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特開2024-12970コンジュゲート並びにこれを用いた標的物質の表面特性の制御方法及び標的物質の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012970
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】コンジュゲート並びにこれを用いた標的物質の表面特性の制御方法及び標的物質の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114843
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】中島 一紀
(72)【発明者】
【氏名】石渡 悠介
(72)【発明者】
【氏名】菅原 駿平
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 了
(72)【発明者】
【氏名】廣吉 直樹
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA21
4H045BA40
4H045BA41
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、標的物質の表面特性(疎水性又は親水性)を特異的に制御し、又は、標的物質に特異的に吸着し凝集させることができるコンジュゲート、並びに、当該コンジュゲートを用いて標的物質の表面特性を特異的に制御する方法、及び標的物質を特異的に回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のコンジュゲートは、標的物質に特異的に吸着するペプチド(A)、疎水性部位(B)、第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)、及び親水性部位(D)をこの順に含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質に特異的に吸着するペプチド部位(A)、疎水性部位(B)、第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)、及び親水性部位(D)をこの順に含む、コンジュゲート。
【請求項2】
前記(C)における第1の特異的な切断サイトが、酵素により切断可能である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記(A)と前記(B)との間に、第2の特異的な切断サイトを含む第2のリンカー(E)をさらに含み、前記第1の特異的な切断サイトと第2の特異的な切断サイトとが異なる、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲートを吸着させる工程を含む、標的物質の表面特性を制御する方法。
【請求項5】
水性媒体中に存在する標的物質に請求項1~3のいずれか一項に記載のコンジュゲートを吸着させる工程、及び、
前記コンジュゲートにおける前記(C)を切断し、前記(B)同士が凝集することにより、前記標的物質を凝集させる工程
を含む、標的物質の回収方法。
【請求項6】
前記標的物質が微粒子であり、前記微粒子の平均粒子径が1nm以上10μm以下である、請求項5に記載の標的物質の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンジュゲート並びにこれを用いた標的物質の表面特性の制御方法及び標的物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合物から、特定の標的とした物質のみの表面を、疎水性、又は親水性に制御する方法が求められている。特に標的物質が小さく、実質的に一つ一つが取り扱えないような状態、例えば、微粒子の混合物の中から、標的となる粒子のみを特異的に回収することは非常に困難であることは周知である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゼオライトのような特異的な吸着性能を持つ物質と凝集剤を併用することで、目的とする無機微粒子を選択的に吸着させて沈殿を生じさせる方法が開示されている。しかしこの方法では、例えば粒子径、比重、極性等の特性が近似した目的物質と夾雑物が混ざり合った中から目的物のみを精度よく回収することはできなかった。
【0004】
特に鉱業分野において、金属資源を精錬するためには、鉱物を目的となる金属を含んだ鉱物とそれ以外の鉱物を選別する工程(選鉱)が必要となる。選鉱では、まず、精度を向上させるために全ての粒子が単体分離するように鉱石を十分に細かく粉砕する。その後、標的物質と夾雑物の特性に応じて、例えば標的物質を比重差で分ける比重選別法、また目的物が磁力に対して引き寄せられる物質の場合は磁力選別法、又は標的物質の疎水性・親水性といった表面特性の差を利用して選別する浮遊選別法で選定される。
【0005】
特に浮遊選別法(所謂浮選法)は、具体的には粉砕した鉱石を水槽に投入してエアレーションにより気泡を発生させ、疎水性の粒子を気泡に付着させて浮上分離させる。この際、粉砕した際に有価鉱物の粒子径が小さくなりすぎると、浮選効率が低下し、有価鉱物が、価値のない鉱物粒子中に紛れ込んで損失が生じてしまう。さらには、こうして失われた鉱物に毒性があった場合、回収できず排出されてしまった鉱物によって深刻な鉱毒汚染が環境問題となっている。
【0006】
このような有価鉱物の損失に対処する方法として、水等の溶媒中における微粒子の凝集・分散技術が利用されている。例えば、非特許文献1及び2では、所定の界面活性剤を用いることで、微細粉砕した黄銅鉱を凝集させて見かけの粒子径を大きくすることができ、浮選での回収効率が上昇したことが記載されている。しかしながら、非特許文献1及び2に記載のような方法では、特定の有価な鉱物粒子のみを特異的に凝集させることはできなかった。
【0007】
特にこのような場合、目的とする鉱物と夾雑物は、いずれも岩石に由来するもので非常に近似した物性をもち、かつ、岩石を粉砕する工程においては、粒子径、及びその粒度分布を精度よく制御することも実質的に不可能であり、既存の方法ではこれ以上精度よく目的物質のみを選別することはできなかった。
【0008】
一方、目的とする物質のみに特異的に吸着するペプチドを選定する方法として、所謂ファージディスプレイ法が知られている。本法は多種のペプチド配列を持ったペプチドライブラリーの中から、目的物質のみに特異的に吸着する特定のペプチドを選抜する手法である。本法の特徴は、特定の物質に対して非常に高い特異性を示すペプチドだけを選別することができることである。
【0009】
特許文献2及び3には、ファージディスプレイ法で選別した特定のペプチドと他機能を有するペプチドとを融合させ、特定の物質のみに作用する機能を有する融合タンパク質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-200304号公報
【特許文献2】特表2007-508246号公報
【特許文献3】特表2009-508870号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】VothyHornn et al., “Kinetic Analysis for Agglomeration-Flotation of Finely GroundChalcopyrite: Comparison of First Order Kinetic Model and Experimental Results”Materials Transactions, Vol.61, No.10(2020), pp.1940 to 1948
