(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130570
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】金属酸化物、酸素透過膜及び酸素分離装置
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240920BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240920BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240920BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240920BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240920BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C01G49/00 C
C01G53/00 A
C04B35/01
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/08
B01D71/02 500
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040389
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 亮
(72)【発明者】
【氏名】西田 怜
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆
【テーマコード(参考)】
4D006
4G002
4G048
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MB04
4D006MB16
4D006MC03X
4D006NA39
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4G002AA08
4G002AB01
4G002AE05
4G048AA05
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】熱膨張率が実用上支障のない程度に抑えられながら、より低温で高い酸素透過速度を示す複合酸化物とこれを用いた酸素透過膜及び酸素分離装置を提供する。
【解決手段】下記式(a)で表される金属酸化物。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)MsO(9+t) …(a)
但し、上記式(a)において、MはFeを除く遷移金属元素を表し、少なくとも2価又は3価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を含み、p、q、r、sは下記式(p1)~(x1)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1(p1)、0<q≦2(q1)、-1<r≦1.5(r1)、0<s≦1.5(s1)、0≦p+q+r+s≦4(x1)、-1≦t≦4(t1)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表される金属酸化物。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)MsO(9+t) …(a)
但し、上記式(a)において、MはFeを除く遷移金属元素を表し、少なくとも2価又は3価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を含み、p、q、r、sは下記式(p1)~(x1)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1 ・・・(p1)
0<q≦2 ・・・(q1)
-1<r≦1.5 ・・・(r1)
0<s≦1.5 ・・・(s1)
0≦p+q+r+s≦4 ・・・(x1)
-1≦t≦4 ・・・(t1)
【請求項2】
前記2価又は3価である遷移金属元素からなる群が、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sc、Ga、Y及びInからなる群である、請求項1に記載の金属酸化物。
【請求項3】
前記2価又は3価である遷移金属元素からなる群が、Ni、Al及びGaからなる群である、請求項1に記載の金属酸化物。
【請求項4】
前記式(a)におけるMが、5価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素をさらに含む、請求項1に記載の金属酸化物。
【請求項5】
前記5価である遷移金属元素からなる群が、V、Nb及びTaからなる群である、請求項4に記載の金属酸化物。
【請求項6】
前記Mが、Niと、Nb及びTaの一方又は両方である、請求項5に記載の金属酸化物。
【請求項7】
前記式(a)におけるpが下記式(p2)を満たし、qが下記式(q2)を満たし、rが下記式(r1)を満たし、sが下記式(s2)を満たし、tが下記式(t2)を満たす、請求項1に記載の金属酸化物。
-0.8≦p≦0.8 ・・・(p2)
0.1≦q≦1.5 ・・・(q2)
0.05≦r≦1.2 ・・・(r2)
0.01<s≦1.2 ・・・(s2)
-0.5≦t≦3 ・・・(t2)
【請求項8】
相対密度が90%以上の焼結体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属酸化物。
【請求項9】
下記条件(a)及び(b)を満たす、請求項8に記載の金属酸化物。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
【請求項10】
下記条件(a)及び(b)を満たす金属酸化物。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
【請求項11】
請求項8に記載の金属酸化物の層を有する酸素透過膜。
【請求項12】
前記金属酸化物の層が支持体上に保持された請求項11に記載の酸素透過膜。
【請求項13】
中空糸状とされた請求項11に記載の酸素透過膜。
【請求項14】
請求項11に記載の酸素透過膜を備える酸素分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物、酸素透過膜及び酸素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度酸素や酸素富化空気は、化学プラントや発電所、製鉄プロセス、自動車や船舶の内燃機関、医療用ガスなど多岐に渡って利用され、需要が高まっている。
