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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129692
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G01B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039048
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】前田 邦博
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA51
2F062AA66
2F062CC03
2F062CC10
2F062DD02
2F062DD32
2F062EE01
2F062EE62
2F062FF02
(57)【要約】
【課題】 触針部又は検出器等の測定装置の構成部材(測定部)の一部を交換した場合でも、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することができる測定装置を提供する。
【解決手段】 測定装置(1)は、測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部(14)を含む検出器(10)と、触針部による測定時の温度を測定する温度計(80)と、触針部の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを保持する温度補正パラメータ保持部(108)と、測定に使用した触針部の種類を検出し、触針部の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを温度補正パラメータ保持部から取得し、温度補正パラメータに基づいて測定の結果を補正する温度補正部(102)とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、前記測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部を含む検出器と、
前記触針部による測定時の温度を測定する温度計と、
前記触針部の種類と、前記温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを保持する温度補正パラメータ保持部と、
前記測定に使用した前記触針部の種類を検出し、前記触針部の種類と、前記温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを前記温度補正パラメータ保持部から取得し、前記温度補正パラメータに基づいて前記測定の結果を補正する温度補正部と、
を備える測定装置。
【請求項2】
前記温度補正パラメータ保持部は、前記検出器の種類と、前記温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを保持し、
前記温度補正部は、前記測定に使用した前記検出器の種類を検出し、前記検出器の種類と、前記温度計により測定した測定時と校正時の温度の温度に応じた温度補正パラメータを前記温度補正パラメータ保持部から取得し、前記温度補正パラメータに基づいて前記測定の結果を補正する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記温度補正部は、前記触針部により、前記測定装置の校正を行うための校正器の測定を行う際に、前記温度計により測定した温度に基づいて前記校正器の熱膨張量を算出し、前記熱膨張量に基づいて前記測定の結果を補正する、請求項1又は2に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置に係り、特に測定対象物の表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための測定装置が知られている。例えば、特許文献1には、測定アームの先端に突設されたスタイラスを測定対象物の測定対象面に当接させて走査し、スタイラスの微小上下動を検出することにより、測定対象物の測定対象面の表面性状を測定する表面性状測定装置が開示されている。特許文献1に記載の表面性状測定装置では、測定アームが回転軸を支点として上下方向に揺動(円弧運動)可能に支持されている。そして、測定アームが揺動する方向に沿うスケール目盛りを有するスケールを用いて、測定アームの揺動による回転角を検出するようになっている。
【0003】
上記のような測定装置では、環境温度が変化すると、測定アームの長さが熱膨張により変化してしまう。そのため、スタイラスの変位の測定結果が環境温度に起因して変動してしまう。
【0004】
上記の問題に関して、特許文献2には、測定装置の触針部、スケール及び接続部の熱膨張係数が一定の条件を満たすように調整することにより、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することが開示されている。また、特許文献2には、熱膨張係数が異なる材料からなる複数部材をつなぎ合わせて触針部を形成することにより、上記の条件を満たすよう触針部の熱膨張率を調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-003436号公報
