(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130471
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】3Dプリント用水硬性組成物及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240920BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240920BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240920BHJP
C04B 14/38 20060101ALI20240920BHJP
C04B 14/46 20060101ALI20240920BHJP
C04B 14/48 20060101ALI20240920BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20240920BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20240920BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240920BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240920BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/38 Z
C04B24/26 D
C04B14/38 A
C04B14/46
C04B14/48 Z
C04B14/04 Z
C04B14/42 Z
B28B1/30
B33Y70/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040228
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 秀和
【テーマコード(参考)】
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DA08
4G052DB12
4G052DC06
4G112PA17
4G112PA18
4G112PA19
4G112PA20
4G112PA24
4G112PB04
4G112PB20
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】材料押出方式の3Dプリンティングに好適であり、ノズルからの押出性と積層自立性(積層した際の下層部の低変形性)が良好であり、かつ保水性にも優れる3Dプリント用水硬性組成物を提供する。
【解決手段】(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(C)セメント、(D)水及び(E)短繊維を少なくとも含有する水硬性組成物であって、(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が2000~6000mPa・sであり、(B)成分のポリアクリルアミドのアニオン化度が6~40モル%であり、かつ該ポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10~300mPa・sである3Dプリント用水硬性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(C)セメント、(D)水及び(E)短繊維を少なくとも含有する水硬性組成物であって、
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が2000~6000mPa・sであり、
(B)成分のポリアクリルアミドのアニオン化度が6~40モル%であり、かつ該ポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10~300mPa・sである3Dプリント用水硬性組成物。
【請求項2】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースと(B)成分のポリアクリルアミドとの質量比((A)/(B))が80/20~99.9/0.1である請求項1に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
【請求項3】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量が、セメント100質量部に対して0.1~0.6質量部である請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
(E)成分の短繊維の添加量が、水硬性組成物100体積部に対して、0.1~3体積部である請求項1又は2に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
【請求項5】
(E)成分の短繊維が、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、鋼繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
【請求項6】
さらに細骨材を含有する請求項1又は2に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の3Dプリント用水硬性組成物をポンプで圧送し、ノズルを移動させながら積層することで造形物を構築する立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンティングによる積層造形に適した3Dプリント用水硬性組成物及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンティングとは、3次元データを基に断面形状を積層し、立体造形を行う手法(積層造形法)である。主な3Dプリンティングの方式は4種に大別され、結合材噴射方式(液状結合材を粉末床に噴射して選択的に固化させる)、指向性エネルギー堆積方式(熱の発生位置を制御し、材料を選択的に溶解及び結合させる)、材料噴射方式(材料の液滴を噴射し、選択的に堆積し固化させる)、材料押出方式(流動性のある材料をノズルから押出し、固化させる)等が挙げられる。
【0003】
セメント系材料を3Dプリンティングに用いる場合には、これらの中でも材料押出方式が適しているが、この場合の材料に求められる特性としては、ノズルからの押出性と積層後の自立性(積層自立性、積層した際の下層部の低変形性)であり、これらは相反する特性であることから、両立させることが困難であった。
【0004】
特開2020-105023号公報(特許文献1)では、この問題を解決するために、セルロース系増粘剤とシリカフュームの含有量の関係を規定することによって、押出性と積層後の自立性の両立を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、セルロース系増粘剤の1質量%水溶液粘度をせん断速度毎に規定しているが、シリカフュームを含有した水硬性組成物は非常にチキソトロピックになるため、セルロース系増粘剤の特性が活かされず、吐出性に劣る等の所望の効果が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、材料押出方式の3Dプリンティングに好適であり、ノズルからの押出性と積層後の自立性(積層自立性、積層した際の下層部の低変形性)が良好であり、かつ保水性にも優れる3Dプリント用水硬性組成物、及び該3Dプリント用水硬性組成物を用いた立体造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、特定の水溶液粘度を有する水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、特定のアニオン化度を有し、4質量%塩化ナトリウム水溶液に所定量溶解したときの該水溶液が特定の粘度を示すものとなるポリアクリルアミド、セメント、水及び短繊維を使用することにより、得られる3Dプリント用水硬性組成物についてノズルからの押出性が良好であり、積層した際の下層部の変形性が低く、かつ保水性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の3Dプリント用水硬性組成物及び立体造形物の製造方法を提供する。
1.
