当該第2エッチングガスのうちの一方のみが前記処理容器内に供給される期間が形成されるように、前記第1期間とは始点及び終点のうちの少なくとも一方が異なる第2期間において前記第2貯留部から前記処理容器内に前記第2エッチングガスを供給する第2供給工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、基板の表面におけるエッチング分布を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態であるエッチング装置の縦断側面図である。
【
図4】ガスの供給タイミングを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示のエッチング装置の一実施形態であると共に、本開示に係るエッチング方法を実施するエッチング装置1について、
図1の縦断側面図を参照して説明する。エッチング装置1では、円形の基板であるウエハWを処理容器11内に格納し、処理容器11内を真空雰囲気である所望の圧力とし、第1エッチングガスであるハロゲン含有ガス及び第2エッチングガスである塩基性ガスを供給することで、エッチングを行う。具体的には本例ではハロゲン含有ガスとしてHF(フッ化水素)ガス、塩基性ガスとしてNH
3(アンモニア)ガス及びアミンガスの混合ガスを用いて、ウエハWの表面におけるSiOx(酸化シリコン)膜91のエッチングを行う。アミンガスとしては、例えばトリメチルアミン(Tri Methyl Amine:TMA)ガスを用いる。
【0009】
従って、SiOxに対してHFとNH3とが作用することによる反応生成物であるケイフッ化アンモニウム[(NH4)SiF6:AFS]や、SiOxに対してHFとTMAとが作用することによる反応生成物がウエハW表面で生じ、それらの反応生成物が昇華することでエッチングがなされる。なお、このエッチングを行うにあたり、ウエハWの周囲にプラズマは形成されない。
【0010】
上記のHFガス及び塩基性ガスはタンク81、82に貯留され、当該タンク81、82内が加圧された状態で、タンク81、82の下流側のバルブV1、V2を開くことで処理容器11内に供給される。後に詳しく説明するがエッチング量を所望の量とするために、HFガス及び塩基性ガスの供給が繰り返されるように、ガスの供給サイクルが設定される。その1サイクルの中で、HFガスを処理容器11内に供給する期間と、塩基性ガスを処理容器11内に供給する期間と、は互いにずれるように設定される。
【0011】
以下、具体的に装置の構成について説明する。処理容器11内には左右に並んでウエハWが格納される。この計2枚のウエハWに対して、一括してエッチングがなされる。このウエハWの処理は、互いに区画された処理空間21でなされる。処理容器11内には、当該処理空間21を形成するための処理空間形成部材22が設けられている。処理空間形成部材22は左右に横長のブロックにおいて、鉛直方向に穿孔される貫通孔23が、左右に間隔を空けて設けられるように構成されている。貫通孔の23をなす周面の下縁は、内方に突出する突縁部24をなす。
【0012】
処理空間形成部材22の左右の中央下部は、処理容器11の底壁を貫通する支柱25を介して、処理容器11の外部に設けられる昇降機構26に接続されており、処理容器11内を上方位置、下方位置との間で昇降自在である。なお、処理容器11の外部には支柱25を囲むベローズ(不図示)が設けられ、支柱25を昇降可能とすることによって当該支柱25と処理容器11の底壁との間に形成される隙間はシールされる。
【0013】
処理容器11内の天井には平面視で円形の2つのシャワープレート3が設けられている。シャワープレート3は、処理空間形成部材22の各貫通孔23の上方に位置している。2つのシャワープレート3について、一方を3A、他方を3Bとして互いに区別して記載する場合が有る。後述する各配管によりシャワープレート3の中心部に供給されたガスは、シャワープレート3の流路を介して、シャワープレート3の下面に多数、分散して形成された吐出口31から下方へ吐出される。
【0014】
処理容器11の底壁の左右には起立した筒体32が各々設けられている。処理空間形成部材22が上方位置に位置する際には、貫通孔23の孔縁に設けられるOリング23Aがシャワープレート3の下面の周縁部と密着し、且つ突縁部24上に設けられるOリング24Aが、筒体32の上縁部に形成されるフランジと密着する。それによって、上記した処理空間21が形成される。なお、処理空間21は、このように処理空間形成部材22とシャワープレート3とに囲まれる空間のうち、後述するステージ41の上方における領域である。
【0015】
筒体32の側壁には貫通孔34が形成されている。そして、処理容器11の底壁における左右の中央部には、支柱25に対して後方に離れた位置に、排気口35が開口している。底壁の外部において、排気口35に上流端が開口するように排気管36が接続されている。排気管36の下流端は、バルブ37を介して真空ポンプなどにより構成される排気機構38に接続されている。バルブ37の開度が調整されることにより、処理空間21の圧力が調整される。
【0016】
なお、処理空間形成部材22が下方位置に位置する際には、処理容器11の前方に設けられる搬送口(不図示)は、処理空間形成部材22の上方に位置する。この搬送口を介して、処理容器11の外部に設けられるウエハWの搬送機構が、貫通孔23の上方に位置し、後述するステージ41に対して、後述のピン52を介してウエハWの受け渡しを行うことができる。
