(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130862
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】スケール防止剤及びスケール防止方法
(51)【国際特許分類】
C02F 5/10 20230101AFI20240920BHJP
C02F 5/00 20230101ALI20240920BHJP
【FI】
C02F5/10 620B
C02F5/00 620B
C02F5/00 620D
C02F5/10 620C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040799
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 智成
(72)【発明者】
【氏名】西田 育子
(57)【要約】
【課題】鉄、マンガン、アルミニウム等の金属成分を含む水系において、キレート剤の併用を要することなく、スケールを抑制することができるスケール防止剤及びスケール防止方法を提供する。
【解決手段】鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系のスケール防止剤であって、アクリル酸に由来する構造単位(a)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位(b)とを含む共重合体であり、前記共重合体は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)が50~90モル%であり、重量平均分子量が5000~18000である、スケール防止剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系のスケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位(a)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位(b)とを含む共重合体であり、
前記共重合体は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)が50~90モル%であり、重量平均分子量が5000~18000である、スケール防止剤。
【請求項2】
前記共重合体が、tert-ブチルアクリルアミド、アクリル酸エチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルから選ばれる1種以上に由来する構造単位(c)をさらに含む、請求項1に記載のスケール防止剤。
【請求項3】
前記共重合体の全構造単位100モル%中、構造単位(b)が5~25モル%であり、構造単位(c)が1~30モル%である、請求項2に記載のスケール防止剤。
【請求項4】
前記水系中、前記金属成分の合計含有量が0.1~12.0mg/Lである、請求項1又は2に記載のスケール防止剤。
【請求項5】
鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系に、キレート剤を添加することなく、請求項1又は2に記載のスケール防止剤を添加する、スケール防止方法。
【請求項6】
前記水系中、前記金属成分の合計含有量が0.1~12.0mg/Lである、請求項5に記載のスケール防止方法。
【請求項7】
前記水系中、前記スケール防止剤の添加濃度を3.0~20.0mg/Lとする、請求項5に記載のスケール防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、マンガン、アルミニウム等の金属成分を含む水系のスケール防止剤及びスケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水は循環再利用されることが多く、蒸発によって水が濃縮される開放循環冷却水系では、水に溶解している無機塩類が濃縮されて析出したスケールを生じる場合がある。スケールは、熱交換器における熱交換効率の低下や配管の閉塞、さらには、熱交換器の運転に支障をきたし、事故を招くおそれもある。また、逆浸透(RO)膜による水処理工程においても、水に溶解している無機塩類が濃縮されて、スケールを生じ、フラックスが低下するという課題が生じていた。
【0003】
スケールのうち、カルシウムスケールに対しては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸等に由来する構造単位を有するカルボキシ基含有重合体が有効であり、例えば、特許文献1に記載されているようなアクリル酸(略称:AA)と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(略称:AMPS)との共重合体、アクリル酸(AA)と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸(略称:HAPS)との共重合体等が、スケール防止剤として一般に知られている。
【0004】
しかしながら、水系中に、鉄、マンガン又はアルミニウムが存在する場合、上記のような共重合体は、スケール防止効果が低下する傾向があった。このような水系において、本出願人は、ホスホン酸等のキレート作用を有する化合物を、前記共重合体と併用することが有効であることを提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50-86489号公報