(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(C)セメント、(D)水及び(E)短繊維を少なくとも含有する水硬性組成物であって、
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が2000~6000mPa・sであり、
(B)成分のポリアクリルアミドのアニオン化度が6~40モル%であり、かつ該ポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10~300mPa・sである3Dプリント用水硬性組成物。
2.
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースと(B)成分のポリアクリルアミドとの質量比((A)/(B))が80/20~99.9/0.1である1に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
3.
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量が、セメント100質量部に対して0.1~0.6質量部である1又は2に記載の3Dプリント用水硬性組成物。
4.
(E)成分の短繊維の添加量が、水硬性組成物100体積部に対して、0.1~3体積部である1~3のいずれかに記載の3Dプリント用水硬性組成物。
5.
(E)成分の短繊維が、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、鋼繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である1~4のいずれかに記載の3Dプリント用水硬性組成物。
6.
さらに細骨材を含有する1~5のいずれかに記載の3Dプリント用水硬性組成物。
7.
1~6のいずれかに記載の3Dプリント用水硬性組成物をポンプで圧送し、ノズルを移動させながら積層することで造形物を構築する立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料押出方式の3Dプリンティングに適したセメント系材料であり、ノズルからの押出性と積層後の自立性(積層自立性、積層した際の下層部の低変形性)が良好であり、かつ保水性にも優れる3Dプリント用水硬性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る3Dプリント用水硬性組成物は、(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(C)セメント、(D)水及び(E)短繊維を少なくとも含有する水硬性組成物であって、
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度が2000~6000mPa・sであり、
(B)成分のポリアクリルアミドのアニオン化度が6~40モル%であり、かつ該ポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10~300mPa・sである
ことを特徴とするものである。
なお、上記「少なくとも含有する」とは、(A)~(E)成分を必須成分として含有することをいう。
【0012】
本発明に係る3Dプリント用水硬性組成物は、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ポリアクリルアミド、セメント、水及び短繊維を必須成分として含有する3Dプリント用水硬性組成物である。
【0013】
((A)成分)
本発明では、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとして、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及び/又はヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)が好適に用いられる。
【0014】
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%の水溶液粘度は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、2000~6000mPa・s、好ましくは2500~5500mPa・s、より好ましくは2500~5300mPa・s、更に好ましくは2500~5000mPa・sである。なお、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて測定できる。
【0015】
本発明で用いられる水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度(DS)は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から好ましくは1.0~2.0、より好ましくは1.2~1.95、更に好ましくは1.3~1.92である。また、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基の置換モル数(MS)は、夏季使用時の溶解性の観点から、好ましくは0.05~0.6、より好ましくは0.1~0.5、更に好ましくは0.1~0.4である。
【0016】
なお、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのアルコキシ基の平均個数をいう。また、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるヒドロキシアルコキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数をいう。水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基のDS及びヒドロキシアルコキシ基のMSは、第18改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析法により測定できる値を換算することで求めることができる。
