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特開2024-130460両性イオン系集積型ニトロキシドラジカル化合物及びそれを用いたレドックスフロー電池
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  • 特開-両性イオン系集積型ニトロキシドラジカル化合物及びそれを用いたレドックスフロー電池 図1
  • 特開-両性イオン系集積型ニトロキシドラジカル化合物及びそれを用いたレドックスフロー電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130460
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】両性イオン系集積型ニトロキシドラジカル化合物及びそれを用いたレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/94 20060101AFI20240920BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20240920BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20240920BHJP
   H01G 11/30 20130101ALN20240920BHJP
【FI】
C07D211/94 CSP
H01M8/18
C07D401/14
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040200
(22)【出願日】2023-03-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/分散型電力ネットワーク有効活用に資する革新的要素技術開発/金属フリー型レドックスフロー電池の国際共同研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】舩木 敬
(72)【発明者】
【氏名】大平 昭博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 縁
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝明
(72)【発明者】
【氏名】細野 英司
【テーマコード(参考)】
4C063
5E078
5H126
【Fターム(参考)】
4C063AA03
4C063BB09
4C063CC12
4C063DD10
4C063EE05
5E078AA01
5E078AA04
5E078BA30
5H126BB10
5H126GG17
5H126RR01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レドックスフロー電池の活物質に用いる、溶解度が高くかつ大きな電位差が得られる化合物を提供し、さらにはこの化合物を用いたレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表されるニトロキシドラジカル化合物。

(式中、Rは置換または未置換のアリール基、ヘテロアリール基、またはアルキル基;R~Rはそれぞれ独立してアルキル基;Rはアニオン性の置換基(スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、又はこれらの塩に相当する基);aは2~6の整数;bは1~6の整数;cは1~6の整数)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、Rは置換または未置換のアリール基、ヘテロアリール基、またはアルキル基であり;R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してアルキル基であり;Rはアニオン性の置換基(スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、又はこれらの塩に相当する基)であり;aは2~6の整数であり;bは1~6の整数であり;cは1~6の整数である)で表されるニトロキシドラジカル化合物。
【請求項2】
一般式(I)におけるRの置換アリール基、および置換ヘテロアリール基の置換基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基およびヘテロ環基から選ばれる、請求項1に記載のニトロキシドラジカル化合物。
【請求項3】
一般式(I)におけるRが未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基、または未置換のアルキル基である、請求項1に記載のニトロキシドラジカル化合物。
【請求項4】
一般式(I)におけるRがスルホン酸基若しくはその塩に相当する基である、請求項1に記載のニトロキシドラジカル化合物。
【請求項5】
一般式(I)におけるR、R、R、RおよびRがメチル基である、請求項1に記載のニトロキシドラジカル化合物。
【請求項6】
下記式(II)~(V)で表される、請求項1に記載のニトロキシドラジカル化合物。
【化2】
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のニトロキシドラジカル化合物を備える電気化学デバイス。
【請求項8】
請求項7に記載の電気化学デバイスが、レドックスフロー電池である電気化学デバイス。
【請求項9】
