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特開2024-130306赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収積層体
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  • 特開-赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収積層体 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130306
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収積層体
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240920BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09K3/00 105
C01G41/00 A
C08K3/22
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039956
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】町田 佳輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 走一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
4J002AA001
4J002BB001
4J002BB031
4J002BC021
4J002BD031
4J002BD121
4J002BE061
4J002BF031
4J002CD001
4J002CF001
4J002CL001
4J002DE096
4J002FD206
4J002GF00
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】新規の赤外線吸収粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子であって、
前記複合酸化物は、A元素(A)と、タングステン(W)と、酸素(O)とを含み、化学式A3-zで表され、
前記A元素は希土類元素から選択された1種類以上の元素であり、
前記化学式中の前記x、前記y、前記zは、0.002≦x/y≦0.30、0≦z/y≦0.6の関係を満たし、
粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が1nm以上50nm以下、累積90%粒子径が5nm以上100nm以下である、赤外線吸収粒子。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子であって、
前記複合酸化物は、A元素(A)と、タングステン(W)と、酸素(O)とを含み、化学式A3-zで表され、
前記A元素は希土類元素から選択された1種類以上の元素であり、
前記化学式中の前記x、前記y、前記zは、0.002≦x/y≦0.30、0≦z/y≦0.6の関係を満たし、
粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が1nm以上50nm以下、累積90%粒子径が5nm以上100nm以下である、赤外線吸収粒子。
【請求項2】
前記A元素が、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される1種類以上の元素である、請求項1に記載の赤外線吸収粒子。
【請求項3】
液体媒体と、
前記液体媒体中に含まれる請求項1または請求項2に記載の赤外線吸収粒子と、を有する、赤外線吸収粒子分散液。
【請求項4】
前記液体媒体が水、有機溶媒、液状可塑剤、油脂、硬化により高分子化される化合物から選択される1種類以上を含む、請求項3に記載の赤外線吸収粒子分散液。
【請求項5】
固体媒体と、
前記固体媒体中に含まれる請求項1または請求項2に記載の赤外線吸収粒子と、を含む赤外線吸収粒子分散体。
【請求項6】
前記固体媒体が樹脂である請求項5に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【請求項7】
前記樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、および紫外線硬化性樹脂からなる樹脂群から選択される1種類の樹脂、または前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物である請求項6に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【請求項8】
シート形状、ボード形状、またはフィルム形状を備えた、請求項5に記載の赤外線吸収粒子分散体。
【請求項9】
請求項5に記載の赤外線吸収粒子分散体と、
透明基材と、を含む積層構造を備えた、赤外線吸収積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線に含まれる近赤外線は、窓材等を透過して室内に入り込み、室内の壁や床の表面温度を上昇させ、室内気温も上昇させる。室内の温熱環境を快適にするために、窓材等に遮光部材を用いるなどして、窓から侵入する近赤外線を遮ることで、室内気温を上昇させないことが従来からなされていた。
【0003】
窓材等に使用される遮光部材として、特許文献1には、カーボンブラック、チタンブラック等の無機顔料や、アニリンブラック等の有機顔料等を含む黒色微粉末を含有する遮光フィルムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、赤外線反射性を有する帯状のフィルムと、赤外線吸収性を有する帯状のフィルムとを、それぞれ経糸あるいは緯糸として編織物としてなる保温用シートが開示されている。そして、赤外線反射性を有する帯状のフィルムとして、合成樹脂フィルムにアルミ蒸着加工を施し、さらに合成樹脂フィルムを積層したものを用いることも記載されている。
【0005】
本出願人は、特許文献3において、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、当該赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン酸化物微粒子または/及び複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下である赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-029314号公報
【特許文献2】特開平9-107815号公報
【特許文献3】国際公開第2005/037932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、用途に応じた最適材料を選択できるように、従来の材料とは異なる光学特性を有する新たな赤外線吸収粒子が求められるようになっている。
【0008】
そこで、本発明の一側面では、新規の赤外線吸収粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面では、複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子であって、
前記複合酸化物は、A元素(A)と、タングステン(W)と、酸素(O)とを含み、化学式A3-zで表され、
前記A元素は希土類元素から選択された1種類以上の元素であり、
前記化学式中の前記x、前記y、前記zは、0.002≦x/y≦0.30、0≦z/y≦0.6の関係を満たし、
粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が1nm以上50nm以下、累積90%粒子径が5nm以上100nm以下である、赤外線吸収粒子を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面では、新規の赤外線吸収粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、実施例1~実施例6、比較例1、参考例1に係る赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルのグラフである。
図1B図1Bは、実施例7~実施例12、比較例1、参考例1に係る赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルのグラフである。
図2図2は、赤外線吸収粒子分散液の模式図である。
図3図3は、赤外線吸収粒子分散体の模式図である。
図4図4は、赤外線吸収基材の模式図である。
図5図5は、赤外線吸収積層体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、[1]赤外線吸収粒子、[2]赤外線吸収粒子の製造方法、[3]赤外線吸収粒子分散液、[4]赤外線吸収粒子分散体、[5]赤外線吸収積層体、の順で詳細に説明する。
[1]赤外線吸収粒子
本発明の発明者は、新規な赤外線吸収粒子について検討を行った。本発明に係る赤外線吸収粒子は、赤外線領域の中でも特に近赤外線を吸収する近赤外線吸収粒子であることがより好ましい。
【0013】
本発明の発明者は新たな赤外線吸収粒子を検討するに当たって、タングステン酸化物に着目した。タングステン酸化物(WO)中には有効な自由電子または正孔(ホール)が存在しないため、赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線吸収材料としては有効ではない。ところが、上記タングステン酸化物に陽性元素を添加した複合酸化物とした場合、該複合酸化物中に自由電子または正孔が生成されるため、赤外線領域に自由電子または正孔由来の吸収特性が発現する。
【0014】
実際、特許文献3では、赤外線遮蔽材料微粒子として複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該赤外線材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下である赤外線遮蔽材料微粒子分散体が提案されている。そして、複合タングステン酸化物微粒子は、一般式M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子であることが開示されている。
【0015】
しかし、特許文献3には、元素Mが希土類元素である場合について、具体的にどのような組成の範囲(x/yおよびz/y)を選択すればよいかについて、開示されていなかった。
【0016】