【0017】
また、前記水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおいて、20℃における2質量%水溶液粘度、アルコキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシアルコキシ基の置換モル数(MS)の好適な組合せとしては、(A)成分がヒドロキシプロピルメチルセルロースである場合においては、好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2000~6000mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.0~2.0、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.05~0.6、より好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2500~5500mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.2~1.95、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.5、更に好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2500~5000mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.3~1.92、かつヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.4である。また、(A)成分がヒドロキシエチルメチルセルロースである場合においては、好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2000~6000mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.0~2.0、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.05~0.6、より好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2500~5500mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.2~1.95、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.5、更に好ましくは20℃における2質量%水溶液粘度:2500~5000mPa・sであり、かつメトキシ基の置換度(DS):1.3~1.92、かつヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS):0.1~0.4である。
【0018】
(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量は、3Dプリント用水硬性組成物への保水性付与の観点から、(C)成分のセメント100質量部に対して、好ましくは0.1~0.6質量部、より好ましくは0.15~0.57質量部、更に好ましくは0.2~0.55質量部である。
【0019】
((B)成分)
本発明では、(B)成分としてポリアクリルアミドを含む。
ポリアクリルアミドのアニオン化度は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から6~40モル%、好ましくは7~40モル%、より好ましくは8~40モル%、更に好ましくは8~39モル%である。
なお、アニオン化度とは、ポリアクリルアミドのアミド基をアニオン変性した際の割合(モル%)とし、コロイド滴定法によって測定することができる。
【0020】
本発明で用いるポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度(すなわち、ポリアクリルアミドが4質量%塩化ナトリウム水溶液に0.5質量%となる量で溶解したときの25℃における該水溶液の粘度)は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から10~300mPa・s、好ましくは15~290mPa・s、より好ましくは20~280mPa・s、更に好ましくは25~270mPa・sである。
なお、ポリアクリルアミドの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度は、B型粘度計を用いて測定できる。
【0021】
また、前記ポリアクリルアミドのアニオン化度と、25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度(水溶液粘度)の好適な組み合わせとしては、アニオン化度:6~40モル%、かつ水溶液粘度:10~300mPa・s、好ましくはアニオン化度:7~40モル%、かつ水溶液粘度:15~290mPa・s、より好ましくはアニオン化度:8~40モル%、かつ水溶液粘度:20~280mPa・s、更に好ましくはアニオン化度:8~39モル%、かつ水溶液粘度:25~270mPa・sである。
【0022】
(B)成分のポリアクリルアミドの添加量は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、(C)成分のセメント100質量部に対して、好ましくは0.001~0.12質量部、より好ましくは0.003~0.1質量部、更に好ましくは0.005~0.08質量部である。
【0023】
なお、(A)成分の水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースと(B)成分のポリアクリルアミドとの質量比((A)/(B))は、3Dプリント用水硬性組成物への保水性付与及びノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、好ましくは80/20~99.9/0.1、より好ましくは83/17~99.5/0.5、更に好ましくは85/15~99/1である。
