IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130888
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】採血装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/151 20060101AFI20240920BHJP
   A61B 5/155 20060101ALI20240920BHJP
   G01F 23/292 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B5/151
A61B5/155
G01F23/292 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040834
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓
(72)【発明者】
【氏名】入江 隆史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 公一
(72)【発明者】
【氏名】横川 健
(72)【発明者】
【氏名】滝 美樹
【テーマコード(参考)】
2F014
4C038
【Fターム(参考)】
2F014FA03
4C038TA01
4C038TA02
4C038UA03
4C038UA06
4C038UA10
4C038UB05
4C038UB08
4C038UC04
4C038UE03
4C038UE04
(57)【要約】
【課題】採血管に採取した血液の量を簡便に測定することができる採血装置を提供する。
【解決手段】本発明による採血装置は、面状の光を発する面光源141と、複数の光センサを備える光センサアレイ142と、血液1561を収容する容器1121と、制御部16とを備える。面光源141は、血液1561を収容した容器1121に光を照射する。光センサアレイ142は、容器1121への血液1561の採取中に、容器1121を透過した光の、容器1121の底部から上部に向かう方向の強度分布を計測する。制御部16は、容器1121への血液1561の採取中に、強度分布を用いて、容器1121に収容された血液1561の量を求める。制御部16は、求めた血液1561の量に応じて、血液1561の採取を中止する。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状の光を発する面光源と、
複数の光センサを備える光センサアレイと、
血液を収容する容器と、
制御部と、
を備え、
前記面光源は、血液を収容した前記容器に前記光を照射し、
前記光センサアレイは、前記容器への前記血液の採取中に、前記容器を透過した前記光の、前記容器の底部から上部に向かう方向の強度分布を計測し、
前記制御部は、前記容器への前記血液の採取中に、前記強度分布を用いて、前記容器に収容された前記血液の量を求め、
前記制御部は、求めた前記血液の量に応じて、前記血液の採取を中止する、
ことを特徴とする採血装置。
【請求項2】
前記光センサアレイは、前記容器に収容された前記血液を透過した前記光の強度と、前記容器の内部の空気層を透過した前記光の強度とを含む、前記強度分布を計測する、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項3】
前記制御部は、予め求められた、前記強度分布から得られた値と前記容器が収容している血液量との関係を用いて、前記容器に収容された前記血液の量を求める、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項4】
前記容器は、ラベルが貼られた収納容器に収納されている、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項5】
前記光センサアレイが備える複数の前記光センサは、前記容器の底部から上部に向かう方向に並んで配置されている、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項6】
前記容器を上下方向に移動させる駆動機構を備え、
前記駆動機構は、前記面光源が前記容器に前記光を照射するときに、前記容器の種類に応じて前記容器の高さ位置を変える、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項7】
前記制御部は、選択された検査内容に応じて、前記容器に採取する前記血液の量を定める、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項8】
生体の穿刺箇所を穿刺する穿刺器と
前記穿刺箇所から出血した前記血液を収容する前記容器と、
前記穿刺箇所に接触可能なガーゼと、
前記穿刺箇所を覆うシール材と、
前記穿刺器、前記容器、前記ガーゼ、及び前記シール材の、前記穿刺箇所に対する水平方向の相対位置を変化させる第1の駆動機構と、
前記穿刺器、前記容器、前記ガーゼ、及び前記シール材の、前記穿刺箇所に対する上下方向の相対位置を変化させる第2の駆動機構と、
を備え、
前記制御部は、求めた前記血液の量に基づいて、前記第1の駆動機構と前記第2の駆動機構の動作を制御する、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項9】
前記光センサアレイが備える複数の前記光センサは、前記容器の底部から上部に向かう方向に並んで配置されていて、前記容器の底部から上部に向かう方向に番号が付けられており、
前記強度分布から得られた前記値は、前記光センサの出力値の合計値、前記光センサの出力値の半値幅、前記光センサの出力値の最大値の半値に最も近い値を計測した前記光センサの前記番号、及び前記合計値と前記半値幅と前記半値に最も近い値を計測した前記光センサの前記番号とを組み合わせて得られる値のうちの1つである、
請求項3に記載の採血装置。
【請求項10】
前記容器を透過して前記光センサアレイへ入射する前記光の波長を制限するための第1の光学素子と、前記容器を透過した前記光の、前記光センサアレイへの入射角度を制限するための第2の光学素子のうち、少なくとも前記第1の光学素子を備える、
請求項1に記載の採血装置。
【請求項11】
前記容器は、ラベルが貼られた収納容器に収納されており、
前記第2の光学素子は、レンズであり、
前記レンズと前記ラベルの距離は、前記レンズの焦点距離の1倍以上4倍以下の範囲内にある、
請求項10に記載の採血装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の指から採血を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
健康的な生活を送るためには、定期的に健康診断を受診することが重要である。健康診断にて一般的によく実施されている検査の一つが、被験者から採血し血液の成分を分析することで全身の組織や臓器の状態を診断する血液検査である。血液検査は、一般的に医療機関で実施されることが多いが、血糖値などに測定項目を限定した自己検査として、家庭内で実施されることもある。
【0003】
