(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131253
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】有機電界発光素子、有機EL表示装置、および有機EL照明
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20240920BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20240920BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240920BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240920BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240920BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20240920BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20240920BHJP
H10K 101/10 20230101ALN20240920BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240920BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K85/30
H10K85/60
H10K59/10
G09F9/30 365
C09K11/06 660
H10K101:30
H10K101:10
H10K101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041402
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】保科 誠
(72)【発明者】
【氏名】長山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岡部 一毅
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC22
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD64
3K107DD66
3K107DD67
3K107DD68
3K107FF19
3K107FF20
5C094AA05
5C094AA07
5C094AA31
5C094BA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極2、陰極7、発光層5、及び正孔注入層3を有する有機電界発光素子8であって、発光層は、陽極及び陰極の間に設けられ、正孔注入層は、陽極及び発光層の間に設けられ、発光層は、発光化合物、及び有機金属化合物を含有し、発光化合物は下記関係式(E-1)を満たし、有機金属化合物が下記式(101)で表される有機電界発光素子。
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV・・・式(E-1)
T1B:発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:発光化合物の一重項エネルギー準位(eV)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する有機電界発光素子であって、
前記発光層は、前記陽極及び前記陰極の間に設けられ、
前記正孔注入層は、前記陽極及び前記発光層の間に設けられ、
前記発光層は、発光化合物、及び有機金属化合物を含有し、
前記発光化合物は下記関係式(E-1)を満たし、
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
前記有機金属化合物が、下記式(101)で表される化合物である、有機電界発光素子。
【化1】
[式(101)中、Irはイリジウム原子を表す。
yは0~10の整数を表す。
式(101)で表される化合物が有してもよい置換基の種類は、それぞれ独立に、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)
2、-CN、-NO
2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)
2、-S(=O)R’、-S(=O)
2R’、-OS(=O)
2R’、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐アルコキシ基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基であり、これらの基は1つ以上の水素原子以外のR’で置換されていてもよい。
R’はそれぞれ独立に、D、F、-CN、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基である。]
【請求項2】
前記発光化合物および前記有機金属化合物が、下記関係式(E-2)を満たす、請求項1に記載の有機電界発光素子。
T1A≧T1B 式(E-2)
(式(E-2)中、
T1A:前記有機金属化合物の三重項エネルギー準位(eV)
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
【請求項3】
前記発光化合物が、下記式(1)で表される多環複素環化合物である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化2】
[式(1)中、
環a、環b及び環cは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
Yは、それぞれ独立して、O、N-R又はSであり、
前記Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基又はアルキル基であり、
前記Rは、前記環a、前記環b及び前記環cからなる群から選択される少なくとも1つの環における、前記Yと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-R
a)
2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記R
aは、水素原子又はアルキル基であり、
前記隣接する炭素原子は、B及び前記Yを含有する式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素原子ではない。
式(1)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。
環dは、B、Y、及び、環aと環bを構成する原子の一部で構成される環であり、環eは、B、Y、及び、環aと環cを構成する原子の一部で構成される環である。]
【請求項4】
前記式(1)で表される多環複素環化合物が、下記式(21)で表される多環複素環化合物である、請求項3に記載の有機電界発光素子。
【化3】
[式(21)中、
環a、環b、環c、環d及び環eは、前記式(1)において定義したものと同様であり、
環f及び環gは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
環fは、環a及び環bの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-R
a)
2-又は単結合によって結合していてもよく、
環gは、環a及び環cの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-R
a)
2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記R
aは、水素原子又はアルキル基であり、
ただし、前記隣接する炭素原子は、B及びNを含む環d及び環eを構成する炭素原子ではなく、
式(21)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。]
【請求項5】
前記式(1)で表される多環複素環化合物が、下記式(71)で表される多環複素環化合物である、請求項3に記載の有機電界発光素子。
【化4】
[式(71)において、
A
1~A
7は、各々独立に、水素原子;フッ素原子;置換基を有していてもよいアルキル基;電子アクセプター性のヘテロアリール基;ニトロ基;シアノ基;又は、電子アクセプター性のヘテロアリール基、ニトロ基、若しくはシアノ基を置換基として有する芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、
R
71~R
78は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、電子ドナー性の置換基、又はこれらの組み合わせであり、
式(71)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよく、
点線は、単結合又は結合なしを意味する。]
【請求項6】
前記有機金属化合物は、三重項エネルギー準位T1Aが、2.10eV以上2.80eV以下である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記発光層が、さらにホスト材料を含む、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を備える、有機EL表示装置又は有機EL照明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を用いたものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子(OLED)は、通常、陽極と陰極の間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した材料が開発されつつあり、発光色も赤、緑、青と、それぞれに開発が進んでいる。
【0003】
また、有機電界発光素子の有機層の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法(塗布法)が挙げられる。真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。一方で、湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、様々な機能をもった複数の材料を混合した塗布液を用いることにより、容易に、様々な機能をもった複数の材料を含有する層を形成できる等の利点がある。そのため、近年では塗布法での製膜による有機電界発光素子の研究開発が精力的に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、ポリスチレンスルホン酸を含有する正孔注入層と、ホウ素と窒素を含む多環複素環化合物骨格を有する発光材料を含有する発光層とを有する有機電界発光素子が記載されている。
また、有機電界発光素子において生成する励起子の75%を占める三重項励起状態を活用するための研究開発が行われている。例えば、非特許文献1には、有機電界発光素子の発光効率を高くする手段として、真空蒸着法で形成された発光層に、多環複素環化合物骨格を有する発光材料の他に、発光をアシストする材料として燐光材料であるイリジウムを中心金属とする有機金属化合物を含有させることが報告されている。
【0005】
さらに、特許文献4、5には、多環複素環化合物骨格を有する発光材料及び有機金属化合物を含有する発光層について、有機金属化合物の分子量、両化合物の三重項エネルギー準位の関係、発光化合物の一重項エネルギー準位と三重項エネルギー準位の関係に、それぞれ特徴を有する組成を用いることで発光特性の改善がみられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/152418号
【特許文献2】国際公開第2019/198699号
【特許文献3】国際公開第2019/235452号
【特許文献4】特開2021-163964号公報
【特許文献5】特願2022-103028号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Angewandte Chemie International Edition,2022年,61巻,14号,e202117181頁Angewandte Chemie International Edition,2022年,61巻,14号,e202117181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、ホウ素を含む多環複素環化合物はホウ素上に空のp軌道を有しており、様々な反応基と反応しやすい。そのため、特許文献1~3に開示された技術では、有機電界発光素子の駆動電圧の低減が不十分であり、また、駆動寿命を向上させることができなかった。特許文献1~3に開示された技術では、強酸性のポリスチレンスルホン酸を含有する正孔注入層を用いているので、正孔注入層形成時に取り込まれた水分やスルホン酸基がホウ素を含む多環複素環化合物と素子駆動中に反応していることが原因と考えられる。また、非特許文献1に開示された技術では、ホスト材料を含めると3種類以上の材料の蒸着速度比を一定に保つ必要があり、安定した性能を得ることが難しかった。
特許文献4~5に開示された技術により、一定の発光特性改善がみられているが、ディスプレイの高精細化や高輝度化を背景に、今般、より一層の長寿命が求められている。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、発光化合物及び有機金属化合物を含有し、発光化合物の一重項エネルギー準位と三重項エネルギー準位が一定の関係を満たし、有機金属化合物に特定の構造を有する材料を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、次のとおりである。
本発明の態様1は、
陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する有機電界発光素子であって、
前記発光層は、前記陽極及び前記陰極の間に設けられ、
前記正孔注入層は、前記陽極及び前記発光層の間に設けられ、
前記発光層は、発光化合物、及び有機金属化合物を含有し、
前記発光化合物は下記関係式(E-1)を満たし、
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
前記有機金属化合物が、下記式(101)で表される化合物である、有機電界発光素子である。
【0012】
【0013】
[式(101)中、Irはイリジウム原子を表す。
yは0~10の整数を表す。
式(101)で表される化合物が有してもよい置換基の種類は、それぞれ独立に、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)2、-CN、-NO2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)2、-S(=O)R’、-S(=O)2R’、-OS(=O)2R’、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐アルコキシ基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基であり、これらの基は1つ以上の水素原子以外のR’で置換されていてもよい。
R’はそれぞれ独立に、D、F、-CN、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基である。]
【0014】
本発明の態様2は、態様1の有機電界発光素子において、
前記発光化合物および前記有機金属化合物が、下記関係式(E-2)を満たす、有機電界発光素子である。
T1A≧T1B 式(E-2)
(式(E-2)中、
T1A:前記有機金属化合物の三重項エネルギー準位(eV)
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
【0015】
本発明の態様3は、態様1または態様2の有機電界発光素子において、
前記発光化合物が、下記式(1)で表される多環複素環化合物である、有機電界発光素子である。
【0016】
【0017】
[式(1)中、
環a、環b及び環cは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
Yは、それぞれ独立して、O、N-R又はSであり、
前記Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基又はアルキル基であり、
前記Rは、前記環a、前記環b及び前記環cからなる群から選択される少なくとも1つの環における、前記Yと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記Raは、水素原子又はアルキル基であり、
前記隣接する炭素原子は、B及び前記Yを含有する式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素原子ではない。
式(1)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。
環dは、B、Y、及び、環aと環bを構成する原子の一部で構成される環であり、環eは、B、Y、及び、環aと環cを構成する原子の一部で構成される環である。]
【0018】
本発明の態様4は、態様3の有機電界発光素子において、
前記式(1)で表される多環複素環化合物が、下記式(21)で表される多環複素環化合物である、有機電界発光素子である。
【0019】
【0020】
[式(21)中、
環a、環b、環c、環d及び環eは、前記式(1)において定義したものと同様であり、
環f及び環gは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
環fは、環a及び環bの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
環gは、環a及び環cの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記Raは、水素原子又はアルキル基であり、
ただし、前記隣接する炭素原子は、B及びNを含む環d及び環eを構成する炭素原子ではなく、
式(21)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。]
【0021】
本発明の態様5は、態様3の有機電界発光素子において、
前記式(1)で表される多環複素環化合物が、下記式(71)で表される多環複素環化合物である、有機電界発光素子である。
【0022】
【0023】
[式(71)において、
A1~A7は、各々独立に、水素原子;フッ素原子;置換基を有していてもよいアルキル基;電子アクセプター性のヘテロアリール基;ニトロ基;シアノ基;又は、電子アクセプター性のヘテロアリール基、ニトロ基、若しくはシアノ基を置換基として有する芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、
R71~R78は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、電子ドナー性の置換基、又はこれらの組み合わせであり、
式(71)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよく、
点線は、単結合又は結合なしを意味する。]
【0024】
本発明の態様6は、態様1から態様5のいずれか一つの有機電界発光素子において、
前記有機金属化合物は、三重項エネルギー準位T1Aが、2.10eV以上2.80eV以下である、有機電界発光素子である。
【0025】
本発明の態様7は、態様1から態様6のいずれか一つの有機電界発光素子において、
前記発光層が、さらにホスト材料を含む、有機電界発光素子である。
【0026】
本発明の態様8は、態様1から態様7のいずれか一つの有機電界発光素子を備える、有機EL表示装置又は有機EL照明である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の有機電界発光素子は、優れた素子特性を示し、特に駆動寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の一実施形態である有機電界発光素子、該有機電界発光素子を備える有機EL表示装置及び該有機電界発光素子を備える有機EL照明の実施態様を詳細に説明する。以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)である第一の実施形態であるが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0030】
本発明の第1実施形態に係る有機電界発光素子は、陽極、陰極、発光層、及び正孔注入層を有する有機電界発光素子であって、
前記発光層は、前記陽極及び前記陰極の間に設けられ、
前記正孔注入層は、前記陽極及び前記発光層の間に設けられ、
前記発光層は、発光化合物、及び有機金属化合物を含有し
前記発光化合物は下記関係式(E-1)を満たし、
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
前記有機金属化合物が、下記式(101)で表される。
【0031】
【0032】
[式(101)中、Irはイリジウム原子を表す。
yは0~10の整数を表す。式(101)が有してもよい置換基の種類は、それぞれ独立に、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)2、-CN、-NO2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)2、-S(=O)R’、-S(=O)2R’、-OS(=O)2R’、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐アルコキシ基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基であり、これらの基は1つ以上の水素原子以外のR’で置換されていてもよい。
R’はそれぞれ独立に、D、F、-CN、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基である。]
【0033】
本発明に係る有機電界発光素子が、駆動寿命が長い理由は、以下のように推定される。
本発明の有機電界発光素子は発光層に有機金属化合物、発光化合物を有する。窒素原子などヘテロ原子を多く含む式(1)で表される発光化合物は、励起状態や電子還元状態になった場合、ヘテロ原子を含む結合の反結合性軌道に電子が入るために該結合が切断され分解することが生じ得る。そのため、発光層において該発光化合物に電子や正孔を注入させるか、該化合物上で電荷の再結合を起こさせる状態で有機電界発光素子を駆動させると、その寿命が短くなる。
そこで、該発光化合物と同時に有機金属化合物を共存させ、該有機金属化合物に発光層中における電荷の輸送や電荷の再結合を起こさせる役割を担わせることが行われる。該発光化合物は該有機金属化合物上で生成した励起状態のエネルギーを受け取るのみで、電荷の授受には関与しないように設計することにより、素子の駆動寿命を長くすることができる。該有機金属化合物としては、2-フェニルピリジン骨格などを有するシクロメタル化イリジウム錯体化合物が好ましく使用される。しかし、このようなイリジウム錯体化合物は通常、イオン化ポテンシャルおよび電子親和力がともに小さいという特徴がある。すなわち、(電気的に中性状態の)該イリジウム錯体化合物は発光層内において、正孔を受容し輸送する能力には優れていても、電子は比較的受容しにくい。このため、発光化合物を発光層に共存させると、発光化合物が電子を受容してしまう割合が多くなる。特に、発光層における電子輸送層近傍では、正孔よりも電子が過剰に存在するためにこの割合は著しく多くなる。これを防ぐために、イリジウム錯体化合物の構造と、置換基の種類を適切に制御し、該錯体化合物の正孔輸送性を強めることにより、発光層における電子輸送層近傍にまで正孔を輸送させ、この領域においても電子を、正に荷電した該イリジウム錯体化合物に中和させることにより、発光化合物が電子により分解される割合を減少させ、結果として素子を長寿命化させることができると考えた。鋭意検討を重ねた結果、式(101)で表される化合物が上に述べた考察に良く適合し、素子の駆動寿命を長寿命化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
<発光層>
本発明の発光化合物は、下記関係式(E-1)を満たす化合物である。
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
【0035】
上記式(E-1)を満たすことにより、前記発光化合物の励起三重項エネルギーは効率よく励起一重項へ内部変換され、前記発光化合物が高い効率で発光する。
式(E-1)におけるΔESTは0.30eV以下であり、好ましくは0.25eV以下、さらに好ましくは0.20eV以下である。ΔESTの下限値には特に制限がないが、通常0.01eV以上である。
【0036】
本発明において、前記発光化合物および前記有機金属化合物は、下記関係式(E-2)を満たすことが好ましい。
T1A≧T1B 式(E-2)
(式(E-2)中、
T1A:前記有機金属化合物の三重項エネルギー準位(eV)
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV))
【0037】
上記式(E-2)を満たすことにより、前記有機金属化合物は発光層中で生成した励起三重項のエネルギーを効率よく前記発光化合物へと受け渡し、前記発光化合物が高い効率で発光する。
【0038】
T1Aは、好ましくは1.90eV以上、より好ましくは2.00eV以上、さらに好ましくは2.10eV以上であり、好ましくは3.00eV以下、より好ましくは2.80eV以下、さらに好ましくは2.70eV以下である。T1Aをこの範囲にすることにより、有機金属化合物の励起状態が高エネルギー過ぎないことで有機金属化合物の分解が抑制され、また低エネルギー過ぎないことで有機金属化合物の励起状態が速やかに発光化合物へと受け渡されるため、より高性能な素子が得られると考えられる。
なお、上記のT1A、T1B及びS1Bは、以下の方法によって求めることができる。
S1B、並びにT1A及びT1Bは、それぞれ蛍光スペクトル、燐光スペクトルの測定から求めることができる。蛍光スペクトル、燐光スペクトルは分光光度計を用いて測定することができ、たとえば日立ハイテクサイエンス製の分光蛍光光度計F-7000を用いて測定することができる。測定する際は化合物を適当な有機溶媒に10-6~10-5M程度の濃度で溶解させた溶液を試料として用いる。蛍光スペクトルは室温で測定する。燐光は液体窒素で77Kに冷却して測定する。
【0039】
<発光化合物>
本発明の発光化合物は、下記関係式(E-1)を満たす化合物である。
ΔEST=S1B-T1B≦0.30eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
【0040】
<多環複素環化合物>
本発明において、発光化合物としては、式(1)で表される多環複素環化合物が好ましい。
【0041】
【0042】
(式(1)中、
環a、環b及び環cは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
Yは、それぞれ独立して、O、N-R又はSであり、
前記Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基又はアルキル基であり、
前記Rは、前記環a、前記環b及び前記環cからなる群から選択される少なくとも1つの環における、前記Yと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記Raは、水素原子又はアルキル基であり、
前記隣接する炭素原子は、B及び前記Yを含有する式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素原子ではない。
式(1)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。
環dは、B、Y、及び、環aと環bを構成する原子の一部で構成される環であり、環eは、B、Y、及び、環aと環cを構成する原子の一部で構成される環である。)
【0043】
(環a、環b、環c、環d及び環e)
環a、環b及び環cは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環である。
環dは、B、Y、及び、環aと環bを構成する原子の一部で構成される環であり、環eは、B、Y、及び、環aと環cを構成する原子の一部で構成される環である。
【0044】
環a、環b及び環cの芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が有していてもよい置換基は、好ましくは、下記置換基群αから選択される基である。
【0045】
(中央縮合2環構造)
本発明においては、環d及び環eからなる縮合2環構造を便宜的に「中央縮合2環構造」と称す場合がある。