高純度酸素や酸素富化空気を製造するための酸素分離および濃縮技術としては、膜分離法があり、選択的に酸素のみを透過させる種々の無機酸化物膜が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、SrやCoを含んだペロブスカイト型の複合酸化物が、850℃程度の温度域で高い酸素透過速度を示すことが開示されている。
また、特許文献2では、SrやCoを含んだペロブスカイト型の複合酸化物において、SrやCoの一部を異種金属で置換することで、600℃程度に作動温度を低下させた技術が開示されている。
【0004】
一方、ペロブスカイト型の複合酸化物は、酸素吸蔵脱着材料としても利用されている。酸素吸蔵脱着材料としては、例えば、ブラウンミラライト型結晶構造のマンガン酸化物(特許文献3)、希土類元素とアルカリ土類金属を含む金属酸化物(特許文献4)、Ba、Ca、Feを含む酸素欠損型の金属酸化物(特許文献5)等が知られている。なお、以下において、Ba、Ca、Feを含む酸素欠損型の金属酸化物を、BCFOと称する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-269555号公報
【特許文献2】特開2014-188479号公報
【特許文献3】特許第5773350号公報
【特許文献4】特許第6724487号公報
【特許文献5】国際公開第2022/050356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特許文献2の複合酸化物によれば、作動温度が600℃程度に低下した酸素透過膜とすることができる。しかしながら、近年では、高純度酸素や酸素富化空気製造技術の低コスト化、低環境負荷化を目指し、より低温で高い酸素透過速度を示す複合酸化物が求められている。
【0007】
また、酸素透過膜として使用するためには、熱膨張率を制御する必要がある。熱膨張率が大きい場合、熱膨張や熱収縮に伴って酸素透過膜の強度が低下したり、酸素以外の流体の漏れ等が発生したりするため、実用上支障をきたすからである。
本発明者らは従来酸素吸蔵脱着材料として知られていた特許文献3~5の複合酸化物を、酸素透過膜として使用できないかについて検討した。
【0008】
その結果、特許文献3、4の複合酸化物によっては、より低温で高い酸素透過速度を示す酸素透過膜を得られないことがわかった。
また、特許文献5の複合酸化物による酸素透過膜は、より低温で高い酸素透過速度を示すものの、熱膨張率が大きく実用上問題があることがわかった。
本発明の目的は熱膨張率が実用上支障のない程度に抑えられながら、より低温で高い酸素透過速度を示す複合酸化物とこれを用いた酸素透過膜及び酸素分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]から[14]である。
[1] 下記式(a)で表される金属酸化物。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)MsO(9+t) …(a)
但し、上記式(a)において、MはFeを除く遷移金属元素を表し、少なくとも2価又は3価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を含み、p、q、r、sは下記式(p1)~(x1)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1 ・・・(p1)
0<q≦2 ・・・(q1)
-1<r≦1.5 ・・・(r1)
0<s≦1.5 ・・・(s1)
0≦p+q+r+s≦4 ・・・(x1)
-1≦t≦4 ・・・(t1)
[2] 前記2価又は3価である遷移金属元素からなる群が、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sc、Ga、Y及びInからなる群である、[1]に記載の金属酸化物。
[3] 前記2価又は3価である遷移金属元素からなる群が、Ni、Al及びGaからなる群である、[1]に記載の金属酸化物。
[4] 前記式(a)におけるMが、5価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物。
[5] 前記5価である遷移金属元素からなる群が、V、Nb及びTaからなる群である、[4]に記載の金属酸化物。
[6] 前記Mが、Niと、Nb及びTaの一方又は両方である、[5]に記載の金属酸化物。
[7] 前記式(a)におけるpが下記式(p2)を満たし、qが下記式(q2)を満たし、rが下記式(r1)を満たし、sが下記式(s2)を満たし、tが下記式(t2)を満たす、[1]~[6]のいずれかに記載の金属酸化物。
-0.8≦p≦0.8 ・・・(p2)
0.1≦q≦1.5 ・・・(q2)
0.05≦r≦1.2 ・・・(r2)
0.01<s≦1.2 ・・・(s2)
-0.5≦t≦3 ・・・(t2)
[8] 相対密度が90%以上の焼結体である、[1]~[7]のいずれかに記載の金属酸化物。
[9] 下記条件(a)及び(b)を満たす、[8]に記載の金属酸化物。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
[10] 下記条件(a)及び(b)を満たす金属酸化物。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
[11] [8]又は[9]に記載の金属酸化物の層を有する酸素透過膜。
[12] 前記金属酸化物の層が支持体上に保持された[11]に記載の酸素透過膜。
[13] 中空糸状とされた[11]に記載の酸素透過膜。
[14] 前記[11]~[13]のいずれかに記載の酸素透過膜を備える酸素分離装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱膨張率が実用上支障のない程度に抑えられながら、より低温で高い酸素透過速度を示す複合酸化物とこれを用いた酸素透過膜及び酸素分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、酸素透過流量の測定システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施例と比較例の各焼結体の各温度におけるlog(J
O2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0013】
<金属酸化物の組成>
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、下記式(a)で表される金属酸化物である。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)MsO(9+t) …(a)
但し、上記式(a)において、MはFeを除く遷移金属元素を表し、少なくとも2価又は3価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を含み、p、q、r、sは下記式(p1)~(x1)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1 ・・・(p1)
