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特開2024-130463多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法
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  • 特開-多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130463
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20240920BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20240920BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240920BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240920BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B09B3/40
C02F3/10 Z ZAB
C02F3/34 Z
C02F11/00 Z
H01M4/96 B
H01M4/88 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040207
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
【テーマコード(参考)】
4D003
4D004
4D040
4D059
5H018
【Fターム(参考)】
4D003DA26
4D003EA07
4D003EA14
4D003EA15
4D003EA19
4D003EA25
4D004AA01
4D004AA16
4D004CA12
4D004CA22
4D004CB31
4D004DA06
4D040DD03
4D040DD31
4D059AA09
4D059BA28
4D059BK21
4D059BK30
4D059DA22
4D059DA58
4D059DA59
4D059DA61
5H018AA01
5H018BB01
5H018BB03
5H018EE05
5H018EE11
5H018HH08
5H018HH10
(57)【要約】
【課題】 除去が困難な炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した多孔質炭素材料を含有する部材について、低エネルギーかつ低コストでの再生方法を提供する。
【解決手段】 多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法であって、(1)炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した前記部材に対し、300~600℃の範囲内の温度で30分間以上かけて熱処理を行う工程と、(2)前記部材に対して物理的衝撃を加える工程を含む。工程(2)では、熱処理によって生成した前記生物による生体残渣及び炭酸カルシウムを部材から除去するとともに、部材の表層を摩耗させて多孔質炭素材料の表面の新生を行う。工程(2)では、振動、揺動又は転動させることによって部材どうしの衝突を繰り返すことが好ましい。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法であって、以下の工程(1)及び工程(2);
(1)炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した前記部材に対し、300~600℃の範囲内の温度で30分間以上かけて熱処理を行う工程、
及び、
(2)前記部材に対して物理的衝撃を加える工程、
を含み、
工程(2)では、熱処理によって生成した前記生物による生体残渣及び炭酸カルシウムを前記部材から除去するとともに、前記部材の表層を摩耗させて多孔質炭素材料の表面の新生を行うことを特徴とする多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法。
【請求項2】
工程(2)では、振動、揺動又は転動させることによって前記部材どうしの衝突を繰り返す請求項1に記載の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法。
