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特開2024-129660全固体二次電池用正極及び全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129660
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】全固体二次電池用正極及び全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240919BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240919BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240919BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240919BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240919BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039000
(22)【出願日】2023-03-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】鯉川 舜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直毅
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ04
5H029EJ07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ19
5H030AA10
5H030BB01
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA10
5H050EA11
5H050EA15
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】外圧を印加しない又は低い拘束圧下においても充放電による電池性能の低下を抑制することができる全固体二次電池を提供する。
【解決手段】正極集電体と、該正極集電体上に積層された正極合材層とを備え、前記正極合材層が、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質と、硫化物固体電解質と、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオンをアニオンとするイオン性柔粘性結晶を含有するものであることを特徴とする全固体二次電池用正極。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
該正極集電体上に積層された正極合材層とを備え、
前記正極合材層が、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質と、硫化物固体電解質と、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオンをアニオンとするイオン性柔粘性結晶を含有するものであることを特徴とする全固体二次電池用正極。
【請求項2】
前記イオン性柔粘性結晶が、カチオンとしてアンモニウム系、ピロリジニウム系、ピペリジニウム系からなる群より選ばれる1種以上のカチオンを含有するものである、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項3】
前記カチオンが、スピロ型アンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウムからなる群より選ばれる1種以上のカチオンである、請求項2に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極合材層におけるイオン性柔粘性結晶の含有量が、前記正極合材層100質量%に対して0.05質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極合材層におけるイオン性柔粘性結晶の含有量が、前記正極合材層100質量%に対して0.1質量%以上15質量%以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項6】
前記正極合材層がさらに、導電助剤と、結着剤とを備えるものである請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項7】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層とを備え、
前記正極が請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極である、全固体二次電池。
【請求項8】
前記負極が、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫及び亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の物質と、無定形炭素とを含むものであることを特徴とする請求項7に記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記負極が、銀と無定形炭素とを含むものであることを特徴とする請求項7に記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記正極の初期充電容量と前記負極の初期充電容量との比が、以下の数式(1)を満たすことを特徴とする、請求項7に記載の全固体二次電池。
0.01<b/a<0.5 (1)
a:正極の初期充電容量(mAh)
b:負極の初期充電容量(mAh)
【請求項11】
請求項7に記載の全固体二次電池を、前記負極の充電容量を超えて充電することを特徴とする全固体二次電池の充電方法。
