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特開2024-131232ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法、分散剤及び懸濁重合用分散剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131232
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法、分散剤及び懸濁重合用分散剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/06 20060101AFI20240920BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F16/06
C08F2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041365
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智也
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J011AA01
4J011JA11
4J011PA27
4J011PA68
4J011PC07
4J100AD02P
4J100AF05Q
4J100AG03P
4J100AG04P
4J100CA01
4J100CA03
4J100DA32
4J100DA65
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100HA09
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】優れた重合安定性及び分散性を両立できるPVA系樹脂及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂であって、ブロックキャラクターが0.45以下であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a1)及び320nmの吸光度(a2)がいずれも0.4以上であり、前記280nmの吸光度(a1)に対する前記320nmの吸光度(a2)の比(a2/a1)が0.75以上である、ポリビニルアルコール系樹脂に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂であって、
ブロックキャラクターが0.45以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a1)及び320nmの吸光度(a2)がいずれも0.4以上であり、
前記280nmの吸光度(a1)に対する前記320nmの吸光度(a2)の比(a2/a1)が0.75以上である、ポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項2】
平均重合度が300~1000である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる分散剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる懸濁重合用分散剤。
【請求項5】
クロトンアルデヒドが存在する条件下で、ビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得る工程を含む、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記重合における初期単量体組成物濃度が50質量%以上である、請求項5に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記クロトンアルデヒドとともに酸素が存在する条件下で前記重合を行う、請求項5又は6に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂に関し、更に詳しくは、ポリ塩化ビニル製造時にビニル系化合物を懸濁重合する際に用いる分散剤として好適なポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法、分散剤及び懸濁重合用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記する場合がある。)は、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体を重合した重合体をケン化することにより得られるものであり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残ったビニルエステル構造単位を有する。さらに、PVA系樹脂は、熱処理することにより、脱水および脱酢酸し、主鎖中に二重結合を有する構造をもつこととなる。かかる構造を有するPVA系樹脂は、ポリ塩化ビニル製造時の懸濁用分散安定剤、保水材等の用途に用いられている。また、PVA系樹脂を用いてなるフィルムや繊維を熱処理することにより強度を向上させることができることも知られている。
【0003】
懸濁重合用分散剤に用いられるPVA系樹脂においては、PVA系樹脂中の二重結合が、塩化ビニルモノマーの懸濁重合時に、塩化ビニルモノマーへの吸着や、それに続くグラフト反応の起点として作用する。そのため、かかる二重結合が多いほど、重合安定性が優れることが一般的に知られている。なかでも、重合安定性を高める観点では、PVA系樹脂中に三連鎖の二重結合が比較的多いことが好ましい。また、分散性を高める観点からは、PVA系樹脂のブロックキャラクターは比較的低いことが好ましい。
【0004】
