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特開2024-130717アノード厚み測定装置及びこれを備えたアノード鋳造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130717
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アノード厚み測定装置及びこれを備えたアノード鋳造設備
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20240920BHJP
   B22D 25/04 20060101ALI20240920BHJP
   B22D 5/02 20060101ALI20240920BHJP
   B22D 21/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01B11/06 101Z
B22D25/04 B
B22D5/02
B22D21/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040595
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA30
2F065BB15
2F065FF64
2F065GG04
2F065JJ09
2F065MM02
2F065PP15
2F065PP22
(57)【要約】
【課題】鋳造で得られたアノードの厚さを測定して、短絡の発生を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 複数のアノードAを隣接するもの同士離間させて搬送するチェーンコンベア等の搬送手段10と、この搬送手段10によって搬送される複数のアノードAの特定の部位として例えば1対の耳部が通過する位置に向けてレーザー光を照射してその反射光を受光することで距離の測定を行なうレーザー距離計11と、このレーザー距離計11で連続的に測定した際に所定の閾値以下の測定値が継続した時間及び搬送手段10の走行速度を乗算することで該1対の耳部の厚みを算出する演算部12とから構成される。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアノードを隣接するもの同士離間させて搬送する搬送手段と、前記搬送手段によって搬送される複数のアノードの特定の部位が通過する位置に向けてレーザー光を照射してその反射光を受光することで距離の測定を行なうレーザー距離計と、前記レーザー距離計で連続的に測定した際に所定の閾値以下の測定値が継続した時間及び前記搬送手段の走行速度を乗算することで前記特定の部位の厚みを算出する演算部とから構成されることを特徴とするアノード厚み測定装置。
【請求項2】
前記特定の部位が1対の耳部であり、これら1対の耳部の各々に対して、前記レーザー距離計が少なくとも1個設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のアノード厚み測定装置。
【請求項3】
複数のアノード鋳型が周方向に等間隔に載置された略円形のターンテーブルと、前記アノード鋳型に鋳込まれた熔体を冷却する冷却装置と、前記冷却装置で固化されたアノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取る剥取機と、前記剥ぎ取られたアノードを冷却する冷却槽とからなるアノード鋳造設備であって、前記冷却槽に請求項2に記載のアノード厚み測定装置が設けられていることを特徴とするアノード鋳造設備。
【請求項4】
前記レーザー距離計が設けられている位置と、その下方に位置する前記搬送手段の軌道上の前記1対の耳部が通過する位置との間に向けて送風がされるように、前記冷却槽の外側の側方にファンが設けられていることを特徴とする、請求項3に記載のアノード鋳造設備。
【請求項5】
銅製錬における電解精製の対象となるアノードの製造方法であって、略円形のターンテーブル上に周方向に均等な間隔をあけて載置された複数のアノード鋳型に精製粗銅を順次鋳込むことでアノードを鋳造する工程と、前記鋳造したアノードを前記アノード鋳型から剥ぎ取って冷却槽で冷却する工程とからなり、前記冷却槽内に設けた搬送手段によって複数のアノードを隣接するもの同士離間させて搬送しながら、これら複数のアノードの特定の部位が通過する位置に向けてレーザー距離計からレーザー光を照射してその反射光を受光することで該反射した場所までの距離の測定を連続的に行い、前記レーザー距離計で連続的に測定した際に所定の閾値以下の測定値が継続した時間及び前記搬送手段の走行速度を乗算することで、前記特定の部位の厚みを算出することを特徴とするアノードの製造方法。
