(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129693
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20240919BHJP
【FI】
G01B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039049
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】前田 邦博
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA51
2F062AA66
2F062CC03
2F062DD02
2F062DD23
2F062DD31
2F062EE01
2F062EE62
2F062FF02
2F062GG36
2F062JJ04
(57)【要約】
【課題】 環境温度の変化に起因する校正器の熱膨張の影響を校正の結果に反映させることが可能な測定装置を提供する。
【解決手段】 測定装置(1)は、測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部を含む検出器を備える測定装置であって、測定装置内の相対温度を測定する温度センサ(80、82)と、温度センサにより測定した相対温度と測定装置の環境温度との間の差分データを保持する差分データ保持部(108)と、温度センサにより測定した測定装置の校正時の相対温度と差分データとに基づいて、校正時の環境温度を演算し、環境温度に基づいて測定の結果を補正する温度補正部(102)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、前記測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部を含む検出器を備える測定装置であって、
前記測定装置内の相対温度を測定する温度センサと、
前記温度センサにより測定した相対温度と前記測定装置の環境温度との間の差分データを保持する差分データ保持部と、
前記温度センサにより測定した前記測定装置の校正時の相対温度と前記差分データとに基づいて、前記校正時の環境温度を演算し、前記環境温度に基づいて前記測定の結果を補正する温度補正部と、
を備える測定装置。
【請求項2】
前記温度センサは、前記触針部又は前記検出器の位置を測定するためのスケールの相対温度を検出する温度センサを含む、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記温度センサは、前記測定装置における熱の発生源又は吸収源の相対温度を検出する温度センサを含む、請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記温度センサは、前記測定装置における熱の発生源又は吸収源の相対温度を検出する温度センサと、前記測定装置における熱の発生源又は吸収源以外の相対温度を検出する温度センサとを含む、請求項1又は3に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置に係り、特に測定対象物の表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための測定装置が知られている。例えば、特許文献1には、測定アームの先端に突設されたスタイラスを測定対象物の測定対象面に当接させて走査し、スタイラスの微小上下動を検出することにより、測定対象物の測定対象面の表面性状を測定する表面性状測定装置が開示されている。特許文献1に記載の表面性状測定装置では、測定アームが回転軸を支点として上下方向に揺動(円弧運動)可能に支持されている。そして、測定アームが揺動する方向に沿うスケール目盛りを有するスケールを用いて、測定アームの揺動による回転角を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような測定装置では、測定対象物の測定を行う際に、寸法が既知の校正器を用いて、測定装置の精度を確認するための校正が行われる。この校正の際に環境温度が変化すると、校正器の寸法が熱膨張により変化してしまう。
【0005】
このような校正器の熱膨張を校正の結果に反映させるためには、校正時に校正器の温度を測定して、校正器の熱膨張の量を演算して校正の結果を補正することが考えられる。しかしながら、校正器は測定対象物の設置を妨げないよう、別体として付属されるユニットであるため、温度検出手段を接続することが難しい。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、環境温度の変化に起因する校正器の熱膨張の影響を校正の結果に反映させることが可能な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る測定装置は、測定対象物の表面の測定を行うための触針が設けられており、測定対象物の表面の形状に応じて揺動中心の周りに揺動可能に取り付けられた触針部を含む検出器を備える測定装置であって、測定装置内の相対温度を測定する温度センサと、温度センサにより測定した相対温度と測定装置の環境温度との間の差分データを保持する差分データ保持部と、温度センサにより測定した測定装置の校正時の相対温度と差分データとに基づいて、校正時の環境温度を演算し、環境温度に基づいて測定の結果を補正する温度補正部とを備える。