【非特許文献2】VothyHornn et al., “Agglomeration-Flotation of Finely Ground Chalcopyrite UsingEmulsified Oil Stabilized by Emulsifiers: Implications for Porphyry Copper OreFlotation” Metals 2020, 10, 912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、標的物質の表面特性(疎水性又は親水性)を特異的に制御し、又は、標的物質に特異的に吸着し凝集させることができるコンジュゲート、並びに、当該コンジュゲートを用いて標的物質の表面特性を特異的に制御する方法、及び標的物質を特異的に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究の結果、標的物質に特異的に吸着するペプチド、疎水性部位、特異的な切断サイトを有するリンカー、及び親水性部位をこの順に含む、特徴的なコンジュゲートによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
標的物質に特異的に吸着するペプチド部位(A)、疎水性部位(B)、第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)、及び親水性部位(D)をこの順に含む、コンジュゲート。
[2]
上記(C)における第1の特異的な切断サイトが、酵素により切断可能である、[1]に記載のコンジュゲート。
[3]
上記(A)と上記(B)との間に、第2の特異的な切断サイトを含む第2のリンカー(E)をさらに含み、上記第1の特異的な切断サイトと第2の特異的な切断サイトとが異なる、[1]又は[2]に記載のコンジュゲート。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のコンジュゲートを結合させる工程を含む、標的物質の表面特性を制御する方法。
[5]
水性媒体中に存在する標的物質に[1]~[3]のいずれかに記載のコンジュゲートを吸着させる工程、及び、
上記コンジュゲートにおける上記(C)を切断し、上記(B)同士が凝集することにより、上記標的物質を凝集させる工程
を含む、標的物質の回収方法。
[6]
上記標的物質が微粒子であり、上記微粒子の平均粒子径が1nm以上10μm以下である、[5]に記載の回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、標的物質の表面特性を特異的に制御し、又は、標的物質を特異的に凝集させることができるコンジュゲート、及びこれを用いて標的物質の表面特性を制御する方法、及び標的物質の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例のコンジュゲート(融合タンパク質)のSDS-PAGEの結果を示す図である。
図2】実施例における、コンジュゲートによる黄銅鉱微粒子の凝集結果を示す写真(A)及び光学顕微鏡画像(B)である。
図3】実施例におけるコンジュゲートにより凝集させた黄銅鉱微粒子の表面を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
図4】実施例におけるコンジュゲートによるシリカ微粒子の凝集を光学顕微鏡で観察した結果である。
図5】実施例におけるコンジュゲートによる黄銅鉱微粒子-シリカ微粒子混合物を用いた場合の黄銅鉱微粒子の凝集を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0018】
<コンジュゲート>
本実施形態に係るコンジュゲートは、標的物質に特異的に吸着するペプチド部位(A)、疎水性部位(B)、第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)、及び親水性部位(D)をこの順に含む。
【0019】
本実施形態に係るコンジュゲートは、(A)を有するため標的物質に特異的に吸着することができ、さらに(B)~(D)を有するため、後述のように特異的に吸着した標的物質の表面特性を任意のタイミングで親水性、又は疎水性に制御でき、又は、標的物質を特異的に凝集させることができる。したがって、本実施形態に係るコンジュゲートは、標的物質が他の物質と混在している状態(例えば複数の物質を含む懸濁液)において、標的物質のみを凝集させるのに有効である。
【0020】
(標的物質)
本明細書において、標的物質は任意の物質であり得、特に限定されず、有機材料(有機物質)であってもよく、無機材料(無機物質)であってもよい。標的物質は、複数であってもよいが、1つだけであることが好ましい。標的物質は、所謂ファージディスプレイ法等により、特定のペプチドが特異性をもって吸着する物質であってもよい。
【0021】
有機材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロプレン、ブタジエン等の脂肪族ポリオレフィンビニル系(共)重合体;ポリスチレン等のビニル系芳香族炭化水素(共)重合体;ポリアクリロトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の置換ビニル系(共)重合体;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸、及びそのエステル系(共)重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリ乳酸等のポリエステル系(共)重合体;脂肪族及び芳香族ジアミン並びに脂肪族及び芳香族ジカルボン酸類から誘導されるポリアミド系(共)重合体;脂肪族及び芳香族テトラアミン並びに脂肪族及び芳香族テトラカルボン酸類から誘導されるポリイミド類;フェノール樹脂類;エポキシ樹脂類;ポリウレタン系樹脂類、ポリエーテルエーテルケトン樹脂類;シクロオレフィン系(共)重合体類;ポリオキシメチレン、ポリアルキレングリコール等のポリエーテル系(共)重合体;トリアセチルセルロース、ニトロセルロース等変性多糖類等の合成樹脂類;セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、フコイダン、アルギン酸、ヒアルロン酸、デキストラン、アガロース、及びヘパリン等の多糖類;リグニン類;タンパク質;核酸;フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリン、ジスアゾイエロー等の有機低分子量化合物等の結晶体、ガラス体、凝固体等;が挙げられる。
【0022】
無機材料としては、例えば、鉱物、金属、合金、金属塩、セラミックス、シリカ等が挙げられ、中でも鉱物が好ましい。
【0023】
本明細書において鉱物とは、天然に産する無機及び有機結晶性物質を指す。鉱物としては例えば、下記金属からなる元素鉱物類;黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱、硫鉄ニッケル鉱、斑銅鉱等の硫化鉱物類;石英、赤鉄鉱、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、スピネル、コランダム、ボーキサイト、錫石、灰重石、ゼオライト、カオリン、ベントナイト等の酸化鉱物類;岩塩、蛍石等のハロゲン化鉱物類;方解石、苦石灰、石灰石等の炭酸塩鉱物類;ホウ砂等のホウ酸塩鉱物類;ミョウバン石、石膏等の硫酸塩鉱物類;燐灰石等のリン酸塩鉱物;珪石、石綿等のケイ酸塩鉱物類;黒鉛;石炭類が挙げられる。
【0024】
標的物質が鉱物である場合、鉱物の粉砕物であってもよい。鉱物の粉砕物は、標的物質と夾雑物が一つの粒子の中に交じっている場合があるが、標的物質が粉砕物の表面に露出していれば、本発明のコンジュゲートにおける(A)に認識される。