上記環a、環b及び環cにおける芳香族炭化水素環又は芳香族複素環は、B及びYから構成される式(1)の中央縮合2環構造と結合を共有する5員環又は6員環を有することが好ましく、B及びYから構成される式(1)の中央縮合2環構造と結合を共有する6員環を有することがより好ましい。中央縮合2環構造としてさらに好ましくは、環dが、B、Y、環aを構成する原子2個、及び環bを構成する原子2個からなる6員環であり、環eが、B、Y、環aを構成する原子2個、及び環cを構成する原子2個からなる6員環である縮合2環構造である。
【0046】
また、「中央縮合2環構造と結合を共有する6員環」が存在する場合とは、例えば環aがベンゼン環(6員環)である場合を意味する。「(環aである)芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が6員環を有する」とは、この6員環だけで環aが形成されるか、又は、この6員環を含むようにこの6員環にさらに他の環などが縮合して環aが形成されることを意味する。「環b」、「環c」、及び「5員環」についても同様の説明が当てはまる。
【0047】
式(1)の環a、環b及び環cにおける芳香族炭化水素環としては、例えば、炭素数6~30の芳香族炭化水素環が挙げられ、炭素数6~16の芳香族炭化水素環が好ましく、炭素数6~12の芳香族炭化水素環がより好ましく、炭素数6~10の芳香族炭化水素環が特に好ましい。
【0048】
具体的な芳香族炭化水素環としては、単環系であるベンゼン環、二環系であるビフェニル環、縮合二環系であるナフタレン環、三環系であるテルフェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)、縮合三環系である、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環が好ましく、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、ターフェニル環、フルオレン環がさらに好ましく、ベンゼン環が最も好ましい。
【0049】
式(1)の環a、環b及び環cにおける芳香族複素環としては、例えば、炭素数2~30の芳香族複素環が挙げられ、炭素数2~25の芳香族複素環が好ましく、炭素数2~20の芳香族複素環がより好ましく、炭素数2~15の芳香族複素環がさらに好ましく、炭素数2~10の芳香族複素環が特に好ましい。また、「芳香族複素環」としては、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄及び窒素から選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有する複素環が好ましい。
【0050】
具体的な芳香族複素環としては、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環が好ましい。
【0051】
(置換基群α)
置換基群αは、置換又は無置換の芳香族炭化水素基、置換又は無置換の芳香族複素環基、置換又は無置換のジアリールアミノ基、置換又は無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換又は無置換のアリールヘテロアリールアミノ基(芳香族炭化水素基と芳香族複素環基を有するアミノ基)、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、又はハロゲン原子である。
【0052】
ハロゲン原子以外の置換基群αから選択される基が有していてもよい置換基は、下記置換基群βから選択される。
【0053】
置換基群αにおける芳香族炭化水素基又はアリール構造としては、例えば、環a、環b及び環cにおける芳香族炭化水素環の基が挙げられる。当該芳香族炭化水素環の具体的な構造及び好ましい構造は、式(1)の環a、環b及び環cにおける芳香族炭化水素環と同様である。置換基群αにおける芳香族炭化水素基として好ましくはベンゼン環である。
【0054】
置換基群αにおける芳香族複素環基又はヘテロアリール構造としては、例えば、環a、環b及び環cにおける芳香族複素環の基が挙げられる。当該芳香族複素環の具体的な構造は、式(1)の環a、環b及び環cにおける芳香族複素環と同様である。置換基群αにおける芳香族複素環基として好ましくは、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ピリミド[5,4-d]ピリミジン環、又はベンゾ[1,2-d:4,5-d]ジイミダゾール環である。
【0055】
置換基群αにおけるアルキル基としては、直鎖及び分枝鎖のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキル基又は炭素数3~24の分枝鎖アルキル基が挙げられる。炭素数1~18のアルキル基(炭素数3~18の分枝鎖アルキル基)が好ましく、炭素数1~12のアルキル基(炭素数3~12の分枝鎖アルキル基)がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基(炭素数3~6の分枝鎖アルキル基)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルキル基(炭素数3~4の分枝鎖アルキル基)が特に好ましい。
【0056】
具体的なアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、n-オクチル基、tert-オクチル基などが挙げられる。
置換基群αにおけるアルキル基の水素原子の一部はフッ素原子に置き換わってもよい。
【0057】
置換基群αにおけるアルコキシ基としては、例えば、炭素数1~24の直鎖又は炭素数3~24の分枝鎖のアルコキシ基が挙げられる。炭素数1~18のアルコキシ基(炭素数3~18の分枝鎖のアルコキシ基)が好ましく、炭素数1~12のアルコキシ基(炭素数3~12の分枝鎖のアルコキシ基)がより好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基(炭素数3~6の分枝鎖のアルコキシ基)がさらに好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基(炭素数3~4の分枝鎖のアルコキシ基)が特に好ましい。
【0058】
具体的なアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
【0059】
置換基群αにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。フッ素原子と塩素原子が好ましく、その中でもフッ素原子がさらに好ましい。
【0060】
(置換基群β)
置換基群βは、アラルキル基で置換されていてもよい芳香族炭化水素基、アラルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基、アルキル基又はハロゲン原子である。置換基群βにおける芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子としては、例えば、置換基群αと同様のものが挙げられ、好ましい構造も置換基群αと同様である。
【0061】
置換基群βは、安定性及び溶解度向上の観点から、アラルキル基で置換されていてもよい芳香族炭化水素基、アラルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基、アルキル基、又はアラルキル基が好ましい。
【0062】
置換基群βにおける、アラルキル基、芳香族炭化水素基に置換してもよいアラルキル基、芳香族複素環基に置換してもよいアラルキル基としては、炭素数7~30のアラルキル基が好ましく、ベンゼン環がアルキル基に結合した構造が好ましい。
【0063】
置換基群βにおける、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0064】
(Y)
式(1)におけるYは、それぞれ独立して、O、N-R又はSである。
【0065】
(R)
Rは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基又はアルキル基である。
また、式(1)中の2個のYは互いに同一であってもよく、異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。2つのYは、N-Rであることが好ましい。
【0066】
式(1)のRが置換基を有してよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有してよい芳香族複素環基である場合、式(1)の環a、環b及び環cにおける置換基を有してよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有してよい芳香族複素環基と同様の基である。具体的な構造及び好ましい構造も、式(1)の環a、環b及び環cにおける置換基を有してよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有してよい芳香族複素環基と同様である。式(1)のRが置換基を有してよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有してよい芳香族複素環基である場合、前記式(1)は下記式(21)で表される。
前記式(1)で表される多環複素環化合物は、下記式(21)で表される多環複素環化合物が好ましい。
【0067】
式(1)のRにおけるアルキル基としては、例えば、置換基群αにおけるアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、特に炭素数1~4のアルキル基(例えばメチル基、エチル基など)が好ましい。
【0068】
Rは、前記環a、前記環b及び前記環cからなる群から選択される少なくとも1つの環における、前記Yと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよい。
【0069】
Raは、水素原子又はアルキル基である。
Raにおけるアルキル基としては、例えば、置換基群αにおけるアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、特に炭素数1~4のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基などである。
【0070】
また、上記隣接する炭素原子は、B及び前記Yを含有する式(1)の中央縮合2環構造を構成する炭素原子ではない。
また、式(1)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。
【0071】
(式(21))
【0072】
【0073】
(式(21)中、
環a、環b、環c、環d及び環eは、前記式(1)において定義したものと同様であり、
環f及び環gは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環であり、
環fは、環a及び環bの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
環gは、環a及び環cの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記Raは、水素原子又はアルキル基であり、
ただし、前記隣接する炭素原子は、B及びNを含む環d及び環eを構成する炭素原子ではなく、
式(21)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。)
【0074】
環f及び環gにおける芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基は、a、環b及び環cにおける芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基と同様の範囲から選択することができる。
環f及び環gにおける芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基としては、特に炭素数6~10の芳香族炭化水素環基(例えばフェニル基、ナフチル基など)、炭素数2~15の芳香族複素環基(例えばカルバゾリル基など)が好ましい。
【0075】
芳香族炭化水素環又は芳香族複素環である環f及び環gが有していてもよい置換基は、環a、環b及び環cと同様であり、好ましくは、前記置換基群αから選択される基である。
【0076】
(式(22))
前記式(21)で表される多環複素環化合物は、下記式(22)で表される多環複素環化合物が好ましい。
【0077】
【0078】
式(22)では、
前記式(21)における環a、環b、環c、環f及び環gが全てベンゼン環構造であり、
環a、環b、環c、環f及び環gは置換基を有していてもよく、
環fは、環a及び環bの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
環gは、環a及び環cの少なくとも1つの環において、Nと結合する原子に隣接する炭素原子と、-O-、-S-、-C(-Ra)2-又は単結合によって結合していてもよく、
前記Raは、水素原子又はアルキル基であり、
式(22)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよい。
【0079】
環a、環b、環c、環f及び環gが有していてもよい置換基は、前記式(21)における環a、環b、環c、環f及び環gが有していてもよい置換基と同様であり、具体的な構造及び好ましい構造も同様である。
【0080】
前記式(22)で表される芳香族化合物は、後述の式(71)で表される多環複素環化合物であることが好ましい。
【0081】
また、前記式(1)で表される芳香族化合物は、後述の式(71)で表される多環複素環化合物であることが好ましい。
【0082】
(式(1)で表される多環複素環化合物の具体例)
式(1)で表される多環複素環化合物の構造は特に限定されないが、例えば以下のような構造が挙げられる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
<多環複素環化合物TD1>
式(1)で表される多環複素環化合物は、下記式(71)で表される多環複素環化合物であることが好ましい。本発明においては、下記式(71)で表される多環複素環化合物を多環複素環化合物TD1と称することがある。
【0088】
【0089】
(式(71)において、
A1~A7は、各々独立に、水素原子;フッ素原子;置換基を有していてもよいアルキル基;電子アクセプター性のヘテロアリール基;ニトロ基;シアノ基;又は、電子アクセプター性のヘテロアリール基、ニトロ基、若しくはシアノ基を置換基として有する芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基であり、
R71~R78は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、電子ドナー性の置換基、又はこれらの組み合わせであり、
式(71)で表される多環複素環化合物における少なくとも1つの水素原子は、ハロゲン原子又は重水素で置換されていてもよく、
点線は、単結合又は結合なしを意味する。)
【0090】
式(71)で表される多環複素環化合物においては、A1~A7がフェニル基に結合する位置に、LUMOの電子雲が局在化して集まる。そのため、A1~A7から選択される少なくとも一つを後述する電子アクセプター性の置換基とすることで、電子雲が広がり、LUMOのエネルギー準位が安定化して、HOMOとLUMOのエネルギー差が小さくなる。その結果、式(71)で表される多環複素環化合物を用いることで、長波長化した発光スペクトルを得ることができる。
【0091】
また、式(71)で表される多環複素環化合物においては、R71~R78に、HOMOの電子雲が局在化して集まる。そのため、R71~R78から選択される少なくとも一つを後述する電子ドナー性の置換基とすることで、HOMOの電子雲が外側に広がりやすくなり、HOMOのエネルギー準位が不安定化して、HOMOとLUMOのエネルギー差が小さくなる。その結果、式(71)で表される多環複素環化合物は、長波長化した発光スペクトルを得ることができる。
【0092】
本発明において、前記式(E-1)を満たすためには、発光化合物の発光波長が長波長である方が好ましい。そのため、式(71)で表される多環複素環化合物は、A1~A7から選択される少なくとも一つが電子アクセプター性の置換基であること、R71~R78から選択される少なくとも一つが電子ドナー性の置換基であること、又は、A1~A7から選択される少なくとも一つが電子アクセプター性の置換基であり、かつ、R71~R78から選択される少なくとも一つが電子ドナー性の置換基であることにより、長波長化した発光スペクトルを得ることができ、好ましく、A1~A7から選択される少なくとも一つが電子アクセプター性の置換基であることがより好ましい。
【0093】
(置換基)
前記式(71)の多環複素環化合物について以下に詳細説明する。以下の説明において、置換基が置換基群Zから選択される場合、置換基としては置換基群Zに含まれるいずれの置換基を用いてもよい。置換基群Zの中でも好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、又はアラルキル基である。
【0094】
(A1~A7)
A1~A7は、各々独立に、水素原子;フッ素原子;置換基を有していてもよいアルキル基;電子アクセプター性のヘテロアリール基;ニトロ基;シアノ基;又は、電子アクセプター性のヘテロアリール基、ニトロ基、若しくはシアノ基を置換基として有する芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基である。
【0095】
好ましくは、A1~A7から選択される少なくとも一つは、電子アクセプター性の置換基であり、前記電子アクセプター性の置換基以外のA1~A7は、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基である。
【0096】
A1~A7から選択される少なくとも一つが、電子アクセプター性の置換基であると、A1~A7の数や種類によって発光波長を調整することができ、好ましい。
【0097】
(電子アクセプター性の置換基)
本発明において、電子アクセプター性の置換基とは、化学結合して隣り合う化学構造から電子を引き抜いて電子過多になりやすい化学構造の置換基のことである。
【0098】
電子アクセプター性の置換基としては、例えば、電子アクセプター性のヘテロアリール基、ニトロ基、シアノ基等の置換基、又は、これらの内のいずれかの置換基を有する芳香族炭化水素基若しくは芳香族複素環基等を挙げることができる。なかでも、長波長化の観点から、電子アクセプター性のヘテロアリール基が好ましい。
【0099】
ヘテロアリール基は、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選択される少なくとも一つの原子を有するアリール基である。ヘテロアリール基としては、例えば、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含有する、1~4環の多環式芳香族のヘテロアリール類を有する基が挙げられる。
電子アクセプター性のヘテロアリール基とは、化学結合して隣り合う化学構造から電子を引き抜いて電子過多になりやすいヘテロアリール基であり、好ましくは、以下に記す「絶対値α」が3eV以上であるヘテロアリール基である。
【0100】
電子アクセプター性の置換基は、HOMOのエネルギー準位及びLUMOのエネルギー準位を足して2で割った値の絶対値(以下、「絶対値α」と称することがある。)が3eV以上である基であることが好ましい。絶対値αが3eV以上であると、経験的に置換基の電子アクセプター性が向上する。
【0101】
電子アクセプター性の置換基における絶対値αは、3.1eV以上が好ましく、3.5eV以上がより好ましく、4.0eV以上がさらに好ましい。また、電子アクセプター性の置換基における絶対値αの上限は、特に設けていないが、一般的に7.0eV以下である。
【0102】
電子アクセプター性の置換基におけるHOMOのエネルギー準位及びLUMOのエネルギー準位は、以下のようにして得られるHOMOの分子軌道のエネルギー準位及びLUMOの分子軌道のエネルギー準位のことである。すなわち、式(1)中の電子アクセプター性の置換基と、隣り合うフェニル基との間の単結合を削除し、水素原子を付加する。そして、得られた電子アクセプター性の置換基の分子構造を分子軌道計算ソフトGaussian16で、汎関数:B3LYP及び基底関数:6-31G(d)を用いて、密度汎関数による構造最適化計算すればよい。
【0103】
また、電子アクセプター性の置換基は、下記式(71-5)で表される基、下記式(71-6)で表される基、下記式(71-7)で表される基、又は下記式(71-8)で表される基であることが好ましい。
【0104】
【0105】
式(71-5)~(71-8)において、
R732~R745は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である。
【0106】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が1以上であり24以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0107】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が6以上60以下の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環又は2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0108】
R732~R745が有していてもよい置換基は、後述の置換基群Zから選択することができる。
【0109】
上記式(71-5)~(71-8)の具体例としては、例えば、下記式(71-2-1)~(71-2-7)が挙げられる。
【0110】
【0111】
上記式(71-2-1)~(71-2-7)において、計算から得られる絶対値αは以下のとおりである。
【0112】
式(71-2-4)で表される基:4.35eV
式(71-2-6)で表される基:4.18eV
式(71-2-3)で表される基:4.17eV
式(71-2-7)で表される基:4.12eV
式(71-2-5)で表される基:4.10eV
式(71-2-2)で表される基:3.73eV
式(71-2-1)で表される基:3.13eV
【0113】
すなわち、上記式(1)におけるA1~A7のうち、同一の場所に同一の数だけ上記式(71-2-4)で表される基、上記式(71-2-6)で表される基、上記式(71-2-3)で表される基、上記式(71-2-7)で表される基、上記式(71-2-5)で表される基、上記式(71-2-2)で表される基、又は上記式(71-2-1)で表される基を導入した場合、上記式(71-2-4)>上記式(71-2-6)>上記式(71-2-3)>上記式(71-2-7)>上記式(71-2-5)>上記式(71-2-2)>上記式(71-2-1)の順で発光波長の長波長化の効果が得られる。
【0114】
これらの中でも、電子アクセプター性の置換基は、長波長化及び有機合成による製造のしやすさの観点から、上記式(71-5)で表される基であることが好ましい。
【0115】
上記式(71-5)で表される基は、絶対値αが比較的大きく、また、上記式(71)における隣り合うフェニル基と立体障害が少ないため、隣り合うフェニル基と上記式(71-5)で表される基のπ平面の捻じれが少なく、大きな発光波長の長波長化の効果が得られる。また、上記式(71-5)で表される基は、有機合成上で比較的簡便に製造でき、溶媒への溶解性を改善したい場合においても、R732、R733に長鎖(例えば炭素数4以上)のアルキル基を比較的簡単に導入することができる。
【0116】
R732、R733は、絶対値αを大きくして長波長の発光波長を得やすくできることからも、溶媒への溶解性の観点からも、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましい。また、R732及びR733から選択される少なくとも一つが、tert-ブチル基を有するフェニル基であることがより好ましい。
【0117】
また、溶媒への溶解性の観点および、発光波長の挟半値幅化の観点から、R732及びR733から選択される一方が置換基を有していてもよいアルキル基であり、もう一方が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基が好ましい。芳香族炭化水素基が有してよい置換基は置換基群Zから選択することが出来る。
【0118】
また、電子アクセプター性の置換基以外のA1~A7は、各々独立に、水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基である。
【0119】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が1以上であり24以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0120】
A1~A7が有していてもよい置換基は、後述の置換基群Zから選択することができる。
【0121】
なお、A1~A7が、各々独立に、フッ素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基である場合、それらの電子供受性により、A1~A7が水素原子である場合に比べて発光波長は少し短波長化又は長波長化するので、目的の波長に合わせて置換基を選ぶことが好ましい。
【0122】
また、湿式成膜法が用いられる場合、A1~A7は、各々独立に、溶媒への溶解性を改善する目的で、長鎖のアルキル基であることが好ましい。
【0123】
A1~A7のうち、LUMOの電子雲が局在化する程度は一様ではなく、位置によって強弱がある。そのため、A1~A7のうち、電子アクセプター性の置換基による長波長化の効果が強く得られる位置は、A4>A1=A7>A3=A5>A2=A6の順である。
すなわち、A4において、電子アクセプター性の置換基による長波長化の効果が最も強く現れる。
【0124】
よって、A1、A4、及びA7から選択される少なくとも一つが、電子アクセプター性の置換基であることが好ましく、式(71-5)で表される基であることがより好ましい。
【0125】
A1及びA7の両方が電子アクセプター性の置換基である場合、A4のみが同一の電子アクセプター性の置換基である場合と比べ、ほぼ同程度の長波長化の効果が得られる。
また、A1~A7から選択される2つ以上が電子アクセプター性の置換基であることがより長波長化するため好ましく、A1~A7から選択される2つ以上が電子アクセプター性の置換基であり、かつ、少なくとも1つはA4が電子アクセプター性の置換基であることがさらに長波長化するため好ましい。
【0126】
なお、式(71)においては、A1~A7と隣り合うフェニル基を結ぶ単結合が捻じれ、隣り合うフェニル基と電子アクセプター性の置換基の主な芳香族炭化水素基のπ平面が捻じれないようにすることが好ましい。この捻じれによって、隣り合うフェニル基と電子アクセプター性の置換基の電荷のやり取りが円滑に行われにくく、上記式(71)の発光波長が長波長化されにくくなるからである。
【0127】
(R71~R78)
R71~R78は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、電子ドナー性の置換基、又はこれらの組み合わせである。
【0128】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が1以上であり24以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0129】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が6以上60以下の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環又は2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0130】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上60以下の芳香族複素環基が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の、5又は6員環の単環又は2~4縮合環の一価の基が挙げられる。
【0131】
R71~R78が有していてもよい置換基は、後述の置換基群Zから選択することができる。
【0132】
また、R71~R78から選択される少なくとも一つは、電子ドナー性の置換基であることが長波長化の観点から好ましい。
(電子ドナー性の置換基)
【0133】
本発明において、電子ドナー性の置換基とは、化学結合して隣り合う化学構造から電子を供与して電子欠乏になりやすい化学構造の置換基のことである。
【0134】
式(71)で表される多環複素環化合物においては、R71~R78に、HOMOの電子雲が局在化して集まる。そのため、R71~R78から選択される少なくとも一つを電子ドナー性の置換基とすることで、HOMOの電子雲が外側に広がりやすくなり、HOMOのエネルギー準位が不安定化して、HOMOとLUMOのエネルギー差が小さくなる。その結果、式(71)で表される多環複素環化合物は、長波長化した発光スペクトルを得ることができる。
【0135】
電子ドナー性の置換基は、絶対値αが3eV未満である基であることが好ましい。絶対値αが3eV未満であると、経験的に置換基の電子ドナー性が向上する。
【0136】