【請求項12】
前記負極の充電容量の2倍以上100倍以下の範囲で充電する、請求項11に記載の全固体二次電池の充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用正極及びこの正極を備えた全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、全固体リチウム二次電池においては、充電時にリチウムが正極活物質に吸蔵されたり放出されたりするために、充放電に伴い正極活物質の体積変化が起こることが知られている。
体積変化が大きくなると、正極活物質が周囲の固体電解質や導電助剤との接触が絶たれ、電池性能が低下してしまう恐れがある。
そこで、充放電時の活物質の体積変化の影響を抑制するために、従来はエンドプレート等を用いて全固体リチウムイオン二次電池を厚み方向から挟み込んで高い外圧を印加した状態で充放電を行っている。
【0003】
しかしながら、全固体二次電池に高い外圧を印加するための加圧治具の存在は、コスト面において不利なだけでなく、全固体二次電池と加圧治具とを含む電池モジュール全体としてのエネルギー密度を低下させる要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-131979号公報
【特許文献2】特開2020-198270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、外圧を印加しない又は簡易な治具で実現可能な低拘束圧下において充放電した場合であっても電池性能の低下を抑制することができる全固体二次電池を提供することを目的とする。低拘束圧とは、例えば、0.5MPa以下の拘束圧のことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、特許文献1及び2に示すように、充放電時の電池の膨張収縮を抑えるために、全固体二次電池の負極や固体電解質に柔粘性結晶を含有させることが考えられているが、その効果は十分なものではなかった。
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、正極が所定のイオン性柔粘性結晶を含有するものとすることによって、前述した課題を解決することができることを見出して初めて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明に係る全固体二次電池用正極及び全固体二次電池は以下のようなものである。
[1]正極集電体と、該正極集電体上に積層された正極合材層とを備え、前記正極合材層が、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質と、硫化物固体電解質と、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオン(以下CFSIともいう。)をアニオンとするイオン性柔粘性結晶を含有するものであることを特徴とする全固体二次電池用正極。
[2]前記イオン性柔粘性結晶が、カチオンとしてアンモニウム系、ピロリジニウム系、ピペリジニウム系からなる群より選ばれる1種以上のカチオンを含有するものである、[1]に記載の全固体二次電池用正極。
[3]前記カチオンが、スピロ型アンモニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウムからなる群より選ばれる1種以上のカチオンである、[2]に記載の全固体二次電池用正極。
[4]前記正極合材層におけるイオン性柔粘性結晶の含有量が、前記正極合材層100質量%に対して0.05質量%以上20質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の全固体二次電池用正極。
[5]前記正極合材層におけるイオン性柔粘性結晶の含有量が、前記正極合材層100質量%に対して0.1質量%以上15質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の全固体二次電池用正極。
[6]前記正極合材層が、導電助剤と、結着剤とをさらに備える、[1]~[5]の何れかに記載の全固体二次電池用正極。
[7]正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質層とを備え、前記正極が[1]~[6]のいずれかに記載の全固体二次電池用正極である、全固体二次電池。
【発明の効果】
【0008】
このように構成した全固体二次電池用正極又は全固体二次電池によれば、正極合材層が1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオン(以下CFSIともいう。)をアニオンとするイオン性柔粘性結晶を含有するものであるので、充放電によるリチウムの吸蔵、析出や溶出による電池の体積変化が生じる場合であっても、正極、負極、固体電解質層及びこれらの界面における電池の破損を抑制することができる。その結果、前述したように体積変化が生じる全固体二次電池の場合であっても、外圧を印加せずに又は低い外圧を印加した状態であっても電池性能の低下を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の構造を示す断面模式図である。
図2】本実施形態に係る全固体二次電池の正極の構造を示す断面模式図である。
図3】本発明の実施例1と比較例1との電池性能を比較するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<1.本実施形態に係る全固体二次電池の基本構成>
本実施形態に係る全固体二次電池は、図1に示すように、正極10、負極20、及び固体電解質層30を備える全固体二次電池1である。
【0012】
(1-1.正極)
正極10は、正極集電体11及び正極合材層12を含む。正極集電体11としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。正極集電体11は省略されても良い。