加えて、PVA系樹脂の生産効率を高める観点からは、ビニルエステル系単量体を重合する際の初期のビニルエステル系単量体濃度を大きくすることが好ましい。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコール系樹脂であって、ブロックキャラクター(A)が0.4未満であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(B)が0.2以上であるポリビニルアルコール系樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2021/145393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のPVA系樹脂では重合安定性及び分散性の両立という観点で未だ不十分な場合があり、重合安定性及び分散性により優れるPVA系樹脂が求められている。また、重合安定性及び分散性により優れるPVA系樹脂を製造でき、かつ、生産効率に優れるPVA系樹脂の製造方法が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、優れた重合安定性及び分散性を両立できるPVA系樹脂、並びに、生産効率に優れ、優れた重合安定性及び分散性を両立できるPVA系樹脂を製造できるPVA系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、クロトンアルデヒドの存在下でビニルエステル系単量体を重合することを含む方法、及び当該方法により得られるPVA系樹脂によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の1~7に関する。
1.ポリビニルアルコール系樹脂であって、
ブロックキャラクターが0.45以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a1)及び320nmの吸光度(a2)がいずれも0.4以上であり、
前記280nmの吸光度(a1)に対する前記320nmの吸光度(a2)の比(a2/a1)が0.75以上である、ポリビニルアルコール系樹脂。
2.平均重合度が300~1000である、前記1に記載のポリビニルアルコール系樹脂。
3.前記1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる分散剤。
4.前記1又は2に記載のポリビニルアルコール系樹脂からなる懸濁重合用分散剤。
5.クロトンアルデヒドが存在する条件下で、ビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得る工程を含む、ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
6.前記重合における初期単量体組成物濃度が50%以上である、前記5に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
7.前記クロトンアルデヒドとともに酸素が存在する条件下で前記重合を行う、前記5又は6に記載のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PVA系樹脂中に三連鎖の二重結合が比較的多く、かつ、ブロックキャラクターが比較的低いことで、懸濁重合用分散剤として用いた場合に懸濁重合物(例えば、ポリ塩化ビニル)の重合安定性に優れ、かつ、分散性にも優れるPVA系樹脂が得られる。また、本発明によれば、クロトンアルデヒドの存在下でビニルエステル系単量体を重合することで、生産効率に優れ、かつ、優れた重合安定性及び分散性を両立できるPVA系樹脂を製造できるPVA系樹脂の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリビニルアルコール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の製造方法について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。本明細書において、重量基準の割合(百分率、部など)は、質量基準の割合(百分率、部など)と同じである。
【0013】
[ポリビニルアルコール系樹脂]
本発明のポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という場合がある。)は、ブロックキャラクターが0.45以下であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a1)及び320nmの吸光度(a2)がいずれも0.4以上であり、前記280nmの吸光度(a1)に対する前記320nmの吸光度(a2)の比(a2/a1)が0.75以上である。
【0014】
本発明のPVA系樹脂は、ブロックキャラクターが0.45以下であり、0.43以下が好ましく、0.40未満がより好ましい。ブロックキャラクターが0.45以下であることで、PVA系樹脂の分散安定能が向上する。ブロックキャラクターの値が大きすぎると、PVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いた場合に、懸濁重合で得られたビニル系樹脂の可塑剤吸収性が低下したり、粒度分布が広くなったりする傾向がある。一方で、重合安定性を損なわない観点から、ブロックキャラクターの値は0.30以上が好ましく、0.35以上がより好ましい。
【0015】
かかるブロックキャラクターは、内部標準物質として3-(トリメチルシリル)-2,2,3,3-d-プロピオン酸ナトリウム塩(3-(trimethylsilyl)propionic-2,2,3,3-d acid sodium salt)を使用する13C-NMR測定において38~49ppmの範囲に見られるメチレン炭素部分に基づく吸収〔(OH,OH)dyadの吸収=43.5~46ppm、(OH,OR)dyadの吸収=41.0~43.5ppm、(OR,OR)dyadの吸収=38~40.5ppm、ただし、Rはアセチル基(CHCO-)を表わす。〕の吸収強度比から求められるもので、下記式より算出される値である。
【0016】
ブロックキャラクター=(OH,OR)/2(OH)(OR)
(ただし、(OH,OR)、(OH)、(OR)は、いずれもモル分率で計算するものとする。また、(OH)は13C-NMRの積分比により算出されるケン化度(モル分率)であり、たとえば脂肪酸ビニルとして酢酸ビニルが使用された場合は、(OR)はその時のアセトキシ基のモル分率を示す。)