電子ドナー性の置換基における絶対値αは、長波長化の観点から2.97eV未満がより好ましく、2.8eV未満がさらに好ましく、2.6eV未満が特に好ましい。また、電子ドナー性の置換基における絶対値αの下限は、特に設けていないが、一般的に1eV以上である。
【0137】
電子ドナー性の置換基におけるHOMOのエネルギー準位及びLUMOのエネルギー準位は、以下のようにして得られるHOMOの分子軌道のエネルギー準位及びLUMOの分子軌道のエネルギー準位のことである。すなわち、式(1)中の電子ドナー性の置換基と、隣り合うフェニル基との間の単結合を削除し、水素原子を付加する。そして、得られた電子ドナー性の置換基の分子構造を分子軌道計算ソフトGaussian16で、汎関数:B3LYP及び基底関数:6-31G(d)を用いて、密度汎関数による構造最適化計算すればよい。
【0138】
また、電子ドナー性の置換基は、下記式(71-2)で表される基、下記式(71-3)で表される基、又は下記式(71-4)で表される基であることが好ましい。
【0139】
【0140】
式(71-2)~(71-4)において、
R709~R731は、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は水素原子である。
【0141】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が1以上であり24以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基が挙げられる。
【0142】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が6以上60以下の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環又は2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0143】
R709~R731が有していてもよい置換基は、後述の置換基群Zから選択することができる。
【0144】
上記式(71-2)~(71-4)の具体例としては、例えば、下記式(71-4-1)~(71-4-3)が挙げられる。
【0145】
【0146】
上記式(71-4-1)~(71-4-3)において、計算から得られる絶対値αは以下のとおりである。
【0147】
式(71-4-3)で表される基:2.96eV
式(71-4-2)で表される基:2.91eV
式(71-4-1)で表される基:2.46eV
【0148】
すなわち、上記式(71)におけるR71~R78のうち、同一の場所に同一の数だけ上記式(71-4-3)で表される基、上記式(71-4-2)で表される基、又は上記式(71-4-1)で表される基を導入した場合、上記式(71-4-1)>上記式(71-4-2)>上記式(71-4-3)の順で発光波長の長波長化の効果が得られる。
また、R71~R78から選択される2つ以上が電子ドナー性の置換基であることがより長波長化するため好ましい。
【0149】
これらの中でも、電子ドナー性の置換基は、長波長化及び有機合成による製造のしやすさ、構造安定性のバランスの観点から、上記式(71-2)で表される基であることが好ましい。
【0150】
上記式(71-2)で表される基は、絶対値αが比較的小さく、発光波長の長波長化の効果が得られる。また、上記式(71-2)で表される基は、有機合成上で比較的簡便に製造でき、溶媒への溶解性を改善したい場合においても、R709~R716に長鎖のアルキル基を比較的簡単に導入することができる。
【0151】
R709~R716から選択される少なくとも一つは、溶媒への溶解性及び合成の簡便さの観点は、tert-ブチル基が好ましい。
【0152】
なお、R71~R78が、各々独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又はこれらの組み合わせである場合、それらの電子供受性により、R71~R78が水素原子である場合に比べて発光波長は少し短波長化又は長波長化するので、目的の波長に合わせて置換基を選ぶことが好ましい。
【0153】
また、湿式成膜法が用いられる場合、R71~R78は、各々独立に、溶媒への溶解性を改善する目的で、長鎖のアルキル基であることが好ましい。
【0154】
R71~R78のうち、HOMOの電子雲が局在化する程度は一様ではなく、位置によって強弱がある。そのため、R71~R78のうち、電子ドナーの置換基による長波長化の効果が強く得られる位置は、R74=R75>R71=R78>R73=R76>R72=R77の順である。すなわち、R74とR75において、電子ドナーの置換基による長波長化の効果が最も強く現れる。
【0155】
(点線)
式(71)において、点線は、単結合であっても結合なしでもよい。
点線は、単結合であることが好ましい。点線が単結合であると、電子雲が広がり、発光波長が少し長波長化する。また、点線が単結合であると、A1~A7における電子アクセプター性の置換基、及びR71~R78における電子ドナー性の置換基を導入することが容易になる。
【0156】
(多環複素環化合物の対称性)
前記式(71)の多環複素環化合物は、非対称型であることが、発光波長の半値幅を狭くする効果があり好ましい。非対称型で対称性が低下することにより、多環複素環化合物同士が会合しにくくなり、多環複素環化合物同士の相互作用が低下するため、発光スペクトルの半値幅が狭くなると考えられる。
【0157】
多環複素環化合物が非対称型であるとは、前記式(71)において、BとA4の結合軸とを結ぶ線を回転軸としたとき、回転軸に対して180°回転させた場合に同じ構造でないこと、または、結合軸を含んで前記式(71)の化合物の多環複素環で形成される面に垂直な面に対して鏡像対称ではないことである。
【0158】
具体的に好ましくは以下(i)または(ii)の少なくとも一方を満たす構造である。
(i)A1~A7、R71~R78が、その結合軸に対して180°回転させた場合に同じ構造とならない構造。
(ii)A1とA7が異なるか、A2とA6が異なるか、A3とA5が異なるか、R71とR78が異なるか、R72とR77が異なるか、R73とR76が異なるか、又は、R74とR75が異なる、構造。
【0159】
(多環複素環化合物TD1の具体例)
式(71)で表される多環複素環化合物TD1の構造は特に限定されないが、例えば以下のような構造が挙げられる。
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
<置換基群Z>
置換基群Zとしては、次の構造が挙げられる。
置換基群Zは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールアルキルアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アラルキル基、及びヘテロアラルキル基よりなる群である。
これらの置換基の好ましい構造及び具体例としては、以下の通りである。
アルキル基としては、炭素数が通常1以上であり、好ましくは4以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基;例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基、シクロヘキシル基等
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルケニル基;例えば、ビニル基等
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルキニル基;例えば、エチニル基等
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルコキシ基;例えば、メトキシ基、エトキシ基等
(ヘテロ)アリールオキシ基としては、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるアリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基;例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等
アルコキシカルボニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等
ジアルキルアミノ基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等
ジアリールアミノ基としては、炭素数が通常10以上であり、好ましくは12以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等
アリールアルキルアミノ基としては、炭素数が通常7以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;例えば、フェニルメチルアミノ基等
アシル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアシル基;例えば、アセチル基、ベンゾイル基等
ハロゲン原子としては、ハロゲン原子;例えば、フッ素原子、塩素原子等
ハロアルキル基としては、炭素数が通常1以上であり、通常12以下であり、好ましくは6以下であるハロアルキル基;例えば、トリフルオロメチル基等
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルキルチオ基;例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等
アリールチオ基としては、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるアリールチオ基;例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等
シリル基としては、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるシリル基;例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等
シロキシ基としては、炭素数が通常2以上であり、好ましくは3以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるシロキシ基;例えば、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等
シアノ基
芳香族炭化水素基としては、炭素数が通常6以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下である芳香族炭化水素基;例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等
芳香族複素環基としては、炭素数が通常3以上であり、好ましくは4以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下である芳香族複素環基;例えば、チエニル基、ピリジル基等
アラルキル基としては、炭素数が7以上、好ましくは8以上であり、40以下、好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下のアラルキル基;例えば、1,1-ジメチル-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ブチル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-フェニルメチル基、1,1-ジ(n-オクチル)-1-フェニルメチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3-フェニル-1-プロピル基、4-フェニル-1-n-ブチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基、5-フェニル-1-n-プロピル基、6-フェニル-1-n-ヘキシル基、6-ナフチル-1-n-ヘキシル基、7-フェニル-1-n-ヘプチル基、8-フェニル-1-n-オクチル基、4-フェニルシクロヘキシル基等
ヘテロアラルキル基としては、炭素数が2以上、好ましくは4以上であり、40以下、好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下のヘテロアラルキル基;1,1-ジメチル-1-(2-ピリジル)メチル基、1,1-ジ(n-ヘキシル)-1-(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)メチル基、(2-ピリジル)エチル基、3-(2-ピリジル)-1-プロピル基、4-(2-ピリジル)-1-n-ブチル基、1-メチル-1-(2-ピリジル)エチル基、5-(2-ピリジル)-1-n-プロピル基、6-(2-ピリジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2-ピリミジル)-1-n-ヘキシル基、6-(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)-1-n-ヘキシル基、7-(2-ピリジル)-1-n-ヘプチル基、8-(2-ピリジル)-1-n-オクチル基、4-(2-ピリジル)シクロヘキシル基等
【0172】
[有機金属化合物]
本発明において用いられる有機金属化合物は式(101)で表されるイリジウム錯体化合物である。
【0173】
【0174】
[式(101)中、Irはイリジウム原子を表す。
yは0~10の整数を表す。
式(101)で表される有機金属化合物が有してもよい置換基の種類は、それぞれ独立に、D、F、Cl、Br、I、-N(R’)2、-CN、-NO2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)2、-S(=O)R’、-S(=O)2R’、-OS(=O)2R’、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐アルコキシ基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基または炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基であり、これらの基は1つ以上の水素原子以外のR’で置換されていてもよい。
R’はそれぞれ独立に、D、F、-CN、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基である。]
【0175】
<y>
yは0から10の整数である。10より大きいとイリジウム錯体のサイズが大きくなりすぎて、正孔輸送性を担うイリジウム原子近傍とイリジウム錯体分子の表面との距離が大きくなり、該イリジウム錯体の正孔輸送性が損なわれ、結果として素子の発光寿命や駆動寿命を低下させる恐れがある。逆に、この範囲内であれば、<メカニズム>の項で述べたように、イリジウム錯体化合物が過度に遮蔽されることなく電荷の授受や正孔輸送性を発揮することができるため好ましい。従って、好ましいyの範囲は0~8であり、より好ましくは0~7であり、さらに好ましくは1~6である。
【0176】
<フェニレン基の結合様式>
y個が連結されるフェニレン基の結合様式は、それぞれ独立に、オルト位、メタ位、パラ位の3種類あり、特に制限はない。オルト位およびメタ位の結合は屈曲性に富み溶解性を向上させ、加えてπ電子の共役が途切れるためT1準位を高くでき、緑色発光を消光する効果を抑制できる。溶解性の観点からは、立体障害による回転異性体を生じ得るオルト位がさらに好ましく、耐久性の観点からは、メタ位の結合がさらに好ましい。オルト位での結合は、有機EL素子の駆動中に下式のような酸化カップリングによるトリフェニレン構造への変化が起こりうる。このような変化は発光波長の長波長化や正孔輸送性の低下などによる素子の劣化の原因となりうるためである。
【0177】
【0178】
一方、パラ位で連結させると、π電子の共役が長くなるため、とくに酸化状態を安定化することができ、結果として正孔輸送性がさらに向上する。正孔輸送性は主として電子が豊富なイリジウム原子に由来するため、イリジウム原子の電子を複数のパラフェニレン基のπ共役結合により配位子側へより広く分布させることができれば、正孔輸送性の向上が著しい。従って、好ましいフェニレン基の構造は、下式(105)に示すように、フェニルピリジン配位子のフェニル基においてイリジウム原子のパラ位に直結するフェニレン基がパラ位で結合するものである。但し、n1は連続するパラフェニレン基の個数を表し、1以上の整数であり、n2はそのパラフェニレン基の末端にさらに結合する連続するフェニレン基の数を表し、n1+n2=yである。パラフェニレン環の末端にさらに結合する連続するフェニレン基は耐久性の観点からすべてメタフェニレン基であることが好ましい。溶解性の観点からn1の範囲は好ましくは1~3であり、より好ましくは1または2であり、さらに好ましくは1であり、n2の範囲は好ましくは1~8であり、より好ましくは2~7であり、さらに好ましくは3~6である。
【0179】
【0180】
<置換基>
式(101)で表されるイリジウム錯体化合物が有してもよい置換基の種類は下記[置換基群S]から選ばれる。置換基が複数存在する場合は互いに同じであっても異なっていてもよい。但し、非芳香族置換基の場合にはイリジウム錯体化合物を電気的に絶縁する効果があるため、大きすぎるとイリジウム錯体化合物の正孔輸送性を減ずる恐れがある。その効果が現れない程度の炭素数に制限される。
【0181】
[置換基群S]
D、F、Cl、Br、I、-N(R’)2、-CN、-NO2、-OH、-COOR’、-C(=O)R’、-C(=O)NR’、-P(=O)(R’)2、-S(=O)R’、-S(=O)2R’、-OS(=O)2R’、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐アルコキシ基、炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基、炭素数2以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキニル基、炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基、炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基。
該アルキル基、該アルコキシ基、該アルキルチオ基、該アルケニル基、該アルキニル基、該芳香族基、該複素芳香族基、該ジアリールアミノ基、該アリールヘテロアリールアミノ基および該ジヘテロアリールアミノ基は、さらに1つ以上の水素原子以外のR’で置換されていてもよい。
R’については後述する。
【0182】
上記[置換基群S]の各置換基について以下に説明する。
炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロペンチル基などが挙げられる。アルキル基の場合、炭素数が多いとイリジウム錯体を高度に遮蔽してしまい耐久性が損なわれるため、炭素数は1以上が好ましく、また、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0183】
炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブトキシ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、また、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1が最も好ましい。
【0184】
炭素数1以上4以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソプロピルチオ基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は1以上が好ましく、また、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1が最も好ましい。
【0185】
炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ブタジエン基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、また、3以下が好ましく、2が最も好ましい。
【0186】
炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基の例としては、エチニル基、プロピオニル基、ブチニル基などが挙げられる。耐久性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、また、30が好ましく、2が最も好ましい。
【0187】
炭素数10以上40以下のジアリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、フェニル(ナフチル)アミノ基、ジ(ビフェニル)アミノ基、ジ(p-ターフェニル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのジアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、また、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0188】
炭素数10以上40以下のアリールヘテロアリールアミノ基の例としては、フェニル(2-ピリジル)アミノ基、フェニル(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのアリールヘテロアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、また、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0189】
炭素数10以上40以下のジヘテロアリールアミノ基としては、ジ(2-ピリジル)アミノ基、ジ(2,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-4-イル)アミノ基などが挙げられる。溶解性と耐久性のバランスの観点から、これらのジヘテロアリールアミノ基の炭素数は10以上であることが好ましく、また、36以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが最も好ましい。
【0190】
より好ましい置換基の種類としては、特に有機電界発光素子における発光材料としての耐久性を損なわないという観点から、それぞれ独立に、D、F、-CN、または炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基が挙げられ、D、F、-CN、メチル基またはトリフルオロメチル基が特に好ましく、Dであることが最も好ましい。特に、用いられる素子が有機ELディスプレイの緑色発光素子である場合、適切な色度の緑色発光を効率よく発光させるという観点から、式(101)で表されるイリジウム錯体化合物においてイリジウムに直接配位結合するピリジン環には、いずれも置換基が存在しないか、置換基RがいずれもDであることが好ましい。
【0191】
<R’>
上記R’は、それぞれ独立に、D、F、-CN、炭素数1以上5以下の、直鎖、分岐もしくは環状アルキル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルケニル基、炭素数2以上4以下の、直鎖または分岐アルキニル基から選ばれる。
【0192】
<分子量>
式(101)で表される有機金属化合物の分子量の上限には特に制限は無いが、好ましくは10000以下であり、さらに好ましくは5000以下であり、より好ましくは4000以下であり、特に好ましくは3000以下である。また、有機金属化合物の分子量は840以上であり、好ましくは1200以上、より好ましくは1500以上である。この分子量範囲であることによって、有機金属化合物が凝集せず本発明の芳香族化合物及び/又は他の電荷輸送材料と均一に混合し、発光効率の高い発光層を得ることができると考えられる。
【0193】
有機金属化合物の分子量は、Tgや融点、分解温度等が高く、有機金属化合物及び形成された発光層の耐熱性に優れる点、及び、ガス発生、再結晶化及び分子のマイグレーション等に起因する膜質の低下や材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇等が起こり難い点では大きいことが好ましい。一方、有機金属化合物の分子量は、有機化合物の精製が容易である点では小さいことが好ましい。
【0194】
また、前記有機金属化合物の分子量をMwAとし、前記発光化合物の分子量をMwBとした場合、MwA/MwBは好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上である。このMwA/MwBの範囲であることによって、有機金属化合物から発光化合物へのエネルギーが適切に起こり、発光効率の高い発光層を得ることができると考えられる。
【0195】
(有機金属化合物の具体例)
式(101)で表わされる有機金属化合物の具体例を示す。
【0196】
【0197】
[ホスト材料]
発光層はさらに、ホスト材料を含有することが好ましい。ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましく、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。発光層のホスト材料として用いられる電荷輸送材料は、電荷輸送性に優れる骨格を有する材料であり、電子輸送材料、正孔輸送材料及び電子と正孔の両方を輸送可能な両極性材料から選ばれることが好ましい。さらに、本発明において、電荷輸送材料とは電荷の輸送性を調整する材料も含むものとする。
電荷輸送性に優れる骨格としては具体的には、例えば、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p-ビス(2-フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0198】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0199】
これらの内、好ましくは、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン及びそれらの誘導体であり、さらに好ましくは、アントラセン誘導体である。
【0200】
電荷輸送性に優れる骨格としては、具体的には、芳香族構造、芳香族アミン構造、トリアリールアミン構造、ジベンゾフラン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造、フタロシアニン構造、ポルフィリン構造、チオフェン構造、ベンジルフェニル構造、フルオレン構造、キナクリドン構造、トリフェニレン構造、カルバゾール構造、ピレン構造、アントラセン構造、フェナントロリン構造、キノリン構造、ピリジン構造、ピリミジン構造、トリアジン構造、オキサジアゾール構造又はイミダゾール構造等が挙げられる。
【0201】
電子輸送材料としては、電子輸送性に優れた骨格であって、比較的安定な、ピリジン構造、ピリミジン構造、又はトリアジン構造を有する化合物がより好ましく、ピリミジン構造、又はトリアジン構造を有する化合物が更に好ましい。電子輸送材料として特に好ましくは、後述する式(250)で表される化合物である。
【0202】
正孔輸送材料は、正孔輸送性に優れた構造を有する化合物であり、前記電荷輸送性に優れる骨格の中でも、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造が正孔輸送性に優れた構造として好ましく、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造又はトリアリールアミン構造がさらに好ましい。正孔輸送材料として特に好ましくは、後述する式(240)で表される化合物である。
【0203】
電子と正孔の両方を輸送可能な両極性材料としては、電子輸送性に優れた骨格及び正孔輸送性に優れた骨格の両方を有する材料が好ましい。
電荷輸送性を調整する材料としては、ベンゼン環が多数連結した構造を有する化合物である後述の式(260)で表される化合物が好ましい。この化合物をホスト材料として含むことで、発光層内で生成したエキシトンが効率よく再結合して発光効率が高くなると考えられ、また、発光層内の電荷の輸送性が適切に調整されて発光材料の劣化が抑制され、駆動寿命が長くなると考えられる。
【0204】
発光層のホスト材料として用いられる電荷輸送材料は、3環以上の縮合環構造を有する化合物であることが好ましく、3環以上の縮合環構造を2以上有する化合物又は5環以上の縮合環を少なくとも1つ有する化合物であることがさらに好ましい。これらの化合物であることで、分子の剛直性が増し、熱に応答する分子運動の程度を抑制する効果が得られ易くなる。さらに、3環以上の縮合環及び5環以上の縮合環は、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有することが電荷輸送性及び材料の耐久性の点で好ましい。
【0205】
3環以上の縮合環構造としては、具体的には、アントラセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、クリセン構造、ナフタセン構造、トリフェニレン構造、フルオレン構造、ベンゾフルオレン構造、インデノフルオレン構造、インドロフルオレン構造、カルバゾール構造、インデノカルバゾール構造、インドロカルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、ジベンゾチオフェン構造等が挙げられる。