本発明の発明者らは、タングステン酸化物に陽性元素として希土類を添加した複合酸化物について、特定の組成範囲とした場合に、該複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子について、従来知られていなかった効果を発揮できることを見出した。
【0017】
具体的には、当該陽性元素として希土類元素を選択し、複合酸化物の組成範囲として所定の範囲内を選択することで、タングステン酸化物に陽性元素として希土類を添加した場合でも、単相である複合タングステン酸化物の合成が可能であることを見出した。すなわち、異なる組成や結晶構造を持つような異相を含まない複合タングステン酸化物の合成が可能であることを見出した。
【0018】
しかも、当該複合タングステン酸化物を含有する赤外線吸収粒子を、赤外線吸収粒子分散体にした場合に、可視光領域においては透明で、赤外線領域においては吸収をもつことを見出した。
【0019】
さらに、陽性元素として希土類を添加し、所定の組成範囲とした、複合タングステン酸化物を含有する赤外線吸収粒子を用いた赤外線吸収粒子分散体は、従来知られていた複合タングステン酸化物の赤外線吸収粒子分散体とは異なる色味を有することが確認できた。
すなわち、従来の複合タングステン酸化物では実現不可能である色彩、色味を実現できる材料として機能することを見出した。
【0020】
具体的には、特許文献3に係る複合タングステン酸化物を含有する赤外線遮蔽材料微粒子を用いた赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、強い緑色の色調を帯びることがあった。その結果、当該分散体を通して風景や物体を見たときに該風景や物体の色調が損なわれることがあった。
【0021】
これに対して、陽性元素として希土類を添加し、所定の組成範囲とした複合タングステン酸化物を含有する赤外線吸収粒子を用いた赤外線吸収粒子分散体は、公知の複合タングステン酸化物の赤外線遮蔽材料微粒子分散体と比較して緑色の色調を抑制できる。
【0022】
以上の知見に基づいて、本発明を完成させた。なお、以上のように、本実施形態の赤外線吸収粒子によれば、従来の赤外線吸収粒子とは異なる光学特性を発揮できる。このため、本明細書における新規の赤外線吸収粒子とは、従来知られていたものとは異なる光学特性を発揮できる赤外線吸収粒子ということもできる。
(複合酸化物の組成について)
本実施形態の赤外線吸収粒子は、複合酸化物を含有できる。
【0023】
本実施形態の赤外線吸収粒子が含有する複合酸化物は、A元素(A)と、タングステン(W)と、酸素(O)とを含み、化学式A3-zで表される。
【0024】
A元素は希土類元素から選択された1種類以上の元素である。A元素に好適に用いることができる希土類元素としては、具体的には例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。特に、A元素はY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。
【0025】
そして、上記化学式中のx、y、z、すなわち複合酸化物が含有するA元素の物質量x、タングステン元素の物質量y、酸素の欠損量の物質量zは、0.002≦x/y≦0.30、および0≦z/y≦0.6の関係を満たすことが好ましい。
【0026】
なお、本実施形態の赤外線吸収粒子は、上記複合酸化物のみから構成されていても良い。ただし、この場合でも、本実施形態の赤外線吸収粒子が、製造工程等で混入する不可避不純物を含有する場合を排除するものではない。
【0027】
複合酸化物における、タングステン元素に対するA元素の物質量についての含有割合を示すx/yの値を0.002以上とすることで、複合酸化物において十分な量の自由電子または正孔が生成され、目的とする赤外線吸収効果が得られる。そして、A元素の含有量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が0.30を超える場合、単相となることができず、異相(不純物相)が混在してしまう。このため、前述のようにx/yは0.002≦x/y≦0.30であることが好ましく、0.05≦x/y≦0.20であることがより好ましく、0.05≦x/y≦0.15であることがさらに好ましい。
【0028】
タングステンを含む酸化物に対して、A元素を添加することで、複合酸化物に自由電子または正孔が供給され、赤外線吸収特性を発揮できるため、複合酸化物が含有する酸素量は特に限定されない。ただし、酸素量についても所定の範囲内とすることで、複合酸化物の自由電子または正孔の量を、赤外線吸収特性を高める観点から特に好適な範囲とすることができる。そこで、複合酸化物における、タングステン元素に対する酸素元素の欠損量についての物質量の割合に相当するz/yは、0≦z/y≦0.6が好ましい。
【0029】
z/yは、上述のように、複合酸化物における、タングステン元素に対する酸素元素の量論比である3からの欠損量についての物質量の割合に相当し、複合酸化物の酸素量に影響する値である。上述のように、酸素の欠損量によっても複合酸化物の自由電子または正孔の量を制御できる。このため、要求される赤外線吸収特性等に応じて、上記z/yの値も制御することが好ましい。z/yの値は、赤外線吸収粒子の合成条件等により容易に制御できる。
(複合酸化物の結晶構造について)
本発明の発明者の検討によれば、複合酸化物が立方晶、正方晶、および斜方晶(直方晶)から選択されたいずれかの結晶構造を有する場合、特に可視光領域の光の透過が向上し、赤外線領域の光の吸収が向上する。ただし、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外線領域における光の吸収を向上させる効果を得る為には、複合酸化物中に立方晶や、正方晶、斜方晶の結晶構造の単位構造が含まれていれば良く、当該複合酸化物が部分的に非晶質や他の構造を含んでいても構わない。
【0030】
複合酸化物において、タングステン元素に対するA元素の物質量についての含有比率を示すx/yが1.0であり、タングステン元素に対する酸素元素の欠損量についての物質量の割合を示すz/yが0とする。この場合、該複合酸化物の結晶構造は立方晶ペロブスカイト構造となることが考えられる。具体的には例えば、LaWO、CeWO等といった物質を仮想した場合、立方晶ペロブスカイト構造となることが考えられる。しかし前述の通り、これらの仮想的な物質のx/yは1.0であり、x/yの値が0.30を超えるため、単相で存在することができず、異相(すなわち、不純物相)が必然的に混在してしまう。
【0031】
x/y=1.0、z/y=0の仮想的な複合酸化物を基本構造として、x/yの値が1.0未満の複合酸化物は、A元素のサイトについて欠損を有する立方晶ペロブスカイト構造となる場合がある。また、z/yの値が0より大きい複合酸化物は、酸素欠損を有する立方晶ペロブスカイト構造となる場合がある。さらには、各元素の欠損状態によっては、複合酸化物が、ABOブロックとBOブロックが規則的に積み重なった正方晶や斜方晶の結晶構造となる場合もある。
【0032】
このように、複合酸化物の組成により、結晶構造が変化し、それに伴い赤外線吸収特性も変化するが、本実施形態の赤外線吸収粒子が含有する複合酸化物の結晶構造は特に限定されず、複合酸化物の組成や、要求される赤外線吸収特性等に応じて選択できる。
(赤外線吸収粒子の粒子特性について)
本実施形態の赤外線吸収粒子の粒子径等の粒子特性は特に限定されず、要求される赤外線吸収特性等に応じて任意に選択できる。
【0033】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径が1nm以上50nm以下、累積90%粒子径が5nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0034】
一般に、自由電子または正孔を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nm以上2600nm以下の太陽光線の領域周辺の赤外線に反射吸収応答を示すことが知られている。そして、このような材料の粉末粒子を光の波長より小さい粒子とすると、可視光領域(波長380nm以上780nm以下)の光の幾何学散乱が低減されて可視光領域の光の透明性が得られることが知られている。
【0035】
なお、本明細書において「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い。」という意味で用いている。
【0036】
そこで、本実施形態の赤外線吸収粒子を、可視光領域の透明性が要求される用途で使用する場合は、粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積90%粒子径が100nm以下であることが好ましい。これは、累積90%粒子径が100nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0037】
赤外線吸収粒子による散乱のさらなる低減が要求される場合、累積90%粒子径は70nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。赤外線吸収粒子の粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長380nm以上780nm以下の可視光領域の光の散乱が低減される。このため、赤外線吸収粒子の累積90%粒子径を上記範囲とすることで、例えば該赤外線吸収粒子を用いた赤外線吸収粒子分散体が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなることをより確実に回避できる。累積90%粒子径が70nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。そして、レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例しているため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
【0038】
さらに累積90%粒子径が50nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、累積90%粒子径は小さい方が好ましいため、累積90%粒子径の下限値は特に限定されないが、累積90%粒子径は5nm以上であることが好ましい。累積90%粒子径が5nm以上あれば工業的な製造が容易なためである。
【0039】
ここまで説明したように累積90%粒子径を100nm以下とすることにより、例えば本実施形態の赤外線吸収粒子を固体媒体中に分散させた赤外線吸収粒子分散体のヘイズ値を、可視光透過率85%以下で30%以下とすることができる。ヘイズを30%以下とすることで、特に鮮明な透明性を得ることができる。
【0040】
特に優れた赤外線吸収特性を得る観点から、粒度分布測定装置により測定した体積基準の赤外線吸収粒子の累積50%粒子径は1nm以上であることが好ましい。ただし、可視光領域の透明性を高める観点から、累積90%粒子径と同様の理由で、累積50%粒子径は50nm以下とすることが好ましい。
