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特開2024-130530ビスフェノールの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130530
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法およびポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20240920BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20240920BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20240920BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20240920BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20240920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/17
C07C39/16
B01J27/053 Z
C08G64/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040315
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】木下 未沙紀
(72)【発明者】
【氏名】永尾 剛一
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】小林 直登
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4J029
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA42A
4G169BB08A
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BB14A
4G169BD01A
4G169BD02A
4G169BD04A
4G169BD08A
4G169BD12A
4G169BE22A
4G169BE37A
4G169CB25
4G169CB70
4G169DA02
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB46
4H006AC22
4H006AC25
4H006AD15
4H006BA28
4H006BA35
4H006BA36
4H006BA37
4H006BA52
4H006BA66
4H006BE01
4H006BE03
4H006BE04
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA19
4H039CD10
4H039CD40
4J029AA09
4J029AB04
4J029AC01
4J029AE01
4J029AE04
4J029AE05
4J029AE13
4J029BB12B
4J029BB12C
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD08
4J029BD09B
4J029HA01
4J029HC04A
(57)【要約】
【課題】芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する方法
において、目的ビスフェノールの選択性を維持しつつ、スラリー濃度の高い反応液の混合
性を改善できる、ビスフェノールの製造方法の提供すること。
【解決手段】芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとから、酸触媒存在下でビスフェ
ノールを生成させるビスフェノールの製造方法において、
芳香族アルコール及び酸触媒を含む原料A、ケトン又はアルデヒドを含む原料Bのいず
れかを滴下供給液、もう一方を被滴下供給液とし、
滴下供給液を被滴下供給液に滴下供給し、反応する下記の工程A~Cを有するビスフェ
ノールの製造方法。
工程A:滴下供給液を、全供給量の80%以下まで滴下し、一時中断する工程
工程B:工程Aの液にビスフェノールの種結晶を添加し、結晶を析出させ、スラリー状の
反応液を得る工程
工程C:スラリー状の反応液に、未滴下の滴下供給液の滴下を再開する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドから、酸触媒存在下でビスフェノールを生成
させるビスフェノールの製造方法において、
芳香族アルコール及び酸触媒を含む原料A、ケトン又はアルデヒドを含む原料Bのいず
れかを滴下供給液、もう一方を被滴下供給液とし、
滴下供給液を被滴下供給液に滴下供給し、反応する下記の工程A~Cを有するビスフェ
ノールの製造方法。
工程A:滴下供給液を、全供給量の80%以下まで滴下し、一時中断する工程
工程B:工程Aの液にビスフェノールの種結晶を添加し、結晶を析出させ、スラリー状
の反応液を得る工程
工程C:スラリー状の反応液に、未滴下の滴下供給液の滴下を再開する工程
【請求項2】
前記滴下供給液が前記ケトン又はアルデヒドを含む原料Bである、請求項1に記載のビ
スフェノールの製造方法。
【請求項3】
芳香族炭化水素を用いる、請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族炭化水素が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベ
ンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンから選択されるいずれか1種以上である、請
求項3に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記酸触媒が、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、リン酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪族ス
ルホン酸のいずれか1種以上である、請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項6】
前記ビスフェノールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン
、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1-
ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンから選択されるいずれか1種
以上である、請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法により製造したビス
フェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造する、ポリカーボネート樹脂の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとからビスフェノールを製造する
方法に関する。また、本発明は、前記ビスフェノールの製造方法で得られたビスフェノー
ルを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明の方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、
芳香族ポリエステル樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カ
ビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂な
どの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2
,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-
メチルフェニル)プロパンなどが広く知られている(特許文献1)。また、これらのビス
フェノールは、通常、強酸性触媒の存在下で製造されるが、腐食性の観点から専用の装置
が必要となる塩化水素に代わり硫酸を触媒とする製造方法などが知られている。(特許文
献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-214248号公報
【特許文献2】特開平11-49714号公報
【特許文献3】特開2021-147367
【特許文献4】特開昭60-038335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂等の様々な樹脂の原料として幅広い用途に使
用され、今後も、その用途の拡大が期待される。そのため、品質の良いビスフェノールを
、工業的規模で、より効率良く製造することが求められている。
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載のビスフェノールの製造方法は、その製造量をス
ケールアップした工業的な観点からは十分に検討されているとはいえない。
ビスフェノールの生成反応では、一般的に、反応が進むにつれて、生成物であるビスフ
ェノールが析出し、スラリー状態で反応が行われる。このような反応系では、反応の進行
に伴い、固体のビスフェノール量が増加し、反応液中の固体のビスフェノールの濃度(ス
ラリー濃度)が高く、粘性の高い反応液となることで、混合不良が生じるおそれがある。
【0006】
例えば、特許文献1、2に記載のビスフェノールの製造方法では、実際にビスフェノー
ルを製造している例として、10リットル以下の小スケールの反応槽でビスフェノールを
製造したことが記載されている。
一般的に10リットル以下の小さいスケールの反応槽においては、反応槽と攪拌翼を自
由に組み合わせることが容易であるので、粘性の高い反応液であっても、反応槽と攪拌翼
とのクリアランスを小さくして攪拌効率を維持することが容易である。そのため、反応の
進行に伴いビスフェノールが析出するような反応系においても、反応液の混合性が悪化す
ることを回避しやすい傾向にある。
【0007】
それに対し、工業的規模でのビスフェノールの製造方法では、一般的には、立方メート
ル(1000リットル)以上の反応槽を用いて製造する。これらのスケールの設備は、汎
用的な構成になることが多く、撹拌翼の形状や、反応槽と攪拌翼とのクリアランスが、必
ずしもビスフェノールの製造に適した設計であるとは言えない。そのため、ビスフェノー
ルの生成反応を行い、ビスフェノールの析出により反応液の粘性が増加した場合、反応槽
内にビスフェノールの固体が局所的に堆積し、混合不良に陥ることが懸念される。
よって、特許文献1、2に開示されているビスフェノールの製造方法では、その製造量
