(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129936
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】鋼橋の点群データからファイバーモデルを自動構築する手法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240920BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20240920BHJP
【FI】
G06T7/00 C
G06F30/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039349
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】日高 菜緒
(72)【発明者】
【氏名】野中 哲也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 尚史
【テーマコード(参考)】
5B146
5L096
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146EA02
5B146EA11
5L096AA09
5L096BA08
5L096BA18
5L096DA05
5L096FA02
5L096FA10
5L096FA12
5L096FA13
5L096FA54
5L096FA59
5L096FA62
5L096FA66
5L096FA67
5L096FA69
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象物の3次元形状を3次元座標の集まりとして取得できる点群データに着目し、取得した点群データに基づきファイバーモデル構築に必要なデータを自動的に求める手法(独自プログラミング)を提供する。
【解決手段】複数のスイープ構造部材を対象とする自動のファイバーモデル構築手法であって、スイープ構造部材に対して取得された3次元座標の点群データに基づき、スイープ構造部材をセグメンテーションし、スイープ構造部材の軸線を定めるステップ1と、軸線の接合点を検出し節点としてファイバーモデルの生成データ部に追加するステップ2と、スイープ構造部材に設けられたガセット及び添接板を検出し、節点又は要素としてスイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ3と、スイープ構造部材の節点及び要素及び断面を取得しスイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ4を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイープ構造部材を含んで構成された鋼橋のファイバーモデル構築手法に含まれ、前記複数のスイープ構造部材を対象とする自動のファイバーモデル構築手法であって、前記複数のスイープ構造部材に対して取得された3次元座標の点群データに基づき、前記複数のスイープ構造部材をセグメンテーションし、そのセグメンテーションされたスイープ構造部材の軸線をそれぞれ定めるステップ1と、前記軸線の接合点を検出し、その検出された接合点を節点としてファイバーモデルの生成データ部に追加するステップ2と、前記スイープ構造部材に設けられたガセット及び添接板を検出し、その検出されたガセット及び添接板を前記節点及び要素として前記スイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ3と、前記スイープ構造部材の節点、前記要素及び断面を取得して前記スイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ4を備え、
前記節点は前記スイープ構造部材の中心位置を通る点で3次元座標により、前記要素は前記スイープ構造部材の中心位置を通る線で2つの前記節点を結ぶことにより、それぞれ定義されることを特徴とする自動のファイバーモデル構築手法。
【請求項2】
前記ステップ3の前記接合点を結ぶ線分の主方向のベクトルv及び前記線分の中点C0を求め、i=1とし、ステップAとして前記中点C0からベクトルvを+i×n(nは任意の定数)移動した点Ci上にあり、前記ベクトルvに垂直な面fiを定義し、前記面fiに近接した点群Pfiを前記面fiに投影して、投影された投影点群P´fiを内包する凸多角形h´fiを生成し、前記凸多角形の面積Afiを求め、ステップBとして前記面積Afiと面積Afi-1×(1+t)(tは0<t<1である任意の定数)の値を対比するステップA及びB、を備え、ステップBにおいて前記面積Afiが前記面積Afi-1×(1+t)の値より多きくない場合には、iをインクリメントして前記ステップAを繰り返し、前記面積Afiが前記面積Afi-1×(1+t)の値より大きくなった場合には、前記Ciを前記ガセット及び添接板とすることを特徴とする請求項1に記載の自動のファイバーモデル構築手法。
【請求項3】
前記ステップ4の前記接合点又は前記ガセット又は前記添接板位置の2点(C0、C0
´)を結ぶ線分の主方向ベクトルvを求め、i=0とし、ステップCとしてC0から+i×n(nは任意の定数)移動した点Ci上にあり、前記ベクトルvに垂直な面fiを定義して、前記面fiに近接した点群Pfiを前記面fiに投影し、ステップDとして点群Pfiの点数を0と対比し、ステップEとして投影された投影点群P´fiを内包する凸多角形h´fiを生成し、前記h´fiの図心pciを求め、節点の点群Pcに追加し(節点の取得)iをインクリメントする、ステップC、D及びEを備え、ステップDにおいて点群Pfiの点数が0と等しくない場合には、ステップEに続き、点群Pfiの点数が0と等しくなった場合には、iについてのループを終了し、