【0013】
正極合材層12は、正極活物質及び固体電解質を含む。なお、正極10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30の項で説明するものと同種又は異種の硫化物固体電解質である。
【0014】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質であればよい。
【0015】
例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫化リチウム、硫黄、酸化鉄、または酸化バナジウム(Vanadium oxide)等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0016】
また、正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで「層状岩塩型構造」とは、立方晶岩塩型構造の<111>方向に酸素原子層と金属原子層とが交互に規則配列し、その結果それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。また「立方晶岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0017】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNiCoAl(NCA)、またはLiNiCoMn(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0018】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0019】
正極活物質は、被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、LiO-ZrO等が挙げられる。
【0020】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0021】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極10における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極に適用可能な範囲であれば良い。
【0022】
また、正極10には、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン導電助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0023】
正極10に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極10に配合可能なバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極10に配合可能なフィラー、分散剤、イオン導電助剤等としては、一般に全固体二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0024】
(1-2.負極)
負極20は、負極集電体21及び該負極集電体21上に積層された負極合材層22を含む。負極集電体21は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。負極集電体21を構成する材料としては、例えば、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)が挙げられる。
【0025】
負極合材層22は、負極活物質と炭素材料と結着剤とを含む。
負極活物質としては、例えば、充電時に電気化学反応によりリチウムと合金又は化合物を形成する元素である合金形成元素を挙げることができる。
前記合金形成元素としては、金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を挙げることができる。
【0026】
前記合金形成元素として金、白金、パラジウム、ケイ素、銀、アルミニウム、ビスマス、錫、および亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、これらの負極活物質は、例えば粒形状のものであり、その粒径は4μm以下、より好ましくは300nm以下であることが好ましい。この場合、全固体二次電池1の特性が更に向上する。ここで、負極活物質の粒径は、例えばレーザー式粒度分布系を用いて測定したメジアン径(いわゆるD50)を用いることができる。
【0027】
前記炭素材料としては、例えば、カーボンブラック(Carbon black)、グラフェン(graphene)等の無定形炭素が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(acetylene black, furnace black, ketjen black)等を挙げることができる。
【0028】
負極合材層22には、前述した以外にも、従来の全固体二次電池で使用される添加剤、例えば、フィラー、分散剤、イオン導電剤、固体電解質等が適宜配合されていてもよい。
【0029】
(1-3.固体電解質層)
固体電解質層30は、正極10および負極20の間に形成され、固体電解質を含む。
【0030】
前記固体電解質は例えば、粉末状のものであり、例えば硫化物系固体電解質材料で構成される。
該硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Br、Cl)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、Li2-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、前記硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、LiS、P等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0031】
