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特開2024-12968ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地、層状ベーカリー製品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012968
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地、層状ベーカリー製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240124BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20240124BHJP
   A21D 13/10 20170101ALI20240124BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/14
A21D13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114838
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 暢宏
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH02
4B026DH05
4B026DH10
4B026DX02
4B032DB15
4B032DB38
4B032DK18
(57)【要約】
【課題】ホイロ工程を行わずとも、ボリュームがあり、良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる、ロールイン油脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記条件(1)~条件(5)を全て満たすノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、SUSの定義は明細書を参照。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(1)~条件(5)を全て満たすノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【請求項2】
さらに下記条件(6)を満たす、請求項1に記載のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物。
条件(6):油相を構成するトリグリセリド中のS3、S2m、S2dおよびSm2の含有量の合計が40~75質量%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸残基
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸残基
S3:1分子のグリセリン残基に、3分子のSが結合したトリグリセリド
S2m:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のmとが結合したトリグリセリド
S2d:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のdとが結合したトリグリセリド
Sm2:1分子のグリセリン残基に、1分子のSと、2分子のmとが結合したトリグリセリド
である。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20~120質量部、かつ、12~512層で含有するノンホイロ製法用層状ベーカリー生地。
【請求項4】
請求項3に記載のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の加熱処理品である、層状ベーカリー製品。
【請求項5】
下記条件(1)~条件(5)を全て満たすロールイン油脂組成物を含有する層状ベーカリー生地を得る工程と、
得られた層状ベーカリー生地を、ホイロ工程を経ずに加熱処理する工程とを有する、層状ベーカリー製品の製造方法。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地、および、該層状ベーカリー生地を加熱処理して得られる層状ベーカリー製品ならびに該層状ベーカリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイ、デニッシュ、クロワッサン等の層状ベーカリー製品は一般的に、油脂層と生地層が交互に存在する層状ベーカリー生地を成形し、成形された層状ベーカリー生地を加熱処理することで得られる。
ここで、デニッシュやクロワッサン等のイーストを含有する生地の場合は、加熱処理前にホイロ工程に供することが行われる。このホイロ工程とは、成形後の層状ベーカリー生地を、適切な温度および湿度条件下で一定時間静置することで発酵させる工程である。このホイロ工程を経ることで、ボリュームがあり、良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる。
【0003】
しかし、このホイロ工程は、適切な温度および湿度を管理するための専用設備や、多くの時間を要するため、層状ベーカリー製品を製造するうえでのボトルネックになりやすい。
ベーカリーの中でも、ベーカリー製品の製造と販売とを同じ場所で行う、いわゆるリテールベーカリーにおいては、ベーカリー製品の製造に使用できるスペースや設備、人力に制限があるため、ホイロ工程の存在が、層状ベーカリー製品の製造効率の低下につながっていた。
【0004】
ここで、単純にホイロ工程を行わずに層状ベーカリー生地を加熱処理すれば、上記スペースや設備、人力不足の問題は生じないが、その場合、層状ベーカリー生地の発酵が十分に行われていないため、加熱処理時に膨化しにくく、得られる層状ベーカリー製品はボリュームがなく、目の詰まった劣った内相となってしまうという問題が生じる。
【0005】
そこで、ホイロ工程を行わずとも、ホイロ工程を経て製造された層状ベーカリー製品のようなボリュームや内相を有した層状ベーカリー製品を得るための方法が検討されてきた。
まず、生地の改良に着目した方法として、例えば、特許文献1には、ヘミセルラーゼと、α-アミラーゼと、乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステルおよび有機酸モノグリセリドとを含有することを特徴とする冷凍積層パン生地用品質向上剤が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ホイロを執らずに、パン生地を成形後直ちに焼成することを特徴とするパンの製造方法が開示されており、具体的には、特定の小麦粉またはα-アミラーゼ等を使用して、焼成時の澱粉の粘度を調整し、さらに特定のグルテンまたはリン脂質等を使用して、タンパク質の固化を調整することで、ホイロを執らずにパンを製造できる方法が記載されている。
【0007】
また、製造方法に着目した方法として、例えば、特許文献3には、パン生地を用いてパンを焼成するパンの焼成方法において、通常の製パン用オーブンを用い、焼成前半に断続的に蒸気を注入することでパン生地のホイロ又は解凍、ホイロを執ることなく焼成することを特徴とするパンの焼成方法が開示されている。
【0008】
特許文献4には、酵母を含有した穀物粉組成物と油脂組成物を用い連続的な多層構造のパン生地を形成し、該パン生地を所望の形状に形成した後、該形成物の最厚部表面に凹みを形成せしめることを特徴とする冷凍パン生地の製造法が開示されている。
【0009】
そして、層状ベーカリー生地に用いられる油脂組成物に着目した方法として、例えば、特許文献5には、ドウの製造に用いるバター類、卵、脱脂粉乳、砂糖等の一部を留保してドウを作製し、第1発酵を行い、留保したバター類、卵、脱脂粉乳、砂糖等よりなるロールイン用バターを調製して、前記第1発酵を行ったドウにロールインして、所定の工程を経て焼成することを特徴とするノーホイロ製パン法が開示されているが、従前行われてきた検討の多くは、生地の改良や製造方法に着目して課題解決を目指した方法であり、層状ベーカリー生地に用いられるロールイン油脂に着目した方法の検討は、ほとんど行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-029118号公報
【特許文献2】特開平3-266931号公報
【特許文献3】特開平6-169682号公報
【特許文献4】WO2011/087152号パンフレット
【特許文献5】特開昭48-023953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従前より検討され開示されてきた方法には、以下のような問題があった。
特許文献1では、酵素を用いているため、層状ベーカリー生地がべたついて、製造時の作業性が悪化したり、得られる層状ベーカリー製品がくちゃついた食感となるという問題があった。
特許文献2では、酵素を使用した場合、製造時の作業性が悪化したり、得られる層状ベーカリー製品がくちゃついた食感となってしまい、酵素を使用しない場合は特定の小麦粉を使用する必要があるため、この方法を適用できる層状ベーカリー製品が制限されるという問題があった。
【0012】
特許文献3は、焼成時に断続的に蒸気を注入するための設備が必要となることに加え、層状ベーカリー生地が濡れすぎないよう、細心の注意を払う必要があるため、労力がかかるという問題があった。
特許文献4は、形状に制限のある層状ベーカリー製品には適用できないという問題があった。