【請求項3】
工程(1)の熱処理を大気雰囲気下で行う請求項1に記載の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法。
【請求項4】
工程(1)と工程(2)を同時に行う請求項1に記載の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法。
【請求項5】
前記部材が、海水中で以下の(a)~(c);
(a)微生物燃料電池の電極材料
(b)微生物担持体
(c)炭素鉄複合体及びその溶出促進材
のいずれかの用途に用いられていたものである請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物担持体や微生物燃料電池の電極材料、鉄イオン溶出装置の炭素鉄複合体や溶出促進材などとして海水中で使用される多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素材料は、表面積が大きく、生体親和性の高い材料であるために、古くは地中や水中での微生物担持体として使用されてきた。近年においては、廃水処理や底質環境改善を目的とした微生物燃料電池の電極材料や、水中での局部電池を利用した鉄イオン溶出装置などにも炭素材料が使用されている。例えば、特許文献1では、底質環境及び水質を改善するために、微生物燃料電池のアノード及びカソードに炭素材料が使用されている。また、特許文献2では、水中に鉄イオンを供給するための鉄イオン溶出装置の炭素鉄複合体及びその導電助材、これらと電気的に接続されるカソードに炭素材料が使用されている。
【0003】
しかしながら、炭素材料は生体親和性が高いが故に、有用微生物以外の大型生物が付着し、電極や鉄イオン溶出装置としての効率が低下するという問題があった。また、環境への意識の高まりとともに、安定な材料であるとの理由で環境中に炭素材料を設置したままにすることは、これまでのように許容されない状況となっている。そのため、使用済みもしくは生物が付着した多孔質炭素材料を含有する部材を再生して微生物担持体や電極材料として再利用することが望まれている。
【0004】
炭素材料に付着した生物の除去については、大型のものについてはジェット水洗を使用する方法が知られている。また、特許文献3では、水処理に使用される有機物が付着した活性炭を加熱再生処理することが提案されている。
【0005】
しかしながら、ジェット水洗は剥離した生体残渣の処理の問題がある。また、加熱再生処理についても、フジツボ類など炭酸カルシウムの殻を有する生物の付着がある場合は、多孔質炭素材料の凹部へ強固に付着していることから、完全に除去するためには900℃以上の高温処理が必要になる。この場合、炭酸カルシウムの脱炭酸により二酸化炭素が放出されるなどの問題が生じる。
【0006】
また、特許文献4は、リチウムイオン2次電池の電極活物質のリサイクル方法に関する。特許文献4では、2次電池を破砕したのち、大気中で400~550℃にて熱処理し、破砕物を衝突させることで活物質を分離させてリサイクルする方法が提案されている。ただし、特許文献4は、希少金属が用いられている正極活物質をリサイクルすることが目的であり、負極活物質として用いられている炭素材料の再生方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-160641号公報
【特許文献2】特開2022-70839号公報
【特許文献3】特開2001-247303号公報
【特許文献4】特許第5675452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭素材料は、生体親和性の高い材料であるが故に微生物の担持体として好ましく用いられるが、微生物に限らず大型の生物も蝟集しやすい。このため自然環境中、特に海洋中へ設置すると微生物由来のバイオフィルムの形成に加えて、ゴカイ類やユウレイボヤといった軟体生物のほか、イガイ類やフジツボ類のような炭酸カルシウムの殻をもつ生物が多数付着する。特に、微生物燃料電池や鉄イオン溶出装置に使用されている多孔質炭素材料の表面が生物で覆われてしまうと、電極や炭素鉄複合体からもたらされる電子を消費できなくなる。つまり、生物の付着によって多孔質炭素材料の表面が完全に覆われてしまうことは、微生物燃料電池や鉄イオン溶出装置の機能低下を引き起こすため、これら付着生物の定期的な除去が必要となる。
【0009】