【0017】
各貫通孔23にはステージ41が設けられている。ステージ41の上面は水平面をなし、シャワープレート3の下面に対向する。平面視でシャワープレート3の中心部は、ステージ41の上面に載置されるウエハWの中心部に揃う。ステージ41には温度調整された流体が供給される流体の流路42が形成されており、ステージ41上のウエハWの温度が、所望の温度とされる。ステージ41の下面に接続されるように縦断面視で凹状の区画部材43が設けられ、当該ステージ41の下方に区画された空間を形成している。
【0018】
区画部材43は、処理容器11の底壁を貫通して下方へ伸びる支柱44を介して、処理容器11の外部に設けられる昇降機構45に接続されており、ステージ41の高さを変更することができる。従って、ウエハWを処理する際におけるステージ41とシャワープレート3との間の高さHを変更することで、処理空間21の容積を変更自在である。処理空間21全体におけるガスの拡散、排気を速やかに行う目的から、当該高さHは比較的小さく、例えば40mm以下として処理を行うことが好ましい。
【0019】
上記の区画部材43とステージ41の下面とがなす空間に設けられる各支持板51に支持されて、鉛直上方に伸びる3本のピン52(図では2本のみ表示)が設けられる。支持板51は、区画部材43及び処理容器11の底壁を貫通して下方へ伸びる支柱53を介して、処理容器11の外部に設けられる昇降機構54に接続され、ピン52についてはステージ41の上面にて突没することができ、既述したように搬送機構とステージ41との間でウエハWの受け渡しが行われる。図中55は、支柱44、53を囲むと共に、区画部材43と処理容器11の底壁とを接続するベローズであり、支柱44、53と底壁との隙間によって、処理容器11内の気密性が破られることを防止する。
【0020】
エッチング装置1は、配管61、62、63、64を備えている。配管61、62は、夫々シャワープレート3A、3Bの中心部に上方からガスを供給するように、処理容器11の天井に接続されている。そして配管61、62の上流側は、流量調整機構60を介してN2ガス供給源71A、71Bに夫々接続されている。流量調整機構60は、バルブ及びマスフローコントローラにより構成され、流路の下流側へのガスの給断の切替え、及びガスの流量の調整を行う。なお後述する配管61、62以外の配管に設けられる流量調整機構60についても、配管61、62に介設される流量調整機構60と同様の構成である。N2ガス供給源71から供給されるN2(窒素)ガスは、エッチングガスのキャリアガス且つ処理容器11内をパージするパージガスの役割を果たす。ウエハWの処理中、ガス供給源71A、71BからのN2ガスの供給は常時行われる。
【0021】
配管63、64は貯留部が介設されるガス流路として構成されており、配管63は第1ガス供給路を形成し、配管64は第2ガス供給路を形成する。配管63、64の下流端は、シャワープレート3A、3Bの中心部に上方からガスを供給するように、処理容器11の天井に接続されている。配管63については上流側に向けて、バルブV1、タンク81、バルブV3がこの順に介設されている。そして、バルブV3の上流側で当該配管63は2つに分岐し、分岐した一方は流量調整機構60を介して第1ガス供給源であるHFガス供給源72に接続され、分岐した他方は、流量調整機構60を介してN2ガス供給源73に接続されている。N2ガス供給源73から供給されるN2ガスは、HFガスに対する希釈ガスである。バルブV3については、第1貯留部であるタンク81に各ガスを供給して貯留する期間中は開かれ、第1バルブであるバルブV1の開放中はタンク81に貯留されたガスが配管63を逆流することを防止するために閉鎖される。
【0022】
配管64については上流側に向けて、バルブV2、タンク82、バルブV4がこの順に介設されている。そしてバルブV4の上流側で当該配管64は3つに分岐し、分岐した各々の上流端は、流量調整機構60を介して、TMAガス供給源74、NH3ガス供給源75、N2ガス供給源76に接続されている。TMAガス供給源74及びNH3ガス供給源75は第2ガス供給源である。N2ガス供給源76から供給されるN2ガスは、NH3ガス及びTMAガスに対する希釈ガスである。バルブV4については、第2貯留部であるタンク82に各ガスを供給して貯留する期間中は開かれ、第2バルブであるバルブV2の開放中はタンク82に貯留されたガスが配管64を逆流することを防止するために閉鎖される。
【0023】
エッチング装置1はコンピュータである制御部80を備えており、この制御部80は、ソフトウエア、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、後述するウエハWの処理が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれており、このプログラムは、記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、DVD等に格納され、制御部80にインストールされる。制御部80は、当該プログラムによりエッチング装置1の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的には、バルブV1~V4の開閉によるタンク81、82からのガスの放出、タンク81、82へのガスの供給、流量調整機構60による下流側へ供給するガスの流量調整、昇降機構26、45、54による処理空間形成部材22、ステージ41、ピン52の昇降、バルブ37の開度調整などの各動作が、制御信号により制御される。