特許文献5は、層状ベーカリー製品の製造時に、使用する原材料の一部を留保し、留保した原材料を用いて別個でロールイン用バターを製造する必要があり、製造工程が煩雑で労力がかかるという問題があった。
【0013】
そして、特許文献1~5によって得られる層状ベーカリー製品のボリュームと内相は、まだ検討の余地があった。
【0014】
従って、本発明の課題は、ホイロ工程を行わずとも、ボリュームがあり、良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる、層状ベーカリー生地およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、これまでほとんど検討が行われてこなかった、層状ベーカリー生地に用いられるロールイン油脂組成物に着目し、鋭意検討を行った結果、特定の条件を満たすロールイン油脂を使用することにより、上記課題を解決できることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいたもので、下記の構成を有するものである。
【0016】
<1>下記条件(1)~条件(5)を全て満たすノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【0017】
<2>さらに下記条件(6)を満たす、<1>に記載のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物。
条件(6):油相を構成するトリグリセリド中のS3、S2m、S2dおよびSm2の含有量の合計が40~75質量%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸残基
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸残基
S3:1分子のグリセリン残基に、3分子のSが結合したトリグリセリド
S2m:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のmとが結合したトリグリセリド
S2d:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のdとが結合したトリグリセリド
Sm2:1分子のグリセリン残基に、1分子のSと、2分子のmとが結合したトリグリセリド
である。
【0018】
<3> <1>または<2>に記載のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20~120質量部、かつ、12~512層で含有することを特徴とするノンホイロ製法用層状ベーカリー生地。
【0019】
<4> <3>に記載のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の加熱処理品である、層状ベーカリー製品。
【0020】
<5>下記条件(1)~条件(5)を全て満たすロールイン油脂組成物を含有する層状ベーカリー生地を得る工程と、
得られた層状ベーカリー生地を、ホイロ工程を経ずに加熱処理する工程とを有する、層状ベーカリー製品の製造方法。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ホイロ工程を行わずとも、ボリュームがあり、良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
本発明のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物は、下記条件(1)~条件(5)を全て満たすことを特徴とするものである。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【0023】
本発明のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物を使用することによって、ホイロ工程を行わずに加熱処理しても、ボリュームがあり、くっきりとした層状構造の良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができる。
【0024】
ここで、本発明における「ホイロ工程」とは、成形した層状ベーカリー生地を、加熱処理する前に発酵させる工程を指す。
ホイロ工程は、イースト等による発酵を伴う層状ベーカリー製品の製造において本来必要不可欠な工程であり、ホイロ工程にて層状ベーカリー生地を十分に発酵させることで、加熱処理時に層状ベーカリー生地が好ましく膨化し、ボリュームがあって、くっきりとした層状構造の良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることが可能となる。一般的に、層状ベーカリー生地のホイロ工程は、70%付近の湿度、30℃付近の温度で行われる。
【0025】
なお、成形よりも前に、層状ベーカリー生地の原材料を混捏して得られるドウや層状ベーカリー生地を、主に生地物性の調整を目的として、室温(20℃)付近で静置する工程である「フロアタイム」や、層状ベーカリー生地を低温で休ませる工程である「リタード」は、上記「ホイロ工程」とは異なるものである。
【0026】
また、本発明における「ノンホイロ製法」とは、上記「ホイロ工程」を行わない製パン方法のことを指す。すなわち、イーストや発酵種等を含むベーカリー生地を成形後、最終発酵を行うことなく焼成やフライなどの加熱処理を行うベーカリー製品の製造方法であり、最近、製造工程が簡便になる、製造時間を短縮できる、人手不足を解消できる、特殊な設備が不要となる等の利点から、リテールベーカリーにおいて広まりつつある。特に、さらなる省力化を目的として、冷凍生地を用いたノンホイロ製法が大きな広がりを見せている。その具体的な例としては、冷凍生地を解凍後そのまま加熱処理する方法や、冷凍生地を解凍することなくそのまま加熱処理する方法などが挙げられる。
【0027】
<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物>
まず、本発明のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物について説明する。以下、単に「本発明のロールイン油脂組成物」と記載することもある。
本発明のロールイン油脂組成物は、上記の条件(1)~条件(5)を全て満たすものである。
【0028】
<<条件(1)>>
条件(1)は、本発明のロールイン油脂組成物が含有する油脂に関する。
本発明のロールイン油脂組成物は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
なお、以下本発明においては、Sは炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を表し、Uは炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基を表し、SUSは1分子のグリセリン残基の1、3位にSがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリドを表す。
【0029】
本発明のロールイン油脂組成物は、油脂(A)と、後述する条件(2)の油脂(B)とをともに含有し、後述の条件(3)~条件(5)を満たすことで、適度な硬さと良好な伸展性を両立することができる。この本発明のロールイン油脂組成物を層状ベーカリー生地に使用すると、ホイロ工程を行わずとも、ボリュームがあって、良好な内相を有する層状ベーカリー製品を得ることができるようになる。
【0030】
この理由は定かではないが、本発明のロールイン油脂組成物が適度な硬さと良好な伸展性を両立することで、層状ベーカリー生地の製造時に、本発明のロールイン油脂組成物が層状ベーカリー生地中で固体のまま存在することができ、特にロールインした場合は、均一でしっかりとした油脂層を形成できる。そのため、加熱処理時に、生地層と生地層とが接着することを抑制し、生地から発生するわずかな水蒸気やガスを油脂層が捉えて膨化できるためだと推察される。
【0031】
本発明のロールイン油脂組成物が油脂(A)を含有しなかった場合、適度な硬さと良好な伸展性を両立することができず、特に硬さが柔らかくなってしまうため、層状ベーカリー生地に使用した際に、生地層と生地層が結着しやすくなり、得られるベーカリー製品のボリュームが小さく、内相も悪化してしまう。
【0032】
本発明のロールイン油脂組成物がより適度な硬さとなり、ホイロ工程を行わずとも、よりボリュームがあって、内相が良好な層状ベーカリー製品が得られやすくなるという観点から、油脂(A)の構成トリグリセリド中のSUSの含有量は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上含有することがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
上記油脂(A)の構成トリグリセリド中のSUSの含有量の上限については、100質量%以下であれば特に制限がないが、層状ベーカリー生地を製造する際に、本発明のロールイン油脂組成物を含有させやすくなり、本発明の効果が得やすくなるという観点から、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
油脂(A)の構成トリグリセリド中のSUSの含有量は、従前知られた方法を用いて測定することができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2(2013)」に記載の方法や、銀イオン-高速液体クロマトグラフ法、あるいはこれらの方法を組み合わせることで測定することができる。
