(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130180
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20240920BHJP
【FI】
C01B32/184
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039760
(22)【出願日】2023-03-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.第72回日本木材学会大会(名古屋・岐阜大会) (その1)令和4年3月15日~令和4年3月17日に第72回日本木材学会大会(名古屋・岐阜大会)が開催され、令和4年3月15日に「金属イオンを用いたリグニンからカーボン材料への変換技術」について、オンライン(https://confit.atlas.jp/wood2022)において、口頭により発表した。 (その2)令和4年3月15日~令和4年3月17日に第72回日本木材学会大会(名古屋・岐阜大会)が開催され、令和4年3月15日に「金属イオンを用いたリグニンからカーボン材料への変換技術」を掲載したWEB要旨集がウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/wood2022/proceedings/list)において、電気通信回線を通じて公開された。 2.日本分析化学会第71年会 (その1)令和4年9月14日~令和4年9月16日に日本分析化学会第71年会が開催され、令和4年9月14日に「金属担持-熱処理法を用いたクラフトリグニンからグラフェンへの変換方法」について、ポスターセッションにより発表した。 (その2)令和4年9月14日~令和4年9月16日に日本分析化学会第71年会が開催され、令和4年9月2日に「金属担持-熱処理法を用いたクラフトリグニンからグラフェンへの変換方法」を掲載したWeb版講演要旨集がウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsac71nenkai/proceedings/list?eventCode=jsac71nenkai)において、電気通信回線を通じて公開された。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 3.アグリビジネス創出フェア2022 (その1)令和4年10月26日~令和4年10月28日にアグリビジネス創出フェア2022が開催され、令和4年10月28日に「リグニンをグラフェンに変換する完全なリグニン再資源化技術の開発」について口頭により発表した。 (その2)令和4年10月26日~令和4年10月28日にアグリビジネス創出フェア2022が開催され、令和4年10月28日に「リグニンをグラフェンに変換する完全なリグニン再資源化技術の開発」を掲載した資料を配布した。 (その3)令和4年10月26日~令和4年10月28日にアグリビジネス創出フェア2022が開催され、令和4年10月28日に「リグニンをグラフェンに変換する完全なリグニン再資源化技術の開発」について、ポスターセッションにより発表した。 4.2022年度環境科学専攻月例セミナー 令和4年10月31日に2022年度環境科学専攻月例セミナーが開催され、「木質バイオマスの有効利用と環境材料への応用」について口頭により発表した。
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 勝伸
(72)【発明者】
【氏名】森 みかる
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝文
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC20B
4G146AD28
4G146BA32
4G146BB07
4G146BB22
4G146BC23
4G146BC34B
4G146BC37B
4G146BC42
4G146BC44
4G146CA02
4G146CA16
(57)【要約】
【課題】 リグニンから簡便な工程により温和な条件で収率良く高品質のグラフェンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 グラフェンの製造方法は、リグニンと、ヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン存在下の第一鉄イオン、並びにヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン存在下又は非存在下のコバルトイオン及びニッケルイオンから選ばれる金属イオンを含有する金属塩水溶液とを所定のpHで混合し、前記リグニンに前記金属イオンを担持させた金属イオン担持リグニンの懸濁液にする担持工程と、前記懸濁液に振とうを施して、前記金属イオン担持リグニンを攪拌し、金属イオン担持リグニン分散液にする攪拌工程と、前記金属担持リグニン分散液を凍結乾燥して、金属イオン担持リグニン凍結乾燥物にする凍結乾燥工程と、前記金属イオン担持リグニン凍結乾燥物に不活性ガスの雰囲気下で加熱を施し、グラフェンを生成する生成工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと、還元剤存在下の第一鉄イオン、並びに還元剤存在下又は非存在下のコバルトイオン及びニッケルイオンから選ばれる少なくとも何れかの金属イオンを含有する金属塩水溶液とを所定のpHで混合し、前記リグニンに前記金属イオンを担持させた金属イオン担持リグニンの懸濁液にする担持工程と、
前記懸濁液に振とうを施して、前記金属イオン担持リグニンを攪拌し、金属イオン担持リグニン分散液にする攪拌工程と、
前記金属担持リグニン分散液を凍結乾燥して、金属イオン担持リグニン凍結乾燥物にする凍結乾燥工程と、
前記金属イオン担持リグニン凍結乾燥物に不活性ガスの雰囲気下で加熱を施し、グラフェンを生成する生成工程とを
有することを特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、ヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項3】
前記担持工程中、前記リグニンに対して、前記金属イオン含有水溶液中の金属イオン濃度を0.01mmol/g~1.0mmol/gとすることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項4】
前記担持工程中、前記リグニンに対して、前記ヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩を質量比で10倍~10分の1の量とすることを特徴とする請求項2に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項5】
前記担持工程中、前記懸濁液中のpHを11~8に調整することを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項6】
前記担持工程中、及び/又は前記攪拌工程中、前記金属イオン担持リグニンの平均粒子径が、50~1150nmであることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項7】
前記攪拌工程中、前記振とうが1000~3000rpmで1~3時間の攪拌、又は超音波処理で1~3時間の超音波振とうであることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項8】
前記生成工程中、前記不活性ガスが、アルゴン及び/又は窒素であって、前記加熱が800~1300℃であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項9】
前記リグニンが、アルカリリグニン、クラフトリグニン、及びリグノスルホン酸塩から選ばれる何れかであることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【請求項10】
前記リグニン中、炭素40~60質量%に対し、ナトリウムイオンを50質量%未満、かつカリウムイオンを10質量%未満とすることを特徴とする請求項1に記載のグラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンに鉄などの金属イオンを担持させて、グラフェンへと誘導するグラフェンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、セルロース、ヘミセルロースと同じく木材の構成成分の一つであって木材の主成分の約3割を占め、地球上に最も豊富に存在する芳香族高分子である。リグニンは、放置された間伐材のような林地残材の他、製紙・パルプの生産において排出される黒液中に多く含有され、またバイオエタノールの製造工程の副生成物としても得られる。リグニンの生産量は、現在、世界で年間5000万~7000万トン以上と言われているが、2030年までに年間2億2500万トンまで増加すると予想されている。
