(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130324
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】セメント再生材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 18/167 20230101AFI20240920BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240920BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240920BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B18/167
C04B40/02
C04B22/10
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039988
(22)【出願日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺前 剛
(72)【発明者】
【氏名】汲田 章司
(72)【発明者】
【氏名】早川 康之
(72)【発明者】
【氏名】八木 利之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 猛
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA00
4G055BA02
4G055BA12
4G112MB06
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】炭酸カルシウムの含有割合を増加できるセメント再生材の製造方法を提供すること。
【解決手段】セメント含有廃棄物と、水とを混合して第1のスラリーを生成する工程と、前記第1のスラリーを2時間以上攪拌する工程と、前記第1のスラリーを攪拌しながら、二酸化炭素を含む排ガスを前記第1のスラリー中に供給して、前記排ガス中に含まれる二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する工程と、前記固定化する工程で生成され、前記炭酸カルシウムを含む第2のスラリーを得る工程と、を有する、セメント再生材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント含有廃棄物と、水とを混合して第1のスラリーを生成する工程と、
前記第1のスラリーを2時間以上攪拌する工程と、
前記第1のスラリーを攪拌しながら、二酸化炭素を含む排ガスを前記第1のスラリー中に供給して、前記排ガス中に含まれる二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する工程と、
前記固定化する工程で生成され、前記炭酸カルシウムを含む第2のスラリーを得る工程と、を有する、
セメント再生材の製造方法。
【請求項2】
前記第2のスラリーを、前記炭酸カルシウムを含む固形分と、液体とに分離する工程をさらに有する、
請求項1に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項3】
分離された前記固形分を乾燥する工程をさらに有する、
請求項2に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項4】
前記攪拌する工程において、前記第1のスラリーを攪拌する時間は、5時間以上である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項5】
前記固定化する工程において、
前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給速度は、前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)1kgに対し、1L/分以上であり、かつ前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給時間は、2時間以上である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項6】
前記固定化する工程において、前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給は、バブリングにより行われる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項7】
前記第1のスラリーを生成する工程において、前記水に対する前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)の比率(前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)/前記水)は、質量比で、0.01以上0.43以下である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項8】