【特許文献2】特許第6753543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のスケール防止方法においては、共重合体によるスケール防止剤及びキレート剤の2種の薬剤が併用される。このため、2種の薬剤の濃度管理が必要となり、また、キレート剤によって配管の防食効果が低下することが懸念される。また、リンを含むキレート剤は、藻類への毒性作用や海水の富栄養化等、自然界への影響も懸念されるものである。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、鉄、マンガン、アルミニウム等の金属成分を含む水系において、キレート剤の併用を要することなく、スケールを抑制することができるスケール防止剤及びスケール防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉄、マンガン、アルミニウム等の金属イオンは、開放循環冷却水系やRO膜による水処理工程等の水系中で水酸化物として存在していることに着目し、これらの金属成分を含む水系において、金属水酸化物及びカルシウムスケールの両方を効果的に分散し、良好なスケール防止効果を奏する共重合体を見出したことに基づく。
【0009】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1]鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系のスケール防止剤であって、アクリル酸に由来する構造単位(a)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位(b)とを含む共重合体であり、前記共重合体は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)が50~90モル%であり、重量平均分子量が5000~18000である、スケール防止剤。
[2]前記共重合体が、tert-ブチルアクリルアミド、アクリル酸エチル及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルから選ばれる1種以上に由来する構造単位(c)をさらに含む、[1]のスケール防止剤。
[3]前記共重合体の全構造単位100モル%中、構造単位(b)が5~25モル%であり、構造単位(c)が1~30モル%である、[2]のスケール防止剤。
[4]前記水系中、前記金属成分の合計含有量が0.1~12.0mg/Lである、[1]~[3]のいずれかのスケール防止剤。
【0010】
[5]鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系に、キレート剤を添加することなく、[1]~[4]のいずれかのスケール防止剤を添加する、スケール防止方法。
[6]前記水系中、前記金属成分の合計含有量が0.1~12.0mg/Lである、[5]のスケール防止方法。
[7]前記水系中、前記スケール防止剤の添加濃度を3.0~20.0mg/Lとする、[5]又は[6]のスケール防止方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスケール防止剤及びスケール防止方法によれば、鉄、マンガン、アルミニウム等の金属成分を含む水系において、キレート剤の併用を要することなく、炭素鋼や銅、銅合金等の金属製の設備や配管、機器等に生じるスケールを良好に抑制することができる。したがって、本発明は、熱交換器の運転や逆浸透膜による水処理工程等において、安定的かつ安全な操業に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における用語及び表記の定義及び意義を以下に示す。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後の数値が下限値及び上限値であることを意味する。
重量平均分子量は、標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線に基づいて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定して求められた標準物質ポリアクリル酸ナトリウム換算分子量である。
「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの総称である。
【0013】
[スケール防止剤]
本発明のスケール防止剤は、鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系のスケール防止剤であって、AAに由来する構造単位(a)と、AMPSに由来する構造単位(b)とを含む共重合体であり、前記共重合体は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)が50~90モル%であり、重量平均分子量が5000~18000である。
【0014】
鉄、マンガン、アルミニウム等の金属成分を含む水系において、従来は、効果的なスケール防止のため、キレート剤を併用することにより、金属イオンを、カルシウムスケール及びスケール防止剤と相互作用を生じない状態で水中に溶存させていた。これらの金属イオンは、開放循環冷却水系やRO膜による水処理工程等の水系中で水酸化物として存在している。
本発明の実施形態(以下、本実施形態と言う。)のスケール防止剤は、所定の重量平均分子量を有する上記のような共重合体であることにより、前記水系中で、キレート剤の併用を要することなく、金属水酸化物及びカルシウムスケールの両方を効果的に分散することができ、リン酸カルシウム及び炭酸カルシウムともに析出が抑制され、スケールを良好に抑制することができる。なお、本実施形態のスケール防止剤は、キレート剤を含まないものである。
【0015】