【0041】
赤外線吸収粒子の累積50%粒子径や累積90%粒子径は、周波数解析法で解析する動的光散乱法を原理とした粒度分布測定装置(例えば日機装株式会社製UPA-150等)を用いて測定することができる。
【0042】
粒度分布データは粒子径スケールに対する積算%や頻度%として表現されるが、逆に、積算%のスケールに対する粒子径として表現される場合もある。積算%のスケールに対する粒子径として表現された分布曲線が、例えば10%の横軸と交差するポイントの粒子径を累積10%粒子径、50%の横軸と交差するポイントの粒子径を累積50%粒子径という。さらに90%の横軸と交差するポイントの粒子径を累積90%粒子径という。10%、50%、90%に特に固定されているわけではなく、必要に応じて、任意の積算%が用いられる。50%粒子径はメディアン径とも呼ばれ、ごく一般的に用いられている。複数のサンプルの粒度分布の大きさを比較するとき、測定対象の大きさを一つの数値で代表する必要があるため、このメディアン径がよく用いられる。このため、メディアン径は、平均粒径とよく混同されることがあるが、定義が異なり、通常この2つの径は一致しない。中心(50%径)に対して粒度分布が左右対称である場合に限って、これ等2つの径は一致する。
【0043】
以上に説明した本実施形態の赤外線吸収粒子によれば、波長1000nm以上1300nm以下の領域に光吸収のピークを有する。このため、本実施形態の赤外線吸収粒子によれば、可視光領域においては透明である一方で、赤外線領域の中でも太陽光の持つエネルギーが相対的に高い光波長に対して高い吸収を有することができる。
【0044】
さらに、本実施形態の赤外線吸収粒子は、CIE-Lの表色系において、aが-4.5以上1.0以下であることが好ましく、-4.0以上0以下であることがより好ましい。aは緑から赤にかけての色味の強さを表し、0は緑でもなく赤でもない色味で、マイナスの値は緑味を、プラスの値は赤味を表している。本実施形態の赤外線吸収粒子について、aが上記範囲内にあり、0に近い値となることで、緑味を抑制できていることを示している。このため、本実施形態の赤外線吸収粒子によれば、色味による用途の制約を受けにくい材料とすることができる。
[2]赤外線吸収粒子の製造方法
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法について説明する。本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法により、既述の赤外線吸収粒子を製造できるため、既に説明した事項については一部説明を省略する。
【0045】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、固相反応法により製造できる。固相反応法で合成する際には、原料として例えばA元素化合物やA元素単体と、タングステン化合物やタングステン単体と、を用いることができる。
【0046】
本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法は、A元素化合物またはA元素単体と、タングステン化合物やタングステン単体との混合粉体を調製する混合粉体調製工程(第1混合粉体調製工程)を有することができる。
【0047】
A元素を含有し、A元素を供給する原料であるA元素源としては、A元素化合物またはA元素単体を用いることができる。原料となるA元素化合物としては、A元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、有機化合物、硫化物、塩化物、から選ばれる1種類以上であることが好ましい。
【0048】
なお、好適なA元素については既に説明したので、ここでは説明を省略する。
【0049】
タングステン元素源となるタングステン化合物またはタングステン単体としては、タングステンの、三酸化物(WO)、二酸化物(WO)、単体金属(W)、硫酸塩、アンモニウム塩、有機化合物、硫化物、塩化物、塩化物をアルコール等の液体に溶解させた後に水を添加して加水分解し、溶媒を蒸発させて得られる酸化物の水和物、から選ばれる1種類以上であることが好ましい。タングステン元素源とは、タングステンを含有し、タングステンを供給する原料を意味する。
【0050】
混合粉体調製工程において、A元素化合物またはA元素単体と、タングステン化合物またはタングステン単体との混合粉体を得るための具体的な手順は特に限定されない。例えば、上記A元素化合物等と、タングステン化合物等と、を粉末状態で乾式混合して混合粉体を得る方法が挙げられる。また、タングステン化合物等を水に溶解させて、タングステン化合物等とA元素化合物等とを湿式混合した後、乾燥することによって混合粉体を得ることもできる。
【0051】
混合粉体調製工程において、得られる混合粉体中のA元素とタングステン元素との物質量の比が、目的とする複合酸化物におけるA元素とタングステン元素との比となるように混合することが好ましい。すなわち、目的とする複合酸化物におけるA元素の物質量と、タングステン元素の物質量(W)との比であるA:W=x:yを充足するように混合することが好ましい。x、yは、既述のようにx/yは0.002≦x/y≦0.30であることが好ましく、0.05≦x/y≦0.20であることがより好ましく、0.05≦x/y≦0.15であることがさらに好ましい。このため、上記好適な範囲となるよう、A元素源であるA元素化合物等と、タングステン元素源であるタングステン化合物等とを混合することが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態の赤外線吸収粒子は、目的組成の複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子とするために、多段階で合成することもできる。この場合、第1混合粉体調製工程では、上記A元素化合物等と、タングステン化合物等とを、中間生成物の組成となるように混合できる。
【0053】
そして、本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法は、混合粉体調製工程(第1混合粉体調製工程)で得られた混合粉体を焼成する焼成工程(第1焼成工程)を有することができる。
【0054】
焼成工程の条件は特に限定されない。焼成工程では、例えば上記混合粉体を、不活性ガス単独雰囲気、還元性ガス単独雰囲気、真空雰囲気、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気、酸素を含有する酸化性雰囲気から選択されたいずれかの雰囲気下で焼成できる。
【0055】
例えば複合酸化物について、酸素欠損を導入し、既述の一般式における3-z/yを量論比よりも小さくする場合には、焼成雰囲気は不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気であることが好ましい。還元性ガスは特に限定されないが、例えば水素ガスであることが好ましい。また、還元性ガスとして水素ガスを用いる場合、水素ガスの体積比率は1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。水素ガスの体積比率の上限は特に限定されず、還元性ガス単独とすることもできるため、最高100%にできる。
【0056】
不活性ガスとしては特に限定されないが、窒素ガスや、希ガス等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0057】
酸化性雰囲気としては、酸素を含有する雰囲気であればよく、例えば体積比率で酸素を18%以上100%以下含有する雰囲気を用いることができる。例えば大気雰囲気とすることができる。
【0058】
焼成工程における焼成温度の条件は特に限定されないが、焼成温度は生成した複合酸化物が結晶化し始める温度以上で、かつ該複合酸化物の融点以下が好ましい。具体的には例えば焼成温度を600℃以上1300℃以下とすることが好ましい。
【0059】
本実施形態の赤外線吸収粒子は、目的組成の複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子とするため、多段階で合成を行うこともできる。多段階で合成を行う場合、上記焼成工程(第1焼成工程)で得られた中間生成物にさらに、タングステン化合物や、タングステン単体を添加、混合することができる(第2混合粉体調製工程)。なお、組成の異なる複数種類の中間生成物を調製し、第2混合粉体調製工程で混合することもできる。この際必要に応じてさらにタングステン化合物や、タングステン単体を添加、混合することもできる。組成の異なる複数種類の中間生成物を調製する場合、中間生成物毎に、既述の混合粉体調製工程(第1混合粉体調製工程)、焼成工程(第1焼成工程)を実施できる。
【0060】
第2混合粉体調製工程で用いるタングステン化合物等としては、特に限定されないが、例えば第1混合粉体調製工程で既述の化合物等を用いることができる。第2混合粉体調製工程では、得られる混合粉体中のA元素の物質量と、タングステン元素の物質量との比が、目的とする複合酸化物におけるA元素の物質量と、タングステン元素の物質量との比となるように混合することが好ましい。すなわち、目的とする複合酸化物におけるA元素の物質量(A)と、タングステン元素の物質量(W)との比であるA:W=x:yを充足するように混合することが好ましい。混合は、混合粉体調製工程の場合と同様にして実施できるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
そして、得られた混合粉体について、焼成工程(第2焼成工程)に供して、本実施形態の赤外線吸収粒子を調製できる。第2焼成工程の条件は特に限定されないが、焼成雰囲気や、焼成温度は、例えば既述の焼成工程(第1焼成工程)で説明した場合と同様にして実施できるため、ここでは説明を省略する。なお、第1焼成工程と、第2焼成工程とは、焼成条件が同じであってもよく、異なっていても良い。
【0062】
ここでは、2段階で複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子を製造する方法を例に説明したが、3段階以上のn段階で、複合酸化物を含有する赤外線吸収粒子を製造することもできる。この場合、上記第2混合粉体調製工程、第2焼成工程の説明について、第n混合粉体調製工程、第n焼成工程と読み替えることができる。
【0063】
第n混合粉体調製工程には、第n-1混合粉体調製工程で調製した混合粉体を、第n-1焼成工程で焼成して得られた中間生成物を供給できる。
【0064】
第n-1混合粉体調製工程では、第n-2焼成工程で得られた中間生成物を用い、第n工程に供給する中間生成物の組成にあわせて、中間生成物と、タングステン化合物やタングステン元素単体を混合できる点以外は、第2混合粉体調製工程と同じ構成とすることができる。このため、説明を省略する。