請求項7に記載の電気化学デバイスが、レドックスキャパシタである電気化学デバイス。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池の性能を向上するための機能性材料としての新規なニトロキシドラジカル化合物、及びそれを用いた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの主力電源化のためには、太陽光や風力などを利用する発電システムの大量導入だけでなく高性能な蓄電池(二次電池)も導入し、絶えず変動する出力を調整する必要がある。しかしながらコスト・安全性・資源的側面を満たす高性能な蓄電池の開発は十分とは言えず、大規模な導入にはいたっていない。レドックスフロー電池は長寿命であり安全性や設計自由度も高いことから再生可能エネルギーの平準化手段の一つとして有力視されている。しかしながら、エネルギー密度の向上や更なる低コスト化の課題がある。
【0003】
レドックスフロー電池は、1970年代の開発当初は鉄/クロム系が主流であったが、正・負電解液が隔膜を通して混合するクロスオーバーにより電池の容量が低下してしまう欠点があった。現在はバナジウム系が主流となり、一部で実用化が進んでいる。しかしながら、今後の大規模導入を考えた場合にバナジウム系は資源的な制約による低コスト化に課題が残ると言われており、新たな電解液の開発が世界中で盛んに行われている。近年では無機系の金属イオンの代わりに有機化合物を用いる報告が数多くなされている。
【0004】
有機化合物を用いる電解液では、正極および負極の両極で生じる酸化還元電位を広げてエネルギー密度を向上するために、正極と負極で異なる構造の化合物が一般的に用いられている。正極活物質の場合、酸化還元電位を正側にシフトさせて負極活物質との電位差を大きくするためには、電子供与性の置換基の導入が有効な方法の一つとして挙げられる。非特許文献1では、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)に電子供与性の大きいアンモニウム基を導入することで、市販の4-ヒドロキシTEMPO(4OH-TEMPO)よりも酸化還元電位が正側にシフトすることが報告されている。しかしながら、これらの化合物では分子サイズが小さいためにクロスオーバーによる容量低下の抑制が課題となる。クロスオーバーは活物質の分子サイズを大きくすることで低減できるため、高分子化した化合物やベーテ格子あるいはケイリー樹の一部を形成する構造を含む化合物を用いる報告例があるが(非特許文献2、3、及び特許文献1)、十分な溶解度の確保が困難であることや、酸化還元に伴う分子の凝集による析出が避けられていない。非特許文献4には分子内にTEMPOを複数有し、かつアンモニウム基を導入した化合物がクロスオーバーを大幅に低減できることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Janoschka,N.Martin,M.D.Hager,U.S.Schubert,Angew.Chem.Int.Ed.2016,55,14427-14430.
【非特許文献2】T.Janoschka,N.Martin,U.Martin,C.Friebe,S.Morgenstern,H.Hiller,M.D.Hager and U.S.Schubert,Nature 2015,527,78-81.
【非特許文献3】T.Hagemann,J.Winsberg,M.Grube,I.Nischang,T.Janoschka,N.Martin,M.D.Hager,U.S.Schubert,J. Power Sources 2018,378,546-554.
【非特許文献4】X-L.Lv,P.T.Sullivan,W.Lib,H.-C.Fu,R.Jacobs,C.-J.Chen,D.Morgan,S.Jin, and D.Feng,ChemRxiv,DOI:10.26434/chemrxiv-2022-hpktf
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-170697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの分析によれば、非特許文献4に開示された化合物のうち、下記化学式で表されるフェニル基を中心に持つ化合物1(Figure S2参照)は溶解性が非常に低く、高いエネルギー密度を達成することは難しい。このような背景から、高い溶解度と大きな電位差が得られ、かつクロスオーバーを抑制可能な優れた性質を併せ持つ新たな材料の開発が求められている。
【0008】
【化1】
【0009】
本発明は、従来の技術における上記した状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、レドックスフロー電池の活物質に用いる、溶解度が高くかつ大きな電位差が得られる化合物を提供し、さらにはこの化合物を用いたレドックスフロー電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ニトロキシドラジカル誘導体を集積し、かつ両性イオン部分を導入した化合物をレドックスフロー電池の活物質に用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、一般式(I)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、Rは置換または未置換のアリール基、ヘテロアリール基、またはアルキル基であり;R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してアルキル基であり;Rはアニオン性の置換基(スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、又はこれらの塩に相当する基)であり;aは2~6の整数であり;bは1~6の整数であり;cは1~6の整数である)で表されるニトロキシドラジカル化合物である。