以下、本発明における油脂を構成する各トリグリセリドの含有量の測定方法について同様である。
【0035】
油脂(A)は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂であれば特に制限されないが、例えば、パーム油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核脂、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂およびチャイニーズタロー等の各種植物油脂、ならびにこれらに水素添加および分別から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油脂、該エステル交換油脂に水素添加および分別から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。
【0036】
本発明のロールイン油脂組成物においては、これらの中から選ばれた1種または2種以上の油脂(A)を用いることができる。
上記エステル交換油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、アマニ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、カポック油、ごま油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー、牛脂、乳脂、豚脂、魚油および鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂に必要に応じて水素添加および分別から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂や、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油脂であって、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上であるエステル交換油脂が挙げられる。
【0037】
なお、油脂(A)として用いられる加工油脂を製造するための水素添加、分別、およびエステル交換は、従前知られた方法により行うことができる。
【0038】
分別については溶剤分別であってもよく、界面活性剤分別であってもよく、ドライ分別であってもよい。
また、エステル交換については、リパーゼ等の酵素触媒を用いてもよく、ナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いてもよいが、ランダムエステル交換であることが好ましい。
【0039】
以下、本発明における加工油脂を製造するための水素添加、分別、およびエステル交換について同様である。
【0040】
本発明においては、油脂(A)として、パーム油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核脂、サル脂およびイリッペ脂等の各種植物油脂の分別中部油や分別硬部油から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることが好ましく、カカオ脂分別硬部油、パーム油分別硬部油、パーム油分別中部油、シア脂分別硬部油およびコクム脂分別硬部油から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることがより好ましく、パーム油分別硬部油、パーム油分別中部油およびシア脂分別硬部油から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることがさらに好ましく、パーム油分別硬部油を用いることが最も好ましい。上記油脂を用いることで、ホイロ工程を経ない場合の内相及びボリュームに一層優れるためである。
本発明のロールイン油脂組成物における油脂(A)の含有量は、本発明のロールイン油脂組成物の油脂中30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、45~75質量%であることがさらに好ましい。上記範囲とすることで、ホイロ工程を経ない場合の内相及びボリュームに一層優れるためである。
【0041】
<<条件(2)>>
条件(2)も、本発明のロールイン油脂組成物が含有する油脂に関する。
本発明のロールイン油脂組成物は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
【0042】
本発明のロールイン油脂組成物は、上述の油脂(A)とともに油脂(B)を含有し、後述する条件(3)~条件(5)を満たすことで、適度な硬さと良好な伸展性を両立することができ、本発明のロールイン油脂組成物を使用することで、ホイロ工程を行わずとも、ボリュームと内相が良好な層状ベーカリー製品を得ることができるようになる。
【0043】
本発明のロールイン油脂組成物が油脂(B)を含有しなかった場合、適度な硬さと良好な伸展性を両立することができず、特に良好な伸展性が得られないため、層状ベーカリー生地に使用した際に、得られる層状ベーカリー製品のボリュームが小さく、内相も悪化してしまう。
【0044】
油脂(B)は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂であれば特に制限されないが、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油およびごま油等が挙げられる。
【0045】
また、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、マンゴー核脂、乳脂、牛脂、豚脂、カカオ脂、魚油および鯨油等の、20℃において固体である油脂を分別することで得られた軟部油であって、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂も用いることができる。
【0046】
さらに、これらの油脂に対し、水素添加、分別、およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施して得られる加工油脂についても、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状であれば用いることができる。
【0047】
本発明のロールイン油脂組成物においては、これらの中から選ばれた1種または2種以上の油脂(B)を用いることができる。
本発明のロールイン油脂組成物の伸展性がより良好なものとなり、ホイロ工程を行わずとも、よりボリュームがあって、内相が良好な層状ベーカリー製品を得られやすくなるという観点から、油脂(B)として、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油およびごま油から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることが好ましく、大豆油、菜種油、綿実油、オリーブ油、米油、ひまわり油およびハイオレイックひまわり油から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることがより好ましい。
【0048】
油脂(B)は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましい。なお、下限値は0質量%である。
【0049】
本発明のロールイン油脂組成物における油脂(B)の含有量は、本発明のロールイン油脂組成物の油脂中5~55質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましく、15~55質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のロールイン油脂組成物においては、本発明の効果が得られやすくなるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物の油脂中の、油脂(A)および油脂(B)の合計含有量が、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましく、99~100質量%であることが最も好ましい。
【0051】
また、本発明のロールイン油脂組成物に含有される油脂(A)と油脂(B)との質量比は、上記油脂(A)の好ましい含有量および油脂(B)の好ましい含有量を満たしたうえで、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)を0.1~1.5質量部含有することが好ましく、0.2~1.2質量部含有することがより好ましく、0.3~1.0質量部含有することがさらに好ましい。
【0052】
<<条件(3)>>
条件(3)は、本発明のロールイン油脂組成物の0℃における固体脂含量に関する。
以下、本明細書においては、「○℃における固体脂含量」を「SFC-○℃」とも記載する。
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-0℃が40~90%であることが必要である。
【0053】
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-0℃が上記数値範囲を満たすことで、リタードを行う温度付近において多くの油脂結晶が存在し、本発明のロールイン油脂組成物が層状ベーカリー生地中で適度な硬さを維持したまま存在できる。特に、本発明のロールイン油脂組成物をロールインした場合は、しっかりとした均一な油脂層を維持することができる。よって、生地層と生地層が接着することなく、加熱処理時に膨化できるため、ホイロをせずとも優れた内相及びボリュームを得ることができるようになる。