本発明の目的は、除去が困難な炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した多孔質炭素材料を含有する部材について、低エネルギーかつ低コストでの再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、以下の構成により従来技術の問題点を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、以下の工程(1)及び工程(2);
(1)炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した前記部材に対し、300~600℃の範囲内の温度で30分間以上かけて熱処理を行う工程、
及び、
(2)前記部材に対して物理的衝撃を加える工程、
を含んでいる。そして、本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、工程(2)において、熱処理によって生成した前記生物による生体残渣及び炭酸カルシウムを前記部材から除去するとともに、前記部材の表層を摩耗させて多孔質炭素材料の表面の新生を行う。
【0011】
本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、工程(2)において、振動、揺動又は転動させることによって前記部材どうしの衝突を繰り返してもよい。
【0012】
本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、工程(1)の熱処理を大気雰囲気下で行ってもよい。
【0013】
本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、工程(1)と工程(2)を同時に行ってもよい。
【0014】
本発明の多孔質炭素材料を含有する部材の再生方法は、前記部材が、海水中で以下の(a)~(c);
(a)微生物燃料電池の電極材料
(b)微生物担持体
(c)炭素鉄複合体及びその溶出促進材
のいずれかの用途に用いられていたものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によれば、炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した多孔質炭素材料を含有する部材の再生処理におけるコスト負担を低く抑えながら、容易に多孔質炭素材料の本来の機能を回復させることができる。また、本発明方法によれば、炭酸ガス等の温暖化ガスの発生も極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】微生物燃料電池の模式図である。
図2】多孔質炭素材料を含有する部材の一例である炭素鉄複合体の模式図である。
図3】鉄イオン溶出装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。各図における大きさや部材の比率等は、図示の便宜上、実際の大きさや比率等とは異なっており、図面によって本発明が制限されるものではない。
【0018】
本発明の多孔質炭素材料を含有する部材(以下、「炭素含有部材」と記すことがある)の再生方法は、以下の工程(1)及び工程(2);
(1)炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した炭素含有部材に対し、300~600℃の範囲内の温度で30分間以上かけて熱処理を行う工程、
(2)炭素含有部材に対し、物理的衝撃を加える工程、
を含んでいる。
【0019】
<工程(1):熱処理工程>
工程(1)は、炭酸カルシウムの殻を有する生物が付着した炭素含有部材に対して熱処理を行う工程である。本工程における雰囲気は、窒素雰囲気、低酸素雰囲気、酸化雰囲気のいずれであっても構わないが、酸化雰囲気が好ましい。酸化雰囲気としては、雰囲気の制御コストが不要な大気雰囲気が好ましい。酸化雰囲気下での加熱は、多孔質炭素材料の表層を酸化させて脆弱化できるため、工程(2)において、熱処理によって生じた付着生物の残渣の除去と同時に多孔質炭素材料の表面を新生できる効果が大きくなるので好ましい。
【0020】
熱処理温度は300~600℃の範囲内である。熱処理温度が300℃未満では付着生物の炭化が進みにくいため、熱処理に長時間を要するほか、炭酸カルシウムの殻の強度が落ちないために工程(2)での除去が困難となる。一方、特に酸化雰囲気下では600℃を超える温度で熱処理を行うと多孔質炭素材料の酸化劣化が大きくなるために、工程(2)での摩耗が必要以上に大きくなる。また、600℃を超える温度では、炭酸カルシウムの熱分解がおこり、余計な二酸化炭素を放出してしまう。かかる観点から、熱処理温度は、好ましくは300~500℃であり、より好ましくは300~400℃である。