前記排ガスは、燃焼排ガスである、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【請求項9】
前記セメント再生材は、コンクリート製品、道路材、盛り土材、ブロック、坑排水中和剤、畜産分野向け消毒剤、プラスチックへの添加剤用フィラー、ゴムへの添加用フィラー、及び塗料への添加用フィラーのいずれかの用途に用いられる、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント再生材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、セメント含有廃棄物は、固化され廃棄物として処分されているが、カルシウム含有量が多い。このカルシウムを、炭酸塩化のカウンターカチオン源として利用する試みが従来から行われている。
例えば、特許文献1には、セメントを含有する廃棄物が水に浸漬されてスラリー状に形成された廃棄物スラリー中に、セメント製造設備から排出される二酸化炭素を含有する排ガスを供給することで、廃棄物スラリー中に溶出したカルシウム成分と排ガス中の二酸化炭素とを反応させて二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する炭素固定化工程と、該炭素固定化工程で処理された廃棄物スラリーから固体分を分離してセメント原料として使用する再原料化工程とを備えることを特徴とするセメント含有廃棄物の利用方法が開示されている。
また、特許文献2には、セメント混合材の製造方法であって、生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱処理した後に、水と混合してスラリーとするスラリー化工程、前記スラリーに対して炭酸ガスを通過させて炭酸化する炭酸化工程を含むセメント混合材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-117636号公報
【特許文献2】特開2021-138574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2ともに、二酸化炭素による炭酸塩化で生成する炭酸カルシウム量(つまり固定化される二酸化炭素量)のデータが示されておらず、炭酸カルシウム量を増やす観点での検討が十分になされていない。
また、特許文献2に記載の方法では、炭酸ガス(二酸化炭素)を通過させる前のスラリーに、例えば100℃~300℃の加熱処理を行うため、この加熱処理によって炭酸ガスの排出がもたらされ、正味の二酸化炭素固定化量(二酸化炭素供給量から、固定化処理による二酸化炭素排出量を減じた値)が低下するという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、炭酸カルシウムの含有割合を増加できるセメント再生材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]セメント含有廃棄物と、水とを混合して第1のスラリーを生成する工程と、前記第1のスラリーを2時間以上攪拌する工程と、前記第1のスラリーを攪拌しながら、二酸化炭素を含む排ガスを前記第1のスラリー中に供給して、前記排ガス中に含まれる二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する工程と、前記固定化する工程で生成され、前記炭酸カルシウムを含む第2のスラリーを得る工程と、を有する、セメント再生材の製造方法。
【0007】
[2]前記第2のスラリーを、前記炭酸カルシウムを含む固形分と、液体とに分離する工程をさらに有する、前記[1]に記載のセメント再生材の製造方法。
【0008】
[3]分離された前記固形分を乾燥する工程をさらに有する、
前記[2]に記載のセメント再生材の製造方法。
【0009】
[4]前記攪拌する工程において、前記第1のスラリーを攪拌する時間は、5時間以上である、
前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【0010】
[5]前記固定化する工程において、前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給速度は、前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)1kgに対し、1L/分以上であり、かつ前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給時間は、2時間以上である、
前記[1]から[4]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【0011】
[6]前記固定化する工程において、前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給は、バブリングにより行われる、
前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【0012】
[7]前記第1のスラリーを生成する工程において、前記水に対する前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)の比率(前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)/前記水)は、質量比で、0.01以上0.43以下である、