【特許文献2】特開2021-173719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、触針交換式の測定装置では、触針の先端の可動範囲を広げて測定範囲を拡大するために長い触針部を使用する場合がある。長い触針部を使用すると、触針の先端にかかる測定圧力が高くなり、触針の先端の摩耗、及び測定対象物のキズの原因となる場合がある。このため、長い触針部を使用する場合には、測定圧力の上昇を抑制するために、単位体積当たりの質量が軽い単一の素材により触針部を形成することが好ましい。しかしながら、触針部を構成する材料が限定されてしまうと、特許文献2のように、複数部材をつなぎ合わせることにより、触針部の熱膨張率を調整することは困難になる。
【0007】
また、検出器交換式の測定装置では、検出器が交換されると、検出器側のテコ(揺動中心からスケール側の部分)の腕の長さが変わってしまう。検出器側のテコの腕の長さが変化した場合、熱膨張係数を調整した触針部を使用したとしても、高精度な測定を実施することは困難であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、触針部又は検出器等の測定装置の構成部材(測定部)の一部を交換した場合でも、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することができる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る測定装置は、測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部を含む検出器と、触針部による測定時の温度を測定する温度計と、触針部の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを保持する温度補正パラメータ保持部と、測定に使用した触針部の種類を検出し、触針部の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを温度補正パラメータ保持部から取得し、温度補正パラメータに基づいて測定の結果を補正する温度補正部とを備える。
【0010】
本発明の第2の態様に係る測定装置は、第1の態様において、温度補正パラメータ保持部は、検出器の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを保持し、温度補正部は、測定に使用した検出器の種類を検出し、検出器の種類と、温度計により測定した測定時の温度と校正時の温度に応じた温度補正パラメータを温度補正パラメータ保持部から取得し、温度補正パラメータに基づいて測定の結果を補正する。
【0011】
本発明の第3の態様に係る測定装置は、第1又は第2の態様において、温度補正部は、触針部により、測定装置の校正を行うための校正器の測定を行う際に、温度計により測定した温度に基づいて校正器の熱膨張量を算出し、熱膨張量に基づいて測定の結果を補正する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触針部又は検出器等の測定装置の構成部材(測定部)の一部を交換した場合でも、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る測定装置の制御系を示すブロック図である。
図3】温度補正の全体の流れを示すフローである。
図4】校正時の測定装置を示す図である。
図5】校正器を拡大して示す側面図である。
図6】測定部の温度変化の影響を説明するための図である。
図7】検出器(Z軸)指示精度の誤差の計算結果の例を示すグラフである。
図8】温度補正の例を示す図である。
図9】温度補正のためのGUIの例を示す図である。
図10】測定装置の校正の手順を示すフローチャートである。
図11】測定装置における測定対象物Wの測定の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係る測定装置の実施の形態について説明する。
【0015】
[測定装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置を示す図である。以下の説明では、XY平面を水平面とし、Z方向を垂直方向(鉛直方向)とする3次元直交座標系を用いる。
【0016】
測定装置1は、測定対象物設置部(以下、ステージという。)50に設置された測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための装置である。
【0017】
図1に示すように、ステージ50は、定盤52上に設置されており、ステージ50の表面(測定対象物Wの設置面)は、XY平面に対して平行となっている。定盤52上には、ステージ50の表面に対して略垂直に伸びるコラム(Z軸)54が設置されている。コラム54には、キャリッジ(X軸)56が取り付けられており、キャリッジ56は、アクチュエータ(不図示)によりコラム54に沿ってZ方向に移動可能となっている。
【0018】