0<q≦2 ・・・(q1)
-1<r≦1.5 ・・・(r1)
0<s≦1.5 ・・・(s1)
0≦p+q+r+s≦4 ・(x1)
-1≦t≦4 ・・・(t1)
【0014】
本発明の実施形態において、「遷移金属元素」とは、周期表における第3族元素から第12族元素までの元素の総称である。
式(a)におけるMは、少なくとも2価又は3価である遷移金属元素(Feを除く)からなる群より選択される1種以上の元素を含む。さらに、5価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を含む態様も好ましい。
【0015】
2価又は3価である遷移金属元素は、酸素透過性を損なわずに熱膨張性を抑制しやすいことから、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sc、Ga、Y及びInからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Ni、Al及びGaからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。
【0016】
5価である遷移金属元素は、酸素透過性を損なわずに熱膨張性を抑制しやすいことから、V、Nb及びTaからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Nb及びTaの一方又は両方であることがより好ましい。
【0017】
pは、上記式(p1)を満たし、下記式(p2)を満たすことが好ましく、下記式(p3)を満たすことがさらに好ましい。
-0.8≦p≦0.8 ・・・(p2)
-0.5≦p≦0.5 ・・・(p3)
上記式(p1)を満たす範囲であれば、BCFOの結晶構造を保持できると考えられる。
【0018】
qは、上記式(q1)を満たし、下記式(q2)を満たすことが好ましく、下記式(q3)を満たすことがさらに好ましい。
0.1≦q≦1.5 ・・・(q2)
0.2≦q≦1.2 ・・・(q3)
qが0より大きい、すなわち、Caが必ず存在することにより、動作環境における過剰な相転移を抑制しつつ、結晶構造中に歪を与え、酸素イオン伝導度が向上し、酸素透過速度が高くなると考えられる。qが2以下であることにより、BCFOの結晶構造を保持できると考えられる。
【0019】
rは、上記式(r1)を満たし、下記式(r2)を満たすことが好ましく、下記式(r3)を満たすことがさらに好ましい。
0.05≦r≦1.2 ・・・(r2)
0.1≦r≦1 ・・・(r3)
rが-1以上である、すなわち、Feの一部がMに置き換わることにより、線熱膨張率か低くなる。rが1.5以下であることにより、良好な酸素透過性を得られる。
【0020】
sは、上記式(s1)を満たし、下記式(s2)を満たすことが好ましく、下記式(s3)を満たすことがさらに好ましい。
0.01<s≦1.2 ・・・(s2)
0.03<s≦1 ・・・(s3)
sが0より大きい、すなわち、Feの一部等がMに置き換わることにより、線熱膨張率か低くなる。sが1.5以下であることにより、良好な酸素透過性を得られる。
【0021】
sはrと等しいことが好ましい。すなわち、MはFeの置き換わりであることが好ましい。sがrと等しいことにより、元の結晶構造を保持したまま材料の熱特性、電気物性を調整することができる。
sがrと等しくない場合は、pとqを調整することにより、材料中の電荷補償が可能となる。その結果、元の結晶構造を壊さない程度に歪みを与え、酸素透過能が高くすることができると考えられる。
【0022】
p、q、r、sは、上記式(x1)を満たし、下記式(x2)を満たすことが好ましく、下記式(x3)を満たすことがさらに好ましい。
0≦p+q+r+s≦3.5 ・・・(x2)
0.5≦p+q+r+s≦3 ・・・(x3)
【0023】
tは、上記式(t1)を満たし、下記式(t2)を満たすことが好ましく、下記式(t3)を満たすことがさらに好ましい。
-0.5≦t≦3 ・・・(t2)
0≦t≦2 ・・・(t3)
【0024】
tは、金属元素との電荷のバランスの点から上記式(t1)を満たす。特にtが3未満の場合は、金属酸化物が酸素欠損型であることを意味する。本発明の実施形態に係る金属酸化物は、酸素欠損型であることにより酸素イオン伝導度が向上し、酸素透過能が高くなると考えられる。tが-1以上のとき、元のBCFOの骨格、結晶構造などを保持できると考えられる。
【0025】
「9+t」は、「金属元素のトータル価数÷2」となる。すなわち、Ba、Ca、Fe、Mの各価数に各々(4-p)、q、(3-r)、sを乗じた値の合計を2で除した値となる。
なお、Ba、Caの価数は2、Feの価数は3~4の間、Mの価数は、いずれの遷移金属元素であるかによる。
【0026】
式(a)において、pは式(p1)を満たし、qは式(q1)を満たし、rは式(r1)を満たし、sは式(s1)を満たし、p、q、r、sの合計は式(x1)を満たし、tは式(t1)を満たす。
式(a)において、pは式(p2)を満たし、qは式(q2)を満たし、rは式(r2)を満たし、sは式(s2)を満たし、p、q、r、sの合計は式(x2)を満たし、tは式(t2)を満たすことが好ましい。
式(a)において、pは式(p3)を満たし、qは式(q3)を満たし、rは式(r3)を満たし、sは式(s3)を満たし、p、q、r、sの合計は式(x3)を満たし、tは式(t3)を満たすことがより好ましい。
【0027】
本実施形態の金属酸化物の好ましい態様として、下記態様I、IIが挙げられる。
<態様I>
下記式(a1)で表される金属酸化物。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)M1
s1O(9+t) …(a1)
上記式(a1)において、M1は2価又は3価である遷移金属元素(但し、Feを除く)からなる群より選択される1種以上の元素を表し、p、q、r、s1は下記式(p1)~(r1)、(s11)及び(x11)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1 ・・・(p1)
0<q≦2 ・・・(q1)
-1<r≦1.5 ・・・(r1)
0<s1≦1.5 ・・・(s11)
0≦p+q+r+s1≦4 ・・・(x11)
-1≦t≦4 ・・・(t1)
【0028】
<態様II>
下記式(a2)で表される金属酸化物。
Ba(4-p)CaqFe(3-r)M2
s2M3
s3O(9+t) …(a2)
上記式(a2)において、M2は5価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素を表し、M3は2価又は3価である遷移金属元素(但し、Feを除く)からなる群より選択される1種以上の元素を表し、p、q、r、s2、s3は下記式(p1)~(r1)、(s12)、(s13)及び(x12)を満たし、tは下記式(t1)を満たす。
-1≦p≦1 ・・・(p1)