【0206】
3環以上の縮合環構造の中で、電荷輸送性ならびに溶解性の観点から、フェナントレン構造、フルオレン構造、インデノフルオレン構造、カルバゾール構造、インデノカルバゾール構造、インドロカルバゾール構造、ジベンゾフラン構造及びジベンゾチオフェン構造からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、電荷に対する耐久性の観点から、カルバゾール構造又はインドロカルバゾール構造がさらに好ましい。
【0207】
[(A群)、(B群)、(C群)]
ここで、本明細書において、発光層に含まれてよいホスト材料を便宜的に、以下の様に(A群)、(B群)、(C群)と称する。
(A群)電子輸送材料、好ましくは、後述する式(250)で表される化合物
(B群)正孔輸送材料、好ましくは、後述する式(240)で表される化合物
(C群)電荷輸送性を調整する材料、好ましくは、後述する式(260)で表される化合物
【0208】
本発明において、発光層に含むことが出来るホスト材料は、(A群)、(B群)及び(C群)で表される3つの群の中の少なくとも1つの群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことが好ましく、
前記(A群)又は前記(B群)から選択された少なくとも1種の化合物を含むことがさらに好ましく、
前記(A群)、前記(B群)及び前記(C群)で表される3つの群の中の、少なくとも任意の2つの群それぞれから少なくとも1種ずつ選択された少なくとも2種の化合物を含むことがさらに好ましく、
前記(A群)及び前記(B群)で表される2つの群それぞれから選択された少なくとも2種の化合物をとして含むことがさらに好ましく、
前記(A群)、前記(B群)及び前記(C群)で表される3つの群それぞれから少なくとも1種ずつ選択された少なくとも3種の化合物を含むことが特に好ましい。
尚、それぞれの群から選択される化合物は1種であっても2種以上であってもよい。
【0209】
(A群)から選択される化合物は式(250)で表される化合物が好ましく、(B群)から選択される化合物は式(240)で表される化合物が好ましく、(C群)から選択される化合物は式(260)で表される化合物が好ましいため、
発光層に含まれるホスト材料は、式(250)で表される化合物、式(240)で表される化合物及び式(260)で表される化合物の内、少なくとも任意の2つから少なくとも1種ずつ選択された少なくとも2種の化合物を含むことがさらに好ましく、
式(250)で表される化合物及び式(240)で表される化合物からそれぞれ選択された少なくとも2種の化合物を含むことがさらに好ましく、
下記式(250)で表される化合物、下記式(240)で表される化合物及び式(260)で表される化合物それぞれから少なくとも1種ずつ選択された少なくとも3種の化合物を含むことが特に好ましい。
【0210】
本発明の有機電界発光素子は、発光層に、窒素を有する6員複素芳香環とベンゼン環が連結した構造を有する化合物である式(250)で表される化合物をホスト材料として含む場合、発光層内の電荷の輸送性が適切に調整され、低電圧化し、発光効率が向上し、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物の劣化を抑制することができ、駆動寿命が長くなると考えられる。特に式(250)のWが全て窒素原子であるトリアジン構造を有する場合、LUMOが比較的深く、電子輸送性に加えて適度な電子トラップ性を有し、前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物に過剰に電子を供給しないことで発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物の耐久性が向上し、その結果、有機電界発光素子の駆動寿命がより長くなると考えられる。特に、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物のホウ素原子が有する空のp軌道に電子が入り、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物が劣化することを抑制する可能性があると考えられる。
【0211】
また、式(250)で表される化合物は中心に窒素原子を有する芳香族6員環を有するため電子輸送性が高い。従って、ホストとして式(250)で表される化合物を用いる場合は、さらに、別のホスト材料として正孔輸送性の高いホスト材料を用いることで、より低電圧化し、発光効率が向上し、駆動寿命が高くなると考えられる。
【0212】
本発明の有機電界発光素子は、発光層に、カルバゾール環を2つ有する構造を含む化合物である式(240)で表される化合物をホスト材料として含む場合、発光層内の電荷の輸送性が適切に調整され、低電圧化し、発光効率が向上し、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物の劣化を抑制することができ、駆動寿命が長くなると考えられる。陽極側の層から注入された正孔を発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物が直接受け取って酸化状態になると劣化する可能性がある場合は、式(240)で表される化合物は正孔輸送性を有し陽極側の層から正孔を受け取りやすいため、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物が直接酸化されにくく、劣化が抑制されると考えられる。逆に、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物が陰極側から注入された電子を直接受け取って還元状態になると劣化しやすい場合は、式(240)で表される化合物から発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物に速やかに正孔が輸送され、発光材料が再結合発光することで劣化が抑制されると考えられる。
【0213】
式(240)で表される化合物は正孔輸送性に優れ、前記式(101)で表される有機金属化合物への正孔輸送性に優れる。また、式(240)で表される化合物は平面性の高いカルバゾール環構造を2つ有するため、平面性の高い多環複素環化合物である前記式(1)で表される多環複素環化合物への正孔輸送性が向上すると考えられる。このとき、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物への電子供給も速やかに行われることで速やかに再結合発光し、発光材料の劣化も抑制されると考えられる。従って、第1のホストとして式(240)で表される化合物を用いるとともに第2のホスト材料として電子輸送性の高い材料を用いることで、低電圧化し、発光効率が向上し、駆動寿命の長い有機電界発光素子を得ることが出来ると考えられる。電子輸送性の高いホストとしては、式(250)で表される化合物が好ましい。
【0214】
本発明の有機電界発光素子は、発光層に、ベンゼン環が多数連結した構造を有する化合物である式(260)で表される化合物をホスト材料として含む場合、発光層内の電荷の輸送性が適切に調整され、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物の劣化を抑制することができ、駆動寿命が長くなると考えられる。特に、式(260)で表される化合物は電荷輸送性を抑制する効果がある。特に、電子輸送性に優れる式(250)で表される化合物をホストとして用いる場合、式(260)で表される化合物をホスト材料としてさらに加えることで、発光材料である前記式(1)で表される多環複素環化合物又は前記式(101)で表される有機金属化合物が過度に還元されて劣化しない様に発光層内での電子輸送性を抑制され、素子の駆動寿命が長くなると考えられる。
【0215】
<置換基の定義>
ホスト材料が有してよい置換基は、置換基群Z2から選択される。
<置換基群Z2>
置換基群Z2は、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールアルキルアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基よりなる群である。これらの置換基は直鎖、分岐及び環状のいずれの構造を含んでいてもよい。
【0216】
置換基群Z2として、より具体的には、以下の構造が挙げられる。
例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、ドデシル基等の、炭素数が通常1以上であり、好ましくは4以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、より好ましくは8以下であり、さらに好ましくは6以下である、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基;
例えば、メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルコキシ基;
例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下である、アリールオキシ基若しくはヘテロアリールオキシ基;
例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;
例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;
例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等の、炭素数が通常10以上であり、好ましくは12以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;
例えば、フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常7以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;
例えば、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアシル基;
例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
例えば、トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下であり、好ましくは6以下であるハロアルキル基;
例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であるアルキルチオ基;
例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるアリールチオ基;
例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上であり、好ましくは3以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるシリル基;
例えば、トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上であり、好ましくは3以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であるシロキシ基;
シアノ基;
例えば、フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下である芳香族炭化水素基;
例えば、チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上であり、好ましくは4以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下である芳香族複素環基。
【0217】
上記の置換基群Z2の中でも、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、ジアリールアミノ基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基である。電荷輸送性の観点からは、置換基としては芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましく、より好ましくは芳香族炭化水素基であり、置換基を有さないことがさらに好ましい。溶解性向上の観点からは、置換基としてはアルキル基又はアルコキシ基が好ましい。
【0218】
また、上記置換基群Z2の各置換基は更に置換基を有していてもよい。それら置換基としては、上記置換基(置換基群Z2)と同じのものが挙げられる。上記置換基群Z2が有してもよい各置換基は、好ましくは、炭素数8以下のアルキル基、炭素数8以下のアルコキシ基、又はフェニル基、より好ましくは炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、又はフェニル基であり、上記置換基群Z2の各置換基は、電荷輸送性の観点からは、さらなる置換基を有さないことがより好ましい。
【0219】
<式(250)で表される化合物>
【0220】
【0221】
(式(250)中、
Wは、各々独立に、CH又はNを表し、少なくとも一つのWはNであり、
Xa1、Ya1、及びZa1は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~30の二価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい炭素数3~30の二価の芳香族複素環基を表し、
Xa2、Ya2及びZa2は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6~30の一価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい炭素数3~30の一価の芳香族複素環基を表し、
g11、h11、及びj11は各々独立に0~6の整数を表し、
g11、h11、j11の少なくとも一つは1以上の整数であり、
g11が2以上の場合、複数存在するXa1は同一であっても異なっていてもよく、
h11が2以上の場合、複数存在するYa1は同一であっても異なっていてもよく、
g11が2以上の場合、複数存在するZa1は同一であっても異なっていてもよく、
R31は水素原子又は置換基を表し、4個のR31は同一であっても異なっていてもよく、
但し、g11、h11、又はj11が0の場合、それぞれ対応するXa2、Ya2、Za2は水素原子ではない。)
【0222】
上記式(250)で表される化合物は、好ましくは電荷輸送化合物、即ち、電荷輸送ホスト材料であることが好ましい。
【0223】
<W>
前記式(250)におけるWは、CH又はNを表し、そのうちの少なくとも一つはNであるが、電子輸送性及び電子耐久性の観点から、少なくとも2つがNであることが好ましく、全てNであることがより好ましい。
【0224】
<Xa1、Ya1、Za1、Xa2、Ya2、Za2>
前記式(250)における、Xa1、Ya1、Za1が置換基を有していてもよい炭素数6~30の二価の芳香族炭化水素基である場合、及び、Xa2、Ya2、Za2が置換基を有していてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基である場合の、炭素数6~30の芳香族炭化水素基の芳香族炭化水素環としては、6員環の単環、又は2~5縮合環が好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環、インデノフルオレン環等が挙げられる。中でも好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、又はフルオレン環であり、より好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環又はフルオレン環であり、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環又はフルオレン環である。また、g11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Xa1-Xa2、h11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Ya1-Ya2、及びj11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Za1-Za2は、スピロフルオレン構造であってもよい。式(250)で表される化合物は、g11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Xa1-Xa2、h11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Ya1-Ya2、及びj11が2以上である場合の末端の部分構造である、-Za1-Za2の少なくとも一つがスピロフルオレン構造であることが好ましい。
【0225】
前記式(250)における、Xa1、Ya1、Za1が置換基を有していてもよい炭素数3~30の二価の芳香族複素環基である場合、及び、Xa2、Ya2、Za2が置換基を有していてもよい炭素数3~30の芳香族複素環基である場合の、炭素数3~30の芳香族複素環基の芳香族複素環としては、5又は6員環の単環、又は2~5縮合環が好ましい。具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環等が挙げられる。中でも好ましくはチオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、キナゾリン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、インドロカルバゾール環、フェナントロリン環、又はインデノカルバゾール環であり、より好ましくはピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、キナゾリン環、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、インデノカルバゾール環、ジベンゾフラン環又はジベンゾチオフェン環であり、さらに好ましくはカルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジベンゾフラン環又はジベンゾチオフェン環である。
【0226】
前記式(250)におけるXa1、Ya1、Za1、Xa2、Ya2、及びZa2において、特に好ましい芳香族炭化水素環は、ベンゼン環、ナフタレン環又はフェナントレン環であり、特に好ましい芳香族複素環は、カルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジベンゾフラン環又はジベンゾチオフェン環である。
【0227】
<g11、h11、j11>
g11、h11、及びj11は各々独立に0~6の整数を表し、g11、h11、j11の少なくとも一つは1以上の整数である。電荷輸送性及び耐久性の観点から、g11が2以上又は、h11及びj11の内、少なくとも一方が3以上であることが好ましい。
【0228】
また、前記式(250)で表される化合物は、中心のWを3個有する環も含めて、これらの環を合計で8~18個有することが、電荷輸送性、耐久性及び有機溶剤への溶解性の観点から好ましい。
【0229】
<(Xa1)g11、(Ya1)h11、(Za1)j11>
(Xa1)g11、(Ya1)h11、及び(Za1)j11から選択される少なくとも一つの基は、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、各々独立に下記式(11)で表される部分構造、下記式(12)で表される部分構造、及び下記式(13)で表される部分構造から選択される部分構造を有することが好ましく、g11が1以上である場合の(Xa1)g11、h11が1以上である場合の(Ya1)h11、及びj11が1以上である場合の(Za1)j11が各々独立に、下記式(11)で表される部分構造、下記式(12)で表される部分構造、及び下記式(13)で表される部分構造から選択される部分構造を有することがさらに好ましい。
【0230】
【0231】
上記式(11)~式(13)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合、又は、Xa2、Ya2、若しくはZa2が水素原子である場合の当該水素原子を表す。2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。以降の記載においても、特に断りの無い限り*の定義は同様である。
【0232】
より好ましくは、g11が1以上である場合の(Xa1)g11、h11が1以上である場合の(Ya1)h11、及びj11が1以上である場合の(Za1)j11は各々独立に、式(11)で表される部分構造又は式(12)で表される部分構造を有する。
さらに好ましくは、g11が1以上である場合の(Xa1)g11、h11が1以上である場合の(Ya1)h11、及びj11が1以上である場合の(Za1)j11は各々独立に、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する。
【0233】
式(12)で表される部分構造として好ましくは、下記式(12-2)で表される部分構造である。
【0234】
【0235】
式(12)で表される部分構造としてよりさらに好ましくは、下記式(12-3)で表される部分構造である。
【0236】
【0237】
式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する部分構造としては、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造である、下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造が好ましい。すなわち、g11が1以上である場合の(Xa1)g11、h11が1以上である場合の(Ya1)h11、及びj11が1以上である場合の(Za1)j11は各々独立に、前記式(11)~前記式(13)及び下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造を有することが好ましい。
【0238】
【0239】
式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造とは、例えば式(14)で表される部分構造の場合においては、下記式(14a)の様に、式(11)で表される部分構造を1つと、式(12)で表される部分構造を2つ有するとみなすことのできる部分構造である。
【0240】
【0241】
さらに好ましくは、(Xa1)g11、(Ya1)h11、及び(Za1)j11の少なくとも一つは、少なくとも式(14)で表される部分構造又は式(15)で表される部分構造を有する。より好ましくは、g11が1以上である場合の(Xa1)g11、h11が1以上である場合の(Ya1)h11、及びj11が1以上である場合の(Za1)j11が、式(14)で表される部分構造、又は式(15)で表される部分構造を有する。
【0242】
式(14)で表される部分構造として好ましくは、下記式(14-2)で表される部分構造である。
【0243】
【0244】
式(14)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(14-3)で表される部分構造である。
【0245】
【0246】
式(15)で表される部分構造として好ましくは、下記式(15-2)で表される部分構造である。
【0247】
【0248】
式(15)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(15-3)で表される部分構造である。
【0249】
【0250】
式(17)で表される部分構造として好ましくは、下記式(17-2)で表される部分構造である。
【0251】
【0252】
(Xa1)g11、(Ya1)h11、及び(Za1)j11の少なくとも一つは、式(13)で表される部分構造を含む部分構造として、下記式(19)で表される部分構造又は下記式(20)で表される部分構造を有することがより好ましい。
【0253】
【0254】
上記式(14)~式(20)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合、又は、Xa2、Ya2、若しくはZa2が水素原子である場合の当該水素原子を表す。2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。
【0255】
式(14)~式(20)で表される部分構造の中で、式(14-3)で表される部分構造及び式(15-3)で表される部分構造が好ましく、式(14-3)がさらに好ましい。
【0256】
-(Xa1)g11-(Xa2)、-(Ya1)h11-(Ya2)、及び-(Za1)j11-(Za2)は、各々独立に、式(11)で表される部分構造、式(12-3)で表される部分構造、式(14-3)で表される部分構造又は式(15-3)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0257】
また、-(Xa1)g11-(Xa2)、-(Ya1)h11-(Ya2)、及び-(Za1)j11-(Za2)の少なくとも一つは、下記式(250-1)~下記式(250-10)で表される部分構造又は末端構造のいずれか一つを有することが好ましい。
【0258】
【0259】
[上記構造中、*は結合位置を表す。Ar250は炭素数6~20の芳香族炭化水素基を表す。R32は置換基を表す。これらの構造はさらに置換基を有していてもよい。]
【0260】
これらの構造が有してよい置換基は、R32と同様である。
【0261】
Ar250は好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基又はビフェニル基であり、さらに好ましくはフェニル基である。
【0262】
R32を2個有する構造において、2個のR32は同一であっても良く、異なるものであってもよい。
R32は好ましくは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~40のアラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~20のアルキルシリル基、炭素数6~20のアリールシリル基、炭素数1~8のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~30のアリール基、又は炭素数1~8のアルキル基で置換されていてもよい炭素数3~30のヘテロアリール基であり、より好ましくは、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~40のアラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~8のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~30のアリール基であり、さらに好ましくは、炭素数1~8のアルキル基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、炭素数1~8のアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基である。
【0263】
<R31>
置換基である場合のR31としては、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数6~30の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい炭素数3~30の芳香族複素環基である。耐久性向上及び電荷輸送性の観点からは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることがさらに好ましい。置換基である場合のR31が複数存在する場合は互いに異なっていてもよい。
【0264】
上述した炭素数6~30の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基、炭素数3~30の芳香族複素環基が有していてもよい置換基、置換基であるR31が有していてもよい置換基としては、前記置換基群Z2から選択することができる。
【0265】
<分子量>
前記式(250)で表される化合物は低分子材料であり、分子量は3,000以下が好ましく、更に好ましくは2,500以下であり、特に好ましくは2,000以下であり、最も好ましくは1,500以下である。化合物の分子量の下限は通常400以上、好ましくは500以上、より好ましくは600以上である。
【0266】
<式(250)で表される化合物の具体例>
式(250)で表される化合物は特に限定されないが、例えば以下のような化合物が挙げられる。
【0267】
【0268】
【0269】
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
本発明の有機電界発光素子の発光層、及び、組成物には、前記式(250)で表される化合物として1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0274】
