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特開2024-130838変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物およびそれを用いたガスバリア材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130838
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物およびそれを用いたガスバリア材
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20240920BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240920BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 216/02 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F216/06
C08F210/02
C08F8/12
B32B27/28 102
C08F216/02
C08L29/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040758
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】山本 信行
(72)【発明者】
【氏名】冨田 結芙子
(72)【発明者】
【氏名】近松 郁香
(72)【発明者】
【氏名】青山 眞人
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AH02A
4F100AK03C
4F100AK03D
4F100AK03E
4F100AK63B
4F100AK69A
4F100BA05
4F100EH20
4F100GB15
4F100GB23
4J002BB221
4J002BE031
4J002EA016
4J002EF046
4J002FD036
4J002FD206
4J002GF00
4J002GG00
4J100AA02Q
4J100AD02P
4J100AD11R
4J100CA03
4J100CA05
4J100DA09
4J100DA32
4J100DA36
4J100DA61
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA09
4J100HB36
4J100HE08
4J100HE14
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】樹脂組成物に生分解性を付与するとともに安定して溶融成形でき、溶融成形して得られるペレット、さらにそのペレットを用いて作製したフィルムの着色を抑制するだけでなく、良好なガスバリア性を示す変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 側鎖に一級水酸基を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂のエチレン構造単位の含有量が1~16.5mol%、側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量が2.5mol%以上、ケン化度が97mol%以上99.7mol%未満である、性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に一級水酸基を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂のエチレン構造単位の含有量が1~16.5mol%、側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量が2.5mol%以上、ケン化度が97mol%以上99.7mol%未満である、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項2】
前記共役ポリエンの含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂に対して、0.1ppm以上500ppm以下である、請求項1に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項3】
側鎖に一級水酸基を有する構造単位が1,2-ブタンジオール構造である、請求項1または2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる層を有する、ガスバリア材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物と、それからなる層を有するガスバリア材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン構造単位の含有量が20~60mol%のエチレン-ビニルアルコール系樹脂(以下、エチレン-ビニルアルコール系樹脂を「EVOH系樹脂」と称することがある)は透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性を有することから、フィルムとして食品包材に用いられており、これらの特性によりフードロスを削減することができる。食品包材用のフィルムとして商品価値を高めるためには、溶融成形によりフィルムが得られることと、そのフィルムの着色が少ないことが求められている。
【0003】
一方、近年では環境負荷の低減が求められているが、エチレン構造単位の含有量が20~60mol%のEVOH系樹脂は生分解性が低く、さらなる環境負荷低減の観点(例えば、海洋問題)から、優れた生分解性を有するガスバリア性樹脂が求められていた。
これらの要求に対し、生分解性を有し、着色も少ないフィルムが得られるような樹脂組成物が求められていたが、これまで知られていなかった。
【0004】
まず、生分解性を確保するためには、エチレン構造単位の含有量を20mol%未満とすることが必要である。エチレン構造単位の含有量が20mol%未満のエチレン-ビニルアルコール共重合体は、好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体のアルコール溶液をケン化して得られるが、ケン化時に粉末状の粒子が析出することから、それを固液分離して得られる。この粉末状の粒子は白色であっても、これを溶融させると、理由は不明であるが、黄色く着色することが多い。
【0005】
溶融成形により食品包材用フィルムを得るには、上述の粉末状粒子を一度溶融させてペレットの形状とし、それを再度溶融成形してフィルムを得ることが工業上有利である。しかし、溶融させる工程を経たのちには、ペレットやフィルムは黄色く着色していて、その着色の低減が求められていた。
溶融に伴う着色の一因として、エチレン構造単位の含有量が20mol%未満のエチレン-ビニルアルコール共重合体は、融点が高く、分解温度との差が小さいために、溶融時熱分解しやすく、それに起因する焦げや異物ができやすいことと、分子鎖から脱水反応が起きやすくて着色の原因となる共役二重結合が生成しやすいことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/6694号
【特許文献2】国際公開第2021/235507号
【特許文献3】特開2011-241234号公報
【特許文献4】特開2000-309607号公報
【特許文献5】国際公開第2022/97718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1では、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を含む樹脂組成物において、カルボン酸のアルカリ金属塩を特定量とし、共重合に用いる酢酸ビニルのアセトアルデヒドの含有量を一定量以下とすることにより、窒素雰囲気下、220℃、50時間熱処理後の分子量をGPCで測定したとき、示差屈折率検出器で測定される分子量と、紫外可視吸光度検出器で220nmや280nmでの測定される分子量の差が一定範囲以下となって溶融成形における欠陥が少なくなることが報告されている。これは同条件で溶融させたときに、共役二重結合に由来する220nmや280nmでの吸収を有する低分子量化が起こりにくく、熱劣化が少ないという主張であるが、該文献では熱安定性を向上させる添加剤については、カルボン酸のアルカリ金属塩について述べられているのみであり、そもそもエチレン構造単位の含有量が20mol%未満のエチレン-ビニルアルコール共重合体については言及がない。
