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特開2024-130529ビスフェノールの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130529
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20240920BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20240920BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20240920BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20240920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C07C39/17
B01J27/053 Z
C08G64/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040314
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】鹿嶋 綾香
(72)【発明者】
【氏名】永尾 剛一
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】小林 直登
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4J029
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA42A
4G169BB08A
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BB14A
4G169BD01A
4G169BD02A
4G169BD04A
4G169BD08A
4G169BD12A
4G169BE22A
4G169BE37A
4G169CB25
4G169CB70
4G169DA02
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB46
4H006AC22
4H006AC25
4H006AD15
4H006BA28
4H006BA35
4H006BA36
4H006BA37
4H006BA52
4H006BA66
4H006BB11
4H006BB14
4H006BC10
4H006BE01
4H006BE03
4H006BE04
4H006FC52
4H006FE13
4H039CD10
4H039CD40
4J029AA09
4J029AB04
4J029AC01
4J029AE01
4J029AE04
4J029AE05
4J029AE13
4J029BB12B
4J029BB12C
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD08
4J029BD09B
4J029HA01
4J029HC04A
(57)【要約】
【課題】ビスフェノールを生成する反応の混合不良を改善し、工業的な生産規模での製造
を可能にするビスフェノール製造法を提供する。
【解決方法】ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを酸触媒の存在下で縮合するこ
とにより製造される、ビスフェノールの製造方法において、芳香族アルコールと前記酸触
媒とを混合し、混合液を得る工程(A)、前記混合液Aにケトン又はアルデヒドを滴下供
給液として滴下供給する、あるいはケトン又はアルデヒドに混合液Aを滴下供給液として
滴下供給し、前記滴下供給液の滴下率が80%以下となったときに供給を停止する工程(
B)、およびビスフェノールの結晶を析出させる工程(C)、を含むビスフェノールの製
造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを酸触媒の存在下で縮合することにより製
造される、ビスフェノールの製造方法において、
下記工程(A)~(C)を満たし、
下記工程(B)における滴下供給液の滴下率が全量の80%以下で停止した後、
下記工程(C)を実施する、ビスフェノールの製造方法。
工程(A):前記酸触媒と前記芳香族アルコールとを混合して、混合液Aを得る工程
工程(B):前記混合液Aに対し、前記ケトン又はアルデヒドを滴下供給液として滴下
供給する、あるいは、前記ケトン又はアルデヒドに対し、混合液Aを滴下供給液として滴
下供給することで、ビスフェノール反応液を得る工程
工程(C):前記ビスフェノール反応液からビスフェノールの結晶を析出させる工程
【請求項2】
前記工程(C)の後に前記工程(B)の滴下供給を再開する、請求項1に記載のビスフ
ェノールの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)の反応温度が60℃以下である、請求項1に記載のビスフェノールの製
造方法。
【請求項4】
前記工程(B)と前記工程(C)の温度差が5℃以上50℃以下である、請求項1に記
載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記酸触媒が硫酸、塩化水素ガス、塩酸、リン酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪族スル
ホン酸のいずれか1種以上から選択される、請求項1に記載のビスフェノールの製造方法
【請求項6】
前記工程(A)が芳香族炭化水素および脂肪族モノアルコール存在下で混合される、請
求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項7】
前記ビスフェノール反応液のスラリー濃度が30%以上である、請求項1に記載のビス
フェノールの製造方法。
【請求項8】
前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル) プロ
パン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、及び1,
1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンから選択される1種以
上を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8に記載のビスフェノールの製造方法によって製造されたビスフェノール
を用いてポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する
方法に関するものである。また、得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂
の製造方法に関するものである。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、
芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤
や防菌防カビ剤などの添加材として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂な
どの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2
,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-138443
【特許文献2】特開2008-214248号公報
【特許文献3】特開平11-49714号公報
【特許文献4】特開2021-147367
【特許文献5】特開昭60-038335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂等の様々な樹脂の原料として幅広い用途に使
用され、今後も、その用途の拡大が期待されることから、反応スケールを大きくし、工業
的な生産規模で、より効率良く製造することが求められている。
【0005】
しかしながら、特許文献2、3に記載のビスフェノールの製造方法は、その製造量をス
ケールアップした工業的な観点からは十分に検討されているとはいえない。
【0006】
ビスフェノールの生成反応では、一般的に、反応が進むにつれて、生成物であるビスフ
ェノールが析出し、スラリー状態で反応が行われる。このような反応系では、反応の進行
に伴い、固体のビスフェノール量が増加し、反応液中の固体のビスフェノールの濃度(ス
ラリー濃度)が高く、粘性の高い反応液となることで、混合不良が生じるおそれがある。
【0007】
例えば、特許文献2、3に記載のビスフェノールの製造方法では、実際にビスフェノー
ルを製造している例として、10リットル以下の小スケールの反応槽でビスフェノールを
製造したことが記載されている。
一般的に10リットル以下の小さいスケールの反応槽においては、反応槽と攪拌翼を自