【0021】
熱処理時間は、処理対象である炭素含有部材の量にもよるが、熱処理温度に到達してから30分間以上とする。30分間未満の熱処理時間では、付着生物の炭化が進まずに工程(2)での除去が困難となる。熱処理時間の上限については特に制限は無いが、長時間の処理はエネルギーコストが高くなるほか、多孔質炭素材料の酸化劣化が懸念されるため、24時間未満に抑えることが好ましい。
【0022】
なお、熱処理条件設定の一つの目安として、熱処理前後において、炭素含有部材中に含まれている多孔質炭素材料の重量の減少率が5%以下、好ましくは2%以下となるようにすることがよい。熱処理における多孔質炭素材料の重量減少率が5%を超えてくると、多孔質炭素材料の体積減少も起こり、単に炭素含有部材の再生回数が少なくなるだけでなく、再利用時の能力も低下し、デメリットが大きくなる。
【0023】
熱処理は一般的な加熱炉であればよく、例えば、ボックス炉、リードハンマー炉、トップチャージ炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、ストーカ炉、流動床炉、マイクロウェーブ等の設備を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
<工程(2);炭素含有部材に対して物理的衝撃を加える工程>
工程(2)では炭素含有部材に対して物理的衝撃を加えることによって、付着生物による生体残渣及び炭酸カルシウムを物理的に除去する。なお、付着生物の生体残渣とは、生物由来の有機物の炭化物や炭酸カルシウムの殻などをいう。また、本工程では、物理的衝撃によって、炭素含有部材の表層を摩耗させて多孔質炭素材料の表面の新生を行うことができる。この場合、多孔質炭素材料の表面が熱処理によって酸化劣化した状態にあると、表面の新生が起こりやすくなる。
【0025】
物理的衝撃は、炭素含有部材自体が破壊されない程度の強度であることが好ましく、例えば、10~20cm程度の高さから自由落下させるなどの方法でもよいが、炭素含有部材の表層を摩耗させて多孔質炭素材料の表面の新生を行う観点から、炭素含有部材どうしを繰り返し衝突させ得る方法がより好ましい。具体的には、容器内で複数の炭素含有部材を振動、揺動又は転動させることによって、炭素含有部材どうしを繰り返し衝突させることができる。
【0026】
工程(2)に使用する装置として、過剰な摩耗や破壊を防止する観点から、例えばボールミルのようにメディアを使用した強力な物理的衝撃が加えられるものは不適である。そのため、例えば、振動篩やミキサー、ブレンダーのように比較的弱い物理的衝撃を加え得る装置が好ましい。より具体的には、ロータップ型振動篩や、ロッキングミキサー、タンブラーミキサー、V型混合機、W型混合機などが例示されるが、摩耗状況の確認が容易な観点から振動篩が好ましい。このように、比較的弱い物理的衝撃を加え得る装置であっても、熱処理によって付着生物の炭酸カルシウム殻のバインダーとなる有機物が炭化しており、炭酸カルシウム殻を構成するアラゴナイトもカルサイトに転移して脆化しているために、付着生物の生体残渣を問題なく容易に除去できる。また、熱処理によって多孔質炭素材料の表層を酸化させて脆弱化しておくことによって、多孔質炭素材料の表面の剥離と新生も容易になる。
【0027】
工程(2)の処理時間は、特に制限はなく、例えば炭素含有部材から付着生物の生体残渣がほぼ除去されるまで行うことが好ましい。付着生物の生体残渣の除去は、工程(2)の途中で目視により確認してもよいし、予備実験によって除去までの時間を見積もっておくこともできる。また、工程(2)の終点の一つの目安として、工程(2)の前後において、炭素含有部材中に含まれている多孔質炭素材料の重量の減少率が、好ましくは5%以下、より好ましくは0.5~5%、最も好ましくは0.5~2%となるようにすることがよい。1回の再生処理で多孔質炭素材料の重量の減少率が5%を超えると、多孔質炭素材料の表面の剥離と新生が完全に行われる点ではメリットとなるものの、多孔質炭素材料の量的な消耗が大きくなって炭素含有部材の再生回数が少なくなるというデメリットが大きくなる。
【0028】