キャリッジ56には、検出器10が取り付けられており、検出器10は、アクチュエータ(不図示)によりキャリッジ56に対してX方向に移動可能となっている。キャリッジ56には、検出器10のX方向位置を検出するためのスケール58が取り付けられている。スケール58は、例えば、その長さ方向に沿ってスケール目盛りが形成された直線状のリニアスケール(線形位置スケール)である。
【0019】
なお、本実施形態では、コラム54を基準として検出器10を移動可能としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、コラム54をステージ50に対してX方向に沿って移動可能としてもよいし、ステージ50をコラム54に対してX又はZ方向に沿って移動可能としてもよい。すなわち、ステージ50に設置された測定対象物Wと検出器10とがXZ方向に相対移動可能な構成であればよい。
【0020】
また、検出器10は、ステージ50に設置された測定対象物Wに対してX方向だけでなくY方向にも相対移動可能としてもよい。
【0021】
図1に示すように、検出器10は、触針部14、アーム部16、揺動軸20、スケール22及びスケールヘッド24を備える。
【0022】
触針部14は、アーム部16に対して略一直線状になるように固定されており、触針部14及びアーム部16は、揺動軸20の周りに一体的に揺動可能に検出器筐体26に取り付けられている。揺動軸20はXY平面に対して略平行となるように、検出器10のキャリッジ56に対する取付角度が調整されている。以下、触針部14をアーム部16に取り付けたものを揺動部18ともいう。
【0023】
なお、揺動部18の構成は図1に示した略一直線状の例に限定されるものではなく、例えば、触針部14又はアーム部16がL字状の折れ曲がり部を有し、触針部14とアーム部16が略平行になるように取り付けられていてもよい。
【0024】
触針部14の先端には、触針12が設けられている。触針12は、図中下方(-Z方向)に伸びている。ステージ50に載置された測定対象物Wの表面に触針12を所定の圧力で接触させると、接触位置における測定対象物Wの表面の高さ及び凹凸に応じて揺動部18が揺動軸20を中心として揺動する。
【0025】
なお、触針部14の構成は図1に示した例に限定されるものではない。例えば、触針部14の図中上下方向に触針が設けられたT字スタイラス、又は図中下方への触針の突き出し量が図1に示した例よりも長いL字スタイラスであってもよい。
【0026】
検出器筐体26には、アーム部16の基端部に対向するようにスケール22が固定されている。検出器筐体26は、揺動軸20の揺動中心20Cとスケール22とをつなぐ(揺動軸20の揺動中心20Cとスケール22との間の距離を規定する)部材である。
【0027】
スケール22は、例えば、直線状のリニアスケール(線形位置スケール)であり、スケール22の長さ方向に沿ってスケール目盛りが形成されている。スケール22は、その長さ方向(変位検出方向)が揺動部18の長さ方向に対して略垂直になるように取り付けられている。
【0028】
スケールヘッド24は、アーム部16の基端部に固定されて揺動部18と一体的に揺動可能となっている。スケールヘッド24は、検出器筐体26に固定されたスケール22の対向位置の目盛り(以下、指示値という。)を読み取る装置である。スケールヘッド24の種類は特に限定されないが、スケールヘッド24としては、例えば、スケール22の目盛りを読み取るための光電センサ又は撮像素子と照明光源(例えば、LED(Light-Emitting Diode))とを備える非接触式のセンサを用いることができる。
【0029】
スケールヘッド24によって読み取られたスケール22の目盛りの読み取り値は制御装置100(図2参照)に出力される。
【0030】
制御装置100は、コラム54及びキャリッジ56に設けられたアクチュエータを制御して、測定対象物Wと検出器10の触針12とを相対移動させながら、測定対象物Wの表面の位置ごとに、スケール22の目盛りの読み取り値を取得する。これにより、測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、スケール22を検出器筐体26に固定し、スケールヘッド24をアーム部16の基端部に固定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、スケールヘッド24を検出器筐体26に固定し、スケール22をアーム部16の基端部に固定してもよい。また、スケール22は、リニアスケールに限定されず、例えば、アーム部16の揺動方向に沿って円弧状に形成された円弧スケール(角度スケール)であってもよい。
【0032】
図2は、測定装置1の制御系を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置100は、制御部102、入力部104及び表示部106を備える。
【0033】
制御部102は、測定装置1の各部を制御するためのプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro-Processing Unit)等)と、メモリ(例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等)とを備える。制御部102は、入力部104からの操作入力に応じて、制御装置100及び測定装置1を制御するための制御信号及び検出器10を移動させるためのアクチュエータ等を制御するための制御信号等を出力する。
