(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012973
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240124BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114847
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
【テーマコード(参考)】
5F056
【Fターム(参考)】
5F056AA07
5F056CB05
5F056DA08
5F056DA23
5F056EA03
5F056EA04
5F056EA08
5F056EA18
(57)【要約】
【課題】散乱電子や制動放射X線による回路素子の動作不良を抑制する。
【解決手段】ブランキングアパーチャアレイシステムは、マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応してブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置され、中央部に前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口が形成されたX線シールドと、を備える。前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカに電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部の周縁に配置される。前記回路部は、前記複数のビーム通過孔のうち最も外周側のビーム通過孔の端との最短距離が、前記ブランキングアパーチャアレイ基板内での電子の飛程に基づく距離以上となるように配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置され、中央部に前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口が形成されたX線シールドと、
を備え、
前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部の周縁に配置され、
前記回路部は、前記複数のビーム通過孔のうち最も外周側のビーム通過孔の端との最短距離が、前記ブランキングアパーチャアレイ基板内での電子の飛程に基づく距離以上となるように配置される、ブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項2】
前記回路部は、前記X線シールドの前記開口の開口端との最短距離が、X線の侵入距離と、前記X線で発生した光電子の飛程との和に基づく距離以上となるように配置される、請求項1に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項3】
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側又は下流側に配置され、電子の飛程より厚い部材で構成される散乱電子シールドを備える、請求項1又は2に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項4】
前記散乱電子シールドは、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の前記セル部と前記回路部の間で密着し、前記回路部を覆う、請求項3に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項5】
前記散乱電子シールドは、X線の所望の減衰量を得る厚さを有する部材で構成される、請求項3に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項6】
前記X線シールドは、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の前記セル部と前記回路部の間で密着し、前記回路部を覆う、請求項1又は2に記載のブランキングアパーチャアレイシステム。
【請求項7】
荷電粒子ビームを放出する荷電粒子ビーム源と、
複数の第1開口が形成され、前記前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ前記複数の第1開口を上流側から下流側に通過することによりマルチ荷電粒子ビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、
前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側又は下流側に配置され、中央部に前記マルチ荷電粒子ビームが通過する第2開口が形成されたX線シールドと、
を備え、
前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部の周縁に配置され、
前記回路部は、前記複数のビーム通過孔のうち最も外周側のビーム通過孔の端との最短距離が、前記ブランキングアパーチャアレイ基板内での散乱電子の飛程に基づく距離以上である、マルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記回路部は、前記X線シールドの前記開口の開口端との最短距離が、X線の侵入距離と、前記X線で発生した光電子の飛程との和に基づく距離以上である、請求項7に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項9】
前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側又は下流側に配置され、電子の飛程より厚い部材で構成される散乱電子シールドを備える、請求項7又は8に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項10】
前記散乱電子シールドは、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の前記セル部と前記回路部の間で密着し、記回路部を覆う、請求項9に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項11】
前記散乱電子シールドは、X線の所望の減衰量を得る厚さを有する部材で構成される、請求項9に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項12】