【0054】
本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物のSFC-0℃は、43~80%であることが好ましく、45~70%であることがより好ましく、48~60%であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明のロールイン油脂組成物の固体脂含量(以下、「固体脂含量」を「SFC」とも記載する。)の測定方法は、従前知られた方法を用いることができ、例えば、アステック株式会社製「SFC-2000R」を用いて、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0056】
本発明においては、得られた0℃におけるSFCの測定値を、本発明のロールイン油脂組成物の油相量に換算し、その値をSFC-0℃とする。すなわち、本発明のロールイン油脂組成物が水相を含まない場合は、測定値をそのまま本発明のロールイン油脂組成物のSFC-0℃とし、水相を含む場合は、測定値を本発明のロールイン油脂組成物の油相量に換算した値を、本発明のロールイン油脂組成物のSFC-0℃とする。
【0057】
なお、本発明のロールイン油脂組成物の油相とは、後述する本発明のロールイン油脂組成物の油脂とその他の原材料に含まれる油溶性成分を合わせたものである。
以下、本発明における他の油脂や油脂組成物のSFCの測定についても同様である。また、他の温度におけるSFCの測定についても、上記測定方法におけるSFCの測定温度を変更する以外は同様の方法により測定することができる。
【0058】
<<条件(4)>>
条件(4)は、本発明のロールイン油脂組成物の20℃におけるSFCに関する。
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-20℃が25~75%であることが必要である。
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-20℃が上記数値範囲を満たすことで、20℃において液状である油脂(B)を含有しているにも関わらず、本発明のロールイン油脂組成物を層状ベーカリー生地に使用する際の温度である20℃付近においても、層状ベーカリー生地中で適度な硬さを維持することができる。特に、ロールインした場合は、伸展性が良く、しっかりとした均一な油脂層を形成することができる。よって、本発明の層状ベーカリー生地はホイロをせずとも優れた内相及びボリュームを得ることができるようになる。
【0059】
本発明の効果がより好ましく得られるようになるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物のSFC-20℃は、28~70%であることが好ましく、30~62%であることがより好ましく、33~55%であることがさらに好ましい。
【0060】
<<条件(5)>>
本発明のロールイン油脂組成物が満たす条件(5)は、35℃におけるSFCに関する。
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-35℃が8~60%であることが必要である。
【0061】
本発明のロールイン油脂組成物は、SFC-35℃が上記数値範囲を満たすことで、層状ベーカリー生地の製造工程全体において、本発明のロールイン油脂組成物が溶け出したりすることなく、適度な硬さと良好な伸展性を維持することができるため、ホイロをせずとも優れた内相及びボリュームを得ることができるようになる。
本発明のロールイン油脂組成物が適度な硬さと良好な伸展性を有し、層状ベーカリー生地中でしっかりとした油脂層を形成して、本発明の効果がより好ましく得られるようになるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物のSFC-35℃は、10~55%であることが好ましく、12~45%であることがより好ましく、15~40%であることがさらに好ましい。
【0062】
<<条件(6)>>
本発明のロールイン油脂組成物は、上記条件(1)~条件(5)を全て満たしたうえで、下記条件(6)を満たすことが好ましい。
条件(6):油相を構成するトリグリセリド中のS3、S2m、S2dおよびSm2の含有量の合計が40~75質量%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
m:炭素数16~18のモノ不飽和脂肪酸残基
d:炭素数16~18のポリ不飽和脂肪酸残基
S3:1分子のグリセリン残基に、3分子のSが結合したトリグリセリド
S2m:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のmとが結合したトリグリセリド
S2d:1分子のグリセリン残基に、2分子のSと、1分子のdとが結合したトリグリセリド
Sm2:1分子のグリセリン残基に、1分子のSと、2分子のmとが結合したトリグリセリド
である。
【0063】
本発明のロールイン油脂組成物が、上記条件(1)~条件(5)を全て満たしたうえで条件(6)を満たすと、本発明のロールイン油脂組成物を使用する際に油脂結晶が多く存在して、より適度な硬さとなるため、層状ベーカリー生地中に固体のまま存在しやすくなる。特に、ロールインした場合は、層状ベーカリー生地中でしっかりとした均一な油脂層を形成できる。結果として、ホイロ工程を行わずとも、良好なボリュームと内相を有する層状ベーカリー製品が得られやすくなる。
【0064】
本発明の効果がより好ましく得られるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物の油相を構成するトリグリセリド中のS3、S2m、S2dおよびSm2の含有量の合計は、45~70質量%であることがより好ましく、50~65質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
<<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の油脂>>
本発明のロールイン油脂組成物は、上記条件(1)~条件(5)を全て満たしていれば、上記油脂(A)および油脂(B)に加えて、その他の油脂を含有してもよい。
本発明のロールイン油脂組成物に用いられるその他の油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、アマニ油、落花生油、米油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、カポック油、ごま油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動植物油脂、ならびにこれらに水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂のうち、油脂(A)および油脂(B)以外のものを使用することができる。本発明のロールイン油脂組成物は、これらの中から選ばれた1種または2種以上のその他の油脂を用いることができる。
【0066】
本発明のロールイン油脂組成物のその他の油脂の含有量は、本発明のロールイン油脂組成物の油脂中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。なお、その他の油脂の含有量の下限値は0質量%である。
【0067】
伸展性が悪化して、層状ベーカリー生地に含有させにくくなり、本発明の効果が得られなくなることを抑制するという観点から、本発明のロールイン油脂組成物の油脂における極度硬化油の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。
【0068】
なお、本発明における極度硬化油とは、食用油脂に対し、ヨウ素価が5以下、好ましくは3以下となるまで水素添加することで得られる油脂を指す。
本発明における油脂のヨウ素価は、従前知られた方法を用いて測定することができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.4.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0069】
また、本発明の効果が得られにくくなることを抑制するという観点から、本発明のロールイン油脂組成物の油脂におけるエステル交換油脂の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが良い好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが最も好ましい。
【0070】
本発明のロールイン油脂組成物がより適度な硬さになりやすく、本発明のロールイン油脂組成物を使用することで、ホイロ工程を行わずとも、ボリュームと内相が良好な層状ベーカリー製品を得やすくなるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物は、油相の上昇融点が40~60℃であることが好ましく、43~55℃であることがより好ましい。
本発明のロールイン油脂組成物の油相の上昇融点は、従前知られた方法を用いて測定することができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.4.2(1996)」に記載の方法で測定することができる。
【0071】
また、本発明のロールイン油脂組成物の硬さが経日的に変化してしまうことを抑制することで、適度な硬さと良好な伸展性が維持され、本発明の効果が好ましく得られるようになるという観点から、本発明のロールイン油脂組成物は、油相の結晶形がβ型であることが好ましい。
