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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130632
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】タンパク質送達用pH応答性担体
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/04 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240920BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240920BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240920BHJP
   C07K 17/02 20060101ALI20240920BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07K7/04
A61K47/60
A61K47/64
A61K38/02
C07K17/02
C07K14/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040468
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】カブラル オラシオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ペンウェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE23
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA03
4C084BA44
4C084NA13
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】薬物送達用のpH応答性担体の提供。
【解決手段】 シス-アコニチン無水物修飾ポリ(エチレングリコール)‐b‐ポリ[(L‐リジン)ブロック共重合体と、ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ{N-[N'-(2-アミノ-エチル)-2-アミノエチル]アスパルタミド}ブロック共重合体との組み合わせを含む、タンパク質送達用pH応答性担体、及び当該担体とタンパク質との複合体などを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1):
【化21】
〔式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表し、
R3は、下記式(I)で示される化合物を表し、
【化22】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、複素環基、複素環アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を表す。また、RaとRbとが互いに結合し、それぞれが結合している炭素原子と共に芳香環又はシクロアルキル環を形成していてもよい。Ra及びRbがそれぞれ結合している炭素原子間の結合は、単結合であってもよいし二重結合であってもよい。)
L1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH2)p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L2a-(CH2)q1-L3a- (12)
(式中、L2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表し、
m1及びm2は、それぞれ独立して1~500の整数を表し(但し、m1及びm2の合計は10~500の整数を表す。)、m3、m4及びm5は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、nは1~500の整数を表す。
「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕
で示されるブロック共重合体と、次式(2):
【化23】
〔式中、R1、R2、L1、m1及びm2、並びに「/」の表記は前記と同様であり、R30及びR32は、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R31及びR33は、それぞれ独立してアミノ基を有する基又はリンカーを有する基を表す(但し、(m1+m2)個の各モノマー単位のうち少なくとも1つにおいて、R31及び/又はR33はリンカーを有する基である。)。〕
で示されるブロック共重合体との組み合わせを含む、タンパク質送達用pH応答性担体。
【請求項2】
式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)~(Ig)で示される化合物のうち少なくとも1種である、請求項1に記載の担体。
【化24】
【請求項3】
式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)又は(Ib)で示される化合物である、請求項2に記載の担体。
【化25】
【請求項4】
リンカーを有する基が、下記式:
【化26】
(DBCOはジベンゾシクロオクチン基を表す。)
で示される基である、請求項1に記載の担体。
【請求項5】
pHが4.0~6.5でエンドソーム脱出を行うことができる請求項1に記載の担体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の担体とタンパク質とを含む複合体。
【請求項7】
タンパク質がリボヌクレオタンパク質である請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
請求項6に記載の複合体を含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の複合体を含む医薬組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類のブロック共重合体を含む、細胞内へのタンパク質送達用のpH応答性担体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内にタンパク質を送達することは、細胞機能の制御に基づく新規治療法の開発に有用である。ほとんどの癌においては細胞内経路が制御されていることから、上記治療法は癌の治療数を拡大するために特に魅力的である(非特許文献1)[1]。このような治療法を実現するためには、タンパク質を標的細胞に輸送し、その細胞質ゾルに運ぶ系の開発が必要である。従って、タンパク質を細胞内に送達するために、生物学的及び細胞学的障壁を克服した種々の系が開発されている(非特許文献2~4)[2~4]。しかしながら、現在開発されている系では、送達効率及び標的への選択性がいずれも低く、in vivoでの適用が制限される(非特許文献4~7)[4-7]。従って、機能性タンパク質をin vivoで細胞内送達し、治療開発を促進するための有効な戦略が依然として必要とされる。
【0003】
脂質ナノ粒子(非特許文献8)[8]、ポリマーミセル(非特許文献9)[9]及び無機ナノ材料(非特許文献10)[10]などのナノキャリアは、タンパク質等の生体活性高分子をin vivoで送達する可能性を実証している(非特許文献11~14)[11~14]。このうちいくつかのナノキャリアは、細胞内送達のために、エンドサイトーシスを介した細胞内取り込みを促進し、エンドソーム膜を破壊して細胞質ゾルに接近するウイルス様の特徴を備えている(非特許文献15~17)[15-17]
【0004】
エンドソームからの脱出は、エンドソーム/リソソーム区画におけるペイロードの分解を回避し、そして治療効果を達成するために必須である(非特許文献18)[18]。従って、pH緩衝化物質(非特許文献19~20)[19-20]、膜妨害物質(非特許文献21~23)[21-23]、又は融合原性物質(非特許文献15~16)[15-16]をこれらのナノキャリア構造に導入することによって、ナノキャリアのエンドソーム脱出能を最大化することに主要な努力が払われてきた。
【0005】
ところで、ウイルスは、エンドソームを感知し、特定の宿主細胞に感染できるようにするために細胞を選択的に破壊するように進化している一方で、他の宿主細胞への感染は免れている(非特許文献24)[24]。例えばB型肝炎ウイルスは、肝細胞内のエンドソームから選択的に脱出して肝臓に感染することができる(非特許文献25)[25]。従って、ナノキャリアのエンドソーム脱出の選択性に関しては、癌細胞などの特定の細胞型において優先的にエンドソーム脱出能を有するナノキャリアを開発することが、優れた治療結果、及びオフターゲット効果の低下に向けて、送達の精度及び有効性を増加させるための有望なアプローチとなり得る。
【0006】
エンドソーム脱出が起こるための一般的な属性は酸性化であり、そのpHは6.5~4.5の範囲である(非特許文献26)[26]。従って、酸性環境は、ナノキャリアの脱出機能を活性化するためのトリガーとして広く使用されている(非特許文献27~29)[27~29]。最近の研究では、癌細胞のエンドソーム内のpHが高度に調節障害されていることが示されている(非特許文献30~32)[30-32]。例えば、癌細胞におけるエンドソームの過酸化は低酸素腫瘍内条件下で起こる(非特許文献30)[30]。これにより、分化したエンドソーム酸性化は、腫瘍にタンパク質を選択的に送達するためのナノキャリアのエンドソーム脱出を調節するのに適切なシグナルとなり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. Hanahan, R. A. Weinberg, Cell 2011, 144, 646.
【非特許文献2】K. Kardani, A. Milani, S. H. Shabani, A. Bolhassani, Expert Opin. Drug Deliv. 2019, 16, 1227
【非特許文献3】A. Jhaveri, V. Torchilin, Expert Opin. Drug Deliv. 2015, 13, 49.
【非特許文献4】J. L. S. Au, B. Z. Yeung, M. G. Wientjes, Z. Lu, M. G. Wientjes, Adv. Drug Deliv. Rev. 2016, 97, 280
【非特許文献5】A. Erazo-Oliveras, N. Muthukrishnan, R. Baker, T. Y. Wang, J. P. Pellois, Pharm. 2012, Vol. 5, Pages 1177-1209 2012, 5, 1177.
【非特許文献6】J. Gilleron, W. Querbes, A. Zeigerer, A. Borodovsky, G. Marsico, U. Schubert, K. Manygoats, S. Seifert, C. Andree, M. Stoter, H. Epstein-Barash, L. Zhang, V. Koteliansky, K. Fitzgerald, E. Fava, M. Bickle, Y. Kalaidzidis, A. Akinc, M. Maier, M. Zerial, Nat. Biotechnol. 2013 317 2013, 31, 638.
【非特許文献7】G. Sahay, W. Querbes, C. Alabi, A. Eltoukhy, S. Sarkar, C. Zurenko, E. Karagiannis, K. Love, D. Chen, R. Zoncu, Y. Buganim, A. Schroeder, R. Langer, D. G. Anderson, Nat. Biotechnol. 2013 317 2013, 31, 653.
【非特許文献8】T. Jiang, R. Mo, A. Bellotti, J. Zhou, Z. Gu, Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 2295.
【非特許文献9】A. Tao, G. Lo Huang, K. Igarashi, T. Hong, S. Liao, F. Stellacci, Y. Matsumoto, T. Yamasoba, K. Kataoka, H. Cabral, Macromol. Biosci. 2020, 20, 1900161.
【非特許文献10】F. Scaletti, J. Hardie, Y. W. Lee, D. C. Luther, M. Ray, V. M. Rotello, Chem. Soc. Rev. 2018, 47, 3421.
【非特許文献11】P. Mi, K. Miyata, K. Kataoka, H. Cabral, Adv. Ther. 2021, 4, 2000159
【非特許文献12】H. Cabral, K. Miyata, K. Osada, K. Kataoka, Chem. Rev. 2018, 118, 6844.
【非特許文献13】M. Ray, Y. W. Lee, F. Scaletti, R. Yu, V. M. Rotello, Nanomedicine 2017, 12, 941.
【非特許文献14】X. Qin, C. Yu, J. Wei, L. Li, C. Zhang, Q. Wu, J. Liu, S. Q. Yao, W. Huang, Adv. Mater. 2019, 31, 1902791.
【非特許文献15】Y. Nishimura, K. Takeda, R. Ezawa, J. Ishii, C. Ogino, A. Kondo, J. Nanobiotechnology 2014, 12, 1.
【非特許文献16】K. Sasaki, K. Kogure, S. Chaki, Y. Nakamura, R. Moriguchi, H. Hamada, R. Danev, K. Nagayama, S. Futaki, H. Harashima, Anal. Bioanal. Chem. 2008, 391, 2717.
【非特許文献17】I. M. S. Degors, C. Wang, Z. U. Rehman, I. S. Zuhorn, Acc. Chem. Res. 2019, 52, 1750.
【非特許文献18】S. A. Smith, L. I. Selby, A. P. R. Johnston, G. K. Such, Bioconjug. Chem. 2018, 30, 263.
【非特許文献19】J. Lee, I. Sands, W. Zhang, L. Zhou, Y. Chen, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2021, 118, e2104511118
【非特許文献20】S. Han, Q. Cheng, Y. Wu, J. Zhou, X. Long, T. Wei, Y. Huang, S. Zheng, J. Zhang, L. Deng, X. Wang, X. J. Liang, H. Cao, Z. Liang, A. Dong, Biomaterials 2015, 48, 45.