また、固体電解質として、上記の硫化物系固体電解質材料のうち、硫黄と、ケイ素、リンおよびホウ素からなる群から選択される1種以上の元素とを含有する材料を用いることが好ましい。これにより、固体電解質層30のリチウム伝導性が向上し、全固体二次電池1の電池特性が向上する。特に、固体電解質として少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものを使用するのが好ましく、特にLiS-Pを含むものを用いることがより好ましい。
【0032】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLiS-Pを含むものを用いる場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。
【0033】
固体電解質層30は、さらにバインダを含有していても良く、バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。固体電解質層30内のバインダは、正極合材層12および負極合材層22内のバインダと同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0034】
(1-4.正極と負極との充電容量の関係)
本実施形態に係る全固体二次電池1は、正極合材層12の充電容量と負極合材層22の充電容量との比、すなわち容量比が、以下の数式(1)の要件を満たすように構成されている。
0.01<b/a<0.5 (1)
a:正極合材層12の充電容量(mAh)
b:負極合材層22の充電容量(mAh)
【0035】
ここで、正極合材層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に正極合材層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極合材層12の充電容量とすれば良い。負極合材層22の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極合材層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に負極合材層22中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極合材層22の容量とすれば良い。ここで、正極および負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極合材層12および負極合材層22の充電容量が直接測定される。
【0036】
充電容量を直接測定する具体的な方法としては、以下の様な方法を挙げることができる。まず正極合材層12の充電容量は、正極合材層12を作用極、Liを対極として使用したテストセルを作製し、OCV(開放電圧)から上限充電電圧までCC-CV充電を行うことで測定する。該上限充電電圧とは、JIS C 8712:2015の規格で定められたものであり、リチウムコバルト酸系の正極に対しては4.25V、それ以外の正極についてはJIS C 8712:2015のA.3.2.3(異なる上限充電電圧を適用する場合の安全要求事項)の規定を適用して求められる電圧を指す。負極合材層22の充電容量については、負極合材層22を作用極、Liを対極として使用したテストセルを作製し、OCV(開放電圧)から0.01VまでCC-CV充電を行うことで測定する。
【0037】
前述したテストセルについては、例えば、以下のような方法で作製することができる。充電容量を測定したい正極合材層12又は負極合材層22を直径13mmの円板状に打ち抜く。全固体二次電池1に用いるものと同じ固体電解質粉末200mgを40MPaで固めて、直径13mmで厚みが約1mmのペレット状にする。内径が13mmの筒の内部にこのペレットを入れて、その片側から円板状に打ち抜いた正極合材層12又は負極合材層22を入れ、反対側から直径13mm厚みが0.03mmのリチウム箔を入れる。さらに両側からステンレス鋼の円板を1つずつ入れて、全体を筒の軸方向に300MPaで一分間加圧して内容物を一体化させる。一体化した内容物を筒から取り出して、常時22MPaの圧力がかかるようにケース内に封入してテストセルとする。正極合材層12の充電容量測定は、上記のようにして作製したテストセルを、例えば、電流密度0.1mAでCC充電をした後、0.02mAまでCV充電をすることによって行うことができる。
【0038】
この充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電容量密度が算出される。正極合材層12および負極合材層22の初期充電容量は、1サイクル目の充電時に測定される初期充電容量であってもよい。後述する実施例では、この値を用いた。
【0039】
このように、負極合材層22の充電容量に対して正極合材層12の充電容量が過大になる。後述するように、本実施形態では、全固体二次電池1を、負極合材層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極合材層22を過充電する。充電の初期には、負極合材層22内にリチウムが吸蔵される。すなわち、負極活物質は、正極10から移動してきたリチウムイオンと合金を形成する。負極合材層22の容量を超えてさらに充電が行われると、図2に示すように、負極合材層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極合材層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによってリチウム析出層23が形成される。リチウム析出層23は、リチウム以外の元素も微量ながら含有するものの、主にリチウム(主に、金属リチウム)で構成される。
このような現象は、負極活物質として特定の物質、すなわちリチウムと合金又は化合物を形成する合金形成元素を含有することで生じる。放電時には、負極合材層22およびリチウム析出層23中のリチウムがイオン化し、正極10側に移動する。