前記X線シールドは、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の前記セル部と前記回路部の間で密着し、前記回路部を覆う、請求項7又は8に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路(LSI)の高集積化に伴い、半導体デバイス(MOSFET:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の設計寸法はムーアの法則に従い依然として微細化されている。この微細化を担うリソグラフィは、半導体製造プロセスの中でもパターンを生成する極めて重要な技術である。LSIの所望の回路パターンをウェーハ上に形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に塗布されたレジスト(感光性樹脂)に縮小転写する手法が主流となっている。現在、最先端の微細パターンの形成においては極端紫外線(Extreme Ultraviolet: EUV)を光源に用いたEUVスキャナも採用されている。EUV露光では石英上にEUVを反射させる多層膜と、さらにその上に形成された吸収体をパターニングしたEUVマスクが用いられる。いずれのマスクも、本質的に解像性に優れる電子ビームを応用した電子ビーム描画装置を用いて製造されている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイ基板を使ったマルチビーム描画装置では、例えば、1つの電子源から放出された電子ビームを複数の開口を持った成形アパーチャアレイ基板に通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成する。マルチビームは、ブランキングアパーチャアレイ基板のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。ブランキングアパーチャアレイ基板はビームを個別に偏向するための電極対(ブランカ)と、その間にビーム通過用の開口を備えており、電極対の一方をグラウンド電位で固定し、他方をグラウンド電位とそれ以外の電位に切り替えることにより、それぞれ個別に、通過する電子ビームのブランキング偏向を行う。ブランカによって偏向された電子ビームは制限アパーチャによって遮蔽され、偏向されなかった電子ビームは試料上に照射される。ブランキングアパーチャアレイ基板は、各ブランカの電極電位を独立制御するための回路を搭載する。
【0004】
マルチビームを形成するための開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板に電子ビームが照射される際に、制動放射X線が発生する。また、成形アパーチャアレイ基板でマルチビームを形成する際に、開口のエッジで一部の電子ビームが散乱され散乱電子となる。この制動放射X線や散乱電子がブランキングアパーチャアレイ基板に照射されると、回路素子に含まれるMOSFETの電気特性がトータルドーズ(Total Ionizing Dose:TID)効果により劣化し、回路素子の動作不良を引き起こすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-093566号公報
【特許文献2】特開平11-317357号公報
【特許文献3】特開2017-079259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、散乱電子や制動放射X線による回路素子の動作不良を抑制するブランキングアパーチャアレイシステム及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるブランキングアパーチャアレイシステムは、マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側に配置され、中央部に前記マルチ荷電粒子ビームが通過する開口が形成されたX線シールドと、を備え、前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部の周縁に配置され、前記回路部は、前記複数のビーム通過孔のうち最も外周側のビーム通過孔の端との最短距離が、前記ブランキングアパーチャアレイ基板内での電子の飛程に基づく距離以上となるように配置されるものである。
【0008】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、荷電粒子ビームを放出する荷電粒子ビーム源と、複数の第1開口が形成され、前記前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ前記複数の第1開口を上流側から下流側に通過することによりマルチ荷電粒子ビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームが上流側から下流側に通過する複数のビーム通過孔が形成され、各ビーム通過孔に対応して前記各ビームのブランキング偏向を行うブランカがそれぞれ設けられたブランキングアパーチャアレイ基板と、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の上流側又は下流側に配置され、中央部に前記マルチ荷電粒子ビームが通過する第2開口が形成されたX線シールドと、を備え、前記ビーム通過孔及び前記ブランカを含むセル部は、前記ブランキングアパーチャアレイ基板の中央部に設けられ、前記ブランカにそれぞれ電圧を印加する回路素子を含む回路部が、前記セル部の周縁に配置され、前記回路部は、前記複数のビーム通過孔のうち最も外周側のビーム通過孔の端との最短距離が、前記ブランキングアパーチャアレイ基板内での散乱電子の飛程に基づく距離以上であるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブランキングアパーチャアレイ基板上の回路素子が、散乱電子や制動放射X線によって動作不良を起こすことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図3】ブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図4】ブランキングアパーチャアレイ基板の平面図である。
【
図5】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図6】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図7】ブランキングアパーチャアレイシステムの一部拡大図である。
【
図8】変形例による成形アパーチャアレイ基板の概略構成である。
【