【0008】
エチレン構造単位の含有量が20mol%未満のEVOH系樹脂の溶融成形物の着色を低減させるために、EVOH系樹脂の融点をさらに下げることにより、溶融成形の温度と融点との差を大きくして、溶融成形しやすくする試みが行われている。
【0009】
特許文献2では、エチレン構造単位の含有量が1~16.5mol%であり、側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂が提案されている。この共重合体は側鎖に一級水酸基構造単位を有するために、未変性品に比べて融点は低下するが、溶融成形物の着色低減に関する提案は行われていない。また、熱安定性を向上させるような添加剤を併用して溶融成形の安定性を向上させる試みは報告されていない。
【0010】
特許文献3では、側鎖に一級水酸基構造単位を有するビニルアルコール共重合体において、着色を低減した溶融成形可能な共重合体を得るために、クエン酸等のキレート剤の存在下で共重合反応を実施する方法、半減期が短い重合開始剤を使用する方法、重合終了時に禁止剤として共役を伸ばさない化合物を使用する方法、重合終了時の禁止剤使用量を極力少なくする方法等が提案されている。しかし、該文献では、エチレン構造単位を含む共重合体については触れられていない。重合終了時の禁止剤として、共役を伸ばすような共役ポリエンの使用も想定されていない。
【0011】
溶融成形時の着色防止として、EVOH系樹脂の融点を下げることに効果があるとするならば、融点を低下させる方法の一つとして、EVOH系樹脂のケン化度を低下させることが考えられる。しかし、EVOH系樹脂のケン化度を下げることは、一般的にはガスバリア性を悪くする欠点があることから、ガスバリア性を求める用途では、これまで顧みられない手法であった。
【0012】
特許文献4では、エチレン変性率10mol%のEVOH系樹脂においてケン化度を低下させると熱安定性が悪く、着色が著しくなることが報告されていて、着色の低減の観点からも、ケン化度を低下させることは好ましくないものと考えられてきた。また、特許文献4においては、溶融時の熱安定性と成形物の着色について、アルカリ金属の影響が述べられているのみである。
【0013】
特許文献5では、エチレン構造単位の含有量が1~10mol%で、側鎖に一級水酸基を有し、ケン化度が99.0~99.3mol%の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を溶融させてペレットを得たことが報告されているが、ペレット作製時の発煙と分解臭が報告されているだけで、着色には触れられていないし、安定してペレットを得るための添加剤の効果、例えば共役ポリエンの効果については全く述べられていない。
【0014】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、樹脂組成物に生分解性を付与するとともに安定して溶融成形でき、溶融成形して得られるペレット、さらにそのペレットを用いて作製したフィルムの着色を抑制するだけでなく、良好なガスバリア性を示す変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、側鎖に一級水酸基を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物であって、上記樹脂のエチレン構造単位の含有量を1~16.5mol%、側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量を2.5mol%以上、ケン化度を97mol%以上99.7mol%未満とすることにより、樹脂組成物に生分解性を付与するとともに安定して溶融成形でき、溶融成形して得られるペレットや、さらにそのペレットを用いて作製したフィルムの着色を少なくするだけでなく、良好なガスバリア性を示すことを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
側鎖に一級水酸基を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂のエチレン構造単位の含有量が1~16.5mol%、側鎖に一級水酸基を有する構造単位の含有量が2.5mol%以上、ケン化度が97mol%以上99.7mol%未満である、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[2]
前記共役ポリエンの含有量が、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂に対して、0.1ppm以上500ppm以下である、[1]に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[3]
側鎖に一級水酸基を有する構造単位が1,2-ブタンジオール構造である、[1]または[2]に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる層を有する、ガスバリア材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物は、良好な生分解性を示すとともに溶融成形時の熱安定性に優れ、溶融成形して得られるペレット、さらにそのペレットを溶融成形して得られるフィルムの着色を抑制し、良好なガスバリア性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明において「テープ」とは、「フィルム」や「シート」をも含めた意味である。
本発明において「主成分」とは、対象物中の最も多い成分を示し、通常、対象物中の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊に好ましくは90質量%以上、殊さらに好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0019】
また、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
さらに、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
【0020】
本発明の一実施形態に係る変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物(以下、「本変性EVOH系樹脂組成物」という場合がある)は、側鎖に一級水酸基を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と共役ポリエンを含む樹脂組成物である。また、本変性EVOH系樹脂組成物は変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を主成分として含有する。以下、各成分につき説明する。
【0021】
《変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂》
[構造一般]
変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂(以下、「EVOH系樹脂」と称することがある)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、エチレン構造単位と、ビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0022】
また、本変性EVOH系樹脂組成物に含まれる変性EVOH系樹脂とは、側鎖に一級水酸基を有するEVOH系樹脂であり、具体的には下記一般式(1)の構造単位を有するEVOH系樹脂である。
【0023】
【化1】
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して水素原子または有機基を表し、Xは単結合または結合鎖を示す)