【0008】
本発明の第2の態様に係る測定装置は、第1の態様において、温度センサは、触針部又は検出器の位置を測定するためのスケールの相対温度を検出する温度センサを含む。
【0009】
本発明の第3の態様に係る測定装置は、第1又は第2の態様において、温度センサは、測定装置における熱の発生源又は吸収源の相対温度を検出する温度センサを含む。
【0010】
本発明の第4の態様に係る測定装置は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、温度センサは、測定装置における熱の発生源又は吸収源の相対温度を検出する温度センサと、測定装置における熱の発生源又は吸収源以外の相対温度を検出する温度センサとを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定装置の相対温度と測定装置の環境温度との間の差分データを使用することにより、環境温度の変化に起因する校正器の熱膨張の影響を校正の結果に反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る測定装置の制御系を示すブロック図である。
【
図4】測定装置の校正の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明に係る測定装置の実施の形態について説明する。
【0014】
[測定装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置を示す図である。以下の説明では、XY平面を水平面とし、Z方向を垂直方向(鉛直方向)とする3次元直交座標系を用いる。
【0015】
測定装置1は、測定対象物設置部(以下、ステージという。)50に設置された測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定するための装置である。
図1に示すように、校正時にはステージ50の表面に校正器Mが設置され、測定時にはステージ50の表面に測定対象物Wが設置される。
【0016】
図1に示すように、ステージ50は、定盤52上に設置されており、ステージ50の表面(測定対象物Wの設置面)は、XY平面に対して平行となっている。定盤52上には、ステージ50の表面に対して略垂直に伸びるコラム(Z軸)54が設置されている。コラム54には、キャリッジ(X軸)56が取り付けられており、キャリッジ56は、アクチュエータ(不図示)によりコラム54に沿ってZ方向に移動可能となっている。
【0017】
キャリッジ56には、検出器10が取り付けられており、検出器10は、アクチュエータ(不図示)によりキャリッジ56に対してX方向に移動可能となっている。キャリッジ56には、検出器10のX方向位置を検出するためのスケール58が取り付けられている。スケール58は、例えば、その長さ方向に沿ってスケール目盛りが形成された直線状のリニアスケール(線形位置スケール)である。
【0018】
なお、本実施形態では、コラム54を基準として検出器10を移動可能としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、コラム54をステージ50に対してX方向に沿って移動可能としてもよいし、ステージ50をコラム54に対してX又はZ方向に沿って移動可能としてもよい。すなわち、ステージ50に設置された測定対象物Wと検出器10とがXZ方向に相対移動可能な構成であればよい。
【0019】
また、検出器10は、ステージ50に設置された測定対象物Wに対してX方向だけでなくY方向にも相対移動可能としてもよい。
【0020】
図1に示すように、検出器10は、触針部14、アーム部16、揺動軸20、スケール22及びスケールヘッド24を備える。
【0021】
触針部14は、アーム部16に対して略一直線状になるように固定されており、触針部14及びアーム部16は、揺動軸20の周りに一体的に揺動可能に検出器筐体26に取り付けられている。揺動軸20はXY平面に対して略平行となるように、検出器10のキャリッジ56に対する取付角度が調整されている。以下、触針部14をアーム部16に取り付けたものを揺動部18ともいう。
【0022】
なお、揺動部18の構成は
図1に示した略一直線状の例に限定されるものではなく、例えば、触針部14又はアーム部16がL字状の折れ曲がり部を有し、触針部14とアーム部16が略平行になるように取り付けられていてもよい。
【0023】