<式(240)で表される化合物>
【0275】
【0276】
(式(240)中、
Ar611、Ar612は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~50の1価の芳香族炭化水素基を表し、
R611、R612は各々独立に、重水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭素数6~50の1価の芳香族炭化水素基であり、
Gは、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素数6~50の2価の芳香族炭化水素基を表し、
n611、n612は各々独立に0~4の整数である。)
【0277】
<Ar611、Ar612>
Ar611、Ar612は各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数6~50の1価の芳香族炭化水素基を表す。
芳香族炭化水素基の炭素数としては、好ましくは6~50、より好ましくは6~30、さらに好ましくは6~18である。芳香族炭化水素基としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラフェニレン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、又はペリレン環等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下、さらに好ましくは14以下である芳香族炭化水素構造の1価の基、又は、これらの構造から選択された複数の構造が鎖状に又は分岐して結合した構造の1価の基が挙げられる。芳香族炭化水素環が複数連結する場合は、通常、2~8個連結した構造が挙げられ、2~5個連結した構造であることが好ましい。芳香族炭化水素環が複数連結する場合、同一の構造が連結してもよく、異なる構造が連結してもよい。
【0278】
Ar611、Ar612は好ましくは、各々独立に
フェニル基、
複数のベンゼン環が複数鎖状又は分岐して結合した1価の基、
1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのナフタレン環が鎖状又は分岐して結合した1価の基、
1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのフェナントレン環が鎖状又は分岐して結合した1価の基、又は、
1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのテトラフェニレン環が鎖状又は分岐して結合した1価の基、
であり、さらに好ましくは、複数のベンゼン環が複数鎖状又は分岐して結合した1価の基であり、いずれの場合も結合の順序は問わない。
Ar611、Ar612は、各々独立に、置換基を有してもよい複数のベンゼン環が鎖状又は分岐して結合した1価の基であることが特に好ましく、各々独立に、複数のベンゼン環が複数鎖状又は分岐して結合した1価の基であることが最も好ましい。
【0279】
結合するベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環及びテトラフェニレン環の数は前記の通り、通常2~8であり、2~5が好ましい。中でも好ましくは、ベンゼン環が1~4個連結した1価の構造、ベンゼン環が1~4個及びナフタレン環が連結した1価の構造、ベンゼン環が1~4個及びフェナントレン環が連結した1価の構造、又は、ベンゼン環が1~4個及びテトラフェニレン環が連結した1価の構造である。
【0280】
これら芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよい。芳香族炭化水素基が有してよい置換基は前述の通りであり、具体的には前記置換基群Z2から選択することが出来る。好ましい置換基は前記置換基群Z2の好ましい置換基である。
【0281】
Ar611、Ar612の少なくとも一方は、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、下記式(11)~(13)及び(21)~(24)から選択される部分構造を有することが好ましく、Ar611及びAr612が各々独立に、下記式(11)~(13)及び(21)~(24)から選択される部分構造を有することがさらに好ましい。
【0282】
【0283】
上記式(11)~(13)、(21)~(24)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合又は水素原子を表し、2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。以降の記載においても、特に断りの無い限り*の定義は同様である。
【0284】
より好ましくは、Ar611、Ar612はそれぞれ独立に、式(11)で表される部分構造又は式(12)で表される部分構造を有する。
さらに好ましくは、Ar611、Ar612はそれぞれ独立に、式(11)で表される部分構造及び(12)で表される部分構造を有する。
【0285】
式(12)で表される部分構造として好ましくは、下記式(12-2)で表される部分構造である。
【0286】
【0287】
式(12)で表される部分構造としてよりさらに好ましくは、下記式(12-3)で表される部分構造である。
【0288】
【0289】
式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する部分構造としては、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造である、下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造が好ましい。すなわち、Ar611及びAr612は各々独立に、前記式(11)~前記式(13)及び下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造を有することが好ましい。
【0290】
【0291】
式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造とは、例えば式(14)で表される部分構造は、下記式(14a)の様に、式(11)で表される部分構造を1つと、式(12)で表される部分構造を2つ有するとみなすことのできる部分構造である。
【0292】
【0293】
さらに好ましくは、Ar611、Ar612の少なくとも一つは、少なくとも式(14)で表される部分構造又は式(15)で表される部分構造を有する。より好ましくは、Ar611、Ar612が、式(14)で表される部分構造、又は式(15)で表される部分構造を有する。
【0294】
式(14)で表される部分構造として好ましくは、下記式(14-2)で表される部分構造である。
【0295】
【0296】
式(14)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(14-3)で表される部分構造である。
【0297】
【0298】
式(15)で表される部分構造として好ましくは、下記式(15-2)で表される部分構造である。
【0299】
【0300】
式(15)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(15-3)で表される部分構造である。
【0301】
【0302】
式(17)で表される部分構造として好ましくは、下記式(17-2)で表される部分構造である。
【0303】
【0304】
Ar611、Ar612の少なくとも一つは、式(13)で表される部分構造を含む部分構造として、下記式(19)で表される部分構造又は下記式(20)で表される部分構造を有することがより好ましい。
【0305】
【0306】
上記式(14)~式(20)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合、又は水素原子を表す。2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。
【0307】
式(14)~式(20)で表される部分構造の中で、式(14-3)で表される部分構造及び式(15-3)で表される部分構造が好ましく、式(14-3)がさらに好ましい。
【0308】
Ar611、Ar612は、各々独立に、式(11)で表される部分構造、式(12-3)で表される部分構造、式(14-3)で表される部分構造又は式(15-3)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0309】
<R611、R612>
R611、R612は各々独立に、重水素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数6~50の1価の芳香族炭化水素である。
好ましくは置換基を有していてもよい炭素数6~50の1価の芳香族炭化水素基である。
芳香族炭化水素基としては、より好ましくは炭素数6~30、さらに好ましくは6~18、特に好ましくは6~10である芳香族炭化水素構造の1価の基が挙げられる。
1価の芳香族炭化水素基としては具体的には前記Ar611と同様であり、好ましい芳香族炭化水素基も同様であり、特に好ましくはフェニル基である。
これら芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよい。芳香族炭化水素基が有してよい置換基は前述の通りであり、具体的には前記置換基群Z2から選択することが出来る。好ましい置換基は前記置換基群Z2の好ましい置換基である。
【0310】
<n611、n612>
n611、n612は各々独立に、0~4の整数である。好ましくは0~2であり、さらに好ましくは0又は1である。
【0311】
<置換基>
Ar611、Ar612、R611、R612が1価の芳香族炭化水素基である場合、有してよい置換基は前記置換基群Z2から選択される置換基が好ましい。
【0312】
<G>
Gは、単結合、又は、置換基を有していてもよい炭素数6~50の2価の芳香族炭化水素基を表す。
【0313】
Gの芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~50、さらに好ましくは6~30、より好ましくは6~18である。芳香族炭化水素基としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラフェニレン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、又はペリレン環等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下、さらに好ましくは14以下である芳香族炭化水素構造の2価の基、又は、これらの構造から選択された複数の構造が鎖状に又は分岐して結合した構造の2価の基が挙げられる。芳香族炭化水素環が複数連結する場合は、通常、2~8個連結した構造が挙げられ、2~5個連結した構造であることが好ましい。芳香族炭化水素環が複数連結する場合、同一の構造が連結してもよく、異なる構造が連結してもよい。
【0314】
Gは、好ましくは、単結合、フェニレン基、複数のベンゼン環が複数鎖状又は分岐して結合した2価の基、1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのナフタレン環が鎖状又は分岐して結合した2価の基、1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのフェナントレン環が鎖状又は分岐して結合した2価の基、又は、
1つ又は複数のベンゼン環及び少なくとも1つのテトラフェニレン環が鎖状又は分岐して結合した2価の基、であり、さらに好ましくは、複数のベンゼン環が複数鎖状又は分岐して結合した2価の基であり、いずれの場合も結合の順序は問わない。
【0315】
結合するベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環及びテトラフェニレン環の数は前記の通り、通常2~8であり、2~5が好ましい。中でもさらに好ましくは、ベンゼン環が1~4個連結した2価の構造、ベンゼン環が1~4個及びナフタレン環が連結した2価の構造、ベンゼン環が1~4個及びフェナントレン環が連結した2価の構造、又は、ベンゼン環が1~4個及びテトラフェニレン環が連結した2価の構造である。
【0316】
これら芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよい。芳香族炭化水素基が有してよい置換基は前述の通りであり、具体的には前記置換基群Z2から選択することが出来る。好ましい置換基は前記置換基群Z2の好ましい置換基である。
【0317】
<分子量>
前記式(240)で表される化合物は低分子材料であり、分子量は3,000以下が好ましく、より好ましくは2,500以下であり、さらに好ましくは2,000以下であり、特に好ましくは1,500以下であり、通常400以上、好ましくは500以上、より好ましくは600以上である。
【0318】
<前記式(240)で表される化合物IVの具体例>
以下に、前記式(240)で表される化合物IVの好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0319】
【0320】
【0321】
本発明の有機電界発光素子の発光層、及び、組成物には、前記式(240)で表される化合物として1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0322】
<式(260)で表される化合物>
【0323】
【0324】
(式(260)中、
Ar1~Ar5は、各々独立に、水素原子または置換基を有していてもよい1価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基であり、
L1~L5は、各々独立に、置換基を有していてもよい2価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基であり、
Rは、各々独立に、置換基を表し、
m1~m5は、各々独立に、0~5の整数を表し、
nは、0~10の整数を表し、
a1~a3は、各々独立に、0~3の整数を表し、
ただし、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、及びnが1以上の場合の少なくとも一つのAr5の内、少なくとも一つは水素原子にはならない。)
【0325】
(Ar1、Ar2、Ar5)
式(260)におけるAr1、Ar2及びAr5は、各々独立に、水素原子または置換基を有していてもよい1価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基である。
【0326】
式(260)におけるAr1、Ar2及びAr5は、化合物の溶解性、耐久性の観点から、水素原子、ベンゼン環の1価の基、ナフタレン環の1価の基、式(4)又は式(5)で表される構造が好ましく、水素原子、ベンゼン環の1価の基、式(4)又は式(5)で表される構造がより好ましく、水素原子、ベンゼン環の1価の基、式(5)で表される構造がさらに好ましく、式(5)で表される構造が特に好ましい。
耐久性及び電荷輸送性の観点から、Ar1、Ar2、及び少なくとも一つのAr5の内、1つ以上、3つ以下が、下記式(4)又は下記式(5)で表される構造であることが好ましく、Ar1、Ar2、及び少なくとも一つの及びAr5の内、1つ以上、3つ以下が、下記式(5)で表される構造であることがさらに好ましい。
電荷輸送性及び溶解性の観点からは、Ar1、Ar2、及び少なくとも一つのAr5の内、1つが下記式(5)で表されることが好ましい。
耐久性の観点からは、Ar1、Ar2、及び少なくとも一つのAr5の内、2つ以上が下記式(5)で表されることが好ましく、3つが下記式(5)で表されることがさらに好ましい。
【0327】
(式(4)、式(5))
【0328】
【0329】
(式(4)又は式(5)中、
アスタリクス(*)は、式(260)との結合を表し、
R1~R26は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。)
【0330】
Ar1が式(4)又は式(5)である場合、m1は0又は1が好ましく、0がより好ましい。Ar2が式(4)又は式(5)である場合、m2は0又は1が好ましく、0がより好ましい。Ar5が式(4)又は式(5)である場合、m5は0又は1が好ましく、0がより好ましい。
【0331】
(Ar3、Ar4)
式(260)におけるAr3及びAr4は、各々独立に、水素原子または置換基を有していてもよい1価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基を表す。
【0332】
1価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、テトラフェニレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、ペリレン環、ビフェニル環、又はターフェニル環の1価の基が挙げられる。
【0333】
式(260)におけるAr3、Ar4は、化合物の溶解性、耐久性の観点から、各々独立に、水素原子、ベンゼン環の1価の基、ナフタレン環の1価の基が好ましく、水素原子、ベンゼン環の1価の基がより好ましい。
【0334】
(L1~L5)
式(260)におけるL1~L5は、各々独立に、置換基を有していてもよい2価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基を表す。
【0335】
2価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラフェニレン環、フェナントレン環、クリセン環、ピレン環、ベンゾアントラセン環、又はペリレン環の2価の基が挙げられる。
L1~L5は、各々独立に、置換基を有していてもよい、フェニレン基又はフェニレン基が2以上、例えば2~5個直接結合で連結した2価の基が好ましく、置換基を有していてもよい1,3-フェニレン基であることが溶解性の観点からより好ましい。
【0336】
(R)
式(260)におけるRは、各々独立に、置換基を表す。置換基としては、前記置換基群Zから選択されるものを用いることができる。それらの中でも、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、又は芳香族炭化水素基が好ましい。耐熱性及び耐久性の観点からは、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、芳香族炭化水素基が好ましく、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、芳香族炭化水素基がさらに好ましく、炭素数10以下のアルキル基、炭素数30以下のアラルキル基、炭素数30以下の芳香族炭化水素基がより好ましく、ベンゼン環またはベンゼン環が2~5連結した基が特に好ましい。
【0337】
(m1~m5)
式(260)におけるm1、m2及びm5は、各々独立に、0~5の整数を表し、
m3、m4は、各々独立に、1~5の整数を表す。
【0338】
式(260)におけるm1、m2及びm5は、化合物の溶解性及び、耐久性の観点から、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1以下が特に好ましく、0が最も好ましい。
また、Ar1が式(4)又は式(5)である場合のm1、Ar2が式(4)又は式(5)である場合のm2、及び、Ar5が式(4)又は式(5)である場合のm5は、0であることが好ましい。
【0339】
式(260)におけるm3、m4は、化合物の溶解性及び、耐久性の観点から、1以上が好ましく、4以下が好ましく、3以下がさらに好ましく、2以下が特に好ましい。
【0340】
式(260)におけるm1が2以上の場合、複数のL1は同一であっても異なってもよい。式(260)におけるm2が2以上の場合、複数のL2は同一であっても異なってもよい。式(260)におけるm3が2以上の場合、複数のL3は同一であっても異なってもよい。式(260)におけるm4が2以上の場合、複数のL4は同一であっても異なってもよい。式(260)におけるm5が2以上の場合、複数のL5は同一であっても異なってもよい。
【0341】
((L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、(L5)m5)
式(260)における(L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、及び少なくとも一つの(L5)m5の内、少なくとも一つは、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、下記式(11)で表される部分構造、下記式(12)で表される部分構造、及び下記式(13)で表される部分構造から選択される部分構造を有することが好ましく、m1が1以上の場合の(L1)m1、m2が1以上の場合の(L2)m2及びnが1以上かつm5が1以上の場合の(L5)m5、並びにm3が1以上の場合の(L3)m3及びm4が1以上の場合の(L4)m4が、下記式(11)で表される部分構造、下記式(12)で表される部分構造、及び下記式(13)で表される部分構造から選択される部分構造を有することがさらに好ましい。
【0342】
【0343】
上記式(11)~式(13)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合又はAr1、Ar2、Ar3、Ar4またはAr5が水素原子を表し、2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。以降の記載においても、特に断りの無い限り*の定義は同様である。
【0344】
より好ましくは、式(260)における(L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、及び少なくとも一つの(L5)m5の内、少なくとも一つは、式(11)で表される部分構造又は式(12)で表される部分構造を有する。
さらに好ましくは、式(260)において、m1が1以上の場合の(L1)m1、m2が1以上の場合の(L2)m2、m3が1以上の場合の(L3)m3、m4が1以上の場合の(L4)m4、及びnが1以上かつm5が1以上の場合の(L5)m5がそれぞれ、式(11)で表される部分構造又は式(12)で表される部分構造を有する。
特に好ましくは、式(260)において、m1が1以上の場合の(L1)m1、m2が1以上の場合の(L2)m2、m3が1以上の場合の(L3)m3、m4が1以上の場合の(L4)m4、及びnが1以上かつm5が1以上の場合の(L5)m5がそれぞれ、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する。
【0345】
式(260)において、式(12)で表される部分構造として好ましくは、下記式(12-2)で表される部分構造である。
【0346】
【0347】
式(260)において、式(12)で表される部分構造としてよりさらに好ましくは、下記式(12-3)で表される部分構造である。
【0348】
【0349】
また、化合物の溶解性及び耐久性の観点から、式(260)における(L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、少なくとも一つの及び(L5)m5の内、少なくとも一つが有することが好ましい部分構造は、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する部分構造である。
【0350】
式(260)において、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造を有する部分構造としては、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造である、下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造が好ましい。すなわち、m1が1以上の場合の(L1)m1、m2が1以上の場合の(L2)m2、m3が1以上の場合の(L3)m3、m4が1以上の場合の(L4)m4、及びnが1以上かつm5が1以上の場合の(L5)m5は各々独立に、前記式(11)~前記式(13)及び下記式(14)~下記式(17)から選択される部分構造を有することが好ましい。
【0351】
【0352】
式(260)において、式(11)で表される部分構造及び式(12)で表される部分構造から選択される構造を複数含む構造とは、例えば式(14)は、下記式(14a)の様に、式(11)で表される部分構造を1つと、式(12)で表される部分構造を2つ有するとみなすことのできる部分構造である。
【0353】
【0354】
また、さらに好ましくは、式(260)における(L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、及び少なくとも一つの(L5)m5の内、少なくとも一つは、式(14)で表される部分構造又は式(15)で表される部分構造を有する。より好ましくは、m1が1以上の場合の(L1)m1、m2が1以上の場合の(L2)m2、m3が1以上の場合の(L3)m3、m4が1以上の場合の(L4)m4、及びnが1以上かつm5が1以上の場合の(L5)m5が、式(14)で表される部分構造、又は式(15)で表される部分構造を有する。
【0355】
式(260)において、式(14)で表される部分構造として好ましくは、下記式(14-2)で表される部分構造である。
【0356】
【0357】
式(260)において、式(14)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(14-3)で表される部分構造である。
【0358】
【0359】
式(260)において、式(15)で表される部分構造として好ましくは、下記式(15-2)で表される部分構造である。
【0360】
【0361】
式(260)において、式(15)で表される部分構造としてさらに好ましくは、下記式(15-3)で表される部分構造である。
【0362】
【0363】
式(260)において、式(17)で表される部分構造として好ましくは、下記式(17-2)で表される部分構造である。
【0364】
【0365】
また、式(260)における(L1)m1、(L2)m2、(L3)m3、(L4)m4、及び少なくとも一つの(L5)m5の少なくとも一つは、式(13)で表される部分構造を含む部分構造として、下記式(19)で表される部分構造又は下記式(20)で表される部分構造を有することがより好ましい。
【0366】
【0367】
上記式(14)~式(20)それぞれにおいて、*は隣接する構造との結合又は水素原子を表し、2つ存在する*の少なくとも一方は隣接する構造との結合位置を表す。
【0368】
式(260)において、式(14)~式(20)の中で、式(14-3)で表される部分構造及び式(15-3)で表される部分構造が好ましく、式(14-3)で表される部分構造がさらに好ましい。
【0369】
(L1~L5の好ましい部分構造)
式(260)中、L1~L5は、式(11)で表される部分構造、式(12-3)で表される部分構造、式(14-3)で表される部分構造又は式(15-3)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0370】
(n)
式(260)におけるnは、0~10の整数を表す。
式(260)におけるnは、化合物の溶解性及び、耐久性の観点から、1以上が好ましく、2以上がさらに好ましく、6以下が好ましく、5以下がさらに好ましく、4以下が特に好ましい。
【0371】
(a1~a3)
a1~a3は、各々独立に、0~3の整数を表す。
a1~a3は、化合物の溶解性及び、耐久性の観点から、
a1~a3が各々独立に0又は1が好ましく、
a1=a2=a3=0が最も好ましい。
【0372】
(R1~R26)
式(4)および式(5)において、R1~R26は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基としては、前記置換基群Zから選択されるものを用いることができる。それらの中でも、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、又は芳香族炭化水素基が好ましい。耐久性の観点からは、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子、芳香族炭化水素基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0373】
(置換基)
式(260)において、Ar1~Ar5における1価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基、及び、L1~L5における2価の炭素数6以上、60以下の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基は各々独立に、前記置換基群Zの中から選択することができる。それらの中でも、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、又は芳香族炭化水素基が好ましく、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、シリル基、シロキシ基、アラルキル基、芳香族炭化水素基がさらに好ましい。
【0374】
(分子量)