【0024】
上記R1~R3としては、水素原子または有機基であれば、特に限定されない。上記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)等が挙げられる。
【0025】
ポリマー主鎖と一級水酸基構造とを結合する部分(X)としては、単結合または結合鎖を示し、結合鎖としては特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)、オキシアルキレン、オキシアルケニレン、オキシアルキニレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン等のエーテル結合でポリマー主鎖と結合する炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)のほか、-CO-、-CO(CH3)mCO-、-CO(CH3)mCOR4-、-NR5-、-CONR5-等が挙げられる(R4,R5は独立して任意の置換基であり、水素原子またはアルキル基が好ましく、mは自然数を示す)。
【0026】
上記変性EVOH系樹脂を得るためには、側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーをエチレン、およびビニルエステル系モノマーと共重合させた後に、ケン化する方法、が挙げられる。
【0027】
[製造方法:原料]
以下、変性EVOH系樹脂の製造方法について説明する。
【0028】
まず、エチレン、ビニルエステル系モノマーおよび、側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーを共重合させる。
【0029】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、経済的な観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0030】
上記側鎖に一級水酸基を有するモノマーとしては、例えば、アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、6-ヘプテン-1-オール、メタリルアルコール等のモノヒドロキシアルキル基含有モノマー; 2-メチレン-1,3-プロパンジオール、3,4-ジオール-1-ブテン、4,5-ジオール-1-ペンテン、4,5-ジオール-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジオール-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル等のジヒドロキシアルキル基含有モノマー等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0031】
上記側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマー(以下、「水酸基をエステル等で保護したモノマー」と称することがある)としては、例えば、上記の側鎖一級水酸基を有するモノマーの酢酸エステル等が挙げられる。具体的には、例えば、酢酸アリル、酢酸3-ブテニル、酢酸4-ペンテニル、酢酸5-ヘキセニル、酢酸6-ヘプテニル、酢酸メタリル等のモノアセトキシアルキル基含有モノマー;2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、4,5-ジアセトキシ-1-ペンテン、4,5-ジアセトキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジアセトキシ-1-ヘキセン、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールジアセテート等のジアセトキシアルキル基含有モノマー等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0032】
上記側鎖に一級水酸基を有するモノマー、水酸基をエステル等で保護したモノマーのなかでも、生産性の点から、水酸基をエステル等で保護したモノマーが好ましく、より好ましくはジアセトキシアルキル基含有モノマー、特に好ましくは3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートである。
【0033】
共重合成分として本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、共重合成分の10質量%以下)で、共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合させてもよい。
かかるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩;アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩類あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;ビニルシラン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0034】
[製造方法:重合]
これらの共重合反応においては、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等、公知の方法を採用することができる。なかでも、共重合制御の容易な溶液重合が好適に用いられる。
【0035】
かかる共重合を溶液重合で実施するとき、用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン、2-ブタノン等のケトン類が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、重合反応の制御容易さからメタノールが好適に用いられる。また、低重合度の共重合体を合成する場合には2-プロパノールが好適に用いられる。
【0036】
上記溶媒の使用量は、目的とする変性EVOH系樹脂の重合度、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択することができる。溶媒がメタノールまたは2-プロパノールのときは、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01~10(質量比)が好ましく、より好ましくは0.05~7(質量比)である。
【0037】
溶液重合における共重合成分の仕込み方法としては、例えば、初期一括仕込み、分割仕込み、モノマーの反応性比を考慮したHanna法等の連続仕込み等の任意の方法を採用することができる。
【0038】
上記共重合には、重合開始剤が用いられる。かかる重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、等の過酸化物系開始剤が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0039】
上記重合開始剤の使用量は、重合触媒の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエートを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対し、通常10~2000ppmであり、好ましくは50~1000ppmである。
【0040】
共重合の重合温度は、使用する溶媒やエチレン圧力に応じて、40℃から沸点までの範囲から選択することが好ましい。
【0041】
また、共重合時に、本発明の効果を阻害しない範囲で、連鎖移動剤の存在下で共重合させてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド等のアルデヒド類;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、アルデヒド類が好適に用いられる。共重合時の連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とする変性EVOH系樹脂の重合度に応じて決定されるが、一般に、ビニルエステル系モノマー100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0042】