本発明のロールイン油脂組成物の油相の結晶形を確認するためには、例えば、5℃で24時間保管した本発明のロールイン油脂組成物を、2θ:17~26度の範囲でX線回析を実施し、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回析線が得られた場合、本発明のロールイン油脂組成物の油相の結晶形がβ型であることが確認される。
【0072】
本発明のロールイン油脂組成物の油脂の含有量は、ロールイン油脂組成物中35~100質量%であることが好ましく、40~95質量%であることがより好ましく、45~90質量であることがさらに好ましい。
なお、上記本発明のロールイン油脂組成物の油脂の含有量は、油脂と、後述する本発明のロールイン油脂組成物のその他の原材料に含まれる油脂も加算した値である。
【0073】
<<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の水分>>
本発明のロールイン油脂組成物は、必要に応じて水分を含有してもよい。
本発明のロールイン油脂組成物が含有する水分としては、例えば、水道水やミネラルウォーター等の水や、後述する本発明のロールイン油脂組成物のその他の原材料に含まれる水分が挙げられる。
本発明のロールイン油脂組成物の水分量は、本発明のロールイン油脂組成物中0~65質量%であることが好ましく、5~60質量%であることがより好ましく、10~55質量%であることがさらに好ましい。
【0074】
本発明のロールイン油脂組成物が水分を含む場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、および二重乳化型のいずれでも構わないが、油中水型であることが好ましい。
【0075】
<<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物のその他の原材料>>
本発明のロールイン油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて上記油脂および水分以外のその他の原材料を含んでいてもよい。
【0076】
本発明のロールイン油脂組成物に用いられるその他の原材料としては、例えば、乳化剤、増粘安定剤、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白・大豆蛋白等の蛋白素材、澱粉類、加工澱粉、卵および各種卵加工品、着香料、乳や乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、植物乳、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類および魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0077】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の、合成乳化剤でない乳化剤が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
乳化剤を用いる場合、風味への影響や乳化安定性の観点から、その含有量は本発明のロールイン油脂組成物中0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.2~2.0質量%であることが特に好ましい。
【0079】
上記増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0080】
上記増粘安定剤を用いる場合、その含有量は本発明のロールイン油脂組成物中10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。なお、含有量の下限値は0質量%である。
【0081】
上記糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、含蜜糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、きび砂糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖、多糖等が挙げられる。
【0082】
上記糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等が挙げられる。
【0083】
上記高甘味度甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
【0084】
本発明のロールイン油脂組成物のその他の原材料の含有量は、固形分として、本発明のロールイン油脂組成物中0~20質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましい。
【0085】
<<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の製造方法>>
本発明のロールイン油脂組成物の製造方法は特に制限されず、従前知られたロールイン油脂組成物の製造方法と同様にして製造することができる。
以下に、本発明のロールイン油脂組成物の製造方法の好ましい一様態として、本発明のロールイン油脂組成物の乳化形態が油中水型である場合の好ましい製造方法を示す。
【0086】
まず、本発明のロールイン油脂組成物の油脂を加熱融解させ、混合し、必要に応じて油溶性の本発明のロールイン油脂組成物のその他の原材料を投入してさらに混合し、上記条件(1)~条件(5)を全て満たす油相、好ましくは上記条件(1)~条件(6)をすべて満たす油相を得る。
次に、水に、必要に応じて水溶性の本発明のロールイン油脂組成物のその他の原材料を投入して混合し、水相を得る。
【0087】
上記油相に、上記水相を投入して混合し、油中水型の予備乳化物を得る。
得られた油中水型の予備乳化物は、殺菌処理をすることが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、更に好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なってもよい。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、更に好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0088】
次に、得られた油中水型の予備乳化物を冷却し結晶化させることによって、好ましくは冷却可塑化させることによって、乳化形態が油中水型である本発明のロールイン油脂組成物が得られる。
冷却は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機や、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせ等により行うことができる。
可塑化は、例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で捏和することにより行うことができる。
冷却条件は、急速冷却であっても、緩慢冷却であっても構わないが、急速冷却であることが好ましい。なお、本発明における急速冷却とは、-1℃/分以上の冷却速度での冷却を指し、緩慢冷却とは、-1℃/分未満の冷却速度での冷却を指す。
【0089】
また、油相の結晶形がβ型である本発明のロールイン油脂組成物を容易に得られるという観点から、上記冷却可塑化の冷却は、好ましくは-20℃/分以上の冷却速度、より好ましくは-10℃/秒以上の冷却速度で行い、その後、可塑化までの間にエージング工程をとることが好ましい。
【0090】
なお、エージングとは、所定温度で所定時間、静置状態で保持する工程である。エージングは少なくとも結晶が析出した状態で30分以上であればよいが、首尾よくβ型結晶が得られるという観点から、10~30℃で30~240分行うことが好ましく、15~25℃で30~180分行うことがより好ましく、15~25℃で30~90分行うことがさらに好ましい。
【0091】
また、本発明のロールイン油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、含気させなくてもよい。
得られた本発明のロールイン油脂組成物は、任意の形状に成型してもよいが、本発明においては、層状ベーカリー生地の製造に使用しやすくなるという観点から、シート状に成形することが好ましい。
シート状に成形する場合の好ましい形状は、縦:50~1000mm、横:50~1000mm、厚さ:1~50mmである。
本発明のロールイン油脂組成物は、20℃において可塑性を有することが好ましい。
【0092】
<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地>
次に、本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地について説明する。以下、単に「本発明の層状ベーカリー生地」と記載することもある。
本発明の層状ベーカリー生地は、本発明のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20~120質量部、かつ、12~512層で含有することを好適な特徴とするものであり、より好ましくは、本発明の層状ベーカリー生地の原材料を混捏したドウに、本発明のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20~120質量部、かつ、12~512層で含有させたものであって、加熱処理することで層状ベーカリー製品となるものである。