をスケールアップした工業的規模での製造方法における問題点などを十分に検討されてい
るとはいえない。
【0008】
特許文献3の実施例1に記載の方法では、大スケールでの実施となった場合に、ビスフ
ェノールの生成反応において、ビスフェノールの結晶が析出し、反応液がスラリー状にな
った際、スラリーが局所的に堆積し、混合不良に陥るトラブルが発生した結果、得られた
ビスフェノールの色調悪化や副生成物の増加が発生し、ビスフェノールの品質が低下する
懸念がある。
【0009】
ここでの反応液混合不良の原因としては、反応液の粘性の増加が挙げられ、更に反応液
の粘性の増加の原因の一つとして、芳香族アルコールや芳香族炭化水素等の油相と酸触媒
や副生水等の水相が混和し、エマルジョンを形成し、見掛け粘度が高くなるためであると
推定される。
【0010】
また、特許文献4の実施例1に記載の方法では、大スケールでの実施となった場合に、
生成したビスフェノールが酸触媒の塩酸及び塩化水素ガスと反応液中で常に接触する環境
にあるため、ビスフェノールが容易に分解し得るため、ビスフェノールの選択性が悪化す
ることが推定される。
【0011】
かかる状況下、ビスフェノールの製造方法において、製造スケールに関わらずビスフェ
ノールを高選択率で合成可能な反応条件の下、反応液の混合性を改善する方法が求められ
ていた。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、芳香族アルコールとケトン又はア
ルデヒドとからビスフェノールを製造する方法において、目的ビスフェノールの選択性を
維持しつつ、スラリー濃度の高い反応液の混合性を改善できる、ビスフェノールの製造方
法の提供を目的とする。また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノール
を用いたポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、芳香族アルコール及び酸
触媒を含む原料A、ケトン又はアルデヒドを含む原料Bのいずれかを滴下供給液、もう一
方を被滴下供給液とし、滴下供給液の滴下率を制御し、特定の滴下率でビスフェノールの
種結晶を添加し、ビスフェノールを析出させ、反応液を早期にスラリー状態にすることで
、目的ビスフェノールの選択性を維持しつつ、反応液粘度を低減可能であることを見出し
、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドから、酸触媒存在下でビスフェノー
ルを生成させるビスフェノールの製造方法において、
芳香族アルコール及び酸触媒を含む原料A、ケトン又はアルデヒドを含む原料Bのいず
れかを滴下供給液、もう一方を被滴下供給液とし、
滴下供給液を被滴下供給液に滴下供給し、反応する下記の工程A~Cを有するビスフェ
ノールの製造方法。
工程A:滴下供給液を、全供給量の80%以下まで滴下し、一時中断する工程
工程B:工程Aの液にビスフェノールの種結晶を添加し、結晶を析出させ、スラリー状
の反応液を得る工程
工程C:スラリー状の反応液に、未滴下の滴下供給液の滴下を再開する工程
<2> 前記滴下供給液が前記ケトン又はアルデヒドを含む原料Bである、<1>に記
載のビスフェノールの製造方法。
<3> 芳香族炭化水素を用いる、<1>又は<2>に記載のビスフェノールの製造方
法。
<4> 前記芳香族炭化水素が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジ
エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンから選択されるいずれか1種以上で
ある、<3>に記載のビスフェノールの製造方法。
<5> 前記酸触媒が、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、リン酸、芳香族スルホン酸、及び
脂肪族スルホン酸のいずれか1種以上である、<1>~<4>のいずれかに記載のビスフ
ェノールの製造方法。
<6> 前記ビスフェノールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)
プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、及び
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンから選択されるいず
れか1種以上である、<1>~<5>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
<7> <1>~<6>のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法により製造した
ビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造する、ポリカーボネート樹脂の製造
方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業的な生産規模であっても、目的ビスフェノールの選択性を維持し
つつ、反応液の混合性を改善し、良好な品質のビスフェノールの製造方法が提供される。
また、前記ビスフェノールの製造方法で製造したビスフェノールを用いたポリカーボネー
ト樹脂の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本
発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定
されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後
の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
[ビスフェノールの製造方法]
本発明は、芳香族アルコール及び酸触媒を含む原料A、ケトン又はアルデヒドを含む原
料Bのいずれかを滴下供給液とし、もう一方を被滴下供給液とし、滴下供給液を被滴下供
給液に滴下供給する工程において、下記工程A~工程Cを有する、ビスフェノールの製造
方法(以下、「本発明のビスフェノールの製造方法」と称する場合がある。)に関するも
のである。
工程A:滴下供給液を全供給量の80%以下まで滴下し、一時中断する工程
工程B:工程Aの液にビスフェノールの種結晶を添加し、結晶を析出させ、スラリー状の
反応液を得る工程
工程C:スラリー状の反応液に、未滴下の滴下供給液の滴下を再開する工程
【0017】
本発明のビスフェノールの製造方法では、滴下供給液を全供給量の80%以下の時点に
おいて、滴下を中断させ種結晶を添加することで、早期にビスフェノール結晶を析出させ
る。早期にビスフェノール結晶を析出させることで、反応液の粘度が低減され、混合不良
が抑制される効果が期待される。
【0018】
(ビスフェノール)
本発明のビスフェノールの製造方法で製造されるビスフェノールは、通常、以下の一般
式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化1】
【0020】
~Rの置換基としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基
、アルコキシ基、アリール基、アミノ基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキ
シ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子
、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、
i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペ
ンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシ
ル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基
、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチル
オキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-
オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基
、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シク
ロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、
フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
これらのうちRとRは立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、好まし
くは水素原子である。
【0021】
とRの置換基としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基
、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、
置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n
-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペン
チル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチ
ルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メト
キシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブト
キシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシル
オキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デ
シルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シ
クロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチ
ル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニ
ル基などが挙げられる。
【0022】
とRは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、RとRとが隣
接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。例えば、シク
ロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3
,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シク
ロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオ
レニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0023】
具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-
ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-
ジメチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シ
クロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,
3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メ
チルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-
ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ
フェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3
-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,
4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこ
れらに限定されるものではない。
【0024】
この中でも、本発明のビスフェノールの製造方法で製造される好適なビスフェノールは
、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-
ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1-ビス(4-ヒドロキシ
-3-メチルフェニル)シクロヘキサンからなる群から選択されるいずれかであり、より
好適には、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン又は1,1-
ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサンである。
【0025】
(原料A)
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる原料Aは、芳香族アルコールと酸触媒とを
含む溶液である。原料Aは、芳香族アルコールと酸触媒とからなるものであってもよく、
それ以外の成分を含むものであってもよい。例えば、芳香族アルコールと酸触媒と有機溶
媒とを含む溶液としてもよい。
【0026】
(芳香族アルコール)
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールは、通常、以下の一般式
(2)で表される化合物である。
【0027】
【化2】
【0028】
一般式(2)において、R~Rは、上記一般式(1)のR~Rにおけるものと
同義である。
【0029】
とRは立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから水素原子であることが
好ましい。また、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基
、アリール基又はアミノ基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることが
より好ましい。例えば、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基であ
り、R及びRが、水素原子である化合物が挙げられる。アルキル基は、炭素数1~1
2のアルキル基や炭素数1~6のアルキル基とできる。
【0030】
具体的には、上記一般式(2)で表される化合物として、フェノール、メチルフェノー
ル(クレゾール)、ジメチルフェノール(キシレノール)、エチルフェノール、プロピル
フェフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポ
キシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニル
フェノールなど等が挙げられる。この中でも、フェノール、メチルフェノール及びジメチ
ルフェノールからなる群から選択されるいずれかが好ましく、メチルフェノール又はジメ
チルフェノールがより好ましく、メチルフェノールが更に好ましい。
【0031】
この中でも、フェノール、メチルフェノール及びジメチルフェノールからなる群から選
択されるいずれかが好ましく、メチルフェノール又はジメチルフェノールがより好ましく
、メチルフェノールが更に好ましい。
【0032】
(酸触媒)
本発明のビスフェノールの製造方法における酸触媒としては、硫酸、塩化水素ガス、塩
酸、p-トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸などの脂肪族ス
ルホン酸、リン酸などを用いることができる。
【0033】
中でも、酸触媒は、硫酸、塩化水素ガス、塩酸、芳香族スルホン酸、及び脂肪族スルホ
ン酸からなる群から選択される1以上であることが好ましい。芳香族アルコールと、ケト
ン又はアルデヒドとの縮合反応において、リン酸では、反応性が低く、ビスフェノールが
析出しにくく、スラリー状態で縮合反応を行うことが難しいため、ビスフェノールの収率
や品質が低下しやすい傾向にある。より好ましくは、硫酸、塩化水素ガス、及び塩酸から
なる群より選ばれる1以上であることが好ましく、更に好ましくは、硫酸及び/又は塩化
水素ガスである。反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないとい
う観点から、酸触媒としては硫酸が特に好ましい。
【0034】
硫酸は、化学式HSOで表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈さ
れた硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば
、希硫酸とは、質量濃度が50質量%未満の硫酸水溶液である。用いる硫酸の濃度(硫酸
水溶液(HSO+HO)中のHSOの濃度)が一定以上であると、含まれる水
の量が少なくなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しやすくなり、ビスフェノール
を製造する反応時間が短くなり、効率的にビスフェノールを製造することができる。その
ため、用いる硫酸の濃度は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上
であり、更に好ましくは80質量%以上である。また、用いる硫酸の濃度の上限は、通常
99.5質量%以下又は99質量%以下である。
【0035】
芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比(酸触媒のモル数/芳香族アルコールのモル
数)は、少ない場合は、縮合反応の進行とともに副生する水によって酸触媒が希釈されて
反応に時間を要する。また、多い場合は、副生物が多量に生成する場合がある。これらの
ことから、反応液における原料である芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比は、好ま
しくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上
であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、
特に好ましくは1以下である。
【0036】
原料A中の酸触媒の含有量は、特段制限されないが、効率よくビスフェノールを製造で
きる観点から、通常0.1モル% 以上あり、0.2モル%以上であることが好ましく、
0.5モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることがさらに好ま
しく、また、通常50モル%以下であり、40モル%以下であることが好ましく、30モ
ル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。
原料Aにおける芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比は、上述した反応液における
芳香族アルコールに対する酸触媒のモル比と同様の観点から、該モル比と同様のモル比を
適用することができる。
【0037】
後述の原料Bに含まれるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比((酸触媒のモ
ル数/ケトンのモル数)又は(酸触媒のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ない場合
は、縮合反応の進行とともに副生する水によって酸触媒が希釈されて反応に時間を要する
。また、多い場合は、ケトン又はアルデヒドの多量化が進行する場合ある。これらのこと
から、原料であるケトン又はアルデヒドに対する酸触媒のモル比は、好ましくは0.01
以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上である。また、その上
限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは5以下である。
【0038】
(原料B)
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる原料Bは、ケトン又はアルデヒドを含む溶
液である。原料Bは、ケトン又はアルデヒドからなるものであってもよく、それ以外の成
分を含んでもよい。例えば、チオール助触媒を用いる場合、チオール助触媒は、ケトン又
はアルデヒドに予め混合してから反応に供することが好ましい。チオール助触媒と、ケト
ン又はアルデヒドとの混合方法は、チオール助触媒に、ケトン又はアルデヒドを供給して
もよく、ケトン又はアルデヒドにチオール助触媒を供給しても良い。また、ケトン又はア
ルデヒドを含む溶液は、有機溶媒を含むものとしてもよい。
【0039】
(ケトン又はアルデヒド)
本発明のビスフェノールの製造方法に用いるケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一
般式(3)で表される化合物である。
【0040】
【化3】
【0041】
一般式(3)において、R、Rは、上記一般式(1)のR、Rにおけるものと
同義である。
【0042】
好ましくは、R及びRは、それぞれに独立に、水素原子、アルキル基、アリール基
、又は、RとRとが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン
基である。アルキル基は、炭素数1~12のアルキル基や炭素数1~6のアルキル基とで