本発明方法では、炭素含有部材に対し、工程(1)を行った後で工程(2)を実施することが好ましいが、工程(1)と工程(2)を同じ装置内で同時に実施してもよい。例えば、ロータリーキルンやストーカ炉、流動床炉を用いることによって、炭素含有部材に対して、工程(1)の熱処理を行いながら、工程(2)の物理的衝撃を加えることができるため好ましい。
【0029】
<前処理>
本発明方法では、必要に応じて工程(1)の前に、生物が付着した炭素含有部材に対して、水分除去のための乾燥や、塩分などの除去するための真水での水洗、ジェット水流による大型水生生物の除去などの前処理を行ってもよい。しかしながら、水洗やジェット水洗は、洗浄水や剥離した水生生物を適正に処分する手間が生じるため、前処理としては乾燥処理のみ行うことが好ましい。乾燥処理については、多孔質炭素材料をそのまま自然乾燥させてもよいが、加熱炉を用い、例えば60~90℃の範囲内の温度で加熱乾燥させることが好ましい。
【0030】
<後処理>
本発明方法では、工程(1)及び工程(2)を実施した後に、必要に応じて篩分けを行って、炭素含有部材と摩耗粉とを分別する処理を行うことができる。分別処理によって、再生された炭素含有部材は、再び微生物燃料電池の電極、鉄イオン溶出装置の炭素鉄複合体や溶出促進材、微生物担持体などとして用いることができる。なお、後処理で発生した付着生物残渣を含む摩耗粉は、比重差などを利用して炭酸カルシウム粉と炭素質粉末とを分離することによって、多孔質炭素材料の原料として転用することもできる。
【0031】
<多孔質炭素材料を含有する部材>
次に、本発明で再生処理の対象となる多孔質炭素材料を含有する部材(炭素含有部材)について説明する。炭素含有部材は、付着生物を除いた外径(長径を意味する)が数cm~数十cm程度(好ましくは3~10cmの範囲内)であり、形状は定形でも不定形でもよい。炭素含有部材の形状例としては、球、多面体、柱状、棒状、板状、中空状などであり、これらが混在した状態であってもよい。炭素含有部材は、多孔質炭素材料からなる部材のほか、多孔質炭素材料と鉄などを含む複合体であってもよい。多孔質炭素材料としては、例えば、木炭、竹炭、これらを用いた活性炭、高炉コークス、ニードルコークス、これらのコークスの粉砕品を有機樹脂やバインダーピッチなどの炭素前駆体を用いて成形した焼結品などであり、材質としての「炭素」は、黒鉛やソフトカーボン、ハードカーボン、無定形炭素など任意の形態をとり得るものである。これらは、従来からの用途である微生物担持体のほか、近年では廃水処理や地中または底質を含む水中の環境の改善を目的として、例えば、微生物燃料電池の電極材料、鉄イオン溶出装置の炭素鉄複合体や溶出促進材などに使用されている。なお、ヒ素等の有害物などの吸着除去を目的とした多孔質炭素材料については本発明の対象外である。
【0032】
(微生物燃料電池)
微生物燃料電池として、例えば特許文献1に開示されたものと同様の構成のものを挙げることができる。その具体例を図1に示した。図1に示す底質環境改善用の微生物燃料電池10において、底質(ヘドロ)1中に配置されたアノード2と、海面S付近に配置されたカソード3は外部回路4及び抵抗5を介して電気的に接続されている。アノード2では、微生物を表面に高濃度に定着させ、カソード3ではアノード2に定着した微生物が放出する電子を消費する。そのために、アノード2及びカソード3としては、いずれも、導電性で生体親和性に富み、表面積の大きな材料が使用される。具体的には、アノード2やカソード3として、例えば、コークス粉(ピッチコークス等の粉砕粉)にバインダーの重質油ピッチを添加して混錬、成形、焼成した多孔質炭素材料や、複数の高炉コークスの集合体などの炭素含有部材を用いられる。図1に示す微生物燃料電池10において、海面S付近に設置されるカソード3には、イガイ類やフジツボ類のような炭酸カルシウムの殻をもつ生物が多数付着しやすく、これらの付着生物によってカソード3の表面が覆われてしまうと、アノード2からもたらされる電子を消費できなくなるため、付着生物の定期的な除去が必要となる。
【0033】
(炭素鉄複合体及びその溶出促進材)
鉄イオン溶出装置に用いられる炭素鉄複合体及びその溶出促進材として、例えば特許文献2に開示されたものと同様の構成のものを挙げることができる。