共重合成分を共重合させた後は、反応を確実に停止させるために、重合禁止剤としてソルビン酸等の共役ポリエンを添加することも好ましい。
この共役ポリエンは、後述する変性EVOH系樹脂を洗浄するとき、洗浄溶媒に溶解するために、洗浄とともに含有量が減少するものであるが、最終製品中にも残存し、変性EVOH系樹脂とともに樹脂組成物をなす。洗浄方法を制御することにより、本変性EVOH系樹脂組成物中の含有量を制御することができる。このような共役ポリエンの含有量が制御された本変性EVOH系樹脂組成物を用いることにより、熱安定性を制御することができる。
【0043】
[製造方法:ケン化]
こうして得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化することにより、ビニルエステル構造単位をビニルアルコール構造単位に変換して、EVOH系樹脂を得ることができる。また、ケン化を行う前に、溶液中に残存する未反応のビニルエステル系モノマーの含有量を減少させることが、得られる変性EVOH系樹脂組成物の着色抑制の点から好ましい。
【0044】
ケン化反応では、水酸基をエステル等で保護したモノマーを共重合させた場合、ケン化によって保護したモノマーのエステル等も同時に脱保護されて、側鎖に一級水酸基を有する構造に変換され、変性EVOH系樹脂となる。
【0045】
共重合成分として、例えば、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを用いた場合、ケン化等により脱保護して得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(2)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0046】
【化2】
【0047】
また、上記(I)の方法において共重合成分として、共重合成分として、上記2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートを用いた場合、ケン化等により脱保護して得られるEVOH系樹脂は、下記一般式(3)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0048】
【化3】
【0049】
なお、変性EVOH系樹脂は、側鎖に一級水酸基を有すればよく、完全に脱保護されず、少量のエステル基が残存してもよい。
【0050】
上記ケン化方法は公知の方法を採用でき、例えば、上記で得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をアルコールまたは含水アルコールに溶解した状態で、ケン化触媒を用いて行われる。
【0051】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでもメタノールが好ましい。
【0052】
アルコール中のエチレン-ビニルエステル系共重合体の濃度は、粘度により適宜選択され、通常、5~60質量%である。
【0053】
上記ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0054】
ケン化を行う温度は限定されないが、20~140℃の範囲が好適である。
ケン化反応の当初アルコールまたは含水アルコール等の溶媒に溶解した溶液状態であったものから、ケン化の進行に従って粒子状物が生成し、該粒子状物の生成時には、系の粘度が著しく増加する。エチレン-ビニルエステル系共重合体の濃度や、溶媒組成、反応温度によっては、ゲル状物になることもあるが、これを粉砕することによって粒子状物とすることができる。
【0055】
ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体溶液の濃度、溶媒組成(反応液中の水分量)、用いる触媒量、反応温度、反応時間等により制御することができる。
また、EVOH系樹脂のケン化度を調整するために、二次ケン化として、一旦生成した粒子状物から、洗浄等により副生成物(ビニルエステルモノマーとして酢酸ビニル、ケン化時の溶媒としてメタノールを用いた時には、酢酸メチル)を除いた後に、再度アルコール等に分散させ、触媒を追加して、さらに反応させることも好ましい。
【0056】
ケン化反応終了後、必要に応じて、ケン化触媒を中和することも好ましい。例えば、ケン化触媒として、アルカリ触媒を用いた時は、酢酸等の酸により、中和することができる。
【0057】
その後、上述の粒子状物を洗浄、乾燥させて、変性EVOH系樹脂粒子を得ることができる。乾燥は、概ね120℃以下の加熱乾燥や減圧乾燥を数時間から1日間実施することにより、粒子を溶融させない状態で実施するのが好ましい。こうして得た変性EVOH系樹脂粒子は、粒径が概ね2mm未満の1次粒子またはその集合体(の粉末)である。変性EVOH系樹脂粒子の黄色度は、ケン化時に溶液に残存する未反応ビニルエステル系モノマー含有量、粒子状物に残存するケン化触媒量、粒子状物の乾燥時の温度や酸素濃度、重合時に連鎖移動剤を用いた場合は、その種類と量、等に影響を受けるが、概ね、黄色度は20以下である。
【0058】
好ましいケン化度の範囲は、本発明においては重要であるが、後述する。
【0059】
このような方法により、下記一般式(1)の構造単位を有する変性EVOH系樹脂を得ることができる。なお、変性EVOH系樹脂は、側鎖に一級水酸基を有していればよく、側鎖に他の水酸基構造(二級水酸基や三級水酸基)を有していてもよい。
【0060】
【化4】
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して水素原子または有機基を表し、Xは単結合または結合鎖を示す)
【0061】
1~R3としては、水素原子または有機基であれば、特に限定されない。上記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)等が好適に挙げられる。
【0062】
ポリマー主鎖と一級水酸基構造とを結合する結合鎖(X)としては、特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)、オキシアルキレン、オキシアルケニレン、オキシアルキニレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン等のエーテル結合でポリマー主鎖と結合する炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)のほか、-CO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(CH2)mCOR4-、-NR5-、-CONR5-等が挙げられる(R4,R5は独立して任意の置換基であり、水素原子またはアルキル基が好ましく、mは自然数を示す)。
【0063】
[各構造単位の好ましい含有量/好ましい変性率]
変性EVOH系樹脂のエチレン構造単位の含有量は1~16.5mol%であり、好ましくは3~15mol%である。
エチレン構造単位の含有量が少なすぎると、変性EVOH系樹脂の融点が高くなり、溶融成形が難しくなる。また、エチレン構造単位の含有量が多すぎると、ガスバリア性が低下するし、生分解性が低下する傾向がある。
変性EVOH系樹脂のエチレン構造単位の含有量は、共重合時のエチレン圧力を調整することで制御することができる。
【0064】
変性EVOH系樹脂が側鎖に有する一級水酸基構造単位(以下「側鎖一級水酸基構造単位」と称することがある)の含有量は、通常2.5mol%以上、好ましくは2.5~10mol%、より好ましくは3~6mol%、特に好ましくは3~4.5mol%である。
【0065】
側鎖一級水酸基構造単位の含有量が、上記範囲内であることにより、変性EVOH系樹脂の融点が適切に低下することから、熱分解温度との差が広がり、溶融成形時の条件設定に余裕ができる利点がある。また、親水性が増すことから、生分解の菌が接近しやすくなる利点がある。
一方、側鎖一級水酸基構造単位の含有量が少なすぎると、融点低下が十分でなく、溶融成形の条件設定が難しくなり、親水性も低下することから、生分解しにくくなる傾向がある。