【0003】
従来、排出されたリグニンは、燃料としての再利用(サーマルリサイクル)が主であった。しかし、リグニンは、安価で、高い炭素含有率を有し、高い熱的安定性、良好な剛性等の特長を備え、重金属イオンとの優れた親和性、抗酸化活性を有するという特性を有することから、近年、これら特性を利用して、強化充填剤(フィラー)、抗酸化活性を生かした抗菌剤、重金属の吸着材など、各種材料(マテリアルリサイクル)に変換して実用化されるようになってきている。
【0004】
最近では、リグニンの高い炭素含有率に注目して、リグニンを炭素源としたカーボン材料の生成についても多数研究が行われている。カーボン材には、炭素構造が円筒状に結合したカーボンナノチューブ、球状に結合したフラーレン、炭素原子がsp2結合による六角格子を形成した原子一層分の厚さの物質であるグラフェン、グラフェン構造が層状に重なり合ったグラファイト(黒鉛)等が代表的である。カーボン材料の特長として、電気伝導性、熱伝導性、機械的強度、化学的安定性及び高い表面積などの特性を有する。
【0005】
このようなカーボン材として、非特許文献1では、水溶性のアルカリリグニンを超純水に添加し凍結乾燥させたリグニン粉末をアルゴン雰囲気下900℃でカーボン化して、リグニンシートを生成したことが開示されている。このリグニンシートは、高い電気容量で良好なサイクル安定性を示したことから、3電極スーパーキャパシタへ応用できる可能性が示されている。
【0006】
また、非特許文献2では、リグニンを水酸化カリウム(KOH)水溶液に添加し凍結乾燥させた多孔性リグニンを窒素雰囲気下250℃で熱安定化させた後、700℃でカーボン化を行うことで、カーボンナノ粒子を生成させたことが開示されている。このカーボンナノ粒子は、KOHの添加濃度によって粒子サイズに大きく影響することが示されている。
【0007】
また、非特許文献3では、リグニンスルホン酸ナトリウムとKOHを混合し、脱イオン水に添加しスプレー乾燥させたリグニン球形混合物を窒素雰囲気下700℃で熱処理して、多孔質カーボン球を生成したことが開示されている。この多孔質カーボン球は、優れたエネルギー貯蔵率を示し、電気容量保持率が高かったことから、電気二重層キャパシタへ応用できることが示されている。
【0008】
さらに、非特許文献4では、アルカリリグニンを空気中200℃で酸化、アルゴン雰囲気下1350℃でカーボン化を行うことによってハードカーボンを生成したことが開示されている。このハードカーボンは、速度能力が良好でサイクル性能が安定だったことから、ナトリウムイオンバッテリーのアノードとして応用できることが示されている。
【0009】
カーボン材料の中でもグラフェンは、優れた電気伝導性及び機械的強度を備えた魅力的な二次元材料であり、スーパーキャパシタとしての利用が研究されている。スーパーキャパシタは、化学反応を利用する二次電池とは異なり、静電的に電気を蓄えることが可能であるため充放電による劣化が起きにくく、また急速充電が可能である点から次世代の材料として期待されている。しかし、グラフェンの二次元平面構造が凝集し積層してグラファイト構造になり易いため、グラフェンの生成は困難であるという欠点がある。
【0010】
非特許文献5には、グラファイトを粘着テープで剥離させ、グラフェンを単離するといScotch Tape法が開示されている。この方法では、高純度なグラフェンを得ることができるが、剥離工程が律速となり大量のグラフェンを生成することが困難である。
【0011】
特許文献1には、リグニンを粒子状にし、乾燥したものを金属固体(鉄粉、酸化鉄、ニッケル粉)を直接混ぜ合わせて、800℃、50MPaの高圧下で処理して、グラフェンを生成することが開示されている。この方法では、固体同士の撹拌によって触媒となる金属固体をリグニン内に分散するのに高いエネルギーを要するうえ、グラフェンの生成割合が高々数%に留まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】W. Liu、 Y. Yao、 O. Fu、 S. Jiang、 Y. Fang、 Y. Wei、 X. Lu、 Lignin-derived carbon nanosheets for high-capacitance supercapacitors、 RSC Adv.、 2017、 7、 48537. https://doi.org/10.1039/c7ra08531a
【非特許文献2】P. Gonugunta、 S. Vivekanandhan、 A. K. Mohanty、 M. Misra、 A Study on Synthesis and Characterization of Biobased Carbon Nanoparticles from Lignin、 World J. Nano Sci. Eng.、 2012、 2、 148. http://dx.doi.org/10.4236/wjnse.2012.23019
【非特許文献3】Y. Chen、 G. Zhang、 J. Zhang、 H. Guo、 X. Feng、 Y. Ghen、 Synthesis of porous carbon spheres derived from lignin through a facile method for high performance supercapacitors、 J. Mater. Sci. Technol.、 2018、 34、 2189. https://doi.org/10.1016/j.jmst.2018.03.010
【非特許文献4】X. Lin、 Y. Liu、 H. Tan、 B. Zhang、 Advanced lignin-derived hard carbon for Na-ion batteries and a comparison with Li and K ion storage、 Carbon、 2020、 157、 316. https://doi.org/10.1016/j.carbon.2019.10.045
【非特許文献5】K. S. Noboselov、 A. K. Geim、 S. V. Morozov、 D. Jiang、 Y. Zhang、 S. V. Dubonos、 I. V. Grigorieva、 A. A. Firsov、 Electric field effect in atomically thin carbon films、 Science、 2004、 306、 666. https://doi.org/10.1126/science.1102896
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】中国特許第105439135号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、リグニンから簡便な工程により温和な条件で収率良く高品質のグラフェンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するためになされたグラフェンの製造方法は、リグニンと、還元剤存在下の第一鉄イオン、並びに還元剤存在下又は非存在下のコバルトイオン及びニッケルイオンから選ばれる少なくとも何れかの金属イオンを含有する金属塩水溶液とを所定のpHで混合し、前記リグニンに前記金属イオンを担持させた金属イオン担持リグニンの懸濁液にする担持工程と、前記懸濁液に振とうを施して、前記金属イオン担持リグニンを攪拌し、金属イオン担持リグニン分散液にする攪拌工程と、前記金属担持リグニン分散液を凍結乾燥して、金属イオン担持リグニン凍結乾燥物にする凍結乾燥工程と、前記金属イオン担持リグニン凍結乾燥物に不活性ガスの雰囲気下で加熱を施し、グラフェンを生成する生成工程とを有することを特徴とする。
【0016】
このグラフェンの製造方法は、前記還元剤がヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩であることが好ましい。
【0017】
このグラフェンの製造方法は、前記担持工程中、前記リグニンに対して、前記金属イオン含有水溶液中の金属イオン濃度を0.01mmol/g~1.0mmol/gとすることが好ましい。
【0018】