【0025】
金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、チタン、鉄、鉛、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、コバルト、マンガン、タングステン、カドミウム、アンチモン、スズ、インジウム、水銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、モリブデン、タンタル、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム等の単一金属類、黄銅、青銅、白銅、丹銅、赤銅、鋼、マグネシウム合金、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、マンガンモリブデン鋼、ジュラルミン鋼、ハステロイ鋼、インコネル鋼、はんだ、アマルガム等の合金類が挙げられる。これらは金属結晶、金属塩の結晶、金属イオン等のいずれの形態で存在してもよい。
【0026】
金属塩としては、例えば、酸化銀、酸化スズ、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物;アルカリ金属類(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、又はアルカリ土類金属類(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等)の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、有機リン酸塩等の金属塩類等が挙げられる。
【0027】
標的物質の形状又は形態は特に限定されず、固体、半固体、ゲル状であってよく、また、粒子状(顆粒状)、板状、棒状、不定形、粉状(粉体)、塊状であってもよい。好ましくは、標的物質が固体であり、水等の水性媒体に懸濁又は分散できるほどの大きさを有することが好ましく、微粒子であることがより好ましい。
【0028】
微粒子状の場合、粒子一つ一つを選択的に取り扱うことは実質的に不可能であり、また例えば、沈殿化、比重又は極性による従来の分離方法も困難になるが、本発明のコンジュゲートによれば、微粒子であっても特異的に表面特性を制御し、又は特異的に回収することができる。
【0029】
従来法では、微粒子の平均粒子径が10μmを下回ると選別、分離が困難になってくる。したがって、本発明の効果が特に発揮される標的物質(微粒子)の大きさ(平均粒子径)は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、また、1nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは100nm以上である。平均粒子径が例えば1nm以上10μm以下であってよく、10nm以上5μm以下であることが好ましく、100nm以上5μm以下であることがより好ましい。ここで、平均粒子径とは、電子顕微鏡像からの画像解析結果により得られる粒度分布のD50値を意味する。
【0030】
本明細書において水性媒体とは、水又は水溶液を意味する。水としては、脱イオン水、蒸留水等が挙げられ、水溶液としては、トリス-塩酸緩衝液、又はHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)等の緩衝液が挙げられる。標的物質は水性媒体に懸濁又は分散されている状態であってもよい。
【0031】
(特異的に吸着するペプチド部位(A))
本明細書において、「ペプチド」とは2以上のアミノ酸残基がペプチド結合(アミド結合)によって連結されたものを意味し、ポリペプチド又はタンパク質であってもよい。アミノ酸残基としては、天然型アミノ酸であっても、非天然型アミノ酸であってもよい。ペプチドの長さは特に限定されないが、2~1000程度のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0032】
特異的に吸着するペプチド部位(A)は、標的物質に特異的に吸着し、本発明のコンジュゲートに物質の特異性を付与することを目的とした部位(領域)であり、この機能を有するペプチド(コンジュゲートにおいては、ペプチド残基である)であれば特に限定されない。
【0033】
(A)のペプチドの長さは特に限定されないが、アミノ酸残基数が2以上であればよく、好ましくは4以上、より好ましくは6以上である。また、(A)のアミノ酸残基数は32以下であってよく、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下であってもよい。特異的に吸着するペプチド部位(A)は、ファージディスプレイによって選別されるものである場合、一般的にファージディスプレイ法に用いるペプチドライブラリーにおけるペプチドの長さを有してもよい。
【0034】
標的物質に特異的に吸着することとは、標的物質に吸着するが、それ以外の物質、特に標的物質が存在する混合物又は懸濁液中の他の物質に吸着しない又は吸着するとしても、吸着能力は標的物質に対して1/10以下、1/20以下、1/50以下、又は1/100以下である。なお、本明細書において「吸着」は、「結合」ともいい、物理的吸着(物理的結合)であってもよく、化学的吸着(化学的結合)であってもよい。吸着能力は、ELISA法、表面プラズモン観測式分子間相互作用測定法(所謂Biacore法)、等温滴定型カロリメトリー式分子間相互作用測定法(所謂iTC法)、免疫沈降法、標的物質の回収率等で評価することができる。
【0035】
標的物質に特異的に吸着するペプチドは、例えば、ペプチドライブラリーを作製したのち、標的物質と接触させる等してスクリーニングを実施することで得ることができる。このような手法としては、例えば、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、バクテリア又は酵母等を用いた細胞表層ディスプレイ法、mRNAディスプレイ法、又はcDNAディスプレイ法を用いた手法が挙げられる。ここで、ペプチドライブラリーは、例えば任意の組合せを有する4~8アミノ酸残基からなるペプチドライブラリーであってよく、このようなライブラリーは人工合成によって作製することができる。本明細書において、ペプチドライブラリーは、ファージライブラリーも含む。
【0036】
標的物質に特異的に吸着するペプチドを選抜する方法として、特に所謂ファージディスプレイ法が好適に用いられる。この方法は、標的物質に特異的に吸着するペプチドをライブラリーから効率よく選別する方法として広く知られている。
【0037】
ファージディスプレイ法は、一般的に以下のような手法である。まず、それぞれ個別のファージに任意の遺伝子を組み込むことで多種の遺伝子持つファージの集合体を得る。このような集合体はファージライブラリーと呼ばれる。次に、このライブラリーを標的物質に吸着させ、選択操作(バイオパンニング、親和性選抜等)を行うことにより、標的物質に吸着するファージ群を濃縮する。
【0038】
(バイオ)パンニングとしては、まず、ファージライブラリーを標的物質とともにインキュベートすることで、標的物質に親和性を持つファージを標的物質に吸着させる一方、親和性を持たないファージは、標的物質を洗浄することで取り除かれることで標的物質に親和性を持つファージのみを集める。次に、標的物質に吸着したファージを溶出し、これを宿主大腸菌に感染させた後に培養液中で増幅させ、増幅させたファージを再び同様の方法で標的物質との親和性によって選抜し、この操作を数回繰り返すことにより、より親和性(吸着活性)のあるファージ群を選抜、濃縮することができる。こうして選抜したファージのクローニングを行った後、ファージのゲノムDNAを解析することで標的物質に特異的に吸着するペプチドのアミノ酸配列を同定することで、標的物質に対して特異的に吸着するペプチドを選抜できる。