【非特許文献21】S. T. Yang, E. Zaitseva, L. V. Chernomordik, K. Melikov, Biophys. J. 2010, 99, 2525.
【非特許文献22】H. Yu, Y. Zou, Y. Wang, X. Huang, G. Huang, B. D. Sumer, D. A. Boothman, J. Gao, ACS Nano 2011, 5, 9246.
【非特許文献23】X. Han, H. Zhang, K. Butowska, K. L. Swingle, M.-G. Alameh, D. Weissman, M. J. Mitchell, Nat. Commun. 2021 121 2021, 12, 1.
【非特許文献24】J. M. White, G. R. Whittaker, Traffic 2016, 17, 593.
【非特許文献25】L. Stoeckl, A. Funk, A. Kopitzki, B. Brandenburg, S. Oess, H. Will, H. Sirma, E. Hildt, Proc. Natl. Acad. Sci. 2006, 103, 6730.
【非特許文献26】J. R. Casey, S. Grinstein, J. Orlowski, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2009 111 2009, 11, 50.
【非特許文献27】S. Wang, Front. Chem. 2021, 9, 145.
【非特許文献28】Y. Sato, H. Hatakeyama, Y. Sakurai, M. H 774 yodo, H. Akita, H. Harashima, J. Control. Release 2012, 163, 267.
【非特許文献29】N. Song, L. Zhou, J. Li, Z. Pan, X. He, H. Tan, X. Wan, J. Li, R. Ran, Q. Fu, Nanoscale 2016, 8, 7711.
【非特許文献30】M. Ko, A. Quinones-Hinojosa, R. Rao, Cancer Metastasis Rev. 2020, 39, 519.
【非特許文献31】F. Lucien, P. P. Pelletier, R. R. Lavoie, J. M. Lacroix, S. Roy, J. L. Parent, D. Arsenault, K. Harper, C. M. Dubois, Nat. Commun. 2017 81 2017, 8, 1.
【非特許文献32】L. W. Jiang, V. M. Maher, J. J. McCormick, M. Schindler, J. Biol. Chem. 1990, 265, 4775.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景のもと、タンパク質を目的となる組織に送達し、pHに応じてタンパク質を放出し得る担体の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、2種類のブロック共重合体とタンパク質との複合体により上記課題を解決し得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 次式(1):
【化1】
〔式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表し、
R3は、下記式(I)で示される化合物を表し、
【化2】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、複素環基、複素環アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を表す。また、RaとRbとが互いに結合し、それぞれが結合している炭素原子と共に芳香環又はシクロアルキル環を形成していてもよい。Ra及びRbがそれぞれ結合している炭素原子間の結合は、単結合であってもよいし二重結合であってもよい。)
L1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH2)p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L2a-(CH2)q1-L3a- (12)
(式中、L2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表し、
m1及びm2は、それぞれ独立して1~500の整数を表し(但し、m1及びm2の合計は10~500の整数を表す。)、m3、m4及びm5は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、nは1~500の整数を表す。
「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。〕
で示されるブロック共重合体と、次式(2):
【化3】
〔式中、R1、R2、L1、m1及びm2、並びに「/」の表記は前記と同様であり、R30及びR32は、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R31及びR33は、それぞれ独立してアミノ基を有する基又はリンカーを有する基を表す(但し、(m1+m2)個の各モノマー単位のうち少なくとも1つにおいて、R31及び/又はR33はリンカーを有する基である。)。〕
で示されるブロック共重合体との組み合わせを含む、タンパク質送達用pH応答性担体。
[2] 式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)~(Ig)で示される化合物のうち少なくとも1種である、[1]に記載の担体。
【化4】
[3] 式(I)で示される化合物が、下記式(Ia)又は(Ib)で示される化合物である、[2]に記載の担体。
【化5】
[4] リンカーを有する基が、下記式:
【化6】
(DBCOはジベンゾシクロオクチン基を表す。)
で示される基である、[1]に記載の担体。
[5] pHが4.0~6.5でエンドソーム脱出を行うことができる[1]に記載の担体。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の担体とタンパク質とを含む複合体。
[7] タンパク質がリボヌクレオタンパク質である[6]に記載の複合体。
[8] [6]に記載の複合体を含む医薬組成物。
[9] [7]に記載の複合体を含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ポリアスパラギン酸を骨格とするブロック共重合体と、ポリリジンを骨格とするブロック共重合体にタンパク質を担持させ、目的の組織にタンパク質を送達させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】RNP/mとRNP/LMの製法を示す図。
図2】粒子の特徴付けを示す図。a)代表的なHPLC結果b)粒子のコアを可視化する代表的なTEM画像(スケールバー=100nm)c)サンプルの代表的なDLS結果d)異なる条件下でのサンプルの解離を示すFCS測定e)マウス血清中のサンプルの安定性を示すFCS測定。データは平均±S.D、n=3として示す。
図3】CT26細胞におけるエンドソーム脱出能を示す図。a)異なる試料で処理された細胞の代表的なCLSM画像。青色:核;緑色:エンドソーム;赤色: RNP;スケールバー=20μmb)赤色ピクセルの緑色ピクセルへの定量化共局在化係数および画像の定量化赤色ピクセル強度。データは平均±S.D、n= 15. c)CTSB阻害剤またはバフィロマイシンA1で処理し、試料と共にインキュベートした細胞の代表的なCLSM画像としてプロットする。青色:核;緑色:エンドソーム;赤色: RNP;スケールバー=20μmd)画像の緑色画素に対する赤色画素の共局在化係数を定量化した。データは平均±標準偏差としてプロットされ、n= 10である。
図4】GFP発現細胞におけるインビトロノックアウト(KO)を示す図。画像からの緑色蛍光シグナル強度を分析し、棒グラフにプロットした。平均値±標準偏差としてプロットし、n=5、p値を一元配置分散分析により計算した(*p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001、*** p<0.0001)。細胞は、GFP発現を検出するためにフローサイトメトリーによって分析した。
図5】サンプル処理後のLuc発現細胞の生物発光アッセイを示す図。 左画像からの強度を正規化値に変換し、KO効率を示すために右パネルにプロットした。データは平均値±標準偏差で示す。 n=4
図6】静脈内注射の24時間後の切除臓器および腫瘍の代表的なIVIS画像。
図7】4T1-Luc腫瘍におけるインビボKOを示す図。a)処置前後の腫瘍からの生物発光シグナルを検出する代表的なIVIS画像b)個々の腫瘍からの生物発光強度を定量化c)処置前と比較した処置後の相対的生物発光強度。データは平均値±標準偏差で示し、 n=4. p値は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって計算した。
図8】自発性結腸癌を有するAi9マウスにおける遺伝子編集を示す図。a)切除臓器のIVIS画像b)切除した結腸のIVIS画像c)肝臓および腎臓の臓器の切片。青:ヘキスト;赤: Td-トマト;スケールバー= 20μmd)結腸試料の切片。青:ヘキスト;赤: Td-トマト;スケールバー= 100μm。
図9】RNP/LMおよびRNP/mによる腎臓における遺伝子編集を示す図。a)腎臓サンプルの肉眼的写真および切片b)体重変化および血液検査結果。データは平均値±標準偏差で示しす。 n=4.
図10】KRas遺伝子のIn vitro KOが細胞毒性を引き起こすことを示す図。データは平均値±標準偏差で示す。 n=5
図11】CT26腫瘍に対する抗腫瘍活性を示す図。a)個々の平均腫瘍成長曲線b)14日目に切除された腫瘍の重量c)実験中のマウスの体重変化d)臓器損傷を示す血液検査結果。データを平均±S.D.としてプロットする。RNP/m-WTの場合、n=5である。他の群についてはn=6であり、p値は一元配置分散分析(one-way ANOVA)によって計算される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.概要
本発明は、所定の細胞のサイトゾルに選択的に到達するための、エンドソーム脱出能を有する、タンパク質送達用pH応答性担体(高分子ナノキャリア)を提供する。本発明のpH応答性担体(ナノキャリア)は、カチオン性セグメントを有する第一のブロック共重合体と、側鎖にリンカーを含むセグメントを有する第二のブロック共重合体とを含む。本発明においては、第二のブロック共重合体の側鎖のリンカーにカテプシン切断性リンカーを連結することにより、当該カテプシン切断性リンカーを介してタンパク質を結合する。そして、前記第一のブロック共重合体、第二のブロック共重合体及びタンパク質を混合すると、タンパク質が内核に内包されたミセルを形成する。このミセルでは、第一ブロック共重合体は細胞質内の所定のpHに敏感であり、酸性pHではタンパク質から脱離する。カテプシンによって切断可能なリンカーが切断されることで、第二のブロック共重合体が脱離する。2段階のポリマーの脱離により、目的場所へのタンパク質の送達が可能となる。