続いてj=0とし、ステップFとして前記点群Pc内の節点pjとpj+1を結ぶ線分を要素qjとし(要素の取得)、pjとpj+1のとの中点上にあり、pjpj+1ベクトルに垂直な面gjを定義し、gjに近傍した点群Qgjに投影し、投影点群Q´gjの全点対間距離djkを求め、djkが10mm(板厚+α)より小さい点対の中点を求め、投影点群Qgj´上にある中点を除去し、残った中点の点群を直線にフィッティングするようクラスタリングして、クラスタリングした中点の点群を直線上に投影し、投影点群Qgj´のうち,得られた直線との交点に当たる点(直線との距離が最も短い点)の座標をフランジの端部の点とし(断面の取得1)、直線同士の交点をウェブの端部の点とし(断面の取得2)、投影点群Q´gj得られた直線までの距離×2を求めて板厚とし(断面の取得3)、ステップGとしてjとPcの点数-1を対比するステップF及びGを備え、ステップGにおいてjがPcの点数-1より小さければjをインクリメントしてステップFを繰り返し、jがPcの点数-1より小さくなければ、jについてのループを終了することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動のファイバーモデル構築手法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のファイバーモデル構築手法の各ステップをコンピュータに実施させることを特徴とするプログラム。
【請求項5】
請求項3に記載のファイバーモデル構築手法の各ステップをコンピュータに実施させることを特徴とするプログラム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のファイバーモデル構築手法を含むことを特徴とする鋼橋のファイバーモデル構築手法。
【請求項7】
請求項3に記載のファイバーモデル構築手法を含むことを特徴とする鋼橋のファイバーモデル構築手法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋の点群データからファイバーモデルを自動構築する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、戦後の高度成長期に建造した膨大な数の橋梁が近い将来更新時期を迎える。逼迫した財政状況から、更新時期を迎える橋梁すべてを建て替えることは現実的でないため、維持補修の優先順位付けや壊れる前の予防保全等、既設橋梁の長寿命化による戦略的な更新が求められる。これらを検討する上で鋼橋の耐荷力の算出が重要であり、その算出のために具体的な解析手法や解析モデルが土木学会等から提示され、解析モデルの1つとして、ファイバーモデルが挙げられる。
このモデルは梁要素に分類されるが、断面積、断面二次モーメント等の定数ではなく、積分点の位置決めのために部材断面情報(寸法等)を必要とする。このファイバーモデルは、鋼橋の耐荷力算出において、局部座屈が支配的でない限りもっとも合理的で優れた解析モデルといわれている。そのため、耐荷力算出の解析では、主にファイバーモデルが利用される。上記のように、ファイバーモデルは節点、要素、断面情報及び材料条件で構成されるが、必要な情報を図面から取得し、専用のソフトで手入力することでファイバーモデルは生成されている。
【0003】
特許文献1には、三次元計測装置にて取得された立体構造物表面の三次元座標を示す点群からエッジを決定するエッジ決定方法であって、エッジ近傍の点を少なくとも一つ選択する選択工程と、この選択工程にて選択された点を中心とする所定範囲内に含まれる点群に対して主成分分析を行うことにより第1主成分を求めるとともにこの第1主成分が示す方向ベクトルに基づき仮エッジを決定する仮エッジ決定工程と、仮エッジを長軸とする中空筒体を想定するとともにこの中空筒体に含まれて仮エッジを形成する二つの平面に対応する点群を抽出する点群抽出工程と、これら抽出された各平面に対応する点群に対して主成分分析を行うことにより第3主成分をそれぞれ求めるとともにこれら各第3主成分を法線ベクトルとする二つの平面の方程式を作成する平面作成工程と、これら作成された二つの平面同士の交差線を求めて本エッジを決定する本エッジ決定工程とを具備するエッジ決定方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、形状モデルを登録する形状モデル登録部と、採寸対象面近傍の3次元点群を取得する3次元点群取得部と、3次元点群から採寸対象面近傍の2次元点群を生成する2次元点群生成部と、形状モデルの概略位置を特定する概略位置特定部と、形状モデルの詳細位置を特定する詳細位置特定部と、採寸対象面の周囲線を算出する周囲線算出部と、採寸対象面に関する採寸値を算出する採寸値算出部としてコンピュータを機能させる自動採寸プログラムが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、ファイバーモデルを用いた耐荷力算出について、ブレース材を含むトラスパネルの構造を忠実に再現した供試体を用いた漸増繰り返し載荷実験を行い、実験結果が高精度に再現できる解析モデルのモデル化手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-49737号公報
【特許文献2】特開2023-7153号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】嶋口儀之,山田忠信,野中哲也,馬越一也,鈴木森晶:繰り返し荷重を受ける鋼トラス橋のブレース材の終局挙動に関する実験および再現解析,構造工学論文集,Vol. 68A,pp. 59-68,2022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、多くの情報を手入力するため、時間がかかる問題や、図面が残されていない、図面が残されていても補修などを通して現状と形が違う可能性があるという問題があった。そこで、本発明では、対象物の3次元形状を3次元座標の集まりとして取得できる点群データに着目し、取得された点群データに基づいてファイバーモデル構築に必要なデータを、自動的に求める手法(独自のプログラミング)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]複数のスイープ構造部材を含んで構成された鋼橋のファイバーモデル構築手法に含まれ、前記複数のスイープ構造部材を対象とする自動のファイバーモデル構築手法であって、前記複数のスイープ構造部材に対して取得された3次元座標の点群データに基づき、前記複数のスイープ構造部材をセグメンテーションし、そのセグメンテーションされたスイープ構造部材の軸線をそれぞれ定めるステップ1と、前記軸線の接合点を検出し、その検出された接合点を節点としてファイバーモデルの生成データ部に追加するステップ2と、前記スイープ構造部材に設けられたガセット及び添接板を検出し、その検出されたガセット及び添接板を前記節点又は要素として前記スイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ3と、前記スイープ構造部材の節点及び前記要素及び断面を取得して前記スイープ構造部材の生成データ部に追加するステップ4を備え、