血糖値測定などの自己検査のための採血として実施されることが多い採血方法が、毛細管採血である。毛細管採血は、被験者の指に専用の皮膚穿刺器具を押し当てることで指の毛細血管を穿刺し、流出した血液を採血する方法である。毛細管採血は、静脈血採血よりも簡便な採血方法である。しかし、採取することのできる血液量が少ないため、検査に必要な血液量を採取するためには、採血の際に指を圧迫し絞るなどの煩雑な作業が必要である。
【0004】
特許文献1には、指からの採血を自動化する採血装置が開示されている。この採血装置は、穿刺器と採血管と絆創膏を保持するカートリッジと、カートリッジの位置を変化させるとともに、穿刺器と採血管と絆創膏を指先に押し当てる動作をするための駆動機構と、指先の一部を固定するための固定機構と、指の根元を圧迫するための圧迫機構を備え、指の根元を圧迫したのち穿刺器で被験者の指先を穿刺し、穿刺痕から採血管に血液を採取し、指の圧迫を解放したのち絆創膏で穿刺痕を止血する。穿刺痕からの出血量は被採血者によって異なるため、採血の自動化には採取した血液量を測定することが必須である。特許文献1の採血装置では、採血中の採血管の画像を解析することにより、採血管に採取した血液量を決定する。
【0005】
特許文献2には、面光源から赤外光を採血管に照射し、ラインセンサで透過光の強度のプロファイルを作成することで、採血管内の血清量を推定する検体分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-088391号公報
【特許文献2】特開2004-37322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている採血装置は、採血中の採血管の画像を解析することにより採血管に採取した血液量を決定するため、高機能の情報処理装置が必要である。さらに、採血管が、バーコードラベルが貼られたアウターチューブに収納されている場合には、バーコードラベルやアウターチューブの影響により、採血管内の血液の画像を取得することが困難である。
【0008】
特許文献2に記載されている検体分析装置は、検体を分析する装置であるため、採血装置に特有の技術、例えば、複数種の採血管に対する血液量の測定、採血中での血液量の測定、及び採血量に基づく採血工程の制御などについては開示されていない。
【0009】
このように、従来の技術では、必ずしも十分にユーザを満足させる採血装置を提供するに至っていない。
【0010】
本発明の目的は、採血管に採取した血液の量を簡便に測定することができる採血装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による採血装置は、面状の光を発する面光源と、複数の光センサを備える光センサアレイと、血液を収容する容器と、制御部とを備える。前記面光源は、血液を収容した前記容器に前記光を照射する。前記光センサアレイは、前記容器への前記血液の採取中に、前記容器を透過した前記光の、前記容器の底部から上部に向かう方向の強度分布を計測する。前記制御部は、前記容器への前記血液の採取中に、前記強度分布を用いて、前記容器に収容された前記血液の量を求める。前記制御部は、求めた前記血液の量に応じて、前記血液の採取を中止する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、採血管に採取した血液の量を簡便に測定することができる採血装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例による採血装置の外観図である。
図2】本実施例による採血装置が備えるカートリッジの構成を示す図である。
図3】本実施例による採血装置の構成を示す図である。
図4A】採血量計測機構の構成を示す図である。
図4B図4Aの矢印bの方向から見える血算用採血管を示す図である。
図4C図4Aの矢印cの方向から見える血算用採血管を示す図である。
図5】採血量計測機構で血液を含む採血管を測定したときの、光センサアレイの各センサの出力値の例を示す図である。
図6】採血管が収容している血液量を求める換算式y=f(x)の一例を示す図である。
図7】制御部が採血量計測機構を用いて血液量を測定する処理のフローチャートの例を示す図である。
図8】動作チェックプロセスのフローチャートを示す図である。
図9】指セットプロセス、穿刺プロセス、採血プロセス、及び止血プロセスのフローチャートを示す図である。
図10】採血プロセスにおいて、2本採取プロセスで血算検査用の採血を行う処理のフローチャートを示す図である。
図11】採血プロセスにおいて、2本採取プロセスで生化学・免疫検査用の採血を行う処理のフローチャートを示す図である。
図12】血算検査用だけの採血を行う1本採取プロセスのフローチャートを示す図である。
図13】生化学・免疫検査用だけの採血を行う1本採取プロセスのフローチャートを示す図である。
図14】レンズアレイとカラーフィルタを備える採血量計測機構の構成を示す図である。
図15A】血液の液面の位置が高い採血管を使用したときの、血液量の測定方法の例を示す図である。
図15B】血液の液面の位置が低い採血管を使用したときの、血液量の測定方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
全身の組織や臓器の状態を診断することができる血液検査は、健康的な生活を維持する上で重要な検査である。血液検査の実施には被験者(被採血者)からの採血が必須であるため、誰でも簡単かつ安全に採血することができることが好ましい。
【0015】
本発明による採血装置は、面光源と光センサアレイを有する採血量計測機構を備え、採血管を透過した光の強度分布(光量分布)を求めることにより、採血管に採取した血液の量を簡便に測定することができる。
【0016】
以下、本発明の実施例による採血装置を、図面を参照して説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一の又は対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0017】
図1は、本発明の実施例による採血装置1の外観図であり、手指採血を実施中の採血装置1を示す図である。図2は、採血装置1が備えるカートリッジ11の構成を示す図である。図3は、採血装置1の構成を示す図である。図1から図3を用いて、本実施例による採血装置1の基本構成について説明する。
【0018】
採血装置1は、カートリッジ11(図1~3)と、駆動機構12(図3)と、カフ機構130(図1、3)と、圧力調整機構17(図3)と、カートリッジ用容器101(図1)を備える。カートリッジ11は、図2に示すように、穿刺器1111と、採血管1121、1131と、ガーゼ1141と、絆創膏1151などを備える。駆動機構12は、カートリッジ11の移動を制御する機構である。カフ機構130は、被採血者の指153の周囲を締め付ける機構である。圧力調整機構17は、カフ機構130の圧力を調整するための機構である。カートリッジ用容器101は、採血装置1にカートリッジ11を収納するための容器である。
【0019】
図1に示すように、手指採血の際には、被採血者は、指153を採血装置1の指置き部131に置く。図1には、指置き部131を部分図Pで示している。部分図Pは、指置き部131を下から見た図である。指置き部131は、指153と接触する箇所に、使い捨ての指置き用板部品1312を備える。指置き用板部品1312は、採血用の空隙である採血窓1311を備える。