前記[1]から[6]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【0013】
[8]前記排ガスは、燃焼排ガスである、
前記[1]から[7]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【0014】
[9]前記セメント再生材は、コンクリート製品、道路材、盛り土材、ブロック、坑排水中和剤、畜産分野向け消毒剤、プラスチックへの添加剤用フィラー、ゴムへの添加用フィラー、及び塗料への添加用フィラーのいずれかの用途に用いられる、
前記[1]から[8]のいずれか一項に記載のセメント再生材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、炭酸カルシウムの含有割合を増加できるセメント再生材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】攪拌時間と生成物中のCaCO
3の割合との関係を示すグラフ。
【
図2】攪拌時間と生成物中のCaCO
3の割合との関係を示すグラフ。
【
図3】CO
2供給時間と生成物中のCaCO
3の割合との関係を示すグラフ。
【
図4】攪拌時間と生成物中のCaCO
3の割合との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前に記載される数値を下限値とし、「~」の後に記載される数値を上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、質量パーセント濃度(単位:質量%(mass%))と、重量パーセント濃度(単位:重量%(wt%))とは同じ値である。
【0018】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係るセメント再生材の製造方法(以下、第1実施形態の製造方法とも称する)は、セメント含有廃棄物と、水とを混合して第1のスラリーを生成する工程(以下、第1のスラリー生成工程とも称する)と、前記第1のスラリーを2時間以上攪拌する工程(以下、攪拌工程とも称する)と、前記第1のスラリーを攪拌しながら、二酸化炭素を含む排ガスを前記第1のスラリー中に供給して、前記排ガス中に含まれる二酸化炭素を前記炭酸カルシウムとして固定化する工程(以下、固定化工程とも称する)と、前記固定化する工程で生成され、前記炭酸カルシウムを含む第2のスラリーを得る工程と、を有する。
【0019】
本実施形態の固定化工程において、排ガス中の二酸化炭素が炭酸カルシウムとして固定化されるメカニズムについて説明する。
排ガス中の二酸化炭素は、第1のスラリー中の水と接触することで溶解してイオン化する。イオン化した二酸化炭素は、セメント含有廃棄物から溶解したカルシウムイオンと結合して炭酸カルシウムを生成する(CaO+CO2→CaCO3)。
この炭酸カルシウムの生成によって、水中のカルシウムイオンが減少し、スラリーのpHが下がる。一方、セメントと水との水和反応によってできた水酸化カルシウムは、その溶解度の範囲内で水に溶解する。すなわち、炭酸カルシウムの生成で水中にカルシウムイオンがなくなった分を補う形で水酸化カルシウムの溶解度を上限として、セメント含有廃棄物からカルシウムが溶け出す。
したがって、理論上は、二酸化炭素を第1のスラリーへ供給し続けることで、炭酸カルシウムが継続的に生成することになる。スラリーのpHは、主として「水酸化カルシウムの溶解速度によって決定される水中カルシウムイオン濃度」と「二酸化炭素の供給速度や気泡径等をパラメーターとする二酸化炭素とカルシウムイオンとの接触効率」によって決まるものと考えられる。
【0020】
本発明者らは、二酸化炭素の固定化技術において、セメント含有廃棄物と水とを混合して第1のスラリーを生成した後に、第1のスラリーを2時間以上攪拌し、その後、排ガスを第1のスラリー中へ供給することで、第1のスラリーを攪拌しない場合、又は第1のスラリーを2時間未満(例えば1時間)攪拌した場合に比べて、炭酸カルシウムの含有割合が増加した第2のスラリーが得られることを見出した。第2のスラリーから分離された固形分、及びその固形分を乾燥した物質(乾燥後の固形分)に、炭酸カルシウムが多く含まれていることを確認した。これらの第2のスラリー、第2のスラリーから分離された固形分、及びその固形分を乾燥した物質(乾燥後の固形分)の少なくともいずれかは、セメント再生材として好適に利用できる。
【0021】
本実施形態の製造方法において、攪拌工程を有する意義及び攪拌時間が2時間以上である意義について説明する。
攪拌工程で生成する水酸化カルシウムは、前記固定化工程において、カルシウムイオンを供給する役目を果たす。炭酸カルシウムの生成量を多くするには、水酸化カルシウム生成量を多くする必要があり、そのためには、一定時間以上、第1のスラリーを攪拌する攪拌工程が必要である。
本発明者らは、第1のスラリーの攪拌時間を2時間以上とすると、炭酸カルシウムの生成量が上昇することを見出した。2時間以上の攪拌時間で、水酸化カルシウムが生成する反応が十分進行することが推察される。