【0024】
上記したようにエッチング装置1では、HFガスを処理容器11に供給する期間と、NH3ガス及びTMAガスを処理容器11に供給する期間と、がずれる(供給開始時点及び供給終了時点のうちの少なくとも一方がずれる)ようにエッチングが行われる。なお、既述したようにエッチング装置1が構成されるため、HFガスを処理容器11に供給する期間、NH3ガス及びTMAガスを処理容器11に供給する期間は、夫々バルブV1、V2が開かれる期間である。従って、同じサイクル内(HFガス、塩基性ガスが1回ずつ供給される期間内)で、バルブV1、V2が開かれるタイミング、バルブV1、V2が閉じられるタイミングのうちの少なくとも一方がずれるように、当該バルブV1、V2の開閉が制御される。
【0025】
このようにガスの供給期間がずらされる理由を説明する。エッチング装置1では、タンク81、82内に各エッチングガス(HFガス、NH3ガス及びTMAガス)を貯留し、タンク81、82内が加圧された状態でバルブV1、V2を開き、当該各ガスを処理容器11に供給することで、処理空間21全体に速やかにガスを拡散させて、スループットの向上を図ることができる。また、このようにスループットの向上を図るために、バルブV1、V2については開放された後、速やかに閉鎖され、処理空間21への各エッチングガスの供給は停止し、これらのガスが排気される。1サイクル中で、バルブV1、V2が開かれる期間は、例えば1秒以下である。
【0026】
後述する評価試験で示すように、同じサイクル内でバルブV1、V2が開かれるタイミングを揃え、且つバルブV1、V2が閉じられるタイミングを揃えてガスを供給すると、ウエハWの中心部側のエッチング量が、周縁部側のエッチング量に比べて大きくなる。このようなエッチング分布になった機序に関する推定について、ウエハWの平面図である
図2を参照して説明する。
【0027】
各エッチングガスは、各配管からシャワープレート3の中心部、即ちウエハWの中心部の上方位置に導入される。シャワープレート3内でエッチングガスは分散されるが、タンク81、82内で加圧されていることから、シャワープレート3へ導入される際の勢いで比較的多くの量のエッチングガスが、ウエハWの中心部に供給される。そして、処理空間21が排気されていることで、そのようにウエハWの中心部に供給されたエッチングガスは、ウエハWの外方へと向けて流れるが、バルブV1、V2が解放後に速やかに閉じられることによって、ウエハW上への各エッチングガスの供給は瞬間的なものとなる。そのため平面視でのエッチングガス濃度が比較的高い領域をRとすると、この領域RはウエハWの中心部上で円形をなす状態からリング状に速やかに変化し、このリングは径が拡大されつつウエハWの外方へ向けて速やかに広がる。
【0028】
HFガスと、塩基性ガス(NH
3ガス及びTMAガス)とでウエハWに供給される期間が重なって一致する場合には、これらのエッチングガスは、ウエハW上を同様に流れる。即ち、
図2で説明した領域Rが、HFガス及び塩基性ガスの両方により形成される。そのためHFガス及び塩基性ガスのうちの一方のエッチングガスから見れば、ウエハWの中心部に供給された際に十分な濃度の他方のガスが周囲に存在することになるので、これらのガスとウエハWの表面のSiOx膜91との間で既述した反応生成物が生成する。つまり、各エッチングガスの多くがウエハWの周縁部に広がるまでに、他方のガス及びSiOx膜91と反応することになるため、既述したようにウエハWの周縁部よりも中心部のエッチング量が大きくなる。
【0029】
エッチング装置1では、ウエハWの周縁部と中心部との間でのエッチング量の差を抑えて、ウエハWの面内のエッチング量の均一性を高くする目的で、HFガスと塩基性ガスとで処理容器11内に供給される期間をずらして処理を行う。このように期間をずらすことで、ウエハWの中心部に供給された一方のエッチングガスから見た際に、他方のエッチングガスの当該中心部における濃度が比較的低い状態を形成し、ウエハWの中心部で過度な反応が起きることを抑制する。
【0030】
さらに、そのようにHFガスと塩基性ガスとでウエハWに供給される期間をずらすことで、ウエハWの中心部から外れた位置でのエッチングを促進させることができる。このエッチングの促進の機序については、以下のように推定される。HFガスと塩基性ガス(NH
3ガス及びTMAガス)とでウエハWに供給される期間をずらすことで、HFガスについての濃度が高い領域R(便宜上、領域R1とする)、塩基性ガスについての濃度が高い領域R(便宜上、領域R2とする)の夫々について、
図3に示すように、ウエハW上を広がるタイミングが異なるようにすることができる。
【0031】
そして、このHFガスと塩基性ガスとの間での供給期間のずれが僅かである場合には、領域R1、領域R2はウエハWを広がるにあたり、当該ウエハWの中心部からずれた位置で接近し、領域R1を形成するHFガス、領域R2を形成する塩基性ガスが互いに混ざる。そのためウエハWの径方向において当該中心部からずれた周縁部側に、HFガスの濃度、塩基性ガスの濃度が共に高くなる領域が形成され、当該領域でのエッチングが促進される。以上のことから、ガスの供給期間をずらす場合は、
図2に示すようにガスの供給期間を一致させる場合に対して、ウエハWの中心部と周縁部との間でエッチング量を揃えることが可能である。