【0065】
また、第n-1焼成工程では、第n-1混合粉体調製工程で調製した混合粉体を用いる点以外は、第1焼成工程や、第2焼成工程と同様の焼成条件で実施できるため、説明を省略する。なお、各焼成工程の条件は同じであっても良く、異なっていても良い。
【0066】
以上に説明した工程を行うことで、本実施形態の赤外線吸収粒子を得ることができる。なお、焼成工程終了後、必要に応じて得られた赤外線吸収粒子の解砕や、粉砕、篩かけ等を行い、所望の粒度分布とすることもできる。
[3]赤外線吸収粒子分散液
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液について説明する。
【0067】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、液体媒体と、液体媒体中に含まれる既述の赤外線吸収粒子と、を含有できる。すなわち、例えば図2に示した様に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液20は、既述の赤外線吸収粒子21と、液体媒体22とを含むことができる。赤外線吸収粒子21は、上記液体媒体22中に分散していることが好ましい。
【0068】
なお、図2は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、係る形態に限定されるものではない。例えば図2において赤外線吸収粒子21を円で表し、球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子21の形状は係る形態に限定されるものではなく、任意の形状を有することができる。赤外線吸収粒子分散液20は、赤外線吸収粒子21、液体媒体22以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0069】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、既述の赤外線吸収粒子を用いて、別の言い方をすれば既述の赤外線吸収粒子の製造方法により得られた赤外線吸収粒子を用いて得ることができる。
【0070】
赤外線吸収粒子分散液は、上記赤外線吸収粒子、液体媒体に加えて、さらに所望により分散剤、その他添加剤を含むこともできる。赤外線吸収粒子分散液は、赤外線吸収粒子分散体の中間生成物あるいはコーティング液として用いることができる。
【0071】
液体媒体とは、使用する温度において液体状の媒体を意味し、特に室温(27℃)において液体状の媒体であることが好ましい。液体媒体としては特に限定されず、用途等に応じて任意に選択できるが、液体媒体は、水、有機溶媒、液状可塑剤、油脂、硬化により高分子化される化合物から選択される1種類以上を含むことが好ましい。
【0072】
以下、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液について、(1)含有する材料について、(2)赤外線吸収粒子分散液の製造方法、(3)赤外線吸収粒子分散液の使用方法および赤外線吸収粒子分散液を用いた物品の順に説明する。
(1)含有する材料について
(1-1)赤外線吸収粒子
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、既述の赤外線吸収粒子を含有できる。赤外線吸収粒子については、既に説明したので、ここでは説明を省略する。
(1-2)液体媒体
(1-2-1)有機溶媒
液体媒体として使用する有機溶媒としては、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、グリコール誘導体、アミド類、芳香族炭化水素類等から選択された1種類以上を好適に使用できる。
【0073】
具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系材料;
アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系材料;
3-メチル-メトキシ-プロピオネート、酢酸n-ブチルなどのエステル系材料;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;
フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;
トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;
エチレンクロライド、クロルベンゼン、等から選択された1種類以上を有機溶媒としてできる。
【0074】
上記有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n-ブチル等から選択された1種類以上をより好ましく使用できる。
(1-2-2)油脂
液体媒体として使用する油脂としては、特に限定されないが、植物油または植物油由来の化合物を好ましく用いることができる。
【0075】
植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油、等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0076】
植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類、等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0077】
また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることが出来る。
【0078】
市販の石油系溶剤として、アイソパー(登録商標)E、エクソール(登録商標)(以下同じ)Hexane、Heptane、E、D30、D40、D60、D80、D95、D110、D130(以上、エクソンモービル製)、等を使用できる。
(1-2-3)液状可塑剤
液体媒体として使用する液状可塑剤としては、例えば、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤、等から選択された1種類以上が挙げられる。なお、いずれも室温で液状であるものが好ましい。
【0079】
なかでも、多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物である可塑剤を好ましく使用できる。当該多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、グリコールと、一塩基性有機酸との反応により得られたグリコール系エステル化合物、等を好適に使用できる。上記グリコールとしては、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。また、上記一塩基性有機酸としては、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0080】
また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、一塩基性有機酸とのエステル化合物等も好適に使用できる。なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-オクタネート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステル、等から選択された1種類以上を好ましく使用できる。さらに、トリエチレングリコールの脂肪酸エステルも好ましく使用できる。
(1-2-4)硬化により高分子化される化合物
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液に使用する硬化により高分子化される化合物としては、熱、光、水により引き起こされる重合反応等で高分子を形成する単量体やオリゴマーを好適に用いることができる。
【0081】
硬化により高分子化される化合物としては、具体的には例えば、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体、スチレン樹脂単量体、等を使用することができる。
【0082】
以上、説明した液体媒体は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。さらに、必要に応じて、これらの液体媒体へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
(1-3)分散剤
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液において、赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による粒子径の粗大化を回避する為に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを含有することもできる。
【0083】
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選択可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、エポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有する材料であることが好ましい。これらの官能基は、赤外線吸収粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、均一に分散させる効果を有する。これらの官能基から選択された1種類以上を分子中にもつ高分子系分散剤は、上記分散剤としてより好ましく用いることができる。
【0084】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;ビックケミー・ジャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4320、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4500、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、7462、8503等;BASFジャパン社製JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;大塚化学社製TERPLUS(登録商標)(以下同じ)MD1000、D1180、D1130等;味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;東亞合成社製アルフォン(登録商標)(以下同じ)UH-2170、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4040、UG-4070、レゼダ(登録商標)(以下同じ)GS-1015、GP-301、GP-301S等;三菱化学社製ダイヤナール(登録商標)(以下同じ)BR-50、BR-52、BR-60、BR-73、BR-77、BR80、BR-83、BR-85、BR-87、BR-88、BR-90、BR-96、BR-102、BR-113、BR-116等が挙げられる。