【0020】
採血装置1は、採血窓1311を介して、穿刺器1111と採血管1121、1131を指153に接触させることにより、指153の穿刺や指153からの採血を行う。
【0021】
図2を用いて、カートリッジ11の構成について説明する。
【0022】
カートリッジ11は、穿刺器1111を保持する穿刺器ホルダ111と、血算用採血管1121を保持する血算用採血管ホルダ112と、生化学・免疫用採血管1131を保持する生化学・免疫用採血管ホルダ113と、ガーゼ1141を保持するガーゼホルダ114と、絆創膏1151を保持する絆創膏ホルダ115と、これらを保持するカートリッジケース110を備える。カートリッジケース110は、穿刺器ホルダ用保持穴1112と、血算用採血管ホルダ用保持穴1122と、生化学・免疫用採血管ホルダ用保持穴(ガーゼホルダ114に隠れているため図示せず)と、ガーゼホルダ用保持穴1132と、絆創膏ホルダ用保持穴1152を備え、これらの保持穴で穿刺器ホルダ111と、血算用採血管ホルダ112と、生化学・免疫用採血管ホルダ113と、ガーゼホルダ114と、絆創膏ホルダ115を、それぞれ保持する。
【0023】
それぞれの保持穴の中心は、カートリッジ11の回転軸を中心とした円の円周上に位置する。また、それぞれの保持穴は貫通穴であるが、穿刺器ホルダ111、血算用採血管ホルダ112、生化学・免疫用採血管ホルダ113、ガーゼホルダ114、及び絆創膏ホルダ115の一部分がそれぞれの保持穴より大きいため、ホルダ111、112、113、114、115は、それぞれの保持穴から落下しない。
【0024】
穿刺器1111は、一回使用の皮膚穿刺用器具であり、穿刺針と穿刺針を内蔵するホルダとを備え、生体である被採血者の穿刺箇所(例えば、指153の一部)を穿刺針で穿刺する。穿刺器1111は、先端部が指153に押し付けられると、穿刺針が一瞬飛び出して指153の皮膚及び毛細血管を穿刺する。
【0025】
血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131は、血液採取用の容器であり、採血管1121、1131の口を指153の穿刺箇所に押しつけることで、穿刺箇所から出血した血液を収容する。血算用採血管1121は、血算検査に使用される血液を採取する採血管であり、内面に抗凝固剤が塗布されていて、採血後の血液の凝固反応を抑制する効果を備える。生化学・免疫用採血管1131は、生化学検査と免疫検査に使用される血液を採取する採血管であり、分離剤が入れられていて、採血後に遠心力をかけることで比重差から血球と血清の分離を行うことができる。
【0026】
ガーゼ1141は、吸水性の布であり、被採血者の穿刺箇所に接触可能である。ガーゼ1141は、指153に押し当てられると、余分な血液を指153の穿刺箇所からふき取る。
【0027】
絆創膏1151は、粘着性のシートの中心に吸収性のパッドを備えたシール材であり、指153の穿刺箇所を覆って封止することができる。絆創膏1151は、粘着面を上向きにして絆創膏ホルダ115に取り付けられる。
【0028】
図3を用いて、採血装置1の構成について説明する。上述したように、採血装置1は、カートリッジ11と駆動機構12とカフ機構130と圧力調整機構17を備える。カートリッジ11は、穿刺器1111と血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131とガーゼ1141と絆創膏1151を備える。
【0029】
駆動機構12は、回転方向駆動機構120と、垂直方向駆動機構121を備え、カートリッジ11の移動を制御する。
【0030】
回転方向駆動機構120は、穿刺器1111、血算用採血管1121、生化学・免疫用採血管1131、ガーゼ1141、及び絆創膏1151の、指153の穿刺箇所に対する水平方向の相対位置を変化させる駆動機構である。回転方向駆動機構120は、回転軸1201を備え、カートリッジ11がセットされたカートリッジホルダ122を介して、カートリッジ11をカートリッジ用容器101(図1)内で回転させる。なお、図3に示すように、垂直方向(上下方向)を向くz軸が、カートリッジ11の回転軸であり、カートリッジ11は、xy平面内(水平面内)で回転する。回転方向駆動機構120は、カートリッジ11を回転移動させ、被採血者の指153を置くための指置き部131(図1)の採血窓1311の直下に、穿刺器1111、血算用採血管1121、生化学・免疫用採血管1131、ガーゼ1141、又は絆創膏1151を配置する。
【0031】
垂直方向駆動機構121は、穿刺器1111、血算用採血管1121、生化学・免疫用採血管1131、ガーゼ1141、及び絆創膏1151の、指153の穿刺箇所に対する上下方向の相対位置を変化させる駆動機構である。垂直方向駆動機構121は、押し棒1211を備え、押し棒1211を介して、採血窓1311(図1)の直下に配置された穿刺器1111、血算用採血管1121、生化学・免疫用採血管1131、ガーゼ1141、又は絆創膏1151を、上下方向(z方向)に移動させて指153に近づける又は押し付ける。
【0032】
穿刺器1111は、指153に押し付けられると、指153を穿刺する。血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131は、指153に近づくと、穿刺箇所から出た血液を周囲に飛散させずに収容する。ガーゼ1141は、指153に押し付けられると、余分な血液をふき取る。絆創膏1151は、指153に押し付けられると、穿刺箇所を止血する。
【0033】
駆動機構12の動力源には、外部電源や内蔵電池などによる電気的なエネルギーや、ぜんまいなどによる機械的なエネルギーを使用することができる。機械的なエネルギーを動力源として用いると、電気の供給が難しい地域で採血装置1を使用することができる。
【0034】
圧力調整機構17は、カフ機構130のカフの内圧を計測するためのカフ内圧用圧力センサ171と、カフの内圧を制御するためのカフ用バルブ172とカフ用ポンプ173を備える。圧力調整機構17は、カフの内圧を制御することで、被採血者の指153の締め付け圧を調整することができる。
【0035】
採血装置1は、さらに、制御部16と、入出力部18と、図4に示す採血量計測機構14を備える。採血量計測機構14は、後述するように、光センサアレイ142を備える。
【0036】
制御部16は、コンピュータで構成され、駆動機構12と圧力調整機構17の動作を制御したり、採血管1121、1131に採取された血液の量を導出したりするなど、採血装置1の全体を制御する。
【0037】
入出力部18は、採血装置1の操作者からの指示を制御部16に入力したり、制御部16が得たデータや算出した結果などを表示して出力したりする。また、入出力部18は、採血装置1が備えるカメラの画像を取り込むこともできる。入出力部18は、任意の装置で構成することができ、例えば、採血装置1に接続されたパソコンやタブレットPCなどで構成することができる。
【0038】
採血量計測機構14について、図4A図4B、及び図4Cを用いて説明する。図4A~4Cには、一例として、血算検査用の血液を採取し、血算用採血管1121に採取された血液の量を測定する場合を示している。
【0039】