まず、炭素鉄複合体100の具体例を図2に示した。炭素鉄複合体100は、複数の鉄粒子11と炭素質物12とを含有する多孔質な焼結体である。炭素鉄複合体100において、複数の鉄粒子11は、炭素質物12によって固定化されている。炭素質物12は、鉄粒子11を担持する構造体として機能するとともに、鉄粒子11との接触によって局部電池を形成する。炭素鉄複合体100は、所定の見かけ比重と開気孔率を有する多孔質体であり、複数の細孔13が形成されている。炭素質物12は、コークス等の炭素質原料由来部分と、有機バインダー等の有機物に由来する接着部分とが区別できる状態で存在していてもよいし、あるいは、両者が互いに区別できない状態で実質的に一体となって炭素質物を形成していてもよい。炭素鉄複合体100は、海水中に浸漬されることにより、局部電池効果によって鉄粒子11から鉄イオンが海水中に放出される。鉄粒子11の配合量にもよるが、炭素鉄複合体100は、溶出条件にもよるが、およそ2ヶ月から1年程度で鉄粒子11がほぼ消耗して多孔質炭素材料となる。図2に示す炭素鉄複合体100を海面S付近に設置した場合、イガイ類やフジツボ類のような炭酸カルシウムの殻をもつ生物が多数付着しやすく、これらの付着によって炭素鉄複合体100の表面が生物で覆われてしまうと、局部電池の効率が低下するため、これら付着生物の定期的な除去が必要となる。
【0034】
次に、炭素鉄複合体100を使用した鉄イオン溶出装置の具体例を図3に示した。鉄イオン溶出装置200は、鉄イオン溶出部201と、鉄イオン溶出部201に電気的に接続されているカソード202と、これらに浮力を与える浮体203とを備えている。鉄イオン溶出装置200は、浮体203の浮力により海面Sに浮遊させられるようになっている。鉄イオン溶出部201は、炭素鉄複合体100と、導電助剤210と、保持部材220とを有する。炭素鉄複合体100としては、図2と同様の構成のものが使用される。
【0035】
図3の鉄イオン溶出装置200では、カソード202及び導電助剤210が、炭素鉄複合体100の補助材料である溶出促進材として用いられている。溶出促進材とは、鉄イオン溶出装置200において、炭素鉄複合体100から鉄が溶出(イオン化)する際に発生する電子を系外に移動させて消費するための多孔質炭素材料である。溶出促進材は、例えば、備長炭などの木炭や竹炭、ハードカーボン、天然黒鉛、人工黒鉛、高炉コークス、ニードルコークス並びにこれらを用いた成形体及びその粉砕物から選択されることが好ましく、より好ましくはハードカーボン、人工黒鉛、高炉コークス、ニードルコークス並びにこれらを用いた成形体及びその粉砕物であり、最も好ましいのは高炉コークス、ニードルコークス並びにこれらを用いた成形体及びその粉砕物である。鉄イオン溶出部201を水中に設置すると、炭素鉄複合体100において炭素と鉄および水との接触界面において炭素と鉄の電位差から局部電池が形成され、2価の鉄イオン(Fe2+)が溶出する。このとき、鉄の溶出(イオン化)に伴い発生する電子は、炭素鉄複合体100の別の箇所において最終的に消費されるが、炭素鉄複合体100に電子が滞留すると鉄イオンの溶出を妨げることから、溶出促進材であるカソード202や導電助剤210によって電子を系外に移動させることが好ましい。鉄イオン溶出装置200では、鉄イオン溶出部201とカソード202が電気的に導通しており、炭素鉄複合体100から鉄イオンが溶出する際に発生する電子が、導電助剤210又は保持部材220を通じてカソード202に移送される。カソード202や導電助剤210を用いることで、炭素鉄複合体100からの鉄の溶出量を増大させることができる。
【0036】
鉄イオン溶出装置200は、電気伝導性のある保持部材220を有する鉄イオン溶出部201がカソード202の直下に位置しており、カソード202はその一部が大気中に露出した状態となるように配置される。図3に示す鉄イオン溶出装置200を海面Sに設置した場合、イガイ類やフジツボ類のような炭酸カルシウムの殻をもつ生物が多数付着しやすく、特にその一部が大気中に露出した状態にあるカソード202には、多くの生物が付着しやすくなる。これらの付着生物によって炭素鉄複合体100や導電助剤210、カソード202の表面が生物で覆われてしまうと、局部電池の効率が低下したり、発生した電子を消費できなくなるため、付着生物の定期的な除去が必要となる。
【実施例0037】
以下、本発明方法を実証するために行った実験結果を実施例として記載するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0038】
[実施例1~5、比較例1~3、参考例1~2]
神戸湾内の海面下50cmに夏季の2ヶ月間、図3に示すものと同様の構成を有する鉄イオン溶出装置の溶出促進材として使用されたピッチコークスを試料とした。ピッチコークスは、表面全体の約90%に生物(主体はフジツボ、少量のホトトギス貝、カンザシゴカイなど)が付着していた。前処理として、生物が付着しているピッチコークスを水洗後、60日間自然乾燥した。その後、試料の重量を測定したところ、ピッチコークスの初期重量(使用前の重量)に対して平均25%の重量増で生物の殻が付着していた。