【0085】
なお、ガラス転移温度が室温未満の液体分散剤を、前記液体媒体の代わりに用いることもできる。すなわち、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、赤外線吸収粒子と液体分散剤を含有することもでき、赤外線吸収粒子と液体分散剤とから構成することもできる。市販の液体分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)20000、楠本化成製Disparlon(登録商標)(以下同じ)DA234、DA325、DA375等が挙げられる。
(1-4)その他添加剤
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、塗布性やレベリング性、乾燥性の制御のために、各種界面活性剤や樹脂成分等の添加剤を含有することもできる。当該添加剤を添加する場合、赤外線吸収粒子分散液は、当該添加剤を、該分散液の5質量%以下の範囲で少量含有することが好ましい。界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、非イオン性、または両性のものが挙げられる。
【0086】
また、赤外線吸収粒子分散液を用いて得られる赤外線吸収粒子分散体の可撓性を付与するために、当該分散液は、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂、エポキシ樹脂等から選択された1種類以上の有機樹脂を含有することもできる。当該有機樹脂を添加する場合、赤外線吸収粒子分散液は、当該有機樹脂を、該赤外線吸収粒子分散液の5質量%以下の範囲で少量含有することが好ましい。
【0087】
また、赤外線吸収粒子分散液を用いて調製される赤外線吸収粒子分散体へのクラック防止性を付与するために、赤外線吸収粒子分散液は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂等から選択された1種類以上の樹脂を含有することもできる。該樹脂を添加する場合、赤外線吸収粒子分散液は、当該樹脂を、当該分散液の20質量%以下の範囲で含有することが好ましい。上記樹脂としては、より具体的には例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの樹脂の変性品を挙げることができる。
(2)赤外線吸収粒子分散液の製造方法
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の製造方法は特に限定されない。本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、例えば既述の赤外線吸収粒子と、必要に応じて分散剤やその他添加剤とを、既述の液体媒体中に添加して分散することで調製できる。なお、既述のように液体媒体に替えて、液体分散剤を用いることもできる。
【0088】
液体媒体中に赤外線吸収粒子等を分散させる方法としては特に限定されないが、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いた、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルは、赤外線吸収粒子について、短時間で所望の粒子径とすることができるため、好適に用いることができる。
【0089】
媒体攪拌ミルを用いた粉砕-分散処理によって、赤外線吸収粒子の液体媒体中への分散と同時に、赤外線吸収粒子同士の衝突や媒体メディアの赤外線吸収粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、赤外線吸収粒子をより微粒子化して分散させることができる。すなわち、粉砕・分散処理される。
【0090】
赤外線吸収粒子分散液における、赤外線吸収粒子の分散濃度としては、0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。これは赤外線吸収粒子の含有量を0.01質量%以上とすることで十分な赤外線吸収特性を発揮できるからである。また、80質量%以下とすることで、赤外線吸収粒子を液体媒体中に均一に分散させることができるからである。本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、液体媒体や、分散剤、カップリング剤、界面活性剤の組み合わせを選択することで、例えば温度40℃の恒温槽に入れたときでも6ヶ月以上分散液のゲル化や粒子の沈降が発生せず、粒子径の増大を抑制できる。
(3)赤外線吸収粒子分散液の使用方法および赤外線吸収粒子分散液を用いた物品
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の用途等は特に限定されず、各種用途に用いることができる。
【0091】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、例えば適宜な基材の表面に塗布することで分散膜を形成して赤外線吸収基材として利用できる。当該分散膜は、赤外線吸収粒子分散体の一種でもあり、赤外線吸収粒子分散液の乾燥固化物の一種でもある。
【0092】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液を乾燥し、必要に応じて粉砕処理を行い、粉末状の赤外線吸収粒子分散体(本明細書において「分散粉」と記載する場合もある。)とすることもできる。つまり、当該分散粉は、赤外線吸収粒子分散体の一種でもあり、赤外線吸収粒子分散液の乾燥固化物の一種でもある。当該分散粉は赤外線吸収粒子が、分散剤等の固体媒体中に分散された粉末状の分散体とすることもできる。当該分散粉は分散剤を含んでいるため、適宜な媒体と混合することで赤外線吸収粒子を媒体中へ容易に再分散させることが可能である。
【0093】
上記分散粉は、赤外線吸収製品へ赤外線吸収粒子を分散状態で添加する原料として用いることもできる。すなわち、本実施形態の赤外線吸収粒子が固体媒体中に分散された当該分散粉を、再度液体媒体中に分散させ、赤外線吸収製品用の分散液として使用しても良いし、後述するように当該分散粉を樹脂中に練り込んで赤外線吸収粒子分散体として使用しても良い。
【0094】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散液は、光熱変換を利用する様々な用途に用いることができる。
【0095】
例えば、赤外線吸収粒子分散液を未硬化の熱硬化性樹脂へ添加するか、赤外線吸収粒子分散液に未硬化の熱硬化性樹脂を添加することにより、硬化型インク組成物とすることができる。上記硬化型インク組成物は、既述の赤外線吸収粒子を含んでおり、該赤外線吸収粒子は赤外線等の赤外線照射による発熱量を高める助剤として機能する。硬化型インク組成物は熱硬化性樹脂を含有するため、硬化型インク組成物に赤外線等を照射することで、上述のように赤外線吸収粒子が発熱量を高める助剤として機能し、該熱硬化性樹脂を硬化できる。硬化型インク組成物を例えば基材上に設けておくことで、赤外線等を照射した際に、硬化型インク組成物の硬化物と、基材との密着性を高めることもできる。
【0096】
従って、当該硬化型インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、例えば塗布と、赤外線等の照射による硬化とを繰り返し実施して積み上げ、3次元物体を造形する光造形法の用途に好適に用いることができる。
【0097】
それ以外にも、本実施形態の赤外線吸収粒子を加熱溶融された熱可塑性樹脂へ添加するか、本実施形態の赤外線吸収粒子を適宜な溶媒中に分散した後、溶媒への溶解性の高い熱可塑性樹脂を添加することにより、熱可塑性樹脂含有インク組成物が得られる。
【0098】
熱可塑性樹脂含有インク組成物を例えば基材上に設け、赤外線等を照射することで、溶媒除去と、樹脂の加熱融着とを経て、熱可塑性樹脂含有インク組成物の硬化物を、基材へ密着させることができる。この際、係る熱可塑性樹脂含有インク組成物においても、上記硬化型インク組成物の場合と同様に、赤外線吸収粒子は赤外線等の照射による発熱量を高める助剤として機能する。
【0099】
従って、当該熱可塑性樹脂含有インク組成物は、従来のインクとしての用途に加え、例えば塗布と、赤外線等の照射による溶媒除去と、樹脂の加熱融着とを繰り返し実施して積み上げ、3次元物体を造形する光造形法の用途に好適に用いることができる。
【0100】
ここまで説明した、上記硬化型インク組成物や、熱可塑性樹脂含有インク組成物は、本実施形態の赤外線吸収粒子分散液の一例でもある。
[4]赤外線吸収粒子分散体
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体について説明する。
【0101】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、固体媒体と、固体媒体中に含まれる既述の赤外線吸収粒子と、を含有できる。具体的には例えば、図3に模式的に示すように、赤外線吸収粒子分散体30は、既述の赤外線吸収粒子31と、固体媒体32と、を含むことができ、赤外線吸収粒子31は、固体媒体32中に配置できる。赤外線吸収粒子31は、上記固体媒体32中に分散していることが好ましい。なお、図3は模式的に示した図であり、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、係る形態に限定されるものではない。例えば図3において赤外線吸収粒子31を円で表し、球状の粒子として記載しているが、赤外線吸収粒子31の形状は係る形態に限定されるものではなく、任意の形状を有することができる。赤外線吸収粒子分散体30は、赤外線吸収粒子31、固体媒体32以外に、必要に応じてその他添加剤を含むこともできる。
【0102】
固体媒体とは、使用する温度において固体状の媒体を意味し、特に室温(27℃)において固体状の媒体であることが好ましい。固体媒体としては、樹脂、ガラス等を用いることができる。
【0103】
固体媒体としては、取り扱い性の容易さ等の観点から樹脂を特に好適に用いることができる。
【0104】
固体媒体として樹脂を用いる場合、樹脂の種類は特に限定されないが、樹脂は、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、および紫外線硬化性樹脂からなる樹脂群から選択される1種類の樹脂、または上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物とすることができる。
【0105】