【0093】
本発明の層状ベーカリー生地の種類は、本発明のロールイン油脂組成物を上記含有量および層数で含有していれば特に制限されず、例えば、パイ生地、デニッシュ生地、クロワッサン生地、パイドーナツ生地、デニッシュドーナツ生地、タルト生地等が挙げられる。
【0094】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の澱粉類>>
本発明の層状ベーカリー生地は、澱粉類を含有する。
本発明における澱粉類としては、例えば、強力粉・準強力粉・中力粉・薄力粉・デュラム粉・全粒粉等の小麦粉類、ライ麦・大麦粉・米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉・へーゼルナッツ粉・カシューナッツ・オーナッツ粉・松実粉等の堅果粉、コーンスターチ・タピオカ澱粉・小麦澱粉・甘藷澱粉・サゴ澱粉・米澱粉等の澱粉ならびにこれらの澱粉に酵素処理・α化処理・分解処理・エーテル化処理・エステル化処理・架橋処理・グラフト化処理等から選択される1種または2種以上の処理を施した加工澱粉等が挙げられる。本発明の層状ベーカリー生地においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の澱粉類を用いることができる。
なお、本発明においては、用いる澱粉類中好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%が小麦粉類であることが好ましい。
【0095】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地のロールイン油脂組成物>>
本発明の層状ベーカリー生地は、本発明のロールイン油脂組成物を含有する。本発明のロールイン油脂組成物の詳細は、上述の通りである。
本発明の層状ベーカリー生地における、本発明のロールイン油脂組成物の含有量は、本発明の層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、20~120質量部であることが好適であり、30~110質量部であることがより好ましく、45~100質量部であることがさらに好ましく、55~90質量部であることが特に好ましい。
【0096】
以下、本発明の層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対する各原材料の含有量を、「対粉○質量部」と記載する。
加えて、本発明の層状ベーカリー生地は、本発明のロールイン油脂組成物を12~512層で含有することが好適である。ホイロ工程を行わずとも、ボリュームがあって、内相が良好な層状ベーカリー製品が得られやすくなるという観点から、本発明の層状ベーカリー生地は、本発明のロールイン油脂組成物を27~216層で含有することがより好ましく、36~144層で含有することがさらに好ましい。
【0097】
上記層数が12層以上であると、得られる層状ベーカリー製品は、ボリュームがあり、均一な層構造を有した、内相が良好なものとなる。層数が512層以下であると、得られる層状ベーカリー製品が嵩落ちしてボリュームがなくなることを抑制することができる。また、層構造が不均一で不良な内相となることを抑制することができる。
【0098】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の水分>>
本発明の層状ベーカリー生地は水分を含有する。
本発明の層状ベーカリー生地が含有する水分としては、水や、後述する本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料に含まれる水分が挙げられる。
本発明の層状ベーカリー生地の水分含有量は、対粉20~120質量部であることが好ましく、対粉25~100質量部であることがより好ましく、対粉30~90質量部であることがさらに好ましい。なお、上記本発明の層状ベーカリー生地の水分含有量は、水と、後述する本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料に含まれる水分も加算した値である。
【0099】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の発酵用微生物>>
本発明の層状ベーカリー生地は、発酵用微生物(発酵に使用するための微生物)を含有し、好ましくはイースト(生イースト、ドライイースト等)を含有する。なお、イーストに代えて、発酵用微生物として、乳酸菌や麹菌、あるいは発酵種を用いることも可能である。
発酵用微生物としてイーストを用いる場合、本発明の層状ベーカリー生地におけるイーストの含有量は、特に制限されるものではないが、対粉0.5~10.0質量部であることが好ましい。特に、生イーストの場合は、対粉1.5~10.0質量部であることが好ましく、ドライイーストの場合は、対粉0.5~4.0質量部であることが好ましい。
【0100】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地のその他の原材料>>
本発明の層状ベーカリー生地は、必要に応じて、澱粉類、本発明のロールイン油脂組成物、水分、発酵用微生物以外に、本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料を含有してもよい。
本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料としては、一般的なベーカリー生地に用いられる原材料であれば特に制限されず、例えば、本発明のロールイン油脂組成物以外の油脂や油脂組成物、イーストフード、乳化剤、増粘安定剤、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白・大豆蛋白等の蛋白素材、卵および各種卵加工品、着香料、乳や乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、膨張剤、果実、果汁、植物乳、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、豆類、野菜類、肉類および魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0101】
本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料は、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができるが、その含有量は固形分として、対粉100質量部以下であることが好ましく、対粉80質量部以下であることがより好ましい。なお、下限値は対粉0質量部である。
【0102】
<<ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の製造方法>>
次に、本発明の層状ベーカリー生地の製造方法について説明する。
本発明の層状ベーカリー生地は、本発明のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して20~120質量部、かつ、12~512層で含有することが好ましく、一般的な層状ベーカリー生地の製造方法を用いて製造することができる。以下に、本発明の層状ベーカリー生地の製造方法の好ましい一様態を示す。
【0103】
まず、澱粉類と、水分、発酵用微生物、必要に応じて本発明の層状ベーカリー生地のその他の原材料を混捏してドウを得る。
得られたドウに、本発明のロールイン油脂組成物を、層状ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して好ましくは20~120質量部、かつ、12~512層で含有させることで、本発明の層状ベーカリー生地を製造することができる。
【0104】
得られたドウに本発明のロールイン油脂組成物を含有させる方法は、ロールインして含有させることが好ましい。
ここで、得られたドウに本発明のロールイン油脂組成物をロールインする方法は特に制限されず、例えば、得られたドウに本発明のロールイン油脂組成物を積載し、包み込み、圧延、折り畳みする方法や、連続ラインでラミネーター方式を用いてロールインする方法、あるいは、得られたドウをシート状に成型したものと、シート状の本発明のロールイン油脂組成物を重ねた生地を一定の大きさに切断し、それらを積層する方法、さらにはブロック状の本発明のロールイン油脂組成物をファットポンプ等で送り出し、連続的にシート状にして、シート状に成形したドウの上に合わせていく方法、小片状に成形した本発明のロールイン油脂組成物を添加して混合後、折り畳みする方法などを挙げることができる。
【0105】
なお、上記折り畳み操作やラミネートする際には、リバースシーターやラミネーター等、通常の装置を用いることができる。
上記本発明の層状ベーカリー生地の製造方法においては、必要に応じて、任意のタイミングでフロアタイムやリタード等を行ってもよい。
【0106】
また、得られた本発明の層状ベーカリー生地は、必要に応じ、分割、丸め、延展、打ち抜き、型入れ等の成形工程を行ってもよく、成形工程を行わずに冷蔵や冷凍してもよく、成形工程後に冷蔵や冷凍してもよい。
【0107】
本発明においては、ノンホイロ製法を用いる目的である省力化に効果的であり、本発明の背景に合致するという観点や、層状ベーカリー製品の形状を安定化させるという観点から、本発明の層状ベーカリー生地は、成形工程後に冷凍した成形冷凍生地とすることが好ましい。