このグラフェンの製造方法は、前記担持工程中、前記リグニンに対して、前記ヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩を質量比で金属イオン濃度の10倍~10分の1倍の量とすることが好ましい。
【0019】
このグラフェンの製造方法は、前記担持工程中、前記懸濁液中のpHを11~8に調整するというものである。
【0020】
このグラフェンの製造方法は、前記担持工程中、及び/又は前記攪拌工程中、前記金属イオン担持リグニンの平均粒子径が、50~1150nm、好ましくは200~600nmである。
【0021】
このグラフェンの製造方法は、前記攪拌工程中、前記振とうが1000~3000rpmで1~3時間の攪拌、又は超音波処理で1~3時間の超音波振とうであるというものである。
【0022】
このグラフェンの製造方法は、前記生成工程中、前記不活性ガスが、アルゴン及び/又は窒素であって、前記加熱が800~1300℃であることが好ましい。
【0023】
このグラフェンの製造方法は、例えば前記リグニンが、アルカリリグニン、クラフトリグニン、及びリグノスルホン酸塩から選ばれる何れかであるというものである。
【0024】
このグラフェンの製造方法は、前記リグニン中、炭素40~60質量%に対し、ナトリウムイオンを50質量%未満、かつカリウムイオンを10質量%未満とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のグラフェンの製造方法によれば、リグニンから簡便な工程により、リグニンを分散させつつ沈降させない温和な条件で、従来よりも遥かに高収率で、高品質のグラフェンをラボスケールの少量から、パイロットスケールの中量でも、バルクスケールの大量でも一定の品質で、製造ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明を適用するグラフェンの製造方法による金属担持ALカーボン材料と本発明を適用外の金属非担持アルカリリグニン(AL)カーボン材料とのラマン分光分析スペクトルと、それのI
D/I
G比及びI
2D/I
G比と、再現性とを示す図である。
【
図2】本発明を適用するグラフェンの製造方法用のアルカリリグニン(AL)の物性と、それを用いたグラフェンの製造方法による熱処理後の金属担持ALカーボン材料の赤外分光スペクトルを示す図である。
【
図3】本発明を適用するグラフェンの製造方法による各社アルカリリグニン(AL)由来の熱処理後の金属担持ALカーボン材料のラマン分光分析スペクトルを示す図である。
【
図4】本発明を適用するグラフェンの製造方法用のアルカリリグニン(AL)とそれを用いた金属イオン担持リグニン(金属担持AL凍結乾燥中間体)の分子量を示すための図である。
【
図5】本発明を適用するグラフェンの製造方法用のアルカリリグニン(AL)及び各種濃度の金属イオン水溶液から金属イオン担持リグニンを調製する際の濃度とpHとの相関を示すグラフである。
【
図6】本発明を適用するグラフェンの製造方法による別なFe(II)担持クラフトリグニン(カーボン材料)のpHによるI
2D/I
Gと平均粒径との相関関係のグラフ、及びそれらのラマン分光分析スペクトルを示す図である。
【
図7】本発明を適用するグラフェンの製造方法による別な金属イオン担持ALカーボン材料と本発明を適用外の金属非担持アルカリリグニン(AL)カーボン材料とのラマン分光分析スペクトルと、それのI
D/I
G比及びI
2D/I
G比と、再現性とを示す図である。
【
図8】本発明を適用するグラフェンの製造方法による別な金属イオン担持ALカーボン材料と本発明を適用外の金属非担持アルカリリグニン(AL)カーボン材料とのラマン分光分析スペクトルと、それのI
D/I
G比及びI
2D/I
G比と、再現性とを示す図である。
【
図9】本発明を適用するグラフェンの製造方法による別な金属イオン担持ALカーボン材料のラマン分光分析スペクトルを示す図である。
【
図10】本発明を適用するグラフェンの製造方法用のアルカリリグニン(AL)及び各種濃度の各金属イオン水溶液から金属イオン担持リグニンを調製する際の濃度とpHとの相関を示すグラフである。
【
図11】本発明を適用するグラフェンの製造方法用の各アルカリリグニン(AL)に由来する金属イオン担持ALカーボン材料のラマン分光分析スペクトルを示す図である。
【
図12】本発明を適用するグラフェンの製造方法による金属イオン担持ALカーボン材料の錠剤とそれの酸洗浄後との導電率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0028】
本発明のグラフェンの製造方法は、硫酸塩パルプやソーダパルプ製造廃液を中和して得られるアルカリリグニンやパルプ化法の主流であるクラフト法(水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどで高温高圧処理)由来のクラフトリグニン、木材の亜硫酸蒸留過程でリグニン原材がスルホン化され、さらに加水分解、縮合などを経たリグノスルホン酸塩のようなリグニンから、グラフェン又はそれを含有する熱処理された金属担持リグニンであるカーボン材料を生成するものである。
【0029】
このグラフェンの製造方法の一態様は、リグニンと、還元剤存在下の第一鉄イオン金属塩水溶液とを所定のpHで混合し、リグニンに金属イオンを担持させた金属イオン担持リグニンの懸濁液にする担持工程と、懸濁液に振とうを施して、金属イオン担持リグニンを攪拌し、金属イオン担持リグニン分散液にする攪拌工程と、金属担持リグニン分散液を凍結乾燥して、金属イオン担持リグニン凍結乾燥物にする凍結乾燥工程と、金属イオン担持リグニン凍結乾燥物に不活性ガスの雰囲気下で加熱を施し、グラフェンを生成する生成工程とを有する。
【0030】
第一鉄イオン即ち2価のFe(II)は、空気酸化等により第二鉄イオン即ち3価のFe(III)に酸化され易い。
このような第二鉄イオンはpH3以上の酸性乃至中性条件になると水酸化物となって沈殿を起こしてしまう。特に酸性側で分散度が悪い。一方、アルカリ条件となると、沈殿を起こしてしまう。
そこで、第一鉄イオンの状態を維持できるように、還元剤例えばヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩(ヒドロキシアンモニウム)を第一鉄イオンと共存させておく。
その第一鉄イオンの状態を維持したままリグニンに吸着させるというものである。
一旦、第一鉄イオンがリグニンに吸着されたら、酸化され難くなるので、pHを上げて分散状態を良好にした後、凍結乾燥させて必要に応じて粉状にしたうえで、低酸素又は実質上無酸素状態で加熱をすると、リグニンを酸化して環状化・芳香化し、一方酸化第一イオンが還元されて0価の鉄となって触媒となりグラフェンへと成長し、単層のグラフェン又はそれを含有する金属イオン担持リグニン(カーボン材料)を製造することができるというものである。
【0031】
第一鉄イオンの水溶液に代えて、コバルトイオン及びニッケルイオンから選ばれる金属塩水溶液を還元剤存在下で、リグニンにこれら金属イオンを吸着させてから、分散状態を良好にした後、凍結乾燥させて必要に応じて粉状にしたうえで、低酸素又は実質上無酸素状態で加熱をして、単層のグラフェン又はそれを含有する金属イオン担持リグニン(カーボン材料)を製造するものであってもよい。コバルトイオン及びニッケルイオンは第一鉄イオンと異なり酸化され難く、価数の変化によって沈殿を惹き起こすことがないので、還元剤非存在下にしてもよい。
【0032】
この担持工程中、リグニンに対して、金属イオン含有水溶液中の金属イオン濃度を下限0.01mmol/gで上限1.0mmol/g、より好ましくは0.05~0.5mmol/g、一層好ましくは0.05~0.25mmol/g、より一層好ましくは何れの金属イオン含有水溶液の場合も0.025mmol/gに調製する。この上限・下限の範囲を外れてしまうとグラフェンの均一性指標(後述するID/IG)が低くなって均一性が悪くなったり、グラフェンの単層度指標(後述するI2D/IG)が低くなってグラフェンの生成度が悪くなったりする。
【0033】
この担持工程中、リグニンに対して、前記ヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩を質量比で上限10倍~下限10分の1倍の量、好ましくは1倍~10分の1倍(等倍)の量、一層好ましくは10分の1倍の量に調整する。この上限を上回ると金属イオンを含む溶液がpH4まで酸性化し、リグニンの分散性が減少し、グラフェンの生成効率を大きく減少することとなってしまい、この下限を下回ると熱処理時の金属イオンの還元が進まなくなりグラフェンの生成効率が減少する原因となってしまう。
【0034】