ブロックキャラクターは、ポリビニルアルコール系樹脂中の脂肪酸エステル単位の平均連鎖長の程度を示すものであり、値が大きいほど、残存する脂肪酸エステルブロックの平均連鎖長が短いこと(脂肪酸エステル単位のランダム性が高いこと)を示す。ブロックキャラクターおよびその測定方法に関しては、ポバール(発行所:高分子刊行会、1984)およびMacromolecules,10,532(1977)に詳述されている。
【0017】
本発明のPVA系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける280nmの吸光度(a1)は0.40以上であり、好ましくは0.42以上であり、さらに好ましくは0.44以上である。280nmでの吸収は、PVA系樹脂中の-CO-(CH=CH)2-の構造、すなわち二連鎖の二重結合に帰属する。かかる吸光度(a1)の値が上記の下限値以上であることで、PVA系樹脂の二重結合量が十分なものとなりやすく、PVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いる場合の重合安定性が向上する。上限は特に限定されないが、製造可能性の観点から1.00程度である。前記吸光度(a1)の値が小さすぎると、PVA系樹脂内における二重結合の生成が少ないため、PVA系樹脂を各種分散剤として用いた際に、界面活性能が低下する傾向がある。また、前記吸光度(a1)の値が大きすぎると、PVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いた場合に、得られるポリ塩化ビニル等の平均粒径が小さくなりすぎて、取り扱い性が悪くなる場合がある。
【0018】
本発明のPVA系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)は0.40以上であり、好ましくは0.42以上であり、さらに好ましくは0.44以上である。320nmでの吸収は、PVA系樹脂中の-CO-(CH=CH)3-の構造、すなわち三連鎖の二重結合に帰属する。かかる吸光度(a2)の値が上記の下限値以上であることで、PVA系樹脂の二重結合量が十分なものとなり、PVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いる場合の重合安定性が向上する。上限は特に限定されないが、製造可能性の観点から1.5程度である。前記吸光度(a2)の値が小さすぎると、PVA系樹脂内における二重結合の生成が少ないため、PVA系樹脂を各種分散剤として用いた際に、界面活性能が低下する傾向がある。また、前記吸光度(a2)の値が大きすぎると、PVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いた場合に、得られるポリ塩化ビニル等の平均粒径が小さくなりすぎて、取り扱い性が悪くなる場合がある。
【0019】
280nmの吸光度(a1)及び320nmの吸光度(a2)は、いずれも上記好適範囲内にあることがより好ましい。これにより、280nmの吸光度(a1)はビニル系モノマーへの物理的吸着に、320nmの吸光度(a2)はポリビニル系樹脂への化学的吸着に寄与できる。
【0020】
280nmの吸光度(a1)に対する320nmの吸光度(a2)の比(a2/a1)は、0.75以上であり、0.80以上が好ましく、0.90以上がより好ましい。(a2/a1)が比較的大きいことは、PVA系樹脂に占める二重結合のうち、三連鎖の二重結合の含有割合が比較的多いことを意味する。これにより、化学的吸着が優位となるため、懸濁重合用分散剤として用いる場合の重合安定性により優れるPVA系樹脂が得られる。すなわち、三連鎖の二重結合を有するPVA系樹脂であれば、塩化ビニルに化学架橋できるため、これにより分散安定性を付与できる。よって(a2/a1)が大きい程、分散安定性に寄与できるPVA系樹脂の比率が高くなると言える。(a2/a1)は大きい程好ましいが、製造可能性の観点から、例えば1.5以下であってもよい。
【0021】
PVA系樹脂を0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける各波長の吸光度は、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光株式会社製「V-560」(商品名))を用いて、PVA系樹脂の0.1質量%水溶液の吸光度を測定することで得られる値である。なお、吸光度は光路長1cmの試料容器(セル)を用いて、測定する。
【0022】
一般的に、PVA系樹脂は、ビニルエステル系単量体の単独重合体、またはビニルエステル系単量体と他の単量体との共重合体(以降、これらを「ビニルエステル系重合体」と称することがある。)を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる樹脂である。
【0023】
本発明のPVA系樹脂のケン化度は、60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは65~98モル%、より好ましくは67~90モル%、さらに好ましくは69~88モル%、特に好ましくは70~82モル%である。本発明のPVA系樹脂は、分子中に水酸基(親水性)の他に酢酸基(疎水基)が存在するため、界面活性能を有し、分散媒に対して均一に分散できる。ケン化度が低すぎると水分散性が低下する傾向があるため、ケン化度は60モル%以上であることが好ましい。なおケン化度は、JIS K 6726:1994に準拠して測定される値である。
【0024】
本発明のPVA系樹脂の平均重合度は、300~1000であることが好ましく、より好ましくは400~1000であり、特に好ましくは500~1000である。平均重合度が低すぎると、界面活性能が低くなる傾向があり、塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いる場合、懸濁重合時に凝集を起こしやすくなる。反対に平均重合度が高すぎると、PVA系樹脂水溶液の粘度が上昇し、ハンドリング性が低下しやすい。なお、平均重合度はJIS K 6726:1994に準拠して測定することができる。
【0025】