【0024】
((C)成分)
本発明で用いられるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、超早強ポルトランドセメント等の各種のセメントが挙げられる。
【0025】
((D)成分)
本発明で用いられる水としては、水道水、海水等が挙げられるが、塩害防止の観点から、水道水が好ましい。
【0026】
(D)成分の水の添加量は、セメント100質量部に対して好ましくは25~70質量部であり、より好ましくは28~67質量部、更に好ましくは30~65質量部である。
【0027】
また、3Dプリント用水硬性組成物中の水の使用量は、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の観点から、セメントの量、又は後述する細骨材を添加する場合にはセメントと細骨材の合計量に対して、好ましくは15~70質量%となる量、より好ましくは16~65質量%となる量、更に好ましくは17~60質量%となる量である。
【0028】
((E)成分)
本発明では、短繊維として、有機繊維、無機繊維等が使用される。
このうち、有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。また、無機繊維としては、ガラス繊維、バサルト繊維、鋼繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられる短繊維は、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、鋼繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維又はビニロン繊維であることがより好ましい。また、いわゆる繊維補強コンクリートに用いられる市販の短繊維を用いてもよい。
【0030】
(E)成分の短繊維の平均繊維長は、3Dプリント用水硬性組成物の補強効果とノズルからの押出性の観点から、好ましくは1~20mm、より好ましくは3~18mm、更に好ましくは5~15mmである。
【0031】
(E)成分の短繊維の繊度(太さ)は、好ましくは0.1~1000デシテックス(dtex)、より好ましくは1~100デシテックス(dtex)である。
【0032】
(E)成分の短繊維の形状は、直線状であることが好ましい。
【0033】
(E)成分の短繊維の添加量は、3Dプリント用水硬性組成物の補強効果とノズルからの押出性の観点から、3Dプリント用水硬性組成物100体積部に対して、好ましくは0.1~3体積部、より好ましくは0.13~2体積部、更に好ましくは0.15~1.5体積部である。短繊維の体積部は、質量を密度で除することにより算出される。
【0034】
(その他の成分)
本発明の3Dプリント用水硬性組成物は、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにより連行される気泡量をコントールするため、消泡剤を使用することができる。本発明では消泡剤として、オキシアルキレン系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系等が使用される。
【0035】
オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、炭素数8以上の高級アルコールや炭素数12~14の2級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等が挙げられる。
【0036】
シリコーン系消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0037】
アルコール系消泡剤としては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等が挙げられる。
【0038】
鉱油系消泡剤としては、例えば、灯油、流動パラフィン等が挙げられる。
脂肪酸系消泡剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
脂肪酸エステル系消泡剤としては、例えば、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、消泡性能の点から、オキシアルキレン系の消泡剤を使用することが好ましい。
【0040】
消泡剤の添加量は、3Dプリント用水硬性組成物の調製時に巻き込まれる気泡による積層後の自立性の低下防止及び3Dプリント用水硬性組成物の強度等の観点から、(A)成分である水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは3~29質量部、更に好ましくは5~28質量部であり、又は(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースと(B)ポリアクリルアミドの合計質量に対して、好ましくは1~38質量%、より好ましくは3~36質量%、更に好ましくは1~35質量%である。
【0041】
本発明の3Dプリント用水硬性組成物は、更に細骨材を配合することができる。細骨材としては、一般の生コン製造や左官用細骨材に用いられる川砂、山砂、海砂、陸砂、珪砂等が好適である。粒径は、好ましくは0.075~5mm、より好ましくは0.075~2mm、更に好ましくは0.075~1mmである。
【0042】
細骨材の添加量は、セメントと細骨材の合計量100質量部中15~85質量部が好ましく、より好ましくは20~80質量部、更に好ましくは25~75質量部である。
【0043】
また、細骨材の一部を無機増量材又は有機増量材と置き換えてもよい。この場合、無機増量材としては、フライアッシュ、高炉スラグ、タルク、炭酸カルシウム、シリカフューム、大理石粉(石灰石粉)、パーライト、シラスバルーン等が挙げられる。有機増量材としては、発泡スチレンビーズ、発泡エチレンビニルアルコールの粉砕物等が挙げられる。なお、無機増量材又は有機増量材は、粒径5mm以下のものが、通常使用され、これを好適に使用できる。