【0032】
なお、仮にタンク81、82への各ガスの貯留を行わずに、各エッチングガスをガス供給源から処理容器11内に比較的長時間供給する場合は、シャワープレート3内を比較的均一性高く拡散したエッチングガスが処理空間21に供給され、また、処理空間21においても比較的均一性高くガスが拡散される。そのため、ウエハWの面内でのエッチング分布の均一性は比較的高くなると考えられる。従って、本技術はタンク(貯留部)にエッチングガスを貯留し、タンクの下流側のバルブを解放後、速やかに閉鎖して既述したような短い期間、エッチングガスを供給するにあたり、特に有効な技術である。
【0033】
続いて、エッチング装置1におけるウエハWの処理手順について、
図4のタイミングチャートを参照して説明する。このタイミングチャートは、バルブV1、V2の開閉のタイミングを示している。従って、HFガス、NH
3ガス及びTMAガスが処理容器11内のウエハWへ供給されるタイミングを示している。また、
図5、
図6はウエハWの縦断側面図であり、夫々エッチング前の状態、エッチング終了後の状態を示す。ウエハWには下層膜90上にSi膜92が形成されており、Si膜92には溝93が形成されている。エッチング前のSiOx膜91はSi膜92を被覆すると共に、溝93に進入するように設けられている。
【0034】
本例でのエッチングはSi膜92上のSiOx膜91を除去し、さらに溝93内のSiOx膜91の一部を除去するように行う。即ち、本例での処理には、側壁がSi膜92によって形成される凹部内のSiOx膜93に対するエッチングが含まれる。そして、そのエッチング中にはSiOx膜91及びSi膜92の両方がウエハWの表面に露出するが、上記したエッチングガスを用いることにより、SiOx膜91及びSi膜92のうち、SiOx膜91が選択的にエッチングされる。なお、
図6に示すように、溝93内に一部のSiOx膜91が残留した状態でエッチングは終了する。
【0035】
処理空間形成部材22が下方位置に位置した状態で、図示しない搬送機構によって処理容器11の外部から、
図5に示した状態の2つのウエハWが、各ステージ41の上方に搬送される。そして各ウエハWは、ピン52を介してステージ41に載置され、所定の温度例えば-20℃~150℃になるように温度調整される。そして、処理空間形成部材22が上方位置に位置し、処理容器11内に処理空間21が形成される。また、ステージ41が所定の高さに位置し、ステージ41とシャワープレートの下面との高さHが既述した大きさとなる。ガス供給源71A、71Bから処理容器11内にN
2ガスが供給された状態で、排気機構38による排気により、処理空間21の圧力が0.133Pa~666Paとなる。
【0036】
バルブV1、V2が閉じられた状態でバルブV3、V4が開かれる。そして、タンク81にガス供給源72、73からHFガス及びN2ガスが供給される一方で、ガス供給源74~76からタンク82に塩基性ガス(NH3ガス+TMAガス)及びN2ガスが供給され、タンク81、82内が昇圧する。つまり、第1貯留工程及び第2貯留工程が行われる。そして、バルブV2が開かれ(チャート中、時刻t1)、タンク82内のガス(塩基性ガス+N2ガス)が各処理空間21に供給される。上記したように、タンク82内で加圧されていることから、ウエハWの面内のうちの中心部に比較的多くの塩基性ガス(NH3ガス及びTMAガス)が供給される。そして、その塩基性ガスは当該ウエハWの外方へ向けて流れ、ウエハWの面内各部にNH3及びTMAが吸着する。
【0037】
そして時刻t1から例えば0.3秒経過後の時刻t2においてバルブV1が開かれ、タンク81内のガス(HFガス+N2ガス)が各処理空間21に供給される。このHFガスについても、タンク82内で加圧されて処理空間21に供給されるので、ウエハWの中心部に比較的多くのHFガスが供給される。ウエハWの中心部上で、このように塩基性ガス及びHFガスが供給されたことにより、当該中心部におけるSiOx膜91がこれらのガスと反応して、既述した反応生成物が生じる。
【0038】
しかし塩基性ガスは、このHFガスよりも先に供給されたことで、ウエハWの外方へ向けて流れ始めているので、ウエハWの中心部上で塩基性ガスとHFガスとが共に高濃度になることが防がれるため、当該中心部のSiOx膜91の過度の変質(反応生成物の生成)が防止される。そして、ウエハWの中心部に供給されたHFガスは当該ウエハWの外方へ向けて流れ、ウエハWの面内各部にHFが吸着され、先に吸着されたNH3及びTMAと共にSiOx膜91と反応し、反応生成物が生じる。
【0039】
そして時刻t2から例えば0.2秒経過した時刻t3でバルブV2が閉じられ、タンク82から各処理空間21へのガスの供給が停止し、続いて時刻t3から例えば0.3秒経過した時刻t4でバルブV1が閉じられ、タンク81から各処理空間21へのガスの供給が停止する。この時刻t3~t4の間も、塩基性ガス及びHFガスのうち一方のみがウエハWの中心部に供給され、これらのガスが共に高濃度になることが防止されているため、ウエハWの中心部でのSiOx膜91の過度の変質が防止される。そして時刻t1~t4の間において、
図3で説明したように塩基性ガスについて比較的濃度が高い領域R1、HFガスについての比較的濃度が高い領域R2がウエハWの外方へ向けて広がり、ウエハWの周縁部上でこれらの領域を形成するガス同士が混合され、その混合された箇所で比較的大きく反応が進行する。