以下では、血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131を代表して採血管1100と呼ぶこともある。
【0040】
図4Aは、採血量計測機構14の構成を示す図である。採血量計測機構14は、面光源141と、光センサアレイ142を備える。図4Aには、一例として、血算検査用の血液の採取時における、面光源141、血算用採血管1121(採血管1100)、血算用採血管ホルダ112、及び光センサアレイ142の位置関係を示している。血算用採血管1121には、血液1561が採取されている。
【0041】
なお、図3では、光センサアレイ142を示しているが、面光源141を示していない。面光源141は、図4Aに示すように血算用採血管ホルダ112と回転方向駆動機構120の回転軸1201の間に配置されているため、図3ではカートリッジ11の影に隠れている。
【0042】
面光源141と光センサアレイ142は、互いに対向するように配置されている。血算用採血管1121が採血窓1311の直下に移動すると、面光源141と光センサアレイ142の間に血算用採血管1121が配置される。
【0043】
面光源141は、血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131の一方に、面状の光を照射する光源である。面光源141は、面状の光を発する既存の光源で構成することができ、例えば、LEDや電球に拡散板を組み合わせた光源や、COB(Chip On Board)LEDで構成することができる。
【0044】
光センサアレイ142は、複数の光センサを備え、面光源141から血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131に照射された光を計測する。複数の光センサは、上下方向に並んで、すなわち血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131の底部から上部(開口部)に向かう方向に並んで配置されている。光センサアレイ142は、血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131を透過した光の、血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131の底部から上部に向かう方向の強度分布を計測する。光センサアレイ142は、既存の光センサアレイで構成することができ、例えば、フォトダイオードアレイで構成することができる。
【0045】
図4Bは、図4Aの矢印bの方向から見える血算用採血管1121を示す図である。図4Cは、図4Aの矢印cの方向から見える血算用採血管1121を示す図である。矢印bの方向は、光センサアレイ142から血算用採血管1121を見る方向である。矢印cの方向は、面光源141から血算用採血管1121を見る方向である。
【0046】
血算用採血管ホルダ112は、面光源141が存在する方向と光センサアレイ142が存在する方向に血算用採血管1121を露出する窓部を備える。このため、面光源141から発せられた光は、血算用採血管1121を透過し、光センサアレイ142に照射される。
【0047】
面光源141から発せられる光の波長は、血液中の特定の成分の吸光度と空気の吸光度の差が大きくなるような波長であることが好ましい。例えば、血液中の特定の成分が赤血球に含まれるヘモグロビンであれば、面光源141から発せられる光の波長は、300~1,000nmの範囲内であることが好ましい。
【0048】
血算用採血管1121に含まれる血液1561を透過した光は、血液中のヘモグロビンにより大きく減衰する。一方、血算用採血管1121の血液1561を含まない部分を透過した光は、血液1561を透過せず空気を透過するため、ほとんど減衰しない。従って、血算用採血管1121に光を照射し、血算用採血管1121を透過した光の、血算用採血管1121の底部から上部に向かう方向(上下方向)の強度分布(光量分布)を求めることにより、光の強度の変化から血算用採血管1121に含まれている血液1561の量を求めることができる。
【0049】
このため、光センサアレイ142は、血算用採血管1121を透過した光の強度分布として、血算用採血管1121に収容された血液1561を透過した光の強度と、血算用採血管1121の内部の空気層を透過した光の強度とを含む、強度分布を計測する。制御部16は、この強度分布を用いて、血算用採血管1121に採取された血液1561の量を求める。
【0050】
生化学・免疫検査用の血液の採取時には、生化学・免疫用採血管1131が採血窓1311の直下に移動し、面光源141と光センサアレイ142の間に生化学・免疫用採血管1131が配置される。生化学・免疫用採血管1131に含まれている血液量は、血算用採血管1121に含まれている血液1561の量を求める手順と同様の手順で求めることができる。
【0051】
制御部16は、光センサアレイ142の出力値(血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131を透過した光の強度に対応する値)と駆動機構12の動作から、血算用採血管1121又は生化学・免疫用採血管1131に採取した血液量を求めることができる。また、制御部16は、採取した血液量に基づいて採血装置1の動作を制御する(すなわち、採血工程を制御する)ことができる。
【0052】
図5は、採血量計測機構14で血液1561を含む採血管1100を測定したときの、光センサアレイ142の各センサの出力値の例を示す図である。図5において、横軸には、光センサアレイ142が備える光センサの番号(センサ番号)を示し、縦軸には、光センサの出力値(採血管1100を透過した光の強度に対応する値)を示している。
【0053】
光センサアレイ142は、N個の光センサを備え、これらの光センサが上下方向に、すなわち採血管1100の底部から上部へ向かう方向に、並んで配置されている。N個の光センサには、採血管1100の底部から上部へ向かう方向(下から上に向かう方向)に、1からNまでの番号が付けられている。従って、光センサの位置は、センサ番号が増えるにつれて、採血管1100の底部から上部へ向かっていく。
【0054】
本実施例では、採血前の採血管1100に対して計測したときの各光センサの出力値と、採血時の採血管1100に対して計測したときの各光センサの出力値との差分の絶対値を、光センサの出力値としている。
【0055】
上述したように血液1561を透過した光は大きく減衰するので、血液1561を透過した光を計測した光センサの出力値は、空気を透過した光を計測した光センサの出力値に比べて大きい。このため、各センサの出力値をセンサ番号の順に並べると、光センサの出力値の形状は、図5のような凸状になる。なお、センサ番号が1の光センサは、必ずしも採血管1100の最底部を透過した光を計測するわけではなく、採血管1100よりも下方を通った光を計測することもある。
【0056】
図5において、光センサの出力値の最大値をImaxとし、センサ番号を1から増やしていったときに(すなわち、注目する光センサを下から上に向かって変えていったときに)出力値が初めて0より大きくなる光センサの番号をnとし、出力値が最大値の半値(Imax/2)に最も近い光センサの番号をn+jとn+j+kとする。値kは、光センサの出力値の半値幅に相当する。