由に組み合わせることが容易であるので、粘性の高い反応液であっても、反応槽と攪拌翼
とのクリアランスを小さくして攪拌効率を維持することが容易である。そのため、反応の
進行に伴いビスフェノールが析出するような反応系においても、反応液の混合性が悪化す
ることを回避しやすい傾向にある。
【0008】
それに対し、工業的規模でのビスフェノールの製造方法では、一般的には、立法メート
ル(1000リットル)以上の反応槽を用いて製造する。これらの設備は、汎用的な構成
になることが多く、撹拌翼の形状や反応槽と攪拌翼とのクリアランスが、必ずしもビスフ
ェノールの製造に適した設計であるとは限らない。そのため、ビスフェノールの生成反応
を行い、ビスフェノールの析出により反応液の粘性が増加した場合、反応槽内にビスフェ
ノールの固体が局所的に堆積し、混合不良に陥ることが懸念される。
よって、特許文献2、3に開示されているビスフェノールの製造方法では、その製造量
をスケールアップした工業的規模での製造方法における問題点などを十分に検討されてい
るとはいえない。
【0009】
特許文献4の実施例1に記載の方法では、大スケールでの実施となった場合に、ビスフ
ェノールの生成反応において、ビスフェノールの結晶が析出し、反応液がスラリー状にな
った際、スラリーが局所的に堆積し、混合不良に陥るトラブルが発生した結果、得られた
ビスフェノールの色調悪化や副生成物の増加が発生し、ビスフェノールの品質が低下する
懸念がある。
【0010】
ここでの反応液混合不良の原因としては、反応液の粘性の増加が挙げられ、更に反応液
の粘性の増加の原因の一つとして、芳香族アルコールや芳香族炭化水素等の油相と酸触媒
や副生水等の水相が混和し、エマルジョンを形成し、見掛け粘度が高くなるためであると
推定される。
【0011】
また、特許文献5の実施例1に記載の方法では、大スケールでの実施となった場合に、
生成したビスフェノールが酸触媒の塩酸及び塩化水素ガスと反応液中で常に接触する環境
にあるため、ビスフェノールが容易に分解し得るため、ビスフェノールの選択性が悪化す
ることが推定される。
かかる状況下、ビスフェノールの製造方法において、製造スケールに関わらずビスフェ
ノールを高選択率で合成可能な反応条件の下、反応液の混合性を改善する方法が求められ
ていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、反応中に結晶が析出する反応晶析系に
おいて、反応液の粘性を低下することで攪拌効率を向上させ、工業的な生産規模での製造
を実現することを目的とする。また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェ
ノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、酸触媒と芳香族アルコー
ルとを混合した溶液を混合液Aとし、混合液Aにケトン又はアルデヒドを滴下供給液とし
て滴下供給する、あるいはケトン又はアルデヒドに混合液Aを滴下供給液として滴下供給
することで、滴下供給液の滴下率を制御し、滴下供給原料を全量滴下する前に反応槽内の
温度を低下させ、ビスフェノール結晶を任意のタイミングで析出させることで、10m
の反応槽であっても、反応液の粘度上昇を抑制し、混合不良を起こさないことが可能であ
ることを見出した。また、このビスフェノールを用いることで、色調に優れたポリカーボ
ネート樹脂を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[7]に存する。
[1] ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを酸触媒の存在下で縮合することに
より製造される、ビスフェノールの製造方法において、
下記工程(A)~(C)を満たし、
下記工程(B)における滴下供給液の滴下率が全量の80%以下で停止した後、
下記工程(C)を実施する、ビスフェノールの製造方法。
工程(A):前記酸触媒と前記芳香族アルコールとを混合して、混合液Aを得る工程
工程(B):前記混合液Aに対し、前記ケトン又はアルデヒドを滴下供給液として滴下
供給する、あるいは、前記ケトン又はアルデヒドに対し、混合液Aを滴下供給液として滴
下供給することで、ビスフェノール反応液を得る工程
工程(C):前記ビスフェノール反応液からビスフェノールの結晶を析出させる工程
[2] 前記工程(C)の後に前記工程(B)の滴下供給を再開する、[1]に記載のビ
スフェノールの製造方法。
[3] 前記工程(B)の反応温度が60℃以下である、[1]または[2]に記載のビ
スフェノールの製造方法。
[4] 前記工程(B)と前記工程(C)の温度差が5℃以上50℃以下である、[1]
~[3]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[5] 前記酸触媒が硫酸、塩化水素ガス、塩酸、リン酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪
族スルホン酸のいずれか1種以上から選択される、[1]~[4]のいずれかに記載のビ
スフェノールの製造方法。
[6] 前記工程(A)が芳香族炭化水素および脂肪族モノアルコール存在下で混合され
る、[1]~[5]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[7] 前記ビスフェノール反応液のスラリー濃度が30%以上である、[1]~[6]
のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[8] 前記ビスフェノールが、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、及び
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンから選択される1種
以上を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法によって製造され
たビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造
方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、工業的な生産規模であっても、目的ビスフェノールの選択性を維持し
つつ、反応液の混合性を改善し、色調の良好なビスフェノールの製造方法が提供される。
また、このビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法によって、色調に優
れたポリカーボネート樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本
発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内
容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の
数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0017】
本発明の一実施形態は、ケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを酸触媒の存在下
で縮合することにより製造される、ビスフェノールの製造方法において、芳香族アルコー
ルと前記酸触媒とを混合し、混合液を得る工程(A)、前記混合液Aにケトン又はアルデ
ヒドを滴下供給液として滴下供給する、あるいはケトン又はアルデヒドに混合液Aを滴下
供給液として滴下供給し、前記滴下供給液の滴下率が80%以下となったときに供給を停
止する工程(B)、およびビスフェノールの結晶を析出させる工程(C)、を含むことを
特徴とする。
【0018】
本発明者らは、滴下供給液の供給を一度停止し、反応液の温度を低下させることで、早
期に結晶を析出させ、ビスフェノールのスラリー濃度が高い条件であっても、反応液の混
合性を改善できることを見出し、工業的な生産規模での製造を可能にした。また、混合性
の改善により、高収率かつ高選択率で、色調の良好なビスフェノールを得ることを可能に
した。
【0019】
<ビスフェノールの製造方法>
本実施形態は、酸触媒の存在下、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとの縮合
反応によりビスフェノールを生成する。
【0020】
[ビスフェノール]
本発明で製造されるビスフェノールは、通常、以下の一般式(1)で表される化合物で
ある。
【0021】
【化1】
【0022】
~Rとしては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコ
キシ基、アリール基などが挙げられ、例えば、プロトン;フルオロ基、クロロ基、ブロモ
基、ヨード基等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プロピル基