触針部14の先端には、触針12が設けられている。触針12は、図中下方(-Z方向)に伸びている。ステージ50に載置された測定対象物Wの表面に触針12を所定の圧力で接触させると、接触位置における測定対象物Wの表面の高さ及び凹凸に応じて揺動部18が揺動軸20を中心として揺動する。
【0024】
なお、触針部14の構成は
図1に示した例に限定されるものではない。例えば、触針部14の図中上下方向に触針が設けられたT字スタイラス、又は図中下方への触針の突き出し量が
図1に示した例よりも長いL字スタイラスであってもよい。
【0025】
検出器筐体26には、アーム部16の基端部に対向するようにスケール22が固定されている。検出器筐体26は、揺動軸20の揺動中心20Cとスケール22とをつなぐ(揺動軸20の揺動中心20Cとスケール22との間の距離を規定する)部材である。
【0026】
スケール22は、例えば、直線状のリニアスケール(線形位置スケール)であり、スケール22の長さ方向に沿ってスケール目盛りが形成されている。スケール22は、その長さ方向(変位検出方向)が揺動部18の長さ方向に対して略垂直になるように取り付けられている。
【0027】
スケールヘッド24は、アーム部16の基端部に固定されて揺動部18と一体的に揺動可能となっており、検出器筐体26に固定されたスケール22の対向位置の目盛り(以下、指示値という。)を読み取る装置である。スケールヘッド24の種類は特に限定されないが、スケールヘッド24としては、例えば、スケール22の目盛りを読み取るための光電センサ又は撮像素子と照明光源(例えば、LED(Light-Emitting Diode))とを備える非接触式のセンサを用いることができる。
【0028】
スケールヘッド24によって読み取られたスケール22の目盛りの読み取り値は制御装置100(
図2参照)に出力される。
【0029】
温度センサ80及び82は、それぞれスケール58及び22の温度(基準温度に対する相対温度)を測定可能なセンサである。温度センサ80及び82は、スケール58及び22の温度変化に起因する変形(膨張)の評価に用いられる。
図1に示す例では、温度センサ80及び82がそれぞれスケール58及び22の近傍に配置されているが、温度センサ80及び82の設置場所は特に限定されない。温度センサ80及び82としては、例えば、放射温度センサ、赤外線センサ又は色温度センサを用いてもよい。
【0030】
制御装置100は、コラム54及びキャリッジ56に設けられたアクチュエータを制御して、測定対象物Wと測定装置1の触針12とを相対移動させながら、測定対象物Wの表面の位置ごとに、スケール22の目盛りの読み取り値を取得する。このとき、制御装置100は、温度センサ80及び82により測定した温度に基づいて、それぞれスケール58及び22の読み取り値を補正可能となっている。これにより、測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等を測定することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、スケール22を検出器筐体26に固定し、スケールヘッド24をアーム部16の基端部に固定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、スケールヘッド24を検出器筐体26に固定し、スケール22をアーム部16の基端部に固定してもよい。また、スケール22は、リニアスケールに限定されず、例えば、アーム部16の揺動方向に沿って円弧状に形成された円弧スケール(角度スケール)であってもよい。
【0032】
図2は、測定装置1の制御系を示すブロック図である。
図2に示すように、制御装置100は、制御部102、入力部104及び表示部106を備える。
【0033】
制御部102は、測定装置1の各部を制御するためのプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro-Processing Unit)等)と、メモリ(例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等)とを備える。制御部102は、入力部104からの操作入力に応じて、制御装置100及び測定装置1を制御するための制御信号及び検出器10を移動させるためのアクチュエータ等を制御するための制御信号等を出力する。
【0034】
制御部102は、校正器の温度を演算する機能と、校正器の温度の演算結果に基づく温度補正機能とを有する。制御部102は、温度補正部の一例である。
【0035】
入力部104は、操作者からの操作入力を受け付けるための装置であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等を備える。
【0036】