【0057】
制御部16は、採血管1100が収容している血液量を、各光センサの出力値から換算式y=f(x)を用いて求めることができる。この換算式において、変数xは、採血管1100が収容している血液量を表す。変数yは、採血管1100を透過した光の強度分布から得られた値、すなわち光センサの出力値から得られた値を表す。本実施例では、変数yは、光センサアレイ142が備えるN個の光センサの出力値の合計値ΣI、N個の光センサの出力値の半値幅k、及びN個の光センサの出力値の最大値の半値(Imax/2)に最も近い値を計測した光センサのうち番号が大きい方の光センサの番号(n+j+k)の中で、いずれか1つを表す。以下では、光センサの出力値の合計値ΣIを「合計値ΣI」と呼び、光センサの出力値の半値幅kを「半値幅k」と呼び、半値(Imax/2)に最も近い値を計測した光センサのうち番号が大きい方の光センサの番号(n+j+k)を「半値になるセンサ番号(n+j+k)」と呼ぶ。
【0058】
なお、変数yとして、半値(Imax/2)に最も近い値を計測した光センサのうち番号が小さい方の光センサの番号(n+j+k)を採用してもよい。但し、番号が大きい方の光センサは、番号が小さい方の光センサよりも血液の液面に近い位置を通った光を計測するので、変数yとして、半値(Imax/2)に最も近い値を計測した光センサのうち番号が大きい方の光センサの番号(n+j+k)を採用すると、血液量をより正確に求めることができる可能性がある。
【0059】
関数f(x)での変数xと変数yとの関係、すなわち、採血管1100が収容している血液量xと、採血管1100を透過した光の強度分布から得られた値y(本実施例では、合計値ΣI、半値幅k、又は半値になるセンサ番号(n+j+k))との関係は、実験などで予め求めることで、定めることができる。
【0060】
図6は、採血管1100が収容している血液量xを求める換算式y=f(x)の一例を示す図である。制御部16は、光センサの出力値から変数yの値を得て、換算式y=f(x)を用いて変数yの値から血液量xの値を求める。例えば、制御部16は、図6に示すように、変数yの値がSであると、換算式y=f(x)を用いて、血液量xの値をbと求めることができる。
【0061】
なお、変数yは、合計値ΣIと半値幅kと半値になるセンサ番号(n+j+k)とを組み合わせて得られる値でもよい。例えば、制御部16は、これら3つの値のそれぞれに任意の重みを付けて足し合わせて得られた値を、変数yの値としてもよい。
【0062】
図7は、制御部16が採血量計測機構14を用いて血液量を測定する処理のフローチャートの例を示す図である。図7に示すフローチャートでは、一例として、制御部16は、半値になるセンサ番号(n+j+k)を利用して、採取した血液量を求める。制御部16は、血液量が予め定めた一定値b(例えば400μL)以上になったら次のプロセスを実行し、血液量が値bに到達しない場合は採血と血液量の測定を中止することもある。
【0063】
以下では、図7に示すフローチャートに沿って、血液量を求める手順を説明する。後述するように、採血装置1は、垂直方向駆動機構121により採血管1100を上下方向(z方向)に移動させ、採血管1100と指153との接触と乖離(上下移動)を繰り返すことで、指153から出血した血液を採取する。図7のフローチャートに示すように、採血装置1は、採血管1100への血液の採取中に、採血管1100を透過した光の強度分布を計測し、この強度分布を用いて、採血管1100に収容された血液の量を求める。
【0064】
以下の説明において、採血管1100の上下移動の回数を「上下数i」とし、採血量計測機構14による計測の繰り返し数を「繰り返し数k」とし、i回目の上下移動まででの光センサの出力値の最大値Imaxを「出力値の最大値Imax(i)」とし、i回目の上下移動までで、光センサの出力値の最大値の半値(Imax/2)に最も近い値を計測した光センサのうち番号が大きい方の光センサの番号を「半値になるセンサ番号Nhr(i)」とする。上下数iは、採血数に相当する。
【0065】
図7に示すように、上下数iと繰り返し数kの初期値はゼロであり、出力値の最大値Imax(0)と半値になるセンサ番号Nhr(0)の値はゼロである。採血装置1が採血を開始すると、制御部16は、上下数iを1つ増やす(i=i+1)。
【0066】
(1)計測
制御部16は、採血量計測機構14を動作させる。採血量計測機構14は、採血管1100が上下移動の最下点に位置するときに、採血管1100を透過した光の強度分布を計測する。面光源141は、血液を収容した採血管1100に光を照射する。光センサアレイ142は、採血管1100を透過した光の、採血管1100の底部から上部に向かう方向の強度分布を計測する。採血管1100を透過した光の強度は、光センサアレイ142が備える光センサの出力値に対応する。制御部16は、出力値の最大値Imax(i)と半値になるセンサ番号Nhr(i)を求める。
【0067】
(2)光センサの出力値のチェック
制御部16は、上下数iが1つ増加したときに、出力値の最大値Imax(i)が減っておらず、かつ半値になるセンサ番号Nhr(i)が増加しすぎていないかを調べる。すなわち、制御部16は、上下移動がi回目のImax(i)が、上下移動が(i-1)回目のImax(i-1)以上であり、かつNhr(i)がNhr(i-1)以上で(Nhr(i-1)+A)以下であるかを調べる。Aは、予め任意に定めた整数である。これらの条件を満たさないときは、制御部16は、血液量を正確に求めることができないと判断し、再度、採血管1100を透過した光の強度分布を計測する。血液量を正確に求めることができない場合の例は、指153からの血液が採血管1100の壁面を伝って液だれが生じているときに計測を実施している場合などである。
【0068】
(3)血液量のチェック1
制御部16は、半値になるセンサ番号Nhr(i)が予め定めた一定値a以上(Nhr(i)≧a)になったか否かを調べる。制御部16は、Nhr(i)がa以上になるまでは、採取した血液量を求めず、Nhr(i)がa以上であれば、「(4)血液量のチェック2」に進んで採取した血液量を求める。なお、本実施例では、Nhr(i)=aとなるのは、採取した血液量が300μLのときに対応する。値aと血液量との関係は、実験などで予め求めることができる。
【0069】
(4)血液量のチェック2
制御部16は、光センサアレイ142が計測した強度分布を用いて、採血管1100に収容された血液の量を求める。本実施例では、制御部16は、換算式y=f(x)を用いて、yの値であるNhr(i)の値から採取した血液量xを求める。そして、Nhr(i)が予め定めた一定値b以上(Nhr(i)≧b)であれば、次のプロセスに進む。次のプロセスとは、現在行っている採血プロセスが、血算検査用と生化学・免疫検査用の両方の採血(2本採取プロセス)において血算検査用の採血プロセスであれば、生化学・免疫検査用の採血プロセスであり、生化学・免疫検査用の採血プロセスであれば、止血プロセスである。また、現在行っている採血プロセスが、血算検査用だけの採血プロセス又は生化学・免疫検査用だけの採血プロセス、すなわち1本採取プロセスであれば、止血プロセスである。なお、本実施例では、Nhr(i)=bとなるのは、採取した血液量が400μLのときに対応する。値bと血液量との関係は、実験などで予め求めることができる。