製造時に、例えば樹脂中の二重結合量を十分なものとするために熱処理されたPVA系樹脂は黄変が起こりやすく、かかるPVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として用いた場合に得られる塩化ビニル等の樹脂の色相が悪くなる場合がある。一方で、本発明のPVA系樹脂を得る場合、熱処理を経なくとも二重結合の含有量を比較的大きくできるため、本発明のPVA系樹脂はYI値が比較的小さくなりやすく、黄変抑制に優れる。
【0026】
[ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法]
本発明のPVA系樹脂の製造方法は、クロトンアルデヒドが存在する条件下で、ビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得る工程を含む。
【0027】
本発明者らは、クロトンアルデヒドが存在する条件下でビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合した場合に、優れた重合安定性を有するPVA系樹脂、すなわち、二重結合量の生成量が多く、なかでも三連鎖の二重結合量が比較的多いPVA系樹脂が得られることを見出した。そして、本製造方法によれば、重合初期のビニルエステル系単量体濃度(単量体組成物濃度)も比較的高くでき、生産性に優れることが分かった。さらに、樹脂中の二重結合量を十分なものとするためにPVA系樹脂を熱処理した場合、ブロックキャラクターの値が大きくなりやすいものの、本製造方法によれば、熱処理を経なくても二重結合量の生成量を多くできるため、ブロックキャラクターの値を比較的小さくできることも分かった。このような効果が得られる理由としては、ポリビニルエステルのラジカル(例えば、ポリ酢酸ビニルラジカル)は酸素と反応することで二重結合を生成しており、クロトンアルデヒドが介在することで反応効率が上がるためと考えられる。
【0028】
以下、本製造方法の一例をより具体的に説明する。
出発原料である単量体組成物はビニルエステル系単量体を含む。ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルおよびその他の直鎖または分岐状の飽和脂肪酸ビニルエステル等が挙げられる。実用的観点から、ビニルエステル系単量体としては酢酸ビニルを使用することが好ましく、例えば、酢酸ビニルを単独で、または酢酸ビニルと酢酸ビニル以外の脂肪酸ビニルエステル化合物と組み合わせて使用することが好ましい。
【0029】
ビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合するに当たっては、クロトンアルデヒドが存在する条件下で重合を行うことを除いて特に制限はなく公知の重合方法が任意に用いられる。例えば、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、バルク重合、乳化重合、懸濁重合も可能である。かかる溶液重合においてビニルエステル系単量体の仕込み方法は、分割仕込み、一括仕込み等任意の手段を用いてよい。重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合触媒を用いて行われる。また、重合反応温度は40℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0030】
単量体組成物の重合は、クロトンアルデヒドが存在する条件下で行う。なお、クロトンアルデヒドはシス体とトランス体が存在するが、いずれを使用してもよい。安定ラジカル形成の観点からは、トランス体を含むことが好ましい。クロトンアルデヒドは、重合において連鎖移動剤として機能し得る。
【0031】
クロトンアルデヒドの添加量は、目的とするPVA系樹脂の重合度等にもよるが、特に限定されず任意の量添加することができる。クロトンアルデヒドの添加量は、通常、ビニルエステル系単量体に対して0.1~10.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~8.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.6質量%であり、特に好ましくは0.1~0.4質量%である。また、クロトンアルデヒドの仕込み方法は、初期の一括仕込みでもよく、また重合反応時に仕込んでもよい。クロトンアルデヒドを任意の方法で仕込むことにより、PVA系樹脂の分子量分布のコントロールを行うことができる。
【0032】
なお、単量体組成物の重合において、クロトンアルデヒドの他にさらに連鎖移動剤を併用してもよい。かかる連鎖移動剤として、アルコール類としては、例えば、エタノール、メタノール、1-プロパノール等が挙げられ、アルデヒド類には、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられ、ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも重合後の構造が最終生成物と類似する点で、アルコール類及び/またはアルデヒド類を用いることが好ましく、特にはメタノール、アセトアルデヒドが好ましい。
【0033】
連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数や目的とするPVA系樹脂の重合度等により多少異なるが、任意の量添加することができる。クロトンアルデヒド以外に連鎖移動剤を併用する場合の、クロトンアルデヒドと連鎖移動剤の合計の添加量は、通常、ビニルエステル系単量体に対して0.1~200質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~150質量%であり、さらに好ましくは1.0~130質量%であり、特に好ましくは1.3~100質量%である。
【0034】
かかるビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得る工程は、酸素を含む条件下で行うことが好ましい。すなわち、本製造方法において、クロトンアルデヒドとともに酸素が存在する条件下で単量体組成物の重合を行うことが好ましい。酸素を含む条件下で重合を行う方法として、具体的には、酸素を含む気体を導入しながら、または、重合前に導入しておいて、ビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得ることが好ましく、酸素を含む気体を導入しながらビニルエステル系単量体を含む単量体組成物を重合してビニルエステル系重合体を得ることがより好ましい。酸素を含む気体の導入方法は特に限定されないが、例えば吹き込み(バブリング)による導入が好ましい。酸素を含む気体を導入しながら、または、重合前に導入しておいて、重合を行うことで、熱処理を経なくても二重結合の含有量が比較的大きいPVA系樹脂を得やすい。この理由は、PVA系樹脂の重合成長末端と酸素が反応することにより、アルデヒド基を形成し、次いで脱酢酸反応による二重結合導入が起こるためと考えられる。
【0035】
酸素を含む気体の導入方法は任意に選択できるが、酸素濃度が1質量%~9質量%になるように窒素、アルゴン、又はヘリウムのような不活性ガスで薄めた気体を導入するのが好ましい。酸素濃度が1質量%未満であると反応場に十分量の酸素が導入されず、目的のホルミル末端をもつPVAを得るのが困難となりやすい。また9質量%超となると酢酸ビニルの爆発限界酸素濃度(9~10質量%)に達する、又はそれを超えるため、安全上の懸念が生じやすい。
【0036】
酸素を含む気体の反応系への導入方法は任意に選択できるが、重合液に直接バブリングした重合液を用いて重合を行う、または、重合液に直接バブリングしながら重合を行なう方法が反応系内と酸素の接触面積を大きく出来るため、導入効率が良い。
【0037】
導入する酸素の量は任意に選択できるが、モノマー量に対しての1分あたりの酸素の供給量は25mL以下が好ましい。25mLを超えると生産性の点で好ましくない。また、0.1mL以下となると反応効率が悪くなりやすいため、酸素の供給量は0.1mL以上が好ましい。酸素を含む気体を重合前に導入しておく場合は、製造設備の大きさや気体の流量にもよるが、酸素を含む気体の導入時間は0時間~3時間が好ましく、15分~1時間がより好ましい。
【0038】
単量体組成物の重合における初期単量体組成物濃度は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。ここで、本明細書における初期単量体組成物濃度(質量%)とは、単量体組成物重量/全仕込重量で定義できる。
本発明の製造方法においては、クロトンアルデヒドを含む条件下で重合を行うことで、初期単量体組成物濃度を比較的高いものとでき、生産効率に優れる。
【0039】
単量体組成物としては、ビニルエステル系単量体を単独で用いてもよいが、必要であればビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体と組み合わせてもよい。すなわち、本発明のPVA系樹脂はビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体とを共重合させたビニルエステル系重合体を用いて得られる変性PVA系樹脂であってもよい。ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のビニル基とエポキシ基を有する単量体;トリアリルオキシエチレン、ジアリルマレアート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン、ジアリルフタレート、等のアリル基を2個以上有する単量体;酢酸アリル、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル等のアリルエステル系単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルクロトナート等のアセトアセトキシアルキルクロトナート;2-シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(アルキル部分がC1~C10アルキル基であり、好ましくはC1~C6アルキル基である。);(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;エチレンスルホン酸等のオレフィン系単量体;ブタジエン-1,3、2-メチルブタジエン、1,3又は2,3-ジメチルブタジエン-1,3、2-クロロブタジエン-1,3等のジエン系単量体;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、グリセリンモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類、およびそのアシル化物等の誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類、その塩又はモノ若しくはジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩等の化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシラン;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ-(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン;γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ-(メタ)アクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートが挙げられる。
ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートの具体的な例としては、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等が挙げられる。また、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物等が挙げられる。これらの単量体は、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0040】
なお、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アリル」、「(メタ)アクリロ」についても同様である。