【0014】
本発明においては、ナノキャリア中にタンパク質を内包することにより、in vitroとin vivoの両者において、タンパク質を癌細胞等のサイトゾルに選択的に送達させることを実証した。実施例では、リボヌクレオタンパク質の一例としてCas9-sgRNAを用い、Cas9-sgRNAを、リンカーを介してポリマーに連結させた複合体(ナノキャリア-リボヌクレオタンパク質複合体)を製造した。全身投与されたナノキャリア-リボヌクレオタンパク質複合体は、固形腫瘍における遺伝子を抑制し、副作用なしに腫瘍増殖を阻害した。このことから、本発明の複合体は治療可能な医薬組成物としての有用性を有することが確認された。本発明のナノキャリア-リボヌクレオタンパク質複合体には、リンカーとしてカテプシン感受性のリンカーが含まれているため、特定の細胞においてエンドソームからの脱出能を調節することができる。従って、本発明のナノキャリアは、タンパク質を細胞特異的に送達するために有用である。
【0015】
本発明においては、癌性及び非癌性細胞におけるエンドソームのpHをスクリーニングすることにより、いくつかの癌細胞が非癌性細胞と比較して顕著なエンドソーム酸性化を示すことを見出した。従って、本発明者は、エンドソームのpHプロファイルに基づいて、これらの癌細胞内にタンパク質を選択的に送達するための、エンドソーム脱出能を有するpH応答性ナノキャリアを開発した。
【0016】
2.ブロック共重合体
本発明は、次式(1)で示されるブロック共重合体と次式(2)で示されるブロック共重合体との組み合わせを含む、pH応答性のタンパク質送達用担体に関する。
2.1.式(1)で示されるブロック共重合体
式(1)で示されるブロック共重合体の構造は以下の通りである。
【化7】
【0017】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、若しくは置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤を表す。
R3は、下記式(I)で示される化合物を表す。
【化8】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、複素環基、複素環アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を表す。また、RaとRbとが互いに結合し、それぞれが結合している炭素原子と共に芳香環又はシクロアルキル環を形成していてもよい。Ra及びRbがそれぞれ結合している炭素原子間の結合は、単結合であってもよいし二重結合であってもよい。)
また、L1は、NH、CO、又は下記式(11):
-(CH2)p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、若しくは下記式(12):
-L2a-(CH2)q1-L3a- (12)
(式中、L2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表す。
m1及びm2は、それぞれ独立して1~500の整数を表し(但し、m1及びm2の合計は10~500の整数を表す。)、m3、m4及びm5は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、nは1~500の整数を表す。
「/」の表記は、その左右に示された(m1+m2)個の各モノマー単位の配列順序が任意であることを表す。
【0018】
ここで、一般式(1)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)がnのブロック部分がポリエチレングリコール(PEG)部分であり、繰り返し単位数がm1の部分とm2の部分とを合わせたブロック部分(一般式(1)中、[ ] 内に示された部分)がポリカチオン部分である。また、ポリカチオン部分の構造式中の「/」の表記は、その左右に示された各モノマー単位の配列順序が任意であることを意味する。例えば、A及びBというモノマー単位から構成されるブロック部分が、[-(A)a-/-(B)b-]と表記されている場合は、a個のAとb個のBとからなる合計(a+b)個の各モノマー単位が、ランダムにどのような並び順で連結していてもよいことを意味する(但し、すべてのA及びBは直鎖状に連結している。)。
【0019】
一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよい炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、又はアジド、アミン、マレイミド、リガンド若しくは標識剤などの官能基を表す。
上記炭素数1~12の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、デシル基及びウンデシル基等が挙げられる。また上記アルキル基の置換基としては、例えば、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、炭素数2~7のアシルアミド基、シロキシ基、シリルアミノ基、及びトリアルキルシロキシ基(各アルキルシロキシ基は、それぞれ独立に、炭素数1~6である)等が挙げられる。
【0020】
リガンド分子は、特定の生体分子を標的とする目的で使用される化合物を意味し、例えば、抗体、アプタマー、タンパク質、アミノ酸、低分子化合物、生体高分子のモノマーなどが挙げられる。標識剤としては、例えば希土類蛍光標識剤、クマリン、ジメチルアミノスルホニルベンゾオキサジアゾール(DBD)、ダンシル、ニトロベンゾオキサジアゾール(NBD)、ピレン、フルオレセイン、蛍光タンパク質などの蛍光標識剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
アセタール化ホルミル基はアセタール保護されたホルミル基であり、この置換基は、酸性の穏和な条件下で加水分解されるときの別の置換基であるホルミル基(又はアルデヒド基;-CHO)に転化することができる。また、上記置換基(特にR1における置換基)がホルミル基、又はカルボキシル基若しくはアミノ基の場合は、例えば、これらの基を介して、抗体若しくはその断片又はその他の機能性若しくは標的指向性を有するタンパク質等を結合させることができる。
【0022】
一般式(1)中、R3は下記一般式(I)で示される化合物を表す。
【化9】
上記式(I)中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、複素環基、複素環アルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基若しくはアリールオキシ基を表す。また、RaとRbとが結合し、それぞれが結合している炭素原子と共に芳香環又はシクロアルキル環を形成していてもよい。また、式(I)中、Ra及びRbがそれぞれ結合している炭素原子間の結合は、単結合であってもよいし二重結合であってもよく、限定はされない。式(I)においては、両結合様式を合わせて示すために、当該炭素原子間は一本の実線ともう一本の破線で表している。
【0023】
L1は、NH、CO、下記一般式(11):
-(CH2)p1-NH- (11)
(式中、p1は1~6の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(12):
-L2a-(CH2)q1-L3a- (12)
(式中、L2aは、OCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONH又はCOOを表し、L3aは、NH又はCOを表す。q1は1~6の整数を表す。)
で示される基を表す。
【0024】
式(1)において、m1及びm2は、それぞれ独立して1~500の整数を表し(但し、m1及びm2の合計は10~500の整数を表す。)、m3、m4及びm5は、それぞれ独立して1~5の整数を表す。式(1)において、nはPEG部分の繰り返し単位数(重合度)を表し、より具体的には1~500 (好ましくは100~400、より好ましくは200~300)の整数を表す。
【0025】
式(1)で示されるカチオン性高分子の分子量(Mn)は、限定はされないが、例えば23,000~45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000~34,000である。また、個々のブロック部分については、PEG部分の分子量(Mw)は、例えば8,000~15,000であることが好ましく、より好ましくは10,000~12,000であり、ポリカチオン部分の分子量(Mn)は、全体で例えば15,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは18,000~22,000である。
【0026】
一般式(1)で示されるカチオン性高分子の製造方法は、限定はされないが、例えば、R1とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、式(I)で示される化合物は下記式(Ia)~(Ig)で示される化合物の少なくとも1種である。
【化10】
【0028】
本発明の好ましい態様において、式(I)で示される化合物は下記式(Ia)又は(Ib)で示される化合物である。
【化11】
【0029】
式(I)において、置換基は飽和又は不飽和の非環式又は環式炭化水素基である。非環式炭化水素基の場合、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。炭化水素基としては、例えばC1-C20アルキル基、C2-C20アルケニル基、C4-C20シクロアルキル基、C6-C18アリール基、C6-C20アラルキル基、C1-C20アルコキシ基、C6-C18アリールオキシ基が挙げられる。
【0030】
式(I)で示される化合物は、塩基性又は中性タンパク質の全体としての電荷を酸性タンパク質の電荷に変換するものである。換言すれば、式(I)で示される化合物は、総荷電がプラス(+)側又はニュートラルな状態にあるタンパク質を、総荷電がマイナス(-)側にあるタンパク質となるように、電荷量をコントロールして、総荷電の変換を行うものであると言える。上記総荷電の変換は、具体的には、前記式(I)で示される化合物又はその誘導体が、タンパク質に含まれるアミノ基(プラス荷電を有する基)と結合し、タンパク質全体をマイナス荷電にすることにより行われる。この目的のため、当該結合は、例えば、前記式(I)で示される化合物と、タンパク質中のアミノ基とが結合(共有結合)して、下記式(I’)に示されるような構造をとることでなされる。
【0031】
【化12】
【0032】
上記結合に関しては、例えば、前記式(I)で示される化合物が前記式(Ib)及び(Ic)で示される化合物である場合、当該結合後の上記式(I’)に示される構造としては、以下の通りとなる。
【化13】
【0033】
本発明のさらなる態様において、式(1)で示されるブロック共重合体は下記式10で示される。
【化14】
【0034】
2.2.式(2)で示されるブロック共重合体
本発明において、式(2)で示されるブロック共重合体は、以下の構造を有する。
【化15】
【0035】