前記節点は前記スイープ構造部材の中心位置を通る点で3次元座標により、前記要素は前記スイープ構造部材の中心位置を通る線で2つの前記節点を結ぶことにより、それぞれ定義されることを特徴とする自動のファイバーモデル構築手法である。
[2]前記ステップ3の前記接合点を結ぶ線分の主方向のベクトルv及び前記線分の中点C0を求め、i=1とし、ステップAとして前記中点C0からベクトルvを+i×n(nは任意の定数)移動した点Ci上にあり、前記ベクトルvに垂直な面fiを定義し、前記面fiに近接した点群Pfiを前記面fiに投影して、投影された投影点群P´fiを内包する凸多角形h´fiを生成し、前記凸多角形の面積Afiを求め、ステップBとして前記面積Afiと面積Afi-1×(1+t)(tは0<t<1である任意の定数)の値を対比するステップA及びBを備え、ステップBにおいて前記面積Afiが前記面積Afi-1×(1+t)の値より大きくない場合には、iをインクリメントしてステップAを繰り返し、前記面積Afiが前記面積Afi-1×(1+t)の値より大きくなった場合には、前記Ciを前記ガセット及び添接板とすることを特徴とする[1]に記載の自動のファイバーモデル構築手法である。
[3]前記ステップ4の前記接合点又は前記ガセット又は前記添接板位置の2点(C0、C0
´)を結ぶ線分の主方向ベクトルvを求め、i=0とし、ステップCとしてC0から+i×n(nは任意の定数)移動した点Ci上にあり、前記ベクトルvに垂直な面fiを定義して、前記面fiに近接した点群Pfiを前記面fiに投影し、ステップDとして点群Pfiの点数を0と対比し、ステップEとして投影された投影点群P´fiを内包する凸多角形h´fiを生成し、前記h´fiの図心pciを求め、節点の点群Pcに追加し(節点の取得)iをインクリメントする、ステップC、D及びEを備え、ステップDにおいて点群Pfiの点数が0と等しくない場合には、ステップEに続き、点群Pfiの点数が0と等しくなった場合には、iについてのループを終了し、
続いてj=0とし、ステップFとして前記点群Pc内の節点pjとpj+1を結ぶ線分を要素qjとし(要素の取得)、pjとpj+1のとの中点上にあり、pjpj+1ベクトルに垂直な面gjを定義し、gjに近傍した点群Qgjに投影し、投影点群Q´gjの全点対間距離djkを求め、djkが10mm(板厚+α)より小さい点対の中点を求め、投影点群Qgj´上にある中点を除去し、残った中点の点群を直線にフィッティングするようクラスタリングして、クラスタリングした中点の点群を直線上に投影し、投影点群Qgj´のうち、得られた直線との交点に当たる点(直線との距離が最も短い点)の座標をフランジの端部の点とし(断面の取得1)、直線同士の交点をウェブの端部の点とし(断面の取得2)、投影点群Q´gj得られた直線までの距離×2を求めて板厚とし(断面の取得3)、ステップGとしてjとPcの点数-1を対比するステップF及びGを備え、ステップGにおいてjがPcの点数-1より小さければjをインクリメントしてステップFを繰り返し、jがPcの点数-1より小さくなければ、jについてのループを終了することを特徴とする[1]又は[2]に記載の自動のファイバーモデル構築手法である。
[4][1]又は[2]に記載のファイバーモデル構築手法の各ステップをコンピュータに実施させることを特徴とするプログラムである。
[5][3]に記載のファイバーモデル構築手法の各ステップをコンピュータに実施させることを特徴とするプログラムである。
[6][1]又は[2]に記載のファイバーモデル構築手法を含むことを特徴とする鋼橋のファイバーモデル構築手法である。
[7][3]に記載のファイバーモデル構築手法を含むことを特徴とする鋼橋のファイバーモデル構築手法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による独自のプログラミングによれば、鋼橋を構成するスイープ構造部について取得された点群データに基づいて、スイープ構造部材を対象とするファイバーモデル構築に必要データを自動的に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鋼橋のファイバーモデルについて(a)断面情報、(b)節点、要素等の拡大、(c)全体構造を、それぞれ示す図である。
【
図2】ファイバーモデルの生成、構造解析ができるソフトウェアの入出力の画面例を示す図である。
【
図3】(a)スイープ構造部材の点群データの拡大、(b)(a)の点群データのデータ構造の一部を、それぞれ示す図である。
【
図4】H型鋼の断面に対して取得した点群データと、H型鋼の断面のファイバーモデル作成のため欲しい座標及び長さの関係の一例を示す図である。
【
図5】供試体に適応する本発明の一つの実施形態であるファイバーモデル自動構築手法のワークフローを含む、鋼橋の点群データから鋼橋のファイバーモデルを構築する手法のワークフローを示す図である。
【
図6】
図5の供試体に適応するファイバーモデル自動構築手法と、それを含む鋼橋のファイバーモデルを構築する手法のブロック図を示す図である。
【
図7】
図5の(a)step1、(b)step2(部材の接合点の検出、節点への追加)供試体へのそれぞれの適応結果を示す図である。
【
図8】
図5のstep3の詳細なワークフローを示す図である。
【
図9】step3の詳細なワークフローの適応結果を示す図である。
【
図10】
図5のstep4の詳細なワークフローを示す図である。
【
図11】
図10において(a)S4-1、(b)S4-3~S4-5、(c)S4-7、(d)S4-11(e)S4-12、S4-13のそれぞれの適応結果を示す図である。
【
図12】
図10において(a1)~(a3)S4-14~S4-16、(b1)~(b3)S4-17、S4-18、(c)S4-19、S4-20のそれぞれの適応結果を示す図である。
【
図13】
図10においてS4-21の適応結果を示す図である。
【
図14】発明手法の対象橋梁イメージを示す図である。
【
図15】実験載荷装置および実験時の応答値を計測した箇所をそれぞれ示す図である。
【
図19】ブレース材・添接板接合部を示す図である。
【
図23】左側鉛直材背面基部の破断を示す図である。
【
図25】座標基準位置と据え置きレーザー計測位置を示す図である。