表示部106は、画像を表示するための装置であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)を含んでいる。表示部106には、例えば、制御装置100、測定装置1及びアクチュエータ等の操作のためのGUI(Graphical User Interface)及び測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等の測定結果等が表示される。
【0037】
ストレージ108は、測定装置1の制御のためのプログラム及び測定結果のデータ等を格納する装置であり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等を含んでいる。ストレージ108は、後述の差分データを保持する差分データ保持部の一例である。
【0038】
検出器駆動機構60は、検出器10をそれぞれXZ方向に移動させるためのX軸駆動部及びZ軸駆動部(例えば、アクチュエータ。
図1では図示を省略)を含んでいる。
【0039】
制御部102は、スケールヘッド24によるスケール22の目盛りの読み取り値の入力を受け付けて、スケール22の目盛りの読み取り値から測定対象物Wの表面の形状、粗さ又は輪郭等の演算を行う。
【0040】
[測定装置1の校正]
本実施形態では、測定装置1のスケール58及び22の補正用の温度センサ80及び82を利用して校正の温度補正を行う。しかしながら、温度センサ80及び82は、各スケール58及び22の補正値作成時の温度を基準とした相対温度のみを検出するため、校正の温度補正に必要な絶対温度を検出するものではない。このため、本実施形態では、温度センサ80又は82により校正時に測定した温度(相対温度)TRに対する環境温度T1の追従の程度を示すパラメータを含む差分データを使用して、校正の温度補正を行う。
【0041】
図3は、校正器Mを拡大して示す側面図である。
図3に示すように、校正器Mのベース部分の上部には、直方体状のブロックゲージG1と、半球状のボールG2が形成されている。基準温度T0(一例で20℃)における校正器Mの表面形状を示すパラメータ、すなわち、基準温度T0におけるブロックゲージG1の高さ(校正器Mのベース表面からの高さ)Hと、ボールG2の半径Rは既知となっている。
【0042】
校正時に校正器Mの温度がT0からT1(=T0+ΔT)に変化(上昇)した場合、
図3に示すように校正器Mが膨張する。温度T1において、測定装置1により測定したブロックゲージG1の高さの測定値をH+ΔHとし、ボールG2の半径の測定値をR+ΔRとする。
【0043】
ここで、ブロックゲージG1の熱膨張率をαとし、ボールG2の熱膨張率をβとすると、温度T1におけるブロックゲージG1の高さとボールG2の半径は、下記の式により表される。
【0044】
ブロックゲージG1の高さ: H+α*ΔT …(1)
ボールG2の半径 : R+β*ΔT …(2)
なお、ブロックゲージG1の熱膨張率αとボールG2の熱膨張率βは、校正器Mの種類、材質及び形状等に応じて決まる既知の値である。ここで、熱膨張率α及びβは、入力部104により手動で入力してもよいし、あらかじめストレージ108に格納された値が自動的に呼び出されるようにしてもよい。
【0045】
本実施形態では、温度センサ80又は82により校正時に測定した温度(相対温度)TRと環境温度T1との差分ΔTR1を示す差分データをあらかじめストレージ108に格納しておく。
【0046】
制御部102は、温度センサ80又は82により校正時に測定した温度(相対温度)TRと、あらかじめ用意された相対温度TRと環境温度T1との差分ΔTR1に基づいて、校正時の環境温度T1を、校正時の校正器Mの温度として演算する。そして、制御部102は、校正器Mの温度T1と基準温度T0との差分ΔTと、熱膨張率α及びβとを、上記の式(1)及び式(2)に代入して、校正時のブロックゲージG1の高さとボールG2の半径とを算出し、校正器Mの測定結果を補正する。
【0047】
ここで、相対温度TRと環境温度T1との差分ΔTR1を示す差分データは、相対温度TRに対する環境温度T1の追従の程度を示すパラメータである。差分データは、相対温度TRと環境温度T1との関係を実際に測定することにより作成することができる。差分データは、測定装置1ごとに1つの値ΔTR1として格納されていてもよいし、相対温度TRの値に対応するテーブル(ルックアップテーブル)又は関数として格納されていてもよい。差分データをテーブルとして保存している場合には、校正時の相対温度TRに基づいて補間演算、内挿又は外挿を行うことにより、任意の相対温度TRに対応する温度補正パラメータCを取得することができる。
【0048】
なお、差分データは、例えば、測定装置1ごと又は測定装置1が設置される環境ごとに異なり得る。このため、測定装置1の設置時又は環境の変化(例えば、設置場所の変更、空調設備の更新又は季節の変化等)に応じて、相対温度TRと環境温度T1との関係を実際に測定することにより、差分データを作成又は更新するようにしてもよい。
【0049】
本実施形態によれば、環境温度が変化した場合でも、校正器Mの温度の測定のための温度センサを設けることなく、校正の温度補正を行うことが可能になる。
【0050】