また、側鎖一級水酸基構造単位の含有量が多すぎると、エチレン構造単位と側鎖一級水酸基構造単位とのバランスが崩れ特に高湿度下でのガスバリア性に劣る傾向があり、また、ビニルアルコール構造単位が少なくなるため生分解性に劣る傾向がある。さらに、側鎖一級水酸基構造単位の含有量が多すぎる場合、製造時に側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーを多く使用する必要があり、製造コストが高くなる傾向がある。
【0066】
側鎖一級水酸基構造単位の含有量は、共重合モノマーとして用いる側鎖に一級水酸基を有するモノマーまたは上記水酸基をエステル等で保護したモノマーの仕込み量によって制御することができる。
【0067】
[好ましいケン化度]
変性EVOH系樹脂のケン化度は、97mol%以上99.7mol%未満であり、好ましくは98.5mol%以上99.6mol%未満、より好ましくは98.7mol%以上99.5mol%未満、特に好ましくは98.9mol%以上99.3mol%未満である。
ケン化度は、JIS K6726の方法でも、1H-NMRでアセチル基の積分比を求める方法でも求めることができる。
【0068】
ケン化度が高すぎると、溶融成形したときのペレット、ひいては、さらにそのペレットを溶融成形したフィルムの着色が著しくなる傾向があり、好ましくない。
ケン化度が低すぎると、高湿度下でのガスバリア性が低い傾向があり、好ましくない。
【0069】
ケン化度が高すぎる場合、ケン化反応後、洗浄、乾燥を終えて得た変性EVOH系樹脂の粒子状物では黄色度が低いのにもかかわらず、それを溶融させて作製したペレット等の着色が著しくなる理由は、以下のように考えられる。
すなわち、
[I]ケン化度が高いと融点が高くなるために、樹脂の分解温度との差が小さくなり、溶融時熱分解しやすく、それに起因する焦げや異物ができやすいこと、
[II]特許文献3でも言及されているように、樹脂構造中に、カルボニル基に隣接する水酸基が脱水反応することにより生じた-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造が生成しやすいこと、が挙げられる。
【0070】
このうち、[II]共役二重結合構造の生成を防止する手法はいくつか考えられる。
特に、脱水反応が起き始めても、反応を連続して起こさせないように、樹脂構造中にビニルアルコール構造単位を連続させないことは重要と考えられる。
【0071】
その実現のためには、ビニルアルコール構造単位以外の構造をポリマー鎖に導入する方法が特に有効と考えられ、エチレン構造単位を導入する方法、側鎖に一級水酸基構造単位を導入する方法、ケン化度を下げる方法が主に考えられる。
【0072】
好ましいエチレン構造単位、側鎖一級水酸基構造単位の量については既述した。
ケン化度を下げることによる効果は、エチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化時に、アセチル基、または、アセチル基から連鎖移動により成長したポリマー鎖が残存するために、樹脂構造中のビニルアルコール構造単位の連続を減少させることができる。しかも、その残存する基のために結晶化度が低下することから、EVOH系樹脂の融点を下げることもできるが、結晶化度が低下するために成形物のガスバリア性が低下する傾向になることと、熱安定性が低下する傾向があることで、ケン化度を下げすぎることは好ましくない。熱安定性の低下は、主に、分子鎖が途中で切れて、新たに共役二重結合構造を生成するきっかけを作るためと考えられ、ケン化度を下げることで融点を下げた以上に弊害が大きいと考えられる。
【0073】
エチレン構造単位を導入する方法としては、エチレン構造単位の含有量が20~60mol%のEVOH系樹脂では、エチレン構造単位が多いために、樹脂構造中にビニルアルコール構造単位は連続しにくく、したがって、EVOH系樹脂の溶融時にも脱水反応で-CO-(CH=CH)n-からなる共役二重結合構造は生じにくく、着色の問題は少なかった。
しかし、本発明においては、樹脂に生分解性を付与する等のためにエチレン構造単位の含有量は1~16.5mol%と少ないために、他の方法を併用する必要がある。
【0074】
側鎖に一級水酸基構造単位を導入する方法としては、側鎖に一級水酸基構造単位を導入することによっても樹脂構造中のビニルアルコール構造単位の連続を減少させることができるが、共重合時に側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーを多く使用する必要があり、製造コストが高くなる傾向があることから、その点で好ましくない。
【0075】
また、ケン化度制御とは独立に、EVOH系樹脂を着色させないようにする方法も組み合わせて実施することが好ましい。
このようにケン化度とは独立にEVOH系樹脂着色を抑制する方法として、以下のものが挙げられる。
1)重合終了時の禁止剤に着色させやすいものは使わない。
2)脱水反応の触媒であるアルカリ金属類/その塩を減らす。
3)ケン化反応前の溶液に残存する未反応ビニルエステル系モノマーの量を減らす。
4)EVOH系樹脂の分子量をある程度高くして、脱水反応が起きやすいような分子鎖末端を減らす。
【0076】
1)については、ソルビン酸等を用いることが好ましく、m-ジニトロベンゼン等は用いないことが好ましい。
【0077】
2)については、ケン化触媒にアルカリ金属を含む触媒を使用し、その後の洗浄が不十分であると、触媒、または、その中和により生じた塩が多く、樹脂組成物中に残存する。このようなアルカリ金属類/その塩は、脱水反応の触媒として作用すると考えられ、着色が著しい傾向があることから好ましくない。
アルカリ金属類/その塩の含有量は、樹脂組成物溶液のプラズマ発光より求めることができる。アルカリ金属類/その塩が酢酸ナトリウムである場合には、JIS K6726により求めることができる。
酢酸ナトリウムとしては、0.01~2質量%が好ましい。酢酸ナトリウムが少なすぎると、製造のために洗浄を強化する必要が生じる傾向があり、また、多層構造時の隣接層との密着性が不足する傾向があることから好ましくない。
【0078】
3)については、ケン化反応前の溶液に残存する未反応ビニルエステル系モノマーの量を200ppm以下としてから、次のケン化工程を行うことが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、特に好ましくは80ppm以下である。未反応ビニルエステル系モノマーの量が200ppmよりも高い場合、次のケン化工程で用いるケン化用触媒により、未反応ビニルエステル系モノマーのケン化物が生成され、そのためにEVOH系樹脂組成物が着色し、溶融成形物が着色する傾向がある。
【0079】
4)については、変性EVOH系樹脂を再アセチル化したエチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量として、5.5×104~1.1×105であることが好ましく、より好ましくは6.0×104~8.5×104である。
粘度平均分子量が上記下限値未満では、分子鎖の末端の数が多く、溶融成形時、分子鎖末端から共役二重結合が生成しやすく、黄色く着色する原因となる可能性がある傾向から好ましくない。また、後述するガスバリア材としたとき、変性EVOH系樹脂の分子鎖の絡み合いが少ないことから、ガスバリア材が脆くなる傾向があり好ましくない。
上記上限値を超えると、変性EVOH系樹脂の溶融成形時、成形機にかかる負担が大きくなる傾向があり好ましくない。
【0080】
変性EVOH系粒子の再アセチル化は、実施例記載の方法によって実施できる。
このようなエチレン-ビニルエステル系共重合体の粘度平均分子量を指標とすることにより、JIS K6726に示されるようなEVOH系樹脂の水溶液について測定される粘度平均重合度との比較が必要な場合に、基準が一致し、比較が容易になる利点がある。特に、EVOH系樹脂が30℃の水に均一に溶解しない場合、水溶液の粘度としては分子量を評価できないが、本発明の方法に依れば評価できる利点がある。
【0081】
なお、上記再アセチル化したエチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量は、JIS K7252-2に準拠してテトラヒドロフラン中でサイズ排除クロマトグラフィーを測定して粘度平均分子量を求めたとき、マーク・ホーウィンク・桜田式におけるKおよびαとして、同規格の附属書Bにポリ酢酸ビニルのテトラヒドロフラン中の値として示されている、K=3.5×102cm3/g、α=0.63を用いて算出した値である。