【0040】
時刻t4以降、処理空間21への塩基性ガス及びHFガスの供給が停止している間に、反応生成物の昇華が進行して、SiOx膜91がエッチングされる。その一方でバルブV3、V4が開かれ、タンク81には時刻t1~t3間で放出された分のHFガス及びN2ガスが充填され、タンク82には時刻t2~t4間で放出された分の塩基性ガス及びN2ガスが充填される。従って、第1貯留工程及び第2貯留工程が再度行われる。そして、バルブV3、V4が閉じられ、時刻t4から所定の時間が経過した時刻t5で時刻t1と同様にバルブV2が開かれ、タンク82のガスが処理空間21に供給される。
【0041】
続いて、時刻t5から0.3秒経過後の時刻t6において時刻t2と同様にバルブV1が開かれ、タンク81のガスが各処理空間21に供給される。そして、時刻t6から0.2秒経過した時刻t7でバルブV2が閉じられ、タンク82から各処理空間21へのガスの供給が停止し、続いて時刻t7から例えば0.3秒経過した時刻t8でバルブV1が閉じられ、タンク82から各処理空間21へのガスの供給が停止する。このように各ガスが供給されて反応生成物の昇華が進行することで、SiOx膜91がさらにエッチングされる。その一方でタンク81、82内への放出された分のガスの充填が再度行われる。その後、時刻t9で再度バルブV2が開かれる。従って、時刻t1~時刻t5の直前における装置の処理動作を1回目のサイクルとすると、時刻t5~時刻t9の直前では1回目のサイクルと同様の2回目のサイクルが実施されて、SiOx膜91がエッチングされる。時刻t9以降も、同様のサイクルが繰り返し行われ、サイクルが実施される度にエッチングが進行する。
【0042】
サイクルが所定の回数繰り返されて、所定の量のSiOx膜91がエッチングされてウエハWが
図6に示す状態となると、エッチング装置1への搬入時とは逆の動作でウエハWがエッチング装置1から搬出される。
図4で説明した、HFガス及び塩基性ガスの供給期間が揃うように処理を行う場合に比べて、各サイクルにおいて既述したようにウエハWの中心部での反応が抑えられ、ウエハWの周縁部での反応が促進される。その結果として、後述の評価試験でも示すように、ウエハWの中心部と周縁部との間でのエッチング量の差が抑えられ、ウエハWの面内で均一性高くSiOx膜91がエッチングされた状態となる。
【0043】
塩基性ガスの処理容器11への供給が行われる時刻t1~時刻t3及び時刻t5~t7は第1期間であり、時刻t1、t5が第1期間の始点、時刻t3、t7が第1期間の終点である。この第1期間における処理容器11への塩基性ガスの供給が、第1供給工程である。そして、ハロゲン含有ガスの処理容器11への供給が行われる時刻t2~時刻t4及び時刻t6~t8は第2期間であり、時刻t2、t6が第2期間の始点、時刻t4、t8が第2期間の終点である。この第2期間における処理容器11への塩基性ガスの供給が、第2供給工程である。従って上記した処理では、第1期間及び第2期間のうちの一方の始点が第1期間及び第2期間のうちの他方の始点よりも早く、且つ第1期間及び第2期間のうちの他方の終点が第1期間及び第2期間のうちの他方の終点よりも早くなるようにエッチングが行われている。また、時刻t2~t3、時刻t6~t7は第1期間及び第2期間が重なる重複期間である。
【0044】
HFガスの供給期間と塩基性ガスの供給期間との関係を適宜調整することで、
図3で説明した、ウエハWの径方向におけるHFガス、塩基性ガスが比較的大きく混合される位置を調整することができる。即ち、ウエハWの径方向において比較的エッチングが大きく進行する位置を制御することができる。それを利用することで、ウエハWの中心部と周縁部との間でのエッチング量を揃えることに限られず、ウエハWの中心部よりも周縁部のエッチング量を大きくすることもできる。また、評価試験で示すように、HFガスの供給期間と塩基性ガスの供給期間とを一致させる場合よりも一致しないようにすることで、ウエハWの中心部のエッチング量をさらに大きくすることも可能である。従って、本技術はウエハWの面内におけるエッチング分布を制御することができる。
【0045】
上記の処理例では同じサイクルにおいてHFガス及び塩基性ガスのうち、塩基性ガスを先に供給しているが、塩基性ガスを先に供給してもよい。ただし、後述の評価試験の結果を考慮すると、塩基性ガスを先に供給することが好ましい。
【0046】
なお、上記の処理において、アミンガスとしてTMAガスを用いているが、TMAガス以外のアミンガスを用いてもよい。具体的には、ジメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノターシャリーブチルアミン、ピロリジン、ピリジンなどの各種のアミン化合物のガスを用いることができる。従って、1級、2級、3級のうちいずれのアミンをエッチングガスとして用いてもよい。
【0047】
また、塩基性ガスとしてNH3ガス及びアミンガスの混合ガスの混合ガスを用いるのは、溝93内におけるSiOx膜91をエッチングするにあたり、溝93内でのエッチングの均一性を高くするためである。詳しく述べると、NH3ガス及びアミンガスのうち、NH3ガスのみを用いると溝93内のSiOx膜91をエッチングするにあたり、Si膜92との界面付近でのエッチング量が比較的大きくなる傾向が有る。これはSiOx、NH3及びHFより生成するAFSがSiに対して吸着し難いため、SiOx膜92上に形成されるAFSの層の厚さが界面付近では比較的薄く、界面付近では比較的厚くなるので、界面付近の方ではエッチングガスがSiOx膜91に接触しやすく、エッチングが進行しやすいことによるものと考えられる。