一方、2時間未満の攪拌時間の場合は、水酸化カルシウムの生成量が少なくなることから、水酸化カルシウムが生成する反応が十分進行しないことが推察される。
【0022】
よって、本実施形態の製造方法によれば、攪拌時間を2時間以上とすることにより、炭酸カルシウムの含有割合が増加したセメント再生材が得られる。
本実施形態の製造方法によれば、二酸化炭素の排出削減に寄与するとともに、従来コストをかけて処理されていたセメント含有廃棄物を、セメント再生材として再生することができる。このセメント再生材は、例えば、コンクリート製品、道路材、及び土木・建築材料(例えば盛り土材等)等に利用することが可能となる。
【0023】
(セメント含有廃棄物)
本実施形態の製造方法に用いるセメント含有廃棄物は、コンクリート製品製造過程において排出されるコンクリートスラッジ、残コン、戻りコン、石炭灰、及びカーバイドスラグなどがあり、カルシウムの水への溶出が起こる物質であれば限定されない。
セメント含有廃棄物に含まれる固形分(絶乾ベース)中のカルシウムはCaO換算で10wt%以上含むことが好ましい。絶乾ベースとは、水分がない状態の固形分の質量をいう。
セメント含有廃棄物には、通常、骨材が含まれる。しかし、セメント含有廃棄物に骨材が含まれても、第1のスラリーに二酸化炭素を供給することで、炭酸カルシウムが生成する。骨材の量が多いほど、セメント含有廃棄物中のカルシウム含有量は低くなるため、二酸化炭素の固定化により生成する炭酸カルシウム量は少なくなる。
よって、本実施形態の製造方法に用いるセメント含有廃棄物としては、できる限り骨材が除去されたものが好ましい。骨材の除去方法としては、例えば比重分離法等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0025】
(第1のスラリー生成工程)
第1のスラリー生成工程は、セメント含有廃棄物と、水とを混合して第1のスラリーを生成する工程である。セメント含有廃棄物と水との混合方法は、特に限定されない。
得られる第1のスラリーの含水率は、セメント含有廃棄物自体に含まれる水分量(含水率)と、セメント含有廃棄物に混合する水の量の両方を考慮して決定される。
例えば、コンクリート製造過程で排出されるコンクリートスラッジの場合、コンクリートスラッジに含まれる固形分(絶乾ベース)の含有率は、通常、5質量%以上である。残コン・戻りコンの場合は、フィルタープレスで絞られ、固形分(絶乾ベース)の含有率が50質量%程度になって排出されることが多い。
このように、セメント含有廃棄物によって排出された状態の水分量(含水率)が異なるとともに、同じ「コンクリートスラッジ」の場合でも、水分量は日によって若干変動する。
そのため、本明細書では、第1のスラリーの含水率を、以下のように算出する。
例えば、水分量(含水率)が40質量%であるセメント含有廃棄物100質量部に対して、水50質量部を混合したときの、第1のスラリーの水分量(含水率)は、60質量%({(40+50)/(100+50)}×100=60)と算出される。
【0026】
第1のスラリーを生成する工程は、第1のスラリーの含水率が70質量%以上99質量%以下になるように、セメント含有廃棄物と、水とを混合する工程であることが好ましい。前記第1のスラリーの含水率は、75質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上95質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
第1のスラリー中において、前記水に対する前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)の比率(前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)/前記水)は、質量比で、0.01以上0.43以下であることが好ましく、0.02以上0.33以下であることがより好ましく、0.05以上0.25以下であることがさらに好ましい。
前記比率(前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)/前記水)中における水とは、セメント含有廃棄物自体に含まれる水分量と、セメント含有廃棄物に混合する水の量とを合算した量である。
【0028】
(攪拌工程)
攪拌工程は、第1のスラリーを2時間以上攪拌する工程である。
攪拌工程において、第1のスラリーを攪拌する時間は、2.5時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましく、4時間以上であることがさらに好ましく、5時間以上であることがさらに好ましく、6時間以上であることがさらに好ましく、8時間以上であることがさらに好ましく、12時間以上であることがさらに好ましい。
第1のスラリーを攪拌する時間の上限値は、セメントの固化を十分抑制する観点から、36時間以下であることが好ましく、24時間以下であることがより好ましい。
攪拌工程で用いる攪拌手段(以下、第1の攪拌手段とも称する)としては特に限定されず、例えば、攪拌翼による機械攪拌等が挙げられる。
撹拌工程においては、セメント含有廃棄物中の固形分が沈殿しないように第1のスラリーを撹拌することが好ましい。