【請求項6】
前記特定の部位が1対の耳部であり、これら1対の耳部の各々に対して前記レーザー距離計が少なくとも1個設けられており、前記乗算により求めた前記1対の耳部の少なくとも一方の厚みが許容範囲から外れている場合は、対応するアノード鋳型の右側耳部側及び/又は左側耳部側の下のライナーを調整することで高さ調整を行なうことを特徴とする、請求項5に記載のアノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード厚み測定装置及びこれを備えたアノード鋳造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式銅製錬においては、主として銅精鉱からなる原料に対して熔錬工程、製銅工程、及び精製工程で段階的に銅品位を高めることで、電気銅を製造している。具体的には、先ず熔錬工程において、熔錬炉としての例えば自熔炉にフラックスと共に銅精鉱を吹き込んで酸化処理することで、主として酸化鉄及び珪素からなるスラグと銅含有率60質量%程度のマットとを生成させる。次に製銅工程において、上記自熔炉から抜き出したマットを転炉に装入して更に酸化処理することで、銅含有率98質量%程度の粗銅を生成させる。最後に精製工程において、上記粗銅を精製炉に装入して酸素を除去した後、得られた銅含有率99質量%以上の精製粗銅を鋳造することにより成形した電解用アノード(以下、単にアノードとよぶ)を電解精製することで、銅含有率99.99質量%以上の電気銅を製造している。
【0003】
上記のアノードの鋳造では、ターンテーブルとよばれる円形の基台の上に設けた複数のアノード鋳造用の鋳型(以下、単に鋳型とよぶ)内に、上記の精製炉から抜き出される精製粗銅を1つ以上の樋を経て順次鋳込むことで複数のアノードを効率よく鋳造することが可能になる。この鋳造により成形される複数のアノードは、後段の電解精製における生産効率を高めるため、いずれも所望の形状を有していることが求められる。その理由は、電解精製において複数のアノードを電解槽に懸架する際、これらアノードの形状が所望の形状を有していない場合、互いに隣接するアノード同士の間で短絡が生じたり、この短絡を防ぐために高い電圧をアノードに印加することができなくなったりするからである。
【0004】
上記の問題を防ぐため、所望の形状を有する複数のアノードを安定的に鋳造する様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、アノード鋳造の際に熔湯が飛散したり大きく波立ったりすることで鋳型内のアノードの熔湯面側の縁に沿って「ひれ状」に突出するいわゆる鋳張りの発生を防止する技術が開示されている。すなわち、この特許文献1の技術は、先端に各々吹き出し孔を備えた1対の腕部と、これら1対の腕部同士を連結すると共に少なくとも1ヶ所の空気受入用接続端を備えた胴体部とからなるコの字型配管を、該胴体部が鋳型の鋳込面頂部直上であって且つ該1対の腕部が鋳型の側面壁の縁上に沿うように配置し、この姿勢のまま該吹き出し孔から鋳込面に向けて空気を吹き付けるものである。
【0005】
これにより、該吹き出し孔から吹き出した空気を鋳型の鋳込面において側面壁に沿って流すことができるので、該側面壁の底部に堆積している離型剤に空気を当てて乾燥させることが可能になる。その結果、離型剤に残留する水分が精製粗銅と接触したときに生じる蒸気により該精製粗銅が急速に湧き上がる現象を抑えることができるので、アノードの鋳張りの発生を抑えることが可能になると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-047633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1の技術を採用することで、アノードの鋳張りの発生を抑えることが可能になると考えられるが、アノードの上端部において左右に突出するように設けられている1対の耳部の厚さが左右で不均一になったり、少なくとも一方の耳部の厚みが規定範囲から外れたりすることで、上記の短絡の問題が生じることがあった。すなわち、上記のように電解槽に複数のアノードを懸架する際、各アノードは自身の1対の耳部で支えられるため、これら1対の耳部の厚さが左右で不均一であったり、少なくとも一方の厚みが規定範囲から外れたりした場合は、隣接するアノードとのアノード面同士が互いに平行にならずに下端部で近接し、短絡が生じやすくなる。