式(260)で表される化合物の分子量は、3,000以下が好ましく、より好ましくは2,500以下であり、さらに好ましくは2,000以下であり、特に好ましくは1,500以下であり、通常400以上、好ましくは500以上、より好ましくは600以上である。
【0375】
(具体例)
以下に、式(260)で表される化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0376】
【0377】
【0378】
【0379】
本発明の有機電界発光素子の発光層、及び、組成物には、前記式(260)で表される化合物として1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0380】
[組成物]
本発明の組成物は、発光化合物、有機金属化合物、及び有機溶剤を含む組成物であって、前記有機金属化合物は前記式(101)で表され、
前記発光化合物は、下記関係式(E-1)を満たす。
ΔEST=S1B-T1B≦0.3eV 式(E-1)
(式(E-1)中、
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
S1B:前記発光化合物の一重項エネルギー準位(eV))
【0381】
また、前記有機金属化合物および前記発光化合物は、下記関係式(E-2)を満たすことが好ましい。
T1A≧T1B 式(E-2)
式(E-2)中、
T1A:前記有機金属化合物の三重項エネルギー準位(eV)
T1B:前記発光化合物の三重項エネルギー準位(eV)
【0382】
本発明の組成物に含まれる発光化合物は、前記式(1)で表される多環複素環化合物が好ましい。本発明の組成物に含まれる有機金属化合物は、前記式(101)で表される有機金属化合物が好ましい。本発明の組成物に好適に含まれる式(1)で表される多環複素環化合物、及び、式(101)で表される有機金属化合物、並びに、関係式(E-1)及び関係式(E-2)の好ましい態様は、上述したとおりである。本発明の組成物は、発光層形成用組成物であることが好ましい。
【0383】
発光層の形成方法は、真空蒸着法及び湿式成膜法のどちらでもよいが、好ましくは湿式成膜法である。湿式成膜法の場合、発光層は有機溶剤を含む発光層形成用組成物を塗布、乾燥して成膜する。
【0384】
組成物は、さらに前記ホスト材料を含むことが好ましい。組成物は、前記式(1)で表される多環複素環化合物及び前記式(101)で表される有機金属化合物が有機溶剤に溶解又は分散している組成物である。組成物は、前記式(1)で表される多環複素環化合物、前記式(101)で表される有機金属化合物、及び前記ホスト材料が有機溶剤に溶解又は分散している組成物であってよい。
【0385】
(有機溶剤)
組成物に含有される有機溶剤は、湿式成膜により多環複素環化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0386】
該有機溶剤は、溶質である多環複素環化合物及び電荷輸送性化合物が良好に溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。
【0387】
好ましい有機溶剤としては、例えば、n-デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、フェニルシクロヘキサン、テトラリン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル類;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0388】
これらの中でも、粘度と沸点の観点から、アルカン類、芳香族炭化水素類、芳香族エステル類が好ましく、芳香族炭化水素類及び芳香族エステル類が特に好ましい。
【0389】
これらの有機溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0390】
用いる有機溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常350℃以下、好ましくは330℃以下、より好ましくは300℃以下である。有機溶剤の沸点がこの範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。有機溶剤の沸点がこの範囲を上回ると、湿式成膜時において、成膜後の溶剤残留により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0391】
特に、上記有機溶剤のうち、沸点が150℃以上の有機溶剤を2種以上と組み合わせることにより、より均一な塗布膜を形成しやすいと考えられ、好ましい。
【0392】
(含有量)
組成物における式(1)で表される多環複素環化合物の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常30.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。組成物における式(101)で表される有機金属化合物の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、通常30.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。当該含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率良く、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。なお、式(1)で表される多環複素環化合物及び式(101)で表される有機金属化合物は組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
組成物に含まれる式(101)で表される有機金属化合物の含有量は、式(1)で表される多環複素環化合物1質量部に対して、通常100質量部以下、好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下であり、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上である。
【0393】
組成物がホスト材料を含む場合、ホスト材料の含有量は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、通常30.0質量%以下、好ましくは20.0質量%以下である。
【0394】
組成物に含まれるホスト材料の含有量は、式(101)で表される有機金属化合物1質量部に対して、通常1000質量部以下、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下であり、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0395】
組成物に含まれる有機溶媒の含有量は、通常10質量%以上、好ましくは50質量%以上、特に好ましくは80質量%以上で、通常99.95質量%以下、好ましくは99.9質量%以下、特に好ましくは99.8質量%以下である。有機溶媒の含有量が上記下限以上であれば適度な粘度を有して塗布性が向上し、上記上限以下であれば均一な膜が得られやすく成膜性が良好となる。
【0396】
(その他の成分)
組成物は、必要に応じて、上記の化合物の他に、更に他の化合物を含有してもよい。他の化合物としては、好ましくは、酸化防止剤として知られているジブチルヒドロキシトルエンや、ジブチルフェノール等のフェノール類が挙げられる。
【0397】
(成膜方法)
発光層の形成方法は、好ましくは湿式成膜法である。湿式成膜法とは、組成物を塗布して液膜を形成し、乾燥して有機溶媒を除去し、発光層の膜を形成する方法である。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜させる方法を採用し、塗布膜を乾燥させて膜形成を行う。これらの塗布方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法等が好ましい。有機電界発光素子を備えた有機EL表示装置を製造する場合は、インクジェット法又はノズルプリンティング法が好ましく、インクジェット法が特に好ましい。
【0398】
乾燥方法は特に限定されないが、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、又は、加熱しながらの減圧乾燥を適宜用いることができる。加熱乾燥は、自然乾燥又は減圧乾燥の後、更に残留有機溶媒を除去するために実施してもよい。
【0399】
減圧乾燥は、組成物に含まれる有機溶媒の蒸気圧以下に減圧することが好ましい。
【0400】
加熱する場合は、加熱方法は特に限定されないが、ホットプレートによる加熱、オーブン内での加熱、赤外線加熱等を用いることができる。加熱時間は通常80℃以上、100℃以上が好ましく、110℃以上がさらに好ましく、また、200℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
【0401】
加熱時間は、通常1分以上、2分以上が好ましく、通常60分以下、30分以下が好ましく、20分以下がさらに好ましい。
【0402】
[正孔注入層]
正孔注入層は正孔を輸送する機能が必要であるため、正孔輸送材料を含む。さらに、正孔注入層には、テトラアリールホウ酸イオンを含むことが好ましい。また、架橋基を有する電子受容性化合物の架橋物を含むことも好ましい。
【0403】
陽極から正孔注入層への正孔注入性を向上させ、正孔注入層内での正孔輸送性を向上させるためには、正孔注入層に含まれる正孔輸送材料がカチオンラジカル部位を含むことが好ましい。正孔輸送材料をカチオンラジカル化させるため、正孔注入層を形成する場合に電子受容性化合物を用いる。電子受容性化合物の母骨格としては、後述するイオン価1のアニオンであるテトラアリールホウ酸イオンと対カチオンからなるイオン化合物が高い安定性を有するため好ましい。
【0404】
正孔輸送材料のカチオンラジカル化は次のように行われる。正孔輸送材料として例えばトリアリールアミン構造を有する化合物を用いた場合、ジアリールヨードニウムを対カチオンとするテトラアリールホウ酸塩を電子受容性化合物として用いると、正孔注入層形成時に、下記式のように対カチオンはジアリールヨードニウムからトリアリールアミニウムに変わり得る。
【0405】
【0406】
(例えば、Ar、Ar1~Ar4は各々独立に、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基及び置換基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基である。)
【0407】
上記反応で生成したトリアリールアミニウムは電子を受容し得る半占軌道(SOMO)を有しているため、トリアリールアミニウムを対カチオンとするテトラアリールホウ酸塩は、電子受容性化合物である。
【0408】
本発明においては、この正孔輸送材料のカチオンとアニオンであるテトラアリールホウ酸イオンからなる化合物を、電荷輸送性イオン化合物と称する。詳細は後述する。
【0409】
[架橋基を有する電子受容性化合物]
電子受容性化合物としては、上記の通りテトラアリールホウ酸イオンと対カチオンからなるイオン化合物を母骨格有するものが挙げられる。
【0410】
(架橋基)
本発明に係る有機電界発光素子の正孔注入層に含まれていてもよい、架橋基を有する電子受容性化合物の架橋物を形成する電子受容性化合物の架橋基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により、該架橋基の近傍に位置する他の基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。この場合、反応する基は架橋基と同一の基あるいは異なった基の場合もある。
【0411】
電子受容性化合物が架橋基を含むことで、正孔注入層を形成する際に、架橋反応が進行し、電子受容性化合物を正孔注入層に固定させることができ、正孔注入層の上の層を、湿式成膜法によって形成する際に、電子受容性化合物が正孔注入層の上の層に拡散しなくなると考えられる。このため、架橋基を有する電子受容性化合物を用いることで、駆動中の劣化反応を抑えることができると推定される。
【0412】
架橋基としては、下記式(X1)~(X18)のいずれかで表される架橋基が好ましい。
【0413】
【0414】
(式(X1)~(X4)中、ベンゼン環及びナフタレン環は置換基を有していてもよい。
また、前記置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
式(X4)、式(X5)、式(X6)及び式(X10)中のR110はそれぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基を表す。)
【0415】
R110で表されるアルキル基は直鎖、分岐又は環状構造であり、炭素数は1以上であり、好ましくは24以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。
【0416】
式(X1)~(X4)のベンゼン環及びナフタレン環、式(X4)~(X6)及び(X10)のR110が有していてもよい置換基として好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素基、アルキルオキシ基、アラルキル基である。
【0417】
置換基としてのアルキル基は直鎖、分岐又は環状構造であり、炭素数は好ましくは24以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下であり、好ましくは1以上である。
【0418】
置換基としての芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは24以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは12以下であり、好ましくは6以上である。芳香族炭化水素基はさらに前記アルキル基を置換基として有してもよい。
【0419】
置換基としてのアルキルオキシ基の炭素数は、好ましくは炭素数24以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下であり、好ましくは1以上である。
【0420】
置換基としてのアラルキル基の炭素数は、好ましくは炭素数30以下、より好ましくは24以下、さらに好ましくは14以下であり、好ましくは7以上である。アラルキル基に含まれるアルキレン基は直鎖又は分岐構造が好ましい。アラルキル基に含まれるアリール基はさらに前記アルキル基を置換基として有してもよい。
【0421】
架橋基としては、式(X1)~(X3)のいずれかで表される架橋基が、熱のみで架橋反応が進行し、極性が小さく、電荷輸送に影響が小さい点で好ましい。
【0422】
式(X1)で表される架橋基は下記式のように、熱によりシクロブテン環が開環し、開環した基同士で結合し、架橋構造を形成する。
【0423】
【0424】
式(X2)で表される架橋基は下記式のように、熱によりシクロブテン環が開環し、開環した基同士で結合し、架橋構造を形成する。
【0425】
【0426】
式(X3)で表される架橋基は下記式のように、熱によりシクロブテン環が開環し、開環した基同士で結合し、架橋構造を形成する。
【0427】
【0428】
式(X1)~(X3)のいずれかで表される架橋基は、熱によりシクロブテン環が開環し、開環した基は、近傍に二重結合が存在する場合は、二重結合と反応して架橋構造を形成する。下記に、式(X1)で表される架橋基が開環した基と二重結合部位を有する式(X4)で表される架橋基が架橋構造を形成する例を示す。(但し、式(X4)のR110は図示していない。)
【0429】
【0430】
式(X1)~(X3)のいずれかで表される架橋基と反応し得る二重結合を含有する基としては、式(X4)で表される架橋基の他に、式(X5)、(X6)、(X12)、(X15)、(X16)、(X17)、(X18)のいずれかで表される架橋基が挙げられる。これらの二重結合を含有する基を電子受容性化合物における架橋基として用いる場合、正孔輸送性化合物などの正孔注入層を形成する他の成分に、式(X1)~(X3)のいずれかで表される架橋基を含有させることが、架橋構造を形成する可能性が高まり、好ましい。
【0431】
架橋基としては、ラジカル重合性の式(X4)、(X5)、(X6)のいずれかで表される架橋基が、極性が小さく、電荷輸送の妨げとなりにくいため、好ましい。
【0432】
架橋基としては、式(X7)で表される架橋基が、電子受容性を高める点で好ましい。なお、式(X7)で表される架橋基を用いると、下記のような架橋反応が進行する。
【0433】
【0434】
式(X8)、(X9)のいずれかで表される架橋基が、反応性が高い点で好ましい。なお、式(X8)で表される架橋基、及び式(X9)で表される架橋基を用いると、下記のような架橋反応が進行する。
【0435】
【0436】
架橋基としては、カチオン重合性の式(X10)、(X11)、(X12)のいずれかで表される架橋基が、反応性が高い点で好ましい。
【0437】
(電子受容性化合物の架橋物)
後述するように、本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、正孔注入層形成用組成物を湿式成膜して得ることが好ましく、正孔注入層形成用組成物は、後述するテトラアリールホウ酸イオン構造を有する第1のイオン化合物及び後述する正孔輸送材料を有機溶剤に溶解又は分散させる工程を経て得られた組成物であることが好ましい。そして、本発明の有機電界発光素子の正孔輸送層中では、後述する本発明におけるテトラアリールホウ酸イオン構造をアニオンとし、正孔輸送材料のカチオンを対カチオンとする電荷輸送性イオン化合物を含むことが好ましい。
【0438】
従って、架橋基を有する電子受容性化合物における電子受容性化合物としては、イオン化合物である電子受容性化合物が好ましく、電子受容性化合物としてのイオン化合物はテトラアリールホウ酸イオン構造をアニオンとするイオン化合物が好ましい。電子受容性化合物がテトラアリールホウ酸イオン構造をアニオンとするイオン化合物である場合、テトラアリールホウ酸イオンが架橋基を有することが好ましい。テトラアリールホウ酸イオン構造については後述する。
【0439】
架橋基を有する電子受容性化合物を用いると、架橋基を有する電子受容性化合物の架橋物が形成される。架橋基を有する電子受容性化合物の架橋物とは、次の架橋物である場合を含む。
・電子受容性化合物同士が架橋した化合物。
・電子受容性化合物と正孔輸送材料とが架橋した化合物。
・電子受容性化合物と本発明におけるテトラアリールホウ酸イオンが架橋した化合物。
・本発明におけるテトラアリールホウ酸イオン同士が架橋した化合物。
・本発明におけるテトラアリールホウ酸イオンと正孔輸送材料が架橋した化合物。
【0440】
ここで、“本発明におけるテトラアリールホウ酸イオン”とは、後述するテトラアリールホウ酸イオンと対カチオンとからなるイオン化合物である電子受容性化合物として存在する場合、及び後述するテトラアリールホウ酸イオンと正孔輸送材料のカチオンとからなる電荷輸送性イオン化合物として存在する場合を含む。
【0441】
架橋反応する2つの架橋基は、架橋反応可能であれば同じ架橋基であっても異なる架橋基であってもよい。
【0442】
[テトラアリールホウ酸イオン]
テトラアリールホウ酸イオンは、ホウ素原子に、4つの、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環が置換した、イオン価1のアニオンである。
【0443】
ホウ素を含む多環複素環化合物はホウ素上に空のp軌道を有しており、特に、電子供与性の物質と反応しやすい。反応の結果、電子供与性の物質の酸化物が生成し、この酸化物が駆動中にさらに劣化反応を引き起こす恐れがある。一方、ホウ素上に空のp軌道を有さないオクテット則を満たした安定な構造であるテトラアリールホウ酸イオンには、電子供与性の物質が酸化されたカチオンを安定化する効果がある。このため、テトラアリールホウ酸イオンを用いることで、駆動中の劣化反応を抑えることができ、耐久性が向上し、素子の駆動寿命が長くなると推定される。
【0444】
本発明の有機電界発光素子が含むことができるテトラアリールホウ酸イオンは、アリール基の置換基として、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を有することが、安定性がさらに向上する点で好ましい。すなわち、下記式(2)で表されることが好ましい。
【0445】
【0446】
(式(2)中、
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は、それぞれ独立して、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環基、又は置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環基並びに置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基を表し、
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも1つは、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基を置換基として有する。)
【0447】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも1つは、架橋基を有することが好ましい。
【0448】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4に用いられる芳香族炭化水素環基としては、単環、2~6縮合環が好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環、ビフェニル構造、テルフェニル構造、又はクアテルフェニル構造が挙げられる。
【0449】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4に用いられる芳香族複素環基としては、単環、2~6縮合環が好ましい。具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環が挙げられる。
【0450】
中でも、安定性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の1価の基またはビフェニル基がより好ましい。特に好ましくはベンゼン環由来の1価の基、すなわちフェニル基又はビフェニル基である。
【0451】
置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環基並びに置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基に含まれる、単環又は2~6縮合環の芳香族炭化水素環基及び、単環又は2~6縮合環の芳香族複素環基の合計の数は2以上であり、8以下が好ましく、4以下がさらに好ましく、3以下がより好ましい。
【0452】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4が有してもよい置換基としては、後述の置換基群Wに記載の基が挙げられる。
【0453】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の置換基としては、アニオンの安定性が増し、カチオンを安定させる効果が向上する点から、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基が好ましい。また、フッ素原子又はフッ素置換されたアルキル基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4のうち、2つ以上に置換していることが好ましく、3つ以上に置換していることがより好ましく、4つに置換していることが最も好ましい。
【0454】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の置換基としてのフッ素置換されたアルキル基としては、炭素数1~12の直鎖又は分岐のアルキル基であってフッ素原子が置換している基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~5の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~3の直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基が特に好ましく、パーフルオロメチル基が最も好ましい。この理由は、テトラアリールホウ酸イオン又は架橋基を有する電子受容性化合物の架橋物を含む正孔注入層や、その上層に積層される塗布膜が安定になるためである。
【0455】
Ar1、Ar2、Ar3及びAr4が有してもよい架橋基は、前記架橋基の通りである。
【0456】
本発明の有機電界発光素子が含むことができるテトラアリールホウ酸イオンは、アニオンの安定性がさらに増し、カチオンを安定させる効果がさらに向上する点で、前記式(2)におけるAr1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも一つが式(3)で表される基であることが好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも二つが各々独立に式(3)で表される基であることがより好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の少なくとも三つが各々独立に式(3)で表される基であることがさらに好ましく、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4すべてが各々独立に式(3)で表される基であることが最も好ましい。
【0457】
【0458】
(式(3)中、
R1は、各々独立に、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族炭化水素環基並びに置換基及び/又は架橋基を有していてもよい芳香族複素環基から選択される構造が複数連結した1価の基、フッ素置換されたアルキル基、置換基又は架橋基であり、
F4はフッ素原子が4個置換していることを表し、
F(5-m)は、各々独立にフッ素原子が5-m個置換していることを表し、
kは、各々独立に、0~5の整数を表し、
mは、各々独立に、0~5の整数を表す。)
【0459】
kはアニオンの安定性がさらに向上する点で1以上が好ましく、2以上がより好ましい。kは偏りなく分散しやすい点で0又は1が好ましく、0が好ましい。
【0460】
mは耐久性により優れる点で、0が好ましく、テトラアリールホウ酸イオンに種々の機能を導入可能な点で、1以上が好ましく、耐久性との両立の点で1又は2がさらに好ましい。
アニオンの安定性が向上し、耐久性も優れる点で、k+m≧1であることが好ましい。
【0461】
R1の芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基としては、その好ましい構造及び有してもよい置換基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の構造及び有してもよい置換基と同様である。
【0462】
R1の置換基及びR1が置換基である場合の置換基としては、後述の置換基群Wに記載の基が挙げられる。
【0463】
式(3)においては、アニオンの安定性がさらに増し、カチオンを安定させる効果がさらに向上する点で、少なくとも一つのR1は前記フッ素置換されたアルキル基であることが好ましく、ペルフルオロアルキル基であることが好ましく、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
【0464】
R1の架橋基及びR1が架橋基である場合の架橋基としては、前記架橋基の通りである。
【0465】
式(3)においては、少なくとも一つのR1が前記架橋基を含むことが、架橋性と電子受容性を両立する点で好ましい。このとき、R1としては、前記架橋基であるか、又は前記架橋基が1若しくは複数個、芳香族炭化水素基に結合している構造が好ましい。
【0466】
さらに、R1が、下記式(4)で表される基又は下記式(5)で表される基を含む基であることも好ましい。
【0467】
【0468】
これら式(4)で表される基、式(5)で表される基は置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、R1が有していてもよい置換基と同じである。
【0469】
R1としては、式(4)で表される基若しくは式(5)で表される基であるか、又は、式(4)で表される基若しくは式(5)で表される基が1または複数個、芳香族炭化水素基に結合している構造が好ましい。
【0470】
R1が、前記架橋基が1または複数個、芳香族炭化水素基に結合している構造である場合の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、又はベンゼン環とナフタレン環から選択される2以上が連結した構造であることが好ましく、連結数は4以下が好ましい。この場合のさらに好ましいR1は、ベンゼン環単環又はナフタレン環単環に前記架橋基が結合している構造であり、ベンゼン環に前記架橋基が結合している構造であることがさらに好ましく、前記架橋基が1または2結合している構造であることが特に好ましい。
【0471】