【0070】
(5)エラーチェック
制御部16は、Nhr(i)<a又はNhr(i)<bであって、i回目のセンサ番号Nhrが(i-1)回目のセンサ番号Nhrより増加している場合(Nhr(i)>Nhr(i-1))には、上下数iの増加に伴い採取した血液量が増えているので、繰り返し数kをゼロにリセットして、採血管1100の上下移動を一度実施し(i=i+1)、さらなる採血と計測を実施する。
【0071】
また、制御部16は、Nhr(i)<a又はNhr(i)<bであって、i回目のセンサ番号Nhrが(i-1)回目のセンサ番号Nhrより増加していない場合(Nhr(i)≦Nhr(i-1))には、繰り返し数kを1つ増やす(k=k+1)。そして、制御部16は、繰り返し数kが予め定めた一定値c未満、かつ上下数iが予め定めた一定値d未満(k<cかつi<d)であれば、採血管1100の上下移動を一度実施し(i=i+1)、さらなる採血と計測を実施する。一方、制御部16は、繰り返し数kが一定値c以上、又は上下数iが一定値d以上(k≧c又はi≧dであれば)、採血に不具合が発生したと判断し、採血を中止する。
【0072】
採血の不具合の例としては、c回採血しても被採血者の指153から血液が出ないことや、d回採血しても血液が採血管1100に溜まらないことが挙げられる。このような場合には、制御部16は、血液の採取を中止し、採血を中止したことを入出力部18に表示する。一定値cと一定値dの値は、任意に定めることができ、例えば、c=3、d=30と定めることができる。
【0073】
図8~13を用いて、本実施例による採血装置1を用いた、被採血者の指153からの採血工程を説明する。採血装置1による採血は、(1)動作チェックプロセス、(2)指セットプロセス、(3)穿刺プロセス、(4)採血プロセス、及び(5)止血プロセスの順に実施される。採血装置1の操作は、被採血者以外の者が実施してもよく、被採血者自らが実施してもよい。なお、図8~13において、細線で示したブロックは、操作者の動作を示し、太線で示したブロックは、採血装置1の動作を示す。
【0074】
図8は、(1)動作チェックプロセスのフローチャートを示す図である。以下では、図8に示すフローチャートのうち、主要な処理について説明する。
【0075】
(1)動作チェックプロセス
(a)始めに、操作者が採血装置1の電源をつけると、制御部16は、回転方向駆動機構120(図3)と垂直方向駆動機構121(図3)を動作させ、それぞれの駆動機構の動作を確認する。動作に異常がある場合は、動作を中止する。
【0076】
(b)次に、操作者は、入出力部18を操作して、実施する検査内容を選択する。制御部16は、操作者に選択された検査内容に応じて、使用する採血管1100の条件(例えば、種類や数)と採血管1100に採取する血液の量(採血量)を自動的に定めて入出力部18に表示する(自動設定)。使用する採血管1100の条件と採血量は、検査内容ごとに予め定められており、制御部16に保存されている。また、操作者は、検査内容を選択せず、使用する採血管1100の条件と採血量を入出力部18から制御部16に入力することも可能である(カスタム設定)。
【0077】
(c)操作者は、カートリッジ11をカートリッジホルダ122にセットする。カートリッジ11のセット後、カートリッジ11のチェックに移る。
【0078】
(d)制御部16は、回転方向駆動機構120と垂直方向駆動機構121を動作させ、カートリッジ11(図2)の穿刺器ホルダ111、血算用採血管ホルダ112、生化学・免疫用採血管ホルダ113、ガーゼホルダ114、及び絆創膏ホルダ115が異常なく動作することをチェックする。カートリッジ11の動作に異常が無ければ、被採血者のID入力に移る。
【0079】
(e)操作者は、被採血者のIDを入出力部18から制御部16に入力する。被採血者の採血条件は、被採血者ごとに異なり、採血装置1のメモリに記録されている。制御部16は、被採血者の採血条件を、被採血者のIDに従って採血装置1のメモリから読み出す。採血条件がメモリに記録されていない場合や採血条件を変更する場合には、操作者が採血条件を入出力部18から制御部16に入力する。本実施例での採血条件の例を、以下に示す。
【0080】
(A)採血管の種類
血算用採血管1121、生化学・免疫用採血管1131
(B)穿刺時の条件
穿刺前と穿刺後のカフによる圧迫時間T前刺、T後刺、その際のカフの圧力P
(C)採血時の条件
血算用採血管1121での採血量V
血算用採血管1121での採血時におけるカフの圧迫・解放の繰り返し数N
カフの圧迫前の待機時間T1カフ前、カフの圧迫時間T1カフ中、カフの解放時間T1カフ後、カフの圧力P1カフ圧
生化学・免疫用採血管1131での採血量V
生化学・免疫用採血管1131での採血時におけるカフの圧迫・解放の繰り返し数N
カフの圧迫前の待機時間T2カフ前、カフの圧迫時間T2カフ中、カフの解放時間T2カフ後、カフの圧力P2カフ圧
採血条件の入力が終了したら、動作チェックプロセスが完了し、指セットプロセスに移る。
【0081】
図9は、(2)指セットプロセス、(3)穿刺プロセス、(4)採血プロセス、及び(5)止血プロセスのフローチャートを示す図である。以下では、図9に示すフローチャートのうち、主要な処理について説明する。
【0082】
(2)指セットプロセス
(a)始めに、被採血者は、採血する指153を指置き部131(図1)に置く。操作者と被採血者の少なくとも一方は、指153の指先が正しい位置に置かれているか確認する。なお、採血する指153は、任意の指でよく、例えば、中指、薬指、又は人差し指とすることができる。
【0083】
(b)被採血者が採血する指153を指置き部131に置いたら、指セットプロセスが完了する。指セットプロセスの完了後、操作者は、入出力部18を介して(例えば、開始ボタンを押して)採血の開始を指示する。採血の開始が指示されると、採血装置1は、穿刺プロセスを実施する。
【0084】
(3)穿刺プロセス
(a)始めに、制御部16(図3)は、圧力調整機構17によりカフ機構130のカフの内圧を上げ、採血する指153の指先を圧迫し、指先に血液を集める。なお、指153の第一関節から根本までの範囲を圧迫するより、毛細血管が密集する第一関節から指先までの範囲を圧迫する方がより多くの血液を指先に集めることができる。このため、指153の第一関節から指先までの範囲は、圧迫する部位として適している。
【0085】
(b)カフでの圧迫と並行して、制御部16(図3)は、回転方向駆動機構120によりカートリッジ11を回転させ、採血窓1311の直下に穿刺器1111を移動させる。
【0086】
(c)制御部16(図3)は、カフ機構130による指先の圧迫中に、垂直方向駆動機構121により、穿刺器ホルダ111を指153の指先の方向に押し上げ、穿刺器1111を指153に押し付けることで指先を穿刺する。
【0087】
穿刺プロセスが完了したのち、採血装置1は、採血プロセスを実施する。
【0088】
(4)採血プロセス
採血プロセスは、(1)動作チェックプロセス(図8)で設定した採血管1100の条件によって、血算検査用と生化学・免疫検査用の両方の採血を行う2本採取プロセスと、血算検査用だけ又は生化学・免疫検査用だけの採血を行う1本採取プロセスに分かれる。本実施例では、一例として、2本採取プロセスを実施する場合について、図10図11を用いて説明する。