きる。例えば、R及びRは、それぞれに独立に、アルキル基、又は、RとRとが
隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されたシクロアルキリデン基である化合物が挙げら
れる。
【0043】
一般式(3)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデ
ヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデ
ヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド
、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、ブタノン
、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノ
ン、ドデカノンなどのケトン類;ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエ
チルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、
クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロ
ピルケトンなどのアリールアルキルケトン類;シクロプロパノン、シクロブタノン、シク
ロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノ
ン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン
類等が挙げられる。
【0044】
縮合に用いるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比(芳香族アルコ
ールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドとのモル
数))は、低いとケトン又はアルデヒドの自己縮合反応生成物が多く副生することから、
1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましい。また、
該モル比が高いと、未反応の芳香族アルコールを回収するための時間を要することから、
20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0045】
(チオール助触媒)
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合させる反応では、助触媒としてチ
オール助触媒を用いることができる。チオール助触媒としては、例えば、メルカプト酢酸
、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-
メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン
、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカ
プタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメ
ルカプタン(デカンチオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデ
シルメルカプタン(ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカ
プタン、ペンタデシルメルカプタン、メルカプトフェノールなどが挙げられる。
【0046】
縮合反応に用いるケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比(チオールのモル数
/ケトンのモル数、又はチオールのモル数/アルデヒドのモル数)は、効果的にビスフェ
ノールの反応選択性改善効果を得る観点から、ケトン又はアルデヒドに対するチオールの
モル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ま
しくは0.01以上である。また、ビスフェノールへの混入を防ぐ観点からその上限は、
好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0047】
(有機溶媒)
ビスフェノールを生成する反応は、有機溶媒の存在下で行ってもよい。有機溶媒として
は、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる。これらの溶
媒は、1以上を含んでもよい。例えば、芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混合溶媒
を用いてもよい。
【0048】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、
ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられる。
【0049】
脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、
ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。
【0050】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i
-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール
、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノ
ナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノールなどの1価のアルキ
ルアルコール;エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールな
どの多価アルコールなどが挙げられる。
脂肪族アルコールは、反応効率等の観点から、炭素数1~12の1価のアルキルアルコ
ールが好ましく、炭素数1~8の1価のアルキルアルコールとすることがより好ましい。
【0051】
溶媒を用いる場合、原料であるケトン又はアルデヒドに対する溶媒の質量比((有機溶
媒の質量/ケトンの質量)又は(有機溶媒の質量/アルデヒドの質量))は、混合不良や
ケトン又はアルデヒドの多量化を抑制する観点から、ケトン又はアルデヒドに対する溶媒
の質量比は、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、また、反応効率の観点から
、その上限は、溶媒の種類に応じて、ビスフェノールの析出が起こる範囲で調整すればよ
く、50以下であってよく、30以下であってよい。
【0052】
生成してくるビスフェノールが析出しやすく、反応終了後、反応液からビスフェノール
を回収する際の損失(例えば、晶析時の濾液への損失)を低減できることからも、ビスフ
ェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が低い溶
媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香族炭化
水素を主成分として含むことが好ましく、有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上
含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むこと
が更に好ましい。
【0053】
(滴下供給液と被滴下供給液)
本発明のビスフェノールの製造方法では、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒド
との縮合反応において、芳香族アルコールと酸触媒とを含む原料A、ケトン又はアルデヒ
ドを含む原料Bのいずれか一方を滴下供給液、もう一方を被滴下供給液とし、滴下供給液
を被滴下供給液に滴下供給し、縮合反応を行う。上記方法を取ることにより、反応収率の
維持が期待できる。また、選択率維持の観点から、前記滴下供給液がケトン又はアルデヒ
ドを含む原料Bであることが好ましい。
【0054】
被滴下供給液に滴下供給液を滴下供給する速度は、特段制限されないが、ビスフェノー
ルの縮合反応は発熱反応であるため、所望の反応温度になるように滴下供給液の供給速度
を調整するのが望ましい。また、反応槽容積に対する反応槽表面積は、槽が大きくなるほ
ど相対的に小さくなり徐熱効率が悪化するため、所望の反応温度を超過しないよう留意す
る必要がある。そのため、滴下供給液の滴下速度は、時間あたりの滴下供給液の滴下率{
(被滴下供給液に供給した滴下供給液の質量/滴下供給液全質量)÷時間}として表現し
た場合、3.0/時間以下であることが好ましい。また、滴下供給速度が遅いと反応が完
結するまでに時間を要するため、釜効率が悪化する。そのため0.1/時間以上が好まし
い。
【0055】
反応槽の容量について、所望の生産量に合わせ、適宜反応槽のスケールは選択される。
一般的な反応槽のスケールとしては、0.5m以上、20m以下であり、1m以上
、10m以下がより好ましい。
セパラブルフラスコを用いる場合は、100mL以上、3000mL以下であり、30
0mL以上、1500mL以下がより好ましい。
【0056】
ビスフェノール生成反応時の攪拌回転数について、一般的にスケールが大きくなると、
動力見合いで攪拌するため、回転数は少なくなる。回転数が少ない場合は、反応熱の徐熱
が不十分になる恐れがある。回転数が多すぎると攪拌動力に負荷がかかり装置破損のリス
クがある。そのため、好ましくは10回転毎分以上800回転毎分以下、20回転毎分以
上700回転毎分以下がより好ましい。
【0057】
反応温度は、低すぎると縮合反応が進行しにくくなることから、好ましくは-30℃以
上であり、より好ましくは-20℃以上であり、更に好ましくは-15℃以上である。ま
た、反応温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、
助触媒であるチオールを用いた場合にはチオールの酸化反応が進行しやすくなるため、好
ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは40℃以
下である。
【0058】
本発明のビスフェノールの製造方法において、縮合反応の反応時間は、製造するビスフ
ェノールの種類や反応温度、製造スケール等の反応条件により適宜調整されるものである
が、通常、500時間以下であり、400時間以下や350時間以下であってもよい。反
応時間が長い場合、生成したビスフェノールが分解する懸念があるため、好ましくは30
時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。また、反
応時間の下限は、通常、0.5時間以上であり、1時間以上であることが好ましく、1.