【0034】
制御部102は、触針部14又は検出器10等の測定装置1の構成部材(測定部)の一部が交換された場合に、測定部の種類を検出する機能と、測定部の種類と校正時及び測定時の温度に基づく温度補正機能とを有する。制御部102は、温度補正部の一例である。
【0035】
入力部104は、操作者からの操作入力を受け付けるための装置であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等を備える。
【0036】
表示部106は、画像を表示するための装置であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)を含んでいる。表示部106には、例えば、制御装置100、測定装置1及びアクチュエータ等の操作のためのGUI(Graphical User Interface)及び測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等の測定結果等が表示される。
【0037】
ストレージ108は、測定装置1の制御のためのプログラム及び測定結果のデータ等を格納する装置であり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等を含んでいる。ストレージ108は、後述の温度補正パラメータを保持する温度補正パラメータ保持部の一例である。
【0038】
検出器駆動機構60は、検出器10をそれぞれXZ方向に移動させるためのX軸駆動部及びZ軸駆動部(例えば、アクチュエータ。図1では図示を省略)を含んでいる。
【0039】
温度計80は、ステージ50の近傍の環境温度を測定可能な温度計である。図1に示す例では、温度計80がステージ50の近傍に配置されているが、温度計80の設置場所は特に限定されない。例えば、温度計80により測定した環境温度に代えて、検出器駆動機構60等の駆動部の温度を使用することも可能である。なお、温度計80としては、例えば、測定対象物W、校正器M(図4参照)又は検出器10の温度を測定するための放射温度センサ又は色温度センサを用いてもよい。
【0040】
制御部102は、スケールヘッド24によるスケール22の目盛りの読み取り値の入力を受け付けて、スケール22の目盛りの読み取り値から測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等の演算を行う。
【0041】
また、図3に示すように、制御部102は、測定装置1の校正時と、測定対象物Wの測定時に、それぞれ温度計80により測定した温度T1及びT2に基づいて、後述の温度補正を行う。
【0042】
[測定装置1の校正]
測定装置1により測定対象物Wの測定を行う場合には、測定装置1の精度を確認等のための校正を行う。図4は、校正時の測定装置1を示す図である。図4に示すように、校正時には、測定装置1のステージ50に校正器(マスター)Mを設置する。校正時には、下記の通り、校正器Mにおける温度変化の影響(熱膨張量)を考慮して温度補正を行う。
【0043】
(校正器Mにおける温度変化)
図5は、校正器Mを拡大して示す側面図である。図5に示すように、校正器Mのベース部分の上部には、直方体状のブロックゲージG1と、半球状のボールG2が形成されている。基準温度T0(一例で20℃)における校正器Mの表面形状を示すパラメータ、すなわち、基準温度T0におけるブロックゲージG1の高さ(校正器Mのベース表面からの高さ)Hと、ボールG2の半径Rは既知となっている。
【0044】
校正時に校正器Mの温度がT0からT1(=T0+ΔT)に変化(上昇)した場合、図5に示すように校正器Mが膨張する。温度T1におけるブロックゲージG1の高さをH+ΔHとし、ボールG2の半径をR+ΔRとする。
【0045】
ここで、ブロックゲージG1の熱膨張率をαとし、ボールG2の熱膨張率をβとすると、温度T1におけるブロックゲージG1の高さとボールG2の半径は、下記の式により表される。
【0046】
ブロックゲージG1の高さ: H+α*ΔT …(1)
ボールG2の半径 : R+β*ΔT …(2)
ブロックゲージG1の熱膨張率αとボールG2の熱膨張率βは、校正器Mの材質及び形状等に応じて決まる既知の値である。したがって、温度計80により校正時に測定した温度(環境温度)T1と基準温度T0の差分ΔTから、校正時のブロックゲージG1の高さとボールG2の半径とを算出することができる。
【0047】
(測定部における温度変化)
図6は、測定部の温度変化の影響を説明するための図である。図6では、校正時温度T1と測定時の温度T2における揺動部18(触針部14及びアーム部16)を、それぞれ実線と破線の直線により簡略化して示しており、触針12は、揺動部18の長さと比較して短く無視することができるので省略している。
【0048】