【
図26】計測点群データ(31,814,809点)について(a)正面、(b)拡大をそれぞれ示す図である。
【
図27】供試体とアクチュエータの位置関係をそれぞれ示す図である。
【
図28】ハンディレーザー計測と計測位置をそれぞれ示す図である。
【
図29】計測点群データ(拡大、3,079,932点)を示す図である。
【
図31】すべり挙動を表現した非線形ばねモデルを示す図である。
【
図32】点群データから解析モデルを生成する手法を示す図である。
【
図33】接合点取得の流れと断面取得、図心計算を示す図である。
【
図34】ガセット・添接板の接続箇所の取得を示す図である。
【
図36】H鋼断面点群から始点終点板厚を取得について示す図である。
【
図37】角型鋼管断面点群から始点終点を取得について示す図である。
【
図38】載荷点の荷重変位曲線(点群モデル、実験値)を示す図である。
【
図39】載荷点の荷重変位曲線(図面モデル、実験値)を示す図である。
【
図40】載荷点の荷重変位曲線(図面モデル、点群モデル,実験値)を示す図である。
【
図41】載荷点の面外方向変位(図面モデル,点群モデル)を示す図である。
【
図42】最終ステップ時のコンター図(上面)(a)点群モデル、(b)図面モデルをそれぞれ示す図である。
【
図43】最終ステップ時のコンター図(背面)について(a)点群モデル、(b)図面モデルをそれぞれ示す図である。
【
図44】荷重載荷方向を同じにした場合の荷重変位曲線と最大耐荷力について(a)載荷点、(b)ブレース材B(左下)をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
上述したように、解析モデルを構築するにあたり、部材寸法や材料、境界条件などの取得が必要になる。しかし、古い橋梁の場合、図面が残されていない、腐食による部材断面の欠損や支承の移動等の影響で橋梁の状況が建設時から変化している場合がある。更に、古い橋梁に限らず、実際の部材においては安全側の判断で板厚を増加させたり、形鋼をサイズアップさせたりと、必ずしも図面通りに製作されていない可能性がある。そのため、図面に頼らず、計測等による解析モデルの構築が求められるが、部材1つ1つの寸法をノギス、超音波計測などを用いて手動計測することは時間を要する上に計測漏れの恐れがある。
【0014】
本発明では鋼橋を対象に、点群データを活用して図面を使わず半自動的に部材断面や複数部材の接続関係を取得し、解析モデル(ファイバーモデル)を構築する手法を創出した。
図1に示すように、鋼橋のファイバーモデル1´について、その節点は部材の中心位置を通る点で3次元の座標で定義する。その要素は部材の中心位置を通る線であり、2節点を結ぶことで、また、断面情報は長方形のブロックにわけ、それぞれの端点の座標や板厚など、1要素ごとに定義する。
【0015】
ファイバーモデルの生成、構造解析ができるソフトウェア(例えば「SeanFEM」)が提供されており、そのソフトウェアによる入出力の画面例は、
図2に示すようなものである。画面の左側から節点番号とその座標の設定(画面1)、要素番号とその要素を構成する節点番号の設定(画面2)、断面情報の設定(画面3)及び設定した解析モデルの3次元表示図(画面4)が表示されている。
【0016】
図3(a)に示すスイープ構造部材(一般的な上路式鋼トラス橋の支点上対傾構の一部分の拡大部分、
図26(b)と同一)に対して取得できる点群データ例は、同図(b)のようである。1点の情報は、x座標、y座標及びz座標と、R値、G値及びB値により構成されており、点群の点数分行数がある。
【0017】
図4に示すような断面を有する、スイープ構造部材であるH型鋼2を想定した場合、H型鋼2の断面のファイバーモデル作成のためには、同図に示す座標と長さが必要である。そのために同図に示す点群データを取得することになる。すなわち、そのような点群データを取得すれば、それらの点群データに基づいて、H型鋼2の断面についての座標と長さを定め、H型鋼2の断面のファイバーモデルを作成することができる。
【0018】
図5には、複数のスイープ構造部材を含んで構成された鋼橋に対するファイバーモデル構築手法であって、本発明の一つの実施形態であるスイープ構造部材に適用するstep1~4を含むファイバーモデルを自動構築する手法(以下「ファイバーモデル自動構築手法」と言う場合がある)を示す。step1~4を行うために、複数のスイープ構造部材について取得した3次元座標の点群データを入力する。点群データの入力は、例えば後述するハンディレーザーや据え置きレーザーで取得した点群データを所定のファイル形式のデータとして保存し、そのファイル形式のデータをデータ入力部101から取り込むこと等によって行うことができる。
【0019】
図6に示すように、ファイバーモデル自動構築手法を実現するファイバーモデル自動構築のシステム100は、鋼橋に対するファイバーモデル構築手法を実現する鋼橋に対するファイバーモデル構築のシステム200の主要な一部分をなす。
スイープ構造部材の点群データの入力は、スイープ構造部材の点群データ入力部101に対して行われる。step1の「スイープ構造部材(水平材・鉛直材・ブレース材)、をセグメンテーション」)、step2のうち「部材の接合点の検出」、step3のうち「各部材のガセット・添接(添接板)の検出」、及びstep4の「各部材(以下、部材と合わせて「部材等」と言う場合がある)の節点・要素・断面を取得」は、主にスイープ構造部材の点群データ処理部102で行われる。step2のうち「節点への追加」、step3のうち「節点・要素への追加」はスイープ構造部の生成データ部103に対して行われる。なお、データ入力部101、生成データ出力部103及び点群データ処理部102は協働して点群データ処理等を行う。
例えば自動構築のシステム100及びシステム200は、それぞれPCのようなコンピュータであって、点群データ処理部102はCPU、生成データ部103はメモリ、データ入力部101及び生成データ出力部104はI/Oインターフェースにそれぞれ該当する。
【0020】
図5、
図6における「全部材」とは、ファイバーモデル自動構築のシステム100(ファイバーモデル自動構築手法)の対象でない部材等と、対象となる部材等を合わせたものである。そして、
図5におけるstep4以降の手法は公知の手法を適宜に用い、
図6における「全部材のデータ処理部・生成データ部」及び「全部材の生成データ出力部」は公知のシステムを適宜に使用することができる。