【0013】
好ましい実施形態において、一般式(I)におけるRの置換アリール基、置換ヘテロアリール基の置換基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基およびヘテロ環基からなる群から選択される基である、ニトロキシドラジカル化合物である。
【0014】
他の実施形態では、一般式(I)におけるRが未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基、または未置換のアルキル基であっても良い。
好ましい実施形態では、一般式(I)におけるRがスルホン酸基若しくはその塩に相当する基が挙げられる。
他の実施形態では、一般式(I)におけるR、R、R、RおよびRがメチル基である、ニトロキシドラジカル化合物である。
さらに好ましい実施形態では、一般式(I)で表されるニトロキシドラジカル化合物が、下記式(II)~(V)のいずれかで表される化合物である。
【0015】
【化3】
【0016】
本発明の他の側面において、上記何れかのニトロキシドラジカル化合物を備える電気化学デバイスが提供される。この電気化学デバイスは、レドックスフロー電池又はレドックスキャパシタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のニトロキシドラジカル化合物によれば、レドックスフロー電池の活物質に求められる高い溶解度と大きな電位差を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態のレドックスフロー電池の構成図である。
図2図2は、本発明の他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の小型試験セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のニトロキシドラジカル化合物は、一般式(I)で表されるニトロキシドラジカル化合物であって、種々の化合物となることが出来る。
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、Rは置換または未置換のアリール基、ヘテロアリール基、またはアルキル基であり;R、R、R、RおよびRそれぞれは独立してアルキル基であり;Rはアニオン性の置換基(スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、又はこれらの塩に相当する基)であり;aは2~6の整数であり;bは1~6の整数であり;cは1~6の整数である)。
【0022】
ニトロキシドラジカル化合物は、好ましくは一般式(I’)で表される化合物である。
【化5】
【0023】
一般式(I)及び一般式(I’)におけるaは好ましくは2~4の整数であり、より好ましくは3である。bは好ましくは1~2の整数であり、より好ましくは1である。cは好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは3である。また、ニトロキシドラジカル化合物は、好ましくは一般式(I’)で表される化合物である。本発明のニトロキシドラジカル化合物は、正極電解液において、少なくとも一種を導入することができ、複数種を導入することも可能である。
【0024】
1つの実施形態において、一般式(I)及び一般式(I’)におけるRは、未置換のアリール基、未置換のヘテロアリール基、または未置換のアルキル基である。ここで、用語「アリール」とは、炭素数6~14のアリール(C6-14アリール)を意味する。アリール基は、特に限定されないが、例えばフェニル、ナフチル、又はオルト融合した二環式の基で8~10個の環原子を有し少なくとも一つの環が芳香環であるもの(例えばインデニル等)等が挙げられる。
【0025】
また、用語「ヘテロアリール」とは、環原子として炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される1~3種のヘテロ原子を1から4個含有する5~7員の芳香族複素環(単環式)基を意味し、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、チオフェン、フラン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾールなどが挙げられる。具体的には、フリル、チエニル、ピロリル、チアゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、アゼピニル、ジアゼピニル等が挙げられる。また、「ヘテロアリール」には、環原子として炭素原子以外に窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択される1~3種のヘテロ原子を1から4個含有する5~7員の芳香族複素環がベンゼン環又は上記芳香族複素環(単環式)基に縮合してなる芳香族複素環(2環式又はそれ以上)から誘導される基も含まれ、例えば、インドリル、イソインドリル、ベンゾ[b]フリル、ベンゾ[b]チエニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、キノリル、イソキノリル等である。
【0026】