図9】変形例によるブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図10】変形例によるブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【
図11】変形例によるブランキングアパーチャアレイシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0012】
図1は、実施形態に係る描画装置の概略構成図である。
図1に示す描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画装置100は、電子鏡筒102と描画室103とを備えている。電子鏡筒102内には、電子源111、照明レンズ112、成形アパーチャアレイ基板10、ブランキングアパーチャアレイシステム1、縮小レンズ115、制限アパーチャ部材116、投影レンズ117及び偏向器118が配置されている。
【0013】
ブランキングアパーチャアレイシステム1は、ブランキングアパーチャアレイ基板30、実装基板40及びX線シールド50を有する。ブランキングアパーチャアレイ基板30は、実装基板40の裏面側(下面側)に実装されている。本実施形態では、電子ビーム(マルチビームMB)の進行方向上流側を表面側又は上面側といい、進行方向下流側を裏面側又は下面側という。
【0014】
X線シールド50は、実装基板40とブランキングアパーチャアレイ基板30との間に配置されている。X線シールド板0は、原子番号が大きい程、X線吸収率が高くなる。そのため、X線シールド50は、重金属、例えばタングステン、金、タンタル、鉛等で構成されていることが好ましい。
【0015】
実装基板40及びX線シールド50の中央部には、それぞれ、電子ビーム(マルチビームMB)が通過するための開口42、52が形成されている。X線シールド50の開口52と実装基板40の開口42とが位置合わせされている。
【0016】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となる、レジストが塗布されたまだ何も描画されていないマスクブランクス等の試料101が配置される。また、試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。
【0017】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ基板10には、縦m列×横n列(m,n≧2)の開口12が所定の配列ピッチで形成されている。各開口12は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口12の形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口12を電子ビームBの一部がそれぞれ通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0018】
図3に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30には、成形アパーチャアレイ基板10の各開口12の配置位置に合わせて、それぞれのマルチビームMBが通過できるよう通過孔32が形成されている。各通過孔32には、対となる2つの電極の組からなるブランカ34が配置される。ブランカ34の電極の一方はグラウンド電位で固定されており、他方をグラウンド電位と別の電位に切り替える。各通過孔32を通過する電子ビームは、ブランカ34に印加される電圧(電界)によってそれぞれ独立に偏向される。
【0019】
このように、複数のブランカ34が、成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過したマルチビームMBのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0020】
図4に示すように、複数のブランカ34は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の中央のセル部Cに設けられている。また、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部Cより外側(周縁側)には、ブランカ34への電圧印加を制御するLSI回路を含む回路部36が形成されている。
【0021】
回路部36は、MOSFET等を有し、実装基板40とワイヤボンディングにより接続され、外部から転送されてくるデータに応じた信号を生成し、ブランキングアパーチャアレイ基板30内に配置された配線(図示せず)を介してブランカ34に電圧を印加する。
【0022】
セル部Cは、X線シールド50の開口52及び実装基板40の開口42と位置合わせされている。
【0023】
電子源111(放出部)から放出された電子ビームBは、照明レンズ112によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板10全体を照明する。電子ビームBが成形アパーチャアレイ基板10の複数の開口12を通過することによって、複数の電子ビーム(マルチビームMB)が形成される。マルチビームMBは、実装基板40の開口42及びX線シールド50の開口52を通過し、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部C内の、それぞれ対応する通過孔32を通過する。
【0024】
ブランキングアパーチャアレイ基板30を通過したマルチビームMBは、縮小レンズ115によって、縮小され、制限アパーチャ部材116の中心の開口に向かって進む。ここで、ブランカ34によって僅かに偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材116によって遮蔽される。一方、ブランカ34によって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材116の中心の開口を通過する。ブランカ34への電圧印加による電界の制御、すなわちオン/オフ操作によってビームのブランキング制御が行われ、各ビームの試料101上でのオフ/オン状態が制御される。
【0025】
このように、制限アパーチャ部材116は、複数のブランカ34によってビームオフの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームオンになってからビームオフになるまでの時間が、試料101上のレジストへのビーム照射による1回分の露光時間となる。
【0026】