【0021】
一般的な上路式鋼トラス橋の支点上対傾構を含む1構面を再現した供試体10として、step1~4の適応結果を説明する。
図7(a)に示すように、step1では、スイープ構造部材である水平材(上側水平材、下側水平材)、鉛直材(右側鉛直材、左側鉛直材)及びブレース材に対してセグメンテーションを行う。すなわち座標情報に基づきガセット・添接(添接板)を含まない部材でセグメンテーションし、それぞれの部材で軸線(暫定)を1本決める。例えば、上側水平材11を例にとると、その両端側部分と中心部分にあるガセット・添接を避けて長方形のブロック11a-1と長方形のブロック11a-2を設定し、軸線11cを決定する。右側鉛直材12を例にとると、その両端側部分にあるガセット・添接避けて長方形のブロック12a-1を設定し、軸線12cを決定する。ブレース材13を例にとると、その両端側部分と中心部分にあるガセット・添接を避けて長方形のブロック13a-1と長方形のブロック13a-2を設定し、軸線13cを決定する。もう一つのブレース材14、下側水平材15及び左側鉛直材16ついても同様に、それぞれ長方形のブロックを設定し、それぞれ軸線を決定する。
【0022】
図7(b)に示すようにstep2では、各部材の軸線(暫定)の交点を接合点とし,節点に追加する。部材の接合点の検出について、例えば上側水平材11と右側鉛直材12の接合点としてb1、右側鉛直材12とブレース材13の接合点としてb2、右側鉛直材12ともう一つのブレース材14の接合点としてb3、ブレース材13ともう一つのブレース材14の接合点としてb4、ブレース材13と下側水平材15(左側鉛直材16)の接合点としてb5を、それぞれ節点に追加する。
【0023】
図8では、
図5のstep3の詳細なワークフローを示し、
図9では、step3の供試体10への適応結果を示す。S3-1~S3-8の適応結果により、
図9に示したように2接合点の中点から各接合点に向かって任意の距離を移動、断面点群を取り、断面点群に凸包を用いて凸多角形に変換し,断面積を求めることができる(ステップA)。そして、S3-9の適応結果により、断面積が大きく変化したとき,その地点をガセット・添接の節点とすることができる(ステップB)。
【0024】
図10では、
図5のstep4の詳細なワークフローを示し、
図11では、step4のうち(a)S4-1、(b)S4-3~S4-5、(c)S4-7、S4-8、(d)S4-11(e)S4-12、S4-13の供試体10へのそれぞれの適応結果を示す。
【0025】
図11(a)に示すように、S4-1では、対象部材の端点に当たる接続部、ガセット、添接位置2点(c
0,c
0′)を結ぶ線分の主方向ベクトルv(v上にある→記号は省略、以下→記号の省略について同様)を求める。同図(b)に示すように、S4-3~S4-5(S4-1~S4-5:ステップC)では、c
0から+inv移動した点をc
iとし(nは任意の定数)、c
i上にありvに垂直な面f
jiを定義し、f
iに近接した点群P
jiをf
iに投影する。同図(c)に示すように、S4-7、S4-8では、投影点群P´
fi を内包する凸多角形をh´
fi生成し、h´
fiの図心p
ciを求め、節点の点群P
cに追加する。このようにするのは、点密度による誤差をなくすために、凸多角形に変換して図心を求めるためであり、H鋼断面は点対称なので、切断面が斜めでも図心はずれない(S4-6:ステップD、S4-7~S4-9:ステップE)。また、同図(d)に示すように、S4-11では、P内の節点p
jとp
j+1を結ぶ線分を要素q
jとする。同図(e)に示すように、S4-12、S4-13では、p
jとp
j+1の中点上にあり、p
jp
j+1に垂直な面g
jを定義し、g
jに近接した点群Q
gjをg
jに投影する(S4-11~S4-21:ステップF、S4-22:ステップG)。
【0026】
図12では、step4のうち(a1)~(a3):S4-14~S4-16、(b1)~(b3):S4-17~S4-18、(c)S4-19、S4-20の供試体10へのそれぞれの適応結果を示す。同図に示すように、S4-14~S4-16では、投影点群Q´
gjの全点対間距離d
jkを求め、d
jkが10mm(板厚+α)より小さい点対の中点を求め、投影点群Q´
gj上にある中点を除去する。S4-17、S4-18では、中点の点群を直線にフィッティングするようクラスタリングし、クラスタリングした中点の点群を直線上に投影する。S4-19、S4-20では、投影点群Q´
gjのうち、得られた直線との交点に当たる点(直線との距離が最も短い点)の座標をフランジのi端j端とし、直線同士の交点をウェブのi端j端とする。
【0027】
さらに説明すると、投影点群Q´
gjの全点対の中点は同図(a1)に、d
jkが10mm(板厚+α)より小さい点対の中点は同図(a2)に、d
jkが10mm(板厚+α)より小さい点対の中点から,投影点群Q´
gj上にある中点を除去すると同図(a3)に、それぞれ示すようである。そして、
図13に示すように、投影点群Q´
gjから得られた直線までの距離×2が板厚にあたる。
【実施例0028】
そこで本発明では、対象物の3次元形状を効率的に取得できる点群データに着目する。点群データとはレーザー測量や写真測量の原理に基づき、対象物の位置情報や色情報を3次元の点の集合として取得したデータのことである。なお、符号は同様な作用、機能を有する構造や部材について原則として同じ符号を使用した。
【0029】
一般的な上路式鋼トラス橋(
図14)の支点上対傾構を含む1構面を再現した供試体10を用いた変位繰り返し載荷実験の再現解析を、本発明の手法に基づき実施した。
【0030】
(ブレース材パネルの実験)
<実験概要>
鋼トラス橋支点部の供試体10に対して、地震力を想定した繰り返し載荷(面内方向)を与え、地震時の挙動分析を行う。実験に使用した載荷装置と供試体10の設置状況を
図15、
図16に示す。供試体10はピン支承によって支持されており、上部水平材端部21に接続した静的油圧アクチュエータ50により水平繰り返し載荷を行った。
<実験供試体>
図14の一般的な上路式鋼トラス橋1の支点上対傾構を含む1構面10を取り出して、ボルト接合も含めてできるだけ忠実に再現した供試体10を製作した。実験装置の制約からサイズは約1/2としている。供試体は
図17に示すように、ブレース材13(14)、上下の水平材11、15および左右の鉛直材12、16で構成されている。各部材の断面を