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鋳造により得られたアノードの厚さを測定して、短絡の発生等の問題を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のアノード鋳造設備は、複数のアノードを隣接するもの同士離間させて搬送する搬送手段と、前記搬送手段によって搬送される複数のアノードの特定の部位が通過する位置に向けてレーザー光を照射してその反射光を受光することで距離の測定を行なうレーザー距離計と、前記レーザー距離計で連続的に測定した際に所定の閾値以下の測定値が継続した時間及び前記搬送手段の走行速度を乗算することで前記特定の部位の厚みを算出する演算部とから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳造により得られたアノードの厚さを容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のアノード厚み測定装置が好適に具備される電解用アノード鋳造装置の模式的な平面図である。
図2】本発明のアノード厚み測定装置の測定対象となるアノードの斜視図である。
図3】本発明の実施形態のアノード厚み測定装置の斜視図である。
図4図3のアノード厚み測定装置の部分側面図である。
図5】本発明の実施形態のアノード厚み測定装置の測定器で測定した測定結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態のアノード厚み測定装置の測定結果に基づいてアノード鋳型の下にライナーを差し込む状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1. アノード鋳造設備
先ず、本発明のアノード厚み測定装置が好適に具備される電解用アノード鋳造設備の一具体例について図1を参照しながら説明する。この図1に示す電解用アノード鋳造設備は、2基のターンテーブルからなるいわゆるツインホイールタイプのアノード鋳造設備であり、熔体からなる精製粗銅から複数のアノードを連続的に鋳造することができる。
【0012】
具体的に説明すると、この図1に示す電解用アノード鋳造設備は、白矢印方向に間欠的に回転する2基の円形のターンテーブル1と、各ターンテーブル1上に周方向に等間隔に載置された複数のアノード鋳型2と、これら複数のアノード鋳型2に、図示しない前段の精製炉においてバッチ方式(回分式)で精製処理された熔体からなる精製粗銅(熔湯とも称する)を一定量ずつ順次鋳込む樋部3と、アノード鋳型2に順次鋳込まれた熔湯に冷却水を散布することで固化(凝固)させる冷却装置4と、該冷却装置4において固化されたアノードAをアノード鋳型2から剥ぎ取る剥取機5と、この剥ぎ取り時の剥離性を高めるためにアノード鋳型2内にスラリー状の離型剤を散布する離型剤散布機6と、該剥取機5で剥ぎ取られたアノードAを冷却する冷却槽7と、該冷却槽7で冷却されたアノードAを複数枚ずつまとめてフォークリフトで運搬するため、懸架させた状態で一時的に保持する懸架台8と、該冷却槽7内からアノードAを引き上げて該懸架台に移載する移載機9とから主に構成される。なお、図1にはターンテーブル1の上に18個のアノード鋳型2を設けた例が示されているが、アノード鋳型の個数はこれに限定されるものではない。
【0013】
上記の電解用アノード鋳造装置で鋳造される電解用アノードは、前述したように電解槽の対向する両側壁によって懸架された状態で電解液に浸漬されるため、図2に示すように、縦横の長さが1000~1500mm程度の略矩形板状部分の上側両隅部に、紙面左右の方向にそれぞれ突出する1対の耳部A、Aを有している。アノードAは、これら1対の耳部A、Aによって電解槽内に支持されるほか、後述する冷却槽7内の1対のチェーンコンベア及び懸架台8においてもこれら1対の耳部A、Aで支持される。
【0014】
2. アノード厚み測定装置
次に上記のアノード鋳造装置に含まれる本発明の実施形態のアノード厚み測定装置について説明する。この本発明の実施形態のアノード厚み測定装置は、図3及び図4に示すように、前述した冷却槽7に設けられており、前述した剥取機5で剥ぎ取られた複数のアノードAを隣接するもの同士一定の距離で離間させて冷却槽7の入口側から出口側まで冷却槽7内の水に浸漬させた状態で一列に整列させて水平に搬送する好適にはチェーンコンベアからなる搬送手段10と、該搬送手段10で搬送されるアノードAの1対の耳部A、Aがそれぞれ通過する左右の位置に向けてそれらの上方からそれぞれ照射したレーザー光をそれぞれ受光する1対のレーザー距離計11と、これら1対のレーザー距離計11の各々において連続的に測定した際に所定の閾値以下の測定値が継続した時間及び搬送手段10の走行速度を乗算することで、これら1対の耳部A、Aの厚みをそれぞれ算出するCPUなどの演算部12とから構成される。
【0015】