R1が、式(4)で表される基又は下記式(5)で表される基を含む基である場合、さらに好ましいR1は、ベンゼン環単環又はナフタレン環単環に式(4)で表される基又は式(5)で表される基が結合している構造であり、ベンゼン環に式(4)で表される基又は式(5)で表される基が結合している構造であることがさらに好ましく、式(4)で表される基又は式(5)で表される基が1または2結合している構造であることが特に好ましい。
【0472】
これら式(4)で表される基、式(5)で表される基は架橋性を有しており、テトラアリールホウ酸イオン及び対カチオンが他の層に拡散しないと考えられるため好ましい。
【0473】
(置換基群W)
置換基群Wは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、1~5の芳香族炭化水素環からなる芳香族炭化水素環基、脂肪族炭化水素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルケトン基またはアリールケトン基である。
【0474】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子などが挙げられ、フッ素原子が化合物の安定性から好ましい。
【0475】
1~5の芳香族炭化水素環からなる芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、トリフェニレン基、ナフチルフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基またはクアテルフェニル基が化合物の安定性から好ましい。
【0476】
脂肪族炭化水素環基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0477】
アルキル基としては、炭素数が通常1以上であり、好ましくは4以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、さらに好ましくは8以下であり、より好ましくは6以下である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0478】
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
【0479】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、具体的には、アセチル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
【0480】
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルヘキシル基等が挙げられる。
【0481】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下でありさらに好ましくは6以下であり、具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0482】
アリールオキシ基としては、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、さらに好ましくは6以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であり、さらに好ましくは12以下であり、具体例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0483】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下であり、具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0484】
アリールチオ基としては、炭素数が通常4以上であり、好ましくは5以上であり、通常36以下であり、好ましくは24以下であり、具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0485】
アルキルケトン基としては、炭素数が通常1以上であり、通常24以下であり、好ましくは12以下でありさらに好ましくは6以下であり、具体例としては、アセチル基、エチルカルボニル基、ブチルカルボニル基、オクチルカルボニル基等が挙げられる。
【0486】
アリールケトン基としては、炭素数が通常5以上であり、好ましくは7以上であり、通常25以下であり、好ましくは13以下であり、具体例としては、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等が挙げられる。
【0487】
また、隣り合う置換基同士が結合して、環を形成してもよい。
環を形成した例としては、シクロブテン環、シクロペンテン環等が挙げられる。
【0488】
また、これらの置換基にさらに置換基が置換されていてもよく、その置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又は前記架橋基が挙げられる。
【0489】
これらの置換基の中でも、ハロゲン原子またはアリール基が化合物の安定性の点で好ましい。最も好ましくはハロゲン原子であり、ハロゲン原子の中でもフッ素原子が好ましい。
【0490】
[テトラアリールホウ酸イオンの具体例]
以下に、本発明の有機電界発光素子に用いるテトラアリールホウ酸イオンの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0491】
【0492】
【0493】
【0494】
【0495】
【0496】
【0497】
【0498】
【0499】
【0500】
【0501】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(A-1)、(A-2)の化合物である。さらに、電荷輸送膜用組成物として安定性が高いことから、(A-18)、(A-19)、(A-20)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-28)がより好ましく、有機電界発光素子の安定性から(A-19)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-28)が特に好ましい。
【0502】
なお、(A-18)、(A-19)、(A-20)、(A-21)、(A-25)、(A-26)、(A-28)、(A-29)のテトラアリールホウ酸イオンは、架橋基を有しているため「電子受容性化合物の架橋物」を形成することが出来る。
【0503】
[テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物]
テトラアリールホウ酸イオンは、テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物として用いられることも好ましい。テトラアリールホウ酸イオンを含む電子受容性イオン化合物を第1のイオン化合物と称する。第1のイオン化合物は、アニオンである前記テトラアリールホウ酸イオンと対カチオンからなる。第1のイオン化合物は、電子受容性化合物として用いられる。
【0504】
対カチオンとしては、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオンまたは遷移金属を有するフェロセニウムカチオンが好ましく、ヨードニウムカチオン、スルホニウムカチオン、カルボカチオン、アンモニウムカチオンがより好ましく、ヨードニウムカチオンが特に好ましい。
【0505】
ヨードニウムカチオンとして好ましくは、後述の一般式(6)で表される構造であり、さらに好ましい構造も同様である。
【0506】
ヨードニウムカチオンとして具体的には、ジフェニルヨードニウムカチオン、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムカチオン、4-tert-ブトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムカチオン、4-イソプロピルフェニル-4-メチルフェニルヨードニウムカチオン等が好ましい。
【0507】
スルホニウムカチオンとして具体的には、トリフェニルスルホニウムカチオン、4-ヒドロキシフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、4-メタンスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン、(4-tert-ブトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムカチオン、ビス(4-tert-ブトキシフェニル)フェニルスルホニウムカチオン、4-シクロヘキシルスルホニルフェニルジフェニルスルホニウムカチオン等が好ましい。
【0508】
カルボカチオンとして具体的には、トリフェニルカルボカチオン、トリ(メチルフェニル)カルボカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボカチオンなどの三置換カルボカチオン等が好ましい。
【0509】
アンモニウムカチオンとして具体的には、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオン等が好ましい。
【0510】
ホスホニウムカチオンとして具体的には、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラキス(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのテトラアリールホスホニウムカチオン;テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオンなどのテトラアルキルホスホニウムカチオン等が好ましい。
【0511】
これらの中では、化合物の膜安定性の点でヨードニウムカチオン、カルボカチオン、スルホニウムカチオンが好ましく、ヨードニウムカチオンがより好ましい。
【0512】
第1のイオン化合物の対カチオンとしてのヨードニウムカチオンは、下記式(6)で表される構造が好ましい。
【0513】
【0514】
式(6)中、Ar5、Ar6は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基である。Ar5、Ar6としての芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4の場合と同じ構造から選択することが出来、好ましい構造もAr1、Ar2、Ar3及びAr4の場合と同じ構造から選択することが出来る。
【0515】
また、前記式(6)で表される対カチオンは、下記式(7)で表されることが好ましい。
【0516】
【0517】
上記式(7)中、Ar7及びAr8は、前述の式(6)におけるAr5及びAr6が有していてもよい置換基と同様である。
【0518】
本発明において使用される第1のイオン化合物の分子量は、通常900以上、好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上、また、通常10000以下、好ましくは5000以下、更に好ましくは3000以下の範囲である。分子量が小さすぎると、正電荷及び負電荷の非局在化が不十分なため、電子受容能が低下するおそれがあり、分子量が大きすぎると、電荷輸送の妨げとなるおそれがある。
【0519】
[具体例]
以下に本発明における第1のイオン化合物として、ヨードニウムカチオンとのイオン化合物の具体例を挙げるが、第1のイオン化合物はこれらに限定されるものではない。
【0520】
【0521】
【0522】
【0523】
【0524】
【0525】
【0526】
【0527】
【0528】
【0529】
【0530】
【0531】
【0532】
【0533】
上記具体例のうち、電子受容性、耐熱性、溶解性の点で、好ましくは、(B-1)、(B-2)の化合物である。さらに、電荷輸送膜用組成物として安定性が高いことから、(B-18)、(B-19)、(B-20)、(B-21)、(B-25)、(B-26)、(B-28)、(B-29)がより好ましく、有機電界発光素子の安定性から(B-19)、(B-21)、(B-25)、(B-26)、(B-28)、(B-29)が特に好ましい。
【0534】
[正孔輸送材料]
正孔注入層は、正孔輸送材料を含むことが好ましく、正孔輸送材料を用いて形成されることが好ましい。正孔輸送材料としては、4.5eV~5.5eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が正孔輸送能の点で好ましい。例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、溶剤への溶解度、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0535】
芳香族アミン化合物の中でも、本発明では特に、芳香族三級アミン化合物が好ましい。なお、本発明でいう芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0536】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、高分子化合物である芳香族三級アミン高分子化合物が好ましい。高分子化合物の分子量は、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が5000以上が好ましく、7000以上がさらに好ましく、10000以上が特に好ましく、1000000以下が好ましく、200000以下がさらに好ましく、100000以下が特に好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の中でも、正孔輸送性の観点から、トリフェニルアミン構造を主鎖に有する高分子化合物がさらに好ましい。
【0537】
[芳香族三級アミン高分子化合物]
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0538】
【0539】
上記式(11)中、j10、k10、l10、m10、n10、p10は、各々独立に、0以上の整数を表す。但し、l10+m10≧1である。
【0540】
上記式(11)中、Ar11、Ar12、Ar14は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香環基を表す。Ar13は、置換基を有していてもよい2価の芳香環基または下記式(12)で表される2価の基を表し、Q11、Q12は、各々独立に、酸素原子、硫黄原子、置換基を有していてもよい炭素数6以下の炭化水素鎖を表し、S1~S4は、各々独立に、下記式(13)で示される基で表される。
【0541】
Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基から選択される少なくとも2つの基が複数個連結した2価の基を表す。Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基の炭素数は60以下が好ましい。
【0542】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、30以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、又はフルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の2価の基が挙げられる。
【0543】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、30以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環等の2価の基が挙げられる。
【0544】
中でも、電荷輸送性が優れる点、耐久性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の2価の基または2価のビフェニル基が好ましく、ベンゼン環、フルオレン環若しくはカルバゾール環由来の2価の基、又は2価のビフェニル基がさらに好ましい。
【0545】
従って、Ar11、Ar12、Ar14としては、置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、置換基を有していてもよい2価のフルオレン環、又は置換基を有していてもよい2価のカルバゾール環から選択される基、又はこれらの構造から選択される2つ以上の環が複数個連結した2価の基が好ましく、Ar11、Ar12、Ar14の芳香環基の炭素数は60以下が好ましい。
【0546】
これら芳香環基は置換基を有してもよく、有してよい置換基は前記置換基群Zから選択することが出来る。
【0547】
Ar13が芳香環基である場合は、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
Ar13はまた、下記式(12)で表される2価の基が好ましい。
【0548】
【0549】
上記式(12)中、R11は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる3価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。R12は、アルキル基、芳香環基または炭素数40以下のアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar31は、1価の芳香環基、又は1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は式(11)の窒素原子との結合手を示す。
【0550】
R11の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の3価の基が挙げられる。
【0551】
R11のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の3価の基等が挙げられる。
【0552】
R12の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の2価の基が挙げられる。
【0553】
R12のアルキル基の具体例としては、メタン、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン由来の2価の基等が挙げられる。
【0554】
Ar31の芳香環基の具体例としては、フェニル環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環及びこれらが連結した炭素数30以下の連結環由来の1価の基が挙げられる。
【0555】
Ar31の架橋基としては特に限定されないが、本発明の有機電界発光素子の正孔注入層に含まれる、前記架橋基を有する電子受容性化合物の前記架橋基と同様であり、前記式(X1)~(X18)のいずれかで表される架橋基が好ましい。中でも好ましくはベンゾシクロブテン環、ナフトシクロブテン環またはオキセタン環由来の基、ビニル基、アクリル基が挙げられる。化合物の安定性からベンゾシクロブテン環またはナフトシクロブテン環由来の基がより好ましい。
【0556】
S1~S4は各々独立に、下記式(13)で表される基である。
【0557】
【0558】
上記式(13)中、q,rは各々独立に、0~6の整数を表す。
q、rは各々独立に好ましくは0~4であり、さらに好ましくは0または1である。
【0559】
Ar21、Ar23は、それぞれ独立に、2価の芳香環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。Ar22は置換基を有していてもよい1価の芳香環基を表し、R13は、アルキル基、芳香環基またはアルキル基と芳香環基からなる2価の基を表し、これらは置換基を有していてもよい。Ar32は1価の芳香環基又は1価の架橋基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。アスタリスク(*)は一般式(11)の窒素原子との結合手を示す。
【0560】
Ar21、Ar23の芳香環基の例としては、Ar11、Ar12、Ar14の場合と同様である。
【0561】
Ar22、Ar32の芳香環基は、置換基を有していてもよい一価の芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい一価の芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよい一価の芳香族炭化水素基及び置換基を有していてもよい一価の芳香族複素環基から選択される少なくとも2つの基が複数個連結した一価の基を表す。Ar22、Ar32の芳香環基の炭素数は60以下が好ましい。
【0562】
芳香族炭化水素基としては、炭素数が6以上、30以下が好ましく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、又はフルオレン環等の、6員環の単環若しくは2~5縮合環の一価の基が挙げられる。
【0563】
芳香族複素環基としては、炭素数が3以上、30以下が好ましく、具体的には、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、又はアズレン環等の一価の基が挙げられる。
【0564】
中でも、電荷輸送性が優れる点、耐久性、耐熱性に優れることから、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環もしくはカルバゾール環由来の一価の基またはビフェニル基が好ましい。
【0565】
これら芳香環基は置換基を有してもよく、有してよい置換基は前記置換基群Zから選択することが出来る。
【0566】
R13のアルキル基または芳香環基の例としては、R12と同様である。
【0567】
Ar32の架橋基は特に限定しないが、Ar31の架橋基の例と同様であり、好ましい例も同様である。
【0568】
上記Ar11~Ar14、R11、R12、Ar21~Ar23、Ar31~Ar32、Q11、Q12はいずれも、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、前記置換基群Zから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0569】
特に、式(11)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物の中でも、下記式(14)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が、正孔注入・輸送性が非常に高くなるので好ましい。
【0570】
【0571】
上記式(14)中、R21~R25は各々独立に、任意の置換基を表わす。R21~R25の置換基の具体例は、前記置換基群Zに記載されている置換基と同様である。
【0572】
Y’は置換基を有していてもよい炭素数30以下の2価の芳香環基を表わす。Y’の芳香環基の例としては、前記Ar11、Ar12及びAr14の場合と同様であり、有してよい置換基も同様である。
【0573】
s、tは各々独立に、0以上、5以下の整数を表わす。
u、v、wは各々独立に、0以上、4以下の整数を表わす。
【0574】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(15)及び/又は式(16)で表わされる繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0575】
【0576】
上記式(15)、式(16)中、Ar45、Ar47及びAr48は各々独立して、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい1価の芳香族複素環基を表わす。Ar44及びAr46は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。R41~R43は各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。rは0~2の整数である。
【0577】
Ar45、Ar47及びAr48の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ独立に、Ar22及びAr32の場合と同様である。
【0578】
Ar44及びAr46の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例及び好ましい置換基の例は、それぞれ独立に、Ar11及びAr14の場合と同様である。
【0579】
R41~R43として好ましくは、水素原子又は前記置換基群Zに記載されている置換基であり、中でも好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である。
【0580】
rは好ましくは0または1であり、さらに好ましくは0である。
【0581】
以下に、本発明において適用可能な、式(15)、式(16)で表わされる繰り返し単位の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0582】
【0583】
その他、正孔輸送材料として適用可能な芳香族アミン化合物としては、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(日本国特開昭59-194393号公報);4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(日本国特開平5-234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号明細書);N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)ビフェニル-4,4’-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号明細書);α,α,α’,α’-テトラメチル-α,α’-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-p-キシレン(日本国特開平3-269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(日本国特開平4-129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(日本国特開平4-175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(日本国特開平4-264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平4-290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(日本国特開平4-304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン(日本国特開平4-308688号公報);ベンジルフェニル化合物(日本国特開平4-364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結したもの(日本国特開平5-25473号公報);トリアミン化合物(日本国特開平5-239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(日本国特開平5-320634号公報);N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(日本国特開平6-1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(日本国特開平7-138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(日本国特開平7-252474号公報);ヒドラゾン化合物(日本国特開平2-311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号明細書);シラナミン誘導体(日本国特開平6-49079号公報);ホスファミン誘導体(日本国特開平6-25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0584】
また、正孔輸送材料として適用可能な芳香族アミン化合物のその他の具体例としては、ジアリールアミノ基を有する8-ヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体が挙げられる。上記の金属錯体は、中心金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sm、Eu、Tbのいずれかから選ばれ、配位子である8-ヒドロキシキノリンはジアリールアミノ基を置換基として1つ以上有するが、ジアリールアミノ基以外に任意の置換基を有することがある。
【0585】
また、正孔輸送材料として適用可能なフタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィリン、29H,31H-フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4’’,4’’’-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン等が挙げられる。
【0586】
また、正孔輸送材料として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α-セキシチオフェン等が挙げられる。