図18、ブレース材13(14)とガセット18、中央部添接板17の接合部を
図19に示す。本供試体10は発明者らが実施した実験(非特許文献1)と同様であるが、更に実構造に近い挙動を示すように、ブレース材13とガセット18の接合方法を2面摩擦接合から1面摩擦接合に変更した。接合部のボルト導入軸力は、載荷直前の計測したボルト軸力値(換算ひずみゲージ値)から設計値通りになっていることを確認した。本供試体10は実務と同等の精度要求に基づき、部材制作時および組み立て時に部材寸法、全体の構造の幅、高さ、対角寸法を計測し、許容誤差内にあることを確認している。組み立て後の初期たわみの検証については、実務と同様行っていない。
【0031】
<載荷条件>
通常の繰り返し載荷実験は、降伏変位を基準として漸増繰り返し載荷により実施するが、本実験では、
図20に示すように、対象橋梁全体にレベル2地震動を作用させた地震応答解析結果から端支点部の1構面10の上側水平材端部21の応答変位をもとにして、載荷パターンを設定した。なお、載荷ステップ18が、地震応答解析の最大応答変位に対応する。実験時の応答値の計測項目は
図15に示すように、節点および水平荷重載荷高さの変位、部材のひずみ、ブレース材23(24)の軸方向の変形量、ボルト軸力とした。
【0032】
<実験結果>
載荷点における荷重と変位の関係(荷重変位曲線)を
図21に示す。載荷ステップ16の終わり付近(図内A時点)で最初にボルトがすべった。そのときの載荷荷重は、約500kNである。次にボルトがすべったのは、載荷ステップ17の途中(図内B時点)であり、これも約500kNであった。最後に載荷ステップ18の途中でも同じ約500kNですべっている。このことから、ほぼ同じ荷重でボルトのすべりが発生したことが確認できる。ボルトのすべりについては、
図22からも確認できる。載荷前にブレース材とガセットの接している部分を白ペンで描いた1本のラインが
図22に示すように、目視で3、4mmすき間の2本のラインL1、L2になっていた。
また、同図(
図22)からは、C時点で最初に剛性が低下しているのがわかる。斜材のひずみゲージ(
図15参照)の値からも降伏点を超えていることが確認できた。ただし、斜材の降伏はわずかであり、実験終了後の斜材はまったく座屈していなかった。
本実験は、載荷ステップ18の最大荷重載荷直前(載荷点変位18mm時点)に、
図23のように左側鉛直材(16)背面基部の溶接部が破断し、その時点で実験を終了した。左側鉛直材16のひずみの計測結果(
図24)に注目すると、本来ならひずみ値は0を中心に降伏点以内で正負を繰り返すが、奥側のひずみは載荷最終ステップ18後半(載荷点変位7mm以降)で引張ひずみが急増し、破断直前位置で最大に達し、破断後は減少した。このことより、最終ステップ18の後半から左側鉛直材16が面外方向に傾いたことがわかる。後述の点群データ計測結果によって、供試体上部が面外方向にわずかに傾いていたこと、アクチュエータがわずかに斜めにセットされていたことが判明したため、その影響により面外方向に変位が発生したと考えられる。
【0033】
<供試体及び実験装置のレーザー計測>
実験開始前に供試体10の形状、位置座標を「据え置きレーザー計測」と「ハンディレーザー計測」の2通りの手段で計測した。
【0034】
<据え置きレーザー計測>
据え置きレーザースキャナを用いて供試体10の全体形状を計測した。使用機種はLeica RTC360(解像度:6mm@10m、誤差:1.9mm@10m)である。
図25のように供試体左側に原点座標を設定し、供試体10の幅方向をx軸、奥行き方向をy軸、高さ方向をz軸と設定した。計測位置は
図25のとおり5箇所(図中の△印)とした。レーザースキャナから対象物までの距離は0.5m~3.0m(平均1.5m程度)で、四方に置いたレーザースキャナの高さは地面から1.6m、中央に置いたレーザースキャナの高さは地面から1.26mである。計測点群データを
図26に示す。点密度は70点/cm
2~100点/cm
2程度であった。また、
図27に示すように、供試体10はy軸負方向に0.3°傾きがあり、アクチュエータも供試体と0.3°交差相当の傾きがあったことが点群データから読み取ることができた。
【0035】
<ハンディレーザー計測>
ハンディレーザースキャナを用いて供試体10の各部材の詳細形状を計測した。使用機種はHandySCAN BLACK(登録商標)|Elite(解像度:0.025mm@30cm、誤差:0.025mm@30cm)である。
図28に示す6箇所を計測した。レーザースキャナから対象物までの距離は約30cmである。計測点群データを
図29に示す。平滑部の点密度は44点/cm
2~100点/cm
2程度、変化点の点密度は204点/cm
2~625点/cm
2程度であった。ハンディレーザー計測の点群データは据え置きレーザー計測の点群データと座標系が異なるため、点群データの位置合わせ処理の1つであるICP(Iterative Closest Point)法(Besl, P. J. and McKay, H. D.: A Method for Registration of 3D Shapes,IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 14, No. 2, pp. 239-256, 1992.)により据え置きレーザー計測の点群データに位置合わせした。
【0036】
(点群データを活用した解析モデル生成の方法)
<解析モデル>
解析モデルの構成は発明者ら(非特許文献1)が提案したファイバーモデルを踏襲した。解析モデルの概要を
図30に示す。ガセット、添接板は剛性を高めるために、ブレース材の2倍の板厚を設定する(
図30のブレース材上の〇印(計6箇所))。また、実験でボルトすべりが確認されたため、挙動の再現性を高めるためにブレース材とガセット、添接板の接続箇所に対して、ボルトのすべり挙動を表現した非線形ばねでモデル化する。非線形ばねモデルを
図31に示す。材料条件は既往の実績に基づき決定した。
【0037】
<点群データから解析モデルを構築する手法>
点群データから解析モデルを構築する手法は大きく分けて2ステップある。全体のフロー図を
図32に示す。まず、供試体10全体の形状を取得できる据え置きレーザーLSの計測点群データから支点位置、アクチュエータ入力角度、部材の接合点、ブレース材とガセット、添接板の接続箇所、各部材の節点、要素軸を取得する。次に、詳細な形状を取得できるハンディレーザーHSの計測点群データからブレース材、水平材、鉛直材の断面形状を取得する。