0<q≦2 ・・・(q1)
-1<r≦1.5 ・・・(r1)
0<(s2+s3)≦1.5・・・(s12)
0.25≦(s2/s3)≦6・・・(s13)
0≦p+q+r+s2+s3≦4 ・・・(x12)
-1≦t≦4 ・・・(t1)
【0029】
式(a1)、(a2)におけるp、q、r及びtの好ましい範囲は、式(a)におけるp、q、r及びtとそれぞれ同じである。
式(a1)におけるs1の好ましい範囲は、式(a)におけるsと同じである。
式(a1)における(p+q+r+s1)の好ましい範囲は、式(a)における(p+q+r+s)と同じである。
式(a2)における(s2+s3)の好ましい範囲は、式(a)におけるsと同じである。
式(a2)における(p+q+r+s2+s3)の好ましい範囲は、式(a)における(p+q+r+s)と同じである。
式(a2)における(s2/s3)の値は、0.25以上6以下が好ましく、0.5以上4以下がより好ましい。
【0030】
<金属酸化物の製造方法>
本発明の実施形態に係る金属酸化物の製造方法は、特段制限されず、公知の金属酸化物の製造方法に準じて製造することができる。公知の金属酸化物の製造方法としては、例えば、特許文献5に記載の溶液法や固相反応法が挙げられる。
【0031】
溶液法では、出発原料として、バリウム含有化合物、カルシウム含有化合物、鉄含有化合物、式(a)におけるMである遷移金属を含有する遷移金属含有化合物からなる金属含有化合物を純水に溶解して金属含有水溶液(水溶液A)を調製する。また、キレート剤の溶液(水溶液B)を別途調製する。
【0032】
次いで、撹拌下の水溶液Aに、水溶液Bを加え、得られた混合溶液を加熱(一次焼成)し、金属錯体を前駆体として得る。この得られた前駆体を加熱(二次焼成)し、有機物を燃焼させた粉末を得る。得られた粉末を粉砕した後、より高温での加熱(三次焼成)を行うことで、本発明の実施形態に係る金属酸化物(粉末状)が得られる。
【0033】
水溶液Aを得るために用いる金属含有化合物としては、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物等が挙げられ、生成物の組成制御の観点から、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩であることが好ましく、特に硝酸塩であることが好ましい。金属含有原料がこれら塩である場合、金属酸化物の製造に伴う副生成物は、窒素、酸素、塩素、炭素、硫黄等を含有するガス又は水であり、容易に系外に排除できるからである。
【0034】
キレート剤の溶液としては、クエン酸水溶液、エチレンジアミン四酢酸のアンモニア溶液、ニトリロ三酢酸水溶液等が挙げられる。中でも低コスト、低環境負荷であることから、クエン酸水溶液が好ましい。
【0035】
固相反応法では、出発原料として、バリウム含有化合物、カルシウム含有化合物、鉄含有化合物、式(a)におけるMである遷移金属を含有する遷移金属含有化合物からなる各金属含有化合物の粉末を混合し、焼成処理を行うことで、本発明の実施形態に係る金属酸化物(粉末状)が得られる。
固相反応法に用いる金属含有化合物としては、水酸化物、酸化物、炭酸塩等が挙げられる。中でも不純物相生成を抑制し、かつ低温で合成可能であることから、酸化物が好ましい。
【0036】
一般的に、固相法で合成する場合は溶液法よりも前駆体の段階、及び焼成後の段階で各元素の組成分布の偏りが生じやすいため、原料粉末の粒度制御、及び粉体の均一混合を行うことが重要である。例えば、小粒子径かつ凝集の少ない原料粉を使用すること、ボールミル等により混合すること等が有効である。
【0037】
溶液法や固相反応法における焼成温度及び焼成時間は特段制限されないが、不純物相低減の観点から、目的相が主相又は単一相として生成する焼成温度及び焼成時間であることが好ましい。目的相が主相又は単一相であることにより、不純物相に起因する酸素透過速度の低下や、成型体強度の低下を抑制可能である。
一方で、焼結による比表面積の低下抑制及びるつぼとの副反応低減の観点から、目的相の融点より400℃低い温度以上融点以下での処理が好ましい。
焼成雰囲気も特段制限されず、目的の金属酸化物に応じて適宜選択することができる。最終的な焼成雰囲気は、例えば、酸素-不活性ガス混合雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0038】
<金属酸化物の特性>
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の緻密な焼結体とした際、下記条件(a)及び(b)を満たすことが好ましい。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
【0039】
[緻密な焼結体]
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の緻密な焼結体とすることにより、本発明の実施形態に係る金属酸化物の膜の一方の側(一次側空間)から他方の側(二次側空間)への一次側空間の流体のリークを抑制しつつ、酸素を透過させることができる。
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、酸素透過膜とする場合、相対密度が90%以上の焼結体とすることが好ましく、相対密度が92%以上の焼結体とすることがより好ましい。
【0040】
本発明における相対密度は、各焼結体の密度と、各金属酸化物の密度Xの比を意味する。本発明における相対密度は、各焼結体の密度を、エタノール溶媒を用いたアルキメデス法により求め、それらを各金属酸化物の密度Xで除することにより求めることができる。
【0041】
但し、本発明において「密度X」は、下記式で算出する。
密度X=(Ba4CaFe3O9.5の真密度d(g/cm3))×(各金属酸化物の式量(g/mol)/Ba4CaFe3O9.5の式量(g/mol))
尚、Ba4CaFe3O9.5の真密度d(g/mol)は、XRDによる結晶構造解析から算出する。
【0042】
粉末状の金属酸化物を緻密な焼結体とするためには、圧縮成形の後に焼成することが好ましい。
圧縮成形としては、例えば、一軸プレス等により仮成型した後に、冷間等方圧加工法による成型(CIP成型)を行う方法が挙げられる。CIP成型を行うことにより、方向性なく圧縮成形することができる。
【0043】
CIP成型における圧力は特段制限されないが、均一で高密度な成型体を得るという観点から、100MPa以上が好ましく、150MPa以上がより好ましい。また、300MPa以下が好ましく、250MPa以下がより好ましい。
CIP成型における加圧時間は特段制限されないが、均一で高密度な成型体を得るという観点から、1分以上が好ましく、3分以上がより好ましい。また、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。
【0044】