この担持工程中、懸濁液中のpHを上限11~下限8、好ましくは11~9、一層好ましくは11~10、より一層好ましくはpH11に調整する。この上限を上回ると、金属イオンは水酸化物イオンと水酸化物態を形成し、リグニンから遊離することでグラフェンの生成効率が大きく減少することとなってしまい、この下限を下回るとリグニンの分散性が減少し凝集沈殿を生じ、グラフェンの生成効率が大きく減少することとなってしまう。このようなpHの調製は、還元剤例えばヒドロキシアミン及び/又はヒドロキシアミン塩の量で調整してもよく、及び/又はアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水から選ばれる少なくとも何れかの水溶液)で調整してもよい。
【0035】
この担持工程中、及び/又はこの攪拌工程中、金属イオン担持リグニンの平均粒子径が、下限50nm~上限1150nm、好ましくは50~900nm、より一層好ましくは700~800nmに調整する。この上限を上回るとグラフェンの生成が認められず、この下限を下回ると金属単体の粒径とほぼ同じ大きさになることを意味し、金属イオンの周辺にリグニンが吸着していないこととなってしまう。このような調整は、前記のようなpHの調整に応じて行われるものであってもよく、攪拌工程中、振とうが1000~3000rpmで1~3時間の攪拌好ましくは1500rpmで1時間の攪拌、又は超音波処理で1~3時間の超音波振とうを施すことによるものであってもよい。
【0036】
前記生成工程中、前記不活性ガスが、アルゴン及び/又は窒素であって、加熱が上限1300℃~下限800℃、好ましくは1300℃で1時間とする。この下限を下回るとグラフェンの生成が認められないこととなってしまう
【0037】
リグニン中、カリウムイオンを10質量%未満とする原料を用いることが好ましい。カリウムイオン濃度がこの範囲以上となってしまうと、グラフェンの結晶性が低下する傾向となってしまう。カリウムイオンの量は、リグニン、及び/又は金属イオン担持リグニン(中間体)を、水洗/及び又は酸洗浄により低減するものであってもよい。
【0038】
このグラフェンの製造方法によれば、単層のグラフェン又はそれを含有する金属イオン担持リグニン(カーボン材料)を得ることができ、グラフェンの物性として、導電性を示す。
【0039】
このグラフェンは、強度が強く、単層で非常に薄く、熱伝導性にも優れている。
【実施例0040】
以下、本発明を適用する実施例について、詳細に説明する。実施例のグラフェンの製造方法は、アルカリリグニン(AL)から、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料を調製しそのFe(II)担持ALカーボン材料にグラフェンを含むというものである。
【0041】
(実施例1-1:東京化成製AL由来の熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の調製)
熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料は、下記の手順で調製した。
(1-1) 200mmol/LのFe(II)標準溶液の調製:
約50mLの超純水が入った100mLビーカーに、塩化鉄(II)四水和物(3.9770g)を加え、10分間超音波洗浄機によって溶解させ、それを100mLメスフラスコに移し、超純水で定容した。
【0042】
(1-2) 100mmol/L塩化ヒドロキシアンモニウム水溶液の調製:
約50mLの超純水が入った100mLビーカーに、塩化ヒドロキシアンモニウム(0.6949g)を加え、10分間超音波洗浄機によって溶解させ、それを100mLメスフラスコに移し、超純水で定容した。
【0043】
(1-3) Fe(II)水溶液の調製:
少量の超純水の入った50mLメスフラスコに前記(1-1)で調製したFe(II)標準溶液の0、0.25、0.5、1.25、2.5、5.0、10、25mLをそれぞれ添加した後、Fe(II)の酸化を防ぐため、前記(2)で調製した塩化ヒドロキシアンモニウム水溶液の0、0.05、0.10、0.25、0.50、1.0、2.0、5.0mLを加え、定容した。
また、塩化ヒドロキシアンモニウムの濃度は、Fe(II)濃度の1/10とした。
(水溶液中のFe(II)濃度:0、1.0、2.0、5.0、10、20、40、100mmol/L、HONH3Cl濃度:0、0.10、0.20、0.50、1.0、2.0、4.0、10mmol/L)
【0044】
(1-4) Fe(II)担持AL水溶液の調製:
前記(3)で調製したFe(II)水溶液の約25mLを50mLの遠沈管に移し、そこに60℃で約12時間乾燥させたAL(東京化成工業株式会社製)1.0±0.0003gを加え、残りのFe(II)水溶液を入れた。その後、高速振とう機により1500rpmで3時間振とう撹拌を行った。
【0045】
(1-5) Fe(II)担持AL中間体の調製:
前記(1-4)で調製したFe(II)担持AL水溶液をナスフラスコに移し冷凍庫で一晩冷凍させた後、約48時間真空凍結乾燥を行い、Fe(II)担持AL中間体を調製した。
(ALへのFe(II)の担持濃度:0、0.050、0.10、0.25、0.50、1.0、2.0、5.0mmol/g)
【0046】
(1-6) 熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の調製:
前記(1-5)で調製したFe(II)担持ALカーボン材料をセラミックボード(13.5×10×80mm、株式会社ニッカトー製)に0.50±0.05g詰め、電気管状炉内に静置し、アルゴンガス流速0.20L/minとし、昇温速度20℃/minで1300℃まで昇温させ1時間保持した後、自然冷却し、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料を調製した。この熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料には、グラフェンが含まれている。
【0047】
(比較例1-1:熱処理後のFe(II)非担持ALカーボン材料の調製)
Fe(II)を用いず担持させなかったこと以外は、実施例1と同様にして、熱処理後のFe(II)非担持ALカーボン材料を調製した。
【0048】
([検討Fe-1] 実施例1群-比較例1群:グラフェン生成に及ぼすALへのFe(II)担持濃度の影響)
ALにFe(II)担持濃度を0~5.0mmol/gにした時の炭素結合と結晶状態の違いをラマン分光光度計(製品名HR-800、株式会社堀場製作所製)で測定したラマンスペクトルにより確認した。その結果を
図1(a)に示す。
カーボン材料のラマンスペクトルにおいては、カーボン中の欠陥構造に由来するDバンド(1350cm
-1付近)、六角網面構造に由来するGバンド(1580cm
-1付近)、グラフェンの構造に由来する2Dバンド(2700cm
-1付近)の特徴的なピークが検出される。そして、1200cm
-1と1800cm
-1で直線を結び、ピークトップからその直線までの高さをDバンドとGバンド強度、2500cm
-1と3400cm
-1で直線を結び、ピークトップからその直線までの高さを2Dバンドの強度とした。
ここでは、それぞれのカーボン材料における、Gバンドに対するDバンドの強度比(I
D/I
G)及びGバンドに対する2Dバンドの強度比(I
2D/I
G)を求めた。その結果を
図1(b)に示す。
【0049】
なお、ID/IGはカーボン材料の均一性を示す指標であり、値が低いほど均一な構造であり、一方、I2D/IGは単層に近いグラフェンであるほど高い値を示し、二層以上のグラフェンでは1.0よりも小さく、単層グラフェンが多く存在すると2.0~4.0の値を示すとされている。
【0050】
図1(a)から明らかな通り、AL(東京化成工業株式会社製)を炭素源とし、Fe(II)担持濃度を0.05~5.0mmol/gにした場合のカーボン材料のラマンスペクトルを比較した結果、2Dバンドの比較では、Fe(II)担持濃度0.05~0.5mmol/gの範囲でグラフェンの存在を示す2Dバンドが検出されたことから、この範囲でグラフェンが生成されて存在していることが分かった。
【0051】
また、
図1(b)から明らかな通り、比較例1のFe(II)非担持ALカーボン材料(ブランク)を除いて、I
D/I
Gの最小値とI
2D/I
Gの最大値を示したのは、Fe(II)を0.05mmol/g用いて担持させたFe(II)担持ALカーボン材料(Fe:0.05mmol/g)であった。
【0052】
(実施例1-1’:ALからFe(II)を用いたグラフェン生成の再現性試験)
実施例1-1のようにして、グラフェンの生成が最も良い条件で、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料(0.05mmol/g)を3回繰り返して合成した。そのラマンスペクトルを