したがって、本実施形態に係る全固体二次電池1では、析出したリチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極合材層22は、リチウム析出層23を被覆するので、リチウム析出層23の保護層として機能するとともに、デンドライトの析出及び成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池1の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0040】
ここで、前記容量比は0.01より大きい。容量比が0.01以下となる場合、全固体二次電池1の特性が低下する。この理由としては、負極合材層22が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。例えば、負極合材層22の厚さが非常に薄い場合、容量比が0.01以下となりうる。この場合、充放電の繰り返しによって負極合材層22が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下する。特許文献1では、界面層あるいはカーボン(carbon)層が薄すぎるために、全固体二次電池の特性が十分に改善しなかったと推察される。また、前記容量比は、0.5よりも小さいことが好ましい。前記容量比が0.5以上になると、負極におけるリチウムの析出量が減って、電池容量が減ってしまうことが考えられるからである。同様の理由から、前記容量比が0.25未満であることがより好ましいと考えられる。また、前記容量比が0.25未満であることによって電池の出力特性も、より向上させることができる。
【0041】
負極合材層22の厚さは、上記数式(1)の要件を満たされる範囲であれば特に制限されないが、1μm以上20μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下であることが好ましい。負極合材層22の厚さが1μm未満となる場合、全固体二次電池1の特性が十分に改善しない可能性がある。負極合材層22の厚さが20μmを超える場合、負極合材層22の抵抗値が高くなり、結果として全固体二次電池1の特性が十分に改善しない可能性がある。
前述した負極合材層22の厚みは、例えば、全固体二次電池1を組み立てて、加圧成形した後の断面の平均厚みを走査電子顕微鏡(SEM)で観察することによって見積もることができる。
【0042】
<2.本実施形態に係る全固体二次電池の特徴構成>
本実施形態においては、正極10は前述した成分以外に、さらにイオン性柔粘性結晶を含有する。具体的には、正極合材層が前記イオン性柔粘性結晶を含有するものを挙げることができる。
【0043】
柔粘性結晶とは、固体結晶と液体との中間相であり、構成粒子の3次元的な位置に規則性があるものの、粒子の配向に規則性が無い状態のものを指す。
本実施形態における柔粘性結晶はイオン性のものであり、カチオンとアニオンとを含有するものである。
【0044】
カチオンとしては、例えば、アンモニウム系、ピロリジウム系、ピリジニウム系、ピリミジニウム系、イミダゾリウム系、ピペリジニウム系、ピラゾリウム系、オキサゾリウム系、ピリダジニウム系、ホスホニウム系、スルホニウム系、トリアゾリウム系、及びその混合物のうち、選択された1つ以上のカチオンを広く用いることができる。
中でも、スピロ型アンモニウム系、テトラアルキルアンモニウム系、ピロリジウム系、ピリジニウム系のカチオンを用いることが好ましい。
具体例としては、5-Azoniaspiro[4,4]nonane(SPB)、N-エチル-N-メチルピロリジニウム(P12)、テトラメチルアンモニウム(TMA)、N,N-ジメチル-ピペリジニウム(PP11)、トリエチルメチルアンモニウム(TEMA)、テトラプロピルアンモニウム(TPA)、エチルトリメチルアンモニウム(ETMA)等を挙げることができる。
【0045】
本実施形態においては、アニオンとして、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオン(以下CFSIともいう。)を用いている。
【0046】
前述したようにカチオンとアニオンとを含有するイオン性柔粘性結晶は、例えば、カチオンとして5-Azoniaspiro[4,4]nonaneを用い、アニオンとして1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオンを含有する場合には、5-Azoniaspiro[4,4]nonane1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオンと表すことができる。本実施形態に係るイオン性柔粘性結晶については、前述したようにカチオンについて複数の候補物質が存在しているので、カチオンを他の種類のものに置き換えて、カチオンとアニオンとの組み合わせを変えた様々な種類のイオン性柔粘性結晶を用いることができる。
【0047】
正極合材層12中(正極合材層12全体を100質量%とした場合)のイオン性柔粘性結晶の含有量は、0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上10質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
イオン性柔粘性結晶が、さらにリチウム塩を含有していても良い。
リチウム塩は、当該技術分野でリチウム塩として使用されるものであれば、いずれも使用可能である。リチウム塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、Li(CFSON、Li(FSON、LiCSO、LiAlO、LiAlCl、LiN(CxF2x+1SO)(CyF2y+1SO)(但し、x及びyは、自然数)、LiCl、LiIのうちの1種またはこれらの混合物である。
イオン性柔粘性結晶が含有するリチウム塩の濃度は、0.1M~5Mとすることが好ましい。
【0049】