5時間以上であることがより好ましい。
【0059】
なお、酸触媒下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとが接触することで縮
合反応が起こるため、反応時間の開始点は、芳香族アルコール及び酸触媒を含む原料Aと
、ケトン又はアルデヒドを含む原料Bとの接触が開始した時点(縮合反応開始時点)とな
る。例えば、原料Aを被滴下供給液とし、原料Bを1時間かけて滴下供給した後、1時間
反応させた場合、反応時間は2時間である。
【0060】
また、反応は、例えば、用いる酸触媒と同等量以上の水や塩基を加えて酸触媒濃度を低
下させることで停止させることが可能である。
【0061】
(滴下中断タイミング)
滴下供給液の滴下を一時中断するタイミングは、全供給量を100%としたとき、80
%以下である。滴下供給量の管理は、滴下供給液の残存量を質量で管理してもよく、流量
計で管理してもよい。滴下を中断するタイミングについて、反応液の見掛け粘度上昇を防
ぐ観点から、80%以下が好ましく、75%以下からより好ましく、70%以下がさらに
好ましい。一方、ビスフェノールが十分生成する前に種結晶を添加すると、効率的にビス
フェノールの結晶析出を促すことが出来ないため、20%以上が好ましく、25%以上が
より好ましく、30%以上がさらに好ましい。
【0062】
種結晶の添加量は、特に制限されないが、効率的に効果を得る観点から、芳香族アルコ
ールに対して、0.001~5質量%である。種結晶の添加量が0.001質量%未満で
は結晶が析出せず、効果が全く得られないか得られても僅かであり、5質量%を超して添
加しても5質量%以下の場合とほとんど差がない。
【0063】
本発明のビスフェノールの製造方法は、ビスフェノールの結晶が分散したスラリー状の
反応液を得る反応工程の後、ビスフェノールを精製する精製工程を有するものとできる。
【0064】
(精製方法)
本発明のビスフェノールの製造方法によって得られたビスフェノールの精製は、常法に
より行うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段によ
り精製することが可能である。具体的には、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機
相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、
洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前
に蒸留により余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させる。
【0065】
(ビスフェノールの用途)
本発明のビスフェノールの製造方法で得られるビスフェノールは、光学材料、記録材料
、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリ
エーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウ
レタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステ
ル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化
性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることが
できる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤
としても有用である。
【0066】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の
原料(モノマ-)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキ
シ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好まし
く、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0067】
(ポリカーボネート樹脂の製造方法)
本発明のビスフェノールの製造方法にて得られたビスフェノール(以下、「本発明のビ
スフェノール」と記載する場合がある。)を原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法
について説明する。本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法にて得られるポリカーボネ
ート樹脂は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例え
ば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応
させる方法などにより製造することができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適
宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料
とした一例を説明する。
【0068】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフ
ェノールに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジ
フェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱
安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の
分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのこと
から、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モ
ル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは
1.2モル以下である。
【0069】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給す
ることもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0070】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造
する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造
方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ
土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以
上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用
いることが望ましい。
【0071】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05
μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であ
り、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μ
モル以下である。
【0072】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を