【0038】
(1)前処理、支点位置、アクチュエータ入力角の取得
計測点群データは供試体の部分のみ手動で抽出し、ノイズやリード線を手動で除去する。
支点位置は手動でピン支承の中心位置を表側と裏側で求め、その中点位置とする。
アクチュエータ入力角はトレースして手動で取得する。
(2) 部材の接合点、ガセット、添接板の接続箇所の取得
供試体10全体の点群データに対して、座標範囲を指定することで各部材の点群データにセグメンテーションする(
図33(a))。なお、このときガセット、添接板を含まないように座標範囲を指定した。
セグメンテーションした各部材の点群データに対して、x軸方向もしくはz軸方向に50mmピッチでスライスし、断面から10mm以内にある点を投影することで断面点群を取得する(
図33(b))。
続いて、各断面点群で図心を求める(
図33(d))。このとき点群の密度のばらつきによる誤差をなくすために、凸包で凸多角形に変換してから図心を計算する。本実施の供試体はH型鋼と角型鋼管で、いずれも点対称の断面である。そのため、切断面が部材の軸線に対して垂直でなくても、凸包で変換した凸多角形の図心は部材断面の図心になる。
各部材の図心の集合から主成分分析を用いて主方向ベクトルを求め、それらの交点(厳密には、2線間の距離が最短となる2点の中点)を各部材の接合点とする(
図33(c))。
【0039】
次に、隣り合った2接合点の中点を始点に、接合点に向かって20mmピッチでスライスして、同様にして断面点群を取得し、断面点群を凸包で凸多角形に変換し、凸多角形の面積を求める。この工程を繰り返し、面積が変化した地点をガセット、添接板の接続箇所とする(
図34(a))。更に、ガセット、添接板の接続箇所から接合点に向かって約40mmの地点にもう1点節点を追加し、これら2点を結ぶ要素の断面情報として、ボルトすべりの非線形ばねを適用する(
図34(b))。最後に、追加した節点と接合点を結ぶ要素の断面情報として、接続するブレース材の板厚の2倍に相当する剛性を付与する(
図34(b))。
【0040】
(3)部材の節点、要素軸の取得
各部材の節点、要素軸を取得するために、部材の端点に当たる接合点もしくはガセット、添接板に切り替わる点間で要素を等分割する。等分割数は発明者ら(非特許文献1)が提案したファイバーモデルを踏襲して8等分とした(
図30)。
最後に、各要素に対して垂直な断面点群の図心を求め、節点位置を補正する。この処理により、初期不整や変形で曲がった部材の局所的な節点、要素軸が得られる。
(4)断面情報の取得とファイバー断面の生成
要素軸線に対して垂直な面を使って、ハンディレーザーHSの計測点群データからブレース材、水平材、鉛直材の断面点群を取得する。本発明では、各部材で代表の断面点群を取得し、対応した部材の要素軸線すべてに共通の断面情報を適用する。
断面点群から断面情報を取得するにあたり、本発明では、断面情報を
図35のとおりに定義する。断面を複数の長方形に分割し、長方形の中心軸にあたる線分の「始点終点」と、中心軸に直交する方向の長さにあたる「板厚」をそれぞれ取得する.なお、この計算は要素軸線と切断面の交点を原点とした断面上の2次元ローカル座標系(u-v座標系)に置き換えて実施する。本発明で用いる供試体はH型鋼と角型鋼管の2種類あるため、それぞれの断面で始点終点、板厚を取得する手法を創出する。
【0041】
H型鋼については断面点群から分割される3つの長方形(上フランジ、下フランジ、ウェブ)の中心軸に基づき求める(
図36)。長方形の中心軸は断面点群の2点対の中点から求めるが、全点対の中点を求めると3つの長方形の辺上および外側にも点が生成される。長方形の中心軸にあたる2点対の中点のみ抽出するために、2点対のうち点間距離が板厚相当(15mm以下)の2点対の中点を求め、そこから断面点群に近接していない中点を抽出する。(
図36(a))。その後、直線をランダムに当てはめる試行を繰り返し、誤差が閾値(0.5mm)以下の点数が最も多いときの直線を求めるRANSAC法(Fischler, M. A. and Robert, C. B.: Random Sample Consensus: A Paradigm for Model Fitting with Applications to Image Analysis and Automated Cartography, Communications of the ACM, Vol. 24, No. 6, pp. 381-395, 1981.)を用いて、得られた2点対の中点を3本の直線に近似することで、3つの長方形の中心軸が得られる(
図36(b))。断面点群の点から長方形の中心軸までの距離が板厚の1/2にあたる(
図36(c))ため、板厚は各点から最近傍の中心軸までの距離の平均を2倍した値とする。始点終点については、フランジは長方形の中心軸と断面点群の交点、ウェブは3本の中心軸同士の交点からフランジの板厚の1/2を控除したものに当たる(
図36(d))。
【0042】
角型鋼管については、4つの長方形に分割する。まず、RANSAC法で断面点群を4本の直線に近似し、それらの交点をu軸方向の長方形の始点終点とする(
図37(a))。v軸方向の長方形については、板厚の1/2を控除した始点終点を設定する(
図37(b))。板厚は点群データから取得が困難であるため、規格値(6mm)を入力した。
(5)解析モデル出力
解析モデルは耐震解析ソフトウェアSeanFEM(株式会社地震工学研究開発センター:SeanFEM ver.1.2.3 理論マニュアルと検証,2007.)に入力可能な形式に出力する。作用させる荷重に対してアクチュエータの傾きを考慮するために、解析モデルを原点中心にz軸周りに0.3°反時計回りに回転させている。
<解析モデル生成結果>
実装環境は表-1のとおりである。入力点群データ(据え置きレーザー計測)10、770、311点から節点、要素軸を取得するのに55.625秒、入力点群データ(ハンディレーザー計測)8、870、160点から断面情報を取得するのに207.475秒かかった。
【0043】
表-2にブレース材の断面寸法と板厚について整理した。実測値、点群データは3ヶ所の計測値の平均を記載している。ハンディスキャナは実測値に対して最大0.3mmの誤差に収まっており、ハンディスキャナの点群データから生成した断面情報も同等の精度が得られた。また、水平材、鉛直材についても、ブレース材と同等の精度で断面寸法や板厚が得られていることを確認した。