ここでアリール基は、特に限定されないが、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ヘテロアリール基は、特に限定されないが、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、チオフェン、フラン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール等である。
【0027】
アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
は、置換基を有してもよく、置換基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。置換基としてより好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基などが挙げられる。置換基の炭素数としては、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3である。
【0028】
用語「アルキル」とは、通常、炭素数1~15で直鎖状又は分岐鎖状のアルキル(C1-15アルキル)を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルまたはペンチルなどのC1-6アルキルが挙げられ、より好ましくはメチルまたはエチルが挙げられ、最も好ましくはメチルである。また、「アルケニル」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数2~10のアルケニル(C2-10アルケニル)が挙げられる。具体的には、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、メタクリル、ブテニル、クロチル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル等である。さらに、「アルキニル」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数2~10のアルキニル(C2-10アルキニル)が挙げられる。具体的には、エチニル、プロパルギル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル等である。さらにまた、「アルコキシ」とは、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~6のアルコキシ(C1-6アルコキシ)が挙げられる。具体的には、メトキシ、エトキシである。置換基の炭素数としては、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~3である。
【0029】
における置換基の置換位置は、特に限定されない。R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。Rは、アニオン性のスルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基、又はこれらの塩に相当する基が挙げられる。
【0030】
本発明のニトロキシドラジカル化合物の具体例として、例えば、下記式(II)~(IX)で表されるものを挙げることが出来る。
【化6】
【0031】
本発明のニトロキシドラジカル化合物の製造方法は、例えば、一般式(I)で表される化合物のうち、Rがフェニル基、R、R、R、RおよびRがメチル基、Rがスルホン酸基、aが3、bが1、cが3である式(II)の化合物4であれば、下記スキーム1に示すルートで合成することができる。すなわち、出発物質としての4-アミノTEMPOと1,3-プロパンスルトンを反応させた化合物2を予め合成する。この化合物2を1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンと反応させた後、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドで処理し化合物3を得る。そして、化合物3をさらにヨードメタンと反応させることにより化合物4を得ることが出来る。
【0032】
【化7】
【0033】
その他の一般式(I)で表される化合物も、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンに代えて、対応する構造を有するR-((CH-X)(R、a、bは上述した通りであり、Xはハロゲン原子を示す。)を用いて同様のルートで合成することができる。また、1,3-プロパンスルトンに代えて、2-ブロモエチルホスホン酸ジエチル等を用いると、一般式(I)におけるアニオン性置換基Rにホスホン酸基を導入することができる。
【0034】
[電気化学デバイス]
本発明のニトロキシドラジカル化合物は、電気化学デバイスに導入する化合物として用いることが出来る。以下、図面を参照して、本発明の電気化学デバイスの一実施形態であるレドックスフロー電池の概要を説明する。図1は、本発明の1つの実施形態にかかるレドックスフロー電池の構成図である。図1に示すRed1及びRed2 は還元型の活物質を示し、Ox1 及びOx2 は酸化型の活物質を意味する。イオン種は例示である。また、図1において、実線矢印は充電、破線矢印は放電を意味する。
【0035】
[レドックスフロー電池]
レドックスフロー電池11は、典型的には、交流/直流変換器を介して、発電所(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と、電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電所を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池11と、この電池11に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える以下の電池システムが構築される。