<3.本実施形態に係る全固体二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体二次電池1の製造方法について説明する。本実施形態に係る全固体二次電池1は、正極10、負極20、および固体電解質層30をそれぞれ製造した後、上記の各層を積層することにより製造することができる。
【0050】
(3-1.正極作製工程)
まず、正極合材層12を構成する材料(正極活物質、固体電解質、バインダ等)を混合したものをシート状に加工して、このシートにイオン性柔粘性結晶を含侵させて正極合材シートを形成する。
このようにして得た正極合材シートを適切な形状にカットしたものを正極合材層材料として正極集電体上に積層し、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、正極集電体と正極合材層とを備えた正極10を作製する。
【0051】
(3-2.負極作製工程)
まず、負極合材層22を構成する負極合材層材料(負極活物質、合金非形成元素、バインダ等)を極性溶媒または非極性溶媒に添加することで、スラリーを作製する。ついで、得られたスラリーを負極集電体21上に塗布し、乾燥する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、負極20を作製する。加圧工程は省略されても良い。なお、負極合材層22を別途形成した後に、負極集電体21に積層して加圧する方法によって負極20を作製するものとしても良い。
【0052】
(3-3.固体電解質層作製工程)
固体電解質層30は、例えば、以下のような手順又は工程により作製することができる。
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0053】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、LiS、P等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、LiSおよびPの混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0054】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、LiS、P等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0055】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0056】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質を、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、固体電解質と、溶媒、結着剤を混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層30を作製してもよい。
【0057】
(3-4.全固体二次電池の組立工程)
上記の方法で作製した正極10、負極20、および固体電解質層30を、正極10と負極20とで固体電解質層30を挟持するように積層し、加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことにより、本実施形態に係る全固体二次電池1を作製することができる。
【0058】
<4.本実施形態に係る全固体二次電池の充電方法>
つぎに、全固体二次電池1の充電方法について説明する。本実施形態では、前述したように、全固体二次電池1を、負極合材層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極合材層22を過充電する。充電の初期には、負極合材層22内にリチウムが吸蔵される。負極合材層22の充電容量を超えて充電が行われると、例えば、図1に示すように、負極合材層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極合材層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって製造時には存在していなかったリチウム析出層23が形成される。放電時には、負極合材層22およびリチウム析出層23中のリチウムがイオン化し、正極10側に移動する。
なお、充電量は、負極合材層22の充電容量の2倍以上100倍以下の間の値、より好ましくは4倍以上100倍以下の範囲とすることが好ましい。
この充電時に負極中に析出するリチウム析出層23の厚みは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、全固体二次電池として実現可能な上限値である60μm以下の範囲とすることが好ましい。なお、このリチウム析出層23の厚みは、全固体二次電池1を充電した後の断面の平均厚みを走査電子顕微鏡(SEM)で観察することによって見積もることができる。
【0059】
<5.本実施形態の効果>
本実施形態に係る全固体二次電池用正極又は全固体二次電池によれば、正極合材層が1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホンイミドアニオン(以下CFSIともいう。)をアニオンとするイオン性柔粘性結晶を含有するものであるので、前述したように負極容量を超えて過充電しリチウムを析出させる場合のように電池の体積変化が大きい場合であっても、電池性能の低下を十分に抑制することができるので、外圧を印加しない又は十分に低い外圧の印加によって電池を問題なく充放電させることができる。
【0060】
<6.本発明の他の実施形態について>
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0062】
以下に実施例を挙げて本発明に係る全固体二次電池についてより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0063】
<イオン性柔粘性結晶の作製>