図1(c)に示す。
【0053】
また、下記表1に示されるように、I
D/I
GとI
2D/I
Gの相対標準偏差が夫々11%と31%であり、I
2D/I
Gの再現性が多少不安定であったが、比較的良好でほぼ同等な構造を有するカーボン材料が得られた。
【表1】
【0054】
(実施例1-2並びに比較例1-2:ナカライテスク製AL由来の熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の調製、及び再現性試験)
ナカライテスク株式会社製のALを用いたこと以外は、実施例1-1及び1-1’並びに比較例1-1と同様にして、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料を調製し、3回の再現性試験を行い、グラフェン生成に及ぼすALへのFe(II)担持濃度の影響について、Fe(II)担持濃度を0~5.0mmol/gにした時の炭素結合と結晶状態の違いをラマンスペクトルで確認し、検討した。
その結果、実施例1-1の東京化成製AL由来の熱処理後のFe(II)の場合と同様に、Fe(II)担持濃度0.05~0.5mmol/gの範囲でグラフェンの存在を示す2Dバンドが検出された(非図示)。
また、I
D/I
GとI
2D/I
Gとを比較すると、比較例1-2の熱処理後のFe(II)非担持ALカーボン材料(ブランク)を除いて、I
D/I
Gの最小値とI
2D/I
Gの最大値を示したのは、Fe(II)を0.05mmol/g用いて担持させた熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料(0.05mmol/g)であった(非図示)。
また、3回の再現性試験でも、実施例1-1と同等以上に、3回とも鋭い2Dバンドのピークが認められた(不図示)ことから、グラフェン構造を持ったカーボン材料が再現よく生成できることが分かった。また、下記表2に示されるように、I
D/I
GとI
2D/I
Gの相対標準偏差が夫々11%と18%であり、実施例1-1よりもI
2D/I
Gの再現性が良く、比較的良好で略同等な構造を有するカーボン材料が得られた。
【表2】
【0055】
(実施例1-3並びに比較例1-3:Sigma-Aldrich製AL由来の熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の調製、及び再現性試験、並びに物性評価)
Sigma-Aldrich社製のALを用いたこと以外は、実施例1-1及び1-1’並びに比較例1-1と同様にして、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料を調製し、3回の再現性試験を行い、グラフェン生成に及ぼすALへのFe(II)担持濃度の影響について検討した。
【0056】
その結果、実施例1-1の東京化成製AL由来の熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の場合と同様に、Fe(II)担持濃度0.05~1.0mmol/gの範囲でグラフェンの存在を示す2Dバンドが検出された(非図示)。
【0057】
また、ID/IGとI2D/IGとを比較すると、比較例1-2の熱処理後のFe(II)非担持ALカーボン材料(ブランク)を除いて、ID/IGの最小値とI2D/IGの最大値を示したのは、Fe(II)を0.25mmol/g用いて担持させた熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料(0.25mmol/g)であった(非図示)。Fe(II)の濃度は、実施例1-1の東京化成製のAL由来や実施例1-2のナカライテスク由来のALを用いた熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料に比べて5倍必要とするが、結晶状態の点では良好な結果を示した。
【0058】
また、3回の再現性試験でも、実施例1-1と同等以上に、3回とも鋭い2Dバンドのピークが認められた(不図示)ことから、グラフェン構造を持ったカーボン材料が再現よく生成できることが分かった。また、下記表3に示されるように、I
D/I
GとI
2D/I
Gの相対標準偏差が夫々3.7%と32%であり、実施例1-1に比べI
2D/I
Gの再現性が多少不安定であったが、略同等で遜色のない構造を有するカーボン材料が得られた。
【表3】
【0059】
([検討Fe-2] 実施例1群-比較例1群:グラフェン生成に及ぼす各社ALへのFe(II)担持の影響、並びに物性評価)
[検討Fe2-1] 前記結果より、最も効率よく再現性の良いグラフェン構造を持ったカーボン材料を生成できる条件として、炭素源が東京化成製及びナカライテスク製のALを用いた熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料では、Fe(II)担持濃度が0.05mmol/gが最適であり、炭素源がSigma-Aldrich製のALを用いた熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料では、Fe(II)担持濃度が0.25mmol/gが最適であることが、分かった。
【0060】
[検討Fe2-2] 実施例1-1~1-3の再現性試験の結果をまとめて比較した下記表4の通り、東京化成製及びナカライテスク製のALを用いFe(II)担持濃度が0.05mmol/gとして得た熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料と比べ、Sigma-Aldrich製のALを用いFe(II)担持濃度が0.25mmol/gとして得た熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料は、最も欠陥構造が少ないグラフェンを含むカーボン材料を生成していることが示された。
【表4】
【0061】
[検討Fe2-3] そこで、これらの物性解析を行い、炭素源の違いによって生じたFe(II)の担持濃度および結晶性の違いについて検討した。
まず、3社製のALについて元素分析装置(vario MICRO cube、Elementar、 Germany)を用いた元素分析、蛍光X線分析装置 (ZSX Primus II、Rigaku、Tokyo、Japan)を用いたXRFによって得られた元素割合を表5に示す。
【表5】
表5から明らかな通り、各社製のALにおいても、カリウム(K)以外の元素に対して大きな違いが認められなかったが、Sigma-Aldrich社製のALは、東京化成株式会社製やナカライテスク株式会社のALに比べ、カリウムが約30倍多く存在していた。これまでの報告において、ALに内在するナトリム(Na)やカリウムがカーボンの結晶性に影響することが報告されていた。NH
4
+を用いて市販のALからナトリウムイオン(Na
+)やカリウムイオン(K
+)をイオン交換によって脱離させてからFe(II)を担持させた方が、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料中のグラフェンの結晶性が優れていた。これらのことから、Sigma-Aldrich製ALは、東京化成株式会社製やナカライテスク株式会社のALに比べカリウムを多く含有するから、良好な結晶性とグラフェンを持つカーボン材料を生成させるために、カリウムイオンを除去する操作をする必要があると考えられる。
【0062】
[検討Fe2-4] 次に、3社製のAL、及びそれらに由来する熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料について、臭化カリウム(KBr)を使用して、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で測定し、赤外分光スペクトルを得た(
図2(a))。
Sigma-Aldrich社製のALには、赤外分光スペクトル中、1460cm
-1にC-H伸縮振動のピークと890cm
-1のC-H面外振動のピークとが認められ、東京化成株式会社製やナカライテスク株式会社のALと相違していた。しかし、3社製のAL由来の熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料は、何れも赤外分光スペクトルに大きな相違が認められなかった(
図2(b))。
【0063】
[検討Fe2-5] 次に、3社製のAL、これらのALにFe(II)を担持し凍結乾燥した中間体、及びそれらに由来する熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料について、表面観察を行うために電解放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(JSM-6500F、日本電子株式会社製)を用い、また元素マッピングを行うためにエネルギー分散型X線分析装置(EDS)(JSM-6500F、日本電子株式会社製)を用いて、SEM-EDSによって解析した。