【0048】
そしてNH3ガス及びアミンガスのうち、アミンガスのみを用いると溝93内のSiOx膜91をエッチングするにあたり、Si膜92との界面付近から比較的離れた位置でのエッチング量が比較的大きくなる傾向が有る。これはSiOx、アミン及びHFから生じる生成物については昇華する温度が比較的低いので、この生成物による溝93内のSiOx膜91のエッチングガスの接触は妨げられ難い。そのため、SiOx膜91に対するガスの衝突確率が、Si膜92から離れた位置の方が大きいので、Si膜92との界面付近から比較的離れた位置で、エッチングが進行しやすいことによるものと考えられる。
【0049】
以上のようにエッチング装置1では、NH3ガス及びアミンガスから各々生じる反応生成物の昇華性の違いを利用して、上記の界面付近と界面から比較的離れた位置とでエッチング量のバランスが取られるようにしている。ただし、NH3ガス及びアミンガスのうちの一方を用いてエッチングを行うようにしてもよい。また、上記の例では上方に向けて開口する凹部内のSiOx膜91をエッチングしているが、側方に向けて開口する凹部内のSiOx膜91をエッチングしてもよいし、凹部内のSiOx膜91をエッチングすることには限られず、例えば平坦面上に形成されたSiOx膜91を形成してもよい。
【0050】
ところで、エッチング対象としてはSiOx膜であることに限られず、SiOx膜以外の酸素を含有するシリコン膜をエッチングしてもよい。具体的には例えば、SiOCN膜やオルトケイ酸テトラエチル(Tetraethyl ortho silicate)などの膜をエッチングしてもよい。なお、本明細書で膜やガスが成分を含有するとは、不純物として当該成分を含有する意味では無く、主成分として含有する意味である。その他には、例えばSi膜をエッチングするようにしてもよい。
【0051】
そしてエッチングガスについては、エッチング対象の膜の材料に応じて適宜選択すればよい。SiOx膜をエッチングする場合には、例えばハロゲン含有ガスとして、HF以外にはHCl、HBr、HI、SF6などの各ガスを用いることができる。上記のSi膜をエッチングする場合には例えば、タンク81にはハロゲンガスであるF2ガスを充填し、タンク82には塩基性ガスであるNH3ガスを充填し、SiOx膜91をエッチングする場合と同様に処理を行えばよい。F2ガスに代えて、例えばIF7ガス、IF5ガス、ClF3ガス、SF6ガスなどのハロゲン含有ガスを用いてもよい。
【0052】
そして、ウエハWの処理温度についてはエッチング対象の膜及び使用するエッチングガスに応じて適宜設定すればよい。具体的には、当該膜及びエッチングガスから生成する生成物が昇華してエッチングがなされる温度に設定する。上記のようにSi膜をF2ガス及びNH3ガスを用いてエッチングする場合には、ウエハWの処理温度としては例えば、-50℃~150℃に設定すればよい。
【0053】
以上のように、エッチング対象の膜としては例えばSiOx膜やSi膜といったシリコンを含有する膜を選択することができる。なお、本技術は第1のエッチングガス、第2のエッチングガスの両方と、ウエハWの表面の膜と、によって反応生成物を生成し、この反応生成物を気化(昇華を含む)させて除去してエッチングを行う処理であれば、適用することができ、本明細書の記載例に限定されるものではない。
【0054】
そして、
図4のタイムチャートで示した処理ではサイクルを複数回繰り返し行っているが、必要なエッチング量が微量である場合にはサイクルは繰り返さず、1回のみ行うようにしてもよい。また、そのタイムチャートで示した例では、HFガスの供給期間と、塩基性ガスとの供給期間とが重なるように各ガスを供給しているが、これらの供給期間が重ならないようにしてもよい。つまり、HFガス、塩基性ガスのうち一方のガスの供給が終了してから、他方のガスの供給を開始してもよいし、一方のガスの供給終了と共に他方のガスの供給を開始してもよい。ただし、上記したウエハWの周縁部上での各ガスの混合が起こらず、周縁部におけるエッチング量が不十分になるおそれがあることから、これらのガスの供給期間は重なるようにすることが好ましい。
【0055】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更、組み合わせがなされてもよい。
【0056】
[評価試験]
本技術に関連して行われた評価試験1~3について、以下に説明する。表面にSiOx膜が形成されたウエハWに対して、エッチング装置1を用いてエッチングを行った。そして、エッチング後のウエハWについて、面内における互いに異なる多数の位置でのSiOx膜のエッチング量を測定した。実施形態で説明した各ガスを供給するサイクルを所定の回数、実施することでこのエッチングを行ったが、同じサイクル中でのHFガスの供給期間と、塩基性ガス(NH3ガス及びTMAガス)の供給期間との関係については、ウエハW毎に変更した。なお、この評価試験でのエッチング対象のSiOx膜については、実施形態で示したものと異なり、表面が平坦なウエハW上に形成された平坦な膜である。
【0057】
評価試験1(1-1~1-5)では同じサイクルにおいて、塩基性ガス(NH