式中、R1、R2、L1、m1及びm2、並びに「/」の表記は前記と同様であり、R30及びR32は、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R31及びR33は、それぞれ独立してアミノ基を有する基又はリンカーを有する基を表す(但し、(m1+m2)個の各モノマー単位のうち少なくとも1つにおいて、R31及び/又はR33はリンカーを有する基である。)。
【0036】
アミノ基を有する基は、一級アミンを有するアミン化合物由来の残基であり、リンカーを有する基は、一級アミンを有するアミン化合物由来の残基の末端にリンカーが結合した基を表す。
例えば、アミノ基を有する基は、下記一般式(22):
-NH-(CH2)r-X1 (22)
(式中、X1は、一級、二級若しくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表し、rは0~5の整数を表す。)
で示される基、又は下記一般式(23):
-〔NH-(CH2)st -X2 (23)
(式中、X2は、一級、二級若しくは三級アミン化合物又は四級アンモニウム塩由来のアミン化合物残基を表す。s及びtは、それぞれ独立し、かつ〔NH-(CH2)s〕ユニット間で独立して、sは1~5の整数を表し、tは2~5の整数を表す。)
で示される基が挙げられる。
リンカーを有する基では、前記式(22)及び(23)において、X1及びX2がリンカーとなる。
【0037】
より具体的には、R31及びR33はとしては、例えば、-NH-NH2 又は次式:
【化16】
(DBCOはジベンゾシクロオクチン基を表す。)
で示される基が挙げられる。好ましくは、アミノ基を有する基としては
【化17】

で示される基が挙げられ、リンカーを有する基としては
【化18】
で示される基が挙げられる。
【0038】
但し、リンカーはDBCOに限定されるものではなく、BCN(bicyclo[6.1.0.]nonyne)であってもよく、これらのリンカーはPEG等で修飾されたものでもよい。DBCO及びBCNリンカーは市販品(フナコシ)を使用することができる。これらのリンカーは、アジド標識分子又は生体分子と反応する。カテプシンB感受性リンカー(カテプシン切断性リンカー)としてアジド化合物(実施例参照)を用いてこれをタンパク質に結合させておくと、例えばDBCOを使用することによりタンパク質等を結合することができる。
【0039】
また本発明においては、(m1+m2)個の各モノマー単位のうち少なくとも1つは、R31及び/又はR33がリンカーを有する基である。例えばm1が5個、m2が5個のモノマーで構成されるブロック共重合体を考えてみると、一態様では、m1を構成するモノマーのうち1つがリンカーを有し、m2を構成するモノマーはリンカーを有さないブロック共重合体とすることができ、別の態様では、m1を構成するモノマーのうち1つがリンカーを有し、かつ、m2を構成するモノマーのうち1つがリンカーを有するブロック共重合体とすることができ、さらに別の態様では、m1を構成するモノマーの5個すべてがリンカーを有し、m2を構成するモノマーは5個全てがリンカーを有さないブロック共重合体とすることができる。
本願発明では、どのモノマー部分がリンカーを有する基であるかは任意に設定することができる。
【0040】
ブロック共重合体の製造方法は、特に限定はされないが、末端にアミノ基を有する非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを用いて、そのアミノ末端から、例えば、β-ベンジル-L-アスパルテート及び/又はγ-ベンジル-L-グルタメートのN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、側鎖ベンジル基を他のエステル基に変換するか、又は部分若しくは完全加水分解することにより目的のブロックコポリマーを得る方法が挙げられる。
【0041】
3.担体-タンパク質複合体
本発明の複合体は、抗体やリボヌクレオタンパク質等のタンパク質と、上述したカチオン性高分子中の一部(ポリカチオン部分)とが静電的相互作用をしてコア部分を形成し、当該カチオン性高分子中の他の部分(PEG部分を含む部分)がコア部分の周囲にシェル部分を形成したような状態の、コア-シェル型のミセル状複合体であり、ポリイオンコンプレックス(PIC)であるということができる。
【0042】
本発明に用いるタンパク質の種類としては、元来塩基性又は中性タンパク質に含まれるものであればよく、限定はされない。本発明に用いるタンパク質は、単純タンパク質、糖タンパク質、脂質タンパク質、リボヌクレオタンパク質等を包含する。また、本発明に用いるタンパク質は、全長アミノ酸配列からなるものに限らず、その部分断片及びペプチド等も包含し、さらには、二分子(二量体)以上からなるタンパク質や、その部分配列又は全長配列同士の融合タンパク質も包含する。また、本発明に用いるタンパク質は、天然アミノ酸から構成されているものに限定はされず、少なくとも一部に非天然アミノ酸を構成成分として含む修飾タンパク質も包含する。さらに、本発明に用いるタンパク質は、必要に応じて、適宜、各種標識物質等を付加したものであってもよい。
【0043】
本発明に用いるタンパク質の具体例としては、例えば、リボヌクレオタンパク質、ヘムタンパク質、各種サイトカイン、各種酵素、又は抗体(例えば、核膜孔複合体に対する抗体等)若しくは抗体断片等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
リボヌクレオタンパク質は、RNAを含む核タンパク質、即ちリボ核酸とタンパク質の複合体である。例えば、遺伝子編集に使用されるCas9とガイドRNA(sgRNA)との複合体などが挙げられる。その他のリボヌクレオタンパク質としては、リボソーム、テロメラーゼ、ヴォールト、リボヌクレアーゼP、hnRNP、snRNP等が挙げられる。
【0044】
本発明の複合体は、タンパク質とカチオン性高分子とを任意のバッファー(例えばTrisバッファー等)中で混合することにより容易に調製することができる。
カチオン性高分子とタンパク質との混合比は、限定はされないが、本発明においては、例えば、ブロックコポリマー中のカチオン性基(例えばアミノ基)の総数(N)と、タンパク質中のカルボキシル基の総数(C)との比(N/C比)を、0.1~200とすることができ、また0.5~100としてもよく、さらに1~50としてもよい。N/C比が上記範囲のときは、遊離のカチオン性高分子を低減できる等の点で好ましい。なお、上記カチオン性基(N)は、ミセルに内包するタンパク質中のカルボキシル基と、静電的相互作用によりイオン結合を形成することができる基を意味する。
【0045】
本発明の複合体の大きさは、限定はされないが、例えば、動的光散乱測定法(DLS)による粒径が5~200 nmであることが好ましく、より好ましくは10~100 nmである。
【0046】
本発明の複合体は、細胞内に導入された後、内包していたタンパク質(リボヌクレオタンパク質、抗体等)を放出するが(エンドソーム脱出)、この際、細胞質内におけるpH環境の変化(弱酸性環境下(例えばpH 5.5程度)に変化)により、前記式(I)で示されるブロック共重合体がタンパク質から解離する(結合が切れる)。これにより、タンパク質の全体としての電荷(総荷電)が、タンパク質がもともと有する固有の電荷(総荷電)に回復するため、導入した細胞内においては、タンパク質をその構造及び活性等が再生した状態で存在させることができる。エンドソーム脱出を行うときのpHは、例えば4.0~6.5である。
【0047】
また、前記式(II)で示されるブロック共重合体には側鎖にリンカーが結合しており、このリンカーと、予めタンパク質に連結させておいたカテプシン切断性リンカーとを結合しておくことで、タンパク質を式(II)で示されるブロック共重合体に担持させておくことができる。前記の通り、カテプシン切断性のリンカーはカテプシンにより切断されるため、2段階でのポリマー脱離により目的場所へのタンパク質送達を実現することができる。
【0048】
4.タンパク質送達デバイス
本発明においては、上述した複合体(PIC)を含むタンパク質送達デバイスが提供される。本発明のタンパク質送達デバイスは、細胞内外の酸化還元環境の変化を利用し、PICのコア部分に内包するとともに、リンカーを介して式(II)に示すブロック共重合体に結合させたタンパク質を、標的細胞の細胞表面、細胞内及び細胞外から選ばれるいずれかに効率的に導入する手段として使用できる。
【0049】
本発明の複合体において、コア部分の構成成分となるタンパク質としては、前述した式(I)で示される化合物により全体としての電荷が変換されたタンパク質(荷電変換タンパク質)であればよく、具体的には、総荷電が、塩基性又は中性タンパク質の総荷電(プラス側又はニュートラルな状態)から酸性タンパク質の総荷電と同様にマイナス側となるように変換されたタンパク質であればよい。総荷電がマイナス側となるように変換されたタンパク質は、タンパク質全体としてはアニオン性の物質(ポリアニオン)であると言える。従って、前記カチオン性高分子中のポリカチオン部分との静電的相互作用により、もともと塩基性又は中性タンパク質では形成が困難であったミセル状複合体を容易に形成することができる。
【0050】
例えば内包させるタンパク質としてCas9とガイドRNAとのリボヌクレオタンパク質を例に説明すると、Cas9及びガイドRNAを内包した複合体を含む溶液を被験動物に投与して、体内の標的細胞に取り込ませる。その後、細胞内に取り込まれた複合体がエンドソームに到達すると、式(I)に示される化合物がCas9及びガイドRNAより脱離し、複合体内の電荷のバランスが変化することによって複合体が崩壊する。複合体が崩壊すると、複合体からCas9及びガイドRNAがリリースされ、それと同時に複合体から解離したポリマーがエンドソーム膜を傷害する。それによってエンドソームが破壊されるために、放出したCas9及びガイドRNAの細胞質内への送達が達成される。
その後、CRISPR-Cas9の原理に従って、遺伝子編集が行われる。
【0051】
また、抗体を内包したミセルでは、細胞外で抗体を放出して抗体が細胞表面の受容体に結合するため、細胞表面を送達の対象にすることができる。
【0052】
本発明のタンパク質送達デバイスは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ及びネコ等の各種哺乳動物に適用することができ、限定はされない。被験動物への投与方法は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用され、投与量、投与回数及び投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態に合わせて適宜設定することができる。
【0053】
5.医薬組成物
本発明の複合体及びタンパク質送達デバイスは、各種疾患の原因となる細胞に遺伝子や抗体を導入する治療(例えば、抗体による抗腫瘍療法、遺伝子編集技術を用いた抗腫瘍療法等)に用いることができる。よって本発明は、前述した複合体を含む医薬組成物(例えば抗腫瘍療法用の医薬組成物)、及び、前述した複合体を用いる各種疾患(例えば腫瘍)の治療方法を提供することもできる。なお、投与の方法及び条件は前記と同様である。
【0054】