本実施形態のスケール防止剤は、適用される水系が、鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む。水系の種類は、特に限定されないが、本実施形態のスケール防止剤は、例えば、開放循環冷却水系、RO膜による水処理工程等における水系に好適に適用できる。
【0016】
本実施形態のスケール防止剤は、水系中の前記金属成分の合計含有量が、好ましくは0.1~12.0mg/Lである場合に、スケール防止効果がより顕著に発揮される。前記金属成分は、鉄、マンガン及びアルミニウムのいずれか1種のみでもよく、2種以上であってもよい。
前記金属成分の合計含有量は、より好ましくは0.3mg/L以上、さらに好ましくは0.5mg/L以上であり、また、より好ましくは10.0mg/L以下、さらに好ましくは5.0mg/L以下である。
なお、前記金属成分の合計含有量は、原子吸光法又はチオシアン酸法(吸光度法)により測定できる。
【0017】
本実施形態のスケール防止剤を構成する共重合体は、AAに由来する構造単位(a)と、AMPSに由来する構造単位(b)を含む共重合体である。共重合体は、1種単独であってもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
構造単位(a)及び(b)は、それぞれ、塩を含んでいてもよい。塩としては、共重合体によるスケール防止効果が妨げられない限り、特に限定されるものではなく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。塩の種類は、該スケール防止剤が適用される水系に応じて、適宜選択できる。
塩を含む共重合体は、共重合体をアルカリで中和したものであってもよく、また、AA及びAMPSの少なくともいずれかをアルカリで中和した塩をモノマーとして用いて共重合させたものであってもよい。塩を含む共重合体は、完全中和物であってもよく、部分中和物であってもよい。
【0019】
共重合体は、全構造単位100モル%中、構造単位(a)が50~90モル%であり、好ましくは55モル%以上、より好ましくは60モル%以上であり、また、好ましくは80モル%以下、より好ましくは77モル%以下である。
構造単位(a)が50モル%以上であることにより、該スケール防止剤が、前記金属成分を含む水系において、スケールを良好に抑制することができる。また、95モル%以下であれば、共重合体中の構造単位(a)と(b)との相互作用によるスケール防止効果が良好に発揮され得る。
【0020】
共重合体は、構造単位(a)及び(b)のみからなる共重合体(AA/AMPS共重合体)であってもよく、また、スケール防止効果が妨げられない限り、他の構造単位を含んでいてもよい。構造単位(a)及び(b)以外の他の構造単位を含む共重合体としては、tert-ブチルアクリルアミド(略称:tBuAAM)、アクリル酸エチル(略称:EA)及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(略称:HEMA)から選ばれる1種以上に由来する構造単位(c)をさらに含むものが好ましい。
具体的には、構造単位(c)がtBuAAMに由来する構造単位である三元共重合体(AA/AMPS/tBuAAM共重合体)、構造単位(c)がEAに由来する構造単位である三元共重合体(AA/AMPS/EA共重合体)、構造単位(c)がHEMAに由来する構造単位である三元共重合体(AA/AMPS/HEMA共重合体)が好ましい。これらの三元共重合体及びAA/AMPS共重合体は、1種単独であってもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
共重合体は、構造単位(a)、(b)及び(c)以外に、さらに他の構造単位を含んでいてもよい。他の構造単位としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、モノエチレン性不飽和炭化水素、モノエチレン性不飽和酸のアルキルエステル、モノエチレン性不飽和酸のビニルエステル、置換アクリルアミド、N-ビニル基含有モノマー、水酸基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族不飽和モノマー又はスルホン酸基含有モノマー等のモノマーに由来する構造単位が挙げられる。これらのモノマーは、1種単独であってもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
共重合体が、構造単位(a)及び(b)以外の他の構造単位を含む場合、全構造単位100モル%中、他の構造単位は、50モル%未満であり、前記金属成分を含む水系における良好なスケール防止効果の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
共重合体が、構造単位(a)、(b)及び(c)で構成される三元共重合体である場合、全構造単位100モル%中、構造単位(c)が、好ましくは1~30モル%、より好ましくは2~20モル%である。この場合、構造単位(b)は、全構造単位100モル%中、好ましくは30モル%以下、より好ましくは5~25モル%、さらに好ましくは10~20モル%である。
【0023】
共重合体の重量平均分子量は、5000~18000であり、好ましくは5500以上、より好ましくは6000以上、さらに好ましくは7000以上であり、また、好ましくは15000以下、より好ましくは12000以下、さらに好ましくは10000以下である。好ましくは5500~15000、より好ましくは6000~12000、さらに好ましくは7000~10000である。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、該スケール防止剤が、前記金属成分を含む水系において、スケールを良好に抑制することができる。
【0024】