【0044】
本発明においては、更に、ノズルからの押出性と積層後の自立性の両立の更なる改善を目的として、上記以外の他の水溶性高分子物質を使用することができる。この場合、水溶性高分子物質としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の合成高分子物質や、ペクチン、ゼラチン、カゼイン、ダイユータンガム、ウェランガム、キサンタンガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム等の天然物由来の高分子物質が挙げられる。水溶性高分子物質の添加量としては、セメント100質量部に対して、好ましくは0.01~1.0質量部、より好ましくは0.05~0.8質量部、更に好ましくは0.1~0.6質量部である。
【0045】
本発明の3Dプリント用水硬性組成物では、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の減水剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、膨張材、収縮低減剤等を使用することができる。
【0046】
減水剤としては、ポリカルボン酸系として、ポリカルボン酸エーテル系、ポリカルボン酸エーテル系と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸系化合物、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。メラミン系として、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩縮合物、メラミンスルホン酸塩ポリオール縮合物等が挙げられる。リグニン系として、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体等が挙げられる。
本発明においては、減水効果、流動性・流動保持性の点からポリカルボン酸系の減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の添加量は、(C)成分であるセメント100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部である。
【0047】
凝結遅延剤としては、グルコン酸、クエン酸、グルコヘプトン等のオキシカルボン酸又はこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム等の無機塩類、グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アラビノース、リボース、オリゴ糖、デキストラン等の糖類、ホウ酸等が挙げられる。凝結遅延剤の添加量は、セメント100質量部に対して0.005~10質量部が好ましい。
【0048】
凝結促進剤は、無機系化合物と有機系化合物とに大別される。無機系化合物としては、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩化物、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム等の亜硝酸塩、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム等の硝酸塩、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、明礬等の硫酸塩、チオシアン酸ナトリウム等のチオシアン酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩、水ガラス、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミナ系等が挙げられる。有機系化合物としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム等の有機酸のカルシウム塩、無水マレイン酸等が挙げられる。
凝結促進剤の添加量としては、(C)成分であるセメント100質量部に対して0.005~10質量部が好ましい。
【0049】
膨張材としては、エトリンガイト系膨張材、石灰系膨張材、エトリンガイト・石灰複合系膨張材が挙げられる。膨張材の添加量としては、(C)成分であるセメント100質量部に対し、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは1~30質量部、更に好ましくは3~25質量部である。
【0050】
収縮低減剤としては、低級または高級アルコールアルキレンオキシド付加物、グリコールエーテル誘導体、ポリエーテル誘導体等が挙げられる。収縮低減剤の添加量は、(C)成分であるセメント100質量部に対して、好ましくは0.1~0.5質量部、より好ましくは0.15~0.45質量部、更に好ましくは0.2~0.4質量部である。
【0051】
なお、本発明の3Dプリント用水硬性組成物は、(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(C)セメント、(D)水、(E)短繊維、及び必要に応じて細骨材の全ての成分を一括して投入し、混錬して得られる。あるいは、予め、(C)セメントに(A)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(B)ポリアクリルアミド、(E)短繊維を混合しておき、この混合物をミキサーに投入し、このとき細骨材も投入したときには混合物と細骨材とを混合し、次いで(D)水を投入して練り混ぜを行って本発明の3Dプリント用水硬性組成物を調製してもよい。
混合には市販のモルタルミキサー等のJIS R5201準拠のミキサーを使用するとよい。
【0052】
以上のような本発明の3Dプリント用水硬性組成物は、ノズルからの押出性及び積層後の自立性(積層自立性、積層した際の下層部の低変形性)が良好で、かつ保水性にも優れるものとなり、積層造形用、特には材料押出方式の3Dプリンティングとして好適なものである。
【0053】