【0039】
(再生処理)
前処理後、生物の殻が付着したピッチコークスの8個の合計重さが80±4gになるように選定し、管状炉を用いて表1及び表2に示す条件で30分間の熱処理を行った。熱処理の昇温速度は100℃/10分間とし、表1及び表2に示す処理温度に到達後、同温度に30分間保持した。次に、熱処理後の試料を室温まで放冷し、ロータップシェーカーで1分間振動させ、衝撃を与えた。残ったピッチコークスを、開口径6.7mm(枠の径200mm×深さ45mm)のステンレス金網の上に取り出し、外観を評価した。外観評価は、フジツボ等の炭酸カルシウム殻が、完全に剥離しているものを◎(優)、一部が残留しているものを〇(良)、ほぼ残留しているものを×(不可)とした。その結果を表1に示した。
【0040】
(炭素鉄複合体の作製)
鋳鉄粉(竹内工業株式会社製、28メッシュアンダー品 炭素:2~4重量%、Si:4重量%以下、Mn:0.5~1.5重量%、P:0.03重量%以下、S:0.03重量%以下)とニードルコークス粉(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、9メッシュアンダー)をバインダーピッチ(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、軟化点:85℃、固定炭素分58%)とデンプン(沼田製粉 株式会社製、ライ麦粉α化品、残炭率10%)を用いてブリケットマシンにて造粒(ポケット:28×25×深さ6.5mm)し、非酸化性雰囲気下800℃の温度で焼結して、図2に示すものと同様の構成を有する炭素鉄複合体(16g/個)を作製した。
【0041】
(再生評価)
再生処理済みのピッチコークス(実施例1~5、比較例1~3)及び、再生処理を行っていない生物付着ピッチコークス(参考例1)及び未使用ピッチコークス(参考例2)を溶出促進材として用い、炭素鉄複合体とともにポリエチレン製網籠に入れ、海水を1L入れたディスポカップにナイロン紐で吊るして1週間静置浸漬した。なお、ポリエチレン製網籠には、炭素鉄複合体を最も下に置き、その上にピッチコークス8個を乗せ、ピッチコークスの最上部が海面の2cm下になるように設置した。1週間後に網籠を引き上げ、海水中に発生した全鉄量(mg)をパックテスト(共立理化学研究所製 パックテスト鉄)にて測定した。実施例1~5、比較例1~3及び参考例1、2の結果を表1及び表2に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
比較例1および参考例1は、ピッチコークス表面に炭酸カルシウム殻が残存しており、炭素鉄複合体とピッチコークスの接触が抑えられているために鉄イオン発生量が微量であった。それに対して、実施例1、2では、ピッチコークスの凹部に炭酸カルシウム殻が少量残存しているものの、炭素鉄複合体とピッチコークスの接触またはピッチコークス同士の接触には支障はなく、参考例2(未使用品)と同程度の鉄イオン発生量が確認できた。
【0045】
窒素雰囲気下で熱処理を行った実施例5についても参考例2(未使用品)と同程度の結果を示したが、大気雰囲気下で熱処理を行った実施例3、4においては、ピッチコークスの表面に炭酸カルシウム殻が残存しておらず、ピッチコークス表面も新生されているために実施例5及び参考例2と同等以上の鉄イオン発生量が確認された。比較例2、3では、ピッチコークスの表面に炭酸カルシウム殻は残存しておらず、鉄イオンの発生量も参考例2に比べやや低下した程度であったが、ピッチコークスが熱処理によりかなり酸化消耗(熱処理により炭酸ガスを発生)して試料全体の重量減少率が25%以上大きくなっており、ピッチコークス自体の重量も10%を超えて減少していると推算されることから、再利用時の体積減少による能力低下や再利用回数の減少が懸念された。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…底質(ヘドロ)、2…アノード、3…カソード、4…外部回路、5…抵抗、10…微生物燃料電池、11…鉄粒子、12…炭素質物、13…細孔、100…炭素鉄複合体、200…鉄イオン溶出装置、201…鉄イオン溶出部、202…カソード、203…浮体、210…導電助材、220…保持部材、S…海面

図1
図2
図3