、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル基、n-
ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n―ウン
デシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキ
シ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペン
チルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、
n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n―ウンデシルオキ
シ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シ
クロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデ
シル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェ
ニル基等のアリール基などが挙げられる。これらのうちRとRは立体的に嵩高いと縮
合反応が進行しにくいことから、好ましくはプロトンである。
【0023】
とRとしては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリー
ル基などが挙げられ、例えば、プロトン;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プ
ロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i‐ペンチル
基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノ
ニル基、n-デシル基、n―ウンデシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキ
シ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキ
シ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオ
キシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシ
ルオキシ基、n―ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロ
プロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基
、シクロオクチル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、
トリル基、2,6-ジメチルフェニル基等のアリール基などが挙げられる。
【0024】
とRは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、例えば、シクロプ
ロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5
-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノ
ニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニ
リデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0025】
本発明のビスフェノールとしては、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニ
ル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2
-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒ
ドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,
3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロ
キシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタ
ン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ
-3-メチルフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒ
ドロキシフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘ
プタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0026】
この中でも、好適なビスフェノールは、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフ
ェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパ
ン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる
群から選択されるいずれかであり、より好ましくは、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3
-メチルフェニル)プロパン、又は1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル
)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかである。
【0027】
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式
(2)で表される化合物である。
【0028】
【化2】
【0029】
~Rとしては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコ
キシ基、アリール基などが挙げられ、例えば、プロトン;フルオロ基、クロロ基、ブロモ
基、ヨード基等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プロピル基
、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-
ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n―ウン
デシル基、n-ドデシル基等の鎖状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキ
シ基、i―プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペン
チルオキシ基、i‐ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、
n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n―ウンデシルオキ
シ基、n-ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シ
クロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデ
シル基等の環状アルキル基;ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェ
ニル基等のアリール基などが挙げられる。
【0030】
これらのうちRとRは立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから好ましく
は水素原子である。また、R~Rは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であ
ることがより好ましく、R,Rはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基で、R2
,R3は水素原子であることがさらに好ましい。
【0031】
上記一般式(2)で表される化合物として、具体的には、フェノール、クレゾール、キ
シレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェ
ノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、ベンジルフ
ェノール、フェニルフェノールなどが挙げられる。
【0032】
中でも、フェノール、クレゾール、およびキシレノールからなる群から選択されるいず
れかであることが好ましく、クレゾールまたはキシレノールがより好ましく、クレゾール