【0039】
特異的に吸着するペプチド部位(A)は、上記の手法によって選別することできるため、特に限定されないが、例えば、特異的に黄銅鉱に結合するペプチド(黄銅鉱結合ペプチド、DSQKTNPS、配列番号2)を挙げることができる。また、従来知られている、特定の物質に特異的に結合するペプチドとして、例えば、金に特異的に結合するペプチド(MHGKTQATSGTIQS、配列番号7)、白金に特異的に結合するペプチド(PTSTGQA、配列番号8)、銀に特異的に結合するペプチド(NPSSLFRYLPSD、配列番号9)、チタンに特異的に結合するペプチド(RKLPDAPGMHTW、配列番号10)、ゼオライトに特異的に結合するペプチド(VKTQATSREEPPRLPSKHRPG、配列番号11)、リン酸カルシウムに特異的に結合するペプチド(KDVVVGVPGGQD、配列番号12)等が挙げられる(Sarikaya M et al., “Molecular biomimetics: nanotechnology throughbiology.” Nat Mater. 2003 Sep;2(9):577-85.)。
【0040】
(疎水性部位(B))
疎水性部位(B)は、疎水性相互作用によって標的物質を水性溶媒から凝集させることを目的としている部位(領域)である。すなわち、本実施形態に係るコンジュゲートを、特異的に吸着するペプチド部位(A)を介して、標的物質に吸着させた後、後述の第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)を切断することで、後述の親水性部位(D)がコンジュゲートから切り離され、疎水性部位(B)が外側に露出する。その結果標的物質の表面が疎水化し、(B)同士の疎水性相互作用により、標的物質が水性媒体中において凝集する。
【0041】
疎水性部位(B)は、標的物質を凝集させる疎水性を有すれば特に限定されず、また疎水性物質の基であってよい。疎水性部位(B)の疎水性の一つの指標としては、例えば疎水性部位(B)の分子中のアニオン性極性基、具体的にはカルボキシル基、リン酸基の和に対しての当量が500g/eq以上であればよく、700g/eq以上であることが好ましい。また、疎水性部位(B)の分子中のイオン性極性基、具体的には上記アニオン性極性基とアミノ基、イミノ基等のカチオン性極性基の和に対するイオン性極性基当量が245g/eq以上であることが好ましい。疎水性の別の指標としては、例えばHLB(親水性/疎水性バランス)が挙げられる。
【0042】
(B)は疎水性であれば特に制限はなく、合成系高分子でもよく、天然系高分子であってもよい。本明細書において合成系高分子とは、化学的手法を用いて合成したポリマー、又はオリゴマーの総称である。また、天然系高分子としては、天然物から抽出、分解(低分子量化)して得られるポリマー、オリゴマーの総称である。ここで、疎水性部位(B)は、コンジュゲートにおいて他の部位と化学的に結合しているため、高分子化合物としてではなく、これらの高分子化合物の基として存在する。
【0043】
合成系高分子として、例えば、ポリエチレン、ポリプロプレン、ブタジエン等の脂肪族ポリオレフィンビニル系(共)重合体;ポリスチレン等のビニル系芳香族炭化水素(共)重合体;ポリアクリロトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の置換ビニル系(共)重合体;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステル系(共)重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリ乳酸等のポリエステル系(共)重合体;脂肪族及び芳香族ジアミン並びに脂肪族及び芳香族ジカルボン酸類から誘導されるポリアミド系(共)重合体;脂肪族及び芳香族テトラアミン並びに脂肪族及び芳香族テトラカルボン酸類から誘導されるポリイミド類;エポキシ樹脂類;ポリウレタン系樹脂類;シクロオレフィン系(共)重合体類;一繰り返し単位における炭素数が3以上のポリアルキレングリコール等のポリエーテル系(共)重合体が挙げられる。
【0044】
天然系高分子としては、セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサン、非水溶性アルギン酸、非水溶性ヒアルロン酸等の非水溶性多糖類、リグニン類、蜜蝋、パームワックス、カルナバワックス等の油脂類、疎水性ペプチド(疎水性タンパク質を含む)等が挙げられる。この中で、分散媒での安定性、コンジュゲートを構成させる際の容易さを考慮すると、天然系高分子、特に疎水性ペプチドが好適に用いられる。
【0045】
本実施形態に係るコンジュゲートにおける疎水性部位(B)が疎水性ペプチドであることが好ましい。疎水性ペプチドは、その立体構造において疎水性ヘリックス構造を有してよく、疎水性は、例えば上述の疎水性指標、後述のハイドロパシープロット値、HLBを用いて評価することができる。
【0046】
ハイドロパシープロット(疎水性プロット)値とは、ペプチドの親水性、又は疎水性を示す指標である。具体的には、タンパク質を構成するアミノ酸種それぞれに提示されたハイドロパシー指数を用いて、各アミノ酸残基の前後それぞれ2つのアミノ酸残基も含めた5つのアミノ酸残基のハイドロパシー指数の平均値をとり、親水性、又は疎水性の指標とするものである。この値が大きい場合はより高い疎水性を示し、その逆にこの値が小さい場合は親水性が高いと評価される。
【0047】
本実施形態に係るコンジュゲートにおいて、疎水性部位(B)の、ハイドロパシー指数が-1.8以下であるアミノ残基数の全アミノ酸残基に対する比率が好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下である疎水性部位が好ましい。ハイドロパシープロット値及びハイドロパシー指数については、例えばJ. Kyte, R. F. Doolittle, “A simple methodfor displaying the hydropathic character of a protein”,J. Mol. Biol., 1982, 157, 105-132に示される。
【0048】
疎水性ペプチドとしては、例えば、配列番号3のアミノ酸配列を含む疎水性ペプチド等が挙げられる。配列番号3のアミノ酸配列は4本のα-ヘリックスがバンドル状に集まった構造をしており、そのバンドルの内部は疎水性残基が囲われた構造であると考えられている。水性媒体中においては、この構造をとっていることで親水性残基がコンジュゲートの表面に出ているが、第1のリンカー(C)の切断に伴い、疎水性残基が表層に現れて、より好適な疎水性相互作用を生じるものと推定している。
【0049】
疎水性部位(B)は、高分子化合物である場合、その重量平均分子量は特に限定されず、例えば1,000以上であってよく、好ましくは3,000以上、より好ましくは8,000以上であり、また、80,000以下であってよく、好ましくは40,000以下、より好ましくは20,000以下であってもよい。
【0050】
(B)が疎水性ペプチド(コンジュゲートにおいては、ペプチド残基である)である場合、(B)のアミノ酸残基数は特に制限されないが、例えば8以上であってよく、好ましくは20以上、より好ましくは60以上であり、また、例えば700以下であってよく、好ましくは400以下、より好ましくは180以下である。(B)のアミノ酸残基数は、例えば50~200、又は80~150であってもよい。
【0051】
(第1のリンカー(C))