赤外線吸収粒子分散体の、赤外線吸収粒子の含有割合は特に限定されないが、赤外線吸収粒子分散体は、赤外線吸収粒子を、0.001質量%以上80質量%以下の割合で含有することが好ましい。これは赤外線吸収粒子を0.001質量%以上含むことで、十分な赤外線遮蔽機能を発揮できるからである。また、赤外線吸収粒子の含有割合を80質量%以下とすることで、固体媒体中で赤外線吸収粒子同士が凝集等して造粒することを抑制できるので、特に良好な透明性を保てる。また、赤外線吸収粒子の使用量も抑制できるのでコスト的にも有利である。さらに赤外線吸収粒子の含有割合を80質量%以下とすることで、赤外線吸収粒子分散体が含有する固体媒体の割合を多くし、該分散体の強度を高めることができるからである。
【0106】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の形状等は特に限定されず、用途等に応じて任意に選択できる。例えば、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、シート形状、ボード形状、フィルム形状のいずれかを備えることが好ましい。
【0107】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体について、(1)赤外線吸収粒子分散体の製造方法、(2)赤外線吸収基材、(3)赤外線吸収粒子分散体の使用方法および赤外線吸収粒子分散体を用いた物品、の順に説明する。
(1)赤外線吸収粒子分散体の製造方法
赤外線吸収粒子分散体の製造方法は特に限定されない。赤外線吸収粒子分散体は、例えば既述の赤外線吸収粒子を樹脂等の固体媒体に練り込み、フィルムやボード等の所望の形状に成形することで製造できる。
【0108】
赤外線吸収粒子分散体は、既述の赤外線吸収粒子分散液と樹脂等の固体媒体とを混合することで製造することもできる。また、赤外線吸収粒子が固体媒体に分散された粉末状の分散体、すなわち既述の分散粉を液体媒体に添加し、かつ樹脂等の固体媒体と混合することで、赤外線吸収粒子分散体を製造することも可能である。
【0109】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の形状は特に限定されないが、例えば固体媒体として樹脂を用いた場合、例えば、厚さ0.1μm以上50mm以下のシート形状や、ボード形状、フィルム形状とすることもできる。
【0110】
上述のように、赤外線吸収粒子を樹脂等の固体媒体に練り込み、赤外線吸収粒子分散体を調製する場合、固体媒体である例えば樹脂の融点付近の温度(例えば200℃以上300℃以下程度)で、赤外線吸収粒子と、固体媒体とを加熱混合して練り込むことになる。
【0111】
なお、赤外線吸収粒子を固体媒体に練り込んで得られた材料について、所望の形状に成形することもできるが、一旦ペレット化し、当該ペレットを各方式でフィルムやボード等の所望の形状に成形することも可能である。
【0112】
成形方法は特に限定されず、例えば押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法等を用いることができる。
【0113】
既述のように赤外線吸収粒子分散体を、シート形状や、ボード形状、フィルム形状とする場合、その厚さは特に限定されず、用途等に応じて選択できる。
【0114】
また、赤外線吸収粒子分散体における、固体媒体に対するフィラー量、すなわち赤外線吸収粒子の配合量は、赤外線吸収粒子分散体の厚さや、赤外線吸収粒子分散体に要求される光学特性、機械的特性等に応じて任意に選択できる。例えば一般的に固体媒体、例えば樹脂に対して80質量%以下が好ましい。
【0115】
固体媒体に対するフィラー量が80質量%以下であれば、固体媒体中での赤外線吸収粒子同士が造粒することを抑制できるので、特に良好な透明性を保てる。また、赤外線吸収粒子の使用量も抑制できるのでコスト的にも有利である。
【0116】
なお、固体媒体に対するフィラー量の下限値は特に限定されないが、赤外線吸収粒子分散体が十分な赤外線遮蔽機能を発揮する観点から、例えば0.001質量%以上とすることが好ましい。
【0117】
赤外線吸収粒子分散体は、赤外線吸収粒子を固体媒体に分散させた赤外線吸収粒子分散体を、さらに粉砕し、粉末とした状態でも利用することができる。当該構成を採る場合、粉末状の赤外線吸収粒子分散体において、赤外線吸収粒子が固体媒体中で十分に分散している。従って、当該粉末状の赤外線吸収粒子分散体を所謂マスターバッチとして、適宜な液体媒体に溶解させることや、樹脂ペレット等と混練することで、容易に、液体状または固体状の赤外線吸収粒子分散体を製造できる。
【0118】
上述したシートや、ボード、フィルムのマトリクスとなる固体媒体は、特に限定されるものではなく用途に合わせて選択可能である。既述のように取り扱い性の観点から樹脂を好適に用いることができる。固体媒体として樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂、および紫外線硬化性樹脂からなる樹脂群から選択される1種類の樹脂、または、前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物を好適に用いることができる。特に、低コストで透明性が高く汎用性の広い樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、等から選択された1種類以上の樹脂を好適に用いることができる。また、耐候性を考慮してフッ素樹脂を使用することもできる。
(2)赤外線吸収基材
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、基材と、該基材の表面に配置された既述の赤外線吸収粒子を含有する分散膜とを有する赤外線吸収基材の形態も含む。具体的には、基材と、分散膜との積層方向に沿った断面模式図である図4に示すように、赤外線吸収基材40は、基材41と、赤外線吸収粒子を含有する分散膜42とを有することができる。赤外線吸収粒子を含有する分散膜42は、基材41少なくとも一方の面41Aに配置できる。
【0119】
係る赤外線吸収基材は、例えば以下の手順により製造できる。
【0120】
既述の赤外線吸収粒子と、アルコール等の有機溶媒や水等の液体媒体と、樹脂バインダーと、所望により分散剤とを混合した赤外線吸収粒子分散液を調製する(分散液調製工程)。
【0121】
次いで、上記赤外線吸収粒子分散液を、適宜な基材表面に塗布する(塗布工程)。
【0122】
液体媒体を除去するか、硬化させ、赤外線吸収粒子分散体である分散膜とする(分散体調製工程)。なお、液体媒体の除去と、樹脂バインダーの硬化の両方を実施することもできる。
【0123】
以上の工程により、赤外線吸収粒子分散体が基材表面に直接積層された赤外線吸収基材が得られる。
【0124】
上記樹脂バインダー成分は用途に合わせて選択可能であり、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、等が挙げられる。
【0125】
赤外線吸収基材の製法は、上記方法に限定されず、例えば樹脂バインダー成分を含まない赤外線吸収粒子分散液を塗布し、基材表面に赤外線吸収粒子分散体を積層しても良い。また、上記樹脂バインダー成分を含まない赤外線吸収粒子分散液を塗布して赤外線吸収粒子分散体を形成した後に、バインダー成分を含む液体媒体を当該赤外線吸収粒子分散体の層上に塗布しても良い。
【0126】
従って、赤外線吸収基材の製造方法は、具体的にはまず有機溶媒、樹脂を溶解させた有機溶媒、樹脂を分散させた有機溶媒、水、から選ばれる1種類以上の液体媒体に赤外線吸収粒子が分散している液状の赤外線吸収粒子分散液を基材表面に塗布できる。そして、得られた塗布膜を適宜な方法で固めることで、赤外線吸収基材とすることができる。
【0127】
上記樹脂として例えば樹脂バインダーを用いることができ、既述のように樹脂バインダーを含む液状の赤外線吸収粒子分散液を基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めることで赤外線吸収基材とすることもできる。
【0128】
また、粉末状である固体媒体中に赤外線吸収粒子が分散している赤外線吸収粒子分散体を所定媒体に混合した液状の赤外線吸収粒子分散液を、基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めることで赤外線吸収基材を得ることもできる。
【0129】
勿論、上記液状の赤外線吸収粒子分散液のうち、2種類以上を混合した赤外線吸収粒子分散液を基材表面に塗布し、得られた塗布膜を適宜な方法で固めることで赤外線吸収基材とすることもできる。
【0130】
赤外線吸収基材に用いる基材の材質は、透明体であれば特に限定されないが、ガラス、樹脂シート、樹脂ボード、樹脂フィルム等から選択された1種類以上を好ましく用いられる。なお、透明体とは可視光領域の光を透過する材料であり、可視光領域の光の透過の程度は赤外線吸収基材の用途等に応じて任意に選択できる。
【0131】
樹脂シート、樹脂ボード、樹脂フィルムに用いる樹脂としては、特に限定されず、シート、ボード、フィルムの表面状態や耐久性等要求される特性に応じて選択できる。上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや、さらにこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物等の透明ポリマーから選択された1種類以上が挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル系2軸配向フィルムが、機械的特性、光学特性、耐熱性および経済性の点より好適である。当該ポリエステル系2軸配向フィルムは共重合ポリエステル系であっても良い。
(3)赤外線吸収粒子分散体の使用方法および赤外線吸収粒子分散体を用いた物品
ここまで説明した本実施形態の赤外線吸収粒子分散体や赤外線吸収基材は、可視光領域の光を透過させ、赤外線領域の光を遮蔽できる。このため、例えば、各種建築物や車両において、可視光線を十分に取り入れながら赤外線領域の光を遮蔽し、明るさを維持しながら室内の温度上昇を抑制することを目的とした窓材等に用いることができる。
【0132】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、PDP(プラズマディスプレイパネル)から前方に放射される赤外線を遮蔽するフィルター等、に好適に使用することができる。
【0133】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子は赤外線領域に吸収を有する為、当該赤外線吸収粒子を含む印刷面へ赤外線レーザーを照射したとき、特定の波長を有する赤外線を吸収する。従って、この赤外線吸収粒子を含む偽造防止インクを被印刷基材の片面または両面に印刷して得た偽造防止用印刷物は、特定波長を有する赤外線を照射し、その反射若しくは透過を読み取ることによって、反射量または透過量の違いから、印刷物の真贋を判定できる。当該偽造防止用印刷物は、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0134】