このようにして得られた本発明の層状ベーカリー生地は、ノンホイロ製法に使用することができる。
【0108】
<層状ベーカリー製品>
次に、本発明の層状ベーカリー製品について説明する。
本発明の層状ベーカリー製品は、上記本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の加熱処理品である。詳しくは、上記本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地をホイロ工程を経ることなく加熱処理して得られた加熱処理品である。
【0109】
本発明の層状ベーカリー製品を得るための加熱処理は、一般的な調理で行われる加熱処理であれば特に制限されず、例えば、焼成、フライ、蒸し、電子レンジによる加熱等を挙げることができ、1種または2種以上の加熱処理を組み合わせて行ってもよい。
加熱処理の温度や時間は特に限定されず、製造する層状ベーカリー製品に応じて任意に設定することができるが、加熱処理の温度については、例えば、焼成の場合は100~250℃で行うことが好ましく、120~200℃で行うことがより好ましく、フライの場合は120~250℃で行うことが好ましく、140~220℃で行うことがより好ましく、蒸しの場合は50~100℃で行うことが好ましく、70~100℃で行うことがより好ましい。
【0110】
ここで、本発明の層状ベーカリー製品を得る際に、成形冷凍された本発明の層状ベーカリー生地を用いる場合は、解凍してから加熱処理を行ってもよく、解凍せずに加熱処理を行ってもよいが、生焼けとなることを防ぎ、本発明の効果が好ましく得られやすくなるという観点から、解凍してから加熱処理を行うことが好ましい。
【0111】
上記解凍は、5~40℃で行うことが好ましく、10~30℃で行うことがより好ましい。解凍時間は、任意の時間を設定することができ、例えば、10分~24時間行うことが好ましい。
また、本発明の層状ベーカリー製品は、製造後に冷蔵や冷凍して保管してもよく、また、保管後に再度加熱処理を行ってもよい。
さらに、本発明の層状ベーカリー製品は、チョコレートコーティング、グレーズ、バタークリーム、生クリーム、カスタードクリーム、ジャム、マヨネーズ、フラワーペースト等をサンドしたり、トッピングしたりしてもよい。
【0112】
<層状ベーカリー製品の製造方法>
次に、本発明の層状ベーカリー製品の製造方法について説明する。
本発明の層状ベーカリー製品の製造方法は、下記条件(1)~条件(5)を全て満たすロールイン油脂組成物を含有する層状ベーカリー生地を得る工程と、
得られた層状ベーカリー生地を、ホイロ工程を経ずに加熱処理する工程とを有するものである。
条件(1):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%以上である油脂(A)を含有する。
条件(2):構成トリグリセリド中のSUSの含有量が15質量%未満であり、20℃において液状である油脂(B)を含有する。
条件(3):0℃における固体脂含量(SFC-0℃)が40~90%である。
条件(4):20℃における固体脂含量(SFC-20℃)が25~75%である。
条件(5):35℃における固体脂含量(SFC-35℃)が8~60%である。
ただし、
S:炭素数16~18の飽和脂肪酸残基
U:炭素数16~18の不飽和脂肪酸残基
SUS:1分子のグリセリン残基の1、3位に、Sがそれぞれ1分子ずつ結合し、2位にUが1分子結合したトリグリセリド
である。
【0113】
本発明の層状ベーカリー製品の製造方法は、ホイロ工程を行わなくとも、ボリュームがあり、内相が良好な層状ベーカリー製品を得ることができるという特徴を有する。
なお、本発明の層状ベーカリー製品の製造方法における、上記条件(1)~条件(5)を全て満たすロールイン油脂組成物、層状ベーカリー生地、および層状ベーカリー製品の詳細については、上述の通りである。
【実施例0114】
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により、何ら制限されるものではない。
【0115】
<本発明の実施例に用いた油脂>
(パーム油分別硬部油)
パーム油を、常法に則って分別して得られた硬部油を用いた。
本発明の実施例に用いたパーム油分別硬部油は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が34.1質量%であった。
本発明の実施例に用いたパーム油分別硬部油は、本発明の油脂(A)にあたる。
【0116】
(シア脂分別硬部油)
シア脂を、常法に則って分別して得られた硬部油を用いた。
本発明の実施例に用いたシア脂分別硬部油は、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が82.6質量%であった。
本発明の実施例に用いたシア脂分別硬部油は、本発明の油脂(A)にあたる。
【0117】
(菜種油)
本発明の実施例に用いた菜種油の構成トリグリセリド中のSUSの含有量は1質量%以下であり、20℃において液状であった。
本発明の実施例に用いた菜種油は、本発明の油脂(B)にあたる。
【0118】
(エステル交換油脂(1))
パーム油分別軟部油100質量部に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が10.9質量%であるエステル交換油脂(1)を得た。エステル交換油脂(1)は、20℃において液状ではなかった。
【0119】
(エステル交換油脂(2))
パーム油65質量部と、パーム極度硬化油35質量部とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、構成トリグリセリド中のSUSの含有量が14.3質量%であるエステル交換油脂(2)を得た。エステル交換油脂(2)は、20℃において液状ではなかった。
【0120】
<ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の製造>
表1に示した割合で油脂を配合して混合油脂とし、下記のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の製造方法で、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)を得た。なお、表1中の油脂の割合は質量部である。
また、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)の油相の、0℃、20℃、35℃それぞれにおけるSFC、および、油相を構成するトリグリセリド中のS3、S2m、S2dおよびSm2の合計量、油相の上昇融点を表1に示した。
【0121】
(ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の製造方法)
上記混合油脂81質量部に乳化剤1質量部を添加し、70℃で加温溶解させて油相を得た。この油相に、水18質量部を添加して混合し、油中水型の予備乳化物を得た。予備乳化物を殺菌処理した後、クーリングドラムを使用して-40℃/秒の冷却速度で-6℃まで急冷固化させ、20℃で60分間エージングしたのち、コンプレクターを使用して可塑化し、油中水型のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)を得た。得られたノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)の油相の結晶形はβ型であった。なお、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(G)が、本発明のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物にあたる。
また、以下のベーカリー試験においては、上記得られたノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)を、厚さ8mm、幅200mm、長さ400mmのシート状に成形したものを用いた。
【0122】
【表1】
【0123】
[ベーカリー試験1]
下記のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地および層状ベーカリー製品の製造方法で、実施例1~7および比較例1~4の、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地およびデニッシュを得た。
得られたデニッシュについて、製造後20℃で1日間保管後に、比容積を測定し、下記評価基準に従ってボリュームの評価を行った。また、下記評価基準に従って、目視により内相の評価も行った。ボリュームの評価および内相の評価で、ともに○以上の評価を得たものを合格とした。
【0124】
(ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の製造方法)
表2に記載の配合のうち、ショートニング以外の原材料をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーで低速で5分間ミキシングした。ここにショートニングを投入し、さらに低速で5分間ミキシングしてドウを得た。この時の捏ね上げ温度は18℃であった。
このドウを室温(20℃)で静置し、20分間のフロアタイムをとった後、2℃の冷蔵庫内で2時間リタードした。リタード後、シート状のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(A)~(K)を、ドウに含まれる小麦粉100質量部に対し60質量部だけ積置し、リバースシーターを用いて常法によりロールイン(3つ折り2回)し、その後2℃の冷蔵庫内で1時間リタードした。リタード後、リバースシーターを用いて常法により3つ折りを1回、4つ折りを1回し、ロールイン油脂組成物の層数(ロールイン油脂の折り込み層数)が108層である、実施例1~7および比較例1~4のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を得た。