がさらに好ましい。
【0033】
[ケトン又はアルデヒド]
本発明の製造方法に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(3)で表さ
れる化合物である。
【0034】
【化3】
【0035】
一般式(3)中、RとRとしては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アル
コキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基
などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチ
ル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、
n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、
2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル
基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、
i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-
ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基
、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピ
ル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シク
ロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチ
ルフェニル基などが挙げられる。
【0036】
とRは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していてもよく、RとRとが隣
接する炭素原子と一緒に結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキリデン基
を形成してもよい。なお、シクロアルキリデン基とは、シクロアルカンの1つの炭素原子
から2個の水素原子を除去した2価の基である。
【0037】
とRとが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されるシクロアルキリデン基とし
ては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘ
キシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロ
オクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロド
デシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げら
れる。
【0038】
上記一般式(3)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトア
ルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルア
ルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデ
ヒド、ウンデシルアルデヒド、ドデシルアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタ
ノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデ
カノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニ
ルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケト
ン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリル
プロピルケトンなどのアリールアルキルケトン、シクロプロパノン、シクロブタノン、シ
クロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナ
ノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケト
ン類等が挙げられる。中でも、アセトンが好ましい。
【0039】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比(芳香族アルコ
ールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドとのモル
数))は、低いとケトン又はアルデヒドの自己縮合反応生成物が多く副生することから、
1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましい。また、
該モル比が高いと、未反応の芳香族アルコールを回収するための時間を要することから、
20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0040】
[酸触媒]
本発明のビスフェノールの製造方法における酸触媒としては、硫酸、塩化水素ガス、塩
酸、p-トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族ス
ルホン酸、リン酸などを用いることができる。
【0041】
中でも、酸触媒は、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪族スルホ
ン酸からなる群から選択される1以上であることが好ましい。芳香族アルコールと、ケト
ン又はアルデヒドとの縮合反応において、リン酸では、反応性が低く、ビスフェノールが
析出しにくく、スラリー状態で縮合反応を行うことが難しいため、ビスフェノールの収率
や品質が低下しやすい傾向にある。より好ましくは、硫酸、塩化水素ガス、及び塩酸から
なる群より選ばれる1以上であることが好ましく、更に好ましくは、硫酸及び/又は塩化
水素ガスである。反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないとい
う観点から、硫酸が特に好ましい。
【0042】
硫酸は、化学式HSOで表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈さ
れた硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば
、希硫酸とは、質量濃度が50質量%未満の硫酸水溶液である。用いる硫酸の濃度(硫酸
水溶液(HSO+HO)中のHSOの濃度)が一定以上であると、含まれる水
の量が少なくなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しやすくなり、ビスフェノール
を製造する反応時間が短くなり、効率的にビスフェノールを製造することができる。その
ため、用いる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上
であり、更に好ましくは80質量%以上である。また、用いる硫酸の濃度の上限は、通常
99.5質量%以下又は99質量%以下である。
【0043】
原料である芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比(酸触媒のモル数/芳香族アルコ
ールのモル数)は、少ない場合は、縮合反応の進行とともに副生する水によって酸触媒が
希釈されて反応に時間を要する。また、多い場合は、副生物が多量に生成する場合がある
。これらのことから、反応液における原料である芳香族アルコールに対する酸触媒のモル
比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0
.01以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましく
は3以下、特に好ましくは1以下である。
【0044】
[チオール助触媒]
反応工程において、ケトンと芳香族アルコールとを縮合させる際に、助触媒としてチオ
ールを用いてもよい。
助触媒としてチオールを用いることで、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メ
チルフェニル)プロパンの製造において、24体(2-(2-ヒドロキシ-3-メチルフ
ェニル)-2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン)の生成を抑え、44
体(2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン)の選択率を上げる