【0036】
レドックスフロー電池11は、正極3を内蔵する正極セル4と、負極1を内蔵する負極セル2と、両セル2、4を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜5とを具える。正極セル4には、正極電解液用のタンク8が配管を介して接続される。負極セル2には、負極電解液用のタンク7が配管を介して接続される。配管には、電解液を循環させるためのポンプ9、10を備える。レドックスフロー電池11は、配管、ポンプを利用して、正極セル4(正極3)、負極セル2(負極1)にそれぞれタンク8の正極電解液、タンク7の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる有機分子の酸化還元反応に伴って充放電を行う。
【0037】
図2は、他の実施形態にかかるレドックスフロー電池の小型試験セル21の断面図を示す。セル21は、その略中央部において、カーボンフェルト又はカーボンペーパー製の負極30とカーボンフェルト又はカーボンペーパー製の正極31とを、陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜(以後、「隔膜」若しくは単に「膜」と称する)32を挟んで対向配置させた構造を有する。負極30は、その外側に樹脂とグラファイトを複合させて成るグラファイト複合集電板33を、そのさらに外側に負極端子37をそれぞれ配置する。同様に、正極31は、その外側に樹脂とグラファイトを複合させて成るグラファイト複合集電板34を、そのさらに外側に正極端子38をそれぞれ配置する。負極30、グラファイト複合集電板33および負極端子37は、互いに電気的に導通可能に接触している。同様に、正極31、グラファイト複合集電板34および正極端子38も、互いに電気的に導通可能に接触している。このため、負極端子37と正極端子38との間の電位差を測定することは、負極30と正極31との間の電位差を測定することと同一視できる。
【0038】
グラファイト複合集電板33と隔膜32との間、およびグラファイト複合集電板34と隔膜32との間には、ガスケット35およびガスケット36が配置されている。負極30はガスケット35の内方に配置されている。同様に、正極31はガスケット36の内方に配置されている。ガスケット35、36は、負極30および正極31にしみ込んだ各電解液がセル21から外部へと漏れるのを有効に防止する機能を有する。負極端子37のさらに外側には、バックプレート39が配置されている。同様に、正極端子38のさらに外側には、バックプレート40が配置されている。バックプレート39とバックプレート40とは、例えばボルトとナット(不図示)とを用いて、両者の間隔を狭くする方向に型締めされている。
【0039】
グラファイト複合集電板33、負極端子37およびバックプレート39は、それらを連通する2つの貫通孔を備える。1つの貫通孔にはチューブ41が挿入されている。もう1つの貫通孔には、チューブ42が挿入されている。チューブ41およびチューブ42は、グラファイト複合集電板33、負極端子37およびバックプレート39を連通する貫通孔と隙間のない状態にて、それぞれ負極30の外側表面に達している。また、グラファイト複合集電板34、正極端子38およびバックプレート40は、それらを連通する2つの貫通孔を備える。1つの貫通孔にはチューブ43が挿入されている。もう1つの貫通孔には、チューブ44が挿入されている。チューブ43およびチューブ44は、グラファイト複合集電板34、正極端子38およびバックプレート40を連通する貫通孔と隙間のない状態にて、それぞれ正極31の外側表面に達している。負極端子37と正極端子38との間に電源装置(抵抗回路を有する。不図示)を接続することにより充放電を行うことができる。
【0040】
本発明に係るレドックスフロー電池は、活物質として特定の有機分子を含む。正極電解液および負極電解液に含まれる有機分子は、その種類を限定するものではないが、好ましくは、酸化還元応答を示すユニットを一分子内に内包し、そのユニットが一分子内に複数含まれている構造を有することを特徴とする。これによって、分子サイズが大きくなり容量低下を引き起こすクロスオーバーを抑制できる。使用する電解液中の活物質の濃度は0.1~3Mの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~1.5Mの範囲である。また、本発明では、前記有機分子を正極又は負極活物質とし、他の有機分子又は有機金属錯体を正極又は負極活物質とすることもできる。また、電解液には、電解質として支持塩を含ませることが好ましい。支持塩が含まれることで、電解液の電気伝導性が向上し、電池のエネルギー効率、エネルギー密度を向上させることができる。支持塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸、および塩酸等が挙げられる。
【0041】
正極セル及び負極セルを仕切る隔膜は、カチオン交換膜又はアニオン交換膜を使用することができ、この場合、充放電に伴って、例えば、水素イオンや塩素イオンが隔膜を介して移動し、正極での充電反応によって生じた有機分子内の正の電荷を補償することができる。さらに、隔膜を介して移動する化学種が支持電解質のみであれば、単なる多孔質膜を使用することができる。多孔質膜としては、例えば、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、フッ素含有ポリマー膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