制限アパーチャ部材116を通過したマルチビームは、投影レンズ117により焦点が試料101上に合わされ、成形アパーチャアレイ基板10の開口12の形状(物面の像)が試料101(像面)に所望の縮小率で投影される。偏向器118によってマルチビーム全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。XYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器118によって制御される。
【0027】
ここで、成形アパーチャアレイ基板10でマルチビームMBを形成する際に、電子ビームBの一部が開口12のエッジで散乱され散乱電子となり、また一部は開口(通過孔)の側壁で反射し反射電子となる(以下、反射電子と併せて散乱電子あるいは単に電子と記す)。この散乱電子が、通過孔32の端からブランキングアパーチャアレイ基板30の内部に侵入し、エネルギーを落としながら進行して止まる。このときの入射点から停止点までの直線距離が電子の飛程delcとなる。この際、制動放射X線と特性X線(以下併せて制動放射X線あるいは単にX線と呼ぶ)がブランキングアパーチャアレイ基板30内で発生するが、散乱電子がTID効果により直接トランジスタに与えるダメージ(影響)は、制動放射X線のそれよりも5~6桁程度大きい。
【0028】
そこで、本実施形態においては、
図5に示すように、通過孔32の端からの回路部36の退避距離を、電子の飛程d
elc以上とする。
【0029】
一方、成形アパーチャアレイ基板10に電子ビームBが照射される際に、同様に制動放射X線が発生する。制動放射X線は、一部がX線シールド50で吸収されて減衰する。なお、成形アパーチャアレイ基板10で発生した制動放射X線がブランキングアパーチャアレイ基板30を照射した際に発生する光電子も、上述した散乱電子同様に振る舞う。
【0030】
X線シールド50で吸収されなかったX線や光電子を含む散乱電子がブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36に照射されると、TID効果によりトランジスタの電気特性が劣化し、動作不良を引き起こし得る。
【0031】
そこで、本実施形態では、さらに、
図6に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36を、X線シールド50の開口52の端部(開口端52a)よりも外側(周縁側)に退避させた位置に設け、制動放射X線や光電子を含む散乱電子による影響を抑える。
【0032】
X線はブランキングアパーチャアレイ基板30内をほぼ直線的に進行し、光電子を生成して止まる(光電効果)。従って、開口端52aと回路部36との間隔(退避距離devc)は、下記の式(1)に示すように、X線が浸み込む(侵入する)距離dxと電子の飛程delcとの和より大きいことが好ましい。これにより、ブランキングアパーチャアレイ基板30にX線が侵入し、このX線がブランキングアパーチャアレイ基板30内で光電子を生成した場合であっても、回路部36への影響を抑えることができる。
devc>dx+delc ・・・(1)
【0033】
X線が浸み込む距離dxは、所望の減衰量を得るX線シールド50の厚さds、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面から回路部36までの深さdb、X線の最小侵入角度θを用いて、以下の式(2)で表すことができる。最小侵入角度θは、成形アパーチャアレイ基板10とブランキングアパーチャアレイ基板30の位置関係によって幾何学的に決定される。例えば、電子ビームが照射される成形アパーチャアレイ基板10の最も左上の端(制動放射X線が発生する一番遠い点)から、ブランキングアパーチャアレイ基板30の直上のX線シールド50の右下の端の開口52aに向かって引いた直線の角度とし、ブランキングアパーチャアレイ基板30に到達するまでに所望のX線減衰量を得る。すなわち、X線シールド50への侵入角度がθ、X線シールド50に侵入する距離がdbで、さらにそのままブランキングアパーチャアレイ基板30を直進する。
dx=dscosθ+dbcotθ ・・・(2)
【0034】
ここで、回路部36を構成するMOSFETのゲート酸化膜の厚さは数nm程度で、数百μm厚のブランキングアパーチャアレイ基板30の最表面に形成されている。そのため、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面から回路部36までの深さdbは、ブランキングアパーチャアレイ基板30の厚さと見做すことができる。
【0035】
電子の飛程delcは、例えば、電子が全エネルギーを落とすまでブランキングアパーチャアレイ基板30内を進行する距離を示すグリュン飛程Rg程度であり、十分なマージンを考慮すると例えばグリュン飛程Rgの2倍とみなすことができる。
【0036】
X線シールド50とブランキングアパーチャアレイ基板30との位置合わせ誤差εalを考慮すると、退避距離devcは、下記の式(3)を満たすことが好ましい。
devc>dscosθ+dbcotθ+2Rg+εal ・・・(3)
【0037】
例えば、X線の最小侵入角度θを26.5°、X線シールド50の厚さdsを1000μm、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面から回路部までの深さ厚さdbを130μm、(50keV電子のシリコンでの)グリュン飛程Rgを17μm、位置合わせ誤差εalを100μmとした場合、式(3)から、退避距離devcを1.3mm以上とすればよいことが求まる。
【0038】
図7に示すように、ブランカ34と回路部36はブランキングアパーチャアレイ基板30の上面(表面)側に配置されていてもよく、退避距離d
evcは式(3)から同様に求めることができる。
【0039】
この場合、X線シールド50は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36を覆う。これにより、成形アパーチャアレイ基板10で発生する散乱電子からも回路部36を保護することができる。X線シールド50は、散乱電子が隙間から侵入してこないようセル部Cと回路部36の間でブランキングアパーチャアレイ基板30と銀ペースト等の導電性のシールド材で密着させることにより散乱電子シールドとしても機能させることができる
。
【0040】
退避距離devcの上限は特に限定されないが、退避距離devcが長い程、セル部Cのブランカ34への信号伝搬遅延が大きくなるため、退避距離devcは100mm以下が好ましく、露光装置の最大露光エリアが33mmであることと、貼り合わせの誤差とを考慮すると、66mm以下がより好ましく、33mm以下がさらに好ましく、16.5mm以下がさらに好ましい。