撹拌工程で用いる攪拌槽内においては、第1のスラリー中の固形分が沈殿せず、かつ攪拌槽の壁面に固形分が付着し難くなるような、第1のスラリーの流れを得ることが必要である。
第1の攪拌手段の回転数は、攪拌槽の大きさ及び形状、並びに攪拌翼の大きさ及び形状によるが、例えば、10rpm以上500rpm以下であり、好ましくは、15rpm以上250rpm以下である。第1の攪拌手段の回転数が、15rpm以上250rpm以下であると、前記第1のスラリーの流れがより得られ易くなる。
攪拌工程は、装置運転による二酸化炭素の放出を抑制する観点から、第1のスラリーの攪拌を常温で行うことが好ましい。常温とは、特段の加熱又は冷却を行わない温度であり、具体的には、5℃以上35℃以下である。攪拌時の第1のスラリーの温度は、5℃以上35℃以下であり、好ましくは10℃以上35℃以下である。なお、攪拌により第1のスラリーが凍らなければ、攪拌時の第1のスラリーの温度は、5℃未満であってもよい。
攪拌工程において、第1のスラリーは加熱されないことが好ましい。
【0029】
(固定化工程)
固定化工程は、第1のスラリーを攪拌しながら、二酸化炭素を含む排ガスを前記第1のスラリー中に供給して、排ガス中に含まれる二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化する工程である。
固定化工程における第1のスラリーの攪拌は、前記撹拌工程において2時間以上の撹拌を行った後に、二酸化炭素を含む排ガスを供給しながら実施される撹拌である。
本実施形態の製造方法は、第1のスラリーを攪拌しながら、固定化工程を実施することにより、水酸化カルシウムを第1のスラリー中に効率よく生成させることができる。
固定化工程における第1のスラリーの攪拌は、常温で行うことが好ましい。攪拌により第1のスラリーが凍らなければ、攪拌時の第1のスラリーの温度は、5℃未満であってもよい。
固定化工程は、第1のスラリーを加熱しないで攪拌することが好ましい。
固定化工程で用いる攪拌槽内においては、排ガスと、第1のスラリー中に溶出したカルシウムとを効率良く接触させるように第1のスラリーを撹拌することが求められる。
固定化工程で用いる攪拌手段(以下、第2の攪拌手段とも称する)としては、第1の攪拌手段と同様の攪拌手段を用いることができる。第2の攪拌手段と、第1の攪拌手段とは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
第2の攪拌手段の回転数は、攪拌槽の大きさ及び形状、並びに攪拌翼の大きさ及び形状によるが、例えば、10rpm以上500rpm以下であり、好ましくは、15rpm以上450rpm以下である。第2の攪拌手段の回転数が、15rpm以上450rpm以下であると、排ガスと、第1のスラリー中に溶出したカルシウムとをより効率良く接触させることができる。
【0030】
本実施形態の固定化工程において、第1のスラリー中への排ガスの供給を続けると、最終的にpHは一定値になるが、その値は、「カルシウムの溶解(pHを上げる方向に寄与)の速度」と、「二酸化炭素とカルシウムイオンとの接触効率で決まる炭酸カルシウムの生成速度(pHを下げる方向に寄与)」とのバランスが関係していると推測される。
第1のスラリーのpHが一定になった後、排ガスの供給を止めると、pHは徐々に上昇する。これは、炭酸カルシウムの再溶解か、セメント含有廃棄物からのカルシウムの継続的な溶解のどちらかが原因と考えられる。
本発明者らは、第1のスラリーのpHが一定になった後、又は中性域(具体的にはpH9以下)にまで低下した後も、排ガスを供給し続けることで、生成する炭酸カルシウムが徐々に増加することを見出し、結果、第2のスラリー中における炭酸カルシウムの含有割合を増加できることを見出した。
【0031】
本実施形態の固定化工程において、第1のスラリー中への排ガスの供給速度、及び供給時間等の好適な範囲は以下の通りである。
【0032】
第1のスラリー中への廃ガスの供給速度は、第1のスラリー中でカルシウムと二酸化炭素とを短時間かつ効率よく反応させる観点から、第1のスラリー中の前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)1kgに対し、1L/分以上であり、好ましくは1.5L/分以上である。前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給速度の上限値は、装置の仕様により異なるが、例えば10L/分以下である。
【0033】
第1のスラリー中への排ガスの供給時間は、炭酸カルシウムの含有割合をより増加させる観点から、長いほどよく、好ましくは50分以上であり、より好ましくは2時間以上であり、さらに好ましくは3時間以上であり、さらに好ましくは4時間以上であり、さらに好ましくは5時間以上である。前記第1のスラリー中への排ガスの供給時間の上限値は、製造効率の観点から、例えば36時間以下である。
本実施形態の固定化工程において、前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給速度は、前記セメント含有廃棄物中の固形分(絶乾ベース)1kgに対し、1L/分以上であり、かつ前記第1のスラリー中への前記排ガスの供給時間は、2時間以上であることが好ましい。