3ガス及びTMAガス)の供給開始タイミングと、HFガスの供給開始タイミングと、が一致するようにエッチングを行っている。評価試験2(2-1~2-5)では同じサイクルにおいて、塩基性ガスの供給終了タイミングと、HFガスの供給終了タイミングとが一致するようにエッチングを行っている。評価試験3(3-1~3-3)では同じサイクルにおいて、塩基性ガスの供給開始タイミングと、HFガスの供給開始タイミングとが一致せず、且つ塩基性ガスの供給終了タイミングと、HFガスの供給終了タイミングとが一致しないようにエッチングを行っている。この評価試験3では同じサイクルにおけるHFガスの供給時間と、塩基性ガスの供給期間と、を同じ長さに設定している。なお、各評価試験では1つのサイクルにおいてHFガス及び塩基性ガスの両方のガスの処理容器11内への供給が停止してから次のサイクルが開始するまで、所定の時間間隔を設けて生成物の昇華を行うようにした。つまり、
図4で示したチャートのように各ガスを供給するとしたら、時刻t4~時刻t5について所定の時間に設定した。
【0058】
そしてこの評価試験1~3では、ウエハWの面内における各箇所のエッチング量から、エッチングの面内均一性の指標値を取得している。この指標値は、取得されたエッチング量の3σを算出し、その算出値を各エッチング量の平均値で除し、100を乗じた値(単位:%)であり、この指標値が低いほどウエハWの面内におけるエッチング量の均一性が高い。また、ウエハWの面内における各箇所のエッチング量から、当該面内におけるエッチング分布の画像を作成した。このエッチング分布の画像は、コンピュータグラフィクスによるカラーのグラデーションが付されたウエハWの画像であり、ウエハWの面内の任意の箇所のエッチング量を、そのエッチング量に応じたカラーによって示すものである。
【0059】
図7、
図8、
図9は、評価試験1、2、3の結果を夫々示しており、上記のエッチング分布の画像に対応するウエハWの模式図を示している。この模式図では、ウエハWに付された画像の色に従ってウエハWの面内を等高線で分割し、分割された各領域に互いに異なる模様を付すことでエッチング分布を表している。つまり、所定のエッチング量の範囲毎に、異なる模様を付して示している。なお、この模様は評価試験1、2、3毎に個別に付しているため、評価試験1~3間で同じ模様であっても当該模様が表すエッチング量の範囲は、評価試験1~3間で異なっている。
【0060】
また、
図7~
図9において評価試験毎に示す2つのバーは、一つのサイクルにおけるHFガスの供給期間と、塩基性ガスとの供給期間と、を示しており、各バーの長さに相当する時間だけHFガス、塩基性ガスが各々処理容器11に供給される。そして、各バーの左側に向うほど早いタイミングを示している。以上のことから、上下にバーが重なっている期間は、HFガス、塩基性ガスの両方が処理容器11内に供給されている期間であり、重なっていない期間は一方のガスのみが処理容器11内に供給されている期間である。
【0061】
図7を参照して、評価試験1(1-1~1―5)について詳しく述べる。この評価試験1では、同じサイクルにおいて、HFガスの供給開始時点と、塩基性ガスの供給開始時点とを揃えてエッチングを行っている。評価試験1-1、1-2、1-3、1-4、1-5では、塩基性ガスの供給時間については夫々0.3秒、0.3秒、0.3秒、0,4秒、0.5秒、HFガスの供給時間については夫々0.5秒、0.4秒、0.3秒、0.3秒、0.3秒である。従って、HFガスの供給時間に対して、評価試験1-1、1-2、1-3、1-4、1-5の順で塩基性ガスの供給時間が相対的に長く、そのように塩基性ガスの供給時間が相対的に長いほど、エッチングの面内均一性の指標値が大きい(即ち、面内均一性が低い)結果となった。具体的に、評価試験1-1、1-2、1-3、1-4、1-5で夫々エッチングの面内均一性の指標値は、10.4%、12.5%、18.4%、21.3%、23.3%であった。
【0062】
評価試験1のエッチング分布としては、ウエハWの径方向に沿ってエッチング量が変化しており、ウエハWの中心部の方が周縁部に比べてエッチング量が大きいという結果となった。
図7では評価試験1-1~1-5のエッチング分布のうち、代表して評価試験1-1、1-3、1-5のエッチング分布を示している。そして、塩基性ガスの供給時間に対するHFガスの供給時間が短いほど、ウエハWの周縁部に対して中心部のエッチング量が大きいという結果になった。
【0063】
評価試験1-3では、HFガスの供給期間と塩基性ガスの供給期間とが一致しており、
図2で説明したようにガスが供給されている。そして、HFガスの供給期間が塩基性ガスの供給期間よりも長く、塩基性ガスの供給停止後もHFガスの供給を続ける処理条件とした評価試験1-1、1-2では、この評価試験1-3に比べてエッチング面内均一性の指標値が小さく、ウエハWの周縁部に対する中心部のエッチング量が抑えられていた。従って評価試験1からは、ウエハWの面内で均一性高くエッチングを行うにあたっては、塩基性ガスの供給終了後もHFガスの供給を続けて行うことが好ましいことが示された。また、評価試験1-3~1-5の結果より、ウエハWの中心部をより大きくエッチングするにあたっては、HFガスの供給終了後も塩基性ガスの供給を続けて行うことが好ましいことが示された。
【0064】
続いて
図8を参照して、評価試験2(2-1~2―5)について詳しく述べる。この評価試験2では、同じサイクルにおいて、HFガスの供給終了時点と、塩基性ガスの供給終了時点とを揃えてエッチングを行っている。評価試験2-1、2-2、2-3、2-4、2-5では、塩基性ガスの供給時間については夫々0.3秒、0.3秒、0.3秒、0,4秒、0.5秒、HFガスの供給時間については夫々0.5秒、0.4秒、0.3秒、0.3秒、0.3秒である。