また、上記有機分子と同様に、電解液には錯体が含まれてもよい。錯体もまた電解液中で電極活物質として機能するものである。電解液に含まれ得る錯体としては、例えば、金属原子と配位して金属原子を取り込み、酸化還元に対して安定な錯体が挙げられる。このような錯体としては、例えば、ポルフィリンやフェナントロリン、フェロセン、ヘキサシアノ化合物(例えばフェロシアン化カリウム)、キレート化合物(例えば鉄-エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)等の有機錯体の他、酸化グラフェン等の無機錯体等が挙げられる。なお、電解液には、前記の有機分子と前記の錯体との双方が含まれてもよく、いずれか一方のみが含まれてもよい。
【0043】
電解液には、前記の有機分子や錯体を水溶液に可溶化するための界面活性剤が含まれてもよい。これにより、水系の電解液中に難溶性の有機分子や錯体が一様に分散するものと考えられる。界面活性剤の具体例は特に制限されず、カチオン系の界面活性剤、アニオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤等、どのようなものであってもよい。従って、価格や、活物質として用いる有機分子や錯体の可溶化度合いを考慮して選択すればよい。
【0044】
カチオン系の界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩(例えばテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド)、さらには4級アンモニウム塩を含む高分子等が挙げられる。また、アニオン系の界面活性剤としては、スルホン酸(例えばドデシル硫酸ナトリウム)やカルボン酸、リン酸を有する高分子等が挙げられる。さらに、ノニオン系の界面活性剤としては、ジグライムなどのエーテル含有化合物やエーテル(例えばポリエチレングリコールオクタデシルエーテル)を含む高分子等が挙げられる。これらは1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで用いられてもよい。
【0045】
また、本実施形態の電解液には、前記の有機分子や錯体、界面活性剤以外にも、任意の成分が含まれていてもよい。例えば、電解液には、溶解析出反応によって充放電される、即ち、例えば電子を受け取ることで還元されて金属を生じる、任意の金属イオンが含まれていてもよい。例えば、正極及び負極のうちの一方の極の活物質を前記の有機分子や錯体とした場合には、他方の極の活物質としての金属イオンを含ませることができる。このような金属イオンとしては、他方の極の溶解析出電位との電位差が大きく、溶解及び析出速度が速いものが好ましい。これにより、高い充放電電圧が得られる。具体的には、亜鉛イオン、鉄イオン及び鉛イオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる一種以上の金属イオンが好ましい。そして、活物質として金属イオンが電解液に含まれる場合には、電極は、当該金属イオンと同種の金属により構成されることが好ましい。
【0046】
[レドックスキャパシタ]
上述したレドックスフロー電池は、活物質を含む電解液をポンプでセルに送り、充電・放電時にはタンク内の電解液の酸化・還元により電気を貯め又は放出するシステムである。これに対し、電気二重層キャパシターは、蓄電デバイスの一つであって、蓄電容量という点では通常の二次電池より劣るが、パワー密度(瞬時に放電する能力) は、電気二重層キャパシターの方が二次電池よりも優れていると考えられている。通常の電気二重層キャパシターは大型化ができないこと、エネルギー密度が低いことなどの欠点があるが、数万サイクルも充放電が可能であるという利点を有する。上述した本発明のレドックスフロー電池は、電解液をフローせずに静止した状態でも、サイクル特性がよく、低コストで安全性が高いことから、電気二重層キャパシターと同様に機能することができるため、これをレドックスキャパシタ(レドックススーパーキャパシター)として使用することが可能である。本発明の有機分子を電極に修飾あるいは固定化し、表面積の大きなレドックスキャパシタを構成してもよい。このような電極は、通常、有機分子を含む酸化還元活物質と導電性カーボン粒子を混合し、必要に応じて結着剤(バインダー)を加えて集電体の表面に塗布することで作製することができる。
【0047】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0048】
[実施例1]
4-アミノTEMPO(10.6g)と1,3-プロパンスルトン(11.3g)にアセトニトリル(500mL)を加え室温で攪拌した。混合物をろ過し、得られた固体をアセトンで洗浄すると、18.0gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物2」という。化合物2のH-NMRを以下に示す。
【0049】
H-NMR(400MHz,CDOD,フェニルヒドラジン添加):δ3.45-3.31(1H,m),3.20(2H,t,J7.3),2.93(2H,t,J6.8),2.14-2.07(2H,m),2.02-1.97(2H,m),1.50(2H,dd,12.3),1.20(6H,s),1.16(6H,s)。
【0050】
【化8】
【0051】