【0041】
ビニルエステル系単量体と重合可能な単量体の含有量は、単量体組成物中、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0042】
ケン化は公知の方法で行うことができ、通常、ビニルエステル系重合体をアルコールおよびエステルに溶解させ、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で行われる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数1~6のアルコールが挙げられる。エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数3~8のエステルが挙げられる。ケン化時に使用するアルコールとエステルは、任意の組み合わせで使用することができるが、生産性の観点からメタノール及び酢酸メチルを用いることが好ましい。
【0043】
アルコール及びエステル中のビニルエステル系重合体の濃度は、溶解率の観点から、1~70質量%の範囲から選ばれることが好ましい。
【0044】
アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。かかる触媒の使用量はビニルエステル系単量体に対して1~100ミリモル当量にすることが好ましく、より好ましくは1~40ミリモル当量、更に好ましくは1~30ミリモル当量である。触媒の使用量が少なすぎると、目的とするケン化度までケン化を進めることが困難となる傾向にあり、また触媒の使用量が多すぎてもケン化の反応性の向上は見られにくいため好ましくない。
【0045】
ケン化を行う際の反応温度は、特に制限はないが、例えば、10~70℃が好ましく、より好ましくは20~50℃の範囲から選ばれる。
【0046】
本発明のPVA系樹脂は、得られたPVA系樹脂を後変性させることにより得られる変性PVA系樹脂であってもよい。後変性により変性PVA系樹脂を製造する方法としては、例えば、PVA系樹脂をアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0047】
上記のように、ケン化で得られたPVA系樹脂は次いで乾燥されるが、かかるケン化により得られたPVA系樹脂には、2~3価の金属の塩及び水酸化物のうちの少なくとも1つを含有してもよい。
【0048】
2~3価の金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。これら金属の塩又は水酸化物の具体例としては、例えば、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸亜鉛、水酸化アルミニウム等が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、水及び/又はメタノール等に溶解して工業的に取り扱い易いという点で酢酸マグネシウム4水和物や酢酸カルシウムが好ましい。
【0049】
2~3価の金属の塩及び/又は水酸化物を含有させる方法は限定されず、例えば、上記の化合物をケン化前のペーストやケン化後のスラリー等に直接添加してもよい。好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、又は水に溶解させて3~15質量%程度の濃度の溶液状で、ケン化後のPVA系樹脂のスラリーに添加し、PVA系樹脂に分配させる方法が挙げられる。
【0050】
上記のようにして得られたPVA系樹脂は、ケン化後に乾燥され、粉末状のPVA系樹脂となる。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、常圧乾燥、熱風乾燥などが挙げられる。かかる乾燥時間は、通常、10分~20時間、好ましくは1時間~15時間であり、乾燥温度は、通常、40~140℃、さらに好ましくは40~120℃、特に好ましくは50℃以上100℃未満である。
【0051】
[用途]
上記のようにして得られた本発明のPVA系樹脂は、様々な用途に好適に使用することができる。本発明のPVA系樹脂の用途としては、例えば、以下が挙げられる。
(1)成形物関係:繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用、水溶性繊維等。
(2)接着剤関係:木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿剤、不織布用バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤、アニオン性塗料の固着剤等。
(3)被覆剤関係:紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙の内添サイズ剤、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上げ剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、導電剤、暫定塗料等。
(4)疎水性樹脂用ブレンド剤関係:疎水性樹脂の帯電防止剤、および親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他成形物用添加剤等。
(5)分散剤関係:感熱発色層用塗工液の顕色剤用分散剤、塗料、墨汁、水性カラー、接着剤等の顔料分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤等。
(6)乳化分散安定剤関係:各種アクリルモノマー、エチレン性不飽和化合物、ブタジエン性化合物の乳化重合用乳化剤、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂等疎水性樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン、ビチューメン等の後乳化剤等。
(7)増粘剤関係:各種水溶液やエマルジョンや石油掘削流体の増粘剤等。
(8)凝集剤関係:水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、パルプ、スラリーの濾水剤等。