東京化成株式会社製のALは、倍率1000倍で全体観察すると角のある立体形であって倍率10000で表面観察すると滑らかであり、ナカライテスク株式会社製のALは、全体観察すると球形であって表面観察すると滑らかであり、Sigma-Aldrich社製ALは、全体観察すると滑らかな立体形であって表面観察すると凹凸が認められ、夫々形状の相違が認められた。
しかし、これらのALにFe(II)を担持し、凍結乾燥した後のSEM画像を比較すると、東京化成株式会社製AL由来・ナカライテスク株式会社製AL由来・Sigma-Aldrich社製AL由来のFe(II)担持凍結乾燥中間体(夫々、Fe(II)を0.05、0.05、0.25mmol/g担持)は、何れも全体観察したところ直方体に近い形状を示し、その表面が滑らかであった。
それらを熱処理した後の東京化成株式会社製AL由来・ナカライテスク株式会社製AL由来・Sigma-Aldrich社製AL由来のFe(II)担持ALカーボン材料は、何れも全体観察したときに形状の変化が認められなかったが、表面観察したとき球体の粒子が認められた。
【0064】
次に、熱処理した後の東京化成株式会社製AL由来・ナカライテスク株式会社製AL由来・Sigma-Aldrich社製AL由来のFe(II)担持ALカーボン材料について、EDSによって元素マッピングを行うと、何れもFeとO(酸素)の存在が確認され、カーボン材料表面に金属粒子及び/又は金属酸化物の粒子が存在していることが分かった。
【0065】
次に、熱処理した後の東京化成株式会社製AL由来・ナカライテスク株式会社製AL由来・Sigma-Aldrich社製AL由来のFe(II)担持ALカーボン材料について、EDSによって観察された金属粒子の結晶構造を、XRDによって確認した。その結果、グラフェンの(002)面に由来するピークが検出され、ラマンスペクトルの結果と同様に、XRDにおいてもグラフェンの存在を確認することができた。さらに、
図3に示す通り、何れもFeとFe
3O
4のピークが確認された。従って、これらがグラフェン構造を有する要因として、前処理でALに担持されたFe(II)が低酸素雰囲気での熱処理時に、グラフェンを生成する触媒として機能していることが示唆された。
【0066】
[検討Fe2-6] 以上の結果より、熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料がグラフェン構造を持つカーボンとして生成させるためには、Fe(II)の担持量が重要な因子であると共に、ALに含有されているアルカリ金属(K)が影響しており、また熱処理後のID/IGやI2D/IGが原料であるALの官能基の構成等に影響していると推察されるが、形状そのものには大きな違いは認められず、熱処理後に金属(Fe)又は金属酸化物(Fe3O4)が存在していた。
【0067】
([検討3] サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による、AL及びFe(II)担持AL中間体の分子量測定)
リグニンの分子量が、リグニン由来のハードカーボンを作製した時の多孔質構造に影響し、熱分解条件を制御する時に必要となることが知られている。そこで、グラフェン構造を含むカーボン生成と分子量との関係を調べるため、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)装置(HCL-8200 GPC、東ソー株式会社製)を用いて、標準ポリエチレングリコール及び TSKgel 標準ポリエチレンオキシドを分子量測定の標準試料として、カラム(TSKgel guardcolumn PWXL + TSKgel G5000PWXL + TSKgel G3000 PWXL、何れも東ソー株式会社製)で移動相(30mM Na
2CO
3/10mM NaHCO
3 in 30% acetonitrile)としカラム温度40℃、流量1.0 mL/分、Detector 100μlの条件で、3社製のAL及びFe(II)担持AL凍結乾燥中間体の分子量を測定した。その結果を示す
図4と下記表6との通り、分子量(M
w)は、東京化成工業株式会社製ALとナカライテスク株式会社製ALとが同程度であったが、Sigma-Aldrich社製のALが最も小さかった。また、Fe(II)担持AL凍結乾燥中間体の分子量は、ほとんど変化しなかった。
これらの結果より、同じ熱処理条件下の時、低分子量のALは、高分子量のALよりも解重合と断片化するのが比較的容易であることから、低分子量のALの方が、無秩序な炭素からグラフェンのようなナノ結晶へのより迅速な変換が可能であると推察される。それによって、分子量が最も小さかったSigma-Aldrich社製のALが、Fe(II)を担持することによって最も効率的にグラフェンを生成できたものと推察される。
【表6】
【0068】
([検討Fe-4] Fe(II)溶液にALを投入した後のpH)
0~5.0mmol/gに調製されたFe(II)溶液に3社製のALを夫々投入し、3時間撹拌後のpHを測定した。その結果を示す
図5の通り、東京化成工業株式会社製のAL及びナカライテスク株式会社製のALは、Fe(II)の担持濃度の増加に伴って、pHが9から4まで減少したのに対し、Sigma-Aldrich社製のALは、pH10から6に減少した。このような推移は、表5で示された元素割合の結果から、Sigma-Aldrich社製のALに多く含まれるカリウムイオン(K
+)が、影響しているものと推察される。
通常、リグニンは強塩基下では負電荷を帯びており、そのためpHが高くなるほど分散度が向上する。すなわち、ALがFe(II)を担持するのと同時にK
+が溶出し、加水分解によって溶液のpHを上昇させ、結果的にリグニンが負に帯電するとことによって、高分散状態のFe(II)担持ALを形成したものと考えられる。また、Sigma-Aldrich社製のALが最も結晶性の高いカーボンを得た原因としては、他の2社のALよりも小分子量であり、かつ水溶液で強い塩基性を示すので、高分散状態を維持しながらFe(II)を多く担持したALを形成し、分散して吸着したFe(II)が熱処理時に触媒として機能したためであると考えられる。
【0069】
前記の結果より、最も効率よいグラフェン構造を持ったカーボン材料が生成できる条件として、炭素源がSigma-Aldrich社製のALであることが分かった。そこで、次に、カーボン材料を調製する際の金属イオンとして、Fe(II)に代えて、Co(II)とNi(II)を用い、金属担持ALを調製してから、熱処理して得たCo(II)担持ALカーボン材料についての結晶性を比較した。
【0070】
(実施例1-4並びに比較例1-4:日本製紙株式会社製AL由来でpH調整後での熱処理後のFe(II)担持ALカーボン材料の調製、及び物性評価)
(1.溶液調製)
0.125mMの塩化第一鉄(FeCl2)と0.0125mM塩化ヒドロキシアンモニウム(還元剤)を混合した水溶液40mLに、日本製紙株式会社製リグニン(クラフトリグニン)を20mg投入し、3時間室温で撹拌し、0.25mmol/g Fe(II)を担持したリグニンの懸濁液を得た。
次に、その懸濁液を1M水酸化ナトリウム水溶液によって凡そpH5~11の範囲に調整した後、全量が50mLになるように純水で定容した。その溶液を1時間撹拌した後、ガラスバイアルに移して、微粒子状態を維持するために30分間超音波処理を行った。この試料を用いて粒度分布測定を行った。バイアルのリグニンは、pHが上昇するにつれて、分散度が高いほど黒く懸濁していた。
【0071】
(2.凍結乾燥・熱処理)
前記(1.溶液調製)のようにして得られた懸濁液を、なす型フラスコに移し入れ、冷凍したものを、凍結乾燥機により約48時間凍結乾燥を行った。最後に、アルゴン雰囲気下、1300℃、1時間で熱処理を行い、熱処理後のFe(II)担持クラフトリグニン(カーボン材料)を得た。
【0072】
(3.pHの影響の検討)
図6(a)に示すように、調製溶液のpHが11のときにI
2D/I
Gが急激に上昇していた。一方、pH11ではFe(II)担持リグニンの平均粒径が微小していた。下記表7は、前記(1.溶液調製)で調製溶液をpH5~11まで変化させたときのFe(II)担持リグニンの平均粒径である。
【表7】
従って、I
2D/I
Gと平均粒径には強い関係があり、溶液中の高い分散性を維持することが重要なファクターになることが実証された。