化合物2(25.2g)、1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(10.2g)、炭酸ナトリウム(19.8g)にアセトニトリル(500mL)を加え、加熱攪拌した。この混合物を室温まで冷やした後、メタノール(250mL)と水(50mL)を加え攪拌し、ろ過した。ろ液に40%テトラブチルアンモニウム水溶液(55.6g)を加え、溶媒を濃縮し、残渣に水とジクロロメタンを加え分液した。有機層を濃縮後の残渣を乾燥させると49.2gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物3」という。化合物3のH-NMRを以下に示す。
【0052】
H-NMR(400MHz,DMSO-d,フェニルヒドラジン添加):δ3.49(6H,s),3.19-3.15(24H,m),2.85-2.80(3H,m),2.40-2.33(12H,m),1.72-1.65(6H,m),1.57-1.50(30H,m),1.36-1.27(30H,m),1.04(18H,s),0.94(36H,t,J7.3),0.88(18H,s)。
【化9】
【0053】
化合物3(52.0g)とヨードメタン(387g)をジクロロメタン(500mL)に溶解させ、50℃で攪拌した。混合物にメタノール(500mL)を加え不溶物を溶解させてから溶媒を濃縮した。残渣に水(100mL)を加え加熱した後、不溶物をろ過し取り除いた。ろ液を濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、22.6gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物4」という。化合物4のH-NMRを以下に示す。
【0054】
H-NMR(400MHz,CDOD,フェニルヒドラジン添加):δ4.83-4.61(6H,m),3.89-3.67(6H,m),3.07-2.76(15H,m),2.49-2.36(6H,m),2.19-2.16(6H,m),2.02-1.92(6H,m),1.37-1.27(36H,m)。
【0055】
【化10】
【0056】
[実施例2]
化合物2(4.00g)、α,α’-ジブロモ-p-キシレン(1.80g)、炭酸ナトリウム(2.89g)にアセトニトリル(100mL)を加え、加熱攪拌した。この混合物を室温まで冷やした後、メタノール(50mL)と水(10mL)を加え攪拌し、ろ過した。ろ液に40%テトラブチルアンモニウム水溶液(8.85g)を加え、溶媒を濃縮し、残渣に水とジクロロメタンを加え分液した。有機層を濃縮後の残渣を乾燥させると7.50gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物5」という。化合物5のH-NMRを以下に示す。
【0057】
H-NMR(400MHz,DMSO-d,フェニルヒドラジン添加):δ7.22(4H,s),3.52(4H,s),3.18-3.14(16H,m),2.80-2.74(2H,m),2.42-2.36(8H,m),1.71-1.67(4H,m),1.61-1.48(20H,m),1.35-1.26(20H,m),1.03(12H,s),0.93(24H,t,J7.4),0.82(12H,s)。
【0058】
【化11】
【0059】
化合物5(7.31g)とヨードメタン(53.1g)をジクロロメタン(150mL)に溶解させ、50℃で攪拌した。混合物にメタノール(100mL)と水(50mL)を加え不溶物を溶解させてから溶媒を濃縮した。残渣に水(100mL)を加え加熱した後、室温まで冷却し不溶物をろ過して取り除いた。ろ液を濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、2.00gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物6」という。化合物6のH-NMRを以下に示す。
【0060】
H-NMR(400MHz,CDOD,フェニルヒドラジン添加):δ7.75(4H,s),4.63-4.58(4H,m),3.85-3.76(2H,m),3.57-3.51(2H,m),3.08-3.00(6H,m),2.85-2.82(4H,m),2.36-2.15(8H,m),1.99-1.93(4H,m),1.32-1.20(24H,m)。
【0061】
【化12】
【0062】
[実施例3]
化合物2(2.22g)、α,α’-ジブロモ-m-キシレン(1.00g)、炭酸ナトリウム(1.61g)にアセトニトリル(50mL)を加え、加熱攪拌した。この混合物を室温まで冷やした後、メタノール(25mL)と水(5mL)を加え攪拌し、ろ過した。ろ液に40%テトラブチルアンモニウム水溶液(4.92g)を加え、溶媒を濃縮し、残渣に水とジクロロメタンを加え分液した。有機層を濃縮後の残渣を乾燥させると4.37gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物7」という。化合物7のH-NMRを以下に示す。
【0063】
H-NMR(400MHz,DMSO-d,フェニルヒドラジン添加):δ7.23-7.15(4H,m),3.51(4H,s),3.18-3.14(16H,m),2.83-2.77(2H,m),2.42-2.34(8H,m),1.70-1.66(4H,m),1.61-1.50(20H,m),1.35-1.26(20H,m),1.04(12H,s),0.93(24H,t,J7.4),0.87(12H,s)。
【0064】
【化13】
【0065】