製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマ
ーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0073】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に
連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが
好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供
給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマー
が生産される。
【0074】
[実施例及び比較例]
以下、実施例および比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要
旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0075】
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、アセトン、トルエン、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、ビス
フェノールC、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸セシウムは、富士フィル
ム和光純薬株式会社の試薬を使用した。炭酸ジフェニルは三菱ケミカル株式会社製を使用
した。
【0076】
[評価]
<スラリー状反応液の混合性>
スラリー状反応液の混合性の評価は以下の基準に基づき目視で実施した。
◎:ビスフェノールの固体の堆積・偏流が見られない。
○:ビスフェノールの固体が局所的に堆積し、一部偏流が見られる。
△:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、攪拌翼付近を除き、攪拌不能。
×:ビスフェノールの固体が全体的に堆積し、攪拌不能。
【0077】
<ビスフェノールCを含む反応液の組成分析>
ビスフェノールCを含む反応液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以
下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製 LC-2010A
インタクト株式会社製 ScherzoSM-C18
3μm 250mm×3.0mmID
・方式:低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル:脱塩水=1.500g:1mL:9
00mL:150mLの溶液
・分析時間0分では、A液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~42分は、溶離液組成をA液:B液=10:90へ徐々に変化させ、
分析時間42~50分は、A液:B液=10:90に維持、
・流速0.34mL/分
・検出波長は280nm
【0078】
<スラリー状反応液の粘度測定>
スラリー状反応液の粘度測定は、アントンパール社の測定機器を用いて、以下の手順と
条件で行った。
・装置:アントンパール社 モジュラーコンパクトレオメータ MCR102
・測定端子:パラレルプレート型
・測定範囲:せん断速度0.1~1000の範囲で、せん断速度0.1から1000に上
昇させた後に、1000から0.1に下げて粘度測定実施。0.1から1000及び10
00から0.1で、それぞれ21点測定。
・土台温調:10℃
【0079】
<ビスフェノールCの重合活性評価>
得られたビスフェノールCを用いてポリカーボネート樹脂を製造し、280℃に昇温し
てから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)をビスフェノールの重合活性として評
価した。ビスフェノールの重合活性は、以下の基準に基づき、評価した。
〇:140~200分
△:140分未満、及び200分以上
×:既定の重合触媒量で重合反応が進行しない
【0080】
[実施例1]
(1-1)ビスフェノールCの製造
温度計、滴下ロート、ジャケット、イカリ型攪拌翼を備えた1Lのガラス製セパラブル
フラスコを用意した。窒素雰囲気にしたこのセパラブルフラスコに、トルエン280.0
g、メタノール15.0g、オルトクレゾール230.4g(2.13モル)を入れ、内
温を10℃以下に維持しつつ、撹拌しながら98質量%の硫酸95.0gを入れ、原料A
とした。
【0081】
前記滴下ロートに、アセトン61.0g、ドデカンチオール5.4g、トルエン50.
0gを入れ、原料Bとした。原料Aを10℃以下に維持した状態で、該滴下ロート内の原
料Bを原料Aへ滴下供給し、反応液を得た。
原料Bを30分かけて58.2g滴下した時点で滴下を中断した。滴下中断時点の原料
Bの滴下量は、原料Bの全供給量に対し50%相当量であった。反応液に、ビスフェノー
ルCの結晶を1.009g添加し、ビスフェノールCを析出させた。スラリー状となった
反応液に、原料Bの滴下供給を再開し、原料B58.2gを30分かけて滴下した。その
後、10℃に維持した状態で更に1時間撹拌し、スラリー状の反応液を得た。このスラリ
ー状反応液の混合性良好であり、ビスフェノールCの固体の堆積及び偏流は確認されなか
った。
【0082】
得られたスラリー状反応液に、25%水酸化ナトリウム水溶液120gを加えて撹拌し
ながら75℃まで昇温し、ビスフェノールCを溶解させた後、油水分離し水相をセパラブ
ルフラスコの底から除去し有機相を得た。この有機相に脱塩水100gを加えて攪拌し、
内温が75℃に達した後、静置させて油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラ
スコの底から除去した。得られた有機相に、3質量%炭酸水素ナトリウム水溶液120g
を加えて、80℃で撹拌して中和し、油水分離した。油水分離後、水相をセパラブルフラ
スコの底から除去し、ビスフェノールCを含む反応液627.8gを得た。なお、攪拌の
回転数は全工程600回転毎分で行った。
【0083】
(1-2)スラリー状反応液の粘度測定
アントンパール社製モジュラーコンパクトレオメータを用いて粘度測定を行った結果、
せん断速度0.1009[1/s]のとき、せん断粘度は1092[Pa・s]であった
【0084】
(1-3)ビスフェノールCを含む反応液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いて、(1-1)で得られた反応液の組成を分析した
ところ、クレゾールが4.9質量%、ビスフェノールCが36.6質量%検出された。ビ
スフェノールCの反応収率(生成したビスフェノールCのオルトクレゾール換算のモル数
/原料のオルトクレゾールのモル数×100)は、85.5モル%(36.6[質量%]
×反応液627.8[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2/原料の
オルトクレゾールのモル数2.1[モル]=85.5モル%)であった。ビスフェノール
Cの選択率(生成したビスフェノールCのオルトクレゾール換算のモル数/反応に使用さ
れたオルトクレゾールのモル数×100)は、98.9モル%(36.6[質量%]×反
応液627.8[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2/(原料のオ
ルトクレゾールのモル数2.1[モル]-(4.9[質量%]/100×反応液627.