効果と共に、ポリカーボネート樹脂製造時の重合活性を高め、得られるポリカーボネート
樹脂の色調を良好なものとするという効果が得られる。このポリカーボネート樹脂製造時
の重合活性の向上、得られるポリカーボネート樹脂の色調の改善効果が奏される理由の詳
細は明らかではないが、チオールを用いることで、ポリカーボネート樹脂を製造する重合
反応に対する阻害物の生成を抑制すると共に、色調悪化物の生成を抑制することができる
ことによると推定される。
【0045】
助触媒として用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、
2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などの
メルカプトカルボン酸や、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプ
タン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメ
ルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン(デカン
チオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデシルメルカプタン(
ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ペンタデシ
ルメルカプタンなどのアルキルチオールやメルカプトフェノールなどのアリールチオール
などが挙げられる。
【0046】
縮合反応に用いるケトンに対するチオールのモル比(チオールのモル数/ケトンのモル
数)は、効果的にビスフェノールの反応選択性改善効果を得る観点から、ケトンに対する
チオールのモル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上
、更に好ましくは0.01以上である。また、ビスフェノールへの混入を防ぐ観点からそ
の、上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下
である。
【0047】
[有機溶媒]
ビスフェノールを生成する反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒として
は、芳香族炭化水素、脂肪族モノアルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる。これら
の溶媒は、2種以上を含んでもよい。例えば、芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混
合溶媒を用いてもよい。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、
ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる。
【0048】
脂肪族モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール
、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノ
ール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n
-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノールなどの1価のア
ルキルアルコール;エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコー
ルなどの多価アルコールなどが挙げられる。
脂肪族モノアルコールは、反応効率等の観点から、炭素数1~12の1価のアルキルア
ルコールが好ましく、炭素数1~8の1価のアルキルアルコールとすることがより好まし
い。
【0049】
なお、原料である芳香族アルコールを多量に使用して有機溶媒の代わりとしてもよい。
この場合、未反応の芳香族アルコールは損失となるが、蒸留などにより回収及び精製して
再利用することで損失を低減できる。
【0050】
溶媒を用いる場合、原料であるケトン又はアルデヒドに対する溶媒の質量比((有機溶
媒の質量/ケトンの質量)又は(有機溶媒の質量/アルデヒドの質量))は、混合不良や
ケトン又はアルデヒドの多量化を抑制する観点から、ケトン又はアルデヒドに対する溶媒
の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、また、反応効率の観点から
、その上限は、溶媒の種類に応じて、ビスフェノールの析出が起こる範囲で調整すればよ
く、50以下であってよく、30以下であってよい。
【0051】
生成してくるビスフェノールは有機溶媒に完全に溶解させずに分散させた方が、ビスフ
ェノールが分解しにくい。また、反応終了後、得られたビスフェノール溶液からビスフェ
ノールを回収する際の損失(例えば、晶析時のろ液への損失)を低減できることからも、
ビスフェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が
低い溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香
族炭化水素を含むことが好ましく、ビスフェノールが溶解しにくいことや沸点が低いこと
から、好ましい芳香族炭化水素のひとつはトルエンである。
【0052】
[工程(A)]
本発明のビスフェノールの製造方法は、芳香族アルコールと酸触媒とを混合し、混合液
を得る工程(A)を含む。芳香族アルコールと酸触媒とを混合する方法は、特段制限され
ず、公知の方法により混合してよい。芳香族アルコールと酸触媒とを含む混合液Aは、芳
香族アルコールと酸触媒とからなるものであってもよく、それ以外の成分を含むものであ
ってもよい。例えば、芳香族アルコールと酸触媒と有機溶媒とを含む混合液としてもよい
【0053】
混合液A中の芳香族アルコールの含有量は、特段制限されないが、効率よくビスフェノ
ールを製造できる(ケトンまたはアルデヒドの転化率及びビスフェノールの選択率を向上
させることができる)観点から、通常5モル%以上あり、10モル%以上であることが好
ましく、15モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに
好ましく、また、通常99.9モル% 以下であり、99.5モル%以下であることが好
ましく、99モル%以下であることがより好ましく、98.5モル%以下であることがさ
らに好ましい。
【0054】
混合液A中の酸触媒の含有量は、特段制限されないが、効率よくビスフェノールを製造
できる観点から、通常0.1モル% 以上あり、0.2モル%以上であることが好ましく
、0.5モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることがさらに好
ましく、また、通常50モル%以下であり、40モル%以下であることが好ましく、30
モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
混合液Aにおける芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比は、上述した反応液におけ
る芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比と同様の観点から、該モル比と同様のモル比
を適用することができる。
用い得る溶媒の種類は、芳香族アルコール及び酸触媒を均一に分散することができれば
、特段制限されず、例えば、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール、トルエン、
キシレン等の芳香族炭化水素等を用いることができ、特に、メタノール、トルエンが好ま
しい。
【0056】
溶媒を用いる場合、混合液A中の溶媒の含有量は、特段制限されないが、効率よくビス
フェノールを製造できる観点から、通常0.1モル%以上あり、0.5モル%以上である
ことが好ましく、1.0モル%以上であることがより好ましく、2.0モル%以上である
ことがさらに好ましく、また、通常80モル%以下であり、70モル%以下であることが
好ましく、60モル%以下であることがより好ましい。
【0057】
[工程(B)]
本発明のビスフェノールの製造方法は、上記混合液Aにケトン又はアルデヒドを滴下供
給液として滴下供給してビスフェノール反応液を得る、あるいは、ケトン又はアルデヒド
に上記混合液Aを滴下供給液として滴下供給してビスフェノール反応液を得る工程(B)
を含む。ケトン又はアルデヒドは単独であってもよいが、チオール助触媒を同時に滴下供
給してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオール助触媒および有機溶媒を混合し、混合液
Bとして混合液Aに滴下供給する、あるいは混合液Bに混合液Aを滴下供給してもよい。