化合物7(4.15g)とヨードメタン(30.2g)をジクロロメタン(100mL)に溶解させ、50℃で攪拌した。混合物にメタノール(150mL)を加え不溶物を溶解させてから溶媒を濃縮した。残渣に水(50mL)を加え加熱した後、室温まで冷却し不溶物をろ過して取り除いた。ろ液を濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、2.08gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物8」という。化合物8のH-NMRを以下に示す。
【0066】
H-NMR(400MHz,CDOD,フェニルヒドラジン添加):δ8.01-7.66(4H,m),4.77-4.59(4H,m),3.82(2H,br),3.68-3.59(2H,m),3.07-2.84(10H,m),2.43-2.30(4H,m),2.20-2.17(4H,m),2.01-1.94(4H,m),1.45-1.23(24H,m)。
【0067】
【化14】
【0068】
[実施例4]
化合物2(2.77g)、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン(1.25g)、炭酸ナトリウム(2.00g)にアセトニトリル(50mL)を加え、加熱攪拌した。この混合物を室温まで冷やした後、メタノール(25mL)と水(5mL)を加え攪拌し、ろ過した。ろ液に40%テトラブチルアンモニウム水溶液(6.12g)を加え、溶媒を濃縮し、残渣に水とジクロロメタンを加え分液した。有機層を濃縮後の残渣を乾燥させると4.87gの生成物を得た。H-NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物9」という。化合物9のH-NMRを以下に示す。
【0069】
H-NMR(400MHz,DMSO-d,フェニルヒドラジン添加):δ7.67(1H,t,J7.7),7.27(2H,d,J7.7),3.6(4H,s),3.16-3.12(16H,m),2.82-2.76(2H,m),2.47-2.43(4H,m),2.36-2.33(4H,m),1.69-1.63(4H,m),1.58-1.50(20H,m),1.33-1.24(20H,m),1.01(12H,s),0.93-0.88(36H,m)。
【0070】
【化15】
【0071】
化合物9(4.68g)とヨードメタン(34.0g)をジクロロメタン(100mL)に溶解させ、50℃で攪拌した。混合物にメタノール(150mL)を加え不溶物を溶解させてから溶媒を濃縮した。残渣に水(50mL)を加え加熱した後、室温まで冷却し不溶物をろ過して取り除いた。ろ液を濃縮後の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、1.90gの生成物を得た。H NMRで分析したところ、この生成物は、下記式で表されるものであることがわかった。この生成物を、「化合物10」という。化合物10のH-NMRを以下に示す。
【0072】
H-NMR(400MHz,CDOD,フェニルヒドラジン添加):δ8.06(1H,t,J7.5),7.81(2H,d,J7.5),4.81-4.69(4H,m),3.87-3.78(2H,m),3.65-3.51(4H,m),3.14(3H,s),3.11(3H,s),2.88-2.80(4H,m),2.49-2.38(2H,m),2.30-2.16(6H,m),1.92(4H,dd,J12.2),1.30(12H,s),1.23(12H,s)。
【0073】
【化16】
【0074】
[実施例5]
化合物4、化合物6、化合物8、及び化合物10の水溶性を評価した結果を表1に示す。具体的には、本発明の化合物に水を加え加熱溶解した後、室温で一日静置しても固体が析出しない濃度を溶解度とした。なお、表1には、参考例として、非特許文献4において報告されている化合物1と下記式で表す化合物11について同様の評価を行った結果を併記した。表1の結果から、本発明の化合物は高い溶解度を示すことがわかった。なお、水溶性の低い化合物についても、置換基等の変更によりより良好な溶解度を達成できると考えられる。ここで溶解度とは、化合物の分子あたりの濃度を表しており、溶解度(ユニット換算)とは分子内に含まれるTEMPOの1ユニットあたりの濃度を表している
【0075】
【表1】
【0076】
【化17】
【0077】
[実施例6]
作用極にグラッシーカーボン電極、対極に白金線、参照極に銀-塩化銀電極を用いて、化合物の濃度を構成単位で10mMとなるように調製し、1M NaCl水溶液を支持電解質として、サイクリックボルタンメトリーにより酸化還元電位を調べた。表2に示すように本発明の化合物は可逆な酸化還元応答を示すことが分かった。なお、表2には、参考例として市販の4OH-TEMPOについて同様の評価を行った結果を併記した。本発明の化合物の酸化還元電位は0.76V付近にあり、これは市販の4OH-TEMPOと比較して150mV以上正側にシフトしていることから、より大きな電位差が得られることを示している。
【0078】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明により、レドックスフロー電池の活物質に求められる高い溶解度と大きな電位差を示す化合物を得ることができる。本発明の化合物は、電気化学デバイスなどとして用いることができる。また、本発明の電気化学デバイスは、レドックスフロー電池やレドックスキャパシタなどとして有用である。
【符号の説明】
【0080】
1、30 負極
2 負極セル
3、31 正極
4 正極セル
5、32 隔膜
6 試験セル
7 負極電解液用のタンク
8 正極電解液用のタンク
9、10 ポンプ
11 レドックスフロー電池
21 小型試験セル
33、34 グラファイト複合集電板
35、36 ガスケット
37 負極端子
38 正極端子
39、40 バックプレート
41~44 チューブ
図1
図2