上記のように、剥取機5で剥ぎ取られたアノードAの冷却槽7内の搬送では、その長手方向の一端部に位置する入口側から他端部の出口側まで延在する搬送手段10としてのチェーンコンベアの左側無限軌道及び右側無限軌道にそれぞれ左側耳部A及び右側耳部Aを載せることになる。従って、これら1対の耳部A、Aは冷却槽7内の水に浸漬させることなく冷却槽7の液面上を該液面に沿って水平に移動させることができるので、これらチェーンコンベアの両無限軌道の上方にそれぞれ設けられている1対のレーザー距離計11からこれら軌道上の所定の測定位置に向けてレーザー光を照射することにより、これら軌道上の該測定位置をそれぞれ耳部A、Aが通過しているか否かを正確に検出することができる。
【0016】
具体的には、搬送手段10の左右の軌道上の各々において、レーザー距離計11による測定位置にアノードAの耳部が到達する前は、該測定位置に耳部が存在していないので、該レーザー距離計11から照射したレーザー光は、搬送手段10の軌道面か又は該軌道面よりも下方の冷却槽7の水面で反射するので、レーザー距離計11はこの搬送手段10の軌道面まで又は冷却槽7の水面までの距離を測定値として出力する。
【0017】
そして、時間が経過してアノードAの耳部の鋳型面側(すなわち冷却槽7の出口側に対向する面)がレーザー距離計11による測定位置に到達すると、アノードの耳部が該測定位置を通過してその湯面側(すなわち冷却槽7の入口側に対向する面)が該測定位置から外れるまでは、レーザー距離計11から照射したレーザー光は該軌道上に載って搬送されるアノードAの耳部の上面で反射するので、レーザー距離計11はこの反射した耳部の上面までの距離を測定値として出力する。そして、アノードAの耳部の湯面側がレーザー距離計11による測定位置を離れて該測定位置にアノードAの耳部が存在しなくなると、レーザー距離計11は再び搬送手段10の軌道面か又は該軌道面の下方の冷却槽7の水面までの距離を測定値として出力する。
【0018】
上記のレーザー距離計11での測定値を冷却槽7の水面からの高さに換算して横軸を時間軸とするグラフにプロットすると図5に示すようなプロフィールになる。従って、上記のレーザー距離計11による測定位置をアノードAの耳部の鋳型面側が通過する時間t及びその湯面側が通過する時間tが分かれば、耳部の上記測定位置の通過時間Δtを算出して、この通過時間Δtに搬送手段10の走行速度vを乗算することで、下記式1に示すように、アノードAの耳部の厚さを求めることができる。なおレーザー距離計11により測定した実測値は、冷却槽7中の液の波立ち等により図5のような完全な矩形波にならない場合があるので、レーザー距離計11で測定した測定値が所定の閾値以下のときに該レーザー距離計11で測定される位置にアノードAの耳部が存在していると判断してもよい。
[式1]
アノードAの耳部厚さ=Δt・v=(t―t)・v
【0019】
上記の搬送手段10の走行速度vの測定方法には特に限定がなく、一般的な方法で求めることができる。例えば図3に示す搬送手段10の駆動モーター13の回転数を公知の回転計等で測定することで、この回転数に駆動ギアと従動ギアとのギア比、及びチェーンコンベアの駆動プーリ径から求まる円周をかけることで走行速度vを求めることができる。
【0020】
ところで、上記した本発明の実施形態のアノード厚み測定装置が設けられている冷却槽7内に次々に装入されるアノードAは、アノード鋳造設備の冷却装置4においてある程度冷却されてはいるものの、依然として常温よりはかなり高温状態にあるので、特に冬場のように気温が低下したときに冷却槽7の水面から蒸気が発生することがある。このようにして発生した蒸気が冷却槽7の上方に漂ったままでは、レーザー距離計11の測定誤差の原因になるおそれがある。
【0021】
そこで、図3に示すように、冷却槽7の側方にファン14を設けてレーザー距離計11が設けられている位置と、その下方に位置する搬送手段10の軌道上のアノードAの1対の耳部A、Aが通過する上記測定位置との間に向けて送風することが好ましい。この場合のファン14の種類には特に限定がなく、例えば軸流ファンや工業用扇風機などの中から適宜選定することができる。このように、冷却槽の側方にファン14を設けることによって、測定誤差の原因となる蒸気を冷却槽7の水面の上方から吹き飛ばすことができるので、より正確な測定が可能になる。また、冷却槽7内の水を冷却する効果も期待できる。上記したように、本発明の実施形態のアノード厚み測定装置を用いることで、アノードの耳部などの特定の部位の厚さを人手を介することなく簡易且つ正確に測定することができる。
【0022】