圧縮成形後の焼成温度及び焼成時間は特段制限されないが、焼結性向上と各金属酸化物の融点の観点から、融解しない範囲で、なるべく高い焼成温度及び焼成時間であることが好ましい。焼成温度は、例えば、1,000℃以上1,400℃以下とすることができる。焼成時間は、例えば、1時間以上13時間以下とすることができる。焼成温度を高くするほど、相対密度を大きくしやすい。
一方で、焼結による比表面積の低下抑制及びるつぼとの副反応低減の観点から、目的相の融点より100℃低い温度以上融点以下での処理が好ましい。
焼成雰囲気も特段制限されず、目的の金属酸化物に応じて適宜選択することができる。最終的な焼成雰囲気は、例えば、酸素-不活性ガス混合雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0045】
[酸素透過速度]
相対密度が90%以上の焼結体である本発明の実施形態に係る金属酸化物は、下記条件(a)を満たすことが好ましい。
(a)一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した450℃における酸素透過速度をJO2(mol・s-1・cm-2)とした際、log(JO2)が-8.1以上。
【0046】
以下、log(JO2)の求め方の具体例を詳述する。なお、以下の説明における具体的な数値や測定条件等は、理解を容易にするために記載しているものであり、本発明におけるlog(JO2)の求め方は、下記の方法と同等の結果が得られる方法であれば、特に限定されない。
【0047】
測定対象となる相対密度90%以上の焼結体は、粉末状の金属酸化物を、最終的に直径が約9.5mm、厚みが約1mmの円盤状となるように、一軸プレス(20MPa、5分)した後、CIP成型(200MPa、10分)し、その後、N2雰囲気下、且つ1000℃以上で焼成することにより調製する。得られた焼結体の厚みをL(mm)とする。
【0048】
得られた焼結体の酸素透過流量は、
図1の測定システムを用いて測定する。
図1のシステムにおいて、得られた焼結体10は、リング状のアルミガスケット11とアルミガスケット12(各々、外径φ9.5mm-内径φ6.5mm)の間に挟まれ、SUS製内管13(外径φ9.5mm-内径φ7.3mm)の下端に装着され、袋ナット14により固定されている。
【0049】
アルミガスケット11および12により閉塞されていない焼結体10の面積(アルミガスケット11の内側の面積)を有効面積S(本具体例では、アルミガスケット11の実内径より計算される0.424cm2)とする。
なお、焼結体10の外周がφ9.5mmより大きく、アルミガスケット11の外側にはみ出すようであれば、予め削っておく。
【0050】
焼結体10を下端に固定したSUS製内管13は、外管16の上端から気密に挿入される。外管16内におけるSUS製内管13に固定された焼結体10の外側の空間を「一次側空間1」と称する。SUS製内管13内における焼結体10の内側の空間を「二次側空間2」と称する。
外管16の下端側には外管入口16aが形成され、焼結体10の一次側空間1側に気体を導けるようになっている。
【0051】
外管入口16aから導入された気体は、その一部が焼結体10を通過し二次側空間2に至り、残りは、外管16の上方側壁に設けられた外管出口16bから流出するようになっている。
外管出口16bには、背圧弁21と四方弁24が順次接続されている。背圧弁21により、一次側空間1の圧力を大気圧(101.325kPa)に保つようになっている。
【0052】
SUS製内管13の内部には、細管17が挿入されており、SUS製内管13上方に形成された内管入口13aから流入した気体が細管17を通過して焼結体10の二次側空間2側に到達するようになっている。
細管17を通過した気体は、一次側空間1から焼結体10を通過して二次側空間2に至った気体と共に、SUS製内管13の内壁と細管17との間を通過し、SUS製内管13の上方側壁に設けられた内管出口13bから流出するようになっている。
内管出口13bには、流量計22と四方弁24が順次接続されている。
【0053】
四方弁24には、第1のポート24aに、背圧弁21を介して外管出口16bが接続されている。第1のポート24aと対向する第3のポート24cには、流量計22を介して内管出口13bが接続されている。また、第2のポート24bはガスクロマトグラフ23に接続され、第4のポート24dはベントとされている。
【0054】
この四方弁24により、外管出口16bから流出した気体と内管出口13bから流出した気体とのいずれかを切り替えて、ガスクロマトグラフ23に送れるようになっている。
一次側空間1と二次側空間2の焼結体10近傍は、加熱炉25内に収容され、加熱できるようになっている。
【0055】
このシステムで酸素透過流量を測定するには、外管入口16aから、合成空気(合成Air:O2とN2を体積比21:78で混合し、O2とN2の合計体積に対して1体積%のArを添加した気体)を、50cc/分の流量で導入し、SUS製内管13の下端に固定した焼結体10に吹きつける。
一方、内管入口13aからは、1体積%のArを含み、残部がHeガスである不活性ガスを28.3cc/分の流量で導入する。
【0056】
この状態で加熱炉25内を室温から450℃まで3℃/分で昇温させる。そして、450℃において、一次側の酸素分圧(P1)と二次側の酸素分圧(P2)を求める。一次側の酸素分圧(P1)は、外管出口16bから流出した気体の酸素分圧である。二次側の酸素分圧(P2)は、内管出口13bから流出した気体の酸素分圧である。
【0057】
一次側の酸素分圧(P1)は下記式(1)から計算できる。
P1=<酸素流量/(Ar流量+He流量+N2流量+O2流量)>×101.325kPa・・・(1)
但し、式(1)における流量は、いずれも外管出口16bから流出した下記成分の流量である。
【0058】
式(1)における<酸素流量/(Ar流量+He流量+N2流量+O2流量)>は、外管出口16bから流出した気体における各成分の割合から求められる。
外管出口16bから流出した気体における各成分の割合は、外管出口16bから流出した気体を、四方弁24を介してガスクロマトグラフ23(カラム:ジーエルサイエンス社MS5A)に送ることにより求められる。
【0059】
二次側の酸素分圧(P2)は下記式(2)から計算できる。
P2=<酸素流量/(Ar流量+He流量+N2流量+O2流量)>×101.325kPa・・・(2)
但し、式(2)における流量は、いずれも内管出口13bから流出した各成分の流量である。
【0060】
式(2)における<酸素流量/(Ar流量+He流量+N2流量+O2流量)>は、内管出口13bから流出した気体における各成分の割合から求められる。
内管出口13bから流出した気体における各成分の割合は、内管出口13bから流出した気体を、四方弁24を介してガスクロマトグラフ23(カラム:ジーエルサイエンス社MS5A)に送ることにより求められる。
【0061】