第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)は、必要に応じて切断することによって後述する親水性部位(D)を任意のタイミングで切り離すことを目的とした部位(領域)である。また、(C)は第1の特異的な切断サイトの配列のみからなっていてもよいし、他の部位との連結性向上等を目的とした連結配列をさらに含んでいてもよい。
【0052】
(C)は、化学的結合によって(B)と(D)とを連結する。第1のリンカー(C)としては、(B)と(D)を化学結合によって連結できるものであれば特に制限されない。(B)及び後述の(D)のいずれもペプチドである場合は、第1のリンカー(C)としては、例えばペプチドリンカーであってよい。ペプチドリンカーは、2~50個、好ましくは2~20個、3~15個又は4~10個のアミノ酸残基からなるリンカーであってよい。ペプチドリンカーの他に、ε-アミノカプロン酸、βアミノアラニン、γ-アミノ酪酸、7-アミノヘプタン酸、12-アミノラウリン酸、グルタミン酸、p-アミノ安息香酸等を含むリンカーであってもよい。(B)及び後述の(D)のいずれか又は両方がペプチドでない場合は、(C)は第1の特異的な切断サイトを含み、かつ、(B)と(D)を化学的に結合できるリンカーであればよい。
【0053】
「特異的な切断サイト」とは、何らかの切断処理によって特異的に切断可能な部位であり、ここで、「特異的に切断可能」とは、意図される切断サイト以外の部位を切断せず、意図される切断サイトのみ切断できることを意味する。(C)における第1の特異的な切断サイトは、特異的に切断できるサイトであれば特に限定されないが、例えば、エステル結合、アミド結合、グリコシド結合、ヒドラゾン結合、ジスルフィド結合等の結合を有していてもよく、エステル結合及び/又はアミド結合を有していることが好ましく、酵素的処理又は非酵素的処理によって切断できる切断サイトであってよく、酵素的処理によって切断できる切断サイトであることが好ましい。また、当業者は必要に応じて、適した特異的な切断サイトを選択することができるが、コンジュゲートにおける他の部位にすでに存在する構造を、切断サイトとすることはできない。
【0054】
(C)における第1の特異的な切断サイトの切断処理としては、(C)を特異的に切断できれば特に限定されないが、酵素的な切断であっても、非酵素的な切断であってもよい。酵素的な切断としては例えば、エステラーゼ、タンパク質分解酵素、グリコシダーゼ等による切断であってもよい。非酵素的な切断としては例えば、光、酸性物質、塩基性物質、又は熱による切断であってもよい。
【0055】
タンパク質分解酵素としては、(C)における第1の特異的な切断サイトを認識して切断するタンパク質分解酵素であればよく、当業者に一般に知られているものを適用することができる。特にタンパク質分解酵素を用いて切断する手法は、他の(A)、(B)、(D)の機能への影響を最小限にしたうえで結合を切断することができるために特に好ましく用いることができる。
【0056】
タンパク質分解酵素と特異的な切断サイトのアミノ酸配列の好適な組み合わせは広く知られている。例えば、ヒトライノウイルス3Cプロテアーゼ由来プレシジョンプロテアーゼ(HRV3C)が、アミノ酸配列LEVLPQ/GP(配列番号13、切断部位を/で示す、以下同じ)を、ウシ血液凝固第Xa因子由来(ファクターXa)が、アミノ酸配列IDGR/(配列番号4)又はIEGR/(配列番号14)を、ウシ血液凝固第IIa因子由来(トロンビン)が、アミノ酸配列LVPRK/GS(配列番号15)を、タバコエッチウイルスNIaプロテアーゼ(TEVプロテアーゼ)が、アミノ酸配列ENLYFQ/G(配列番号16)を切断することが知られている。これらは切断反応を行う際の条件(例えば温度、時間)は当業者が適宜選択できる。また、当業者が特異的な切断サイトを適宜に選択することができるが、その際に(A)、(B)及び(D)の部位に存在する配列を、切断サイトの配列とすることができない。
【0057】
(親水性部位(D))
親水性部位(D)は、水性媒体中で、コンジュゲート同士が凝集しないようにする機能を目的としている部位(領域)である。この機能を有する親水性部位であれば特に限定されない。より具体的には、本実施形態に係るコンジュゲートは、(D)を有するため、(B)の疎水性相互作用による凝集を抑制することができ、そして(C)を切断することによって本実施形態におけるコンジュゲートから(D)が切り離され、(B)同士が凝集する。すなわち、(D)は本実施形態に係るコンジュゲートにおける(B)同士の凝集を抑制する作用を示す親水性部位である。
【0058】
親水性部位(D)は、本実施形態のコンジュゲートを水性媒体中に均一に溶解又は分散させる親水性を有すればよく、特に限定されず、また親水性物質の基であってよい。親水性部位(D)の親水性の指標としては、親水性部位(D)の分子中のアニオン性極性基、具体的にはカルボキシル基、リン酸基の和に対しての当量が450g/eq以下であればよく、400g/eq以下であることが好ましい。また、親水性部位(D)の分子中のイオン性極性基、具体的には上記アニオン性極性基とアミノ基、イミノ基等のカチオン性極性基の和に対するイオン性極性基当量が230g/eq以上であることが好ましい。親水性の別の指標としては、例えばHLB(親水性/疎水性バランス)が挙げられる。
【0059】
親水性部位(D)は上記特性が発揮されれば合成系高分子であってもよく、天然系高分子であってもよい。ここで、親水性部位(D)は、コンジュゲートにおいて他の部位と化学的に結合しているため、高分子化合物としてではなく、これらの高分子化合物の基として存在する。親水性部位(D)としては、例えば、ポリビニルベンゼンスルホン酸及びその塩等の炭化水素ビニル系(共)重合体;ポリビニルピロリドン及びその塩等の水溶性置換ビニル系(共)重合体;ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩等の水溶性アクリル酸エステル系(共)重合体;ポリエチレンレングリコール等の水溶性ポリエーテル系(共)重合体等の水溶性合成樹脂類;水溶性キトサン塩;フコイダン;水溶性アルギン酸及びその塩;水溶性ヒアルロン酸及びその塩;デキストラン、アガロース、ヘパリン等の水溶性多糖類及びその塩;水溶性タンパク質等の水溶性天然系高分子類等が挙げられる。この中で、分散媒での安定性、コンジュゲートを構成させる際の容易さを考慮すると、天然系高分子、特に親水性ペプチドであることが好ましい。
【0060】
本実施形態に係るコンジュゲートにおける親水性部位(D)がペプチドである場合、その立体構造において親水性ヘリックス構造を有してよく、親水性は、例えば上述の親水性指標、ハイドロパシープロット値、HLB値等を用いて評価することができる。
【0061】
本実施形態に係るコンジュゲートにおいて、親水性部位(D)のハイドロパシー指数が-1.8以下であるアミノ酸残基数の全アミノ酸残基に対する比率が好ましくは25%超、より好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上である親水性部位が好ましい。
【0062】
親水性ペプチドとしては例えば、配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド(Pseudomonas syringae由来の氷核タンパク質InaKのC末端ドメイン)等が挙げられる。
【0063】
親水性部位(D)が高分子化合物である場合、その重量平均分子量は特に限定されず、例えば1,000以上であってよく、好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上であり、また、50,000以下であってよく、好ましくは30,000以下、より好ましくは1,000以下である。
【0064】