次に、上記した本発明の実施形態のアノード厚み測定装置を備えたアノード鋳造設備を用いて行なわれる本発明の実施形態のアノードの鋳造方法について説明する。このアノードの鋳造方法は、銅製錬における電解精製の対象となるアノードを製造する方法であって、図1に示すような略円形のターンテーブル1の上に周方向に均等な間隔をあけて載せられた複数のアノード鋳型2に樋部3を介して精製粗銅を順次鋳込むことでアノードAを鋳造する鋳造工程と、該鋳造工程で鋳造したアノードAを剥取機5でアノード鋳型2から剥ぎ取って冷却槽7に装入し、ここで水に浸漬させることで冷却する冷却工程とからなり、この冷却槽7内では、前述したように入口側から出口側に延在する好適には左右1対の無限軌道からなるチェーンコンベアなどの搬送手段10が設けられており、この搬送手段10によって複数のアノードAを隣接するもの同士離間させて搬送する。
【0023】
これら複数のアノードAの搬送の際、その各々の特定の部位における厚みが規定通り成形されていることを確認することができれば、早期に鋳造工程にフィードバックできるので生産効率を高めることができる。本発明の実施形態のアノード鋳造方法では、この特定の部位として1対の耳部を対象としており、複数のアノードAの1対の耳部が載せられる搬送手段10の無限軌道上のうち、所定の測定位置に向けて、それら真上にそれぞれ設けた1対のレーザー距離計11からレーザー光を照射してその反射光を受光することで、該反射した場所までの距離の測定をそれぞれ行なう。
【0024】
前述したように、搬送手段10の左右の無限軌道上の各々において、レーザー距離計11による測定位置にアノードAの耳部が存在していないとき、すなわち、耳部の鋳造面側が到達する前や耳部の湯面側が通過した後は、レーザー距離計11から照射したレーザー光は、搬送手段10の軌道面か又は冷却槽7の水面で反射し、アノードAの耳部がレーザー距離計11による測定位置に存在しているときは、レーザー距離計11から照射したレーザー光は該アノードAの耳部の上面で反射する。よって、レーザー距離計11の測定値が所定の閾値以下の状態が継続した時間に搬送手段10の走行速度を乗算することで、アノードAの耳部の厚さを求めることができる。
【0025】
上記のチェーンコンベアに代表される搬送手段10の走行速度の下限は、1秒間に1枚分以上のアノードAを搬送する速度が好ましい。この走行速度が1秒間に1枚分未満ではアノードAの搬送速度が遅すぎるので、アノード鋳造する生産効率が低下する。一方、搬送手段10の走行速度の上限は、1秒間に3枚分以下のアノードを搬送する速度が好ましい。この走行速度が1秒間に3枚分を超えると、アノードAの搬送速度が速くなりすぎて冷却槽7内のアノード冷却用の水が大きく波立ってしまい、この波をレーザー距離計11が検出することでアノードAの耳部の鋳型面側や湯面側の位置を正確に検出できなくなるおそれがある。
【0026】
本発明の実施形態のアノード厚み測定装置においては、検出精度を高めるため、冷却槽7内の搬送手段10の左右の無限軌道の各々に対してレーザー距離計11を複数個を設けても良い。この場合は、これら複数個のレーザー距離計の測定値からそれぞれ求めた通過時間Δtを算術平均したものを、前述したアノードAの耳部の厚さの算出に用いるのが好ましい。また、上記のレーザー距離計11の測定間隔は10ms以下が好ましく、1ms以下がより好ましい。測定間隔を10ms以下とすることで、アノードAの耳部の鋳型面側や湯面側がレーザー距離計11の測定位置を通過する時間を正確に検出することができる。なお、本発明においては、上記の測定間隔で測定することを連続的に測定すると定義している。
【0027】
上記のレーザー距離計11のタイプについては特に限定はなく、光源から投光レンズを介して照射したレーザー光が測定対象物で反射した後の反射光が受光レンズによって受光素子上に集光したときの位置に基づいて三角測距方式により距離を求める方法でもよいし、連続的にAM変調した状態で照射したレーザー光が測定対象物で反射して反射光として戻ってきたときの位相のずれから距離を算出する方法でもよいし、時間幅の狭い光パルスを測定対象物に照射して反射により戻ってきた光パルスと元の光パルスとの時間差から距離を算出する方法でもよい。
【0028】
上記にて求めたアノードAの1対の耳部の少なくとも一方の厚さが許容範囲から外れている場合は、このアノードを鋳造したターンテーブル1上の対応するアノード鋳型2の下側に、図6に示すように、くさび状や板状のライナー15を調整してアノード鋳型2の平面視4箇所の角部の高さ調整を行なうことが好ましい。例えばアノードAの左側の耳部Aの厚さが所定の許容範囲の上限を超えている場合は、アノード鋳型2においてこの左側の耳部Aを鋳造する部分に精製粗銅が入り過ぎていることになるので、アノード鋳型2においてこの耳部Aを鋳造する部分の下に図6に示すようにライナー15を差し込んだり、既にこの部分にライナーが差し込まれている場合は、その厚さを厚くしたりすることで、この部分の高さを相対的に上げることができるので、この部分に精製粗銅が入る量を減らすことができる。
【0029】