変性EVOH系樹脂の分子量共重合成分を共重合させる際の重合触媒の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0082】
《共役ポリエン》
本変性EVOH系樹脂組成物には、重合終了時に重合禁止剤として添加した共役ポリエンが含まれている。
上記共役ポリエンとは、炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素-炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。
【0083】
上記共役ポリエンは、2個の炭素-炭素二重結合と1個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素-炭素二重結合と2個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエンであってもよい。
ただし、共役する炭素-炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン自身の色により成形物が着色する傾向があるため、共役する炭素-炭素二重結合の数は7個以下であることが好ましい。また、2個以上の炭素-炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエンに含まれる。
【0084】
具体的な共役ポリエンとしては、例えば、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3- ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-t-ブチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3-エチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1-メトキシ-1,3-ブタジエン、2-メトキシ-1,3-ブタジエン、1-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-ニトロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素-炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素-炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素-炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン等が挙げられる。なお、1,3-ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。かかる共役ポリエンは単独でもしくは2種類以上を併せて用いてもよい。
【0085】
これらのうち、共役ポリエンとしては、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、およびソルビン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つが好ましく、特に好ましくはソルビン酸である。これらの共役ポリエンは、EVOH系樹脂の製造において、共重合反応停止時に添加する重合禁止剤として使用することができる。これらの共役ポリエンを重合禁止剤として使用した場合、重合を確実に停止させることができ、取り扱い性に優れる傾向がある。また、これらの共役ポリエンは、変性EVOH系樹脂組成物に後から所定量添加する場合、取り扱い性に優れる傾向がある。
【0086】
共役ポリエンの含有量は、変性EVOH系樹脂組成物に対して0.1以上500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2~20ppm、特に好ましくは0.2~10ppm、さらに好ましくは0.2~5ppmである。共役ポリエンの含有量が少なすぎると、変性EVOH系樹脂組成物の熱安定性が悪くなる傾向があり、例えば、後述する溶融成形によってガスバリア材を得るとき、長時間運転時にゲルやブツの発生しやすくなる傾向がある。また、共役ポリエンの含有量が多すぎると、ガスバリア性や生分解性が低下する傾向がある。
【0087】
共役ポリエンの含有量は、例えば、変性EVOH系樹脂の製造における共重合停止時に添加する重合禁止剤の量、EVOH系樹脂の洗浄方法によって制御できるほか、樹脂組成物にあとから所定量を添加することによっても制御できる。
【0088】
[他の成分]
本変性EVOH系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、本変性EVOH系樹脂組成物の10質量%以下)で、変性EVOH系樹脂、共役ポリエン以外に、他の成分を配合することができる。上記他の成分としては、例えば、変性EVOH系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、安定材、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0089】
[変性EVOH系樹脂組成物の好ましい着色範囲]
本変性EVOH系樹脂組成物をガスバリア材、特に食品包材用のフィルムとして用いようとするとき、商品価値を高めるためには、溶融成形によりフィルムが得られることと、そのフィルムの着色が少ないことが求められていること、溶融成形により食品包材用フィルムを得るには、本発明ではケン化後に得られた粉末状粒子を一度溶融させてペレットの形状とし、それを再度溶融成形してフィルムを得ることが工業上有利であることも先に述べたとおりである。
【0090】
また、ケン化後の粉末状の粒子が白色であっても、溶融させると着色しやすいことも先に述べたとおりであり、好ましい着色範囲は、溶融させた後のペレットか、さらにそのペレットを溶融成形したフィルムで考える必要がある。
【0091】
フィルムの着色は、フィルムの厚みによって異なるため、一律に好ましい着色の範囲を設けることは難しいが、本変性EVOH系樹脂組成物のみからなるフィルムについて、JIS K7373透過法により黄色度を測定したとき、10μm厚では0.2以下とすることが好ましく、20μm厚では0.4以下とすることが好ましい。
【0092】
このようなフィルムの着色範囲とするためには、ペレットの着色を制御する必要がある。ペレットについて、JIS K7373反射法により黄色度を測定したとき、65以下とすることが好ましく、60以下がさらに好ましい。
【0093】
上述の「他の成分」を配合したとき、配合しない場合に比べて、黄色度が増すことがあるが、その場合でも、ペレットの段階で上記黄色度の範囲を満たせば、そのペレットの溶融成形によりフィルムを得た場合でも好ましい着色範囲にできる。
【0094】
《顆粒、ペレットの製法》
本変性EVOH系樹脂組成物の粒子を、さらに溶融させてから冷却、粉砕することにより、ペレットとして用いることが好ましい。
【0095】
ペレットを得る方法としては、例えば、以下の方法がある。
1)押出機に変性EVOH系樹脂組成物粒子と、必要により、上述の他の成分を供給して、溶融させたストランドをダイから吐出させ、これを冷却、固化させた後にカッターで切断してペレットを得る方法。
この方法では、ダイの孔の大きさとカッターの設定により、ペレットの大きさを制御することができる。
2)変性EVOH系樹脂組成物粒子と、必要により、上述の他の成分をよく混合してから、皿などに広げて、樹脂組成物(や他の成分)の融点以上の温度のオーブンにいれて溶融させた後冷却、固化させて平板状とした後にクラッシャーで粉砕してペレットを得る方法。
この方法では、クラッシャーでどの程度粉砕するかによってペレットの大きさを制御することができる。
必要により、得られて顆粒またはペレットを篩分けしてもよい。
【0096】
[好ましい溶融粘度]