(9)交換樹脂等関係:イオン交換樹脂、キレート交換樹脂、イオン交換膜等。
(10)その他:土壌改良剤、感光剤、感光性レジスト樹脂等。
上記の中でも特に、本発明のPVA系樹脂は、酢酸ビニルや塩化ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤に有用であり、特に塩化ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤として有用である。
【0052】
[分散剤]
本発明のPVA系樹脂を分散剤として使用する場合、被分散体としては、例えば、重合性モノマー、粉体などが挙げられる。本発明のPVA系樹脂は、特に重合性モノマーを被分散体とした、懸濁重合用の分散剤として用いることが好ましい。懸濁重合の対象となる重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はその無水物、エチレン、プロピレン、スチレン等が挙げられる。中でも、本発明のPVA系樹脂は、塩化ビニルの単独重合、又は塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能なモノマーとの共重合に好適に用いられる。
【0053】
[懸濁重合用分散剤]
本発明のPVA系樹脂を懸濁重合用分散剤として使用する場合について以下に詳述する。本発明のPVA系樹脂の使用量は懸濁重合させる単量体に応じて適宜調整すればよいが、例えば、塩化ビニル系単量体の懸濁重合に使用する場合は、例えば、塩化ビニル系単量体100質量部に対して5質量部以下で用いることが好ましく、0.01~1質量部がより好ましく、さらに好ましくは0.02~0.2質量部である。かかる使用量が多すぎると分散剤として作用しないPVA系樹脂が増加する傾向がある。
【0054】
懸濁重合する際には、例えば、水又は加熱水媒体に本発明のPVA系樹脂を分散剤として添加し、塩化ビニル系単量体を分散させて油溶性触媒の存在下で重合を行うことが好ましい。
【0055】
PVA系樹脂の添加方法としては、粉末のまま、水、若しくはアルコール、ケトン、エステル等の有機溶媒、若しくはこれらの有機溶媒と水との混合溶媒にPVA系樹脂を溶かした溶液の状態で添加する方法、又は上記の溶媒にPVA系樹脂を分散させた分散液の状態で添加する方法が挙げられる。添加のタイミングとしては、重合の初期に一括添加しても、又重合の途中で分割して添加してもよい。
【0056】
その他添加剤としては、公知の安定剤、例えば高分子物質を併用することも可能である。高分子物質としては、本発明のPVA系樹脂以外のPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、未変性のPVAや、上述の変性PVA系樹脂等を使用できる。
【0057】
重合助剤としては、各種界面活性剤あるいは無機分散剤等が挙げられ、本発明のPVA系樹脂を重合助剤として使用することも可能である。
【0058】
重合触媒は油溶性の触媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、α,α’-アゾビス-2,4-ジメチル-バレロニトリル、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイドあるいはこれらの混合物が使用される。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、「部」、「%」等は質量基準である。
【0060】
(実施例1)
〔本発明のPVA系樹脂(PVA-1)の製造〕
酢酸ビニル100質量部、メタノール10質量部、クロトンアルデヒド0.2質量部を重合缶に仕込み、酸素/窒素(5:95)混合ガスを400ml/分で液相に供給しながら加熱して沸点下で、酢酸ビニルに対して0.2質量%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合缶に仕込み重合を開始し、反応時間約9時間後に重合率45.9質量%に達した時点で重合を停止した。ついで、未重合の酢酸ビニルを除去し、常法によりケン化してPVA系樹脂(平均重合度823、ケン化度71.2モル%)を得た。
【0061】
<ブロックキャラクターの測定>
上述の方法により、PVA系樹脂(PVA-1)のブロックキャラクター(A)の値を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
<紫外線吸収スペクトルの測定>
PVA系樹脂(PVA-1)の0.1%水溶液を作製した。紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製「V-560」(商品名))を用いて、PVA系樹脂の0.1%水溶液の280nmにおける吸光度(a1)、320nmにおける吸光度(a2)を測定した。なお、厚さ1cmの試料容器(セル)を用いた。結果を表1に示す。
さらにPVA系樹脂(PVA-1)の0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
〔PVA系樹脂(PVA-2)の製造〕
酢酸ビニル100質量部、メタノール100質量部を重合缶に仕込み、酸素/窒素(5:95)混合ガスを120ml/分で液相に供給しながら加熱して沸点下で、酢酸ビニルに対して0.4質量%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合缶に仕込み重合を開始し、反応時間約7時間後に重合率73.2質量%に達した時点で重合を停止した。ついで、未重合の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体の酢酸メチル/メタノール(1:4)溶液(10質量%溶液)に、重合体酢酸ビニルユニット1モルに対して、17ミリモルの水酸化ナトリウムをメタノール溶液で加え、35℃で2時間かけて、常法によりケン化してPVA系樹脂(平均重合度590、ケン化度71.8モル%)を得た。(PVA-2)について、実施例1と同様に、0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
〔PVA系樹脂(PVA-3)の製造〕