本発明の医薬組成物において、対象となる腫瘍は、特に限定されるものではない。例えば、脳腫瘍(下垂体腺腫、神経膠腫)、頭頸部癌、頚癌、顎癌、口腔癌、唾液腺癌、舌下腺癌、耳下腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、喉頭癌、食道癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、胆道癌(胆管癌、胆嚢癌)小腸又は十二指腸癌、大腸癌、膀胱癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、甲状腺癌、咽頭癌、肉腫(例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、カポジ肉腫、筋肉腫、血管肉腫、線維肉腫など)、悪性リンパ腫(ホジキン型リンパ腫、非ホジキン型リンパ腫)、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)及び急性リンパ性白血病(ALL)、リンパ腫、多発性骨髄腫(MM)、骨髄異型成症候群などを含む)、皮膚癌、メラノーマなどを挙げることができる。
【0055】
また、本発明の医薬組成物の標的タンパク質として例えば IL-10, IL-4, IL-10, IL-6, IL-11, IL-13 IL-1R, IL-18R, TNF-R1, TNF-R2, TGF-β,CXCL12を使用する場合は、炎症性疾患や免疫系の疾患を対象とすることができる。
炎症性疾患としては、リウマチ、乾癬、多発性硬化症、クローン病、心筋炎、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、咽喉頭炎、膀胱炎、肝炎、肺炎、膵炎、腸炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、シェーグレン症候群、クローン病、多発性硬化症、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、急速進行性糸球体腎炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病(免疫性血小板減少症)、バセドウ病、天疱瘡などが挙げられる。
【0056】
上記医薬組成物については、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0057】
本発明の医薬組成物の投与形態としては注射が挙げられ、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、筋肉、関節内、皮下、皮内等に局所投与することができる。この場合、通常は単位投与量アンプル又は多投与量容器の形態で提供され、使用する際に適当な担体、例えば滅菌水で再溶解させる粉体であってもよい。また、これらの剤形に対し、製剤上一般に使用される添加剤を含有させることもできる。その投与量は、治療目的、ミセルの形態、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができ、本発明の医薬組成物に含まれる抗体の量は、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、本発明の医薬組成物の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり1μg~1000μgであり、1日間から6週間間隔で投与される。
【0058】
6.タンパク質送達用キット
本発明のタンパク質(例えば抗体やリボヌクレオタンパク質)送達用キットは、式(I)で示されるブロック共重合体と式(II)で示されるブロック共重合体とを含むことを特徴とするものである。当該キットは、例えば、免疫治療方法、抗腫瘍療法等に好ましく用いることができる。
【0059】
本発明のキットにおいて、カチオン性高分子の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。本発明のキットは、前記ブロックコポリマー以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー、細胞内に導入する各種タンパク質(電荷変換タンパク質)、溶解用バッファー及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。本発明のキットは、標的細胞内に導入するタンパク質をコア部分としたポリイオンコンプレックス(PIC)を調製するために使用され、調製したPICは、標的細胞へのタンパク質送達デバイスとして有効に用いることができる。
【0060】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0061】
<Cas9-ガイドRNA(sgRNA)複合体(RNP)内包ミセルによるエンドソーム脱出能及び遺伝子編集試験>
1.材料と方法
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI 1640培地(RMPI)、William’s E培地、ニジェリシンナトリウム塩、cis-アコニチン無水物、ジエチレントリアミン(DET)、バフィロマイシンA1、核孔複合体抗体(抗NPC)(414クローン)及びウサギc-MYC抗体(ポリクローナル)は、Sigma Aldrich(St. Louis, USA)から購入した。
【0062】
フルオレセイン及びテトラメチルローダミン標識デキストラン(Fluor-Dex-Rhod、Mw = 70,000 Da)、Alexa Fluor 647(A647)-NHSエステル、QSY21-NHSエステル、DyLight 650(Dy650)-NHSエステル、lysotracker-grenn、ウサギβアクチン抗体(抗βアクチン)(RM112クローン)、HRP結合ウサギ-IgG抗体(HRP抗ウサギIgG)(ポリクローナル)、ウェスタンブロットゲルおよびECL基質は、Invitrogen(Waltham、USA)から購入した。α‐メトキシ‐ω‐アミノポリ(エチレングリコール)(MeO‐PEG‐NH2)(Mw=12,000g mol‐1)は、NOF Co., Ltd.(東京、日本)から入手した。N‐トリフルオロアセチル‐L‐リジン‐N‐カルボキシ無水物(Lys(TFA)‐NCA)およびβ‐ベンジル‐L‐アスパルテート‐N‐カルボン酸無水物(BLA‐NCA)は、中央化成品(東京、日本)から入手した。重炭酸ナトリウム、メタノール、CH2Cl2、NaOH、ジメチルホルムアミド(DMF)およびウシ血清アルブミン(BSA)は、Wako Co.( 東京、日本)から購入した。酸化重水素(D2O)DMSO-d6および塩化オキサリルは、東京化学工業株式会社(東京、日本)から購入した。マウス抗c-MYC (9E10クローン)は、Bioxcell(Lebanon, USA)から購入した。Hoechst 33342および細胞計数キット8(CCK-8)アッセイは、同仁堂研究所(熊本、日本)から購入した。FITC-アネキシンV/PIアポトーシスアッセイおよびTUNELアッセイキット-HRP-DABは、Abcam(Cambridge, UK)から購入した。
【0063】
細胞及び動物
CT26細胞、HEK293細胞、RAW264.7細胞、HCT116細胞、HT29細胞、HepG2細胞、HuH7細胞およびHela‐Luc細胞を理研バイオリソースセンター(筑波、日本)から得た。CT 26、HEK293、RAW 264.7およびHela‐Luc細胞は、37℃および5% CO2雰囲気下、10% FBSおよび1×ペニシリン‐ストレプトマイシンを補ったDMEM中で培養した。HCT116、HT29、HepG2およびHuH7細胞は、37℃および5% CO2雰囲気下で、10% FBSおよび1×ペニシリンストレプトマイシンを補ったRMPI中で培養した。マウス肝細胞はBALB/cマウスから単離し、既報のプロトコールに従って培養した[52]。BALB/cマウスは、Charles River Japan(神奈川、日本)から購入した。動物実験手順は、東京大学のGuidelines for Care and Use of Laboratory Animalsに従って実施した。
【0064】
複数の細胞株におけるエンドソームpHのプロファイリング
細胞(CT26細胞、HCT116細胞、HT29細胞、HepG2細胞、HuH7細胞、Hela-Luc細胞、マウス肝細胞、HEK293細胞およびRAW264.7細胞)を8ウェルチャンバースライド(ウェルあたり104細胞)に播種し、所定の条件下で培養した。細胞がチャンバースライドの底に付着するように一晩インキュベートした後、Fluor-Dex-Rhod(50μg/mL)を細胞に添加した。4および8時間のインキュベーション後、細胞をPBSで3回洗浄し、共焦点レーザー散乱顕微鏡(CLSM)(LSM-780、Zeiss)により488nmおよび543nm励起レーザーで画像化した。2つのチャネルからの画像を、2つの蛍光色素からの強度の比を計算するために、Image Jソフトウェアによって分析した。

pHの明確な値を決定するために、対応する細胞から較正曲線を得た。細胞をFluor-Dex-Rhodで4時間培養し、続いてPBSで洗浄し、PBS中の20μMニゲリシンおよび20μMモネンシンでそれぞれ決定されたpH値で5分間処理し、次いでCLSMを画像化した。各サンプルにおいて、少なくとも10個の画像を分析し、個々のピクセルの平均蛍光強度比値を計算してヒートマップを生成した。
【0065】
cis‐アコニチン無水物修飾ポリ(エチレングリコール)‐b‐ポリ(L‐リジン)[PEG-pLL(CAA)]の合成
PEG-pLL(CAA)の合成経路をスキームS1に示す。
【0066】
【化19】
【0067】
先ず、MeO-PEG-NH2(Mw = 12000g mol-1)により開始される水性開環重合(ROP)によって、PEG-pLLを合成した[53]。すなわち、MeO-PEG-NH2(1g、0.083mmol)を25mLの重炭酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH=8.4)に溶解した。Lys(TFA)-NCA(1g、3.75mmol)をAr雰囲気中で秤量した。次に、MeO-PEG-NH2溶液を直ちにLys(TFA)-NCAに添加した。
【0068】
混合物を氷浴中で連続撹拌しながら12時間反応させ、次いで純水(膜の分子量カットオフ(MWCO):6,000~8,000Da)に対して2日間透析した。透析した溶液を凍結乾燥して白色粉末を得た後、メタノール/CH2Cl2混合物(v:v=1:1)に再溶解し、冷ジエチルエーテルに対して沈殿させてPEG-pLL(TFA)を得た。TFA基を除去するために、PEGpLL(TFA)を、1M NaOHを含有するメタノールに溶解し、室温で一晩の反応を維持した。純水に対する透析(MWCO: 6,000~8,000Da)による精製後、溶液を凍結乾燥してPEG-pLLを得た。リジン基の重合度(DP)は、D2O中の1H-NMR(400MHz NMR、JEOL)によって測定した。
【0069】
酸塩化物とアミンとの縮合反応により、cis‐アコニチン無水物(CAA)基をPEG‐pLL中のリジンのアミノ基に結合させた。このために、CAAの酸塩化物(CAA-Cl)を最初に調製した。塩化オキサリル(2mL、2.5g、20mmol)をCAA(153mg、1mmol)に加えた。混合物を25℃で一晩反応させた後、真空乾燥によって溶媒及び過剰の塩化オキサリルを除去した。PEG-pLL(200mg、0.011mmol)を20mLのCH2Cl2に溶解し、溶液をCAA-Clに移した。反応物を25℃で一晩保持し、最終生成物PEG-pLL(CAA)を、ジエチルエーテルに対する沈殿により暗赤色固体として回収した。CAA基との結合は80℃下でDMSO‐d6中、1H‐NMRにより確認し、ポリマーの多分散性を水性GPC(Extrema, JEOL)(溶出液: 10mM PBS, pH 3.0;温度: 25℃;流速:0.75mL min-1;検出器: UV 220nm)により試験した。