図6に示すように、基準温度T0における触針部14の先端部から揺動中心20Cまでの距離をL1とし、揺動中心20Cからアーム部16の基端部までの距離をL2とする。また、測定高さZのときのスケール22の目盛りの指示値をZ2とする。なお、図6では触針部14とアーム部16との接続部分を省略しているが、図1に示すように、距離L1は、触針部14の長さとアーム部16の先端部から揺動中心20Cまでの部分の長さとの和に相当し、距離L2は、アーム部16の揺動中心20Cから基端部までの部分の長さの和に相当する。
【0049】
校正時温度T1から測定時温度T2(>T1)に温度が変化(上昇)した場合、図6に破線で示すように揺動部18が膨張する。温度膨張後の温度T2における触針部14から揺動中心20Cまでの距離をL1aとし、揺動中心20Cからアーム部16の基端部までの距離をL2aとする。このとき、温度膨張後の測定装置1において、測定高さZのときの指示値をZ2aは、下記の式により表される。
【0050】
Z2a=(L1*L2a)/(L2*L1a)*Z2
上記の式より、測定高さZが同じ場合、温度膨張後の温度T2における指示値Z2aは、校正時温度T1における指示値Z2に比例する。したがって、温度膨張後の指示値Z2aは、定数Cを用いて下記の式(3)により表すことができる。
【0051】
Z2a=Z2×C …(3)
ここで、校正時温度T1における距離L1及びL2は既知であり、温度T2における距離L1a及びL2aは、式(1)及び式(2)と同様、触針部14及びアーム部16の材質及び形状等に応じて決まる触針部14及びアーム部16の熱膨張率と温度の差分ΔTから算出することができる。
【0052】
上記のように、定数Cは、触針部14及びアーム部16又は検出器10の種類と校正時温度と測定時温度の差分T2-T1によって決まる値である。定数Cは、温度補正パラメータ(温度補正係数)として、測定に使用した測定装置1の構成部材(例えば、触針部14又は検出器10の種類)に関する情報と関連付けられてストレージ108に保存される。
【0053】
図7は、検出器(Z軸)指示精度の誤差の計算結果の例を示すグラフである。図7の横軸は、触針ストローク(基準温度T1におけるストローク位置Z2)を示しており、縦軸は、検出器(Z軸)指示精度(Z2a-Z2)を示している。図7には、校正時温度T1に対して温度が±10℃変化した場合の計算結果のグラフが示されており、各グラフの傾き(C-1)が温度補正パラメータCに対応している。
【0054】
本実施形態では、図8に示すように、触針部14又は検出器10の種類ごとに用意された温度補正パラメータCを用いて温度補正を行うことで、検出器指示精度(Z2a-Z2)がゼロになる。これにより、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することができる。
【0055】
なお、測定時に使用する温度補正パラメータCは、校正時の温度T1と測定時の温度T2に対応するテーブル(ルックアップテーブル)として保存されるようにしてもよいし、校正時の温度T1と測定時の温度T2に対応する温度補正パラメータCから求めた関数(例えば、最小二乗近似又は多項式近似等により求めた近似曲線等)として保存されるようにしてもよい。温度補正パラメータCをテーブルとして保存している場合には、校正時の温度T1と測定時の温度T2に基づいて補間演算、内挿又は外挿を行うことにより、任意の温度T1及びT2に対応する温度補正パラメータCを取得することができる。
【0056】
そして、測定対象物Wの測定時には、温度補正パラメータCをストレージ108から取得することにより、測定対象物Wの測定結果の補正を行うことができる。
【0057】
[実施例1]
実施例1に係る測定装置1は、触針部14、すなわち、アーム部16に固定される固定部から先端の触針12までの部分を取り外して交換可能な装置である。実施例1では、制御部102は、触針部14を特定するための情報(例えば、ID(identifier))、又は触針部14の種類(例えば、アームの長さ又は材質等)に関する情報を取得する機能を有する。触針部14の種類に関する情報の取得のための具体的な態様としては、例えば、下記の(1-1)又は(1-2)が考えられる。
(1-1)触針部14に固有のID(例えば、識別符号)を持たせ、測定装置1側(ストレージ108内)に触針部14ごとに固有の温度補正パラメータのテーブルを持たせる。
(1-2)触針部14にその長さ及び材質情報を持たせ、測定装置1側(制御部102)に温度補正パラメータを演算する機能を持たせる。
【0058】
[実施例2]
実施例2に係る測定装置1は、キャリッジ56及び検出器駆動機構60から検出器10を取り外して交換可能な装置である。実施例2では、制御部102は、検出器10を特定するための情報(例えば、ID(identifier))、又は検出器10の種類(例えば、検出器10に設けられたアームの長さ又は材質等)に関する情報を取得する機能を有する。検出器10の種類に関する情報の取得のための具体的な態様としては、例えば、下記の(2-1)から(2-3)のいずれかが考えられる。
(2-1)検出器10に固有のID(例えば、識別符号)を持たせ、測定装置1側(ストレージ108内)に検出器10ごとに固有の温度補正パラメータのテーブルを持たせる。
(2-2)検出器10にその内部のアームの長さ又は材質等に関する情報を持たせ、測定装置1側(制御部102)に温度補正パラメータを演算する機能を持たせる。
(2-3)触針部14のIDと検出器10のIDの組合せから温度補正パラメータを演算する機能を持たせる。