(D)が親水性ペプチド(コンジュゲートにおいては、ペプチド残基である)である場合、(D)のアミノ酸残基数は特に制限されないが、例えば10以上であってよく、好ましくは20以上、より好ましくは40以上であり、また、400以下であってよく、好ましくは200以下、より好ましくは100以下である。(D)のアミノ酸残基数は、例えば50~200、又は80~150であってもよい。
【0065】
(コンジュゲート)
一実施形態のコンジュゲートにおいて、(B)及び(D)がペプチド残基であり、(C)がペプチドリンカーであり得る。この場合、コンジュゲートが融合タンパク質であり得る。本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質である場合、N末端側からC末端側に向かって、(A)~(D)の順に含んでいてもよく、(D)~(A)の順に含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質である場合、融合タンパク質のアミノ酸残基数としては、特に限定されないが、20以上であってよく、好ましくは40以上、より好ましくは80以上であり、また、1000以下であってよく、好ましくは800以下、より好ましくは400以下、特に好ましくは240以下である。
【0067】
本実施形態に係るコンジュゲートの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、3,000以上であってよく、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上であり、また、100,000以下であってよく、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下である。
【0068】
本実施形態に係るコンジュゲートにおいては、(A)と(B)が直接的に融合してもよく、又はリンカーを介して連結されていてもよい。(A)と(B)がリンカーを介して連結されている場合、当該リンカーは、第2の特異的な切断サイトを含む第2のリンカー(E)であってもよい。第2のリンカー(E)の構造については、第1のリンカー(C)と異なる特異的な切断サイトを有する以外に、第1のリンカー(C)に準ずる。(B)及び(D)が共にペプチド残基であり、第1のリンカー(C)及び第2のリンカー(E)が共にペプチドリンカーである場合は、本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質であり得る。
【0069】
(A)と(B)の間にリンカー(E)を挿入することで、(C)の切断後凝集した標的物質を、再び水性溶媒に分散させることが可能になる。例えば、微粒子の特異的回収に本実施形態に係るコンジュゲートを用いた場合、凝集した標的物質をエアレーション等で回収、洗浄した後、さらに疎水性部位(B)を切り離すことで微粒子を水性媒体中に再分散させてることができる。
【0070】
また、本実施形態に係るコンジュゲートは、例えば(A)の部位に複数の(B)が結合し、それぞれに(C)、(D)が順に結合している場合、さらには(B)に複数の(C)が結合し、それぞれに(D)が順に結合している場合も含んでもよい。すなわち、一分子のコンジュゲートに、複数の(B)~(D)がが含まれてもよいが、結合の順番は(A)~(D)の順に並んでいる必要がある。また、複数の(B)、(C)、又は(D)は同じであっても、異なっていてもよい。
【0071】
本実施形態に係るコンジュゲートは、水性媒体中に均一に溶解、又は分散させることができる親水性を有するものである。本実施形態に係るコンジュゲートの親水性/疎水性は、疎水性部位(B)及び親水性部位(D)の両方の影響を受ける。例えば、疎水性部位(B)が、親水性部位(D)に比べて、サイズが大きすぎる又は疎水性が強すぎると、コンジュゲートの全体として疎水性に傾く可能性があるため、疎水性部位(B)と親水性部位(D)のバランスを考慮して、本実施形態に係るコンジュゲートが親水性となるように設計する必要がある。本実施形態に係るコンジュゲートの親水性は、上記の指標で評価することができる。
【0072】
本実施形態に係るコンジュゲートは、水性媒体中に均一に溶解又は分散させる親水性を有すればよく、特に限定されない。親水性の指標としては、例えばHLB(親水性/疎水性バランス)や、ハイドロパシープロット値等が挙げられる。また、疎水性部位(B)と親水性部位(D)とでは、(B)又は(D)の全アミノ酸残基数に対するハイドロパシー指数が-1.8以下のアミノ酸残基数(強い親水性を示す残基)の比率は、疎水性部位(B)の方が低い。また(B)と(D)との間における全アミノ酸残基数に対する強い親水性を示すアミノ酸残基数の比率の差は、特に限定されないが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。
【0073】
(コンジュゲートの作製)
本実施形態に係るコンジュゲートは、当業者にとって公知の方法によって作製することができる。本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質でない場合、(A)、(B)及び(D)をそれぞれ作製したのち、公知の方法によって適切なリンカー(C)で(A)、(B)、(C)及び(D)の順番でこれらを連結して作製することができる。また、本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質である場合、すなわち、(B)、(C)及び(D)がペプチドである場合、(A)、(B)、(C)及び(D)の各ペプチドの作製に関しては、ペプチドが短い場合は、公知のペプチド合成法によって、人工合成して作製することができる。そのような合成法としては例えば、Fmoc法、Boc法等の固相合成法、及び液相合成法が挙げられる。ペプチドが長い場合は、遺伝子工学的手法にて作製することができる。遺伝子工学的な手法による作製方法は特に限定されないが、目的のペプチドをコードする核酸を適切な発現ベクターに挿入し、宿主細胞に発現させることによって得ることができる。
【0074】
本実施形態に係るコンジュゲートが融合タンパク質である場合は、上記遺伝子工学的な手法で全長の融合タンパク質を作製することができる。また、人工合成によって作製することもできる。
【0075】
(コンジュゲートの使用)
本実施形態に係るコンジュゲートは、後述の標的物質の表面特性の制御方法及び標的物質の回収方法に用いることができる。より具体的には、本実施形態に係るコンジュゲートによれば、標的物質の表面特性(親水性又は疎水性)を特異的に、かつ、任意のタイミングで制御できる。この特徴を鑑みれば、標的物質の表面特性の制御方法や混合物から微粒子である標的物質の特異的回収方法のみならず、表面に標的物質と併せて複数の物質が存在する複合表面における、標的物質のマーキング、パターニング、イメージング、定性的・定量的アナライジング、標的物質表面へのその他物質の特異的アンカーリング手段として活用することもできる。また、本実施形態に係るコンジュゲートは、標的物質の吸着剤として用いることもできる。
【0076】
<標的物質の表面特性の制御方法>
本実施形態に係る標的物質の表面特性を制御する方法は、標的物質の表面に上記コンジュゲートを吸着させる工程(以下、「吸着工程」ともいう)を含む。上記コンジュゲートは疎水性部位(B)及び親水性部位(D)を有しているため、標的物質の表面特性を任意のタイミングで疎水性又は親水性に制御することができる。
【0077】
吸着工程は、標的物質の表面に上記コンジュゲートを吸着させる工程である。標的物質の表面に親水性のコンジュゲートが吸着されているため、標的物質の表面を親水性に制御することができる。吸着工程は、標的物質の種類、性質等により適宜設定すればよいが、水性媒体中で標的物質と上記コンジュゲートを混合することにより吸着させる工程であってもよく、標的物質の表面に上記コンジュゲート溶液又は分散液を塗布することにより吸着させる工程であってもよい。