【0089】
図10は、採血プロセスにおいて、2本採取プロセスで血算検査用の採血を行う処理のフローチャートを示す図である。以下では、図10に示すフローチャートのうち、主要な処理について説明する。
【0090】
(a)制御部16(図3)は、回転方向駆動機構120により、カートリッジ11を回転させ、採血窓1311の直下に血算用採血管1121を移動させる。続いて、垂直方向駆動機構121により、血算用採血管ホルダ112を指153の指先の方向に押し上げ、血算用採血管1121の口を指153に近づける。指先の穿刺箇所から出血した血液は、血算用採血管1121の口に触れると、血算用採血管1121の口の濡れ性により血算用採血管1121に入る。
【0091】
(b)採血量を増大させる効果のある指先の圧迫方法と血算用採血管1121の動作方法について説明する。
【0092】
カフの内圧は、圧迫時には90kPaで、解放時には0kPaであり、5秒の圧迫と2.5秒の解放を含む7.5秒周期で変化する。血算用採血管1121は、5mmの上下移動を7.5秒周期で実施する。なお、ここでの圧力は、大気圧との差圧である。
【0093】
指先の圧迫直後(0秒の時点)では、指先から出血する血液は少ない。カフで指先を圧迫すると指先に血液が集まり、穿刺箇所より出血した血液は、指先に液滴を形成する(2秒の時点)。カフによる圧迫を続けることで、血液の液滴は、さらに大きくなる。
【0094】
カフによる圧迫の終了直前に、血算用採血管1121の口を指先に近づけ、血液の液滴を血算用採血管1121に接触させる(4.5秒の時点)。この接触により、液滴の一部の血液は、血算用採血管1121の底に落ち、一部の血液は、指先と血算用採血管1121の口の間に溜まる。
【0095】
血液の液滴と血算用採血管1121との接触後、カフの内圧を0kPaにして指先を圧迫から解放する。この操作により締め付けられた指153の血管が開くため、血液は、再び指先に流れる。続いて、血算用採血管1121の口を指先から離す。この操作により、指先と血算用採血管1121の口の間に溜まった血液を、血算用採血管1121の口側に切り離すことができる(7秒の時点)。切り離された血液は、重力により、血算用採血管1121の底側に移動する。
【0096】
このようにカフによる圧迫・解放と、指先と血算用採血管1121の相対距離の変動を繰り返し実施して、血算用採血管1121への採血を行う。カフによる圧迫・解放を繰り返すことで、指先からの出血の促進と、指先への血液の補充を繰り返すことができる。
【0097】
また、指先と血算用採血管1121の相対距離を変えない場合には、指先と血算用採血管1121の口の間に溜まった血液内で凝固反応が進み、穿刺箇所からの出血が滞る。しかし、本実施例のように、指先と血算用採血管1121の相対距離を変え、指先と血算用採血管1121の口の間に溜まった血液を一定時間間隔で取り除くことで、穿刺箇所の凝固反応を抑制することができる。
【0098】
本実施例では、カフによる圧迫・解放と、指先と血算用採血管1121の相対距離を変えることを繰り返し実施することで、採血量を増大させる効果を得ることができる。本実施例では、カフによる圧迫・解放を7.5秒の周期で実施し(5秒の圧迫と2.5秒の解放)、血算用採血管1121の上下移動を振幅5mmで7.5秒の周期で実施している。これらの条件は、被採血者の状態によって変更することが好ましい。
【0099】
(c)制御部16は、血算用採血管1121に採取された血液の量を、先述した方法、すなわち換算式y=f(x)を用いた方法で求める。制御部16は、血算用採血管1121に所定の血液量が得られたら(図7の(4)でNhr(i)≧bであれば)、血算用採血管1121への採血を終了し、生化学・免疫用採血管1131への採血に移る。
【0100】
図11は、採血プロセスにおいて、2本採取プロセスで生化学・免疫用の採血を行う処理のフローチャートを示す図である。以下では、図11に示すフローチャートのうち、主要な処理について説明する。
【0101】
(d)制御部16(図3)は、回転方向駆動機構120により、カートリッジ11を回転させ、採血窓1311の直下に生化学・免疫用採血管1131を移動させる。制御部16は、生化学・免疫用採血管1131への採血を、血算用採血管1121への採血と同様に実施する。
【0102】
(e)血算用採血管1121に採取した血液内では、凝固反応が進行する。このため、操作者は、生化学・免疫用採血管1131への採血中に、採血の完了した血算用採血管1121を取り出して転倒混和を行う。転倒混和により、血算用採血管1121の内面に付着している抗凝固剤が血液と混ざり、凝固反応が抑制される。
【0103】
採血装置1は、生化学・免疫用採血管1131への採血が終了したら、止血プロセスを実施する。すなわち、制御部16は、生化学・免疫用採血管1131に所定の血液量が得られたら(図7の(4)でNhr(i)≧bであれば)、生化学・免疫用採血管1131への採血を終了し、止血プロセスに移る。
【0104】
(5)止血プロセス
止血プロセスについて、図9を用いて説明する。
【0105】
(a)制御部16(図3)は、回転方向駆動機構120により、カートリッジ11を回転させ、採血窓1311の直下にガーゼ1141を移動させる。続いて、垂直方向駆動機構121により、ガーゼ1141を指153の指先の方向に押し上げ、ガーゼ1141を指153の指先に接触させ、指先に残った血液をガーゼ1141でふき取る。
【0106】
(b)その後、制御部16は、回転方向駆動機構120により、カートリッジ11を回転させ、採血窓1311の直下に絆創膏1151を移動させる。続いて、垂直方向駆動機構121により、絆創膏1151を指153の指先の方向に押し上げ、絆創膏1151を指153の指先に張りつけ、指先の穿刺箇所を絆創膏1151で覆う。
【0107】
絆創膏1151で穿刺箇所を覆う前にガーゼ1141で指先に残った血液をふき取ることで、絆創膏1151から血液が溢れることを防止し、指先に絆創膏1151を確実に張り付けることができる。
【0108】
(c)制御部16は、被採血者の指先に絆創膏1151を張り付けたら、採血が終了したことを入出力部18に表示する。被採血者は、入出力部18に採血の終了が表示されたら、指153をカフ機構130から外す。その後、操作者は、採血の完了した生化学・免疫用採血管1131を取り出す。
【0109】
本実施例による採血装置1は、上記の採血工程を実施することにより、2本採取プロセスで2本の採血管(血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131)への採血を実施する。
【0110】
本実施例による採血装置1は、1本採取プロセス、すなわち血算用採血管1121への採血だけを実施することも、生化学・免疫用採血管1131への採血だけを実施することもできる。
【0111】
図12は、血算検査用だけの採血を行う1本採取プロセスのフローチャートを示す図である。採血装置1は、図10のフローチャートに示した手順と同様の手順を実施して、血算用採血管1121への採血だけを実施する。血算用採血管1121への採血が終了したら、止血プロセスに移る。
【0112】