【0125】
【表2】
【0126】
(層状ベーカリー製品の製造方法)
上記により得られた実施例1~7および比較例1~4のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を、2℃の冷蔵庫内で1時間リタードした後、リバースシーターを用いて厚さ4.0mmになるように最終圧延を行い、80mm角の正方形に生地を切り出して成形した。これを展板上に並べ、室温(20℃)で60分間休ませた後、ホイロ工程を行わずに、200℃に設定したオーブンで18分間焼成し、実施例1~7および比較例1~4のデニッシュを得た。
【0127】
<ベーカリー試験の評価基準>
(ボリュームの評価基準)
◎:比容積が5.7以上である。
○+:比容積が5.0以上5.7未満である。
○:比容積が4.2以上5.0未満である。
△:比容積が3.5以上4.2未満である。
×:比容積が3.5未満である。
【0128】
(内相の評価基準)
◎:均一でくっきりとした層状の構造を有しており、非常に良好な内相であった。
○+:少しまばらではあるがくっきりとした層状の構造を有しており、良好な内相であった。
○:層状の構造がまばらになっている箇所があるが問題ない程度であった。
△:やや目が詰まっていて層状の構造があまりみられず、やや不良な内相であった。
×:全体的に目が詰まってパン目となっており、不良な内相であった。
【0129】
実施例1~7および比較例1~4のデニッシュのボリュームと内相の評価結果を、表3に示した。
本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地である、実施例1~7のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を焼成して得られたデニッシュは、ホイロ工程を行っていないにも関わらず、ボリュームがあり、良好な内相を有していた。特に実施例2および実施例3のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(B)および(C)を含有させる際に、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の伸展性がよく、非常にロールインされやすかった。そして、焼成して得られたデニッシュも、他の実施例のデニッシュよりもボリュームがあり、くっきりとした層状の構造の内相を有していた。
なお、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(E)の0℃、20℃、35℃における固体脂含量が、他の実施例よりも高い実施例5のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、やや硬く、油脂層がやや厚く、得られたデニッシュのボリュームと内相がやや劣っていたが、問題のない程度であった。
【0130】
対して、ロールイン油脂組成物の0℃および20℃における固体脂含量がそれぞれ40%未満及び25%未満である比較例1のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(H)の伸展性は良いが、適度な硬さを有しておらず、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地中で均一な油脂層を形成できず、生地層と生地層とが接着してしまい、デニッシュのボリュームが小さく、内相も不良なものとなってしまった。
ロールイン油脂組成物の20℃および35℃における固体脂含量がそれぞれ75%超及び60%超である比較例2のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、硬すぎて伸展性が悪く、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地中の油脂層が厚くなりすぎて、内相が不良なものとなっていた。
【0131】
ロールイン油脂組成物が油脂(A)を含有しない比較例3のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(J)の伸展性は良いが、ロールイン時の温度付近で適度な硬さが得られず、均一な油脂層が形成できなかった。そして、得られたデニッシュもボリュームと内相が劣ったものとなっていた。
【0132】
ロールイン油脂組成物が油脂(A)および油脂(B)を含有しない比較例4のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、最も結果が良好な実施例2及び3の油脂組成物に比して20℃のSFCは低いにも関わらず、硬く、伸展性が非常に悪く、生地中で均一な油脂層が形成できなかった。得られたデニッシュはある程度のボリュームはあるが、パン目となり劣った内相であった。
【0133】
【表3】
【0134】
[ベーカリー試験2]
ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(B)を用い、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地におけるノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物の含有量を変えた以外は、ベーカリー試験1と同様の配合、製造方法で、実施例8および実施例9のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地およびデニッシュを得た。
得られたデニッシュのボリュームと内相について、ベーカリー試験1と同様に評価した。
実施例2、実施例8、実施例9のデニッシュのボリュームと内相の評価結果を、表4に示した。
上記実施例すべてで、ボリュームがあり、良好な内相のデニッシュが得られ、特に、ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(B)の含有量が対粉60質量部である、実施例2のデニッシュが、最もボリュームがあり、良好な内相を有していた。これは、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地のノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物含有量が多いことで、生地層と生地層の接着を防ぎ、好ましく膨化することができたためだと推察される。
【0135】
【表4】
【0136】
[ベーカリー試験3]
ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(B)を用い、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の層数を変えた以外は、ベーカリー試験1と同様の配合、製造方法で、実施例10~12のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地およびデニッシュを得た。
得られたデニッシュのボリュームと内相について、ベーカリー試験1と同様に評価した。
実施例2および実施例10~12のデニッシュのボリュームと内相の評価結果を、表5に示した。
上記実施例すべてで、ボリュームがあり、良好な内相のデニッシュが得られた。特に、実施例2と実施例11のデニッシュは、他の実施例のデニッシュと比較してボリュームがあるものとなっていた。この結果から、本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地の層数には、本発明の効果がより好ましく得られる数値範囲が存在することが知得された。
【0137】
【表5】
【0138】
[ベーカリー試験4]
ノンホイロ製法用ロールイン油脂組成物(B)を用いてベーカリー試験1と同様の配合、製造方法でノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を得た。得られたノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を、ベーカリー試験1と同様に成形した後、冷凍庫で-20℃7日間冷凍し、成形冷凍生地とした。成形冷凍生地としたノンホイロ製法用層状ベーカリー生地を、実施例13は解凍を行わず、実施例14は冷凍庫から冷蔵庫に移して、5℃で2時間解凍し、実施例15は冷凍庫から取り出して室内に置き、20℃で2時間解凍し、ホイロ工程を行わずに、200℃に設定したオーブンで18分間焼成し、実施例13~15のデニッシュを得た。
【0139】
実施例13~15のデニッシュのボリュームと内相の評価結果を、表6に示した。
実施例13~15の結果より、成形冷凍生地とした本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地から層状ベーカリー製品を製造したとしても、好ましく本発明の効果が得られることが知得された。さらに、成形冷凍生地とした本発明のノンホイロ製法用層状ベーカリー生地は、解凍せずに焼成しても、解凍してから焼成しても、本発明の効果が得られるが、解凍せずに焼成した場合、ノンホイロ製法用層状ベーカリー生地に火が通りにくいため、解凍してから焼成した場合と比較してボリュームと内相が劣るが、問題ない程度であることが知得された。
【0140】
【表6】