【0078】
標的物質は、特に限定されず、有機材料であってもよく、無機材料であってもよい。また、これらの両方を含有する材料であってもよい。有機材料及び無機材料については、上述のとおりである。
【0079】
本実施形態に係る標的物質の表面特性を制御する方法は、上記コンジュゲートにおける上記(C)を切断する工程(以下、「切断工程」ともいう)をさらに含んでいてもよい。切断工程によって、親水性部位(D)が切り離されて、疎水性部位(B)が表面に露出する。それによって、標的物質の表面を疎水性に制御することができる。切断工程は、上述のとおりである。
【0080】
上記各工程は、コンジュゲートが分散された水性媒体中で行われてもよく、標的物質が大気に暴露される条件下で行われてもよい。大気に暴露される条件下では、コンジュゲートを水性媒体に分散して、標的物質に塗布、噴霧等によって行うことができる。
【0081】
本実施形態に係る標的物質の表面特性を制御する方法は、標的物質単独、又は混合物中の標的物質のいずれに対しても、特異的に表面特性を制御することができる。
【0082】
<標的物質の回収方法>
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、水性媒体中で標的物質に上記コンジュゲートを吸着させる工程(以下、「吸着工程」ともいう。)、及び、上記コンジュゲートにおける上記(C)を切断し、上記(B)同士が凝集することにより、標的物質を凝集させる工程(以下、「凝集工程」ともいう。)を含む。本実施形態に係る標的物質の回収方法は、吸着工程によって標的物質の表面にコンジュゲートを吸着させ、そして、切断工程によって、標的物質の表面を疎水化させることで、標的物質を特異的に凝集させて回収することができ、さらに凝集するタイミングは任意に制御することができる。
【0083】
吸着工程では、水性媒体中で標的物質の表面に上記コンジュゲートを吸着させる。吸着工程は、適宜設定すればよいが、水性媒体中で標的物質と、上記コンジュゲートを混合することにより吸着させる工程であってもよい。なお、標的物質は上述のとおりであるが、特に微粒子であることが好ましい。
【0084】
水性媒体は上述したとおりである。水性媒体において、標的物質は水性媒体の表面に浮遊しているか、分散若しくは懸濁されているか、又はその両方であってよい。標的物質の大きさは、水性媒体中に懸濁又は分散できるほどの大きさであれば、特に限定されず、例えば上記微粒子であることが好ましい。水性媒体中は、標的物質の他、他の物質が存在していてもよい。本実施形態の回収方法は、他の物質の存在下であっても、標的物質のみを特異的に吸着させ、凝集させ回収することができる。
【0085】
水性媒体における上記コンジュゲートの添加量は、コンジュゲートの分子量、親水性/疎水性等の特性、及び標的物質の質量に応じて適宜設定すればよいが、例えば、標的物質の全質量に対して0.1質量%以上であってよく、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、また、100質量%以下であってよく、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0086】
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、上記コンジュゲートを1種類のみ用いてもよく、複数種類同時に用いてもよい。
【0087】
凝集工程では、上記コンジュゲートにおける(C)を切断し、(B)を標的物質の表面に露出させることで、標的物質の表面を疎水化させ、さらに、水性溶媒中で(B)同士が疎水性相互作用によって凝集することにより、標的物質を凝集させる。上記コンジュゲートにおける(C)を切断するタイミングは任意に決定することができるため、標的物質の凝集を任意のタイミングで制御することができる。なお、上記コンジュゲートにおける(C)の切断処理については上述のとおりである。
【0088】
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、標的物質を回収する工程(回収工程)をさらに含んでいてもよい。回収工程は、標的物質のみを回収し、標的物質以外の物質を除去する工程である。回収工程は、標的物質の凝集体を回収し、それ以外の物質及び水性媒体を除去する工程であってもよい。本実施形態に係る標的物質の回収方法は、回収工程を含むことで、高純度に標的物質を回収することができる。
【0089】
回収工程は、凝集工程により産生された凝集物の沈降を促進すること、例えば、凝集物等を含む溶液に対して遠心力及び/又は重力を加えることによって行ってもよい。具体的には、遠心分離が挙げられる。
【0090】
回収工程は、また、凝集物等を含む水性溶媒をろ過することによって行ってもよい。ろ過は、適宜設定すればよいが、一般的なフィルター又はストレーナー等によって行うことができる。遠心分離とろ過を組み合わせてもよい。
【0091】
回収工程は、さらに、エアレーションによって行ってもよい。エアレーションとは、空気を媒体中でバブリングさせることで、空気の泡に疎水化した標的物質を吸着させて分散液表面に浮かして回収する方法である。
【0092】
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、上記コンジュゲートが第2の特異的な切断サイトを含む第2のリンカー(E)を含む場合、更に第2のリンカー(E)を切断し、標的物質を再分散させる工程(以下、「再分散工程」)を含んでいてもよい。再分散工程を含むことで、標的物質の表面の疎水性部位(B)を切り離することができ、標的物質を水性溶媒に再分散することが可能となる。標的物質が可溶性である場合は、標的物質を溶液の状態で取り扱うことができる。標的物質が不溶性の微粒子である場合は、水性溶媒中の分散液の状態で取り扱うことができる。
【0093】
再分散工程は、(E)を切断することによって実施することができる。なお、(E)の切断処理については、上述のとおりである。
【0094】
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、上記コンジュゲートを1種類のみ用いてもよく、複数種類用いてもよい。
【0095】
本実施形態に係る標的物質の回収方法は、上述したとおり標的物質を特異的に凝集させて回収することができるため、上記工程を含む、標的物質の除去方法として捉えることもできる。
【実施例0096】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<1.コンジュゲートの製造>
コンジュゲートを、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる融合タンパク質となるように設計した。具体的には、N末端側からC末端側に向かって、標的物質に特異的に吸着するペプチド部位(A)が黄銅鉱に特異的に吸着するペプチド(黄銅鉱結合ペプチド、ChalBP、配列番号2)疎水性部位(B)がエアー結合ドメイン(ABD、配列番号3)、第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)がファクターXa切断サイトを有するリンカー(配列番号4)、親水性部位(D)がPseudomonas syringae由来の氷核タンパク質InaK(Genbankアクセッション番号:AF013159)のC末端ドメイン(InaKC、配列番号5)から構成される融合タンパク質となるように設計した。なお、(A)と(B)との間には、アミノ酸配列がGGGS(配列番号6)であるペプチドリンカー(X)が挿入され、Niカラムにて精製できるように融合タンパク質のC末端側に6×Hisタグが付加されている。