また、既述の赤外線吸収粒子分散液とバインダー成分とを混合したインクを基材上に塗布し、塗布したインクを乾燥させた後、乾燥させたインクを硬化させることにより光熱変換層を形成できる。当該光熱変換層は、赤外線レーザーを照射した箇所について発熱し、隣接する材料を加熱できる。従って、当該光熱変換層は、赤外線レーザーの照射により、高い位置の精度をもって所望の箇所のみで発熱させることが可能である。このため、光熱変換層は、エレクトロニクス、医療、農業、機械、等の広い範囲に分野において局所加熱媒体として適用可能である。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子をレーザー転写法で形成する際に用いるドナーシートや、感熱式プリンタ用の感熱紙や熱転写プリンタ用のインクリボンとして好適に用いることができる。当該光熱変換層は本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0135】
また、既述の赤外線吸収粒子を適宜な媒体中に分散させて、当該分散物を繊維の表面および内部から選択された1か所以上に含有させることにより、赤外線吸収繊維とすることができる。当該赤外線吸収繊維は、赤外線吸収粒子を含有するため、太陽光などからの近赤外線等を効率良く吸収し、保温性に優れた赤外線吸収繊維となる。当該赤外線吸収繊維は、可視光領域の光は透過させるので意匠性に優れた赤外線吸収繊維となる。
【0136】
その結果、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。当該赤外線吸収繊維は本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0137】
また、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、農園芸用ハウスの屋根や外壁材等の資材に適用することもできる。本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、可視光を透過するため、農園芸用ハウス内の植物の光合成に必要な光を確保できる。そして、本実施形態の赤外線吸収粒子は、可視光以外の太陽光に含まれる近赤外光等の光を効率よく吸収するできるため、断熱性を備えた農園芸施設用断熱資材として使用できる。当該農園芸施設用断熱資材は、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の一例である。
[5]赤外線吸収積層体
本実施形態の赤外線吸収積層体は、既述の赤外線吸収粒子分散体と、透明基材と、を含む積層構造を備えることができる。赤外線吸収積層体として、例えば2枚以上の複数枚の透明基材と、上述の赤外線吸収粒子分散体とを積層した例が挙げられる。この場合、赤外線吸収粒子分散体は、例えば透明基材の間に配置し、赤外線吸収用中間膜として用いることができる。
【0138】
この場合、具体的には、透明基材と、赤外線吸収粒子分散体との積層方向に沿った断面模式図である図5に示すように、赤外線吸収積層体50は、複数枚の透明基材511、512と、赤外線吸収粒子分散体52とを有することができる。そして、赤外線吸収用中間膜である赤外線吸収粒子分散体52は複数枚の透明基材511、512の間に配置できる。図5においては、透明基材511、512を2枚有する例を示したが、係る形態に限定されるものではない。
【0139】
この場合、赤外線吸収用中間膜は、シート形状、ボード形状、およびフィルム形状のいずれかの形状を有することが好ましい。
【0140】
透明基材は、可視光領域において透明な板ガラス、板状のプラスチック、フィルム状のプラスチック等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。なお、透明基材が、可視光領域において透明であるとは、可視光領域の光を透過する基材であることを意味する。透明基材が可視光領域の光の透過の程度は赤外線吸収積層体の用途等に応じて任意に選択できる。
【0141】
透明基材として、プラスチックを用いる場合、プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であり、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アイオノマー樹脂、フッ素樹脂等から選択された1種類以上を使用可能である。なお、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0142】
透明基材は、赤外線吸収機能を有する粒子を含有していてもよい。赤外線吸収機能を有する粒子としては、例えば既述の赤外線吸収粒子を用いることができる。
【0143】
複数枚の透明基材間に挟持される中間層の構成部材として、既述の赤外線吸収粒子分散体を用いることで、可視光線を透過し、かつ赤外線吸収機能を備えた赤外線吸収積層体の1種である日射遮蔽合わせ構造体を得ることができる。
【0144】
なお、赤外線吸収粒子分散体を挟持して対向する複数枚の透明基材を、公知の方法で貼り合わせ、一体化することで、上述の赤外線吸収積層体とすることもできる。
【0145】
既述の赤外線吸収粒子分散体を、複数枚の透明基材間に挟持される中間層である、赤外線吸収用中間膜として用いる場合、固体媒体としては、赤外線吸収粒子分散体で説明したものを用いることができる。ただし、赤外線吸収用中間膜と、透明基材との密着強度を高める観点からは、固体媒体はポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0146】
上記赤外線吸収用中間膜は、既述の赤外線吸収粒子分散体の製造方法により製造でき、例えばシート形状、ボード形状、またはフィルム形状のいずれかの形状を有する赤外線吸収用中間膜とすることができる。
【0147】
なお、赤外線吸収用中間膜が、柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合は、媒体樹脂(固体媒体)用の液状可塑剤を添加することが好ましい。例えば、赤外線吸収用中間膜に用いた媒体樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、ポリアセタール樹脂用の液状可塑剤の添加は、透明基材との密着性向上に有益である。
【0148】
可塑剤としては、媒体樹脂に対して可塑剤として用いられる物質を用いることができる。例えば媒体樹脂がポリビニルアセタール樹脂で構成された赤外線吸収用中間膜に用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0149】
また、赤外線吸収用中間膜には、シランカップリング剤、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種を添加することもできる。カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩を構成する金属は特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、セシウム、リチウム、ルビジウム、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。赤外線吸収用中間膜において、カルボン酸の金属塩、金属の水酸化物、金属の炭酸塩から成る群から選択される少なくとも1種の含有量が、赤外線吸収粒子に対して1質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0150】
さらに、赤外線吸収用中間膜は、必要に応じて既述の赤外線吸収粒子に加えて、Sb、V、Nb、Ta、W、Zr、F、Zn、Al、Ti、Pb、Ga、Re、Ru、P、Ge、In、Sn、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Caから成る群から選択される2種類以上の元素を含む酸化物粒子、複合酸化物粒子、ホウ化物粒子のうちの少なくとも1種類以上の粒子を含有することもできる。赤外線吸収用中間膜は、係る粒子を、係る粒子と赤外線吸収粒子との合計を100質量%とした場合に、5質量%以上95質量%以下の範囲で含有できる。
【0151】
赤外線吸収積層体は、透明基材間に配置された中間層の少なくとも1層に、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤としては、マロン酸エステル構造を有する化合物、シュウ酸アニリド構造を有する化合物、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物、ベンゾフェノン構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、ベンゾエート構造を有する化合物、ヒンダードアミン構造を有する化合物等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0152】
なお、赤外線吸収積層体の中間層は、赤外線吸収用中間膜のみで構成して良いのは勿論である。
【0153】
ここで説明した赤外線吸収用中間膜は、赤外線吸収粒子分散体の一例でもある。また、本実施形態の赤外線吸収積層体は、上述のような、透明基材間に赤外線吸収粒子分散体を配置した形態に限定されるものではなく、赤外線吸収粒子分散体と、透明基材とを含む積層構造を有するものであれば、任意の構成を採ることができる。
【実施例0154】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実施例、参考例における評価方法について説明する。
(累積50%粒子径、累積90%粒子径)
実施例、比較例、および参考例における赤外線吸収粒子の粒度分布は、周波数解析法で解析する動的光散乱法を原理とした粒度分布測定装置(日機装株式会社製 型式:UPA-150)により測定した。測定条件として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形を用いた。また、バックグラウンドはメチルイソブチルケトンで測定し、溶媒屈折率は1.40とした。そして、得られた粒度分布から体積基準の累積50%粒子径、および累積90%粒子径を求めた。
(結晶構造)
実施例、比較例、および参考例で作製した、赤外線吸収粒子分散液から溶媒を除去して得られる赤外線吸収粒子を用いて、該赤外線吸収粒子が含有する複合酸化物の結晶構造の測定を行った。
【0155】
当該赤外線吸収粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製 X'Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該粒子に含まれる結晶構造を特定した。