酢酸ビニル100質量部、アセトアルデヒド2.0質量部、メタノール4.9質量部を重合缶に仕込み、酸素/窒素(5:95)混合ガスを120ml/分で液相に供給しながら加熱して沸点下で、酢酸ビニルに対して0.01質量%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合缶に仕込み重合を開始し、反応時間約11.5時間後に重合率61.9質量%に達した時点で重合を停止した。
ついで、未重合の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体の酢酸メチル/メタノール(1:2)溶液(40質量%溶液)に、重合体希釈液に対して100質量部の流動パラフィンを加えた。重合体酢酸ビニルユニット1モルに対して、28ミリモルの水酸化ナトリウムをメタノール溶液で加え、30℃で14分かけて、ケン化してPVA系樹脂(平均重合度760、ケン化度75.8モル%)を得た。(PVA-3)について、実施例1と同様に、0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
〔PVA系樹脂(PVA-4)の製造〕
酢酸ビニル100質量部、アセトアルデヒド1.2質量部、メタノール4.7質量部および酢酸ビニルに対して0.0092質量%のアセチルパーオキサイド(APO)を重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して沸点下で重合を開始し、反応時間約5.7時間後に重合率91.8質量%に達した時点で重合を停止した。ついで、未重合の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体のメタノール溶液(40質量%溶液)に、重合体酢酸ビニルユニット1モルに対して、7.4ミリモルの水酸化ナトリウムをメタノール溶液で加え、35℃で2時間かけて、常法によりケン化して樹脂分12質量%のPVA系樹脂のスラリーを調製した。つぎに上記で調製したPVA系樹脂に金属化合物として酢酸マグネシウム4水和物の10質量%メタノール溶液をPVA系樹脂1kgに対して350gの割合で添加し、25℃で1時間撹拌後ヌッチェで振り切り/乾燥を行なって酢酸マグネシウム1.25モル%含有したPVA系樹脂を得た。
さらに、得られた樹脂に対して140℃で6時間熱処理を行ない、ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度770、ケン化度71.7モル%)を得た。得られたPVA系樹脂(PVA-4)について、実施例1と同様に、0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。なお、ここでの熱処理は三連鎖の二重結合の生成に特に寄与していると考えられる。
【0066】
(比較例4)
〔PVA系樹脂(PVA-5)の製造〕
熱処理の温度を110℃とした以外はPVA-4と同じ方法でPVA系樹脂(平均重合度600、ケン化度72.4モル%)を得た。
得られたPVA系樹脂(PVA-5)について、実施例1と同様に、0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例5)
〔PVA系樹脂(PVA-6)の製造〕
熱処理を行わなかった以外はPVA-4と同じ方法でPVA系樹脂(平均重合度600、ケン化度72.4モル%)を得た。
得られたPVA系樹脂(PVA-6)について、実施例1と同様に、0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nmの吸光度(a2)に対する280nmの吸光度(a1)の比(a1/a2)を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例6)
〔PVA系樹脂(PVA-1)の製造〕
酢酸ビニル100質量部、メタノール10質量部を重合缶に仕込み、酸素/窒素(5:95)混合ガスを80ml/分で液相に供給しながら加熱して沸点下で、酢酸ビニルに対して0.02質量%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を重合缶に仕込み重合を開始し、反応時間約9時間後に重合率54.9質量%に達した時点で重合を停止した。ついで、未重合の酢酸ビニルを除去し、常法によりケン化して完全鹸化PVA系樹脂を粘度測定により平均重合度を計測したところ、平均重合度は2,902と大きい値であったため部分ケン化品の作製は行わなかった。
【0069】
各例におけるPVA系樹脂の種類及びその物性を表1に示す。なお、本実施例においては、重合の初期ビニルエステル系単量体濃度(初期単量体組成物濃度)として初期酢酸ビニル濃度を評価した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果より、実施例1のPVA系樹脂は、比較例1のPVA系樹脂に比べて、初期酢酸ビニル率を高くすることが可能となった。
また、実施例1のPVA系樹脂は、比較例2、4、5のPVA系樹脂に比べ、二重結合量を示す0.1質量%水溶液としたときの紫外線吸収スペクトルにおける320nm/280nmの吸光度の値の比が大きく、より多くの三連鎖二重結合をもつPVA系樹脂が得られた。
さらに、実施例1のPVA系樹脂は、比較例3のPVA系樹脂に比べて、ブロックキャラクターの値が小さいことから、分散性に優れたPVA系樹脂が得られたと推測される。
表1の比較例3、4、5のPVA樹脂より、熱処理強度に比例して二重結合量は増大し、ブロックキャラクターの値も増した。一方、実施例1のPVA系樹脂は高い二重結合量を有しているにもかかわらず、ブロックキャラクターの値は小さく、分散性に優れたPVA系樹脂を効率的に得られた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のPVA系樹脂は、PVA系樹脂中に三連鎖の二重結合が比較的多く、かつ、ブロックキャラクターが比較的低いことで、懸濁重合用分散剤として用いた場合に懸濁重合物(例えば、ポリ塩化ビニル)の重合安定性に優れ、かつ、分散性にも優れる。また、本発明のPVA系樹脂の製造方法によれば、生産効率に優れ、かつ、優れた重合安定性及び分散性を両立できるPVA系樹脂を製造できるPVA系樹脂の製造方法を提供できる。