【0059】
実施例1及び2において、制御部102が触針部14又は検出器10の種類を検出するための手段としては、例えば、ユーザが入力部104からIDを入力するようにしてもよいし、触針部14又は検出器10のIDを2次元コード又は非接触式のタグ(例えば、IC(Integrated Circuit)タグ又はRFID(Radio Frequency IDentification)タグ)に保存して、制御装置100により読み込むようにしてもよい。
【0060】
図9は、温度補正のためのGUIの例を示す図である。図9に示す例では、温度計80により測定した校正時及び測定時の温度(環境温度)を入力可能となっている。また、測定時の温度補正に、検出器駆動機構60等の駆動部の温度を使用するか否かをチェックボックスにより選択可能となっている。これらの数値は、入力部104により手動で入力してもよいし、温度計80又は駆動部の温度計を制御部102が取得して自動入力するようにしてもよい。
【0061】
また、図9では、ブロックゲージG1とボールG2及び触針部14の熱膨張係数を入力可能となっている。これらの数値は、入力部104により手動で入力してもよいし、校正器MのブロックゲージG1とボールG2に対応する熱膨張係数α及びβをあらかじめストレージ108に格納しておき、校正時に制御部102により読み出した値を自動入力するようにしてもよい。これにより、温度補正を容易に実行することが可能となる。
【0062】
また、図9に示す例では、校正器Mの温度補正及び触針部14の温度補正を行うか否かをチェックボックスにより選択可能となっている。
【0063】
[温度補正方法]
図10は、測定装置1の校正の手順を示すフローチャートである。
【0064】
校正時には、まず、図4に示すように、測定装置1のステージ50に校正器Mを設置する(ステップS10)。
【0065】
次に、制御部102は、測定装置1に取り付けられている測定部(例えば、触針部14又は検出器10の種類)に関する情報を取得する(ステップS12)。
【0066】
次に、測定装置1により校正器Mの表面形状の測定を実施する(ステップS14)。制御部102は、校正器Mの表面形状の測定結果と、温度計80により測定した校正時の温度T1とを取得する(ステップS16)。
【0067】
次に、制御部102は、測定部の種類情報と、校正時の温度T1に基づいて校正時の校正器Mの熱膨張量を算出する(ステップS18)。そして、制御部102は、校正器Mの熱膨張量を用いて校正器Mの測定結果を補正して保存する(ステップS20)。
【0068】
ステップS20では、まず、制御部102は、熱膨張後の校正器Mの寸法、すなわち、ブロックゲージG1の高さH+ΔHとボールG2の半径R+ΔRとを算出する。そして、制御部102は、ブロックゲージG1の高さH+ΔHとボールG2の半径R+ΔRとを用いて、距離L1とL2を算出する。これにより、測定装置1の校正の温度補正を行うことができる。
【0069】
したがって、本実施形態によれば、温度計80により測定した校正時の温度T1に応じて校正器Mの熱膨張後の寸法を計算することにより、校正器Mの測定結果の補正を行うことができる。
【0070】
図11は、測定装置1における測定対象物Wの測定の手順を示すフローチャートである。
【0071】
測定時には、まず、図1に示すように、測定装置1のステージ50に測定対象物Wを設置する(ステップS30)。
【0072】
次に、制御部102は、測定装置1に取り付けられている測定部(例えば、触針部14又は検出器10の種類)に関する情報を取得する(ステップS32)。
【0073】
次に、測定装置1により測定対象物Wの表面形状の測定を実施する(ステップS34)。制御部102は、測定対象物Wの表面形状の測定結果と、温度計80により測定した測定時の温度T2とを取得する(ステップS36)。
【0074】
次に、制御部102は、測定部の種類情報と、校正時の温度T1及び測定時の温度T2に基づいて、ストレージ108から温度補正パラメータを取得し(ステップS38)、温度補正パラメータを用いて測定対象物Wの測定結果を補正して保存する(ステップS40)。
【0075】
ステップS40では、温度補正係数Cと、温度T2における指示値Z2aとを用いて、触針部14の温度膨張の影響を排除した指示値Z2を算出する(式(4)参照)。これにより、温度T2における測定対象物Wの測定結果を精度良く求めることができる。
【0076】
本実施形態によれば、触針部14又は検出器10等の測定装置1の構成部材(測定部)の一部を交換した場合でも、環境温度が測定結果に及ぼす影響を抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…測定装置、10…検出器、12…触針、14…触針部、16…アーム部、18…揺動部、20…揺動軸、22…スケール、24…スケールヘッド、26…検出器筐体、50…測定対象物設置部、52…定盤、54…コラム、56…キャリッジ、58…スケール、60…検出器駆動機構、80…温度計、100…制御装置、102…制御部、104…入力部、106…表示部、108…ストレージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11