【0034】
固定化工程では、第1のスラリーのpHが6以上9以下になるまで、排ガスを第1のスラリー中に供給するように制御することが好ましく、第1のスラリーのpHが6以上8以下になるまで、排ガスを第1のスラリー中に供給するように制御することがより好ましい。
第1のスラリーのpHは、例えば、排ガスの供給速度及び供給時間、並びに第1スラリーの温度等を調整することにより制御できる。
【0035】
固定化工程の一態様において、第1のスラリーのpHが一定になるまで、排ガスを第1のスラリー中に供給することが好ましい。
pHが一定とは、pHの変動値(差分)をΔpHとしたとき、少なくとも120分間の間、ΔpH≦0.5であることを言う。
固定化工程の一態様において、第1のスラリーのpHが一定になった後も、排ガスを第1のスラリー中に供給することが好ましい。
【0036】
固定化する工程において、第1のスラリー中への排ガスの供給は、バブリングにより行われることが好ましい。
【0037】
固定化工程において、排ガスは、燃焼排ガスであることが好ましい。
燃焼排ガスとして、液体燃料(重油、灯油、軽油等)の燃焼、ガス(液化石油ガス、液化天然ガス、固体燃料ガス化ガス等)、及び固体(石炭、バイオマス、ごみ等)の燃焼等から発生した燃焼排ガスが挙げられる。
【0038】
(第2のスラリーを得る工程)
第2のスラリーは固定化する工程で生成される。
第2のスラリーを得る工程により、炭酸カルシウムを含む第2のスラリーが得られる。
第2のスラリーに含まれる、炭酸カルシウム以外の材料としては、例えば、細骨材、粗骨材及び砕石等が挙げられる。
【0039】
(分離工程)
本実施形態の製造方法は、第2のスラリーを、炭酸カルシウムを含む固形分と、液体とに分離する工程をさらに有することが好ましい。
分離方法としては特に限定されないが、例えば、濾過、遠心分離、及びデカンテーション等が挙げられる。
【0040】
(乾燥工程)
本実施形態の製造方法は、分離された固形分を乾燥する工程をさらに有することが好ましい。
乾燥方法としては特に限定されず、公知の乾燥装置を用いることができる。
固形分は、炭酸カルシウム、水、及び骨材等を含む。
固形分(乾燥後)中における炭酸カルシウムの含有割合は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
(セメント再生材の用途)
第1実施形態の製造方法で得られるセメント再生材は、例えば、コンクリート製品、道路材、盛り土材、ブロック、坑排水中和剤、畜産分野向け消毒剤、プラスチックへの添加剤用フィラー、ゴムへの添加用フィラー、及び塗料への添加用フィラーのいずれかの用途に用いることができる。
本実施形態のセメント再生材は、建築・土木材料(例えば、コンクリート製品、道路材、盛り土材等)に用いることで、二酸化炭素が再度大気中に放出されることを低減し得る。
本実施形態のセメント再生材は、天然の石灰石の代替として用いることで、天然石灰石の採掘、天然石灰石を用いたセメント製造、及び合成炭酸カルシウムの製造で排出される二酸化炭素の排出量を抑えることができる。
【0042】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等を含むことができる。
【実施例0043】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0044】
以下の実施例及び比較例では、実験装置を用いてセメント再生材を製造した。
【0045】
〔実施例1〕
普通ポルトランドセメント45gに対し、水450gを混合して第1のスラリーを生成した(第1のスラリー生成工程)。
次に、第1のスラリーを常温(20℃)で3時間、スターラーで攪拌した(攪拌工程)。スターラーの回転数は800rpmとした。
次に、第1のスラリーをセパラブルフラスコ(500mL)に移し、第1のスラリーをスターラーで攪拌しながら(回転数800rpm)、第1のスラリー中へ二酸化炭素を500mL/minの流量で供給してバブリングした。二酸化炭素のバブリングは、ケラミフィルター(円筒ガス噴射管)を用いた。バブリングの際、第1のスラリーのpHをモニタリングするとともに、セパラブルフラスコの入口と出口の二酸化炭素の流量をモニタリングし、二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化させた(固定化工程)。二酸化炭素のバブリング中、第1のスラリーのpHは13から6.4に低下し、バブリングを止めるまでほぼ一定であった。
【0046】
固定化工程で生成したスラリーを得た後(第2のスラリーを得る工程)、直ちに濾過し、固形分と液体とに分離し(分離工程)、固形分を乾燥した(乾燥工程)。
以上のようにして、実施例1のセメント再生材(乾燥後の固形分)を得た。
【0047】
〔実施例2~4〕
実施例2~4のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌時間を、表1に記載の攪拌時間にそれぞれ変更した以外、実施例1と同様の方法で作製した。
【0048】
〔比較例1〕
比較例1のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌を行わなかった以外、実施例1と同様の方法で作製した。