【0156】
(分散液の光学特性)
実施例、比較例、および参考例における赤外線吸収粒子分散液の光学特性は、以下のように測定した。
【0157】
まず、分光光度計の測定用ガラスセルにて赤外線吸収粒子分散液を溶媒のメチルイソブチルケトンで希釈した。このとき、希釈後の可視光透過率が70%となるような希釈倍率とした。次に、分光光度計(日立ハイテクサイエンス製 型式:UH4150)により波長200nm以上2600nm以下の範囲において5nmの間隔で透過光プロファイルを測定した。そして、可視光透過率と日射透過率とをJIS R 3106(2019)に基づき、波長300nm以上2100nm以下の範囲で算出した。このとき、当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。また、当該測定用ガラスセルに溶媒のメチルイソブチルケトンのみを入れたブランクを光の透過率のベースラインとした。また、透過光プロファイルの測定範囲のうち近赤外線(780nm~2600nm)の領域内で最も透過率が低下する(光吸収が強くなる)波長を、「光吸収ピーク波長」として求めた。
【0158】
さらに、上記で測定した波長380nm以上780nm以下の透過光プロファイルを用いて、D65光源、視野角10度での色味値aを、JIS Z 8701(1999)およびJIS Z 8729(2004)に基づいて求めた。
(赤外線吸収基材の光学特性)
実施例、比較例、および参考例における赤外線吸収基材の光学特性は、分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製 型式:UH4150)により測定した。波長200nm以上2600nm以下の範囲において5nmの間隔で透過光プロファイルを測定し、可視光透過率と日射透過率とをJIS R 3106(2019)に基づき、波長300nm以上2100nm以下の範囲で算出した。
【0159】
また、透過光プロファイルの測定範囲のうち近赤外線(780nm~2600nm)の領域内で最も透過率が低下する(光吸収が強くなる)波長を、「光吸収ピーク波長」として求めた。
【0160】
さらに、上記で測定した波長380nm以上780nm以下の透過光プロファイルを用いて、D65光源、視野角10度での色味値Lを、JIS Z 8701(1999)およびJIS Z 8729(2004)に基づいて求めた。
(ヘイズ)
赤外線吸収基材のヘイズ値は、ヘイズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製HM-150N)を用いて測定し、JIS K 7136(2000)に基づき算出した。
[実施例1]
原料として、酸化ランタン(La)、酸化タングステン(WO)、およびタングステン(W)を用いた。そして、酸化ランタンと酸化タングステンとタングステンの物質量の比がLa:WO:W=1:19:1となるモル比率で原料を秤量したのち、均一になるよう十分混合した(第1混合粉体調製工程)。得られた混合粉をアルミナボートに入れ、真空雰囲気下において温度1000℃で5時間焼成した(第1焼成工程)。これにより、赤外線吸収粒子である組成式La0.10WO3-z(0≦z/y≦0.6)で表される複合酸化物を含有する粒子(以下、「粒子A」とも記載する)を得た。なお、上記組成式中のOの添え字が3-zになっている。
【0161】
得られた赤外線吸収粒子である粒子A中のタングステン濃度をICP発光分光分析装置(島津製作所製 型式:ICPE-9000)により分析したところ、75.8質量%であることが分かった。
【0162】
複合酸化物の酸素濃度については、軽元素分析装置(LECO社製 型式:ON-836)によりHeガス中で試料を融解し、分析坩堝のカーボンとの反応で生成したCOガスをIR吸収分光法で定量する方法で分析したところ、18.5質量%であることが分かった。なお、各元素の濃度は、3回分析してその平均値を求めた。これらの結果を物質量比に変換したところ、原子比O/W=2.8となり、組成式La0.10WO3-zのz=0.2であることが分かった。
(赤外線吸収粒子分散液)
実施例1に係る粒子Aを10質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)10質量%と、メチルイソブチルケトン80質量%とを混合した。そして、得られた混合液(スラリー)を、φ0.3mmのZrOビーズと共にガラス瓶に入れ、ペイントシェーカーに装填して10時間粉砕・分散処理することによって実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液を得た。このとき、粒子Aが赤外線吸収粒子となる。
【0163】
実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液の粒度分布を測定し、累積50%粒子径、累積90%粒子径を求めた。評価結果を表1に示す。
【0164】
また、赤外線吸収粒子分散液から、溶媒(分散媒)を除去し、実施例1に係る粒子Aの粉末X線回折パターンを測定したところ、立方晶ペロブスカイト構造の結晶相に帰属される回折ピークが確認された。
【0165】
実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液を溶媒のメチルイソブチルケトンで希釈し、光学特性を測定したところ、可視光透過率は80%、日射透過率は63%であった。また、色味値を測定したところ、aは-3.8であった。該赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルを図1Aに示す。
(赤外線吸収粒子分散体)
実施例1に係る赤外線吸収粒子分散液と紫外線硬化性樹脂(東亜合成株式会社製 アロニックスUV-3701)とを質量比が1:1となるよう秤量し、混合・攪拌して赤外線吸収基材形成用分散液を調製した。そして、バーNo.10のバーコーターを用い、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東洋紡株式会社製 HPE-50)上へ赤外線吸収基材形成用分散液を塗布した後、70℃、1分間の条件で乾燥させ、高圧水銀ランプを照射した。以上の操作により、実施例1に係る赤外線吸収基材を得た。なお、赤外線吸収基材は、赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0166】
得られた実施例1に係る赤外線吸収基材の光学特性を測定した。評価結果を表2に示す。
[実施例2~実施例12]
第1混合粉体調製工程において、原料の種類、原料混合時のモル比率を表1の「原料」欄に記載のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~実施例12に係る赤外線吸収粒子を合成した。なお、「原料」欄のうち、「混合時のモル比率」に示した数値は、「種類」の欄に示した原料の記載の順番にあわせた各原料の混合比率を意味している。このため、例えば、実施例2の場合、「種類」の欄に順にLa、WO、Wが記載されていることから、モル比率でLa:WO:W=3:37:3の割合となるように各原料を秤量、混合したことを意味する。また、得られた赤外線吸収粒子が含有する複合酸化物について、実施例1と同じ手順で評価した場合、タングステン元素に対する酸素元素の欠損量についての物質量の割合であるz/yは、0≦z/y≦0.6の関係を満たすことを確認できている。
【0167】
そして、各実施例で作製した上記赤外線吸収粒子を用いた点以外は、実施例1と同じ条件で、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収基材を調製し、実施例1と同じ評価を実施した。また、実施例2~12の赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルを図1A図1Bに示す。
[比較例1]
赤外線吸収粒子が含有する複合タングステン酸化物であるLa0.1WO3-zに代えて、希土類元素であるA元素を含まないタングステン酸化物WOを用いた。以上の以外は実施例1と同様にして、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収基材を調製し、実施例1と同じ評価を実施した。比較例1における評価結果を表1、表2に示す。また、比較例1の赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルを図1A図1Bに示す。
[参考例1]
赤外線吸収粒子であるLa0.1WO3-zに代えて、公知の複合タングステン酸化物であるセシウム酸化タングステンCs0.33WOを用いた点以外は実施例1と同様にして、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収基材を調製し、実施例1と同じ評価を実施した。参考例1における評価結果を表1、表2に示す。また、参考例1の赤外線吸収粒子分散液の透過光プロファイルを図1A図1Bに示す。
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
表1、表2に示した結果によると、実施例1~実施例12で得られた赤外線吸収粒子を用いた、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体は、可視光透過率が高く、日射透過率を抑制できていることを確認できた。すなわち、可視光領域の光の透過率が高く、赤外線領域の光の透過率を抑制できていることを確認できた。また色味aが大きく(すなわち負の値としての絶対値が小さく)、緑味を帯びていない色(a=0)からの逸脱が小さかった。
【0170】
これに対して、比較例1に係るタングステン酸化物WOは、希土類元素であるA元素を含まないために、近赤外線の領域に明確な光吸収ピークを持たなかった。その結果、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体は、実施例1~12と同程度の可視光透過率に対して、日射透過率を抑制できていないことを確認できた。
【0171】
また、参考例1に係るセシウム酸化タングステンCs0.33WOは、近赤外線の領域に光吸収ピークを持ち、日射透過率を抑制できた。しかし、赤外線吸収粒子分散液、赤外線吸収粒子分散体は、実施例1~12に対して色味値aが小さく(すなわち負の値としての絶対値が大きく)、緑味を帯びていない色(a=0)からの逸脱が大きかった。
【符号の説明】
【0172】
20 赤外線吸収粒子分散液
21 赤外線吸収粒子
22 液体媒体
30 赤外線吸収粒子分散体
31 赤外線吸収粒子
32 固体媒体
40 赤外線吸収基材
41 基材
42 分散膜
41A 一方の面
50 赤外線吸収積層体
511、512 透明基材
52 赤外線吸収粒子分散体
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5