[温度補正方法]
図4は、測定装置1の校正の手順を示すフローチャートである。
【0051】
校正時には、まず、測定装置1のステージ50に校正器Mを設置する(ステップS10)。
【0052】
次に、測定装置1により校正器Mの表面形状の測定を実施する(ステップS12)。制御部102は、校正器Mの表面形状の測定結果と、温度センサ80又は82により測定した校正時の相対温度TRとを取得する(ステップS14)。
【0053】
次に、制御部102は、相対温度TRと環境温度T1との差分データと、校正時の相対温度TRに基づいて、環境温度T1を校正器の温度として演算する(ステップS16)。
【0054】
次に、制御部102は、ステップS16で演算(推定)した校正時の温度T1に基づいて、校正時の校正器Mの熱膨張量を算出し、校正器Mの熱膨張量を用いて校正器Mの測定結果を補正して保存する(ステップS18)。
【0055】
ステップS18では、制御部102は、熱膨張後の校正器Mの寸法、すなわち、ブロックゲージG1の高さH+ΔHとボールG2の半径R+ΔRとを算出する。この熱膨張後の校正器Mの寸法を用いて、測定装置1の校正の温度補正を行うことにより、測定装置1の精度の確認を適切に行うことができる。
【0056】
[温度補正の例]
本実施形態では、X軸のスケール58及びZ軸のスケール22の補正用の温度センサ80及び82のいずれかにより測定された相対温度TRを使用して、環境温度T1を推定するようにしたが、本発明はこれに限定されない。温度センサ80及び82により測定された2つの相対温度と、環境温度T1との対応関係を差分データとして用意して、2つの相対温度に基づいて、環境温度T1を推定するようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、環境温度T1の推定に使用する温度センサは、スケールの補正用のものに限定されない。例えば、測定装置1のうち、熱の発生及び吸収の量が大きい場所の相対温度を測定するための温度センサを用いて環境温度T1を推定するようにしてもよい。ここで、熱の発生及び吸収の量が大きい場所は、例えば、検出器駆動機構60等の駆動部又は照明光源等の熱源又は熱を吸収しやすい部材、すなわち、熱の発生源又は吸収源を含む場所である。熱の発生源又は吸収源は、周辺環境に熱を供給するものであり、環境温度T1の変化に与える影響が大きいと考えられる。このため、熱の発生源又は吸収源の相対温度を用いることにより、環境温度T1の推定をより精度良く行うことができる。
【0058】
逆に、熱の発生及び吸収の量が小さい場所の相対温度を測定するための温度センサを用いて環境温度T1を推定するようにしてもよい。ここで、熱の発生及び吸収の量が小さい場所は、例えば、熱の発生源又は吸収源以外の場所、コラム54又はキャリッジ56の端部等の熱の発生源又は吸収源から離れた位置等である。
【0059】
また、少なくとも1箇所の熱の発生及び吸収の量が大きい場所と、少なくとも1箇所の熱の発生及び吸収の量が小さい場所の少なくとも2箇所に設置された温度センサを用いて環境温度T1を推定するようにしてもよい。熱の発生及び吸収の量が大きい場所は環境温度T1の上昇への寄与が大きく、熱の発生及び吸収の量が小さい場所は環境温度T1の下降への寄与が大きいと考えられるため、この両者の相対温度を使用することにより、環境温度T1の推定をより精度良く行うことができる。
【0060】
図5は、環境温度T1の推定の例を示すグラフである。
図5の破線のグラフは、熱の発生及び吸収の量が大きい場所における温度T
Aの経時変化を示しており、点線のグラフは、熱の発生及び吸収の量が小さい場所における温度T
Bの経時変化を示している。そして、実線のグラフは、温度T
Aと温度T
Bに基づいて推定した環境温度T1を示している。
【0061】
環境温度T1は、例えば、温度TAと温度TBの相加平均(T1=(TA+TB)/2)により推定することができる。なお、環境温度T1の算出方法は、相加平均に限定されず、相乗平均等のほかの平均値を用いてもよい。また、測定装置1において熱の発生及び吸収の量が大きい場所、熱の発生及び吸収の量が小さい場所又は熱伝導率が高い部材が占める割合(例えば、容積又は配置等)に応じて重み付け平均を行ってもよい。
【0062】
上記のように、熱の発生及び吸収の量が大きい場所における温度TAの経時変化と熱の発生及び吸収の量が小さい場所における温度TBの経時変化の両方を用いることにより、環境温度T1の推定の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0063】
1…測定装置、10…検出器、12…触針、14…触針部、16…アーム部、18…揺動部、20…揺動軸、22…スケール、24…スケールヘッド、26…検出器筐体、50…測定対象物設置部、52…定盤、54…コラム、56…キャリッジ、58…スケール、60…検出器駆動機構、80、82…温度センサ、100…制御装置、102…制御部、104…入力部、106…表示部、108…ストレージ