【0587】
なお、これらの正孔輸送材料の分子量は、上述した特定の繰り返し単位を有する高分子化合物の場合を除いて、通常5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、更に好ましくは1700以下、特に好ましくは1400以下、また、通常200以上、好ましくは400以上、より好ましくは600以上の範囲である。正孔輸送材料の分子量が大き過ぎると合成及び精製が困難であり好ましくない一方で、分子量が小さ過ぎると耐熱性が低くなる虞がありやはり好ましくない。
【0588】
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、上述の正孔輸送材料のうち何れか一種を単独で含有していてもよく、二種以上を含有していてもよい。正孔注入層が二種以上の正孔輸送材料を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物一種又は二種以上と、その他の正孔輸送材料一種又は二種以上とを併用するのが好ましい。前述の高分子化合物と併用する正孔輸送材料の種類としては、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0589】
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層における正孔輸送材料の含有量は、上述した電子受容性化合物との比率を満たす範囲となるようにする。二種以上の電荷輸送膜用組成物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0590】
[電荷輸送性イオン化合物]
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンと、正孔輸送材料のカチオンラジカルとがイオン結合した電荷輸送性イオン化合物を含むことが好ましい。
【0591】
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンと、正孔輸送材料として前記芳香族三級アミン高分子化合物のカチオンラジカルとがイオン結合した電荷輸送性イオン化合物を含むことが特に好ましい。
【0592】
この電荷輸送性イオン化合物は、以下のいずれかの方法で得ることが出来る。
i)前記第1のイオン化合物と、前記正孔輸送材料とを有機溶剤に溶解又は分散して混合する。
ii)前記第1のイオン化合物と、前記正孔輸送材料とを有機溶剤に溶解又は分散して混合し、さらに加熱する。
iii)前記i)またはii)で得られた組成物を湿式成膜し、膜を加熱する。
【0593】
第1のイオン化合物は電子受容性化合物であるため、上記いずれかの方法で第1のイオン化合物によって前記正孔輸送材料が酸化されてカチオンラジカル化する。その結果、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとし、正孔輸送材料のカチオンラジカルを対カチオンとしたイオン化合物である、電荷輸送性イオン化合物が生成する。
【0594】
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとして含む第1のイオン化合物と正孔輸送材料を含むことが好ましく、前記テトラアリールホウ酸イオンを対アニオンとし、正孔輸送材料のカチオンラジカルを対カチオンとした電荷輸送性イオン化合物を含むことが、電荷輸送性の観点からさらに好ましい。
【0595】
[正孔注入層形成用組成物]
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層は、正孔注入層形成用組成物を湿式成膜して得ることが好ましい。
【0596】
正孔注入層形成用組成物は、前記テトラアリールホウ酸イオン構造を有する第1のイオン化合物及び前記正孔輸送材料を有機溶剤に溶解又は分散させる工程を経て得られた組成物であることが好ましい。
【0597】
均一な正孔注入層の膜を得る観点から、正孔注入層形成用組成物は、好ましくは、第1のイオン化合物及び前記正孔輸送材料が有機溶剤に溶解している溶液である。
【0598】
前記i)の方法で得られた正孔注入層形成用組成物中には、前記電荷輸送性イオン化合物が含まれていなくても、前記ii)または前記iii)の方法で前記電荷輸送性イオン化合物が得られればよく、前記ii)の方法で得られた正孔注入層形成用組成物中に前記電荷輸送性イオン化合物が含まれていなくても、前記iii)の方法で前記電荷輸送性イオン化合物が得られればよい。
【0599】
正孔注入層形成用組成物を得るための、前記第1のイオン化合物と前記正孔輸送材料の配合比は、前記第1のイオン化合物の量が、前記正孔輸送材料100質量部に対して通常0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、また、通常100質量部以下、好ましくは40質量部以下である。前記第1のイオン化合物の含有量が上記下限以上であれば、フリーキャリア(正孔輸送材料のカチオンラジカル)が十分に生成でき、正孔輸送性が向上して好ましく、上記上限以下であれば、十分な電荷輸送能が確保でき好ましい。前記第1のイオン化合物を二種以上併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。前記正孔輸送材料についても同様である。
【0600】
(有機溶剤)
正孔注入層形成用組成物における有機溶剤の濃度は、通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、また、通常99.999質量%以下、好ましくは99.99質量%以下、更に好ましくは99.9質量%以下の範囲である。なお、二種以上の有機溶剤を混合して用いる場合には、これらの有機溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0601】
好ましい有機溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。具体的には、エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0602】
上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤以外に使用可能な溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、これらの溶剤のうち一種又は二種以上を、上述のエーテル系溶剤及びエステル系溶剤のうち一種又は二種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、電子受容性化合物、フリーキャリア(カチオンラジカル)を溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
【0603】
これらの有機溶剤の中でもさらに好ましくは、芳香族炭化水素構造を有する溶剤である。
【0604】
(成膜方法)
正孔注入層は、正孔注入層形成用組成物を用いて湿式成膜し、形成することが出来る。湿式成膜法としては発光層形成用組成物を湿式成膜にて成膜する方法と同様であるが、塗布乾燥後、加熱することが好ましい。加熱温度は120℃以上が好ましく、150℃以上がさらに好ましく、180℃以上がより好ましく、また、300℃以下が好ましく、260℃以下がさらに好ましい。
【0605】
正孔注入層は、塗布乾燥後の膜を加熱することにより、架橋させることが出来る。この時、以下の組み合わせで架橋反応が生じ得る。
【0606】
・正孔輸送材料の架橋基同士
・正孔輸送材料の架橋基と電子受容性化合物の架橋基
・電子受容性化合物の架橋基同士
・正孔輸送材料の架橋基と本発明におけるテトラアリールホウ酸イオンの架橋基
・本発明におけるテトラアリールホウ酸イオンの架橋基同士
・電子受容性化合物の架橋基と本発明におけるテトラアリールホウ酸イオンの架橋基
この工程により、正孔注入層に前記電子受容性化合物の架橋物が形成される。
【0607】
また、加熱により、第1のイオン化合物の対アニオンであるテトラアリールホウ酸イオンと正孔輸送材料のカチオンラジカルとのイオン化合物である、電荷輸送性イオン化合物の形成が促進され、好ましい。
【0608】
<有機電界発光素子の構造>
本発明の有機電界発光素子の構造の一例として、
図1に有機電界発光素子8の構造例の模式図(断面)を示す。
図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表す。
【0609】
[基板]
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものであり、通常、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。これらのうち、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。基板は、外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いことからガスバリア性の高い材質とするのが好ましい。このため、特に合成樹脂製の基板等のようにガスバリア性の低い材質を用いる場合は、基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を上げるのが好ましい。
【0610】
[陽極]
陽極2は、発光層5側の層に正孔を注入する機能を担う。
【0611】
陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック及びポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0612】
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより形成することもできる。また、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0613】
陽極2は、通常、単層構造であるが、適宜、積層構造としてもよい。陽極2が積層構造である場合、1層目の陽極上に異なる導電材料を積層してもよい。
【0614】
陽極2の厚みは、必要とされる透明性と材質等に応じて決めればよい。特に高い透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が60%以上となる厚みが好ましく、可視光の透過率が80%以上となる厚みが更に好ましい。陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。一方、透明性が不要な場合は、陽極2の厚みは必要な強度等に応じて任意に厚みとすればよく、この場合、陽極2は基板と同一の厚みでもよい。
【0615】
陽極2の表面に他の層を成膜する場合は、成膜前に、紫外線/オゾン、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等の処理を施すことにより、陽極2上の不純物を除去すると共に、そのイオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させておくことが好ましい。
【0616】
[正孔注入層]
本発明の有機電界発光素子における正孔注入層は、上述した通りである。正孔注入層の成膜方法については、湿式成膜法について上述したが、真空蒸着法を用いてもよい。
【0617】
[真空蒸着法による正孔注入層の形成]
本発明の有機電界発光素子の正孔注入層を真空蒸着法にて形成する場合、テトラアリールホウ酸イオンを含む材料として前記第1のイオン化合物を用い、正孔輸送材料としては蒸着可能な低分子正孔輸送材料を用いることが出来る。蒸着可能な低分子正孔輸送材料としては、分子量1500以下の正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくは分子量1000以下の正孔輸送材料であり、分子量400以上の正孔輸送材料が好ましく、分子量600以上の正孔輸送材料がさらに好ましい。低分子正孔輸送材料としては、芳香族アミン系化合物が好ましく、芳香族三級アミン化合物がさらに好ましい。
【0618】
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、通常、正孔注入層3の構成材料の1種類又は2種類以上を真空容器内に設置された坩堝に入れ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々を別々の坩堝に入れ)、真空容器内を真空ポンプで10-4Pa程度まで排気する。その後、坩堝を加熱して(2種類以上の材料を用いる場合は、通常各々の坩堝を加熱して)、坩堝内の材料の蒸発量を制御しながら蒸発させ(2種類以上の材料を用いる場合は、通常それぞれ独立して蒸発量を制御しながら蒸発させ)、坩堝に向き合って置かれた基板上の陽極上に正孔注入層を形成する。なお、2種類以上の材料を用いる場合は、それらの混合物を坩堝に入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0619】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0620】
[正孔輸送層]
正孔輸送層4は、陽極2側から発光層5側に正孔を輸送する機能を担う層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子では、必須の層では無いが、陽極2から発光層5に正孔を輸送する機能を強化する点では、この層を形成することが好ましい。正孔輸送層4を形成する場合、通常、正孔輸送層4は、陽極2と発光層5の間に形成される。また、上述の正孔注入層3がある場合は、正孔注入層3と発光層5の間に形成される。
【0621】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、一方、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0622】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよい。成膜性が優れる点では、湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0623】
正孔輸送層4は、通常、正孔輸送性化合物を含有する。
【0624】
正孔輸送性化合物としては、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(日本国特開平5-234681号公報)、4,4’,4’’-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル等のカルバゾール誘導体等が好ましいものとして挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(日本国特開平7-53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等を含んでもよい。
【0625】
[湿式成膜法による正孔輸送層の形成]
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、上述の正孔注入層を湿式成膜法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させる。
【0626】
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、通常、正孔輸送層形成用組成物は、更に溶媒を含有する。正孔輸送層形成用組成物に用いる溶媒は、上述の正孔注入層形成用組成物で用いる溶媒と同様の溶媒を使用することができる。
【0627】
正孔輸送層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度は、正孔注入層形成用組成物中における正孔輸送性化合物の濃度と同様の範囲とすることができる。
【0628】
[真空蒸着法による正孔輸送層の形成]
真空蒸着法で正孔輸送層を形成する場合についても、通常、上述の正孔注入層を真空蒸着法で形成する場合と同様にして、正孔注入層形成用組成物の代わりに正孔輸送層形成用組成物を用いて形成させることができる。蒸着時の真空度、蒸着速度及び温度等の成膜条件などは、前記正孔注入層の真空蒸着時と同様の条件で成膜することができる。
【0629】
[発光層]
発光層5は、一対の電極間に電界が与えられた時に、陽極2から注入される正孔と陰極7から注入される電子が再結合することにより励起され、発光する機能を担う層である。発光層5は、陽極2と陰極7の間に形成される層であり、発光層は、陽極の上に正孔注入層がある場合は、正孔注入層と陰極の間に形成され、陽極の上に正孔輸送層がある場合は、正孔輸送層と陰極の間に形成される。
【0630】
本発明における有機電界発光素子の発光層は上述した通り、式(1)で表される多環複素環化合物、式(101)で表される有機金属化合物、及びホスト材料を含むことが好ましい。
【0631】
発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚い方が好ましく、また、一方、薄い方が低駆動電圧としやすい点で好ましい。このため、3nm以上であるのが好ましく、5nm以上であるのが更に好ましく、また、一方、通常200nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのが更に好ましい。
【0632】
発光層5は、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、1つまたは複数のホスト材料を含有する。
【0633】
[正孔阻止層]
発光層5と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層5の上に、発光層5の陰極7側の界面に接するように積層される層である。
【0634】
この正孔阻止層は、陽極2から移動してくる正孔を陰極7に到達するのを阻止する役割と、陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0635】
このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2-メチル-8-キノラト)アルミニウム-μ-オキソ-ビス-(2-メチル-8-キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(日本国特開平11-242996号公報)、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール誘導体(日本国特開平7-41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(日本国特開平10-79297号公報)等が挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0636】
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0637】
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0638】
[電子輸送層]
電子輸送層6は素子の電流効率(cd/A)をさらに向上させることを目的として、発光層5と陰極7との間に設けられる。
【0639】
電子輸送層6は、電界を与えられた電極間において陰極7から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層6に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0640】
電子輸送層に用いる電子輸送性化合物としては、具体的には、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(日本国特開昭59-194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-ヒドロキシフラボン金属錯体、5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(日本国特開平6-207169号公報)、フェナントロリン誘導体(日本国特開平5-331459号公報)、2-tert-ブチル-9,10-N,N’-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0641】
電子輸送層6の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0642】
電子輸送層6は、前記と同様にして湿式成膜法、或いは真空蒸着法により正孔阻止層上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0643】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極7から注入された電子を効率よく、電子輸送層6又は発光層5へ注入するために設けられてもよい。
【0644】
電子注入を効率よく行うには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等が用いられる。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0645】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(日本国特開平10-270171号公報、日本国特開2002-100478号公報、日本国特開2002-100482号公報等に記載)ことも、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。
【0646】
電子注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0647】
電子注入層は、湿式成膜法或いは真空蒸着法により、発光層5又はその上の正孔阻止層や電子輸送層6上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合の詳細は、前述の発光層の場合と同様である。
【0648】
正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層を電子輸送材料とリチウム錯体共ドープの操作で一層にする場合にもある。
【0649】
[陰極]
陰極7は、発光層5側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たす。
【0650】
陰極7の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なう上では、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金等が用いられる。具体例としては、例えば、マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、アルミニウム-リチウム合金等の低仕事関数の合金電極等が挙げられる。
【0651】
有機電界発光素子の安定性の点では、陰極の上に、仕事関数が高く、大気に対して安定な金属層を積層して、低仕事関数の金属からなる陰極を保護することが好ましい。積層する金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0652】
陰極の膜厚は通常、陽極と同様である。
【0653】
[その他の層]
本発明の有機電界発光素子は、本発明の効果を著しく損なわなければ、更に他の層を有していてもよい。すなわち、陽極と陰極との間に、上述の他の任意の層を有していてもよい。
【0654】
[その他の素子構成]
本発明の有機電界発光素子は、上述の説明とは逆の構造、即ち、例えば、基板上に陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に積層することも可能である。
【0655】
本発明の有機電界発光素子を有機電界発光装置に適用する場合は、単一の有機電界発光素子として用いても、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成にして用いても、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構成にして用いてもよい。
【0656】
<有機電界発光素子の製造方法>
本発明の有機電界発光素子の製造方法には特に制限がない。好ましくは上述したように、本発明の組成物を用いて湿式成膜法にて発光層を形成する工程を含むことにより、基板上に陽極、発光層及び、陰極をこの順に有する有機電界発光素子を製造することができる。
【0657】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置(有機電界発光素子表示装置)は、本発明の有機電界発光素子を備える。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【0658】
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0659】
<有機EL照明>
本発明の有機EL照明(有機電界発光素子照明)は、本発明の有機電界発光素子を備える。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例0660】
[実施例1]
有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を50nmの厚さに堆積したもの(ジオマテック社製、スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。このようにITOをパターン形成した基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
正孔注入層形成用組成物として、下記式(P-1)の繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物3.0重量%と、電子受容性化合物(HI-1)0.6重量%とを、安息香酸エチルに溶解させた組成物を調製した。
【0661】
【0662】
【0663】
この溶液を、大気中で上記基板上にスピンコートし、大気中ホットプレートで240℃、30分乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔注入層とした。
【0664】
次に、下記の構造式(HT-1)を有する電荷輸送性高分子化合物を1,3,5-トリメチルベンゼンに溶解させ、2.0重量%の溶液を調製した。
この溶液を、上記正孔注入層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで230℃、30分間乾燥させ、膜厚40nmの均一な薄膜を形成し、正孔輸送層とした。
【0665】
【0666】
引き続き、発光層の材料として、下記の構造を有する化合物(H-1)を2.6重量%、(H-2)を2.6重量%、有機金属化合物(A-1)を1.56重量%、発光化合物(D-1)を0.26重量%の濃度でシクロヘキシルベンゼンに溶解させ、発光層形成用組成物を調製した。
【0667】
【0668】
この溶液を、上記正孔輸送層を塗布成膜した基板上に窒素グローブボックス中でスピンコートし、窒素グローブボックス中のホットプレートで120℃、20分間乾燥させ、膜厚70nmの均一な薄膜を形成し、発光層とした。
発光層までを成膜した基板を真空蒸着装置に設置し、装置内を2×10-4Pa以下になるまで排気した。
【0669】
次に、下記の構造式(ET-1)および8-ヒドロキシキノリノラトリチウムを2:3の膜厚比で、発光層上に真空蒸着法にて共蒸着し、膜厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0670】
【0671】
続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように基板に密着させて、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極を形成した。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0672】
[実施例2]
発光層中の有機金属錯体として、下記の構造を有する有機金属化合物(A-2)を用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0673】
【0674】
[比較例1]
発光層中の有機金属錯体として、下記の構造を有する有機金属化合物(CA-1)を用いた他は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0675】
【0676】
[素子の評価]
実施例1、2および比較例1で得られた有機電界発光素子を15mA/cm2の電流密度で素子に通電し続けた際に、輝度が初期輝度の90%まで減少する時間(LT90)を測定した。これらの測定結果を表1に示す。表1中の数値は、比較例1を1.00とした相対値を相対寿命として示す。
表1の結果から、本発明の発光層を有する有機電界発光素子では、性能が向上することが判った。
【0677】
【0678】
尚、実施例1~2及び比較例1について、T1A、T1B、およびS1Bを明細書に記載の方法により求めると、いずれも式(E-1)及び式(E-2)の関係を満たす。
実施例1~2で得られた有機電界発光素子は、比較例1で得られた有機電界発光素子より、駆動寿命が長かった。