8[g]/クレゾールの分子量108[g/モル]))=98.9モル%)であった。
【0085】
(1-4)ビスフェノールCの精製
(1-1)で得られたビスフェノールCを含む反応液に3.0質量%炭酸水素ナトリウム
水溶液120gを加え、80℃で攪拌したのち、静置して油水分離し、水相を除去した。
さらに、得られた有機相に脱塩水を加え、80℃で攪拌したのち、静置して油水分離し、
水相を除去した。この脱塩水による有機相の洗浄操作を4回繰り返した。洗浄した有機相
を80℃から5℃まで徐々に冷却し、ビスフェノールCの結晶を析出させた。得られたビ
スフェノールCの結晶を含む晶析スラリー液を、遠心分離機を用いて固液分離し、粗ウェ
ットケーキを得た。取り出した粗ウェットケーキにトルエンを175g供給し、ケーキを
ほぐしながら懸濁洗浄を実施し、再度遠心分離機を用いて固液分離を行った。この作業を
更に2回繰り返し、精ウェットケーキを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて
、軽沸分を留去させ、ビスフェノールCの白色固体195gを得た。
【0086】
(1-5)ビスフェノールCの重合評価
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、(1-4)で得られ
たビスフェノールCを100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(
0.4モル)及び、400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラ
ス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返
し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬さ
せ、内容物を溶融した。
【0087】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルの
オリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の
圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内
の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステ
ル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間か
けて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェ
ノールを系外に除去した。
【0088】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、
重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮
合反応を終了した。
280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は170分であっ
た。
【0089】
[実施例2]
(2-1)ビスフェノールCを生成する反応
原料Bを69.8g滴下した時点(原料Bの全供給量に対して60%)で、滴下を中断
し、ビスフェノールCの種結晶を1.002g添加した以外は、実施例1と同様の操作を
行い、ビスフェノールCを含む反応生成液627.1gを得た。スラリー状反応液の混合
性は良好であり、ビスフェノールの固体の堆積及び偏流は確認されなかった。
【0090】
(2-2)ビスフェノールCを含む反応液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応液の組成を分析した
ところ、クレゾール5.0質量%、ビスフェノールC36.8質量%が検出された。ビス
フェノールCの反応収率は、85.9モル%(36.8[質量%]×反応液の質量627
.1[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2/原料のオルトクレゾー
ルのモル数2.1[モル]=85.9モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、
99.6モル%(36.8[質量%]×反応液627.1[g]/ビスフェノールCの分
子量256[g/モル]×2/(原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]-(5
.0[質量%]/100×反応液627.1[g]/クレゾールの分子量108[g/モ
ル]))=99.6モル%)。
【0091】
(2-3)ビスフェノールCの精製
実施例1と同様に実施し、ビスフェノールCの白色固体を196g得た。
(2-4)ビスフェノールCの重合活性評価
(2-3)で得られたビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した
。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は160分であっ
た。
【0092】
[実施例3]
(3-1)ビスフェノールCを生成する反応
原料Bを81.5g滴下した時点(原料Bの全供給量に対して70%)で、滴下を中断
し、ビスフェノールCの種結晶を1.005g添加した以外は、実施例1と同様の操作を
行い、ビスフェノールCを含む反応生成液626.9gを得た。スラリー状反応液の混合
性は良好であり、ビスフェノールの固体の堆積及び偏流は確認されなかった。
【0093】
(3-2)ビスフェノールCを含む反応液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応液の組成を分析した
ところ、クレゾール5.1質量%、ビスフェノールC36.3質量%が検出された。ビス
フェノールCの反応収率は、84.7モル%(36.3[質量%]×反応液の質量626
.9[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2/原料のオルトクレゾー
ルのモル数2.1[モル]=84.7モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、
98.6モル%(36.3[質量%]×反応液626.9[g]/ビスフェノールCの分
子量256[g/モル]×2/(原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]-(5
.1[質量%]/100×反応液626.9[g]/クレゾールの分子量108[g/モ
ル]))=98.6モル%)であった。
【0094】
(3-3)ビスフェノールCの精製
実施例1と同様に実施し、ビスフェノールCの白色固体を193g得た。
(3-4)ビスフェノールCの重合活性評価
(3-3)で得られたビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した
。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は167分であっ
た。
【0095】
[実施例4]
(4-1)ビスフェノールCを生成する反応
原料Bを93.1g滴下した時点(原料Bの全供給量に対して80%)で、滴下を中断
し、ビスフェノールCの種結晶を1.010g添加した以外は、実施例1と同様の操作を
行い、ビスフェノールCを含む反応液627.1gを得た。スラリー状反応液の混合性は
良好であり、ビスフェノールの固体の堆積及び偏流は確認されなかった。
【0096】
(4-2)ビスフェノールCを含む反応液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応液の組成を分析した
ところ、クレゾール5.2質量%、ビスフェノールC36.5質量%が検出された。ビス
フェノールCの反応収率は、85.2モル%((36.5[質量%]×反応液の質量62
7.1[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2/原料のオルトクレ
ゾールのモル数2.1[モル]=85.2モル%)であった。ビスフェノールCの選択率
は、99.5モル%(36.5[質量%]×反応液627.1[g]/ビスフェノールC
の分子量256[g/モル]×2/(原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル]-