前記(2.凍結乾燥・熱処理)で得られた熱処理後のFe(II)担持クラフトリグニン(カーボン材料)中の炭素結晶は、
図6(b)に示すようなラマン分光光度計により検出されたGバンドに対する2Dバンドの比(I
2D/I
G)(
図6(a)参照)のようにしてグラフェンの結晶性を評価した。
【0073】
なお、クラフトリグニンに代えてアルカリリグニンを用いても、同様の傾向が認められるが、その場合の好ましいpHは、pH9~11である。
【0074】
(実施例2:熱処理後のCo(II)担持ALカーボン材料の調製)
先ず、熱処理後のCo(II)担持ALカーボン材料は、下記の手順で調製した。
(2-1) 200mmol/LのCo(II)標準溶液の調製:
約50mLの超純水が入った100mLビーカーに、塩化コバルト(II)六水和物(4.7586g)を加え、10分間超音波洗浄機によって溶解させ、それを100mLメスフラスコに移し、超純水で定容した。
【0075】
(2-2) Co(II)水溶液の調製:
少量の超純水の入った50mLメスフラスコに前記(2-1)のCo(II)標準溶液の0、0.25、0.5、1.25、2.5、5.0、10、25mLをそれぞれ加え、定容した。
(水溶液中のCo(II)濃度:0、1.0、2.0、5.0、10、20、40、100mmol/L)
【0076】
(2-3) Co(II)担持AL水溶液の調製:
前記(2-2)で調製したCo(II)水溶液の約25mLを50mLの遠沈管に移し、そこにSigma-Aldrich社製のALの1.0±0.0003gを加え、残りのCo(II)水溶液を入れた。その後、高速振とう機により1500rpmで3時間振とう撹拌を行った。
【0077】
(2-4) Co(II)担持AL中間体の調製:
前記(2-3)で調製したCo(II)担持AL水溶液をナスフラスコに移し冷凍庫で一晩冷凍させた後、約48時間凍結真空乾燥を行い、Co(II)担持ALを調製した。
(ALへのCo(II)担持濃度:0、0.05、0.10、0.25、0.50、1.0、2.0、5.0mmol/g)
【0078】
(2-5) 熱処理後のCo(II)担持ALカーボン材料の調製:
前記(2-4)で調製したCo(II)担持リグニンをセラミックボードに0.50±0.05g詰め、電気管状炉内に静置し、アルゴンガス流速0.2L/minとし、昇温速度20℃/minで1300℃まで昇温させ1時間保持した後、自然冷却し、熱処理後のCo(II)担持ALカーボン材料を調製した。この熱処理後のCo(II)担持ALカーボン材料には、グラフェンが含まれている。
【0079】
(比較例2:熱処理後のCo(II)非担持ALカーボン材料を調製)
Co(II)を用いず担持させなかったこと以外は、実施例2と同様にして、熱処理後のCo(II)非担持ALカーボン材料を調製した。
【0080】
([検討Co-1] 実施例2群-比較例2群:グラフェン生成に及ぼすALへのCo(II)担持の影響、並びに物性評価)
Sigma-Aldrich社製のALを炭素源とし、Co(II)を0~5.0mmol/gの範囲で担持し、熱処理したときのカーボン材料の結晶状態をラマンスペクトルで比較した。その結果を示す
図7(a)の通り、Co(II)の担持濃度が0.05~2.0mmol/gの範囲においてグラフェンの存在を示す2Dバンドが検出された。また、
図7(b)に示すように、I
D/I
GとI
2D/I
Gとを比較すると、I
D/I
Gの最小値とI
2D/I
Gは、最大値を示したのは、Fe(II)を担持した時と同様に、Co(II)を0.25mmol/g担持し熱処理したCo(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)であった。さらに、この熱処理したCo(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)の結晶状態の調製再現性を調べたところ、
図7(c)で示されるように、3回とも鋭い2Dバンドのピークが検出され、下記表8の値から求めたI
D/I
GとI
2D/I
Gの相対標準偏差は、それぞれ4.1%と3.8%とであり、実施例1-3で得た熱処理したFe(II)担持ALカーボン材料(担持量0.05mmol/g)よりも再現よくグラフェンを含有するカーボン材料が得られていたことが分かった。
【表8】
【0081】
(実施例3:熱処理後のNi(II)担持ALカーボン材料の調製)
熱処理後のNi(II)担持ALカーボン材料は、下記の手順で調製した。
実施例1-2の(2-1)の塩化コバルト(II)六水和物に代えて、塩化ニッケル(II)六水和物(4.7538g)を用いたこと以外は、実施例1-2と同様にして、熱処理後のNi(II)担持ALカーボン材料を調製した。この熱処理後のNi(II)担持ALカーボン材料には、グラフェンが含まれている。
【0082】
(比較例3:熱処理後のNi(II)非担持ALカーボン材料を調製)
Ni(II)を用いず担持させなかったこと以外は、実施例3と同様にして、熱処理後のNi(II)非担持ALカーボン材料を調製した。
【0083】
([検討Ni-1] 実施例3群-比較例3群:グラフェン生成に及ぼすALへのNi(II)担持の影響、並びに物性評価)
Sigma-Aldrich社製のALを炭素源とし、Ni(II)を0~5.0mmol/gの範囲で担持し、熱処理したときのカーボン材料の結晶状態をラマンスペクトルで比較した。その結果を示す
図8(a)の通り、[検討Co-1]にてCo(II)を担持して検討したのと同様に、Ni(II)担持濃度が0.05~2.0mmol/gの範囲においてグラフェンの存在を示す2Dバンドが検出された。また、
図8(b)に示すように、I
D/I
GとI
2D/I
Gとを比較すると、Fe(II)やCo(II)を担持した時と同様に、I
D/I
Gの最小値とI
2D/I
Gは、最大値を示したのは、Ni(II)を0.25mmol/g担持した熱処理したNi(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)であった。これは、理化学分析結果を対比すると、熱処理したCo(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)と類似したカーボン材料が生成されているものと推察される。
【0084】
熱処理したNi(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)の結晶状態の調製再現性を調べたところ、
図8(c)で示されるように、3回とも鋭い2Dバンドのピークが検出され、下記表9の値から求めたI
D/I
GとI
2D/I
Gの相対標準偏差は、それぞれ19%と11%とであり、実施例1-3で得た熱処理したFe(II)担持ALカーボン材料(担持量0.05mmol/g)や実施例2で得た熱処理したCo(II)担持ALカーボン材料(担持量0.25mmol/g)と比べても遜色なくかつ再現よくグラフェンを含有するカーボン材料が得られていたことが分かった。
【表9】
【0085】
([検討Fe/Co/Ni-1] 熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の物性評価)
上述の結果より、熱処理したFe(II)、Co(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料として高効率かつ再現性の良いグラフェン構造を持ったカーボン材料を生成できる条件は、Sigma-Aldrich社製のALに対する金属イオン(Fe(II)、Co(II)及びNi(II))の種類に関係なくその担持濃度は、0.25mmol/gが最適であった。
図9で示されるように、Sigma-Aldrich社製のAL由来の熱処理したFe(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)のラマンスペクトルはベースラインの傾きが大きいのに対し、Sigma-Aldrich社製のAL由来の熱処理したCo(II)又はNi(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)のラマンスペクトルはベースラインの傾きは小さいことが分かる。ベースラインの傾きの大きさの原因は、蛍光による影響が大きく、リグニンは可視光レーザーのラマン分光で蛍光を発することから、アモルファス部分の欠陥構造が多いことでベースラインの傾きが大きくなったと考えられる。また、下記表10に示すように、同熱処理したFe(II)又はCo(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)と比べ、最小I
D/I
Gと最大I
2D/I
Gを示したNi(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)が、最も欠陥構造が少なくグラフェン構造を持ったカーボン材料として生成していることが示された。