変性EVOH系樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)〔210℃、荷重2160g〕は、通常0.1~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、より好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、溶融成形によるバリア材製造時に本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の厚み制御が難しくなる傾向があり、小さすぎる場合には溶融成形時に成形機に高い負荷がかかる傾向がある。
かかるMFRは、変性EVOH系樹脂の分子量の指標となるものであり、樹脂組成物に含まれる金属化合物によっても制御することができる。
【0097】
また、溶融粘度の安定性は、温度230℃に設定されたレオメーターに変性EVOH系樹脂組成物55gを投入し、5分間予熱した後、回転数50rpmにて溶融混錬したときのトルク値(Nm)の経時変化から評価できる。具体的には、混練開始後15分後の値と、120分までの間の最高値を比較し、「最高のトルク値(Nm)/15分後のトルク値(Nm)」が、0.1以上6以下であることが好ましく、より好ましくは0.5以上5以下、特に好ましくは0.8以上3以下である。かかる値が高すぎると溶融成形時に増粘により成形機に過度の負荷が掛かって好ましくない傾向があり、低すぎると、溶融成形時に樹脂組成物が分解して良好な外観の成形物が得られずに好ましくない傾向がある。
【0098】
好ましい変性EVOH系樹脂の分子量については既述した通りである。
変性EVOH系樹脂の含有量は、本変性EVOH系樹脂組成物に対して、通常80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0099】
このようにして得たペレットは、さらにフィルム状とすることにより、延伸フィルムや食品包材等のガスバリア材として好適に用いることができる。
【0100】
本変性EVOH系樹脂組成物をペレット化したものから、さらに延伸フィルムやガスバリア材を得る方法としては、特に制限されず、例えば、(i)本変性EVOH系樹脂組成物ペレットを溶融成形して、変性EVOH系樹脂組成物からなる層を形成して延伸フィルムやガスバリア材とする方法、(ii)本変性EVOH系樹脂組成物ペレットの溶液を基材樹脂のフィルムに塗工、乾燥して変性EVOH系樹脂組成物からなる層を形成して延伸フィルムやガスバリア材とする方法、等が挙げられる。
【0101】
また、上記(i)の方法における溶融成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、プレス成形、ブロー成形等が挙げられる。
【0102】
このようにして本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を有する延伸フィルムやガスバリア材が得られる。上記延伸フィルムやガスバリア材は、単層構造の延伸フィルムやガスバリア材としてもよいし、多層構造の延伸フィルムやガスバリア材としてもよいが、多層構造とすることが好ましい。上記多層構造の延伸フィルムやバリア材は、本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有することが好ましい。また、上記多層構造の延伸フィルムやガスバリア材は、本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を積層してもよいし、他の基材樹脂と積層させてもよい。
【0103】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。また、これらの基材樹脂は、コロナ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0104】
本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の厚みは、通常1~200μm、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μmである。なお、上記延伸フィルムやガスバリア材が多層構造である場合は、延伸フィルムやガスバリア材に含まれる全ての本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の厚みを合計したものである。
【0105】
本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の23℃、65%RHの環境下で測定した酸素透過度は、4cc・20μm/m2・day・atm以下であることが好ましく、より好ましくは0.7cc・20μm/m2・day・atm以下である。
【0106】
本変性EVOH系樹脂組成物の生分解度は、30%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上である。
なお、上記生分解度は、JIS K6950に記載された方法を参考にし、実施例に示す方法で試験を行った。
【実施例0107】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0108】
実施例におけるケン化度、共役ポリエンの含有量、黄色度(YI)、酢酸ナトリウム、生分解度の測定方法を下記に示す。
【0109】
[ケン化度]
JIS K6726に従って求めた。
【0110】
[共役ポリエンの含有量]
共役ポリエンがソルビン酸の場合、含有量は以下のようにして求めた。
樹脂組成物を凍結粉砕し、200mgを精秤した。これに3.5mLのメタノールを加えて分散させてから、水1.5mLを添加した。さらにメタノール/水=7/3の混合溶媒を添加して全量を10mLとし、60分間超音波を照射して溶解させたものを検体とした。この検体を液体クロマトグラフィーによりソルビン酸量を定量した。なお、この方法での定量下限値は0.1ppmであり、定量下限以下の場合「0.1ppm未満」と表記した。
【0111】
[粒子,ペレット,フィルムの黄色度(YI)]
日本電色工業社製、Specrtophotometer SE6000を用い、JIS K7373 に従って、ペレットは反射測定方法により、フィルムは透過測定方法によって黄色度(YI)を求めた。
【0112】
[酢酸ナトリウム]
JIS K6726に従って求めた。
【0113】
[生分解度]
生分解度の評価は、JIS K6950に記載された方法を参考にして下記の条件で行い、生物化学的酸素消費量と、理論的酸素要求量から、生分解度を求めた。
・装置:タイテック社製 BOD TESTER 200F
・植種源:家庭下水を処理している下水処理場の返送汚泥
・標準試験培養液:100mL
・植種濃度:90mg/L
・温度:25±1℃
・期間:28日間
【0114】
<実施例1>
温度制御のできるオートクレーブに酢酸ビニル460部、側鎖一級水酸基をエステルで保護したモノマーである、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン42部、メタノール195部を仕込み、系内を窒素ガスで一旦置換した後、ついでエチレンで置換して、撹拌しながら、67℃まで昇温した。昇温後、エチレンをその分圧が1.01MPaとなるように圧入した。内温を67℃に維持して撹拌しながら、t-ブチルパーオキシネオデカノエート0.102部をメタノール5.1部に溶解させた溶液(濃度2%)を4時間かけて添加しつつ、重合反応を行い、添加終了後もさらに67℃で3時間撹拌を続けて重合反応を継続した。その後、重合反応停止工程として、ソルビン酸0.096部をメタノール100部に溶解させた溶液を投入、室温(23℃)まで冷却した。さらに未反応のモノマーを減少させる目的で、75℃加熱による揮発分追い出しとメタノール添加を繰り返し、残存する酢酸ビニルが10ppmとなるようにした。
【0115】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整して、ニーダーで撹拌しつつ、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して9mmol当量となる量を加えて、一次ケン化を行った。約15分後に粘度上昇を伴ってケン化物が析出し、ついには粒子状物を含むスラリーになった。1時間後に水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して11mmol当量となる量を加えて反応を継続し、1時間後に一次ケン化を終了した。