【0070】
ポリ(エチレングリコール)‐ポリ{N‐[N‐(2‐アミノエチル)‐2‐アミノエチル]アスパルタミド}(PEG‐pAsp(DET))の合成
PEG-pAsp(DET)の合成経路をスキームS2として示す。
【0071】
【化20】
【0072】
先ず、ポリ(エチレングリコール)‐b‐ポリ(b‐ベンジル‐L‐アスパルテート)(PEG‐PBLA)を水性ROP反応により合成した。MeO-PEG-NH2(Mw = 12000g mol-1、1g、0.083mmol)を25mLの重炭酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH=8.4)に溶解した。BLA-NCA(1g、3.75mmol)をAr雰囲気中で秤量した。次に、MeO-PEG-NH2溶液を直ちにBLA-NCAに添加した。反応混合物を氷浴中で12時間連続撹拌しながら反応させ、次いで純水(MWCO: 6,000~8,000Da)に対して2日間透析した。透析した溶液を凍結乾燥して白色粉末を得た後、CH2Cl2に再溶解し、冷ジエチルエーテルに対して沈殿させてPEG-PBLAを得た。BLA基のDPをクロロホルム‐d3中の1H‐NMRにより特徴づけした。
【0073】
PEG‐pAsp(DET)はPEG‐PBLAのアミノリシスにより合成した。
PEG-PBLA(220mg、0.01mmol)を10mLの無水DMFに溶解した。ジエチレントリアミン(DET)(2.5mL、25mmol)をPEG-PBLA溶液に添加した。混合物を0℃で1時間反応させ、次いで、溶液中に供給されたアミン基に相当する氷冷5M HCl(aq)を滴下することによって反応を停止させた。中和した溶液を最初に0.01 M HCl(MWCO: 6,000~8,000Da)に対して透析し、次いで純水に対する透析に変更した。精製した溶液を凍結乾燥して、PEG-pAsp(DET)を白色粉末として得た。DET基の結合を確認するために、最終生成物をD2O中の1H-NMRによって特徴付けした。ポリマーの多分散性は、水性GPC(溶出液: 10mM PBS、pH 7.4;温度: 25℃;流速:0.75mL min-1;検出器: UV 220nm)によって試験した。
【0074】
Cas9-sgRNA複合体(RNP)の調製
Cas9タンパク質および対応するsgRNAは、1:1のモル比で10mM HEPES緩衝液(pH 8.0)中で混合した。RNPを組み立てるために、混合物を25℃で15分間インキュベートした。
【0075】
PEG-pLL(CAA)被覆RNP-PEG-pAsp(DET)コンジュゲート(RNP/L/M)の調製
調製したRNP溶液を0.1M NaHCO3緩衝液(pH 8.2)で希釈し、Cas9タンパク質ベースで最終濃度1mg/mLとした。RNPに連結するためのCTSB感受性リンカーである、アジド-[ポリ(エチレングリコール)]3-バリルシトルリル-(4-アミノベンジル)-(4-ニトロフェニル)カーボネート(アジド-PEG3-Val-Cit-PAB-PNP)を10mg/mLの濃度でDMFに溶解した。次いで、調製したアジド-PEG3-Val-Cit-PAB-PNP溶液を、アジド-PEG3-Val-Cit-PAB-PNP対RNPのモル比が50に達するまでRNP溶液に添加した。混合物を4℃で12hインキュベートした後、Sephadex G25を充填したPD-10カラムに浸潤させて、非コンジュゲートアジド-PEG3-Val-Cit-PAB-PNPを除去した。
【0076】
ポリマーの側鎖にリンカーを連結するためにPEG-pAsp(DET)をDBCO基で修飾した。すなわち、PEG-pAsp(DET)(10mg/mL)を0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH 8.5)に溶解し、4℃で12時間DMFに溶解した等価DBCO‐PEG4‐NHSエステル(10mg/mL)と反応させた。次いで、反応物を水(膜MWCO: 6,000~8,000Da)に対する透析によって精製し、凍結乾燥して最終生成物を得た。次に、アジド-PEG3-Val-Cit-PAB-PNPコンジュゲートRNP(0.5mg/mL)をPBS(pH 7.4)に溶解し、50倍当量のDBCO修飾PEG-pAsp(DET)と4℃で12時間反応させた。
【0077】
RNPとポリマーとのコンジュゲーションを確認するために、AlexaFluor 647(A647)標識Cas9タンパク質を反応に使用し、反応した混合物をHPLCシステム(LC-Extrema, JEOL)(カラム: Superdex 200-10/300GL、溶離液: 10mM PBS pH 7.4;温度: 25℃;流速:0.75mL/分;検出器:蛍光650/665nm)にロードした。生成物であるRNP-pAsp(DET)コンジュゲート(RNP/L)を、50,000DaのMWCOを有する膜を通した反応混合物の遠心濾過によって精製した。
【0078】
RNP-pAsp(DET)をPEG-pLL(CAA)ポリマーで被覆するために、調製したRNP-pAsp(DET)を10mM HEPES緩衝液(pH 8.0)にCas9基準で1mg/mLの濃度に溶解した。
PEG-pLL(CAA)ポリマーは、10mM HEPES緩衝液(pH 4.5)に20mg/mLの濃度に溶解した。PEG-pLL(CAA)溶液を、添加されたPEG-pLL(CAA)がRNP-pAsp(DET)のモル当量の100倍に達するまで、シリンジポンプによって2μL/分の流速でRNP-pAsp(DET)溶液に添加した。高分子コーティングを確認するために、A647ラベルのCas9タンパク質を反応に用い、反応した混合物をHPLCシステム(LC-Extrema, JEOL)(コラム: Superdex 200-10/300GL, eluent: 10mM PBS pH 7.4;温度: 25℃;流量率:0.75m/min;検出器:蛍光650/665nm)にロードした。混合物を、300,000DaのMWCOを有する膜を通した遠心濾過によって精製し、最後に、以下の実験のためにPBS(pH 7.4)中に分散させた。
【0079】
RNP内包高分子ミセル(RNP/m)の調製
調製したRNPを10mM HEPES緩衝液(pH 8.0)にCas9基準で1mg/mLの濃度に溶解した。さらに、PEG-pAsp(DET)(5mg/mL)をRNP溶液に加えた。PEG-pLL(CAA)ポリマーを10mM HEPES緩衝液(pH 4.5)に20mg/mLの濃度に溶解した。PEG-pLL(CAA)溶液を、添加されたPEG-pLL(CAA)がRNPのモル当量の100倍に達するまで、シリンジポンプによって2μL/分の流速でRNP-pAsp(DET)溶液に添加した。ミセルへのRNPの内包を確認するために、A647ラベルのCas9タンパク質を反応に使用し、反応混合物をHPLCシステム(LC-Extrema, JEOL)(コラム: Superdex 200-10/300GL, eluent: 10mM PBS pH 7.4;温度: 25℃;流量率:0.75m/min;検出器:蛍光650/665nm)にロードした。混合物を、300,000DaのMWCOを有する膜を通した遠心濾過によって精製し、最後に、以下の実験のためにPBS(pH 7.4)中に分散させた。
【0080】
粒子の特性評価
高分子構造の形成は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって確認した。粒子試料を、それぞれ10mM HEPES緩衝液(pH 7.4)で希釈して、Cas9タンパク質ベースで100ng/mLの最終濃度にした。試料を2%(w/v)酢酸ウラニル溶液で染色し、TEM(JEM-1400、JEOL)によって観察した。
【0081】
粒子のサイズ分布は、動的光散乱(DLS)測定により決定した。試料を、10mM HEPES緩衝液(pH 7.4)中のCas9タンパク質ベースで100μg/mLの最終濃度に調整し、次いでDLS(Zetasizer, Malvern Panalytical)によって測定した。粒子の表面電荷状態を示すため、サンプルのζ電位もZetasizerで測定した。
【0082】
粒子の刺激応答性解離は、蛍光相関分光法(FCS)によって評価した。この測定のために、全ての試料にA647標識Cas9タンパク質をロードした。pH感受性を検出するために、粒子を異なるpH(7.4、6.5および5.0)のPBS緩衝液中、Cas9タンパク質ベースで100μg/mLの濃度でインキュベートした。所定の時点で、サンプルを純水中で50 nMのA647当量の最終濃度まで希釈し、8ウェルチャンバープレートにロードし、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)(LSM780、Zeiss)によるFCS測定を行った。サンプルの拡散時間を記録し、サンプルの拡散係数を計算するためにA647遊離染料標準の値に正規化した。
【0083】
CTSB感受性を検出するために、粒子を、Cas9タンパク質ベースで100μg/mLの濃度で0.1μM CTSBを含有する異なるpH(7.4および5.0)のPBS緩衝液中でインキュベートした。所定の時点で、サンプルを上述のプロトコールに従って希釈し、FCS法によって測定した。
【0084】
マウス血清中の粒子の安定性も、FCSによって調べた。BALB/cマウス(雌、9週間)の眼静脈からマウス血液サンプルを採取した。凝固した血液を遠心分離(10000g、10分)し、上清を回収することによって、血清を単離した。PBS (pH 7.4)に溶解した粒子(Cas9タンパク質ベースで100μg/mL)を、1:1の体積比で血清と混合した。所定の時点で、サンプルを上述のプロトコールに従って希釈し、FCS法によって測定した。
【0085】
エンドソーム脱出能評価
細胞取り込み時の粒子のエンドソーム脱出能を、CT26細胞において評価した。CT26細胞を8ウェルチャンバープレート(104細胞/ウェル)に播種した。Luc-sgRNAおよびA647標識Cas9タンパク質で組み立てられた遊離RNP、およびこのRNPによって形成された粒子をウェルに添加した(Cas9タンパク質ベースで5μg/ウェル)。一定時間インキュベートした後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、続いてHeochst33342およびLysotracker Greenで染色した。染色された細胞はCLSM(LSM780、Zeiss)によって観察した。赤色蛍光シグナルの緑色蛍光シグナルへの共局在化係数をZENソフトウェアによって計算し、エンドソームへのRNPの共局在化を評価した。
【0086】
粒子の性能に対するエンドソームCTSB活性およびエンドソーム酸性化の効果についても、CT26細胞において調べた。CTSB活性を阻害するために、細胞を、10μMのZ-FA-FMKを含有する培地中で12時間インキュベートし、次いで、以下のサンプル処理のために通常の培地に交換した。エンドソームの酸性化を阻害するために、50 nMのバフィロマイシンA1を補充した培地中で細胞を培養した。サンプル処理後、細胞をCLSM観察のためにHoechst33342およびLysotracker Greenで染色した。