【表10】
【0086】
そこで、これら熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の物性解析を行い、金属の種類によって生じた結晶性の違いについて考察した。
まず、これら熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料のSEM-EDSによって得られた画像を比較すると(不図示)、熱処理後のFe(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料と同様に、熱処理後のCo(II)又はNi(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料は、表面に200~700nmオーダーの球状粒子が認められた。
次に、EDSマッピングを行うと(不図示)、熱処理後のCo(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料はCoとO原子、熱処理後のNi(II)担持ALカーボン材料(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料はNiとO原子の存在が確認された。カーボン材料表面に金属粒子あるいは金属酸化物の粒子が存在していることが分かった。
さらに、EDSによってマッピングされた金属粒子の結晶構造をXRDによって確認したところ、
図9に示すように、Fe(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料はFeとFe
3O
4のピーク、Co(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料はCoとCoOのピーク、Ni(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料はNiのピークが確認された。また、(002)面に由来するグラフェンのピークも確認された。
従って、これらFe(II)、Co(II)又はNi(II)担持AL(担持濃度0.25mmol/g)カーボン材料が結晶性の良いグラフェン構造を有する要因として、金属単体がグラフェンを生成する触媒として機能している可能性が示唆された。
【0087】
([検討Fe/Co/Ni-2] Fe(II)及びCo(II)及びNi(II)をALに担持させた時の物性評価)
次に、0~5.0mmol/gに調製されたFe(II)、Co(II)又はNi(II)金属イオン溶液にALを投入し(但し、Fe(II)の場合のみヒドロキシアミンを添加)、3時間撹拌後のpHを調べた。その結果を示す
図10の通り、Co(II)と Ni(II)の場合では、それらの担持濃度の増加に伴ってpH10から7付近に推移したのに対し、Fe(II)の場合はpH10から6付近に推移した。これは、Fe(II)担持させるときに、Fe(II)がFe(III)に酸化するのを防ぐために還元剤であるヒドロキシアミンを、Fe(II)の濃度の10分1の濃度を添加したことにより、ヒドロキシアミン自身は酸化され水素イオンを放出するため、調製溶液中のFe(II)濃度の増加させた分、ヒドロキシアミンの添加濃度も増加し、その反応で生成する水素イオンの濃度も増加するため、pHが大きく減少したものと考えられる。
従って、ALは、塩基性下で分散度が向上し、高分散状態で金属イオンを担持でき、熱処理時に金属単体に還元され、その周辺でグラフェンを含むカーボンの積層が見られたものと推察される。
【0088】
([検討Fe/Co/Ni-3] 熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料と標品との対比)
次に、実施例で得られた熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料のラマンスペクトルを、標品としてグラフェン試薬であるグラフェンナノプレートレット(G0442、東京化成工業株式会社製:厚み6-8μm、幅15μm)と比較した。その結果を示す
図11の通り、熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料とグラフェン試薬のラマンスペクトルは、DバンドとGバンドに明らかな違いが見られた。下記表11で示されるように、I
D/I
Gはグラフェン試薬が最もよかったが、それに比べ実施例で得られた熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の結晶性は劣るものの、それらのI
2D/I
Gは炭素源をSigma-Aldrich社製ALを原料に用いたとき、グラフェン試薬より高かったことから、グラフェン試薬より層数が少ないグラフェンが含まれていることが示唆された。
以上の結果より、得られた熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料は、グラフェン試薬と比較し、結晶性は劣るが層数が少ないものが生成できたと推察される。
【表11】
【0089】
([検討Fe/Co/Ni-4] 熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の導電率の評価)
実施例で得られた熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の導電率を比較した。
このとき、これらカーボン材料を錠剤にしたものと、それら錠剤の状態で塩酸処理して金属を除去したものとを、交流電気伝導度測定装置(LCRメータ)(ZM2376、株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)で測定した。
先ず、酸処理前では、
図12(a)に示されるように、熱処理後のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料及びグラフェン試薬に、周波数に対し一定の導電率が得られた。これらの中で最大値を示したのは、東京化成製AL由来Fe(II)担持AL(担持量0.05mmol/g)カーボン材料で2.00S/cmであり、その値は標準試料として用いたグラフェン試薬の約25倍であったが、ラマンスペクトルで得られた結晶性の評価と比べると、東京化成製AL由来Fe(II)担持AL(担持量0.05mmol/g)カーボン材料は他のグラフェン材料よりも劣っていたことから、結晶性以外の要因が考えられる。
また、他のFe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料は、導電率がグラフェン試薬よりも約13~21倍高い値を示しており、カーボン材料に残存している金属粒子が影響しているものと考えられた。
【0090】
そこで、Fe(II)及びCo(II)及びNi(II)担持ALカーボン材料の錠剤に対し、塩酸によりカーボン材料から金属を溶出させたものを導電率測定し比較した。このとき、担持した金属イオンから溶出された金属イオン濃度を測定し、カーボン材料から溶出された金属除去率を算出すると、下記表12-1に示すように、12~44%の金属が除去されたことになり、金属の存在が導電率に強く影響しているのであれば、導電率は減少するものと予想された。しかしながら、
図12に示されるように、周波数に対し一定の導電率が得られたことから、酸処理を行っても各試料の導電性は大きく減少することがなく、うち一部でむしろ上昇していた。また、下記表12-2で示されるように、酸処理前後の導電率の変動は、東京化成製AL由来Fe(II)担持AL(担持量0.05mmol/g)カーボン材料が最も大きかった。酸処理前後の導電率の変動は、ナカライテスク株式会社製AL由来Fe(II)担持AL(担持量0.05mmol/g)カーボン材料が略変動しなかったが、これらカーボン材料のうち2番目に金属が溶出していることから、金属粒子以外の要因が導電率に影響しており、例えば生成されたグラフェンに占める割合の大きいものが導電率に影響しているものと考えられる。
【表12-1】
【表12-2】
【0091】
以上、詳細に説明した通り、本発明を適用するグラフェンの製造方法によれば、優れたグラフェン又はそれを含有する金属イオン担持リグニン(カーボン材料)を得ることができた。
本発明のグラフェンの製造方法によれば、導電性に優れるからグラフェン製トランジスタ(グラフェントトランジスタ)として、スマートフォンやタブレットやテレビやパソコンディスプレイの発光デバイスとして、また各種センサー例えば二酸化窒素を測定するガスセンサーとして、導電性・透明性などの特性から太陽電離デバイスとして、優れた薄膜性や熱伝導性から温熱素材として、有用である。