逆に、アノードAの左側の耳部Aの厚さが所定の許容範囲の下限を下回る場合は、アノード鋳型2においてこの左側の耳部Aを鋳造する部分に精製粗銅の入る量が不足していることになるので、アノード鋳型2においてこの耳部Aを鋳造する部分の下に既にライナーが差し込まれている場合は取り外すか厚さの薄いものと交換したり、他の部分にライナー15を差し込んだりすることで、この耳部Aを鋳造する部分の高さを相対的に下げることができるので、この部分に精製粗銅が多く入るようにすることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態のアノード厚み測定装置及び該測定装置を備えたアノード鋳造設備並びに該鋳造設備を用いたアノードの製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や代替例を含むことができる。例えば、上記の本発明の実施形態のアノード厚み測定装置は冷却槽内を搬送される複数のアノードの1対の耳部の厚みを測定するものであったが、これに限定されるものではなく、冷却槽以外の装置で水平方向に搬送される複数のアノードに対して厚み測定を行なうものでもよいし、懸架状態にある複数のアノードの略矩形板状部分の例えば上部、側部又は下部の厚みを測定するものでもよい。
【実施例0031】
図1に示すようなアノード鋳造設備を用いて銅製錬における電解精製の対象となるアノードを製造した。このアノード鋳造設備は、円形の2基のターンテーブルの上に各々精製粗銅が鋳込まれるアノード鋳型2が18台載せられており、樋部3を介して鋳込んだ精製粗銅を冷却装置4で冷却して固化させることで成形したアノードをこれらアノード鋳型2から剥取機5で順次剥ぎ取って冷却槽7に装入し、そこで水に浸漬させて冷却するものである。
【0032】
この冷却槽7内には、図3に示すように、冷却槽7の入口側から出口側まで延在するチェーンコンベアが設けられており、その1対の無限軌道の上にアノードの左右の耳部をそれぞれ載せることで、複数のアノードを隣接するもの同士離間させて水平方向に搬送した。上記の1対の無限軌道上のうち、該1対の耳部がそれぞれ通過する位置に向けてそれぞれ真上からレーザー光を照射してその反射光を受光できるように、1対のレーザー距離計11を設けた。かかる構造のアノード鋳造設備を用いて、1回のバッチ操業当たり1100枚から1500枚程度のアノードを製造するバッチ操業によるアノード鋳造を12バッチ行なった。
【0033】
上記バッチ操業の際、レーザー距離計11から出力される測定値が、予め定めた閾値以下となる状態が継続したときに、その開始時点と終了時点をそれぞれアノードの耳部の鋳型面側及び湯面側がレーザー距離計11の測定位置を通過した時点と判断してその差分を前述した式1におけるアノードの耳部の通過時間Δtとし、この通過時間Δtにチェーンコンベアの走行速度vを乗算することで各アノードの耳部の厚さを求めた。
【0034】
そして、上記にて求めた耳部の厚さが所定の許容範囲から外れた場合は、ターンテーブル1上の対応するアノード鋳型2において、当該許容範囲を外れた耳部を形成した部分の下に差し込んでおいたライナーの厚さを調整することで、該アノード鋳型2の高さ調整を行なった。上記の鋳造方法により、アノードの耳部の厚さを全て測定することができるうえ、必要に応じてライナーの厚さの調整によりアノード鋳型の高さ調整を行なうことができたので、耳部の厚さに関してばらつきの少ない均一な形状のアノードを量産することができ、結果的に電解精製時に印加電圧を高めに設定しても短絡の問題が生じにくく、効率よく電気銅を生産することができた。
【0035】
比較のため、上記レーザー距離計による測定を行なわないこと以外は上記実施例と同様にしてバッチ操業によるアノード鋳造を行なった。その際、12バッチ操業に1回の頻度で、1バッチ操業で製造した上記1100~1500枚のアノードのうちターンテーブル2周分に該当する36枚に対してそれらの耳部の厚さを作業者による手作業で測定した。そして、その測定結果に基づいて上記実施例と同様にライナーの厚さを調整することでアノード鋳型2の高さ調整を行った。その結果、次回の作業者による耳部の厚さ測定の結果に基づいてライナーによるアノード鋳型の高さ調整を行なうまでの、耳部の厚さ測定やライナーによる高さ調整が行なわれない11バッチの操業を行なっている間に、耳部の厚さが許容範囲から外れた不良アノードが混じっていた。
【符号の説明】
【0036】
A アノード
1 ターンテーブル
2 アノード鋳型
3 樋部
4 冷却装置
5 剥取機
6 離型剤散布機
7 冷却槽
8 懸架台
9 移載機
10 搬送手段
11 レーザー距離計
12 演算部
13 駆動モーター
14 ファン
15 ライナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6