【0087】
In vitro遺伝子ノックアウト
粒子の遺伝子ノックアウト効果は、GFPまたはルシフェラーゼを発現する細胞においてin vitroで評価した。
GFP発現C26およびB16F10細胞(C26-GFPおよびB16F10-GFP細胞)については、細胞を8ウェルチャンバープレート(105細胞/ウェル)に播種した。GFP-sgRNAで組み立てられたRNPを負荷した粒子を、RNPベースで50 nMの最終濃度で細胞に添加した。細胞を3日間インキュベートし、次いで、細胞をHoechst33324で染色し、緑色蛍光の強度を測定するためにCLSMによって観察した。定量分析のために、細胞をトリプシン処理し、2% FBS含有PBS中に分散させ、次いでフローサイトメトリー測定(LSR II、BD Bioscience)にロードした。
【0088】
ルシフェラーゼ発現細胞については、透明なガラス底面を有する黒色96ウェルプレートに細胞を播種した(105細胞/ウェル)。Luc-sgRNAと組み立てられているRNPをロードした粒子を、異なる濃度で細胞に添加した。細胞を3日間培養した。次に、D-ルシフェリンを最終濃度150μg/mLまで各ウェルに添加した。3分間待機した後、プレートをインビボイメージングシステム(IVIS)(Xenogen IVIS 2000、Perkin)にロードして、生物発光シグナル強度を検出した。
【0089】
全身注射時の体内分布
Luc-sgRNAおよびA647標識Cas9タンパク質と組み立てられたRNPを担持する粒子を、PBS(pH 7.4)中に0.5mg/mLの最終濃度まで分散させた。各マウスについて、200μLの試料溶液を尾静脈に注射した。注射の24時間後、臓器試料を採取した。次いで、器官を、Ex650/Em680光路設定を有するIVISシステムによって撮像した。
【0090】
原発腫瘍におけるin vivo遺伝子ノックアウト
BALB/cマウス(雌、6週間)に4T1-Luc細胞(106細胞/マウス)を皮下接種した。腫瘍体積が200 mm3に達した時、無作為に群分けした。Luc-sgRNAと組み立てられたRNPを含有する試料を、マウス1匹当たり100μgのCas9当量の用量で尾静脈に注射した。マウスの生物発光画像を、注射前および注射後5日目にIVISによって撮影した。画像化のために、3mgのD-ルシフェリンを含有する200μLのPBSを尾静脈に各マウスに注射し、10分間維持して画像化した。個々の腫瘍からの生物発光強度を記録した。
【0091】
自発結腸癌Ai9マウスにおけるin vivo遺伝子ノックアウト
化学的に誘導された自発結腸癌は、既報のプロトコール(www.nature.com/articles/nprot.2007.279)に従って、Ai9マウスで確立した。TOM-sgRNAと組み立てたRNPを含有する試料を、マウス1匹当たり100μgのCas9当量の用量で尾静脈に注射した。注射の5日後、マウスから臓器試料を採取した。次いで、臓器を、Ex550/Em580光路設定を有するIVISシステムによって画像化し、Td-Tomatoタンパク質からの蛍光を検出した。さらに、肝臓、腎臓および結腸試料を凍結し、クリオスタット(CM1950、Leica)によって10μm厚の切片にスライスした。肝臓および腎臓切片については、試料をHoechst33342で染色し、次いでCLSMで観察した。結腸切片については、試料をH&EおよびHoechst33342で別々に染色した。H&E染色切片を、明視野を有する光学顕微鏡(BZ-X710、Keyence)によって観察した。Hoechst染色切片をCLSMにより観察した。
【0092】
PKD-1遺伝子のIn vivoノックアウト
健康なBALB/cマウス(雌、5週間)を無作為にグループ分けした。PKD-sgRNAによって組み立てられたRNPをロードした異なる試料での処理を、100μgのCas9/注射/マウスの用量で週1回行った。個々のマウスの体重をモニターした。血液検査を毎週実施し、眼窩静脈から採取した血清サンプルを用いて血液尿素(BUN)とクレアチニン(CRE)を血液分析装置(DIR-CHEM 7000iシステム、富士フイルム)を用いて検出した。腎臓試料は、最初の処置の18週間後に採取した。試料を凍結し、クライオスタットにより10μm厚の切片にスライスした。切片をH&Eで染色し、光学顕微鏡(BZ-X710、Keyence)によって明視野で観察した。
【0093】
K-Ras遺伝子のIn vitroノックアウト
CT26およびHEK293細胞を96ウェルプレートに播種した(5000細胞/ウェル)。KRaswild‐およびKRasG12DsgRNAによって組み立てられたRNPをロードした試料を、種々の濃度で細胞に添加した。24時間および48時間のインキュベーション後、細胞の生存率をCell Counting Kit-8(CCK-8)によって検出した。
【0094】
抗腫瘍活性
BALB/cマウス(雌、6週間)に、下腹部にCT26細胞(106細胞/マウス)を接種した。平均腫瘍体積が30 mm3に達した後(接種5日後)、無作為に群分けした。KRaswild-およびKRasG12DsgRNAによって組み立てられた試料ロードRNPによる処理を5日目に開始し、6日目および7日目に2回繰り返した。各処置において、100μgのCas9を有する試料をマウスの尾静脈に注射した。腫瘍の増殖はキャリパーによりモニターし、以下のように計算した。
【0095】
【数1】
式中、LおよびWはそれぞれ腫瘍の長さおよび幅である。マウスの体重は実験中に記録した。次いで、臓器損傷を示す生化学的パラメータを検出するために血清試料を採取し、腫瘍を切除し重量を記録した。
【0096】
2.結果
(1)粒子の形成および特徴付け
粒子の設計の模式図を図1に示す。ポリマー被覆バイオコンジュゲート(RNP/LM)製剤の作製は、先ず、PEG-pAsp(DET)ポリマーをCTSB(Cathepsin B; valine-citrulline)感受性リンカーを介してRNPにコンジュゲートさせて、一次バイオコンジュゲート(RNP/L)を形成した。次に、PEG-pLL(CAA)ポリマーを添加して、pH感受性コーティングを形成させ、最終ポリマー被覆バイオコンジュゲート(RNP/LM)を得た。
他方、リンカーを含まないポリマーミセル製剤の作製は、PEG-pLL(CAA)、PEG-pAsp(DET)およびRNPを水性環境中で混合して、コアシェルミセル構造(RNP/m)を形成させた。コアは、CAA基と、ポリマーおよびRNP上に提示されたアミン基との間に形成されたpH感受性共有結合によって架橋した。
【0097】
RNPの封入は、HPLCによって確認された(図2a)。RNP/mを調製する際、RNPをポリマーと混合すると、より早い溶出時間で新しいピークが出現した。これは、いくつかのRNPがより大きな構造に内包されたことを示す。遠心濾過後、精製された生成物は、HPLCにおいて均一なピークであるように見え、RNP/m粒子の形成および精製を示した。RNP/LMにおいて、RNPを最初にPEG-pAsp(DET)と反応させると、ピークがシフトし、これは、遊離RNPがPEG-pAsp(DET)結合RNPに完全に変換したことを示す。PEG-pLL(CAA)を添加した後、ピークはより早い溶出時間に向かって再びシフトした。これは、より大きな分子量を有する構造が形成されたことを示す。
【0098】
次いで、精製された試料について、粒子の形成およびサイズをTEMおよびDLSにより特徴付けた。TEMにより粒子のコアを可視化することができ、DLS測定によりサイズ分布をプロファイリングすることができた(図2bおよびc)。RNP/mについて、ポリマー上のpLLおよびpAspブロックで形成されたコアを定量したところ、約21±3nmの平均サイズを有していたが、DLS結果では、粒子の平均サイズは62±2nmであることが示された。したがって、粒子をコーティングするPEGのシェルは約20nmであると計算され、これは妥当な厚さであると言える。
【0099】
RNP/Lについて、TEM画像に現れる染色されたドットのサイズは、15±3nmであった。この小さいサイズは、一次ポリマーコンジュゲーションが安定なコア構造を保持するのに十分ではなく、したがって、染色が単にRNP構造を可視化しただけであるためである。DLSにおいて、RNP/Lは31±1nmのサイズを示し、PEG-pAsp(DET)が結合したことを確認した。
【0100】
RNP/LMでは、粒子は36±5nmの大きさのより大きなコアを有し、粒子の大きさは他の試料よりも大きく、100±1nmに達した。全ての3つの粒子について、表面電荷は、低い電荷値で適度であり(表1)、ポリマーカプセル化がRNPの高度に荷電した表面をブロックするのに役立ったことを示した。
【0101】
【表1】
【0102】
粒子の刺激感受性を異なる条件下で試験した(図2d)。pH感受性を検出するために、試料を異なるpH(5.0、6.5および7.4)下に溶解した。pH 7.4および6.5下では、全ての粒子は安定であり、これらの製剤は生理学的pHおよび腫瘍外pHにおいてそれらの安定性を維持することができることが示唆された。pH 5.0下でインキュベートすると、RNP/mは急速な解離を示し、分子量の減少に起因する急速な拡散係数の拡大が示唆された。
【0103】
RNP/LはpH感受性を示さず、3つのpH値すべての下で安定したサイズを維持した。RNP/LMは、pH 5.0環境でのインキュベーションで部分的解離を示した。しかし、RNPを完全に遊離させるには解離は完了しなかった(拡散係数≒36μm2/s、黒い破線)。解離したRNP/LMは、RNP/Lと同じ14μm2/s付近の拡散係数を示し、これはRNP/L(赤破線)の値と同じである。したがって、エンドソームpH(約5.0)は、細胞取り込み時にRNP/mを活性化してRNPを放出することができる。しかし、RNP/LMについては、低pHはpH感受性PEG-pLL(CAA)コーティングを脱遮蔽するだけであり、PEG-pAsp(DET)結合は依然として残っていた。
【0104】
CTSB感受性を検出するために、試料を、CTSBを含有するPBSに溶解した。CTSB活性はpH依存性であるため、2つの条件(pH = 7.4および5.0)の溶液を調製した。RNP/mでは粒子はCTSBを含むpH 5.0のPBS中で解離したのに対し、CTSBを含むpH 7.4のPBS中ではRNP/mは安定であった。したがって、ここでの解離は、CTSB以外のより低いpHに起因すると言える。CTSB感受性リンカーを介してPEG-pAsp(DET)ポリマーをRNPにコンジュゲートしたRNP/Lでは、粒子は両方の緩衝液中で速い解離を示し、CTSBに対するリンカーの良好な感受性を確認した。さらに、CTSBは酸性pH下でより高い活性を有するので、RNP/Lの解離はpH 5.0下でpH 7.4より速かった。RNP/LMではpH 5.0で解離し、最終拡散係数は約36μm/sに増加し、RNPが完全に放出されたことが示された。粒子のみがPEG-pLL(CAA)コーティングを脱シールドした場合と比較して、この結果はRNP/LMの構造を連続的に分解し、RNPを完全に放出するために酸性度およびCTSBの両方の存在(すなわち、酸性条件におけるPEG-pLL(CAA)の解離、及びCTSBによるリンカーの切断の2段階の分解)が必須であることを示す。