(A)+(X)+(B)+(C)+(D)配列番号1:
DSQKTNPSGGGSMDPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHAIDGRFRLWDGKRYRQLVARTGENGVEADIPYYVNEDDDIVDKPDEDDDWIEVK
(A)配列番号2:DSQKTNPS
(B)配列番号3:
MDPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHADPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHA
(C)配列番号4:IDGR
(D)配列番号5:FRLWDGKRYRQLVARTGENGVEADIPYYVNEDDDIVDKPDEDDDWIEVK
(X)配列番号6:GGGS
【0098】
黄銅鉱結合ペプチド(ChalBP)は、ファージディスプレイ法により得られたものであり、この手法ではペプチドはN末側が自由端となっているため、当該融合タンパク質においても黄銅鉱結合ペプチドのN末端が自由端となるように配置した。
【0099】
疎水性部位(B)の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、アミノ酸配列が、M(DPSMKQLADSLHQLARQVSRLEHA)であり、α-ヘリックス構造を形成するMKQLADSLHQLARQVSRLEHAというアミノ酸配列が、DPSというアミノ酸配列を介して4つ連結されたものである。
【0100】
上記1.で製造した融合タンパク質の疎水性部位(B)において、ハイドロパシー指数が-1.8以下のアミノ酸残基(すなわち強い親水性を示すアミノ酸残基)数は、疎水性部位(B)の全アミノ酸残基数97残基中4残基であり、その比率は4%である。すなわち、強い親水性を示す残基が少ないことから疎水性を示す。一方、上記1.で製造した融合タンパク質の親水性部位(D)において、ハイドロパシー指数が-1.8以下の残基数は、親水性部位(D)の全残基数49残基中19残基であり、その比率は39%であった。すなわち、強い親水性を示す残基が比較的多く含まれていることから、親水性部位(B)は強い親水性を示す。
【0101】
上記融合タンパク質に対応する塩基配列を挿入したpET-22b(+)ベクターを作製し、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。この形質転換菌体を、アンピシリンを含むLB培地中にて37℃で培養した。その後、IPTGを終濃度0.2mMとなるように添加して、さらに培養し、上記融合タンパク質の発現誘導を行った。発現誘導後、遠心分離により菌体を回収し、超音波照射による菌体破砕後、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により融合タンパク質の発現を確認した。
【0102】
上述したとおり、設計した融合タンパク質はNiカラムで精製するためのHisタグが付加されている。そこで、上記の操作により得られた菌体破砕液の可溶性画分を用いて、常法に従ってNiカラムによるアフィニティ精製を行った。表1に精製にて用いたバッファーの組成を、表2にHisタグアフィニティ精製の手順を示す。また、図1に融合タンパク質の精製過程における各手順で得られた試料についてのSDS-PAGEの結果を示す。目的の融合タンパク質は、図1中矢印で示す。
【表1】

【表2】
【0103】
図1の濃縮タンパク質のレーン(Cのレーン)から分かるとおり、精製後の濃縮した融合タンパク質溶液では、目的の融合タンパク質以外のバンドも若干確認されたが、相対的な濃度としては目的の融合タンパク質と比較して非常に低いレベルであったため、この融合タンパク質溶液を後述の凝集性の評価に用いた。
【0104】
<2.コンジュゲートの凝集性の評価(1)>
表3に示す組成となるように、黄銅鉱微粒子(10mg、粒径3~4μm)を含むトリス-HCl緩衝溶液(1mL、pH7.4)に上記1.で得られた黄銅鉱凝集融合タンパク質(終濃度2.5μM)を添加した。次いで、部位特異的タンパク質分解酵素であるファクターXa(1μg、メルク社製)を加えたのち、180秒間、25℃で転倒混和し、黄銅鉱微粒子分散溶液を調製した。調製した黄銅鉱微粒子分散溶液を、光学顕微鏡にて観察し、上記融合タンパク質による黄銅鉱微粒子の凝集性を評価した。比較として、融合タンパク質を含まない系で同様の評価を行った。その結果を図2に示す。
【表3】
【0105】
図2(A)に示すように、目視においても、融合タンパク質非添加系では黄銅鉱微粒子は分散した状態のままであったのに対し、融合タンパク質添加系では黄銅鉱微粒子が凝集することが分かった。また、図2(B)に示すように、融合タンパク質非添加系と添加系の黄銅鉱微粒子分散溶液を、光学顕微鏡で観察したところ、融合タンパク質非添加系では黄銅鉱の凝集は見られなかったが、融合タンパク質添加系では50μmほどの大きな凝集体が確認された。
【0106】
上記2.で示した結果については、その作用機構は完全に解明されていないが、以下のように推測される。配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチド(エアー結合ドメイン)は、4本のα-ヘリックス構造がバンドル状に集まった構造で、そのバンドルの内部は疎水性残基が囲われた構造をしており、気-液界面に配向する性質を有する疎水性が非常に高いペプチドであると考えられる。一方、上記1.で製造した融合タンパク質(InaKC)は親水性が高く、エアー結合ドメインのバンドル構造が親水性の高いInaKCによってキャッピングされている。水性媒体においては、エアー結合ドメインは上記の構造をとっていることで親水性残基が表面に出ているが、部位特異的タンパク質分解酵素による第1の特異的な切断サイトを含む第1のリンカー(C)の切断に伴い、親水性部位であるInaKCが融合タンパク質から除去されると、疎水性部位であるエアー結合ドメインの立体構造が変化して疎水(あるいは気液)界面に配向し、エアー結合ドメインの疎水性残基が表層に露出し、それらの疎水性相互作用による凝集力が生じるため、黄銅鉱微粒子が凝集したと考えられる。
【0107】
また、黄銅鉱微粒子の凝集性評価実験後の粉末を凍結乾燥させて走査型電子顕微鏡(SEM)にて表面分析をしたところ、図3に示すように、上記融合タンパク質添加系ではサイズの異なる黄銅鉱微粒子が凝集している様子が確認された。
【0108】
<3.コンジュゲートの凝集性の評価(2)>
黄銅鉱微粒子の代わりに、シリカ微粒子、又は黄銅鉱微粒子-シリカ微粒子混合物を用いたこと以外は上記2.と同様にして、それぞれの微粒子分散溶液を調製し、光学顕微鏡にて観察することで、上記融合タンパク質による各微粒子の凝集性を評価した。その結果を図4~5に示す。
【0109】
図4に示すように、シリカ微粒子を用いて調製した微粒子分散溶液では、上記融合タンパク質の非添加系、及び添加系のいずれにおいても凝集は確認されなかった。
【0110】
図5に示すように、黄銅鉱微粒子(黒色微粒子)とシリカ微粒子(透明微粒子)の混合物を用いて調製した微粒子分散溶液において、上記融合タンパク質非添加系では黄銅鉱微粒子(黒色微粒子)及びシリカ微粒子(透明微粒子)のいずれの凝集も見られないのに対し、上記融合タンパク質添加系では黄銅鉱微粒子(黒色微粒子)の凝集体が確認された。
【0111】
これらの上記融合タンパク質による微粒子の凝集性の評価から、上記融合タンパク質は黄銅鉱微粒子を特異的に凝集させる機能を有することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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