なお、一次側の酸素分圧(P1)は、簡易的には、外管出口16bから流出した気体のガスクロマトグラフ23による測定結果に基づく式(1)によらず、流量計22により測定した二次側から流出した気体の総流量と、酸素分圧(P2)とから計算により求めることができる。
【0062】
一方、下記式(3)により、焼結体10を透過して、一次側空間1から二次側空間2に至った透過酸素流量(mol・s-1)を算出する。
透過酸素流量(mol・s-1)=O2流量(mol・s-1)-21/78×N2流量(mol・s-1) ・・・(3)
【0063】
但し、式(3)の右辺における流量は、いずれも内管出口13bから流出した各成分の流量である。なお、「21/78×N2流量(mol・s-1)」を差し引くのは、一次側空間1から二次側空間2に漏れ出た合成空気に含まれるO2を除き、焼結体10により選択的に透過したO2の流量を求めるためである。
【0064】
上記式(3)で求めた透過酸素流量(mol・s-1)を焼結体10の有効面積S(本具体例では、0.424cm2)で割り返して、単位面積当たりの酸素透過速度J´O2(mol・s-1・cm-2)を得る。
このJ´O2は、下記式(4)のワグナーの式に示すように、酸素分圧勾配(P2>P1)及びTからなる環境要因、並びに焼結体10形成の際の厚みLのばらつきの影響を受ける。
【0065】
【0066】
式(4)におけるJO2は酸素透過速度(mol・cm-2・s-1)であり、σiは酸素イオン伝導度(S/cm)であり、σeは電子伝導度(ホール伝導含む)(S/cm)であり、Pは酸素分圧(atm)であり、P2>P1であり、R,F,T,Lはそれぞれ、
気体定数、ファラデー定数、絶対温度(K)、膜厚(cm)である。
【0067】
この内、σiとσeは材料物性であるが、酸素分圧勾配(P2>P1)及びLは材料物性とは無関係であるので、下記式(5)に示すように、一次側の酸素分圧を21.3kPa、二次側の酸素分圧を0.2kPa、厚みを1mmとした場合に換算した上で、そのLogをとる。
Log(JO2)=log<J´O2×L×ln(21.3/0.2)/ln(P1/P2)> ・・・(5)
【0068】
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の焼結体とした際、このlog(JO2)が-8.1以上であることが好ましく、-8.0以上であることがより好ましい。
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の焼結体とされ、log(JO2)が-8.1以上である場合に、優れた酸素透過性を有する。
【0069】
[線熱膨張率]
相対密度が90%以上の焼結体である本発明の実施形態に係る金属酸化物は、下記条件(b)を満たすことが好ましい。
(b)3℃/分で昇温させた際のアルミナを基準とした50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率が10(ppm/℃)以下。
【0070】
以下、線熱膨張率の求め方の具体例を詳述する。なお、以下の説明における具体的な数値や測定条件等は、理解を容易にするために記載しているものであり、本発明における線熱膨張率の求め方は、下記の方法と同等の結果が得られる方法であれば、特に限定されない。
【0071】
酸素透過速度を測定する際と同様にして、直径が約9.5mm、厚みが約1mmの円盤状となるようにして、相対密度90%以上の焼結体を得る。この焼結体について、熱機械測定をリガク社製のThermo plus EVO2を用いて実施する。
空気200cc/分を焼結体に供給しながら、室温から600℃まで3℃/分の速度で昇降温させ、50℃と450℃の伸長率ΔL(%)を測定する。基準試料にはアルミナを用いた。昇温過程における50℃と450℃の伸長率の差(%)を、温度差400℃で割り付け、単位を換算して線熱膨張率(ppm/℃)を得る。
【0072】
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の焼結体とした際、この線熱膨張率(ppm/℃)が10以下であることが好ましく。9.5以下であることがより好ましく、9.0以下であることがさらに好ましく、8.5以下が特に好ましい。
本発明の実施形態に係る金属酸化物は、相対密度が90%以上の焼結体とされ、この線熱膨張率(ppm/℃)が10以下である場合に、熱膨張や熱収縮に伴って強度が低下したり、酸素以外の流体の漏れ等が発生したりすることを回避でき、実用上問題のない酸素透過膜とすることができる。
【0073】
[窒素リーク]
相対密度が90%以上の焼結体である本発明の実施形態に係る金属酸化物は、温度上昇に伴う窒素リーク量の増加が小さいことが好ましい。具体的には、下記の測定方法で求められる単位温度当たりの最大窒素リーク増(単位:cc/min/℃)が、0.5×10-2(cc/min/℃)以下であることが好ましく、0.3×10-2(cc/min/℃)以下であることがより好ましく、0.2×10-2(cc/min/℃)以下であることがさらに好ましい。
前記単位温度当たりの最大窒素リーク増が上記上限値以下であると、動作条件にて酸素透過膜が自壊せず、強度を維持したまま機能しうる。
前記単位温度当たりの最大窒素リーク増の下限値は特に限定されず、ゼロでもよい。
【0074】
<単位温度当たりの最大窒素リーク増の測定方法>
酸素透過速度の測定において、室温から300℃まで3℃/minの昇温速度で昇温していく過程で30~40℃毎の計測温度にて、酸素透過速度の測定において説明したのと同様にして、流量計22により測定した総流量と、ガスクロマトグラフ23(カラム:ジーエルサイエンス社MS5A)にて測定した成分比により、二次側にリークしたN2の流量(窒素リーク量、単位:cc/min)を求める。
また、300℃から450℃まで3℃/minの昇温速度で昇温していく過程で、50℃毎の計測温度にて、同様にして窒素リーク量(単位:cc/min)を求める。
こうして得られた窒素リーク量の温度依存特性において、隣り合う計測温度における窒素リーク量の差(単位:cc/min)を、隣り合う計測温度の温度差(単位:℃)で除すことで、単位温度当たりの窒素リーク増(単位:cc・min-1・℃-1)を得る。その値の最大値を、単位温度当たり最大窒素リーク増(単位:cc・min-1・℃-1)とする。
【0075】
相対密度が90%以上の焼結体である本発明の実施形態に係る金属酸化物が、上記条件(b)を満たすことにより、単位温度当たりの最大窒素リーク増を上記好ましい範囲としやすい。
【0076】
[作用機序]
Ba、Ca、Feを含む酸素欠損型の金属酸化物(特許文献5)は、より低温で高い酸素透過速度を示すものの、熱膨張率が大きく実用上問題がある。本発明者等がFeの一部を他の遷移金属に置換することを試みたところ、良好な酸素透過性を維持しながら、熱膨張率を抑えることに成功した。
【0077】
これは、Feが3価から4価に変化することが熱膨張をもたらしており、そのFeの一部を他の金属に置き換えることにより、Feを要因とする熱膨張を抑制できたためと考えられる。