イオン性柔粘性結晶である5-Azoniaspiro[4.4]nonane 1.1.2.2.3.3-Hexafluoropropane-1.3-disulfonimide(SBPCFSI)の合成は下記の要領で行った。
10gの5-Azoniaspiro[4.4]nonane chloride(SBPCl)を100mLの超純水に溶解させた。続いて18.5gのLithium 1.1.2.2.3.3-Hexafluoropropane-1.3-disulfonimide(LiCFSI)を100mLの超純水に溶解させ、この溶液にSBPCl水溶液を滴下した。得られた白色固体をろ過回収したのち、蒸留水等で洗浄後、120℃で12時間真空乾燥することで、所望のイオン性柔粘性結晶を得た。他のイオン性柔粘性結晶についても同様の手順で合成した。
【0064】
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Mn0.05O2(NCM)を用い、Li6PS5Cl固体電解質、導電剤であるカーボンナノチューブ(CNT)、バインダーとしてテフロンバインダーを、正極活物質:固体電解質:CNT:テフロンバインダー=90:9.6:0.15:0.25(質量)の比率で混合し、シート状に引き伸ばしたものを約2cm角に成形し正極合材とした。
続いて前記イオン性柔粘性結晶SBPCFSIを2質量%の濃度になるようジクロロメタンに溶解させた。成形した正極シートを溶液に浸漬させ-0.05MPaまで真空引きすることで含侵させた。溶液から正極シートを取り出し乾燥することでイオン性柔粘性結晶が含侵された正極シートを得た。乾燥後の正極合材中のイオン性柔粘性結晶の含有量が表1又は2に記載された含有量となるように各実施例比較例の正極合材を作製し、これを18μm厚のアルミ箔の正極集電体に圧着することにより、正極を作製した。なお、正極合材中のイオン性柔粘性結晶の含有量は、正極シートを浸漬する溶液中のイオン性柔粘性結晶の溶液の濃度を調整することによって制御可能であり、具体的には、前記溶液中のイオン性柔粘性結晶の濃度を、目的の含有量の数値の2倍にすれば良いことが分かっている。例えば、2質量%のイオン性柔粘性結晶を含有する溶液に正極シートを浸漬すると、最終的に得られる正極合材中のイオン性柔粘性結晶の含有量はおよそ1質量%となる。
【0065】
<全固体二次電池の作製>
カーボンブラック12gと銀粒子4gを容器に入れ、そこへバインダ(Kureha社)8質量%を含むNMP溶液を、バインダの含有量が固形分の7質量%になるように加え、これにNMPを少しずつ加えながら撹拌しスラリーを調製した。このスラリーを、ブレードコーターを用いて、10ミクロン厚のステンレス箔上に塗布し、空気中において80℃で約20分間乾燥させたのち、100℃で約12時間真空乾燥し負極とした。
次に固体電解質シートを以下の方法で作製した。前記Li6PS5Cl固体電解質に対して、1質量%のバインダを加え、キシレンとイソ酪酸イソブチルを加えながら撹拌し、スラリーを作製する。これをPETフィルムの上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中において40℃で乾燥させたのち、40℃で12時間真空乾燥した。
こうして作製された固体電解質シートを固体電解質面と負極面が合わさるように重ねて、50MPaで等方加圧処理しPETフィルムを剥がすことで固体電解質シートを負極上に転写した。作製した負極、固体電解質一体シート上に正極を重ね、真空中でラミネートフィルムに封じた。正極と負極のそれぞれ一部が、電池の真空を破らないようにラミネートフィルムから外に出るようになっており、この外に出た部分をそれぞれ正極及び負極の端子とした。
最後に電池としての特性を向上させるために、490MPaで等方加圧処理を行って全固体二次電池を得た。
【0066】
<全固体二次電池の評価>
前述したようにして作製した全固体リチウム電池の0.3MPa又は0MPaにおける拘束圧時の充放電特性を、以下の条件で評価した。
測定は全固体電池を45℃の恒温槽に入れて行った。圧力の印加は、ステンレスの2枚の硬い板の間に全固体電池を挟み、この2枚の板の間を、電極面に所定の圧力がかかるようにステンレス板の四隅をねじで締めることにより行った。
電池電圧が4.25Vになるまで4.6mA/cm2の定電流で充電し、電流が1.4mA/cm2になるまで4.25Vの定電圧で充電を行った。放電は4.6mA/cm2の定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。この充電と放電を50回繰り返した後の容量維持率(サイクル寿命)と平均クーロン効率(1C放電特性)を表1及び表2に示す。表2の平均クーロン効率は比較例1を100%とした場合の数値として表示した。また、図3には、実施例1及び比較例1の容量維持率及び平均クーロン効率をグラフで示した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
<考察>
表1の結果から、アニオンとしてCFSIを含有するイオン性柔粘性結晶を含む正極を用いた場合には、0.3MPaという十分に低い拘束圧時における容量維持率及び1C放電特性が従来よりも大幅に向上することが分かった。
このような結果が得られた理由は、充放電による正極活物質の膨張収縮によって、固体電解質と正極活物質の界面が剥がれるのを柔粘性結晶が抑制しているためであると考えられる。
【0070】
また表2の結果から、拘束圧をかけない場合においても、電池特性が従来の2倍程度向上しており、拘束圧をかけずに使用できる全固体二次電池の実現に向けた本発明の意義は大きなものであると言える。
また、比較例2との比較からも、イオン性柔粘性結晶がアニオンとしてCFSIを含有していることが重要であることが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 全固体二次電池
10 正極
11 正極集電体
12 正極合材層
20 負極
21 負極集電体
22 負極合材層
23 リチウム析出層
30 固体電解質層
図1
図2
図3