【0041】
開口端52aから水平方向(ビーム進行方向に直交する方向)の外側に上記の退避距離devcを空けて回路部36を設けることで、散乱電子や制動放射X線が回路素子に与える影響を抑え、動作不良の発生を防止できる。
【0042】
図8に示すように、成形アパーチャアレイ基板10の下面にX線シールド20を設けてもよい。例えば、X線シールド20は、銀ペーストにより成形アパーチャアレイ基板10に固着されている。X線シールド20には、成形アパーチャアレイ基板10の各開口12の配置位置に合わせて、電子ビーム通過用の開口22が形成されている。開口22のピッチ(開口22の中心から、隣接する開口22の中心までの距離)は、開口12のピッチと同じである。
【0043】
開口22の径は開口12の径と同じか、又は開口12の径よりも大きく、開口22と開口12とが連通している。X線シールド20が開口12を塞がないように、開口12と開口22との位置合わせ精度を考慮して、開口22の径を開口12の径よりも大きくすることが好ましい。また、X線シールド20が厚くかつビームが斜めに進行する場合は、それを考慮して開口22のピッチを厚さ方向で変えることが好ましい。
【0044】
X線シールド20は、X線シールド50と同じ材料を用いることができる。
【0045】
X線シールド20は成形アパーチャアレイ基板10で電子ビームを止める際に発生する制動放射X線を減衰させて、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36に設けられた素子へのダメージを抑えることができる。このとき、所望のX線減衰量を得る厚さ(実効厚)は、例えば、特開2019-36580公報に記載された方法など、公知の方法で求めることができる。
【0046】
成形アパーチャアレイ基板10の上面にはプレアパーチャアレイ基板14が成形アパーチャアレイ基板10と一体的に設けられていてもよい。プレアパーチャアレイ基板14には、成形アパーチャアレイ基板10の各開口12の配置位置にあわせて、ビーム通過用の開口16が形成されている。開口16の径は、開口12の径よりも大きく、開口16と開口12とが連通している。成形アパーチャアレイ基板10及びプレアパーチャアレイ基板14は、例えばシリコン基板に開口を形成したものである。
【0047】
図9に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下面(裏面)側に散乱電子シールド70を設けてもよい。散乱電子シールド70の中央には開口72が形成されており、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部Cを通過したマルチビームが通過できるようになっている。
【0048】
散乱電子シールド70の材料は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下流側で散乱電子によって発生する制動放射X線の影響が無視できるほど小さい場合は、例えばシリコンを用いることができる。この場合、散乱電子シールドを構成する部材は電子の飛程よりも厚いことが必要である。さらに、X線もシールドするためには、例えば金やタングステンを用いることができる。この場合、X線シールドを構成する部材は、所望のX線減衰量を得る厚さである必要がある。
【0049】
散乱電子シールド70は、ブランキングアパーチャアレイ基板30の回路部36を覆う。これにより、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下方にある構造物で発生する散乱電子から回路部36を保護することができる。一方、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部Cのブランカ(電極)で散乱された電子は、広い角度分布を持ち、数十ミクロン程度の僅かな隙間からも侵入するため、散乱電子シールド70はセル部Cと回路部36の間でブランキングアパーチャアレイ基板30にと銀ペースト等の導電性のシールド材で密着させることが好ましい。
【0050】
図10に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30の上面側、かつX線シールド50の開口52内に、散乱電子の飛程より厚い部材で構成される散乱電子シールド60を設けてもよい。散乱電子シールド60には、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部Cの通過孔32にあわせた開口62が形成されている。散乱電子シールド60を設けることで、ブランキングアパーチャアレイ基板30に到達する散乱電子を低減できる。
【0051】
散乱電子シールド60の材料は、散乱電子シールド70と同様に、例えばシリコンや金、タングステンを用いることができる。上述したように、金やタングステンを用いる場合は、X線もシールドすることができる。
【0052】
図11に示すように、ブランキングアパーチャアレイ基板30のブランカ34に近接して、クロストークシールド80を設けてもよい。クロストークシールド80は、ブランキングアパーチャアレイ基板30のセル部Cの通過孔32にあわせた開口81が形成されたものであり、隣接電極間のクロストークを抑制する。このクロストークシールド80を散乱電子の飛程より厚い部材で構成することにより、ブランキングアパーチャアレイ基板30の下方にある構造物で発生する散乱電子から回路部36を保護することができる。
【0053】
クロストークシールド80の材料は、散乱電子シールド70と同様に、例えばシリコンや金、タングステンを用いることができる。上述したように、金やタングステンを用いる場合は、X線もシールドすることができる。
【0054】
散乱電子シールド60、70、クロストークシールド80の全てを設けてもよいし、いずれか1つまたは2つを設けてもよい。
【0055】
通過孔32の側壁に照射された散乱電子によって発生した制動放射X線対策として、回路部36の素子に、放射線照射耐性の高いLSIを使用してもよい。照射線照射耐性の高いLSIは、例えば、通常の環境条件下で使用することを前提に設計されたMOSFETのゲート酸化膜を薄くしたり、ウェルの不純物濃度を高めたりしたものである。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 成形アパーチャアレイ基板
20 X線シールド
30 ブランキングアパーチャアレイ基板
34 ブランカ
36 回路部
40 実装基板
50 X線シールド
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
111 電子源