ここでの滴下供給液とは、反応液に対して滴下供給する液全体を指し、上記の通り、滴
下供給液はケトン又はアルデヒドであっても混合液Aであってもよく、チオール助触媒や
有機溶媒等のその他の成分が含まれていても良い。また、滴下供給液は全ての成分が混合
された状態で滴下供給されても、別々に滴下供給されても良い。
【0058】
上記の滴下供給方法の内、ケトン又はアルデヒドを混合液Aに供給すると、反応液中に
酸触媒が全量含まれているために滴下供給と同時に反応を進行させてビスフェノール製造
の効率を向上させることができる観点から、ケトンまたはアルデヒドと、チオール助触媒
および有機溶媒とを混合した混合液Bを、混合液Aに供給する方法が好ましい。
【0059】
混合液Bを製造する場合、工程(B)は、ケトン又はアルデヒド、チオール助触媒、お
よび有機溶媒を混合し、混合液Bを得る工程、および混合液Aに混合液Bを滴下供給液と
して滴下供給する、あるいは混合液Bに混合液Aを滴下供給液として滴下供給することで
ビスフェノール反応液を得る工程を含む。
混合液Aに混合液Bを滴下供給液として滴下供給する、あるいは混合液Bに混合液Aを
滴下供給液として滴下供給する際は、滴下供給液の全量を同時に供給するのではなく、複
数回に渡って滴下供給する。このとき、滴下量を把握しながら、滴下することが好ましい
【0060】
混合液Bを製造する場合、混合液B中のケトンまたはアルデヒドの含有量は、特段制限
されないが、効率よくビスフェノールを製造できる観点から、通常10モル%以上あり、
20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40
モル%以上であることがさらに好ましく、また、通常99.5モル%以下であり、99.
0モル%以下であることが好ましく、98.5モル%以下であることがより好ましく、9
8.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
混合液Bを製造する場合、混合液B中のチオール助触媒の含有量は、特段制限されない
が、効率よくビスフェノールを製造できる観点から、通常0.1モル%以上あり、0.2
モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.4
モル%以上であることがさらに好ましく、また、通常50モル%以下であり、40モル%
以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下
であることがさらに好ましい。
【0062】
ケトン又はアルデヒドに対する混合液A中の芳香族アルコールのモル比は、上述した反
応液におけるケトンまたはアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比と同様の観点か
ら、該モル比と同様のモル比を適用することができる。また、ケトンに対するチオール助
触媒のモル比は、上述した反応液におけるケトンまたはアルデヒドに対するチオール助触
媒のモル比と同様の観点から、該モル比と同様のモル比を適用することができる。
【0063】
有機溶媒について、ケトンまたはアルデヒドとチオール助触媒とを別々に混合液Aに供
給する場合、各々の成分をそれぞれ同一の又は異なる有機溶媒に溶解/混合させてよく、
また、混合液Bを製造する場合、1種以上の溶媒にケトンまたはアルデヒドとチオール助
触媒とを溶解/混合させてもよい。
用い得る有機溶媒の種類は、ケトンまたはアルデヒド及びチオール助触媒を溶解/混合
させることができれば特段制限されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用い
ることができ、特に、トルエン、キシレンが好ましい。
【0064】
有機溶媒を用いる場合、工程(B)で供給される滴下供給液の全量に対する工程(B)
で供給される有機溶媒の含有量(混合液Bを製造する場合には、混合液B中の有機溶媒の
含有量)は、特段制限されないが、効率よくビスフェノールを製造できる観点から、通常
1モル%以上あり、2モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより
好ましく、4モル%以上であることがさらに好ましく、また、通常80モル%以下であり
、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、5
0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
反応温度は、低すぎると縮合反応が進行しにくくなることから、好ましくは-30℃以
上であり、より好ましくは-20℃以上であり、更に好ましくは-15℃以上である。ま
た、反応温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、
助触媒であるチオールを用いた場合にはチオールの酸化分解が進行しやすくなるため、好
ましくは60℃以下であり、より好ましくは50℃以下であり、更に好ましくは40℃以
下である。
【0066】
滴下供給速度は特段制限されないが、ビスフェノールの縮合反応は発熱反応であるため
、所望の反応温度になるように滴下供給液の供給速度を調整するのが望ましい。また、反
応槽容積に対する伝熱面積は反応槽が大きくなるほど相対的に小さくなるため、徐熱効率
が悪化する。よって、反応槽容積及び徐熱能力に応じて滴下供給液の供給速度を調整する
ことが好ましい。以上のことから、滴下供給速度は、時間あたりの滴下供給液の滴下率{
(被滴下供給液に供給した滴下供給液の質量/滴下供給液全質量)÷時間}として表現し
た場合、3.0/Hr以下であることが好ましい。また、供給速度が遅いと反応終了まで
に時間を要し、釜効率が悪化するため、全滴下供給量に対する1時間当たりの滴下量が0
.1/Hr以上であることが好ましい。
【0067】
工程(B)で滴下供給する滴下供給液の滴下率は、低すぎると十分にビスフェノールが
生成しておらず結晶が析出しないことから、20%以上であり、結晶が高すぎると自然に
結晶が析出し、攪拌効率が低下することから、80%以下であるとよく、より好ましくは
、70%以下であり、さらに好ましくは60%以下である。
【0068】
[工程(C)]
本発明のビスフェノールの製造方法は、工程(B)で滴下供給する滴下供給液の滴下率
が20%以上となったときに滴下供給を停止し、ビスフェノール反応液の温度を5℃~5
0℃低下させ、ビスフェノールの結晶を析出させ、結晶析出後、工程(B)で滴下供給す
る滴下供給液の供給を再開し、ビスフェノール反応液を得る工程(C)を含む。
【0069】
縮合反応の反応時間は、製造するビスフェノールの種類や反応温度、製造スケール等の
反応条件により適宜調整されるものであるが、通常、500時間以下であり、400時間
以下や350時間以下であってもよい。長い時間反応した場合、生成したビスフェノール
が分解することから、好ましくは30時間以下、より好ましくは25時間以下、更に好ま
しくは20時間以下である。また、反応時間の下限は、通常、0.5時間以上であり、1
時間以上であることが好ましく、1.5時間以上であることがより好ましい。
【0070】
なお、本明細書における反応時間は、芳香族アルコールとケトンまたはアルデヒドの混
合時間も含むものである。例えば、芳香族アルコールと酸触媒とを混合した混合液Aに、
混合液Bを1時間かけて滴下供給した後、1時間かけて結晶を析出し、再び混合液Bを1
時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は4時間である。
また、反応は、例えば、用いる酸触媒と同等量以上の水や塩基を加えて酸触媒濃度を低
下させることで停止させることが可能である。
【0071】
[反応槽と攪拌速度]
ビスフェノールを生成する反応は、強酸を触媒として進行するため、反応槽の内壁の表
面が耐腐食性の材質であることが好ましい。特に、耐食性に優れたグラスライニング製の
反応槽を用いることが好ましい。反応槽の大きさは、製造量に合わせ選択される。一般的
な反応槽の大きさとしては0.5m以上20m以下であり、1m以上10m以下
がより好ましい。反応槽の大きさを変更すると、攪拌回転数も変化し、一般的に反応槽の
大きさが大きくなると、動力見合いで攪拌するため、回転数は小さくなる。回転数が小さ
くなると、反応熱の徐熱が不十分となり、回転数が大きくなると攪拌動力に負荷がかかる
ため、装置破損のリスクがある。よって攪拌速度は好ましくは10rpm以上800rp
m以下であり、20rpm以上700rpm以下がより好ましく、30rpm以上300
rpm以下がさらに好ましい。
【0072】
[精製方法]
本発明のビスフェノールの製造方法は、上記の工程(A)~(C)以外にも他の工程を
含んでいてよく、例えば、工程(C)で得られたビスフェノールを精製する工程を含んで
いてよい。ビスフェノールの精製方法は、特段制限されず、常法により行うことができる
。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能