本発明の立体造形物の製造方法は、上述した本発明の3Dプリント用水硬性組成物をポンプで圧送し、ノズルを移動させながら積層することで造形物を構築することを特徴とする。
【0054】
本発明の立体造形物の製造方法は、本発明の3Dプリント用水硬性組成物を貯蔵するタンク、タンクに接続された3Dプリント用水硬性組成物を流す配管、タンク内の3Dプリント用水硬性組成物を圧送するポンプ、配管を通して圧送されてきた3Dプリント用水硬性組成物を吐出するノズル、ノズルを移動させる移動手段、及びポンプ、移動手段等を制御する制御手段を備える3Dプリンタ装置を用いて実施することが好ましい。なお、本発明の3Dプリント用水硬性組成物を貯蔵するタンクと、タンク内の3Dプリント用水硬性組成物を圧送するポンプとが一体となった、ホッパー一体型ポンプを用いてもよい。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの2質量%水溶液の粘度(2質量%水溶液粘度)は20℃においてB型回転粘度計を用いて測定した値である。また、ポリアクリルアミドにおけるアニオン化度はコロイド滴定法によって測定した値であり、0.5質量%水溶液粘度はポリアクリルアミドを4質量%塩化ナトリウム水溶液の溶媒に0.5質量%となる量で溶解した水溶液の粘度であり、25℃においてB型回転粘度計を用いて測定した値である。
【0056】
[実施例1~15、比較例1~6]
<使用材料>
(1)セメント(C):普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)
(2)珪砂(S):三河珪砂56号(粒径75~425μm、三河珪石(株)製)
(3)水:上水道水
(4)水溶性ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(CE):サンプル明細を表1に示す
(5)ポリアクリルアミド(PA):サンプル明細を表2に示す
(6)短繊維:ポリプロピレン繊維、平均繊維長6mm、密度0.91g/cm3、繊度13デシテックス(バルチップ(株)製)
(7)消泡剤:SNデフォーマー14HP(サンノプコ(株)製)
【0057】
【表1】
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
HEMC:ヒドロキシエチルメチルセルロース
【0058】
【0059】
<水硬性組成物の調製>
JIS R 5201準拠のモルタルミキサーを用い、表3に示す材料及び配合量に基づいて、まずセメントと珪砂を練り鉢に入れ、低速攪拌(回転運動140rpm、遊星運動60rpm)にて60秒間の混合を行った。次いで、水を加え低速攪拌(回転運動140rpm、遊星運動60rpm)にて180秒間練り混ぜを行い、水硬性組成物を得た。練上がり温度は20±3℃以内となるよう、材料温度を調整した。なお、CE、PA、短繊維、消泡剤は予めセメントに混合し、セメントと共に練り鉢に投入した。
【0060】
【0061】
<評価>
(1)押出性
下記のポンプ圧送条件で水硬性組成物を均一に吐出できた場合を〇(良好)、ホースや口金で閉塞して吐出できなかった場合を×(不良)とした。
〔ポンプ圧送条件(使用機器及び運転条件)〕
ホッパー一体型ポンプであるモーノポンプ2NVL15型(兵神装備(株)製)を使用し、ポンプの吐出口に内径38mm、長さ0.5mのホースを付け、その先に高さ15mm、横幅30mmの開口部を有する口金(ノズル)を取り付け、直方体の水硬性組成物を吐出する機構とした。口金は開口部を水平方向に向けて固定し、吐出速度0.5L/minで水硬性組成物を吐出(押出)させ、造形された水硬性組成物の直方体(造形物)を吐出速度と同調したベルトコンベアで引き取った。なお、ポンプの運転周波数は6Hzとした。
(2)積層自立性
上記ポンプ圧送条件で、長さ500mmの1層造形物(押出成形されたままのもの)と3層積層物(押出成形された直後の1層造形物を3層に積層したもの)の2種類を作製した。作製の24時間後の1層造形物及び3層積層物それぞれについて1層目の横幅を3カ所(長さ方向の150mm、250mm、350mmの位置)でノギスで計測した。3カ所の横幅の平均値を用い、下式(1)により変形率を算出した。変化率が6%以下の場合、積層自立性に優れると判断した。
変形率(%)={(3層積層物の1層目の幅)-(1層造形物の幅)}/1層造形物の幅×100 (1)
(3)保水性
JIS A 6916 付属書A(規定)タイル張付け用モルタルの試験方法(A.2.3)に準じて保水性試験を行った。保水率が75%以上の場合、水の分離が抑制できているとした。
以上の評価結果を表4に示す。
【0062】
【0063】
以上の結果、20℃における2質量%の水溶液粘度が2000~6000mPa・sであるCEと、アニオン化度が6~40モル%であり、かつ25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10~300mPa・sであるPAを使用した実施例1~15は、ポンプによる押出性が良好であり、積層自立性(積層した際の下層部の変化率)及び保水率も基準を満たしていた。
CEの20℃における2質量%の水溶液粘度が、比較例1では2000mPa・s未満であるため、モルタルの潤滑性不足によるホース内での閉塞が起こり、保水率も基準を満たしていない結果であった。比較例2では6000mPa・sを超えるため、モルタルの粘性が過多となり、自重による変形性が大きく、積層自立性(積層した際の下層部の変化率)が基準を満たさなかった。
また、比較例3ではPAのアニオン化度が6モル%未満であること、比較例5ではPAの25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が10mPa・s未満であることから、それぞれ凝集効果が低いために積層した際の下層部の変化率が大きい結果であった。一方、比較例4ではPAのアニオン化度が40モル%を超えること、比較例6では25℃における0.5質量%の水溶液(但し、溶媒が4質量%塩化ナトリウム水溶液である。)の粘度が300mPa・sを超えることから、PAのその凝集効果が強すぎたため、圧送ホース内で閉塞を起こした。