共重合体は、各構造単位の由来のモノマーを所定の割合で混合し、公知の重合方法で重合することにより、製造することができる。例えば、構造単位(a)を構成するモノマー及び構造単位(b)を構成するモノマーを、ラジカル開始剤として過硫酸塩、及び連鎖移動剤として亜硫酸塩の存在下で、共重合させることにより、構造単位(a)及び構造単位(b)を含む共重合体が得られる。なお、重合反応の際の連鎖移動剤の使用量や反応温度等の反応条件を適宜変更することにより、共重合体の重量平均分子量を調整することができる。
【0025】
[スケール防止方法]
本実施形態のスケール防止方法は、鉄、マンガン及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属成分を含む水系に、キレート剤を添加することなく、上述した本実施形態のスケール防止剤を添加するものである。
本実施形態のスケール防止剤を用いることにより、前記金属成分を含む水系においても、キレート剤の併用を要することなく、スケールを良好に抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態のスケール防止方法においては、スケール防止効果が妨げられない範囲内で、例えば、pH調整剤、脱酸素剤、防食剤、スライムコントロール剤等のスケール防止剤と併用される公知の添加剤を、必要に応じて、スケール防止剤とともに添加してもよい。
【0027】
本実施形態のスケール防止方法が適用される水系は、本実施形態のスケール防止剤について説明した水系と同様である。水系中の前記金属成分の含有量についても、上述した説明と同様である。
【0028】
水系中へのスケール防止剤の添加濃度は、前記金属成分を含む水系における良好なスケール防止効果及びコスト抑制の観点から、好ましくは3.0~20.0mg/Lであり、より好ましくは4.0mg/L以上、さらに好ましくは5.0mg/L以上であり、また、より好ましくは15.0mg/L以下、さらに好ましくは10.0mg/L以下である。
【0029】
本実施形態のスケール防止方法においては、例えば、水系中の前記金属成分の含有量を測定し、該含有量に応じて、スケール防止剤の添加濃度を変化させてもよい。その際、スケール防止剤の添加濃度を自動制御して、スケール防止剤を連続的又は断続的に添加することにより、スケールの抑制を効率的に行うことができる。
【実施例0030】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。本発明は、下記実施例により限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。
【0031】
スケール防止剤として、表1に示す各種共重合体を準備し、リン酸カルシウム及び炭酸カルシウムの析出評価試験により、スケール防止性能の評価を行った。
表1に、実施例及び比較例で用いたスケール防止剤(共重合体)の構造単位となるモノマーの配合組成及び重量平均分子量を示す。
表1中、共重合体を構成するモノマー組成におけるモノマーの略称は、以下のとおりである。
AA:アクリル酸
AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
tBuAAM:tert-ブチルアクリルアミド
EA:アクリル酸エチル
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
HAPS:2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸
【0032】
【0033】
評価試験で用いた試験水の調製には、以下の各種水溶液を使用した。
(酸消費量基準水溶液)
炭酸水素ナトリウム13.78gに超純水を加えて1000mLとし、撹拌混合した後、濃度0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調整し、酸消費量8200mgCaCO3/Lの酸消費量基準水溶液を調製した。
(カルシウムイオン含有水溶液)
塩化カルシウム二水和物14.7gに超純水を加えて1000mLとし、撹拌混合した後、濃度0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調整し、カルシウム硬度10000mgCaCO3/Lのカルシウムイオン含有水溶液を調製した。
(リン酸イオン含有水溶液)
リン酸水素ナトリウム0.6729gに超純水を加えて1000mLとし、撹拌混合した後、濃度0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.5に調整し、リン酸イオン濃度450mg/Lのリン酸イオン含有水溶液を調製した。
(鉄イオン含有水溶液)
塩化鉄(III)六水和物に超純水を加えて撹拌混合し、鉄イオン濃度250mg/Lの鉄イオン含有水溶液を調製した。
(マンガンイオン含有水溶液)
塩化マンガン(II)四水和物に超純水を加えて撹拌混合し、マンガン濃度250mg/Lのマンガンイオン含有水溶液を調製した。
(スケール防止剤水溶液)
スケール防止剤を超純水で希釈し、濃度500mg/Lのスケール防止剤水溶液を調製した。
(キレート剤水溶液)
キレート剤5gに超純水を加えて100mLとし、撹拌混合した後、得られた水溶液から1mL分取し、超純水で100mLメスアップして、濃度0.05質量%のキレート剤水溶液を調製した。なお、キレート剤としては、3-ヒドロキシ-2,2’イミノジコハク酸四ナトリウム(HIDS)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いた。
【0034】
[リン酸カルシウム析出評価試験]