【0105】
次いで、インビボ環境をシミュレートするために、マウス血清試料中の粒子の安定性を調べた(図1e)。RNP/mおよびRNP/LMは比較的強い安定性を示し、24時間のインキュベーションではサイズのわずかな変化のみを示した。しかしながら、RNP/Lは速い解離を示したが、これは血清カルボキシルエステラーゼ1CによるCTSB感受性リンカー中のval-cit結合の切断によるものである可能性がある(https://doi.org/10.1158/1535-7163.MCT-15-1004)https://doi.org/10.1158/1535-7163.MCT-15-1004
【0106】
(2)粒子はCT26細胞において生存可能なエンドソーム脱出能を示した
細胞内空間にRNPを送達するこれらの粒子の性能を評価するために、本発明者らは、CT26細胞におけるこれらの粒子のエンドソーム脱出能を調べた。A647標識RNPを担持する粒子をCT26細胞に添加した。所定のインキュベーション時間のもと、エンドソームを緑色蛍光色素で染色し、赤色蛍光(A647標識RNP)および緑色蛍光(エンドソーム)の共局在を分析することによって、エンドソーム脱出能を定量することができる。
【0107】
図3aに示すように、取り込み後、遊離RNPはエンドソームへの高い共局在を示した。これは、遊離RNPは、中程度のエンドソーム脱出能しか有していないことを示す。エンドソームに捕捉されたRNPは、最終的にエンドソーム-リソソーム系の酵素および酸性環境によって分解され、それらの機能を失う。一方、すべての粒子はエンドソームへのRNPのより低い共局在化を示した(より低い共局在化効率によって定量化した(図3b))。この系は、RNPがエンドソームから脱出して細胞質ゾルに入り、そこで生物学的機能を維持するのを助けることができることを示唆している。また粒子は、遊離RNPと比較してより高い細胞取り込みを確実にし(図3b)、これは、細胞内へ送達されるRNPの量を上昇させるのを助ける。
【0108】
エンドソームの脱出能は、エンドソームのpHで生存可能な膜の不安定化能を示すPEG-pAsp(DET)重合体の放出に起因する。これを確認するために、本発明者らは、異なる粒子のエンドソーム脱出能に対するCTSBおよびエンドソーム酸性化の効果を調べるための実験を行った(図3cおよびd)。CTSB阻害剤、およびバフィロマイシンA1(リソソームやエンドソームなどを含むオルガネラの酸性化阻害剤)で細胞を処理すると、CTSB活性およびエンドソーム酸性化をそれぞれ阻害することができた。RNP/mについては、粒子はCTSB阻害剤で処理した細胞においてエンドソーム脱出を示したが、バフィロマイシンA1で処理した細胞においては同時局在化係数を示した。RNP/Lでは、CTSB阻害剤は共局在化係数を増加させた。また、バフィロマイシンA1処理はエンドソーム脱出をわずかに抑制したが、これはおそらく、酸性度の低いエンドソームにおける中程度のCTSB活性によるものであると考えられる。RNP/LMについては、CTSB阻害剤およびバフィロマイシンA1処置の両方が、エンドソーム脱出能の喪失をもたらした。これらの結果は、PEG-pAsp(DET)重合体を放出する粒子の解離がエンドソーム脱出能に必須であり、粒子は活性化するためにエンドソーム環境に存在する異なる刺激を感知することができることを示す。https://doi.org/10.1021/ja804561g
【0109】
(3)粒子は、様々な細胞株においてIn vitro遺伝子ノックアウトを行う
粒子のインビトロ遺伝子ノックアウト(KO)効率を、GFPまたはルシフェラーゼ(Luc)を発現するレポーター細胞において評価した。C26-GFP細胞において、全ての粒子は顕微鏡画像化およびフローサイトメトリー検出の両方によって確認されるように、GFPの発現レベルを減少させる生存KO効果が明らかとなった (図4)。しかし、B16F10-GFP細胞では、粒子のKO効果はわずかであった。異なる細胞株におけるこの分化したKO性能は、エンドソーム酸性化およびCTSB活性レベルの変動によって変化し得る。
【0110】
細胞型依存性KO効率をさらに確認するために、本発明者らは、定量化プロファイリングのためにいくつかのLuc発現細胞株を使用した(図5)。また、RNP/L製剤は血清環境中で不十分な安定性を示したため、in vivoでの適用は限られると思われた。そこで、本発明者らはRNP/mおよびRNP/LM製剤のみを試験した。その結果、系のKO効率は細胞のタイプによって変わることを確認した。例えば、KPC-Lucおよび4T1-Luc細胞において、RNP/mおよびRNP/LMの両方が、Luc発現を抑制する明確なKO効果を示した。しかしながら、B16F10-LucおよびBxP3-Luc細胞においては、両方の粒子は、わずかなKO効果を示しただけであった。さらに、Hela-Luc細胞では、RNP/mはRNP/LMよりもはるかに強いKO効率を示した。このKO効率の変動は、エンドソーム酸性化とCTSB活性との区別と関連すると考えられる。
【0111】
(4)粒子は、全身注射時にRNPの生体内分布を調整した
CT26腫瘍を有するマウスにおける静脈内(i.v.)注射の際の異なる製剤の生体内分布を調べた(図6)。注射後24時間で主に肝臓に蓄積した遊離RNPと比較して、粒子は生体内分布を変化させた。RNP/Lでは肝臓、腎臓、腫ようへの蓄積を増強したが、マウス血液中での不安定な性質のため、変化はわずかであった。RNP/mは肝臓および腎臓で高い蓄積を示したが、一方、腫瘍での保持の増強も観察された。RNP/LMの結果はより有望であり、腫瘍における非常に強い蓄積を伴うが、不可避的に、それは肝臓局在の上昇も示した。
【0112】
(5)RNP/mとRNP/LMはともに原発腫瘍に対して高いKO効果を示した
粒子のインビボKO効果を、4T1乳癌モデルにおいて調べた(図7)。遊離RNP、RNP/mおよびRNP/LMを、4T1-Luc腫瘍を有するマウスに静脈内注射した。腫瘍からの生物発光シグナル強度の変化を、KO効率を示すために評価した。遊離RNPにおいて、生物発光シグナルの増加が処置の5日後に観察され、これは腫瘍の進行に起因するものである。一方、RNP/mおよびRNP/LM処理の両方が生物発光の減少をもたらし、4T1‐Luc腫瘍において成功裏にKOが示された。
【0113】
(6)RNP/LMは、低オフターゲット編集で正確なKOを実行した
次に、Ai9レポーターマウスにおいて、標的化および非標的化遺伝子編集を検討した。Ai9マウスは、赤色蛍光タンパク質Td-Tomato(TOM)を発現するための遺伝子を有するように操作されたが、この遺伝子は一連のストッパーの存在のために発現することができない。ストッパー遺伝子をKOするために遺伝子編集を行うと、TOMタンパク質を発現させることができ、イメージング法によって赤色蛍光を検出することができる。したがって、器官および組織における遺伝子編集効率は、Ai9マウスにおいて容易に評価することができた。
【0114】
腫瘍標的遺伝子編集を同時に検出するために、Ai9マウスにおける自発性の結腸癌モデルを開発した。遊離のRNP処置では、ブランク群(PBS処置)と同様の結果を示し、遊離RNPは全身投与の際に、いかなる臓器に対しても十分な遺伝子編集をほとんど行うことができなかった (図8a)。一方、RNP/mとRNP/LMの両方が結腸での編集効率の向上を示した(図8b)。次いで、識別可能な結腸腫瘍試料について、ブランクおよび遊離RNP処置マウスと比較して組織切片化を実施した。
【0115】
その結果、RNP/mおよびRNP/LM処置試料は腫瘍内空間からの強い赤色蛍光シグナルを有し、粒子による腫瘍における有効な遺伝子編集を確認した(図8d)。しかしながら、臓器側ではRNP/m処置マウスから肝臓および腎臓における強力な編集が観察され、一方、RNP/LM処置マウスは肝臓および腎臓と同等の遺伝子編集を示した(図8c)。これらの結果は、RNP/mとRNP/LMは、両者とも腫瘍において効果的な遺伝子編集を行うことができるが、RNP/LMは健康な臓器においてオフターゲット編集の減少を示し、したがって抗腫瘍治療適用により適していることを示した。
【0116】
(7)RNP/mは腎臓で遺伝子編集を効率的に行うが、RNP/LMは行わない
RNP/mは腎臓で高い遺伝子編集を示したため、腎臓遺伝子編集においてRNP/mおよびRNP/LMの性能を評価するために、標的モデルとしてPKD‐1遺伝子を用いた。PKD-1 sgRNAと組み立てられた、RNP内包のRNP/mまたはRNP/LMを、健常マウスに静脈内注射した。体重変化および血液検査結果により、RNP/mは高い毒性を有することを明らかとなり、体重増加の抑制、および血中のBUNおよびCREレベルの上昇をもたらした(図9b)。これは、腎臓損傷を示す。しかしながら、RNP/LM処置マウスは、健康なマウスと同等の結果を示した。18週間の処置後、観察のために腎臓試料を採取した。RNP/mで処置した器官からは、明確な調節不全の形態変化を観察した(図9a)。腎臓における顕微鏡的病理学的変化は、H&E切片により確認した。しかし、RNP/LMで処理した試料では、明らかな変化は認められず、RNP/LMは腎臓で遺伝子編集が行われなかったことが示された。
【0117】
(8)RNP/LMは癌細胞におけるKRas遺伝子を安全に阻害することができる
粒子の治療可能性を確認するために、まず、癌および健常細胞におけるKRas遺伝子のKOの効果を調べた。種々の癌細胞(例えば、CT26細胞)が変異KRas(KRasG12D)を有するので、本発明者らは、それぞれ野生型(WT)およびG12D変異KRas遺伝子に対するRNPを調製した。CT26細胞において、RNP/mおよびRNP/LMの両者とも、細胞生存率の強い阻害を示し、WTまたはG12D変異遺伝子に対するsgRNAにかかわらず、KRas遺伝子に対する有効なKOを示した(図10)。HEK 293細胞において、RNP/LMの処置では明らかな細胞毒性効果は観察されなかった。一方、RNP/mでは、WT KRas標的化RNPを有するものはHEK293細胞に対する阻害を示したが、G12D変異遺伝子を有するものはより少ない細胞毒性を示した。したがって、RNP/LMは、健康な細胞に影響を及ぼすことなく、CT26癌細胞において遺伝子編集を行うことができる。
【0118】
(9)RNP/LMは、KRas遺伝子のKOによって腫瘍増殖を安全に抑制することができる
最後に、CT26腫瘍においてKRas遺伝子のKOによる粒子の抗腫瘍活性を調べた(図11)。全ての粒子は、腫瘍増殖を阻害する明確な治療効果を示した。RNP/LM処理腫瘍は、おそらくRNP/mと比較して、RNP/LMのより良好な腫瘍蓄積のため、終了時にはより小さいサイズとなった(図28b)。全群間で体重変化に有意差は認められなかったが(図11c)、血液検査では、WT KRas遺伝子を標的とするRNPを有するRNP/mが治療中に毒性を有し(図28d)、上昇したBUNおよびCREをもたらし、腎臓損傷を示すことを明らかにした。また、処置中、RNP/m-WT群の1匹のマウスは、10日目に死亡した。これらの結果は、RNP/LMがRNP/mと比較して、より高い有効性および安全性を有するより良好な抗腫瘍治療薬であることを示す。
【0119】
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