【0049】
〔比較例2〕
比較例2のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌時間を、表1に記載の攪拌時間に変更した以外、実施例1と同様の方法で作製した。
【0050】
〔実施例5〕
実施例5のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌時間、固定化工程における二酸化炭素のバブリング時間及びバブリング速度を、表1に記載の攪拌時間、バブリング時間及びバブリング速度に変更した以外、実施例1と同様の方法で作製した。
なお、実施例5の二酸化炭素のバブリングでは、第1のスラリーのpHがバブリングを開始後、40分で一定になったが、その後、80分バブリングを継続した。そのため、バブリングを合計120分行った。
【0051】
〔比較例3〕
比較例3のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌を行わなかった以外、実施例5と同様の方法で作製した。
【0052】
〔実施例6〕
実施例6のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌時間を、表1に記載の攪拌時間に変更した以外、実施例5と同様の方法で作製した。
なお、実施例6の二酸化炭素のバブリングでは、第1のスラリーのpHがバブリングを開始後、40分で一定になったが、その後、320分バブリングを継続した。そのため、バブリングを合計360分行った。
【0053】
〔実施例7~8〕
実施例7~8のセメント再生材は、実施例1の原料、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌時間、及び固定化工程における二酸化炭素のバブリング時間を、表1に記載の原料、攪拌時間、及びバブリング時間にそれぞれ変更した以外、実施例1と同様の方法で作製した。
なお、実施例7~8では、原料として、セメント製品製造工場から排出されたコンクリートスラッジを用いた。
コンクリートスラッジ中の固形分と水の割合(重量比)は、普通ポルトランドセメントの場合と同様になるように調整した。コンクリートスラッジ中の固形分のセメント成分は、元素分析の結果、約88質量%であり、残りは骨材と推測された。
元素分析値は、蛍光X線分析法によって測定した。
【0054】
〔比較例4〕
比較例4のセメント再生材は、攪拌工程における第1のスラリーの攪拌を行わなかった以外、実施例7と同様の方法で作製した。
【0055】
〔評価〕
(炭酸カルシウムの含有割合)
各例で作製したセメント再生材中の炭酸カルシウムの含有割合(質量%)を熱重量分析によって測定した。測定条件は以下の通りである。評価結果を表1及び
図1~4に示す。
-測定条件-
・装置 :熱重量分析装置(島津製作所社製、モデル:TGA-50)
・加熱温度:室温(25℃)から900℃
・昇温速度:15℃/分
・測定資料:10mg
【0056】
【0057】
実施例1~4と比較例1~2とを対比する(
図1)。
第1のスラリーの攪拌を2時間以上行った実施例1~4は、第1のスラリーの攪拌を行わなかった比較例1、及び攪拌を1時間行った比較例2に比べ、セメント再生材中における炭酸カルシウムの生成量が増加した。
【0058】
実施例3及び比較例1の試験条件に対し、バブリングの速度を遅くし、かつ長い時間バブリングした実施例5と比較例3とを対比する(
図2)。
図1の結果と同様に、第1のスラリーの攪拌を2時間以上行った実施例5は、第1のスラリーの攪拌を行わなかった比較例3に比べ、セメント再生材中における炭酸カルシウムの生成量が増加した。
【0059】
実施例3の試験条件に対し、バブリングの速度を遅くし、かつ長い時間バブリングした実施例5と実施例6とを対比する(
図3)。
二酸化炭素のバブリングにおいて、第1のスラリーのpHが一定になった後も、二酸化炭素のバブリングを続け、その時間を長くするほどセメント再生材中における炭酸カルシウムの生成量が増加することがわかった。
実施例6の場合、セメント再生材中の炭酸カルシウムの割合が、60質量%となった。これは元のセメント質量を100とした場合、36の質量の二酸化炭素がセメントに固定化されたことになる。セメント中には、約46質量%のカルシウムが含まれているが、そのうち炭酸カルシウムの生成に寄与したカルシウムは、約72質量%と算出され、非常に多いことがわかる。
【0060】
実施例2~3及び比較例1の試験条件に対し、原料としてコンクリートスラッジを使用し、かつ長い時間バブリングした実施例7~8と比較例4とを対比する(
図4)。
図1の結果と同様に、第1のスラリーの攪拌を2時間以上行った実施例7~8は、第1のスラリーの攪拌を行わなかった比較例4に比べ、セメント再生材中における炭酸カルシウムの生成量が増加した。
【0061】
以上の結果より、セメント再生材中における炭酸カルシウムの生成量を増加させるには、二酸化炭素のバブリングの前に、第1のスラリーを2時間以上攪拌することが有効であることがわかる。
本発明のセメント再生材の製造方法によれば、製造されたセメント再生材をコンクリート製品、道路材、及び土木・建築材料等に利用できる。よって、本発明のセメント再生材の製造方法は、産業上の利用可能性を有している。