図13は、生化学・免疫検査用だけの採血を行う1本採取プロセスのフローチャートを示す図である。採血装置1は、図11のフローチャートに示した手順と同様の手順を実施して、生化学・免疫用採血管1131への採血だけを実施する。穿刺プロセスが完了したら、生化学・免疫用採血管1131への採血プロセスに移る。
【0113】
採血管1100(血算用採血管1121と生化学・免疫用採血管1131)は、例えば採血管1100の大きさが小さいときなどに、アウターチューブと呼ばれる収納容器に収納されていることがある。アウターチューブには、バーコードラベルなどのラベルが貼られていることがある。
【0114】
以下では、バーコードラベルが貼られたアウターチューブに採血管1100が収納されている場合の血液量の測定に好ましい採血量計測機構14の構成について説明する。
【0115】
図14は、採血量計測機構14aの構成を示す図である。採血管1100は、アウターチューブ1125に収納されている。アウターチューブ1125には、バーコードラベル1123が貼られている。採血量計測機構14aは、この採血管1100に採取された血液1561の量を測定するのに好ましい構成を備える。
【0116】
採血量計測機構14aは、図4Aに示した採血量計測機構14と同様に面光源141と光センサアレイ142を備え、さらに、光センサアレイ142の前方にレンズアレイ1421とカラーフィルタ1422を備える。レンズアレイ1421とカラーフィルタ1422は、面光源141と光センサアレイ142の間で、採血窓1311の直下に移動したときの採血管1100と光センサアレイ142の間に位置する。
【0117】
レンズアレイ1421は、レンズアレイ1421の後方側(光センサアレイ142に近い側)の焦点位置に光センサアレイ142の受光面が位置するように設置される。カラーフィルタ1422は、レンズアレイ1421と光センサアレイ142の間に設置される。
【0118】
レンズアレイ1421は、採血管1100を透過し光センサアレイ142が計測する光の、光センサアレイ142への入射角度を制限するための光学素子である。
【0119】
レンズアレイ1421の前方側(採血管1100に近い側)の焦点位置とバーコードラベル1123の面の位置を一致させることで、バーコードラベル1123に投影された血液1561の像1562を光センサアレイ142の受光面に結像することができる。光センサアレイ142の受光面には、バーコードラベル1123のバーコード部分1124も結像される。すなわち、光センサアレイ142の受光面には、血液1561の像の他に、バーコード部分1124の像が結像される。光センサアレイ142の受光面において、血液1561の像がバーコード部分1124の像から受ける影響が大きい場合には、バーコードラベル1123の面の位置をレンズアレイ1421の前方側の焦点位置から離すと、この影響を小さくすることができる。
【0120】
血液量の測定精度の維持とバーコード部分1124の影響の抑制とを両立するには、レンズアレイ1421とバーコードラベル1123の面の距離が、レンズアレイ1421の焦点距離の1倍以上4倍以下の範囲内にあることが好ましい。
【0121】
カラーフィルタ1422は、採血管1100を透過して光センサアレイ142へ入射し、光センサアレイ142が計測する光の波長を制限するための光学素子である。例えば、カラーフィルタ1422は、面光源141から発せられる光だけを光センサアレイ142が計測できるようにする。なお、カラーフィルタ1422は、採血管1100がアウターチューブ1125に収納されていない場合にも、採血量計測機構14、14aに設けることができる。
【0122】
本実施例による採血装置1は、任意の種類の採血管1100に対し、採血管1100に採取された血液の量を容易に測定することができる。すなわち、本実施例による採血装置1は、互いに異なる複数の種類の採血管1100に対応できる。採血管1100は、種類によって大きさ(例えば、長さや太さ)が互いに異なることがあり、収容した血液の液面の位置も種類によって互いに異なることがある。
【0123】
図15Aは、血液1561の液面の位置が高い採血管1100を使用したときの、血液量の測定方法の例を示す図である。図15Bは、血液1561の液面の位置が低い採血管1100を使用したときの、血液量の測定方法の例を示す図である。なお、図15Aと15Bには、一例として、採血量計測機構14a(図14)で血液1561の量を測定する構成を示しているが、以下の方法は、採血量計測機構14(図4A)で血液1561の量を測定する場合にも適用できる。
【0124】
採血管1100の種類によっては、採血管1100に収容された血液1561の位置が採血量計測機構14aの測定領域から外れることがある。この場合には、制御部16(図3)は、垂直方向駆動機構121により、血液1561の位置が採血量計測機構14aの測定領域に含まれるように採血管1100を上下方向(z方向)に移動させ、採血管1100の高さ位置を調整する。垂直方向駆動機構121は、面光源141が採血管1100に光を照射するときに、採血管1100の種類(例えば、採血管1100の長さや太さなどの大きさ)に応じて、採血管1100の高さ位置を変える。
【0125】
図15Aに示す採血管1100は、図15Bに示す採血管1100よりも血液1561の液面の位置が高いので、図15Bに示す採血管1100よりも低い位置で血液1561の量が測定される。
【0126】
本実施例による採血装置1は、以上に説明したような構成を備え、採血管1100に採取した血液1561の量を、高度な画像解析技術を用いることなく、簡便に測定することができる。また、本実施例による採血装置1は、互いに異なる複数の種類の採血管1100に対応できること(図15A、15B)、採取した血液量を採血中に測定すること(図7の(3)と(4))、及び採血量に基づき採血工程を制御すること(図7(4))など、従来の採血装置が備えていない構成と効果を有する。
【0127】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0128】
1…採血装置、11…カートリッジ、12…駆動機構、14…採血量計測機構、14a…採血量計測機構、16…制御部、17…圧力調整機構、18…入出力部、101…カートリッジ用容器、110…カートリッジケース、111…穿刺器ホルダ、112…血算用採血管ホルダ、113…生化学・免疫用採血管ホルダ、114…ガーゼホルダ、115…絆創膏ホルダ、120…回転方向駆動機構、121…垂直方向駆動機構、122…カートリッジホルダ、130…カフ機構、131…指置き部、141…面光源、142…光センサアレイ、153…指、171…カフ内圧用圧力センサ、172…カフ用バルブ、173…カフ用ポンプ、1100…採血管、1111…穿刺器、1112…穿刺器ホルダ用保持穴、1121…血算用採血管、1122…血算用採血管ホルダ用保持穴、1123…バーコードラベル、1124…バーコード部分、1125…アウターチューブ、1131…生化学・免疫用採血管、1132…ガーゼホルダ用保持穴、1141…ガーゼ、1151…絆創膏、1152…絆創膏ホルダ用保持穴、1201…回転軸、1211…押し棒、1311…採血窓、1312…指置き用板部品、1421…レンズアレイ、1422…カラーフィルタ、1561…血液、1562…バーコードラベルに投影された血液の像。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B