(5.2[質量%]/100×反応液627.1[g]/クレゾールの分子量108[g
/モル]))=99.5モル%)であった。
【0097】
(4-3)ビスフェノールCの精製
実施例1と同様に実施し、白色の精製ビスフェノールCを195g得た。
(4-4)ビスフェノールCの重合活性評価
(4-3)で得られた精製ビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施
した。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は173分で
あった。
【0098】
[比較例1]
(比1-1)ビスフェノールCを生成する反応
原料Bを104.7g滴下した時点(原料Bの全供給量に対して90%)で、滴下を中
断し、ビスフェノールCの種結晶を1.001g添加した以外は、実施例1と同様の操作
を行った。
ビスフェノールCの結晶が析出し、スラリー状反応液となったが、ビスフェノールの固
体が全体的に堆積し攪拌不能になったため、原料Bを全量供給した時点で25%水酸化ナ
トリウム水溶液を供給し、反応を停止させた。最終的にビスフェノールCを含む反応生成
液627.5gを得た。
【0099】
(比1-2)スラリー状反応液の粘度測定
アントンパール社製モジュラーコンパクトレオメータを用いて粘度測定を行った結果、
せん断速度0.101[1/s]のとき、せん断粘度は3394[Pa・s]であった。
【0100】
(比1-3)ビスフェノールCを含む反応液の組成分析
高速液体クロマトグラフィーを用いてビスフェノールCを含む反応液の組成を分析した
ところ、クレゾール5.6質量%、ビスフェノールC34.8質量%が検出された。ビス
フェノールCの反応収率は、81.2モル%(34.8[質量%]×反応液の質量627
.5[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2/原料のオルトクレゾー
ルのモル数2.1[モル]=81.2モル%)であった。ビスフェノールCの選択率は、
96.1モル%(34.8[質量%]×反応液627.5[g]÷100/ビスフェノー
ルCの分子量256[g/モル]×2/(原料のオルトクレゾールのモル数2.1[モル
]-(5.6[質量%]/100×反応液627.5[g]/クレゾールの分子量108
[g/モル]))=96.1モル%)であった。
【0101】
(比1-4)ビスフェノールCの精製
実施例1と同様に実施し、ビスフェノールCの白色固体を145g得た。
(比1-5)ビスフェノールCの重合活性評価
(比1-4)で得られたビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施し
たが、規定の重合触媒量(400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μL)では重合
反応が進行しなかった。
【0102】
実施例1~4及び比較例1の結果を表1に示す。表から読み取れる通り、ビスフェノー
ルCの結晶析出を、原料Bの滴下率80%以下のタイミングに制御することで、スラリー
状反応液の粘度を低減することが可能であり、混合性を良好に保つことが可能であり、そ
の結果、ビスフェノールCを高収率かつ高選択率で得ることが可能である。
【0103】
【表1】
【0104】
[実施例5]
(5-1)ビスフェノールを生成する反応
温度計、撹拌機を備えたフルジャケット式4mのグラスライニング製の反応釜に、窒
素雰囲気下でオルトクレゾール700kg(6.48キロモル)、トルエン950kg、
メタノール45.6kg、98質量%硫酸289.2kgを加え、攪拌混合し、原料Aを
調製した。また、1mの調製槽にアセトン197.5kg、トルエン152kg、ドデ
カンチオール16.4kgを混合し原料Bを調製した。原料Aの温度が5℃となったのを
確認後、原料Bを、ポンプを用いて送液し反応を開始した。このとき、反応液の温度が1
0℃を超えないように原料Bを滴下供給した。2時間40分後、原料Bの滴下率が全供給
量の60%に達した時点で滴下を停止し、ビスフェノールCの種結晶3.1kgを投入し
、ビスフェノールCを析出させた。その後、反応液の温度が5℃に下がったのを確認し、
原料Bの滴下供給を再開した。原料Bを全量滴下した後、反応液の温度を10℃に保ち2
時間攪拌し熟成させた。このスラリー状反応液の混合性は良好であり、ビスフェノールの
固体の堆積及び偏流は確認されなかった。
熟成後、反応液に25%水酸化ナトリウム水溶液を660.9kg加え、反応を停止し
、攪拌しながら反応釜の内温を80℃まで昇温しビスフェノールCを溶解させ、静置させ
て油水分離を行い、水相を除去し有機相を得た。この有機相に脱塩水を加え、80℃で攪
拌したのち、静置し油水分離を行い、水相を反応釜から除去した。得られた有機相に1.
5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、80℃で攪拌して有機相を中和し、静置して
油水分離した。油水分離後、水相を反応釜から除去し、有機相を得た。この有機相を、温
度計、撹拌機を備えたフルジャケット式4mのグラスライニング製の洗浄釜に移送し、
1.5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、80℃で攪拌したのち、静置して油水分
離した。さらに、得られた有機相に脱塩水を加え、80℃で攪拌したのち、静置により油
水分離を行い、水相を除去し有機相を洗浄した。この操作を7回繰り返した。
【0105】
(5-2)ビスフェノールCの精製
得られた有機相を80℃から20℃まで徐々に冷却してビスフェノールCの結晶を析出
させた。さらに5℃まで冷却し、5℃に到達した後、遠心分離機を用いて固液分離を行い
、粗精製ウェットケーキを得た。
得られた粗精製ウェットケーキにトルエン745kgを振りかけて洗浄し、遠心分離機
を用いて固液分離を行い、精製ウェットケーキを757.8kg得た。得られた精製ウェ
ットケーキを、コニカルドライヤーを用いて温度85℃、圧力4hPaにて軽沸分を留去
することで、ビスフェノールCを640.6kg得た。ビスフェノールCの歩留まりはオ
ルトクレゾール基準で77.2モル%であった。(640.6kg÷ビスフェノールCの
分子量256[g/モル]×2÷原料のオルトクレゾールのモル数6.48[キロモル]
×100=77.2モル%)
【0106】
(5-3)ビスフェノールの重合活性評価
(5-2)で得られたビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施した
。280℃に昇温してから重合を終了するまでの時間(後段重合時間)は170分であっ
た。
【0107】
[比較例2]
(比2-1)ビスフェノールCを生成する反応
実施例5と同様の手順で原料Aに原料Bを滴下供給し、ビスフェノールCを生成する反
応を行った。原料Bの滴下率が85%に達したタイミングで、ビスフェノールCの結晶が
自然に析出しスラリー状の反応液となった。このスラリー状反応液は、ビスフェノールC
の固体が反応釜壁面に堆積し、撹拌翼付近のみが混合されていた。
【0108】
(比2―2)ビスフェノールCの精製
実施例5と同様に実施し、ビスフェノールCの白色固体を608.3kg得た。ビスフ
ェノールCの歩留まりはオルトクレゾール基準で73.3モル%であった。(608.3
kg÷ビスフェノールCの分子量256[g/モル]×2÷原料のオルトクレゾールのモ
ル数6.48[キロモル]×100=73.3モル%)
【0109】
(比2-3)ビスフェノールの重合活性評価
(比2-2)で得られたビスフェノールCを用い、実施例1と同様に重合反応を実施し
たが、規定の重合触媒量(400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μL)では重合
反応が進行しなかった。
【0110】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のビスフェノールの方法で製造されたビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂
、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止
剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。