【0116】
反応後、酢酸で中和し、生成したスラリーをろ別してウェットケーキを得、該ウェットケーキをその5倍量のメタノールで3回洗浄してろ別した後、100℃熱風乾燥器中で8時間、80℃真空乾燥機中で15時間乾燥させて変性EVOH系樹脂組成物の粒子を得た。
上記変性EVOH系樹脂組成物の重合およびケン化について下記の表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
得られた樹脂組成物中の変性EVOH系樹脂は下記の性質を有する。
・NMR測定によるエチレン構造単位の含有量は9.0mol%。
・側鎖一級水酸基構造単位として1,2-ブタンジオール構造を有し、1,2-ブタンジオール構造単位の含有量は4.1mol%。
・ケン化度は、残存ビニルエステル構造単位の加水分解に関するアルカリ消費量で分析したところ98.6mol%。
【0119】
また、得られた樹脂組成物は下記の性質を有する。
・共役ポリエンであるソルビン酸の含有量は0.9ppm。
・樹脂組成物粒子の黄色度(YI)はJIS K7373に従って反射測定方法によって求めたところ1.7。
・樹脂組成物の酢酸ナトリウム量はJIS K6726に準じて測定したところ0.080%。
・生分解度は64%。
上記樹脂組成物中の変性EVOH系樹脂および樹脂組成物の共重合成分および性質を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
上記変性EVOH系樹脂を再アセチル化したエチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量は6.0×104であった。
【0122】
<実施例2>
一次ケン化終了までは実施例1と同様に実施した。さらにケン化を進めるために、二次ケン化として、生成したスラリーを一旦ろ別した後、再度、ケン化物の2倍量のメタノールに分散させ、ニーダーにて撹拌しつつ、水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、表1に示す量を加えて、50℃で3時間反応させた。反応後、酢酸で中和した以降は実施例1と同様に処理して、変性EVOH系樹脂組成物粒子を得た。
【0123】
<比較例1>
実施例2において二次ケン化に使用した水酸化ナトリウムの水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を表1に示す量(50mmol)に変更した以外は、実施例2と同様にして、変性EVOH系樹脂組成物粒子を得た。
【0124】
<比較例2>
実施例1における、側鎖一級水酸基をエステルで保護したモノマーの種類と量、メタノール量、エチレン分圧、t-ブチルパーオキシネオデカノエート量を表1のとおりに変更して重合を行った。重合反応停止工程、未反応モノマーを減少させる工程、一次ケン化は、実施例1と同様に行った。さらに、二次ケン化の有無、二次ケン化で使用したアルカリ量、ケン化後のウェットケーキの洗浄方法を表1のとおりに変更した以外は、実施例2と同様にして、変性EVOH系樹脂組成物粒子を得た。
得られた樹脂組成物中の変性EVOH系樹脂を再アセチル化したエチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量は6.9×104であった。
【0125】
実施例2,比較例1~2の変性EVOH系樹脂組成物粒子の共重合成分および性質を表2に併せて示す。
【0126】
<実施例3>
実施例2で得られた樹脂組成物粒子に酢酸マグネシウムを表3に示す量を添加した以外は、実施例2と同様にして、変性EVOH系樹脂組成物粒子を得た。
【0127】
得られた実施例1~3および比較例1~2の各変性EVOH系樹脂組成物粒子の溶融粘度安定性を、下記の測定方法により求め、その結果を表3に示す。
【0128】
[溶融粘度安定性]
温度230℃に設定された、トルク検出ができるレオメーター(ブラベンダー社製、プラストグラフEC plus)に、樹脂組成物55gを投入し、5分間予熱した後、回転数50rpmにて溶融混錬したときのトルク(Nm)を経時的に測定し、混練開始後15分後の値と、120分までの間の最高値を比較することにより求めた。
【0129】
【表3】
【0130】
〔ペレットの作製〕
つぎに、得られた実施例1~3および比較例1~2の各変性EVOH系樹脂組成物粒子を下記の条件で押出することにより樹脂組成物のペレットを得た。各ペレットの黄色度(YI)を、前記の測定方法により求め、その結果を表3に併せて示す。
(ペレット化条件)
・押出機:芝浦機械社製 2軸混練押出機 TEM-18DS
・スクリュー:2軸、20mmΦ、L/D=48
・シリンダー部設定温度:170~220℃
・ヘッダー部設定温度:210℃
・押出された樹脂の冷却方法:空冷ベルト
・吐出量:4kg/hr
【0131】
〔溶融押出フィルムの作製〕
得られた実施例1~3および比較例1~2のペレットから溶融押出フィルムを得た。実施例1~2および比較例1~2の溶融押出フィルムの酸素透過度を下記の測定方法により求め、その結果を表4に示す。
なお、実施例1~3および比較例1に係る溶融押出フィルムは、多層フィルムであり、比較例2に係る溶融押出フィルムは単層フィルムである。多層フィルムおよび単層フィルムの作製方法は下記に示す。
【0132】
<多層フィルムの作製>
得られた実施例1~3および比較例1のペレットから以下の条件で押出することにより、LLDPE/LLDPE/ガスバリア層(変性EVOH系樹脂組成物からなる層)/LLDPE/LLDPEの多層構造を有する溶融押出多層フィルムを得た。
(フィルム作製条件)
・押出機:プラスチック工学研究所 3種5層インフレフィルム製膜機
・スクリュー:単軸、20mmΦ、フルフライト
・シリンダー部設定温度:180~210℃
・フィルム厚み:90μm (LLDPE40μm/ガスバリア層10μm/LLDPE40μm)
・LLDPE:三菱ケミカル社製、ノバテックLL UF240
【0133】
<単層フィルムの作製>
得られた比較例2のペレットから以下の条件で押出することにより、溶融押出単層フィルムを得た。
(フィルム作製条件)
・押出機:ブラベンダー社製 プラストグラフEC-plus
・スクリュー:単軸、20mmΦ、フルフライト
・シリンダー部設定温度:170~220℃
・冷却ロール設定温度:80℃
・フィルムの厚み:20μm
【0134】
[酸素透過度]
得られたガスバリア材(溶融押出単層フィルム、溶融押出多層フィルム)について、温度23℃、湿度65%RHにおける酸素透過度を、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OXTRAN2/20」)を用いて測定し、この測定した値を樹脂組成物の厚み20μmの値に換算し、ガスバリア性を示す値とした。
【0135】
[溶融押出フィルムの黄色度(YI)]
得られたガスバリア材について、溶融押出単層フィルムはそのままの状態で、溶融押出多層フィルムは両側のLLDPE層を剥がしてガスバリア層のみとして、黄色度を測定した。
【0136】
【表4】
【0137】
上記表2の結果より、本発明で規定する範囲内である実施例1~3は、良好な生分解性を示すとともに溶融成形時の熱安定性に優れ、溶融成形して得られるペレット、さらにそのペレットを溶融成形して得られるフィルムの着色を抑制し、良好なガスバリア性を示すものであった。
【0138】
これに対し、変性EVOH系樹脂のケン化度が本発明で規定する範囲を超える比較例1~2は、ペレットを溶融成形して得られるフィルムが劣化して黄色化しているものであった。また、よりケン化度の高い比較例2では、15分後と120分後とのトルク値に大きな差があり溶融成形時の熱安定性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の変性EVOH系樹脂組成物は、良好な生分解性を示すとともに溶融成形時の熱安定性に優れ、溶融成形して得られるペレット、さらにそのペレットを溶融成形して得られるフィルムの着色を抑制し、良好なガスバリア性を示すため、環境負荷の低減が求められる分野、特に食品包材等のガスバリア材として好適に用いることができる。