【0065】
従って、HFガスの供給時間に対して、評価試験2-1、2-2、2-3、2-4、2-5の順で塩基性ガスの供給時間が相対的に長く、そのように塩基性ガスの供給時間が相対的に長いほど、エッチングの面内均一性の指標値が小さい(即ち、面内均一性が高い)結果となった。具体的に、評価試験2-1、2-2、2-3、2-4、2-5で夫々エッチングの面内均一性の指標値は、23.6%、20.8%、18.1%、13.8%、10.5%である。
【0066】
評価試験2のエッチング分布としては、ウエハWの径方向に沿ってエッチング量が変化し、ウエハWの中心部の方が周縁部に比べてエッチング量が大きい結果となった。
図8では評価試験2-1~2-5のエッチング分布のうち、代表して評価試験2-1、2-3、2-5のエッチング分布を示している。そして、塩基性ガスの供給時間に対するHFガスの供給時間が長いほど、ウエハWの周縁部に対して中心部のエッチング量が大きい。
【0067】
評価試験2-3では、HFガスの供給期間と塩基性ガスの供給期間とが一致しており、
図2で説明したようにガスが供給されている。そして、塩基性ガスの供給期間がHFガスの供給期間よりも長く、HFガスの供給開始前から塩基性ガスの供給開始を行う評価試験2-4、2-5では、この評価試験2-3に比べてエッチング面内均一性の指標値が小さく、ウエハWの周縁部に対する中心部のエッチング量が抑えられていた。従って、評価試験2からは、ウエハWの面内で均一性高くエッチングを行うにあたっては、HFガスの供給開始前から塩基性ガスの供給を開始することが好ましいことが示された。また、評価試験2-1~2-3の結果より、ウエハWの中心部をより大きくエッチングするにあたっては、塩基性ガスの供給開始前からHFガスの供給を開始することが好ましいことが示された。
【0068】
次に
図9を参照して、評価試験3(3-1~3-3)について説明する。この評価試験3では、評価試験1、2の結果を踏まえて、ウエハWの面内でのエッチングの均一性をより高くすることを目的として、HFガスの供給開始前から塩基性ガスの供給を行い、且つ塩基性ガスの供給終了後もHFガスの供給を続けている。上記したようにHFガスの供給時間、塩基性ガスの供給時間について長さは同じなので、評価試験3では供給時間がずれるように各ガスの供給を行っており、評価試験3-1~3-3間ではこのずれの時間が異なっている。
【0069】
評価試験3-1、3-2、3-3では、1サイクルにおけるHFガスの供給時間及び塩基性ガスの供給時間を0.5秒に設定した。そして、評価試験3-1、3-2、3-3で、塩基性ガスの供給開始時点に対してHFガスの供給開始時点が、夫々0.2秒、0.3秒、0.4秒遅れるように処理を行った。なお、評価試験3-2におけるHFガスの供給時間と塩基性ガスの供給時間との関係は、
図4のタイムチャートで示した関係である。
【0070】
評価試験3でもエッチング分布は、ウエハWの径方向に沿ってエッチング量が変化するものとなったが、評価試験3-1~3-3間で中心部と周縁部との大小関係が異なるものとなった。具体的に述べると、評価試験3-1では評価試験1、2の各結果と同じくウエハWの中心部の方が周縁部よりもエッチング量が大きいが、評価試験3-2、3-3ではウエハWの周縁部の方が中心部よりも大きい。そして評価試験3-1、3-2、3-3ではエッチングの面内均一性の指標値は夫々4.6%、2.2%、7.4%となっており、評価試験1、2よりも面内均一性が高かった。
【0071】
評価試験1~3の結果より、HFガスの供給期間と塩基性ガスの供給期間とを一致させないようにすることで、一致させる場合に比べてウエハWの中心部のエッチング量がより大きくなるようにしたり、中心部と周縁部と間でエッチング量の差を抑えて面内でのエッチングの均一性を高くしたりすることができることが示された。そして、HFガスの供給期間と、塩基性ガスの供給期間との関係を調整することで、ウエハWの面内において中心部と周縁部とのエッチング量の大小関係の切替えを行うことができることが示された。さらに、エッチングにおけるウエハWの面内均一性を高くするにあたって、HFガスの供給開始前から塩基性ガスの供給を行い、且つ塩基性ガスの供給終了後もHFガスの供給を行うことが好ましいことが確認された。つまり、第1期間及び第2期間のうちの一方の始点が、第1期間及び第2期間のうちの他方の始点よりも早く、且つ第1期間及び第2期間のうちの他方の終点が第1期間及び第2期間のうちの他方の終点よりも早くなるようにエッチングすることが好ましいことが確認された。
【0072】
なお評価試験1~3の各処理条件で、
図5説明したようにSi膜92に形成された溝93内のSiOx膜91についてもエッチングを行い、エッチング後の各膜の形状を確認している。その結果、
図6に示したようにSi膜92に対して高い選択性をもってエッチングがなされていたことが確認された。従って、HFガスと、塩基性ガスとで供給期間を一致しないようにしても、エッチング形状が所望のものから外れた形状となることが防止されることが確認されている。
【符号の説明】
【0073】
W ウエハ
11 処理容器
63、64 ガス供給管
72 HFガス供給源
74 TMAガス供給源
75 NH3ガス供給源
81、82 タンク