である。具体的には、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水又は食塩水など
で洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却
し晶析させる。芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留による余剰の芳
香族アルコールを留去してから晶析させる。
【0073】
析出したビスフェノールは、芳香族炭化水素等を洗浄溶媒として用いて懸濁洗浄を行っ
たり、乾燥を行ったりしてもてよい。乾燥の方法は減圧乾燥であっても、常圧での乾燥で
あってもよい。乾燥温度は、適宜決定することができ、例えば、50~120℃で、2~
15時間乾燥させることができる。
【0074】
[ビスフェノールの用途]
ビスフェノールは、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、
耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ
-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性
樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジ
ン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしく
はそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色
防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0075】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の
原料(モノマ-)として用いることが好ましく、中でもポリカーボネート樹脂、エポキシ
樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく
、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0076】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明のビスフェノールの製造方法によって得られたビスフェノールを原料に用いてポ
リカーボネートを重合する工程を含むポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する
。ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを
、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交
換反応させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方
法を適宜選択して行うことができるが、以下にビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料と
した製造方法の一例を説明する。
【0077】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノー
ルに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニ
ルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性
に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量
のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、
ビスフェノール1.0モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル
以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1
.2モル以下である。
【0078】
原料の供給方法としては、ビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することも
できるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造
する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒として、アルカリ
金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種
類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的
には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0079】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05
μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であ
り、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μ
モル以下である。
【0080】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を
製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマ
ーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0081】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に
連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが
好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供
給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマー
が生産される。
【実施例0082】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要
旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0083】
[原料および試薬]
オルトクレゾール、アセトン、トルエン、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、水酸
化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸セシウムは、和光純薬株式会社の試薬を使
用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0084】
[評価]
<ビスフェノール反応液の混合性>
ビスフェノール反応液の混合性の評価は以下の基準に基づき、目視で実施した。
◎:ビスフェノールの固体の堆積・偏流が見られない。
○:ビスフェノールの固体が局所的に堆積し、一部偏流が見られる。
△:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、撹拌翼付近を除き、撹拌不能。
×:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、撹拌不能。
【0085】
<ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析>
ビスフェノールを含む反応生成液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、
以下の手順と条件で行い、オルトクレゾール基準のビスフェノールCの濃度を算出した。
なお、濃度算出の際に使用した、有機相の質量は、オルトクレゾール、アセトン、トルエ
ン、ドデカンチオールの合計理論質量を用いて、算出した。
・装置:株式会社島津製作所製「LC-2010A」
・カラム:インタクト株式会社製「Scherzo SM-C18」,内径3μm,長さ
250mm,3.0mmID
・低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル:脱塩水=1.500g:1mL:90
0mL:150mLの溶液
・分析時間0分では、溶離液組成はA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~42分はA液:B液=10:90へ徐々に変化させ、
分析時間42~50分はA液:B液=10:90に維持、
流速0.34mL/分にて分析した。