また、一部を他の金属に置き換えても良好な酸素透過性を維持できるのは、置き換える金属がFeと同様に遷移金属であるためと考えられる。
【0078】
特に、置き換える金属Mが、2価又は3価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素であると、酸素イオン伝導性が向上し、酸素透過速度が増大すると考えらえる。
また置き換える金属Mが、5価である遷移金属元素からなる群より選択される1種以上の元素の場合、鉄の価数より大きいため、熱安定性に優れているものと考えられる。
【0079】
<酸素透過膜>
本発明の実施形態に係る金属酸化物の相対密度が90%以上の焼結体(以下「緻密焼結体」という。)は酸素透過膜に利用できる。
本発明の実施形態に係る酸素透過膜は、緻密焼結体の層を有する。
【0080】
本発明の実施形態に係る酸素透過膜は、緻密焼結体のみで形成されていてもよいが、緻密焼結体の層を薄くして酸素透過性を向上させながら、強度を確保しやすいことから、緻密焼結体の層が支持体上に保持された構造であることが好ましい。
また、焼結体の相対密度が厚み方向で変化し、一方の表面側が緻密焼結体であり、他方の表面に近づくにつれて相対密度が低下し、他方の表面の相対密度が90%未満である構造であることも好ましい。
【0081】
支持体を緻密焼結体と積層する場合、支持体の相対密度は90%未満であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましく、60%以下であることが特に好ましい。また、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることが特に好ましい。
支持体の相対密度が好ましい範囲の上限値以下であることにより、流体が緻密焼結体に抵抗なく到達しやすい。支持体の相対密度が好ましい範囲の下限値以上であることにより、支持体としての必要な強度を発揮しやすい。
【0082】
支持体の厚みに特に限定はないが、例えば、0.1mm以上とすることができ、0.5mm以上としてもよく、1.0mm以上としてもよい。また、3.0mm以下とすることができ、2.5mm以下としてもよく、2.0mm以下としてもよい。
支持体上に形成する緻密焼結体の層の厚みに特に限定はないが、例えば、5μm以上とすることができ、10μm以上としてもよく、50μm以上としてもよい。また、2,000μm以下とすることができ、1,000μm以下としてもよく、500μm以下としてもよい。
【0083】
支持体は、緻密焼結体と熱的特性が近い材料で形成されていることが好ましい。これにより、支持体と緻密焼結体との密着性が確保しやすい。
具体的には、支持体の線熱膨張率に対する緻密酸素透過膜層の線熱膨張率の比は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。また、2.0以下であることが好ましく、1.9以下であることがより好ましく、1.8以下であることが特に好ましい。
より密着性を確保しやすい観点から、支持体が本発明の実施形態に係る金属酸化物であることが好ましく、支持体と緻密焼結体とが同じ組成の金属酸化物であることが特に好ましい。
【0084】
支持体を緻密焼結体と積層する場合の酸素透過膜の構造に特に限定はなく、例えはシート状、中空糸状とすることができる。
シート状の場合、例えば、緻密焼結体の前駆体層と支持体の前駆体層とを積層した積層体を焼成する方法が挙げられる(例えば、特開2021-10909号公報参照)。
中空糸状の場合、例えば、特開2003-53166号公報に記載の方法により、支持体となる中空糸内に、緻密焼結体の中空糸を挿入し、焼結する方法が挙げられる。
【0085】
焼結体の相対密度が厚み方向で変化する非対称構造の酸素透過膜の構造に特に限定はないが、中空糸状とすることが、容易に製造できる点で好ましい。
非対称構造の中空糸膜は、通常二重管ノズルに原料液を供給して中空形状を形成する。その際、国際公開WO2010/029908号に記載のように、原料液単独で凝固性を有するものであれば内表面側が緻密となり、原料液単独では凝固性を有さず下流側に設けられた凝固浴で凝固させる場合は、外表面側が緻密となる。
このようにして得られた前駆体中空糸膜を焼成することにより、内表面側又は外表面側に緻密焼結体を形成することができる。
【0086】
<酸素分離装置>
本発明の実施形態に係る酸素分離装置は、本発明の実施形態に係る酸素透過膜を有する。酸素分離装置としては、例えば、特表2005-507041に記載の構成のものが挙げられる。
本発明の実施形態に係る酸素分離装置によって得られる高純度酸素や酸素富化空気は、例えば、化学プラントや発電所、製鉄プロセス、自動車や船舶の内燃機関、医療用ガス等で利用される。
【実施例0087】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
<測定方法>
[GC条件]
気体の成分比を測定するためのガスクロマトグラフの測定条件は、以下のとおりである。
装置:GC測定装置(製品名:GC3210、ジーエルサイエンス社)。
カラム(製品名:MS5A、ジーエルサイエンス社)。
長さ:2m、外径:1/8インチ、内径:2.2mm。
検出器:熱伝導度型検出器。
注入量:1,000μL。
気化室温度:40℃。
カラム温度:0℃以上1℃以下に保持。
検出器温度:70℃。
キャリアガス:ヘリウム。
カラム圧1:205kPa。
カラム圧2:170kPa。
【0089】
[流量計]
二次側から流出した気体の総流量を測定するための流量計には、以下を用いた。
装置:2000シリーズ マスフローメーター(FCON社)。
【0090】
[線熱膨張率]
線熱膨張率測定の測定条件は、以下のとおりである。
装置:Thermo plus EVO2(リガク社)。
基準試料:アルミナ。
【0091】
[相対密度]
作製した焼結体の、大気中における重量とエタノール溶液中(25℃)における重量を測定し、アルキメデス法によって焼結体の密度を測定した。測定した焼結体の密度と、その金属酸化物の真密度の比(%)を相対密度とした。
【0092】
[焼結体の厚み]
焼結体の3箇所の厚みをノギスで測定し、その平均を厚みLとした。
【0093】
<金属酸化物粉末の調製>
各例の金属酸化物粉末は、以下のように調製した。
【0094】
(比較例1)
出発原料として、水酸化バリウム8水和物(Ba(OH)2・8H2O)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)及び酸化鉄(III)(Fe2O3)を、Ba:Ca:Fe=4:1:3のモル比となるように秤量し、乳鉢で混合することで原料粉末を調製した。得られた原料粉末を、アルミナ製坩堝へ移し、気密性の高い電気炉中、窒素雰囲気下1200℃で12時間焼成した。その後、雰囲気を窒素に保ったまま室温まで冷却し、電気炉から処理物を取り出して乳鉢と乳棒で粉砕することで、Ba4CaFe3O9+t粉末を得た。