(表-1)
(表-2)
【0044】
(解析モデルの検証)
<解析モデルおよび解析条件>
供試体の計測点群データから発明手法で生成した解析モデル(以降「点群モデル」と表記)と図面から手作業で作成した解析モデル(以降「図面モデル」と表記)に載荷実験時と同様の強制変位を作用させ、実験終了時点までの載荷ステップごとの挙動を確認した。両モデルの違いは、部材の断面形状、部材の節点の位置、部材の軸線方向の座標値、荷重載荷方向(図面モデルはアクチュエータの傾きを考慮しない)である。それ以外のモデル化(要素分割、接合部のモデル化など)、荷重条件、拘束条件等の境界は、両モデルとも同一である。なお、解析はSeanFEMの弾塑性有限変異解析とし、幾何学的非線形性はUpdated Lagrange法に基づく定式化を行っている。
【0045】
<再現解析結果と考察>
(1)荷重変位曲線
点群モデルの再現解析を、実験の結果と合わせて
図38に示す。なお、解析結果は最終載荷ステップ18の終了までの結果であり、実験は前述したように最終ステップの途中までである。この図から、最終ステップの途中まで、よい精度で解析と実験が一致しているのがわかる。特に、ボルトのすべるタイミングは、ほぼ同じである。参考までに、ボルトがすべらない解析結果も示しているが、ボルトのすべりを考慮できないと、実験が再現できないこともわかった。また、図面モデルの再現解析結果を
図39に示す。この図から、図面モデルも概ね実験と一致しているのがわかる。このように両モデルとも実験を概ね再現できているが、詳細に比較するため、点群モデルと図面モデルの荷重変位曲線を重ねたのが、
図40である。この図から、両モデルともほぼ一致していることがわかる。しかし、初期勾配と耐荷力(荷重値)については、差が表れた。載荷ステップ17ステップ(図内の点線〇印)において、荷重値を比較すると5%の差であった。これらの差は、点群データから生成した形状と図面から形状の差(部材断面、節点位置、荷重載荷方向の差)である。表-2のとおり、計測した板厚は規格値より小さい。そのため、初期勾配が点群モデルの方が低くなったと考えられる。また、点群データから生成した部材の軸線は直線でないことから、点群モデルの荷重が図面モデルより小さくなったと考えられる。
【0046】
(2)鉛直材破断について考察
鉛直材基部の破断に着目して、点群モデルと図面モデルの載荷点の面外方向変位履歴を
図41に、最終ステップ時の変形コンター図の上面図を
図42に、背面図を
図43に整理する。
図41と
図42より、面外方向に載荷をしていないにも関わらず、点群モデルは面外方向変位が発生している。面外方向変位は供試体やアクチュエータの傾きが原因で発生したと考えられるため、点群モデルはそれらを考慮したモデル化ができたといえる。また、
図43内の点線〇印より、点群モデルの方が左側鉛直材背面基部の発生応力がわずかに大きく、破断する可能性があることを示している。これは、面外方向に(y軸負方向)変位が発生したことで、鉛直材の背面に引張応力が発生したためだと考えられる。以上より、点群モデルは初期不整やアクチュエータの傾きを反映したことで、実験値に近い挙動をしたといえる。
【0047】
<追加実験>
前述した両モデルの解析結果の差は、荷重載荷方向の違いと供試体の部材寸法等によるモデルの差が原因していると考えられる。そこで、このモデルの差が最大耐荷力に対してどの程度影響するか追加検討することにした。
本追加実験のための両モデルの解析条件としては、荷重載荷方向を供試体の設置方向と合わせた上で、繰り返し載荷実験で一般的に行われている降伏変位を基準にした漸増繰り返し載荷とした。なお、両モデルともボルトのすべりは考慮していない。
両モデルの解析結果を重ねて示したものが、
図44である。同図(a)の荷重変位曲線からは、履歴ループの形はほとんど同じであるが、点群モデルの方が初期勾配がわずかに小さく、また、最大耐荷力も5%ほど小さくなっていることがわかる。同図(b)には、ブレース材Bの軸力と伸びの関係を示している。この図からも両モデルともほぼ同じ履歴特性を示すが、ブレース材の圧縮側(グラフのマイナス側)で最大荷重値が5%差がでる結果となった。このブレース材の荷重の差が、ブレース材パネル全体の荷重の差として現れたと考えられる。ブレース材は、必ずしも直線状にはなっておらず、ブレース材を取り付けたときに変形することもある。点群モデルは、その変形した状態でモデル化しているため、初期不整(初期たわみ)を考慮したモデルともいえる。
【0048】
(点群データから解析モデルを構築する手法の考察)
点群データから解析モデルを作ることで、鋼構造物の形状や初期不整のみでなくアクチュエータの傾きや支点位置も反映させることができ、より実構造の挙動を再現させることができたと考えられる。
本実施では据え置きレーザー計測とハンディレーザー計測の2種類の計測手段を用いたが、表-2のとおり計測精度に差が出た。ファイバーモデルでは断面情報の方がより細かい精度を求められるため、広範囲の計測が可能な据え置きレーザー計測で構造物の節点と要素軸線を取得し、詳細な形状を取得できるハンディレーザー計測で断面情報を取得することが有効であるといえる。また、局部座屈など局所的な変形の取得についてもハンディレーザー計測が有効であると推測する。ファイバーモデルの一部をシェルモデルに変換し、ハンディレーザー計測から得られた局所変形を適用することで、更に実構造の挙動に近い解析モデルが生成できることが期待される。
【0049】
本発明では、点群データを活用して図面を使わず効率的に部材断面や部材構造を取得することで解析モデル(ファイバーモデル)を構築する手法を創出し、一般的な上路式鋼トラス橋の支点上対傾構を含む1構面を再現した供試体を用いた載荷実験の再現解析を実施した。得られた知見を以下に示す。
(1)供試体の形状および部材寸法等を正確に取得する方法(据え置きレーザー計測、ハンディレーザー計測を用いた点群データの取得方法)を提示した。
(2)取得した情報から解析モデルの構築方法を確立し、点群データから自動的に解析モデルが生成できるプログラムを開発した。
(3)実験の再現性について、点群データから構築した点群モデルと図面から作成した図面モデルを比較すると、両モデルとも荷重変位曲線の傾向は似ているが、初期勾配、耐荷力にわずかな差が表れた。また、点群モデルは鉛直材基部の破断の可能性を示した。このことから、発明モデルの実験再現における有効性を確認できた。