・検出波長は280nm
【0086】
<色調の評価>
ビスフェノールの色調の評価は以下の方法で実施した。
・装置:日本電色工業社製 SE6000 アルミブロックヒーター
・器具:日電理化硝子製の試験管(24mm×200m/m P-24)
試験管に製品ビスフェノールを20g計り取り、アルミブロックヒーターを用いて19
0℃に加温・溶融し、加温開始から30分経過時点のハーゼン単位色数を測定した。
【0087】
[実施例1]
(反応工程)
温度計(反応槽壁から10cm離れた位置にバッフルを置き、バッフル内にサーモセン
サーを設置して温度を測定した)および撹拌機を備えたフルジャケット式10mのグラ
スライニング製の反応槽に、窒素雰囲気下でオルトクレゾール1600kg、トルエン2
574kg、メタノール104.3kg、98質量%硫酸660.9kgを加え、攪拌混
合し、混合液Aを調製した。また、3mの調整槽にアセトン424.3kg、トルエン
347.8kg、ドデカンチオール37.6kgを1時間攪拌混合することで混合液Bを
調製した。混合液Aを加えた反応槽の内温が5℃以下となったときに、調整槽からポンプ
を用いて、混合液Bの供給を開始した。このとき、反応槽の内温が10℃を超えないよう
に混合液Bを滴下供給した。3時間後、混合液Bの滴下率が67%となったときに、供給
を停止し、温度を5℃下げ、結晶を析出させた。結晶析出後、1時間反応液を攪拌したの
ち、反応槽の内温が10℃を超えないように、混合液Bの供給を再開した。全量供給後、
2時間攪拌した。反応中の最大反応温度は9.4℃であり、反応中の目標管理温度の10
℃を超えることはなかった。
【0088】
反応槽の内部を確認したところ、反応槽の壁付近で翼の軌跡が見られ、偏留が生じてい
るように観察されたが、反応温度を10℃以下に制御することが出来たため、ビスフェノ
ールC結晶の堆積は無いと判断した。よって、ビスフェノール反応液の混合性は〇であっ
た。
その後、25%水酸化ナトリウム水溶液を1322kg加え、酸濃度を低下させ、反応
を停止した。
【0089】
(精製工程)
反応液を攪拌しながら反応槽の内温を80℃まで昇温したのち、静置させて油水分離を
行い、グラスライニング製の反応槽から水相を抜き出し、有機相を得た。この有機相に脱
塩水を加え、80℃で攪拌したのち、静置により油水分離を行い、水相をグラスライニン
グ製の反応槽から抜き出した。得られた有機相に10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を
加え、80℃で攪拌し中和洗浄を実施した。その後、静置して油水分離し、水相を抜き出
した。得られた有機相を反応槽と同様の設備を有する晶析槽へ移送し、再度、同様の手順
で中和洗浄を行った。得られた有機相に脱塩水を加え、80℃で攪拌したのち、静置によ
り油水分離し、水相を抜き出した。この操作を7回行い、有機相4983.7kgを得た

得られた有機相を液体クロマトグラフィーで分析した結果、オルトクレゾール基準のビ
スフェノールCの収率は、79.6モル%であり、オルトクレゾール基準の選択率は99
モル%であった。
【0090】
(晶析工程)
前記精製工程で得られた有機相を80℃から20℃まで徐々に冷却してビスフェノール
Cの結晶を析出させた。さらに5℃まで冷却し、5℃に到達した後、遠心分離機を用いて
固液分離を行い、粗精製ウェットケーキを得た。
得られた粗精製ウェットケーキにトルエン4350kgを振りかけて洗浄し、遠心分離
機を用いて固液分離を行い、精製ウェットケーキを1657kg得た。この結果から反応
液のスラリー濃度を算出すると、33.2質量%であった。
得られた精製ウェットケーキを、ナウター型乾燥機に投入し、乾燥を行い、白色固体を
1328kg得た。得られた白色固体の一部を採取し、高速液体クロマトグラフィーで組
成分析を行い、生成物がビスフェノールCであることを確認した。純度は99.9面積%
であった。得られたビスフェノールCの色調評価を実施したところ、ハーゼン単位色数(
APHA)は3であった。
【0091】
[実施例2]
(反応工程)
オルトクレゾール2000kg、トルエン2435kg、メタノール130.4kg、
98質量%硫酸826.1kgで混合液Aを調製し、アセトン530.4kg、トルエン
434.8kg、ドデカンチオール47kgで混合液Bを調製し、混合液Bの供給開始か
ら3時間後、混合液Bの滴下率が57%となったときに意図的に結晶を析出させた以外は
、実施例1と同様に反応を実施した。反応中の最大反応温度は9.6℃であり、反応中の
目標管理温度の10℃を超えることはなく、ビスフェノール反応液の混合性は◎と、偏流
は確認されなかった。反応終了後、25%水酸化ナトリウム水溶液を1652kg加え、
反応を停止した。
【0092】
(精製工程)
実施例1と同様に精製工程を行い、有機相を5447kg得た。得られた有機相を液体
クロマトグラフィーで分析した結果、オルトクレゾール基準のビスフェノールCの収率は
、83.5モル%であり、オルトクレゾール基準の選択率は98モル%であった。
【0093】
(晶析工程)
実施例1と同様に晶析を行い、粗精製ウェットケーキを得たのち、トルエン4350k
gを振りかけて洗浄し、遠心分離機を用いて固液分離を行い、精製ウェットケーキを21
80kg得た。反応液中のスラリー濃度は、40.0質量%であった。得られた精製ウェ
ットケーキを、ナウター型乾燥機に投入し、乾燥を行い、白色固体を1833kg得た。
得られた白色固体の一部を採取し、高速液体クロマトグラフィーで組成分析を行い、生成
物がビスフェノールCであることを確認した。純度は99.9面積%であった。得られた
ビスフェノールCの色調評価をしたところ、ハーゼン単位色数(APHA)は4であった
【0094】
[比較例1]
(反応工程)
温度計(反応槽の壁から7cm離れた位置にバッフルを置き、バッフル内にサーモセン
サーを設置して温度を測定した)、撹拌機を備えたフルジャケット式4mのグラスライ
ニング製の反応槽に、窒素雰囲気下でオルトクレゾール700kg、トルエン950kg
、メタノール45.6kg、98質量%硫酸289.2kgを加え、攪拌混合し、混合液
Aを調製した。また、1mの調整槽にアセトン197.5kg、トルエン152kg、
ドデカンチオール16.4kgを1時間攪拌混合することで混合液Bを調製した。混合液
Aを加えた反応槽の内温が5℃以下となったときに、調整槽からポンプを用いて、混合液
Bの送液を開始した。混合液Bの滴下率が90%に到達した際に結晶が析出しはじめ、ス
ラリーの粘度が上昇し、混合不良に陥った。その結果、反応中の反応温度が目標管理温度
の10℃を上回り、最大で18.0℃まで温度が上昇し、温度管理が困難となった。3時
間後、残りの混合液Bの供給を再開し、撹拌しながら3時間かけて混合液Bを供給した。
25%水酸化ナトリウム水溶液を577.3kg加え、反応を停止した。
【0095】
(精製工程)
実施例1と同様に精製工程を行い、有機相を2016kg得た。得られた有機相を液体
クロマトグラフィーで分析した結果、オルトクレゾール基準のビスフェノールCの収率は
、82モル%であり、オルトクレゾール基準の選択率は96モル%であった。
【0096】
(晶析工程)
実施例1と同様に晶析を行い、粗精製ウェットケーキを得たのち、トルエン1880k
gを振りかけて洗浄し、遠心分離機を用いて固液分離を行い、精製ウェットケーキを72
0.1kg得た。反応液のスラリー濃度は、35.7質量%であった。得られた精製ウェ
ットケーキを、コニカルドライヤーを用いて、乾燥を行い、白色固体を608kg得た。
得られた白色固体の一部を採取し、高速液体クロマトグラフィーで組成分析を行い、生成
物がビスフェノールCであることを確認した。純度は98.9面積%であった。得られた
ビスフェノールCの色調を測定したところ、ハーゼン単位色数(APHA)が32であっ
た。
【0097】
上記の実施例1~2及び比較例1おける各条件の違い、ビスフェノール反応液の混合性
、反応中の目標管理温度との差異、オルトクレゾール基準のビスフェノールCの選択率、
スラリー濃度、得られたビスフェノールCの純度、およびハーゼン単位色数(APHA)
を下記表1にまとめた。
下記表1より、ビスフェノールの製造において、混合液Bの滴下率が80%に到達する
前に、混合液Bの供給を停止し、反応液の温度低下により結晶を早期に析出させることで
、ビスフェノールのスラリー濃度が高い反応条件であっても、混合性を良好に維持するこ
とが可能であることが分かる。工業的な生産規模であっても高収率かつ高選択率で、色調
の良好なビスフェノールを得ることが可能になったことが読み取れる。
【0098】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、様々なビスフェノールについて、簡便で、効率的で、工業的に有利に
ビスフェノールを製造することができる。本発明のビスフェノールの製造方法で製造され
たビスフェノールは、重合活性に優れるため、ポリカーボネート樹脂等の高分子材料の原
料として有用である。