【0095】
(実施例1~4)
原料調製の際、酸化鉄(III)の一部を、FeとGaが表1に示すモル比となるように酸化ガリウム(Ga2O3)に置き換え、表1に示す組成の金属酸化物粉末を得た。
【0096】
(実施例5、6)
原料調製の際、酸化鉄(III)の一部を、FeとAlが表1に示すモル比となるように酸化アルミニウム(Al2O3)に置き換え、表1に示す組成の金属酸化物粉末を得た。
【0097】
(実施例7、8)
原料調製の際、酸化鉄(III)の一部を、FeとNbとNiが表1に示すモル比となるように酸化ニオブ(Nb2O5)及び酸化ニッケル(NiO)に置き換え、表1に示す組成の金属酸化物粉末を得た。
【0098】
(実施例9)
原料調製の際、酸化鉄(III)の一部を、FeとNiが表1に示すモル比となるように酸化ニッケル(NiO)に置き換え、表1に示す組成の金属酸化物粉末を得た。
【0099】
(比較例2)
出発原料として、硝酸イットリウム六水和物(Y(NO3)3・6H2O)、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)、及び硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O)を、Y:Ba:Co=1:1:4のモル比となるように秤量し、純水に溶解して、硝酸塩水溶液(水溶液A)を調製した。
また、総金属モル量の1倍以上の炭酸イオン量となるように炭酸アンモニウムを秤量し、純水に溶解して、炭酸アンモニウム水溶液(水溶液B)を調製した。
【0100】
水溶液Aと水溶液Bを全量混合し、その後攪拌を継続しスラリーを得た。得られたスラリーから吸引ろ過によって固体を回収し、80℃で12時間乾燥させることで原料粉末を得た。得られた原料粉末を大気雰囲気下600℃で2時間加熱(一次焼成)することにより、一時焼成粉末を得た。得られた一時焼成粉末を乳鉢と乳棒で粉砕した後、アルミナ製坩堝へ移し、気密性の高い電気炉中、窒素雰囲気下、850℃で12時間焼成(二次焼成)した。その後、雰囲気を窒素に保ったまま室温まで冷却し、電気炉から処理物を取り出して乳鉢と乳棒で粉砕することで、金属酸化物(YBaCo4O7)を得た。
【0101】
(比較例3)
出発原料として、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)、及び硝酸マンガン(II)六水和物(Mn(NO3)2・6H2O)を、Ca:Sr:Al:Mn=1.85:0.2:1:1のモル比となるように秤量し、純水に溶解して、硝酸塩水溶液(水溶液A)を調製した。
また、総金属モル量の1倍以上の炭酸イオン量となるように炭酸アンモニウムを秤量し、純水に溶解して、炭酸アンモニウム水溶液(水溶液B)を調製した。
【0102】
水溶液Aと水溶液Bを全量混合し、その後攪拌を継続しスラリーを得た。得られたスラリーから吸引ろ過によって固体を回収し、80℃で12時間乾燥させることで原料粉末を得た。得られた原料粉末を大気雰囲気下600℃で2時間加熱(一次焼成)することにより、一時焼成粉末を得た。得られた一時焼成粉末を乳鉢と乳棒で粉砕した後、アルミナ製坩堝へ移し、気密性の高い電気炉中、窒素雰囲気下、1200℃で12時間焼成(二次焼成)した。その後、雰囲気を窒素に保ったまま室温まで冷却し、電気炉から処理物を取り出して乳鉢と乳棒で粉砕することで、金属酸化物(Ca1.8Sr0.2AlMnO5)を得た。
【0103】
なお、表1において、実施例1~9と比較例1では、酸素のモル比を明確には特定できないため、「9+t」と記載した。
但し、以下に説明するように、いずれの実施例でも、tは、式(t1)を満たしている。
すなわち、実施例のGaとAlの置換体は、BaとCaが2価、Feが3価、GaとAlが3価であると仮定して計算すると、実施例1~6では、酸素のモル数は9.5、t=0.5となる。
また、実施例のNbとNiの置換体は、BaとCaが2価、Feが3価、Nbが5価、Niが2価であると仮定して計算すると、実施例7では、酸素のモル数は9.65、t=0.65となる。
同様に、実施例8では、酸素のモル数は9.95、t=0.95となり、実施例9では、酸素のモル数9.35、t=0.35となる。
一方、Feについては、すべてが4価であると仮定して計算すると、tは1.7~2の範囲となる。
【0104】
<焼結体の調製>
各例の焼結体は、以下のように調製した。
得られた各例の金属酸化物粉末を、φ10mm金型を用いて一軸プレス(20MPa,5分)した後にCIP成型(200MPa,10分)してグリーン体を作製した。そのグリーン体をN2雰囲気下、表1に示す温度で8時間焼結して表1に示す相対密度の緻密焼結体を得た。得られた緻密焼結体の厚みLと相対密度を表1に示す。
【0105】
<焼結体のlog(J
O2)>
図1の装置で、各例の焼結体の450°におけるlog(J
O2)を求めた。また、加熱炉25内を室温から450℃まで昇温させる途中の300℃、350℃、400℃°においてもlog(J
O2)を求めた(比較例2については、350℃、400℃、450°、比較例3については、400℃、450°)。
結果を
図2に示す。また、450°におけるlog(J
O2)については、表1にも示す。
【0106】
また、各例の焼結体のlog(JO2)を求めた際に、各例の単位温度当たりの最大窒素リーク増(単位:cc/min/℃)を、上記<単位温度当たりの最大窒素リーク増の測定方法>に記載の方法で求めた。結果を表1に示す。
また、各例の焼結体の線熱膨張率50℃と450℃の伸張率差に基づく線熱膨張率(ppm/℃)を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
図2及び表1に示すように、各実施例と比較例1の焼結体は450℃においてlog(J
O2)が高く、優れた酸素透過性を有することがわかった。これに対して、比較例2と比較例3の焼結体は450℃においてlog(J
O2)が低かった。
例えば、log(J
O2)を-8.8以上にするために必要な温度を検討すると、
図2から明らかなように、各実施例と比較例1では、300℃以下で達成可能なことがわかる。これに対して、比較例2では、450℃で漸くlog(J
O2)が-8.8となる。比較例3では、450℃でも、log(J
O2)が-9未満である。
このことから、各実施例と比較例1の焼結体によれば、少ない電力で酸素透過性を得られることがわかった。
【0109】
また、表1に示すように、各実施例と比較例2、3の焼結体は線熱膨張率が抑えられており、これに伴い、単位温度当たりの最大窒素リーク増の値も小さくなっている。これに対して、比較例1の焼結体は線熱膨張率が大きく、これに伴い、単位温度当たりの最大窒素リーク増の値も大きくなっている。
このことから、各実施例の焼結体は、低い温度で、過大な電力を使用することなく酸素透過性を得られると共に、線熱膨張率が抑えられており、使用温度において、一次側からの流体のリークを充分に抑制しながら、酸素を透過させることがわかった。