500mLねじ口瓶に443.5mLの超純水を入れ、酸消費量基準水溶液5mL、カルシウムイオン含有水溶液25mL、リン酸イオン含有水溶液10mL、スケール防止剤水溶液8.5mL、鉄イオン含有水溶液4mL、マンガンイオン含有水溶液4mLをこの順に添加混合し、0.1モル/L水酸化ナトリウム水溶液又は0.1モル/L硫酸水溶液(pH調整剤)でpH8.5に調整し、スケール防止剤添加試験水を調製した。試験水中の各種成分の濃度(ただし、pH調整剤を除く。)は、酸消費量(pH8.3):82mgCaCO3/L、カルシウム硬度:500mgCaCO3/L、リン酸イオン濃度:9mg/L、鉄イオン濃度:2mg/L、マンガンイオン濃度:2mg/L、スケール防止剤濃度:8.5mg/Lである。
また、スケール防止剤含有水溶液の代わりに超純水を添加した、スケール防止剤未添加試験水をブランクとして調製した。
【0035】
各試験水から10mLを分取し、それぞれ、超純水で希釈し、JIS K 0101:1998「43.1.1 モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法」に準拠して、試験前のリン酸イオン濃度を測定した。
試験は、各試験水のねじ口瓶の蓋を閉め、60℃の恒温槽中で24時間静置することにより行った。試験後、ねじ口瓶を恒温槽から取り出し、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、ろ液を室温(25℃)で冷却した後、超純水で希釈し、上記と同様にして、各試験水のリン酸イオン濃度を測定した。
【0036】
各リン酸イオン濃度の測定値から、下記式(1)により、試験水中のリン酸イオン残留率XP[%]を算出した。
XP=(CP2-CP0)/(CP1-CP0)×100 (1)
式中、CP0:試験後のブランク(スケール防止剤非添加の試験水)のリン酸イオン濃度、CP1:試験前のスケール添加剤添加試験水のリン酸イオン濃度、CP2:試験後のスケール添加剤添加試験水のリン酸イオン濃度を表す。
【0037】
試験水中のリン酸イオン残留率XPは、試験水中のリン酸イオンが、スケール成分であるリン酸カルシウムとなって析出していないことを示す指標であり、すなわち、リン酸カルシウム析出抑制率に相当する。
リン酸カルシウム析出抑制率が70%以上であれば、スケール防止効果が良好であると言え、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。
【0038】
[炭酸カルシウム析出評価試験]
500mLねじ口瓶に444.5mLの超純水を入れ、酸消費量基準水溶液14mL、カルシウムイオン含有水溶液25mL、スケール防止剤水溶液8.5mL、鉄イオン含有水溶液4mL、マンガンイオン含有水溶液4mLをこの順に添加混合し、0.1モル/L水酸化ナトリウム水溶液又は0.1モル/L硫酸水溶液(pH調整剤)でpH8.5に調整し、スケール防止剤添加試験水を調製した。試験水中の各種成分の濃度(ただし、pH調整剤を除く。)は、酸消費量(pH8.3):230mgCaCO3/L、カルシウム硬度:500mgCaCO3/L、鉄イオン濃度:2mg/L、マンガンイオン濃度:2mg/L、スケール防止剤濃度:8.5mg/Lである。
また、スケール防止剤含有水溶液の代わりに超純水を添加した、スケール防止剤未添加試験水をブランクとして調製した。
【0039】
各試験水から10mLを分取し、それぞれ、超純水で希釈し、JIS K 0101:1998「49.1 キレート滴定法」に準拠して、試験前のカルシウムイオン濃度を測定した。
試験は、各試験水のねじ口瓶の蓋を閉め、60℃の恒温槽中で20時間静置することにより行った。試験後、ねじ口瓶を恒温槽から取り出し、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、ろ液を室温(25℃)で冷却した後、超純水で希釈し、上記と同様にして、各試験水のカルシウムイオン濃度を測定した。
【0040】
各カルシウムイオン濃度の測定値から、下記式(2)により、試験水中のカルシウムイン残留率XC[%]を算出した。
XC=(CC2-CC0)/(CC1-CC0)×100 (2)
式中、CC0:試験後のブランク(スケール防止剤非添加の試験水)のカルシウムイオン濃度、CC1:試験前のスケール添加剤添加試験水のカルシウムイオン濃度、CC2:試験後のスケール添加剤添加試験水のカルシウムイオン濃度を表す。
【0041】
試験水中のカルシウムイオン残留率XCは、試験水中のカルシウムイオンが、スケール成分である炭酸カルシウムとなって析出していないことを示す指標であり、すなわち、炭酸カルシウム析出抑制率とみなせる。
炭酸カルシウム析出抑制率が85%以上であれば、スケール防止効果が良好であると言え、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上である。
【0042】
表2に、各実施例及び比較例のスケール防止剤によるリン酸カルシウム及び炭酸カルシウムの析出評価試験の結果(析出抑制率)を示す。
なお、比較例5及び6においては、スケール防止剤及びキレート剤を用い、表2に示す各添加濃度とし、それ以外は実施例1と同様にして、評価試験を行った。比較例7~9のスケール防止剤については、炭酸カルシウムの析出評価試験は未実施である。
【0043】
【0044】
表2に示した結果から、共重合体の全構成単位100モル%中、AAに由来する構造単位が50~95モル%の範囲内であり、該共重合体の重量平均分子量が5000~18000の範囲内であるスケール防止剤(実施例1~9)によれば、AMPSに由来する構造単位以外に、tBuAAM、EA又はHEMAに由来する構造単位をさらに有する三元共重合体でも、キレート剤の併用を要することなく、リン酸カルシウム及び炭酸カルシウムともに析出抑制率が高く、良好なスケール防止効果を得られることが認められた。